───震える夜のマボロシ/赤へと染まる雨の日への序曲───
【ケース654:晦悠介/サンタがサンタと飛ばれる所以ってなんだろう】 昼も半ばを過ぎ。 開かれた工房の先で素材を揃えてガチャゴチャと魔導器を扱う俺。 何をやってるんだろうな、などと溜め息を吐くこと数回、 いい加減諦めもつくというもので、そもそも錬金自体は楽しいままであるが故、 それが長く続けばいい加減に心の中も楽しいという気持ちで溢れてくる…… なんて考えはどっかのバカの気休めだろう。 結論から言わせてもらえば、壷のために時間を潰す自分に頭を痛めている真っ最中である。 いっそのことニセモノ掴ませてしまおうか〜とかも考えないでもないが、提督のことだ。 手に入れた太陽石をドワーフか誰かに見せてホンモノかどうかを訊ねるだろう。 そうなればまあ、なんだ。 俺の工房魔導術師としての技能が疑われるわけで。 手抜きなんて出来る筈もなく……結局は全力で素材を削ったり溶かしたりと、 そんな自分に疑問を持ちながら錬金を続けている俺の出来上がりである。 まったく……どうしてこうなっちまったんだろうなぁああ……。 誰かここに来て説明してくれ。たいやきあげるから。 悠介  「ほい、これ頼む」 バルグ 「おお」 悠介  「ヒキガエルの在庫、まだあったか?」 ルーゼン「あと四匹ですわ」 悠介  「そっか。今週中に補給しないといけないな」 ルミエ 「マグナス=ブラッドリーの真似?」 悠介  「実際にそうなだけだ」 補足すると、マグナス=ブラッドリーというのは空想の人物であり、 クラース=F=レスターが身に着けている魔導帽の持ち主である。 ハゲだからという理由で茶化されたりもしたが、 彼がいつもあの帽子を被っている理由は、あれが恩師である彼の形見だからである。 ちなみに言うと彼はミラルドの恋人でもあったわけで…… プロポーズをしようと決めた雪の日の夜、 不完全な召喚術の暴走により闇の精霊シャドウを召喚。 彼は帽子だけを残して消滅してしまった。 以来、クラースは意思を継ぐべくそれまでのグータラで適当な自分を捨て、 アルヴァニスタ王立魔法アカデミーを主席で卒業するほどの実力を得る。 しかし当時異端とされていた召喚術を追うあまりに学会から追放され、 ミラルドとともに研究所を小さな学校とし、子供たちに読み書きを教え始める。 傍ら、召喚術を完成させ、 彼は“天才召喚師クラース=F=レスター!じゃがじゃーん!”に至る。 ようするにあれだ、テイルズオブファンタジアの人物だ。 ゲームには出てないから気をつけろよ。 ここ宿題に出るぞ〜。……誰に説明してるんだろうな。 ルミエ 「しかしなんだね。キミタチ結構暇人?」 バルグ 「ムオッフォッフォ、まあ、そうじゃの。      王というのはこれで、結構窮屈なものじゃわい。      たまには〜……なあ?こんな息抜きがあってもバチはあたるまいよ」 ルーゼン「ダーリンのお願いですもの、大事な会議だって蹴っ飛ばしますわよ」 ルミエ 「愛されてるな。僕とは大違いだ」 悠介  「遠い目をしてそういうこと言わないでくれ」 愛されてないわけじゃないんだけどな、提督は。 ただ愛され方が捻じ曲がりすぎてるだけで。 クズとかカスとかエロとかマニアとか言われ放題ってだけで。 ……俺だったら立ち直れないくらい落ち込みそうだけどな。 悠介 「けど、悪いな。複製が出来れば手っ取り早かったんだけど」 ルミエ「原点に戻るのはとてもイイことネ。     原初(ゲンショ)なくして軌道(キドウ)()なれば、軌道なくして至点(シテン)()し。     なにごとも一歩が無けりゃあどこにも至れないらしいよ?受け売りだけど」 悠介 「受け売り?珍しいな、誰からのだ?」 ルミエ「武器の中のサイナート」 悠介 「そ……そか……そりゃ深そうだな……」 無駄に知識は深そうだよな、提督って。 なにせ武具の中には意思がいっぱい夢いっぱいだ。 悠介 「ところで話は変わるんだが……いつまで女で居るつもりなんだ?」 ルミエ「さあ……気が向いたら戻してくれるんじゃないかな」 悠介 「……好きでなってるわけじゃないんだな、つまり」 ルミエ「うむ。勝手に女にされたのは間違いない。別に嫌でもないけど」 悠介 「どうしてそう無駄なところで逞しいんだ、アンタは」 女になっても何も変わりゃしない。 少しは淑やかになったりとかは…………あるわけないか、提督だもんな。 ルミエ 「あとどのくらいで出来そ?」 悠介  「俺一人だったら長かっただろうけど、      手伝ってくれるやつが居るからそうかからないな」 バルグ 「うむ。太陽石はかなり高度な錬金技術が必要じゃが、      昔までのワシらではないからな」 ルーゼン「暇さえあれば錬金に時を費やしていたわたくしたちの実力に驚きなさい?」 ルミエ 「あなた方の暇人っぷりに今こそ驚いてますが」 悠介  「俺が国王だった頃なんか、ひどい忙しさだったんだが……」 ルーゼン「それはそこがレファルドだったからですわ」 バルグ 「皇国と王国とでは忙しさの比率がまるで違うわい。      こちら側など、黒竜王に破壊されるわ暴動が起きるわ、      まともな国民なぞそうそう残っておらんかったのじゃからな」 ルーゼン「それに次いで、あのメルヘン騒動。      正直、バルグ老も死んだものかと思っていましたわ」 悠介  「いや、俺もだけどな……メルヘンのことについては咲桜に言ってくれ」 ルミエ 「……意地でも殿の所為にしたいのな」 悠介  「俺達じゃあ結局のところ、      誰がこっちにあの阿修羅マンをよこしたのかなんてのは解らないだろ。      俺は空界で初めてメルヘンと遭遇して、      その時にみさおが月視力で見たことそのままを言ってるだけだし」 ルミエ 「ああ……そういや殿が飛ばしたとかどうとか言ってたね、記憶の中で」 そう。 だから結局のところ、真相なんてのは解らないわけで。 でも咲桜が関係してるって思うと、あの性格を考えれば“ああなるほど”と思えるわけだ。 なにせ前世がアレだから。 提督も同じことを考えてるんだろうか、しきりにうんうんと頷いている。 ルーゼン「ダーリン、こっちは完璧ですわ」 バルグ 「こっちも出来たぞい。純度も100%。あとは溶かし込むだけじゃな」 悠介  「っと、ありがとな二人とも」 ルーゼン「お代は濃厚なキスでよくてよ?」 ルミエ 「だったらこのアッサラントで手に入れた巨大キスをどうぞ。濃厚です」 ルーゼン「いりませんわよこんなもの!!」 ルミエ 「なんだと!?……チィイイ……!サーディンの方がよかったか……名前的に」 悠介  「妙な悔しがりかたしてないで。ほら、もう完成するぞ」 ルミエ 「バストア地方に生息してるわけじゃないから、      ここらで釣ったらなにサーディンになるんだろ」 悠介  「“空界いわし”で十分だろ」 ルミエ 「さすが日本マニア。サーディンって名前は好みじゃないか」 悠介  「やーかましい」 ルミエ 「ぼっくっはっギャ〜ブルァ〜!いっわっしっのっギャ〜ンブルァ〜!      はべれはべぇ〜れうつぅくしものよ〜ぅ!」 悠介  「歌うな!」 ルミエ 「美しいもの侍らせたいカッチョマンの気持ちが解らんのか貴様は。      顔がいわしなんだぞこの野郎。いわしの分際で美しいものはべらせたいんだぞ。      それだけでもうギャンブルじゃないの、立派なギャンブラーだよいわしさん」 悠介  「いや、それ歌詞違うから」 ルミエ 「うん、本当は“麗しのギャンブラー”だってことくらい知ってる」 ……確かにイワシって聞こえる時あるよな、あれ。 ルミエ「詳しくはB'zの“THE GAMBLER”をどうぞ。     俺はガキの頃、あれは絶対にイワシだと記憶していた」 悠介 「俺も最初はそうだったけどな………………っと、よし出来た!」 バルグじーさんとルーゼンが作った素材を削り、溶かし、融合させたものを結晶化。 そうして出来た純度100%の太陽石を前に、顔が笑むのをやめられない。 ルミエ「くれ!」 悠介 「断る!」 ルミエ「なにが望みだこの野郎!!」 悠介 「はっ……話が速くて助かるけどこれじゃあ俺が悪者みたいだぞなんか!     錬金は一方的に素材や完成品を譲渡することなんて禁じられてるんだよ!     ルーゼンやバルグにはもう対価払ってるからいいけど、     提督にこれを渡すなら相応の対価が必要なんだよ!」 ルミエ「てめぇ……なにで釣りやがった!金か!?金にモノ言わせたのかこのゲスが!」 悠介 「いきなり人聞き悪いなおい!!必要な素材があるって言ってたから、     練成して置きっぱなしだった素材を渡しただけだよ!」 ルミエ「な、なにぃ……じゃあ俺はこれをやろう。マテリアルインゴットだ」 悠介 「それ俺が作ったんだよ!!」 無造作にインゴット掴んで差し出して、なにを言い出すんだこの提督は! ルミエ「じゃあこの巨大キスを……」 悠介 「いらん!」 ルミエ「じゃあ僕が人質ならぬ焼き物質にしてる貴様の壷と等価交換を」 悠介 「卑怯だぞてめぇ!!     おぉおおおおほんとクズでカスで卑劣野郎だなぁもう!!」 ルミエ「グワハハハハハ……!!手段とは行使するためにあるのよ……!!」 悠介 「待て待て待て!それは流石に承服できん!なにか別のにしろ!     ───そ、そう!ヒロラインで手に入れたレアな素材とか!     ……どうして無言でグミを差し出す!?」 ルミエ「ただのグミじゃない!マグロの汁をふんだんに使ったマグログミ!     マグロの後味が下で踊り、徐々にHPが回復するスグレモノ!!     この博光といえど未だ一個しか手に入れていないレアアイテムよ!!」 悠介 「すまん、でも要らない」 ルミエ「………」 その時の、オモチャを取り上げられた子供のような提督の顔を、俺は多分忘れないと思う。 ルミエ「……ユーアーベリースットコドッコイ!!《ベパァン!》ヘポイ!!」 悠介 「真正面から喧嘩売ってるのかお前は!」 ルミエ「いきなりビンタとはなんだてめぇ!     スットコドッコイは最高の褒め言葉なんだぞ!?」 悠介 「そのネタ覚えてる地界人なんて居やしないから今すぐ黙れ!!」 ルミエ「あたし、ロブは結構好きだったよ?」 悠介 「いーから黙れ」 ルミエ「……ったく、じゃあなにがいいんだよぅコノヤロー」 悠介 「なにって…………そうだな。     これから先、月の欠片を見つけたら、無償でくれるってのはどうだ?」 ルミエ「え?そんなんでいいの?」 悠介 「そんなんって…………いや、俺にとっては結構大事な───」 ルミエ「OKその条件飲んだ!約束な!?録音したぞコノヤロー!」 悠介 「あ、ああ……だから大事なだな……」 ルミエ「探すつもり全然ねーけどな!!」 悠介 「お前なぁあああああっ!!!     少しは前向きに検討することを覚えろよなぁっ!?」 どうしてこいつはこう他人の興味に無関心なんだよ! いや感心はあるんだろうけど協力しようとしやがらねぇ! ああいや飲んだ限りは協力するってことになるのか!?ああもうややこしい! ルミエ「オ?なにやってんだコラ。条件飲んだんだから寄越せや、オ?」 悠介 「いちいちムカツく言い方するな!〜〜っ……ほらっ」 ルミエ「多謝(トーチェ)」 ……でも完成品を渡す俺はお人よしなんだろうな。 自分で思ってみて頭痛い。 ルミエ「ウフフフフ、これであとは虹色の貝殻さえあれば……!」 悠介 「……───“虹”か」 ルミエ「そう!“にじ”だ!今の若人は知ってるかどーか知らねーけど、     クロノの最強武器、“虹”!それの作成が目前に迫った!     ああ……クロノトリガーはいいゲームだったなぁ……。     ……クロノと聞いて、クロスしか思い浮かばない若輩者に用はありません」 それは若者差別だろ、おい。 悠介 「けどな。素材が集まったとしても、それで“虹”が出来るかは解らないだろ。     材質そのものが違うかもしれない」 ルミエ「大丈夫!なにを隠そう、ヒロラインは我らの脳内の野望からなる世界だァアア!!     だから多少は違えど出来るものは虹だと信じている!     きっと最高の刀を作ってくれるさ!」 悠介 「刀?剣じゃなくてか?……ってそうか、クロノの武器は日本刀だったな」 ルミエ「そうそう。以前の技術なら合成など出来なかっただろうが、今ならッ……!     全ての種類の武器が合成可能になった今のヒロライン技術ならばッツ!!」 ……つくづく思う。 武器のことになると、周りが見えない代わりに異常なまでに頭が回る男だ、と。 けど、日本刀か。 しかも虹色の刀………………───欲しい。 悠介 「気が変わった。やはりこの石は貴様にはやらん!」 ルミエ「な、なんだって!?てめぇ騙しやがったのか!?」 悠介 「ククク……約束なぞ反故するためにあるのよとはアンタの言葉だ提督!」 ルミエ「それもそうだね」 悠介 「そう───っていいのかよ!」 ルミエ「いや、実はあたし嬉しいのよ。     だってキミってば武器って言えばラグ武器といえばラグばっかじゃない?     だからね、そうしてラグナロクから離れて物事を考える姿勢が新鮮というか」 悠介 「提督だって似たようなものじゃないか」 ルミエ「馬鹿言えこの馬鹿!この野郎!クズが!カスが!シデムシが!」 悠介 「ひどい言い様だなオイィ……!!」 ルミエ「キミはラグばっかを求めてて、     武器を強化するのもあんまりしないし合成もあんまりしないしで、     ラグナロク自体の強化をしようとしないだろ!ラグはラグ、って一線を引いてさ!     あたしは全部を合成してるからいいけど!     そんなの愛じゃない!武器に対する愛じゃない!差別だ!」 悠介 「う」 確かに……ラグに余計なものを合成させたくないだの、 ラグはあれで完成品なんだからなにも加えたくないだのとは考えてたが……。 ルミエ「よろしい!その太陽石は貴様に預けておこう!     それを使って虹を作ってもらうがいいさ!フンだ!     ただし作ったとして、ラグと合成させなかったら許さねーぞテメェエエエエ!!」 悠介 「す、するよ!もちろんするさ!」 ルミエ「じゃあいいや」 い、いいのか……。 武器のことだから絶対にしつこくしてくると思ったのに……。 ルミエ「ちなみに言っておくがこのルミエールはヒロラインでは封印状態にある!     恐らく復活するのは、貴様が月の欠片の大半を集めたあとだろうよ!     だから僕べつに探す気も見つける気もないからよろしくね?」 悠介 「いや…………なんかもういいけどな……。どうせ太陽石渡さないわけだし……」 そうだな……提督は封印状態にあるんだって言ってた。 それがいつ、どうやって解かれるのかも解らない以上、協力を望むのは無茶だ。 俺は次にヒロラインに降りた時には、レーダーで月の欠片を探しまくるつもりだし、 変化したあとのフェルダールじゃあ、何処に帝国があるのかが解らない。 ……なるほど、ここで渡しても渡さなくても、提督にとってはあまりプラスにはならない。 悠介 「ふう。それで、これからどうするんだ?」 魔導器の手入れをして、片付けながら言葉を投げる。 バルグ老やルーゼンもそこらへんは手馴れているようで、 手入れの仕方も完璧なままに片づけを終了させ、どこから出したのかティーを嗜んでいる。 ルミエ「ドワーフのじいさんが言うには武器はまだまだ完成しないらしいからなぁ。     敵と数回戦えば完成する、一昔前のゲームのようにはいかんわけで」 悠介 「そか。だったらちょっと付き合ってくれないか?」 ルミエ「せっかくのプロポーズだが断る」 悠介 「プロポーズじゃないっ!!」 バルグ「青いのぅ」 悠介 「しみじみ言うなよじいさんよぉ……!     こいつの場合、肉体が人をからかう精神でほぼ構築されてるんだから……!」 ルミエ「ちなみに彼の存在の98%がモミアゲで出来ています《バゴォ!》ヘブオヴァ!」 悠介 「そりゃ既にモミアゲだろうが!!人ですらないわ!」 ルミエ「な、殴ったな!?言葉の暴力を振りかざさんとするあたしを!」 悠介 「振りかざさんどころか振りかざしてたわ!」 ルミエ「OK!拳には拳で誠心誠意立ち向かおう!かかってこいオラァ!!」 悠介 「上等だこのやろっ!」 ホギャー!と叫びつつ殴り合い掴み合い! 相手が女だからなんだ!中身が提督ならなにしたって心は痛まん相当に! だから殴る蹴るどつく! 遠慮の一切も無しに、取っ組み合って、文字通りの喧嘩を繰り返す! バルグ 「……変わったもんじゃて、あの守護者がなぁ」 ルーゼン「女性を殴るのにあんなに嬉々とした表情を……。      わたくしとしてはクールなダーリンが懐かしいですわ、バルグ老」 バルグ 「なに、どう望んだところで人は変わるもんじゃ。      感情が無くとも、生き物とはそういうものじゃろうて。      ほわっはは、人様に迷惑かけん程度に楽しめれば、それはよいことじゃわい」 ドカッ!バゴッ!ドスッ!ボカッ! バルグ「……まあ、やりすぎという感を除けば、じゃがのう」 シュゥウウウ…………プスプス……。 悠介 「はぁっ……はぁっ……」 か……勝った……! 俺の足元にはぐったりと倒れる提督……! 俺は……俺はやりとげたのだ……! ……ていうか本当に弱いな、提督……。 などと思っていると、涙に滲んだ目で俺をキッと睨む提督。 格好は例によってバレーボールで挫けた少女チックだが、 何故か妙にサマになってるのがムカツク。 ルミエ「ちくしょー!素手喧嘩じゃあなけりゃあこんなことにはならないんだかんなー!」 潤んだ瞳で見上げられながらそんなこと言われてもな……。 バルグ 「なんというか仕草と容姿と言葉がこうまでも合わんと腹が立ってくるな」 悠介  「同感……」 ルーゼン「ただの地界娘じゃあありませんの?」 悠介  「ただの地界娘だ」 中身は男だが。 というか、なんだ。 ルーゼンのお嬢言葉がやけにヘンテコに聞こえてならないんだが。 悠介  「今更だが、ルーゼン。王になってから口調変わったか?」 ルーゼン「まあダーリン!ようやく気づいてくれたのですわね!?」 悠介  「すまん気の所為だった寄るな息を吹きかけるな顔が近いんだよ気色悪い」 ルミエ 「隙あり死ねぇえええええええっ!!!」 悠介  「うわぁっと!?《ブヒョンッ!》あぶぁっ───!!」 鼻先を提督の拳が掠っていった───! 反応が遅れてたらクリーンヒットにどんがらがっしゃぁああんっ!!! ルミエ「ぐぎゃああーーーーっ!!」 悠介 「あ」 潰れた。 相当なフルスイングで来ていたんだろう、 バランスを崩した提督は足を滑らせ棚に突っ込み、 衝撃で落下してきた魔導器に潰されて、死ュウウウ……と動かなくなった。 いや、そんなことはどうでもいい。 悠介 「……これ、俺が直すのか?片付けるのか?」 バルグ「ほっほ、そりゃあそうじゃろう。なにせお前さんの工房なのだからな」 悠介 「うへぇ……」 俺の安らぎの休日はいった何処にあるんだよ……。 ええい、こうなったら提督を叩き起こして手伝わせてやる。 ってダメだ、片付けとかむしろ苦手そうだ。 …………ほんと、男でも女でも騒がしい以外に取り得のない人である。 こんなんで提督だっていうんだから、原中の基準はどうにも曲がってる。 えぇっと、…………ああもう無駄に下の方に埋まりやがって。 悠介 「提督〜?提督〜!」 死〜〜〜ん…… 悠介 「起きろたわけ」  ゴシャア!! ルミエ「ギャーーーーーーッ!!」 瓦礫(魔導器)ごと踏み潰し、荒く起こしにかかる。 するとどうだろう、なにか硬いものでも何処かに刺さったのか、 ゴバシャアと瓦礫を吹き飛ばしつつ起き上がった提督は、脇腹を押さえて涙を流した。 ルミエ「な、なにをなさるの……?」 悠介 「片付け手伝え提督てめぇ」 ルミエ「…………なんか最近、みんなの僕の扱いが物凄くぞんざいな気が……」 悠介 「それだけ慕われてるってことだろ」 ルミエ「そうかなぁ…………」 それはそれは、とても複雑そうな顔だったとさ。 ……。 ───……。 ややあって、陽も暮れ、夜の帳が落ちようとする頃。 ルミエ「じゃかじゃんっ!しゅ〜〜〜りょ〜〜〜〜っ!!」 無駄に綺麗になった工房がそこにあった。 驚いたものだが、提督は掃除や整頓がやたらと上手かった。 訊いてみれば、祖父と暮らしていた頃から掃除洗濯炊事などは提督の仕事だったらしい。 なにせその頃のじい様といえば、男子厨房に入らず的な意識で育てられたらしく、 提督の祖父も例に漏れず、 家事の一切はばーさまにまかせっきりだったために出来なかったそうで。 そんなこともあってか、そういったことは提督がつとめていたんだとか。 なるほど、料理がなかなか上手い筈だ。 ルミエ「しまった、もう夜ではないか。掃除に熱中するあまり、時を忘れてしまった。     ……僕、いいお嫁さんになれる?」 悠介 「気色の悪いこと言うな」 ルミエ「冗談を冗談として受け取れる余裕くらいは持とうよ。     女なんだからお嫁さんに憧れるのもありだろ?     こう……ウェディングドレスを着て凡人ロードを歩くんだ」 悠介 「ヴァージンロードだろ、それ」 ルミエ「そんなものには興味ありません」 興味の向けどころが既に女のソレじゃないな。 女心なんてものは俺には解らないが、それだけは断言できる気がするぞ。 ルミエ「さてと。……っと、麻衣香からのメールだ。…………ふむふむ。     よし、武具できたみたいだからあたしもう行くわ。キミは?」 悠介 「……ルナをなだめてくるよ。結局こうなんだよな、毎度毎度。     どうしてくれるんだよ、絶対にヘソ曲げてるぞ……?」 ルミエ「いいか、そういう時はtellで愛してると語り続けるんだ。     息を荒げるのも忘れずに。そうしたら変態電話だと思われて切られるから」 悠介 「それがどんな解決になるんだよ!!」 ルミエ「馬鹿野郎!いつ解決になるだなんて言ったかクズが!     あたしはただ語り続けろと言っただけだ!なに勘違いしてんだクズが!」 悠介 「ギィイイイイーーーーーーーッ!!!     この場面でそんなこと言われりゃ普通は解決策だって思うだろうがぁあっ!!」 ルミエ「あたしは思わない」 悠介 「そりゃあんただけだ!!」 ルミエ「ククク、いいや違うな……!世界は広し……このルミエールだけではなく、     第二第三のルミエールがゴロゴロと……!」 悠介 「世にも恐ろしいこと言わないでくれ!世界の均衡が保てなくなるだろうが!」 ルミエ「ええっ!?どんな生命体なのあたし!」 いや……だってな。 提督と閏璃が一緒のところを想像するだけで、かなり周りが大変なことになりそうだが? しかもそれが簡単に想像できる分、それは非常に危ないのではないか。 悠介 「提督さ、頼むから閏璃とパーティー組むのだけは勘弁してくれな」 ルミエ「状況が風を吹かせれば組みます。そんなことは誰かが決めることではありんせん」 悠介 「や……そうだけどさ」 ルミエ「よし、じゃああたし行くね。……と、それと。     悪いな、解決策とか考えてやれなくて」 悠介 「…………へ?」 きょとん、と固まった時には提督はドアを開けて去ってしまった。 ……謝った……な、あの提督が。 珍しいこともあるもんだ。 あれで結構心の中に溜めてるものとかあるのかな。 ……まあ、そりゃああるか、人間だもんな。 よし、と。 それじゃあ……怒られに行くかな。 はぁ……面倒なことだ。 【ケース655:ルミエール=D=カーナ/孤立への序曲】 ドゴゴゴゴドシャベキゴシャシャアッ!! ルミエ「痛いがどうした!───武器は!?」 麻衣香「ヒロちゃんヒロちゃん!曲がってる!ヘンな方向に曲がってる!!」 ルミエ「曲がってなんかないよ!僕は真っ直ぐないい子だもん!!」 麻衣香「そうじゃなくて腕が!折れてるよこれ!」 ルミエ「エ?うわぁ本当だ!で、武器は!?」 麻衣香「武器なんてあと!女の子なんだから自分の身体は大事にしなきゃだめでしょ!」 ルミエ「身体は女!頭脳は博光!女の子だから身体を大事に!?     ならば男の身体はどうでもよいと申すか!     ええいそんなことではこの差別の厳しい乱世を生き延びることなど出来ぬわ!」 麻衣香「どういう理屈なのそれ!ちょ……いいから腕!治すから!ほら!」 皆様お元気でしょうか。 ドワーフの里の秘密通路から落下し、 左腕から落下した拍子にポッキリいったらしい……こんにちわ、ルミエールです。 だが、脳に冷たすぎる刃物を差し込まれたような引きつる痛みさえも、 武器を待つ僕の心が無理矢理押し込めます。 ドワーフ「ほっほ、元気なことだのぅ。ほれ、武器なら出来とるぞい」 ルミエ 「な、なんだってぇーーーーーっ!!?」 出来てるってこと自体は麻衣香のtellでもちろん知ってました。 が、こうして実際に目にしてみると……! フ、フオオ……!これが……これが刻震竜の素材から成りし剣か……! ドワーフ「じゃが“出来ただけ”じゃ。それは素材を剣として精製しただけのもの。      斬れ味も低ければ、無駄に重いだけのナマクラよ」 ルミエ 「ええっ!?そうなの!?」 そんな……せっかく出来た武器が、そこまでアカムルチックな武器だったなんて……。 ……あれ?でも“出来ただけ”ってどういう意味?……───ア。 ルミエ 「そうか!仕上げが残ってた!」 ドワーフ「まあそういうことよ。この武器にはまだ属性を封入しとらんでの。      おヌシが持って来た属性武器を、      スピリットオブノートとオリジンの石碑の力を借りて合成させる。      それが終わって初めて“時の剣への完成”へと至るのだ」 ルミエ 「じゃあ早速エルフの里へ!大丈夫!アポなら取ってある!」 ドワーフ「そうか。では持っていくがよいわい。      刻を震わす剣と書いて“刻震剣ラルシュヴァール”じゃ」 ルミエ 「バシュラール?」 ドワーフ「ラルシュヴァールじゃ」 どこぞの科学者でそれっぽい名前のヤツが居たよーな。 だが逸る気持ちも抑えようともせず、あたしはガッと“左手で”ラルちゃんを手に ルミエ「《ズキィーーーーン!!》いたやぁああーーーーーーっ!!!」 麻衣香「うひゃあっ!?」 絶叫! 麻衣香が治療してくれている最中だった左手が高熱を発したように大激痛に見舞われ、 我が意思とは無関係に喉が絶叫!大絶叫! 思わず“うしおととら”の絵に棲む鬼のように叫んでしまった!まるで彰利だ! だが離さない!嗚呼離さない!この手が!この手が新たなる相棒を掴んで離さない! 新たなる相棒が!僕の心を掴んで離さない! だからあまりの痛さに号泣しながらも、ヘンな格好で硬直しております。 麻衣香「武器のことになると本当に人が変わるんだから……ほら、ヒール」 ルミエ「《パアアア……》うぐっ……ひっく……この痛み、アンナの痛み……!」 麻衣香「どうしてそこでわたしを睨むの」 ルミエ「や……せっかく苦しみの涙流してるんだがら、     こんなことでもしないともったいないかなぁって……」 麻衣香「そんな無駄な逞しさは披露しなくていいから。……はい、治ったよ」 ルミエ「謝謝」 腕を振れる!強く握れる!当然に出来ることの素晴らしさ!嗚呼最強! ルミエ「人ってさ、最初っから結構な満足の中で生きてるんだろうね」 麻衣香「藪から棒になんなの?」 ルミエ「いや、言ってみたかっただけ。     よぅしGOだ!治ってしまったからにはもうあたしは止まらんぞ!     ───治らなくても止まるつもりはなかったがな!!各馬一斉にスタートォ!!」 だから僕は走るのですメロスのごとく。 走るというより飛んでますが。 ……で、そんな風に興奮なんぞしてたもんだから、 鍛冶工房の奥で見学していたちびっ子三人のことを スコーンと忘れてしまっていたわけで。 麻衣香に注意されてドワーフの里に戻った僕は、 置いていかれて怒り心頭だった三人(特にナギー)の手によってボコボコにされた。 ───……。 ……。 シュゥウウウウ…… ルミエ「考えてもみてください。誰かにボコボコにされて、     頭から煙が出るなどということが、現実に都合よく起こるでしょうか」 エルフ「じゅ……十分に出しているようだが……?」 ルミエ「ここに来るまでの出来事がスペクタクルだった所為です。     おかげで僕の鼻っ柱がまっがーれ←スペクタクル」 左に曲がってます、僕の鼻。 さて、紆余曲折の意味も解らないあたしが紆余曲折あってここに辿り着いた今。 すっかり夜な空の下で、どんな神秘なのかサワサワと薄く輝く森林の明りに溜め息をつき、 それでも逸る興奮は抑えずにソワソワしている……こんにちは、ルミエールです。 なんだかさっさと男に戻りてーとか思ってるあたしも居ますが、 これはこれで身体が軽い感じもするのでOK。 うん、今はそんなことどうでもいいね。 ルミエ「それで……えと。石碑って何処にあるんだっけ」 エルフ「ついてくれば解る」 ルミエ「ぬう」 主立って話すつもりはないらしい。 やっぱ嫌われてるなぁニンゲン。 仲良くする必要性がないから嫌われたままでも別にいいんだけどさ。 え?冷たい? ……そんな、嫌われてるやつら全員と仲良くしたいだなんて疲れることはしません。 大体あたしがなにかして嫌われたんならまだしも、 “人間”という生物が嫌いって時点であたしが出る幕じゃないでしょ。 そりゃ、仲がいい方が楽しいとは思うけど。 よし、ただ歩くのも暇だからいっちょ歩みよってみようか。 ルミエ「エルフ。この人間・ルミエールと仲良くしろ」 エルフ「断る」 歩み寄るだけじゃ芸がないのでロケットエンジンでダイヴしたら断られた。 ルミエ「そういえばさ、エルフってどうして人間嫌いなの?自然破壊するから?」 エルフ「そうだ。解りきったことを訊くな」 ナギー『その点ではわしも同意見じゃがの』 ルミエ「ふむん……あたしも結構破壊してるから、そこのところはどうにも反論出来ん」 エルフ「ふん……自覚があるのはいいことだがな。     だからといって見直すことをするほど広い心など持たん」 ルミエ「望んでないからいいよべつに。あたしもべつに人間好きじゃないし」 エルフ「なに……?お前、自種族をけなされてもどうも思わないのか」 ルミエ「ホワ?…………ホワハハハハ!貴様がそれを言うかエルフの君!じゃあ行こう」 シード『えぇっ!?反論はしないのですか!?』 ルミエ「いやね……もうほんと偉そうに語るの疲れて……」 僕、出来ればバカのままで居たい。 騒がしさが取り得の僕が僕は大好きです。 だからヘンに悟る自分は嫌いなの。 だからそんな風に周到に言葉の餌を投げかけてこないでお願い。 エルフ「すっきりしないな。言いたいことがあれば言えばいいだろう」 ルミエ「無いから行コ?」 麻衣香「わ……すっごいいい顔」 ルミエ「大体さぁ、このトンガリイヤーさんは勝手すぎるんだよこのクズが」 エルフ「クッ───!?貴様!」 麻衣香「まあでも……うん、そうかも。えーとエルフさん?     人間が嫌いなら嫌いで、人間全部を嫌いになっていればそれでいいでしょ?     べつに人間の中にも人間嫌いが混ざってたところであなたに関係ないし。     そのくせ自種族がけなされたのにどーのこーのって。それこそ関係ないじゃない」 ルミエ「そうだこのタコ」 麻衣香「人間が嫌いで、そんな人間の中に変わった人が居たところで、     あなたが広い心を持たずに人間全部を嫌いなら、     話の骨組みからして答えは決まってるんでしょ?     ほら、こんな話無駄無駄無駄。でも一方的に嫌われるのもきまりが悪いし、     うん、わたしも嫌いになるね。……この首長族が」 エルフ「首長っ……!?」 ……アレ?なんだろう。 どうしてだかマジンガーZの歌が僕の頭を占めてやまない。 パイルダーァおぉおおおっ!って。 うん、解らないからいいや。 思いだせないのはきっと、兄さんが満たされてるからだよ。 ナギー『ふむ。つまりヒロミツたちは自分らがエルフになにをしたわけでもないのに、     こうして一方的に嫌われるのが気に食わんわけじゃな?』 ルミエ「や、人間が自然やマナを食い物にしてる風情があったのは認めるよ?     それは多分今もだろうし、     そういうのを大事にしてるやつから見ればそりゃ怒る材料にもなるだろうし。     でもそれであたしが嫌われる理由がよく解らないから僕も嫌い」 紀裡 「お父さん、子供じゃないんだから……」 ルミエ「頭はいつでもヤァーーーングミェエエエンヌ!!……ルミエールです」 服は脱ぎませんが。 脱ぐたびに麻衣香に怒られるから、どうにもこう………………ねぇ? いやぁ……俺って夫としても低い男だなぁ。今女だけど。 ルミエ「というわけでさっさと案内するがいい。くるしゅうないぞ?ん?ンン〜〜?」 エルフ「ぐっ……!こうもあからさまに嫌な態度を取られるとは……!!」 ルミエ「いいから早く道をゆくんだよ!道だよ道!早くしろこの道男!」 エルフ「誰がミチオだ!!私は───」 ルミエ「ほざきやがれ道男てめぇ!お前なんか道男で十分だ道男てめぇ!     あ、地界に暮らす道男な皆様ごめんなさい。     この罵倒はここに居る耳が長くて首も長くて無駄に美形で、     ハジケンジャーごっこがしたくなくてカンフーがカッコイイと言って、     妙なポーズをとりまくるあの男に似ているエルフさんに言ったものです」 麻衣香「うわぁ……覇王Y愛人……わたし見てた……」 ルミエ「右下のアレは明らかにカンフーとは縁遠いものだと思うのはあたしだけ?」 でもスウォーズマンの名前は大好きです。 シード『父上、ハジケンジャーとは?』 ナギー『うむ、気になるの。わしにどどんと教えるがよかろ、受け止めてやるのじゃ〜』 ルミエ「む?……ふむ。よしっ、お前たち、     そんなものよりカンフーのほうがカッコイイぞ」 シード『カンフー?』 ルミエ「お姉ちゃんが見本をみせてやる……《スッ》」 こうしてあたしは自称カンフー“黒龍の舞”を舞う運びとなった。 およそカンフーには見えないポーズの連発、 とってみて“ワァこりゃ痛い”と自覚できる構え、 なのにカッコイイと受け取ってもらえるように顔をキリッとさせなければいけない屈辱。 どれをとっても屈辱的でしかなかったのに、 むしろそんな状況を楽しみに変えてる僕がいます。 ───最後はナギーとシードと紀裡の頭近くに足を振り下ろし、 すんでで止めて、ホワチョォウッ!という言葉が妙に合ってそうなポーズで停止。 …………それを見ていた皆様の反応は言うまでもなかった。 シード『こ、これは……その……』 ナギー『ヒロミツ……よくもこれをカッコイイなどとほざけたものよな……』 紀裡 「お父さん気持ち悪い……」 その日あたしは生まれて初めて娘に気持ち悪いと言われた。 ───……。 ……。 ややあって、そこに辿り着いた。 森林に囲まれ、緑に覆われた天蓋が月明かりだけを誘うように、 空から降りる薄い光が二つの石碑を照らしている。 そんな幻想的な光景を前に……あたしは、 カンフーがきっかけで距離が出来てしまった子供たちとの距離に泣きたくなっていた。 ルミエ「ありがとう。あたし、あんたのこと本気で嫌いになれそうだ」 エルフ「や、藪から棒になんなんだ!」 だって顔がほんとそのまんまカンフーが好きなハクロンさんなんですもの。 くそう、僕の平穏な空間を返してくれ……。 麻衣香「ここで物質融合が出来るの?」 ナギー『ほほう……物凄いマナじゃの。     なにがおるわけでもないのに、この場はマナが満ち満ちておる』 エルフ「ほう、解るのか。人間のツレにしては───」 ルミエ「うるさいぞ道男てめぇ!感心しろだなんて誰が言った道男てめぇ!」 麻衣香「どっかそこらの空気にでも道案内してなさいよ道男てめぇ!!」 エルフ「きっ……きぃいさぁあまああらぁああああっ……!!」 ルミエ「ぬ?なんだ道男てめぇ。そんな血管ミキミキ鳴らして。     カンフーでも見せてくれるのか道男てめぇ」 紀裡 「お、お父さんもお母さんも、     嫌いになるって決めた途端に、そこまで喧嘩腰にならなくてもいいと思うよ?」 ルミエ「だってこの道男てめぇが!」 紀裡 「……どうして絶対に“てめぇ”をつけるの?」 ルミエ「え?いや、なんでって………………なんでだろ……」 ナギー『自然と出ていたのじゃな……さすがヒロミツなのじゃ』 それって褒め言葉ですか?…………褒め言葉なんですね……。 ナギーの誇らしげに頷く顔を見てたら、やっぱり泣きたくなりました。 相変わらず距離は開いてやがるし。 ルミエ「で、これってどうやって融合させるんだろ」 エルフ「《ピクリ》……ふ、ふふふ……浅はかなる人間だ。     やはり我らの知恵を受けねばなにも───」 ルミエ「黙れクズが!!」 総員 『死ね!!』 エルフ「ぬあっ……」 ルミエ「ゴワハハハハ案内ご苦労だったな道男……!     あとのことはこっちでなんとかするから早々と失せるがいい!!」 エルフ「そうはいかない!人間を神聖な石碑の前に置いていくなど!」 ルミエ「じゃあ黙っててください。それだけでもう満足です。なにも望みません」 エルフ「…………」 何処か寂しそうな目をしたカンフーが口を閉ざして黙りこくりました。 案外物解りのいいヤツだったのかもしれない。 ふむ、しかしどうしよう。 石碑の力を借りるのは当然として…………よし。 ルミエ「ファフニール《コキィンッ》」 篭手と篭手を軽く叩き合わせ、鳴る音を大気に響かせる。 すると周りの自然という自然がサワサワと揺れ始め……あたしに言葉を投げかけてくれる。 ナギー『……おお、おお……ここの自然は素直でやさしいの。     どの自然もこれほど心地よければよいのじゃがのう』 ルミエ「グエフェフェフェ、そりゃあ欲張りすぎってもんだぜナギー」 ナギー『もう少し女らしゅう笑えんのかヒロミツは』 ルミエ「女だからと飾ったりしない!女だからと慎ましくもなりゃしない!     それがこの僕ルミエール!!丁寧にナンパしてきた紳士だってひっぱたけます」 ナギー『外道じゃな』 ルミエ「外道ですとも」 アレだ、男であろうと笑いのためなら女口調を取ることもある。 女の場合もまた同じく。 自然体ってステキだと思いませんか? 特に地界とかじゃあもう、この姿の僕が中井出博光だなんて解るヤツなんざ居ないわけだ。 だったら好き勝手やってみるのも最高ってもんです。 上司に気を使うこともなく、知り合いが居るかもしれないと自粛する必要もなし。 こうさ、元気に、自分を、思いっきりひけらかすっつーのか……ねぇ? 無遠慮にやっていくのって結構やってみたかったりしたのですよ。 学生時代じゃ先生に暴言なんて吐けないし、 大人になれば一層周りに気を使わなくちゃいけない。 そんな人生をブチ壊して好き勝手をする……最高じゃないか。 まあもちろん衣食住が約束されてること前提じゃなけりゃあ、出来もしないことだけど。 そう思えば原中時代も随分と無茶をしたもんだ。 高校はつまらなかったし、高校卒業したあとは仕事の毎日だろ? そうなっちまうと早々娯楽もなくて…… あ〜ほんと、彰利や晦と原中で出会えてよかった。 その結果があの夢の終焉だと言われようが、俺は後悔しねぇぜ?今はね。 ルミエ「───我、今、空狭の石碑に願い奉る。     ここにある一振りの剣、そして13の精霊武具を融合させたまえ。     我が名はルミエール……マナと自然の加護の下、この儀式を司りし者───」 エルフ「……!?」 自然が教えてくれる通りに口を走らせ、マナを集束させる。 するとどうだろう、月明かりだけの薄暗いこの森の広間に、 緑色の粒子が飛び交い、あっという間に眩いくらいの世界を構築させた。 幻想的って……言えばいいんだろうかな、こんな時は。 エルフ「ば、ばかな……こんなことが……!?マナが人間の願いに反応するなんて……!」 ナギー『ヒロミツは少々変わっておるからの。人間の中でも異質中の異質なのじゃ。     媒介が自然でなければこうも上手くはいかなかったじゃろうがな!     むっはっはっはっは!それはつまりわしのお陰なーーのじゃーーーーっ!!』 ムンと胸を張ったナギーが高らかに笑うのが見えた。 うん、楽しそうだ。 踏ん反り返る時には一切の遠慮もなくやりなさいと言った甲斐があります。 まあ周りがどうであれ、マナは集束する。 置かれた刻震剣と13の精霊武具へと。 そして既に意図を読んでか、俺の腕の霊章にも集うマナ。 これはつまり……ジークも出せということなんでしょうか。 ならば、と。俺は装備品全てを集わせ、ランドグリーズにすると地面に置いた。 するとそれもマナに囲まれ、宙に浮いてゆく。 …………マジック的なものを思い出し、 そこからドナルドマジックを思いだしたのは内緒だ。  ───マナが、緑が密集する。 武具たちを持ち上げ、まるで光が踊るかのように舞う光景の最中。 俺達は声を無くして、“あたし”という認識に勤めることさえ忘れ─── やがて、光が一つになるのを、何をするでもなく、ボゥと眺め続けていた。 ───……。 ……。 時は深夜。 時間からしてみれば、気力充実のオフ日などとっくに終わってしまった頃合。 飽きもせずにマナの粒子の乱舞を見ていた俺達が、 ようやくハッと意識を取り戻したのはそんな時だった。 さすがに精霊武具13との融合は骨が折れたのか、 随分と長いこと粒子の舞をみていた気がする。ていうか見てた。長いこと。  手にある感触に、心底安堵する。 こうして完成してみれば、どれだけの力がこの剣と鞘に込められているのかが感じられる。 過去から現在にかけて、あらゆる“時”が躍動しているのか。 遥か昔よりある石碑とマナが力を与え、現在を生きる俺たちの技術が形を作り、 遥か未来の最果ての13の武具たちがそれらにさらなる力を与える。 そう、これは時の剣だ。 悲しみだとか苦しみだとか、喜びだとか楽しさだとか…… 過去現在未来、全てのそういった記憶や思いやマナを封じ込めた時の剣。 そして……───……そして……。  ビギッ───キュヴァァンッ!! 中井出「───……麻衣香、ナギー、シード……紀裡。今すぐ地界に逃げてくれ」 身体が、勝手に男のものへと戻る。 流れる力がそうさせるのか、この剣に眠るなにかがそうさせるのか。 だけど視えてしまった。 この後に起こることが。 だから、せめて親しいヤツはと。 麻衣香「えっ───!?《ガッ!》はうぐっ!?」 ナギー『……ゆくぞ、麻衣香。ぐずぐずするでない』 シード『お前もだ。早くしろ』 紀裡 「えっ……わっ」 この場のマナを感じ、理解してくれたのだろう。 ナギーとシードが何も言われずとも動き、麻衣香と紀裡を連れ、全速力で飛翔していった。 エルフ「こ、これは……まさかそんなっ……!」 中井出「……とりあえず、おめでとさん。これからあんたが望んだ世界が作られるよ」 独り残されたエルフもまた、読み取ったのだろう。 これから起こること、そしてそれが止められるものではないことも。 なぁルドラ……お前は最初からこれが狙いだったのか? 俺にそれを見せ付けるために、こんなことを……。 ……いや、違うか。 剣が教えてくれている。 これは───イド。死の精霊が残したトラップだ。 もし俺が生きているようなら、こうするであろうことを読んでの。  武具の中の、死の属性だけがドス黒く蠢く。 ゲームの中での意識の乗っ取りと比べたら、アレは遊びでしかないくらいの圧迫感。 俺の中から俺が押し出され、イドの意識が俺の意識を食ってゆく。 その先にあるのは───いや、あるのを……俺は既に時の剣の力で見せられていた。 Next Menu back