───震夜/忘却の明日へ───
【ケース656:中井出博光/最果ての今へ】 たとえば元気に歩く子供。 ちょっと遠くの町に親と出かけて、 欲しかったものを買ってもらうなんていう、他愛無い約束に頬を綻ばせていた。 たとえば老夫婦。 メルヘンの毒牙にもかからず、平和に幸せに生きていた連れ合いが、 もう何十年目になるのかも解らない結婚記念日に、 昔からの行きつけのお店で静かに微笑みながら食事をしていた。 たとえば少女。 夢に向かって邁進し、日々そのための努力を惜しまずに笑むことの出来る少女が居た。  ……その昼の頃の楽しさの全てが、その日の夜に砕かれる。 ───どれほどのたとえを挙げれば心は晴れるのか。 そんなことを思えてしまうほど滑稽な景色。 血が飛び肉が飛び、俺の身体を赤く染めてゆく。 叫び、逃げ惑い、でも逃げられなくて─── 俺の腕が、ジークが、無抵抗な人々を次々と壊してゆく。 人を殺せと。 亜人やモンスターなどはいい、ただ人を殺せと。 そんな意識が俺の意識を食いつぶし、それだけではなく俺の意識と融合してゆく。 段々と意識がはっきりすると、もう腕を振るうのは俺で、殺しているのも俺だった。 なのに止められない。 止めることが出来ない。 楽しく笑っていた子供も、子供を庇った母親ごと肉の塊となっていた。 そんな姿にばーさんの姿を重ね見て、心の底から絶叫し、喉が潰れても泣き続けた。  生贄を捧げるがいい。貴様が貴様のままに精霊の武具を操りたいのであれば。 ……それでも止まらない。 それとも自分が助かりたいあまりだったのか。 もはや俺は俺の腕と意思とで人を殺め、潰し、血に濡れていた。 イドの意識が溶け込んできたからだ、なんてことはもう言い訳にしかならない。 そう、助かりたかったのだ。 人を殺した責任から逃れたくて、殺した。 馬鹿な話だ。 突然こんなことになって、人を殺して、名前も知らない人の血が目にこびりついて、 悲しくて、苦しくて……でも殺す相手が居なくなれば終わると思ったから、殺した。 矛盾だらけの苦しみから解放されたくて。  一つの街が滅べば次の町へ。 亜人を除いた全ての“人”を殺し、許しを乞う声も、ごめんも言わずに砕いた。 謝罪で済む命など薄いものだと、死の意識が笑う。 謝るくらいならするなと、死んだ魂が泣き叫ぶ。 目についた血の赤が死んだ者たちの苦しみをいつまでも見せつけ、 気が狂いそうになりながら殺した。 ……いや、とっくに狂っていたのかもしれない。 だって、世界こそ違えど同じ人間だ。 しかも相手が俺になにかをしたわけでもない、一方的な惨殺。 それを今更、謝罪ごときでどう償える。 謝って一方的に心を軽くするなんてこと、出来るわけがない。 それなのに殺す。 これが狂ってなくてなんだというのだ。  人は世界を壊すもの。  亜人はマナを守り、世界を慈しむ。  だが人間は増えて壊すだけの存在だ。  故に砕け、殺せ、潰すがいい。  ゲームの中だけの死などつまらんだろう。  知るがいい、染み込ませるがいい。  それが───  貴様の手で完成する、他人の死というものだ───! ……涙が流れた。 それでも目にこびりついた赤は流れてくれない。 つい数十分前までの幻想的な世界は既に俺の中で砕けて、 今はただ……今を精一杯に生きている人たちや、 翌日に控えていたであろう楽しみさえも絶望に変え、 永劫に潰してしまったという事実に涙を流し続けた。 だけど腕を振るう。 自分がこの苦しみから逃れたい一心で、人を殺してゆく。 もう頭の中で渦巻く声なんて関係がなかった。  そう、間違いようがない。  俺は───俺が殺したいから、殺したのだ─── …………。 やがて朝が来る。 数時間に渡り続いた騒ぎは日の出とともに赤に染まり、 朝から賑わう筈だった町も村も城でさえも、赤に染まったまま物音ひとつ立てなかった。 ……唯一、最後に訪れた絶望を残して。 老人 「…………」 老婆 「…………」 それは、時の剣で見た最後の光景。 何十回目になるかも解らない、結婚記念日を祝いに街に遠出してきていた老夫婦だった。 二人は血まみれの俺を見て、最初こそ小さく悲鳴をあげた。 だが……いや、だからこそなのかもしれない。 どうか、この祝いが終わるまで待ってくれと言われ……俺は───俺は……! 老人 「……お婆さん、こんなわしにずっと尽くしてくれて、ありがとうなぁ……」 老婆 「……いいえぇ、わたしは幸せでしたよ……。     お爺さん、わたしがいないとなんにも出来ないんですからねぇ……」 もう、誰も喋らない小さなカフェ。 悲鳴を上げる暇もなく死んでしまったマスターは既に動かず、 ただ……そういう約束だったのだろう。 早くに起きていた老夫婦だけが、小さな店の小さな椅子に向かい合って座り、 こんな状況だっていうのに微笑みながら手を取り合っていた。 ……きっと、これは悪夢。 俺がなりたかった人としての理想、家族像が目の前にあって─── イドはそれを知りながら、最後にこの二人を残した。 いや……俺がそうしたのだ。 だって、こんなの壊したくない。 散々壊しておいて今更だとかそんなことは俺にとってはどうでもいい。 そうだ、俺は人間だ。 至りたい人間像だってあるし、最後はこうやって麻衣香と静かに二人で───…… 中井出「………」 静かに二人で、なんだ? それこそが今更だろう? なにをしたわけでもない相手を一方的に殺したヤツだぞ? そんな相手を好きでいてくれるヤツが居ると思うのか? ……もう、常識破りの定義が通じるレベルなんかじゃない。 いっぱい殺した。 いっぱい奪った。 その事実は、俺の日常を代価にして、それでも足りないくらいの罪だろう。  ───どうしてこんなことになったんだろう。 いつからか降り始めていた雨に打たれながら、 俺は遠くで朝日の役割を担っている光の結晶を眺めた。 ……もう、カフェからは人の気配はしない。 あるのは肉の塊と、……老婆に対して送られた、小さな花の鉢植えだけだった。 “穏やかな日常”が花言葉のそれが血に濡れることだけが悲しかった老婆は、 最後に老人に謝りながら……息を引き取った。  ……雨が降っていた。 重く濁った空から、赤く染まった世界を流そうとするかのように。 殺戮衝動は消え果てて、精霊達にとって都合のいい世界となったこの空界で、 ただ俺は……自分がどれだけ利用させられてたかを悟り、涙を流した。 この空界は滅ばない。 何故なら滅ぼす者が居なくなったからだ。 エルフもドワーフも長生きする分、必要にならない限り繁殖行為を行わない。 それは竜族にしても同じで─── モンスターが無駄に増えればそれを食らう側に回るだろう。 つまり人間だけが邪魔だったのだ。 子供も大人も、老人も赤子も。 その全てを始末させることが目的だったのだ。 ……精霊、全てにとって。 イド 『……やってしまったな。どうだ、気分は』 雨の中、濡れもせずに現れた赤。 黒い目でニヤリと笑い、俺を真正面から睨んできた。 中井出「……やっちまった……?なにをだ……」 イド 『ふん?殺しすぎてネジが外れたか?』 中井出「……人殺しのことについてを言ってるならとんだオカド違いだ。     悪いとは思った。泣きもした。けどそれだけだ。     言い訳してなにになる……殺したのは俺だ。それが事実で現実だ。     今更お前にそれを認識させられたからってなんだっていうんだよ」 イド 『………』 イドが異様なものを見たといった風情で俺を睨む。 けど、嘘は言っていない。 今日、この瞬間だけで俺はどれほどのものを手放すだろう。 いや、捨てられるのかもしれない。 仲間でもなんでもないと言われ、孤独のうちに野垂れ死ぬかもしれない。 ……でもやったことから逃げる時じゃないんだ、今は。 中井出「殺したかったから殺した。自分が助かりたかったから殺した。     言い逃れるつもりもないし、謝って済ませるつもりもない。     ……お前なにか勘違いしてないか?責任に潰されるのは死んでからで十分だ。     だから今は目を背けてでもやるべきことをやる」 イド 『……やること?それはなんだ、俺を殺すことか』 イドが俺を睨む。 その視線はきっと、生きる者を殺すくらいの眼力が込められていたかもしれない。 でも俺は背けることなくその目を直視すると、 精一杯の強がりで空元気を見せて、おどけてみせた。 中井出「……勝てないからやらないよ。だから家にお帰り。     ああそれと武具ありがとね。大事に使わせてもらうよ」 イド 『……正気か?殺しのきっかけを与えた俺に感謝など───』 中井出「武具に罪はありません。あるとしたら貴様と俺にだ」 イド 『………』 やらなきゃいけないことが出来た。 これがきっかけになろうがなってなかろうが、それは絶対にしようとしていたことだ。 だから続けるつもりではあったし、負けてやるつもりもなかった。 ……ああ、なんだ。 人を殺した瞬間に人が変わることってあるかと思ってた。 でも変わるのは自分だけじゃない、周りも変わるんだ。 周りが変わるのが怖いから、自分が先に変わるしかないんだ。 自分が先に変わってしまえば、少しだけでも怖くないのだろうから。 イド 『……戻る気か?正気を疑うな。殺人鬼と一緒に居たがる仲間が居ると思うか』 中井出「それを決めるのは俺でも貴様でもないよ。そんじゃーなー、死体の処理よろしく」 イド 『───』 歩いてゆく。 言葉の軽さとは裏腹に、重くて仕方の無い足で。 さて、と……どうしたもんかなぁ。 俺、殺人犯になっちゃったよ。 今も気ィ抜くと吐き─── 中井出「うっ!ぐぶっ!うげぇええええええっ!!!」 ……無駄だった。 歩く中、もはやモノも言えぬ塊を見た途端、腹の中のものをぶちまけてしまった。 咄嗟に手で押さえようとしても、手が汚れるだけだ。 中井出「見ろ!手が汚れてしまっ……うぐっ……げぇえっ……!」 だめだ、笑いに走れる余裕もない。 赤い塊を見て、食ってしまったホムンクルスを思い出したのだ。 中井出「………」 ゲームの世界でも現実世界でも、目を閉じれば亡者が映る。 赤がこびりついた左目がじくりと疼き、そのたびに流れる涙が鬱陶しかった。  ───雨はまだやまない。 ウンディーネの水の加護が赤を流してゆく景色をのろのろと歩き、静かに地界を目指す。 全部確かめて、全部受け止めよう。 ぐだぐだ考えるのはそれからで、悔やむのは死んでから。 死んじまうまでは楽しさの中に溺れていたいからな……。 楽しめる保障なんて、もう何処にもないのかもしれない。 それでもそう願わずにはいられないじゃないか。 だから……帰ろう、地界へ。 どう言われようとどう思われようと構わない。 ハッキリさせることをハッキリさせたら、受け止めたいものだけ受け止めて生きていこう。 全部ってのは無理だな、うん。 所詮は力のない人間だ。 大げさなこと言ってあーだこーだ言われるのは好きじゃない。 ……悪ふざけでなら大好きなのに、それももうないのか。 最後にそんなことを考えて、雨の中を歩き、飛び、サーフティールへ。  飛んだ時に遠くに見えたチャイルドエデンを、赤い視界で眺めながら。 ……そうだ。謝って済ませられるわけがない。 こんな空の上の家に住んで、ろくに友達も作れなかった紀裡から…… 俺、友達……全て、誰一人残らず……奪っちまったんだ……。 ───……。 ……。 びしょ濡れの状態で晦の部屋へと踏み込む。 その場には、俺が来るのを立って待っていた全精霊と、 ヒロラインメンバー……つまり俺の知り合い全てが居た。 ノート『来たな』 中井出「……随分となんでもないって顔、してるんだな……」 ノート『止めに入らなかった時点で予想はついていたのだろう?』 中井出「…………」 そう、つまりこれは過去も未来もない、精霊たち全員の総意だったのだ。 マナが削られるのは我慢がならない。 だから人が死ぬのは喜ばしい。 しかし精霊自らが手を汚すのは好ましくない。 そこへ都合よく俺がイドの殺人衝動に襲われ───……全ては筋書き通りとなった。 麻衣香「ヒロちゃん……」 迎えてくれたのは真っ青になった知り合いたち。 いつもなら軽口を叩いてくる原中のやつらでさえ、 真っ青な顔して気まずそうに俺を見ていた。 紀裡 「ね、ねぇお父さん……みんなを……みんなを殺しちゃったなんて嘘だよね?」 そんな中で一歩を踏み出したのが……なんの拷問なのか、紀裡だった。 ここで首を縦に振れたら楽なんだろうに……俺はそうせず、横に振った。 途端、驚愕と軽蔑の眼差し。 紀裡は太陽石のネックレスを俺に投げつけ、 まるで言葉にもならないくらいの声量で罵倒を浴びせてきた。 悠介 「提督……」 中井出「ウソは言ってない。     最初こそイドに操られるみたいなカタチだったけど、終盤は俺の意思だった。     ……人間全員、殺した。ゼプシオンとカルナは居なかったみたいだけど」 リヴァ「っ……貴様っ……覚悟は出来ているのだろうなぁっ!!」 中井出「死ぬ覚悟かっていうならとっくに出来てる。     けど、ここじゃ死ねない。殺すのもあんたじゃない」 リヴァ「貴様の都合など知ったことか!     貴様が民を殺す時、そんな都合を気にかけたとでもいうのか!」 中井出「かけてなかったと思ってるんだったら一発殴らせてください」 リヴァ「ふざけるなぁっ!!殴りたいのは!殺してやりたいのはこちらのほうだ!!」 リヴァイアさんが掴みかかってくる。 だがそれを晦が止め、彰利がノートン先生に向けて言葉を投げる。 彰利  「……スッピー、なして止めに入らんかったの。      中井出がこういう思いするって知っとったんしょ?」 ノート 『我々にとっては、汝ら人間がしていることをしたのとそう変わらん思考だがな。      我々にとって第一にすべきものはマナだ。      自然を食いつぶす害虫を駆除する汝らが今更なにを吠える』 リヴァ 「スピリットオブノート!国民が!人間が!害虫と同じだと言うつもりか!」 ノート 『そうだと言っている。口を慎めリヴァイア=ゼロ=フォルグリム。      ……汝、誰に向けて敵意を振りかざしている』 リヴァ 「っ……ぐっ、うぅうう……!!」 ルーゼン「まあ、気持ちは解らなくもないですわ。多少は、ですけれど」 バルグ 「あのままおぬしに茶を馳走にならねばわしらも死んでおったか。      まったく怖い仕掛けをしてくれる」 重い空気の中、軽口を叩くのはルーゼンとバルグ老。 晦から茶の誘いがあったために襲われることがなかったらしい……。 見ればそこには七草もゼプシオンも居て、 ゼプシオンは俺達と同じ人間サイズの状態で俺を睨んできていた。 ゼプシオン『戦って負けたのなら、それは戦士としての死だ。       それをとやかく言うつもりは私にはないがな』 カルナ  「俺はそうは言わない。正直、殺してやりたいほど憎い」 イセリア 「さすがに皆殺しはどうかと思うんだ」 ベリー  「ま、そういうことだから。……気の済むまでやらせてもらうわよ」 中井出  「え?全力で抗うけどいいの?」 リヴァ  「反撃をする資格があるとでも思っているのか貴様!」 中井出  「あります!ありますとも!俺が避けるか抗うかなんてのは俺の自由意志!       感情論がいつでも正論だと思うなよこのレバイアタンめ!       殺しにくるっていうならこっちだって殺す気だコノヤロー!!」 リヴァ  「っ……見下げたヤツだ……!だったらどう責任を取るつもりだ!」 中井出  「取りようがないから無理としか言えません」 リヴァ  「ふざけるなぁっ!!」 リヴァイアさんの眼前で式が編まれる。 ……エクスカリバーだ、どうやら殺す気でくるらしい。 が、その式が編み途中で霧散する。 それをしたのは……ノートン先生だった。 リヴァ「なにをっ……!」 ノート『中井出博光への攻撃、及び危害を加えることは我々全精霊が許さん。     例外なくだ。当然、マスターや弦月彰利といえど、だ』 悠介 「ノート……」 ノート『汝らに訊ねよう。中井出博光は人殺しをした。     中には知り合いが居た者も居るだろう。     だが、それでもなお中井出博光を信用し、ともに歩むという者はこちら側へ来い』 ザッ─── 夜華 「な……?」 聖  「パパッ!?」 ノートン先生の問いかけに、迷うことなく一歩を進めた11人。 ナギー、シード、ゼット、穂岸、閏璃、晦、柾樹坊主、未来凍弥、彰利、 ルナ子さん、レイル氏が俺の傍らに落ち着く。 夜華 「なにをしている彰衛門!そいつは───!」 彰利 「人殺しなら俺もやってる。自分の意思でね。     いっぱい巻き込んだしいっぱい殺した。嫌う理由なんて知るもんかね。     俺は親友と仲間は裏切らん。ただそれだけさね」 悠介 「まあ、そうだよな。ルナが迷わず出たのは驚いたけど」 ルナ 「んー……ほら、アレ。     わたし悠介以外の誰かがどうなろうと知ったことじゃないけど。     それでもエロっちって無遠慮だしぶつかりやすいから、そう嫌いじゃないし」 遥一郎「前提として洗脳があったならしょうがないだろ」 柾樹 「俺も……その、そういう経験を持つ側だし」 凍弥 「気の向くままに行動したら歩いてた」 ゼット「言うまでもない。友人を信用してやれずになにが親友か」 ナギー『ふむふはは?当然よなぁ。わしがヒロミツを信じてやらねば可哀想じゃからの!     というわけで、ほれ、ヒロミツ?あ、頭を撫でてたもれ?』 シード『僕も誰がどうなろうが知ったことではありませんしね。あ、僕にもお願いします』 彰利 「なにぃ、じゃあアタイも」 レイル「あ、俺も頼む」 悠介 「じゃあ俺もだ」 閏璃 「なにぃ、じゃあ俺も」 凍弥 「面白そうだし俺も」 柾樹 「俺もお願いします」 遥一郎「撫でられるのは初めてかもしれないからやってみてくれ」 ルナ 「触るなへんたいー!」 中井出「僕まだなにもやってませんよ!?」 それでも俺の周りに来たやつらは自然な笑みで俺の周りに居てくれた。 それが、こんなにも嬉しい。 けど───他のやつらは。 原中の連中や、麻衣香でさえも、その一歩を踏み出せないでいた。 ノート『……ふむ。ここらか』 閏璃 「ぬおお、お前ら!何故勇気を搾り出さないのだ!」 鷹志 「……勇気の問題じゃないだろ。人が死んだんだぞ」 柿崎 「笑い事で済ませられるようなことじゃないだろ……冷静になって考えてみろ」 来流美「凍弥……今回ばっかりは、その───」 閏璃 「ん?んー……あのさー。     それじゃあ訊くけど、笑い事で済ませられないならなにで済ますんだ?     殺せばそれで済むのか?謝れば済むのか?違うだろ」 彰利 「そゆことー。中井出がキミたちに謝ってなにになんのさ。     キミたちに殺されて供養になるの?妙な正義感振り絞って中井出殺して。     そしたら今度はキミたちが殺人鬼じゃん」 悠介 「冷静になんかなるなよ。起きた過去は変えられないんだ。     そりゃあ知り合いや大事なやつらを殺されたヤツは苦しいかもしれない。     けど殺したところで得られるのは敵討ちの心と憂さ晴らしだけだ。     そんなの、やったところでしばらくすれば無駄になる。     戻らないものへの思いが、そいつを殺した程度で晴れるなら苦労はしないんだ」 総員 『………』 総員が黙り込む。 でも俺を見る数々の目全てが、俺を異常者を見るような目で見ていた。 リヴァ「……じゃあお前はどうなんだ、悠介。     お前の知り合いはそれこそアカデミー時代からのヤツも居ただろう。     リアナやリオナはそれこそ我慢ならない筈だ。     その気持ちが抑えられるとでも思うのか?」 悠介 「リヴァイアぁ……じゃあお前は提督にどうしてほしいんだよ……」 リヴァ「死んで詫びろ」 彰利 「最悪な詫びですねそれ……。     キミらがスカッとするだけでなんの償いにもなりゃしない」 リヴァ「なんだとっ……!?」 彰利 「ほんじゃあ訊くけどYO。     リヴァっちキミ、ルドラ直属のイドの洗脳の力に抗える自信、あんの?」 リヴァ「い、いや、それは……」 ハッとし、口ごもるリヴァイアさん。 だが引けないものがあるのも解る。 すぐにキッと目を見開き俺を睨むと、再び言葉を投げかけようとし、それを遮られる。 彰利 「それに中井出は洗脳方面には弱い地界人。     しかも空界の回路も持ってないただの地界人、中井出だ。     確かに中井出は自分の手で殺したかもしれんよ?     じゃけんど洗脳っていうきっかけがあったことを無視して中井出を殺す?     キミね、それってただの難癖付け殺人ですよ?」 リヴァ「そんなことは解っている!だが!ではどうしろっていうんだ!」 中井出「僕を嫌ってください。嫌い続けてください。それで全てが最強です」 リヴァ「そんなことは貴様の勝手な自己満足だろう!     嫌われ続ければ済むと思っているのか!?」 中井出「俺が死ねばカタがつくなら待ってりゃいいよ。どうせ俺死ぬし」 リヴァ「───!?…………なに?それはどういう意味だ」 ノート『……それ以上の詮索は許さん。黙れ、リヴァイア=ゼロ=クロフィックス』 リヴァ「………」 ノート『汝もだ。その話は他人にしてくれるな。     ……汝を信用しない者には関係のない話だ』 ……まあ、それもそうだけど。 でもなぁ、撫でろ撫でろと頭を突き出してきまくっている彼ら彼女らは、 本当に信用してくれてますか? あの……なんか段々と頭突きに変貌しつつあるのですけど……? あのちょっ……いたっ!痛い!! 閏璃 「ぬう!?提督さんは死ぬ予定なのか!?」 中井出「黙秘!」 レイル「それは“そうだ”って言ってるようなもんだろ」 中井出「そうだ《どーーーん!!》」 ノート『いや……汝な……』 麻衣香「っ……ヒロちゃん!それってどういう───!」 中井出「近づくな!」 麻衣香「《ビクッ……!》え……ヒロ、ちゃん……?」 俺が死ぬという言葉に、蒼かった顔をさらに蒼白にして近づこうとした麻衣香を静止する。 ……そうだ、これはいろいろなものを手放す機会なのかもしれない。 夢見る心の暖かさなど、血塗れの手には相応しくなどないのだから。 中井出「麻衣香。俺はもういろいろ穢れちゃってるから、近寄らないでくれ。     正直お前らが一歩を踏み出さないでいてくれてホッとしてる。     お前らは空界の回路を得た奴らだから───     この状態が答えだとしても検討中なんだとしても、俺は一切怒らないから。     それと俺、紀裡には随分嫌われただろうし、     俺のことは気にしないでくれていいよ」 紀裡 「そうだよ!お父さんなんて嫌い!大ッ嫌い!死んじゃえばいいんだ!」 中井出「───……うん。ありがとな、紀裡。     きっぱり言って貰えたほうが整理も出来たから」 物凄い悲しみが胸に突き刺さった。 でも不思議と涙は出ない。 いやほんと不思議……これだけ辛くて苦しいのにね……。 悠介  「提督……あ、あのな」 彰利  「……やめとけ親友。子供からの死んじゃえ発言って、かなりキツイから」 オリジン『人には人の事情があり、精霊もまた然りだマスター。      やつらは一線を引き、お前たちは踏み込んだ。それだけのことだろう』 中井出 「あのー……これってつまり、      俺って現実でもヒロラインでも魔王になったってことで……」 レイル 「人を殺しといてそこまでいつも通りなら、そりゃまさに魔王だろ」 なにが違うんだ?って顔でそう言われた時、 俺の心はきっとどっかに飛んでいったんだと思います。 彰利 「キミって本当に神経図太いね。     普通、誰かを殺したばっかりでそんな風に振る舞えねぇYO?」 中井出「馬鹿言え……吐きもしたし泣きもした。     けどそれで絶望して全部投げ出すのはもったいないって思ったんだよ。     でも多分、俺……変わっちまう。いや、変わっちまったのかもしれない。     周りのやつらの目が変わっちまったのと同じみたいに……」 彰利 「そりゃつまらんから変わるなクズが」 中井出「いや……あのさ、今そういう冗談はかなり痛いんだけど……」 彰利 「んにゃ、冗談じゃねーのよこれが。     変わらんものなどそりゃねーよ。キミは立派な罪人だ。人殺しだ。     洗脳云々だって、きっかけはどうあれ、     あとの方は罪の意識から早く解放されたい一心で皆殺しにした、だろ?     ちと月視力でパパーと覗かせてもらったわ。こりゃひでぇ、最悪だ。クズだな」 中井出「………」 悠介 「……彰利、俺にも。………………なるほど、怖さのあまり、苦しさのあまりに、     自分が助かりたい一心で全員惨殺か……クズ以外のなにものでもないな。     最低通り越してる。誰がどう見たって許される行為じゃない」 中井出「………」 彰利、晦が俺がしたことを覗き、それから俺の方に来てくれたやつらにも見せてゆく。 ……一様に目を伏せたり吐きそうにもなっていた。 当たり前だ、俺の視点で見てるんだ、自分が殺した錯覚も覚えるだろう。 特に、ナギーと閏璃のダメージは相当だった。 ナギー『こ、れは……ほんにヒロミツが……』 閏璃 「うげ、ぇえっ……!!」 晦にエチケット袋を創造してもらった閏璃がぶちまける。 ナギーも信じられないものを見たといった風情で目を逸らすが、 脳に直接打ち込んでるんだ、そんなもので消えたりはしない。 ゼット「罪の意識に耐えられなかったか。なるほど、人間だな。     武具がどれだけ強かろうが、人間だということだな。実に無様で不甲斐ない」 ルナ 「わー……これは最悪」 シード『父上……これは……』 全員が全員、俺のことを呆れた目で見る。 ……見るんだけど、そこに軽蔑の念は込められていなかった。 中井出「正気か貴様ら!殺人犯を前に軽蔑の眼差しをしないなど!」 彰利 「てめぇにだけは正気疑われたくねぇよアタイ!」 中井出「なにその中傷すげぇ痛いんですけど!?」 彰利 「黙れ殺人鬼!あんな小さな子供にまで撃を落とすなど───……中井出だねぇ」 中井出「うるせぇよ!俺はっ……俺は俺に危害を加えるヤツ以外を、     殺す気で来るヤツ以外を殺したくなんてなかったよ!」 ───しん、と辺りが静まり返る。 言ってからしまったって思った。 余計なことを言った……こんな時にばっか心ン中ぶちまけちまうなんて、 自分で思っているよりずっと心に余裕がないのかもしれない。 ……いや、泣いた時点で、吐いた時点で余裕なんてのはなかったんだ。 今、一番わからないのが自分の気持ち、心なんだから。 彰利 「なんつーか安心したわ。やっぱお前、人間だね。     いろんなことに大げさだしストレートだけど、     どこかムチャしすぎるところがあるから、     以前のアタイみたいに心が壊れてるンかと思った」 中井出「───」 心なら、多分壊れてる。 目の前で、ばーさんが死んだ時に。 だけどじーさんに頭を撫でられて、心が救われて……少しだけ立ち直れて。 ……ああ、そっか。 今も昔も、俺は悲しいことからずっと逃げてきただけなんだ。 責任がかかるのが怖くて、楽しさに埋没していたかった。 ばーさんを死なせてしまったのが俺で、それをいつかじーさんに言われることが怖くて、 心配をかけないように元気な子でいようとして、 でもなろうと思って出来るものじゃないからきっかけが欲しくて、 まず学校側から変えてみようとして……───それで………… ……変わらないものなんてない、か……。 俺は、どうなんだろうな……。 悠介 「で、だ。提督はどうするんだ?この一派を抜けるか?     ぜ〜んぶ忘れて、日常に戻るってのも手だぞ」 彰利 「それともヒロラインにもぐって、まだ楽しむか?」 中井出「後者。殺人犯に“戻れる日常”なんてあるもんかい。     いーよ、別に孤独でも。孤独になろうが俺は楽しむことを選ぶ。     嫌われようがどうしようが、     俺は俺が俺であればそれでいいってスタンスを変えないよ。     ……その方が、面白いしな」 今なら……ヒロラインで俺一人が封印状態にあることの意味、解る気がする。 ようするに精霊たちは最初からこうなる未来を望んでいて、 他のやつらには俺の封印が解けるまで心の準備とかをさせるつもりだったのだ。 俺が封印されている内に怒りが治まるならよし、 それでも怒りが治まらないならぶつかればよし。 どちらにしろ今この場で怒りに任せて何か行動したところで、 よっぽどのことが無い限りなにをしても後悔に終わるだろうから。 悠介 「───……」 彰利 「……やべ、こいつすげぇわ」 閏璃 「まだ面白さを追求するとは……さすが提督さんだな」 ルナ 「悠介なら一週間以上はウジウジ悩んでそうだけどね」 悠介 「学生時代のこと言ってるんだったらほっとけ」 こちら側のやつらが小さく談笑する。 そんな中でも一線を引いたやつらは黙ったままで……もう、 歩み寄る気もなさそうにしていた。 だからこれで終いにしよう。 中井出「みんな、聞いてくれ。……本日を以って、原沢南中学校迷惑部を解散する。     いや、噛み砕いて言えば、俺が抜ける。     だからもう提督だとか呼ぶ必要も、俺の言葉に耳を傾ける必要もない。     俺はどれだけの責任を負おうが俺であることはやめないし、     その態度がお前らの癇に障るんだとしても、俺はそれをやめない。     ただひとつだけ。……今のお前らはどうかは知らないけど、     俺はお前らのこと、嫌いになんてなってやらないからな」 総員 『───』 一つの事件で周りが変わった。 事故を起こして捕まって、長い時を勤めて出てきた加害者の気持ちは、きっとこんな感じ。 反省して、これから頑張ろうと思ったところで、 周りがその意思を認めてくれない限りはずっと重苦しいものを背負ってゆくのだろう。 けど、それがなんだ。 俺はもう楽しむって決めた。 周りがどうだろうが、その周りさえ楽しむ材料にしてやるつもりだ。 周りが変わろうがとうしようが、やりたいことをやっていこう。 どうせ死ぬ、と言った自分を蹴落として、生きる道を見つけ出して─── その先で、俺は殺人鬼だー!とか叫んでやるのだ。 決めたことだもんな。 受け入れることは受け入れる。 その代わり、受け入れたくねーものは受け入れねー。 殺人をした。だから殺人鬼だとか言われるのは受け入れよう。 けど責任取れとか死を以って償えとか言われて頷くのはなんか違うのでやだ。 やつらの死にテメーは関係ねぇだろうと逆に叱りたくなります。 リヴァ「なんだそのすっきりした顔は……開き直る気か?     もし殺人を犯したその日に笑顔でも作ってみろ、わたしは本気で貴様を───!」 中井出「俺の表情はテメーのものじゃねー!笑顔でいてなにが悪い!     表情だけでも“反省シテマス”ってやってろというのか!冗談ではない!     じゃあ訊くけどな!一人殺した時点でなんとか次を踏みとどまれたとして!     アンタは俺を嫌わずにいられたか!?     最初の一撃が好き好んで振り上げられたものだとでも思ってんのかよ!     だから偽善だって言ってんだ!     そうやって勝手な正義振りかざされても不愉快なんだよ!いつもそうじゃないか!     不可抗力から始まったものでも誰かがそれを悪だと決めれば悪って!     正義の論理がそんなに偉いか!?それさえ翳してりゃあ満足かよ!     正義の勝手な都合で今までどれだけの悪が一方的に泣いたと思ってる!     俺がこうしているのが自己満足だって!?     じゃああんたのその正義の何処が自己満足じゃない!     何処に殺しちまったみんなへの謝罪と償いに繋がるなにかがある!」 リヴァ「っ……それは……!」 中井出「俺とあんたが今、逆の立場だったらあんたはどう思っただろうな……!     操られたから仕方なかったって誰かに救いを求めたんじゃないか!?     そんなヤツが死んで償えって言われて実行出来たか!?     正義を盾にしてぐちぐちこぼすヤツがそれを出来たのかよ!     こっちが心苦しくないとでも思ってるのか!?それが正義かよ!ふざけんな!」 リヴァ「ぐっ……」 中井出「というわけで失せろコゾー。     俺は今気が立ってるからなにするか解らねーぞ《バゴォッ!》ニーチェ!」 リヴァ「貴様こそがふざけるなっ!!」 〜〜っつはぁ〜〜……!効いたぁ……! 殴ってきやがったよ思いっきり……! 中井出「し、失礼な……!     俺は年中無休で、どんな状況でだろうと面白さを求めてだな……!」 彰利 「……ねぇ悠介。こいつ何者?常識破りのGODですか?」 悠介 「俺、大量虐殺したヤツがここまで笑いに走ろうとする姿、初めて見た」 レイル「えっと、なんだ?こいつってもしかして殺人をなんとも思わないタイプ?」 数人 『いや、それはない』 こちら陣営の皆様が声を揃えておっしゃりました。 ええ、人殺しなんて恐ろしいもの、好んで出来やしない。 俺は、俺が歩んだ軌道に賭けても楽しむことを放棄したりはしない。 そう、じーさんが頭を撫でてくれたあの時に誓ったのだ。 だからいい。 誰にどう思われようと、こんな状況だとしても俺は俺であることを選ぶ。 閏璃 「……けどさ。ちょっといいか?     このイドって精霊、なんだって提督さんの武器にこんなトラップ仕掛けたんだろ」 彰利 「そりゃオメェ、あれだ。えーと…………なんだろ」 ノート『ルドラは中井出博光を仲間になれと誘った経緯もある。     恐らくは───いや、イドの独断専行だろうが、     中井出博光を殺人鬼にさせ、我々の中で孤立させるのが目的だったのだろう。     孤立し、その場が楽しくないと踏めば、     憎まれることもないルドラ側の方がまだ居心地がいいというもの。     だがその考えも無駄に終わったな、この男の性格を理解していない証拠だ。     ……まあ、その作戦は9割成功していると言えるが』 チラリと、一線を引いたやつらを見るノートン先生。 けど僕はそちらに視線を移さず、小さく息を吐いた。 ノート『それで、どうだ?今ならば向こうの方が楽しいとも思えるのではないか?』 中井出「頭の硬いヤツらとは一緒に生きてもつまらないからやめとく。     それに、ククク……ここに居るやつらがどれだけこの博光に呆れようと嫌おうと、     俺はそんなこいつらの感情も怒りも呆れも、     なにもかもを利用して楽しんでくれるわ」 レイル「殺人者への怒りを利用して楽しむってどれだけ外道だよ……」 中井出「謝ってハイ終わりにしたくないんだって。     謝るより行動でなんとかしたいって思うタイプなのだ俺は。     もちろん、償いのために人生を捧げるなんてこともしないけど」 ゼット「ほう?ではどうする」 中井出「楽しむ!!殺したやつらの分まで楽しんでやるのよ!!俺が!自己満足のために!     いや、絶対に殺したやつらの分までは無理だから、適度に今まで通りに。     楽しむ時はね、誰にも邪魔されず自由で、     なんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで静かで豊かで……」 彰利 「何処のロンリーグルメ野郎ですかキミ」 まあ……心中が穏やかになるにはまだまだ時間が要る。 それなら、確かに封印されているって状況は、 いろいろ考えるのに適していたのかもしれない。 でも考えるより動きたい僕にとってはそれはどうなんだろう。 周りがどう思おうが、俺は俺。それを貫く姿勢は変えるつもりはない。 薄情だって言われようが、 落ち込むだけで、反省するだけで残りの人生潰すのはつまらない。 そんな生き方、俺は頷けない。 ……ああくそ、ほんとどうしてこんなことになったんだ。  ペキ、コキンッ─── 指を、親指で曲げて鳴らしてゆく。 深呼吸をして、胸に刻むは一振りの芯と覚悟。 ねめつけるは───俺を見る群衆たち。 中井出「……多数派の諸君!諸君に一言言っておく!     文句があるやつからかかってきやがれぇええっ!!!!」 総員 『っ……うおおぉおおおおおおっ!!!!』 中井出「アレェ全員ですか!?───構わん!我を通すためには他をブチノメす!!     口で語れぬなら拳で語る!拳でダメなら卑劣で語る!     殺したければ殺すがいい!ただし殺しにくるなら俺も殺す!     仲間だから殺さぬと思ったら大間違いだぞコノヤロー!!」 藍田 「へっ!一度殺したからタガが外れたってか!?《バゴォン!》ぶえふぇえっ!!」 中井出「お黙れカスが!この博光、こうなる前から既にそんな思考は持っていたわ!     一度犯したから平気になるなど!そんなことが実際に起こるかバカモン!」 丘野 「いい機会だ中井出!この際いろいろなものブチマケさせてもらうぞ!     真面目にぶつかれよてめぇ!」 中井出「断る!《どーーーん!!》」 総員 『断んなぁああああっ!!!』 まあ、結局はこうだ。 俺に向かって攻撃を繰り出すやつらは、中には殺気を出しているやつも居る。 ただ、一回殴ってやらなきゃ気がすまないって顔のヤツも居るし、 馬鹿野郎な俺を全力でブチノメしたいってヤツが大半居た。 殺気を放っているヤツは武器で魔術で魔法で式で、 殴らなきゃ気がすまないヤツらやブチメしたいってヤツらは拳で。 俺はそれらに対して常日頃と同じく外道の限りを尽くし、これを翻弄。 目潰し金的毒霧麻痺睡眠、向かってくる者は容赦なく打ち下し、 やがてそれらが恨めしげに僕を睨む視線のみを投げかける状況になった時、 その場に立っているのは僕だけだった。 厳密に言えば僕側を選んでくれた人達。 中井出「グエフェフェフェ……!!勝つことではなく楽しむことに走ったこの博光が、     殴ることだけ考えてた貴様らなんぞに負けるかよ……!」 悠介 「普通それって負けると思うけどな。……この人数だぞ?」 中井出「卑劣に走った僕は通常の三倍強くなっていたら嬉しいです」 彰利 「ただの希望じゃねーのよそれ」 中井出「大丈夫!きっちり全員から攻撃を食らいました!     この野郎どもほんとに無遠慮に攻撃してきおって、死ぬかと思ったチェン」 カルナ「っ……ふざ、けんなっ……!     子供たちの……!あいつらの痛みはこんなもんじゃ……!」 中井出「生きてるって言ったらどうする?」 カルナ「───!?本当にか!?」 中井出「ウソです」 カルナ「《ガリッ……!》てめぇっ……!言っていい冗談と悪い冗談があるだろ!」 歯を食いしばった拍子に、何かが砕けるような音が耳に届いた。 それほどの苛立ちを眼光に込め、七草が俺を睨んでくる。 俺はそんな彼を鼻で笑ってみせて、目を見てじっくりと言ってやった。 中井出「生きてるのか死んでるのかも知らないくせに、     痛みを知ってるつもりでいる貴様に言われたくねーです。     これで生きてたら、キミの言う子供たちの痛みってどんな痛みだったの?」 カルナ「うるさい!大事にしていた子供たちを殺された痛みがっ……!     お前なんかに解るか!」 中井出「うん解らない。殺した張本人だしね。     殺した痛みなら解るけど、殺された痛みは解んねーや。     ……キミに、殺した痛みが解らんようにね」 カルナ「っ……」 中井出「人のこと勝手だなんだって言ってくれてるけどさ。     俺だって結構頭にキてるんだからな?     殺した本人が痛くないとでも思ってるのかよ。     そりゃ、なにかを奪われりゃあ辛いのは解るさ。俺だってそうだったし。     けど───あ、やっぱやめた。言い訳みたいで嫌だし。     ただ俺にも言い分はあるんだ〜ってことだけ覚えといておくれ。     …………はぁ…………殺人デビューしてこんな風に振る舞う日が来るなんて……」 頭を抱える。 そんな俺の肩を俺側のみんながやさしく叩いてくれて、 振り向けば 数人 『クズが』 ───開幕のゴングが鳴った。 ───……。 ……。 彰利 「おがぢぢぢ……!な、なにも本気で殴ることねーべよ……!」 中井出「僕の所為じゃないもん!みんなが傷心の僕をクズ呼ばわりするからだもん!!」 そう言う僕も相当にボッコボコですが。 ───と、思った瞬間だった。 ソレは突然やってきて、俺の脇腹に、ザクリ、と…… 中井出「え……あ、あれ……?」 血が出る。 見下ろせば、俺の脇腹には赤く染まった長い槍みたいなものが。 普通に見れば刺さりそうなものじゃない。 よほどの勢いが……それこそ突き刺す気でやらない限り刺さらないようなものが、 俺の脇腹から生えるように突き刺さっていた。 彰利 「ホワ───」 正面に居た彰利が声を漏らす。 その瞳に映るのは、生気のない、一つの死体だった。 夏子 「……あなたの言いたいことはよ〜く解ったわ。     確かにわたしたちがどうこう言っても仕方ない。     だから本人たちに任せてみることにしたわ。     ……ネクロマンサーの名において導く。     中井出博光に殺されし者どもよ。その意思を持って、一時のみ蘇れ」 ───背筋が凍る思いってのは、こんな時のことを言うんだろうと思った。 どこから出てくるのか、晦の部屋の畳が輝くと、そこからヒトガタが幾数も現れるのだ。 そして、そんなやつら全員が俺を死んだ目で睨むと、 うぞうぞと近寄り───俺を殺そうとしてくる。 手の中には刃物。 肉片にしてやったやつらも元通りの姿のままに、俺を殺すためだけに動き始めていた。 夏子 「さ、どうするの?わたしたちには謝る理由がなくても、彼らには───」  ゾガァッフィガバババァォオンッ!! 夏子 「あ、る……?」 ……そんなやつらを、一撃で消滅させる。 夏子 「え……な、なんで……どうして!?     これで素直に罰を受けてくれたら、まだ受け入れられたのに───!」 中井出「ふざけんな……俺はもう、あいつらを殺した感触も殺した事実も受け入れた。     だから死体になって出てこようが、俺の中じゃああいつらはもう何も言わない。     素直に罰を受ければとか、そんな次元の話じゃないんだよ、木村……。     この目が、手が、俺の五体が、もう殺した感触を忘れてくれない。     たとえ罰を受け入れて許してもらっても、それを受け入れたら俺はもう笑えない」 夏子 「なに、それ……!解らない……!解らないよ!     だって彼らに許してもらえたら、わたしたちだってあなたを───!     だから……!そうしたいからそうしたのに───!」 中井出「木村、俺は許してもらおうなんて思ってないし、     許されることでもないって解ってるんだよ。     だから壊した。殺そうとしてたから、殺す覚悟には殺す覚悟で応えただけだ」 出現させていた双剣を、霊章に仕舞って一息。 はぁ……なんかもう今こそ俺が最低だ……自覚できるくらいに。 中井出「頼むよ木村……一度殺した相手をもう一度殺すなんてこと、させないでくれ……」 夏子 「っ───あ……!」 無意識に、涙がこぼれた。 我を貫くためとはいえ、殺しが楽しい筈がない。 だけど殺された本人たちにしてみれば、 自分が満たされる願いなどさっきの状況以外に答えがなかったと思う。 脇目も振らずに俺を殺そうと、ただそれだけを意識して動いていた。 彰利 「おお……オリバ夫人容赦ねぇな……。     罪滅ぼしさせるためと称して同じヤツを二度殺させて苦痛を与えるとは……!」 夏子 「ち、ちがっ───そんなつもりじゃ───!」 閏璃 「そんな裏があったとは……!     ……俺、提督さんのあんな苦しそうな涙、初めてみたぞ?」 ナギー『ヒ、ヒロミツ……大丈夫なのじゃ、わしらはおぬしを信じるから、の……?』 中井出「な、泣いてなんかないわよっ!《ポッ》」 レイル「気持ち悪いな、改めて」 中井出「直球でひでぇ!!」 努めて明るく出た僕の威勢は“気持ち悪い”の一言で叩き落とされた。 だけどその遠慮のなさで、少しだけ救われた気がした。 ……弱ぇえええなぁ俺……もう挫けそうだよ。 他の世界のやつらからすれば、やっぱり所詮地界人ってところなのかな。 洗脳の一つにも抗えなかったくらいだ、そんなもんなのかもしれない。 でもね、僕は人であることを、地界人であることを捨てません。 洗脳に弱いからなんだい、俺は俺の道をゆく。 彰利 「───……中井出YO」 中井出「なんだYO」 彰利 「キミの未来を覗こうとしたんだけど、覗けなかった。     これってどういうプロテクト?」 中井出「グフフ、ルドラプロテクトだ。     この博光のプライバシーはルドラの力によって封印されているのよ……!     その力、ノートン先生でも覗ききれぬほどのもの!」 彰利 「マジですか!?」 悠介 「それって、さっき言ってた“死ぬ”っていうのに繋がってたりするのか?」 中井出「いえ全然。だってウソだし」 悠介 「………」 彰利 「………」 とても痛ましい視線が集中しました。 まあ、ああいう状況で言った言葉だ、 こんな返し方したらヘンな目で見られることくらい予想済みよ。 でもまあこれがノートン先生の望んでる状況みたいだし……いいか。 たまには少しくらい腐らせてほしい。 特に、こんな心が挫けそうな時くらい。 ───ややあって、その場に居た全員が苛立ちを隠せないままに解散する中、 窓の傍に近寄って溜め息を吐いていると、 ノートン先生が静かに近寄ってきて、小声で話し掛けてきた。 ノート『……すまないな。嫌な役ばかりを押し付ける』 中井出「未来のことか?それとも今のことか?」 ノート『どっちもだ。皆殺しは流石にこたえただろう」 中井出「……こたえすぎだ」 ノート『常人ならば精神崩壊くらいはしていそうなものだが……汝を選んで正解だったな』 中井出「それって……」 俺だったら乗り切れるって、想定しての作戦だったってことか? …………。 中井出「……いいや、過ぎたことぐちぐち言ってもつまらないし。     なぁ、俺が利用されるのってこれだけか?」 ノート『………………』 中井出「ノートン先生?」 ノート『……汝は欲が無いな。殴られるつもりで、カドの立つ言い方をしたのだがな』 中井出「怒り任せで動くと、大体つまらない結果が追ってくるんだよ。     リヴァイアさんに怒鳴り返した時だって、心ン中はつまらないって言葉だらけだ。     ……俺さ、今になっていろいろ考えたよ。     あんまり頭いい方じゃないけど、いっぱい考えた。     どれだけ威勢よく胸張ってても、どれだけ変わっていったとしても、     結局俺達は人間として生まれた時点で、人間のルールに縛られてるだろ?     で、そのルールってのは親から子に伝わるもので、     俺はその親が物心ついた時には殺されてて……     心を許そうと思った途端にばーさんが死んで、     あとにはあまり喋らない、感情表現が苦手なじーさんだけが残った」 ノート『ふむ……』 中井出「常識破りがどうだこうだとか、     俺はそんなことばっかりやって周りを楽しませたり驚かせたりしてきたけどさ。     それって結局……周囲のやつらより、     “人としてのルール”ってのを知らなかったからなんだよな。     両親が居なくて、ばーさんも死んじゃって、俺は……」 ノート『…………ふむ』 中井出「心が壊れてたんじゃない。……壊れるほど、心が成長してくれてなかったんだ。     だから俺はムチャも出来たし、頭の中がいつまで経っても子供で───」 ノート『……中井出博光。言いたくはないが───』 中井出「……解ってる。感じてるんだ……イドの力の他に、ルドラの力が働き始めてる。     これが広まったら……俺、多分孤独になる。思い出も約束も、全部無くされて。     解ってるから覚悟決めて、どんな状況でも楽しめるようにって……     でも……でもさ……」 ノート『………』 中井出「子供ってさ、一人じゃなんにも出来なくて……     周りに一緒に騒いでくれるヤツがいないと、ほんとにただの静かなやつでさ……     それに気づいたら寂しくて、悲しくて……」 ノート『……………すまなかった』 子供みたいに泣きじゃくり始めた俺に向けて、精霊王は静かに謝罪を述べた。 ……この日。 ただの平和なオフ日の翌日になる筈だった今日。 俺は……ガキの頃から大切にしていた絆を、静かに……断ち切った。 それに反論するヤツは誰も居なくて、むしろ賛成するものだけがそこに居た。 傍に残ってくれたのはほんの数名。 妻と娘とも縁を切ることで決着され、やっぱり俺は……理想に辿り着けないままに、 セミが鳴き始めた夏の景色を、窓越しに眺めた。 静かに……ただ、静かに。 今尚脇腹に走る痛みを噛み締めながら。 中井出「ところでさ、僕このブリュンヒルデ式村人の服アーマーの下、     女もののままなんだけど……どうしよう」 ノート『……それを私に訊くか』 でもシリアスは好きじゃないので一応オチはつけておきましょう。 俺、衣服の中身がオカマチックな状態で大量虐殺するという、 前代未聞をやってのけたようです。 うわー嬉しくねぇ……。 彰利 「クォックォックォッ……話は全て聞かせてもらったぜ……!」 中井出「この変態が!」 彰利 「変態はテメーでしょうが中井出この野郎!!」 中井出「しまったそれもそうだった!」 彰利 「ギャア!あっさり納得しやがったよこの野郎!!」 中井出「というわけで少しの間腐りたいからそっとしといて?     大体俺、大虐殺したのに風呂にも入ってないよ。     て、いうか、さ……目に入った返り血がこびりついたみたいに取れなくてさ……     ずっと左目の視界が赤い気がして…………」 彰利 「う、ぬ……そりゃあ……」 ノート『見せてみろ』 ノートン先生が僕のフェイスをガッと両手で掴み、僕の目を覗き込んでくる。 その目が僕の中の隅々を覗き込んでいるような気がして、 僕はお返しに─── 中井出「超〜〜〜眼〜〜〜力〜〜〜〜!!《キュミミミミィイイン!!》」 出来もしない洗脳パワーをやってみようとした……ら、 その後私はどうしてか怒り心頭の精霊王にボコボコにされた。 …………。 ……。 彰利 「ほんで?なんじゃいルドラの力って。     解ってる部分だけでいいから、ほら、おいさんに話してみ?     聞くだけ聞いてやるきに」 中井出「うむ。では話してしんぜようぞ。偉そうに知賢者が如く」 彰利 「フツーに話せコノヤロウ」 ボコボコ状態から復活して少々。 あんまりにも暗い雰囲気なもんだから、 てっとり早く朝食を片付けて晦ルームに戻ってきた俺は、 僕側に着いてくれた人々…… 彰利が言うには“主人公チーム”を前に口を開かんとしていた。 ……まあ、食べたモン全部モドしちまったけど。 ごめん、櫻子さん。……って、あれ?閏璃がいねー。……まあいいや。 中井出「よぅくお聞き、この血濡れの博光の話を。     メシのあとに風呂に入りたかったのに、     周りのヤツが“血生臭くなるから入るんじゃねぇ”と僕を退けたゆえに、     未だ血まみれなままの僕の話を」 彰利 「聞くからさっさと話せ中井出この野郎!!」 中井出「うるせーーーーっ!!悲しみにくらい浸らせてくれたっていいじゃないか!」 遥一郎「いや、血まみれの人を前にして、     平然と座って話聞けるほうがどうかしてないか?」 柾樹 「そこは逞しさでカバーってことで」 凍弥 「どんな逞しさだよそれ」 中井出「世界を崩壊させんほどの力です」 ゼット「それは興味が深く持てそうだな」 レイル「主にどんな成分で出来てるんだ?」 中井出「100%果汁入りの逞しさと力です」 つーか話が進みません。 中井出「じゃあ、話を戻そう。えーとだね、武具に仕掛けられてて、     これより発動せんとしているルドラパワーはね?」 悠介 「ルドラパワーは……?」 中井出「ズバリ!記憶消去の術である!《バゴシャア!》ニーチェ!!」 語った途端に晦の拳が飛んで来た! な、何故!?今の言葉の何処に殴られる理由があると!? 悠介 「なんでそんな大事なことをもったいぶって言いやがるかあんたはぁーーーっ!!」 あ、ああ……そういう理由なの? でもなんていうか、理由そのものが明確化されてないような気がしますよ? 中井出「なんで……!?フフ、その方がおも《バゴォ!》ニーチェ!     い、いやあのちょ《バゴォ!》ニーチェ!ま、まだ喋《バゴォ!》ニーチェ!!     ままま待《バゴォ!》ニーチェ!!やめて待ってやめ《バゴォ!》ニーチェ!!」 悠介 「そりゃなにか!?このままだとあんたの記憶が無くなるってことか!     無くなって勧誘されたらホイホイついていくってことかぁっ!」 中井出「違うわバカモン!消えるのは貴様らの中のこの博光の記憶よ!」 数人 『なお悪いわぁーーーーーーーっ!!!』  ボガボガボガボガ!! 中井出「ギャーーーーーーーッ!!」 殴られました。 それはもう、何様のつもりだーって感じでボコボコに。 どうしてそんな感覚で殴られるのかは解らんのだが、 ただ殴られるのも面白くないので反撃に出てみることにした。 ……勝てる自信全然無いけど。 Next Menu back