───冒険の書252/そして時はいずこへ至り───
【ケース607:中井出博光/天地崩壊と冒険者の根性】  ゾギャギャギャギャギャギャアアアッ!!!  ヴォガガガガガガォオオオンッ!!!! 中井出「オォオオオオオオアァアアアアアアッ!!!!」  ゴギャァアアッフィィインッ!!!! サウザンドドラゴンを持ち上げるように振るった斬撃が、大空の中途で宙を裂く。 対象を失った剣は俺の腕とともに停止し、 燃え上がっていた筈の火闇も勢いを潜め、やがて消えた。 本来ならば斬り上げながらの跳躍で、自分が飛び上がるだけで終わる筈の撃。 だが、四百八十もの剣の束が落下を許さず、 鱗や皮、筋も骨をも断ち切り、ついにこの大空での別れを告げた。 サウザンドドラゴンから離れた剣は輝きを失い、今はただの双剣と化している。 サウザンドドラゴンを包んでいた魔導砲の光も今は消え、 途端に吹き出る血の雨が太陽の光を浴び、いやに眩しかった。 中井出「───、……」 体が動かない。 最終奥義を使ったあとは、体に負荷がかかりすぎるのか、こういうことがあった。 海を割った時もそうだったが、今回のは酷すぎる。 マグニファイもエンペラータイムもドラゴンインストールも掻き消え、 ただ……動かない体だけが、空中に放り出されていた。  ドガァッ!ズダァッ……! 中井出「いぎっ!」 受身が取れない状態での着地ってのは痛いもんだ。 今更だが巨大化の効果も消えていて、 随分高いところから落ちた俺は、痛みに顔をしかめていた。 彰利 「フォフォフォ、やりましたな若」 中井出「いや……なんでじいやみたいなの?」 倒れている俺の手を掴み、肩に回して起こしてくれたのは彰利だった。 影から読んだんだろうか……俺が動けないことを知っていたらしい。 中井出「サウザンドドラゴンは?」 彰利 「地面に落下してからピクリとも動かん。     試しに影潜らせてみたけど、生命反応は無かった。死んでおるよ」 中井出「───…………そ、そうかぁああ……」 思い切り、深い安堵の溜め息が出た。 ああもう、この喜びを体で表現できないのがもどかしい。 つーか使った後に動けなくなるのはなんとかしてほしい。 彰利 「おー、しかしようやっと終わったのう。     勝てるわけねぇって思ってたわりには、案外なんとかなったし」 中井出「だってお前の能力反則的だろ。なんだよ、規定をぶち壊すって」 彰利 「フォフォフォ、こればかりはじいとともに生きてくれた鎌に感謝ですな」 中井出「や……だからどうしてじいやみたいなの?」 肩を組みながら笑った。 ようやく終わったのだと。 なによりも先に達成感みたいなものが心を掴んでいて、その場に居る全員が笑った。 終わったことに気づいた、要塞に居たやつらも駆け出してきては、 まるで祭りの真っ最中みたいに賑やかに。  ……だから、俺は忘れていたのだ。  サウザンドドラゴンを倒すということが、なにを巻き起こすのかを。 ……、 中井出「……?」 小さく、揺れを感じた気がした。 爆笑する猛者どもにもみくちゃにされながらも、確かに感じた揺れ。 なにが、と思うより先に耳に届いた違和感を繋げると、ホギーの声が聞こえた。 声  『まずい!今すぐ要塞に戻れ!』 中井出「え?美味しいけど」 声  『なにがだ!?───って冗談とかどうでもいいから!     時間崩壊が始まる!地面に居るのはまずいんだ!』 中井出「…………」 時間崩壊。 それは───つまりサウザンドドラゴンをコロがした故の、 フェルダールの“時”がうんちゃらかんちゃらで─── 中井出「……彰利。ホギーが呼んでるぞ」 彰利 「え?アタイ?……tellホギーからだったん?」 中井出「うむ。俺はちとここで休んでいくから、みんな連れて行っててくれ」 彰利 「OK!」 どうしてだ?なんて訊かないこいつの軽さに乾杯。 ハイテンションになったみんなは、彰利の宴会でもやろーぜー!という言葉に素直に賛同。 俺一人を置いて、みんなで要塞へと転移しようとしたところで───邪魔が入った。  ヒュゴパギィインッ!!! 中井出「ア───ガァアッ!!?」 彰利 「《バヂィッ!》ぐわぁっち!?───中井出!?」 突然、俺の体が妙な文字列に包まれたのだ。 俺を中心にグルグルと円の動きで回り続ける、恐らくフェルダール文字。 こりゃ…… 声  「ご苦労であった勇者たちよ!」 彰利 「───!?誰だァアアア!!!」 藍田 「や、そこで凶徒の拳の真似はいいから」 喜び合っていた勇者たちに横槍を入れたやつらがゆっくりと歩いてくる。 そいつらは───…………えーと、誰? 麻衣香「あれ?エトノワール兵士長」 夏子 「なに?まだ居たのキミタチ」 兵士長「ああ居たとも。ずっとこの場を治める機会を伺っていた。     するとどうだ、刻震竜は死に、魔王は弱り、捕らえられたではないか」 中井出「捕らえた、って……これは貴様の仕業か!!……ああいやそりゃ無理か。     後ろにおわす魔法使いさんたちのお陰だろうね」 兵士長「呪術師と言ってもらおうか。魔王を鎮める能力のみに長けた者たちだ。     ……弱ってくれて助かったよ、正直手に余る元気っぷりだったのでね」 クスクスと心底可笑しそうに笑う兵士長とやら。 笑うならもっと豪快に笑えと言ってやりたかったが、 文字列が狭まってくるにつれ、俺の体は言うことを聞かなくなり、やがて───  ガギ、ゴギィンッ!! 中井出「───!」 俺の武装の全てが解除される。 ジークフリードから始まる武具の全てがランドグリーズに変異し、 ついには縮み、やがて───ただの指輪と化した。 兵士長「ククク……ハーッハッハッハッハ!!見たかね!     魔王の武具すらも役立たずの指輪にする我らの力!     聞いているぞ!?お前は武具がなければただの人間と変わらんのだろう!?」 中井出「うんそう」 兵士長「───あれ?……フ、フン?     動揺しているんだろう?もっと悔しがってもいいんだぞ?」 中井出「いやべつに……指輪になったからってなにか改造されたわけでもないんだろ?」 兵士長「貴様の武具は意思を持つと聞いた。その意思とやらを強制的に眠らせただけだ」 中井出「………」 そっか、だったらいい。 眠っただけなら傷つきもしないってことだ。 静かに頷いた俺は、 フェルダールのなにかの文字列が並んだ指輪を指に嵌めて、同化させた。 武具は指輪になった。けど、霊章輪は俺の中だ。 だから、指輪融合だけは今でも可能だった。 ……これでいい。無事ならばまた会える。 兵士長「……?おい貴様、指輪をどこに───」 中井出「てめーにゃ教えてやんねー!くそしてねろ!!」 彰利 「まさに外道!!」 兵士長「ぐっ……!ふん、まあいい。どの道貴様は既にただの人間だ。     来てもらうぞ、たっぷりと刑をくれてやる。そして我々は英雄となるのだ。     魔王を捕らえた英雄にな!……ああ、そこのお前たち、協力を感謝する」 彰利 「お?」 藍田 「俺達か?……つーかお前らなにかした?」 兵士長「こうして魔王を捕らえただろう!     いい、ついてこい。勲章のひとつでも王から与えられるだろう」 彰利 「OH勇者!勇者彰利!」 藍田 「英雄!英雄亮!」 なんかみんな行く気満々みたいだった。 ナイス原ソウル。 中には兵士長に掴みかかろうとしているやつも居たが、俺はそれをアイコンタクトで制止。 悔しくないのかと目で問われたが───腸はとっくに煮えくり返ってる。 けど体は満足に動かない。 だから俺は、静かにその目に語りかけた。  イマスグ、ヨウサイニ、モドレ─── 頷いた目は、もう俺を見なかった。 殊戸瀬はすぐに丘野に話し掛けると話を広め、それが転移可能なやつに伝わると、 有無も言わさず転移を実行。 兵士長だの呪術師だのと俺だけを残して、そこから人影という人影は消え去った。 兵士長「……?な、なんだ?何故居なくなる。勲章だぞ勲章!何故───」 直後、ドガンッ!という震動。 兵士長は舌でも噛んだのか、手で口元を押さえていた。 ……そう、震動だ。 地面が揺れるとか空気が揺れるとかじゃない。 どっちもいっぺんに、例えるならフェルダールという世界自身が揺れている。 兵士長「な、なんだこれは!なにが!」 呪術師「へ、兵士長!地面が割れて───!」 兵士長「なんだと!?くっ!なんだというのだ!お、おい貴様!一緒にこい!     エトノワールに戻るんだ!ききき貴様を突き出さなければ私の手柄が!」 中井出「手柄?……ハハ、手柄より自分の命を心配しろよ。     まあもっとも、貴様にはここで死んでもらうが」 兵士長「なんだと!?……ふ、ふふっ!?ただの人間になりさがった貴様がなにを───」 中井出「な、なに勘違いしてんのよ!     誰もわたしが手を下すなんて言ってないでしょ!?《ポッ》」 兵士長「この状況で何故頬を染める!?正気か貴様!」 ええ正気です。 どれほどの困難でも楽しさを追求する。 それが俺の心の巴里。巴里は燃えてますか?ええ、もう火に油状態です。  さて、ここで質問だ俺の体よ。                    ───動けるか? ピクッ…………ギリ、リィイ……!! 中井出「…………」 手が、自然と握り拳を作った。 返事はそれで十分だった。 だから歩いた。 上手く動かせない体で、さっさと来いとか言っている兵士長に向かって。  腸が煮えくり返ってる。 相棒たちを、こんな目に合わせやがって。 何様のつもりだ。 お前がなにをした。 どいつもこいつも勝手に魔王だ魔王だって─── 俺が貴様になんかをしたなら抗いながらも仕打ちを受け入れよう。 だがお前はただ勲章のために、俺の相棒を───  許せねぇ。 それがお前らの言う正義か。 国のやり方か。 だったら─── 中井出「……なぁ。お前は俺を殺したいか?」 兵士長「あん?ああ、処刑をしろと言われたら公開処刑もいいかもしれんな!     そうすれば私は魔王を殺した英雄だ!!」 中井出「───」 ……ほんと、馬鹿みたいだ。 小さな溜め息のあと、俺は小さく呟いた。 ───覚悟、完了。  ドンッ─── 兵士長「え───?あ……」 殴った。 顔面をではなく、背中を。 吹き飛んだ先には割れた地面があって、そこは今なおどんどんと開いていっており、 もはやその先は景色のない闇で─── 兵士長「ア───あぁああああああああああっ!!!!」 男は、悲鳴を残して闇に消えた。 呪術師たち『き、貴様!』 中井出  「……名誉だの、地位だのなんだのと……グチグチうるせーんだよてめぇら」 呪術師  「な、にを……!?」 中井出  「人が楽しんでるところにズカズカズカズカ……。       場所取りごっこならどっか他所でやればよかったんだ」 地面が崩れる。 足を掬われた呪術師の一人が悲鳴をあげながら落ちた。 呪術師2「お、おい!もうだめだ!逃げるぞ!」 呪術師1「けど魔王は!」 呪術師2「そんなのどうでもいいだろ!俺は死にたくないんだよ!」 呪術師たちが駆ける。 勝手な言い分だ……勝手に襲い掛かってきておいて、勝手に封印して…… でも死にたくないって逃げた勇気は解るから。 だから追うこともしないで歩いた。 少しして、既に周り全てが地割れに囲まれてることに気づいて、泣き叫ぶ声が聞こえた。 それでも歩く。 それからまた少しして大きな音が鳴って、泣き声もなにも聞こえなくなった頃─── 中井出「………」 俺は、サウザンドドラゴンの亡骸の前に立っていた。 手にするのは剥ぎ取りナイフ。 そう、俺の目的は最初っからこれだった。 これが終わらないのに、死んでやるわけにはいかない。 ……さっきからtellからはひっきりなしに声が聞こえる。 時空の歪みの所為で転移が出来ないだの、要塞も動かないだの。 だから……上手く動けない俺は、どうやらここまでらしい。 だったらせめて……な?目的くらいは達成したいじゃないか。 散々痛い思いして、それでも一緒に頑張ったのに、 封印されるだけで終わるなんて……あんまりじゃないか。  ───!───! 遠くから微かに聞こえる俺を呼ぶ声。 いやすまん、もう無理だ。 ほんとな、体動かないから。 だから─── 中井出「よぅ見とくんやでヒヨッ子ども……これが“冒険者”の生き様やぁああっ!!!」 素材のためになら無茶もしよう! 生きるためならなんでもしよう! だがどうしようもなくなった時にすることなぞ、やっぱとりあえず制限時間まで剥ぎ取り! 地位も名誉もいらん!ただ武具とともに生きる修羅であれ!!  バガッ……ゴガァアアアアン!!! 大地が割れた。 それとともに刻震竜ごと俺は先の見えない奈落へと落ちてゆく。 能力はなにひとつ使えない。 浮くことも出来なければ、満足に体が動かない所為で跳ねることも出来なかった。 だから─── 中井出「この命燃え尽きるまで!僕はっ!キミからっ!剥ぎ取るのをやめない!!」 自分でも随分とアホだったと思う。 だが気が遠くなるほどの落下の中で剥ぎ取って剥ぎ取って─── やがて何かを掴んだ時、俺は…… 【ケース608:岡田省吾/至った世界】 ───……。 ……。 ピチョンッ…… 岡田 「おわ冷てっ!!」 …………。 あれ? 岡田 「……何処ここ」 耳に落ちた冷たさに目が覚めた。 いや、まあ覚めたんだけどさ……ここ何処? みんなは? ……アルェ?さっきまで俺、みんなとギャーと悲鳴をあげてて…… 岡田 「………」 見渡してみると、どうやら洞窟の中らしい。 遠くの方に出口が見える……明りだ。 どうやらまだそう時間は経ってないらしい。 岡田 「……なにも解らんままだし、とりあえず行くか」 ちなみに、俺が倒れていた場所が最奥だったらしく、 後ろを振り返ってみても壁があるだけだった。 動物の巣かなにかだったんだろう。 そんなことを思いながら、光の眩しさを手で遮りながら外へ出た。 そして───…………見えた景色に愕然とした。 岡田 「なっ、…………なんじゃあこりゃあぁああ!!」 Byジーパン。 ……じゃなくて、うわ……なんだこりゃ。 フェルダール……だよな、ここ。 あれ……? えと、とりあえずここは何処かの山で……うん、そう高くない山だな。 マップは……うわ、機能してねぇ。 …………あ、山の下のほうに村っぽい場所が───  ピピンッ♪《メールが届きました》 岡田 「おわぁっ!?きゅ、きゅきゅきゅ急に来るなぁあっ!!」 でも開く。 だって今は少しでも情報が欲しいから。 え、えー……なになに?ってヒロミ通信じゃねぇか。  ◆ヒロミ通信最新号  これであなたも激ヤセ!デストロイウーロンティーのご紹介!! どこのスパムメールですか!? ……って、あ、あーあー、(ウソ)って書いてあるわ。 ………………あれ?ウソはいいけど本文は!? 岡田 「………」 どこにもねぇ。 あ、あー……まあいいや、冒険者は冒険が仕事。 景色はまるっきり変わってるけど、町とかは変わってない……といいなぁ。 誰も居ない場所で一人頭を掻いて、とりあえず眼下にある村っぽい場所を目指し、歩いた。 ───……。 ……。 ヒュォオオ………… 岡田 「………」 そこは寂れた村だった。 いや、賑やかさがないって意味であって、金が無さそうとかそっちの意味ではなくて。 岡田 「お……もし!もし!そこの方!」 少女 「は……ああはいはい、なんでしょう。こんな辺境に人だなんて、珍しい」 村に入った少し先の井戸の前で、水を汲んでいた少女に声をかけた。 すると律儀にも女性はぱたぱたと小走りに近づいてきて、俺の目を見て静かに笑んだ。 ……うむ、何気に好みだ。───じゃなくて。 岡田 「えっと……なにやらいつの間にかこの近くで倒れてて。     それで失礼ではござるが、ここが何処なのかを教えていただきとう存じます」 少女 「……なにか事情がおありのようですね。     家に来てください、兄ならお力になれると思います」 岡田 「へ?」 ……ひどくあっさりと家へどうぞと言われた。 警戒心ってものがないのか、この娘っ子は。 少女 「大丈夫です!兄は学者さんですから!」 しかも戸惑って頬を掻く俺を、不安がってるんじゃないかと思っての言葉まで。 ……いい人というか人がいいというか。 うん、とりあえず好みのタイプだ。……じゃなくて。 ……。 で、なんだかんだで家に居る俺。 少女 「今お茶出しますから」 岡田 「あ、出涸らしでお願い」 少女 「出涸らししかありませんから安心してください」 岡田 「そりゃ安心だ」 少女はそそくさと家の奥に歩いていくと、やがて見えなくなった。 で、俺はといえば…… 男  「………」 岡田 「………」 ソファっぽい場所で指と足を組んで座る男を部屋の入り口から眺め、汗をたらしていた。 ディ……DIO様?何故DIO様座りしてるのあいつ。 岡田 「あ、ども……チワッス」 男  「………」 あれ?無視? 返事もなし? い、いや、耳が遠いのかもしれん。 岡田 「どうもっ!お世話ンなります!」 男  「………」 やっぱり無視だった。 と、そこへお茶を持った少女が。 少女 「こらお兄ちゃん!返事くらいしなきゃだめじゃない!」 男  「ン───……あァ?ああ、なんだシロンかよ。なんだぁ?今忙しいんだよ」 滅茶苦茶人相不良っぽいんですけど!? 学者!?これで学者!? 岡田 「とりあえずさすが出涸らし」 シロン「出涸らしはスピードが一番。いえーい」 岡田 「いえーい」 すぱーんと手を叩き合わせた。 ノリはいいらしい。 男  「んで?お前誰。妹狙いならそこで首掻っ切って死んでくれ」 シロン「うわぁお兄ちゃん!お客様になんてこと言うの!」 岡田 「すまん。狙いじゃない」 シロン「うわぁああん!?恩人さんに向かってなんてこと言うのかなぁ!」 男  「……フン、まあいい、どうせ暇だから相手ンなれ、お前」 シロン「お兄ちゃん!今忙しいって言ってたのに───」 男  「シロン、コーヒー用意してくれ。蜂蜜と砂糖と練乳つけて」 シロン「甘いもの厳禁!お医者さんに止められてるでしょ!?」 男  「固いこと言うな。甘いモン食わなきゃ頭働かねぇんだからしょうがねぇだろうが。     シロップみたいな名前してるくせにどうしてこう甘くねぇかなお前は」 シロン「お兄ちゃんがだらしないからでしょ!?もう!」 ぷんぷんという擬音が見えそうな風情で、 シロンという少女は部屋の奥へといってしまった。 俺はといえば、促されてから男の前のソファに腰を下ろして対面している始末だ。 男  「……ふう。んじゃーまずは自己紹介だ。     俺はハルミナル=ゴドー=エクワイリス。ゴドーでいい。     あいつが妹のシロン=ミルキル=エクワイリス。いちいち甘そうな名前だろ」 岡田 「……俺は岡田省吾。よろしく。……まあ、あれだ。かわいい妹さんじゃないか」 ゴドー「……見る目はあるようだな。まあ、あいつは可愛い。     とくにからかったりイジメたりしているときの表情は格別だ。     で?お前の用件は。まさか本当に妹狙いなわけじゃないだろうな。     そうだったらあいつの気持ちをまず尊重したあとここで暮らせ」 岡田 「落ち着けシスコン。……とりあえず、現状を知りたい。     ここはどこ───より先に、空が薄く赤いのはどうしてだ?」 ゴドー「ふむ……ぷぅー……」 タバコの煙をモハーと出したゴドーは、頭をコリ……と掻いたのちに一言。 ゴドー「10年前に起こった天地崩壊は知ってるか?     どこぞの勇者たちがサウザンドドラゴンっつー守護竜を殺したことで起こった」 岡田 「あ、その勇者の中の一人、俺だわ」 ゴドー「……オーケイ、今は信じる方向で進めよう。     俺は応用と融通の利く学者だからな、     突拍子が無くてもひとまずは解決するまで信じるさ。……んで?」 岡田 「その大戦のあと、巨大な地震に巻き込まれて、     み〜んなエーテルアロワノンから振り落とされちまった。     時空がゆがんでるとは聞いたけど、まさか10年とは……さすがに驚いた。     俺にしてみればついさっきのことだったんだけどな」 ゴドー「つーことはお前さんは時空の歪みに巻き込まれて、     この時代に飛ばされた、って考えるべきか。ふむふむ……」 いかつい顔が少しだけ緩む。 どうやら興味が沸いてきたらしい。 岡田 「疑ったりしないんだな」 ゴドー「んー?ああ、そりゃ頭の固い学者の仕事だ。     俺ァ可能性潰すのが大嫌いなんだよ。だからそうしてるだけだ」 無駄に男らしかった。 まあ、とりあえずだ。 ここはあの時から10年後の世界。 天地崩壊の影響で空は赤くなり……ってちょっと待った。 岡田 「空、どうして赤いんだっけか」 ゴドー「天地崩壊の影響で、過去と現在が繋がっちまったんだよ。     お陰で世界のバランスは滅茶苦茶。     先人たちが知識を絞ってこうであるああであるって固めてきたものの大半が、     過去に存在してた真実によって崩壊だの、まあいろいろあった。     けどどういうわけか、守護竜だけはそのまんまだ。     デスゲイズだって未だ空に居るし、     過去に倒されたっていう守護竜以外は今も生きてやがる」 岡田 「ふむ……」 ゴドー「けどまあ、あんまり恐れる必要はねぇよ。今この世界は人間が正義だ。     モンスターも竜族も獣人も、みんな人間を恐れてる」 岡田 「……ホヘ?なんでだ?」 ゴドー「力をつけちまったからさ。     天地崩壊はなにも最悪な事態だけを招いたわけじゃない。     過去と繋がったことで、手に入れちまったのさ。     伝説の都、ノヴァルシオの技術をな」 岡田 「───」 ノヴァルシオ、って……そりゃ……あのアンヘルとかを作った場所、だったよな? それとも現実世界のノヴァルシオと同じもので、巨人族が……?いやいや。 過去と繋がったことで、って言っただろ。 つまりこの世界での伝説だ。 だから、つまり─── ゴドー「機械技術って言うのか?そういうもんを手にいれたのさ。     それがあればモンスターなんざ恐れるまでもないんだとさ。     ……そうなってからは、学者の出る幕なんざとんとねぇ。     こんな辺境に送られて、毎日毎日つまらねぇ日々の繰り返しだ」 岡田 「………」 ……そっか。 つまりここは村なんかじゃなく、 こいつと妹さんが向かわされた研究施設みたいなもんで…… ゴドー「ここにある本も全部見終わっちまった。     唯一の楽しみっつったらアレよ」 岡田 「?」 ひょい、と指差された俺の後方。 見てみると、そこには壁にかけられた賞状みたいなのがあった。 ゴドー「コロシアムだ。世界で人が優勢になってから作られた巨大な闘技場。     主催者側が選んだモンスターと戦うもよし、人と人とで戦うもよし。     それを観賞するのが俺の今の趣味だ」 片目を閉じながらタバコを吸う。 ぷぅ、と吐くと、それは綺麗な輪になって消えた。 ゴドー「?……吸うか?」 岡田 「いや、タバコは吸わないって決めてるんだ」 ゴドー「この味が解らないとは、寂しい人生送ってるな」 岡田 「味覚の違いだろ。……ところで、ここには俺以外に人は来なかったのか?」 ゴドー「来たぞ?ただし、重症で、しかも記憶を失くしてたけどな」 岡田 「……特徴は?」 もしかしたら知ってるヤツかもしれないと思ったからか。 俺は膝に乗せていた手に力を込め、気づけばそう訊ねていた。 ゴドー「髪は多少長い感じで、どこか物憂げな表情で……     まあこれは記憶が無いからだろうが、     10年前くらいのファッションで、村人っぽい服装」 ……ああ提督だ。 村人って言葉でなんかピンと来た。 ゴドー「髪の色は白で、目は赤。いわゆるアルビノってやつだ」 ……違う。 提督は黒髪茶眼、正真正銘の生粋地界人で日本人だ───けど、ここはファンタジー。 なにが起きて白髪赤眼になってもおかしくない。 岡田 「え、っと……そいつ、なにか武器とか持ってた?     あ、腕に妙な紋章とか───」 ゴドー「いいや?両腕に妙な……そうだな、銀色の篭手をつけていたくらいだ」 岡田 「銀色の……」 ……ああ、やっぱ違うか。 いや、そうかもしれん。 どっちの可能性も否定できない状況だからなんとも言えんが……まあ、見てみりゃ解るか。 岡田 「で、そいつは今どこに?」 ゴドー「あん?……賞状見て解んなかったか?コロシアムで金稼いでるよ。     助けてくれたお礼がしたいとか言って、毎日毎日出かけては金稼いできてる」 確定。提督じゃない。 あの提督が、恩人だからって自分で稼いだものを綾瀬以外に渡す筈がない。 あ、でも記憶喪失なんだっけか。 うぬぬ、やはり見てみるしかないか。 岡田 「いろいろ疑問残るけどいいや。で、コロシアムってのはどっちだ?」 ゴドー「ンー……そろそろ始まる頃か。シロン、出るぞ」 パタパタパタパタ…… シロン「もう?速すぎるよお兄ちゃん!」 ゴドー「……その、なんだ。あまり男として聞きたくない言葉だな。性的な意味で」 岡田 「妹にそういうことを真顔で言うのもどうなんだ?」 ゴドー「つーかてめぇ、気づけばなにタメ口聞いてんだ。様をつけろ様を」 岡田 「貴様」 ゴドー「うし、んじゃあいくか」 すげぇ、自分の言葉に無駄に責任を持った態度だ……! なんて無駄が多い人なんだろう……! 岡田 「って、行くって───」 ゴドー「あん?んなもん転移装置使ってに決まってんだろ。     こっから歩いてデルフェルに行く気か?」 岡田 「地名からして知らん」 ゴドー「あーそーかい、いいからついてこい。……あ、てめぇ金持ってるか?」 岡田 「今でも使えるか不安になってきたが、当時の金ならある」 ゴドー「……《ポロッ……》」 シロン「……あ、あわわ……!フェ、フェフェフェフェルダール金貨……!!」 岡田 「?」 チャリ、と1$を取り出したら、ゴドーが口のタバコを落とし、 シロンがアワワと震え出した。 ゴドー「お、おおおお落ち着けブラザー。お前、これを何処で……?」 岡田 「だから、10年前だ。そっから飛んできたんだから当時の金持ってて当然だろ」 ゴドー「……そうか、じゃあ知らないんだな?」 岡田 「なにがだ?」 ……それから、彼は語りだした。 ついでにシロンも。 天地崩壊が起きた時、特殊な磁力に引かれた$……まあフェルダール硬貨だな。 は、ほぼ虚空で弾けて消滅したんだそうだ。 現存している硬貨はエトノワール帝国に保管されているものだけで、 いまやこの一枚だけで何万以上もの価値があるんだとか。 ゴドー「だが、だからこそヤバイ。     普通のルートに換金を申し出てみろ、帝国から盗んできたのかーとか疑われる」 岡田 「そか……今の金もないと困るから、換金したいんだけどな」 ゴドー「……そこで、コロシアムだ。     あそこは金にがめついガメッシュが運営しているところだ。     賭けるものは帝国に報告なぞせず、機密はきちんと守る。     バレたら自分もヤバいからだ」 ……つまり、換金するなら価値あるものを賭けて、対価を手に入れろ、と。 ゴドー「お前さん、10年前の勇者なら多少は腕に自信はあるんだろ?」 岡田 「まあまあって程度になら」 ゴドー「うし、じゃあ行ってみるか。お前、俺の専属になれ」 岡田 「専属?なんだそりゃ」 シロン「えっとですね、グラディエーターがコロシアムに出るには、     保証人みたいなのが必要なんです。     わたしの専属はアルビノで、お兄ちゃんはまだ未登録なので」 ゴドー「ああ。アルビノの強さには驚かされたからな。     だからてめぇにも期待だ。よろしく頼むぜ、相棒。     駄目だったらその金貨一枚よこせ。出涸らし茶代だ」 シロン「出涸らし茶どころか家ひとつ建っちゃうってば!!」 ゴドー「ちっ……いいんだよ、こいつにとっちゃ1オロも同然なんだからよ」 ……オロ? ゴドー「あん?……ああ、オロってのは今の通貨の名称だ。     現在の王の名前がオロって言ってな。そんでだ」 岡田 「……?レイナートはどうなったんだ?」 ゴドー「とっくに引退した。婿さんに王の座を譲って、そんで」 岡田 「そっか」 やっぱ10年も経ちゃいろいろ変わるか。 そう言いながらも転移装置に乗ると、そこはもう別の場所。 選手の控え室めいた場所で……ほんと随分と技術が進歩したもんだ。 人間の天下か……あまり来てほしくなかった未来だな。 ゴドー「おら、こっちだ」 岡田 「おう」 ガチャ、と開かれた扉の先に広がる道。 耳を澄ますまでもなく聞こえる歓声は、 その先にある闘技場の広さを聴覚だけで教えてくれているようだった。  ……歩いてゆく。 歓声が大きくなるにつれ、自分が出場するわけでもないのに震えてきた。 いい意味での高揚。 このまま戦うことになったら、それでも全力で戦える気分だ。  やがて光の先に辿り着く。 眩しい赤の陽が眼を刺す中、やがて鮮明になってゆく景色の下に───そいつは居た。 白髪に赤眼。 防具らしい防具もつけず、物憂げな表情で立っている男。 印象は確かに提督だが─── 岡田 「あいつが……」 シロン「アルビノだよ」 高い位置に繋がっていたらしい通路の先は闘技場の観戦場。 眼下でゴツいグラディエーターと対面しているアルビノは、 銀色の篭手をゴキ、キン……と動かしてグラディエーターを見つめた。 声  『さあ!サバイバルバトルもいよいよ大詰め!     突如この闘技場に現れた新星、アルビノ選手の相手はこの男!     ガウェングレイだぁあーーーっ!!!』 声  『ウォオオーーーーーッ!!!ガーーウェン!ガーーーウェン!!!』 ガウェンなんたらの名前が呼ばれた途端、コロシアムが沸く。 アルビノが紹介された時なんて全然だったというのに。 岡田 「なぁ、アルビノって」 シロン「はい。急に出てきていろんな人を倒したこともあって、     あまりいい顔はされてないんです」 岡田 「普通は逆じゃないか?期待の超新星〜とかって」 ゴドー「そういうやつらばっかりじゃないんだよ。問題なのはあいつの篭手だ」 言われて、ついっと銀の篭手を見る。 と、銀の篭手が変異し、銀色の双剣になる。 岡田 「───!?あれって」 シロン「右手の銀の腕が“輝剣クラウ”、左が“光剣ソナス”。     自分の名前も解らないのに、あの武器だけは解ったみたい」 ゴドー「どうしてアレが剣になるのかは解らん。だが───」  ゴワァアアンッ!!! 声  『始めぇええい!!』 鎧を纏った巨漢が走る。 変わりにアルビノはゆらりと動き、ガギィン!ガギゴギィンッ!! 振るわれた巨大な斧を斬り弾くと、光を込めた剣を振るって巨漢を鎧ごと斬りつけた。 ……それで、終わり。 鎧はズタズタに斬り裂かれ、ガウェンとかいうやつの体もズタズタになっていた。 声  『アッ───!ガ、ガウェングレイ選手撃沈!     これは───アルビノ選手の勝利です!』 シン───と場内が静まり返る。 そのお陰で、耳に届く音に気づいた。 あれは…… 岡田 「あれは……」 ゴドー「光の剣と輝の剣。アレはな、機械の剣なんだよ。     帝国でしか扱われていない、モンスターどもを圧倒する破壊兵器。     そんなものを持って出場すれば、敵が居ないのは当然だ。     だからだよ、あいつが嫌われてんのはな。     どういうわけかあんな武器を身につけていて、しかも記憶喪失。     あいつが帝国の人間だってんならまだしも、     どう見ても村人の着衣みたいのを着てたんだ。     そんなやつが機械振り回して勝っても、誰も沸きやしねぇのさ」 機械剣……例えるなら超高速。 光を纏って見えるほどの高速で動く刃……つまりチェーンソーブレードだ。 岡田 「けどさ、機械の力で竜族を圧倒してるとしても、     竜族に機械系の攻撃が効くだなんて思えないぞ?     実際、俺達の時代じゃあてんで効きやしなかった」 ゴドー「あん?……あー……技術は進歩するってこったろ。     竜族に通用する機械兵器を作る、って決めりゃあ10年ありゃ十分だ。     なんの知識もない人間が、     対ヴァンパイア武器を作ったことを考えりゃあ、赤子を泣かすより簡単だ」 手を捻るんじゃないんだな。 そりゃ、簡単そうだ。 ゴドー「んじゃ行くぞ。登録だ。てめぇが来なけりゃ始まらねぇんだからさっさと来い。     ああそれと、登録はタダってわけじゃあねぇ。     適正を確かめるためにモンスターと戦わされる。それに勝てば合格だ」 岡田 「謝謝」 歩き出すゴドーを追いながら、肩越しにアルビノを見る。 と……目が合った気がしたが、そいつは俺の隣で手を振るシロンを見て微笑んだ。 死んだ目ェしてると思ってたけど……なんだ、ちゃんと笑えるんだな。 よっしゃ、ほいじゃあ金を手に入れるために頑張ってみるか。 ……つーか無駄に順応速ェよな俺……もうちょっと慌てろよこの状況に……。 まあ、大災害のあとに世界が変わるのはRPGの基本っていえば基本だけど───  ピピンッ♪《これよりメンテナンスに入ります。        ていうかそろそろ精神が限界に来てるので一度休憩しなさい。        あ、動かないでね。動いたら……クックック》 岡田 「動いたらなにぃいいいい!!!?」 突如届いたメッセージが勝手に再生されてホワッツマイコー!! でも疑問が晴れることもなく、俺の意識はバッツリとブレーカーの如く切れたのだった。 いやあの……どうしていっつもこれからだって時にメンテに入るんだよ……。 Next Menu back