───あなたに届け、雄跳牆/そして、いつもの風景───
【ケース629:中井出博光/いつの間にか陽は登り、僕らはひとつ大人になる】 ドカバキドスボゴガスゴスガス!! 中井出「おわぁ〜〜〜〜〜っ!!!」 皆様お元気でしょうか。 太陽もいつの間にか天へと至る頃合、 訳も解らないままに激痛の渦に飲まれ、はや……いかほど? なんにせよ激痛地獄も終わりを告げ、ようやく一息ついた僕は、 一息ついた途端にみなさまにボコボコに殴られております。 彰利 「テメェエエエエエエ!!いきなりなんてことさらしとんじゃぁあああっ!!」 藍田 「今日はオフ日だって言っただろうがァアアア!!     空気読めよテメェエエエエエッ!!!」 中井出「読めるもんなら今すぐ読みてぇええええーーーーっ!!!」 聞けば、ナギーを轢き逃げした男の車をジャバウォックで捕まえた僕は、 怒りのあまりにプッツン。 その怒りに呼応したバル様が僕の体をぶるぁああっと乗っ取り、 持ち上げた車をハッハァーと片手で投げ捨て大変なことに。 そこへ駆けつけたばかりの猛者たちは突然の爆発にホギャーと叫び、 少しののちに晦らが駆けつけた、と。 ちなみにナギーを轢いた車の運転手は泥棒さんだったらしく、 晦神社から書物を盗んで慌てて逃げる途中だったんだとか。 なもんだからろくすっぽ信号も見ずに激走し、 紀裡を轢きそうになったところをナギーが庇って、 僕がキレて、バル様がぶるぁあああ、皆様がほぎゃーとなって……今に至ると。 中井出「僕悪くないじゃないか!!」 彰利 「うるせーーーっ!!プッツンした貴様が悪いんだ!!」 中井出「うるせーーーっ!!パイルバンカーで車破壊してやろうとしただけだい!     そしたらバル様がぶるぁあああって!!」 彰利 「だったらいつもみたいに内側で苦しめてあげなさいよ!」 中井出「内側で目覚めることすらなかったんだって!彼の意識の強さハンパじゃねぇぞ!?     普通なら乗っ取られてもすぐ意識持てるのに、彼の場合はそれがゼロだったのだ!     そんなの、抵抗できるわけがないではないか!!」 彰利 「なんだと!自分の過ちを過ちじゃないって言うつもりか!」 中井出「フン!なんと言おうが僕は気絶していたのだ!知ったことか!     ていうかゆっくり喋らせて!痛い痛い痛い!!殴らないで殴らないで!!     やっ!違っ!やめてぇえ!!誰も蹴れなんて言ってないよぅ!!」 喋ってる間もボコスカと殴られる。 まるで初期のキン肉マンのようだ。 中井出「あ、そ、そういえばあの轢き逃げ野郎は!?     俺アイツ、ブチコロがそうとしてたのにバル様が邪魔したから出来なかった!」 総員 『殺す気だったのかよ!』 中井出「当たり前だ!止まって降りて心配してくれるならまだしも、     逃げたのなら話は別すぎて話にもなりはしねー!     人の命を障害物程度にしか思っていなかったのだ!     殺されても文句は言うだろうが聞いた上で無視してやる!!」 総員 (ひでぇ……!遺言すら聞かない気だ……!) 中井出「そうだナギー!ナギーは!?」 会話の途中で思い出し、辺りを見渡すと草原。 ハテ、町はいったい何処に?───ハッ! 中井出「大友くん!僕らは未来に来てしまったのだ!」 悠介 「落ち着け」 中井出「うん落ち着く」 どうやらタイムスリップしたわけじゃないらしい。 うぅむ?……ってここ、弦月屋敷の草原か。 屋敷の影から震えながらこっちを見てる棒人間が、 ここで起きた惨劇を妙な具合に物語ってる。 中井出「それで、ナギーは?」 ノート『ふむ。強いショック状態で気を失っている。少しすれば目覚めるだろう。     なに、心配はいらない。命に別状はない』 中井出「そ、そうか……───じゃあ話を元に戻そうか。     轢き逃げ犯何処?人間らしく包丁で殺すから前に出して?」 悠介 「ほんと人間らしいなおい!!ダメだダメダメ!殺す気で居るヤツの前に、     轢き逃げ犯だからって殺されるって解ってるヤツを出せるか!」 中井出「じゃあ力いっぱい黄金蹴り上げるだけだから!ね!?STRマックスで」 悠介 「それこそ死ぬわ!!」 中井出「キミは僕にどうしてほしいんだい!?」 悠介 「殺すな!提督はあいつに手ェ出したらダメだ!」 中井出「うむよし解った!ならばオリバを派遣しよう!     そしてジェフ=マークソンにそうしたように、     およそ人体が死を免れるギリギリのフルボコリを」 悠介 「だからやめろっての!」 中井出「僕手を出してないじゃないか!!」 悠介 「そういうのを屁理屈って言うんだよ!頼むから落ち着いてくれ提督!     ここであんなクズ野郎殺したって、ただ手が血に染まるだけだろ!?」 中井出「グエフェフェフェ大丈夫大丈夫、手に血?つけるわけねぇじゃねぇか」 悠介 「そういう問題じゃねぇえええええええっ!!!」 中井出「うんまあ冗談」 悠介 「か゜っ───」 ビシリと晦が硬直した。 うむ、ナギーが無事ならそれでよし。 だが轢き逃げ野郎にはそれなりの罰が必要なのは確かだ。 ……殺してもいいとは思ったけどね、物騒な話だけど。 中井出「じゃあさ、あいつの処理、俺に任せてくれないか?」 悠介 「えっ───や、だからっ!」 中井出「心配ならば貴様もついてくるがいい。断言する。殺さない。     俺はな〜んも手ェ出さないし、間接的に殺すなんてことも誓ってしない。     俺はそれを、覚悟として身に刻む」 悠介 「───……解った」 少し渋った晦だが、覚悟って言葉を聞くとすぐに頷いてくれた。 それを見るや、轢き逃げ犯兼泥棒野郎をみさおちゃんが転移してくれる。 中井出「こいつか。お〜お、いかにもってツラしおって」 彰利 「え?べつに日向くんみてぇなツラしてねぇぜ?」 中井出「いや……そっちの意味じゃなくて」 さて。 気絶しているそいつをタワーブリッジで固め、 起きても身動きできないようにしてから行動開始! ───の前に、彰利に近寄るとヴォソォリととあることを知らせておく。 彰利 「オッ───OKOK!どうせ買い物する時間潰れちまったしね!」 するとあっさりと頷いてくれました。 理解のあるクラスメイツを持って、この博光もすこぶる嬉しいです。 中井出「では行こう晦!ただしこの博光がそうしたように、貴様にも覚悟が必要だ!     これより先、どんなことがあろうと見届ける勇気はあるか!?     たびたび言おう!殺すことなどせぬ!傷つけもせぬ!」 悠介 「ああ。提督にはいろいろ世話になってる。     ここで信じないのはちょっと卑怯だ」 中井出「うむよし!では早速GOだ!」 悠介 「よし!……って、それはいいけど何処へ?」 中井出「昂風街」 言って、ジークを浮かせて各馬一斉にスタート! 慌てて我が腰にしがみついてきた晦とともに、 この愚か者に罰を与えるために空を飛んだのだった───! ……。 …………。 と、そんなわけで昂風街。 中々大きく、少し歩けば賑わう風景に出る暖かい町だ。 そんな町の一角───目的の場所につくや、 晦はこれより起こる現実を知り、口元を押さえた。 悠介 「ほっ……本気、か……?」 中井出「本気である」 人によっては死んだほうがマシとさえ思うだろう。 だがそうでなければ罰になどならん。 轢き逃げがどれほど重いか、その身で知るがいい!!  ガラララッ……!! 間も無く、引き戸は開かれた。 俺はズイと中へ歩み、晦もハッとしてついてくる。 声  「いらっしゃい」 でも、聞こえた声に我が身がさすがに硬直する。 だ、だが大丈夫だ、臆するな! お、俺はかなり残虐なことをしようとしているッッ! しかしこれはこいつが心を改めるために必要なことッッ!! 中井出「待たれよ」 悠介 「《がしぃっ!》やだぁーーーーっ!!」 圧し掛かるであろう事実に耐えられそうにないと踏んだらしく、 逃げ出そうとした晦を捕まえ、そして見る。 広い広い……つい昨夜来て、二度と来るまいと思ってた場所……その番台に立つ男を。 阿部さん「どうしたんだいそんなところで固まって」 そう……ここは銭湯あべの湯。 彼が経営している薔薇色銭湯である。 フ、フフフ……やべぇなんだか罪悪感がフツフツと。 だが俺はやるね!さよなら轢き逃げ犯!ここでお別れだ! 中井出「阿部さん……彼、男に興味があるらしくて」 言いながら、肩に乗せたままの轢き逃げ犯をヨイショと番台の傍に寝かせる。 阿部さん「よかったのか、ホイホイ連れてきたりして。      俺はノンケでも構わず食っちまう人間なんだぜ」 中井出 「構いません。こいつ、阿部さんみたいな人、好きだから」 阿部さん「うれしいこと言ってくれるじゃないの。      それじゃあとことんよろこばせてあげるからな」 そう言って、阿部さんは番台から降りると、 轢き逃げ犯をお姫様抱っこで紳士的に持ち上げて、奥のトイレへと歩いていってしまった。  ……少しして、聞こえてくる絶叫。 本気で嫌がり、本気で暴れているのが声だけで解った。 ああ、もうほんと……この風呂屋にはこれないな。 そう思いながら、俺は昨夜忘れた服を回収しつつ溜め息を吐いた。 声  「ひぃいやめろぉおおお!!やめてくれぇええ!!俺が悪かったぁあっ!!     書物も返します!轢き逃げのことも謝ります!自首だってします!     だから!だからぁああ!!アッーーー!!」 ……そして今、奇妙な悲鳴とともに牡丹が散った。 俺は頷いたことを後悔して涙する晦の肩をポンポンと叩いてやると、 静かに……引き戸を開け、あべの湯をあとにしたのだった……。 ……ちなみに言うと、書物も返しますって言葉には間違いがある。 既に書物は回収済みらしいから。 【ケース630:中井出博光(再)/昼飯、食おうぜっ】 さて……時もそこそこ、ナギーもすっかり復活した昼まっさかり。 中井出「……ということがありまして」 総員 『アイッタァアーーーーーーーーッ!!!!』 蒼空院邸につくとみんなが既に戻ってたんで、 みんなに紀裡を紹介したそののち、晦の部屋に戻ってからじっくり聞かせてやりました。 だってどうしたんだ〜とかしつこかったから。 そしたらみんながみんな頭を抱え、女性陣の一部だけは鼻息を荒くしていた。 ……誰とは言わんが。 閏璃 「うあああ……俺もうあそこ行けねぇえ……!!」 柿崎 「勘弁しろよ……!あそこ子供の頃から結構行ってた場所なんだぞ……!?」 鷹志 「思い出が崩壊していく……」 男子諸君のダメージは相当なものだ。 特に昂風街に住まい、そこでの思い出があるやつらにとっては相当な大打撃。 でも誰一人、轢き逃げ犯の心配をするヤツは居なかった。 ……当然って言えば当然か。 中井出「じゃあお昼にしよう」 総員 『あんな話しといて!?』 ポンッと手を叩きながら言うと、裂帛の気合で睨まれた。 中井出「な、なんだよ!みんなが教えろ教えろ言ってきたから教えたんじゃないか!     僕は嫌だって言ったのにキミたちが!キミたちが言えって!!」 清水 「普通そんなことするなんて思うわねぇでありますサー!!」 中井出「清水二等……常識なぞ破壊するためにあるのですよ?」 清水 「破壊しすぎじゃぁああーーーーーっ!!!」 そうは言うけど、既に準備は開始されている。 俺が彰利に頼んだアレ……準備は案外簡単で、 ここに集まっているみんなは何気に食い物を持っている。 恐らく彰利が、好きな食材持ってきてくれ〜と、一人一人に言って回ったんだろう。 ウフフ、何人かは気づいているようだが……そう、料理は厨房で作られるのではない! ここで作られるのよ!! 彰利 「ういよーお待たせー!今日のお昼はアツアツ鍋だっぜぇーーーーーい!!!」 さわさわと“そろそろ腹減ったな……”とかいう声が聞こえ始めた頃、 そこへ丁度現われたる彰利! 手には大きな鍋を持っていて(晦の創造物)、 それを確認すると晦が部屋の中心に大きいコンロを置く。 ガス要らずで匂いもしない、サラマンダーファイアコンロだ。 岡田 「オ?オ?なに?ここで食うの?」 彰利 「オウヨ!どうよこのダシ!美味そうだろ!」 岡田 「ちっといいか?《ペロッ……》───ぅぅうううおおおっ!!!?     う、美味ぇっ!こりゃ美味ぇ!!ダシってこんないい味出せるんだな!!」 雄山 「当然だ。この雄山が用意する以上、その味は至高!     貴様らでは出せん味をいつでも出してやるわ!     うわぁーーーっはっはっはっは《バゴォ!》ウモルチェ!!」 岡田 「いきなり雄山になるなよムカツくから!」 彰利 「コワカカカ……!だ、だからって殴らんでも……!     グウ……どうやら殴られた拍子に久しぶりに顎が砕けたらしい……。     くそう、相変わらず顎がモロいなぁ家系の俺……」 そういや殴られるたびに顎砕けてたっけ。 不思議と死神化が定着してきた頃から砕けなくなってたと思ったら、 そんな裏があったのか。 中井出 「えー、というわけで何人かお気づきの方がいらっしゃると思うが!!      これより原沢南中学校迷惑部名物!      “夜魅奈邊覇唖鼎異(やみなべぱあてい)”を始めるものとする!!」 猛者以外『な、なんだってぇええーーーーーっ!!?』 訳も解らず適当な食材を持ってきていた者たちはそれこそ絶叫。 勘のいい猛者ども以外のほぼ全員が絶叫し、 俺達は大きな鍋を前に、ゴクリとまず喉を鳴らした。 鷹志 「やっ……闇なべって……!あ、あの……!?」 閏璃 「フフフ、各自に食材をって時点で予想はしていた。     ちなみに俺が持って来たのは酢だこさん太郎100枚」 柿崎 「それでどんな料理作ってもらうつもりだったんだよ!」 来流美「そういう柿崎くんはキムチなのね。しかも激辛」 柿崎 「いや……暑い日だからこそ辛いものをと……」 藍田 「まだまだ甘いなパーシモンとやら……俺なんかこれだ」 由未絵「ふぇ……?マグカップ……?」 来流美「……の、中になにか入ってるわね」 藍田がゴゾォと見せてきたマグカップ。 中には妙な物体があって───アレ?これって…… 藍田 「マシュマロをマグカップに入れて、電子レンジで15〜20秒、     そんでこいつにチョコフレークを入れてかき混ぜる。     これでチョコフレーク納豆のでっきあがりでィ!!」 総員 『リトルグルメじゃねぇか!!』 悠介 「や、やめろ!それだけは入れさせるな!!」 そう、リトルグルメだ。 なもんだから周りの反応は最悪。 まあ……リトルグルメだし。 藤堂  「まあまあ、闇鍋なんだからそんな、文句なんて飛ばすなよ。      俺の食材見れば、“ああこれなら”って始められると思うぜ?」 来流美 「……あまり訊きたくないけど。なに?」 藤堂  「マシュマロ3個と、板チョコの割ったのを3つ用意。      一緒にして、電子レンジで溶かす。冷めるまで、スプーンでかきまわす。      冷めてきたら、今度は手でねんどをこねるように、混ぜこねする!      形が自由自在で、ガムみたいな歯ごたえ!      もちろん、全部食べれる超うまかメニュー!コンブ特製マシューガムの!      でっきあがりだっぜィ《バゴォン!!》シエルジェ!!」 来流美 「結局リトルグルメじゃないの!!」 親切にレシピを説いていた藤堂が左頬を殴られた。 来流美 「───ちょっと原中陣営!食材見せなさい!      まさかあんたら全員リトルグルメ持ってきたんじゃないでしょうね!?」 猛者連中『……《ギクリ》』 来流美 「……ちょ、ちょっと……冗談でしょ!?」 岡田  「冗談です《バゴォン!》モルスァ!!」 言ってみた岡田くんも殴られた。 ひでぇ。 ちなみに言うと闇鍋=リトルグルメは猛者の中では案外定番だったりする。 理由は……闇鍋だからだとしか。 彰利 「ギャアもう!入れる前にタネ明かししちまうからそうなるんよ!     中井出〜、明りの元をシャットしてたもれ」 中井出「うむ。ナギーよ、カーテンを閉めてくれ」 ナギー『了解なのじゃ』 カシャー、とカーテンが閉ざされ、電気が消されていることもあって大分薄暗くなる部屋。 だが足りぬ……これではまだぼんやりとだが見える。 彰利 「よし───黒操術!“夜”!!」 ここで活躍するのが彰利の“夜”。 場を黒霧で覆い、真っ暗にしてしまう……的なものだと思う。多分。 詳しいこと聞いてないから解らないけど。 しかしこれで、鍋の炎以外に明りは無くなった。 中井出「じゃあ入れよう」 声  「マテ。こういうのって入れたあとに暗くして、     取ったものは食わなきゃだめってやつじゃなかったか?」 中井出「そ、その声は晦!?ど、どこだい!?     顔を見せておくれ!?キミの───キミの顔が見えない!!」 声  「暗いんだから当たり前だっ!わざわざ少女漫画風にするな!」 声  「まあとにかく入れればいいんだろ?」 声  「《ゴリリッ!》あたぁっ!?ちょっと誰よ!今脚踏んだの!」 声  「ア、アチキじゃねーッス!」 声  「え〜と……ここだな。頼りがコンロの炎だけってのもな……よっ、と……」 みんながコンロの火を頼りに近づき、具材を入れてゆく。 途端に異臭だの、焼くような痛みが目を襲ったりなどしているが、やるといったらやる。 彰利が用意した出汁の味も台無し状態だ。 声   「むわっ!目に染みる!!」 声   「うっ!く、くせーーーっ!」 声   「な、なんだこの匂い!生臭……血!?」 声   「うん?好きなものと言っただろう。怪鳥クラボルドの肉だ」 声×多数『シュバちゃぁああーーーーん!!!』 声   「わはー、わたしホムンクルスの残骸肉〜」 声×多数『オエエ!?死体!?それって死体!?』 声   「結構うまいんだぞー?食えー」 声   「食えるもんか魔女ババア!!おい検察官!なんとか見分けて排除しろ!」 声   「バ……バ、バババ馬糞馬糞バババ……!!」 声   「ゲエッ……!そういやホムンクルスっていやぁ……!!」 ……過去最悪の闇鍋になりそうだ。いや、なってる。 かくいう俺は、ゴゾォと荷物を漁って……ウフフ、これこれ。 刻震竜の肉。 これを少しだけ入れて……と。  ゴシャアアアアアアッ!!!! 声×多数『ふごぉおおうぉあっ!!!?』 光った!なんか光った! 肉入れた途端に光ったァアアア!! 声  『中井出博光!汝、今何を入れた!?』 中井出「あれぇ見えてる!?だ、ダメだよノートン先生!入れるとこ見てちゃ!」 声  「なに!?発行塗料でも入れたの!?ヒロちゃん!」 中井出「入れないよそんなの!ただ刻震竜の肉を入れただけだよ!」 声  「なんと!?サウザンドドラゴンの肉!?ど、どれかね!食ってみてぇ!」 声  「お前も見えないのかよ」 声  「だって黒っつーても今は家系の肉体だし。そんなん肉眼で見えるもんかね」 妙に現実的なやつだ。 さっきまで馬糞を恐れていたヤツとは思えんくらいのハジケっぷりだ。 ……馬糞問題はもういいのか? 声  「ベリっ子ヤムヤム〜、ホムンクルスの残骸って、材料は……」 声  「馬糞なら入ってないわよー」 声  「よし食おう!なにやらいい香りになってきたし!」 声  「どういう原理なんだ?これ」 中井出「俺が訊きたいです」 ともあれ闇の中、手探りでお椀やら箸やらが配られてゆく。 既に皆様、入れたいものは入れたかという質問にオーケーを頂いた今、ただ食すのみ。 ただ……やっぱり怪鳥とかホムンクルスの残骸とかはちょっと……。 勇気が……勇気が必要だ。 もちろんリトルグルメミックス状態のコレを食う勇気も。 え、えーと……なにか軽そうな感じの物体は〜〜……と……お、あった。 コロコロして丸っこい……卵か? なんだか大きいけど……うむ、いいものを引いた。 じゃあ早速パクリとゲヴォォッフェェッ!! 中井出「ぶうぇええっふぇっふぇ!!なんだこりゃあ!え!?卵じゃない!?なにこれ!」 声  『ふむ。怪鳥の目玉だな』 中井出「OWEEEEE(オヴェエエエエ)!!?」 うおお口ン中でグチャリととろける! うええ気持ち悪ぃ!しかもまだ煮えてねぇにもほどがあるよこれ! 声  「これ!電気もつけんうちから食ってどうする!」 中井出「うるせぇよ!怪鳥の目玉を生のまま食った俺の気持ち、誰が知る!!」 妙ぞ!こはいかなることか!! 何故いきなりこんなものを引かねばならぬ! い、いや落ち着け落ち着けぇ……? 鍋に食材入れたならもう明りもつけて、みんなでワイワイ食べるのが闇鍋だ。 ルールなんて詳しく覚えてないが、学生時代はそれでいってたのだからそれでOK。 だがこれは既に聖戦。むしろ悪戦。 電気をつけるなどという行為……まことに許しがたし。 過去は過去、今は今である……というわけで電気はつけません。 つーか思い出した、闇鍋はなにをとったかが解らないからスリルがあるのだ。 というわけでこのままGO。 声  「えーと……おっ、これなんか美味そう。この……なんだ?肉っぽい……いや待て。     なんだこの感触……ほ、骨?いや違うな……ぐああ電気つけてぇえ!!」 声  「うっさいわYOダーリン!」 声  「ダーリン言うな!」 皆の緊張がかなり高まっている。 そんな中でもガツガツムシャムシャと食べているヤツは案外居るもので、 その人物の予想もまあ立てられた。 シュバルドラインだ。 中井出「ウ、ウヌウ!負けてられん!食うぞ!とにかく食う《グニョリ》ぶえぇふぇえ!!     なんだこりゃ……うわぁあああ手だぁあああああっ!!!」 声  「おお、エロ光くんあた〜り〜」 中井出「ベルリーノさん!?手!これ……赤子!?赤子の手!?」 声  「わはー、だからホムンクルスの残骸だってば」 中井出「わはーじゃないよ!     これっ……イヤァアアアアア赤子の手ェ食べちゃったァアアアア!!」 なんかこう、手がさ!口に入れた瞬間にさ! ほ、骨が……ほら!ゴリって感じで……さぁ!! や、やばい!思い出した!“ほん呪”の冷蔵庫の赤子! 中井出「うう……食欲失せた……。     ほんとうにあった呪いのビデオの冷蔵庫の赤子思い出した……」 声  「うぃいいいっ!!《おぞぞぞぞっ!!》     だ、だめっ……!俺もダメッ!手とか勘弁しろよぅ!くそう!」 声からして藍田が脱落。 俺も脱落。 そうこうしてるうちに次々と脱落して、 なんだか僕の言葉の所為でみんなが食欲無くしてるような……。 声  「脱落?クォックォックォッ、馬鹿言っちゃいかんぜ中井出よ。     我ら原中が送る闇鍋は脱落不能の沼…………!     一度始めたら枯渇するまで続く…………!」 中井出「いや……じゃあ手ェ食ってみろよ。そんな余裕無くなるぞ?マジで」 声  「おっほっほ、恐れるもんかね。大体《ゴリッ……》およ?     なんじゃこれ。あ〜〜〜ん…………?《ゴプシャアッ!!》オエェエエエエ!!!     足ッ……足だこれ!!口直し口直し《ゴキキッ……》オヴェエエエエエ!!!     毛がっ……オエッ……頭!頭が入ってOWEEEE(オヴェエエエ)……!!!」 中井出「さ、頑張れ?」 声  「あの……ナマ言ってすんませんした……。勘弁してください……」 声  「ベリー……人型はマズイだろ……」 声  「わは?いーじゃないのさ、チミたちだって動物の肉食べてるでしょ?     それがホムンクルスになっただけだってば。     蛋白質とか豊富だよ〜?さ、食べて食べて〜」 中井出「俺もう昨日と今日だけで28キロ摂ってるからもう蛋白質はいいよ!」 声  「オイオイ馬鹿言ってるぜ中井出の野郎。     ありゃデザートだぜ?当然このあとも飲むんだ」 中井出「また飲むの!?も、もういいだろあんなの!」 声  「その話はいいから今は片付けろって!     無くならないとデザートどころじゃないだろ!」 声  「だったらダーリン食べてごらんなさいよ!足と頭食ってみろ!     ちなみに一度手をつけたら食わねばならんのが北斗神拳」 中井出「……そのルールでいくと、俺と貴様はこの手足と頭を食わねばならんのか」 声  「…………」 ……うむ、やるしかあるまい。 いかなる食材であろうが、手をつけたら食べねばならん。 それが闇鍋ルールなのだから。 あの世のどこか……っつーか僕の武具の中に居るじーさんばーさんかーさんとーさん、 食人鬼になる僕を許さなくていいからせめて褒めてあげてください……。 博光はよく戦った、と……。 中井出「う……うおぉおおおおおおおおっ!!!!」 ガブリュッ!ゴリュリュッ!メキュッ!ゴキベキッ!!! 中井出「ルゲェエエエィエ!!オエッ!オエエ!ゴエッ!     血管が!筋が!骨が!ヴッ……オ、ルヴォエエェエエ……!!」 声  「うわぁああ食った!提督が食ったぁあーーーーーっ!!」 声  「ピクルだーーーっ!!ピクルの誕生だーーーっ!!」 声  「ば、ばかー!中井出の馬鹿ー!     てめぇがいかなければアタイも共犯ってことで逃げられたのに!」 中井出「……ェゥェッ……!!《ゴポリッ……》」 もう……なに言われようが返せねぇ。 喋ったら吐く。絶対に吐く。 だがそれは許されんことだ。 だから耐える……耐えるのだ。 声  「ち、ちくしょう!てめぇは手だからまだいいよ!     アタイなんざ足はともかく頭だぞ頭!     脳味噌とか髪の毛とか目玉とかいろいろヤバイものてんこもりだぞ!?     だ、だから───ディナータイムだアモルファス!!!」 声  「なにぃ!?弦月てめぇ!」 声  「闇に食わせる気かてめぇ!!」 声  「うるせーーーっ!!アタイであることには変わりねぇんだから黙れーーーっ!!     それとも食うか!?食ってみるかコラァアア!!     アンパンマンの頭食うのとは次元が違うって事実を味わってみるか脳漿ごと!」 声  「《ぐりぐり》ぐわぁあーーーーっ!!ばばばばかやめろ彰利!!     俺はべつになにも言ってないだろうが!!」 声  「ありゃ?キャアダーリン!そういや隣ってばダーリンだった!……食う?」 声  「食わん!大体俺だってよく解らないもの取ったからいろいろ心配で……     ってこれほんとなんなんだ?匂いは……べつに悪くないな。     どれ《ゴリリ》ぶえぇっふぇまっじぃいーーーーっ!!!     なんだこれ不味くてパチパチしててドロドロで……!!」 声  「あ、それ俺が作ったリトルグルメ、わたパッチンだ。超うまかだっぜィ!!」 声  「不味いにも程があるわ!!」 声  「そ……そんなハッキリ言わなくても……不味いけどさ」 リトルグルメか……懐かしいなぁ。 子供心にチャレンジして失敗して、僕らは大人になったのだ。 声  「そういやさ、この中で未だにオーマイコンブの会員証持ってるヤツって居る?」 声  「彰利」 声  「持ってませんよ失礼な!思い出とともに消滅したわいな!」 声  「柿崎あたりじゃないか?」 声  「うっ…………そりゃ、家のほうにはあるけどさ」 声  「まだ持ってたのかお前!もうコンブマスターだ!     パーシモンっていうよりコンブモンだ!     ……どこぞのデジタルモンスターっぽい名前になったな。     どうせだから強そうな名前で───ネオコンブモン!!」 声  「滅茶苦茶嬉しそうだなお前!!ていうかな!まだ持ってたのかなんて言葉、     後生大事にベジータ様のお料理教室テープを持ってるヤツに言われたくねぇ!!」 声  「なにぃ、ベジータ様はいいんだぞ、ベジータ様はなぁ《ゴリッ……》お?     なんだこれ、筋張ってぶうぇっふぇぇえええっ!!!     耳だ!耳だこれ!当たりを引いてしまった!───柿崎!トレードだ!」 声  「欲しくもないわそんなの!」 声  「耳がいらないだと!?だったらお前の耳を削ぎ落として家畜の餌にしてやる!」 声  「どうしてそうなるんだぁああっ!!」 ……、……。 中井出「よ、よし……吐き気が去った……料理を、続けましょう……」 声  「まだ食うのか!?───すげぇや!さっすが天下の中井出さんだ!」 声  「どこぞの黒野郎とは格が違うぜ!」 声  「どやかましぇい!!頭なんぞ普通に食えるほうがどうかしておるのさ!     そこんとこ間違えんでくりゃれ!」 中井出「ゼットはどう?食える?頭とか」 声  「竜での生活が長かったからな。なんでも食える」 声  「愛しい人まで食ってたもんね《ヴォソォリ……!》」 声  「───今言ったヤツは誰だ」 声  「中井出」 中井出「え?俺?」 声  「いい度胸だ中井出博光……!表へ出ろ……今すぐだ!」 中井出「疑うことを知ってぇえええええーーーーーーーっ!!!」 その後わたしは暗闇の中で気配を気取られ、 親友であるゼットにボコボコにされた。 ───……。 ……。 カシャアッ! 中井出「カーテンをこう……カシャアって開けるとさ。     とりあえず“ほ〜ら〜起きなさいよ〜”って言葉とかを思い出さない?」 彰利 「長森か」 中井出「長森だ」 さて……闇鍋の大半をシュバルドラインが片付けてくれてから数分。 お腹の中で誰とも知らぬお手々が消化してゆく───こんにちわ、中井出博光です。 ボコボコにされてもすっかり壮健、素晴らしい昼を迎えました。 でも……そんな食事を終えてもまだ、僕らのお腹は鳴りっぱなしだった。 闇鍋はおやつにすぎない……昼飯はこれからなんだっ! 中井出「お昼どうしようか」 彰利 「そうね」 閏璃 「ほんとそう」 悠介 「……食人したやつらが現実逃避を始めたが」 遥一郎「逃避したくもなるだろ」 中井出「どっか豪勢な店に行こう!そしてお口直しをするんだ!     考えてみりゃ俺、そういった場所って行ったことなかった!」 閏璃 「料亭なら友の里で十分だろ。地界であれ以上の味ってそうそう無いし」 中井出「じゃあ五つ☆レストラムとか!」 彰利 「貴様のおごりで!」 閏璃 「俺のか。───いいか!よし行こう!ラーメン戦争に続く二回目の旅だ!」 中井出「おおっ!」 彰利 「食うぜ〜〜〜っ!」 悠介 「……オチが読めた」 遥一郎「ああ、俺も」 僕らはエイオーと叫びつつ駆け出した! 動けば手とか食ったことを忘れられるかなとか思ったからだ。 そんなわけで今回出発するメンバーは俺と閏璃と彰利。食人したメンバーである。 でも走り続けた結果、 脇腹を痛めて路上で盛大にコケた拍子に車に轢かれてジェイニィイイと叫んだ。  ……これは。僕らが僕らの未来を目指すために戦う、ひと夏の長くて短い物語…… なんて感動が待ち受けてるみたいな思考を働かせてみても、 空を舞う僕の速度は落ちてはくれなかった。 ……。 そんなこんなで料亭……じゃないな、高級レストラム“中野”。 高級レストラムなのに中野って名前なのが素敵だ。 ちなみにどっか適当な町の高そうなホテルの最上階に位置するここは、 入るだけでも滅茶苦茶金がかかりそうだった。 ていうかかかった。 全部閏璃が出したけど。 彰利 「ホッホォォォォ、持っとるのォォォォ」 閏璃 「金だけなら無駄に。     晦のお陰というか所為というか。だから金のことは気にしないでくれ。     晦の関係者であるお前らのために使うなら惜しくない」 中井出「OK」 彰利 「クォックォックォッ、遠慮、しねぇぜ?」 夜景ではないけど、眺める景色は……ビルばっかで素晴らしくない。 正直に言うが、夜景がキレイ……とか言う気持ちが俺には解らん。 俺はこんな景色よりもグランドキャニオンとか見たいが。 ナイアガラの滝もいいね。 ともあれ案内されるままに豪華なテーブルにつく我ら三人。 タキシードでもなんでもない、ごく一般的な服装だ。 彰利はあくまで黒衣、閏璃は普段着、俺は空界の一般的な村人の服。 そんな三人だから、もちろんヘンな目で見られてる。 見られてるが、金払いはいいもんだから、どう応対したもんかという風情で対応されてる。 うん。実に愉快。 彰利 「メニュー上から全部くれちょー」 閏璃 「手っ取り早くてよさそうだツィー」 中井出「時間かかっても構わないチェン」 彰利 「でも出来れば早いほうがいいホーイ」 閏璃 「持てる力の全てを出し尽くして欲しいウー」 中井出「いい素材を使ってほしいミャオ〜」 ボーイ「か……かしこまりました……」 何故か春巻語で喋る客を前にしたボーイさんの反応はやっぱり微妙。 だが僕らはメシを食いにきた!ボーイの反応なぞ知ったことではないのだヨ!! ボーイ「食前酒はいかがなさいましょうか」 彰利 「漢は黙ってカルキウォーター!!」 中井出「谷川の名水・カルキをください」 閏璃 「水道水で」 ボーイ「い、いえあの、食前酒というのはお酒で……」 雄山 「黙れ!食事前に酒なぞ飲んだら味覚が鈍るだろう!     口の中の雑菌を殺すためにも水だ!水道水を持ってこい!」 ボーイ「ひぃっ!?急におっさんになった!?」 雄山 「フフ、ほう……この微食倶楽部の海原雄山(うなばらおっさん)を知っているか。     いかにも私こそが雄山。海原雄山だ」 いや……雄山って言ったんじゃなくて普通にオッサンって言ったんだと思うぞ? でも黒を纏って体を変異させた彼は、もはや雄山になりきっていた。 ……ああなるほど、晦たちが“オチが読めた”って言ったのはこれか……。 ボーイ「ではまずオードブルを───」 雄山 「コースを頼んだ覚えなぞない!     全て持ってこいと言ったのが聞こえなかったのか!     ええいシェフを!シェフを呼べ!!《バゴォン!!》ウモルチェ!!」 中井出「騒ぐなこのタコ!シェフ呼んだら余計に料理が来るのが遅れるだろうが!」 雄山 「ワガガガガ……!!」 微食倶楽部の海原雄山が、左頬を押さえながらカタカタと血反吐を吐いていた。 ああ……実に愉快な光景だ。 それでも雄山はすぐに立ち直ると、持ってこられた水道水を口に含み始める。 雄山 「《ズズ……》……ふむ。ごく一般的な水道水だ。     実にカルキ臭い。だがこれでいい。     よく舌に馴染ませ、吐き出し……さあ、料理を持て」 ボーイ「そんなすぐには出来ませんよ」 雄山 「なんだと!?女将(おかみ)を呼べ!!」 閏璃 「呼んでどうするんだよ」 雄山 「小童どもへの教育不行き届きを責めてくれる!さあどうした!女将はまだか!」 中井出「あ、気にしないでください、ただの馬鹿です」 雄山 「フン、味の良し悪しも解らぬ猿がよくも吠えおったわ。     この雄山を馬鹿呼ばわりとは随分と豪気よ」 中井出「なあ閏璃、この……英語か仏語か解らんが、     ここに載ってる料理、美味そうじゃないか?」 閏璃 「そうか?無駄に油っぽそうな気がするけどな。俺だったらこっちだ」 雄山 「…………」 やかましいおっさんを無視して料理について話し合ってたら、 物凄く寂しそうな顔で見られてしまった。 しかも顔が海原雄山だから不気味だ。 中井出「ところで閏璃、お前はデートとかはいいのか?     ユミえもん、寂しがってるんじゃないか?」 閏璃 「人の妻をネコ型世界征服ロボみたいに呼ぶな。     まあ一緒に居ないのは寂しいだろうけど、     いい加減いい大人なんだし、そこまで寂しがったりしないだろ。     来流美も一緒だし、なんとかなるさ」 中井出「そかそか───っと」 話し合っているうちに、 “ああなるほど、手早く出来そうだ”って感じの料理が運ばれてきた。 それをいただきますして早速食らう。 マナー?ンなもん破るためにあるのさ。  ガシュリガシュガシュショショリショリショリショリ…… 中井出「《モグモグムシャモシャカチャコチャ》ンムングンモンム」 閏璃 「《ガブリモリモリガフリモシャモショ》オッ……これ美味い」 雄山 「女将を呼べ!!」 ボーイ「な、なんなんですかさっきからもう!」 雄山 「黙れ!女将だ!女将を呼べ!!この雄山にこんなものを食べさせるとは!!     調理のイロハも知らん者がよくも高級レストランなどと謳えたものよな!!」 中井出「レストランじゃなくてレストラムだからな」 閏璃 「まあ無視して食おう。金払うの俺だし」 中井出「うむ、雄山は無視する方向で。……あ、これ美味いな」 閏璃 「美味いよな、これ」 ボーイさんがこっちに助けを求めたが、無視して料理を食らう。 いや〜……空いた腹に味わい深い。 でも確かに値段の割にはちょっと……って味ではある。 雄山 「ええい話にならん!どけ!この雄山が貴様らに味というものを教えてくれる!」 ボーイ「ちょ、困りますって!厨房の中はレシピとかいろいろ秘密がいっぱいで───」 雄山 「小童風情がレシピと謳うか!こんなもの料理の中にも入らぬわ!!     ええいどけぇい!!───このスープを作ったのは誰だぁっ!!」 声  「うわぁああなんですかあなたは!」 声  「貴様か!貴様はクビだ!出ていけぇっ!!」 ……厨房にまでドスドスと歩いていった雄山を見届けもせず、 俺と閏璃はスープとかベジタブル系の軽いものをモクモクと食べてゆく。 厨房の方では今まさに戦いが巻き起こっているが、やっぱり無視。 腹減ってるし、雄山は無視するに限るから。 ヘタに係わると巻き込まれてむかつかされるだけだし。 中井出「ボーイさーん、次持ってきて次」 ボーイ「次って!止めてくださいよなんなんですかあの人!」 中井出「微食倶楽部の海原雄山だ。ハイ、次」 ボーイ「だから止めてくださいって!」 中井出「やだ。ハイ、次」 ボーイ「うあぁあああ!!誰だぁこんなやつら中に入れたのはぁああっ!!」 閏璃 「女々しいぞ…………!過ぎたことをネチネチ…………!     戦場で後ろから撃たれた後ろから……と騒ぎ立てる馬鹿が何処に居る…………!     居たとしても笑いもの慰み者にされるだけ…………!     俺達は客としてここに来て、お前らは迎え入れた…………!     それだけだ…………!散れっ……………………!」 ボーイ「散ったらどうにもならないでしょうが!」 中井出「だから、はい次」 ボーイ「…………もう勝手にしてくれ……」 見知らぬボーイさんの本音が聞けた瞬間だった。 …………。 ガブムシャモグモグムシャベチャ! 中井出「あ」 ゴシャア!───ダーン!! 閏璃 「ジョジョ!なんだその行儀の悪さは!それでも紳士か!」 中井出「いやあ、やっぱこういうとこでこういうもの食うと、一度はやってみたくなるよ」 閏璃 「俺もノリノリだった」 次々と運ばれてくる料理を行儀悪く食いながら、 取ろうとしたワイン(ただの水)をこぼしてみせた。 いわゆるジョナサン・イート。 ジョナサン流・紳士的お食事である。 しかもゴシャアとこぼした途端に閏璃がダーン!とテーブルを叩くもんだから、 妙にナイス!と思ってしまったよ。 閏璃 「しかし……なんだろな。確かに美味いんだが、なんかこう……パンチが足りない」 中井出「しゃがみ中パンチくらいの荒さなんだが、足りないんだよな」 閏璃 「俺としてはマヴカプ1のリュウの立ち強パンチくらいのパンチが欲しい」 中井出「あー、ありゃ痛いよな」 閏璃 「ジャンプ強パンチ、立ち強パンチ、キャンセル波動拳を繋げば、     複雑なコンボなんて一切必要ないしな。     ジャンプして襲い掛かってきたヤツなんて、立ち強キックで弾けるし」 中井出「昇竜拳の存在意義が……なぁ……」 マヴカプ1のリュウは強すぎた。 さすが、戦闘始まる直前のVSって場面で顎が外れてるように見えるだけのことはある。 ボーイ「メインデッシュになります」 中井出「なんかいつの間にかコースみたいになってるな」 ボーイ「全部持ってこいと言われても、私たちも誇りを持ってこの仕事をやってます。     順番が滅茶苦茶でもいいと言われようと、そこは郷に入りてはというやつです」 閏璃 「それはボーイさんが正しいかもな」 中井出「なにが正しいとかは関係ないと思うが、確かに人それぞれだしな。     俺は楽しければいいけど、店の方としてはちゃんとしたいって思うだろうし。     宴会で騒ぐような場所じゃないってのは、一見で解りそうなもんだけど」 もりもり食う。 その様子に、もうボーイさんも諦めたような顔で笑う。 ボーイ「砕けた話になります……いや、なるけどさ。     わた……俺も、マナーとか食い方なんてどうでもいいって思ってる。     食事ってさ、やっぱり楽しみながら食うほうが美味い。     行儀がどうとか言って堅苦しくしてたら、     せっかくの料理もすぐ冷めちゃうからさ。     ……俺の夢は普通のイタメシ屋みたいなところで働くことだったんだけどなぁ。     どうしてこんな、笑顔のない場所でのボーイなんてやってんだろうな……。     っと、愚痴ってしまいましたね。次をお持ちします」 中井出「うむ」 閏璃 「ミネラルウォーターおかわり」 ボーイ「っははっ、食通ぶってワインとか頼まないのはあなた方が初めてですよ」 食事中のアルコールなんて仲間内でカンパーイって時で十分だ。 で、味の濃いぃのばっか食うのな。 こういう薄味のを続けて食うなら、アルコールなんて飲むほうが馬鹿だ。 中井出「けど、雄山が厨房に行ってからというもの、確かに味が増したな」 閏璃 「パンチの足りなさはあるけどな」 中井出「フランス料理とかそっちの方なんて手ェつけたことないんだろ」 閏璃 「ああなるほど」 しかし皿が出るごとに味が洗練されてゆき、 ついには文句のつけようがないところにまで至る。 しかもそうなってもなお味が上がってるもんだから、 厨房の中ではシェフの感嘆の声が絶えない。 中井出「おー美味い美味い」 閏璃 「やるもんだなぁ、本人はむかつくけど」 中井出「そうだよなぁ、本人はむかつくけど」 ほんと、これであんな性格じゃなければなぁ。 今も厨房のシェフたちに罵声浴びせてるし。 “これが本物の料理というものだ!うわぁーーっはっはっは!”って。 中井出「結構腹膨れてきたな」 閏璃 「メニュー全部だからな」 ボーイ「随分入るんですね……」 中井出「量が少ないし」 閏璃 「筋肉が栄養を欲しがってるんだ。ここ数日で一気に筋量が増えた所為だきっと」 食った先から消化されて筋肉の栄養にされてる気分だ。 確かに体全体が暖かくなってる感じはするのだ。 中井出「あとどれくらいあるかな、メニュー」 ボーイ「そう多いものではありませんから、あとはデザートですよ」 中井出「じゃあそれ食ったら出るか。雄山置いて」 閏璃 「了解。……ていうかさ、あの雄山、結局なにも食ってない……よな」 中井出「あ……そういえば」 ……まあいいか、雄山だし。 ボーイ「それではこれがデザートになります」 中井出「おお、これは美味そうだ」 閏璃 「腹立たしいことに料理の腕だけはプロを超越してるもんな、     あの微食倶楽部の部王は」 中井出「……そういやクラブなんだから、部の長なら部長とか呼ばれるべきなんだよな。     でも部長って顔じゃないから……やっぱり部王なんだろうけど、     それも悔しいからもう雄山でいいだろ」 閏璃 「雄山だしな」 言いながらデザートを食う…………美味い。 今まで口の中に溜まっていた味が溶かされて、胃の中に落ちてゆく感じ。 口に残るのは穏やかな味わいだけで、それも少しすると消え去り、 口の中には無味だけが残された。 ……これはすごいな、後味とかしつこさが全部なくなった。 閏璃 「じゃ、帰るか」 中井出「そだな」 手早くデザートを食し終えた俺達は、雄山が出てくる前に手早く会計を済ませて逃走。 さらに階段を上り、屋上に出るやジークフリードに乗り、脱出を成功させた。 階段を上る際、雄山笑いが聞こえてきたが当然無視して。 【ケース631:海原雄山/軍曹さんにこの思いを伝えたくても届けようがない】 カチャ……コチャ…… 雄山 「………」 いろいろ作ってみて、戻ってみれば誰も居なかった悲しみ。 料理すら全て食われ、なにも残ってやしなかった。 厨房では暇を持て余していた男たちが、この雄山が作った試作品料理を食べて唸っている。 そしてこの雄山は一人、 テーブルに着いて最後のシメに出そうとしていたスープを飲んでいた。 雄山 「《ズズ……》不味いなぁ……コレ……」 蛙跳牆に匹敵するマズさだった。 いやまあ……そりゃあね……プロテインだし……ね……。 仏跳牆を作る要領で、水分全てをロビン式プロテインにしてみた。 するとどうだろう、この雄山も涙するほど不味いスープの出来上がりだ。 ……名づけよう、食事中の雄山も涙して塀を飛び越え逃走する……その名も雄跳牆(オサッチューチョン)! 雄山 「《ズ、ズズ……》…………不味いなぁ……コレ……」 しみじみと不味い。 闇鍋に比べれば遥かに美味い筈なのに、 やっぱり不味いものは不味いことがとても悲しかった。 ……デート中にでもドナ様に貢献しよう……それがいい……。 宇田の馬鹿者めが作ったどっしりバーガーを探す旅に出よう……。 ただのバーガーではこの雄山の舌が納得してくれぬのだ……。 むしろ自分で作るかな……パンと肉……素材から吟味する方向で。 その前に中井出にはデザートのプロテインを飲ませるけどね。 いや……それにしても…… 雄山 「《ズ……ズ……》…………不味いなぁ……コレ……」 さすがにこんな不味いモン残しておくわけにもいかんので、 俺は黙って静かに雄跳牆を飲み続けたのでした。 ああ……腹がゴロゴロ鳴り始めた……味も効果も最悪すぎるよこれ……。 Next Menu back