───偽探偵たちの憂鬱/武具無しの雑魚───
【ケース644:穂岸遥一郎/三方に花】 ザムザムザムザムザム…… ノア 「………」 サクラ「………」 雪音 「………」 遥一郎「………」 …………なにやってるんだろう……俺…………。 ノア 「マスター、あのお店へ行きましょう」 サクラ「与一、あのお団子食べたいです」 雪音 「ホギッちゃん!ゲームセンター行コ!」 遥一郎「………」 とある昼過ぎ……俺は見知った女性三人に連れられて、ショッピングに来ていた。 ショッピングと言えば聞こえはいいだろうが、 実際のところはウィンドウの部類にも入らないショッピングだ。 なにせ買わず、見もしないのだからな。 こうして三人が同時に意見を出して決定権を俺に委ねる、 なんてのをさっきから何回もしていた。 通りすがりの男がチッとか舌打ちをするが、 うるさい、黙れ、関係ないだろお前には、と言ってやりたくなる衝動を必死におさえる。 つまり、相当に心労が溜まった状態である。 ともあれ、俺は毎度こう言うわけだ。 遥一郎「散歩を続行するから行くなら自分たちだけで行ってくれ……」 と。とびきり疲れた声で。 自分でも驚くくらいに声がしわがれていて、 ああ疲れてるんだなぁと自分で納得してしまう。 そうなるとノアもサクラも心配してくれるんだが、 雪音 「そんなの根性でなんとかなるよー!」 この触覚が騒ぎ出すと、もうダメなのだ。 触発されたノアとサクラまでもが俺を引っ張り始め、手に負えなくなる。 ……ん?蒼木?あいつならレイチェルの姐さんに連れられてアクセサリを見に行ったよ。 近くのデパートに可愛いのがあるって噂なんだとか。 俺もそこに連れていかれそうになったから外に居るわけだけど、断固として拒否。 アクセサリとか、そういうのは苦手なんだ。 そんなわけで、じゃあ散歩をしようってことで解決したかに思われた状況。 結果がこれじゃああまり変化は見れなかったかもしれない。 三人が三人とも妙な殺気を出して、互い互い互いに牽制し合っているのだ。 なにを求めて、なんていうのはどうでもいいだろ、うん。 遥一郎「ん───?」 と、自然に溜め息が出るような我が身の状況下を呪っていると、 前方の電信柱に不振人物を発見。 ……朧月嬢と…………メルティア───じゃなかった、聖だ。 なんなんだあれは。 電柱にすがりつく趣味でもあったのか? 遥一郎「…………なるほど」 つ、と。 二人の視線を追ってみると納得。 凍弥がどうしてか嫌な汗をかきながら、隣の人物……死神だな。 ゼノとなにかしら話していた。 どうしてあんな組み合わせなのかは知らないけど、 係わるとまた面倒なことになり兼ねな─── 雪音 「あっ。やーほー聖ちゃーーん!!」 聖  「え?あ───」  ───ずがだだだだっ!! よういちろう は にげだした!  ががしぃっ!! しかし のあ と さくら につかまった!! 遥一郎「……俺の馬鹿……」 ようこそ、面倒なこと……。 【ケース645:閏璃凍弥/ビコーズ・Act.1】 カチ、チッ…… 閏璃 「アルファツー、こちらブリザード」 声  『OKこちらホーク。通信機は良好だ。パーシモン、応答しろ』 声  『なぁ。俺のコードネーム、変えてくれない?』 声  『名前にちなんだものなんだからパーシモンだろ、お前の場合』 声  『この場合、わたしだとどうなるのよ』 閏璃 「市長・マイク(マッチョ)ハガーじゃないか?」 声  『どうしてそうなるのよ!!』 とある昼過ぎ…… 特にやることもなかった俺達は、スパイごっこをしていた。 スパイというよりは、しみったれた探偵ごっこ。 浮気調査とかするみたいな、そんな探偵の真似事だ。 ナビネックレスの通信機能をフル活用し、遊んでるのだ。 そんなのでなにを追っているのかといえば─── 由未絵「〜♪」 ……由未絵である。 結局デートの誘いを蹴落とした俺は、 一人で出かけた由未絵をみんなの協力を仰いで尾行し始めたのだ。 意味?意味はない。 ただ暇だったのだ。 だったらデートくらいいいじゃないかという話は、それはまた別問題。 一緒に居るのはいいが、それがデートになるなら話は別なのだ。 声  『こちらホーク。ブリザード、聞こえるか』 閏璃 「こちらブリザード。どうした?」 声  『お前さ、意地が悪いよな』 閏璃 「ごっこ遊びで始めといてそう来るとは思わなかったぞ」 声  『お前には負けるって。デートくらいしてやればいいのに』 閏璃 「しっ!動きがあった!」 声  『なにっ!?…………歩いてるだけだぞ?』 閏璃 「動いてるだろ?」 声  『あのなぁ……あ、ちょっと待った。パーシモン、そっちの状況は?』 声  『こちらパーシモン。前方に怪しい集団を発見。     電柱にへばりついてなにかをしている』 閏璃 「ああ、俺からも見える。腰屈めて電柱にへばりついて、     やたらと息荒くしてハァハァ言ってる髪の短いボサボサ頭の」 声  『それ俺じゃねぇかよ!!     仕方ないだろ走ってたんだから!───俺よりも前だ前!』 前?前って……お?あれは……なんていったっけ。 確か未来からやってきた……朧月。そう、朧月だ。 それと弦月のところの長女。 なにやってるんだ?あんなところで。 もしや俺達に負けず探偵ごっこの真っ最中か? 声  『やばい!接触する!…………なにがやばいんだっけ』 閏璃 「知らん」 声  『じゃあ別にいいか』 問題は解決した。 というよりは、由未絵が朧月に気づかずに道を右折。 朧月たちが見ている方向へと歩いていった。 由未絵よ……あれで気づかないのはどうかと思うぞ……? 声  『こちらホーク。電柱から電柱に移りたいところだが、朧月たちが邪魔で動けん』 声  『こちらパーシモン。フォルネリアが狙撃するかと訊いてきてるがどうする』 閏璃 「………………よし、やっちまえ」  ピシュンッ───どぉっがぁーーーーーーんっ!!! 椛  「きあーーーーーっ!!?」 聖  「うひゃぁあああんっ!?」 吹っ飛んだ。 ビームめいたものが閃いたと思った瞬間、どっかーんと炸裂する光。 電柱から投げ出された二人はドグシャアと、夏の熱いアスファルトへと投げ出され─── た途端、ビジュンッという独特の音とともに消え失せた。 ……残されたのは、突然の音にびっくりして後ろを振り返っている由未絵だけだ。 声  『こちらパーシモン。ミッションは成功だ』 声  『これって成功っていえるのかしら……』 声  『いいっていいって。っと、こちらホーク。それより支左見谷は?』 声  『こちらパーシモン。なにやら慌ててるぞ。     ……あ。杖取り出して───ってマズイ!』 声  『あの子ったら!こんな街中で魔法使うつもり!?』 閏璃 「今こそ隠し玉を使う時!ゆけ!コードネーム・トイレット!!」 声  『その呼び方はやめてほしいよ本気で!!』 キィンッ!パヂィッ!! 由未絵「ふきゅっ!?」 離れた位置で待機していた御手洗が、魔法で由未絵を麻痺させる! その隙に俺がAGIマックスで回収し、コトは終焉へ至った。 探偵ごっこは終わったのだ。 来流美「まったく!あんたって子は〜!!     電柱直そうとする精神は立派だけど、周りのことも考えなさいっ!」 由未絵「ひゃうううううう!!やめてやめてツンツンしないでぇええ〜〜〜〜っ!!」 で、当の由未絵は痺れた体を来流美に突つかれまくって涙目になっていた。 ……魔法でのシビれってそんなもんなのか?足が痺れたわけでもあるまいし。  ビジュンッ! 思考を遮るように飛んできたふたつの影を見て溜め息をひとつ。 二人に近寄り、声をかけることにした。 閏璃 「で、お前たちなにやってたんだ?」 遥一郎「巻き込まれた」 閏璃 「そういう顔してるよ、お前。じゃなくて、朧月のほう」 別の電柱の影に隠れていた穂岸と合流。 女三人に囲まれて、心底ぐったりしている。 椛  「実は……凍弥さんが浮気を!」 閏璃 「なにぃ、それは大変だ。浮気は下種のやることだ、許せん」 鷹志 「浮気って確信はあるのか?」 椛  「水穂さんに、ってアクセサリを買ったんです!他に理由が必要ですか!?」 来流美「日頃の感謝を込めて───とかってのはないわね。     この時代のコじゃないんだもの、感謝もなにもないわよね」 椛  「そうなんです!だから───」 遥一郎「待て待て、お前の悪い癖だぞ朧月嬢。     どうして思い込むと一直線なんだお前は。もうちょっと凍弥を信用してやれ」 椛  「うううう……」 恋は盲目とは言うものの、独占欲が強すぎだなこの嬢。 思われる分には嬉しいのかもしれないが、それも行き過ぎると怖いだけだ。 遥一郎「大体。あいつに浮気する度胸なんてあるもんか」 雪音 「わあ、ホギッちゃんてば容赦ない」 来流美「同じ名前のヤツがコレだものね」 閏璃 「まったくだ。幼馴染として悲しく思うぞ」 来流美「なんでわたしの顔見て言うのよ……」 閏璃 「それはお前が霧波川だからだ」 来流美「へ?あ───ち、違うわよ!名前!名前って言ったでしょ!?」 閏璃 「おいおい言い訳だよこの霧波川野郎……男子たるもの見苦しさを見せずだな」 来流美「誰が男子よ!」 鷹志 「…………あ、そっか。凍弥がもし霧波川ンところに婿養子に言ったとしたら、     同姓同名が完成するのか」 由未絵「ふやうっ!?」 来流美「なぁっ!?冗談じゃないわよこんなゲーム脳男!!」 閏璃 「俺、同姓愛には興味が《バゴォ!》シコード!!」 鷹志 「うわ痛っ!」 渾身のストレートナックルが俺の頬を凹ませる!! だが倒れてしまってはビコーズ・Act.2が出来なくなるので耐える。 閏璃 「この痛みはアンナの痛みということで天下は泰平で事は無い。     それと鷹志よ、不吉なことを言わないでくれ。     こいつの婿になるなんて冗談じゃないぞ。一日に何回病院送りにされることか」 鷹志 「それ、お前が余計なこと言わなけりゃ絶対に起こることじゃないから安心しろ」 閏璃 「そうか。じゃあ俺が霧波川親父の養子になればそれでいいわけか。     よし来流美、よろしくな。今日から貴様は俺の義妹だこの義妹めが」 来流美「どういう罵り方よそれ……!大体生まれた日付はわたしの方が先でしょうが!」 閏璃 「なにぃ。……そういえばそうだった。じゃあ義姉だお前は。     おい義姉、義姉らしく淑女たれこの暴力義姉」 来流美「そういうあんたは義弟らしく大人しくしなさいよね……!」 閏璃 「おう。大人しくネチネチといびってやろう。嫁姑戦争のように」 来流美「……ごめん橘くん。わたしこんなのが弟になるなんて冗談じゃないわ。     もらってくれる?」 閏璃 「義兄さん!」 鷹志 「義弟よ!!」 がばしーーーっ!! 有無も言わさず熱き抱擁!! そして始まるリアルファイト!つーかSUMOU!! 柿崎   「はっけよーい!のこった!」 閏璃&鷹志『DOSUKOI!!』 といってもただのサバオリ対決で、俺達の体が双方の力を以ってメキメキと曲がってゆく! SUMOU……それはRIKISHIが命をかけて取り組む最強の国技である! 鷹志 「いぞり投げDOSUKOOOOI!!」 閏璃 「超大外刈り!!」 鷹志 「《ズパァン!!》どぉおわっ!?っととと!?それSUMOUじゃないだろ!」 閏璃 「&自ら転倒!」 鷹志 「うわばかやめ《ガゴンゴ!》いがぁだ!!」 足払いをされて大きくよろめいた鷹志! だが俺を掴んだままバランスを取ろうとしたから、むしろ俺も倒れてみた。 ……僕らはアスファルトの雄大さを知った気がした。 遥一郎「じゃ、俺はこのへんで《がしぃっ!》」 椛  「待ってください」 遥一郎「………………はぁああ…………」 俺が鷹志にマウント取られてボコボコに殴られる中、穂岸の溜め息だけが耳に届いていた。 ……。 さて、そんなわけでビコーズ・Act2。 穂岸を頭脳とした俺達にはもはや怖いものはなく、 着々と尾行を続けては仲間を増やしていっていた。 俊也 「なぁ……この一件に俺たちがどう関係してるって───」 閏璃 「相手は晦側の人間なんだから、知り合いとして気になるだろ?気になれ」 柿崎 「脅迫めいたことしてないで先いこう」 ……。 レイル「面白そうなことやってるな。なんだ?」 閏璃 「尾行です。実は俺の前世は時空探偵だったんだ。その真実を探る旅をしてるんだ」 レイル「そうなのか。あ、ピザ食うか?さっきそこで買ってきたんだが」 雪音 「わ、食べる食べます食べるよ〜」 遥一郎「……どうしてそうピザにこだわるんだろうな……」 ……。 どげしっ! 閏璃 「OOOUCH!!」 葉香 「看板にへばりついてなにをしてるんだお前は」 閏璃 「げっ……!ね、姉さん……!」 だが快進撃もそこまで。 出来れば会いたくなかった人物とのエンカウントを果たしてしまった───! レイル「時空探偵だった前世の真実を知るために旅してるらしいぞ?……ピザ食うか?」 葉香 「いただこう。そしてアホゥかお前は。     いい歳をしていつまでそんな馬鹿なこと言ってる」 閏璃 「おい、事故だってよ」 鷹志 「女の子らしいぜ」 柿崎 「行こうぜ」 相手の恐怖を知る俺と鷹志と柿崎は即座に逃走を図る!───も、あっさり捕まった。 閏璃 「い、いやっ!俺達には大事な使命があるんだ!離してくれ!」 葉香 「大事な使命だって?お前の口からよくもまあそんな言葉が。     いいぞ、言ってみろ。くだらなかったらどうなるか解ってるな?」 閏璃 「それってどれだけいいこと言っても、     姉さんがくだらないって言えば終わるってことじゃないか」 葉香 「学んできたじゃないか」 閏璃 「お、鬼!悪魔ぁあーーーっ!!!」 葉香 「人間だ」 その日私は義姉であり月の家系の血筋である時空暴力女にボコボコにされた。 ようするに正直に話そうがウソをつこうがどうでもいいんだよな、この人の場合……。 【ケース646:弦月彰利/リクリエイション】 カンカンカンッ、カキ、ゴキンッ! ……ガチャアッ! 彰利 「お〜お〜お〜お〜お〜おお〜♪史上空前最強……罵倒!」 悠介の工房でレバーをいじくって現代に帰還。 パオシャンロンは結局見つけられ終いだったけど、 また現れたらヨウカンが呼びにくる手筈だ。 あの一瞬でどこぞに消えたのかね、ほんと。 彰利 「ではデートの続きさ!夜華さん!急ごう!」 悠介 「その前に靴を脱げ」 彰利 「アレ?おお」 べつに土足でもいい仕様の屋敷じゃけんど、 自分の部屋に土足に入られるのは確かに嫌だぁね。 特に悠介の部屋は趣味丸出しの日本部屋だし。 彰利 「クサいドラマっぽく言ってみて?」 悠介 「お前は……お前はっ!俺の大切な部屋を土足で踏みにじったんだ!!」 彰利 「サンクユー!!」 悠介 「お安い御用だ親友!」 ぱしーんと手を叩き合わせて歩き出す。 よし、脳内は賑やかだ。 ノート『マスター、少しいいか』 悠介 「っと、ノート。どうした?ヒロラインにバグでも現れたか?」 ノート『いや。空界のことで気に掛かることがな。     ハローナル渓谷付近で強大な力を感じた。     それとともに中井出博光の反応が急激に微弱になり───』 悠介 「───!?提督が!?」 彰利 「オイオイ!それってもしかして───!」 ノート『……話は最後まで聞け。現れたのは確実にルドラだろう。     恐らく中井出博光をこちら側から引きずり出し、     味方につくよう話を持ちかけたのだ。     そして───中井出博光はそれを断った。     反応が微弱になる理由など、拒絶以外にありえんだろうからな』 悠介 「くっそ!彰利!」 彰利 「言われるまでもねぇ!」 出てきたばかりのドアを蹴破る勢いで開き、空界へ飛び出る。 スッピーの制止もルナっちや夜華さんの声も無視して、サーフティールに出るや転移して、 一気にハローナル渓谷までを飛んだ。 転移した場所は渓谷の入り口だ…… こっからじゃ何処に中井出が居るのかなんて解りゃしない。 だからすぐに月空力を微弱に発動させて宙を浮くと、空から一帯を眺めて───居た!! 彰利 「悠介!橋渡った先の頂上だ!」 悠介 「解った!」 地上で、飛ぶ俺を見上げていた悠介に中井出の位置を教えて、俺も即座に移動を開始した。 悠介は橋を渡るのももどかしいのか、 突風を創造するとそれに乗って一気に反対側の崖までを飛んだ。 それよりも速く崖の先についた俺は、頂上の草原に降り立つと迷わず疾駆。 中心で、血の海の中で倒れる人間に近づき───…………誰? 麻衣香「あれ?弦月くん?」 彰利 「ああ麻衣香ネーサン!中井出がルドラにやられたって聞いたんだけどマジ!?」 麻衣香「う、うん……それは本当。体中串刺しにされて、お腹に風穴空けられて……」 彰利 「うっ……!」 なんだそりゃあ……!そんなの、人間がやられたんじゃ生きていられない……! 彰利 「中井出は!?今なら治療が間に合うやもしれんでしょ!」 麻衣香「……ヒロちゃん?そこで鼻血出して気絶してるのがそうだけど」 彰利 「…………エ?」 チラリ、と見下ろす。 うつぶせ状態で倒れていて誰だが解らんけど、 長い髪に細い身体……どう見たって女のものだ。 彰利 「麻衣香ネーサン!冗談言ってる場合じゃねーだろ!」 麻衣香「わわっ……ほ、ほんとだって!     それに傷ならヒロちゃんが自力でズバーって治しちゃったし!」 彰利 「ウソおっしゃい!」 麻衣香「ウソじゃないってば!ほらぁっ!」 言って、麻衣香ネーサンがおなごをぐいっと起こしてみせる。 顔の下にはいかにも硬そうな岩があって、 恐らくそこに顔面をぶつけて鼻血を出していたのだろうと簡単に予測がつきました。 ……でも、ほらぁもなにも、どう見たって中井出じゃない。 ただのめんこいねーちゃんだ。 彰利 「……ん、もういいから……眼科行こう?それとも精神科かな……」 麻衣香「哀れみを込めた目で見ないでよちょっと!」 きっと動転して目の前のことがちゃんと見れてねぇんだよきっと……。 ここはやさしく接してやらねぇとね…………と思ってた時に悠介が到着。 よほど無駄な動きをしたのか、息を切らせながらの登場だった。 悠介 「提督!!───あ、れっ……?彰利!提督は!?」 彰利 「それが……どうやら居ねぇみてぇなのよ。     その所為か致命傷を負ったのは間違いねぇらしい。     身体串刺しにされまくった上に、腹に風穴空けられたって───」 悠介 「なっ……そんなの死んじまうじゃねぇか!!」 悠介が声を荒くして叫ぶ。 ……それもそうか。 この夏、中井出にはほんといろいろ教えてもらった。 人間としてのあり方だの覚悟だの、それこそいろいろだ。 そんなヤツが致命傷を負ったっていうなら、慌てもするし驚愕もする。 なのにここには中井出が───…… 彰利 「これ!そこな三千院!」 ナギー『ナギーと呼ぶのじゃ!』 彰利 「そげなことはどうでもよかギン!中井出は!?何処かね!」 ナギー『ヒロミツならばそこで鼻血を出して倒れておるであろ!』 彰利 「あ〜〜〜ん?馬鹿こくでね!こりゃどこぞねーちゃんだろが!     これの何処が中井出かね!えーーーっ!?」 ナギー『どう見えようともコレはヒロミツなのじゃーーーっ!!     事情も知らんくせに胸を張るでないわ小者めが!』 彰利 「小者とな!?」 ナギー『じゃからこれからわしが事情を話すのじゃ。     知れば納得も出来ようぞ?小者と罵っておきながら教えないのは下衆じゃからの』 彰利 「………」 さすがこの夏、誰よりも中井出の傍に居た存在。 もう取り返しがつかねーくらいに染まってるよこの精霊。 だがここで話を聞いておかねば話は進まんと感じた俺は、 悠介とともにナギっ子ナギーのありがたい話を聞くことにした。 ……。 で、二分後。 彰利 「ウソだぁあああああっ!!うおおおウソだぁああああああっ!!!」 悠介 「提督!?この女が提督!?ウソだぁああああああっ!!!」 二人揃って混乱してました。 ええ、もう叫び放題です。 今ではすっかり気絶から復活したボクラの提督さん……ルミエールと名乗ったそやつは、 ドス黒い笑みでにやぁああああと笑っておるよ。 可愛い顔が台無しな上に、ああ中井出だ……って即座に納得できるんだからすげぇ。 ちなみに鼻血を流してたのは、雷三角絞めをやられてオチた拍子に、 突き出て岩に顔面から落ちたからなんだとか。 彰利 「キサマ!なしてそげな格好になっとっとや!?」 ルミエ「僕……チェンジリングなんだ」 悠介 「チェンジリング!?って、あの……」 彰利 「妖精さんに攫われて妖精眼を植えつけられたん?」 ルミエ「違うよ!先祖がえりの方だよ!」 悠介 「それこそウソだろうが!」 彰利 「あれ?先祖帰りのこと、チェンジリングって言うん?」 ルミエ「家系図の中に例えば悪魔と神が居たとして、     その血が家系に流れてると、たとえ人間と人間同士から生まれた子だとしても、     極稀に神の子や悪魔の子が生まれることがあるの。それがチェンジリング。     ほら、幽遊白書であったでしょ、主人公クンが実はアレだったって」 幽遊白書……おお懐かしい。 そういや、なんたら大なんたらとかいう名前で先祖がえりだとかやってたっけ。 ……名前思い出せないや。 彰利 「あ〜〜あアレね!……なに?中井出って魔族だったん?」 ルミエ「え?違うよ?僕ただの人間だもん《バゴォ!》ロルチェ!」 彰利 「まぎらわしいこと言ってんじゃねぇこのタコ!」 きょとんとしたフェイスを条件反射でナックル! ロルチェってなんだろう。 ルミエ「軽いウソをみんなが重くしただけじゃないか!」 悠介 「待て待てっ!確かにそうだし、いきなりナックルはまずいだろ!」 ルミエ「否!それがこのルミエールを女だと思っての心配ならばノーサンキュー!     男女差別なぞ知らん!殴る時は殴る!それが我らの原ソウル!」 悠介 「い、いや、そうじゃなくてだな……。     軽いノリで殴られたんなら怒るところだろここ……」 ルミエ「大丈夫!なにかあったら殴り返すから!それでいいじゃないか晦一等兵!     というわけで服が汚れてしまった!どうしてくれる!」 彰利 「それてめぇの鼻血でしょうが!アタイ関係ねィェーーーーッ!!」 真っ赤な服をグイと引っ張り、肌から離すようにしてイチャモンつけてくる。 おお、ほんと中井出だ。 あの中井出がねぇ……おなごになるとこんなにめんこくなるとは。 ルミエ「あ、麻衣香。輪ゴム返して?」 麻衣香「……ほんと、ポニーテール好きだよね」 ルミエ「世界中の女なんか……!みんなポニーテールになってしまえばいいんだ……!」 麻衣香「どうしてそこで怨念込めたみたいな言い方になるの?」 その方が面白いからでしょう。 女からは恨まれるだろうけど。 しかしながら、口に輪ゴムをくわえながら鮮やかな手つきで長い髪を纏め、 シュルシュルとポニーテールを完成させる中井出は見事の一言につきました。 ルミエ「よし、完成っ」 最後に頭を振って、肩にかかったポニーの髪を後ろに流して終了。 そうしてニコリと笑うこの女を、初対面のヤツの内の誰が中井出だと気づけましょうか。 そんな中井───ルミエールがアタイたちを見て言う。 ルミエ「で……キミたち何故ここに?」 至極尤もな質問ザンス。 何故?何故って─── 悠介 「やっ……提督がルドラに襲われたってノートに聞いてだな……」 ルミエ「おおなるほど。襲われた襲われた。実際襲ってきたのは13の精霊だけどね。     いや〜全身ザックザクだったね。漢神の祝福が無けりゃ死んでた」 彰利 「よく生きとったねキミ!どげな生存確率じゃい!」 ルミエ「いや、襲われたことはもういいじゃないか。     こうして生きていた。それだけでOK」 悠介 「…………仕返しをしたい、とか思わないのか?」 ルミエ「うん。代わりに突き刺しっぱなしだった精霊武具全部もらったから」 総員 『うわっ!めっちゃいい顔ッ!!』 悠介 「せ、精霊武具って……!最果ての精霊たちのか!?     それって普通に考えて尋常じゃない力を持ってるんじゃ───」 ルミエ「うむ!きっと尋常じゃないほどの属性を含んでるに違いねーーーっ!!     だから僕、これヒロラインに持ってって武器に合成するの」 言いながら、武器を一つだけ取り出す中井出。 そのカタチは見間違う筈もありんせん、ノームの武器、走震流戟だ。 それをヒュンッと振り回し、頭上で構えると一気に地面に突き刺す! ルミエ「“走震流戟”(グランドダッシャー)!」  ズォオガガガォオオオンッ!!!! 総員 『ホキャーーーーーーッ!!?』 すると発動するグランドダッシャー! おおすげぇ!魔力無しで普通に地面に影響出しやがった! しかも咄嗟に空に飛ばねば危なかったくらいの威力の……! 麻衣香「あ、ありがと……弦月くん……」 彰利 「んにゃんにゃ、お安い御用でゴワスがね……」 ナギー『こりゃー!ヒロミツー!なにかするならすると言ってからするのじゃー!』 ルミエ「ほ、ほんとに発動するとは思わなかったんだもん!!」 や……まいったね、どうも。 最果ての精霊ども、武器の時点からして次元が違うわ。 せやからとりあえずは麻衣香ネーサンと紀裡っちを下ろして、と。 彰利 「闇の武器くれ!」 ルミエ「フン断る」 彰利 「ゲェ即答!」 交渉は目の覚めるような速度で決裂した。 どういう速度だろ。 悠介 「けど妙だな……。そんな強力な武器を、置いていくなんて……」 ルミエ「最後に耳に届いたんだけどさ……死出の餞別だ〜とか。     多分彼らにとっちゃ、あたしはあの時死ぬ筈だったんでしょ。     その武器たちがお前を安楽へと向かわせてくれる、とかも言ってたし」 彰利 「あ〜らら……じゃあやつらにとっちゃ、     その武器はもう中井出を葬るために手放したものだったってことね?」 ルミエ「うむ。だが力のほどはさっき見せた通りなもんだから、もう最高。     死ぬ思いはしたけどなんとか生きてるし、お腹いっぱいです」 ぬ、ぬう……一歩間違えれば死んでたかもしれんというのに……。 中井出……怖い子ッ……! ルミエ「ということでどういうことだコノヤロー!」 彰利 「キャーーーッ!!?」 中井出が掴みかかってきた! コマンドどうする大外刈り!! ルミエ「《ズパァーーン!!》グワァーーーーッ!!《ガゴドコンッ!!》………」 なにかアクションを起こす前に中井出を地面に転がし、その上から顔面に下段突き! ……するとカタカタと痙攣して、大きな動きをしなくなりました。 心なし、耳から血が出てるよーな。 彰利 「ほいで……なんのこと?」 ルミエ「ア、アノ……オフ日なのに……トラブルばっかなのは……     どうにかならないんですか……って……」 や……そう言われてもね。 コポコポと口から血を出してるおなごを見下ろしながら、OH……と頷きはするものの。 その大半が中井出自身が原因なだけに、なんと返事をしたもんか。 まあパオシャンロンは違ったみたいじゃけどね。 悠介 「まあ……事も無しだったらそれに越したことはないよな。     よかった、なにもなくて」 ルミエ「いえあの……殺されそうになったし、     今まさに……死にそうなくらいの痛手を……負ってるんですが……」 下段突きが綺麗に決まりすぎました。 他の野郎どもだったらあそこで避けるくらいはするんだけど、中井出だもんなぁ……。 彰利 「ほいで?アタイらこれからデートの続きするわけじゃけんども。     てめぇはどうするん?」 ルミエ「《モシュウウ……》空界旅行ツアーを決行します!     普段行かないようなところに行くの。エルフの里とかドワーフの里とか」 彰利 「……大丈夫なん?和解したとはいえ、     エルフは人間にゃあいろいろとドギツイよ?」 ルミエ「ダメなら別の場所を目指すって。巨人の里に行くのもいいかも」 彰利 「ゼプシオンあたりに喧嘩でも売ってくるん?」 ルミエ「とっ……とんでもねぇ!今回のことで考えたけど、あたし普通に暮らしたい!     ヒロラインパワーは好き勝手に振るいまくるものじゃあありんせん!     ヒロライン以外では極力パワーは使わないように過ごします。     力の置き所はVITだね。あとINTに少しだけ。頭が良くて頑丈なんだ。     その代わり攻撃性がてんで無し。素晴らしい」 悠介 「それでいいのか?」 ルミエ「OKです。楽しみたいから力をつけたんであって、     偉そうにするためにつけたわけじゃないし。     誓って言うけど、振るう時は振るいます。     封印するとかそんな大げさなことはしません」 自分が使いたくなったら使うってわけね、つまり。 でも極力普通の自分のままで世を生きると。 ナルホロ、そりゃ確かにそうしたほうがいいのかもしれんね。 ルミエ「あたし、今日のことでいろいろ学んだっつーか学びました。     ストレートです。まっすぐゴーです。まなびストレートです。     人間に対してそれ以上の力で圧倒的に叩きのめすの……つまらない!!     どうしても“僕強いのよホホホ”オーラが滲み出てしまうのだ!     だからたとえ非力でも人らしく、奇妙に防御力だけ強い僕のままで立ち回りたい!     そう思ったのでVIT人間。あたしの皮膚は弾丸すら跳ね返すぜぇええええ!!」 彰利 「それ既に人間じゃねぇよ!」 ルミエ「でも痛いのヤだし……」 悠介 「物凄く正直な理由だな」 ルミエ「それに銃とかで撃たれたら一発で死んでしまう!     物騒な話ってホラ、多いじゃない?だから僕、VIT人間」 ……今の中井出のステータス考えると、 防御力だけ伝説のスーパーサイヤ人チックになりそうね。 本人がそれでええっつーんならアタイらから言うことはないけど。 彰利 「おしゃ、ほいじゃあアタイら地界に戻るわ。     きさんら、あまり無茶せんようにね?     たとえば竜王の縄張りに入って悪事働くとか───」 ルミエ「───《ギクリ》」 彰利 「おいちょっと待ててめぇ提督この野郎」 ルミエ「ま、待ちたまえ!僕はただ観光ツアーに行こうとしただけで───!     いやマジで!こればっかりは本当!縄張りへの侵入って禁止されてるだろ!?      だからギクリとなっただけだって!べつに竜王たちになにかしようなんて!     そそそそんな怖いこと出来るわけないじゃないかぁああああっ!!」 目の前のおなごが精一杯怯えてました。 いや〜……ほんとこんなんで強いのがウソみたい。 麻衣香「あ、でもヒロちゃんは万物と話せるんでしょ?     会話とかしてみるのもいいかもしれないよ?」 彰利 「待つんだ麻衣香ネーサン!相手はこの中井出じゃぜ!?     きっとからかいまくって罠に嵌めて最後には空界大戦争を」 ルミエ「巻き起こさないよ!!     待ってよ!なんでそんなことになるの!?僕ただ旅がしたいだけだよ!?」 悠介 「旅っていってもな。紀裡が居るとなるといろいろと問題がな……」 彰利 「どっからモンスターが襲い掛かってくるか解らんじゃろ?」 ルミエ「ぬ、ぬう……」 悠介 「だからまず、街に行ってランクプレートでも作ってもらうといい。     ミルグナントにもらうのが一番だろうな」 ルミエ「誰それ」 彰利 「ミルグナント?知らねー」 聞き覚えがあるようなないような……。 あれ?どうしてムスカ大佐を思い出すんだろ。 悠介 「ミルグナント=ロハイムだ。俺がランクプレートを持った相手で、     今は───しまった、もうプレート屋やめたんだった」 ミルグナント=ロハイム……ミルグナント……ロハイム……ああ! 居た居たそげなやつ! 確かサンドウォームの腹ン中で会った、浮遊店舗を持つプレート屋だ! そういやアタイ、 あいつのことロムスカとかマリグナント・バリエーションとか呼んでたわ! 彰利 「おお、あのロムスカね?故郷で家業を手伝うとか言っとったっしょ。     他にプレート屋って言やぁ……アントエンハンス?」 悠介 「だな。出来るだけ克己心のあるヤツのプレートを貰ってやってくれ。     所持者のプレートの成長度合いで、製作者も評価されるんだ」 彰利 「オウヨ。だからマリグナント・バリエーションが故郷に帰っちまったわけだし」 悠介 「ミルグナント=ロハイムな?」 ええ解ってます。 ルミエ「つまり……あれか?ランクプレートを貰って強敵を倒してランクを上げればモンス     ターが寄ってこない作戦?」 彰利 「アイドゥ」 悠介 「平たく言うとそうなる」 ルミエ「あの……それってかなりの強敵を倒さないと安心できんのでは……?」 悠介 「大丈夫だろ。今の提督ならこの世界で怖いもの無しだと思うぞ?」 ルミエ「そ、そうやって僕を騙す気だな!?騙されないぞ!     貴様があんなに苦労して倒してた敵を、僕なんかが倒せるわけないじゃないか!」 彰利 「…………だそうですけど」 悠介 「いや……あのな提督。それ本気で言ってるか?」 ルミエ「え?うん。…………や、あの……なんですかその“マジかよこいつ”って顔」 悠介 「あ、あのなぁ提督……お前は今、ゼットにも勝てる実力持ってるんだぞ……?     それがバルバトスの力だろうが、潜在的にはそこまでの力を持ってて、     ただ提督がそれを引き出せてないだけのことなんだ。この意味、解るか?」 ルミエ「引き出せない僕は弱いというわけですね?」 彰利 「……ああ……弱かったらしいのう……」 ルミエ「だよねぇ……」 武具を持たない中井出はめっちゃ弱いらしい。 もう、リアナやリオナにボコられボロ雑巾になるほど。 そりゃね、自信なんざつかねーワ。 彰利 「……おーしゃー!中井出、いっちょバトんべー!」 ルミエ「どっからでもかかってきなさい」 総員 『速ッ!!』 言うや、武具をランドグリーズに変換して地面に突き刺した中井出が構える。 するとどうでしょう、威圧感だのなんだのは全てランドグリーズに移り、 目の前の中井出からは特になにも感じない始末。 ……OH、ただの人間と向き合ってるのと変わらんよ。 ルミエ「おぉりゃ〜〜〜〜っ!!」 中井出がかかってくる。 走り、拳を振るって。 しかしそれを軽く躱すとあっさりとバランスを崩し、隙だらけになる中井出。 そこに拳を落としたら───それで、終わった。 総員 『弱ぇえ……弱ぇえ……』 感動的なまでの弱さだった。 仕方なしに、倒れてる中井出にベホイミをかけて復活させ、 今度は武器を持った状態で立ち会う。 彰利 「さあ、どこからでもかかって《ギャヴォシャア!》」 一瞬で気絶させられました。 ……。 彰利 「てめぇねぇ!ほんといったいどういう身体しとんの!?     武器持った途端に鬼強ぇえじゃねぇの!!」 ルミエ「実は僕は名のある剣豪の生まれ変わりで武器を持つと強くなるんだ」 彰利 「平然とウソついてんじゃねィェーーーーーッ!!!」 それからきっかり10秒後、悠介に喝を入れられて目覚めたアタイは、 なによりもまず先に中井出にツッコミを入れてました。 彰利 「悠介!分析GO!こいつ絶対ヘンYO!     武器持ってる時と持ってない時のステータスが滅茶苦茶気になる!」 悠介 「よしきた。提督〜動くなよ〜」 ルミエ「女の身体を分析するだなんて堕ちたものだなクズが」 悠介 「《ぐさぁっ!!》………」 彰利 「アアッ!悠介が一撃で落ち込んだ!気にすることねーべよ悠介!     こやつは中井出!男女差別を嫌うあの中井出なのYO!?     つまり!今言ったことは全て───」 ルミエ「うむ。冗談である。つーわけで調べてみてくれ。     僕もこの弱さにはちょっと疑問があるから」 悠介 「わ……解った……」 気を取り直して分析開始。 悠介はヌンと立つ中井出をじっと見つめ─── ルミエ「そう……そうだ……あたしを見て!見るのよ!見るがいいあたしの全て!     ふはははははエロスが!このエロスが!     女の秘密をその目で分析するエロスめがぁあああっ!!」 悠介 「……うっ……ううっ……うぅう……」 彰利 「悠介が泣いたァアアアーーーーーーーッ!!     や、やめれ!もういい!貴様はもう十分に頑張ったよダーリン!」 悠介 「いいやっ!やるねっ!体裁なんてクソ食らえだぁあーーーーーっ!!」 だぁーーー……だぁーー……だー……イ゙ェアアアア……! ───……。 ……。 しくしくしくしくしく………… ハローナル渓谷に鬱陶しい泣き声が木霊する。 誰のでもない、珍しくも悠介のものだ。 悠介 「汚れたっ…………!なにか……なにか大切なものを失った…………!」 ルミエ「……お前はよくやったよ。でも、間違った努力だった……」 ほんとね……。 情熱と根性の使いどころが激しく間違ってた。 でもとりあえず中井出には言われたくないと思うね、うん。 彰利 「そィで?なんぞか解った?」 悠介 「あ、ああ……武具たちが提督の意思を尊重してるっていえばいいのか……。     ちょっと違うな……やっぱり老人と杖だ。     腰の弱い老人が杖を持たない理屈にかなり近いんだ」 彰利 「このジジイめが!!」 ルミエ「いきなりなんなのその罵倒!!」 なんなの、って……意味?意味はねーデゲス。 悠介 「提督にとっての武器っていうのはバランサーなんだよ。     だから武器がないとバランス悪いし、攻撃しても隙だらけすぎる。     それに……内側で繋がってるからかどうかは知らないが、     持ってるのと持ってないのとじゃあステータスの安定にバラつきがある」 彰利 「……ホイ?つまりなんじゃい、     こやつマジで武器持たんとステータス移動もまともに出来んの?」 悠介 「そういうことに……なるのか?」 ルミエ「…………!」 あ、ショック受けてる。 漂流教室の飢えた子供みたいに口をあけたまま固まってる。 でも顔が無駄に可愛い所為で腹の立つ顔になってます。 殴っていいですか? 麻衣香「じゃあ武器を封印されたヒロちゃんは───」 悠介 「雑魚だな」 彰利 「雑魚だね」 麻衣香「わあ即答……」 ルミエ「な、なんだよう!大丈夫だよ!?だってまだ霊章輪があるもん!火闇があるもん!     この武器たちだって霊章輪と融合させたんだから、     多少の恩恵は……た、多分ある!あるよ!?あるったらあるもん!!」 彰利 「OH、そういやそげなことやっとったね。     指輪と融合させてもやっぱ取り出し口は両手の霊章からなん?」 ルミエ「YES。何故って霊章自体が霊章輪からの影響で出てるものだし。     火闇はただそこから出てるだけで、霊章との関係はそうないと思うよ?     だからそのー……と、とにかく!     武具は封印されたけど火闇でなんとかやっていきます封印解けるまで!」 麻衣香「そのたび、筋肉痛に悩まされるわけだ」 ルミエ「うっうっ……狙ってるよ……絶対に管理者が狙ってるんだよこれ……。     特訓しないからって筋肉痛地獄はないよ……ひどいよ精霊さんたち……」 彰利 「OH!ならばいっそムキムキに」 ルミエ「ならないよ!オリバだけで十分だよそんなの!     僕は普通の体系がいいの!そりゃ男だし少しはマッスルだったいいと思うけど!     スリムマッスルがいいの!ムキムキはいやだ!ムキムキはいやなんだ!」 麻衣香「ムキムキのヒロちゃん……」 彰利 「オリバの顔を中井出に変えてみ?」 麻衣香「───……ひぃっ!?だめだめ絶対にだめ!」 ルミエ「どうして真っ先にトミタケプリンセスが頭に浮かんだんだろ……」 ……あ、そういやアタイも真っ先にトミタケプリンセスだった。 オリバ=パンツ一丁的な方程式が頭の中に組み込まれてるからか? その影響はオリバじゃなくて藍田オリバからくるものだろうけどね。 彰利 「OK・YO!ようするに武具の無いテメーは雑魚にすぎねー!     クォックォックォッ……!次にヒロラインで会う時が楽しみじゃぜ……!」 ルミエ「マア……!封印されしあたしを助けてくれるのね!?」 彰利 「違いますよ!次ヒロラインで会ったら叩きのめしてやるって言っとんの!」 ルミエ「じゃあ僕封印から解放されたら真っ先にこの精霊武具合成してもらって、     スピリッツウェポン作ってキミを待ってるね?」 彰利 「………………アタイ、キミの封印を解くパーティー編成して、     助け出した途端にキミをブッコロがすことにします」 悠介 「黒いな」 彰利 「黒だもの」 武器を持ったら危険だっつーんなら、多分それはどれでもいいに違い……ありそうだね。 なにせ中井出だし。 ジークフリード以外のものだと上手くいかない可能性は98%を占めているに違いねー。 彰利 「中井出!チャンバラしよーぜー!」 ルミエ「任せとけ!なにを隠そう、俺はチャンバラの達人だぁあああああああっ!!!!」 麻衣香「わっ、一瞬の迷いもなかった」 悠介 「さすがというかなんというか……」 ナギッ子たちちびっこが会話に飽きて遊んでる中で、 アタイたちはそこいらの木の枝を取ってチャンバラをした。 子供たちがチャンバラをしなくなって久しい昨今。 こんなことをするのでさえ、周りから見ればダサイだの古臭いだの言われる時代。 それでも声をかければ素直に頷いてくれるやつらがアタイらの傍にはごっちゃり居た。 ……絆ってのはいいね。 どれだけ歳をとっても、変わらない中身がきっとある。 ルミエ「ふんはっ!」  マヒョンッ! 彰利 「ほいさっ!」  マヒョンッ! 枝を振る、独特の音に笑みをこぼしながら遊ぶ。 だがどんな遊びだろうが遊びは遊び。 遊び=バトル!これぞ我ら原中の大原則! 彰利 「月然力・水!秘剣・ナイアガラスマッシュ!!」 ルミエ「なにぃ!?ぎゃあああああああああっ!!!」 中井出の顔に水をぶっかけたのちに、怯んだところへ突き突き突き突きィイイイイッ!!! ……しばらくして、中井出は倒れたまま動かなくなりました。 彰利 「いやあの……キミ、弱いにもほどがあるよ……?」 悠介 「武器ならなんでもいいわけじゃないのか……さすが提督……」 ルミエ「うぐっ……ひっく……うええ……」 自分の弱さにないております中井出を見下ろしながら…………距離を取る。 近くに居ると足首掴まれてアレやられそうだし。 じゃけんどもそげな心配を余所にガヴァーと起き上がった中井出はブイサインを突き出し、 ルミエ「へっちゃらさーーーーっ!!」 元気にそう仰りました。 どうでもいいけど親指じゃないんだね……。 彰利 「オ?めげねぇじゃねぇの」 ルミエ「や……普通の状態の僕が誰かに勝つなんてこと、     それこそ卑劣の限りを尽くした先で奇跡でも起こらなきゃ無理だし。     武具無しの自分が弱いことなんてイセリアさんに挑んだ頃から知ってたさ!     だから平気へっちゃらワァーーーハハハハハーーーーーッ!!!     そんなことが解りきってても逃げなかったのは!     相手が大きいヤツだからって!負けるとわかってるからって!     紳士は勇気を持って戦わなくてはならない時があるからだぞっ!!     …………でもいつか勝てるようになってやる…………!」 麻衣香「どうして最後だけジョナサン=ジョースターの真似なの……」 そして紳士じゃない彼は、その気になればいつでも逃げるってことでしょう。 さすが中井出、器が小さい。 彰利 「ほいじゃあ快勝できたし中井出の弱点も見つけたことだし、そろそろ行きますか」 ルミエ「ええっ!?僕の傷ついた心へのアフターケアは!?」 彰利 「サウザーントレントにでも行ってTAIIKU-SUWARIでもしてなさい」 ルミエ「…………」 とても悲しそうな顔でした。 しかしそれも少しの間で、 中井出はランドグリーズを回収するや麻衣香ネーサンを抱きかかえ、 子供たちを肩車、おんぶ、プラス抱っこをして、走りだしたッッ!! ごらんなさい子供たち……あれが敗者の姿だ。 涙して、自分の弱さに逃げ出し、 森の中心でAIを叫びながらTAIIKU-SUWARI。 でも中井出だから悔しがるどころか次に取る行動にワクワクしてるでしょうね。 ……やがて見えなくなる中井出を見送りながら、俺と悠介は苦笑し合って移動を開始した。 夜華さんとルナっち置いてきてしもうたからね……怒ってなきゃいいけど。 Next Menu back