───悶着の片鱗/黒との接触───
【ケース642:霧波川凍弥/R-Gray-Man】 ピッ…… 凍弥 「はぁ……」 携帯電話の電源を切る。 未来の携帯電話でもここで使えるんだな〜と感心したのはちょっと前。 今は、てんで繋がらない蒼空院邸への通話に頭を痛めていた。 オープンカフェでアールグレイを頼み、 のんびりとくつろいでいる、と外見的にはいいんだが…… ゼノ 「…………《む〜〜〜〜ん》」 なんでこんな状況になってるんだろうな……。 俺はただここでのんびりした休日を過ごそうとしてただけなのに……。 浩介 「ブ、ブラザー……物凄い殺気だ……」 浩之 「う、うむ……我の数倍はありそうだ……」 一つのテーブルを囲むように四人で座る俺達。 西の方角を陣取るゼノさんが、黙っていても裂帛くらいさせかねない威圧感を放っている。 お陰で体調不良を訴える人が相次ぎ、カフェには誰も居なくなっていた。 一般人にはこの威圧感は強すぎるということだ。 なにせ人の魂を扱う死神さまだ、そうなっても仕方ない。 ……はぁ。いい加減、助けを呼んでても埒があかないよな。 凍弥 「えっと……な、なんの用があってここに───」 ゼノ 「む……ぬ……。誰でも良かったのだが、少々立ち入った話でな。     茶化さぬ輩が最適だった故、貴様を選んだ。横の二人は邪魔だがな」 浩介 「ブラザー、邪魔だから失せろ」 浩之 「ほざけブラザー、邪魔なのは貴様だ」 ゼノ 「二人邪魔だと言った。二度言わせるな《ゾワァッ!!》」 志摩 『ヒィッ!?』 放たれた殺気を前に双子が取った行動! 意外ッ!それは俺を盾にすること!───意外でもなんでもないだろこれ! 凍弥 「友達甲斐のないやつらだなっ!真っ先に盟友を盾にするなよ!」 浩介 「ふはははは!甘い!甘いぞ同志よ!」 浩之 「生き残るのはいつでも非情な者だけよ!     そしてそのための勇気を振り絞った者にこそピースフルライフは舞い降りる!」 凍弥 「同志を犠牲にして得られる穏やかな人生なんて後味悪いだけだろうがーーーっ!」 ああだめ!こいつらほんとだめっ! 誰か救援を!やっぱり救援が必要だ! ここは───ええい構うか佐古田だ! 社員の番号は登録済みだからリダイヤルして───よし!  〜♪ ……あれ? 浩介 「ぬ?」 浩之 「む?」 ……聞き覚えのある音楽が近くから───って居やがった! 散歩でもしてたのか、通行人に紛れててくてく歩いてやがる! しかも鬱陶しそうな顔して携帯電話取り出してるよ! BGM『ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜〜♪     ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜〜♪     クエーーースチョーーーン!     クエーーースチョーーーーン!ぼっくっオバッQ!』 佐古田「うるせぇッスね!誰ッスかまったく!」 煩いのはお前が音設定をマックスにしてるからだろうが。 しかも相変わらずヘンテコな呼び出し音だし……まあ、なんだ。 とりあえず繋がったみだいだし─── 凍弥 「ゆっくりだ……ゆっくりと右を向け」 佐古田「あん?……なにッス、ムナミーじゃねぇッスか。右になにが───」 凍弥 (…………) 佐古田「…………《ニコリダァッ!!》」 うおっ!?ゼノさん発見した途端に逃げやがった!! 待ってくれ佐古田! ここは貴様の傍若無人な太い態度が未来を切り開くエクスカリバーになる場面で─── 待ってくれぇえええっ! 浩介 「フッ、やつめ……我の気迫に恐れをなして逃げおったわ」 浩之 「我の眼力も捨てたものではないな。やつめ、尻尾を巻いて逃げおったわ」 どっちも違うから鼻息を荒くしないでくれ頼むから。 凍弥 「……そ、それで、俺になんの用で……」 ……埒もなし。 結局俺が聞くしかないらしく、口を開くしかなかった。 ゼノ 「む……なに、な。近日、水穂にとって大切な日が来る。     それを祝ってやるために、なにかをくれてやろうと思うのだ。     だが我は死神だ。人間の感性なぞ二も三も解らん。     感情は存在するが、感性が解るかはまた別だ」 凍弥 「え……それって誕生日プレゼント、とか?」 ゼノ 「ぬ、む……まあ、似たようなものだ……。     思えば一度もそんなものを与えたことがなかった。     以前、人間どもが誕生会というものをやったな?     あれを見た時にな、思えば祝ってやれていなかったことを感じた。     水穂は気にしないと言うだろうが、それでは我の気が済まん」 ……意外に義理堅い人なんだろうか。 人じゃなくて死神だろってツッコミは置いておくとして。 凍弥 「祝ったこと、一度も?」 ゼノ 「……祝っていると言えるかは解らん。水穂はそう言ってくれるがな。     だがなにかを贈った、などということはな」 凍弥 「な、なるほど……それなら紅さんが喜びそうなものをあげれば───」 浩介 「くれない?誰だそれは」 凍弥 「ば、ばかっ!水穂さんだろっ!?紅水穂がフルネーム!」 浩之 「ぬ?そうであったか?     ……おお、いわれてみれば、死神嬢がベニーと呼んでいたような」 凍弥 「いいから少し黙っててくれ頼む!……そ、それで紅さんの好きなものは───」 ゼノ 「知らん」 三人 『…………』 早くもお手上げだった。 凍弥 「ほ、ほら、食べ物とかじゃなくても、たとえばぬいぐるみとか……って」 って、そんな歳でもないのか? じゃあやっぱりアクセサリとか? ……ぐああダメだ!俺も誰かにプレゼントなんてしたことないから解らない! そりゃ椛にはしたことはあるけど、 心の底から喜んでくれるようなものをあげた覚えがない! ……い、いや落ち着け、これはいい機会なのかもしれない。 ゼノさんに協力するとともに、女の子の好きそうなものっていうのを学んでみよう。 そう思ったら、話の途中だったっていうのに立ち上がり、 ゼノさんに詰め寄って叫んでいた。 凍弥 「やりましょうゼノさん!俺、全力で協力します!」 ゼノ 「む……まあ、こればかりは頼まざるをえんのだが……」 浩介 「おお!珍しく同志がやる気だ!」 浩之 「うむ!これは同行して行く末を見守らねばならんな!」 凍弥 「よし行こう!まずはデパードだ!」 どっかりと座った和服姿の死神さんを促して、早速歩いてゆく。 ……今更だけど、無駄に和服の似合う死神さんだな。
【Side───朧月椛】 ワヤワヤワヤ…… 椛  「……この時代のアクセサリは随分と高いですね」 聖  「うん、高いけど……買ってもつけないでしょ?」 椛  「まあ、そうだけど」 ざわざわとざわめく日曜のデパート。 世に言う休日ということもあって、人の出入りは相当だった。 一緒に居るのは聖ちゃん。 おとうさんが捕まらなかったという理由もあって、 今日は久しぶりに二人だけで遊びに出ていた。 見るだけならタダって理由でアクセサリ売り場をうろうろしたり、 小腹が空けば試食品を食べながら、売り場担当のおばさんと談笑したりしていた。 ……やることが少しおばさんっぽいけど、 わたしはそういうことにはこだわらないことにしている。 今時の女性がすることよりも、熟年の人がすることの方が興味深いのだ。 そりゃあ、もっと凍弥さんといろいろやりたいこともある。 けど、あの人はそういうことに敏感なタイプでもないし…… そうなると自然に、祖父の影響なのか年寄り臭いといったら酷い言い方だけど、 そっち方面の趣味が濃くなってしまうのだ。 カンパニーで出来ることなんてそれこそ少ないですし、それは仕方がないことです。 だから、たまの休み。 こんな時くらい、普通の女の子が興味を持つようなことでもやってみようかな、と…… 思ったわけだけど全然ダメです、まず興味がもてません。 もてませんけど、一つだけ……あ、欲しいかな、と思えたものがあった。 椛  (……これも、凍弥さんがプレゼントしてくれたりしたら嬉しいんでしょうか……) 小さくて安っぽい作りだけど、 自分が気に入ったものなら……きっとどんな高価なものよりも価値がある。 聖ちゃんもずっと一点を見てる……聖ちゃんも気に入ったのかな。 聖  (……親である椛ちゃんと子であるみさおちゃん……     二人ともがわたしの友達って、妙な感じだよね……《ボ〜〜〜ッ……》) うん、きっとそうだ。 なんだか考え事してるようにも見えるけど、きっとそう。 椛  (でも……プレゼントか……) 思えば、凍弥さんからはプレゼントらしいプレゼントをされたことがない。 誕生日はどれだけ忙しくても疲れてても祝ってくれるし、 いつでもわたしのことを大切にしてくれる。 それは嬉しい。 他の人から見たら、わたしはきっと幸せな奥さんだ。 だけど……そう、たとえば……他意の無いプレゼント、っていうのもあってもいいと思う。 なにかの日だから〜という名目なんてなく、ただプレゼントしたかったから、って理由で。 椛  (……あれ?) ……そういうわたしはどうなんだろう。 凍弥さんにプレゼントなんてしたことがあっただろうか。 カンパニーでは凍弥さんを待ってるだけで、 そりゃあ紅花の世話をしたりはしてるけど─── 炊事洗濯掃除、その他もろもろは使用人の方々、 あるいは凍弥さん自らがごしゃーと片付けてしまう。 わたしはただ凍弥さんが戻ってくるのを待ってるだけで─── 外に出る時間なんてこれでもかってくらいにあるのに、 プレゼントを買うだとかねぎらうだとか、そんなことさえしたことがない気がする。 なのに凍弥さんはいつもにこにこして、わたしにただいま、って微笑みかけて…… 聖  「……?椛ちゃん、顔赤いよ?」 椛  「ひゃうっ!?」 指摘されて、顔を触った。 反射的だったんだけど、それが本能なのだとしたら……もう十分だ。 わたしは幸せ者で、贅沢者で我が儘だ。 これほど大事にされてるのに、もっともっとと願ってる。 怒りやすいし嫉妬深いし……うう……凍弥さんはこんなわたしのこと、 ちゃんと好きでいてくれてるのかな……。 椛  「ねぇ聖ちゃ───あ」 聖  「?……あ」 人の波に紛れて、特徴的な人物を発見した。 わたしの中で特徴的なだけであって、外見に特徴があるかといったらそうでもない。 凍弥さんだ。 どうしてこんなところに……って、なんで隠れてるんでしょう、わたしは。 聖  「椛ちゃん?」 椛  「す、すいません……自分でもよく解らないんですけど……」 でも、もしかしたらって期待を持ってしまう。 わたしのためにアクセサリを買いにきてくれたのかも、と。 だからそのためには、 わたしがここに居たら買いづらいに違いない、とか勝手に想像した……結果が多分これ。 隠れて、様子を伺うって結果だった。 【Side───End】
……。 凍弥 「とりあえずここはアクセサリでいきましょう」 ゼノ 「ふむ……この妙に光っているものがそうか。目に余るな」 死神アイだからか?解らないが、そう言われても困る。 紅さんならぬいぐるみでも喜んでくれそうだけど、 ゼノさんがぬいぐるみを買うシーンは出来れば見たくない。 妥当なところでアクセサリってことで……でもゼノさん、金持ってるのかな。 …………不安だから安いのにしておこうか。 そこんとこくると、このやつなんて……うん、安っぽそうだけど可愛い感じだし…… 凍弥 「ああ、これなんかいいかも。紅さんに似合いそうだヒィッ!!?」 な、なにごと!?殺気!? なんだこれ!紅さんに似合いそうだって言った途端に殺気が! もしかして呪われてるのかこれ! い、いやまさかな……でもこの胃を刺すような殺気、俺のよく知ってるアレに似てる気が。 ………………居ない、よな。 見渡してみてもそれらしい影はない。 気配も…………感じないな。 もっとも、この人の多さだ。 特定の人物だけってのは難しい。 ……でもこれはやめておこう。 ゼノさんに持たせるには可愛すぎる。 これは───うん、たまにはいいか。 椛に買ってあげよう。 ……と持ち上げると、余計に殺気がミチミチと……! な、なんだ……?なにが起きてるんだこのデパートに……! 他の人は気づいた様子はないのに……お、俺だけ?俺だけに向けられてる? ゼノ 「どうした」 凍弥 「あっ、い、いや……なんでも……」 ……ここは移動したほうがよさそうだ。 次は─── 凍弥 「あ、そうだ。湯呑みとかどうですか?お揃いとまではいかなくても、     同じ日に買ったものには思い入れが出来るものだと思いますけど」 ゼノ 「ふむ……確かに我と水穂はよく茶を交わすな。いい案だ、それでいい」 凍弥 「ほ、ほふぅ……」 それはよかった……このまま決まらなかったらどうしようかと思ってた。 じゃあ、と促しつつ、俺はゼノさんと連れ立って歩き出した。 ……そういや浩介と浩之は何処行った───って居た。 オモチャ屋でゲーム見て笑ってる。 俺達にしてみれば古いゲームがこの時代では新しいんだから、おかしなもんだ。 ともあれ、歩いてゆく。 この後、何気なく手に取ったアクセサリが、 いろいろと面倒なことを巻き起こすとも知らずに。 【ケース643:中井出博光/果ての無い袋小路へ】 …………コーーーン………… ……コーーーーン………… 断続的に鳴り響く音に目が覚めた。 いや、言ってみりゃこれは夢の中で目覚めた状態だ。 何故って、体が男だからだ。 中井出「たのもう!精神がやってきたよ!用があるならでませい!」 だから声を大にして言ってみました。 恐る恐る辺りをうかがうなんて普通のことはしません。 俺はやってみたいことに正直に生きていきます。 声  『そう急くな。この世界は外の時間に干渉されん。ゆっくり話が出来る』 中井出「そ、その声はっ…………(まさ)さんっ……!」 声  『違う。……ふふっ、どうやら相変わらずのようだ。     俺はそれを嬉しく思うよ。久方ぶりに呼ばせてもらうのなら───“提督”』 目の前の虚空に光が集束する。 ソレはやがて人の大きさほどまで集まり、ついには─── 中井出「ダークミスト〜」 モハァーーーーッ!! ……姿を見せるより先に、闇属性のキャリバーを奇妙に使用して闇の霧を精製。 光を包んでみました。 声  『…………常識に逆らい続けるのも相変わらずか』 中井出「うん僕それが楽しくて無茶してるきらいがあるから。     それで、この博光になんの用かなルドラくん」 ボフンッ!とあっさりと闇を吹き飛ばし、姿を見せたのはルドラ。 いずれ戦うことになるであろう、ラスボスさんだ。 ルドラ『お前に話があって来た。回りくどいのは無しだ───俺とともに来い』 中井出「いいよ?」 ルドラ『……フッ、そうくるだろうとなにぃっ!?     なっ……あ、いや……い、いいのか?』 中井出「世界を終わらせないって条件が大前提だけど」 ルドラ『それは無理だな』 中井出「じゃああれだ、どっかに星でも作ってそこに住むとか。     そうすりゃ地球がどうなろうが知ったこっちゃねぇし」 ルドラ『ほう?どうなってもいいと?』 中井出「思い出は俺ン中にある。人の死はそれだけで悲しい。     でも僕世界のみんなの命なんか担うつもりなんかないし、     日々を普通に生きてりゃ誰の命がどうなろうが知ったこっちゃないだろ。     ククク、理解するがいい創造主……口にしてみりゃ外道なことだが、     そんなことは誰だって本能的に持ってるものなんだぜ?それともなにかー!?     貴様は日々常に誰かの命がハラハラ心配!とか思ってるのか!     そう考えてみると、ほら。口に出せば外道だけど、思うだけならタダじゃない」 ルドラ『ならば何故口にする?』 中井出「言わなきゃ解らないヤツや偽善者がこの世界にはい〜〜〜〜っぱい居るからです。     世界を救うだの誰かを守るだの、そんなもん口にしないで普通にやれ。     わざわざ口にするから偽善っぽく聞こえるんだっての。     俺ゃなー!そういう正義のヒーローさんが好きでもないし嫌いでもないんだ!」 ルドラ『どっちだ』 中井出「うん……どっちだろ……」 どうでもいいことですね。 忘れましょう。 中井出「いやさ、ほら。こうして口にしてみると誤解されるでしょ?     でも口にしないと解らないやつらばかり。おかしいでしょこの世界。     たとえば力があるから守らなきゃいけないなんて、そんなのおかしいさ。     僕は楽しみたいから力を欲した。そこから枝分かれしてとる行動なんざ様々さ。     でも最低限家族は守りたいかなって思う程度で、     見知らぬ誰かがどうなろうが知ったことじゃあありません。     目の前で危なくなればそりゃ助けるかもしれません。     でもその所為で自分が危険な目にあってちゃあ、なにを楽しめますか」 ルドラ『……そういうところは俺の知る提督とは違うな』 中井出「おお?未来の僕はどんな人?」 ルドラ『基本は変わらん。だが守る時は守る男だった』 中井出「そうなのか……」 ルドラ『それに比べてお前は随分とクズだな』 中井出「ワハハハハ!他人の評価なぞ知ったことではないわ!」 ルドラ『俺は俺が俺らしくあればそれでいい、か。     だがそれはあまりに周りのことを視野に納めない行動だろう。     そんなザマで俺のことをとやかく言う資格が───』 中井出「え?言ってないけど」 ルドラ『……………』 中井出「……?言ったっけ?」 ルドラ『…………………………俺とともにこい、提督』 うわっ!流しやがったこの野郎!! 中井出「断る 大体資格がどうとかなんてそれこそ貴様が決めるべきことではないわ!」 ルドラ『随分と返事から話までの間が短いものだな……!     だがやろうとしていることは変わらんだろう。     俺を滅ぼし、世界を救う。結果は変わらん』 中井出「じゃあ今すぐ死んでください」 ルドラ『生憎だが死ににきたわけではない』 中井出「結果が変わらないなら今すぐ死んでください」 ルドラ『笑顔でつくづく辛辣だなお前は……』 中井出「相手が誰でもこの博光、容赦せん」 不思議と足は震えてないしね。 ……もしかしたら怖すぎて、震えるのも馬鹿らしくなってるのかもしれん。 ならそんなときにこそ言えることは言いましょう。 ルドラ『……まあいい、ひとつ聞かせろ。お前は何故晦側につく。     楽しめればいいのなら、お前は間違い無くこちら側だ。     そちら側で待つのは死亡の行く末のみだ』 中井出「だってお前頭硬いんだもん。そんなやつと一緒に居たって楽しくないやい」 ルドラ『───』 中井出「あ、これ一応、会う機会があったら言ってやろうとしてた言葉の一つね?     自分の未来が壊れたからって過去を壊そうとするおばかさんはメッです」 ルドラ『……フンッ、随分と悟った風情で語るものだな。     お前に俺が見た未来のなにが解る』 中井出「感情無くして行き着くところまで行かないと解らないねそれ。     フォフォフォ、質問としては最悪の独りよがりですぞ若」 ルドラ『………』 中井出「さっきも言ったけどさ。     言わなきゃ解らないやつが居るなら解らせるしかないだろ。     それでも解らないなら無視するだけだけど。     そんなこと言うならなにキミ、言葉以外で解ってくれるの?     そしてそれは俺が望んだ通りの理解?どうなの?ん?」 ルドラ『……やめておけ。俺にその手の挑発は通じない』 中井出「よし!ならば会話だ!挑発が通じないなら穏やかに話せるね。     えーと、じゃあまずなにから話したもんか」 ルドラ『………』 あ。 眉間に指当ててうつむいてる。 どうしたんだろ。 ルドラ『お前は……本当に人をノせるのが上手いな……ノート以上だぞ……』 中井出「いーじゃないかそんなことどうだって。     で、元気してた?ご飯ちゃんと大盛りで食べてる?歯は磨いてる?」 ルドラ『食事は……していない。霞を食らうとはよく言ったものだが、     空気中のマナを取り込んで糧にしている』 中井出「既に食事の時点で人ですらないんだ……」 ルドラ『事実、人ではないからな。が───……ああ、まったく。どうしてくれる』 中井出「どうもしねー!」 ルドラ『まだなにも言ってないが…………ふふ、久しい気分だ。     やはり本質は変わらないな、提督。     この時代の輩は全てが全て変わってしまっている。     それは、この世界が俺が辿った世界とは     違う方向に向かっているという意味なのかもしれないが……』 中井出「壊してしまえそんな世界」 ルドラ『……マテ。さっきと言ってることが───』 中井出「言ってみたかっただけです」 ルドラ『そうか……やはりお前はあまり変わらない。     俺はそのことが…………ああ、そうだな、嬉しいんだろう……』 自分の胸に手を当てて、微かにだが……ルドラの口の端が持ち上がった気がした。 それはよく見てないと解らないくらいの小さな笑みで…… 正直僕にとってはどうでもよかった。 ルドラ『お前は本当に意地が悪いな』 中井出「心を読まないでください。で、俺からの質問、いいか?」 ルドラ『……いいだろう。予想はついている。お前の死に───』 中井出「ハンバーガーってこれから何段までに増えるの?やっぱヨッタマック?」 ルドラ『───ついて、は───…………いや、お前な……』 中井出「え?なに?」 ルドラ『マクドナルドの他にも気にするべきことがあるだろう!』 中井出「───……はっ!そうだ……!俺ってやつはそんな大事なことも忘れて……!」 ルドラ『そうだ……!お前はこれから───』 中井出「ドナ様は何代目まで行った!?ランランルーは最後までやってたのか!?     どうなん《プヮアグォルシュァアアアッ!!》ヘゴルギャアアアーーーーッ!!」 ドギツイナックルでした。 頬から死ぬかと思った。 頬を殴られて死ぬなんて勘弁です。 中井出「な、なにしやがるこのブタ野郎!」 ルドラ『お前はっ!自分の命などどうでもいいとでも思っているのか!?     未来が危ぶまれているところにハンバーガーだドナルドだ……!』 中井出「え!?だ、大事なことだろ!?え……な、なに言ってるんだよ……!」 ルドラ『本気で動揺するな!』 中井出「ごえぇええ〜〜〜〜……?」 ルドラ『うざったらしく唸るな!!』 中井出「じゃあ話を続けよう!命を軽んじている気などまったくない!     そして未来を危うくしてるのはキミであって僕じゃない」 ルドラ『いちいちツッコむな。解っている』 それから、僕らはどっかりと腰を下ろして話し始めました。 人間はクズでございますとか、守る価値もないとか、そんなことをいろいろ。 思考からしてみれば俺はルドラ側だと、確かに理解できた。 でも気に入らないからって世界崩壊はやりすぎです。 アンタ何処の悪餓鬼さんですか。 ルドラ『しかし何故お前はそちら側を選ぶ。確実に滅びの道だというのに』 中井出「こっちの方が楽しいから。それだけ。     そりゃ土壇場になればどんなこと考えるのかなんて解らないよ?     無様に泣きじゃくって助けてくださいとか言って、     他のやつら見捨ててでも自分だけ生き残ろうとするかもしれない。     俺も人間だからね、解ってるんだ、自分がクズだってことくらい。     英雄だって人間である以上、誰かを守ろうとして死ぬって時、     その時の自分を振り返ってみて……自分がバカだったかどうかの確認をする。     俺はその時、死にたくないって思う。英雄だってそうだ。     生きたいって思うなら、死にたくないって思うのも当然。それと同じだ」 ルドラ『だがお前は、そっちを選んでる時点で生きることを放棄しているだろう。     お前は矛盾だらけだ。生きたいと願うのに何故死を選ぶ』 中井出「ははは、おかしなこと言うなぁ。     矛盾のない生き方なんて、やろうと思っても出来やしないって。     だから硬いんだよお前、矛盾だらけだ〜とか正しくない〜とか。     単純でいいじゃないか、未来の先でこうしたい、なんてただの願いだ。     それは決定してるものじゃないんだし、その時その時で変えてもいい。     とあるお方が言ってました。“水になりなさい”と。だからお願いがあります」 ルドラ『待て、何故そうなる』 中井出「水だからです。相手の出方なんて待ってられません」 自分勝手、結構じゃないか。 自分を曲げてでもなにかを成したい、守りたいってことをするなら、 そう思った時にだけそうすりゃいい。 俺はまだそういう意識がないからこうしてるだけだし、 そういった覚悟だってそのときにならなきゃ結局は決められないんだ。 初めから覚悟を決めてぶつかれるヤツなんて居ない。 “自分”を変えずに生きていけるやつなんて居ない。 俺達ゃいつだって覚悟を求められてるんだ。 戦う覚悟も、逃げる覚悟も。 見捨てる覚悟も、救う覚悟も。 そんなのをずっと自分の中に刻みこむだなんて無理だよ。 ザコ敵相手なら虚勢も張れる。強がりだって言える。 でも自分の力が明らかに及ばないヤツと出会ってしまったらどうだ? 脇目も振らずに逃げ出して、無様な自分に涙して…… でも、そんな自分が嫌だからって……そこで立ち上がる覚悟と逃げる覚悟を求められる。 俺は今まで立ち上がってこれた。 足も震えたし、出来ることなら誰かに任せて逃げ出したかった。 死んでも復活出来るって後ろ盾がなければ、誰がそんな無茶するか。 それでもいつか、本当に死ぬ覚悟を求められる時が来る。 今の俺は死ぬ方向へと歩んでいっている。 今の段階じゃあ覚悟なんて呼べない、楽観してるみたいなちっぽけな勇気。 でもいつか、それが怯えに変わり、逃げ出したくもなるだろう。 俺の覚悟が求められるのはその時であって今じゃない。 だから笑ってられる。それでいいじゃないか。 ルドラ『…………なるほど。命がどうでもいい、なんて言ったことは素直に詫びよう。     お前は覚悟というものを知っている』 中井出「言っとくけど覚悟決めたって怖いもんは怖いんだよ?」 ルドラ『そうなのだろうな。解ってやれないのは少々残念だが。     ……さて、では聞こう。お前の願いとはなんだ?』 中井出「あ、そうだった。───お前が至った未来を僕に見せて?」 ルドラ『なに?……本気か』 中井出「うむ。世界が軋み始めた頃からでいい。     時間かっとばし短縮モードでその全貌を経験させてくれ。     未来が最悪だ絶望だとか言われても、実際に見ないとピンとこない」 ルドラ『い、いや……そう、かもしれんが……そんなことを言い出すか、敵である俺に』 中井出「敵だって思ってるのは貴様だ。俺はべつに崩壊とかさせないなら興味ないし。     お遊びで仲間見捨てるのはいいけど、     本気で仲間だったヤツを自分の手で殺すってのはいただけんぞ」 ルドラ『言っただろう、俺は晦悠介を殺せればそれでいい。     あとは彰利の手で俺自身が死ねば、すべては終わるのだ』 中井出「むう……それって俺じゃダメ?」 ルドラ『うん?なにがだ』 中井出「殺す役」 ルドラ『───』 ルドラの目が変異する。 赤から紅蓮へ。 だが殺気は感じない……やっぱり感覚が麻痺してるらしい。 殺されても当然、みたいな感じに……体が理解しちまってるんだ。 それはつまり“どうやっても勝てない相手”ってわけで─── 恐れ多いとかそんなことさえ素っ飛ばして、死んで当然になっちまってるのだ。 ルドラ『……口には気をつけろ。“殺す”ということがどんなことかも解らん人間が』 態度が一変した。 だがそれでも恐怖は沸いてこない。 中井出「殺すは知らない。所詮ゲームだ、知るわけもない。     でもな、“死”なら知ってる。     吐いてでも泣いてでも、殺人の恐怖を乗り越えられなくても別にいい。     頑張ったお前のこと、俺が終わりにしてやりたいって願うのはダメか?」 ルドラ『───!!………………お、まえは……』 こいつは孤独すぎたんだ。 だからいい加減楽になってもいいだろう。 そう思えただけだ。 同情だろうし、気休めにもならないだろう。 でも、だからどうした。 そうしたいって思ったことを口にしただけなのだ。 中井出「さあ見せてくれ。俺を後悔のどん底に落とすように。     じゃなきゃお前が“どう頑張ったのか”が解らない。     だがそれが取るに足らん未来だったら盛大に笑ってやるから覚悟しろクズが」 ルドラ『……少しでもグッと来た俺が馬鹿だった』 中井出「馬鹿が《ベパァン!》ヘボリ!!」 ビンタされてしまった……。 ……まあ、経緯はどうあれ───それは始まった。 真っ白だった世界に色がつき、景色が現れ─── 今俺達が生きている現代より始まり、時は流れ、凍弥ボーイの時代に至り─── さらに先へ先へと流れ───流れてゆく時代の最中、 何気に僕がどこにも存在してなかったことにああなるほどって頷いちゃったけど、 けれど流れる時の中。 やがて景色は速度を落として、ゆっくりと……汚れに満ちた世界を俺に見せていった。 視界に映るもの全てが建物。 世は腐り、建物だらけで車なぞ一台もなく、 道路もなくなり───ただ建物だけが並び建っていた。 移動手段は転移装置。 無駄に科学だけが発展し、結果───怠惰に溺れた人間たちは努力することを忘れ、 ただただ増えて減るだけの生き物に成り下がった。 満たされないものがあるとすれば空気だけ。 新鮮な酸素など既に無く、ルドラが生やした木々だけが酸素を作る糧であり、 しかし生やした先から破壊され、そこに建物が建つ。 人口は既に世界を埋め尽くそうとし、明らかな食糧難。 そんなものまでルドラが創造したものから得なくてはならない始末で…… そう、一言で言えばやはり腐っていた。 ルドラ(───) ふと気づくと、視線がルドラと重なっていた。 映像の中のルドラと、だ。 つまりこれはルドラが未来でみた景色そのままのものというわけで─── 俺はそれを、ただ静かに眺めていった。 ───……。 ある日、彰利が死んだ。 守ると決めたからには人を守ろうという信念が死んでゆく。 ある日、人が俺に守れと言った。 研究の果てに壊れんとするくだらない世界に嫌気が差した。 ある日───人を殺した。 人を斬る感触、命を断つという意味をこの手で感じ、 そしてそれが戻らないものだと知るや……現実のものだと知るや、嘔吐した。 ある日、人を殺した。 ある日、人を殺した。……殺した、殺した、殺した殺した殺した殺した殺した───!! ルドラ『………』 なんの冗談なのか、武器がジークだった。 世界中の人間を殺したジークは真っ赤に染まり、もはや声も聞こえなくなっていた。 殺しすぎたからだろうか。 俺のことが信じられなくなったからだろうか。 だけど───……どれだけ吐いても、どれだけ恐怖に蝕まれても、後悔だけはしなかった。 死んで当然だけど本当に殺すことはない、なんて言葉がある。 怖かった。命を断つことが怖くないわけがないじゃないか。 ゲームの世界でだって、謝らなきゃ辛かったくらいだ。 でも楽しみを望んで殺してしまった以上、どんなに謝ったって届くわけもない。 そんなことは解ってる。 血まみれのジークを見て悲しさを覚えるのだって、 こんなことのために一緒に冒険をしてきたわけじゃないからだ。 それでも───後悔だけは。 相手は守れと言いながらこちらを殺す気で襲い掛かってきていた。 殺さなければやられるのはこっちだ。 当然、至るところに至ったルドラの体がそれしきで滅びる筈もない。 ないのに、殺した。 何故?……そんなもの、殺しにきたからに決まってる。 自分から殺しにきたのにどうしてもクソもない。 だから後悔なんてしない。する理由がない。 ……なのに体が震えて、目は涙を流し続ける。 人を殺めた責任、というやつが俺に圧し掛かってくる。 一人を殺すのでさえ吐いたというのに───俺はこの手で世界のほぼを斬り捨てた。 頭がどうかしてしまいそうだった。 逃げ出したくて仕方がない。 だというのに逃げなかったのは、きっと─── ……。 …………そうして地界は……地球は消滅した。 呆気のない最後だ、同情の余地もない。 ルドラ『……どうだ。これが俺の見たものの全て。     晦悠介が守ってきた世界の末だ』 中井出「ゲヘヘヘヘ次この大画面でエロビデオ見ようぜ《ベパァン!》ギャーオ!!」 物凄い速度でビンタされた。 うん、さよならシリアス空間。 ルドラ『……人を殺めたというのに、どういう神経だ……』 中井出「理由は解るだろうルドラ中将。今ので確信した。俺は間違い無くお前側だ。     殺しに来たから殺した。死んで当然の奴らだったけど、殺すことはないと思った。     でも殺しに来たから殺した。それ以上の理由は必要じゃないねぇ……」 ルドラ『ならば』 中井出「だからって過去を破壊しに来るな。俺はそれだけが気に食わん。     さっきの映像の中じゃあ俺は俺だった。剣を振るうのも俺、驚くのも俺。     全部俺の神経で動いてたし、だったら殺したのは間違いなく俺だった。     原中の子孫も居たな。ありゃ飯田の血筋だった。     お前の体の所為かは解らないけど、感知できたよ」 ルドラ『……一撃だったな。容赦がなかった』 中井出「死にたくなかったから殺しました!言い訳はせん!」 ルドラ『そうだな。俺はやつらの感性を疑った。     既にやつらは守るべき範疇から外れていた。だから殺した。後悔もなかった。     ───……だが何故お前はそちらに居る。それが解るなら何故こちらへ来ない』 中井出「そっちが楽しくなさそうだからだって」 ルドラ『たったそれだけのために命を投げ出すというのか?』 中井出「お前と俺とじゃ感性が違うってことじゃないか?     俺はまだ未来で死んでく自分への覚悟は出来てないって言ったでしょ。     で、俺をそっちに引き込みたいなら世界破壊をやめろと俺は言ったね。     キミはソレを蹴ったのだ!そんな貴様が何故だのどうしてだの……恥を知れ!」 恥は関係ねーけど! 中井出「いーからもっと楽しい会話ようよ。つまらんよこんな悟ったみたいな会話。     俺は解らせたい時以外にはこんな話したくないの。     もっと柔軟に行こうぜトニー。周りが受け取りやすい人たちでいっぱいだったら、     きっと僕らは悟った風にならずに済むんだ」 ルドラ『人の所為にするな』 中井出「な、なに〜〜っ、人の所為にだと〜〜っ?     だったらてめぇは自分のしでかしたことを     過去の所為にしてるだけじゃあねぇか〜〜〜っ」 ルドラ『なに……?』 中井出「あ、ちょっとここに砂と棒頂戴?砂は多い方がいいかも。     うん、そうそう。え〜と……いい?まず貴様が過去においていろいろあって、     これは過去の自分が悪かったのさ!だからこんな結果に!と悲しみます。     ここまではいいよね?あ、絵ぇ汚くてごめんね?」 ルドラ『いいや、続けてくれ』 中井出「うむ。で、え〜とこれをこう描いて……うん。     で、貴様は過去を破壊しにきました。そんなあなたに馬鹿野郎」 ルドラ『説明不足にもほどがある。解るように説明しろ』 中井出「あれぇ!?通じない!?」 ば、馬鹿な……ば、馬鹿な……かなり解りやすく描いたつもりなのに……。 よ、よし、ではもっと噛み砕いて…… 中井出「ほ、ほら、ここ時間軸ね?時間軸。     この時間軸ってのはさ、ほら、分かれた時点で確立する軸でしょ?     道端に落ちてた缶を僕が蹴るか蹴らないかで未来が枝分かれするとか」 ルドラ『ああ』 中井出「で……ほら。これが貴様だとして、こっちが晦。     貴様がルドラとして未来に行き着いた時点で、     貴様はもうここの晦とは無関係なの。貴様の過去は貴様だけのものでしょ?     なんで貴様の過去を今の晦にまで背負わせて殺そうとするの?」 ルドラ『───……、待て。それは───』 中井出「貴様が歩いてきた道を晦は歩いてないの。     これから歩くにせよ別の時間軸を切り開くにせよ、     どの道貴様が歩いてきた道を晦は歩かない。歩けない。     貴様の歴史は貴様だけのものなんだからね。     つまり貴様はただ、自分の犯した過ちを誰かに押し付けて死にたいだけなの」 ルドラ『───!違う!』 かぁっ!とルドラの頭に血が上り、声を荒げる。 僕はその様子を見て 中井出「そうか。じゃあ楽しい話をしよう」 納得して暗い話を蹴落として明るい話へと全力疾走開始!! ……しようとしたんだが、あっさり止められることとなりました。 ルドラ『待て!ま、待て……!もっと、こう……追求したりは───』 中井出「え?違うんでしょ?いいじゃんそれで。解決解決」 ルドラ『………』 ルドラが何処か悲しそうな目で僕を見てきました。 え?あれ?もしかして追求してほしかった……とか? 中井出「あの……超年長者さん?     誰でもなにかを察してなにかを言ってくれると思ったら大間違いだよ?     言わなきゃ解らない人がいるからこうして僕も言わなきゃいけないし、     そいつを信じようって思ったヤツが居たとしたら、     たとえ悪意がなくても“違う”って言ったら信じるに決まってるじゃないか」 ルドラ『…………お前は……俺を信じてくれた、のか……?』 中井出「いえ全然《ベパァン!!》ギャノベ!」 またビンタだった。 中井出「ククク……この博光は貴様の手の上で喋ってるわけではないのだ……!     貴様の望む言葉をいちいち口にするわけがなかろうがグオッフォフォ……!!」 ルドラ『ぐっ……!いちいち癪を殴りつけるヤツだな……!』  ジャギィンッ!! 中井出「オワッ……!」 ルドラがそう口にした途端。 俺の影から出現した精霊13体が、俺の喉元に武器を突きつけてきた。 おおお……殺す気満々……! ルドラ『……提督、最終通告だ。俺とともに来い』 中井出「っ……」 体が痺れる。 踏ん張ってる虚勢の皮など剥がれ落ち済みだ。 精霊たちは解っててやってるんだろう。 わざと威圧感を下げ、俺でも感じ取れる最大級の殺気を武器とともに突きつけてきている。 悲鳴あげたいのに喉が、口が、体が震えて声にもならない。 息が詰まる。 呼吸が出来ない。 涙が止まらない。 怖い、怖い、怖い───………………怖い。 でも……ごめんだ、って声が聞こえた。 とても小さな声だけど、 まだ“震えることができる体”にほんのちょっとの勇気をくれる声。 怖いね。うん、怖い……でも、怖いって思える頭もある。 恐怖の時こそ冷静に、とは言ったけど……──────だめだ、余裕なんてない。 怖い。 ただ怖い。 ルドラ『……?ああ、すまなかったな。おい、殺気を引っ込めろ、窒息させる気か』 殺気とともに武器が下げられる。 途端、汗を噴き出し、涙を一層に流し、垂れる涎さえどうでもよくなり垂れ流し、 恐怖のあまり失禁さえして──────それでも。 ルドラ『恐怖は当然だ、恥じることはない。……さ、答えを《バガァッ!》ぐうっ!?』 足が竦んでまともに立てなかった体を一時的に、勢いだけで起こして───殴った。 即座に精霊たちが俺の体を刺し、貫き、痛めつける。 死ぬことを許さない箇所ばかりを徹底的に貫かれ、 痛みのあまりに気が狂ったような絶叫をあげてもまだ─── ルドラ『……《グイッ……》これが答えか』 血も出てない口元を拭い、ルドラが俺を見る。 ……その目だ。 さっきまでの目つきとは違う。 殺気立った目をしっかり見て、血で喉が詰まるのもお構い無しに言ってやった。 中井出「お生憎っ……!仲間を仲間とも思えないヤツなんか行ったところで……っ!     面白くもなんともないんだよぉおおおおおっ!!」 ルドラ『なに……?』 中井出「なんだよ今の……ああ、すまなかったなって時の顔……!     まるでゴミでも見るような目だ……!     解ってねぇようだから……!噛み砕いて言ってやろうかぁっ……!!     お前は結局……この時代の野郎全員、     絶望の糧みたいにしか見えてねぇんだよ!!」 ルドラ『………』 中井出「げあはっ!がへっ!えあがっ……!ごあっ……!     うげっ……、……こんなお前じゃ……誰の思いも届かなくて当然だ……!     周りが悪かった……!?そうするしかなかった……!?     ふざっけんなよこの甘ったれ野郎……!!     お前はただ全部を周りの所為にして勝手に守って、     その結果が消滅だったことに苛立って……!     ぶつけどころのない怒りをこの時代にぶつけてるだけじゃ……ねぇかっ……!     すっ……はぁっ───!!な、にが───!     なにが神魔だ精霊だ竜人だ!ただ力が強いだけのクソガキじゃねぇか!!     “俺は守った”だ!?守ったつもりになってるだけじゃねぇか!     守ったって思いたいならなぁ!そうしてきたって思いたいんだったらなぁ!!     結果が滅びだろうが胸張って守ったって言い続けてみろよ!     絶望がどうだとか周りがそうさせただの!格好悪いったらありゃしねぇ!!」 ルドラ『───!てめぇっ───!!』 中井出「親友を殺された代わりにお前がしたことはなんだ!?     向かってきたやつの皆殺しじゃねぇか!お前が彰利を大事に思ったように、     相手にだってそういうヤツが居たかもしれないってどうして思えねぇ!     だから頭が硬ぇって言ってんだよ!     そんな世界にしたのは誰だ!?お前じゃねぇか!     それで滅びれば自滅しただのどうのの言い訳か!     お前が英雄気取って守ることなんてしなけりゃ、     あの世界はとっくに終わってたんだ!     それを無理に生き延びさせるから人口が世界を覆うことになったんだろ!?     そんなことが無ければ!     世界の消滅を救おうとして彰利が力を使い果たすことなんてなかった!     弱ったあいつが研究員に捕まって死ぬこともなかった!!     最初から守らず静かに暮らしてりゃあよかったんだよ!」 ルドラ『……、……黙れ……!』 中井出「散々でしゃばって後悔して!挙句に親友を死なせて!     それがお前の望んだ未来か!?お前の言ってた守るってことなのかよ!     見苦しいったらない!結局全部自業自得で、     背負いきれないものを俺達に押し付けて壊そうとしてるだけじゃねぇか!」 ルドラ『黙れ……っ!』 中井出「お前は守れてなんかいねぇ!自分の生き様も、誇りも、名誉も!     挙句の果てに親友を犠牲にするまで守ってきた世界さえも守れなかったんだ!     憐れだよなまったく!言われるまでそんなことにも気づけなかったんだろ!」 ルドラ『黙れっ……黙れ黙れ黙れっ───黙ってくれ……!黙れぇええええっ!!』  ゴヴォォッガァアッ!! 中井出「───、えはっ……」 殴られた腹に風穴が空く。 精霊の武器に穿たれたままに、宙を飛んで、地面に落ちて…… ルドラ『お前にっ……お前になにが解る!ああするしかなかったんだ!     俺はっ……俺は強くなんかなかった!周りが望むほど万能じゃあなかった!     だがそれ以上に存在意義が欲しかったんだよ!     流されるままの自分が嫌だって思った!変わりたいって思えた!     変わろうと努力した!それが……それなのに……どうして───!!』 ……軋む体を持ち上げようとして……起き上がれないことに気づくと、ただ力なく倒れた。 仰向けに見える景色は真っ白なまま。 霞む目で見たルドラは泣いていて……まるで子供みたいだ、と……本気で思った。 中井出「だから…………、硬い、……言…………」 だから硬いって言うんだ、と口にしようとした。 でも、もう声も出ない。 腹の穴は大きすぎて、完全に肺までも潰していた。 それでも伝えたいことは伝えよう。 中井出「……、……」 けひゅー、けひゅーと息が抜ける。 肺に穴が空いてるんだから当然だ。 でも、伝えた。 多分あいつは心を読んだ。 本当にそうしたかは解らんがそういうことにしとこう。 つーか……死ぬのかな、これ。 ルドラ『………』 ルドラの顔にはもう、さっきまでの悲しみも怒りもなくなっていた。 ただ小さく一度だけ頷くと───俺を回復するわけでもなく、夢の世界から消え失せた。 …………あ……やばい…………死ぬ………… ───……。 ……。 ………………ちゃん! ヒ……───ん! 声  「ヒロちゃん!?ねぇ!ヒロちゃん!!」 声  『ぐしゅっ……ヒ、ヒロミツ……!ヒロミツぅう……!』 声  『いったいどうしてこんな……!父上!父上ぇっ!』 声  「お父さん!ねぇえ!起きてよ!ねぇっ!!」 …………声が聞こえる。 でもその声が傷口に響いて、痛くて、辛くて……。 …………目が開かない。 意識があるのが不思議なくらいだ。 痛い……このまま楽になって痛みを消し去りたい……。 う……うぅ……漢神の祝福!! ルミエ「《シャキィーン!》イエイ」 総員 『ほぎゃあああああーーーーーっ!!!?』 だが痛みなぞなんのその。 ゲームシステムを上手く利用した僕は、奇蹟の生還を果たしました。 麻衣香「え、えうっえぅう……ひぐっ……うぅう……!」 ナギー『ヒ、ヒロッ……ヒロミ……ふぅうぇええええん……!!』 シード『父上……父上ぇええっ!!《ガシドグシャア!!》ウギョウッ!?』 紀裡 「あわぁーーーっ!!?」 皆が涙を流す中、抱きついてきたシードが僕の体に染み付いた52の関節技の一つ、 キャプチュードの餌食となった。 ルミエ「ど、どうして泣いてるの?赤頭巾ちゃんの顔がみえなくなるため?     それとも奥歯にもやしでも詰まったの?」 麻衣香「ぐしゅっ……ヒ、ヒロちゃん……大丈夫、なの……?」 ルミエ「え?なにが?」 麻衣香「だ、だって……あんなに血が……!急に槍とか剣とかが突き出てきて……!     お腹に風穴が出来るし……!わたし……わたしどうしていいか解らなくて……!」 ルミエ「あれぇ!?」 あれって現実でも起きてた現象だったの!? ど、道理で痛い筈だぜ……って、 確かにレジャーシートの上に13個の武器が転がってレンタベイビー!  デッデーゲデーン!《全属性精霊武器を手に入れた!!》 ククク、バックパックに詰めちまえばこっちのもんよ……! これでやつらはこの武器に手出し出来ぬわ……! 愚かなりルドラ……! 大方俺が死ぬとでも思ったんだろうが、生憎このわしは……しぶてぇのよ。 まあね、あのままだったら普通はアウトだわ。 事実、麻衣香の気が動転してたわけだし─── 俺の変身能力がすっぴんじゃなかったら死んでた。 いや、ほんと世の中なにがきっかけで生き残れるかなんて解らないね。 と、安堵しているとナギーが俺の腰に抱きついて、すりすりと頬擦りしてきた。 ナギー『よかっ……ひぐっ……よかったのじゃ……よかったのじゃぁあああ……!     すまぬ……すまぬのじゃ……!     指先で突つかれたら腐るヒロミツの腹に、膝から落ちるなど……!』 ルミエ「やっ……違うよ!?その所為じゃ───やめてよ!腐らないよ!!     ダブルニープレスで風穴空く腐り方ってなに!?初耳だよそんなの!!     あれぇええ!?もっと感動っぽいシーンを期待してた僕の心の行方は何処!?」 でもとりあえず! ルミエ「トルネードフィッシャーマンズスープレックスゥッ!!」 掴んできているナギーを抱え、バァーと跳躍! 綺麗に回転を加え、ナギーをガキィッ!! ルミエ「ウウッ!?」 ナギー『胴のフックが甘いのじゃーーーっ!!スイング式DDTーーーーーーッ!!』 ルミエ「おわぁーーーーっ!!」  ガドォオンッ!! ルミエ「ふ、不老不死……トロフィー球根……」 女になった所為かいつも通りのフックじゃいつも通りにはいかず、 あっさりと首を取られたあたしは逆に大地に叩き落されてしまいました。 しかも頭からです。 ナギー『フフフ、わしの虚をつこうとてそうは《グキィッ!》きゃわぁーーーっ!!?』 だが逃がさん!倒れたあたしを前に、 優雅に離れようとしたナギーの足に三陰光圧痛(さんいんこうあっつう)!! 絶叫をあげて足を庇おうとしたナギーを持ち上げ、大地にパゴシャゴコシャと叩きつける! おお……戦いとはなんと無情なのでしょう。 女子供だからという理由などこの世界では通用しませんええしません。 紀裡 「お、お父さん!そんなことしたらナギちゃんが死んじゃうよ!」 ルミエ「ピンピンしてます」 ナギー『無論よの』 紀裡 「えぇえっ!?」 ナギーもステータス移動が上手くなったなぁ。 だが知れ、ナギーよ。 この博光の投げ技はただの投げ技じゃないんだ。 ルミエ「くすぐり地獄!!」 ナギー『《こちゃちゃちょちょちゃちゃ》ふぎゃあああはははやめるのじゃーーーっ!!』 ルミエ「脱穀スープレックス!」 ナギー『《ガシヴオビタァン!!》きゃぶっ!?』 くすぐりによって出来た隙をついて両足をキャッチ! そしてそのままスープレックスして顔面から大地に叩きつけた。 その間・僅か2秒!! ルミエ「さ、ピクニックを続けましょう」 麻衣香「大丈夫……?本当に大丈夫……?」 ルミエ「大丈夫さ!ほら、もう風穴なんてないし《脱ぎっ》」 麻衣香「わあっ!だから脱がなくていいってば!」 脱ごうとした服をババッと戻された。 おおよかった、解ってくれたようだ。 いやぁしかし……話し合いの筈がひどい目にあった夢だったなぁ……。 もうあんなのはごめんだ。 ごめんだけど……まったく収穫がなかったわけでもない。 ルドラは感情がクソガキャアってことが解ったし、想像以上に強かったことも解った。 そしてなにより武器も奪えたしグエフェフェフェ……! まあ黒の精霊たちのことだ、黒から新たに武具を生成出来るんだろうけど、 そんなことが出来ない俺にとってこれは褒美! 痛みと恐怖を乗り越えた褒美だ! でも……まいったなぁ。 痛みってのは怖いもんで、一度覚えちまうとそれ以上のものは……とか思ってしまう。 事実、ルドラとはもう会いたくないと恐怖してる自分が居る。 ……まあ、それでも行くんだけどね。 怖くなったら“どうせ死ぬんだから今のうちに楽しんでおこう”、 って気持ちになってヤケになる。 で、少し落ち着いたら“本気で死ぬつもりなんてねーけどな!”と開き直る。 それでいい。 しっかりなさい、俺。 ルミエ「よ〜〜〜〜しナギ〜〜、シ〜〜〜ド〜〜〜!     無差別組み手だ〜〜〜っ!かかってこい〜〜〜〜〜っ!」 ナギー『ぺぺっ……望むところなのじゃー!!』 シード『いたた───は、はいっ!いきます!』 口に入った砂を吐くナギーと、首を撫でながら起き上がるシードが襲い掛かってくる! 突然ではあるが説明しよう! 無差別組み手とは───まあその、なんでもありのプロレスごっこである! どおれ大暴れしてやるとガガシィッ!! ナギー&シード『雷三角絞めーーーーーっ!!』 ルミエ    「《グワァキィ!》───《ガクッ》」 麻衣香    「落ちたーーーーっ!ロビンがーーーーーっ!!」 開始四秒で沈められました。 うん、とりあえず遅れたけど感謝を。 ……失禁まで現実に反映されなくて本当によかった……! 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