───魔王と聖王の法則/とことんいつもの風景───
【ケース622:中井出博光(再色兼備)/マグベストル日和】 コチャッ……キィイ…… 蒼空院邸の正門を開く。 鉄格子みたいなそれを押し開く時、なんていうかドキドキする。 お金持ちの家に入る時の感覚かな。 ふ、不思議だね、僕の家じゃないのに。 や、僕の家じゃないからドキドキするのかな。 中井出「しっかりするのだシード、紀裡……。そんな、お天道様の下で     メイドさんメイドさん呟いてたら民の視線がイテーイテーだよ……?」 いや、痛かったのは僕だけですね。 正直つらかったッス。 と、悲しみに暮れていたとき、 中井出「……?」 声が耳に届く。 危険だよ危険だよって、自然の声が。 危険?なにが───ア。 リオナ「きぃいいさぁああまぁあああああ…………!!!     人に外に出ていろと言っておいて何故外から来るかぁああ…………!!」 …………。 中井出「あのー、ここでなにやってんですか?」 リオナ「それが遺言か」 ブチャア!となにかが切れる音を聞いた気がした。 しかも物凄い笑顔だった。 ───って思い出した!そうだよそう! カレーのライスの盛り方であーだこーだ言ってたんだっけ! リオナ「戦いを前に逃げ出していたのか!なんという情けない!」 中井出「失礼な!俺は表に出ろと言っただけで闘うとは一言も言っておらんわクズが!!」 リオナ「なっ───なぁああんだと貴様あぁあああああっ!!!」 ナギー『ヒロミツ、それでは火に油を注いでるだけであろ』 中井出「僕、焚き火が好きなんだ」 とはいえ問答無用で式を編んでる目の前の人をどうしましょう。 シードと紀裡はナギーに預けて離れててもらうとして─── リオナ「目にもの見せてくれる!お前らがヒロラインとやらで遊んでいる中、     わたしたちは死に物狂いで腕を磨いてきたのだ!     その成果を今《バペェン!》はぶぅっ!?」 烈風脚で近づいてビンタしてみました。 中井出「フォフォフォ、隙ありですぞ、嬢」 リオナ「な、な……な……!?《ベパァン!》はぶぅ!」 中井出「フォフォフォ、驚いているところも隙ありですじゃ」 リオナ「貴様《トパァン!》はぶっ!」 中井出「フォフォフォ、わざわざ睨みつける暇さえ隙ありですぞ」 リオナ「このっ《パァン!》はぶあっ!」 中井出「フォフォフォ、式を編む時間すら隙ありですじゃ」 リオナ「くあぁああーーーーーーーっ!!」 中井出「《ばごぉ!!》ゲファーーーリ!!」 散々ビンタしてたら、編んでいた式を中断していきなり殴りかかってきた!! 頬を殴られた拍子にたたらを踏んだ俺は自然と距離を取るカタチとなり、 その隙にリオナ嬢は式を編み始めた。 中井出「死に物狂い……実に笑止千万!!これで貴様は既に何度も死んでいたわ!」 リオナ「フンッ───お前に人を殺すだけの力があればの話だろう!」 中井出「うむ!まったくもってその通り!で、えーと……大盛り食べる気になった?」 リオナ「…………そ、そんなことはない」 中井出「……今ちょっと考えなかった?」 リオナ「考えてない!!話を逸らそうとするな!戦いの最中だろう!」 中井出「いや、根本は大盛りかどうかだし、戦いたくないから断る」 リオナ「───?怖気づいたのか」 中井出「うん僕怖いから許してじゃあ行こう」 リオナ「あからさまなウソだな貴様!」 中井出「だってウソだもん!!」 リオナ「かっ……この!悪びれもせず!」 リオナ嬢が編み終えた式から光弾を放ってくる! 僕はそれを───あ、ダメ。魔法じゃないから跳ね返せないや。 ならば見せてやる!リーダーうるさい! 中井出「うるさい」  パゴォン! リオナ「なぁあーーーーーっ!!?」 飛んできた光弾を手でパコーンと払った。 ……光弾がお空の星になった。 中井出「さあご飯を食べよう。朝ご飯は一日の頭のエネルギーの素になるんだよ?     みのもんたも言ってたんだから」 リオナ「そんなやつは知らない!続きだ!     貴様のその背の武器は飾りか!?ならば無駄に大きいだけのデクだな!」 中井出「……この口調の人ってどうしてこう血気盛んなんだろう……」 穏やかな日にしたいから、今日ばかりは平和に解決したかったのに……。 だがランドグリーズをデクと呼ばれちゃ黙ってられん。 別に俺のことどう言おうが構わんけど。 中井出「ならば見せてくれよう……     圧倒的だといいなぁと心の底で思っているこの博光の武具の力を……」 晦家から飛ぶ際に、ジークとともに転移させたランドグリーズを地面に突き刺して構える。 や、突き刺すつもりはなかったんだけど、そうせざるをえなかったというか。 中井出「散れ。───千本桜」 ジークに宿るテオスラッシャーに、然の属性を込めて散らせる。 それはまるで桜吹雪のように桃色の粉塵となり、 今日という日に吹く風に流されるように動き、リオナ嬢に襲い掛かる!! リオナ「な、んだこれは《ヂュゴォオオゴゴゴゴォオン!!!》」 リオナ=マグベストルの奇妙な冒険───完。 リオナ「か、かか……」 粉塵が剣に戻る頃、彼女が立っていた場所にはボロボロの彼女が転がっていた。 そんな彼女の傍に寄り、一言。 中井出「これが我が武具の力よ。俺を馬鹿にするのは一向に構わんが、     武具を馬鹿にすることはこの博光が許さぬわグオッフォフォ……!!」 リオナ「《キュバァンッ!》───まだだ!《バゴドゴォンッ!!》ぶはぁっ!?」 回復の式を編んでいたのか、 急に回復して襲い掛かってきたリオナ嬢の顔面を容赦なく殴り、 それだけではなく地面に向けて叩き落した。 バウンドする体が、その威力を物語っております。 リオナ「ぎ、が……は……!」 中井出「ワハハハハ馬鹿めがぁあーーーーっ!!     敵にトドメを刺すまでこの博光が油断をすると思うたかぁあーーーーっ!!」 ナギー『お、おお……さすがはヒロミツよの……。女相手だろうが容赦無しなのじゃ……』 中井出「……お前は強かったよ。でも間違った強さだった……」 ナギーの感心を他所に、鼻血を流しながら倒れる彼女の傍らに膝をついて一言。 それを聞くや、リオナ嬢がワナワナと震えだす。 リオナ「ふざ、けるな……!誰が貴様なんかに……!誰が……!     こんな筈が……!わたしの努力は……───、ぐ……!」 頭を打ったからだろうか。 どうにも上手く動かせないらしい手を動かして、近くにある俺の脚をポコリと殴ってきた。 僕は……その姿を素晴らしく思います。 中井出「貴方は素晴らしい!ボロボロになっても攻撃をやめないその姿勢!実に素敵!     篠瀬さんみたいに殺せとか言わず、ルナ子さんみたいにふて腐れるだけでもなく!     おお!あなたは闘者だ!素晴らしい!」 リオナ「っ……馬鹿に、しているのか……!」 中井出「あれぇ!?え……えぇ!?あの僕感心してるんですけど!?いや本気で!     だって僕の知る強者ってみんななんか悟っててさ!     少し自分に都合が悪くなると殺せとか好きにしろとか!     なのに貴様はボロボロでも攻撃してくるもんだから、感動すら覚えたのに!」 死神だのの、死とは少し離れた存在じゃないからこそ、 一度の命に誇りを持っているんだろう。 だから懸命な努力が砕かれるのは悔しいし、命ある限り抗おうとしてきたのだきっと。 僕はそんな生き様が素敵だと素直に思ってたんだが…………あれぇ……? なにがどこで間違ったんだろうなぁ……。 中井出「とにかくね?みんなに言いたいことだけどさ。     相手が人間だからって油断しまくると、俺みたいなやつにつけ込まれまくるよ?     つけこまれてからじゃあなに言ったって後の祭りなんだから。     そして僕はそんな貴様らの裏を掻いてボコボコにするのが楽しみの一つです。     恨むなら、相手だけではなく、     相手の武具のことも視野に納めなかった自分をお恨み……?《キュポッ……》」 リオナ「な……にっ……!?き、さま……なにを───やめ……やめろおぉおおおっ!!」 彰利印のマジックペンを取り出した僕は、動けないリオナ嬢の額にまず肉を描き始めた。 それから髭を書いたり眉毛を太くしたり……。 叫び続けるリオナ嬢の声が、今は最高のスパイスです。 中井出 「今日の俺は紳士的だ。運が良かったな」 リオナ?「いい、ものかっ……!最悪だ、貴様は……!!」 思わず認識内に疑問符が出るほどに、既に別人と化していたマグベストル(姉)。 うーむ、実にウロタトモカーオ。(芸術的爆発) 中井出「おお!最悪の僕でいてほしいのか!では腹に腹踊りのおっさんの顔を描いて、     顔には泥棒髭を!頭にはもっさりブリーフを!それからそれから───!!」 リオナ「わぁああああやめろぉおおおおおおおおっ!!!!」 ……。 …………。 リオナ「ぐすっ……ひっく……うぇええ……!」 ……泣いてしまった。 散々抵抗しようとしてたんだが、動かない体じゃどうにもならなかったらしい。 誰のとも知らぬもっさりブリーフを頭に装着させた時点で、 彼女は子供のように泣いてしまった。 こう……ね?きゅっ、と被せたあとに、 “将軍家は代々、もっさりブリーフ派だ”って言ったらさ。 もう泣き出しちゃって。 中井出「戦いとは……なんて悲しいのだろう……」 ナギー『あの涙は戦いではなくヒロミツがもたらしたものじゃと思うのじゃがの……』 中井出「うん」 でもこれできっと、もう僕に襲い掛かってくることはなくなると思うのです。 これで人安心さ。 中井出「さ……心も体も疲れたでしょう……これをお食べ」 癒しの大樹が少しずつ癒していたのか、 少しは動けるようになった彼女の手に焼き芋を乗せる。 きちんと剥いてあるものだ。 リオナ嬢は泣きながらも、空腹と、その香りに誘われたのか、はぐ、と食べ…… リオナ「……うぐっ……ひっ……うぅ……!……美味しい……あったかい……!」 また、泣いたのでした。 中井出「ナギー……食べ物ってなんて暖かいんだろうなぁ……」 ナギー『……これで顔が悪戯書きだらけでなく、     もっさりぶりーふとやらを被ってなければいい光景だったんじゃろうがの……』 もはや喜劇以外のなにものでもねー気がする。 この人をこのまま放置すると、彼女は人前に現れることをやめそうな気もするくらいだし。 中井出「じゃあ行こうか」 ナギー『ぬおお!?直してやらぬのかの!?』 中井出「いや……ぬおおって……。     だがうむ!なんかもういっそトラウマになったほうがいいかなぁって!     見下し半分にこの博光に襲い掛かってきたことを、     存分に後悔するがよいわグオッフォフォ……!!」 ナギー『ほんに容赦のない男よの、ヒロミツは……む?』 中井出「お?」 ふと、声が聞こえた気がして向き直る。 すると蒼空院邸の内部より、手を振りながらこちらへやってくる───笑顔のリアナ嬢が! 中井出「うおおやべぇ!これはさすがに一生モノの傷跡発生の予感!」 ナギー『そうなのか!?どうするのじゃヒロミツ!』 中井出「───よいかナギー!     この芋を食って泣いているもっさりブリーフ派の人は今から将軍だ!     理由なんてない!ブリーフだから将軍なんだ!」 ナギー『女性で将軍は無理があるじゃろ!この膨らんだ胸を見れば誰とて───』 中井出「ハト胸なんだ」 ナギー『なるほどの!』 よしグッドだナギー! などと納得したところでリアナ嬢到着! リアナ「あれ……えっと。確か中井出さん……でしたよね。エロマニアで有名な」 中井出「いっ……!いきなりなんて失礼な!!」 リアナ「え?ち、違いました?エッチな映像を見るために思考映像化の式を確立した、     空界では結構名の知れた魔導術師だったんですが……。     思考映像化はとても難しくて、今でも使える人はごく僅かで、伝説とさえ……」 中井出「………」 アア……若かったなァ僕……。 伝説とまで言われてるよ……。 でもちぃとも嬉しくないのは……どうしてなんだろうなぁ……。 リアナ「それで、あの。姉さんを見ませんでしたか?」 遠い目をする暇もなく核心だった。 ナギー『う、うむ、それは、じゃの……あー……』 中井出「そこのブリーフがそうです」 ナギー『ヒロミツゥウウウウウウウッ!!!?』 芋を食べて泣いているブリーフを指差しながら言ったら、ナギーが叫んだ。 中井出「偉そうな人なんて一度底辺を思い知ればいいんだ」 ナギー『外道じゃの……』 中井出「ノンノンノン!リオナ嬢は底辺を忘れてしまっている!     長い王宮暮らしが彼女を堕落させたのだ!見たかね今までの彼女の態度!     まるで嫌味たらしい貴族のソレ!僕はそれが悲しかった!     だからこそ、最後まで攻撃に徹した時は素直に感動したの」 でもそれだけでは足りぬ……足りぬのだよ。 なんかもう人前でドロップアウトしてバースボディをさらすくらいの底辺に行かなければ。 ……さすがに大会開場でビッグさらした彰利には負けるけど。 リアナ「………」 リオナ「………」 二人の視線が交わる。 ……そこからなにを感じ取ったのか、コクリと頷いてヒュバァッ! 中井出「キャーーーーッ!!?」 振り向きざまに一閃!! あ、危ない!避けていなければ腕が飛んでいた! 中井出「な、なにさらす〜〜〜っ」 リアナ「姉さんをこんな風にしたのはあなたでしょう。     決闘は申し込みませんが、覚悟していただきます」 中井出「え?」 ナギー『なんじゃと!?馬鹿を申す出ないわ娘!     ヒロミツに覚悟を決めさせたらただでは済まぬのじゃぞ!……ヒロミツが!』 中井出「ええっ!?僕がなの!?」 や……確かに俺、覚悟決めたあとって随分ボロボロになってるけどさぁああ……。 と、心の中で悲しみを抱いていると、双子さんが何かを語っているのが耳に届いた。 リオナ「よせ……リアナ……。信じられないかもしれないが、そいつは強い……。     お前でも勝てるかどうか……」 リアナ「勝てるかどうかの問題じゃないんだよ、もう。     ……姉を侮辱された。闘う理由なんて、それで十分」 リオナ「リアナ……!」 リアナ嬢が俺をキッと睨む。 そこから感じるのは尋常ならざる力の波動……!! 中井出「ぬおおぁあ!なんだその裂帛の気合はァアア!!」 リアナ「……どうにかしてこちらの動揺を誘おうとしてますね?」 中井出「うん」 見破られてることくらい想定しててナンボです。 いつまでも続けられる方法だとは思ってないし。 リアナ「しっ!」 中井出「おおっ!?」 リアナ嬢が一気に間合いを詰めてくる! ナ、ナイス!実にナイス! この双子、戦闘への意識だけは立派だ! 妙に硬い部分もあるけど、素晴らしい! これが別のヤツだったら武器を取れだのなんだの言ってくるのに対し、 今や出していたランドグリーズも篭手や具足に変わった俺目掛けて一気に来た! 中井出「お〜りゃ〜〜っ!」 ならばと気合を込めてストレートナックル! ───が、あっさりとくぐるように躱され 中井出「ニーバズーカ!!」 リアナ「《ゴスゥ!》はくっ!?」 それを狙っていた我がニーバズーカの餌食となった。 しかし多少は怯んだにしても、 硬く握られた二振りの剣は俺目掛けて振るわれゾブシャア!! 中井出「ギャアアーーーーーッ!!!」 痛烈!よ、よーく手入れが為された刃が我が腹にざっくりと! これは痛い!痛いが───! リアナ「っ……ただではやられま《ズキィッ!》いぐっ───!?」 ヘッジホッグスキルにより現れた痛みに、一瞬怯んだリアナ嬢をすかさずキャッチユー! そのまま跳躍し、体を回転させながらァアアア!! 中井出「トルネードフィッシャーマンズスープレックスゥッ!!」 リアナ「わぁああーーーーーーっ!!?《ドグチャア!!》はおぎゅっ!!」 ……頭から大地に落下された。 もちろんグラビティ付加。 重力100倍やったら死んでただろうからやらなかったけど。 ───が!予想GUY!ヤツはまだダウンしちゃあいなかった! 強烈な衝撃が体を襲っただろうに、倒れた状態から身を捻ると、 我が手の掌握から逃れるように起き上がって距離を取る! リアナ「つぅ……!さすがに今のは虚を突かれました……!     どういう原理かは知りませんが、     あなたは自分が受けた痛みをこちらに返してくるようですね……!」 中井出「砂かけババーーーッ!!」 リアナ「《バサァッ!》ぶわぁっぷ!?」 中井出「死ねぇえええーーーーーーっ!!!」 そして僕は、状況整理をしてる最中の彼女の目に砂を投げつけて襲い掛かる!! おお外道!凄まじいほど外道!震えるぞ外道!燃え尽きるほど外道!刻むぞ血液の外道!! リアナ「───もうっ!いい加減にしてください!」 中井出「なにぃ!?」 ともするや、なんとヤツが行使したのは一文字流心眼剣!! 目が見えない状態で我が動きを読んだのか、 拳攻撃の全てを避けては俺に攻撃を返してくる! う、うおお!野郎!いや女郎?ともかく野郎!しっかりと晦流剣技を心得てやがる! リアナ「貴方、動きも破壊力も十分ですが、技術がまるでありません」 中井出「ウ、ウググー!───ハッ!?」 翻弄される俺の懐に再度潜り込んでくるリアナ嬢! やばい!このままでは─── 中井出「臭い息〜《モハァアアアアア!!》」 リアナ「ふぐっ!?うぶぅぇえええええええええっ!!!」  で〜んでげでで〜げ〜で〜で〜で〜ん♪ りあな を やっつけた!! ひろみつ は 2012の経験値をえた! 強烈な香りに庭を転がる剣士がステキだった。 そして、自分の口から放たれる香りに悶絶する俺も。 だ、だが吐いてはならぬ……! 吐けばベヒーモス族からのリンチが待っている……! ここはヒロミツよ……我慢だぜ!? 中井出「お前は強かったよ……けど、間違った強さだった」 リアナ「うぇっ!ぶえぇっ!!……う、ぇぅうっ……!」 おおお、涙目でしっかりこっちを睨んできている……この状況でよくやる。 だがそんな彼女にも芋をひとつ。 中井出「美味っし〜よっ?」 ミスター味っ子の真似である。言葉だけだが。 リアナ「………」 それを、黙って受け取るリアナ嬢。 うむ、やっぱり食べ物は大事なものだという根底は、 しっかりと持っててくれているらしい。 中井出「リオナ嬢にはハングリー精神を思い出して頂きたく、     ちょっと無茶をして恥を知ってもらいました。     あのままじゃ周りを見下す貴族野郎になると思ったからね」 リアナ「………」 中井出「あなたは芋を受け取りました。リオナ嬢も受け取りました。     ……彼女は美味しいと言ってくれました。わたしはそれが嬉しい     焼き芋なんて庶民の食べ物だ。     それを暖かい、美味しい、って言ってくれてよかった。     あなたの心は曲がっていませんか?     時の流れに翻弄され、役職に翻弄され、     いつしか目的を失った修羅になっていませんか?     そんな時はピーチパイを食べてみてください。     そして、一度思ってみてください。     荒んでしまった心でも、変わってしまった自分でも、     味覚はきっと変わっていない。……なにかを美味しいと思う心に、     地界も空界も関係があるでしょうか」 リオナ「あ……」 リオナ嬢が、罰が悪そうに視線を逸らす。 それはきっと、やっぱり俺を見下して掛かってきていたということに繋がるんだろう。 中井出「天晴れェィ!」 リオナ「……え?」 リアナ「あ……あの?」 中井出「大丈夫!貴様はまだ戻れる!だって気づけたってことは、     背けたってことは、罪悪感があったってことでしょ?貴方は大丈夫だリオナ嬢。     これが貴族とかだったら“それがどうした”“私は悪くない”の一点張りさ。     そうなってなくて安心しました。     ……あ、それから俺に負けたとか思ってるんなら気にしないで。     俺、武具がないとただの凡人だから。     貴様らに勝てたのは武具の加護のお陰なんだ」 リオナ「そ……そうなのか!?」 中井出「だからって掌返して襲い掛かってきたら刺し違えてでもブチノメすけどね。     襲い掛かるなら襲い掛かられる覚悟を以って来てください。     僕はその覚悟に応え、いかなる手段を使ってでも襲い掛かります」 リアナ「……つまり、対峙するなら二つの覚悟を持つことを忘れるな、と……?」 中井出「ヒロラインとはそういう場所です。     この博光の強さなぞヒロラインでは下の下……!僕、一番弱いの」 リオナ「なんだと!?それは本当か!?」 中井出「うん」 離れた場所でナギーが親指を立てていた。 いい娘に育っててくれてます。本当に。 リアナ「それじゃあ一番強いのは───やっぱり師匠……?」 中井出「いや。晦も下から数えたほうがまだ早い。今僕らの中で最強なのは───     あそこでお茶を飲んでいるホギーこと穂岸遥一郎だ」 リアナ「あの人が……?」 リオナ「どう見ても魔法使いだぞ!あいつが───!?」 中井出「ククク、やってみりゃ解るさ……彼は凄いわよ?」 リアナ「……《はくっ》……姉さん」 リオナ「ああ。試してみよう」 中井出「では回復してやろう」 立ち上がる二人に癒しのキャリバーと洗浄用の水キャリバーを使用。 もっさりブリーフも解除し、心身ともに復活を果たした二人が歩き出す。 これぞルビカンテの紳士的態度。敵を回復してあげる彼は紳士です。 僕は歩いてゆく二人を横目に眺めながら、 てこてこと歩いてきたナギーを肩に、紀裡を腕に、シードを背中に背負って歩き出した。 ナギー『鬼じゃの……』 中井出「鬼ですとも」 訳も解らずからまれてるホギーを眺めながら、 話の食い違いが現れ始めるのを感じた瞬間に逃走本能爆裂!! リアナ「あのー!?自分が一番強いなんてうそだって言ってますよー!?」 中井出「ワハハハハハ!!うそだから当然だーーーーーっ!!」 リオナ「なっ───ききききぃいいさまぁああああーーーーーっ!!!」 走るンだッッ!! 僕は今日という日を穏やかに過ごすと決めパゴシャアッ!! 中井出「ガヴェード!!」 ナギー『はわっ!?』 視界が回転した。 おお、あれに見えるは蒼い空ドグシャア! 中井出「エボリ!」 頭から庭の大地に倒れた。 もちろん仰向けで、大の字になるように。 中井出「フフ……長い旅路の中、空がこんなにも青いことを忘れていたよ……」 声  「め、めげないやつだな……」 中井出「(タレ)?」 仰向けに転がったまま、俺にラリアットを食らわせた人物を見やる。 レイル「ぃよお」 中井出「アアッ!ベルナルデリ保険協会の人!」 レイル「ベルナードだベルナード!レイル=ベルナード!     人の名前くらいちゃんと覚えておけ!」 中井出「すごい髪型ですね」 レイル「トレードマークだ」 それはいいんだけど、 朝っぱらから天界服なんて着てうろついてたら怪しまれるんじゃなかろうか。 中井出「で、何故この博光にラリアットを?」 レイル「なんとなく」 そこにサンドバッグがあったから殴ってみました的な返答だった。 グッド。 リアナ「うそつきは許しませんよ!」 リオナ「覚悟しろ貴様!」 中井出「ア、アア〜〜〜〜ッ」 そして大の字に寝る僕は、二人の女性に捕まって引きずられていった。 レイル氏はニヤケ顔で手を握ったり開いたりする別れの挨拶をすると、 ナギーとなにやら話し始めてギャアアアアアアアアアアアアアアア………………!!! ……。 死ュウウウウ……!! 中井出「成敗!!」 連れていかれた先で襲い掛かられた僕は、 近くに居たホギーを美味く……じゃなく上手く巻き込むと、リオナ嬢とバトらせた。 僕自身はリアナ嬢を翻弄しまくってM11型デンジャラスアーチで仕留め、 ホギーは無情なる無詠唱中級連続魔法でリオナを無抵抗のままに仕留めていた。 いや……ほんと相手が可哀想になるくらいの連続魔法だった。 遥一郎「わ、悪い……魔法の復習のつもりだったんだけど、こんなことになるなんて……」 フシュウウウウとクレーターの真ん中でノビているリオナ嬢。 頭を振るって起き上がるリアナ嬢も、その惨状に口を開けっぱなしにしていた。 中井出「キミさ、ひとつのことに集中すると周りが見えなくなるタイプだろ」 遥一郎「今回は仕方なかったんだって!     頭の中で詠唱して口では別の魔法を詠唱っていう技の復習だったんだから!     よっぽど詠唱に集中してなくちゃ出来ないんだよ!」 その結果があのヤムチャ様ですか。 中井出「あっさり戦闘に参加するから珍しいとは思った……。     ようは貴様、実験体が欲しかったのか……。     なにも知らぬ相手に無詠唱の魔法をバカバカ打ち込み、     怯んだところへ口で詠唱していた大魔法でドッカンとは……!     ホギー……!怖いコ!!」 遥一郎「わざと人聞きが悪くなるような言い回しはやめろっ!!」 リアナ「……あれだけ努力したのに足りないなんて……。     技術じゃ勝っているのに、どうして……」 遥一郎「単にこの男が卑怯卑劣の悪辣外道だからだろう」 中井出「任せてくれたまえ」 遥一郎「嫌味くらい受け取れ!」 中井出「受け取ったじゃないか!そして返したんだ僕は返答を!」 遥一郎「奇妙な倒置法で喋るな聞き取りづらいなもう!」 子供みたいな言い方で怒られた。 しかしそんな言葉も横から横へ、 俺はリアナ嬢に手を貸して起き上がらせると、うむと頷いてから言葉を紡いだ。 中井出「というわけで解っただろう!     口ではどう言おうが、彼の魔法は詠唱が始まったら留まるところを知らん!     間違いなく最強は彼だ!」 リアナ「……でも、それくらいなら師匠でも」 中井出「晦は今弱体化中だからそういうのは出来ないと思う」 リアナ「本調子なら負けません!師匠は最強なんです!」 中井出「そうか!でも俺は誰が最強とかあまり興味ねーからどうでもいい!」 リアナ「なぁーーーっ!?何故ですか!?     男の人や鍛えている人なら気になることですよ!?」 中井出「いや……だって僕楽しみたいだけだし。武具以外鍛えてるつもりないし……。     大体俺が一番強ぇええとか言ってるからってそれがなんだネ?     強くても面白くないんじゃ俺的には意味がないのだヨ。     よって訊こう!貴様はなんのために強さを求める!」 リアナ「わたしより強い人と戦いたいからです!」 中井出「どこのストリートファイターですか貴様!!」 リアナ「ストリートファイターではありません!剣士です!騎士です!」 でも波動拳とか放てそうな目標じゃないですか! あ、ああいや落ち着くんだ僕。 リアナ「わたしは立派になって自立するために騎士になろうとしました。     貧しかったですからね、わたしの家は。最初なんてそんなものです。     きっかけはどうあれ、わたしはこうして騎士になれました。     これでもレファルド皇国のひとつの騎士団を任されている身ですから」 中井出「あの……そんなキミが地界で遊んでてよかったの?」 リアナ「ソルバック騎士団長に無茶を言って抜けさせてもらったんです。     ああ、ソルバック騎士団長っていうのはわたしよりも経験深い男の人で、     団長さえ纏める立派な方なんですよ」 中井出「久しぶりに草食ってさぁ」 遥一郎「はっはっは」 リアナ「聞いてください!」 中井出「だって僕にそのソルマック団長のことは関係ないし!     なにその胃腸薬みたいな名前の団長!」 リアナ「ソルマックではなくてソルバック団長です!」 中井出「そのドボルザーク団長に仕事押し付けて来たの?」 リアナ「ソルバックです!」 ソルマックのほうがいいと思うんだが。 覚えやすいし。 しかしよほど嫌なのか、 リアナ嬢は地団駄踏むように苛立ち混じり小さく跳ねながらの講義を続ける。 頭の後ろで止めてある長い髪がぴょこぴょこ揺れて、なんとも楽しげだ。 ……惜しいな、ポニーテールにすればいいのに。 リオナ嬢にいたってはストレートだしな。 リアナ「大体わたしの団は、その……女になんてついていけるかって、     みんな何処かやる気がないからこれでいいんです。     みんなソルバック団長に指揮をとってもらうって聞くや、喜んでましたし」 中井出「協調性のない軍団だなぁ」 そりゃつまらんだろう。 俺だったらそんな軍団の指揮はごめんだが。 中井出「リオナ嬢は?王宮至高魔導術師でしょ貴様」 俺が癒しのキャリバーを、ホギーが回復魔法を流す中、 ムクリと起き上がったリオナ嬢に訊ねてみる。 と、 リオナ「……、別に戦いがあるわけでもない。     モンスターもこのところ静かになったし、     わたしたちもこれで案外暇をしているということだ」 遥一郎「一国の王であるリヴァイアが来てるくらいだもんな……」 中井出「ああ……そういや」 かつての脅威だったゼットも今では僕の親友で、狭界の問題も解決。 空界と狭界が合体した今の空界は、つまるところ平和な時代を刻んでるってことだ。 リヴァ「うん?呼んだか?」 遥一郎「うわぁっ!?」 中井出「やあ」 何処から出てきやがるのか。 庭の芝生をバカッとドアのように開けて出てきたのはリヴァイアサーン。 口に出すと怒るから、心の中で、リヴァイアさん。 リヴァ「うん、やっぱり精霊の加護が集っている場所は空気がいいな。     皇国の自室の空気なんて頭が重くなるだけで、ちっともいいことなんてないんだ」 中井出「………」 遥一郎「臭い息は吐かないでくれよ」 中井出「な、何故解った!?」 遥一郎「本当に吐く気だったのか!?」 いいことなんてないっていうなら、ここもそうして差し上げようと思ったんだが。 ううむ、侮りがたし、ホギーズブレイン。 リヴァ「中井出、最近アカデミーに顔を見せにこなかっただろう。     遊ぶなとは言わないが、少しは───」 中井出「あ、俺もう一介の地界人にすぎないから、学院には通うだけ無駄なのです」 リヴァ「……ああ、そういえば母……イセリアがそう言っていたな。     思考映像化能力を行使出来る僅かな存在だったというのに、もったいのない」 中井出「そんなもん俺が必要としなけりゃ俺の中じゃなんの価値もありゃしねー!     だから捨てたのさ。そんなもんよりも、人として今を生きることを選んだのだ」 リアナ「地界人でこれだけ強い時点でどうかしています」 中井出「や、だから。全部武具のお陰なんだって。     みんな僕を誤解してる。僕は強くなんかないのだ」 試しにと、武具をランドグリーズに変換、 霊章もチャクラムにする要領で弾き出し、ランドグリーズに引っ掛ける。 中井出「これで僕は真にすっぴん!でも待った!俺裸足だ!」 大慌てで屋敷に戻って靴を履いて戻ってくる。 そうしてから、さあ、どこからでもかかってきなさいとターちゃんポーズ。 構えると同時に襲い掛かってきたリアナを前に、ク……クワッ!と目を見開き───  ……ギャーーーーー〜〜〜〜〜〜〜…… 【ケース623:中井出博光(古今東再)/魔王と聖王】 死ュウウウウウ………… 中井出「グビグビ……」 総員 『弱ぇえ……弱ぇえ……』 あっさりと惨敗した。 クレーターの中心でヤムチャ様になった僕を、 皆様が信じられないものを見る目で見つめている。 遥一郎「武具を手放しただけでこうも弱くなるか……」 リアナ「これは……一種の才能ですか?」 僕の超実戦流中井出柔術はてんで役に立ちませんでした。 実力を測るために正々堂々試合開始したまではよかったんだが、 そのあとはもうボロボロ。 攻撃は当たらないわ一方的に攻撃されるわ、いいところなんもなし。 自分でもちょっとはいけるんじゃないかなー、 なんて甘い考えをそりゃあちょっとは持っていた。 持っていたが……結果はもうボロボロ。 レベルがあろうがどうしようが、 武器のない俺は力任せの攻撃も勘任せの防御も上手くいかず、 翻弄されっぱなしのままにボッコボコ。 いっそ泣きたくなるくらいの惨敗っぷりだったのだ。 はは……既にイセリアさんにちょっかい出して思い知ってた筈なのになぁ……。 中井出「ウウ……こ、これで解ったろう……?僕は強くなんてないのさ……。     武具がなければ強くない、変態という名の紳士だよ……」 リアナ「あの……その剣、見せてもらっていいですか?」 リヴァ「わたしも興味がある」 TAIIKU-SUWARIをしている僕を完全に無視って、 地面に突き刺してあるランドグリーズへと向かう漢女(オトメ)たち。 ぺたぺた触ったのちに持ってみようとするが、持ち上がらない。 リアナ「う、あっ……!重っ……!!」 リヴァ「……?大きさから考えてそんな筈は───!?な、なんだこの重さは!     全力を出しても微かにも浮かないぞ!?お、おい中井出!これは───」 中井出「いつもすまないねぇえ……」 遥一郎「いつもなんて回復してないが」 リヴァ「回復なんか後でどうとでもなるだろっ!今はこっちだ!」 中井出「えぇっ!?それって王様のセリフなの!?」 ボロボロの体をホギーに癒してもらっているさなか、 どすどすと歩いてきたリヴァイアさんに腕を取られて、 ランドグリーズの前まで引きずられてゆく。 うう……まだ体癒されきってないのに……。 中井出「し、失敬だなキミは!急にこんなところに引きずりこんで……」 リヴァ「どうなっているんだこの剣は。全然持ち上がらないぞ」 中井出「え?そんな馬鹿な。うりゃ《ひょいっ》」 リアナ「あれっ!?」 リヴァ「軽く持ち上げただと……!?───そうか!ラグと同じく、持ち主を選ぶ剣か!」 中井出「集気法ォオオオオ!!《キュヴォアァアアアアアアアアアア!!!!》」 ランドグリーズを手に取るや、場に充満している然のマナを吸収! 癒しの糧として、傷や疲れをシャキンと回復素晴らしい!! そんなランドグリーズを背に回すと、 ランドグリーズ自身から伸びた帯状のものが俺の体に巻きつき、自らを固定する。 そのわりに重くもなく、動きにもまるで支障がない。 うむやはり素晴らしい。 中井出「ナギーよ!ナギーはおるか!《パンパンパンッ!》」 ナギー『《ズシャア!》ここに!……なのじゃ』 空いた手で手を叩き、ナギーを呼ぶと即参上! 芝居がかった風情で現れたナギーは、 俺の目から言わんことを受け取るや、なにも言わずに我が肩にドッキング! それで察したのか、リヴァイアさんが俺を掴もうと手を伸ばすが、 中井出「エネルギィイイッ!!全開!!ジュースティングッ!フラッシャァアアアッ!!」  ヂャゴォンッ!!ゴカァッファァアアッ!!! リヴァ「くわぁああああっ!!?」 リアナ「うあぁあうううっ!!?」 リオナ「うぐあぁああっ!!」 軽く鞘から引き抜いたジークフリードの刃から閃光のキャリバーを放つ。 攻撃としてではなく、現象として。 中井出「ワーハハハハ!!今日のところはこの博光の負けだ!     だが忘れるな!この博光を倒したところで、第二第三の博光が───!!」 遥一郎「何人居るんだよお前!」 中井出「フフフ……10から先は覚えておらぬ!!」 ビシィッ!と決めポーズまでつけて言ってみた。 先の焼き芋タイムの時、ナギーが言ってた言葉である。 が……どうにも使う場所を間違えたらしく、恥ずかしくなってきた。 中井出「あ、あの……僕一人。一人……」 遥一郎「ああ……うん……解ってるから……」 中井出「そ、そっか……うん……」 遥一郎「ああ……」 中井出「………」 遥一郎「………」 教訓。 言葉は放つ前に、一度頭の中で結果を予想してみてから口にしてみよう。 中井出「ではさらばだ……貴様らが視力を戻す頃には、この博光は消えていることだろう」 レイル「人生からか?」 中井出「死んでるよそれ!!」 恥ずかしさから、無駄にカッコよく去ろうとした僕に突き刺さる言葉。 振り向きざまに言葉を放った先に居た彼は、ベルナルデリ保険協会の人だった。 中井出「さすがだぜベルナルデリ保険協会……あの閃光の中で無事とはな……!」 レイル「ベルナードだってばよ」 中井出「ミリィ・トンプソンって呼んでいい?」 レイル「ベルナードだっ!!」 中井出「桂木探偵事務所の前途ある所員!二階堂さんか!」 レイル「どういう耳してるんだ!?お前!」 中井出「こういう耳だがなにか問題でもあるかね!?」 レイル「いきなりキレるな!怒りたいのはこっちじゃああああっ!!     ───ってそうだ思い出した!」 中井出「え?なに?」 レイル「…………騒いでたのに随分と冷静に返すんだな」 中井出「臨機応変がモットーでして」 ともあれ、今しがたの騒ぎもどこへやら、 僕らはナギーを連れて、目を押さえている皆様から離れるように歩き出した。 蒼空院邸を離れ、適当な場所を目指すため。 レイル「お前、天地の覇紋と邪術儀式用血判状っての持ってるだろ。出せ」 中井出「いいだろう」 レイル「実は魔王になっちまおうかと───っていいのか」 中井出「天地の覇紋が抜けるのはスリースターズが無くなるから相当に痛いが……     だが構わん!面白くなりそうだし、魔王がどんなのか見てみたいし!     あ、でもちょっと待って。えーと……」 地界でtellって通用するんだっけ? まあいいや、tell:ゲームマスター、と…… ナルルルル……ブツッ。 声  『はいはいはいはい、こちらイセリアおねーさんですよー』 中井出「いろいろ突っ込んでやりたいけどまずは繋がったことに感謝を。     そして用件でありんすが、魔王ジョブってあるじゃない?」 声  『うんあるね。人、やめる気になった?』 中井出「なるものかね!……隠しジョブってさ、     一度なってしまえばドロップアウトするまではなりっぱなしなんだよね?」 声  『うん、そうなるけど』 中井出「OKさようなら!」 声  『え?あ、ちょ《ブツッ───》』 ……悪は去った。 中井出「条件つきでなら天地の波紋を渡しましょう!」 レイル「急だな。条件つき……?いったいどんなだ?」 中井出「魔王になるには魔王の斧と天地の覇紋を合成させていろいろやる必要がある。     だから、ジョブチェンジし終わったら俺に天地の覇紋を返すこと!     天地の覇紋は苦労の末に手に入れたロマンシングストーン!     だから返してください。     合成してあっても猫に頼めば解体芯書で解体してくれるから。     返さなかったら殺して奪う」 レイル「物騒だねお前」 中井出「地界人、ミナ、物騒。ワタシ、地界人。トテモ、物騒。     地界人、不意打ち、裏切り、なんでもスる。ワタシタチ、物騒」 レイル「どうしてカタコトなんだ」 中井出「どうしてだろう」 特に理由はない。 レイル「ま、あれだ。魔王になったからどうだーとかじゃないわけだ。     ほら、俺って結構好き勝手にやるのが好きなタイプだし。     魔王になりたいっていうのも、力の根源が魔王のものだからだし」 中井出「……目に宿ってるっていったっけ。力」 レイル「あー。目自身がゼロ=クロフィックスの目だからなー。     これに力を託して自分は盲目になってりゃ世話がないっていうかねぇ。     お陰で俺は生まれたわけだけど。レインも」 中井出「……そういえばそのレイン氏はどうしたの?不参加?」 レイル「あいつは天界の教会と孤児院を見守る役目があるからな。     俺に片目渡して自分の分まで恩返ししてきてくれ、なんて言いやがった」 中井出「片目って。……うおう」 よくよく見れば、レイル氏の目は双方ともに怖い目だった。 凶々しい、というか……うむ、たとえが見つからん。 レイル「だから俺も自分の片目をあいつに渡してきた。カオスじゃないほうのな。     長年つけてたものだからな、多少は力も移ってる。     体自身はもう出来てるから、今更目を刳り貫いたところで死にゃしないが」 軽く挙げた人差し指をくるくる揺らしながら、 左手は頭の後ろに添えながらケタケタ笑い、歩くベルナルデリ保険協会の人。 レイル「俺ゃあな、地界に恩はないがあの頭でっかちやスマイリーには恩がある。     レイチェルやサクラやノア……フレアが随分世話になった。     地界に恩を返すためにここに居るんじゃない、     俺は俺がした感謝分だけを返すためにここに居る。     あとの理由は興味本位が大半だな」 俺と同年齢くらいの表情を悪ガキみたいに歪ませて笑うこの人は、 本当に地界がどうなろうが知ったことじゃないらしい。 ただ娘同然のやつらが世話になったから〜って、それだけの理由で参戦してくれるのだと。 ……基準はどうあれ、義理堅い人なのかもしれない。 レイル「アルも付き合わすことになっちまったけど、なんだかんだで楽しそうだ。     リヴァイアのやつが一緒なのは気に入らないけど、なんだ。よろしく頼む」 中井出「うむ。了解した。えーと、ベルナルデリ───」 レイル「ベルナードだ!レイル=ベルナード!」 手を差し出すでもなく、言葉だけでの握手を交わした。 OK、魔王は彼に任せよう。 あとは法王だが───リヴァイアさんとかホトマシー氏とかリオナ嬢やらアルベルト氏と、 魔法系の人は新規に結構居るわけで……と、歩いている途中で道行く戯言魔人を発見。 閏璃 「おお提督」 中井出「やあ」 軽く手を挙げる彼に、手を返す。 ……と、その先に誰かさんが居るのを発見。 ついさっきリストにあげたアルベルト氏だった。 レイル氏とは違い、さっぱりとした地界の服を着ている。 ……うへー、顔とか体とか整ってんなぁ、モデルで通用するぞこの人。 レイル「ようアル。地界の服似合わないな」 アル 「似合わなくても着ないとおかしいだろう。     お前こそ天界の服よりもピザ屋の服のほうがよっぽど似合ってるんじゃないか?」 レイル「お前は俺になにを求めてるんだ。ピザ屋の広告として町を歩けってか。     ───あーそこそこ、人のマントにピザ屋とか書こうとしないように」 中井出「断る」 レイル「断りもしないように!───拝むな!だあっ!もうこいつなにがやりたいのか!」 中井出「困る顔が見たいのさグエフェフェフェ」 レイル「……おお、すげぇぞアル。こいつの性根、ヨルグよりも低いかもしれん」 アル 「それは言いすぎだ」 中井出「そうだ。人をヨーグルト扱いするなど。     そんなだから酒場に行ってもミルクの注文を求められるんだ、     このベルナルデリ保険協会め」 レイル「いい加減そこから前進してくれ」 前進なら常にしているとも! 何を隠そう、俺は匍匐前進の達人!───ようするにあまり進んでないです。 ナギー『フフフ、ヒロミツは前進しても逃げ出すからの。歩は引く一方なのじゃ』 中井出「すげぇだろ!わーははははは!!」 ナギー『わーははははははー!!なーのじゃーーーっ!!』 アル 「……逞しいな」 閏璃 「常時こんなやつらだけど?」 レイル「俺、こういうノリ、嫌いじゃないぞ?」 閏璃 「ああうん、それは解る気がする。     あんたの位置、アルベルト氏が晦だとすると、確実に弦月だし」 レイル「あー……あいつか。と、それはいいとして。     ……ところでアルはこんな場所でなにやってたんだ?」 中井出「きっと金を拾ったんだ」 ナギー『盗むのかの?』 アル 「違う。聖王は似合わないからと、一式を渡されていただけだ」 ハテ? ……ってそっか、閏璃のジョブって聖王だったっけ。 閏璃 「フフフ、提督よ。俺は発見したぜ?オフラインではなんと!     武具からの素材の解除が自由なんだ!」 中井出「《ガガァ〜〜〜ン!!》な、なんだってぇえーーーーーーーっ!!?」 閏璃 「だからほら、自分の武器はこのように我が手に」 中井出「おお本当だ」 ゴクリと喉を鳴らして、俺は背中のってうおおおおおおおお!!? 中井出「しまった!ランドグリーズ背中につけたまま歩いてた!     なんか主婦の皆様がヒッソォ!と声を小にして喋ってると思ったら!どうりで!     まあでもいまさら仕舞うのもなんだしいいや」 ランドグリーズからジークフリードを外し取る。 やっぱり抜き取るってイメージよりは外し取るって感じなんだよな、これ。 こう……鞘が垂直に立ってるとして、そこにジークを差し込むとする。 が、引き抜いてみたところで、俺の腕の長さでは抜ききることが出来ないのは明白だ。 しかしこの鞘、抜こうとすると側面が自動で開いて……そう。 払うように剣を取り出すことが出来るのだ。 だから抜くことに苦労したことはなかったりする。 喩えるなら、重なった紙を横にずらす感じ? ともあれそうして持ったジークフリードを右手で持ち、 左手で天地の覇紋を抜き取るイメージを働かせながらグイーと柄あたりを引っ張ってみる。 するとボゴォッ! 中井出「キャーーーッ!!?」 で……で、でででででーーーたーーーーっ!! うわぁ出た!ほんとに出たよ出やがったよ! 中井出「………」 ゴクリ。 思わず息を飲んでしまうほどに綺麗な輝石が手にあった。 ロマンシングストーン……巨人族に伝わる宝石のようなもの、だったよな。 巨人族がこれを手にする前にも天地崩壊が起こったとかなんとか。 原因が九頭竜だったっけ?フェルダールって安定しない世界だよね。 竜に時間の流れを握られてるほどだし。 中井出「ではこれを。必ず返すように」 レイル「解ってる解ってる。邪術儀式用血判状は?」 中井出「アレは木村夏子二等が持ってる筈だ。     どれ、ちと連絡してみよう。───…………俺だ!瀬戸内だ!     うむ!うむ!我輩である!ちと貴様に用件があるのだがな!     邪術儀式用血判状!あれをまだ持っているか!?……うむ!うむ!     今からそちらにベルナルデリ保険協会を派遣する!     血判状はそいつに渡すように!───うむいい返事だ!ではさらばだ!」 …………。 中井出「というわけで蒼空院邸まで取りに行って?」 レイル「戻るのか……ん、解った。んじゃなーアル。俺は魔王への一歩を踏み出すぞ」 アル 「ほどほどにな」 聖王素材を受け取って、俺達にも小さく手を挙げてから去ってゆくアルベルト氏。 それとは逆の方向に歩いていくベルナルデリ保険協会の人は、 蒼空院邸までの距離をごしゃーと走っていった。 中井出「……とても活発そうな人だ」 閏璃 「で、提督。あんたはこれから何処へ?」 中井出「ナギーとともに適当に繰り出す。     ……ってシードと紀裡を忘れてた。戻るぞナギー!」 ナギー『アイサーなのじゃー!』 こうして僕は、んじゃ、俺は仕込みでも始めますかねと呟く閏璃と別れ、 相も変わらずランドグリーズを背にし、 ナギーを肩車した状態でお天道様の下を穏やかに歩いたのでした。 ……こちらも相変わらず、ヒッソォと奥方様に囁かれたが。 Next Menu back