───冒険の書245/VSベルセルク───
【ケース591:晦悠介/灼闇(しゃくえん)の魔人1】 コォオオオーーー…………───ン………… 再び草原に辿り着いた時、そこに藍田たちの姿は無く─── ただ両肩から指の先までを黒赤の炎に包んだ提督の姿だけがあった。 奇妙な寒気が視界の先の提督から漏れ、それはコォオンという酷く小さな、 だけど確実に耳に届く嫌な音となって俺に寒気を与える。 ───だからこそ解った。 姿は提督だが、あれは提督じゃない。 中井出?「力を示せ……我が前に、力のみを───!」 両腕には双剣。 ジークムントとジークリンデと呼ばれる二振りの剣があった。 悠介 「やるしかない……か。待ってくれそうにもない」 口にした通り、提督はすぐに襲い掛かってきた。 その速度たるや、 辛うじて声が聞こえる距離にあった位置からをたった一歩で、一瞬にして詰めるほど。 俺は即座に神力を解放するとヴィジャヤを手に、振るわれた一撃を─── 狂人 「ルゥウァアアアアアッ!!!!」 悠介 『っ───!?』 違う!一撃じゃギガガガガガバシャズバゾシャアッ!! 悠介 『いぎっ───!はぁっ───』 一息で四連撃───双剣で八連を繰り出してきた提督からバックステップで逃げる。 何発かまでは防いだが、それ以降は反応しきれな─── 狂人 「ガァアアアッ!!!!」  ゴブチャゴババババォオンッ!! 悠介 『う、わ《ガギィッ!!》───!!』 離れたと思い、多少の安堵を得た途端。 狂人は腕が千切れる勢いで左腕を振るい、 千切れた部分を炎で繋いで無理矢理伸ばしてきやがった───! その腕の先の手が俺の顔面を掴み、爆発させながら引き寄せる! 爆煙の先で辛うじて見えるその先には、右腕でジークフリードを握る狂人の姿───!! っ……冗談じゃねぇ!!こいつ、どこまで───! 悠介 『っ……ぐ、がぁああああっ!!!』 ステータスがSTRに注がれていることを予測し、 俺の頭を掴んでいる腕に剣を当てて一気に斬り裂く! そうすることで俺の顔からは指や手の平が剥がれ落ち、 狂人 「ガァアアアアアアッ!!!」 悠介 「はっ───!」 安堵する間もなく、 腕が落とされても怯むことなく追撃のために疾駆する敵を見て、俺は思わず息を飲んだ。 剣───だめだ、腕を切り落とした状態のままで戻せない。 手でガード───っ───やるしかない! 悠介 『くそったれぇえええっ!!《ガシィッ!》……え?』 降りゆく痛みに耐える覚悟を胸に刻んだはずなのに、 咄嗟に上げた腕に訪れたのは掴まれた感触と、燃えるほどの熱さと爆発。 そして───切り落とした筈の腕を炎で繋いだ先にある、剣が降って───! 剣をスイッチさせた!?あの一瞬で!? 腕ごと斬らずにわざわざ俺の防御を崩すために……いや、 俺がこう出ることを見越して───!? 悠介 『っ……くあぁあああああっ!!!』 本能か、足を振るっていた。 それは腕と腕とを繋ぐ炎へと振るわれ、炎を揺るがし、腕の接続を弱まらせた。 狂人 「───!?」 悠介 『───今っ!』 もう一度、腕を掴む腕に剣を通して切り落とし、今度こそ後ろに下がり、安堵した。 だがその腕も炎で接続すると、その部分が緑色の粒子に包まれ完全にくっついた。 ……然の加護だ。 あんな風になっても能力は宿っているらしい……厄介なことこの上ない。 悠介 (集中しろ……距離を取っても距離があるなんて思うな……) 提督の状態なのだから人間的な駆動しか出来ないと高をくくった。 だがもうそんな常識的なことは通用しない。 気を引き締めろ……バルバトスのように常時ハイパーアーマーじゃないとはいえ、 敵が攻撃を無視して突っ込んでくれば同じことだ。 よしバガァンッ! 悠介 『!───速っ───!?』 再び一瞬にして距離が詰められる。 烈風脚という歩法───提督の技だ。 もう間違いない、こいつはバルバトスと違って、提督の技を普通に使ってくる───!! 悠介 『くそっ!速すぎる───!自分の距離で戦えねぇ───!!』 狂人 「速いだと……?解らねぇか───教えてやるよ」 悠介 『!?』 目の前まで迫っていた狂人が横に消える。 慌てて追うように視界を横に向けるが既にそこにも姿はなく─── 声  「───お前がノロマなのさ」  ザゴゴバババォオンッ!!! 悠介 『ぐあぁああああああっ!!!』 後ろ───と気づいた時には、既に背中を斬られ、裂傷が爆発していた。 やられてばかりでいられるかと振り向きザマに剣を振るうがあっさり躱され、 屈んだ敵の姿を確認した頃には既に足を掴まれ、振るわれていた───!!  ルヴォドッガァアアアンッ!!! 悠介 『がっ……は、あっ……!!』 円を描くように地面に叩きつけられた体が、舞う瓦礫とともに跳ねる。 一瞬なにが起きたのか、確認が遅れ─── だが足を締め付ける感覚が無くなっていることに気づくと、身を捻って体勢を立て直した。 悠介 『は、あ───づっ……!───!?』 大地に降り立ち、 だが目の前には誰も居ない事実に即座に背後に向けて剣を振るうが、そこにも姿は───  ───キィンッ! 悠介 『───《ぞくっ……!》』 空気が凍った気がした。 あの音を知っている。 あの技を出すために剣を回転させる際、一度だけ鳴るあの音。 それは俺の上───上空から聞こえてきて───!! 狂人 「ルガァアアアアアッ!!!」 悠介 『っ……づあぁあああっ!!!』 見上げた空には、既に俺目掛けて剣を振るう狂人! だが寒気とともに危険感知を働かせた俺は、 見上げるとともに剣を振るっていて、それを弾きに出ていた。 ……それが、手遅れの引き金であることを思い出すと同時に。  ギシャゴバァアアアォオオオオンッ!!!! 悠介 『げはぁああああああっ!!!』 そう、振り下ろされたのは黄竜剣だ。 あんなものを前に剣を合わせるなど愚の骨頂。 俺はあっさりと圧力に耐え切れなくなると吹き飛ばされ、 大地を無様に吹き飛び転がることになった。 しかしそれでも追撃は終わらない。 武器を双剣にした狂人は転がる俺目掛けて黄竜斬光剣を幾重にも放ち、 俺を仕留めにかかってくる───!! 悠介 (くそっ……!息吐く暇もないっ───!!) 転がりながら大地を殴ると、その勢いで空へと逃げる。 背中には神器“花鳥風月(セイクー)”を出現させ、勢いよく飛び上がった。 刹那に俺が居た地面は剣閃の嵐により土煙に埋もれ、なにも見えなくなる。 その一方で剣を振るっていた狂人は双剣を長剣に変えており、 俺を見上げて───静かに口を歪めて笑っていた。 やばい……なにが来るのか予測がつかないが、空はまずい! すぐに下へ───フォギィィイギギギィンッ!!! 悠介 『───っ……』 ……手遅れだ。 狂人が持つ剣が破裂したかと思うや、 そこから放たれた呆れる数の武具が、空に居る俺を完全に囲んでいた。 それらの切っ先の全ては俺に向けられており、 翼を出した状態で躱すこと自体が逆に困難を呼び寄せていた。 どこか抜けられるところはと探すが─── 狂人 「ウォオオオオオオオオゥウウウッ!!!!」 逃げ道を探すことに僅かでも意識を取られた矢先に、ヤツはもう行動していた。 武具と武具を見えないなにかで繋いだように、 武器から武器へと飛翔しては俺目掛けて撃を振るう。 俺はその度に花鳥風月をはためかせて避けに回るが、どれもギリギリで躱しているため、 回数を重ねれば重ねるほどに避けづらくなっていき─── 悠介 『《ザンッ!》ぎっ───!《ザンザンッ!ゾゴフィィンッ!》がっ!ぐあっ!!』 一度喰らったらもうダメだった。 武器から武器へと移る速度は加速し、躱すどころか急所を外すことさえ難しくなっていた。 やがて虚空に舞う武器が残り一つとなった頃。  ゾブシャビヂガバァンッ!!! 悠介 『がっ……ぐあぁあああっ!!!』 背中の翼を斬られ、ヤツは上空に、俺は地面へと落ちていった。 ……強い。 太陽を背にした上空で、 武器を一つに合わせる狂人……ベルセルクを見て素直にそう思った。 やがて俺目掛けて落下速度より早く飛翔し、 紫色の光を放つ剣を手に迫るベルセルクの顔を見ながら─── ただ静かに、もう昼か───なんていう馬鹿な考えをして、俺は斬滅された。 【ケース592:弦月彰利/灼闇の魔人2】 ゴカァアォオオンッ!!! 彰利 『う、おっ……悠介ぇええーーーっ!!』 辿り着いた時にはもう終わっていた。 悠介が中空で両断され、塵と化していたのだ。 相手は───バルバトスじゃない、中井出だ。 だが明らかに様子が違い、放たれる殺気の鋭さも、 対峙するときに存在していた安心感も、全てが別の次元のものとなって存在していた。 彰利 『ちくしょうワケの解らんことばっかだ───』 藍田 『ワケなら解るだろうが!我らのすべきこと!それは提督抹殺!』 彰利 『随分直球だねキミ!《ザゴンッ!》───へ?』 藍田 『オワッ───』 腕に衝撃が───あれ?なんで腕が飛んで……え……? なにがドガァンッ!! 彰利 『っ……!ぐっは……!!』 立った景色を見ていた筈が、どうしてか空を見ていた。 だがその景色を遮るものがあって、それが中井出の顔で─── その中井出が狂ったような表情のままに燃え盛る拳を握り締め、 ぎしぃいいと歯と歯の間から嫌な吐息を漏らし───やべっ! 彰利 『くあ《ドガァンッ!!》っ───あ、ぶねっ───!!』 振り落とされた拳を紙一重で躱すとともに立ち上がると、 同時に影からダークマターを取り出し前を───居ねぇ!? 彰利 『こういう時は後ろがセオリー!!ぜやぁっ!《ガギィンッ!!》』 自分が振り向くより先に剣を振るうことで何かを弾いた───危ねぇ、やっぱ───!? え……なんで鞘だけザゴォンッ!!! 彰利 『うぎっ……!?ぎあぁあああああああああっ!!!!』 黒で繋げたばかりの腕が、上空からの一閃で再び飛んだ。 同じところだからとかそういうのじゃない───光属性が篭った一撃は俺の腕を焼き、 即座の修復を不可能にして飛ばした。 藍田 『上だ───って間に合いやしねぇよくそっ!!     羊肉(ムートン)《ゾギンッ!》いっ……!?あがっ……ぐあぁああああっ!!!』 次いで、横から攻撃しようとした藍田の足を切り落とすと、 痛みに苦しむその顔面に容赦のない一撃を落として絶命させる───……やばい。 こいつ、中井出だけど中井出じゃない。 狂ってる……そう、戦に狂った目ェしてやがる……! 狂人 「力を示せ……我が前に、ただ力のみを───!」 彰利 『う、うるせー!こちとら無茶な解放した所為でまともに力使えねぇんだよ!     悪いがてめぇに見せる力なんざ残っちゃいねー!!くそして寝ろ!!』 まさに外道!───なんてやってる場合じゃあ……ねぇな。 ゼット「力に食われたか。なるほど、懐かしい雰囲気を纏っているな。     だが……もう油断はしない。潰させてもら《ガギィッ!》ぐっ!?     なんだと───!?腕が伸び───!?」 彰利 『馬鹿野郎!!そんな御託並べてる時点で油断だってのが解らねぇのか!     っ……うぉおおらぁあああああっ!!!!』 伸び、ゼットの首を掴んだ腕の炎に剣を通す! それが揺らめくと同時にゼットの首を絞めていた手の力は緩み、 ゼットは解放されザゴォンッ!! 彰利 『いぎっ───がはっ……!』 ……代わりに俺の右脇腹に蒼の剣……ジークリンデが突き刺さっていた。 深々と、右脇腹へと突き抜けて。 彰利 『て、め……!あんま……ナメんなぁあああっ!!!』 貫かれたことを無視して体を霧化させ、中井出に向けて飛ぶ。 包囲してから体を黒の刃に変えて貫いてくれようと思った故の行動だった。 けど中井出の野郎は素早く戻した双剣を長剣にさせると同時に輝かせ、 凄まじい突風を巻き起こし、竜巻を生成───! 俺という黒の霧ごと上空に飛ばすと、 狂人 「……失せろ!!」 いつから鞘を合わせていたのか、 巨大な鞘から抜き取った巨大剣から眩い極光を放ち───!  ゴヴァギシャァアォオオゥウンッ!!!! 彰利 『う、あ───うわぁあああああああっ!!!!』 自分で巻き起こした竜巻と、空に存在する雲とともに……俺という黒を消滅させた。 【ケース593:ゼット=ミルハザード/灼闇の魔人3】 キュゴォオオ……ォオゥ……ゥウゥン…………!! ゼット『………』 目の前に狂戦士が居た。 力に飲まれたのとは違う、力を飲み込んだ狂戦士が。 力任せに戦をするのではなく、飲み込んだ力を思う様振るい、戦う戦士だ。 かつて俺が陥った状態とは明らかに違う。 あの時の……セシルを喰らい、己さえ喰らったあの時の俺こそが力に飲まれた者だろう。 狂人 「……さあ、力を……!!」 人でありながらこの強さ……未来を夢見た頃にこの力があれば、 俺はどんな未来に───いや、言うまい。 今はただ確実に、こいつを仕留めるのみだ。 強い者が相手ならば退屈はない……それが親友と認めた相手ならば望むところだ。  ギリッ───ドガァォンッ!!ゴギィンッ!! ゼット『ぬっ───!』 狂人 「ルゴゥグゥウルァアアアアアアッ!!!!」 言葉にならぬ言葉を放ち、一歩で距離を詰めて振るってくる長剣の斬撃を斧で弾く。 だが相手の体重と加速からのスピードが全てこちらに流れ、 重力の一切が無となるまさに間隙と呼べる刹那、 軽く添えられていたヤツの左手が長剣から蒼の剣を引きずり出す───!! ゼット『ッ……チィッ!!《ギャリィンッ!!》』 斧を片手で持ち、こちらは右腕を剣に変化させ、振るわれる蒼を弾く。 その反動を利用しバックステップをするが、飛ぶという行為がまずかった。 狂人 「ぎしぃいいいぁああああああっ!!!!」  ゴボボバババババォオンッ!!! 勢いよく突き出された右腕が伸び、再び俺を掴もうとする……! だがそんなものに何度も捕まる俺では───なに?何故掴もうとする……? 剣は───っ!?ギガァアガガガチュゥウウウンッ!!! ゼット『ッ───しまっ』  ヴォガガガガガガォオオンッ!!!! ゼット『ガァアアアアアアッ!!!』 いつの間にか左手に持ち替えられていた……いや、長剣化されていた剣から放たれた極光。 途中で気づけた故に体を逸らすことが出来たが───チィッ……! 腕を一本持っていかれた……! なんという馬鹿げた威力……まともに喰らえば塵も残らん……! みさお『ゼットくん!今回復を───!』 だがケシズミになった左腕も、セシルや他の者の癒しで生えてくると、元の形に戻る。 ……ああ、戻るくらいのものならいい。 だが避け損なえば一撃で終わるだろう。 なんてザマだ……ゲームとはいえ、人間相手にこうも苦戦するなど……! だがそうでなくては面白くない。 正直、ここまで上がってくるとは思わなかったぞ中井出博光……!! 狂人 「オォオオオ……ウォオオオオオオッ!!!」 ゼット『ふっ……ふふふははははは!!はぁあーーーーーっはっはっはっはっはは!!!』  ドガゴギィンッ!!! 同時に地を蹴り武器と武器を重ね合う。 竜人化もした。合成させた武器のお蔭で解放された竜殺しの戒めもない。 魔竜化し、エナジードレインもした。 倍化したレベルで見れば、俺のレベルの方が遙かに上だ。 だがこの腕にかかる圧力はどうだ……こちらが圧倒するどころか押されているではないか。 面白い───実に面白い。 解るぞ……貴様の武具から流れる力、そして匂い。 これは竜殺しの匂いだ───! なるほど!レベルではなく武具で俺を!我を圧倒するか!  ギャリィンギャリィンガギィンギギャリィンゴギィンッ!!  ガギィンッ!!キヒィンッ!ギリィンフォギィンッ!!  ギャガガギギギギギガギゴギガギィイインッ!!! 狂人 「ルガァアアアアルラァァアアアッ!!!!」 ゼット『ルウォオオオオオオッ!!!』 振るわれる双剣と振るう斧とハンドソードが火花を散らす。 ともに狂ったように腕を振るい、だがその一撃一撃が急所を狙った必殺の一閃。 当たりさえすれば一撃必殺。 そんな一撃を、両腕で幾度も幾度も狙ってゆく。 だが───妙な確信があった。 長引かせては拙いと。 経験からの直感だ。 このまま打ち合いをしていれば、死ぬのは確実に俺なのだと。 そんな奇妙な寒気が体を支配し、 一筋の汗が目に入った時───俺は嫌な予感とともに後方へと後退───直後!!  ヒュガォフォババォオオンッ!!! ゼット『っ……!!』 狂人 「───グォオオウラァアアアッ!!!!」  ドゴゴギィンッ!! 視認することさえ困難なほどの軌跡が、俺が立っていた場所に奔った。 一撃を四連に変えたような剣速……あんな平べったいものを振るったというのに、 剣風が後方に下がった俺の髪を揺らし……前髪が鎌鼬により小さく切られていた。 さらに言えば、こんなことを考えている間にも接近と同時の連撃は連ねられ、 つくづく戦いというものに固執した相手なのだと俺に確信させた。 ゼット『ハッハァッ!!』 狂人 「ルォオウルラァァアッ!!!」  ヒュゴギガォンッ!ドガァン!ギャリィンッ! だが構わない。 これほどの緊張感があってこその戦いだ。 そう断じると再び己の手で殺せる距離で、 殺される距離で武器を振るい、互いを殺しにかかる。 目をぎらつかせ、親友と唱えた相手に必殺の一撃を連ね続ける───! 当たると確信を得たから止めるなどということはしない。 必殺なのだから必ず殺す気で放っているのは当然のこと。 防がねば死ぬ戦いをしているのだ───防げないで死ぬ方が悪い。 ゼット『《チリッ……》───!チィッ!!』  フォガァッフィィインッ!!! 頭の後ろで鳴った警鐘に従い後ろに下がると、再びあの一撃を四閃のように振るう斬撃。 疾風斬といったか───を放ってきた。 が、俺が着地するより先に地面を弾かせ、刹那に距離をゾボォッ!! ゼット『ぐ、おっ……!?』 腹と内臓、そして背中に熱が通る。 痛みという名のそれが貫かれた故のものだと知るのには少々時間がかかった。 ゼット『甞めるな!人間!!』 だがそれしきの痛みで止まるほど、自分は攻撃を喰らわぬと思っていたわけではない。 俺は俺の腹を貫いた剣を持ち、笑んでいる狂人めがけて口から極光レーザーを放った。 ───響く爆音。 直撃を受けた狂人は吹き飛び、 拍子に俺の腹から剣が引き抜かれ、ともに極光の渦へと飲まれてゆく。 だが終わらない。 放ち終えると即座に疾駆し、吹き飛んだままの狂人との距離を縮めてゆく。 ゼット『ルゥォオオオオオッ!!!』  ヴオベギャァッゾドゴォガァンッ!!! 狂人 「グガァアアォオオオッ!!!」 振り下ろす渾身が、無防備な体を硬い服ごと砕き、肉を裂き、地面に叩きつける。 纏っているのはどう見ても村人が着るような服だというのに、 手に残った感触は上等な鎧の強度を軽く越えていた。 現に、肉を切れば叩き落したところで大した勢いはつかないというのに、 狂人の体は地面にクレーターを造るほど勢いよく叩きつけられていた。 よほどの勢い、よほど硬いものを硬いもので打ち合わさなければ、 これほどの勢いが出るわけがない。 だがそんなことは今は些事だ───振り下ろした渾身を、 今度は地面ごとえぐるようにして狂人へと振るう!!  ゾボボゴガバシャアッ!!! そして、打ち上げた狂人へと飛翔し、さらなる渾身を以って───!! ゼット『───悪いな、技を返させてもらうぞ───!!』 その身を両断する力を込め、斬滅する!!  ルヴフォォオオゥンッ!!! ゼット『───なに!?』 否、斬滅する筈だった。 吹き飛ばした距離も、飛翔の速度も、振るった攻撃の位置も申し分無い。 だがそれより上空に飛んだ狂人を見て、俺は舌打ちをせざるをえなかった。 ───何故飛翔できることを考慮しなかったのか。 フロートと呼ばれるスキルを使用し、 我が斬撃から逃れた敵が、背にある巨大な鞘に納めた剣を解放する。 いつの間に───などとは考えなかった。 攻撃に集中しすぎた……戦いに夢中になりすぎたが故の、失態だった。 思えば極光で吹き飛ばしたのち、追撃する俺の攻撃など防ごうと思えば防げた筈だ。 ならばその時から、俺はこいつの“戦い”に飲まれていたのだろう。  ───剣の先から巨大な黒の光が放たれる。 それは直撃を受ければ俺を屠る力だろう。 が─── ゼット『───甞めるなと言ったぞ!!』 ならばと、俺は全力を以ってレーザーを返した。 だが屠竜どころか滅竜を含んだ闇の光はいとも容易く俺のレーザーを飲み込み───!! ゼット『くっ───くがぁああああっ!!!』 その異変に気づいた俺は咄嗟に更なる上空へ飛翔。 竜の飛翼をはためかせ、闇の光を避けたが─── やはり闇の光の発生源には既にヤツの姿はなかった。 代わりに、比較的真下にある俺の影の上に重なるように、蠢く影を確かに見た。 ゼット『上か!』 斧を振り上げる───が、その斧は俺の意志で止められた。  ───セシルが、そこに居た。 そして、その上から狂気の顔で剣を振り下ろさんとする狂人が───!! ゼット『きっ───貴様ァアアアアッ!!!』 斧は振るえなかった。 ただ怒りのみが俺の頭を支配し、やがて───ドッ……と、 俺はセシルをこの腕に抱きとめるや、位置を変えて庇いに入る。 背中を斬られる───恐らく渾身で。 耐えられるかどうかなどは知らない……ただ体が動いたとしか言えない。  トンッ…… だが背に降りたのは斬撃ではなかった。 軽い衝撃と───殺気が離れる感覚。 見てみれば、地面へと降りてゆくう狂人の姿がそこにあった。 ゼット『……どういうつもりだ』 狂人 「……力を示せ。我が前に、力を……」 ゼット『………』 読めない。 何故斬撃を落とさなかった。 そう考えた時、俺の腕の中でセシルが動いた。 ゼット『セシル……無事か?』 みさお『う、うん……ゼットくんの加勢をしようとしたら……急に……』 ゼット『………』 力を示せと。 俺だけを見て、狂人は言う。 それはつまり───…… ゼット『……邪魔は許さぬということか。つくづく狂戦士だ』 戦いを好むが故に邪魔者には惨たらしい死を。 自らではなく俺に斬らせようとしたのはそのためか。 ゼット『離れていろセシル、絶対に手を出すな』 みさお『で、でも』 ゼット『……見ろ、ヤツは俺だけを見ている。力を持つ者を求める戦闘狂の目でだ。     ヤツは対峙した者だけを見て、そいつしか狙わなくなる。     だがその戦いを邪魔した者には惨たらしい死だけを齎す。     ヤツが誰で、何故中井出博光の体の中に居るのかは解らん。     ひとつだけ言えるとするならば───』 大地に立ち尽くし、俺だけを見ている無防備な狂人。 その姿を見て立ち尽くしていた晦の知り合いどもが隙ありと襲い掛かるが、 そのどれもが狂ったように暴れまわり始めた狂人に斬滅されてゆく。 みさお『うっ……』 ゼット『───ヤツは、戦いを妨げる者を決して許さない』 眼下の景色が爆ぜてゆく。 剣が振るわれる度に爆発し、鎌鼬を発生させ、焼き、感電させ、燃やし、凍らせ、 様々な異常現象を巻き起こらせては、その度に人が一人、また一人と塵になる。 狂人 「クックックッハッハッハッハッハッハァアアッ!!!」 声  「うがっ!がっ───あぐぐがぁああああああああっ!!!!!」  バンガガガガガガガガドガガゴバッガァアンッ!!! 特に惨たらしかったのが、燃え盛る手で頭を掴まれ、 その黒赤の炎で頭を焦がされ爆発させられながらも、 掴まれてるために逃げられないままに…… 絶命寸前でもう片方の拳で殴られ爆滅させられた者。 即座に体が燃え尽きたために、それが誰だったのかすら解らないほどだった。 田辺 『くそっ……シャレにならねぇくらい強ぇえ……!!     提督てめぇ!どうやりゃそんなに強くなれるんだよ!』 狂人 「………」 田辺 『あ、あれ?無視?無視ですかーコノヤロー』 襲い掛かる敵が居なくなった今、再び俺を見上げる狂人。 地面を焦がす火の円は未だに燃え、両腕を覆う炎はさらなる猛りを見せている。 攻撃さえしなければ襲い掛からないというのか……それとも別の意図があってか。 どちらにしろ……魔竜化は既に解けてしまっている。 恐らく勝てぬだろうが……それは退く理由にはならないな。 ───ヤツはより強い者に惹かれる狂戦士と見て間違い無い。 ならば今俺がここを離れれば、 果たして狙われるのは───いや、そもそも逃げられぬだろう。 どの道この場で仕留めるしかないのだ。 ゼット『貴様らよく聞け!今の中井出博光は狂人───いわばベルセルク状態だ!     強き者にこそ戦いを挑み、それを邪魔するものは惨たらしい殺し方で仕留める!     いいか!一人ずつだ!一人がやられたらすかさず次の者がというように、     間を置かずに攻撃を続けろ!そうでなくてはまず勝てん!!』 田辺 『なんですってぇえーーーーっ!!?』 ライン『正気かミルハザード!人間相手に勝てぬなど───!』 ゼット『ならば貴様は勝てたか!?敗北しただろう!     ヤツは確かに人間だ!だがもう眼下として見える人間ではないのだ!!     現実を見ろ!遊んでいられる時間など、とっくに終わった!』 ライン『……チィッ……!!』 セシルを解放し、斧を持つ手に力を込める。 どれくらいいけるかは解らん───だが、ただでやられると思うな───!! ゼット  『オォオオオオオオッ!!!』 ベルセルク「───!ルゥウウォオオオオオゥウ!!!」 大地に立ち、俺の出方を待っていたベルセルクが咆哮とともに飛んでくる。 俺が突撃を開始した途端だ───強く地面を蹴り、一気に間合いを詰めてきた。 だがそう来ることは予想がついていた。 仕留めるのは手間だぞ、力の求道者よ───!!  ゴファドギャァアギリィイインッ!!!! ゼット  『ぬっ───ぐぅうっ!!!』 ベルセルク「ルォガァアアアォオオオッ!!!!       ガアッ!グアォッ!!!カァッ!ルガァッ!!!」  ギャリィンギャリィンギャリィンギャリィィインッ!!!! ゼット『っ……チィイイ!!』 真正面からぶつかり合い、長剣と斧が激しい音を立てた。 だが相手は即座に長剣を双剣に変えると、やはり再び俺の急所を狙ってくる。 それを再びハンドソードで弾くが───やはりレベル倍化状態ほど強く弾けはしなかった。 故に隙を狙う。 最大の隙を、最大の力で穿つために。  ゴバォドガァンガギィンゾギィン!! このベルセルクがどれほどの力と経験を持っているのか。 それは全て中井出博光の経験と強さから引き出されるものだろう。 ならば実戦だけで訓練らしきものの一つもしていなかった中井出博光の体には、 達人ほどの技術はない。 落ち着いて見てみればどこもかしこも隙だらけだ─── 強敵を前に頭を熱くした故の失態と言えるだろう。 だが油断はしない。 経験も技術も無いが、隙を突くことだけには長けていた男だ。 どこから何が飛んでくるかなど、注意してしすぎるということは絶対に無い。 こちらは傷つこうがダメージ反射で怯もうが、回復してくれる者が居る。 対してベルセルクの方にはそれがないのだ。 このまま斬り合いを続けようが、いずれは勝てる。 が─── ベルセルク「ルガァアォ!!」  キュボァゾガガガガガゾフィィンッ!!!! ゼット『ぐあぁあはぁあっ!!!』 粘ることに固執しすぎた所為か、戦闘に積極的ではなかったためか─── 危険感知が働かず、俺は疾風斬を避けられず、まともに喰らうこととなった。 そう……積極的ではなかった。 敵を前に、只管に隙を待つという一種の逃げ腰めいた戦いなど俺には合わないというのに。 お蔭で足と手の機能を斬り裂かれ、俺は壊れた人形のように地面へと倒れ伏した。 次いで間を置かずに我が頭へと落とされる、合わされた長剣の一撃。 回復など、間に合う速度ではなかった。  ゾゴォンッ!! ……まあ、待つ必要などなかったわけだが。 ベルセルク「グガォッ!?ウルゥウオオドォッゴグゥラァアアッ!!!」 誰も居ない地面を爆滅させたベルセルクが言葉ですらないなにかを叫ぶ。 咄嗟に解放したストックより魔竜化を引き出し、飛翼で逃れた故だ。 好機を待って一気に決めるつもりだったが───そうも言ってられないようだ。 人をここまで強くするとは……武器強化も馬鹿にならん。 今日という日を無事越えることが出来たなら、 積極的に鍛えるとしよう───教訓として刻むように。 ゼット  『グォオオウルアァアアアッ!!!』 ベルセルク『ルゥウウアァアアアッ!!!!』 脇目も降らずに飛翔してきたベルセルクを斧の一撃で迎える。 先ほどまでは押され気味だったが、今は逆に押すに至る。 理屈は簡単だ、別の能力も引き出した───ただそれだけに過ぎん。 鎌としての斧が無くなった今、特種能力であるロードオブブラックブレイカーは使えない。 ジョブ能力側の方も、鎌としての奥義の方もだ。 だがレベル倍化能力は健在だ。 今はそれとともに竜闘気とエナジードレイン、 そして我が斧に宿るTPを攻撃力に変換するスキル、“理力の斬撃”を使用しているのみ。 TPは勝手にエナジードレインが掻き集めてくれ、攻撃力はスキルが上げてくれる。 故に俺は気兼ねなく斧を振るうことが出来、今では逆に圧している。 ゼット『フッ───オオッ!!』 渾身を込めた豪斧の袈裟斬りがベルセルクの体を剣ごと吹き飛ばす。 だが間を置かずにすぐに肉薄し、首目掛けて豪斧を振り下ろす! しかし左から横一線に振るったソレは下から振るわれた蒼に弾かれ、 即座に左から襲い掛かる赤が俺の腕に裂傷を刻んでゆく。  ───それがどうした。 痛みも意に介さずに振るうハンドソードがベルセルクの腹部へと突き刺さる。 途端に俺の腹にも痛みが反射するが、 その痛みさえ無視して突き刺した剣を強引に、肉を引きちぎるようにして振り切った。 ベルセルク「グガァアアアアアアアッ!!!」 弾き出される絶叫。 ビキメキと肉を引きちぎる感触がハンドソードを徹してリアルに俺の腕に響く。 だがそれで済ますつもりは毛頭無い───! 思い切り振り切り、肉を殺いだ左腕のハンドソードが腕ごと左へと動く反動を利用し、 勢いをつけて右の斧を振り落とすと、再び肉を裂く感触が腕に伝わり、 俺の体に親友と唱えた相手の血が降りかかる。 目の前の男は左肩から右脇腹までを深く切られ、 その部分だけではなく口からも、おかしなくらいに血を吐いた。 だが躊躇はしなかった。 血を吐くその喉目掛け、渾身の一撃をヂギャォゥンッ!!! ゼット『───……な……に……?』 ……飛んでいる。 腕が───斧を振るう筈だった腕が。 耳障りな音が間近で聞こえる。 風を斬る音───何かが高速で回転する音…… そして、忘れもしない……つくづく俺を苛立たせた、 ツゴモリが得意としていたあの技の剣戟の音が───! ゼット『グッ……貴様《ガキィッ!》ガァッ!?』 高速回転するリングと刃を手に、空いた手で俺の頭を掴む目の前の男。 なにをする気だ、と力を込め外しにかかるが───…… 左手で掴んでいるこの男の手は緩むどころかどんどんと力を増してゆく。 まるで、筋肉が躍動するかのように、ドクン、ドクンと─── ゼット『ガッ!グッ……グア、ア───アガァアアアッ!!!』 次第に、頭蓋に言葉では表せないような痛みが走る。 その痛みのあまりに考えることを放棄するかのように、 左手をハンドソードに変え敵を斬りつけ続けるが─── 怯む様子も無しにさらに筋肉を肥大化させてゆく───! ゼット(ふざけるな!こんな……!技術でも知識でもなく、握力で───力で───!!) 頭を掴む腕を斬る───しかし炎に包まれたソレは地面に落ちることもなく、 未だ俺の頭を圧し続け……!! ゼット(ッ…………!!) STRを全開にして抗う。 が、左手一本だけでは───っ……なにを言っている俺は! 相手とて片手だ!それが何故負ける!?何故───! ゼット『ウ───ォオオオオオオオオッ!!!』  ザゴゴゴズパァンッ!!! 頭を掴む腕に、一撃ではなく連撃を加え、炎ごと腕を切断する。 すると頭蓋を割らんとする力は緩み───俺はその瞬間にベルセルクを蹴り、逃れていた。 ベルセルク「ハッハァアアアッ!!!」 一方のベルセルクは嬉しそうにギシリギシリと歯をかみ合わせ、間も置かずに襲ってくる。 ゼット『シィイイアァアッ!!!』 そう来ることなど予測がついていた俺は再びハンドソードを振るうと、 敵がそれを弾いている内に腕は他者の回復術により再生する。 が───斧は地に落ちたままだ───どうする……!? 声  『受け取れゼットン!すぅううりゃぁあああああっ!!!』 ゼット『ぬっ───!?』 声ののち、風を斬る音。 刹那的に音が聞こえる方向を見れば、 地面には田辺という男、中空にはこちらへ飛んでくる斧───! 一瞬だけ見た距離と速度で到着の頃合を予測し、 口から極光を放つことで敵を抑えながら復活した右手でそれを掴み取る! そしてその勢いに乗って、 左方へと持っていかれた腕と反動をそのままに───一気に振り下ろす!  ゾガゴブチャゾギャギャギャギャォンッ!! 果たしてその斬撃はベルセルクの右肩を潰すに至った。 が……腹に痛みを感じ、見下ろしてみれば…… 俺の腹は高速回転する斬撃によって斬り裂かれ、 下半身と上半身がくっついているのが不思議なくらいにえぐれていた。 ……重力で下半身がブラン……と揺れるほどに。 ゼット『グッ───ガァアアアアッ!!!』 虚空より鮮血の雨が降る。 重力によってさらにさらにと裂けてゆくそこからは、 ミリミリという嫌な音が神経を通して脳へと届き、 血管という通り道を場所からは血という血が噴き荒れ、痛みとともに雨となる。 だが痛みに苦しむ時間もない。 ベルセルクは肩が砕けたことなどお構いなしに、 ブラブラと揺れる肩から先を振るって俺へと剣を振るう。  ───まずい。 他のどの攻撃でもいい───だがこの回転斬撃はまずい。 ゼット『グ……オォオオオッ!!!』 切断面が広がることも厭わずに飛翼をはためかせ、後方に下がる。 無論敵から目を逸らさずにだが、 その視界を赤と蒼の斬撃が空振りするのを見ると、流石に息を飲んだ。 だがその空振りに斧を合わせ、 振るう力に体を持っていかれるベルセルクの右首筋から右脇腹までを一気に斬り裂く! ブギバキと肉と骨を断つ音が腕に響き、 それにより武器を持つベルセルクの肩から先が宙に舞う───! だがそれと同時に俺の傷口も開ききり、 ブヅンッ……!という気色の悪い音とともに下半身が千切れる……!! ゼット  『ッ……グガァアアアアッ!!!』 ベルセルク「ルゴォオオッグロゥラァアアアッ!!!」 だがそれがどうしたと言わんばかりに腕を振るう! 移動をするなら飛翼がある!攻撃をするための腕もある! ならば───ともに狂戦士としての自覚を持つ二人が向かい合えば、することなど一つ!!  ザゴォンガギィンッ!ゴギャアゾバァンガフィィンッ!! 一撃目の斬撃が直撃すると同時に、 ベルセルクの左腕の奇妙な紋章から蒼の武器が出現し、握ると同時に反撃に出る───! 赤の武器を出現させないのは何故かと一瞬考えたが、今はそんなことはどうでもいい!! 炎が出ていない部分を裂かれてはさすがに炎での連結は出来ないのか、 千切れ飛んだ右肩から先は、血を流したまま再生する気配も炎が伸びる気配もない。 ……だがなんだ?この嫌な予感は。 戦に神経を研ぎ澄ませた状態だからこそ感じる、この嫌な───ッ!? ゼット『チィイッ!!』 背後から迫る嫌な予感を、横に飛翔することで躱した。 それがなんなのかも解らないまま、だ。 だがその予感は確かなものだった。 斬れ、地面に落ちた筈の肩から先が、なにかに引かれるように飛んできたのだ。  ───次いで、ヒュゴゥンッ!という音。 投げつけられた蒼の大剣を反射的に避けた。 と同時に軌道を変えて剣を追おうとする腕を掴み取り、 千切れた部分に肩を乱暴に押し当て───……!? ゼット『マナが集束している……!?───まずい!』 切断面に呆れるほどの量のマナが集中している。 緑色の小さな粒子が肩と胴体の間に密集し、傷口を治していっているのだ。 俺は渾身を以って斧を振るい、顔面を潰すつもりで殺しにかかる───!!  ビガギヂヂィッ!!! ───……血が吹き飛ぶ。 振るわれた斧はベルセルクの肉を確かに削いだ───が。 ゼット『っ……!?貴様───!!』 削いだ肉など口と頬の肉のみ。 我が斬撃を、あろうことか歯で噛むことで押さえ、 耳元までを裂かれてなお───筋肉を裂かれ、顎がだらんと下がってもなお、 今度は左腕を犠牲にしてでも無理矢理に止めてきた。  その驚愕の刹那、千切れ、炎すら消えていた右腕に黒赤の炎が点る。 同時にズタズタになった左腕から再び蒼の大剣を出現させ、 右腕からは赤の大剣を出現させる─── ゼット『ぐっ───ここまで来て回復を許すなど───!!』 こちらは既に限界が近い。 血を流しすぎたのだ───視界が歪む。 だがまだだ!まだ、俺は───!!  ゾッ…… 斧を握る手に力を込めたその間隙、 俺の左胸に長剣化され巨大剣の切っ先が突き刺さっていた。 刹那ヂュゴバォンッ!!! ゼット『ガ───』 喩えるならば超震動。 俺の体内で得体の知れない震動波が荒れ狂い、俺を内部から破壊した。 目から、耳から血が吹き荒れ、視界が赤に染まり───それが引き金になったのか、 俺の体からは全ての力が失われ、飛翼もはためかせずに落下してゆく。 ……下半身が千切れているのだ、いくら回復したところで、回復が間に合う筈もない。 見上げる空の眩さを赤いフィルタで染めながら、 剣を仕舞い左腕に出現させた何かから血の赤よりも赤い閃光を放つ親友の姿を最後に─── ……俺の意識は、消滅した。 【ケース594:田辺一郎/灼闇の魔人4】 ドガァアガガガォオオンッ!!!! ……赤い閃光が、ゼットンを飲み込んだ。 ボウガンとか竜撃砲を放っていた木の砲台から放たれたソレは、 放たれた砲台の小ささからは想像がつかないくらいの巨大な閃光を放ち─── やがて景色を照らす赤が消え失せる頃、そこには何も無くなっていた。 田辺 『……、……』 はっ……と息が漏れた。 これは恐怖か?ああ恐怖だ。 無意識に、次は誰が狙われるのか、俺なのか、と恐怖している。 俺だとするならば今すぐ攻撃を始めなきゃいけない。 けど俺じゃなかったら、 邪魔者と断ぜられて惨たらしい死を───ええい構うか真っ直ぐGO!! 田辺 『うぉおおおお《ゴガォゴバァンッ!!》おおおおっ!!!』 叫ぶとともに飛翔し、その過程で牙銀モードを発動。 空中を蹄で駆け、真っ直ぐにベルセルクへと向かっていく! 後のことなんざ考えねぇ!全力で、抗えるところまで!!  ───そして対面する。黒赤の炎を腕に纏う……姿は提督の狂人に。 だがその対面も半端に、俺は幻魔を振るい襲いかかっていた。 田辺 『うぉおおおおおおおおっ!!!!』  ヴミンゴガァッキゴガァッキゴギィンッ!! 田辺 『づっ───!?マ、マジかよ……!』 振るう幻魔が真正面から弾かれる。 こんなことは初めてだ───やばい、こいつシャレにならねぇ! それも長剣状態じゃなく双剣状態で弾かれるなんて───自信無くすぞくそ! ベルセルク「力を示せ───我が前に力を───!!」 ガシャンッ、と目の前で双剣が合わされる。 そして突き出すのも半端に、光と災いを合わせたような輝きを俺に向けて───!!  ───その光を何処で見たのか。 奇妙な既視感を前に、俺は咄嗟に横へと逃げガボォオンッ!!! 田辺 『あっ───うぐががぁあああああああっ!!!!』 左腕三本がケシズミになった。 放たれた光の威力は尋常じゃない───しかも俺は、やっぱりこの光を知っていた。 これは─── 田辺 『光天龍のホーリーとレイ……!!』 心底驚愕する。 竜の素材を滅茶苦茶合成させまくってたのは知ってる。 けどまさか、こんな技まで使ってくるなんて想定外もいいところだ。 そういえば弦月を殺したのもこの光だった気がする───つくづく冗談じゃない、 直撃を受ければケシズミになった腕と同じ末路ってことじゃねぇか。 田辺 『ちっくしょ───うぉおおおおおおっ!!!』 腕が潰れた状態じゃあ牙銀大砲は撃てない。 屠竜奥義ではあるが、 竜素材に身を包んだような提督には逆に効果的だと踏んだんだが─── くそ!幻魔よりも先にあっちをブッ放すべきだった!  ギガァッフィガガァッフィゴギィインッ!!! ───振るっても振るっても弾かれる幻魔。 対するベルセルクは巨大長剣を振るい、俺を幻魔ごと圧し返してくる。 武器レベルからして規格外───差が有りすぎて歯が立たない。 けどなにもヤケクソを起こしているわけじゃない。 田辺 『フッ───はぁあああっ……!!』 完全妖魔状態での妖力解放を開始する。 限界が何処までかも調べたことはないが、それでもいけるところまではと。 その過程で腕も再生し、幻魔での攻撃の間に余った腕から炎を放ちまくる。 それでもさらにさらにと妖力を解放してゆき、負けるものかと攻撃を連ねてゆく───!! だがそれも長くは続かなかった。 ベルセルクの攻撃速度が急に上がったと思い、 俺もそれに合わせてステータス移動をするが─── ベルセルクの攻撃力は落ちず、それどころか速度とともに上昇していた。 そんなものに速度だけを上げた俺の攻撃が敵う筈もない。 何故、と思うより先に思い出したのは、 提督と戦っていた時に提督が使った人体能力開放術。 それに心当たりがついた時、俺の体は斜めに斬りつけられ─── 肩から脇腹にかけて刻まれた赤い溝から鮮血が飛び出る。 それで───力が抜けた。 ベルセルクは落ちてゆく俺をつまらなそうな顔で見下ろした後、 次の獲物を探すかのように別のやつらを睨みつけていた。  ───それが、隙になるとも知らず。 やっぱこいつは提督じゃねぇや。 提督だったら敵が完全に死ぬまで目を離したりしない。 だから───喰らえ、クソ野郎───!!  ヴォガァアゴゴゴゴワァォオゥウッ!!!! ベルセルク「ガッ───!?グオアァアアアアッ!!!!」 ざまぁない。 ストックから解放した炎魔葬竜弾の直撃を受けたベルセルクは、 全身を屠竜の炎に焼かれながら絶叫した。 それで確信した。 やっぱり───竜の素材の使いすぎで、竜に強いくせに屠竜に弱い。 それが解っただけでも───……今は目を閉じてやる。 ───そうやって……忌々しげに放たれた赤の極光……恐らくグングニルによって貫かれ、 俺はニヤケ顔のままに塵と化した。 十分だ、対策は練れる。 あとは協力が得られるかどうかだ─── 【ケース595:───/灼闇の魔人5】 ───恐れるばかりでは何も変わらない。 変えたければ変えようとする……それが意志というものだ。 それを皆が心に刻んだ時、戦いはやがて戦争という形に至った。 息を飲むだけだった者たちは破れかぶれでも駆け出し、 敵わぬのなら渾身を込めて、急所を穿ち仕留めることだけを狙った。 凍弥 「はっ───ぜやぁあああっ!!《ザゴォッ!》ぐはっ───くっ……がぁあっ!」 岡田 「くそがぁっ!ブレードスナッパァーーーッ!!」  フォギガガガガガガガギィンッ!!!! 岡田 「うぃいっ!?全部弾《ゴバァンッ!!》きッ───」 藤堂 『ひっ───生首がっ───アタァーーック!!』  ゴバァンッ!!! 総員 『ひでぇええーーーーーっ!!!』 RX 『素晴らしき仲間の頭をバレーボール代わりとは───素晴らしい!!』 丘野 『あ……塵になったでござる』 それぞれが思い思いに撃を連ねる。 その大半は六閃化された双剣によって弾かれるが、それも狙いの一つだった。 六閃化はHPが消費していくことを、素晴らしき7人のメンバーは知っていた。 故にそれを続けさせることと急所を狙い続けることで、 少しずつでも弱らせようという手段に出たのだ。 だが見方側が攻撃されれば敵はHPを回復させることもあり、 出来れば攻撃を喰らわないように体を捌く。 だが逃げ回ってばかりでは自然の加護が回復させていくため、 休んでばかりもいられなかった。 丘野 『STRマックス!極光剣!こぉおれでぇえっ───決ぃまりだぁああっ!!!』 RX 『STRマックス!アーールエェエーーックス!キィイイーーーック!!!』 誰もがSTRマックスで襲い掛かるが、 たとえ攻撃が当たってもそのダメージの半分が返り、 それに怯んだ瞬間には首が飛んでいた。 それでもその場の者は怯まず、自分の役割だけを果たすべく武器を振るっていた。 ───鳴り響く剣戟はまるで暴風雨。 絶えることなく続く武器が武器を弾く音と、刃が鎧を破壊し肉を裂く音。 復活した田辺からtellをもらった屠竜剣奥義を知る者は、 使える条件が揃えば即座に使用し、攻撃を続けた。 それは通常の攻撃や一番威力があると思っていた攻撃よりも効果があり、 僅かずつではあるが───だが確実に、狂いし者を追い詰めていた。 今では先に塵にされた悠介も彰利もゼットも集い、 それこそ総力を以っての戦争が、この広い草原で繰り広げられていた。 丘野 『だーーーーっ!!効いてるけど大して効いてねぇでござる!!』 RX 『田辺ーーーっ!田辺はどしたーーーっ!!     コロがされた時間から考えるともう来ててもいい頃───     あ、岡田がもう戻って来た』 岡田 「駆けつけ到着全力スナッパー!!エェーースインザフォーーール!!!」 RX 『そしていきなり切りかかる!?OK素晴らしい!負けっかぁあーーーっ!!』 駆けつけると同時にそのままの勢いで跳躍し、ベルセルク目掛け剣を振るう岡田。 その一撃はベルセルクが振るう一撃を───ギャギィンッ!!! ベルセルク「ガッ───!?」 渾身のもと、圧しきった───!! そうして体勢が崩れたところにインスタントブースターを発動させた清水が突っ込む!! RX 『リィイイボルッ!!クラァアアッシュッ!!!』  ヂガゾバァアンッ!!! 振るわれた光の剣は弾かれた反動で広げられた腕を切り裂き、 それを見た悠介と彰利が同時に疾駆し、雷撃と黒を以ってその腕を滅消する───!! ベルセルク「カッ……グ、グゥウウロゥウガァアアアッ!!!」 だがそれがどうしたと叫ぶようにして暴れるベルセルクを前に、 突っ込んでゆく者たちの悉くが吹き飛ばされ、斬滅され、塵と化してゆく。 狙っているのはゼット───だがそれを邪魔するものから滅ぼさんとする意思が、 周囲の存在への斬撃を促してゆく。 右腕を無くした狂戦士だが勢いは殺されていない。 地面に落ちた巨大剣を拾おうともせず、 左腕を伸ばし、その火闇で群がる者を燃やし、爆発させてゆく。 それにより皆が怯んだ瞬間に剣を拾い、怯んだ者を一閃のもとに斬り滅ぼしてゆく。 岡田 「うわやべっ……!斬ったばっかの腕が再生してきてやがる!」 彰利 『どんな回復速度なんだよてめぇ中井出この野郎!!』 悠介 『回復スキルか───嫌な能力持ってるなまったく……!!』 そうこう言っている間にも、 ジークフリードから様々な属性のキャリバーを放つベルセルクを前に、 義勇勢力は次々と吹き飛び、ケシズミになってゆく。 ある者はミドガルズオルムという地と災の大地震で、 ある者は大海嘯という水と災の津波で、 ある者はフュンフレイジという火と災の五方向への火炎レーザーで、 ある者は波動風という風と災の超圧縮レーザーで。 それぞれの守護竜の素材と古の竜宝玉の複合により覚醒した災いのキャリバーは、 威力こそ守護竜が放つものより劣るが、 十分な威力を発揮───放たれた者の悉くをケシズミにしていった。 田辺が腕三本を破壊されたレーザー……ホーリーレイもそのうちの一つであり、 光と災の属性の複合で完成するキャリバーだった。 彰利 『《ミヂヂヂゥウウ……!!》ガアアアッ!!かっ……くそっ!!     戦う相手によってきっちり属性使い分けてやがる!     しかも威力が中井出ン時と段違いだぞ!?』 悠介 『封印されてた属性が安定したんだ!それくらい想定の範疇に入れておけ!』 光と風のキャリバーが空きの頬を掠め、焼いた。 エクスキャリバーと呼ばれるそれは風を切り裂く光となって飛翔し、 景色の一部であった山さえ切り裂き、消えてゆく。 それを見た者が息を飲むが今さら逃げても意味が無いと覚悟を決め、武器を強く握る。 藍田 『連撃いくぜ!轟天インザレールインパクト散水!!』 鋭く、コンパクトに疾駆。 ただの蹴りではなく、烈風脚で振り上げた足での高速の超武技・轟天がベルセルクを襲う。 走るのではなく蹴りに。 その速度はベルセルクが予測していた蹴りの速度を軽く越え、 構えるより早く顔面に直撃する。 左右ともに三発ずつの蹴りののちの踵落としを高速度で打ち出す奥義はしかし、 ぎしりと歯を鳴らしたベルセルクの蒼の斬撃によりゴバシャァッ!! ベルセルク「ガァッ!?」 ───否。 藍田の頭蓋を貫通する筈だった蒼は腕ごと宙を舞い、 離れた位置に立っているというのに腕を切り落として見せた 岡田がニヤリと笑うと同時に草原に落下した。 だが斬ったのは腕。 炎は未だ落ちた腕とを繋いでおり、 ベルセルクは落ちた腕を炎で引っ張り上げるように振るい、 目の前の忌々しい邪魔者どもを屠ろうとした。 だがその顔面に元艦載式磁力線砲が放たれ、青白い爆発を巻き起こす───!! ロボ 『続けてキメるぜ!!!チャァアアアアアジッ!!インパクトォオオオオッ!!!』 それでもなお振るわれる炎腕を潜り抜けた清水が、 円月状のカセットアームをベルセルクの左脇に添えて解放! 強烈な炸裂音とともに、ベルセルクの左肩を根こそぎ破壊してみせ、 丘野 『その間隙、頂戴する───!!』 その時には既に四身の残像さえ残すほどの速度で動く丘野が超速連斬を斬り連ねていた。 のちに空へと斬り弾いたベルセルクへと、龍虎滅牙斬を振り下ろす!  ゴヴァシャシャシャォオオンッ!!!! 爆ぜる青白い闘気。 地面に魔法陣めいたサークルが出現し、 そこから漏れる白光がベルセルクの動きを止め、その上で斬撃が落ちた。 ───が。 丘野 『っ───はぁっ……!どうでござ《ヂガガバァンッ!!》ぎげあっ!?』 連携が成され、連携効果がベルセルクを包む中、 斬撃ののちにバックステップをした丘野の右肩が、爆煙から飛び出た蹴りによって砕けた。 ゼット『腕が無ければ足で、か───ククッ、つくづく───』 狂戦士、と───黒竜王は笑った。 だが己が突っ込むことはせず、一定の距離を保って見物をするのみであった。 何故ならそれがこの戦いの中にある唯一絶対のルールであり、 原中の連中が考え付いた姑息な手段の一つだからである。 ───強者を第一に潰そうとするのなら。 邪魔者を即座に潰そうとするのなら。 その中間を狙える距離を強者と邪魔者が取っていれば、判断が鈍るのではと。 そうして完成したのが今の距離と状況であり、 現にベルセルクの両腕は肩から抉られ存在していなかった。  ───が……それがなんだというのか。 思い違いがあるとするのなら、経験への油断。 ゼットを始め、皆が皆ベルセルクの行動は中井出の経験から降りるものだと思っている。 だがベルセルクが振るう力は中井出のものだけではなく、 その武器に宿る意志をも混ざっている。 だというのにまるで戦い方が素人だと思わせるなにかがあるのだとすれば、 ああなるほど、それこそが確かに───  ドガァンッ!ヂガガガガガォオオンッ!!!! 聖  『うあっ───あぐぅあぁああああーーーーーっ!!!!』 彰利 『聖っ!?こンのっ───離せてめぇ!!』 烈風脚で距離を詰められ、蹴り倒した聖の体を雷撃を放つ具足で踏み潰し、 幾度も幾度も雷撃を通すことで回復スキルを発動させるベルセルクと、 それを見て襲い掛かる彰利。 両腕が無いことも手伝ってか用心もせず疾駆する姿を、 この場に居る誰が責められただろう。 恐らく今この場で誰が走ろうとも、同じように走っていただろう。 過ちがあったとするのなら、やはりそこなのだ。  ブヂャコッ……ぐちゃあっ!! 彰利 『っ───!?うえっ……!』 腕が再生する。 マナの集束と然の加護、そして回復スキルによって。 しかしそれは骨が生えてきたという回復の仕方であり、 だが、だというのにそのままの状態で彰利の頬を殴ってきたのだ。 繊維が、筋肉が繋がっていく過程の手首の感触は気色が悪く、 しかもそれが知人の腕ということもあり、思わず悲鳴を上げそうになってしまったが─── 次の瞬間には骨は手となり腕となり、 ハッとした顔の彰利の顔面を掴むとともにその頭蓋を握り潰していた。 悠介 『っ……!』 夜華 『うっ……うあぁあああっ!!?彰衛門!?彰衛門!!』 べきゃあ、という音。 次いで霊章から出現させた赤の大剣で崩れようとした肉体を切り刻むと、 油断させて回復しようとしていた魂胆そのものごと肉体を塵と化させた。 ……黒の特性。 頭を破壊されようが、 “死なない限りは再生可能”という能力をよく知らなければやらない行動である。 つまりそれは─── 悠介 『は、はは……ようやく意味が解った……。     “全力でバックアップする”ってのはそういうことか、提督……!』 ベルセルクの中には提督や、武具に宿る意志が存在し、 そのどれもがベルセルクに全力で協力をしている。 雑かと思えば巧く、弱ったかと思えば油断しているところを突かれる。 攻撃にも騙しにも特化し、優位に立っていると思えば殺される。 これが滑稽でなくてなんだろう。 まるで操手にいいようにされるチェスの駒だと呟き、悠介は小さく笑った。 夜華 『貴様ぁああっ!!よくもっ!よくもあのような惨たらしい───!!』 だが、だとしたら拙いのは目に見えていた。 夜華が疾駆し、渾身を以って斬りかかるが─── 悠介 (提督の意志が相手の中にあるのなら間違いはない、あいつはやる。     相手が男だろうが女だろうが、老人だろうが子供だろうが。     敵が敵である限り、躊躇なく───相手が殺しにかかってくるのなら確実に殺す。     殺していいのは殺される覚悟を持つ者だけ……それをよく知るヤツだからだ) 悠介の予想……いや、確信は当たった。 刀を振るった夜華はその手に刀が───いや、 手首から先が無いことに気づいた瞬間に頭を斬り割られ、 死んだことにさえ気づけないままに塵と化した。 怒りに我を忘れた時点で注意が散漫していたのだろう。 腕を斬られたことにさえ気づかず、殺されたことにさえ気づけずに死亡した。 相手が女だろうとも躊躇しない───中井出の意志に語り続けられているベルセルクは、 それこそ躊躇もなく女子供を斬り滅ぼした。 中井出  (グオッフォッフォッ……!!よし…………っ!それでよし…………っ!       ベルセルク……ベルセルク!罪深き汝の名はベルセルク!       汝、我らの意志を受け取りて、集う者を屠れ……!) ベルセルク「……俺に、指図を《ズキィッ!》グアァォウッ!!?」 中井出  (ゲフェフェフェフェ!!表に出た貴様ごときがこの博光に勝てるかよ!       知るがいい知るがいい内側から蝕まれる苦しさを!!       貴様の意識を奪って俺が表に出ることは困難!       そんなことは最早常識でありセオリー!       ならば意識を奪おうとするのではなく内側から蝕めばいいのよ!       肉体は好きにするがいい!だが内側まで蝕めると思うな小童がァアア!!!) べルセルク「ほざくな……貴様の意思ごとき、いずれ《メキィッ!》グォオアアッ!!」 中井出  (ディェ〜〜フェフェフェフェ、無駄ですよォオオベルちゃん。       貴様を封じた指輪を手に入れたばかりの私ならばまだしも、       今の私には数々の意志と思念を持った武具たちが居るのですよォオ?       あなた一人で私を飲み込もうなど無理無理グオッフォフォフォ……!!) ……皆は皆で、こちらはこちらで大変な思いをしているようだが、 少なくとも知人一人を斬滅しておいてする会話ではないことだけは確かだろう。  ……閑話休題。 苛立ちげに双剣を構えるベルセルクには、戦いを楽しむ余裕が少々失せていた。 言わずもがな、内部で囁く人間なのに悪魔的な存在の所為だろう。 だがそれも僅かな時とともに高揚に変わる。 そうだ、敵がこれほど多く居るというのに高揚しないわけがない。 戦いが好きなのだ、故に狂戦士と呼ばれるようになった筈だ。 だが───と、そこで雑念が混ざった。 意志と会話をしたためか、人の意思の裏側なぞに張り付き続けたためか。 ただ力を求め、言葉なぞ放つことなく戦いに明け暮れし者が、思考した。 思えば力を示せなどと口にすること自体がおかしなことだった。 やがて、その思考の片隅にとある疑問を浮かべるのだ。  ───何故俺は、力に、戦いに狂ったりなどしたのだろう、と。 しかしその思考も目の前にある戦いへの喜びに埋め尽くされてゆく。 古の時代になにか大切なことがあった筈なのに、 それを思い出そうともしないままに……意識は力へ、戦いへと流れていった。 渾身を振るう、殺し合いの中へ。  ルフォンゴガギゾバァンゴバァグシャアアアッ!!! ベルセルク「ルォオオッゴグォゥルアァアアアッ!!!!」 血が飛ぶ、肉が飛ぶ。 一切の加減も無しに振るわれる力は群がる者を薙ぎ払い、 耐え切れぬ者を滅ぼし、耐えたものを吹き飛ばした。 春菜 『いいみんな!一気に、だよ───!?』 岡田 「わ、わかったぜ〜〜〜っ」 藍田 『だから早くしてれーーーっ!!!《ガガガガガンッ!!》うひぃああああっ!!』 振るわれる連撃を具足で捌く藍田は、放たれ続ける殺気に疲れきっていた。 それでも同じ轍は踏まないようにと斬撃をよく見た上で蹴りを放ち、 足が斬られることがないように捌いていた。 悠介 『三で仕掛けるぞ───いいか?』 彰利 『いや、ここは男らしく“さんの〜が〜ハイ!”で』 悠介 『っていつ戻ってきたんだよお前!───ああいい、それはあとだ!───先輩!』 春菜 『任せて!鳴り響け!わたしのメロス!───更待流弓術秘技!“影縫い”!』 そうして意識が藍田に向いている隙に、跳躍した春菜が狙いをつけて弓の弦を離す。 直後、飛んだかも解らない速度でベルセルクの影に突き刺さる月醒の矢。 それを合図に、 悠介 『さんのーがぁっ!!!』 彰利 『ハイィッ!!』 生き残っていたほぼ全員が一気に襲い掛かった。 圧倒的な力の差を前に、影を縛っておける時間など微々たるもの。 だがその微々たる時間に素早く動けてこその錬体者。 一瞬だけ動きを停止させる存在と、戦いの基礎を天空城で学び、 レベルを上げてきた者が振るう攻撃の速度はそれだけで致命的な差となる。 動いているならまだしも、それが一瞬とはいえ停止したのだ……届かぬ道理もない───!  ゾグォゴバザゴドガゴギゾブシャアッ!!!! ベルセルク「クガァアアアラァアアアッ!!!!」 舞う鮮血と、場に響く咆哮。 右腕だけの狂戦士は一手遅れただけで連撃を連ねられることになり、 その身を己の赤でそめてゆく───が。 それを優位だと誰かが思った瞬間、地面より巻き上がる炎の円により、 接近していたものの悉くが爆発して吹き飛んでゆく。 マグニファイ───守護炎陣の効果だ。 だがそれが予見し、主な主力人物を後ろに下がらせた者が居た。 粉雪 『───彰利!後ろからデスティニーブレイカーで炎を出せる事実を破壊して!     晦くんはそれと同時にヴィジャヤのレールカノン!     少し喰らうけど空に逃げるから、藍田くんはそこを狙ってブロシェット!     倒れたところに黒竜王さんが渾身の一撃!     みさおちゃんは死神と神の力を向上させるのを忘れないで!』 粉雪である。 眼という形をもつ鎌、時眼視・冥による未来視を武器に、 ベルセルクではなく“この場の未来”を視て、指示を出す。 さすがに規模が大きいためか眼と頭に鋭い頭痛が走るが、 どうせ倒せなければ殺されるのだと己を奮い立たせ、次々と指示を出した。 藍田 『うおほんとに来た!“串焼き”(ブゥロシェットォ)!!!』  ギュルァドゴヂュガァンッ!! 火円を破壊され、メガレールカノンを辛くも避けるベルセルクを襲う灼熱の蹴り。 火の精霊武具フラムベルグと帯熱スキルにより、 まさに灼熱と化した具足がベルセルクを地面へと串刺しにし─── 藍田が飛びのこうとした刹那には限界まで身を捻り、 STRマックスにて巨大斧を振り下ろすゼットの姿があった───!  ゴヴァズゴガバッガァアアッ!!! ベルセルク「ガグォアァアアアアッ!!!!」 振り下ろされた一撃がベルセルクの右肩から心臓部までの肉を一気に裂き砕き、 その下の大地ごとベルセルクをクレーターに埋めた。 あらかじめ落ちてくる場所が解っていれば頭を破壊できたものをと舌を打つが、 彼がそうした時には既に、倒れた狂戦士は動いていた。 動かなくなった右肩ではなく左肩を使い、ゼットの足を切断。 バランスを崩したその顔面を蹴り上げ、 大地に串刺しにされるように刺さったままの斧を気にもせず起き上がると、 ブギメギと肩の胸の肉を引き千切りながら攻撃に移る。 その様子を見た連中は心底震えたが、 やはり殺されるならばコロがすのみと断じ、疾駆した。 逃げる者は───居なかった。  ヂャガガギギガガギドガヂガゾバァンッ!!!!  ギシャゴバァォンッ!!ゾガガガガガォオオンッ!!! 歓喜しながら殺そうとする相手に必死に抗う。 だが勇気を以って前に出たものの殆どは、 ストックされていた黄竜剣を前にほぼ大打撃を受けた。 しかし右肩を破壊したことがここに来て吉に転んだ。 左手一本で振るわれた黄竜剣の威力はそう高くなく、 大勢が吹き飛ばされたが塵にはならなかった。 それを見るベルセルクの表情に、僅かだが苛立ちが浮かんだ。 殺しても殺しても蘇る敵を前になにか感じることでもあったのか、それとも─── ベルセルク「グゥォオオオオオゥウウッ!!!」 総員   『へ?───ほ、ほぎゃあああああっ!!!』 もはや飽いたとでも言うかのように巨大化を発動させるベルセルク。 早急に終わらせるつもりなのか、その状態のままで力を溜め始めた。 なにが放たれるのか?───そんなもの、決まっている。 彰利 『ウギャアワールドデストロイヤーだぁあーーーーーっ!!!』 悠介 『止めっ……とめろぉおおおーーーーーーっ!!!!』 総員 『ヒ、ヒィイイイイッ!!!』 構えからして察したのか、全ての者が駆け出した。 ある者は遠距離攻撃を、 ある者は渾身を込めての連撃を幾度も幾度も巨大な足に叩き込んだ。 巨大なレーザーを放ち、全力を叩き込み、だが───それでも怯みもしない。 放つのを許せば、全ての努力が無駄になるのだ……諦めるわけにはいかなかった。 だがその巨大な体躯そのものが越えられない壁だとでもいうかのように、 やがて両腕の火闇さえ取り込んだジークフリードが、 捻れを戻す体と筋肉に引かれるようにゴガァフィィンッ!!! ベルセルク「───……ガ……ア……?」 ……振るわれることなく、地面に落ちた。 表情が謎をたたえたものになり、放たれた剣閃に引かれるようにして地面に倒れ込んだ。 いや、倒れそうになる体を無理矢理立たせ、 腕のない状態のままに視界の先に立つ影を睨みつけた。 その者が今この場で一番の強者であることを示すように、ぎしぃいいと顔を歪ませながら。 彰利 『な、なにがどうなってんのさ……今の何!?剣閃!?     ……あ、いや……あの剣閃、どっかで見たような───』 悠介 『………』 ゼット『……フン』 悠介とゼットには予測がついていた。 恐らく田辺が来なかった理由は、彼を呼ぶためだったのだろうと。 屠竜に優れているが、中井出と違い竜への耐性も尋常ではない存在。 弱点などほぼ存在せず、 己が身一つでどこまでも戦えるであろう、巨人族最強の武王───! ゼプシオン「しばらく見ない内に随分と眼を濁らせたな、少年───」 巨大な体躯、巨大なオリハルコンの剣が視界の先にあった。 ベルセルクと対面するように立つその者の傍らには田辺の姿があり、 暢気におまっとさ〜んなどと叫んでいた。 大地に立つ巨躯は勇敢にして壮観。 敵を前に怯えのひとつも見せず、剣を構えている。 だがベルセルクは腕を無くし、剣も拾えぬ状態の自分に焦りを感じていた。 頭の中は“一度倒した相手だ、どうとでもなる”と思っているのかもしれない。 裡なる宿主は、武具に宿る意志たちは油断はするなと叫んでいる。  しかしそれは己が立ち止まる理由にはならなかった。 武器ならまだ足にあると断じ、血塗れの狂戦士は走る。 真っ直ぐに、一度倒した相手へと。 ゼプシオン「腕を無くしても戦意を無くさぬ意気、戦への執念……見事だ。       が───知れ、学べ」 ゼプシオンがゆるりと剣を構える。 烈風脚で距離を詰める敵を前に、ひどく冷静に、剣に光を灯して。 やがて───  ───一度負けを認めた戦士が、弱いままの己を許すとでも思ったか─── ギシャアゾガァアガガガキュガォゥンッ!!!! 小さな呟きとともに放たれた滅竜剣閃が巨大な光となり、 馬鹿正直に走ってきていたベルセルクを両断する。 一切の抵抗も認めず、叫ぶことも許さず、ゼットを斬り滅ぼした時の数倍の威力を以って。 ベルセルク「───、……!」 総員   『つっ……強ぇえええーーーーーーっ!!!』 剣ではなく剣閃で己を切り捨てる勇敢な姿を見て、自分はなにを思い出したのか。 ベルセルクは、もはや決して手の届かないものへと手を伸ばすかのように手を彷徨わせた。 そして……叫ぶことはできなかったが、搾り出すように呟いた。 すまない、バハムート、と。 やがて両断された体は塵となる。 好敵手の復讐に身を焦がし、 デスゲイズに立ち向かい呪い殺された、堕ちた勇者の魂とともに─── Next Menu back