───ドラマティックデストロイヤー/いつもの……風景?───
【ケース624:穂岸遥一郎/平和を愛する人は、心強き人】 ……、…………。 遥一郎「う、く……!」 ようやく目が慣れてきた頃、チカチカする目の奥をこするようにしてマッサージした。 それでも目を閉じれば朱のような白のようなよく解らないモヤが飛んでいる感覚が消えず、 溜め息を吐かざるをえない。 べつに喋ることに支障があるわけでもないのが救いだが、 目が見えないっていうのはどうにも不安だ。 遥一郎「滅茶苦茶だな、まったく……」 リヴァ「はぁ……少し見ないうちに伸びたな、あいつは」 遥一郎「普通に修行してたらあそこまでは伸びなかったに違いない。     ……ところでリアナ、だったよな。ひとつ訊いていいかな」 リアナ「はい?」 既に女性三人も目が慣れたのか、コシコシとこすりながらもこちらをしっかりと見る。 そんな彼女に質問を投げかけることにした。 遥一郎「空界の男性は全滅したって聞いたけど。そのソルバックって人は───」 リアナ「“空界に必要な人”の一人です。ヤムベリング様に保護してもらっていた中の。     他にも逃げ回っていたおかげで生きていた兵士も何人か居まして……     といっても数人で、あと他は秩序を守るためだー、と、     ヤムベリング様が用意したホムンクルス兵なんですが」 遥一郎「ああ……なるほど……」 あの魔女さんはまだ全然ヤンチャなわけだ。 けど秩序を守ろうっていうのは解る気がする。 城下町でも普通の町でも、警備兵や騎士が居れば住人は安心する。 モンスターが大人しいからって、 騎士たちが居ないんじゃあ不安がる人はたくさん居るだろう。 リアナ「その中でわたしのところはホムンクルス兵がいっぱいなんですが、     どうもヤムベリング様が妙な感じに作ったらしくて、性格が捻じ曲がってて……」 リヴァ「あいつが性格のいいホムンクルスを作るもんか。     だからわたしに任せておけと言ったんだ。それなのにお前ときたら」 リアナ「だ、だって“わたしにやらせないと実験体にする”とか言われたんですよ!?     そんなの頷くしかないじゃないですか!」 リオナ「リアナ、王の前だぞ」 リアナ「はっ───し、失礼しました!」 リヴァ「ああ、いい、いい。城の外でくらい王の責務を忘れさせてくれ。     わたしはな、堅苦しい想いをするために王になったんじゃないんだぞ」 遥一郎「……ちなみに、他の団長のところの兵士は?」 リヴァ「ああなってしまった後だからな。     男勝りな女性ばかりが兵になることを志願してきたんだ。     ……リアナの下に就く女性が居なかったから、     リアナの下にはホムンクルスと生き残りの男ばっかりなんだが」 リアナ「うう……」 ……師匠の悪運の所為か? なにやら随分と苦労してるようだ。 リオナ「まったく。剣技は学んでも苦労人の才は学ぶなと言っておいたのにな」 リアナ「師匠の所為じゃないってば!」 リオナは俺と同じ意見だったようだ。 こうきたら連想してしまうよな、うん。 遥一郎「もうひとついいか?ホムンクルスっていうのは、その。寿命が短いんだろ?」 リヴァ「それなら問題ない。     あの魔女ババアが千年の寿命を混ぜて作った特殊なホムンクルスだ。     といっても人間と同等の寿命程度しかないし、繁殖能力もない。     通常、ホムンクルスは千年の寿命と合わせようが寿命が延びたりはしない。     しないんだが、あの魔女ババアが暇潰しにいろいろとやったようでな。     人が増えるのが嫌なら、繁殖しなければいいんじゃない、などと言って、     で、出来たのがそのホムンクルスどもだ。     よりカリスマ性に溢れる者に従う、まあオートマタのようなものだ。     リアナが慕われなかったのは、     その所為であることが原因の大半だ、落ち込むことはない」 リアナ「そ、そうなのですか……」 リヴァ「大体あの魔女ババアのすることでいちいち思考を回転させていたら、     それだけでも時間の無駄が過ぎるというものだ。     あのババアはな、面白ければどうでもいいんだ。     面白さを追求するなら人体実験でも人体解剖でもなんでもやる。     だから。いいな?あいつがすることでいちいち深く考えるな」 ……物凄く解りやすい言葉だった。 経験者は語るってやつだな、うん。 リヴァ「あのホムンクルスどもも、     ソルバックに任せた時点でもうお前に見向きもしなくなるだろう。     だからお前は、今は空界のことは忘れて今この世界を生きろ。     なんだったら……なんていったかな。ああ、名前はいい。     ゲームの中で強くなっていってるそこいらのやつらをスカウトすればいい」 遥一郎「原中のやつらとかか?」 リヴァ「誰でもいいさ、騎士になりたいだの兵士になりたいだの言えば。     べつにこれといった争いがあるわけでもない。     モンスターが町を襲撃した時、町を守れる力があればいいんだ。     ……ああっ、お前はなかなかスジがいいなっ、どうだ?     我が皇国で魔術師を───」 遥一郎「断る」 リヴァ「……欲がないやつだな。まあいいけどな」 ニカッと笑ったと思ったら勧誘してくるもんだから驚いたけど、あっさり拒否。 皇国で働くなんて冗談じゃない。 俺のこれは、趣味程度に抑えておきたいんだ。 好んで使うつもりは全然ない。 ……もちろん、趣味だからって学ぶことに加減をするつもりは全然ないが。 そう、趣味を極める人なんてごまんと居るわけで。 俺も多分、そうなるんだと思う。 大きな力っていうのは持て余すものだ。 いずれ、なにかを試したくなって、なにかに迷惑をかける。 今はゲームっていう、“戦う場”があるからいい。 でもそのあとは? 穏やかな世界の中で、魔法や争いの力なんて必要なのか? それを考えれば、趣味で終わらせるのが一番なんだ。 ……そうだな、中井出の言う通りだ。  楽しむための力を持とう。 誰が一番強いのかなんて関係ない。 自分は以前より強くなることができた……それが解っただけで、 過去の自分はきっと笑ってくれるのだろうから。 たとえばヒナが死んでしまった最初の時代。 救えなかった自分を嘆いた俺は、今の俺ならきっと助けられると笑ってくれる。 たったそれだけの気休めでも、俺の心は救われるのだから。 生きた分だけ、悲しい思いだってしたし、別れもした。 だから、あとは楽しもう。 そのための力を、趣味として得ていこう。 ……もちろん、全力で。 リヴァ「じゃあ講師はどうだ?空界のことも大分学んだんだろう?」 遥一郎「俺の夢はのんびり静かに穏やかに暮らすことなんだ。だから断る」 リヴァ「随分と小さな夢だな」 遥一郎「そんなことない。今まで生きてきて、それが叶ったことは一度もないんだ」 最初の頃も、精霊の頃も、その次も、今もだ。 そんな俺がこんな夢を見るなんてこと、ある意味当然なのではないだろうか。 頼むから、お願いだから…… 誰もギャースカ争わない穏やかで仲良しなあいつらと一緒に、 静かに微笑ましく暮らしたい。 特にノアと観咲の喧嘩に巻き込まれるのだけは勘弁だ。 とか思っている矢先に、屋敷の廊下の窓がコロロ、と上に持ち上げられ─── 雪音 「やーほーホギッちゃぁああーーーん!!」 遥一郎「ぐあ……!」 観咲に発見された。 ああ、さようなら平穏のお茶会よ。……俺一人の会だったが。 遥一郎「悪い!急用が出来た!」 雪音 「とーーーっ!!」 遥一郎「うわぁ飛んだぁあーーーーっ!!」 すぐさま逃げようと駆け出した俺めがけ、観咲が二階の窓から飛び降りた! そしてシタッと着地するや、俺目掛けて疾駆を───! 雪音 「ホギ《タァンッ!》はごう!?」 ───した途端に、撃たれた。 ノア 「おはようございます、マスター」 で、開いていた屋敷の扉からゆっくりと歩いてきてペコリとお辞儀するのはノア。 ……頭のアークの一部から煙が出ているのは、はたしてつっこんでいいやらいけないやら。 遥一郎「いや、朝の挨拶ならカレーの時にしただろ……」 ノア 「挨拶は基本ですからいいのですよ、マスター。     朝っぱらから二階から飛び降りたりマスターに襲い掛かろうとするよりは。ええ」 雪音 「うぅうう……!ね、眠い……眠いよぅう……!」 ノア 「野宿が趣味ですか。では砂風呂で温まりながら眠ってください。顔も埋めますが」 雪音 「死んじゃうよう!」 ノア 「さ、マスター。これから、その。わたしとデートしてください。     こんな元気だけが取り得の馬鹿と居るよりはきっと退屈をさせません」 雪音 「うあーん!最近いろんな人に馬鹿って言われてる気がするよぅ!」 遥一郎「そう思うんだったら勉強しような……」 雪音 「ホギッちゃん教師してくれる?」 遥一郎「真面目に勉強するならな〜……」 雪音 「うんじゃあ今すぐ!───ふっ《にやり》」 ノア 「───《ピググッ……!》……マスター、その必要はありません。     この人は教えてもすぐに忘れますから。いえ、“勉強”では覚えませんから」 雪音 「うわっ!ひどいこと言った!ノアちゃんが今すごくひどいこと言った!     うぎぃいーーーっ!かねてよりの遺恨!覚えたるかーーーっ!!」 ノア 「知ったことではありませんね」 雪音 「あやまれぇええーーーーっ!うあああーーん!!忠臣蔵にあやまれーーーっ!!」 無駄に忠臣蔵好きの観咲がオギャーと泣きながらノアに襲い掛かる。 そこから始まる取っ組み合いの喧嘩を他所に、俺は静かにその場を───くいっ。 遥一郎「うぐ……」 ……服を引っ張られた。 振り向けば、服を引っ張るサクラ。 サクラ「与一、出かけるならサクラも行くです」 ノア 「ああっ!サクラ!卑怯ですよ!その手を離しなさい!」 雪音 「隙ありぃーーーーっ!!」 ノア 「《グミミィッ!》ふきうっ!?は、ははひへふははひ!     ほほははへははふはーは!」 雪音 「あはははは!なに言ってるのか解らないもーん!《ツキューン!》ヴッ……!」 あ、撃たれた。 ノア 「ぷはっ……!───サクラ!マスターの服が伸びてしまうでしょう!」 サクラ「このくらいで伸びるわけがないです。ノアは心配性です」 ノア 「可能性問題です!」 遥一郎「こらこらノアっ、そんなに怒鳴ることないだろっ」 ノア 「マスター……マスターはサクラに甘すぎです。     そんなだからいつまでたってもサクラの子供っぽさが抜けないんです」 遥一郎「お前はいつまで経ってもヒステリックな気がするが」 ノア 「見間違いです。もしくは認識の齟齬を要求します」 遥一郎「言いながら笑顔でアークの銃口を俺にまで向けないように」 神様……俺に平穏は訪れないのでしょうか……。 とほー、と息を吐きながら見上げた空で、 笑顔が似合うじーさんが親指を立ててウィンクしていた。 遥一郎「……チャリスのじいさん、今どうしてるんだろうか……」 ノア 「この間、稲岬の家に菓子折り持って来たのが最後でしたね。     あれで奔放な方ですから、今頃アルベルト様の成長記録でも見て微笑んでます」 遥一郎「それはそれで気持ち悪いんだか微笑ましいんだか」 ノア 「気持ち悪いと思いますが」 遥一郎「そうハッキリ言ってやるなよ……」 ノア 「いえ。アルベルト様に、そう言えと常々言われていますから」 遥一郎「………」 実の息子にここまで気持ち悪がられている神様も珍しい。 天大神の名前が泣くな。 そういえば息子好きのことはなんて言うんだっけ。 アル 「そういう時は変態ストーカーと呼んでやればいいんだ」 遥一郎「うわぁっ!?」 ノア 「アルベルト様」 遥一郎「気配感じさせずに現れないでくれっ!それから心も読まないでくれ!」 アル 「難しい顔しているから適当に言っただけだ。心なんて読めるもんか」 それで第一声が親の悪口か。 物凄いな、この人は。 ノア 「アルベルト様、地界の洋服、お似合いですよ」 アル 「そうか?おかしいんじゃないかと思ってたくらいだが。     道を歩いているとやたらと女が見てくるし話し掛けてくるしで、     いいことなんてなにもない」 遥一郎「それは……本気で言ってるんだとしたら凄いな。なぁ、ノア。鈍感ってやつか?」 ノア 「マスターがそれを言いますか……」 遥一郎「エ?」 俺、鈍感か? そりゃ昔はとても鈍感だったが……。 遥一郎「俺って嫌なやつだなぁ……」 ノア 「はい。それはもう。     ですから自覚を成長に向けるためにもわたしとデートを《がしぃ!》……はぁ」 雪音 「ラピュタは滅びぬ……何度でも蘇るさ……!」 ノアが溜め息を吐きながら見下ろした先。 眠りについたと思っていた観咲がそこに居た。 何故に女の子でも平気で殴る僕らのラピュタ王的な言葉を放っていたのかは解らないけど。 ノアの足を掴み、不適……いや、眠そうな顔でノアを見上げていた。 ノア 「おかしいですね……二度も撃たれれば熟睡万歳の筈なのに。     もしかして撃たれすぎて抗体でも出来ましたか」 雪音 「撃たれすぎなんじゃなくてノアちゃんが平気で撃ちすぎなのだよ……!     う、うぅうぐ……と、とにかく、ホギッちゃんとデートするのはわたし……」 遥一郎「すまん断る」 雪音 「うぐぅう!!《オゴーン……》」 ショックな顔でガクリとうなだれ、そのまま眠りの世界へ旅立つ観咲。 いやな、どれだけアプローチされても付き合うだの結婚だの、するつもりはないから。 ……って言ってるのにどうして解ってくれないんだろうかな。 ノア 「マスターは頑固すぎます。少し肩の力を抜くべきですよ。     マスターが誰とも付き合う気もなく、結婚する気もないのも知っています。     知りながら付きまとうのはわたしたちの勝手みたいなものですから、     突き放されても文句は言いませんが。ですが、ですがです。     たまのこういう付き合いくらいでしたら《くしゃり》……あ、ま、マスター?」 人差し指を立てながら、それをくるくる回して言うノアの頭を撫でる。 髪を撫でるみたいに、やさしく。 軽く挙げた指を回す動作はどうやらレイルから伝染ったクセらしいが、 ノアの場合は目まで瞑るから不意打ちには弱い。 遥一郎「………」 だめ、だな。 どうにもノアやサクラのお願いには勝てない。 い、いや、誓ってロリコンじゃないぞ俺はっ! ただその、なんだ。 フレアとヒナには頭が上がらないみたいな、それと似たようなものなんだ。 そんな思考に自分自身があきれながら、ぽんぽんぽんっとノアの頭の上で手を弾ませた。 遥一郎「……行くか」 ノア 「二人でですかっ?」 遥一郎「みんなで」 ノア 「……ますたーのばか……」 遥一郎「あのな。聞こえてるから」 雪音 「ろりどうけし……」 遥一郎「………寝言でまで言うなよ」 むしろ寝たままの状態で晦にモミアゲとでも言ってみせてくれ。 寝言だからきっと許してくれる。 サクラ「与一、早速行くです」 遥一郎「それはいいんだが……昼までには帰ってこような。     何処かで食べるよりもここで食べた方が遥かに美味しい」 サクラ「みう、それは当然です」 ノア 「……はぁ。では用意をして来ます。申し訳ありませんがマスター、しばらく……」 遥一郎「ああ、待ってるから。慌てないでいいからな」 ノア 「……、……もうっ、マスターはやっぱり人を甘やかしすぎですっ」 なにが気に入らなかったのか、ノアは顔を赤くして屋敷の中へと歩いていってしまった。 遥一郎「…………なんなんだ?アレ」 アル 「……ふっふふ……若いな。ああ若い」 サクラ「それでよく鈍感って言えるです」 総員 『クズが!!』 遥一郎「う、うるさいなっ!って、いつから居たんだお前らっ!散れっ!散れっ!」 三島 「女々しいぞ…………過ぎたことをネチネチ…………!」 藤堂 「戦場で後ろから撃たれた後ろから…………!     と騒ぎ立てるやつがどこにいる…………!」 島田 「お前はただ鈍感だった…………!それだけだ…………!」 総員 『散れっ……………………!』 遥一郎「散るのはお前らだぁっ!     わざわざそんなこと言うためだけに集まらないでくれよ頼むから!」 島田 「フフフ、頼みとあっちゃあ仕方ない」 三島 「仕方ないな、頼まれちゃあなぁ」 藤堂 「どうしてもって言うんだから仕方ないよなぁ」 遥一郎「うおおやたらと腹が立つ言い回しを!なにしに来たんだよお前らは!」 岡田 「や、提督がボロ負けしたって話聞いたから、現場を見に。……提督は?」 見渡せばゾロリと居る原中の猛者たち。 その群集の中で、すっかり話の外に居たリヴァイアやリアナやリオナは、 軽く溜め息を吐きながら、ゾルゾルと魔王の子と娘をいそいそと小脇に抱える中井出を、 親指でクイクイと指差していた。 ……直後、囲まれる彼。 清水 「提督さん!清水新聞です!ボロ負けしたそうですが!?」 岡田 「岡田新聞です!現在の心境は!?」 藤堂 「喋れオラァーーーッ!!」 キャー!と奇妙な悲鳴が聞こえる中で、俺は静かに十字を切った。 ……ノアも来たことだし、行くか。 遥一郎「蒼木は?」 ノア 「既にレイチェル様とお出かけになられたとか。     そこに転がる触覚はその副産物です」 ようするに置いていかれたことに気づいて、 悔しかったから俺を見つけて襲い掛かってきたと。 雪音 「うぅう……だぼーでーと作戦がぁああ……澄ちゃんのばかぁ……」 遥一郎「作戦にかこつけて人をデートに誘わないでくれ」 ノア 「……ふぅ、マスター?そんなことを言ってしまってはさすがに気の毒です。     女性は、好きな人とはどんな形であれ一緒になにかをしたいものなのですよ」 遥一郎「ノーア。人を好きになるのは確かに勝手だけど、     それが正義だって態度は正直納得できないぞ。     あまり好きって気持ちだけを一方的に押し付けるのはやめてくれ」 ノア 「はいそれは。けれどさすがに不憫でなりません。     わたしはこうしてマスターのお傍に居られますが、     そこの触覚はやはり、どう足掻いても友達止まりですから」 雪音 「しょっかく言うなぁああ……」 ノア 「訂正します。そこの馬鹿はやはり、どう足掻いても───」 雪音 「馬鹿ってゆーなーーーっ!!《がばーーーっ!!》」 おお起きた!? 寝言で返事するだけでも凄いのに、まさか馬鹿に反応して起きるとは─── 雪音 「ええい電柱でござる!はうあ違った!殿中!殿中だーーーっ!!     ええい叩っ切ってくれようぞこの洗濯板ぁあーーーーーっ!!」 ノア 「胸で女性の価値が変わるとでも?……勝手な男の考えることですね。     わたしはわたしがわたしであって、     それをマスターが許容してさえくれれば胸などどうということはありません。     むしろ大きいだの小さいだの、     そんなことを気にして自身を好めない人の気が知れません。     顔がひどい、肥満の度を越している等の問題は目を逸らすことは出来ませんが」 雪音 「うぐっ……!まともなこと返された……!」 ノア 「そんなわけで受けて立ちます《ゴシャアンッ!!》」 雪音 「……あの。ノアちゃん。その、取り出した武器、どうするのかな」 ノア 「殿中です」 雪音 「いやぁああーーーーーーっ!!!殺されるぅううーーーーーーーっ!!!」 普通、殿中っていうのは屋敷の中だから争いはいけませんぞって意味の筈だが…… この二人にしてみれば、争いますよって言葉として定着してしまっているらしい。 およそメイドが持つべきじゃないデカい武器を手に、 ノアが観咲に襲い掛かっていく事実に、俺はやっぱり十字を切るのだった。 ノア 「価値がどうあれ人を洗濯板っ……!言うにことかいて洗濯板!!     構いませんここで永眠なさりやがりください!!」 雪音 「ヒアーーーーッ!!やっぱり気にしてるんじゃないノアちゃんてばーーーっ!!」 ノア 「気にしてません!言い回しが気に食わないのです!     胸がないと言われようが貧乳と言われようが構いません!それもわたしですから!     ですが洗濯板!よりにもよって洗濯板ぁああああああっ!!!     洗濯板にわたしという要素は存在しません!それは侮辱!     間違いようのない侮辱以外のなにものでもありません!」 雪音 「キャーーーーーッ!!」 庭が危険地帯と化した。 猛者たちは止めることもなく喝采を始め、 傍観に徹しているリヴァイアやリアナやリオナもやはり止めようとはせず、 解放された中井出はこそこそと逃走し、 アルベルトは合流したらしいレイルと何処かへ歩いていってしまった。 そんな中でサクラだけが二人を止めに入っていて……あ、巻き込まれた。 おー怒ってる怒ってる。 あ、幸せ吸収した。 おー、腐ってる腐ってる。 雪音 「絶望だよ……きっとこの世はカーネルに滅ぼされるんだよ……」 ノア 「マクドナルドは救世主(飯屋)で……でも賞味期限が……」 もうなにが言いたいのか解らないことを、芝生にのの字を書きながら囁いている。 かなり吸い取られたんだろう、見てていたたまれない。 サクラ「反省するです。喧嘩は人類が発明した最悪の駄作です。     友達とのじゃれあいの喧嘩ならまだいいです。でも本気は醜いだけです」 雪音 「あもあもあもあもあもあも……」 ノア 「ちょんまげのほうがスキだなぁ……」 遥一郎「……おかしな方向にツキが傾いている気がするんだが」 サクラ「幸せメーター、1です」 ああ、それは不幸だろう。 岡田 「おやすみザッパ」 清水 「ああカタパルトさ」 落ち込みまくる二人を囲むように猛者たちが円陣を作る。 そして中心に向けて念仏のようなものを唱え始めるというよく解らない儀式を始めた。 遥一郎「一応訊くけど……一体全体なにをやってるんだ……?」 清水 「魔導船を呼んでおります。それを使ってゼロムスをコロがしに行くんだ」 遥一郎「………」 物凄く原中チックな返事が返ってきた。 魔導船っていうのはなんだ、 絶望に打ちひしがれている女を囲んで拝みまくってると現れるのか。 乗った途端に呪いで崩壊しそうな船だな。 俺は溜め息を吐きながら猛者たちの間を進み、ノアの傍まで行くと、その頭を撫でた。 そして言う。 落ち込んでないで、行くぞ、と。 ノア 「《ぱぁあっ……!》あ……は、はいっ、マスターッ!」 ……それだけであっさり復活した。 サクラ「はううっ!?幸せメーターが一気に50まで膨れ上がったです!」 遥一郎「随分安い幸せだなぁおい!!」 雪音 「うふふふふふふふふぅうう……!!     ノアちゃんだけにいい思いなんてさせないよぉおお……!!」 遥一郎「うわぁお前もか!?」 ぱぁっと明るく立ち直ったノアと同じように、ムクリと立ち直る観咲が居た! ……でも、なんだか同じといってもこっちはひどく……その、なぁ? 雪音 「……メーター、1のままです」 遥一郎「観咲……俺には時々、お前の中の根性が眩しすぎて仕方ないよ」 絶望状態のまま立ち直る友人になんて声をかけていいか解らず、そんな言葉を口にした。 雪音 「人のぉ〜……原動力はぁ〜〜……努力と、根性、と……腹筋……《どしゃっ》」 死んだ。 努力と根性と腹筋が尽きたらしい。 ……こんな時はどんな言葉をかけてやるべきなのか。 えーと……ああ、そうだ。 遥一郎「お前は強かったよ。でも、間違った強さだった」 岡田 「ある意味トドメだよな、それ」 遥一郎「えっ───そ、そうなのか!?」 清水 「今まで貫いてきた力が敗れて、しかもそれが間違いだって言われるんだから。     ほら、それってトドメだろ?」 岡田 「提督の場合、解っててそれ言ってるからみんな悔しがるんだ」 遥一郎「あ……あー……」 なるほど、トドメだ。 事実として負けてるわけだから、反論の余地が限りなく少ない。 って……中井出ぇえ……これは解っててやるには相当に極悪だろ……。 あ、いや……極悪だからこそやってるのか……? 遥一郎「はぁ……よし。     じゃあトドメ刺した償いってわけでもないが、部屋にでも運んでやるか……」 岡田 「お前……ホントやさしいのな」 遥一郎「やっ……やさしくなんかないっ」 清水 「烈海王って呼んでいい?」 遥一郎「やめろっ!ただでさえ最近あだ名みたいなのが増えてて困ってるんだから!」 周囲の反応に頭を痛めつつ、 ぐったりと倒れた観咲の背中と膝の裏に腕を通して持ち上げる。 なんだ、いわゆるその、お姫様抱っこ、というやつだ。 ノア 「なっ……な、なっ……ななななぁーーーーーーっ!!」 サクラ「与一!今すぐ離すです!ヤツのライフポイントは既にマックスです!」 遥一郎「いや、言ってる意味が解らないが」 サクラ「抱きかかえられた途端にメーターが30を超えたです!狸寝入りです!」  ドグシャアッ!! 雪音 「みぎゃあっ!───お、落としたーーーっ!ホギッちゃんが落としたーーーっ!!     部屋まで運んでくれるんじゃなかったのーーーっ!?」 遥一郎「約束したわけでもないしな。     それに肉体労働が苦手なのは相変わらずだ、察してくれ」 はふー、とお手上げのゼスチャーをする。 そりゃ、ステータス移動でもすればどうとでもなる。 なるが、女の子を運ぶってのはステータス移動に頼るべきものじゃない気がする。 リヴァ「ぶふっ……!くっ……くふふふふふ……!」 なんて考えてると、突然離れた場所で笑い出すリヴァイアが。 リヴァ「あははははは!いまどきっ……今時珍しいくらいにっ……!     ステータス移動に頼るべきじゃないだって?あはははははは!!     お前はいったい何処の白馬の王子さまだ、あはははははは!!」 遥一郎「………」 どうやら考えていることを読まれたらしい。 見れば、リヴァイアの傍では焼き焦げて消滅過程にあった式が存在していた。 だからそれが消える前に、趣味が悪いぞ、と色濃く考えておくことにした。 リヴァ「なんだ、人の趣味にいちゃもんをつけられる立場か?     お前が趣味を極めたいっていうなら、わたしに意見する道理がどこにある。     これがわたしの趣味だって言ったら、お前は頷くことしかできないじゃないか」 笑い顔のままで腰に手を当て、やっぱりくつくつと笑うリヴァイア。 ……ああもう、好きにしてくれ。 リヴァ「ああ、好きにするぞ。ははは、いや、やっぱり地界には面白いやつが多いな。     空界の堅苦しさの中じゃあこうはいかない。ここに居るだけで、     ここまで皇国王宮王広間との違いを思い知るとは思わなかった」 遥一郎「そんなに楽しみたいなら中井出でも追ってみればいいだろ。     あいつの傍はきっと退屈しない」 リヴァ「うん?ああ、そういえばもう既に逃げられたあとだった。     うん、だが心配しなくていいぞ。きちんと追跡ビットをつけてある。     空界で新たに作られたホムンクルスの一種なんだけどな。     ああ、地界で言う機械的なイメージは一切ないぞ?     ビットっていう名前はただわたしがそう名づけただけだ。     だかぶふぅっ!?」 総員 『オワッ!?』 喋り途中だったリヴァイアが突然噴き出した! 何事かとみんながリヴァイアのことを見るが─── リヴァ「ど、ドリアードが轢かれた!───あ、ああ、あの小さいほうのドリアードだ!」 岡田 「轢かれたとな!?」 清水 「余所見でもしてたのか!?」 リヴァ「い、いや……一緒に居た少女を庇って、クルマにドカンと……」 総員 『ドラマチック災害だ……』 三島 「間違いない……きっと写真の中で真ん中に写ってたからドラマチックに……!」 遥一郎「……精霊って一応、車とかに……その、物理的に衝突されたりするんだな」 てっきりシェェエエイとか妙な音が鳴って擦り抜けたりするものかと。 けど車に轢かれたっていうのは穏やかじゃない。 いくら精霊でも、まずいんじゃないか……? 遥一郎「様子は!?どうなってるんだ!?」 リヴァ「落ち着け、ドリアードに問題はない。     問題があるとすれば、轢き逃げ……だったか?をしようとした男の方だ。     止まることなく逃げようとして、     中井出の……体の紋様から出た炎に車ごと鷲掴みにされ───     な、なんだこの能力は!まずいぞ!中井出のやつ、頭に血が上って───!」 岡田 「や、提督だから大丈夫っしょ」 清水 「いくら制裁だからって殺しまでは───」 リヴァ「い、いや……中井出の姿が炎の渦に包まれて……     蒼い甲冑に身を包んだ、斧を持つ男の姿に」 4人 『大変だぁああーーーーーっ!!!』 リヴァイアの言葉に、いわゆる素晴らしき7人と呼ばれる中の数人が絶叫! 藤堂 「え……えぇええ!?消滅したんじゃなかったのか!?ベルセルクと一緒に!」 岡田 「おおおおお俺が知るかぁああっ!!」 清水 「あ、い、いやっ……そういやグレイドラゴンが、     アレは提督がイメージした狂いし者の虚像だから、     狂いし者とは直接的な関係はない、って……」 藍田 「言ってる場合じゃねぇだろ!とにかく止めねぇと!     さすがに堅気のモンを殺してちまうのはマズイ!」 コトの重大さ、ここに極まれり。 結局俺達は全員でドラマチックな事故現場に走ることとなり、 その中の何人かは蒼空院邸に居るであろう頼もしい方々に助けを呼ぶことになった。 ああ、ほんと……平穏が欲しいなぁ……。 【ケース625:弦月彰利/コックローチバイアラン】 バシャッ、ビシャッ……ゴシゴシ…… 彰利 「へへっ、今日も決まってるゼ」 中井出に目潰しをされて少し。 すっかり目を治したオイラは、 母屋の傍らにある井戸から汲み出したヒャッケェ水で顔面を洗う。 ……顔って言うより顔面って言うほうがステキに感じる俺はヘンですか? 彰利 (水もしたたるいい男って言葉、誰が考えたんだろうなぁ……) 何故水だったのかが気になるところじゃい。 彰利 「ム?」 ふと感じた気配に空を見上げてみる。 と、 ルナ 「む」 ルナっちが居た。 どうやら蒼空院邸から飛んできたらしい。 彰利 「ルナァーーーっち!ルナっちでねぇがやぁあーーーーーっ!!     おまん、そげんとこでなんばしくさっとやぁあーーーーーーっ!!」 ルナ 「怒鳴らなくても聞こえてるわよぅー!!悠介こっちに居るんでしょ!?」 彰利 「おらん!」 ルナ 「うそ!魂結糸から感じる気配で解ってるんだから!」 彰利 「解ってるんなら訊くんじゃねぇべよ!     つーか会うためだけに遠路はるばるご苦労よねィェ」 ほんにべったり死神なんだから。 彰利 「悠介なら今用事があるってんでドタバタやっとるよ。     会いに行っても相手してもらえんて。そげんことよりアタイとちと出かけねぇ?」 ルナ 「………………罠?」 彰利 「わあ、てんで信用されてない。     安心するべさ、朝は中井出が作ったから     昼はアタイが作ろうと思ってるだけだし。その買い物にでも付き合わんかと」 ルナ 「ヤ。悠介とデートするから」 彰利 「アタイだって夜華さんとデート、といきたいんじゃけどね。     夜華さんてば近場以外には出ようとしない微・HIKIKOMORIだから。     話してみりゃ“昼餉を食べてから少し歩くだけだ!”とか言い出してさ」 ルナ 「武士って……」 彰利 「ねぇ……?」 アタイもルナっちもトヒョーと息を吐かざるをえません。 ほんに、どぎゃんしてあがぁな娘っ子になってしもうたのか。 彰利 「悠介の用事も昼あたりまで続くかもしれんとか言ってたから。     ホレ、悠介って半ば飛び出すような感じで晦家出てったっしょ?     その日から溜まってる宮司の仕事だのなんだのの問題、結構残っとるんだわ。     今更って感じもするけど、そういうのが残ってるのが嫌なんだと」 ルナ 「むー……」 彰利 「だからそれまでアタイと暇つぶしでもしぃひん?     中井出を追うのは激烈面白そうだけど、     昼のメニュー考えるんだったら中井出と一緒に居るのはよろしくない。     遊びに走りすぎて昼のことなぞ忘れるし、     まず間違いなく外食&ドナ様への貢献をしてしまう」 ルナ 「あんな白顔アフロのどこがいいの?ヒトデアフロのくせに」 彰利 「誰が羅武だこの野郎!!     アタイツンツン!この髪型見なさい!何処がヒトデアフロかね!」 ルナ 「みんな言ってたから言ってみただけだけど。     そんなことより境内の方の黒いコゲ跡。あれ、なに?」 彰利 「ウィ?───あ〜…………ん…………おお!     中井出だ!中井出が焼き芋するってんで、あそこでゴヴァーンと」 ルナ 「むー……片付けくらいしていきなさいよぅ……」 とりあえず貴様にだけは言われたくないと思うね。 悠介に言われなきゃそげなこともせんだろうに。 彰利 「んで?」 ルナ 「む?」 彰利 「むじゃなくて。何十年も生きてるヴァヴァアが首傾げるんじゃあありません。     親の顔を見たくもねぇわいまったく」 ルナ 「そういえばさ、ホモっちって死神王やめたのよね」 彰利 「お?オウヨ!アタイ月の家系に戻ったの!     やっぱ基礎っつーか原点は大事だって思い知ったね!     そこんとこ言うと、原点で突っ走りまくってる中井出は見てて面白ェ」 ルナ 「さっき蒼空院邸の庭でボロ負けしてたわよ?」 彰利 「アルェエエ!?」 なにやっとんのでしょうか、ヤツは。 ボロ負けって……ウヌウ、いったいなにが? 彰利 「相手は?」 ルナ 「えっと。マグベストル姉妹。悠介とホモっちの記憶の中に居た」 彰利 「あー……ってヤツらに!?」 ルナ 「えと、なんていったっけ。ほぎ、ほぎー……やさ男も一緒だった」 彰利 「ホギーよ……」 優男呼ばわりか……可哀想に。 じゃけんども、ヤツなら魔法跳ね返せる筈だし……ウウム、解らん。 彰利 「マジでボロ負け?」 ルナ 「うん。ドカバキギャーって。あ、武具外して戦ってた」 彰利 「そりゃまた……」 思い切ったことをするのぅ。 でも武具外しただけでボロ負けか。 どれだけ武具に守られとんのでしょうね、中井出は。 いや違うか、武具と一緒に成長したからこそ、武具が無けりゃ弱すぎるのか。 老人で言えば杖が無ければ立てないのと同じくらいに。 ……ああ、イメージしてみると実に弱そうではある。 彰利 「武器が無ければ弱いと豪語してたとはいえ、圧倒的なレベル差があるでしょうに」 ルナ 「技術であっさり翻弄されてボコボコだったけど?」 彰利 「中井出よ……」 ヤツのレベルはちょっとした技術にも勝てぬほどに雀の涙ですか……。 千から二千ほどのレベル差でも、 技術だけで詰められてしまうヤツの技術の無さがハンパねぇ。 ……まぁ。 中井出らしすぎて、逆に笑えるわけだけど。 彰利 「ほいじゃあ行きますか。昼前に帰って調理して、昼食ったらデートさ」 ルナ 「ヤ」 たった一言の即答でした。 彰利 「クォックォックォッ、買った食材で悠介専用の食事を作ってやるとか、どうかね」 ルナ 「…………悠介、わたしが作ったものなんて食べないし」 彰利 「アタイが料理を教えてやろう!それを食べさせて悠介を驚かせてやるんだ!     いつまでも料理オンチじゃねぇのYO!     わたしは悠介を満足させられる妻なのYO!ってことを教えてやるんだ!」 ルナ 「でも」 彰利 「でももヘチマもねぇーーーっ!!───なんでヘチマ!?まあいいやそんなこと!     教えてもらった料理はこれからじっくり自己流にアレンジしていきゃいい!     それ即ちルナっちの料理!それを悠介が美味しいと言ってくれれば貴様最強!」 ルナ 「───……」 ルナっちが、自分の手の平を見下ろして、ふるりと震えた。 心なし、目は潤んで頬も赤くなっている気がする。 ルナ 「悠介を……満足……」 彰利 「さあ今この時の選択肢は三つ!来るか来ないか決断しないか!」 ルナ 「行く!」 彰利 「キャアステキ!アナタ素敵よルナっち!では買い物へGO!!」 ルナ 「おー!」 ヤイサホーゥィ!と腕を突き上げていざ!凱旋ッ!! さーて、お店回りながら昼のメニュー決めないとねぇ〜ィェ。 ……なんて思ってた僕がただただ平和だったと懐かしみたくなる事態が、 このあと僕らを襲うなんて……僕はこの時、思いもしなかったのです……。 【ケース626:晦悠介/アブラハムニは執事の子】 バサバサバサ…… 悠介 「篠瀬〜!そっちどうだ〜!?」 夜華 「悠介殿が言うような書物は見当たりませんが〜!」 過去の文献を探すために倉あさりを始めて少し。 若葉や木葉よりもよっぽど晦神社のことに詳しい篠瀬を引きつれ、 俺はホコリまみれになりながら頭を掻いていた。 悠介 「妙だな、前に見た時はこっちの倉にあった筈なんだが……。     おーい篠瀬ー!以前炎紅諡のことでお前に見せた文献に、     別の文献混ざってなかったかー!?」 夜華 「あれはそもそも時代が違うでしょうー!」 そうだった。 困ったな……あれがないと話が進まないんだが……。 悠介 「彰利は?案外あいつが面白半分で持っていった可能性も───」 夜華 「彰衛門ですか?そういえば………………姿が見えませんね」 悠介 「みさおか椛でもいいんだけどな……月空力でここのこと覗いてくれれば」 誰かが入ったかどうかが解れば、それも……待てよ? 誰かが入った? ……そういえば、蔵の鍵の位置がちょっと違ったような……。 それに、積んである書物に積もった埃に、 丁度人の指ほどの大きさ分、埃が剥がれたものが…… 悠介 「………」 いい度胸だ。 人の留守中に泥棒とは、やってくれる。 悠介 「篠瀬!出るぞ!」 夜華 「えっ……ど、何処にですか?」 悠介 「町だ!文献が盗まれた!」 夜華 「───!?それは許せん!ここには過去の頃より、大切な書物が収められた場!     それを穢す者が居るなど───!」 そう、考えてみればこの倉は宝物庫も同然なのだ。 何故なら旧時代の書物がかなりの保存状態で残っているから。 目の利く鑑定家に以来すればそれなりの値段がつくものばかりだ。 それを狙ってのことだろう。 ……冗談じゃない、売るなんてこと、誰が許すか───! 夜華 「しかしどうやって探すのですか!?」 悠介 「待ってろ───……分析、開始───、……!」 目を真紅に変異させ、倉の中を凝視する。 ……倉の中のあらゆるものが文字の羅列に変化する中で、 ひとつ……書物類の羅列とは明らかに違った羅列を発見。 それを拾ってみると、髪の毛……のようなものだった。 いや、間違い無く髪の毛だ。 だが……この家に住むものの毛じゃない。 悠介 「───!篠瀬!急ぐぞ!もう大分遠くまで逃げられてる!」 夜華 「はい!」 どうやって知ったのか、なんて細かなことは訊かずに走ってくれるのが今は嬉しかった。 髪の毛から分析した気配と同じものを探知するや、すぐさま倉を飛び出し、 止まることなく石段を何段飛ばしにもして先を急いだ。 ……その先に待つ、凶々しくも強大で、 出来れば二度と会いたくなかった男と出くわすことになるとも知らず。 Next Menu back