───権田さん←正体/それでもいつもの風景───
【ケース616:中井出博光(再ゲディヒ)/悪いインターネットに毒されないっ】 そうして晦の部屋に戻った僕ら。 ……を、待っていたのは、珍し……くもないかもしれないこともないかもしれない光景。 藍田と彰利がテレビ借りてアニメ見てる。 彰利 「アディリシアさんってステキだよね」 藍田 「真顔で言うな真顔で」 レンタルマギカらしい。 そういえば以前、龍虎の拳の構えをとってるだのどーのと話し合ったとかなんとか。 彰利 「うしゃ、目当ての場面も見終わったし……どうすっかね、これから」 藍田 「殊戸瀬が編集した、アニメのOPEDのみを掻き集めたDVDがあるんだが」 彰利 「見よう、昼になるまで暇だし」 藍田 「なにかあるのか?俺は昼からはデートだ」 彰利 「アタイもね。たまに夜華さん外に出さないとこれ以上はヤバすぎるし。     あまりに世間知らずすぎるから。ところでどげなOPED入っとんの?」 藍田 「いや……それが俺も聞いてなくて。まあのんびり見ようや」 彰利 「だぁね」 ……朝っぱらからアニメ三昧か。 まあ最近はそれどころじゃなかったし、そんな朝があってもいいのかもしれん。 中井出「やあ」 彰利 「おや?おお、中井出じゃねぇの。元気?」 中井出「腹なら減ってる」 彰利 「OK空腹は健康の証だ」 藍田 「おろ?そっちの娘は……紀裡ちゃんか?」 中井出「ドナルドです」 紀裡 「中井出紀裡です」 藍田 「やっぱ紀裡ちゃんか。俺は原中が猛者、藍田亮だ。     一応、紀裡ちゃんが生まれた時には立ち会ってるんだぞ?」 彰利 「居たっけ」 藍田 「居たって!立ち会ったっていうよりゃ、     出産の後で疲れて寝てる綾瀬と、その横で寝る紀裡ちゃん見ただけだけど!」 彰利 「出産に立ち会ったって言ったらスケヴェと呼んでやるところだったのに。     ……つーかウワー、いっちゃん最初がらき☆すただよ。     センスとしてはどうなんだ?殊戸瀬サンは」 藍田 「いや……猛者ども一人一人が提案したのをぎっしり詰め込んだだけらしいし。     あ、ちなみに俺は炎のキン肉マンを入れてもらった」 彰利 「おや?……じゃあ結構前に聞かれた、     アニメのOPEDはなにが好き?ってのがそうだったんか?     アタイは“J”だ。ウォッウォーウ!ワーウワッイェッイェーイ♪って」 藍田 「お前好きだなぁアレ……」 少し前の歌とかならそれなりに詳しい俺だが、他のものともなるとなかなか難しい。 ちなみにさっきから静かなナギーとシードと紀裡は、アニメのOPに釘付けだったりする。 彰利   「逝っちまいなァ!すぐ楽にしてやる……楽には死ねんぞおバカっさん♪」 藍田   「望み通り天からお塩ッ!……所詮あにゃたは超エスパー♪」 彰利   「らんたったぁ〜♪らんたったぁ〜♪らん・たっ・たぁ〜♪       らたらたらんたった〜♪AHA♪」 藍田   「灰になれーっ!灰になれーっ!」 彰利   「大!爆!砕!ダボーッ!」 藍田   「残影拳!残影拳!」 彰利&藍田『超!裂破弾ッ!!』 ところでOPとはまったく違うことを叫んでいる彼らはいったいなんなのか。 中井出「テレビの中で懸命に踊っている少女たちが可哀想なくらい、     らき☆すたとは関連性のない歌詞だったな」 彰利 「解る人はもうきっと悪いインターネットに毒されとるよ」 藍田 「現実の会話の中でキタコレとか言ってるんだ。キョンくんもがっかりだ」 彰利 「面白けりゃそれでよしとはアタイも思うが、     毒されるのはインターネットの中だけにしてほしいと思う」 藍田 「ネット関係のRPGを代表とした協力プレイ出来るゲームは、     やり続けることで次の症状が見られるようになります」 彰利 「まず、“うは”などを多用します。     これは初心者が熟練者の皆様の話題に入るためにまず使ってみる言葉などです。     もちろん語尾に“w”は定番。     そんな出だしだからこそ、深みに嵌るのも早いネットポイズン。     キターなどと叫びだしたり、テラワロスなどと語り出したら既に深い。     ktkrなどと略語を使うようになったら手遅れです。     ちなみにキタコレと読むらしいですが、     たった四文字打つことさえ放棄するほどの現代日本の略好きっぷり。     OKという文字さえ“おk”と略す徹底した略しっぷり。     何故シフトキーを押しながら二つのキーを押すだけのことを放棄するのかは、     まあ灰になってみなければおそらくは理解できないのだろうし?     理解に至ったら恐らく自分は戻れない場所に居るのだろうなぁと思うわけだが。     はてさて、ウケを狙うためにそういった会話が常になっていき、     そういったプレイを続けることにより───     日常の会話でも平気でキターなどと言うようになってくると末期なわけだな。     それが悪いことかと言われればもちろん悪いことだとは言わないが、     正直引く人も居るので使う場所くらいは考えてほしいものである。本気で」 藍田 「さっきと言ってることが違うぞ一等兵てめぇ」 彰利 「つまりアタイの前では使わないでくださいという万感の意味を込めて」 ……今のインターネットって廃れてるんだろうか。 このDIOが地界で暮らしていた頃は、まだマシだった気がするんだが。 中井出「今の日本ってどうなってんだ?」 彰利 「お?おーお、ひでぇもんだぜ?芸能人のほぼが悪いインターネットに毒されとる」 藍田 「ちなみに悪いインターネットに毒されるという表現は、     涼宮ハルヒの憂鬱のキャラクターソング、倦怠ライフリターンズから来ている」 彰利 「多分今の中井出が“笑いものにしていいとも”を見たら、     もう“なんだこりゃ”の一言だと思うね。なに喋ってるのか解りゃしねぇ」 藍田 「今じゃドラマも毒されている人向けのものが盛りだくさんだしな……。     久しぶりに友情ドラマが見てぇや……」 このDIOが地界から離れてた数十年のうち、地界は随分と変わってしまったそうだ。 そんな中でも俺達の周りのやつらがそう変わってなかったことに、大層な喜びを抱こう。 中井出「まあいいや。それじゃあ俺達ちと出かけてくるから」 彰利 「おろ?子供三人連れてどこ行くん?」 中井出「デデニーランド。スーパージーラを紀裡に見せてくる」 藍田 「見せるだけ?」 中井出「見せるだけ」 彰利 「OK!そげなロスタイムをさせんためにもアタイが転移で送ってやろう!     そしてすぐに帰ってこよう!だって見せるだけだし!」 紀裡 「えぇっ!?そんな……ど、どうせなら遊びたい……」 彰利 「OK!ならばジーラくんのヘンテコっぷりを見て盛大に笑おう!     大丈夫!笑いものにしていいともでも常にやっている遊びだ!」 紀裡 「人を笑いものにしていいなんてこと、ありませんっ!」 彰利 「キャア!?」 あ、怒られた。 紀裡は真面目だからなぁ……俺と違って。 紀裡 「いいですか彰利さんっ、楽しむことはそれは大事ですが。     笑いものになるために仕事をしている人を笑うならいざ知らず、     懸命に働いている人を指差して笑うことは最低です!クズです!カスです!」 彰利 「あ、なるほど。最後あたりが実に原中チックだ」 藍田 「そしてここに今、笑いものにしていいともを嫌う少女が誕生した……!」 彰利 「それは。地界に来て5分未満の邂逅だった」 藍田 「この場合邂逅とは言わねぇだろ」 彰利 「ちなみに中井出が気に入った“イモコ”もそっち側だ」 中井出「なんだと!?公式じゃないのかあれで!」 彰利 「オワッ……ま、まあまあどうどう」 藍田 「まさか“なんだと”と来るとは」 彰利 「よっぽど驚いたんじゃろうねぇ」 いや……驚いたけどさ。声が似てるし。 でも考えてみりゃ、メルトっていう原曲があるんだから公式なわけがなかった。 彰利 「最近はみ〜んな金目当てでスゲェぜ?     少しでも金になる〜とか思うと、すぐに入り込んでくる世の中じゃい。     もはや著作許容など金になれば許そうとか思ってるくらいだと思うね」 藍田 「好きだからこうしてマギカのDVD買ったけどさ。     インターネット上で普通にアニメ見れたりすると、ヘコんだりするな。     金出して買った俺って……って感じで。結局は手元に欲しいかどうかだよな。     別に特典が欲しくて買ったわけでもないし。     どれだけ動画が置いてあろうが、俺は購入する派だ」 彰利 「アタイもだねぇ」 中井出「じゃあもう行くね?」 藍田 「うぉおおおおい!?話の感想とかないのか!?」 スチャッ、と笑顔で手を挙げて、僕はナギーとシードと紀裡を連れて歩きだしたっ……! でもいきなり引き止められた。 むう。 中井出「買うか買わないかの問題だろ?     買うって決めてるなら今更なにを愚痴る必要がある。     胸を張れ藍田二等よ、     貴様がそうしたいと願ったのならそれは貴様の中では決して間違いではない」 藍田 「サンキューサー!」 彰利 「じゃけんど、こういうのって大抵のやつらが言うのよね。     ネットにアップされてんのに買う必要あんのか〜って」 ナギー『よくわからぬが、吼えさせておけばよいのじゃ。     大儀を成そうとする者を見る周囲は、得てして邪魔をすると決まっておる。     おぬしが手に入れたいと思う意思に、他人の野次なぞ関係あるまいよ』 藍田 「おお!ナギ助がいいこと言った!そうだよな!     金出すの俺なんだから、周りがどう言おうが関係ないよな!」 彰利 「そういうヤツに限って、いらんもんばっか買って金が無くなるんだよね」 藍田 「そこんところは弁えてるって。ネット上で違法ダウンロードが盛んな昨今、     金出して買うのがバカらしいとか言う野郎どもに地獄の鉄槌を。     漫画ダウンロードしたり音楽ダウンロードしたりする、     そういうやつが将来漫画家やアーティストになったらどう思うのかね」 彰利 「音楽ダウンはいかんと言いつつ漫画はダウンロードする音楽家志望とか、     漫画ダウンはいかんと言いつつ音楽はダウンロードする漫画家志望とか?」 藍田 「いや……そりゃ逆に性質が悪いんじゃなかろうか……。     まあいいや、うっしスッキリした〜!     んじゃ、そろそろ行ってこいよ。俺またマギカ最初から見るから」 彰利 「歌DVDはもういいってこったね?OK、ほいじゃあ行こうか中井出」 中井出「おう」 彰利がンゴゴゴゴと立ち上がり、俺達の前に来ると早速力を解放する。 ……そうして発動した月空力は、俺達に心の準備もさせないままに転移を実行。 着の身着のままで……まだ開場もしていないデデニーランドへと光臨したのだった……。 【ケース617:中井出博光(再クリング)/デデニージーラ】 とひょぉおおおお…… 中井出「開いて……ないなぁ……」 彰利 「早朝……だしなぁ……」 中井出「そういや俺、デデニーランドがいつ開くかなんて考えたこともなかった……」 彰利 「アタイも……。“行けば開いてる”っていう妙な固定思考が頭にべっとりと……」 失敗した。 さすがに行き当たりばったりすぎたようだ。 だったんだが、 紀裡 「わぁ〜〜〜〜っ……ここがデデニーランドかぁ〜〜〜〜っ……」 彰利 「どおれ明日は大暴れしてやるとするか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」 ナギー『おおお……これはまた面妖な建物よの……。     これは〜……なんじゃ?入れぬのかの?』 シード『そんなもの、柵を越えてゆけばいいだけのことだろう』 子供たちは妙に楽しそうだった。 紀裡の言葉に合わせてマスクドアラジンをやってた彰利は見なかったことにするとして。 彰利 「いやはや、紀裡ッコはまだまだガキャアじゃね。     こっちのこと大して知らんのじゃあしゃあないかもじゃけど。ちっこいし」 紀裡 「人の身体的特徴を指して言う人、嫌いです」 彰利 「逆に好きな男とかっておる?」 紀裡 「…………《かぁあ……》」 中井出「フフフ……今日はオールナイト……だぜ?《ズチャアア……!》」 ナギー『ヒロミツ!?ギガノタウロスの斧を取り出してどうする気なのじゃ!?』 中井出「いや……エデンをエデンに返してこようかと」 彰利 「文字通り楽園にしたらなにも残らんでしょうが!」 中井出「紀裡よ……好きな者が出来たのか?     正直にお言い?そしたら僕も正直にならざるをえん……!」 彰利 「おお黒いぜ中井出。まあ子供ンことは子供ン任せようZE」 中井出「ZEじゃないって。     好き合っていて将来を誓い合ってるなら俺はそいつを殴るんだ!     殴ってから娘を頼むって言うんだ!それが俺の娘が出来た時の夢だった!     ああ、ちなみに。息子が出来た時の夢は、     シードのお陰で着実に消化できていってるからご安心」 シード『父上……!』 中井出「カモンマイサン!」 ひっしと抱き合う今この瞬間こそが美しくも素晴らしい! 見よ!抱きしめたシードを振り回したのちに高く持ち上げ、 回した遠心力を利用して手の上で回転させる妙技! これぞ親子愛!愛の為せる業よ!乙女が持つ48の殺人業にも負けてないと信じたい! あ、キムチラーメン食いたくなってきた。 中井出「じゃあ入ろうか」 彰利 「入ンの!?まだ開いてねェぜ!?」 中井出「大丈夫!これはきっと門じゃないんだ!こう考えるんだ彰利!     ……もし僕がここで超巨大化したとして、ここを通るための一歩を踏み出す。     果たしてこれは門の役割を果たすか?」 彰利 「…………人間で言う、縁石みたいなもんかねぇ」 中井出「な?」 彰利 「OK入ろう!なんだこれ縁石じゃん!」 中井出「そうだ縁石だワハハハハハ!!」 ナギー『……?わははははは!!よくわからんが笑っておくのじゃー!』 シード『わーははははははは!!』 紀裡 「い、いいのかなぁ……」 我ら四人、腰に手を当てワッハッハ。 ひとり、紀裡だけが困惑顔をしていたが、 念願のデデニーに入るということもあって、結局しぶりもせずに一緒にきた。 ───……。 ……。 ぞる……! 彰利 「ギギギー!《カッ!》」 中井出「無駄に輝いてないで進もう、この無人めいた広いコンクリの荒野を」 紀裡 「誰も居ない……ね」 ナギー『のうヒロミツ?ほんにここで“さばと”とかいうものをやるのか?』 中井出「ククク……ナギー、今静かなのは周りを油断するためのカムフラージュなのさ」 ナギー『お、おおお……!彼奴らめ、本気なのじゃな……!?』 マジな目をしてニヤリと笑いながら、無駄に顎の下辺りをグイと拭うナギー。 なんというか……まあ、可愛いもんである。 シード『そのサバトを実行しようとしている奴らに、僕たちは会いに行くのですか?』 中井出「う、うむ……!ヤツの名はジーラ……!バイオレンス・ジーラだ……!     デデニーランドを根城にし、己の容姿やそれに似せた食物、アクセサリ、     おもちゃなどなどを駆使し、民たちを混乱の渦に巻き込ませては金を巻き上げる、     地界きっての大魔王なのだ……!」 ナギー『だ、大魔王じゃと!?』 シード『そんな!まさかそんな存在がこんな場所に居るなんて!!』 毎度思うんだが、本当に素直な子供たちである。 両脇に居る二人の頭を思わず撫で繰り回してしまうほどだ。 ナギー『わぷっ……な、なにをするのじゃヒロミツ!』 シード『父上、なにを……』 中井出「こんな場所、だからだシードよ……!ヤツの正体は機密とされており、     この場で働く者たちは皆、契約書にサインを強要されるのだ……!     ジーラの正体は秘密………………っ!貴様の命より……重い、と…………っ!」 ナギー『う……《ゴクリ……!》』 シード『な、なんという徹底した存在だ……!』 彰利 「それってアレっしょ?     ミ○キーと同じで正体は話さないようにしてくださいってやつ。     ランド自体にゃマジでミ○キーは一体ぽっきりで、     彼奴めは専用の通路を使って瞬間移動しているようにみせている。     そんな彼奴めの中身は国家機密で、     バラしませんというサインをまず書かされる筈だ」 ナギー『なんとな!?この世界にはジーラのほかにミ○キーという魔王までおるのか!』 彰利 「エ?───……イエス!!《グッ!》」 中井出「《グッ!》」 二人には見えない場所で親指を立てる僕と彰利。 これでミ○キーは魔王扱いだ。 ああ、加えて言っておくが、ミルキーでは決してない。 こんなことをするまでもなく、ある意味著作の世界では元々魔王的存在ではあるわけだが。 中井出「さて〜……ヤツは何処かな」 彰利 「メイク室に違いねぇ。内部に侵入しようぜ」 中井出「それだ」 ナギー『それはどんな場所なのじゃ?』 中井出「ジーラが正体を見せたりスーパージーラになったりする場所だ」 シード『機密の本拠ということですか!?』 中井出「ククク、我らがその正体に迫るのだ。どうせ我らはこの世界では死した身。     風貌がバレようがどうしようが、見つかる理由がない」 彰利 「黒いねキミ」 中井出「黒いのはお前だ」 彰利 「いやてめぇえの方が黒いって」 中井出「や、黒はお前だろ?」 彰利 「だから黒いって言ってんでしょうが!」 中井出「黒はお前だって言ってるだろうが!」 警備員「お前ェエエエ!!そこでなにをしているゥウウウウウ!!」 中井出「ヤベェエエエエエエエエ!!     デケェ声出しすぎたァアア!!」 彰利 「その声がでけーよ!この声もでけー!!」 そしてあっさり見つかる僕ら。 寂れてるからと油断しすぎた。 シード『や、ヤツは何者ですか父上!』 中井出「ケイ=ヴィーインという、大魔王の手先だ!」 彰利 「うおおなにその名前無駄にカッケェ!」 ナギー『ヴィーインというのか!おお、見たところただの凡人のようにも見えるがの!     ヒロミツの例もあるのじゃ!油断するでないぞよシード!』 シード『言われるまでもないっ!』 中井出「彰利!紀裡を頼む!」 彰利 「おうっ、任せとけっ!《バサァッ!!》」 紀裡 「ひゃあっ!?」 彰利がマントで紀裡を包む。 ……っていつの間にマントなんて!? 彰利 「ああこれ?ダークネスフロント。     鎌としての機能をもう果たせないから、マントにしてるの。     出し入れ簡単、便利に収納。ステキで黒いぜマントさん。     死神はやめたが、実はアタイマントは好きなのよね!」 中井出「デスティニーブレイカーは」 彰利 「篭手と具足に織り込まれてるぜ〜〜〜っ!!」 中井出「そうか!では行こう!」 彰利 「そうかってそれだけ!?もっとアレはなんだとか訊いてくれんの!?」 中井出「アアッ!アレはなんだ!」 彰利 「ジーラの絵が描かれた看板」 中井出「……な?」 彰利 「なにが!?」 追るケイ=ヴィーインから逃げ出す。 ヒロラインで立派な成長を今も続けている我らにとって、 もはやケイ=ヴィーインの追跡などとるに足らん! そういう意味では紀裡が一番心配になるのだが、紀裡は彰利のマントの中だ。 時々マントからひょこっと顔を出して遊んでるくらいの余裕。 ……どうなってんだろうなぁあのマント。 ドラえもんのポケットみたいなもんか? 中井出「それって溶かされたりしないのか?」 彰利 「黒の霧の密度あげてるだけだし。収納場所がなくなったダークネスフロントが、     ニーベルマントルと融合したようなものと考えてください」 何故突然丁寧口調? 中井出「つ、つまり破壊鎌は武具に、蝕闇はマントになったというのか〜〜〜〜っ!」 彰利 「お、概ねそんな感じだ〜〜〜〜っ!!」 ナギー『おぬしら余裕そうじゃの』 中井出「逃げるだけならヤツには負けん」 彰利 「ケイ=ヴィーインは凶悪な武器を持っているが、足だけは遅いのだ」 シード『そんな弱点があったのか……』 そんなわけで、10秒もしない内に撒いた。 振り返ってみても、ぐったりと倒れて呼吸を荒げているヴィーインが居るだけだ。 中井出「あの子、きっと恋しているのよ」 ナギー『じ、地面にか!?物凄い男なのじゃなケイ=ヴィーインとは!』 中井出「う、うむ……やつは大地と契りを交わし、大地よりモゴモゴと産まれてくるのだ。     なもんだから、ついたあだ名がサイバイマン」 シード『《ゴクリ……》お、恐ろしい名前だ……!』 彰利 「そうかえ?なんかもう哀れにしか見えねぇんだけど。中井出の所為で」 名前だけは無駄にカッコイイのに……と続ける彰利。 ヒロラインと違い、少し走っただけでも多少は疲れる世界の中、 軽く弾む程度の息を整えながら歩調を緩めてゆく。 そうしてから改めて、彰利が口にする。 彰利 「で、あのヴィーインどうすんの?」 ナギー『人の恋路を邪魔するなぞ野暮じゃぞ、ツンツン』 シード『きっとヴィーインはこれから大地と契りを交わすんだ。     他人の契りは他人が見ていいものじゃないと聞いたことがある。捨て置け』 彰利 「……やべぇ、なんか泣けてきた」 中井出「いやあの……正直すまんかった」 届きはしないだろうが、倒れている男に静かに謝った、とある朝の日の出来事だった。 ───……。 ……。 マカァーーーン!! 彰利 「俺、今とっても輝いてる!!《ギシャアアアア!!!》」 そんなわけで内部だ。 とあるアトラクション……というわけでもまあないんだが、 パレードともまた違った……そうだな、喩えるならミ○キーが登場しそうな高いところか? 名前知ってるやつが居たら是非教えてほしい。 ともかくそんな高い場所からンゴゴゴゴと登場した彰利が、月醒光を使って輝いていた。 人が居ないからってやりたい放題だな俺達。 彰利 「おーい中井出ー!この下に通路みたいなのがあるぞー!     多分大魔王ジーラの巣へ続く場所だ!」 中井出「なんだってぇえええーーーーーーーっ!!?」 ナギー『お、おおっ!?ついに大魔王が住まう場所を見つけたのじゃな!?』 シード『ち、父上……僕らの力で敵うのでしょうか……!』 中井出「ウ、ウゥム……!正直この博光も震えておるわ……!     なにせ全世界がその正体だけは探るまいと沈黙する大魔王。     その正体に迫ろうというのだ……私は怖い」 ナギー『ヒ、ヒロミツ……!』 だが、だからこそやりがいがあるというもの。 怖かろうがついやってしまう……これ、人間のサガ。 中井出(…………あれ?) 俺……ただ紀裡にジーラくんを見せにきただけじゃなかったっけ。 中井出「………………男なら、博光よ。やってやれだ!」 もうどうなろうが構わん!むしろ転んだ方向で楽しもう! 大丈夫さ!僕には僕を慕ってくれる子供たちが居るのだから! 中井出「さあ行こうナギー、シード……今最大の戦いが始まろうとしている。     いいな、逃げると決めたらなりふり構わず逃げろ。俺もそうするから」 シード『戦わないのですか……!?』 中井出「シードよ……もはやそんな次元の問題ではないのだ……。     この博光の戦闘能力が100だとすると、やつの能力は53万……!     ヤツは変身するたびに能力が上がり、     さらにまだその変身を3回も残しているのだ……!」 ナギー『な!なんじゃと!?ほとんどバケモノではないか!』 中井出「外見に惑わされるな……!いいな、絶対にだ!     攻撃をするな、まずは様子を見る……!」 シード『《ご、ごご……ごくり……!》は、……っ……はい……!』 ナギー『…………っ』 シードが震えながら息を飲み、震えるナギーが俺にしがみついてきた。 ……アレ?遠まわしに中の人に迷惑かけないようにねって言っただけなのに、 なにかが大きく間違ってしまったような……。 んー………………面白そうだからOK! 中井出(さあ行こう……彰利が……紀裡が待っている!) こうして僕らはただ会いに来ただけだったジーラくんを完全に大魔王に仕立て上げ、 高い位置にあるジーラホールを降り、中へと侵入していったのだった……。 【ケース618:中井出博光(再ボーグ009)/超ジーラ】 カサ……コササ……ザムザム…… 彰利 「ウヌウ……薄暗いな……」 中井出「ああ……まるでダンジョンだ」 彰利 「エ?オ、オウヨ。     ……つーかキミ、意地でもジーラくんを魔王に仕立てる気じゃね?」 中井出「あの……なんかもう引っ込みつかなくなってきたもんで」 カタカタと震えるナギーとシードは、この博光の片腕ずつにしがみついている。 お陰でどうにもこうにも進みづらい。 ……と、ここでなにやら鼻腔をくすぐるいい香り。 ナギー『な、なんなのじゃ?よい香りがするがの』 彰利 「きっと魔王が人を焼いて食っているのだ!」 ナギー『ひっ……!な、なんという魔王じゃ!人を食うとは!』 中井出「ヤツは偏食で有名なのだ……!     好物は精霊の丸焼きと、小魔王の踊り食いと聞く……!」 シード『っ!《びくぅっ!》おっ……お、踊り、食い……!?』 ナギー『あわ、あわわわ……!まま、丸焼き……丸焼きにされるのか……!?』 中井出「いいな……?この博光は貴様らをむざむざ死なせたくはないのだ……。     だから姿を見ることが出来たら迷わず逃げるのだぞ……決して振り向くな」 ナギー『わわ、解った、のじゃ、じゃー……じゃ……じゃうう……』 震えている所為で舌が回らないのか、ヘンな声を出すナギー。 ううむ、いよいよ引っ込みがつかん。 ここはやはり見たあとすぐに逃げるようにせねば。 下手したらなにかの拍子で攻撃を加えてしまうかもしれないし。 紀裡 「………」 彰利 「おーい中井出〜、紀裡っ子が竦みあがっておるよ〜?」 中井出「…………」 しまった。 楽しい場所だと信じていた筈の娘に嫌な印象与えちまった。 中井出「紀裡!貴様にこの先が怖くなくなる処方箋を授けよう!     いいか!?掌に“たこぶえ”と書いて飲み込むんだ!」 彰利 「そっちの方が怖ェエエエよ!!」 紀裡 「うう……た、たこぶえ……《ス、スス……ゴクッ》…………怖い」 そりゃそうだった。 大体そんなので恐怖心取り除けるなら、 俺なんてやってもやっても足りないくらいの大冒険をしてきましたよ? シード『ち、父上……』 中井出「ウヌ!?」 ぐい、ぐいと引かれる服。 それで気づいた……いつの間にか通路は終わりを迎えていて、 歩みを止めた先の部屋にはドアがいくつか存在し、 ひとつのドアの先でどすんっという音が───! ナギー(──────!!!ひぅううう!魔王じゃ!ヒロミツ!魔王じゃああ!!) その音にストレートに反応したナギーは、抱きついた腕にさらに力を込めて震えあがる。 小声で話してくるのは実にナイスだ……よくぞ耐えた、ナギーよ。 中井出(う、うむ、間違いない……!あそここそが大魔王の巣窟……!     あそこできっと権田さんが魔王に変身しているのだ……!) シード(ご、権田さん……?) ドアに書かれた“権田様”の文字が眩しかった。 きっとフルネームは“ゴンダ=たこぶえ=ジーラ”に違いない……! 中井出(覚悟はいいか、者どもよ……!) 彰利 (任せろ) 中井出(ナギー、シード、恐ろしければ彰利のマントの中に入っているのだ。     怖いことは恥ずかしいことではない) ナギー(うぅ……そ、そうさせてもらうのじゃ……) シード(申し訳ありません、父上……) さて、ゴクリと皆様が息を飲み、入る者はマントの中に便利に収納状態の昨今。 ソロリソロリと近づいたドアへと手を伸ばす……こんにちは、中井出博光です。 いろいろ煽った所為か、俺まで無駄に緊張状態なのがもうどうしたらいいやら。 いいやもう楽しんでしまおう。 それが我らの原ソウル。 中井出「そいやぁあーーーーーっ!!」  ガチャドバァーーーン!! 彰利 「!!」 中井出「───!」 掴んだドアノブを一気に引いて開け放つ!! 前に押す式のドアだったようで引っかかったが、もう無視でSTRマックス! そうしてゴバァンと破壊されたドアの先には、一体の生き物の影が……!! 彰利 「ジ、ジーラ……!間違いねぇ……しかもあれは……!」 中井出「す……す、すすす……スーパージーラだぁあーーーーっ!!」 見つけた! 見つけてしまった! ジーラだ!生ジーラ!しかもスーパージーラだ! スーパーとノーマルの違いはだって!? そんなのアルティメット悟飯が スーパーサイヤ人になろうとしないのと同じくらいどうでもいいことさ! きっと猿だからって理由でスーパーがつけられたに違いねー! 超ジーラ『おわぁっ!だ、誰───ハッ!?      キ、キミタチなにモンキー!?勝手に入ってきちゃダメモンキー!』 ナギー 『ひぃっ!しゃしゃしゃ喋ったのじゃあああーーーーーーーっ!!!』 シード 『み、見ろ!あそこで肉が焼かれている!あれがきっと人の───!!』 紀裡  「う、うわぁああああああん!!怖いよぉおおおーーーーーーっ!!!」 子供たちが泣き出した! そんな中でもキャラクターを作っていた権田さんに、僕は涙しながら敬礼していた。 ……彰利も同じ気持ちだったらしい。 ジーラくんは、たとえ中身が権田さんでも必死にジーラであり続けようとしてくれたのだ。 だがここまで来たらやるっきゃない! 俺は彰利にアイコンタクトし、行動を促す。 それを受け取った彰利がニコリと笑い、レヴァルグリードの力の片鱗を解放する! ナギー『ひぅうっ!?か、体が……体が強張って……う、ごかん、のじゃ……!』 シード『こ、これは……恐怖……!?そんな……僕が怖いだなんて……!』 紀裡 「ひっ……ひくっ……うく、ぅう……!!」 OKみんな怖がってる! 作戦は成功だ! 中井出 「知るのだ子供たち……!これがジーラの戦闘力だ……!      しかもヤツはまだ変身を3回も残している……!」 子供たち『……!……!《ガタガタガタガタ……!!》』 子供たちは既に恐れることしかしなくなっていた。 ……ありがとうジーラ。 あなたはそのステキな格好で、子供たちに“怖さ”というものを教えてくれた。 超ジーラ『ここは勝手に入ってきていい場所じゃないモンキー!さ、外に出るモンキー!』 中井出 「うおおおおおおおお!!」 彰利  「とんずらぁあああああっ!!!」 超ジーラ『モンキー!?』 ズチャッ……と近づいてきたスーパージーラから全力で逃げ出す! 大層驚いていたが無視だ!形振りなぞ構うな! 俺達は知ってしまったのだ!権田さんの名を! 顔は見れなかったが彼は権田・ザ・ジーラなのだ! 知ったからには周りが黙ってはおるまいよ! 彰利 「中井出中井出!転移するから捕まれぃ!」 中井出「───!だ、だめだ!前に人影が!」 彰利 「なにぃ!?ゲゲェマジだ!お、おのれ大魔王め!なんと手回しのいい!」 ナギー『け、ケイ=ヴィーインなのじゃ!』 シード『それもあんなに……!こ、ここまでなのか……!?』 紀裡 「ごっ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!     わたしがっ……わたしがこんなところに来たいだなんて言ったから!」 彰利 「………………紀裡ちゃんはエエ子やのぅ」 紀裡 「え───え……?」 彰利がとろける笑顔で紀裡の頭を撫でた。 うむ、気持ち悪いが気持ちは解る。 中井出「紀裡よ、パパたちに任せなさい。むしろ彰利に任せなさい。僕弱いから」 彰利 「強ェエでしょうが!───っとホレいくぞ中井出!」 中井出「うーらどっこいしょぉおっ!!」  どっかぁーーーん!! ケイ=ヴィーイン「ぐぎゃああーーーーーっ!!!」 ぶちかましと蹴りとで突破口を開く! 吹き飛ばされたヴィーインに巻き込まれて倒れるヴィーインに目も向けず、ただ只管に! ケイ=ヴィーイン「待ちなさい君達!まさか中で───見ていないだろうね!」 中井出     「見た!!」 ナギー     『わぁヒロミツ!なにも正直に言うことなかろ!!』 ケイ=ヴィーイン「見ただと!?ま、待て!」 シード     『見たと言った途端に雰囲気が変わった!          これがヴィーインの本性……!!』 中井出     「うむ!やさしい声に騙されて近づいた者を溶かして食うのだ!」 紀裡      「う、うわぁああん!!」 彰利      「カオスな街である」 いやなんかもうなにしに来たんだか解んねぇ! ただジーラくんの中身の名前だけは覚えておこう……そう思いました。 【ケース619:中井出博光(粉砕玉砕大喝再)/ずっと俺のターン!】 はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ!! 中井出「き、危機一髪でしたね!」 彰利 「や、そのネタ解る人って案外少ないと思うわ」 そんなわけで月詠街。 さんざんっぱら走った挙句、気がつけば俺達はここに立っていた。 時間にしてみりゃ30分も経っちゃいない。 時は未だに朝よ!見よ!ジョギングする人々の姿を! ナギー『うう……うあぁああああんヒロミツーーーーーッ!!!     こここ怖かったのじゃあああーーーーーーっ!!!!』 シード『ちっ……父上ぇええーーーーーーーっ!!!』 中井出「《ガヴァーーーッ!!》おわぁあーーーーーっ!!!」 サム、とジョガーたちを手で促した途端に襲い掛かられた!! ぬうよもや!この二人がこの博光の隙をこんなにも狙っていたとは! 中井出「ブタ肉マン謹製!ダブルマッスルバスター!!」 だが負けぬ! 腰に抱きついてきた二人の首根っこを両脇で捕らえ、ぐりんっ!と高く持ち上げる!! 彰利 「アアッ!あれはカオス……いや、ブタ肉マンが使ったダブルマッスルバスター!」 ナギー『させぬわーーっ!!』 中井出「《グワァキィ!》な、なにーーーっ!!?」 シード『隙ありです父上!』 中井出「《グワァキィ!》グワラァ……!」 我が手を逆に掴み返してきたナギーとシードが身を捻り、 なんと三角絞めを───あ、やばい。 ナギー&シード『雷三角絞めーーーーーーっ!!!』 中井出    「《ガァキィッ!!》───《ガクッ》」 彰利     「落ちたーーーっ!ロビンがーーーっ!!」 勢いよく絞められた頚動脈が血流と酸素汲々を止めた! 途端に真っ白になる目の前! ……グ、グフフ……強くなったなぁナギー、シード……。 この博光も老いておったわ…… まさか泣いてたと思ったらいきなりこう返してくるとは……。 ───……。 ……。 ………………、………… 声が聞こえた。 誰の声だかは解らないけど、人じゃないことだけは解った。 ファフニールが熱い……人外の声を俺に届かせるために、頑張ってくれているのだろうか。  「……、……」 声が聞こえる。 聞き覚えはもちろんない。 ない筈なのに、どうしてかそれが懐かしいと感じた。  「……、か……」 ……カナブン? もしやキミは僕が昔、傷を負っていたところを助けたカナブン!?  「……、か……」 ごめんなさい冗談です。 じゃあ誰?……OK、ここ現実じゃないね? 任せとけ!こう見えて俺は状況確認の達人!  「…………」 そして君は……足音から伝わる体重55.3キログラム。 風の動きから伝わる筋肉の形状……発達途上のハイティーン。 前髪は短く毛は細い。 そして呼吸音から伝わるのは……懐かしい教え子(・・・・・・・)のものだな。 ……元B組の芹名ボッカ君だね?  「…………」 あれ?違う? ……ごめん、解らん。  「……、が、足りない……」 足りない?───女性の声……足りない……───胸か!!  「………」 ち、違いますか。  「……想いが……足りない……」 ───お?想い? 聞こえたと思ったら想い?  「あの子に……届かない……。届けてあげたいのに……届かない……」 ……?声がだんだん鮮明になってきてないか?  「ごめんなさい……あなたの剣に宿る想いを……」 ……あれぇ!?もしかして吸い取ってる!? ジークに宿ったボクラの想いを吸い取ってる!?  「……感謝する。これで、届かせることが───」 今度は男の声!? ああもう訳がわからーーーん!! 店長ォオオーーーーッ!!店長を呼べェエエエーーーーッ!!! ───……。 ……。 がばぁーーーーっ!! 中井出「イ゙ェアアアア!!」 声  『はぎゃーーーっ!!』 …………、……あれ?ここ、何処? ナギー『…………びっくりしたのじゃ』 中井出「む?」 起き上がってみれば、すぐ傍にナギー。 よく解らん状況だがとりあえずはだ。 中井出「やあ」 ナギー『やあなのじゃ』 やはり、挨拶でしょう。 それも済んだところで、俺は辺りを見渡した。 あたりといっても随分と狭い場所だ。 しかもごつごつしてる。 けど体の下はフカッとモフモフな感じで……あ。 中井出「晦神社のご神木か……」 ナギー『うむ、ツンツン頭がそう言っておったの』 疑問を浮かべていたら、ご神木さま自体が教えてくれた。 それじゃあさっきのってご神木さまが? …………違うなぁ。感じる雰囲気っていうのか?それが全然違う。 さっきのは確かに人間じゃあなかったけど、人に近いものだった。 魂とまではいかない、思念みたいなもの……か? 少なくとも植物とかから感じるものじゃあなかった。 うん、人に近い。 でも……なんだったろーなぁ。 どっかで聞いた声だった気がするんだけど。 中井出「よっ……と」 起き上がって伸びをすると、緑のいい香り。 夏に相応しい蒼い香りが体に染み渡り、体に溜まった疲れを癒してくれた。 こんな場所なのに虫もおらず、珠がなければ入れない筈だったそこは、 俺が近寄るだけで密集した枝がよけて道を作ってくれる。 ……自然と契約する意味を、改めて知った気がした。 ナギー『場所にもよるが、この世界の自然は素直じゃの。     この神木は気絶しておるヒロミツを見るや、     すぐに連れてこいと言ってくれおったぞ』 中井出「謝謝」 大樹の部屋から出るや、向き直ってお辞儀して……返ってきた声に頬を緩ませた。 なんだか照れくさい。 自然ってのは人間よりもよっぽど素直に言葉をくれる。 だから、送られる感謝があまりにもストレートでくすぐったい。 感謝したいのは俺なのにな。 中井出「ではいこうか、ナギー」 ナギー『何処へじゃ?』 ひょいと抱き上げたナギーを肩にセットイン。 それから上部の方だったらしい部屋の淵から跳躍して石畳に降り立つと、 歩きながら“適当に”と言った。 中井出「んん〜〜〜〜〜…………っはぁあ〜〜……相変わらず空気いいなぁここは」 景色もいいし、雑音が聞こえない。 これだけ高いともう仙人にでもなったみたいな気分で暮らせるだろうな。 悠介 「お?起きたか」 中井出「……ありゃ晦。お前どしたの、こんなところで」 悠介 「ん?あ、いや……はは。     せっかくの休みだし、久しぶりに神主みたいなことしてみたいかな、って。     やっぱり落ち着くんだよな、前世のこと抜きにしても」 こういう場所での生活が、だろうか。 それとも神主の仕事が、だろうか。 どちらにしろ掃除をこんなに気持ちのいい笑顔でするヤツを俺はあまり知らない。 ……っと、晦で思い出した。 中井出「なぁ晦。さっき空界に行った時に見たんだが……空界にアイルー種って居るか?」 悠介 「アイルー種?いや………………あ、いや待て。一度だけ文献で見たことがある。     知っての通り、空界には猫とか犬とかっていう家畜が居ない。     まあ居るところには居るが、今は居ない方向で進めよう。     そんな世界だから猫、なんてのは本当に希少種族みたいなもんでな。     むしろ世界に一匹とまで言われてるくらいの猫のことが、確かに文献にあった」 中井出「へぇ……で、なんて猫なんだ?」 悠介 「名前はつけられてない。なにせ見たのが一度だけらしいし、     もうずっとずっと昔の話らしいからな。     体毛は茶色と黒。細身で、背中には翼が生えている。     動きは……文献によるところ、猫そのものみたいだ。     猫そのものだっていうのは俺の主観だが、間違いじゃないと思う」 やっぱり翼は生えてるのか。 けど……ずっとずっと昔の話ってどれくらい前なんだ? 悠介 「文献ではそこまでだが、ニンフたちの話じゃ───もうずっとずっと昔。     ノヴァルシオが大地に落ちるよりも前の頃……     そうだな、レヴァルグリードが空界に降りた頃あたりから、     ずっとあの森に居たらしい」 中井出「うえっ!?ってちょっと待て!寿命はどうなってるんだよ!」 悠介 「不老不死、なんだとさ」 中井出「うーおー……どの世界でも聞くことはないんだろうなあとか思ってたのに」 ここに来て不老不死か。 ついに来やがったか、って感じだ。 中井出「どんな猫なんだ?コンタクトは成功したんだからそれくらいは───」 悠介 「自分の過去が消滅してるんだとさ。     なにも知らないまま、何千もの時の中をあの森で生きてきた。     ゼットが狭界から召喚された時も、ノヴァルシオが落ちた時も。     癒しの大樹だった時も迷いの森になった時も、ずっとそこに居たって聞く。     全部が真実かは解らないが」 中井出「うへぇ……あ、名前は?」 悠介 「過去が無いんだと。俺達の間じゃあ“時を忘れた猫”って呼んでる。     寿命もなくて老いることもなく、自分の過去がないし、未来にかける情熱もない。     そんなだから、時ってものを忘れた猫って呼んでるんだ」 時を忘れた猫か……。 出会えた俺は運がよかったのだろうか。 正直……それは考えもしなかったため解らずじまいだったから、 中井出「よし!猫のことが聞けたことだし、俺は自然の手入れをさせてもらうぞ!」 悠介 「へ?あ、いや、俺がやりたいんだが……」 中井出「ポピーーーーーー!私は摂政だぞ!私がやると言ったらやるのだぁ〜〜ぁあ!!」 ともあれ、新たな目的が決まった。 この広い神社の裏手……滝つぼよりさきにある山々の緑をさっぱりと! ……え?ええ、もちろんSTRとAGIに振り分けてである。 さて、高速で自然にご奉仕だ! 中井出「ちなみにシードと紀裡と彰利は?」 悠介 「ああ、彰利が久しぶりに屋根裏部屋入ってって、     メイドさんのなんたるか教室を開いてる。     あれは当分止まらないから近づくのは危険だ」 中井出「そ、そうか……」 だったら丁度よかった。 速度と力に合わせようが、なにせ山の木だ、時間がかかるだろう。 だからちょっと余裕もってやってみよう。 気力がどうとかより、自分が充実してるかだね、俺の場合。 さ、始めますか。 Next Menu back