───別離の朝/継続と終末の世界へ───
【ケース657:岡田省吾/さよならも言えずに、ただ消えゆく絆】 ……空が青かった。 仰いでみたそれは、白い雲をところどころに設置した天井で。 眩しい太陽を手の影で遮って、俺はそれを見上げていた。 岡田 「───」 蒼空院邸の庭に風が駆けてゆく。 “中井出”との一件があってから少し。 重苦しい雰囲気の中で朝食を済ませた俺は、 みんなが散り散りになってそれぞれの時間を過ごす中で、 庭の片隅で日向ぼっこめいたものをしていた。 日向ぼっこをするにはまだ陽が斜なのだが、まあ夏の日の世迷言だ。 暑い頃合もじきにくるだろう、それまでに涼しさを身体に溜めるのも悪くない。 ナギー『……かような場所におったか』 岡田 「お?……なんだ、ナギ子か」 ナギー『ナギーと呼ぶのじゃ、まったく』 ぷんすかという擬音が似合いそうな顔で、 腰に手を当てて頬を膨らますちっこい精霊が、 いつの間にやら芝生に座る俺の前に立っていた。 岡田 「俺になんか用か?」 ナギー『おぬしだけではないがの。     他の誰を捕まえようにも、みんな一様に逃げおるのじゃ。     じゃからの、ここでボ〜っとしていたおぬしを見つけて、     こうして音を立てずに近寄った次第じゃ』 それはそれは……。 で、まあこのタイミングで話って言ったら……中井出のことだろうな。 岡田 「中井出のことか?」 ナギー『…………提督とは呼ばぬのじゃな』 岡田 「解散したんだから当然だろ。俺達ゃただの昔のクラスメイツになっただけだ」 ナギー『何故じゃ……何故ヒロミツから離れてゆく。     あれだけ楽しさも笑顔も共有してきた仲じゃろう……?     わしなんぞよりよほどヒロミツと一緒に居たのじゃろ……?     何故今のヒロミツを一人ぼっちにするのじゃ……』 岡田 「………」 ナギー『わしは……ヒロミツのあんな悲しそうな顔、見たことがない……。     まるで子供じゃ……大事な友達と永遠の別れをしてしまった子供のような……。     わしは……わしはあんな顔のヒロミツ、見とうない……』 岡田 「…………なぁナギ子」 ナギー『な、なんじゃ?ヒロミツを元気づけてくれるのかっ?』 岡田 「元気づける?ハ、ごめんだね。誰があんな殺人鬼を」 ナギー『───!?オカダ!おぬし!』 岡田 「事実だ」 ナギー『…………!』 ナギ子がギリ……と歯を食いしばる。 悔しそうな目で、落胆した目で俺を見ながら。 やがて“もういいのじゃっ!”と涙声で吐き捨てると、 空を飛ぶこともせずサクサクと芝生を歩き、視界の中から消えうせた。 岡田 「…………はぁ。まったく……」 呼びかけを勝手に勘違いされて、一方的に怒鳴られちゃあたまらないんだけどな。 岡田 「中井出のヤロウ……次ぶつかった時は絶対にブチノメしてやる」 つくづく呆れる。 洗脳されて人を殺して、なにかに謝ることもせずに、 せっかくの機会を無為にして同じ相手を二度殺す。 そこまでしてもまだ笑ってやがったあいつにはさすがに呆れた。 メシの時も平然とした顔で食ってたし。 あんな視線の集中する中でよくもまあって思った。 でも……───そのあと、あいつがそれらを全部モドしていたのを知ってる。 は〜あ……ほんと妙なところで義理堅いっていうか。 勝手に解散させるわ孤立するわ、そのくせどんな時でもふざけるし。 あいつの頭の中だけは、どれだけ先読みしようとしたって出来るもんじゃないだろう。 閏璃 「俺登場」 岡田 「………突拍子を要求したいんだが」 閏璃 「ソールドアウト。要予約だ」 岡田 「横流ししてくれ」 閏璃 「構わんが、突拍子ってどうやって認識させればいいんだろうか」 岡田 「…………今更だな」 閏璃 「苦しゅうない」 返事の時点で訳の解らんやつだった。 閏璃 「で、だけど。お前らってほんと仲間思いだよな」 岡田 「んー……?なんのことだー……?」 閏璃 「フッ……この閏璃凍弥、     女心には来流美からダメだし食らい放題ライセンス獲得者だが、     男の友情的なものにはうざったいくらいに敏感よ」 岡田 「だったら男らしく無言で通せよ。     そういうことベラベラ言われるのは好きじゃない」 閏璃 「なにぃ、だったら男らしくないと言われないように柿崎をモロッコに飛ばして、     それから貴様に───」 岡田 「柿崎氏めっちゃくちゃ関係ないよね!?」 けど……そっか。 こいつにゃ解ったか。 でもま、それならいい。 ノートン先生が線を引くための言葉を放った時、 少なくとも晦と弦月とナギーとシードが踏み出すことは読んでいた。 だからこそ俺達は前に出ず、中井出の出方を見た。 べつに死んだやつらに謝れとか、そんなチンケなことを言うつもりはない。 謝ったところで取り返しはつかないし、 中井出は自分なりの方法で償うつもりだってのは、表情を見ただけで解ったから。 けど、だからって仲間だから仲間だからって理由で、なんでもかんでも許すのは違う。 仲間だからこそ、大切なメイツだからこそ突き放した。 そして、中井出は多分俺達の魂胆なんて解りきってる。 解りきってる上で、孤立する方向を選んで…… どう償うのかをこれからじっくり考えてゆくのだろう。 アイツとの付き合いももう随分になる……それくらいは解ってやれてるつもりだ。 中井出、なんて呼んでるのも解散したことが事実だからだし、 殺人鬼って呼ぶのもあいつがそれを受け入れてるから。 あいつは普段は滅茶苦茶なくせに、 受け入れるって決めたものはなんだろうが受け止めちまうから。 あいつの“覚悟”ってのはようするに、こうしなきゃいけないって決めちまうことだ。 ……子供なんだよな、あいつは。 だからコレと決めないと不安定にしか動けない。 その代わり、決めてしまえば揺るがない。 だから真っ直ぐに馬鹿で、真っ直ぐにガキらしい。 岡田 「………」 閏璃 「4年に一度の奇跡を俺に」 岡田 「閏年か」 閏璃 「沈黙されてると寂しくてな。で、いつ頃原中は復活するんだ?」 岡田 「……多分、永久に無理だろうな。ハンパな覚悟じゃ解散なんて言わないよ。     原中ってのは俺達にとっての楽園時代で、     特に晦、弦月、中井出にとっちゃ大事すぎる世界だった筈だ」 両親やばーさまを亡くしたあいつが救われた場所があそこだ。 それこそ、中井出の口から解散なんて言葉が出たこと自体が奇跡に近しい。 そうだ……あいつは平気なフリをしてるけど、人を殺して平気で居られるわけがない。 俺達にしてみれば、 少し会わなかった仲間が無理矢理殺人犯に仕立て上げられたような状況だ。 どちらかといえばそれを仕向けたイドや、 止めもしなかったノートン先生たちを責めたいくらいだ。 でも……言ったところでしょうがねーからしない。 俺達はそういう気軽さの下に集って、今まで馬鹿をやってきたのだから。 閏璃 「仲間も友達も、複雑なもんだな。あ、ちなみに俺がこっち側に踏み込んだのは、     ただ純粋にそれもいいか〜って思ったからだ。     えーと、なんだ?力つけたりなんだりしてるけどさ、     これって結局なにかを討伐したりするための力だろ?     振るえば強いモンスターだって倒せるってくらいの。     実際モンスター殺したりしたからさ、殺すって意味は多少は解る。     捕食のためとか武器のためとか経験のためとか、     それって結局は命の遣り取りだろ?」 岡田 「ああ。それは俺達も何度も考えてることだ。     ……結局のところ、今のヒロラインは今の空界なんだ。     で、敵が帝国になったってのは未来と重ねた世界。     人の手に落ちて濁ってしまった世界を、お前らならどうするかって世界だ。     これで“気に食わないから”って帝国を潰せば俺達はルドラになって、     だからってそのままの状態を続けさせても結局はルドラ。     つまり……俺達の意思が試される世界だ」 閏璃 「モンスターを殺したり捕らえたりして売り物にしたり闘技場の出し物にしたり。     そんなことを平然とやりながら、逆に強大なモンスター……     たとえばデスゲイズに出会ったとして、     知り合いがそいつに食われたりすれば怒る。     結局さ、空界のやつらが言ってることってのはそこなんだよな。     自種族が一番偉いってわけでもないだろうけど、近いことを考えてる。     自分たちだって面白半分実験半分でモンスターを殺したことがあるだろうに。     ……とくに、あのヤム子さんは」 たとえばドラゴンに突然襲われたとして、 それが食事のためだとしたらそれを許せるだろうか。 ああ、許せるわけがない。 モンスターだからいいじゃないかなんて話をしてるんじゃない。 狩る者の方が偉いんだって言うなら、 そのドラゴンに食われるヤツは文句なんて言えないんだから。 岡田 「悔しいのも悲しいのも解るよな……うん、それは解る。     けど、どんなに辛かろうが無くなっちまったもんは戻らない……んだよな」 閏璃 「おお、戻らんとも。結局どの種族も自分が一番なんだって心の中で思ってる。     知り合いを殺された痛みはそりゃあ大変なものだろうけど、     ……まあ、当事者になってみなけりゃ解らないこともあるだろうけど、     だからこそ余計に、自分が“殺してしまったヤツ”の立場になってみなけりゃ     解らないこともあるよな」 ……この場合、中井出の立場だ。 閏璃 「ハッキリ言うけどな、提督さんの記憶の中、ひどいもんだったぞ?     ……子供を殺す時や、その時の親の表情なんてもう見れたもんじゃなかった。     見れたもんじゃなかったんだけど……───     ……正直な、一番最後……老夫婦を殺す時ほどの絶望……俺、知らない」 岡田 「───」 老夫婦。 それは…………まずった。 中井出にとって、老人殺しはあまりに残酷だ。 あの中井出が泣くわけだ……突き放さずに傍に居てやるべきだった……今回ばっかりは。 閏璃 「見てるこっちの頭が割れそうになるくらい、物凄い声で泣くんだよ……心がさ。     苦しくて悲しくて、痛くて辛くて悔しくて……     そんなものが極まった時、俺……吐いてた」 ……中井出にとって、祖父母は大切な存在だ。 自分の命を救ってくれて、自分を赦してくれた人達。 いわば、中井出が中井出たるための軌道……いや、始点といえる存在。 ある日に祖母を死なせ、ある日に祖父を失った。 早くに亡くしてしまった両親よりも、祖父母への思いこそが高かったに違いない。 だからこそ、老夫婦を殺すなんてこと……あいつにとっては相当な苦痛になる。 なのにあいつは受け入れた。 受け入れて、我を通して、憎まれることになっても自分を曲げないと。 岡田 「……まいったな、ほんと……」 強いって言うんじゃない。 あいつはもう、どうしようもないくらいに弱い。 あれじゃあ自分が信じた覚悟って旗を精一杯に振りかざして、 ここは自分の秘密基地だって泣きながら大人に講義する子供だ。 それでも大人の理屈に負けないほどの覚悟だったから、今まで勝ってこれた。 全部が屁理屈で、全部が出鱈目ばっかの意地と覚悟。 それがそんなに強かった理由は、やっぱり─── 岡田 「………」 声には出さなかったけど、自然と口が“ありがとう”と動いた。 俺達との時間をそんなにも大切に思ってくれて、ありがとう、と。 そうだ……俺達は原中でいろんなことを学んだ。 きっと他では、一生かかっても知ることの出来なかった“楽しむこと”の面白さ。 仲間を信じるということの大切さ。 そして、誰かと一緒に笑えることの嬉しさ。 それを誰よりも噛み締めてた中井出が解散を唱えたんだ、 心のダメージは本当に、相当なものだったのだろう。 でもこれですぐに仲直りするのはやっぱり違うから、俺はあいつに歩み寄らない。 他のやつらもそうだろう。 ヒロライン中で結構付き合いが長かった元提督軍なんかには、 この状況は結構辛いかもしれない。 だからこそ木村も赦すきっかけが欲しくてあんなことをした…… そんなことはすぐに解った。 それが中井出の傷口を抉ることになるなんて、予想もつかなかっただろう。 普通なら赦しを乞う場面だろうが、相手が悪すぎだ。 提督は自分の命を大事にしてるから、 自分を殺そうとするヤツは自分が殺してしまった相手だろうが殺す。 口々に言ってたことじゃないか、相手が誰だろうが、殺しにくるなら殺すって。 それを実行して見せただけだ、今更あーだこーだ言うつもりは全然ない。 本当にやるとは思わなかった〜、とか言って距離を取る馬鹿野郎どもとは違うんだ。 閏璃 「しっかしまさか絶縁までするとは思わなかったな」 岡田 「んあ?……ああ、綾瀬とか。そりゃしゃあないだろ、娘の友達全員惨殺だろ?     正気なヤツだったら、どういう理由があろうと、     大量殺人をしたやつと親子関係保っていたくないって」 閏璃 「その点で言うとお前らはどうなんだ?俺はべつに提督さんが変わらん限りは、     変わった先が俺の嫌いなタイプでなければ構わんが」 岡田 「お前も結構神経ズ太いなぁ。まあ俺らもだけど。     殺人して変わるのは大体が周りだろうからさ、俺達は変わってやらんつもりだ。     大体、ノートン先生もノートン先生だ。     信用できるヤツはこちらに来い、とか言われたって行くわけがないじゃないか」 閏璃 「ん?何故?」 岡田 「仲間意識を試されてるみたいでムカツいた。     俺ら原中は今更そんなもん試さなくても仲間だ。     ……大体コトの発端は精霊どもだろ?最果てのイドがやったにせよ、     精霊たちはてんで助けようとも止めようともしなかった。     それなのに信用がどうとかってアホゥじゃねぇかって本気で思ったわ」 閏璃 「俺はそう思った上でこっち側を選んだが」 岡田 「……楽しそうでいいな、お前」 つまんない事件の所為でつまんない事態になっちまった。 どうしてここで原中を巻き込むかね、あの精霊どもは……。 閏璃 「解散ってことになったけど、     提督さん抜きにしてお前らは原中として楽しむんだろ?」 岡田 「馬鹿言え、原中は中井出あっての原中だ。     あいつを無理矢理中心に置いてるから俺達はバラバラにならなかった。     あいつが抜けた今じゃあ、なにやったって空回りばっかだよ。     楽しいことを無理矢理探そうとしたって、中身のないモノばっかりになる」 閏璃 「…………ちゃんと提督してたんだなぁあいつって」 閏璃が感心したような声で言う。 そらそうだ、あいつを提督として中心に置いてから、俺達の日常は大きく変わった。 今さら誰かをリーダーにしても、リーダーをつくらなくても。バランスなんて保てない。 だから原中は終わった。……もう、終わったんだ。 中井出はもう原中迷惑部を結成するつもりはないだろう。 人間である以上、罪の意識が沸かないわけもない。 だから提督の座から遠ざかる意味も込めて解散を唱えたんだろうし、ヒロラインでだって、 あいつは自分が封印状態であることに今は安堵しているところだと思う。 岡田 「…………あー……つまんねー……」 ぼやきながら倒れた。 仰向けに仰ぐ空にはまだ太陽が昇ってきていない。 昼にはまだまだ時間があって、それを待つより早く俺達はヒロラインへと降りるだろう。 昨日までだったら意気揚々とその時を待ったんだろうが、今の俺は心の中が腐っていた。 なんていうのか……いろいろなものが彩りを失って見えて仕方ない。 メシの時にも思ったが、それはメイツ全員がそうであると確信が持てる。 ……殊戸瀬の落ち込み様といったらなかったな。 丘野が何言っても呆然状態だ。 なんだかんだで原中にはかなり感謝してたヤツだったからな……しょうがないよな。 ……なんて思ってた時だった。 声  「しっぽぉーーーーーーーーーの無いせぇーーーんしったっちぃーーーーっ!!     ぜぇーーんいぃーーんしゅーーーごーーーじゅーーぅにっにぃん!!     メイドォーーーーーさんがだぁーーーいすっきっさぁーーーーっ!!     この身にぃーーー賭けて愛しますっ!うぇーーーーーーい!!!     え?あれ?なんで怒り顔でギャアーーーーーーーーーッ!!!」  ドガァシャァアアンッ!!! 二階の晦の部屋の窓ガラスをぶち破って、弦月が落下してきた。 んでもって器用に顔面から庭へと落下する。 彰利 「おあがいぢぢぢ……!!……アッ!見つけたぞっ!」 閏璃 「え?俺?」 で、起き上がるや閏璃を指差して漂流教室の飢えた子供みたいな顔で叫ぶ。 ……あんなことのあとなのに元気だ。 彰利 「貴様が居なけりゃ全員集合12人じゃねーでしょうが!     来るンだッ!俺達で主人公チームを結成するんだぜ!」 閏璃 「面白そうだから是非乗るけど言ってる意味が解らんから説明を求む!」 彰利 「OK説明しよう!主人公チームとはあらゆる町、あらゆる人垣の中、     何気なく中心に居るっぽくね?と若者風に疑問に思うヤツを募った集まり!     即ち稲岬街よりホギー!昂風街・友の里より貴様!月詠街・朧月より悠介!     昂風街・ガキの集いより柾樹坊主!未来・昂風街より小僧こと凍弥!     月詠街・月の家系代表弦月より美しき魔闘家アタイ!!     そんでもって地界を代表する最強にして最弱の地界人!中井出博光!     あとはその他ってことで」 閏璃 「その他の扱いがあまりにもひどいな」 補足して言うと、ルナさんは死神代表、ゼットは竜王代表、 ナギ子はヒロライン・精霊の部代表、種坊主はヒロライン・魔族代表ってところか? もちろんレイル氏は天界代表ってことで。 ……主人公なのか?これって。 彰利 「これを新たな魔王軍として発足。帝国の奴らを征服します」 閏璃 「……征服したらルドラたちの思い通りになるんじゃないか?」 彰利 「世界は壊さんよ。征服するの。そんでもってね?     古の技術とともに静かに暮らす方向を選ぶの。     ファンタジーってのはよぅ、どちらか一方が強すぎちゃあ長続きしねぇのよ。     竜族がモンスター食らって、     モンスターが人間食らって、とかいろいろあるけどさ。     ンマー中井出の例もあるように、     人間が竜を食らうことだってやりようによっちゃあ出来るっしょ?     でも強い竜にはさすがに勝てん。     モンスターにしたって強いの弱いのがピンキリさ。     だから均衡たもってられんのよ。     どれかひとつの種族が強くなりすぎた世界などつまらんのよね。     だからツブします。過去の技術?上等じゃねーの。ブッ潰してやんよ」 岡田 「……楽しそうだな」 彰利 「オウヨ。原中は無くなっちまったけど、まあこっちにゃ中井出がおるから。     今相当腐っとるけど、それもちょほいとの辛抱じゃわい。     人殺しってのは相当重いけどね、幸いにもあいつぁ常識破壊の帝王じゃわい。     ど〜せもう、“罪の意識だけに潰されてちゃつまらない”って考えに───     ……ああいや、もう至ってるじゃろうね。     じゃなきゃアタイをブン投げたりしねーワ」 岡田 「うわーあ」 さすが中井出だ。 場が、自分が暗くても、意地でも明るくする修羅だなあいつは。 彰利 「………」 岡田 「?」 ふと。 なにか弦月の態度に違和感を感じて、その目を見た。 ……ざわり、と妙な……そうだな、胸騒ぎみたいなものを感じた。 緊張にも似た、初めて仕事の面接をしに行った時みたいな……いや、それ以上の。 彰利 「…………みんなで騒げるのも今朝が最後になっちまった」 岡田 「へ?」 急な真顔だった。 真剣な目が、俺の目を見ている。 その意味が掴めなくて、俺は赤い瞳の奥を探ろうとする。 彰利 「もう……原中は戻らない。どんなに願っても、不可能になっちまった。     ……たとえ、中井出がそう願ってもだ」 岡田 「ああ、そりゃそうだろ。あんなことのあとじゃ───」 彰利 「間違っててもいい。今回だけは無理にでも前に出るべきだったんだ。     その所為で、全部無くなる」 岡田 「……?なんのこ───《チッ……》いつっ……?な、なんだ……?」 チクリ、と頭が痛んだ。 それと同時に…………なにを考えてたのかを忘れた。 いや、解らなくなった。 岡田 「……あれ?……なんの話してたんだっけか」 閏璃 「お?……健忘症か?」 彰利 「……んにゃ、チゲーよ。忘れちまったのさ……中井出のこと」 閏璃 「……へ?」 ナカイデ?……なんだそりゃ、食いモンか? あれ……ちょっと待て、ナカイデって響き、なんか……あれ……? 彰利 「ルドラはな、どういうわけか本気で中井出のことを傍に置きたかったみたいだ。     だからこんな置き土産をした。     イドの洗脳で人を殺して、いろんなヤツらに疎遠にされて、     それでも中井出が俺達の傍を離れなかった時───     俺達の中から中井出自身の記憶を消しちまう、って方法を取ってでも」 閏璃 「な、なんだそりゃちょっと待ちなさいそこゆくトンガリくん!     どうしてそこまでする必要があるんだ!?……あ、いや……そうか……。     提督さんが“仲間を失えば”自分のところに来るだろうって踏んだからか……」 彰利 「そゆこと。んで、俺達が平気なのは“一線”より中に招いてくれたから。     スッピーがそういった線を引いてくれたのよ。だから覚えてられる。     その代わり、ってわけでもねーけど……他のやつの記憶からは、     “中井出博光”って存在だけが消される。     出会ってもいなかったし、生まれてもいなかったことになる。     どれだけ違和感が残ろうが、違和感を埋める存在を思い出すこともないんだとさ」 閏璃 「そりゃ…………」 岡田 「なぁ、その中井出博光っての、どっかで《ズキィッ!》いづっ!?     …………あ、あれ?ナカ……あ、すまん、勘違いだ。     そんなのにピンとくる材料が知識の中に無いわ。     王様はロバに出てくるヤツの名前だっけか」 彰利 「……完全にトんだね。さよなら岡田くん、そして原中」 岡田 「ハラチュー?……中学の名前だろ、それ。まだ中学生気分か?」 閏璃 「……あっちゃぁ……」 弦月と閏璃が気まずそうな顔で俺を見る。 ……な、なんだ?なんで……って、あれ? そういやなんで俺、ここに居るんだっけ。 えーと……本気で健忘症か? ま、待て待て、この町に居るのは同窓会の延長で、 ヒロラインを始めたのもひたすらに楽しむため。 ……あれ?どうしてヒロラインなんて名前になったんだっけ。 博光の野望?……博光ってなんだ? ………《ザザッ》………まあ、ノリでつけただけか。 岡田 「………」 頭の中にノイズが走る度に、頭の中が無理矢理に整理されていく気分。 なにか……手放しちゃいけない大切なものがあった筈なのに、 その輪郭が整理とともに砕かれてゆく。 彰利 「ヘンな顔しとるね。教えてやろう。     貴様が疑問に思っているであろう中井出博光の名!     それはヒロラインにおける最強にして最弱の魔王の名よ!」 岡田 「え……いや、それは《ザザッ……》───あ、そ、そうか。そうだった、よな?」 また整理が始まる。 警鐘が鳴っているのにそれを止められないまま、 大切ななにかがどうでもいいものになっていき……やがて、気にすることさえなくなった。 二人はそれを確認するみたいに俺を見ると、ひどくやさしい顔をして去ってゆく。 ……俺は首を傾げながらも寝かせていた身体を起こすと、 芝生に手をついて立ち上がろうと─── 岡田 「ん……お?」 雨が降った。 なんかあったかい雨だったけど、芝生についた自分の手の甲に落ちたそれが、 ただただ……悲しくて仕方がなかった。 【ケース658:中井出博光/さよならなぞ言うつもりはなかった魔人】 ゴゴゴゴゴ…………! 中井出「ジョアジョアジョア……!     どうやら粗方のやつらの記憶は消えたようだなノートン先生……!」 晦ルームの窓から庭を見下ろしていたこの博光は、 まるで悪の権化のようなオーラを放っているよーな気分で、 初期のライトニング笑いをしていた。 ノート『その、なんだ。汝はもう少し周りとの繋がりの消滅に嘆くべきだと思うが』 中井出「そんなのは僕が決めることだい!だから大丈夫。     むしろ記憶が消える瞬間を眺めて楽しむ修羅になってみたかった。     謝謝!これでまた野望がひとつ叶いました!」 ノート『……マスター、私はここまで普通じゃない地界人など見たことがないのだが……』 悠介 「提督だし」 遥一郎「まあ……中井出だしな」 やっぱりものすげー納得のされ方だった。 俺……別の意味で人徳ありまくりみたい。 ナギー『ヒロミツは……寂しくないのかの?誰かに忘れられて』 中井出「いや、だってさ、相手は知らないのに僕だけ知ってるんだぞ?面白いじゃないか!     初対面なのに相手の恥という恥を知っている僕……!     今なら誰にでもストーカー扱いされる自信があるゼ」 彰利 「ゼじゃねーって」 中井出「おや彰利」 ニコリと微笑んでいると、ガチャッと登場彰利と……閏璃。 それとすまん、ニコリじゃなくてニヤリだった。 彰利 「いんやぁ、貴様のこと思いっきり忘れられてるワ。     ルドラの力ってすげーね、ここに居るアタイら以外全員だよ」 中井出「な?麻衣香と縁切っといて正解だったろ?」 彰利 「……ナルホロ、つまりそういう下準備だったわけね」 中井出「うむ。知らん相手が夫だっていうパターンも面白そうだって思ったんだけどね。     さすがにそれじゃあ紀裡が知らん男との間に出来た娘ってことになるだろ?     だからルドラパワーに頼んで麻衣香の記憶をいじくってもらった」 彰利 「出来んの!?そんなこと!」 中井出「ワハハハハ!!仕掛けだかなんだか知らんが!     武器に収まったからにはこの博光と一心同体よ!     仕掛けってのは一度発動しちまえばナリを潜めるもの!     だからね?残った力は使いたい放題なの」 数人 『ウワー……』 中井出「失敗を後悔だけにしない男……博光です《ぬぎっ》」 悠介 「脱ぐな」 とはいえいろいろ制限はある。 ルドラパワーが干渉した相手じゃなけりゃ記憶の改竄は出来ないし、 出来るとしても俺が本気で望んだことだけ。 だからこいつらには効かないし、そもそももう使うこともないだろう。 やるとしたら……そだな。 武器に残ったルドラパワーを武器の力として使いまくるくらいだ。 ……ちなみに空界のことは…… 実験の暴走で人々が全滅した〜って風に記憶の改竄してある。 俺のこと忘れたんじゃ、死因がはっきりしないだろうからね。 中井出「ゴヘヘハハハハ愚かよなルドラめが……!     この博光相手に自分の力を武器に残留させてしまう行為をさらすとは……!」 彰利 「や……多分結束力を恐れて、力を余計に入れといた〜とかだと思うよ?」 悠介 「提督が記憶の消去を嫌がって、抵抗するのを止める余力でもあったと思う」 遥一郎「それがあっさり受け入れられたもんだから、力が余りすぎたってことか……」 凍弥 「なんていうか……なぁ?」 柾樹 「敵ながら不憫だ……」 閏璃 「おまけにあんなことがあって仲違い中だったから、あっさり能力も通ったと」 ゼット「案外思慮が欠けているんじゃないか?」 悠介 「そこで俺を見るのはやめてくれ」 ナギー「まあよいのじゃ。覚えていられる者だけが覚えておれば」 シード『僕は父上のことを忘れたいなどとは……一度はありましたが、もう大丈夫です』 レイル「よく解らんやつだけど面白いヤツは嫌いじゃないしな」 ルナ 「まあ、退屈はしないだろーけどね」 中井出「ルナ子さんは晦の隣に居れば、それだけで退屈しないでしょ」 ルナ 「うっさいエロっち」 中井出「僕べつに今エロイこと言ってないよね!?」 人生、いろいろなことが起こります。 その中で、なにを受け入れるか、なにを弾くかなんてことは自分も含め、 周りや環境や状況が勝手に決めちまうことなんてしばしば。 だけど僕はこの状況を受け入れましょう。 忘れられたのは正直辛いけど、だからといって余生全てがつまらなくなるわけじゃない。 中井出「さあ気を取り直してサツジン=ハーンがゆく!     記憶がどうなろうが忘れられようが、     提督という存在から殺人犯に成り下がった僕がゆくよ!     さしあたり、僕は世界の魔王になります。     でも王様には興味ないので魔的な人間、魔人になります」 悠介 「そうか。俺はモンスターユニオンを復興させて魔王になる。     けど王様には興味がないから魔的な人間、魔人になる」 彰利 「なにぃ、だったらもう暴露するがアタイは獣人族の先行く修羅、獣王になる。     じゃけんどもはや王には興味がねーから獣人になる。     ……でもやっぱあまりに普通っぽいから魔人って名乗る」 遥一郎「じゃあ俺は……魔法使いの匠を目指してるからな。     魔法を使う人ってことで魔人を名乗る」 ゼット「では俺は魔竜化が可能な竜人ということで魔人を名乗ろう」 レイル「んじゃあ俺は魔王になる予定だけど、今はまだただの天界人だから魔人を名乗る」 シード『僕は魔王の子だけど魔王ではないから魔人を名乗ろう』 ナギー『む、むー……!むむむ……思いつかんのじゃー!ずるいのじゃずるいのじゃー!     ヒロミツ!わしにも魔人を名乗るための肩書きを用意するのじゃー!』 中井出「バカモーン!肩書きくらい己ででっちあげてみせんかー!」 ナギー『う、うぬう!なるほどこれは試練じゃな!?     よ、よーしでは弾き出してみせようぞ〜〜〜っ!!魔、魔……魔ぁああ……』 彰利 「のぉおおおおおおっ!!」 中井出「むしゃーーーーーーーっ!!」 ナギー『うるさいのじゃ黙っておれ!!』 二人 『すいま千円……』 怒られてしまった。 柾樹 「エー……っと。これって魔人の集いですか?」 彰利 「んにゃべつに。ただ面白そうだからそうしてるだけ。     それにほれ、魔王より……魔人のほうがカッコイイべや?」 中井出「その通りだ!王!?古来より要求されしはそんなものではなぁーーーーい!!     様々なものは人が作り上げてゆくのだ!     それが嫌だって理由の所為で人を殺した俺が言うのもなんだけど!」 ノート『いや……汝な』 彰利 「クズが!」 悠介 「カスが!」 レイル「ゲスが!」 閏璃 「アオミドロが!」 凍弥 「ケンミジンコが!」 柾樹 「ゾウリムシが!」 ノート『待て、何故罵倒の中に微生物が混ざる』 柾樹 「いや……常識的に考えても考えなくても、     自分の手を汚さずに人を皆殺しにしといてクズでもないって考えは甘すぎるかと」 ノート『それと微生物となんの関係があるという』 閏璃 「え?ミノカサゴのほうがよかった?」 ノート『そういう意味で言っているのではない』 そしてそれは微生物じゃない。 名前は大好きだけどね。 中井出「じゃあ間を取ってコンドロイチンで」 数人 『生物ですらねぇよそれ!!』 中井出「じゃあいいよもうマリモで!」 数人 『このマリモが!!』 中井出「え───あ、あれ!?なんで僕に言うの!?ねぇ!ちょ───違うよ!?     僕じゃなくてノートン先生が……あれぇ!?ち、違うって!僕マリモじゃない!     僕マリモじゃないよ!聞いてよ!ねぇ!聞いてったらぁ!!     ちが───ちょっと待ってなにエロマリモって!やめてよ!     なんで僕につけるあだ名とか名称にとことんエロをつけるの!?     違うったら!僕エロじゃないしマリモでもないよ!いやちょ、聞いてよ!ねぇ!」 言いたいことだけ言って放置!? え……俺マリモ確定!?しかもエロマリモ!? 中井出「…………そうか……僕マリモだったんだ…………」 閏璃 「おおっ!?なんか意外とあっさり受け入れた!?」 中井出「こう……こうね……?水槽の中でプカプカ浮いてさ……。     奇声を上げるノリさんにね……?ツンツンつつかれるんだ……」 彰利 「や、そのネタ知ってる人もういねーと思うのよアタイ」 中井出「そうだね」 ひどくあっさり納得した。 とんねるずは“おかげです”時代の方が面白かったよね、絶対に。 中井出「じゃあこれからのことをざっとまとめよう」 遥一郎「ああ、それならざっと纏めてある。まず中井出は封印中、     ナギーとシードはエーテルアロワノンごと帝国に捕らえられていて、     晦はモンスターユニオンの復興、ルナ子さんはその手伝いで、     弦月は獣人族の強化、レイルは魔王を目指してアイテム探索、     黒竜王は……解らないな。俺は……そうだな、中井出助けるのを手伝おう。     閏璃と凍弥と柾樹はどうする?」 閏璃 「まず世界を知るために遊ぶ」 凍弥 「俺は修行かな」 柾樹 「俺は───……その」 閏璃 「女の尻を追っかけるのか」 柾樹 「おっかけませんっ!……あの、誰でもいいんで、手伝ってもらえないっすか」 中井出「断る」 柾樹 「提督さん封印されてるじゃないですか!」 うん、言ってみたかっただけだし。 悠介 「柾樹、手伝いってのはなにに対するだ?」 柾樹 「その……ヒロラインの話なんですけど。     ちょっと、豆村と刹那がヤバいことになってるらしくて……」 中井出「そんなときにはこれをどうぞ」 僕はバックパックからゴゾリと出したグミを、彼の手を取ってクッと握らせた。 それを、マサキチくんはシゲシゲと見つめる。 柾樹 「これは?」 中井出「大虐殺記念に武器から生まれた所持数一個限定“アナゴグミ”だ。     それがあればいつでもバルバトスを一回だけ召喚できるそうです。     ちなみに効果はワールドデストロイヤー。敵も味方もぶるぅあああっと全滅」 柾樹 「いりませんよそんなの!!」 中井出「なんだとてめぇ!そんなのとはなんですかそんなのとは!人がせっかく───」 彰利 「くれ!」 悠介 「い、いや俺にくれ!全滅覚悟でデストロイ!なんて男らしい!     これぞまさに日本男児の生き様よ!というわけで俺に!」 閏璃 「いいや俺によこすんだ!帝国に突っ込んでいってこれで自爆してやる!」 レイル「おおっ!特攻か!そういうの好きだぞ!俺がやるから俺によこせ!」 中井出「あれぇ!?なんだか意外に大人気!?」 いろいろな方がアナゴグミをよこせと言ってきます! 何故!?バルバトスを召喚って、ろくでもないことだよ!? ……でもそこが博打心というか、 緊張感をそそるというかくすぐるというか……うんごめん、その気持ち解る。 中井出「ええい散れ散れ貴様ら恐れ多くもこれは悩み多き多感な少年の悩みをジェノサイド     してやろうと取り出した秘宝であるぞ!───ぬはぁっ!」 彰利 「おお!無駄に一息!でも最後の息継ぎがダセェ!」 中井出「うるさいよもう!」 閏璃 「……もう随分と元気だな。気は晴れたのか?」 中井出「晴れようが晴れまいが僕は元気だよ!」 彰利 「中井出だし。つーかこういう状況でもう随分元気になったね〜とか言うヤツって、     逆にこう……ねぇ?空気読めてねーよね絶対。     ドラマとか漫画とかアニメでそういうシーンが出てくると腹立つよ俺」 閏璃 「フフフ、もちろん解っててやったさ、ぬかりは無しぞ」 凍弥 「……だと思った」 柾樹 「俺も……」 レイル「やったな!理解されてるじゃないか!」 閏璃 「ありがとう炸裂ヘアー!」 ゼット「…………なるほど、炸裂しているな」 レイル「やかましいわムキムキマッチョメン!」 ナギー『話が一向にすすまんのう』 シード『それは、父上を信用する者たちの集いであれば今更だろう』 ナギー『……それもそうじゃな。よし、わしも混ぜるのじゃー!』 シード『父上!僕にもそのグミの詳細を───!』 ナギーとシードがこの博光目掛けて飛びつき、抱きついてくる。 それをしっかと受け止め、 ビッグプロブレムスープレックスで畳みに落とした刹那に僕らのバトルは始まった。 終始プロレス技のみで占められた攻撃手段を、笑い合いながら掛け合い、 俺がスタイナースクリュードライバーで畳みに突き刺ささり、 気絶した時点でバトルは終了。 ……世界はどこまでも平和でした。 少なくとも、俺達の間だけは。 意識してしまえば赤い景色を映す左目だけが、 いつまでも俺に殺人の手応えを思い出させ、ふとした瞬間に吐きそうになる。 それを楽しい時間で誤魔化している自分が、ひどくちっぽけに思える。 でも……やっぱり解決方法なんて今更存在しない。 殺人は犯した時点で取り返しがつかないのだから。 どうせ忘れられることが出来ないことだし、忘れたいとも思わない咎。 なら、辛さを背負いながらでも……楽しんだ者勝ちなんじゃないだろうか。 そう思えたら、少しは前向きになれたから。 中井出「……うし。俺ちょっと出かけてくる」 彰利 「俺も行くぜ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」 中井出「来んな」 彰利 「うお即答!!ちなみに何処に?尾行してやるから言えや」 中井出「容赦ないなぁお前……。あー、その、なんだ。墓参り」 彰利 「破瓜参りだと!?このエロスが!!」 中井出「どういう聴覚認識力してりゃあそう聞こえるんだこのホモが!!」 彰利 「ホモ言うなこのエロス!あたしゃもうホモホモ言われる筋合いなぞねーのよ!」 中井出「俺だってエロスじゃないもん!エロスなんて卒業したんだもん!」 彰利 「でも貴様、一人身になったわけじゃん?     だったらホレ、誰か意中のおなごとエロスに走れるわけで」 中井出「否!原中大原則ひとつ!原メイツたる者───」 彰利 「や、だから。その原中が消滅したんだってばよ」 中井出「───」 うあ……今ズキってきた。 もしかして俺、相当にヘコんでる? 中井出「う、うう……うううっ……!!」 彰利 「…………なぁ。ここは、泣いていい場面だと思うわけよ、俺」 中井出「う───うどん食いたい!!」 彰利 「なにぃ!?」 中井出「ななな泣かないもん!僕泣かないもん!ありがとう原中!だけどさよならだ!     俺は原中を愛していた!クラスメイツを宝のごとく慈しんでいた!     だがさよならだ!ありがとう青春!友情フォーエバァーーーーーーッ!!!     俺、これから強く生きていくよ!学んだこと、忘れない!     だから叫ぼう力の限り!だから叫ぼう愛ある限り!!     麻衣香あぁあーーーーーーっ!!愛してたぞぉおーーーーーーーっ!!     紀裡ぃいいーーーーーーっ!!お前は俺の数少ない誇りだったぁーーーーっ!!」 彰利 「中井出……」 涙は流さなかった。 流さないままにお別れを自らの口でしっかりと言って、本当に決着を。 さようなら、俺の家族。 俺、一人でも頑張って生きていくから。 だから、そのための勇気を貰うため……墓参りに行こう。 中井出「じゃあ僕行ってくるね?」 悠介 「切り替え早いな、相変わらず……」 ナギー『わしも行くのじゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!』 シード『僕も行くぜ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!』 中井出「や!だからね!?話進まないから!」 ナギー『なにを言うのじゃ!ヒロミツの親族ならばわしの家族も同然であろ!』 シード『そうです父上!なにを水臭い!』 中井出「水臭くないやい!僕今とっても血生臭いやい!」 悠介 「だったら身体くらい洗ってけ!」 中井出「みんなが僕の行水を邪魔するんじゃないか!」 彰利 「おっしゃあほいじゃあアタイが貴様を戦場してやるぜ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」 中井出「それはありがた───あれ?ね、ねぇ今“せんじょう”の部分に     やたらと闘争的な意味が込められてなかった?ねぇ。     洗浄だよね?ねぇ!?ちょ───なにそれ!     なんでアモルファスとかダークセンチネルとか出すの!?     ……え?あ、あれ?ホギー氏までどうして杖振りかざして……ま、魔法で洗う!?     じょじょじょ冗談じゃないよ!そういうパターンっていっつもひどい目に───     面白そうだじゃないよ!やめてレイル氏!     晦!止めて晦!僕だけじゃ止められなに目ェ輝かせてんの!?     違うよ!こんなの望んでないよ!創造の構えに入るのやめて!     ていうかなんでデッキブラシなの!?     もっとソフトな洗い心地のヤツのほう創造するでしょ普通!     人体を洗う物体じゃないよそれ!……え?じゃあ洗われる覚悟は出来たのか?     ち、違う!出来てない!やめてほんとやめて!     僕はいっつも身体はやさしく丁寧に洗って───やめヴァーーーーッ!!」 その後僕は、その場に居る全員と精霊の皆様に様々な手段で洗浄された。 ───……。 ……。 シュゴォオオオオオオオオオオオッ!!! パパァアアアアアアッ!!! 彰利 「うおっ!まぶしっ!」 閏璃 「提督さん……アンタ輝いてるぜ!───主に物理的な意味で」 中井出「あの……どうして窓から差す光程度でこうまで光りますか俺のボデー……」 柾樹 「それはあなたが中井出さんだからですよきっと」 中井出「理由になってないよねそれ……」 俺……中井出だから光り輝くんだ……。 中井出「あの……こんな格好じゃあ墓参りになんて───面白そうだ!」 悠介 「おおっ!?提督ハートに火がついた!」 彰利 「原中がなくなった今、もはやこれは原ソウルにあらず……なるほど、提督ハート!     でも語呂が悪いやね。エロソウルでいいっしょ」 中井出「ブッ殺すぞてめぇ!!」 彰利 「おー!?なんだコラやんのかコラ!!     このアタイが空界の人々と同じくそう易々と殺せると思ったら大間違いだぜ!」 遥一郎「って弦月!それは───!」 中井出「大丈夫!なにを隠そう、俺は強がりの達人だぁああーーーーーっ!!     受け入れたと言ったからには俺は立派なサツジン=ハーン!     逆にそれに対して気を使われる方が不愉快である!     でもあなたのそのやさしさに謝謝。かかってこいオラァ!!」 彰利 「どれ……手合わせ願おうか!」 中井出「断る!《どーーーん!!》」 彰利 「どうしろってのキミ!!」 中井出「うるせーーーーっ!!     これから墓参りだってのにシャイニングな俺の気持ち!誰が知る!     どーすんのこんなに神々しくなっちゃって!     これじゃあただの変人───はうあ!」 ピンと来た! そう、一人身になった僕にはもはや恥も外聞も必要ない! ならばこそ、それこそ変人にでもなった気分で行動することが可能なのだ! ……今までもそう変わらんほどだったかもだけど! そうときまればレッツビギンだ〜〜〜〜〜っ!!! ブリュンヒルデに意思を通してここをあーしてこれをこーして───メギャアア〜〜ン!! キモスト「車と……合体したい」 数人  『イエス!キモスト!!』 キモストになってみました。 もちろん装備は───  E:教祖さまの布服  E:神・オムツ  E:教祖サンダル ───だ。 そんな僕を見て親友が一言。 ゼット「……気持ち悪いな」 キモストですし。 悠介  「これで墓参りなんて罰当たりすぎるだろ……」 キモスト「常識なんぞ破壊するためにあるんです」 数人  『ああ……中井出だ……』 キモスト「今はキモストだってば!そしてキモストといえばやることは一つ!」 彰利  「……ああ、行ってこい」 閏璃  「俺……あんたを尊敬するぜ。マジでキモストをやるヤツが現れるとは……」 悠介  「身体の輝きも相まって、眩しいぜ提督……」 レイル 「布地からこぼれる光が気持ち悪すぎるんだが」 数人  『キモストだし』 そんなわけで、僕の勇気が試されるときが来ました。 親父にお袋、じーさんにばーさん、こんな末裔でごめんなさい。 キモスト「じゃあ……行ってくる」 数人  『レッツ・キモスト!』 彰利  「キモスト教に入会してから関節痛がひどくなりました」 悠介  「キモスト教に入会してから胃痛がひどくなりました」 閏璃  「キモスト教に入会してから眩暈がたびたび起こるようになりました」 凍弥  「キモスト教に入会してから車に轢かれる夢をみるようになりました」 柾樹  「キモスト教に入会してからとある歌が頭から離れません」 数人  『……クズが!!』 見事に全然崇められてない教祖様の誕生である。 泣いていいですか?殺人云々とは関係なしに。 ───……。 ……。 シュカァーーーーーーン!! キモスト「世界の始ま〜りのぉ日〜♪生命の〜樹のぉ下ぁでぇ〜♪      くじらたち〜の〜こ〜えの〜、遠い〜残響〜二人〜で聞いた♪」 フロートで浮きながらキモストがゆく。 胡坐をかいて、手をスゥ〜っと横に動かし、突然ガッツポーズみたいなポーズを取る。 いわゆるキモストアクションをしながら、物凄い速度で宙を浮きつつ道をゆく。 当然道行く人々は悲鳴をあげたりだの騒いだりだので大変。 だが構わん、なにせ今の僕はキモストなのだから。 キモスト「失くした〜もの〜すべ〜て〜♪愛した〜もの〜すべ〜て〜♪      この手に抱〜き〜し〜めて〜♪現在は何処をぉ〜ぅ、彷徨いゆ〜くのぉっ!」 その姿、さながら仙人。 見るがいい人々よ!我こそキモスト!ジーザス・キモイスト!!  バサァッ!! 人々 『ざわっ……!』 歌がいよいよノってきたところでフロートをやめ、 歩き始めるとともに教祖の布服をクロスアウッ!! 神・オムツと教祖サンダルのみとなり、くねくね動きながら道をゆく! 場所は既に月詠街!さあ行こう……墓場の果てまで! キモスト「こ〜たえの〜潜む〜琥珀の太陽〜〜〜〜〜〜〜〜♪      出〜会わな〜ければぁ殺戮のて〜〜んし〜でいられ〜た〜♪」 歩く最中、近くを擦れ違う人にヒップアタックしたり、 背伸びをするように神・オムツをキュッと締めるのも忘れない。 フハハハハ!若人たちが僕を撮る!ケータイとかいうもので僕を撮る! 写すがいいさこんな俺を!そして脳裏に焼き付けろ! 我こそキモスト!ジーザス・キモイスト!! キモスト「Fuu〜〜しなる〜股が〜キモス魂〜〜〜〜〜〜〜〜♪      傷つかな〜いで僕の羽ぇ〜〜ぃ♪この気持ち知〜るたぁめぇ、      うっまれてきぃたぁああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぁ《ドグシャア!》アゴォガ!!」 男性1 「ぼ、暴走車だぁーーーーーーっ!!」 男性2 「俺見たぜ!居眠り運転だ!」 女性1 「ヘンな男が轢かれたわ!」 女性2 「これでもかってくらいストレートに轢かれたわ!!」 男性3 「あ、あの速度じゃ絶対死───ぃえぇえええっ!!?      い、生きてる!生きてるぞぉーーーーーーーっ!!」 キモスト「い、一万年と二千年前から      あっいっしってるぅ《ドグシャア!》ウゴォガ!!!」 男性4 「起き上がって歌いながら歩いてたらまた轢かれたぞぉーーーっ!!」 男性5 「な、ナニモンだアイツはぁーーーー!……って生きてるぅうーーーっ!!」 キモスト「は、八千年……すぎた……頃、か……ら……」 打ち所が悪かったです。 だが血反吐を吐きながらでも蘇生するのがキモスト魂。 ───うむ!自然治癒であっさり回復! 一応VITマックスにして歌おう踊ろう突き進もう! キモスト「もぉと恋しくなぁあああーーーーーーーぁあたぁーーーーっ!!      一億とぉ二千ンンーーー年あぁとも      あっいっしってっるぅー《ギキィドグシャア!!》フォゲェオ!!」 男性1 「うわぁまた暴走車だぁあーーーーーっ!!」 男性2 「どういう日なんだ今日は!三回連続で居眠り運転かよ!      しかもヘンな男が三回とも轢かれたぞ!?」 うぐっ……う、うぐぅう……! 世界が……世界がキモストを必要としている……! まさかこうもタイミングよく暴走車がくるとは……! しかもバスっぽかったよ三台とも……どうかしてるよここ……。 でもやっぱり無視して歩き続けました。 脱いだ教祖様の布服も回収して。 ブリュンヒルデの一部だしね。 ───……。 ……。 ややあって、服を元に戻した俺は墓場の前に立っていた。 そういえば花を買ってなかったな、と思い、買いに行こうと思ったが───そうだ。 ビエネッタ騒動で金なんてすっからかんだったのだ。 ……溜め息ひとつ、ここは綺麗に掃除することで許してもらおうと苦笑した。  雑草も生え放題、長らく放置されていたソレは、随分とひどい有様になっていた。 それでも住職さんか誰かが時々掃除をしていてくれたのか、そこまではひどくなかった。 まずは雑草を取って……いや、雑草に語りかけて、 自然な形で墓石を守ってくれるようにとお願いした。 すると、綺麗に割れ、墓石の見栄えをよくするように曲がってくれる草葉たち。 それはまるで、よく出来た装飾みたいで、笑えた。  墓石を、水とブラシで磨いてゆく。 多分、これが最後だから。 朽ちかけた部分に大地の加護をあてがい、 補強し、密度を高め、一部の隙もない素晴らしい墓石へと変えてゆく! OK素晴らしい!これでコケどもも繁殖出来まい!  お供え物がなかったから、アップルグミとオレンジグミを置いてゆく。 あとは線香だな。 …………無いな、うん。 中井出「墓参りね……はは……」 金がなけりゃそんなことも出来ないのか……寂しい世の中だ。 こういうのは気持ちが大事っていうけど、線香くらいはあげたかった。 今はもう、武器の中でモノ言わぬ塊となってしまった俺の家族に。 中井出「……親父、お袋、じーさん、ばーさん……俺、もう戻ってこれないかもしれない」 小さく、墓石に向けて手を合わせながら言う。 中井出「ばーさんが救ってくれた命だけど、     この夏を乗り切れずに消えるかもしれないんだ」 それを謝りたくて俺はここに来たのだろうか。 …………違うな、謝りたかったんじゃない。 ただ、報告したかっただけなのだ。 あなたが救ってくれた命は、こんなにもこの世界を楽しむことが出来ました、って。 無くなってしまうかもしれない。 夏より先には歩いていけないかもしれない。 でも、たとえそうだとしても、 これまでの自分を、後悔はしてもやり直したいだなんて思わなかったよ、って。 中井出「もし生きて帰ってこれたら、その時はちゃんと花とかお菓子を供えるよ。     えーと、まあその、バイトでもなんでもしてさ」 そう言って、笑顔を見せてから歩き出す。 終わりか、それとも続きが待っている、ゲームの世界へと。 覚悟は決まった。 あとは……どれだけ突っ走れるかだ。 ……頑張ろう。 最後の最後までを、やり直したいだなんて思えないようにするために。  ───そんな思いがあったからだろう。 やがて訪れたヒロライン開始の集いの時、 全ての人に初対面の顔をされようと、笑いながらダイヴを受け入れた。 さあ……行こう。 俺の明日と、この穏やかな日常の崩壊をかけた、最後の舞台へ。 Next Menu back