───気力充実?/いつもの風景───
【ケース612:中井出博光(再)/オフ日を平和に過ごしたい】 くたくたくたくた…… 中井出「ねるねるねるねは……グオッフォフォ……!!     練れば練るほど色が変色して……こうやって漬けて……うンまぁい!!」 てーれっててー♪ 中井出「よし完成!」 とある朝の場景。 俺は誰よりも早く目覚め、厨房にてモルゲンメシャーテを作っていた。 ああ、ちなみにモルゲンメシャーテってのは朝飯のことだ。 俺が勝手につけた名前だから辞書を引いたところで無駄だ。 でもドイツあたりでは朝のことをモルゲンとかいうとか言わんとか。 ともあれ今日の朝はどっかりと博光カレー! うどんを仕込むにはちと時間が無かったからカレーにしました。 隠し味に水飴を溶かし、カレールーを漬けるが如く沈めておけばあとは待つだけ! ルーはお玉に乗せてるからコゲつく心配もないし。 中井出「さーて、あとは寝ている者どもを起こして、と」 いやぁ清々しい朝だ。 ラーメンマンほどに今お前が清しい。 そうして俺は、洗った手を漢エプロンで拭いて、皆様を起こしにかかったのだった。 まずは男ども。 さすがに布団敷くには多いってんで、腐るほどある部屋に何人かに分かれて寝ている。 基本としてはやはり猛者どもからだろう。  コキ……キィ…… 静かに開けるのは基本です。 猛者どもが寝る部屋に辿り着いた俺は、早速静かに中へと進入。 皆が寝ていることを確認すると、姿勢を正したのちに軽く拍手を始める。  パンパンパンパンパンパンパンパン……  パンパンパンパンパンパンパンパン! すると、途中から拍手が俺のだけではなくなる素晴らしさ。 見れば、寝ていた筈の皆が起きだして拍手をし始めていた。 一斉にじゃないのがポイントだ。 さらに言えば彰利が月奏力で某BGMまで鳴らしているため、 拍手にも気合が入るというもの。 中井出「プレゼンテッドバイ・あるてぃめいと」 総員 『グッドモーニン・サンキューサー!!』 総員が起きたところで猛者どもの起床は終了。 次、晦らルナティックファミリー。  ゴゾォ…… 彰利 「な、なんか興奮するね?」 中井出「グフフ、ついてきたのか弦月一等兵」 彰利 「いやぁ、タル爆ダイブフェスタで起こされちゃあ興奮が収まらねぇぜ」 ヒソヒソと話しながら晦の部屋へ。 相変わらずの日本の……なんていうんだ?畳の香り?が、 開いたドアの隙間からモシャーと廊下に流れてきた。 中井出「これが襖だったらもう完璧だったんだけどな……よし、じゃあいくぞ」 彰利 「いくって?」  ドッバァン!! 中井出「アァンタァアアアア!!いつまで寝てんのほんともォオオオオ!!」 悠介 「うわぃっ!?な、なななんだぁっ!?」 ルナ 「ひゃうっ!?なななに!?なになに!?」 みさお「うぅ……うるさいですよ……。誰かが寝てる時は静かに……」 開けたドアを一度閉めたのち、勢いよく開けると同時に絶叫! すると彰利が“ああこれか!”という顔でニヤァと微笑む。 中井出「ほら起きる!朝ごはんできたよ!」 ルナ 「うう……いい……朝いらないから寝かせてー……」 中井出「馬鹿言ってんじゃないのぉ!朝ごはんは一日の頭のエネルギーの素になるんだよ!     みのもんたもテレビで言ってたんだからァア!」 みさお「お願いですからもう少し……《ずりゃぁっ!》ひゃわぁっ!?」 布団に包まろうとしたみさおちゃんの足をすかさずキャッチ! 汽車ごっこをするように両脇に抱え、無理矢理引きずり出す。 中井出「いい歳して子供みたいに毛布に恋してるんじゃないの!     シャキっとしなさいっ!もうっ!」 みさお「勘弁してください……疲れてるんですよぅ……」 ルナ 「朝からうるさいわよエロっち……起きる時間くらい自由にさせなさいよぅー……」 中井出「あぁもう女の子がそんな目脂つけて……顔洗ってきなさい!」 ルナ 「うるさいったら……わたしに指図していいのは悠介だけなんだから……」 中井出「しょうがないわね、こっちむきなさい《ベッ!》」 取り出したハンケチーフに唾を吐き出して、ルナ子さんの目脂をコシコシと擦る。 と、 ルナ 「んあ……?くさっ!?ななななにするのよぅー!!」 中井出「ほら〜綺麗になった。女の子は綺麗にしないとダメッ!!」 ルナ 「う、ううう、うー!うー!うー!……う、うぅぅうっ……!     うわぁああああん悠介〜〜〜〜っ!!!     エロっちに唾つけられたぁあーーーーーっ!!」 中井出「ゲゲェ泣いたぁああーーーーーーっ!!!」 彰利 「あ、あのルナっちをモルゲン直後に泣かせるたぁ……!     すげぇや!さっすが天下の中井出さんだ!!」 悠介 「ふぅううう〜〜〜いいキモ持っとるのゥ提督ゥウウ……!!     人の目の前で朝っぱらから妻泣かすとは命要らんのだなコラァアア……!!」 中井出「要るに決まってるだろうがナメんなコラ!《ポム》ウィ?だ、誰?」 肩を叩かれて振り向いてみた。 するとそこにゼットくん。 ゼット「中井出博光貴様……セシルの足を持ってなにをしている」 中井出「あれ?」 言われてみてハタと気づけば、 俺は銀魂のかーちゃんの真似に没頭するあまり、 みさおちゃんの両足を脇にかかえて立っていた。 ルナ子さんの目脂取りの時はわざわざ下ろしたんだが、 下ろした場所でそのまま寝ようとしてたからこうして抱えたんだが…… どうにも抱える方向というか向きというか、それが悪かった。 朝っぱらからジャイアントスウィングがしたかったんだ、 とか言えば信じてもらえるでしょうか。 中井出「ち、違う!」 彰利 「キャア犯人確定YO!」 中井出「セリフ的には確かにそれっぽいけど違う断じて違う誤解だ濡れ衣だ!!     信じて親友!僕は《マゴロシャーーーン!!!》イ゙ェアアアア!!」 ストレートに殴られた。 ゼットに。 そして吹っ飛んだ先には晦が居てベゴシャア!! 中井出「イ゙ェッ!?」 やっぱり殴られた。 ついでに言うと、ドシャーンと受身も取れずに無様に倒れ伏した。 中井出「フ……フフフ……ライバルが力を合わせるとこんなにも強くなるのか……。     だが貴様らは見落としていることがある……!」 ゼット「なに───!?」 中井出「俺はただの時間稼ぎに過ぎないんだぜ!     俺がやれなかったことは───一緒に来ていた彰利がやっていてくれてるのさ!」 悠介 「───!ゼット!」 ゼット「指図をするな!」 ババッと向き直る晦とゼット! そこには─── 彰利 「え?なに?」 きょとんとしている彰利が。 悠介 「───へ?」 ゼット「ぬっ!?───ハッ!?」 中井出「死ねぇええーーーーーーーっ!!!」 悠介 「だぁああしまっ《ドゴバガァアンッ!!!》ぐへぁっ!!」 ゼット「き、貴様!」 隙だらけの後頭部にマグナムグローヴ!! 拳から放たれた衝撃が晦を壁に叩きつけ、彼はゴシャーンと畳に落ちた。 中井出「グエフェフェフェ……!なんと愚かな……!     この博光を前にあっさりと余所見をするとは……!」 ゼット「つくづく卑劣な男だな貴様は……」 中井出「ワハハハハ!!勝てばいいのよ勝てば!!」 ゼット「……フッ、そうだな、その通りだ。だがどうする?     確かに貴様は強くなったが、     強さの制限をされていない現実世界での俺とやり合う覚悟があるか?     あちらの世界で鍛えた分が上乗せされている分、以前よりも力はあるぞ」 言った傍からモシャアアと殺気が! ぐおお、肌がビリビリと弾けるようだ……! これが……これが強者の気とかゆーやつか……! 中井出「くっ……ここじゃあ場所が悪い。表へ出ろ!」 ゼット「───よくぞ言った中井出博光!」 言うや、ダッ!と駆け、窓ガラスをぶち破ってゼットが外へと飛び降りる!! その姿が見えなくなってから、僕は彰利に向き直って頷いた。 中井出「じゃあ他のやつ起こしに行こうか」 彰利 「俺、お前の度胸って最強だと思うわ」 中井出「いや……だってさ。足持っただけで殴られるとか、     目脂とっただけで殴られるとか、ちょっと悲しいじゃない。     でも痛みの全ては半分反射してるわけだし、     だったら残りの半分ずつは拳に込めてと思って。     晦が見事くらってくれたからもうそれでいいや」 彰利 「そうね」 中井出「ほんとそう。というわけで朝です。     ルナ子さんもみさおちゃんも身支度して朝ごはん食べてね。     今朝は豪華に博光カレーだよ」 ルナ 「うう……朝からカレー……?」 みさお「もっとさっぱりしたのがいいんですけど……」 中井出「作る気もないくせに一丁前に文句ばっか言ってんじゃないのォオ!!     そういうことは自炊できるようになってから言いなさいッ!!」 ルナ 「普通に正論なのがくやしい……」 彰利 「無駄に話術に長けとるからね」 はい、晦ルーム終了。 次は来客の皆様方だ。 彰利 「あ、俺男ンところ行ってきてええいかい?ちとやりたいことがあってさ」 中井出「む?そうか。ならば任せよう。俺は女どもを起こしてくる」 廊下に出てから二手に分かれる。 さあ、女を起こすと言えばなんだろう。 歌でも歌うか?モルゲンソングで。 中井出「あなたに愛を!グーテンモルゲン!」 OK決定! 僕の歌でさわやかに起きるがいいさ女ども! 中井出「うぉらぁーーーーーっ!!」  どかぁあーーーーん!! 中井出「モーニおわぁあーーーーーーーーっ!!!」 女性陣『きゃああああーーーーーーーっ!!?』 どかんと蹴り開けた先には着替え中のウーメン!! “モーニン食して愛のメシャーテ”で始まる筈だった歌は叫びに変わり、 俺は般若面となった女性陣にボコボコにされた。 来流美「出ろぉおーーーーっ!!」  バキャーーーン!! 中井出「ズイホォーーーーーッ!!!」 しかも廊下に叩き出されるんじゃなく、 窓に向けてぶちかまされたために窓をブチ破ってフライアウェイ。 ドグシャアと受身も取れずに櫻子さんのテリトリーである花壇に落下し、 ベヒーモス   『ゴガァアアアッ!!』 グランベヒーモス『ロガァアアッ!!!』 キングベヒーモス『グガァアアッ!!』 中井出     「ほぎゃああああああああっ!!!!」 ……ベヒーモス族にボコボコにされた。 ───……。 ……。 ズズ……ドチャッ。 ズズ……ドチャッ。 中井出「いや……死ぬ……マジで死ぬって……」 満身創痍とはまさにこのこと。 なんとか話を聞いてもらって許してもらったんだが、既にボコボコすぎた。 今は庭の大樹目指して匍匐前進してるんだが───ズシャア。 ゼット「……随分と遅い登場だな、中井出博光」 中井出「ヒャアアアーーーーーッ!!!」 この世にはきっと、神は居ても仏はいねーんだと……そう思った夏の朝だった。 【ケース613:中井出博光(再々)/華麗なハウス】 ガパチャッ……モハァ〜…… 中井出「ほんとにもうしょうがない子たちなんだから……     ご飯はどうするの?大盛り?中盛り?」 彰利 「キミさ、どういうタフネスしてんの?」 食堂の一角で、杓文字と書いて“しゃもじ”と読むを手に取った俺参上。 開け放った炊飯ジャーから立ち上る湯気がなんとも素晴らしい。 中井出「フフフ、然の加護に包まれまくっているこの屋敷の敷地内では、     この博光はかなりしぶといぜ?いやもう……正直死ぬかと思いましたが」 彰利 「生きてりゃそれで十分さね。アタイ大盛りね」 藍田 「俺も」 悠介 「俺も大盛りで」 リアナ「わたしも大盛りでお願いします」 リオナ「わたしは普通でいい」 中井出「なァアに言ってんのそんな痩せた体でェエ!!     女の子はねぇ!ちょっと太ってるくらいが丁度いいの!」 リオナ「どれくらい食すかなどわたしの勝手でいいだろう!     お前が決めることじゃない筈だ!」 中井出「口答えするんじゃないのォオ!     アンタはもうホンット人の揚げ足ばっかり取ってェエ!!」 リオナ「な、なんだと貴様っ……!     少々空界の術をかじった程度で至高魔導術師のわたしにそんな言いがかりを!」 悠介 「うわぁーーっとリオナストップストップ!!     やめとけ!大盛りでいけ大盛りで!」 ゴシャーンと式を編もうとしたリオナ嬢を後ろから羽交い絞めして押さえる晦。 しかし引っ込みが着かないのか、リオナ嬢は引き下がろうとしない。 リオナ「だが晦!わたしは大盛りなど食べられないぞ!     今の職についてからは、それなりに裕福にはなったが!     それでも貧しい頃の精神を忘れないようにと食は細くしてたんだ!     そこにきて大盛りなど食べられる筈がないだろう!」 彰利 「おんや?リアナ嬢は大盛り食えるようじゃけど?」 リオナ「リアナは剣士だ!よく動くし消費エネルギーも多い!     リアナにはたくさん食べさせてわたしは細く、それで今まで生きてきたんだ!」 悠介 「相変わらずのシスコンっぷりだな……。     けどな、大盛りにしないと大盛りよりさらに特盛りにされるんだ。     だから悪いことは言わん、大盛りにしとけ。     盛ってもらえばこっちのもんだから。     多すぎるようだったら俺と彰利が手伝うから、な?」 リオナ「そんなもの、この解らず屋の体に教えてやればいいことだろう!」 総員 『貴方では突破できない』 リオナ「なんだと!?」 悠介 (冗談抜きでやめとけ……!     今の提督は、下手するとこの中で最強かもしれないくらいに強いから……!) 彰利 (しかもヤツは女子供だろうが容赦しねぇぜマジで……!     襲い掛かっても構わんが、“殺す気で”行くのは絶対にやめておきんせ) 中井出「……?」 なにやらヒソヒソ話してる。 なんだろ、気になるな。 まあいいや、ご飯よそってと……はいペタペタ……。 中井出「ほいどんどん受け取るんだよ。カレーはこっちからセルフでね。     かなりいっぱい作ったからおかわりじゃんじゃんしておくれ」 丘野 「提督殿、拙者は大盛りを所望するでござる」 中井出「はい大盛りね。ペタペタ……と。ほい」 丘野 「ありがとうゴザルマス」 藍田 「おー!うめーぞ提督ー!学校の給食を思い出す味だー!」 中井出「それはなによりである!」 皆様に喜ばれて二十年。博光です。 二十年という数字に意味はありません。 櫻子 「あらあら、いただきますもしないで。うっふふふ、仕方がないんだから」 中井出「まあまあ、今日は気力充実のオフ日です。無礼講万歳というやつでさぁ。     ご飯もカレーも山ほどあるから、ささ、櫻子さんも」 櫻子 「そうね。それじゃあわたしも大盛りに挑戦してみようかしら」 総員 『おお素晴らしい!』 中井出「櫻子さん……!僕は今、貴方の中に漢を見た!     よ、よそらせて頂きます!愛をポテト!じゃなくて込めて!!」 リオナ「───待て。その前にわたしの用件を済まさせてもらう」 中井出「なにっ!?き、貴様は───生きていたのか!?」 リオナ「勝手に殺すな!!」 中井出「はい櫻子さん」 櫻子 「ええ、ありがとうね。あらあら本当に大盛り。食べれるかしら、うふふ……」 リオナ「人の話を聞け!!」 オガーと怒るリオナ嬢。 そんな彼女をしっかりと見て、しかし手は動かします。 中井出「大盛り食う?」 リオナ「いいや、わたしは普通がいいんだ。もしくは少な目だ。これは譲れない」 中井出「そうか……どうしても退かぬか!」 リオナ「ああ退けないな。退く理由が見つからないからな!」 中井出「よろしい!では表に出よ!」 リオナ「ふふっ……大きく出たな。目にもの見せてやる!」 だー!と走ってゆくリオナ嬢。 そんな彼女を、僕とゼットと彰利は生暖かい視線で見送るのでした。 ゼット「……なるほど、ああして見ると無様なものだな」 中井出「やあ僕の親友。ご飯はどうするの?大盛り?中盛り?」 ゼット「特盛りで頼む。見たところ、大盛りという量では足りそうにない」 中井出「おいよ。では特盛りを…………ほい」 ゼット「……もっとだ」 中井出「おお、豪気なものよの」 ナギー『真似するでない』 中井出「やあナギー。来たな?そろそろだと思っていたぜ。     ご飯はどうするの?大盛り?中盛り?」 ナギー『当然大盛りじゃな。おなかがペコペコなのじゃ。     帝国というくらいだからまともなものを出すかと思えば質素なものばかり……。     精霊をなんだと思っておるのじゃ、まったく』 それは俺たちと出会う前は木の実ばかりを食ってたキミのセリフじゃないだろう。 中井出「シードは?」 ナギー『向こうでサクラコと話しておるのじゃ。     シードの分も持っていく約束じゃ、もうひとつ頼むのじゃ』 中井出「うむ、ではこれを」 ぺたぺたとよそり、渡し、ナギーをカレーへと向かわせる。 ……今更だけどなんで俺、律儀に皆様のメシよそってるんだろ。 ただ銀魂のかーちゃんの真似したかっただけどはいえ…… いいや、ここはもうやれるだけやるだけさ。 見せてくれよう!AGIマックスのライス盛り!  ズチャア……! 中井出「あれ?」 ズヴァーとライスをよそっていると、僕に差す巨大な影。 見上げると、 オリバ「腹ノ虫ガ鳴イテイルノサ。食欲満々ダ」 中井出「ほぎゃああーーーーーーーっ!!!」 怪力無双が居た。 皆様がそれに気づくやもう大変! 全て食われると踏んだのか、流し込むようにカレーを食しておかわりすることすること! で……気づけば。 中井出「……アレ?僕の分は?」 カレーもライスも、全部無くなっておりました。 まいったなぁ……こんなの予想もしてなかった。 ……いや待て、そうだよそうじゃないか。 中井出「ヘイ大将!」 閏璃 「あ、ソバなら夜だから」 中井出「アウアーーーーッ!!」 頼みの綱は細かった! 細すぎて千切れてしまった! 中井出「ウ、ウヌウ……!よし!じゃあ俺ちょっと空界行ってくる!」 悠介 「行ってどうするんだ?」 中井出「紀裡と一緒にグルメツアーにでも出かけようかと。食い逃げで」 悠介 「お前はなにか、娘を指名手配犯にしたいのか」 中井出「強く生きるよ?きっと」 悠介 「別の意味でな」 中井出「だって米がもうないんだもん!しょうがないじゃないか!」 悠介 「米がなくても別のものがあるだろうが!パンでもなんでも!」 中井出「馬鹿野郎!今はパンって気分じゃねぇんだよ!     どれだけ自由を求めても自由にならないこの人生!     せめて食くらいは自由でいたいこのギヴミーフリーダムマイソウルが解らんか!」 こう、ねぇ!?カレーのようにガッツリ食えるようなヤツがよかったんだ! 福神漬けばっか残っててもこれでどうしろっていうのさ! 悠介 「あー……だったら米くらい創造するから。あまり娘に迷惑かけるなよ」 中井出「いや待て。パン……パンか。よし!ちょっと行ってドナ様に貢献してくる!」 悠介 「マクドナルドがこんな朝早くに開いてるか!」 中井出「じゃあなにか!?牛丼でも食えというのか貴様は!     聞けば最近の牛丼は過去に比べ、     値段ばっか上がったくせに筋張ってるらしいじゃないか!     俺はそんな牛丼なぞ食いたくない!つーか今の地界腐ってるねほんと!     値段ばっか上がって質が上がらないんじゃどうしようもないよもう!」 悠介 「俺達の中で唯一の生粋地界人が腐ってるとまで言うか」 中井出「不満はぶちまけるぞ俺は。     地界人だから地界を庇わなきゃいけない義理なぞないわ。     そうしたいと思ったら行動は既に始まっていて、     こうすると思ったら既に行動は終わっているものさ」 OK行動は決まった! しからばと俺はナギーを右手で抱え上げると、シードを左手で抱え上げて大ダッシュ! 大広間を抜け階段を上り、通路を抜けて晦の部屋へ! さらにその先の空界の扉をズバームと開くと、サーフティールに降り立った…………! 【ケース614:中井出博光(超再)/時を忘れた猫たちへ】 ズヒャーと吹きすさぶ風が心地よい! 見下ろす景色は超絶景!……博光です。 ナギー『はうっ!?ど、何処じゃ!?ここは何処なのじゃ!?』 中井出「空界という世界だ!さっき居た場所とは世界からして違うのだ!」 シード『フェルダールとは……違うのですか?』 中井出「うむ!」 ナギーとシードをスチャッと背中にしがみつかせ、ギャオッ!と疾駆! そのままの勢いで浮遊都市であるそこから飛び降り、チャイルドエデンを目指す!! ……と、その前に。 ナギー『ヒィイイイイヒヒヒヒロミツーーーーッ!!     どどど何処に向かっておるのじゃーーーーーっ!!?』 中井出「癒しの大樹だー!よっ!ほっ!───各馬一斉にスタートォッ!!」 シード『うわわわわわぁあああーーーーーっ!!!』 落下しながら取り出し、長剣化させたジークフリードに乗ってレッツゴー・トゥ・森ィ!! 空を飛ぶ!俺が飛ぶ!雲を突き抜け星になる! いやどっちかって言うと降りてるんだけどね!? ともあれ全速力で空界の空を飛び回り、 見えてきたサウザーントレントへと───構わず突っ込む!!  ゴォッ───ザザァッ!ザンザンザザザザァアアアアッ!!! ナギー『いたたたた!!木が!木がぁああっ!!』 中井出「頑張れ自然の精霊!」 シード『《ドゴォ!!》いがぁぉ!!はっ……う、ぐぅううう……!!     ち、ちちち父上!なにか当たりました!ひ、額に……うわっ!血がっ!』 中井出「アルマデルカナブンだ!間違い無い!!     代表的な甲虫の一種で、当たるととても痛い!」 シード『虫!?虫でこんなに硬いんですか!?』 中井出「うむ!ヤツでキャッチボールをしたことがあったんだが、     すっぽ抜けたことがあってな!     ヤバイと思った時にはサーフティールにある我が家の     ロストテクノロジーで作られた強化ガラスを破壊していた!」 ナギー『それは本当に虫なのかの!?』 中井出「虫だ!正式名称はロイヤルクリスタルエメラルドエモーションエレメンタルエレク     トロエレクトラアトランダムアストラルアダマンタイトアルマデルアルマジロカク     タスティック・ザ・カナブンだ!アルマジロとついているが、正真正銘で虫だ」 ナギー『虫のくせに長ったらしいのじゃー!』 シード『クリスタルなのですか!?ヤツは!』 中井出「まったく解らん!」 言ってるうちに長い長い森の深部へと辿り着く。 そこでジークフリードから飛び降りると、霊章転移で便利に収納&着地。 それと同時に風がザァッ───と吹き起こり、森が俺達を歓迎してくれた。 ナギー『お……お、おおおお…………!     す、すごいのじゃ……!森が……森がわしらを迎えてくれておるのじゃ……!』 シード『む……僕には解らないが……そうなのか?』 中井出「うむ。サウザーントレントの森は人懐こいからな。多分」 ナギー『うむ、立っておるだけで清々しい気分になれるのじゃ〜。     これほどまでに心地のよい場所はフェルダールにもないぞよ』 中井出「うん、そか」 シード『それはいいのですが……父上はここに何をしに?』 中井出「んー……ちょっとな。     ナギー、シード、ちょっとそっちで休むか遊ぶかしててくれ。     これは……まあ、なんだ。あまり見られたくない」 ナギー『む……そうか?まあヒロミツがそう言うのならもちろんそうするがの』 シード『ドリアード、僕にも自然の声が聞こえるように出来ないのか?』 ナギー『ふむ。ちと試してみるのも面白かろ。やってみるのじゃ』 ナギーとシードがてくてくと少し離れた木の幹まで歩いてゆく。 俺はそれを見送ったのち、千年の泉を跨いだ先にある大樹へと跳躍。 フロートで調節して着地すると、 その幹の下まで歩いて……ズボンのポケットから一枚の写真を取り出す。 自分が写っていない集合写真だ。 みんな思い思いのポーズと表情で写っている。 人数計算でいくと、何気にナギーが中心なのが笑える。 が、本人は気づいてなさそうだから黙っておこう。 中井出「あとは……袋、袋……と」 これをフェルダール製の袋に入れてきっちりと閉じ、軽く掘った地面に埋める。 ……うん、これでよしと。 中井出「…………最後まで足掻いてみるから、もし……未来を変えられたら、取りに来る。     それまでどうか、色褪せないよう守っててくれ。俺の大事な思い出だ」 サワ……と枝が揺れた気がした。 言葉が届いたかは敢えて訊かない。 話そうとすれば話すことも出来るが、敢えて聞こうとはしなかった。 ……うん、用事終了。 中井出「ほいやぁーーーっ!《シュヴァーーーーッ!!ストンッ》……OH。     よーしナギー、シード、いくぜ〜〜〜〜っ!」 用事が済み、再び寿命の泉を飛び越えると、早速ナギーとシードに声をかける。 と、振り向く二人の後方を何かが走っていったように見えた。 中井出「……?なにか居たのか?」 ナギー『うむ。アイルー種がおったぞ。わしとシードの頭を撫でて、去っていきおった』 シード『アイルー種……の亜種でしょうか。背中に翼が生えていました』 中井出「へーえ……空界にアイルー種ね……」 聞いたことがないんだが……突然変異かなんかか? それとも猛者どもの中の誰かが猫の姿で後をつけてきたとか。 だとすると彰利か?黒で翼を生やした〜とか。 ……まあいいか、いつか解ることかもしれないし、解らなかったらそれでもいい。 こっちのことはニンフに訊いてみるのが一番だな。 となると晦だが───よし、まず紀裡を攫って地界に戻って、 朝メシはコンヴィニ弁当で済ませよう。 で、メシ食いながらニンフに猫のことでも訊いて、それから町に繰り出そう。 今日という有限の時を目一杯楽しむためのプランを少しずつ固めていくのだ。 中井出「よっしゃあ行くぞ!我が背に乗れィ!」 ナギー『サーイェッサー!!』 シード『サーイェッサー!!』 二人が背中に乗るのを確認! 再びジークで空を飛び、用事を終わらせるべくさらにさらにとかっとばしたのだった。 【ケース615:中井出博光(茶流彩再)/子供の楽園大人の懸念】 ……さて、そうしてきたのが子供の楽園チャイルドエデン。 空から強襲するわけにもいかないのでまずはデカい門をノックンロール。  ドンドガドガドガガゴガゴゴガァン!! 中井出「チワー!新聞の集金でーす!開けろコラァアアアア!!!」 ナギー『こ、これヒロミツ!あまり乱暴をするでない!』 中井出「なにを言う!これが我の故郷のスタンダードノックなのだ!」 ナギー『そ、そうなのか!?』 中井出「ウソだ」 ナギー『平然とウソをつくでないのじゃー!』 オギャーと怒って僕をポカるナギー。 シードはそれを苦笑で見つめ、扉が開くのを待っていた。 うーむ、ナギーは幼児化していき、シードが少しずつ大人になっていってる気がする。 全く対極に位置する存在がこうして一緒に居て、 聖人になるわけでもなく悪人になるわけでもなく、平和に過ごしていることが実に嬉しい。 声  「新聞なら間に合ってるぞー」 中井出「誰だァアアア!!」 霞流那「お前が呼んだんだろ!」 突然聞こえた声に見上げれば、カルネージハート。もとい、七草霞流那くん。 城壁の上から俺達を見下ろしている彼は、俺を見るなり微妙な顔をした。 中井出「紀裡を迎えに来た!さあ出せ!出さねば死、あるのみ!!」 霞流那「世紀末的思考回路をさらすな!     はぁ……どうして最近の地界人はこう破天荒なんだ……」 中井出「面白いことが大好きだからだー!というわけで進入していい?」 霞流那「大人は一人しか入れない規則なんだ、ダメに決まってるだろ」 中井出「……そういや貴様、若いままだね」 霞流那「ヤムベリングが来て無理矢理色々飲ませていったらこうなった。     近いうち、地界で戦があるんだって?     それに誘われたけど、俺は子供たちを守らないといけないからな、断った」 中井出「そうか……貴様はキャンセルか」 つーかノートン先生、もしや空界のやつらには言い触らしまくってる? はたまたイセリ子さんからベリ子さんに話が流れたか? まあそれはさておき、霞流那くんが“紀裡ー!親父さんが迎えに来たぞー!”と叫ぶと、 中の方が途端に賑やかになる。 霞流那「……おーい、えーと中井出だっけか」 中井出「ドナルドです」 霞流那「そうか。じゃあドナルド。お前って料理上手いって本当か?」 中井出「味皇に波動砲撃たせる程度にはな」 ナギー『雄山も士郎も裸足で逃げ出すのじゃ』 霞流那「また随分と望郷を思い出すネタを……。     紀裡がお前のこと自慢してたからな、ただ訊いてみただけだ。今下ろすから」 城壁の上からひょこっと顔を覗かせる紀裡。 下ろすから、って。 あそこから下ろすのか?と思ったら縄梯子がガシャンゴリャと下ろされた。 竹の縄梯子だ、独特の音が鳴るのが耳に心地よい。 空界に竹なんてあったんだな……って、どっかにあったな。 紀裡 「お父さん、もう用事は済んだの?」 中井出「いや、続行中だが今日は休みだから楽しみにきたのだ」 紀裡 「そうなんだ」 ナギー『………』 シード『………』 紀裡がすとんと降りてきた。 直後、回収される梯子を見ると慌しいもんだなぁと呆れるわけで。 そして何故かナギーとシードが妙な空気を放ち始めた。 中井出「ナギー、シード、紹介しよう。我が娘の中井出紀裡だ。     紀裡、我が隠し子のナギーとシードだ」 紀裡 「隠し子!?」 中井出「う、うむ……!じ、実は父さんと母さんは三人の子供を授かっていたのだが、     とある日に黒騎士に襲われてレオンハルトと離れ離れに……!」 紀裡 「れ、れおんはると?」 中井出「レオンとハルトが本名だ」 ナギー『無論、ウソなのじゃ。わしはニーヴィレイ=アレイシアス=ドリアード。     自然を司る精霊であり、ヒロミツに最も近しい者じゃ』 シード『む───僕はシード。     アルファーフォートという名前を一緒に授かりそうになったが、     流されたからシードでいい。父上とは最も近しい間柄だ』 ナギー『……いちいちつっかかるの、おぬし』 シード『当然だ。父上に最も近いのは僕だからな』 ナギー『うぬぬぬぬ……!』 シード『むううう……!』 中井出「ごらん、とっても仲良し」 紀裡 「仲悪そうだけど……」 睨み合ってる二人の肩に手を置きながらのスマイルは、我が娘には届かなかったらしい。 ナギー『おぬし!キリとかいったの!』 紀裡 「あ、はい。はじめまして、中井出紀裡です。よろしくお願いします」 ナギー『うむ!よろしく頼むのじゃ!     それでじゃの!おぬしはヒロミツの娘なのじゃな!?』 紀裡 「え……はい、そうですけど」 ナギー『どれほど近いのじゃ!?娘というのはどれほど近いのじゃ!     わしの近さといったら素晴らしいぞよ!?なにせ契約じゃからの!     かなり深いところで繋がっておるから相当に近いのじゃー!』 シード『僕なんか絆で結ばれている!     弱点である背中を僕に預けてくれると言ってくれたんだ!     その絆は───フン!契約なんてものに負けるものじゃないさ!』 ナギー『なんじゃとー!?わしの方がヒロミツに近いわ!ひっこんでおれ新兵風情が!』 シード『お前だって新兵だろう!』 ナギー『同じ新兵でもわしの方が先輩なのじゃ!この若輩者め!     ───それで!?どうなのじゃ!?なにかこれといった繋がりがあるか!?』 紀裡 「……親子の絆と血で繋がってますけど……」 ナギー『………か゜っ……』 シード『………はくっ……!』 散々騒いでいたのに、紀裡の一言で停止する二人。 ……うん、大人っぽいって見解は改めさせてもらうとするよ、シード。 ナギー『うぁああああん!!ヒロミツが妙な小娘にとられたのじゃーーーーーっ!!』 シード『父上は僕だけの父上だー!お前なんかに!お前なんかにーーーーーっ!!』 紀裡 「……お父さん……」 突然泣き出した二人を前に、紀裡がとても困った顔で僕を見上げてきました。 うーむ、これは仲良くなるまで時間がかかりそうか? 中井出「ナギー!シード!」 二人 『《ビシィッ!》サーイェッサー!!』 紀裡 「わっ……!さっきまで泣いてたのに……!」 ナギー『なにを言うのじゃ!?泣いてなどおらぬのじゃ!!』 中井出「うむ!見事な三千院節である!が、さておき───二人ともよく聞くのだ!     貴様らに言っておくことがある!今貴様らはどんな気分だ!?」 ナギー『ヒロミツを奪われた気分じゃ!なにが娘なのじゃ!     血よりも契約のほうが濃いに決まっておろうに!』 シード『父上!やはり義理の息子より本当の娘を選ぶのですか!?』 中井出「ええい狼狽えるでないわバカモン!!いいか貴様ら!     今貴様らが思っていることは、そのまま紀裡の思いでもあるのだ!」 ナギー『なんじゃと!?』 シード『同じなわけがないではないですか!僕たちは───』 中井出「紀裡はこの博光の娘である!     その娘が、俺という親が自分が知らない者たちに囲まれているところを見れば、     それは寂しさも覚えよう!     自分の父親なのに別のヤツの父親をやっている……そんなことを思ってみろ!     それはとてもとても寂しいことなのよ」 ナギー『むっ……』 シード『し、しかし……』 仲良くなるのが難しそうならそれでもよし。 伝えたいことだけを伝えて、納得するかどうかは互い互いに任せよう。 中井出「ナギー……貴様が血より契約の方が深いと思うのと同じように、     紀裡も契約より血が深いと思うだろう。     シード……貴様が義理の息子よりも、と思うのと同じように、     紀裡も本当の娘より義理の息子のほうが、と思うだろう。     解るか、この博光の言わんとしていることが。ひとつの考えに囚われてはいかん。     自分だけが“正しき”の中に居るわけではないのだ」 ナギー『ヒロミツ……』 シード『父上……』 中井出「よぅくお聞き、ナギー、シード。この博光は貴様らのことを大事に思っている。     優劣など関係ない。順位などどうでもいい。     “大切に思う”……その心こそが大事なのだ。     大切でなけりゃ、どうなろうが知ったことではないわグオッフォフォ……!!」 ナギー『ひぃっ!?く、黒いのじゃ!ヒロミツが黒いのじゃー!』 シード『な……なんという見事な、魔王然とした態度!さすが父上だ!』 紀裡 「……魔王?」 魔王という言葉に紀裡が首を傾げた。 うん、そりゃそうだ、親が突然魔王になれば、誰だってそーする。俺だってそーする。 ……いや、逆に“すげぇや!”とか言いそうな気がするけど。 ナギー        『うむ!ヒロミツは全フェルダールの魔王であり、             亜人族の救世主のようなただの凡人なのじゃ!』 シード        『どうだ!凄そうでいて凄くないだろう!             それが父上の素晴らしいところなんだ!』 中井出&ナギー&シード『ワァーーハッハッハッハッハ!!!』 三人並んで腰に手を当て踏ん反り返ってワッハッハ。 こういうところばかり合ってる我ら三人蝶・サイコー。 中井出    「というわけで三人仲良くな」 ナギー&シード『サーイェッサー!!』 あっさり解決した。 紀裡 「え、えっと?」 ナギー『小娘ェエエエエ!!わしのことはナギー先輩と呼ぶのじゃァアアア!!』 紀裡 「で、でも。わたしの方が大きいし」 ナギー『わしはこう見えて貴様より数倍長生きしておるのじゃ!なにせ精霊じゃからの!』 中井出「ちなみにウソだ」 ナギー『ウ、ウソではないのじゃ!以前きちんと説明したであろ!     ままままったく!ほんにヒロミツはウソつきよの!』 シード『とにかく!僕らと一緒にくるのなら───否!     父上とともにくるのなら、そのうんうんの前と後にサーをつけろ!!』 紀裡 「うんうん……?」 ナギー『“イエス”のことなのじゃ!つまりこうじゃサーイェッサー!!』 シード「さあ復唱!!」 紀裡 「さ、さー」 ナギー『違うのじゃァアアアアアアアアアアアアアア!!!!!     もっと腹に力を込めて姿勢を正してサーイェッサー!!ハイ!!』 紀裡 「さ、ささささーいぇっさぁっ!!」 シード『違う!姿勢はこう!敬礼はこう!顔を少し上げて胸を張って!     体中の酸素を吐き出すように!サーイェッサー!!ハイ!』 紀裡 「さーいぇっさー!!」 シード『違ぁああああああああう!!!』 ナギー『ええい解らんヤツよの!おぬしほんにヒロミツの娘か!?     わしが先輩としてびしびしと指導してやるのじゃ!』 シード『僕ら原メイツは言動会話衝動実行全てにおいてがサバイバル!!     いついかなるときでも反応できるように心の底から修羅になれ!!』 ナギー『そのようなことでは“ナカイデ”の名が大号泣なのじゃ!』 紀裡 「う、うう……お、お父さ〜〜ん……」 中井出「イ〜モイッモ、イッモッコ〜♪イ〜モイッモ、イッモッコォ〜♪     イ〜モイッモッイッモッコ〜♪イモコォ〜〜〜〜〜オ〜〜〜ッ♪……え?なに?」 子供たちが騒ぐ中、暇を持て余して“イモコ”を歌ってた僕に突如かけられる言葉。 中井出「あの……父さん今“イモコ”歌ってて忙しくて……」 紀裡 「そんなへんてこりんな歌いいからぁっ、助けてよぅう……」 中井出「あ〜さ〜目が覚めて〜、まぁ〜あっさきに〜お〜も〜い〜う〜か〜ぶ〜♪     ケ〜〜〜ツ〜〜〜イ〜〜〜モコ〜〜〜〜♪」 紀裡 「歌はいいってば!」 中井出「お〜も〜い〜きぃて〜、ギタ〜を始ィめェたァ♪     “太子ぃスゲェ”って言〜〜わ〜れた〜〜くて〜〜〜♪」     隋の皇帝♪フィ〜〜〜イッシュッたっけっなぁ〜〜〜かさんっ♪     呼〜ん〜で〜みぃた〜だ〜けだぞっ♪いつも〜〜〜〜〜……♪     わ〜た〜し〜は〜かぁ〜〜〜ぁこぉ〜〜、い・い・ん・だっ!     イィ〜〜〜モコッ!!     なっぐぅらぁれぇそっうぉ〜だよぉお〜〜っ!わったぁしが《ドスッ!》痛い!」 紀裡 「聞いてったら!」 腹を殴られてしまった……。 丁度殴られそうだよってところだったからって殴ることないのに。 中井出「うう……いいとこだったのに……。     “イモコ”は絶対に笑いでメルトを超えた名曲だぞ……?     寝る前に清水のMP3プレイヤーで聴かせてもらってからずっと、     音程と独特の声調に惚れてしまって仕方ないほどだ」 ナギー『そ、そんなにいい歌だったかの?』 中井出「原曲を聞けばきっと好きになれるさ。というわけでさぁあ一緒に!」 三人 『イ〜モイッモッイッモッコ〜♪イ〜モイッモッイッモッコォ〜♪     イ〜モイッモッイッモッコ〜♪イモコォ〜〜〜〜〜オ〜〜〜ッ♪     イ〜モイッモッイッモッコ〜♪     イ〜モイッモッイッモッコォ〜♪     イ〜モイッモッイッモッコ〜♪     イモコォ〜〜〜〜〜オ〜〜〜ッ♪』 ナギーとシードと三人並んでイモコを熱唱。 もちろん出だしだけだが、ここの部分がかなり好きなので熱唱。 紀裡 「………」 そんな僕らを、何処か遠い場所へ忘れ物をしてきてしまったような目で見る娘。 ナギー『ふぅむ……ヒロミツ、こやつはノリが悪いの』 中井出「まあ仕方ない。紀裡は猛者に巻き込まれながら育ったわけではないからな。     いわゆる〜……そうだな。俺と会う前のナギーみたいなものなんだ」 ナギー『なんとな!?それはいかんのじゃ!これおぬし!キリとか言ったの!』 紀裡 「はあ……」 ナギー『聞けばおぬし、大した自由もなく娯楽も知らんと生きてきたそうじゃの。     それはそれは退屈な日々じゃったじゃろうて……。     解るぞうむうむ、なにも言うでないのじゃ。     今の様子からすると、歌にもそう興味がなさそうじゃ。     それはそれは退屈な日々を送っておったことじゃろうて。じゃが安心するのじゃ。     わしがおぬしに世界の楽しさというのを教えてしんぜようぞ』 紀裡 「………」 シード『なるほど、世界に存在する楽しさの片鱗も知らなかったのか。     ……さっきはすまなかった、それなら仕方ない……僕も教えてやる。     楽しむという気持ちはとても大事だ。僕はそれを父上に教わった。     だから次は僕から誰かに教える番だ。そうですよね、父上』 中井出「イ〜モイッモッイッモッコ〜♪イ〜モイッモッイッモッコォ〜♪     イ〜モイッモッイッモッコ〜♪イモコォ〜〜〜〜〜オ〜〜〜ッ♪」 シード『……さすがだ、父上。     返事をするまでもなく、僕に任せるとおっしゃりたいのですね?     ありがたき幸せ。出来るだけのことをやってみます!』 中井出「イ〜モ……イモ?」 あれ?なにやら今、誤解されたような……。 まぁよし! 中井出「ではこれより地界に戻り……朝飯!     とりあえず朝飯!遅れてもいいからドナ様に貢献するんだ!」 紀裡 「地界……地界っ?地界に行くのっ?連れてってくれるのっ!?」 中井出「うむ!たまにはいいだろう!だが地界は危険がいっぱい!     サーフティール育ちの箱入り娘の貴様が果たして何処まで頑張れるか……!」 紀裡 「もう、箱入りじゃないったら。お父さんはわたしのなにが不満なの?」 困り顔でムンと腰に手を持っていく紀裡サン。 呆れとちょっぴりの苛立ちを持つとよくやるポーズである。 中井出「ノリが悪いとこ」 まあ俺も慣れたもんだから、軽くホイと返すが。 苛立ちも呆れもなんぼのもんじゃい。 娘にどう思われようが我道をゆきますまっしぐら。……博光です。 紀裡 「妙に騒ぐことが好きな両親を持てば、こんな性格にもなります。     ほらほら、行くなら早く行きましょうお父さん」 中井出「グ、グウ」 で、呆れが高まると妙に丁寧口調になる僕の娘。 エデンにギリギリ入れる年齢だが妙に大人ぶりたい年頃なのだ。 まあ、子供かどうかなんてのはエデンが決めることだし。 紀裡 「あ……そういえば今日は篠瀬さんは一緒じゃないんですね。     空飛べなくて平気ですか?」 中井出「ほざきやがれ、私は摂政だぞ?     摂政である私にかかれば空を飛ぶことくらいチョロイものなのだよ」 ナギー『ただ偉ぶりたかったんじゃな?』 中井出「うん」 腹減ってると思考が鈍くなりませんか? 中井出「おめでとう紀裡よ、これよりついに地界に向かうわけだが……」 紀裡 「わたしデデニーランド行ってスーパージーラ見たい!」 中井出「そうか!では見せてやろう!いくぞナギー!シード!」 ナギー『サーイェッサー!!』 シード『サー!発言許可を!』 中井出「うむ!なんであるか!」 シード『デデニーランドとはどういった場所でありますか!』 中井出「人が群れ成し、叫び、歓喜し、子供が泣き、親が笑い、     その姿を写真に収めるカオスな場所である!」 ナギー『おお……!も、もしやそれは噂に聞く、     “さばと”とかいう儀式の場なのかの?』 紀裡 「そうなの!?も、もっと賑やかで楽しい場所だってお母さんは……!」 中井出「真実である!!」 シード『それほどカオスな場所があるなんて……』 群れ成して、アトラクションで叫んだり喜んだり、 デデニー名物の“風船手放したガキャア”が泣いたり、 子供が楽しむ顔を見て親が笑ったり、 その笑顔を写真に収めたり……ウソは一切言ってません。 ごっちゃりしててカオスって言えばカオスだし。 アトラクションの中に儀式っぽいシーンを混ぜたものだってあった筈。 中井出「さて、目的も決まったことだし」 霊章より双剣を解放。 握ると同時にジークフリードにして宙に浮かせて、 ナギーを肩車、シードを背中、紀裡をお姫様抱っこのカタチでセットイン! 中井出「ナギーよ!景色は良好か!」 ナギー『オッケーなのじゃーーーっ!!』 中井出「シードよ!背中は任せた!」 シード『はい父上!必ず守り抜きます!』 中井出「紀裡よ!貴様は好きな男にお姫様抱っこをされたことがあるか?     まだだよなぁ……貴様の初めての相手は他でもない!この博光だぁーーーっ!!」 紀裡 「《バァアアアーーーーッ!!》……お父さん、人って大体、     生まれてすぐに産湯に入れられる時にお姫様抱っこは経験してるんだよ?」 中井出「うん知ってる」 でもあれはお姫様っていうよりは猫を持つような感じだし。 紀裡 「はぁ……それよりもです、お父さん。これはいったいなんなんですか。     空に浮くだなんて、ついに人をやめてしまいましたか?」 中井出「しっ……失礼な!なにをやめても人間だけはやめませんよパパは!     だがその質問は実にグッドだ。慌てる中にも冷静を。実にグッド。     慌ててるのはその口調だけで十分解ってるからな、パパは。     だがてめーには教えてやんねー!くそしてねろ!!」 シード『まさに外道!!』 紀裡 「なっ……!」 ナギー『おおおさすがなのじゃヒロミツ!実の娘でも容赦のないその物言い!     やはりヒロミツは差別なぞせず言いたいことは言うのじゃな!?』 中井出「時と場合によります。さあ行こう!各馬一斉にスタートォッ!!」 紀裡 「まだ話かこっ!?     ッきゃああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー…………───」 その日僕らは風になった。 Next Menu back