遠くまで響くのに、透き通るような音が耳に届いた。
何処だろう、と見渡してみてもそこは真っ暗な場所で。
何も見えないその場所で、せめて自分を確認したくて手を持ち上げて視線を落とした。
けれどそこには自分の手はない。
全てが暗闇で、見えないからこそ何も見えないその場所だと認識できたのだ。
不安は否応もなく押し寄せてくる。
自分がすべきことを思考を回転させて考えてみるけれど、
浮かんでくるのは恐怖ばかりだった。

『人よ。汝よ。己よ。光を欲する者よ』

泣きたくなるような不安の中で、すっと耳に届いた声。
耳なんてないのに、それしか喩えることが出来ない自分が酷く嫌だった。

「だ、誰?」

怖かった。
今の自分には不安しかない。
怖くて、逃げ出したくて、だけど逃げ方が解らない。
助けてくれるのなら助けてほしかった。
敵意を見せるように口から放った言葉が、
自分でも助けを求めるような声になったことに泣きたくなるほどに。

『応。我は真龍王バハムート。
 汝によって救われた我が血脈を通し、汝に礼を届けにきた』

バハムート?
なんだそれ、知らない。
頭が働いてくれない。

『無理もない。汝は今、目覚める前の虚無に居る。
 肉体も無ければ魂の復活も成っていない。
 そんな汝が汝、中井出博光であることを覚えているはずもない』

ナカイデ……それがぼくの名前?
どうしてだろう、初めて聞いた名前のはずなのに、とてもしっくりくる。

『大体のことは汝の武具に組み込まれた我が力の元素より受け取っている。
 この世界はゲームであり、我もまた造られしもの。だが意志も記憶もある。
 なるほど、これはよく出来たゲームだ。記憶を操作して偶像の過去を作る。
 偶像だが我らには経験があり、ここまでの歴史がある』

待って……なんのことだか解らない。
少し考えるだけで頭が痛いんだ。

『恐れることはない。我はただ礼を言いに来ただけだ。
 我が血脈の穢れを救ってくれたこと、感謝する。同時に許してやってほしい。
 我がデスゲイズに遅れを取らなければ、アレもむざむざ暴走することもなかった』

……解らないって、言ってるのに……。

『だが、魂は救われた。アレの魂の半分は狂戦士であることから解放され、
 竜の血より生まれし半分の竜の魂だけが指輪に残された。
 我がこうして汝と話せるのも、その魂が竜宝玉に力を与えた故だろう』

ちから……?

『応。元々我が血より発生したアレの魂の半分だ。
 ソレのお蔭でアレも我と渡り合えるだけの力を得た。
 ああ、アレソレで語るのは気にするな、性分だ。
 王であるが故に博識であるなど、人間どもの勝手な妄想だ。
 我は強き者と戦うことを好み、逃げ出すことを嫌った。
 その血の所為で汝には随分と迷惑をかけたな。
 まあ血を受け継いだ者を二人も納めていたのだ、それは仕方なしと諦めろ』

二人……?ぼくの中に誰かが居るの……?

『応。かつての勇者であるアレと、竜に育てられたアレだ。
 後者は意志であるが故に影響が少なかったが、前者が問題だな。
 ああ、こんなことを話に来たのではない。
 汝は随分と面白いことに挑戦しているようだな。
 武具のみを成長させ、己を鍛えないという旅か。攻撃も防御も全てが大雑把。
 だが実に野性的でいい。無駄を考えなかった我らの時代の人間のソレとよく似ている』

…………。

『ふむ。ここで引きとめ続けるのもアレか。いいだろう、汝に助力しよう。
 我は戦いを好む。ならば汝の武具とともに、汝の戦いを見守ろう。
 幸いにしてここには竜宝玉が呆れるほどにある。大陸を浮かせていたものだな?
 力は既に失われつつあるが、数があるのなら話は別だ。ああ、実に楽しい。
 我はこう見えて悪巧みが好きでな。……なに?誇り?そんなもので戦いが楽しくなるか。
 どれだけ無茶をしようが、楽しんだ者の勝利だ。過程などどうでもいい。
 その点で言えばアレとの戦いはとても胸踊るものだったのだがな。
 デスゲイズごときに遅れを取るなど、我も年老いたものだ』

……ごとき、という言葉に疑問を持っているぼくがいる。

『応。呪いなどというものに侵されなければ勝っていたのは我だろうよ。
 大地の割れ目より現れたソレと、同時に噴出した瘴気に包まれたのがそもそもだ。
 ああ、これもまた御託だ、つまらん。……さて、続きといこう。
 汝の武具には我ら竜族の竜宝玉の分の能力をくれてやる。
 どうやら汝は特種な属性の宝玉を持っているようだからな。
 ふむ、災の力は忌まわしい。これを上書きしてやろう。
 災の文字が竜になるのだ、格好いいだろう』

解らない、けど……胸のあたりがわくわくしてるのを感じるよ。

『応。それでこそだ人よ。汝よ。己よ。楽しむなにかに正直なのは汝のいいところだ。
 だが───さて、どうやら汝は奇妙な運命に囚われているらしい。
 そこから解放してやれというのが精霊王であり我らの創造主でもある者の願いのようだ。
 我と汝がここで対面する理由はそこに終着するらしい』

運命……?
なんだか、嫌だ。その言葉はあんまり好きじゃないみたいだ。

『そうだろうよ。我も決まっていることなど楽しみづらいので好きではない。
 ならばこそだ。汝に問いかけるようにと受けている試練がある。
 汝はまっさらなままの汝で、その問いに応えればいい。なに、たった一つの試練だ』

バハムート、と名乗った竜が先を促す。
するとそこには二つの扉があって、一つには運命の扉。
もう一つには偶然の扉という文字が乱雑に刻まれていた。

『ここに二つの扉がある。運命と偶然。それを示す扉だ。
 汝はこれよりこの二つの扉から一つを選び、道を決めることとなる。
 運命の扉には、汝が生きてきた世界が。偶然の扉には、汝がまだまだ知らない世界が。
 加えて言えば運命の扉を開けば汝は運命の示すままに生きることとなり、
 近い将来死ぬこととなるだろう。だが、偶然の扉には汝の知らない世界が待っている。
 楽しいことに溢れ、この歴史のように争うこともないであろう世界がだ』

……それって、そこではぼくは───

『応。いずれは寿命で死ぬだろうが、それまでは楽しく過ごせるだろう』

運命の世界では───?

『汝には既にここまでの道のりがある。それはどうしたところで変えられるものではない。
 そんな道を選ぶのかどうか。それが、汝にとっての選択だ』

…………。

「ぼくは……」

視線を動かした。
その先には偶然の扉。
どうしてかぼくは偶然を好んでいた。
運命なんて、決まりきった世界でなんて生きていたくない。
それよりも偶然に溢れ、
楽しみに溢れているであろう世界に目が移るのは当然のことだった。
足が動き、偶然の扉の前に立つ。
足なんてなかった筈なのに、どんどんと自分が形作られていっていた。
それはなにかの予兆なんだろうか。
ぼくが僕であるために必要ななにかが生まれるための。
───もしくは、抗うための。

「あれ───?」

偶然の扉を開けようとした手が止まる。
そう、手があった。
だけどその手が僕の意志とは関係なく止まって、
現れたばかりの足は偶然から離れようとする。

『なにを迷う。その扉を開ければ、汝は運命から解放され、
 新しい世界で新しい自分として生きられる。
 死の恐怖と向かいあうこともない。ずっと楽しんで生きられるのだぞ』

……。
その言葉を聞いて、“ぼく”は足を止めた。
なのに“僕”は歩いてゆく。
迷わずに、運命の扉へと。
気づけば“ぼく”は偶然の扉の前に立っていて、“僕”は運命の扉の前に。
そう、“僕”が見える“ぼく”は、なんの姿も持たない虚像だった。
見下ろしてみても、やっぱり自分の手も足も見えない。

「ね、ねぇ!待ってよ!ぼくを置いていかないでよ!そこを開けちゃだめだ!
 そこだとぼくは死んじゃうんだよ!?ねぇ!こっちでずっと楽しいことしようよ!」

だからぼくは叫んだ。
僕に届くように、こっちを選んでもらうように。
だけどぼくのそんな声を聞いた瞬間、“僕”は“俺”になってぼくを睨んだ。

「過去まで偶然にしちまうような弱虫に用はねぇよ、ばーか。
 俺は今までっていう過去があったから俺でいられる。
 俺がここに居る時点で、悔しいけど過去は起こるべくして起こったこと。つまり運命だ。
 そんなものにまで目ェ瞑って偶然なんて選べるかよ。
 俺は運命が嫌いだ。決まってる道を選んで進むなんて冗談じゃない」

だったら!と叫んだ。
けど“俺”はそれこそ楽しげに、子供のような笑顔を見せると、

「悪いな、“偶然”。この先に、同じ世界で笑い合える“仲間”が待ってるんだ。
 それとな、偶然だの運命だの、そんなもんは誰かに決めてもらうもんじゃない。
 バハムルやノートン先生がそんな問題を出した時点で気づけってのもう。
 過去はもう起こって、確定している決まったことだ。
 どれだけ過去をやり直そうとしても、歴史にはある程度の“軸”が存在する。
 俺はそれを運命ってものだと思ってる。俺が男に生まれることとかがそうだな。
 原中に進学するのも、高校で空回りするのも、まあそうだろう。
 歩いてきた道だ、それが偶然であろうがなかろうが、もうどうでもいいんだ」

解らない。
どうしてそんなことを言うんだ。
歩いてきた道だろう?キミを形成してきた道じゃないか。
だったら───

「過去のことは運命に任せる。過去のことは運命って言おうが言うまいがどうでもいい。
 大事なのは、先の見えない未来のために自分がどう動けるかだ。
 この扉の先が運命って道に縛られてるなら、そんなもん破壊してでも生きてやる。
 ……偶然は逃げ道なんかじゃない。だから俺はこっちの扉を選ぶんだ。
 俺はずっと昔にその覚悟を決めていて、
 だからこそ死ぬかもしれない未来を思いながらも笑ってられる。
 覚えとけ脳味噌スポンジ野郎。世界が怖いなら胸の中で大声で唱えてみせろ。
 過去を運命、未来を偶然、そんで現在ってのを夢っていうんだ。
 夢を叶えるってのは夢っていう現在を、
 未来っていう偶然の中に突っ込ませて辿り着くことを言う」

じゃあ偶然を選べば未来に行けるんじゃないか!
それなのにどうして───!

「そっちには“俺”が居ないから。俺は、今までの俺を後悔してない。
 ここに至れてよかったって心から思ってる。
 偶然って言葉に溺れて、過去である運命を手放すほど自分を軽んじてないぞ俺は。
 偶然だの運命だの、そんなのは自分が決めることだ。
 俺は偶然を未来、過去を運命だって言った。だから選ぶのは運命だ。
 過去が無けりゃ俺は俺じゃない。じゃあこの扉には過去しかないのかっていったら、
 生きてりゃまあ時間なんて過ぎていく。そこには未来がちゃんとあるだろうが。
 責任も使命も夢も、正直どうでもいい。
 風任せに生きるよりは自分の意思で無茶したいが、それはさておき。
 新しい世界で新しい自分として生きる?その時点で俺じゃないのは明白!
 俺は俺のままに楽しむのが好きなのだ!そんな世界になんの興味があろう!」

で、でも、だけど!

「お黙りなさい!!俺は起きた過去を否定せぬ!エロマニアである自分はかなりイタイが、
 それでも男の子はエロなのですと今の僕なら言えるもん!いいんだもん!!
 思い出すんだあの頃の情熱を!コウノトリさんの疑問に首を傾げる桐生先生に、
 俺はエロビデオを見せてあげてたじゃないか」

思い出したくもないよそんなこと!!

「男の子がエロいのはDNAからして当然なのだとエライ学者さんが言ってたらしい。
 己の遺伝子を残すために、どうあっても女子を求めてしまうのだと俺は聞いた。
 だからってわけでもないが胸を張れ。男に生まれてバンザイと。
 エロの世界は広大だぞ。外宇宙なみの広大さだ。かつてマニアと呼ばれたこの博光、
 一夜を明かしても語りつくせぬコスモと書いて小宇宙を今も確かに抱いている」
『いや、あのな。この状況でよくもまあそんなアレソレを語れるものだな』
「おや真龍王。お目にかかるのは初めてであるな。よろしく、僕博光」
『……龍王を見てこうも動じないのも珍しいな。噂はかねがねだ。それでだ───』
「イエーーーッ!!《ドバーーン!》」
『なっ───!?こ、こら!まだ我が話して───!!』

“俺”が迷わないで運命の扉を開いた!
そこから溢れる光の中に埋もれるように走り、
慌てて追いかけようとしたけれど、身体のないぼくは追いかけることすら出来なかった。
なんだか“ここで誓う約束は未来の道しるべェーーーッ!”とか叫んでる。
そんな声が遠ざかると、この場にはぼくだけが残された。

『……ふむ。噂通りの自由奔放な者だ。あれだけ賑やかだというのに嫌悪感が沸かない。
 どうやら沸点を弁えているようだ。
 必要になれば“余計”を口にするが、それ以外は酷く好き勝手だ』

……ぼくはどうすればいいのかな。

『応。選ぶがいい。汝が汝であることには変わりはない。
 そもそも意識だけが先行して進んだところで、
 魂である汝が追いつかねばヤツも復活できん』

もしぼくが偶然の扉を開いたら?

『ふむ、ヤツは意識だけの存在となるわけだが。なに、ヤツのことだ。
 意志のみの存在になったところで、
 しぶとくジークフリードに憑依して生き延びるだろう』

も……物凄い生命力だね……。

『それだけ意志が強いということだ。
 魂はなくとも武具に意志を繋ぎ、生きているものとの接点が多いということもあるが。
 ああ、また話が逸れたな。では選べ。新しい自分を選ぶか、今までの自分を選ぶか』

……あの。
ぼくの今まではエロマニアとか呼ばれてた、って彼が……

『応。だからこそ考えてみるといい。ヤツは嫌そうな顔をしていたか?』

………………。
考えてみると、それはひどくあっさりと、すとんと見えない胸に落ちた。
覚悟なんて立派なものじゃないけど、それはきっと、“俺”がずっと持っていたものだ。

「……うん。じゃあ、行くよ」
『決まったか。もう、地に足はついてるな?』
「うん。迷う必要なんてなかった。
 仲間が居てくれるなら、そこが楽しくないわけがないんだから───」

爪先から出現してゆく自分の体。
もどかしくて、全てが現れる前に駆け出した。
偶然の扉、ではなく───既に開かれている運命の扉の先へと───











───冒険の書246/二人の足跡───
【ケース596:中井出博光/脇役と英雄の境、守る者と守らぬ者の末】 中井出「……うおっ!まぶしっ!───あ、あれ?」 ───……ステンドグラスから漏れる光が眩しかった。 時刻が時刻ということもあって、斜めに差し込んだりはしてくれないけれど、 教会自体が薄暗い作りのために昼の日差しでも教会の中は明るかった。 中井出「……はぁ」 なんか妙な夢みたいなのを見てた気がして自分の指を見下ろして、小さく息を吐いた。 思い出せないから、とりあえずは別のことを考えることにする。 ……そうしてから、満足したか、と疑問をぶつけてみる。 もちろん返事はない。 けど、ゼプシオンに斬られたことで───じゃないな。 ゼプシオンの姿を何かに照らし合わせることで過去を思い出した狂いし者…… その思念を体の中で受け取った俺は、やりきれない溜め息を吐くしかなかった。 満足もなにもない。 バハムートの仇を打つことこそが狂いし者の願いだった。 それを果たせずに殺され、それどころか呪いを受けて力を求める亡者と化した。 ───全てがほんの少しのタイミングの所為で崩れてしまった過去があった。 デスゲイズに好敵手を殺され、その仇をと走ったが───己の力量不足の前に散った勇者。 死に際に思ったことはもっと力があればという悔やみばかりで、 己を呪いながら死んでいった彼は…… デスゲイズの呪いで完全に死ぬことを許されず、力を求める狂戦士に堕ちた。 ただ力があれば。 自分に力があれば、仇を打てたはずなのにと。 故により力を持つ者を襲い、力をつけるための戦いを邪魔する者を嫌った。 惨たらしい殺し方をすれば近寄りもしないだろうという思いがあったこと自体、 勇者が気づいていられたかも解らない。 黒赤の炎は世界広しといえどもバハムートにしか出せない色の炎で、 その血を命として生かされた勇者にはそれを扱うことが出来たそうだ。 剣閃としてしか放つことが出来なかったそうだが、 それと霊章とが合わさって腕から火闇が出る、なんて現象が起きたらしい。 ……消えゆく自分を前に、命を惜しむのではなくバハムートへの謝罪を遺した勇者。 斬竜剣閃によって真っ二つにされた魂は、他の意志とは違い消えてゆくしかなかった。 武具に篭る意志は、たとえ武具が破壊されようが残っていられるだろう。 本来なら勇者の魂も例に漏れない筈だった。 けど……相手が悪かった。 勇者の魂の半分には血脈から染み渡った竜の魂が混ざっていた。 それを竜を斬ることのみに特化した斬撃で両断されてしまったのだ…… 指輪が無事でも魂が生きていられるわけがない。 全て塵となった魂に触れた途端に俺の中に流れてきた記憶だ……間違いはないだろう。 せめて魂だけでも遺してやりたいと思った行動だったが─── 勇者はただ悲しみだけを残し、俺の手を振り払った。 今さら自分だけ生きることは出来ない、と。 そうやって……魂の半分、竜の魂だけが残った。 今でも意志を通せば霊章からは黒赤の炎が出るが、 そこにはもう力を求めたあの強い意志は存在していなかった。 けど───その魂は半分とはいえ確かに存在し、 剣に合成させた枯れていた真龍王の竜宝玉に力を補給した。 元が真龍王の血によって染まった魂ならば、そうなってもおかしくない。 好敵手として認め合っていた二つの存在……せめてその魂と宝玉とが、 どうかこの剣の中でずっと一緒であるようにと願おう。 神父 「おお旅人よ!死んでしまうとは情けない!!」 そして俺の中に展開されていたシリアス空間は、 目の前のクサレ神父によって灰燼と化した。 中井出「情けないのは俺じゃねー!ベルセルクの方だ!!     あれだけ用心しろコノヤローって言ったのに、     よりにもよって真正面から突っ込むとは!」 神父 「そんなものは関係ない。目の前に貴様が降りたのなら情けないのは貴様だ」 中井出「違うよ!なにその理屈!いったいどうやったらそんな答えに結びつくわけ!?」 神父 「目の前に飛んで来た魂にそう言ってやるのが私の仕事だ。     そして貴様は情けない。過程なんてどうでもいい、言わせてくれ。情けない」 中井出「違ェエって言ってんだろォオ!!?お前なにダンディな顔して!     頭ン中は人のこと罵倒することばっかかァア!!」 神父 「それが私の唯一の楽しみだ」 中井出「ハッキリ言っちゃったよこの人!どれだけ自分の生き方にまっすぐなの!?     おたくなに!?趣味が旅人に情けないって言うこと!?     そしてそれに喜びを感じること!?SHINPのSはサドのSかコノヤロー!」 神父 「神父は英文字で綴ったりなどしないだろう。頭が悪いのか貴様」 中井出「じゃあいいよもうファザーでもファーザーでも!     つーかなんなの考え事終わるまでなんにも反応見せないで、     終わった途端に情けないとかって!!」 神父 「失せろ」 中井出「ゴハァ!目も合わせずに失せろ宣言だよ!神父の風上にも置けないよこの人!     あ、精霊だからいいのか。じゃあ精霊の風上にも置けないよこの精霊!     でもその基準を決めるのは精霊だから俺の一存なんてどーでもいいのか!?」 神父 「物分りが早くて助かる」 中井出「謝謝」 解決した。 中井出「じゃ、僕の帰りをみんなが待ってるんで僕は逃げます」 スチャッと手を挙げ踵を返す。 そんな僕を神父様が呼び止め、疑問を投げかけた。 神父 「待て。逃げるのか」 中井出「だって竜怖いんだもん」 振り向いた僕はとても正直でした。 神父 「何処まで正直者なんだ貴様は……」 中井出「神父のくせに人のこと貴様貴様言うヤツに言われたくないよ!     神父にだって人の呼び方を選ぶ権利はそりゃあるだろうけど、     よりにもよって“貴様”で、なんだかもうそれって俺だけにしか使ってなさそうな     くらい限定商品っぽいじゃないか!」 神父 「そうだ」 中井出「うぁあ……認めちゃったよこの精霊……。     うん、よし、じゃあ僕もう行くね?さっきから麻衣香からのメールが多くてさ」 神父 「女房か?大事にしてやれ、妻を泣かせる夫などクズだぞ」 中井出「そうだね。……そして俺はクズでいい」 神父 「……クズだな」 中井出「クズですとも」 人間、何処で誰を泣かしてしまうかなど解らんのだ。 それなのに泣かしませーんなどと宣言するのも無責任でステキだが、 だからって開き直って泣かしまくる真性のクズにはなりたくはない。 故に余計な見栄など張りません。普通より悪なのがステキなのだ。 中井出「へばのー、神父ー。名前知らないから神父って呼ぶけど」 神父 「ああ、またいつでも来い。いつだって貴様を情けない者として迎えてやろう」 中井出「やめてよ!なにその嬉しくない歓迎の仕方!     そりゃ確かにどっちかっていうと情けない人物の部類に入るんだろうけど、     そんなことで延々と迎えられるのなんて嫌だよ!」 神父 「いいから行け、行ってこい。     そして死ぬがいい。死ねば迎えてやる。最高の言葉で」 最悪の間違いじゃないですか? あ、いや……別に言葉自体は最たる悪ではないから……悪? ───なら良し!って良くないよ! いやでもいいってことにしないと進めないから悲しいけど良し!了と書いてよしと読む! そんなふうにして教会の扉を開けた時、ふと気になってステンドグラスへと振り返った。 中井出「……なぁ神父。あのステンドグラスって……」 神父 「古の大樹、ガイアフォレスティアを描いたものだ。     朽ちる前の、緑溢れるガイアフォレスティアのな」 中井出「………」 特に感想も述べず、歩き出す。 思うことは一つだった。 ガイアフォレスティアも、デスゲイズの呪いで朽ちたんだろうか、と。 狂戦士に堕ちた勇者が指輪に封印され、 フォレスティアの核が所持するに至ったのもそういう理由があったからなのかな、と。 ……どの道もう、全てを理解することなんて出来ないんだろう。 だから俺は息を吐いて、ジークフリードを取り出した。 中井出「各馬一斉にスタートォッ!!」 浮かせたソレに乗って飛翔する。 乗るのがクサナギじゃないってのが案外新鮮だ……。 クサナギに慣れたばっかりだったから、ちょっと安定の調子が悪いが─── でも合成してあるから別にエジェクトしなくても乗れるし、それでOK。 むしろボマー効果で爆発的速度を叩き出せる分、こっちの方がかなり速い。 中井出「ごわぁ〜、速ゥィ速ゥィ〜〜〜ッ!!いけ〜、マッスルドラゴ〜〜〜ン!!」 ───……。 中井出「……ごめんなさい」 こころなし、ジークフリードから怒りのようなものを感じた気がした、 夏の日の昼下がりだった。 ───……。 ……。 シュゴォオオオオオオッ!! ───ズザッ!ザッ!ざざずるどしゃごしゃずしゃしゃしゃしゃーーーっ!! 中井出「ちぇるしぃいいーーーーーーーっ!!!」 悠介 「うおわぁっ!?な、なんだぁっ!?」 彰利 「ヌ───おお中井出だ!中井出が飛んできようたぜ!」 藍田 「が、顔面から物凄い勢いで地面を滑っていったぞーーーっ!!」 岡田 「ど、どうやら飛んできてそのまま着地しようとしたらしいが、     着地しきれずに倒れた挙句らしいぞーーーーっ!!!」 藤堂 「が、顔面が地面に埋もれて体が痙攣してるぞーーーーっ!!」 丘野 「首が変な方向に曲っているぞーーーっ!!」 田辺 「あ───だ、大丈夫!生きてる!生きてるぞーーーっ!!」 中井出「人を武流豚くんみたいに言うのはやめなさい!!!     つーか誰一人として普通に心配してくれるヤツが居ねぇ!     な、なんだよー!せっかく遠くから駆けつけたんだから、     その苦労と速度をねぎらってくれてもいいじゃないかー!     てっ……提督だぞー!?ばかにすんなー!!」 彰利 「提督だから馬鹿なんだろ?胸張れよ」 中井出「張れないよなにその立てた親指どんな嫌がらせに精通してるの!?     ち、違うよ!?提督は馬鹿の称号じゃないんだよ!?ほんとだよ!?」 悠介 「誰に言い訳してるんだよお前は」 中井出「ナギー!シィイイーーードォーーーーッ!!」 ナギー『ヒロミツー!!』 シード『父上ぇえーーーーっ!!』 がばしーーーーっ!!───誰に?もちろんナギーとシードにさ! ……もちろん無駄骨って解った上でだけどね。 見栄を張るほど尊厳が残ってるかも怪しいし。 中井出「ところでこんなところでのんびりなにやってんの?     僕てっきりもうサウンザンドドラゴンのところに向かったもんかと思ってた」 彰利 「貴様を殺したことで得た経験値でのレベルアップを噛み締めてた」 中井出「黒いよ!」 ナギー『うむ、黒いの。安心するのじゃヒロミツ。     それも本当じゃが、基本的には飛竜の混乱状態を治癒しておったのじゃ』 中井出「治癒って……あのカラで?」 ナギー『うむなのじゃ。効果は覿面じゃったぞよ、     そこのモミアゲーションが使役する飛竜が簡単に治ったのじゃからな』 悠介 「ゲーション言うな!」 彰利 「モミアゲ」 悠介 「モミアゲ言うのもやめろ!」 ふむ……じゃあアレか。 やっぱり月光竜の鱗……この際どこでもいいから、 体の一部には万能薬の効果があるっていうのは本当だったのか。 俺の場合は解呪だったらから成功しただけかと思ってたけど。 中井出「ファイクミー!」 総員 『イェッサァッ!!!!《ザザァッ!!》』 ワラワラと散らばり、思い思いの行動を取っていた皆様がビッシィ!と気を付けをする。 物凄い反応速度に博光びっくり。なんて言ってる場合じゃなくて。 中井出「総員これよりサウンザンドドラゴン討伐へと向かうが、恐れる者はいるか!」 総員 『ノォサー!』 中井出「うむそうか!では貴様らはこのままサウンザンドドラゴン討伐へと向かえぃ!!     ……ところであのー、サウンザンドドラゴンって今何処に居るの?」 藍田 「そんなことも知らねぇのかてめぇ!」 総員 『クズが!!』 中井出「仕方ないでしょバトってたんだから!     ってそうだよ、麻衣香からのメールに書いてあるかもしれない」 藍田 「ちゃんと読んでなかったのてめぇ!!」 総員 『クズが!!』 中井出「なんで原中でもないみんなまで息ぴったりなの!?     ええいともかく特に用事も無い者から全速前進!!」 藍田 「サー!発言許可を願います!」 中井出「今存分に発言して人のこと罵倒してたとね!?ねぇ!?だが許可する!」 藍田 「サンキューサー!提督殿も戦いに参加するのでありますよね!?」 中井出「その前に行くところがあるので遅れる!」 藍田 「なんだとてめぇ!」 総員 『このクズが!!』 中井出「ええい落ち着けバッカモォオーーーーン!!     これは大事なことなのだ!故に───晦一等兵!!」 悠介 「イェッサァッ!!」 中井出「貴様には同行を懇願する!」 悠介 「懇願なのか!?命令じゃなくて!?」 中井出「うるせーーーっ!!いいから来るんだコノヤロー!     貴様にはそれをやらねばならん理由がある!」 首を傾げる晦を引っ張って隣に立たせる。 それから再び皆々様方に向けて号令を! 中井出「では総員!健闘を祈る!この博光と晦一等兵はこれより、     この晦一等兵が原因となった竜族の暴走を治めるべく竜の泉へ向かう!」 殊戸瀬「……出来るの?そんなことが」 悠介 「───……ってそうか!この鱗やカラが万能薬の役目を果たすなら、     ポーションごときで変化した竜の泉も───!」 中井出「うむ!察しが早くて助かるぞ晦一等兵!     生憎と殻がもう手元にないので月光竜を迎えに行くことになるが、     貴様らには我らが戻るまでサウンザンドドラゴンを押さえていてほしい!     ……ていうかあのー、出来れば俺達が戻るまでに仕留めちゃっててください。     倒したところに戻ってきて、素材も経験値も貰うから」 藍田 「どこまで生き方に正直なんだ提督てめぇ!!」 丘野 「提督てめぇ!このクズが!!」 ゼノ 「見下げたヤツだなこのクズめ!!」 ライン「クズが!!」 凍弥 「戦ってた時の勇ましさはどうしたんだこのクズ!!」 中井出「なっ……なんて罵倒の集中豪雨!い、いいじゃないかよー!     たまには楽したいって思ってもいいじゃんかよー!」 彰利 「黙れクズが!!」 総員 『死ね!!』 中井出「さっき死んだばっかなのにまた死ねと!?」 ちらりと僕を斬滅した巨人の英雄を見てみる。 ……僕らの遣り取りを可笑しそうに見てますよ。 中井出  「いや……英雄王、今回はまた面倒をおかけして申し訳ない」 ゼプシオン『構わん、理由は聞いている。瞳の濁りを見た時は落胆したものだがな、       変わらず奔放にやっているようで安心したぞ、少年』 中井出  「少年って……」 実年齢を考えると複雑だけど、 ゼプシオンからしてみれば確かに少年か?俺。まあいいけど。 ゼプシオン「しかしお前達、サウンザンドドラゴンを相手にしようとしていたのか。       私も噂には聞いていたが、まさか本当に復活するとは……」 中井出  「いやいや、こうしている間にも僕らの仲間が戦っているのです。       早急に助太刀に行かねばヤバイかと」 ゼプシオン「……それを先に言え。何処だ、私も助力しよう」 彰利   「オッ……おおお!そりゃすげぇや百人力だ!       さっきの剣閃であっという間に───」 ゼプシオン「それを期待しているのなら無駄だ、撃てても日に二度が限度だ」 彰利   「アレェーーーッ!!?」 藍田   「あきとし は せいしんてきショックをうけた!       それはアニメ・レンタルマギカのクリスマスの回で、       龍虎をバックに対面する穂波さんとアディリシアさんの構えが       龍虎にちなんでKOFのリョウ・サカザキと       ロバート・ガルシアの構えと同じだったことへのショックと同じくらい、       ささやかなる精神的ショックだった!」 彰利   「喩えが長ェよ!でもそれほんと?」 藍田   「ほんとほんと。現実に戻ったら見せてやるよ。俺DVD持ってるから」 中井出  「ではGO!」 悠介   「って準備くらいさせオアーーーーッ!!!」 問答無用で連れ去り、星となった。 ───……。 ……。 そして訪れたのは浮遊大陸。 迫り来る竜族をガン・ザックでブッ飛ばし、強引に突っ込んできて今に至る。 あらゆる数値を53万にしてみんなを恐怖で震え上がらせたいお歳頃……博光です。 中井出「あなたのモミアゲセクシー度は53万です。     次のレベルに達するには53万の経験値が必要です。     ───上がっても53万だけどな!《ボゴォ!》ニーチェ!」 悠介 「そういう御託は彰利で間に合ってるからさっさとやることやろうぜ提督」 中井出「問答無用で殴るのは彰利だけにしたまえよ一等兵!」 見事な右拳に我が左頬がへこんでしまった。 だが落ち込まない。何故なら僕はへこまない、前向きな男だからさ!多分。 中井出    「と、そんなわけで世界の危機です。         説明すんのめんどくせーから月光竜よこせハゲ」 グレイドラゴン『全力で喧嘩を売りにきたのか貴様!!』 中井出    「うるせーなァアア!!説明が面倒だって言ってんだろうがァア!!         用件は月光竜をよこせってだけなの!いいからよこす!」 グレイドラゴン『断る!我が手にイルムナルラが訪れた時点で、         貴様の言うことを聞く理由など既にないことを忘れるな!』 中井出    「タイムスリップ《ボムンッ》ほぅれイルムナルラ〜、パパだよ」 イルムナルラ 『クキュ〜〜ッ♪』 グレイドラゴン『イルムナルラァアアーーーーッ!!!』 過去でも現在でも報われない恋がそこにあった。 つーかもうここまでくるとロリコンだ。ロリコンジャーゴンだ。 あ、ちなみにジャーゴンってのはドラゴンのことだ。 ドラゴンボールZスパーキングメテオあたりだったか?のCMの声が、 ジャーゴンボールと聞こえることから生まれた言葉だ。 ともあれ我が肩にポスムと舞い降りるイルムナルラの頭を撫でたのち、 中井出    「今後ともよろしく……グオッフォッフォッフォ……!!」 グレイドラゴン『ギィイイイイイイイッ!!!!』 僕はとても頼もしい仲間が歯を食い縛って怒る姿を見上げていた。 中井出    「というわけで名前を決めようと思う」 悠介     「名前?……イルムナルラじゃないのか?」 中井出    「はいよく聞いてました。         でもそれは先代の月光竜であってこいつじゃない。         考えてもみたまえよ、         この子は転生したのではなく産まれてきたのだよチミィ。         ならば名前が同じでは面白───あ、いや、かわいそうだろ?」 悠介     「マテ。今、面白いって───」 中井出    「よっしゃ決めた!シャモンに決定!         わあ、背後に回って“でも死ね”とか言いそう!」 悠介     「いかにも、私がシャモンでございますよ」 中井出    「でも死ね」 グレイドラゴン『何故我を見て言う!』 中井出    「こんな小さい子に死ねと言えと!?このド外道が!!」 悠介     「外道なのはお前だろ、提督」 中井出    「うん僕外道」 解決した。 中井出 「っと、時間も無いことだし行こう。あ、シャモン、竜玉出せるか?      飛竜が出すみたいな───こう、なあ?下界は瘴気だらけだから」 シャモン『キュウ!』 俺の言葉に、シャモンが翼を広げて輝きを放つ。 するとどうだろう。 その輝きがシャモンの身体から俺の手に集い、ポンッ、と小さな玉になるではないか。 その玉はまるで満月のよう……!鈍く輝き、だがとても安らぐなにかを感じさせてくれた。 中井出 「……こんな簡単に出来るんだね」 シャモン『キュ〜〜ッ♪』 シュゴオオン! 中井出「オアーーーッ!!?ま、魔封波じゃあーーーっ!!」 シャモンが我が手にある竜玉に吸い込まれていった! じゃなくて自ら飛び込んだ! 中井出「……き、貴様ら飛竜使いはいつもこんな心臓に悪いけど楽しいことを……」 悠介 「いや、そこまで豪快じゃないぞ?ていうかな、提督。     爺さん姿で居るのはやめてくれないか」 中井出「おおそうだった。このままでは俺はハッスルジジイじゃないか。     若さを失おうとも童心だけは捨てないステキジジイ、俺参上」 悠介 「いーから、行こう」 中井出「よっしゃ」 ジジイ状態を解除すると、変形させたランドグリーズを鎧化で身に纏うと、 背中から突き出させたガン・ザックで空を飛ぶ。俺が飛ぶ。雲を突きぬけ星になる。 甲冑男爵「空を飛び!火を吹いて!俺という名のスーパーシティーが舞い踊る!      O!E!DO!!オゥ江戸が晦抱いたままァ!!      O!E!DO!!オゥ江戸が───メテオと化します」 悠介  「うぎゃああああちちちちちぃいいいいいいっ!!      提督!提督熱ぃっ!!熱ぃって言ってるだろこらっ!!」 晦をザーボンドライバーで捕まえたまま、ガンザックで空を飛ぶ。 向かう先は───何処だっけ? ああそうそう、竜の泉とやらだ。 ……で、それって何処にあるんだっけ? 解らなかったので、ジークフリートから発せられる炎でメラメラ燃えてる晦に話し掛ける。 べつに敵意を持ってるわけじゃないから、燃えても回復するので素晴らしい。 ある意味生き地獄だ。 甲冑男爵「それで、竜の泉ってのは何処?」 悠介  「その前にこの炎止めろぉおーーーーーっ!!!」 甲冑男爵「なにを言う!これのお蔭で迫り来る竜族どもを弾けてるんだぞ!      おまっ……最初は貴様を盾にして突っ込む気だった俺の心意気を無にするとは!      もう許せん!今すぐ貴様を盾にして突っ込んでやる!」 悠介  「うわぁやめろぉおっ!!うわっ───うおわぁあああーーーーーっ!!!」 ……その日、皆様が懸命に戦う中で、遠くの空にひとつの流星を見たとかなんとか。 ───……。 ……。 シュウウウウウ……!! 悠介 「グビグビ……」 やがて竜の泉に着いた頃。 晦は身体から煙を放ちながら、ロビンよろしくのぐったりヴォイスを出していた。 煙と一緒に。 中井出「アンタァアア!!いつまで寝てんのホントもォオオ!!     ほら起きる!目的地ついたよ!」 悠介 「ぐああ……い、いいって……俺のことはほっといて……」 中井出「なに馬鹿なこと言ってんだい!     この原因修正にはアンタが同行することに意味があるんだよ!     竜族はアンタの所為でおかしくなっちゃったんだからァア!!     いい歳して敵対心もないのに倒れたままになってんじゃないの!     シャキっとしないさい!もう!!」 悠介 「い、いや……お前にボコボコにされたようなもんなんだが……」 中井出「口答えするんじゃないのォオ!!     アンタはもうホント人の揚げ足ばっかり取ってェエ!!」 悠介 「く……は……はぁ……。よし、持ち直した。     そして今のは口答えでも揚げ足とりでもないだろーが」 中井出「うるせーなァア!!     ぶっちゃけ今ベルセルクとのことで頭がいっぱいなんだよォオ!!     もう急いでなにかを為して気を紛らわせるしか俺にはねーんだよォオ!!」 悠介 「それはなんとかなる問題なのか?」 中井出「おおうむ。つーかもう気にしないことにした。     いろいろあったけど、別に俺があいつの敵討ちする義理はねーし。     あ、ベルセルクの正体が、     かつての勇者がデスゲイズの呪いの所為で暴走した姿だったんだけどな?     そいつのことでいろいろ考えてたわけだ」 悠介 「……やっぱいろいろイベントに巻き込まれてるんだな、提督」 中井出「その中でも貴様の所為で巻き込まれた守護竜バトルは地獄中の地獄だが」 悠介 「わ、悪かったって……」 中井出「ふはは、まあ気にしない気にしない。なんだかんだで楽しんでるよ」 気にかかることはいろいろあった。 だけどそれに首を突っ込むかはその状況になってみなきゃ下せない。 面白そうなら首を突っ込むのもいいだろう。 色恋沙汰に深く首突っ込むのだけはゴメンだが。 あれは軽く冷やかすくらいが丁度いい。 ヘタに応援なんぞしたらろくでもない結果になる。 と、今考えても仕方ないことはこの際素っ飛ばして、俺と晦は目の前の泉を見た。 なんでも晦がポーションを流し込んだらしく、奇妙な色の輝きを放っている。 悠介 「それで、どうするんだ?提督」 中井出「おお。まずこの竜玉を───」 悠介 「竜玉を?」 中井出「捨てます」 悠介 「待てぇえーーーーっ!!」 ボッチャームと綺麗な音が鳴った。 次の瞬間にはファアアゴオオオオオオ!!と強烈な光が泉から溢れ、 なんというかそのー、多分浄化されていってるに違いねーことがなんとなく感じられた。 やがて奇妙な色の泉が無色透明になる頃、泉から出てくる謎のウーメンの姿を見た。 泉の精霊『あなたが落としたのはこの金色の玉ですか?      それともこの銀色の玉ですか?』 お決まりのセリフをぬかす泉の精霊とやらだった。 だから答えた。 中井出 「俺が落としたのは人としての尊厳と誇りです」 悠介  「違う意味で正直だなおい!!」 中井出 「いや……なんかもういろいろ落としてきちゃったのよ俺。      それにほら、このねーちゃん泉に落としたのは、とか訊いてなかったじゃん?      だからいいんだよこれくらい正直な方が。      今時人生の中で過去に落し物したことの無いヤツのほうがアレだよ?レアだよ?      俺なんかもう焼き具合で喩えるとウェルダンくらい落としまくってるから。      もう落下と人生をかけて、      落下生とかくだんないダジャレ言いたいくらいアレだから。落としてるから」 悠介  「得意そうに言うことじゃないだろそれ!      お前なにィイイ!?なんでどこか誇らしげなのォオ!!?」 泉の精霊『あなたはとてもとても信じられないくらい、いっそ憐れなほど正直者ですね』 なんか凄い言われようだった。 あの……なんかそんな簡単に納得されるのもアレなんだけど……。 泉の精霊『長い人生、こんなにも正直な人間に会ったことなんて初めてでした……。      不覚にもこの泉の精霊、あまりの哀れっぷりに泣きが入ったほどです』 中井出 「あの……しみじみ言われると物凄く虚しくなってくるんですけど……。      お前なに?ここで落し物を拾うとみせかけて欲望を戒めるだけじゃなくて、      人の心を戒めた上にボロクソに言う仕事とかしてんの?オイ。      つーかなにその服。水に塗れてボディにピッタリフィットとかやって、      欲望を動かされた男を落し物にするとかもやってるのか?オイ」 泉の精霊『人生の負け犬の遠吠えにしか聞こえませんね』 中井出 「い、いいんだよ!?だって僕負け犬でも楽しんでるもん!!      いろんな面倒ごとに巻き込まれてボロボロに生きてるけど楽しんでるもん!      もう生きてるっていうよりは殆ど死んでるけど楽しんでるんだよ!      血だらけなんだよこっちはもう!!」 悠介  「提督、途中からヘンになってるぞ」 中井出 「真面目よりヘンなほうが面白いからそれでいい」 悠介  「無駄に逞しいなぁ……」 何故ってそれが原ソウル。常識だけでは語れない。 ……いや、なんだか最近原ソウルとは関係なしに俺という存在が染まりつつあるというか、 それ言ったらとっくの昔に染まっていたと唱えるべきなのか? 解らないからまあいいけど。 泉の精霊『絶望的に正直者なあなたには、      この泉にある落し物のままの不要物───もとい、宝を差し上げましょう』 中井出 「ねぇ、こいつ殴っていい?」 悠介  「さすがだな提督。女で泉の精霊でも殴る気満々か」 中井出 「オ?精霊?ボッコボコにしてやんよ」 泉の精霊『あからさまな態度がさらに同情を引きますね』 中井出 「俺、泉の精霊にここまで言わせた人類初だよね、絶対」 悠介  「童話を軽く超越してるな。さすが常識デストロイヤーだ」 泉の精霊『ええ、こんなにも平凡で、      いかにもそこらへんを歩いてる通行人Tっぽい人が泉を清めるだなんて』 中井出 「なんなのそのピンポイントっつーかわざわざ選んだ感のあるTって!      なんでTなの!?ねぇ!ちょっ───無視しないでよちょっと!」 泉の精霊『ではこれがガラク───宝です』 中井出 「オイィイイイイイ!!今ガラクタって言いそうになったろォオ!!      ガラクタって言いかけたよねェエ!!?      あ!コラてめぇ!!さっさと置いて逃げん───ヒィ!      なにコレほんとガラクタばっかじゃあねぇかァアア!      しかも投げたら痛そうなものばっかだよ!      もう投擲アイテムだよ!風魔手裏剣だよコレェエ!      お前もしかして来る人来る人に喧嘩売りまくってたんじゃあねぇのォオオ!?      つーか今まさに俺がお前の頭目掛けて投げたいよ!投げまくりたいよ!      ってオイコラァア!そんなものの中に竜玉混ぜていくなテメェエエエッ!!      いやそりゃ投げたの俺だけどさァア!!シャモン!?シャモーーーン!!      だいじょヒィ!なんか焼けすぎたモチみたいになってる!      膨らみすぎて真ん中から盛り上がってたのに横にぐたりとなったモチみたいに!      シャモン!シャモン!起きるのですシャモン!      今日は王様に会いに行く日でしょう!      棍棒と僅かの金で少年に死出の旅に出ろと言う王様に会いに行く日でしょう!?      思うんだけど俺、ドラクエの王様こそが最大の魔王だと思うんだ!      しまった!思うだけどで始めたくせに思うんだで締めてしまった!」 悠介  「お前見てるとほんっとに忙しいやつだなって思うよ」 中井出 「忙しく日々を楽しむ男……博光です《脱ぎゃあっ!!》」 悠介  「脱ぐな」 中井出 「最近、どうやれば日差しが僕を照らしてくれるか考えています。      やはり登場とともに世界を白ませるくらいは出来ないと、      広い原っぱを翔ぶことなどできないからね」 ポエムでも詠んでみようか。 いややめよう。 中井出「よし、ではそろそろ行くか。場所は何処だっけ?」 悠介 「エトノワール近くだな。常闇の領域から西に行った場所だった筈だ。     ……ああ、マップ見ていたけどそこに仲間が集中してる」 中井出「ふむ?貴様はどこの勢力だったっけ」 悠介 「あー……内緒だ。     いずれモンスターユニオンを復活させるつもりではある、とだけ言っておく」 中井出「アグレッシヴだな一等兵よ。この博光はそういう貴様が嫌いではないぞ。     男ってのはやっぱどれだけ取り繕おうが、     頭ン中じゃあ強い自分を描くもんだからなぁ。     戦いが楽しいと思うサガも頷ける。勝てるかどうかは別にしても」 悠介 「ああ、はは。それは解るな。俺の場合はイメージが武器だから、余計だ」 はにかみながら、立てた人差し指をくるくる揺らして、 そのちょっと上に石ッコロを創造する晦。 それを手で掴むと、石が杖に変化して草に変化して水に変化して、 最終的には大地を肥やす潤いとなって消えていった。 中井出「……賢者の石?」 悠介 「似たような能力だな。いろいろ回路を得たことで、能力が戻りつつある。     もちろんノートに預けた能力はどうやっても戻ってこないけどな。     実はもう召喚も出来るんだ。キングベヒーモスとか、どかーんと」 中井出「ウヒィ!?そりゃ勘弁だな……!」 悠介 「召喚獣扱いで、出してる中で殺されても俺の中に戻るらしいんだけどな。     そうしたら復活するまでは使えないらしい。     まあ俺は魔王なんてガラじゃないから、     モンスターユニオンっていっても俺自身が一つの世界になるつもりだが」 中井出「───、ってことは」 悠介 「召喚って言ったら空界の回路、だろ?ラインゲート方面は安定してるんだ。     ただ死神の回路も解放してやらないと世界の創造は出来ない。     あとは死神の回路だけなんだけどな、いったいどこにあるのやら」 中井出「………」 晦は知らないだろうが、実は俺は予想がついていたりする。 晦は今までの経験からか死神の回路=死神的なことを考えているだろうが、 原点を考えてみれば、それはちょっと違うのだ。 晦や弦月は産まれた時から死神だったのではなく、月の家系だったのだ。 で、月に関係してるものでさらに晦に関係しているものっていったらアレしかないわけで。 中井出「月の欠片、あといくつくらいだ?」 悠介 「んあ?ああ、あと少しだ。提督とのバトルの前に、     強くなれるだけ強くなっておこうって話になったのは知ってるか?     ああまあ知らなくてもいい。     ただその時に、みんなからほんの少しずつだけど月の欠片をもらったんだ。     だからまあ、そう遠くないうちに集まると思う」 レーダーもあるしな、と続ける晦は、着々と一歩を踏みしめながら進んでいるようだ。 俺は着々と一歩を踏みしめながら、地獄への片道切符を手にしているわけなんですが。 なんでだろうなぁ?ちぃとも怖くねぇ。 どっかで楽観視してる俺が居るんだろうね、土壇場で俺は助かる〜みたいに。 つくづく人間だ。覚悟覚悟〜と謳ってるくせに、その実ただの楽観野郎。 けどそれがどうであれ、俺は楽観でいいと思う。 どのみちそこへ辿り着くのなら、楽しく観ていたいって思うじゃないか。 ……自分が生きていく、これからの道のりってのを。 中井出「ところでガラクタの中にこんなものを見つけた」 悠介 「…………サブリガだな。これも提督にしてみれば投擲アイテムなのか」 中井出「こう、こうな?相手の頭にフィットするように投げるのが面白そうじゃないか」 悠介 「…………もう、行くか」 中井出「そうね……」 悠介 「ほんとそう……」 いっそ捨ててくれようかと思ったガラクタを漁り、 とりあえず水気と生臭さを炎でなんとかしてからバックパックに詰め込んだ。 いやほんと、泉に落ちたガラクタって物凄く嫌な匂いとか出してるよな。 その、なんだ?田圃に居る田螺と書いてタニシと読むみたいな香り? それを結構濃くして藻をはりつけたような……なぁ? 一言で言うと、 中井出「うっ……く、くせー!」 だった。 悠介 「燃やしてから言うことじゃないだろ、それ」 中井出「然の力で除菌もバッチリ」 素晴らしきかなマナ集束法。 輝きの白さ!ボールド! 思わず両手をブバッと広げてみたが、なんの意味もなかったのでやめた。 中井出「あ、月の欠片発見」 悠介 「すまん、レーダー持ってるけどてんで使ってないことに今さら気づいた」 中井出「お前って時々すごくヌケてるよな」 緊張感のカケラもあったもんじゃなかった。 月のカケラはあったけどね。 中井出「これが空界では知らんヤツが居ない、伝説のゲートキーパーか。     リアナとリオナが見たら呆れるぞ?」 悠介 「あいつらか……まあ、呆れるなら呆れてくれてもいいかもな。     俺はもう自分を飾るのはやめたよ。疲れた。     感情手に入れた今だからこそ、自分ってのが持ててるんだ。     俺はやっぱり、提督の言ってたとおり、守れる人が居るなら守りたい。     でもそれは俺のその時の気分であっさり決まるもので、     どうでもいい時はそりゃあると思う」 中井出「そうそう、そんなでいいのよ人間。     たった一人が出来ることの限界なんて、そう高くないんだからさ。     道に迷いそうになったらさ、こう考えるんだ。     自分は人間、相手も人間。さあ、俺に出来ることはなんだい?と。     同じ種族なら出来ることも限られるってことさ。     個人差はどうあれ、そう性能が違うわけでもないしな。     あとの夢見が悪かろうが、見捨てる時ゃ見捨てていいんだ。     俺達ゃ人が願うような奇跡の神じゃないんだし」 悠介 「いや……俺一応神なんだが」 中井出「種族だろ?それは。人として生まれたんなら心は人だ。     本人がその心を忘れなければいい。     たとえ名前を忘れても、自分を見失わなければ自分は自分だ。     名前や種族はあとからでもついてくるだろ」 悠介 「……お前は時々妙に賢いよな、提督」 中井出「生きることに関しては一生懸命なんだ。     家族全員にもらった命だ、俺の中に常にある命令は“いのちだいじに”だぜ?     トルネコさんも真っ先に逃げ出すほどの臆病っぷりだ。     ……結局、最後に生き残るのは臆病者だからな」 悠介 「映画とかだと、     そういうヤツに限って主人公の勇敢さに触発されて無茶して死ぬんだよな」 中井出「ああ、なるほど。そういうやつらの気持ち、今なら解るわ」 悠介 「……?どういうことだ?」 中井出「脇役は脇役らしくってこったよ。     俺が武具のお蔭で強くなれたのも、お前が今実力を出し切れてないのも、     漫画とかゲームで言ったらぜ〜んぶ伏線なわけだ。     ほら、漫画とかで脇役が妙に目立ったあとにはなにがある?」 悠介 「───それは、───」 晦が黙る。 予測が結論に至ったんだろう。 だが俺は笑むのをやめない。 ……しばらくして、晦は「怖い冗談はやめろ」とだけ言った。 中井出「ふむ。もし俺がそんな漫画的状況になったら───」 悠介 「助けるからな、絶対」 中井出「っと。即答だな」 悠介 「俺はな、これでもお前のことは人として尊敬してるんだ。     俺と彰利は過去にいろいろあって、出会って、支え合えたからここまでこれた。     彰利が居たから、提督っていう原中との接点も持てた。     中学でお前らに会えなかったらって思うとゾッとするくらいだ。     それくらい、俺達の学生生活ってのは歪んでたんだ。     ……日常的なことは、     家があの通りの石段地獄だったお蔭で冷やかしがなかったけどさ」 中井出「……うん」 悠介 「彰利はどうか知らないが、俺はお前らにいっぱい恩がある。     特別お前らがなにかしたってわけでもないかもしれない。     けど、そんなお前らのやることなすことに巻き込まれて、     楽しい思い出が作れたっていうのは紛れも無い真実なんだ。     ……中心に居たのはお前だ。そんなお前が居なくなるのは、俺は嫌だ」 中井出「───」 平静を保ってみたけど、内心ホーコラビックリ。 尊敬ときた。 神に尊敬される人間なんてそうそうありゃしねー。 だがだ。 中井出「せっかくだけど、その救いを俺は断る」 悠介 「へ───?な、なんで」 中井出「俺の人生は俺が決めるよ。     ピンチの時に助けてくれる王子様は、多分俺にとってジョーカーだ。     だから、お前はその時が来ても俺のことは見捨てろ。     てめぇ第一で、幸せの一つでも掴め。     俺は、苦労してきたヤツが幸せにならない物語が大嫌いだ」 悠介 「……それ、お前が主人公の物語にしちゃだめなのかよ」 中井出「ああダメだな。なにせ、俺は主人公ってガラじゃない。     あのな、晦。よ〜く覚えとけ。     こういう場面でベラベラ喋るヤツは、主人公になんかなれやしないんだよ。     知識っていう知識を主人公に託した時点で脇役の役は幕を降ろすんだ。     けどな、幕を下ろされるからにはハッピーエンドを望む贅沢くらい、     脇役にも許されていいんだと思う。なら俺は脇役がいいよ。     こうな?無鉄砲に突っ込んでメッタ刺しにされて死ぬんだ。     敵の数は何万もの軍勢!それに立ち向かう勇者博光!     ……カッコつける馬鹿野郎の隣にはな、誰かが居ちゃいけないんだよ。     一人だからカッコイイんだ。複数だとかっこ悪い。     一対一の揉め事が喧嘩であるのに対し、多対一がイジメの図に見えるように」 悠介 「ガラとか……そんな問題じゃないだろ?     お前の人生だ、お前が主人公じゃないなら───」 中井出「だから、俺の人生は俺が決める。俺は脇役でいい。それが俺の人生。それでいい。     脇役の居ない物語なんてつまらないだけだ」 言いながら、夢の内容を思い出してみる。 涙すら出るリアルな痛みの中で、後方から俺に嘆きの声を投げかけた人物。 ぼんやりとだけど、あれは晦の声だった気がしていた。 中井出「楽しい物語にしような。脇役ってのは場を盛り上げるために居るもんだ。     いつか俺が最強の脇役になれた時、貴様を主人公の座から引き摺り下ろす……     そんな最終話を、俺は描いてみたい。人生という名のキャンバスに《脱ぎゃっ》」 悠介 「脱ぐな。……で、最終話でお前はどうなるんだ?」 中井出「突如全軍突撃を仕掛けてきた魔の手から主人公を守るため、     単身で軍勢に立ち向かうんだ。一言目はこう。     ここを通りたくば───通行税払ってちょ」 悠介 「滅茶苦茶格好悪い脇役だな!!     俺を倒してからにしろとか言えないのかお前は!」 中井出「え……いやあの、その方が面白いかなって」 悠介 「……ああ、いい、解った。なんつーか大丈夫だ。     そこまで面白さを追求する脇役なんて普通は居ない」 呆れたように溜め息をつかれた。 だが意義ありですモミー。 中井出「馬鹿だなぁ。脇役だからだろ?主人公みたいにルールに縛られなくていいんだ。     主人公は悪を倒さなきゃいけないんだ。     相手が善であれ悪であれ、主人公と敵対するなら主人公にとってのそいつは悪。     そいつを倒す準備を進めなきゃ物語にならないし、倒さなきゃ終わらない。     だが脇役にはいつだって終わりが用意されてるんだ。     どうでもいいやつなんて流れ弾であっさり死んじまう。     わりといいヤツは感動話のダシにされて死んじまう。     ある脇役はある時目立つことが出来て活躍するんだけど、     頑張った分だけ惜しまれながらやっぱり死ぬんだ。     主人公は死んでも奇跡的に蘇る。     主人公だからな。理不尽だけど、それが物語であり“おはなし”なんだ。     子供は英雄に憧れる。格好悪い脇役になんか見向きもしない。     主人公だって脇役Tのことをいつまでも覚えていられやしない。     何故なら、主人公が誰かを救うのが当然なように作られてるのが物語だからだ」 主人公ってのは面倒なものである。 そんなものになるくらいなら、俺は脇役を愛するぞ。 英雄博光ではなく外道博光でいいくらいだ。 ……なんか悪魔召喚されそうな名前なので大変嬉しくないが。 悠介 「……お前は、自分を脇役だって思うからこそ見捨てるのか?」 中井出「見捨てるか否かは自分の意思であって、そこに脇役か主役かは関係ないなぁ。     俺は自分が大事だし、誰かのために死ぬなんて芸当は無理だな。やりたくもない。     もしやったとしても、それで英雄扱いとかは虫唾が走る。     死んでなにかが残るなんてのは思い出だけで十分だ。     勲章や誇り、名誉なんてものは要らん。     チヤホヤされたり立派でしたとか言われたくて死に急ぐわけじゃないだろ?     望んだ形に至らないなら、そんなの深層の中じゃどこまでいっても不服なんだよ」 悠介 「頭が硬いのか柔らかいのか……。お前ってやっぱり掴めない男だよ」 中井出「譲れないものってあるよな。俺にとってのそれはズバリ、人格だ。     でも話すと、この通り長いんだ。だから結論だけ。お前はお前のことだけ考えれ。     守るもよし守らぬもよし。だがその中に俺を含むのはやめれ。     俺は守られるのはゴメンだ。ばーさんがそれで死んでるからかな、     守られるってことに吐き気がするくらいの嫌悪感がある」 悠介 「そ、そこまでなのか!?」 中井出「自分を庇った所為で目の前で誰かが死ぬなんて、ほんとキツイぞ?     今だから言うけど、子供心によく心が壊れなかったって思ったもんさ。     ……ま、それもじーさんが残されてたからだろうけど。     ハイ終わり!長ったらしい話終わり!いい加減エトノワールに向かおう!     ……と、それと。一応ラグ渡しとく。     完全解放は無理だろうけど、今の貴様ならば多少は扱えるはずじゃ」  コシャンッ♪《ラグナロクを渡した!》 悠介 「え───い、いいのか?」 中井出「全財産と交換だ」 悠介 「ここでそれ言うか!……けど、全部剣鍛えるのに使ったから、多少しかないぞ?」 中井出「そか。じゃあ交換条件だ。力に振り回されても自分を失うなよ、晦一等兵」 悠介 「……それって?」 中井出「いやぁ……貴様って力を手に入れると妙に悟る部分があるから。     キザにならずに笑って戦え。俺は戦いが好きだが、キザは好かん。     戦いの中で御託を並べる馬鹿者どもに死ねと叫んで襲い掛かるのは大好きだが」 悠介 「それは、よく解る気がする」 しみじみと頷かれてしまった……。 ともあれジークを浮かせると、そこに乗ってから晦に手を差し伸べた。 伸ばした手を軽く握ると、俺が引くのと同時にひょいとジークの上に乗る晦。 手はバランサーでしかないんだから、まあ気にしない。 中井出「OK?」 悠介 「便利だよな、ジークフリード。確実にラグより性能いいだろ、これ」 中井出「俺はお前らと違って、     武具を育てるくらいしか出来ないというかやりたくねーからな。     修行とか訓練とかはどうでもいい。俺はファンタジーを楽しみたい」 悠介 「修行も訓練もその内に含まれると思うんだけどな」 中井出「いーのいーの、超実戦流で行きたいんだ俺は。本能で戦え!ってやつね?     本能で戦えって言ってる割には御託が多い死神バトルマンガな気もするけど」 悠介 「それはツッコんでやるな」 バトルマンガ等のポッと出のキャラはとても説明が大好きです。 しかもヘタに強いとその御託も長くなる一方。 バトルマンガに御託は要らん。斬って殴って蹴って刻んでギャアと叫んでさっさと死ね。 中井出「かつて最強辺りまで行った一等兵晦よ。     強くなった者は何故ベラベラと口上が上手くなるのだ?」 悠介 「お前もなってたじゃないか」 中井出「いや、ああいう状況ならベラ喋りする野郎の気持ちが解るかなって。     やってみたけど物凄くつまらんかった。     もうすぐ回復するが、なにもしないままでいいのか〜なんて言った時なんか、     自分自身に反吐を吐きたくなったくらいさ。     あのまま攻撃してたほうが実にスッキリした」 悠介 「ああ、確かに提督らしくなかった。なんだ、そんなことを検証してたのか」 中井出「どんな状況も利用してやる心構えだけは持っているつもりなのだ。     技術が無い分、敵が隙だらけなら攻撃するのが俺の性分であり戦い方。     まあそうやって固定するつもりもさらさらないんだが──各馬一斉にスタート!」 喋り途中で、とりあえずクサナギスキルを発動させて飛ぶ。 向かう場所はエトノワール……せめてデスゲイズに出会わないことを願いましょうマジで。 中井出「とーにかく!戦いの最中に御託を並べる者に鉄槌を!戦いに美学などねー!     戦いとは勝つか負けるか引き分けるか!ただこれだけである!     命の遣り取りをするならば奇麗事など真実不要!     生き残りたいなら後味が悪かろうが卑劣を貫き生き延びる!     正々堂々!?俺にとっての正々堂々が悪ならばなんの問題もねー!     相手が持つ正々堂々のために何故俺の正々堂々を曲げねばならぬ!     正々堂々とは正しく堂々とするという意!多分そうきっとそう!     ならば俺の正々堂々とは卑劣でも勝てばいいというところに終着し、     また殺していいのは殺される覚悟のある者だけという覚悟にも終着する!     正義?ボッコボコにしてやんよ。正否で唱えるなら否な僕は、     正義に向かって否義を振りかざす修羅となります。     なりたいじゃだめだ、なるんだ。……博光です《脱ぎっ……!》」 悠介 「脱ぐなっ!ってうわあああ前前!ワイバーンが───!」 中井出「なにぃ!?」 既に正気に戻っていたらしいワイバーンが我が前を塞いだ! どうやら正気に戻ったばかりのようで、 ふらふらしているところに我らが来てしまったらしい。 どうする!?決まっている!我が道突き進むスパイラルドライバー!! 中井出「全身鋼鉄化呪文(ミナミコウテツ)ーーーーーッ!!!”」  メゴシャアンッ!! ワイバーン『ギョアアーーーーーー…………!!』 悠介   「うおわぁああーーーーーっ!!?」 VITをマックスにしてぶちかましをしました。 ワイバーンの顔面にヒットしたそれは彼(?)を吹き飛ばし、広い海原へと落とすほど。 悠介 「て、提督っ!もっとこう、避けるとか出来なかったのか!?」 中井出「バカモン!前方不注意の相手に何故気を使わねばならん!」 悠介 「前方不注意はあんたもだろうが!」 中井出「不注意じゃないもん!注意してたもん!明らかにヘンな格好の人造人間を     一般人だと思い込むヤムチャくらい注意してたもん!」 悠介 「てんで役に立たない注意力ってことじゃねぇか!!     せめて天さんくらいの注意くらい持っとけ!」 中井出「ヤムチャも天さんもあんま変わんねーよ!!     貴様だって親友のクリリン置いてけぼりにする     超野菜人の主人公みたいじゃねーか!なにが神魔だコノヤロー!     力にバラつきあってもいいから種族くらい一つに纏めてみせろコノヤロー!」 キリモミしながら海にだっぽーんと着水するワイバーンを見送った。 おお虹だ。 ……虹って上からでも見れるもんなのか? 悠介 「だから今それを神の状態で頑張ってるって言ってるだろうが!     それ言うならお前だってすっぴんとかいって色々なジョブ能力持ってるだろ!」 中井出「人が手に職つけてなにが悪いんだコノヤロー!     貴様が言ってるのは大工さんに調理師免許取るなって言ってるようなもんだぞ!」 悠介 「だったら種族がどうとかなんてどうでもいいだろうが!     強くなるために手段を選ばないなら誰だってああなるわ!     つーか神魔はなくとも魔人は産まれ付きだ!     混ざり者であることに文句言うなら先祖に言え先祖に!     いやそもそも言われる筋合い自体がないわ!!」 中井出「その通りだよくぞ気づいた!誰になんと言われようが己を貫け若人よ!     俺は誰になんと言われようが自分を変えるつもりなどさらさら無し!     自分なんてのは言われるまでもなく自然に変わっていくものに違いねー!     けどその変わってしまった自分を正してくれるのが……仲間ってものさ!     ───なぁ晦!俺は守られるのは嫌だけどさ!     俺がヘンな風に曲っちまったら、殴ってでも直してくれよな!」 振り向きながら、晦の目を真っ直ぐに見て言った。 俺が真面目なことを言うときにする、唯一の行動。 それを受け取ってか、晦は面をくらったような顔をしたが─── 悠介 「……、───ああ!約束だ!」 少年のような笑顔で、そう返してくれた。 だから俺も、笑顔で。 中井出「そしたら倍以上にしてボコり返すから!!」 悠介 「うぉおおおい!!?頼んでおいて殴り返すのか!?」 中井出「馬鹿だなぁ!その方が俺らしいじゃないか!」 悠介 「───、ぶっ……!たっははははは!!あははははははっ!!!     そっかそっかあはははは!!殴られて殴り返すのは提督らしい!     それってつまり、曲った提督が元に戻ったってことだもんな!     ははははは!───ああ!俺がそうなった時も頼む!     俺はそうなった時、蹴りの一つでも入れられるような自分であるようにするよ!」 中井出「貴様がいくら頑張ったところでこの博光が当たってやるとでも思うたかクズが」 悠介 「そこは当たってやってくれよ!!」 中井出「フン断る」 悠介 「今までの話が無かったことみたいに断りやがった!!     この野郎!俺がお前の後ろに居るということを忘れるなよ!?     受け取ったばっかのラグで弱点の背中を刺してやってもいいんだぞ!?」 中井出「やってみろ。その瞬間、僕の丸太のような足がキミの股間を潰すことになる」 悠介 「───卑怯だぞてめぇ!!」 中井出「わざわざ確認を取る時点で既に駆け引きは対等ではなくなっているのよ!     語るというのは敵に考える時間を与えてるのと同じなのだよ!」 などと言いながらも風を切る我らは、確実に戦いが待つ場所へと向かっている。 え?怖くないのかって?ええ怖いです、宣言通り逃げ出したい気分ですよ。 だが逃げることなど敵と向かい合って、 “うん、これ無理”って思ったあとでも出来るわけで。 ならばその場面までは、 このファンタジックな緊張感を味わうのもまた楽しみのひとつというもの。 悠介 「敵に時間を与えるか───なるほど、ようするにわざわざ脅す暇があったら、     さっさとなにかしらの行動をとって敵を動けなくすればいいってことか。     行動不能を狙ったりするだとかして。     そう出来ればいいけど、出来ない場合の手段は───」 中井出「フッ旦那ァ、余計な口挟んですいやせんがあっしはもう解りやしたよ。     ほらアレですよ、ヒントは股の間にぶらさがってる……ホラ」 悠介 「違うから!なにそのヒント!いったいどんな答えに結びつくわけ!?」 中井出「いやまあ冗談はよしとして。捕らえた上で手荒な真似はしたくない、     なんて言ってるヤツって既に追い詰められてるようなヤツばっかだろ?     追い詰められてるのに躊躇なんてするほうがヘンな気もするだろ。     そいつが犯罪に手ェ染めてるんだったら、染めるほうがアホなんだが。     完全犯罪が出来たところで、指名手配されりゃあ時効までは逃亡生活。     そんなつまらん未来のために罪犯すのってどうなのだ」 悠介 「それほど追い詰められてりゃやるしかないんじゃないか?     やりたくなかったけどそうせざるをえない状況に追い込まれたヤツは」 中井出「旦那ァ、余計な口挟むようですいやせんがあっしはもう解りやしたよ。     ほらその方たちはソリに乗って、     通り過ぎざまに恥部を露出する───あの方たちですよ」 悠介 「違ェエって言ってんだろォオ!?     お前なにダンディな顔して頭ン中そればっかかァア!」 中井出「貴様も随分と心からツッコむようになったなぁ。     原中時代なんて冷静にツッコむか、呆れるかの二択だったろ」 悠介 「生憎その頃は立派な感情がなかったんで」 中井出「っと、お話はここまでだ。見えてきたぜぇ刻震竜!」 悠介 「へ?───う、おわっ……でっけえええーーーーーーっ!!!」 そう、見えてきた。 その呆れるほどの巨体が確かに見える。 まだまだ遠くだってのに見える事実に呆れるほどだ。 ラオシャンロンどころじゃない。 ありゃあもうパオシャンロンだと言いたくなるほどの大きさだ。 いや、パオシャンロンよりもデカいなアレは。 中井出「よー!一等兵ー!」 悠介 「なっ───なんだー!?」 中井出「俺達って会うたび話すたび愚痴る気がするんだよこれからー!     だからそういうのは金輪際無しにしようぜー!」 悠介 「俺は別にお前の愚痴、嫌いじゃないぞー!?」 中井出「ククク、俺は嫌いだ!《どーーん!》」 悠介 「愚痴言う自分がかー!?」 中井出「それもだし、自分の知識を偉そうにひけらかす自分も嫌いだー!     俺はノリが好きなだけで偉そうなのは好きじゃねー!     だから愚痴とか知識とかで偉そうに語るのはこれっきりにしてー!」 悠介 「ほんっと勝手なヤツだな提督は!」 中井出「勝手が好きなのさー!!」 エネミーを補足したところで意識が逸ったのか、速度を増す飛翔に声を高くして叫び合う。 愚痴ってのは大事だが、あんまりそれに寄りかかるのは好きじゃなかった。 だから勝手にやりましょう案。 素晴らしい。 中井出「では戦闘準備ー!───ラグはどう?使えそ?」 悠介 「ん、んー……合成してみりゃ希望は持てるかもってところだ。     ラグの意志すら読み取れない」 中井出「了!ではこのまま突っ込もう!貴様はペリーコロさんのところに行って、     ラグと育てた武器を突っ込んで合成!俺は好き勝手に戦うから!」 悠介 「楽しそうだなぁ!」 中井出「うむ!怖いけど戦闘自体は嫌いではないわ!」 震えるぞハート!燃え尽きるほどヒート!そんな感じなのである。 中井出「じゃあ降りるけど。     一人で行ける?ハンケチーフは持った?ティッシュは?うまい棒は?」 悠介 「ティッシュの後にうまい棒って。多分誰も覚えてないと思うぞ?」 中井出「ワハハハハ!!話し掛けてる相手が解ってるなら、なにを心配する必要がある!     さあテンションあげていくぞ晦一等兵!合戦じゃ!合戦ののろしをあげろ!!」 悠介 「おっ───ははっ!サーイェッサー!!」 光る雲を突き抜けフライアウェーーーイ!! さあ行こうジークフリード! 僕とキミが居れば怖い状況も楽しくなると思っておこう! 悠介 「……提督、足が震えておりますぞ」 中井出「だって怖いんだもん!」 悠介 「武者震いだとか言ってくれよ頼むから!!」 中井出「武者震いだ!なんか矢とか刺さってて妖怪腐れ外道ヘアーの武者だけど!」 悠介 「落ち武者じゃねぇかよそれ!!」 言いながら、そこへと辿り着いた。 砲弾とバリスタが飛び交い、なんかやたらとバカデケェバーサーカーと、 ゼプシオンとがサウンザンドドラゴン相手に暴れ回るそこへ。 俺と晦は頷き合うと躊躇もせずに跳躍し、俺はサウンザンドドラゴンの方へ、 晦は自然要塞エーテルアロワノン方面へと落下した。 落下する俺を追って飛んで来たジークを手に取り、まずは覚悟を。 戦いながらじゃなければ強固な覚悟なんて決められない。 だからと、まずはいつものように気合を入れて─── 天地を賭けた戦いは、始まりを迎えたのだ───!! 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