───やすらぎの日々/穏やかな情景の中で───
【ケース639:スピリットオブノート/アーラ・グラディウス・ブレイク】 …………。 ドリアード『考え事ですか?スピリットオブノート』 ノート  『む……ああ、まあそうだな』 オリジン 『珍しいこともあるものだ。お前が考え事?似合わないな、やめておけ』 ノート  『汝な、私をなんだと思っている』 オリジン 『精霊以外のなにものだというのだか教えてもらいたくはあるが?       ……さて、お前がそこまで悩む原因はなんだ?マスターか、それとも───』 ノート  『中井出博光だ』 口にした途端、その場に居た精霊全てが、ああ……と声にした。 オリジン『ヤツか。人にしては随分とやる方だが。      死に向かう者にそこまで入れ込む必要はないだろう。      ヤツはお前が最も嫌う人間だぞ』 ノート 『そうだな。だが例外もあろう。マスターや弦月彰利がそうであるように、      ヤツはいちいち物事を難しくは考えん。楽しければいいと、ただそれだけだ』 オリジン『さてな。その楽しみを追求するあまり、何を巻き起こすことか』 ノート 『ふむ……』 思案する。 楽しむのは結構だ。 そも、私もここまで裏をかかれて好き勝手に痛めつけられたのは初めてだ。 苛立ちもそれはあったが、むしろここまでやってくれてスッキリした感はある。 当然、仕返しはしたが。 オリジン『いっそ、黙らせてみるか?暴れぬよう、自重させてみればいい』 ノート 『ほう?それはどういった方法でだ』 オリジン『…………武具をこの世界でも封印してみるか』 ノート 『確かにそれは効果的だろうが、武具無しでも騒がしさは衰えんだろう』 オリジン『む…………ふむ……』 思考。 空界、狭界の精霊王が集ってなにを話すのかと思えばこんなことだ。 実にくだらないが、今はそのくだらなさが可笑しい。 さて、どんな方法がいいか。 暴れまわるのは勝手だが、そのために未来が崩れるのは好ましくない。 私は……この現在が好きなのだから。 ノート  『これと考えてみると、存外浮かばないものだな』 オリジン 『可笑しなものだ』 アルセイド『……よく、犬や猫は……去勢すると……大人しくなる、っていうの……』 ノート  『………』 オリジン 『───』 ……手段は決まった。 ドリアード『スピリットオブノート、オリジン、それはあまりにも……』 ノート  『いや、いや……フフ、我々が楽しむのならヤツも文句は言うまい。       面白ければいいと豪語する男なのだからな』 オリジン 『理屈はヤツとそう変わらん。なに、刺激を与えてやるだけだ。       どう反応するかが楽しみだな』 ドリアード『……はぁ……仕方のない人たちですね……まるで子供です』 アルセイド『……ねぇ、ドリアード……ところで……去勢、ってなに……?』 ドリアード『アルセイド……子供は知らなくてもいいのです』 アルセイド『…………ずるい』 さて。 中井出博光は……空界にピクニックに行ったのだったな。 では─── ノート『…………うん?』 空界へと続く扉を開き、気配を探っても中井出博光の気配が感じられない。 ……ふむ。では残り香だ。 気配の軌跡は…………リヴァイアの工房へ消えているな。 なるほど、どうやら別の場所から地界へと抜けたらしい。 手間のかかることだがいいだろう、 恐らくはマスターが借り出された未来の厄介ごとも中井出博光が原因だ。 ともなれば時間跳躍で未来に───…………いや待て、戻ってきた。 なんなんだあいつは、人が行動を起こそうとすればその裏をつくづく突いてくる。 ここまで調子の狂う相手は今までに見たことがない。 ……まあいい、ハローナル渓谷に向かっているようだがまずはこっちだ。  ビジュビジュンッ!!───ドグシャアッ! 中井出「ゲファーーリ!!」 ナギー『はうぎゅっ!』 強制転移でこちらまで引っ張った中井出博光……とニーヴィレイは、 受身も取れずに畳みの上へと落下した。 拍子になにかがグシャッと潰れたが、まあいいだろう。 中井出「アッ───アァアアーーーーーーッ!!!!」 ナギー『な、なにが起きたのアアァアーーーーーッ!!?』 ノート『む?』 ……いや、よくは無かったらしい。 潰れたソレを見て、二人は真っ青な顔で叫び始めた。 中井出「ビエネッタが……ビエネッタがぁあああーーーーーーっ!!!     コンビニ何店もハシゴしてやっと見つけたビエネッタがぁあああーーーーっ!!」 ナギー『ひ、ひひひヒロミツがとても美味しいと言うから楽しみにしておったのに……!     ななななんてことじゃああああーーーーーーっ!!』 ノート『ああ……いや、汝ら、ひとまず私の話をだな』 中井出「ううっ……ぐしゅっ……ひっく……うぇええ……」 ナギー『あんまりなのじゃ……あんまりなのじゃあああ……』 ノート『………』 泣き始めてしまった。 これは……困った、どうしたものか。 ノート   『……ゼクンドゥス、頼む』 ゼクンドゥス『こんなもののために力を使えというのか……断る。        能力はもっと有意義に使うべきだ』 ノート   『……やれやれ』 溜め息が漏れた。 ああなるほど、こうまでややこしくなるのなら、マスターの心情も知れよう。 中井出「なんだよう……     お前ら僕らになんの恨みがあってビエネッタ購入すんの邪魔するんだよぅ……」 ナギー『買い物すれば邪魔をし、持ち帰ろうとすれば邪魔をし……     おぬしらわしらのティキミックになんの恨みがあるのじゃああ……』 中井出「あの……ナギー?ピクニックね……?」 中井出博光とニーヴィレイはグシャグシャになったアイスを持ち上げると、 トボトボと部屋を出て行こうとする。 恐らくアイスを捨てに行こうとしているのだろうが─── ノート『待て』 中井出「待ちましょう」 即答だった。 ナギー『な、なぜ待つのじゃ?こやつが転移させた所為で潰れたのであろ?』 中井出「ナギー……もっと可笑しな瞳で世界を見てごらん……?     憎しみだけに囚われていたら荒んだ見方しか出来なくなるよ……?     だからサミングしたいほど憎くてもね?とりあえず話は聞いてあげるんだ。     聞いたら即座にサミングOKさ。聞くだけならタダだし」 ナギー『な、なるほどの……ヒロミツは芯が太いのぅ』 中井出「でもとりあえず弁償してくれれば何も言いませんから金だせ精霊王」 ノート『途端に態度が太いな……いや、呼び止めたのはそのためではない。     汝を少し落ち着かせるためにいろいろさせてもらおうと思ってな』 中井出「僕落ち着いてるよ?だから金、出せ」 ノート『その愉快な脳を落ち着かせようと言っている。まあ早い話が汝を去勢する』 中井出「………………キョ?」 首がかくんと傾いた。 その先には既に詠唱に入っているオリジン。 中井出「あ、あのー……去勢って……その」 ノート『わからなかったか?汝を女にすると言ったのだ。     そうすれば多少は淑やかにもなるというものだろう』 中井出「あ、そ、そうですか。それじゃああの、出来るだけってなにぃいいいいいっ!!?     ななななに考えていやちょやめヴァアアーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」 講義しようとしたらしいが、既に手遅れだ。 オリジンが放った光が中井出博光を包むと、その姿は既に男のソレではなかった。 女  「ア、アワワ……!」 女だ。 小柄……背が小さくなり、代わりに髪が伸びた中井出博光がそこに居た。 ナギー『ヒロミツ!!?……あ、あわわ……!     ヒロミツがニョショウになったのじゃーーーっ!!』 女  「な、なんという……なななんという……北斗神拳!」 ナギー『……でも中身はヒロミツなのじゃ』 女  「いいえ落ち着いてナギー!女になったからには女の楽しみを満喫すべきよ!     えーとまず……髪が長いのでポニーテールにしましょう。     それでえーと……服がブカブカだね。     下着も男ものだし、ここはいっちょショッピング!」 ノート『待て!その……汝は、その、なんだ。女になったと慌てたりは───』 女  「僕───じゃなかった、わたしは楽しければそれでいい。     男の視線で楽しかったことはかなりこなしてきたが、     まだ女の視線での楽しみは満喫してないに違いない。     だから謝謝!謝謝精霊王!ビエネッタのことはこれで忘れるよ!」 ノート『…………』 予想外にもほどがある。 男というものは、普通突然女にされた、 またはなったりすると、酷く慌てるものだと思っていたが…… この男は慌てるどころか下着さえ変えようとしている。 男が女物の下着を穿くというのは、妙な趣向が無い限りは恥でしかない筈。 それを……ああいや、もちろん今は女なわけだが……!? 女  「ふ〜んふんふんふ〜〜んっ♪と……ポニー!テール!!《ジャアア〜〜〜ン!!》     おお……この腰まであるポニーのなんと美しい……!え?ナルじゃないよ!     僕……じゃなかった!わたしが言ってるのはポニーテールのことよ!     か、勘違いしてるんじゃないわよっ!《ポッ》」 ナギー『……おお、なるほどの。おなごの状態ではまた感じるものが違うものじゃな。     顔を赤らめたおなごのヒロミツはかわいいのじゃ〜』 女  「あれ?そうなの?     ……なんだろう、かわいいって言われるよりキレイとか言われたかった。     ていうか既に受け入れてるナギーもナギーだよね」 ナギー『ヒロミツがすることはいつも予想の範囲外の斜め上を突くからの。     これしきで驚き続けていては身が保たんのじゃ』 女  「ものすげぇ理解のされ方ですね、それ」 ナギー『ところでなんと呼べばいいのじゃ?ヒロミツのままでいいのかの』 女  「博光子」 ナギー『……………』 女  「わ、解りました、考えます、考えますからその冷たい視線は勘弁してください」 頭を痛めている中、着々と話は進んでゆく。 それにしても……常識を破壊するのが好きなのは知っていたが、ここまでかこの男は。 女  「こんなのはどうだろう。ゲームっぽく……“ヒューマン(女)”!」 ナギー『それは種族としての名じゃろ!』 女  「ちなみに“ヒューマン(”が苗字で“女)”が名前だ」 ナギー『しちめんどくさい名前じゃの!もっと解りやすいのにするのじゃー!』 女) 「え〜〜……?じゃあ…………ヒロミ───はダメだ。     大嫌いだった誰かさん思い出した。     博光……博を“はく”と読んで、逆にして“みつは”……だめだ。     はっこう……ひろこ……ひろえ……クロエ!───ウォーズマンだよそれ!     ハク……ハクオロさま……は男だしな。いっそ博光って文字をもじって、     はかり、なんて名前は…………エロマニアってだけで、     なんだか“はか”って部分に妙な謂れを作られそうだ……。     ハクリなんてどうだろう!……網膜剥離?不吉!不吉だよそれ!     い、いや落ち着け!なにも日本チックにしなくてもいいんだ!     どうせ偽名なんだし!だったら……間に“=D=カーナ”はつけたい!     “中井出”を反対から読んだ感じに!つーと……たとえば光=D=カーナ?     光は安直だなぁ……光……光……シャイニング=D=カーナ!おおなんか壮大!     でも女っぽくないし……おお!ルミエール!ルミエール=D=カーナだ!     ルミエと呼ぶがよいわグオッフォフォ……!!じゃなくてルミエとお呼びなさい」 ナギー『ルミエールとはなんじゃ?』 ルミエ「えーと確かどっかの国の言葉で“光り”って意味だと思った。     博光の“光”の部分ね?」 …………ようやく決まったらしい。 らしいのだが……どうしたものだ? 当初の予定……否、予想とは大いにかけ離れた結果になってしまったが─── ナギー『“かんじ”では書かんのかの?』 ルミエ「それやっちまうとユミえもんみたいになるので勘弁。     こうしよう。実は俺……じゃなかった、わたしは外国マニアの娘で、     本当は日本人だけど親に無理矢理名前を外国人チックにされた娘ってことで」 ナギー『名前なぞ変えられるものなのかの。     そもそも……なんじゃ?そのニホーンズィンというのは』 ルミエ「日本人ね?まあそこは気にせずGOだナギーよ。     楽しんだもの勝ちよ?この世界。だって女の俺なんて本来存在してないんだもの。     それなのに日本の名前にこだわる必要なぞあろうかいや無い!……反語」 ノート『……随分と逞しいことだな』 ルミエ「あの……スピネルさん僕のこと嫌い?」 ノート『随分といきなりな質問だが、嫌いであれば気にかけたりはしないな。     それを悉く斬って捨てる汝もどうかと思うが』 ルミエ「いいのいいの!楽しければそれでいいの!いきなりな状況だがもう受け入れた!     俺改めわたしは女として楽しみます!よぅしまずは女物の着衣を着るんだ!     櫻子さん!櫻子さぁああーーーーーーん!!洋服頂戴洋服!!     あ、いや待て!ブリュンヒルデにやってもらうって方法も───否!     女になったからには身も心も着衣も女に!     グエフェフェフェ俺ゃあハンパはしねぇぜ!?……しまった既に女らしくない!」 ナギー『面白そうだから手伝うのじゃ!』 ドタドタドタドタ………… 騒がしくも、二人はさっさと部屋から出て廊下を走っていってしまった。 オリジン 『………………さて、スピリットオブノートよ。       お前の願いはこれで成就されたのか?』 ノート  『…………あ、ああいや…………無駄な試みだったようだな……。       つくづくこちらの予想の範疇の斜め上を行く男だ……付き合い切れん』 ドリアード『わたしたちにしてみれば……あなたがたが出し抜かれている様子は、       見ていてとても可笑しいものなのですけどね、ふふっ……』 ノート  『笑うな、馬鹿者』 溜め息ひとつ、私はヒロラインの再調整のためにキューブに向き直る。 中井出博光の状態は……気が向いた時にでも元に戻せばいいだろう。 いや、そもそもオリジンが発動させたものだ、ヤツが飽きたのならすぐに戻すだろう。 こちらはこちらでするべきことに集中していよう。 【ケース640:ルミエール=D=カーナ/めげない男……じゃなくて女】 ジャキィーン!ゴキィーーーン!!───カシャアッ!! ルミエ「可憐なる着こなしインド人…………ルミエールです」 早速櫻子さんに頼んで、 洋服一式を用意してもらったわたしこと博光……じゃなくてルミエール。 試着室がどうしてあるのかツッコミたかったものの、 やっぱり一応はこういう場所で着替えたかったわたしとしては ありがたかったので結果オーライ。 ナギー『ど、どういう着方をしたのじゃ?     とても服を着る音ではない音が聞こえたのじゃが』 ルミエ「……インド人についてはスルーなんだ……」 いや……うん、いいんだけどね……? 櫻子 「あらあらまあまあ似合うわぁ博光ちゃ〜〜ん!」 小さな心の葛藤を内心で披露していると、 目を爛々に輝かせていた櫻子さんがわたしの下から上へ左から右へ見て、 手をポムと叩き合わせる。 ルミエ「ノー!違います櫻子さん!俺───じゃなくて僕───でもなくて!     わたしはルミエ!ルミエール=D=カーナ!これが今のわたしの魂の名前!     誰かさんが早乙女愛を魂の名にするが如しの名です!」 櫻子 「あぁ、あらごめんなさいね、ルミエちゃん。     でも……残念ねぇ、これでもう少し胸があればねぇ……」 ルミエ「あの……なにやら無性に悔しいので胸のことは言わないでください」 わたしの胸は平均値より戦闘力が低かったのです。 それを悔しいと感じるのは、僕が既に僕じゃなくわたしだからでしょうか。 ナギー『じゃが似合っておるのじゃ。立派なおなごなのじゃー』 ルミエ「当たり前なのだわ!だって下着までもがフルメタルハガー!     完全武装のわたしに怖いものなどありんせん!     …………でも女物の下着って妙に……ねぇ?怖いというか安心感がないというか。     軽い……って言えばいいのか、こう……薄いって言えばいいのか。     スカートもこう、妙にスースーするし…………うう」 櫻子 「あらあらなに言ってるのルミエちゃん。     女の子はいつもその肌寒さと不安感と戦っているのよ?     心はしっかり男の子な博光ちゃんがそれを不安がっててどうするの」 ルミエ「お、押忍、学ばせていただきます。わたしはもう女なのだから───!」 スッと姿勢を整えて、お辞儀をしてみる。 するとナギーが“おお!綺麗じゃのー!”と褒めてくれた。 ……あとの“顔はやはり可愛いどまりじゃがの”が無ければもっとよかったんだが。 まあいいや、僕の……じゃなくてわたしの顔がかわいい系の顔だっていうのは、 試着室のミラーで思い知らされましたから。 ルミエ「でもよくこれだけわたしに合った服がありましたね」 櫻子 「んふふふふ〜?おばあちゃんをナメちゃいけないわよ〜?     いつか深冬ちゃんが元気になったら〜って、     作っておいたものがたくさんあるのよ〜」 へえ……じゃあこれって深冬ちゃん用の服だったんだ。 ……道理で胸が……ああいや、これ言ったら怒られるね、うん。 ルミエ「ありがと、櫻子さん。     じゃあナギー、ビエネッタを買いにいこうか。この格好で」 ナギー『ほんにヒロミツは無鉄砲よの』 ルミエ「ルミエールだってば」 さあ行こう。 プライドが無ければ、こんな状態の自分を物怖じする必要なぞないのだから───! ───と駆け出した途端、じゃりりりんっと鳴る電話。 誰だいまったく、人の出鼻を挫くとは。 櫻子さんに任せてもいいが、俺の方が……じゃなくてわたしの方が遥かに近い。 ルミエ「仕方のない……」 疾走して受話器を取り、耳に当ててレッツOH・TAY!! ルミエ「この電話番号はただいま貴様のようなイエローモンキーに対しては一切使用されて     おりませーん!クソおかけになった電話番号をもう一度そのミニマム脳味噌と節穴     EYEでクソお確かめの上、クソ改めておかけ直しくださーい!」 がちゃんっ!! ルミエ「悪は去った……!」 …………ナルルルルル…… ……去ってくれませんでした。 ルミエ「《ガチャッ》俺だぁ!留だぁ!今年の花火大会はよぉ!     昇り竜乱れ七変化を楽しみにしてくんなっ!《チンッ》」 悪は去った……!───ナルルルル…… ルミエ「………」 誰だよもう……僕旅にでなくちゃいけないのに……。 ルミエ「《ガチャッ……》もしもし?」 声  『誰だか知らないけどガチャガチャ切るなよ!』 ルミエ「え?なにを……ここには今初めて電話が来ましたけど……」 声  「───…………あれ?…………蒼空院邸、だよな?」 ルミエ「いいえ?田中ですけど……」 声  「なっ!?す、すまん間違えたっ!」 チンッ!……切れる通話に安堵する。 さあ冒険ナルルルル─── ルミエ「…………《ガチャッ》もしもし」 声  『っと……せ、蒼空院邸、だよな?』 ルミエ「ドナルドです」 声  『なんでだよ!お前誰だ!?番号間違ってないんだから勘弁してくれ!』 ルミエ「ククク、わたしの名を所望か。だが自らを名乗らんやつに名乗る名などないわ」 声  『ぐっ……お、俺は───』 ルミエ「あ、ルミエールって言います。ルミエール=D=カーナです」 声  『名乗ってるじゃないか!』 ルミエ「グエフェフェフェ……!簡単に人を信用するからそうなるんだ馬鹿めが……!」 声  『……櫻子さんに代わってもらえるか?お前じゃ話にならない』 ルミエ「そう言うなよ凍弥ボーイ、わたしの旅の出鼻を挫いてくれた貴様に、     わたしはもっとフラストレーションをプレゼントしたいんだ」 声  『───……待ってくれ、なんで俺の名前───それに凍弥ボーイって呼び方……     やっ!ま、待て!?も、もしかして……いやそんなわけ《がちゃんっ》』 ……悪は去った。 うるさいから電話線抜いとこうね。 ルミエ「じゃあ行ってきまーす」 声  「はいはい、言ってらっしゃいねー」 姿は見えずともきっちり言葉を返してくれる櫻子さん。 うん、いい人だ。 では今度こそ出かけよう。 ナギーとともに、ショッピングという名の旅に───! ……え?電話の内容?知ったことではありません。 ───……。 ……。 ズチャッ……! ルミエ「ショッピング……思えば初めての体験……」 ウソですが。 ルミエ「なにかを買うだけで、女の楽しみが得られるとは思えんが……」 というわけで昂風街のショッピングセンターというかえーと、なんて言えばいいんだ? 伊藤養家堂もどきに来ております。 内装が似ていることから、よくツッコまれてたお店だ。 けどそういうのが面白いということから、結構幅広い人々に人気がある。 大体、安く買えれば大抵の人は来るわけだし、 近いというメリットの前では人は案外弱いものである。 ナギー『ヒロミツ、ここにビエネッタは売っておるのかの』 ルミエ「……いや、いいけどねもう……ヒロミツでも。     で、質問の答えだけど、     こういうデパートよりはスーパーの方がありそうなのは確かかな」 ナギー『ではすーぱーに行くのじゃ。斯様に空気が悪く人が多いのでは息が詰まるのじゃ』 ルミエ「……そうだね」 方向転換。 そういえば何故わたしは近くのスーパーに寄らずに、 真っ直ぐデパートなんかに来てしまったんだろう。 とぼとぼと来た道を戻りながら、溜め息を吐いた。 ……。 そんなわけで───スーパー・ヘヴントゥエルブ。 入った途端に皆様が一斉にナギーに目を向けるが、 ナギーはそんなことにも気づかず物珍しそうに店内を見渡すだけである。 ……そういえばナギーの格好、ヒロラインの頃のままだった。 そりゃ目も惹くわ。 え〜とアイス売り場は……っと。あったあった。 ルミエ「ビエネッタビエネッタ……お、あったあった」 ビエネッタ発見! 最後の一個だったみたいだが、この時代にもビエネッタはあったのだ! 安堵とともに手を伸ばし、それを─── 憩  「───!?」 ルミエ「あ」 取ろうとした時、わたしの手とはべつに伸ばされていた手を発見。 見れば、憩嬢がそこに居た。 憩  「…………あなた、それをどうなさるおつもり?」 ルミエ「決まっておるわ、食らうのよ」 何処にでも現れるなぁこいつ。 憩  「それはわたくしが散々と探してようやく見つけたビエネッタですわ。     だからそれはわたくしのです。あなたなんかが買っていいものではありませんわ」 ルミエ「じゃ、レジ行こうな〜」 ナギー『レジー?パッカードがどうかしたのかの』 ルミエ「また随分と懐かしい知識を……」 憩  「お聞きなさいっ!!」 ビエネッタを手に、レジに行こうとしたら後ろからガッと肩を掴まれた。 ルミエ「え?なに?」 憩  「なにじゃああーーりませんわ!     あーなた!なにを飄々と持っていってるんですの!?」 ルミエ「…………え?ビエネッタだけど」 憩  「そういう意味で言っているのではなくてよ!」 ルミエ「あ、店員さーん、ビエネッタの在庫、もっとありませんか〜?」 憩  「お聞きなさい!!」 ルミエ「うん断る」 憩  「なんですって!?」 無視してレジから小走りしてくる店員さんに声をかける。 いや〜こやつは本当にお嬢様だ。 今もまだ押しかけ女房やってるんだろうか。 秋彦ンところの妹さんとはもう会ったんだろうし、まあそれ以降はこやつ任せか。 店員 「すいません、ビエネッタは現在も好評でして、それで最後で……」 ルミエ「じゃあ買います」 憩  「お待ちなさい!」 ルミエ「待ちません買います」 憩  「いいからお待ちなさぁああいっ!     そ、そそそそーれは秋彦さんが食べたいと言っていたビエネッタ!     それをむざむざ渡すわけには───」 店員 「ありがとうございましたー」 ルミエ「じゃ、行こうか」 ナギー『なのじゃ〜♪』 憩  「あぁあーーーーーっ!!?」 既になけなしになっているお金でビエネッタを買うと、僕らは歩き出した。 後ろでお嬢がいろいろ叫んでるが気にしない。 憩  「お待ちなさい!お願い!お待ちになって!お願いですそれを譲ってください!     それがないとわたくし!わたくしぃいーーーーっ!!」 ……いや、気にしないといけなくなってしまった。 何故って、がっしりと服をつかまれてしまったから。 ルミエ「なんですかまったく……わたしは急いでるんだけどね」 憩  「それっ……それをお譲りくださりませんこと!?     それがないとわたくし、秋彦さんとどう仲直りしていいかっ……!」 見つめる目が涙に滲んでいる。 喧嘩か……そりゃ大変なことになったな…… ルミエ「知ったことではないわ」 憩  「漢らしぃいーーーーっ!!?」 それとこれとは話が別。 既にわたしのお金は底を突いている。 地界の金なんてそうそう残ってなかったし、ビエネッタはこれで結構高いのだ。 どこぞかにフェルダール硬貨でも売れば高値で売れるだろうけど、 僕はそれをやろうとは思いません。 それをやるくらいなら強盗するよ僕。 憩  「わざとではなかったんですわー!     長年染み付いていた高貴と気高さが無理に顔を出してー!     気づいたら彼の妹を見下した口調で罵っていて!     そうしたら秋彦さんがパシーンと!わわわわたくしの頬をパシーンと!」 ルミエ「新聞紙を丸めたので、まるでゴキブリを叩くように叩いてきたと」 憩  「何故知ってるんですの!?」 いや……俺ならやるかもと思ったことを言ってみただけなんだけど。 さ、さすが秋彦だぜ……原中の意思を継ぐ者……! 憩  「こたえましたわ……!平手でやられるよりよっぽど痛かったのですわ……!     それでもわたしはやっぱり秋彦さんが好きなのでーすわ!     だから話すためのきっかけに、彼の好物であるビエネッタをーーーーっ!!」 ルミエ「フン断る」 憩  「いやぁああ〜〜〜……お願いで〜〜〜すわぁあ〜〜〜〜……!!」 ルミエ「ええい離せ!なにをする離せぇえーーーーーーっ!!」 泣き顔でしがみついてくるお嬢を離そうとするが、 この女郎めしっかりとホールドしてきておるわ! くそう!女の細身が仇となったか!腕が完全に腰に巻きついてて、外すのも一苦労だ! こんな時はコレ!ジャック・ハンマー式片手押し退け! 憩  「《グイッ……!》ふぶっ!う、うくっ……」 お嬢の顔面に右手を当て、ゆっくりと力を込めてゆく。 単純に押し退けるように、ググッと。 ルミエ「学びなさい。あなたのそれはエサで釣ろうとしているだけ。     誠心誠意とはまるで方向外れのもの。そんなもので許しを乞ったところで、     再び新聞紙の餌食になることは目に見えなくても明らか。     いいですか、許してほしいのなら小細工ではなく己自身で挑みなさい。     あなたの本身が高飛車なのだとしたら、     そのあなたが好かれなくてなにがあなたですか。     作った自分を好いてもらって嬉しいですか?そんなのただのまやかしです。     突っ込みなさい。そして許してもらいなさい」 憩  「むっ……無理、無理ですわ……!怖くて……!」 他人にこんなことをする方がよっぽど怖いと思うが。 もしわたしが男だったらどうするつもりだったのかしら? ともあれメキメキと押してゆくにつれ、腰へのフックが緩んでゆく。 必死にしがみついているが、それもとうとうベリッと剥がれ─── 憩  「う、うぅう……うぅううう…………」 お嬢はヘタリこんでしまった。 だが知ったことではないので無視して歩きだす。 手を貸す?冗談ではありません。人の恋路に首を突っ込む趣味はありません。 ナギー『助けてやらぬのか?』 ルミエ「助言はもうしましたから」 そりゃあ人間、好物を貰えりゃ嬉しいもんだ。 だが原中の意思を継ぎし秋彦相手にモノで釣るのはマズい。 なにも持たず、己のままで許してもらえなきゃ望みなぞハナから無いのだ。 ルミエ「じゃあ帰りましょうか」 ナギー『うむ』 ナギーと連れ立って歩いてゆく。 が、やっぱり後ろ髪は引かれるもんで、 後ろをチラリと見てみれば……ゆらりと立ち上がるお嬢の姿。 なにやら小さく笑ってる。 ……そう、それですよお嬢。 時にはヤケクソも必要。 そしてむしろ原中というものは常にヤケクソ根性で動く生命体。 その根性……忘れてはいけませんよ?───なんて考えてたのが間違いでした。 ルミエ「《どんっ!》とわっと!?」 前方不注意です。 通行人とドカリと衝突してしまい、数歩よろめく……と、なにやらいや〜な予感が。 男1 「おうおうねーちゃん、何処見て歩いてんだぁコラァ?」 男2 「あいたたた、俺腕骨折しちゃったよ〜……ちょっと付き合えよコラ」 ルミエ「………」 ザ・強行ナンパ師が現れた! ルミエ「後ろを見て歩いてました。そして骨折してる分際でヘラヘラすんなクズが」 男2 「あぁっ!?ンだとコラァ!い〜から俺達とい〜ことしようぜコラァ!」 ルミエ「死んでください太子」 男1 「太子!?さっ……さわやかな笑顔でなんてことを!」 男2 「オラてめぇこっち来い!おいっ、そっちのガキも運べ!」 男1 「るっせぇな命令してんじゃねぇよ!」 無駄に怒鳴りつつ僕の手を掴んでくる男。 いやぁ〜……やっぱ人間ってクズだなぁ……。 つくづく思うよ、うん、クズだ。 こんなやつら守るために戦うなんてそれこそ馬鹿だろ。 ルミエ「えーと、質問いい?」 男1 「あん!?んっだよ!」 ルミエ「わたしたちを何処へ連れてってくれるの?」 男2 「へっへっへ、俺達のアジトだよ!そこで俺達が」 ルミエ「握手してくれるの?」 男2 「なんでそうなるんだよ!」 後楽園遊園地のヒーローのセオリーも知らんのか、最近の若人は。 ルミエ「じゃあとりあえず死んでください」 男2 「なんで!?」 ナギー『汚らわしい手で触るでない、臭いが移るであろ』 男1 「なっ……なんだとこのガキィ!」 わたしから見ればあんたたちも随分とガキなんだけどね……。 ハッハ、思考を女っぽくしてみると自分のイメージが遠のいていって面白いね、うん。 ルミエ「急いでるんで死んでください」 男1 「どうしても死ねと!?てめえ、その口聞けなくしてやろうか!?」 ルミエ「…………《にこり》」 男1 「あ、あんっ……?《……ポッ》」 ナギー『……愚かよの』 にこりと微笑んだら、男1が後退って頬を赤らめた。 ───次の瞬間、彼の顔面に平手を叩き込みました。 男1 「きゃぼぅぶ!?」 ずっぱーん!といい音が鳴った。 男1は地面に倒れ伏し、ヒクヒクと痙攣して動かなくなる。 ルミエ「……うん。口を聞けなくしようとするなら、される覚悟もしないとね」 男2 「て、てめっ───」 ルミエ「ああ、あんた。溜まってるんだったらいい人を紹介しようか?     きっとスッキリする」 男2 「あ……?ふ、ふざけんなよてめ……俺は───」 ルミエ「あ、そうそう、そうか、そうだな。     ヤろうとする覚悟があったなら、ヤられる覚悟もあったわけだ。     よし、じゃあ確認なんて取る必要もなかったんだ、行こう」 男2 「なに勝手に話進めて《パゴォン!》ウジューーーリ!!《…………ガクッ》」 騒がしい男2の顎に、アコーンと掌底を食らわせて捻った。 するとゴシャリと崩れ落ちる男2。 わたしは手に持ったビエネッタをナギーに持たせると、 倒れた二人の男を抱え上げて走り出した。 ナギー『何処へ向かうのじゃ?』 ルミエ「ん……ああ、いいところ」 ナギー『……おなご口調はやめたのか?』 ルミエ「男っぽい口調の女を目指すことにした。     わたしをあたしにするところから始めよう」 ポニーテールは男勝りの証さ。 でもそんなに強くもなく普通に適当ってくらいが丁度いい。 ……。 そんなこんなで─── 声  「あおぉおーーーーーーーーっ!!!!」 ……あたしとナギーは、あべの湯をあとにした。 ナギー『の、のうヒロミツ?中で何が起こったのじゃ?』 ルミエ「うん、男の度胸が試されたんだ」 男は度胸、なんでも試してみるものさ。 でも女になってみて知ることが出来たのが、強行ナンパされることってのが悲しい。 もっとこう……面白いことはないものか。 【ケース641:ルミエール=D=カーナ/ルミエールは静かに楽しみたい】 そんなこんなで蒼空院邸。 玄関ホールから階段を上って、赤い廊下……語弊があるかもしれんが、 赤いのは廊下を埋め尽くす絨毯……絨毯でいいのか?これ。 ともかく布であって、血まみれだとかそういう意味合いはまったく無い。 ……を、歩いてゆく。 だからだろうか。 赤って色がいろいろ思い出させて、あたしに妙なことを思い出させたわけで。 ルミエ「あたしは───海賊王になる!!」 ナギー『既にヒロミツは魔王であろ』 ルミエ「あぁあっ!しまったぁそうだったぁ!───あ、でも待って。     魔王なのは男のあたしであって、女のあたしはなんでもないわけじゃないか。     だからほら、せっかく名前に“D”があるんだから、     鼻毛海賊王のゴールさんようにロジャっと海賊王に!」 …………やめとこ。 そんなことよりピクニックだ。 けれど海賊っていったらどうしてロジャーなんだろう。 あたしはそこらのことがよく解らない。 ゴールさんもジョリーさんも、なにかロジャーに思い入れが? それとも犬にポチ、猫にタマというくらいに、 軽い気持ちで名づけられるほど有名なんだろうか。  ガチャッ…… ルミエ「やあ」 ノート『相も変わらず挨拶はそれか』 ルミエ「ほかにどうしろと……」 心の葛藤は無駄にあったものの─── あべの湯からここまで、特になにがあるわけでもなく帰還。 晦ルームの扉をあけて、いざ空界へってところで、 ノートン先生が難しそうな顔でヒロラインキューブを眺めていた。 ルミエ「どうかしたの?」 ノート『ふむ?……なんだ、気になるか』 ルミエ「べ、べつに気になってなんか!     難しい顔してたから声かけてあげただけよ!《ポッ》」 ノート『それが“気になる”と言うんだろう。まあいい、このキューブだが───』 ルミエ「ピクニック、楽しみだね」 ナギー『楽しみなのじゃー』 ノート『待て』 見えないなにかにガシィと掴まれました。 それはきっと殺気という名のプレゼント。 ば、馬鹿な……今までのは本気ではなかったというのか……! ……そりゃそうか。 ノート『いい度胸だな汝……声をかけてきておいて無視をするとは……』 ルミエ「中学の通信簿に“度胸だけは花丸な生徒です”と書かれたことがあるほどです」 ノート『……その教師の苦労がありありと見てとれるようだ……』 ルミエ「うん。学級委員長だったのにね、僕。     普段いいコで居ながらも着々と弱みを握るあの時の快感、忘れません。     クククやつらめ、あたしに雑用を頼めば頼むほど、     どれほど自分を苦しめるのかも知らずに……!     気づいた時にはやつらはこのルミエールの手の平よ!ゲエハハハハ!!」 あの頃は実に愉快だった! 教師を掌で躍らせる気分は実にッ!実に愉快だったッッ!! ……アレ?なにやら回りの皆様が悲しそうな瞳で僕を……じゃなくてあたしを…… ノート  『……その、なんだ。もう少し女らしく笑ったらどうだ』 ドリアード『せっかくの可愛い顔が台無しですよ?』 ナギー  『その顔でその笑い方はある意味反則なのじゃ』 ルミエール「え?そ、そう?」 ……ええと、つまりそういうことらしいです。 そんなに可愛いだろうか。 そりゃあ、“綺麗”って方面の顔じゃあなかったけど。 童顔、っていうのかな……うん、きっとそうだ。 もっとキリっとした大人の顔で、なのに中身は不意打ち裏切りなんでもありの外道、 なんていうのを期待したんだけど……ううむ。 まあいいや、可愛いのに中身が外道ってのもそれはそれで。 可愛いのに中身が腹黒いってのはよくあるが、可愛くて普通に黒いはそうそうないから。 ……自分で自分を可愛いって認めるのってなんかヤだけど、 普通の人ではやらんことをやってこその原メイツ。 ルミエ「じゃあ行こうかナギー」 ナギー『そうじゃの。ビエネッタが溶けてしまうのじゃ』 さっきから妙にソワソワしてると思ったら、どうやらビエネッタが心配だったらしい。 うむ、ならばいざゆかん空界へ。 自分の可愛さがどーとかでいつまでも話するのもなんだし。 ……。 ゴオォオオオオオオオオッ───ジュザァッ!! ルミエ&ナギー『OH霊!!』 そんなこんなでかっ飛ばしてハローナル! シルフが居ない所為か風も緩やかなそこの頂上に辿り着くと、 ジークフリードから飛び降りてナギーとともにキメポーズ! 既に到着していた麻衣香やシードや紀裡を前に、ニコリと笑みをお届け! 麻衣香「どちらさまでしたっけ」 そしたら大神さん伝統奥義を使われた。 ああ、大神さんっていうのはサクラ大戦に出てくる主人公、大神一郎少尉である。 ルミエ「破壊人です。いろいろなものを破壊するために降り立ちました。     …………あの、目ぇ合わせてると見せかけて見ないフリしてるでしょ」 麻衣香「ヒロちゃん!なんでまたそうやって訳の解らない事態に巻き込まれてくるの!」 あ、やっぱり解ってたみたい。 しまったな、ジークフリードに乗ってきたのは失敗だったか。 ルミエ「実はな、ノートン先生が僕の騒がしさを見かねて去勢───もとい、     女にしてしまえば大人しくなるだろうって……」 麻衣香「………………ヒロちゃんがヒロちゃんである限り、大人しくなるわけがないのに」 ルミエ「そ……そ〜だけど……なんかヤなんだけど……その言い方……」 妻にこんな理解のされ方してる僕ってなんだろう。 あの……僕だって大人しい時は大人しいよ? でも大人しくしてるよりは、騒いだ方が楽しいってことを知ってるからそうしてるわけで。 麻衣香「それにしても随分とかかってたね。なにかあった?     ……ああ……その姿見ればなにかがあったかなんて解りそうなものだよね……」 ルミエ「あの……そこで哀れみをたっぷり込められて言われると……」 とても寂しいんですけど…… ルミエ「と、とにかくほら、ビエネッタ買ってきたよ。     途中、晦や彰利に襲われたり、潰れたり、     お嬢───憩お嬢に襲われたりしたけど無事に買えたんだ。食べよう」 麻衣香「その姿を見て何処を無事と言えと……」 ルミエ「細かいことは気にしません」 麻衣香「ちょっとはしようよ!     買い物言った主人が急に女になってた妻の身にもなってよ〜!」 ナギー『安心するのじゃ麻衣香。ヒロミツはたとえ女にされようとも、     あっさりそれを受け入れて“女の楽しみを堪能する”と豪語したのじゃ』 麻衣香「今の言葉の何処に安心要素があるの!?ねぇ!慌てようよちょっとは!」 ルミエ「失礼な!慌てたよ五秒くらい!」 麻衣香「五秒なの!?」 ルミエ「だが慌てるよりも楽しんだモン勝ちだと悟った瞬間、どうでもよくなりました」 麻衣香「………」 ……たは〜……といった感じに頭を抱えられてしまった。 ルミエ「さあピクニック」 麻衣香「うう……なんかもうどうでもよくなってきちゃった……」 ハローナル渓谷の中でも特に高い位置にある場所。 眺めは最高だし、風が緩やかならばとても気持ちのいいそこに、 バサァとピクニックシート……レジャーシートだっけ?を敷く。 だが座るのはあとだ。 こんな見晴らしのいい場所に来たんだ、まずアレをやらねば。 ルミエ「ヒヨッ子ども!準備はいいか!」 ナギー『いつでもこいなのじゃ!』 シード『あ、あ、あー……発声、問題ありません!』 麻衣香「さ、紀裡」 紀裡 「う、うん」 ずざっと絶壁に近い崖に立ち、両手を挙げる! そして体を少し仰け反らせながら大きく息を吸い、思い切り吐くように─── 総員 『フ〜〜〜ア〜〜〜ムア〜〜〜〜〜イ!!!』 叫び、フー・アム・アイと叫ぶ度に腕を全三回振るう。 最後のア〜イは息が続くかぎり続けること。 そして息が続かなくなって“イ”まで言い終えたらゆっくりと屈む。 …………素晴らしい。 ルミエ「じゃ、座ろう」 ナギー『すっきりしたのじゃ』 シード『はぁ……肺の中の空気を入れ替えたような清々しさだ』 麻衣香「久しぶりだったけど、やっぱりいいなぁ」 紀裡 「けほっ……!ちょっと喉痛いかな……」 麻衣香「はいのど飴」 紀裡 「あ、ありがとお母さん……」 やがて座る。 ああ、座る僕らを支えてくれる草たちよ、ありがとう。 あなたがたのお陰で僕らの足は痛くない。 麻衣香「……どうして正座なの?」 ルミエ「スカートだから。女の子座り?軟弱すぎるわ」 麻衣香「女の子の楽しみを堪能しようって人がどうしてそう男らしいの!?」 ルミエ「だ、だって!足くずしたらスカートの中が見えちゃうかもしれないじゃないか!」 麻衣香(むかつく……!無駄に可愛いから余計むかつく……!) ルミエ「い、いえあのそんな血管ムキムキさせないで……。     男のあたしが言ったら気色悪いだけだけど、今のあたしは女の子なんだから。     なんていうのかな、ほら、一応下着とかも変えてきてるわけだから、     ほら、見られると恥ずかしいじゃないか」 麻衣香「下着まで替えたの!?ヒロちゃん頭大丈夫!?」 ルミエ「え?頭?…………別に痛くないけど」 麻衣香「そういう意味じゃなくて!     男の精神持ってながら下着を女の子のものに替えるなんて───!」 ルミエ「女になったからショックを受けるだけでどうするか。     女なのに男ものの装備をしているほうがよほどに変態チックだ。     大体だな、漫画アニメゲームにおいて、女になった男ってのはどうも硬すぎる。     もっとこう、女にしか出来ない楽しみをするべきだと思うんだ」 麻衣香「で……まずはカタチから入ったわけだ……」 ルミエ「その通りだ。だがここで間違っちゃいけないのは、     女になったからと女湯に直行するようなエロスは楽しみ方を履き違えている。     男としては合っているが、それは男としてすべき欲求。     女が求めるべき欲求ではないわ。一部を除いて」 麻衣香「男の子が女湯に直行したら通報されるだけだしね」 ええまったく。 麻衣香「………………」 ルミエ「……?《もみゅっ》」 麻衣香「《スッパァン!》はぶぅっ!!」 静かに、だが確実に突然胸を鷲掴んできた麻衣香に平手打ちを進呈。 い、いきなりなんぞしはらすばいこんげら!! 麻衣香「たっ……叩くことないでしょー!?」 ルミエ「うるせー!胸は女性の空を羽ばたく翼だってどこぞの姫もどきが言ってたんだ!     それを無言で急に鷲掴むなど……恥を知りなさい!俺は知ってる!」 麻衣香「わー、顔真っ赤。ヒロちゃん、女になってからそういうところって変わった?」 ルミエ「実感がないので解りません。     そしてこのルミエールは同姓だからと体に触れてくる存在が嫌いだ」 麻衣香「たはは……それはごめんだけど。でも本当に女の子なんだ……ね───……」 ルミエ「?」 苦笑いをしていた麻衣香が停止した。 あれ?頬を掻いたまま、汗をだらだら流して…… 麻衣香「…………ヒロちゃん。下着も変えたって言ったよね」 ルミエ「うむ」 麻衣香「その時、その…………下、も?」 ルミエ「下?…………靴下か!!」 麻衣香「違う!そうじゃなくて……!」 ルミエ「…………ああ、下、ね……もちろん変えました」 ええ……もちろんコルトパイソンは無くなってましたが。 女なんだから当然だが───いや、あまりにも下品。この話題は無くそう。 麻衣香「そっ!そ、それって!」 ルミエ「麻衣香!この話は無し!ピクニックの時にする話ではない!」 麻衣香「で、でもっ!でもぉっ!《ゴキィッ!!》うぴっ!?」 ルミエ「ええいお黙りなさいと言っている!子供たちの前でなんとはしたない!」 麻衣香の首をコキャッと捻って黙らせた。 そんな彼女は現在、首を押さえてピクピクと痙攣している。 ルミエ「麻衣香?僕らは淑女を目指すのです。天を破壊せんほどの淑女を。     いくら物騒なことをぬかそうが、下品なことには手を染めん淑女たれ。     シモの話やお下劣的な話は厳禁!そんな話ばっかりしてると、     そんな話しか出来なくなるんだからね!?」 麻衣香「それは解るけど……!首捻りまですることないじゃないぃい……!」 ルミエ「ごめんなさいやりすぎました……」 もういいからピクニックを楽しもう。 それを目で促すと、麻衣香も微妙な顔をしつつも頷いてくれた。 まったく、人一人が女になったからって慌てすぎなんだよみんな。 ……ああ、ここでみんなって喩えたのは、固まっているシードと紀裡も合わせたものだ。 ナギーは早速開けたビエネッタから漂う香りに頬を緩ませるのに夢中だ。 紀裡 「お、おおお……おと、さん……!?」 ルミエ「ママとお呼び」 麻衣香「ちょっと待ってそれじゃあわたしどうなるのっ!?」 ルミエ「お母さんさ!……そして僕はママ。マザー・ルミエール!」 紀裡 「……なんか混ざって見えるみたいな名前だね……」 ルミエ「心の葛藤の中でナイスな切り返しをありがとう。     マザール・ミエールじゃないからね?……と、クッキーもらうな」 コサ、と開けたバスケットの中からクッキーを一つ。 それをサクッと噛んでみると……おお、心地よい味わいが口内に広がってゆく。 ルミエ「おお……これは美味い」 ナギー『ヒロミツヒロミツ!それよりビエネッタじゃ!ビエネッタを食らのじゃー!』 ルミエ「おおよし、それじゃあそっちもいただこう。     シード、麻衣香、紀裡、貴様らにはこのクッキーモンスター、     その名も提督サブレを差し上げよう」 麻衣香「モンスターって……」 紀裡 「自分で言ってちゃ世話ないよお父さん……」 シード『あの……ち、父上と呼べばいいのかどうなのか……』 ルミエ「母上とお呼び」 シード『は、はあ……それでは……母上と』 ルミエ「一人で二度美味しい…………ルミエールです《脱ぎっ》」 麻衣香「脱がないっ!!」 ルミエ「うおおしまったつい癖で!!」 夏の暑い日ってこともあって、着ているものは薄着でしかも半袖。 そんなものを脱いだ日にゃあ下着が見えてしまうじゃないか。 ……見て喜ぶ人なぞここには居ないけどね。 紀裡 「お父さんの料理って久しぶりかも……しばらく作ってくれなかったし」 麻衣香「料理って言えるのかな、これ。…………なんか赤いし」 ルミエ「情熱の色だ!真紅の誓いをこの手に込めて誠心誠意焼きました!     …………そしたら突然変異したんだ、クッキーの野郎が。僕の所為じゃないよ?」 麻衣香「どうしてそう滅茶苦茶な言い訳がぽんぽん出てくるの……。     怒らないから何を混ぜたか言ってみてよ」 ルミエ「刻震竜の肉《ッパァーーーン!!》あわぁぅうん!!」 麻衣香「ヘンな声出さない!」 ルミエ「うそつきーーーっ!!いきなり叩いといて怒らないもへったくれもあるかー!!」 麻衣香「うーるーさーいっ!!お肉をクッキーに混ぜるなんてなに考えてるの!     これ血!?血の赤なの!?」 ルミエ「断っておくがこれはサブレだ。提督サブレ。クッキーじゃない。     そして混ぜたのは生地にであって、完成品に混ぜた覚えなどない」 麻衣香「真面目な顔していかにも自分が正しいみたいなこと言わないの!     しかも無駄に正論なところが余計に腹立たしいから!」 怒られてしまった……。 叩かれた瞬間、女の子らしくナヨッて倒れた僕の演技にはまるでコメント無しだ。 さすが僕の妻です、そういうところには無駄に耐久力というか、耐性めいたものがある。 紀裡 「《もご……》………………餅?……モチモチしてて……お肉の香りで…………     お、美味しいのに素直に喜べない味っていうか…………なにこれ……」 ルミエ「提督サブレだ」 返事をしながらもビエネッタを五等分。 フォークが無いから、ナギーが生やした小さな木を削ってフォーク代わりを作成、配布。 そうして食べるに至り─── ナギー『う…………美味いのじゃーーーーーーーっ!!!!』 ナギーが感動した。 シード『こ、これがアイス……!なんて味わいだ……!口の中でとろけてゆく……!』 麻衣香「や、そういう食べものだから、アイスって」 ルミエ「《ボリボリボリボリボリボリ》ルァ〜(あぁ〜)……ブッギーヴヴェェエ(クッキーうめぇぇえ)……」 麻衣香「顔が変形するほど詰め込まないの!!」 紀裡 「へええ……地界のアイスってこんな感じなんだぁ〜……」 麻衣香「なかなかでしょ?」 ナギー『もっと欲しいのじゃー!麻衣香!それをよこすのじゃ!』 麻衣香「あげないよ!?わたしだって食べるの久しぶりなんだから!」 ワイワイと騒ぐ時間……素晴らしい。 いつの間にか麻衣香がツッコミ役に回ってたことは、 多分本人は気づいてないだろうから放置するとして。 緩やかな風が吹く中で、ゆっくりと笑いながら食らうオヤツのなんと美味いこと。 甘いものは別腹って、女はよく言うけど……なるほど、これは確かに。 そういえば甘いものを前にすると、女の胃袋は膨れ上がってスペースを空けるって言うね。 その所為かは知らないけど、目の前の甘いものを全て食べれるような気さえしてくる。 …………ところで、僕が視線を自然に向ける度に、 少しずつ提督サブレが僕の前に集ってきてる気がするのは気の所為でしょうか。 あの……麻衣香?どうして目ぇ逸らすの? 紀裡?シード?どうして引きつった笑顔でじゃれてるの? あ、あの?ナギー!?どうして僕のビエネッタ食ってるの!?ねぇ!!ちょ、やめてよ! それ僕がなけなしの金で買った───ア、アーーーッ!! ルミエ「………」 こうして僕の前には提督サブレだけが残されました。 ……食うよ?そりゃ食うけどさ……。 赤いなぁ…………モニュリ、モニュ……モグ…… ルミエ「…………美味いんだけど素直に喜べない……」 あたしが食うのを確認したら、途端にみんなが自然体で騒ぎ出すこの悲しみ。 ちくしょう、美味いのに悔しい。  ピピンッ♪《火闇霊章がレベルアップ!》 …………アレ? ルミエ「………」 周りを見てみても、誰もなにかに気づいた様子はない。 今の音、あたしにだけ聞こえたようだ。 ……まあ、音はどうでもいいとして。 突然なんですか、レベルアップって。 ルミエ「………」 竜の肉食ったら経験値があるのですか、この炎は。 そりゃ、今や肉体のない真龍王の能力だから、 竜の血肉を得れば足しになるってのは解らんでもないが…… ルミエ「…………うむ!」 では残りの肉、美味しく調理して食らい尽くしてくれる! ……ていうかこれ、レベルアップするとなにか特典あるのかな。 まあいいや、食おう。  モグ……モニュ……クチャ……スズ……メロ……ゴクリ…… 食感は餅。 でも味はうまい肉。 時々コリっとしていて、時々プチプチとしていて、たまにバターがゴニュリと…… でも美味い。悔しいが美味い。美味いのに微妙。それが提督サブレクオリティ。 ルミエ「……ううっ……ゲフッ……!」 はたして食い終えたわけだが……なんだろう。 ゲップは出るものの、こう……満たされた感覚がどんどんと消えてゆく。 それどころかトラサルディーマジックの如く、どんどんと腹が減ってゆく。 ルミエ「………」 チラリと周りを見てみると、 ハローナル渓谷を落ち着きもなく走り回ったり飛び回ったりしているナギーとシード。 二人に引っ張られて悲鳴を上げている紀裡に、それを見てハラハラしてる麻衣香。 ……たった今気づいたが、サブレを僕に食わせるや、 みんなは僕のことなどどうでもよくなっていた。 いや……ほんとは気づいていたのだろうが、ただ気づきたくなかっただけなのだ。 ルミエ「……肉でも焼くか」 腹も妙に減ってることだし、バックパックから刻震竜の肉を取り出すと、 裏返し要らずの炭火焼きファイヤーでレッツ調理! ジュジュウウウと荒々しく肉汁をたらす肉にそのまま被りつき、 脂の熱さにウギャアアアアと絶叫しながらも格闘! 一つ目をゴフリと食らい、次はスチームレイザーで蒸して食す。 次はこんがりと焼いて食らい、次は火を通したものを薄くスライスして食ってゆく。 だ、だがどうしたことだ……!食っても食っても腹が減るッッ!! もっとだ!もっとよこせと腹が吠える! 肉って焼くと蒸す以外に調理方法ってあったっけ? まあいいとにかく食らいまくる!  ガフリガフガフショショリショリショリショリ……ゲェッフ!  バグリ!ミギチチチ……ブチンッ!モグモグガフゴフ!  モグリモリモリ、ゴ、ゴクッ……!ガブッ!バリッ!ギャーーーーッ!! …………ややあって、全てを食し終えた頃にはようやく腹もMAXになり─── 火闇霊章のレベルも奇妙に上がり、火闇霊章の性能が増していたりした。 火力が増して、火闇霊章自体に爆発効果が付加されて、 さらに火闇発動状態だと傷の治りが早くなるそうで。 途中で舌とか噛んで叫んでしまったが、それももう治った。 火闇を伸ばせる距離も上がったし、炎の先が爪みたいな形になった。 的を掴む時、わざわざ巻きつけなくても掴めるようになったって考えればOKか。 ますます狂いし者が使ってた火闇操作に近づいてくれて、ありがたいことだ。 ……あっちは自分の腕千切ってまで伸ばしてたけどね。 ゲームの中じゃあ、ともかく今は武具が使えない状態なんだから、 火闇霊章がレベルアップするのは本当にありがたい。 ゲームの中で使えるのがそれしかないわけだからね。 えーと……これって詳細とかあるのかな。 霊章……火闇……おお、あったあった。  ◆霊章輪・火闇───れいしょうりん・かえん  真龍王の力とベルセルクの力を封じ込めた能力。  狂いし者の意思は消えたが能力は残った、古の指輪の力。  生き物の肉を食らうことにより力の肉付けをしてゆく指輪であり、  宿主が“肉”を食するたびに経験を得、強化されてゆく。  現在のレベル:5(能力とレベルとは正比例)  0:スティグマ(章痕/代償。使用するたび筋肉痛)  1:シューター(伸縮/伸ばし、戻す。敵を掴む時など)  2:レイド  (圧縮/凝縮、強固化。炎で敵を殴る時など)  3:バースト (爆破/火闇爆破。爆破させるかは任意で)  4:リジェネ (治癒/火闇を発動させている限り、自動で傷が癒える)  5:フォボス (焦炎/火力の上昇。爆破の能力も向上)  食べるものは対象が強ければ強いほど力になる。  ……ちなみに、調理の仕方によっても得られるものに差が出るので注意。  生はいけません。あなたはゾンビではないのですから。  生食主義ならば止めはしませんが。 いえ調理するよ!?僕ゾンビじゃないもん! なにこの生食主義者って!生食(パンみたいなやつ)しか食べないヤツみたいじゃないか! ルミエ「けど……フンッ!」 試しに火闇を出現させて、伸ばしてみる。 すると、結構な距離まで伸び、すぐさまゴシュンと戻ってくる火闇。 ううむ、面白いもんだ。 これでまた一歩、ベルセルクに近づいた。 ベルセルクの野郎は随分と霊章を使いこなしてたからね…… 眠ってる能力があるんだったら是非とも全て引き出したい。 ……掴んだ相手を確実に燃やしたりするのもこれはこれで素晴らしいが、 熱くなくて燃やしもしない能力も欲しいなぁ。 ルミエ「………」 ゴソ、ゴソソとバックパックの整理をする。 と、あるわあるわの刻震竜素材。 内容物の約85%がそれらだと言っても言いすぎじゃあねぇ。 これらの全てが武具になる……最高のショーだとは思わんかね。ショー関係ないけど。 えぇとまず武器に使って、次に防具に練りこんでそれからそれからウフフフフ……。 麻衣香「……ヒロちゃん。バックパック覗きながら、     この日最高の笑顔されても嬉しくないんだけど……」 ルミエ「だって好きなんだもの!」 僕は僕の感情にウソはつきません! もはやエロスはどうでもいい!武具を!さらなる武具の強化を! 僕はそれを生き甲斐に、これからもファイトでエイオーしたいです! ルミエ「おっと忘れてた!サモンザ・シャモン!」 竜玉をつついて月属性の竜を召喚!守備表示! シャモン『キュルキュ〜!』 ルミエ 「ハッハッハッハッハ!ハッハッハッハッハッハ!!」 飛び出てきてすぐにあたしに向き直って飛んできたシャモンを抱き締め、 帰宅を迎えてくれた犬にそうするように撫で繰り回す! 抱き締めるってほどにも大きなものじゃないが、 手乗りドラゴンを名乗ってもいいくらいの大きさのソレを肩に乗せると、 あたしはギャアア〜〜〜〜ン!と無駄にカッコイイポーズを取った。 ええ、意味はまったくありません。 ルミエ 「いいかいシャモン。既に解っているようで嬉しいが、あたしは博光。      バイオレス博光だ。今は女の姿をしているが、そこは気にするところではない」 麻衣香 「しようよ……」 ルミエ 「これより貴様にミッションをくれてやる。      あそこで戯れている三人と、大いに遊んでいらっしゃい」 シャモン『キュ?クルキュキュ?』 ルミエ 「え?ウフフ、あたしは久しぶりに婦婦二人きりでのんびりするのさ。      あたしのことはいいから行っおいで」 シャモン『キュッ《シュゴォゥウンッ!!》』 シャモンが、驚くべき速度で三人に向かって飛んでいった。 さすがは守護竜……その速さ、尋常ではない……! 麻衣香「……ねぇヒロちゃん?婦婦ってなに?」 ルミエ「今の我は女よ。なればこそ、夫婦と呼ぶのはおかしいので婦婦」 麻衣香「あ、なるほど」 ルミエ「というわけでさあ麻衣香!愛を語り合おう!愛を確かめよう!     考えてみりゃここ最近ゴタゴタ続きで夫婦らしいこと出来なかったし!     あ、ここで夫婦って言ったのは、     そういうことが出来なかったあたしが“俺”だったからで」 麻衣香「こんがらがるから説明しなくていいって。じゃ、ヒロちゃん《ポムポム》」 ルミエ「え?」 麻衣香が女の子座りの状態の自分の膝をポンポンと叩く。 つ、つまり……膝枕をしてくれると。 なんと珍しい。 以前頼んだら“フン断る”で一蹴されたというのに。 理由はどうあれしてくれるのだというのなら断る手はね〜〜〜〜っ! そしてその後は膝枕返しをしてやるんだ。 だってオラは───女の子なんだから! ルミエ「FUUUUM……《ぽすっ》」 麻衣香「どうして普通に寝転がれないかな……」 ルミエ「モリモトの真似くらいいいじゃないか」 麻衣香「あとポニーテールくらい解きなさい」 ルミエ「《シュルッ……》あぁっ!」 寝転がった状態でポニーという名の髪封が解かれた! な、なんということを……! ポニーは立った状態でシュルリと抜き取りながら、 首を少し振って髪を解放するのが素晴らしいのに……! え?自分のでやっても楽しくないだろって? 俺はポニーが好きなのだッッ!俺がやろうが他人がやろうが関係ないわ! や、そりゃあ綺麗な方がやるのがベストだけどね? ……でもいいや、心地いいし。 ルミエ「あ〜〜〜……なんだか疲れたぁ……」 麻衣香「なんだかんだで一番無茶してるみたいだからね。     け〜っきょくメンバーの中で唯一の人間になっちゃって。     どうしてそんなにこだわるのかは知らないけど、無茶はしすぎないでよ?」 ルミエ「人間が人間のまま強くなるには無茶は必要だと思うのですが」 麻衣香「そ〜れ〜で〜もっ。学生時代からなにかっていうと突っ走って失敗して、     鬼山先生にボコボコにされてたんだから。さすがに心配にもなるよ」 ルミエ「いやぁ……鬼山は“本当に教師ですか?”と疑いたくなるほど怖かった。     そのボコリ様は生徒に加える体罰の域を超越していたよ」 麻衣香「顔面変形するほどボコボコだったからね……」 自宅への帰り道に、顔を腫らしながら何回“ちくしょ〜〜〜”と呟いたことか。 けど、今となっては笑い話だ。だから笑っておこう。 ルミエ「………」 倒れる自分と対面する空の蒼に目を細め、閉じてゆく。 ゆっくりと息を吸えば、自然の香りと妻の香り。 耳を傾ければ聞こえてくる草花の合唱。 風に撫でられては小さく囀る音に、頬を緩ませては心を落ち着かせる。 セミは居ないのか、地界のような煩さはないけど─── 夏独特の暑さと涼しさが、やっぱり疲れているのであろうこの体に心地よかった。 声  「……一ヶ月も経たない間に、いろいろあったね……」 聞こえる声に、うんと頷く。 本当に、いろいろあった。 それはきっとこれからも続いて───俺が死んだあとも続くのだろう。 抗うと決めた覚悟は胸にある。 だけど、ダメだったときの覚悟も決めてある。 その時にはどうか、俺達の日常が続いてるよう願うとともに─── 俺は出来るだけ静かに、人生って幕を下ろしたい。 もがいてでもいいから、自分の死を自分で悲しむくらいの余裕とともに。 自分が死んだことにさえ気づけないままに死ぬのは……寂しいからな。 ルミエ「…………ごめん、なんか自分で思ってるより疲れてるみたいだ……寝ていいか?」 声  「……ん。ヒロちゃんの、そういうわたしにしか見せない態度、嫌いじゃないよ?」 返事を耳にする頃には、もうまどろみは俺の体を包んでいた。 俺は抵抗することもなくそれを受け取りドボォッ!! ルミエ「レオーネ!!」 突如として腹を襲った衝撃に、奇声を発した。 何事かと見開いた目に映った無邪気な笑顔のナギー、そしてその肩に居るシャモン。 そんな景色を焼き付けながら、遊ぶのじゃーと騒ぐナギーを前に……気絶しました。 Next Menu back