───冒険の書254/初心者修練場バトル(阿修羅再)───
【ケース660:晦悠介/新たなるヒロラインの世界へようこそ。これがファンタズマだ】 シャランラァ〜♪ 悠介 「お───って待てぇえええええええええええええっ!!!」 目を開くとヒロラインだった。 ああ、それは間違いないんだが───どうしてまた初心者修練場なんだよ! 中井出「やあ」 悠介 「うおわ提督!?な、なんで───」 中井出「はいィイイイみんなどォオオオぅもォオオ、     新たなる世界への旅立ち、おめでとうございます。     本日よりナビゲーターをやらせていただきます、魔王博光です」 悠介 「へ……?みんな、って……」 言われた言葉に違和感を覚えて後ろへと振り向く。 と、そこにはさっきまで俺の部屋でヒロラインログインの準備をしていた全員が。 藍田 「あれ……あいつ、さっき部屋に居たよく解らねーやつじゃん」 夏子 「魔王?へえ……あの人が魔王役なんだ」 カルナ「……なんだろうな。あいつ見てると腹が立ってくる」 口にする言葉は様々。 けどやっぱりどこかに憎しみでも残ってるのか、 記憶を失って尚、七草やリヴァイアはいい顔をしていなかった。 悠介 「で……提督。なんでここに居るんだ?封印されてたんじゃ───」 中井出「うむ!順を追うのもめんどっちいから簡潔に説明しよう!     この博光が封印されたエクゾディアンアークエネミーだということは基本とす!     でも王には興味がないので魔人と呼んでください。じゃないとヒドイぞ」 彰利 「ジャイアニズムなんぞ展開しとらんとさっさと言え中井出この野郎」 中井出「うむ。まずこの世界、     ヒロラインはフェルダールという名からレゾンデートルという名に変更。     まあそれは捨てても構いません。これから知ることになるだろうし。     今重要なのは───」 清水 「ちっと待った。ナビゲーターだかなんだか知らねーけど、     なんでお前が仕切ろうとしてんだコラ」 中井出「ナビゲーターだからである!」 佐野 「だとしても、     よく知りもしないヤツに偉そうな口調で喋られんのは納得いかねぇぞ」 中井出「マイネームイズ中井出博光!じゃあ続けよう」 総員 『ちょっと待ててめぇふざけんな!!』 中井出「えぇ!?なんで!?」 いや、なんでってな……名前を知ってもらえば満足なのか、提督よ。 ていうか、な。 彰利 「いやぁ……原メイツじゃなくなったあいつらって頭硬ェなぁ……」 悠介 「俺もそう思ってたところだ……」 正直、鬱陶しい。 解らないからって苛立った風情で突っかかる態度は見てて腹が立つ。 佐野 「お前も地界人なんだろ?お前なに、いつヒロラインに入ったんだ?     俺達の知らないところでか?急に知らないヤツに混ざられてもうざったいんだよ」 中井出「で、ですね。この世界では───」 佐野 「聞きやがれよてめぇ!」 中井出「ごえぇえええ〜〜〜〜〜〜〜〜……?」 佐野 「〜〜……ムカツクヤツだなこの野郎!喧嘩売ってんのか!?」 中井出「ゴハハハハ!!喧嘩!?喧嘩を売ってるとな!この博光が!     喧嘩腰で話し掛けてきてる貴様にそんなこと言われる筋合いなどないわ!     ……で、いつ僕が喧嘩売りました?穏やかに話せもしない佐野くんよ」 佐野 「!?……てめぇ、なんで俺の名前を───」 中井出「ヒ・ミ・ツY」 佐野 「《ブチブチブチブチ》ぐがぁあああああああああああっ!!!」 あ、佐野がキレた。 彰利 「どうしよう悠介。佐野がスゲー嫌なヤツなんだけど」 悠介 「それだけあいつらにとっては原中が基盤になってたってことだろ?     そもそも提督が居なけりゃ俺達は原メイツですらなかった。     あの集まりの全てが“原中”ってだけじゃなくて、     原沢南中学校迷惑部としてのものだったんだから」 彰利 「グウウ……」 原メイツたちの行動や思考は、 それこそ穏やかに振舞えない外見年齢相応のチャラリーナっぽくなっている。 提督と係わらなかったってだけで、迷惑部に入らなかったってだけでコレだ。 ここに至るまでの歴史、その中から中井出博光って存在を消した状況を、 無理矢理修正した現在───それだけ、たったそれだけでこれだ。 みんなここに集まっちまってるからその事実は消えなかったが、 それ以外の経緯なんかは全て曲がってしまっている。 こうなれば、どうして大して親しくもないやつらとこうして集まっているのか。 その意味さえ、こいつらは理解できてないんだろう。  ドゴォーーーーーーーーン!! 佐野 「ガァアアォガァアアア…………ァァア…………!!!」 あ……佐野が消滅した……。 馬鹿だなぁ……普通に向かっていって、武器を持つ提督に勝てるわけがないのに。 ……あれ?って、ああそうか。 ナビゲーター状態だから使えるのか。 封印状態だった筈なのにって思ったが、そんなところだろう。 中井出「はぃいいいいいみんなちゅ〜〜も〜〜〜く。     ナビゲーターであるこの博光に攻撃をしようものなら、全力でブチコロがします。     それがこの世界でのルールらしいので。     さきほど神父さまにクドクドと説かれました。     ちなみにその際、喋り方がねちっこかったので殴ってみたらコロがされました。     全力で立ち向かったけどコロがされました。     なので僕も腹癒せに、僕を殴ったりしたら殴り返すことにします」 彰利 「ただの八つ当たりじゃねーのそれ!」 中井出「うるせー!僕だって好きでこうしてるんじゃないやい!     僕だって新たな世界で新たな冒険をいますぐ始めたいんだい!     でも仕方がなかった!     封印されている汝は助けが来るまでナビでもしていろって言うんだ!     その状態なら武器が使えるからって!     それを知らしめるために、俺はこの世界に降り立った…………………………っ!」 遥一郎「……どうしてこう、いちいちやること成すこと行動理由が小さいんだ、あいつ」 中井出「きっと人としての器が小さいからさ」 遥一郎「自分で言ってりゃ世話ないだろ、それ……」 中井出「まあまあ。じゃあええと、これから説明を続けるけど《ガシィ!》ぬう!?」 提督の肩が掴まれ、グイと引っ張られる。 引っ張ったのは───飯田だ。 飯田 「おい。おめぇよ、なんでひょっと出のおめぇが説明なんてすんだ?     大体もう説明なんて要らねぇんだよ、さっさと失せろ。     俺たちゃさっさとゲームやりてぇんだ」 中井出「ウワー、誰この無礼人(ブレイド)」 彰利 「ウワー、ほんとただのクズ集団になっとるのぅ原メイツ」 悠介 「提督が関与してないとこうまで変わるか……。     俺、こんな状態のこいつらだったら絶対に仲間にしなかったぞ」 彰利 「同感」 島田 「なんだそりゃ。なにお前ら、俺達よりこいつのほうがいいってのかよ」 悠介 「きっぱりとそうだ」 彰利 「お前ら見苦しいワ。何処にでも居るようなただのチャラリーナじゃねーの。     特出したモンがねぇんならむしろ失せろって言いたいね。     絆も楽しむ心もなにもあったもんじゃねぇ。居てもムカツくだけじゃねーか」 永田 「んっだよウゼェな……いいからゲームやらせろよ、ったく……」 ───。 マズイな……ヘンなスイッチが入りかけた。 解ってるんだろうかこいつらは。 ウゼェって言うヤツこそがその実、うざったらしいってことを。 中井出「ハイハイ、お静かに。まだ説明してないったら。     いいですか?まず《バゴォ!》ニーチェ!」 彰利 「ハオッ!?」 悠介 「提督っ!?」 ぱんぱんっ、と手を叩いて場を治めようとしていた提督が殴られた。 殴ったヤツは……藤堂だった。 藤堂 「うるせぇっつってんだよ……!いいからやらせろ!     なんかムシャクシャして仕方ねぇんだよ!     なにかを置き去りにしたままこんなことやってるみてぇな気が──《ザザッ》……     ……ア……、……?い、や……なんで苛立ってんだ?俺……」 悠介 「………」 修正が行われた。 感情のままに怒りを苛立ちを周囲に振りまいていたやつらは急に大人しくなり、 溜め息を吐いてから騒がなくなる。 岡田 「あ、あれ……?なぁ晦……提督、ってなんだ……?     くっそ……!思い出せねぇ……!大切だった筈なんだよ!     その言葉聞くと、なんだか知んねぇけど胸が《ザザッ》……う、ぐ……!     だめだよ……ワケ解んねぇ……!」 彰利 「あいやぁ……」 誰かが思い出そうとする度に修正が始まり、やがて誰もが忘れてゆく。 提督はそんな元原メイツたちを見て─── 中井出「グオフォフォフォ苦しめ苦しめ苦しみもがくがよいわゴヘヘハハハハ……!!     貴様らのその苦しみこそが、忘れられたこの博光の楽しみへと変わるのだ……!」 ───なんだか邪悪な顔でニヤニヤしてらっしゃった。 彰利 「ねぇ……なんでこやつ、こげに普通に最低最悪野郎なん……?」 悠介 「いや……俺に訊かれてもな……」 中井出「はいはいいいから説明させてよお願いだから!     僕の今の仕事これしかないんだから頼むよほんと!」 彰利 「ちなみに今ここに居る中井出この野郎はソウル的存在なん?」 中井出「なんで敢えてこの野郎つけるのかは知らんけど概ねそんな感じです。     本体の僕は今もエトノワールでキモスト状態で封印されてます」 彰利 「なしてキモスト!?」 悠介 「やめんかそんなヘンテコログインするの!助ける気なくなるだろうが!」 中井出「うるさいやい!僕は面白ければそれでいいんだ!」 レイル「逞しいな……主に精神的に」 遥一郎「ああいうのは普通に馬鹿って言っていいと思うけど」 中井出「ちなみにナギーとシードはNPCであるため、先にヒロラインに行っております。     当然フォルネウスさんも」 柿崎 「フォルネリアだ。つーかなんでお前がフォルネリアのこと知ってるんだよ」 中井出「ナビゲーターだからさァアーーーーーッ!!?」 ピエロのようなノリだった。 周りからの反応はとても冷たいものだったが。 中井出「じゃあ説明に戻るよ?えーとまず空界人ども!諸君らに一言言っておく!」 悠介 「へ?───って!おい提督!それは───」 中井出「貴様らの世界の住人が死んだ実験事故!     それが起こる原因を作ったのはこの俺だぁあーーーっ!!《バァーーーン!!》」 彰利 「ウギャアドアホォオオーーーーッ!!!」 提督の野郎、自分を親指で指差して高らかに宣言しやがった! まずいぞ……!?せっかくみんな忘れてたっていうのに……! リヴァ「……それはどういうことだ。あの実験事故を、貴様が───?」 中井出「イエスアイアム!この俺がみんなを死なせたのだ!     つまりそこの肩までショートの女よ!     貴様の娘の友達を殺したのもこの俺だぁあーーーーーっ!!」 麻衣香「っ……!」 カルナ「……お前がっ……!」 中井出「ウハハハハ!憎いか!えぇーーーっ!?憎いかこの博光が!     ……えー、はい。では話を聞きましょうね?     この世界ではこの博光は魔王です。     俺が憎いのならば力をつけて挑んでくるがいい!     一人でもこの博光を殺せるくらいにみんな強くなるんだ!     言っておくがこの博光の武器は強いぜ!?……俺自身は弱いけど!     今の貴様らではジークフリードには勝てぬわ!己を磨いて出直せい!」 カルナ「ふざけるなよ……今のお前の話が本当なら、     仇を目の前にしてなにもしないで別れられるかよ……!」 中井出「お願い諦めて!ダメなの……!わたしとあなたは別れなければいけないのよ!」 カルナ「ふざけるなって言ってるんだよ!」 中井出「断る!!《どーーーん!!》」 カルナ「くあぁああっ……!!“イグニス”!!」 パチンッ!と指を弾き、種火を出現させる七草。 まず───くはないが、戦うとなると面倒なことになるぞ……? カルナ「真相がどうだろうが構わない!お前をここで」 中井出「死ねぇええーーーーーーっ!!」 カルナ「な《パゴォンッ!!》へぶぅっ!?」 ごしゃーーん…………───拳一発で大地に沈んだ。 あーあ……攻撃の意思をみせたら、口を動かすより先に手を動かさないと……。 提督はただでさえそこんところには敏感なんだから。 中井出「冒険の世界、ヒロラインへようこそ♪     この世界はこの博光の野望により展開されております。     つまりラスボスは外道の化身博光なので、皆様頑張って己を磨いてください。     貴様ら一人一人の頑張りが世界を救うことになるのです!ファイト!」 悠介 「───あ」 彰利 「おっ───」 ピンと来た。 わざわざ自分の思い出したくもないことを口にしてまで、なにをする気なのかと思えば。 つまり提督は、ルドラの思い通りになんかさせないために、みんなを囃し立てたのだ。 遊ぶのも結構。 けどこのままじゃ俺達の負けは確定だ。 だったらどうするか。 ……みんなが今の提督の強さ、或いはそれ以上まで至ればいい。 提督みたいに武器のみの最強を目指すのもいいし、己を磨きまくるのもいい。 この人数全てがそのレベルまで達したら、そうそう負けない筈だ。 藍田 「偉そうにしてやがんな……いいぜ?じゃあ俺がてめぇをブチノメしてやる」 中井出「ジョアジョアジョア……いいだろう!小僧……     この世界のナビゲーターという存在がどれほど強いか思い知らせてくれる!     ナビゲーターとか神父はすげぇんだぜ!?     なにせ、えーと……殴られると“なめたらかんでぇ”とか言って、えーと…………     と、とにかくすごいんだもん!なんだよもうこのクズめらが!!」 彰利 「逆ギレしてんじゃねーよタコ!!」 中井出「すごいんだぞ!?ほんとにすごいんだかんな!?ほら!     なんとなく神々しくなった気がしない!?     なんというかそのー、カリスマが出てきたような気が……ねぇ!?」 彰利 「うそつけこの野郎!」 中井出「ウソじゃねーーーっ!事実だ!なんで信じねーんだよてめーら!!」 閏璃 「ラリってんじゃねーよタコ!」 彰利 「バーカ半ベソフケヅラ!!」 中井出「どいつもこいつも大槻みたいに否定しやがってぇえーーーーっ!!」 閏璃 「《バゴォ!》ぶべら!!」 中井出「信じろぉおーーーーーーーっ!!!」 彰利 「うわーーーっ!!中井出がキレたーーーーっ!!」 ……いわゆる魔人サイドに囲まれて馬鹿にされまくってる提督が居る。 もちろん俺も加わり、タコだのバカだのフケヅラだの言いまくってる。 や、こうしてるとやっぱり提督の近くは落ち着くというか、楽しい。 こんなことになってしまっても、やっぱり提督は提督なのだ。 ……なのだが、やっぱりそれを良しとしないヤツも居るわけで。 リヴァ「おい悠介。なにを馴れ合っている……そいつは空界のみんなを殺した相手だぞ」 悠介 「んあ?あ、あー……悪いなリヴァイア。     お前らと提督と、どっちにつくかっていうなら俺は迷わず提督につく」 リヴァ「……提督、というのはそいつのことか?───何故だ」 悠介 「何故もクソあるか。万人への思いじゃなく、     俺が俺としてそうしたいって思うからだ。     俺はな、もうなにかを守るのはやめた。けど仲間との絆は守りたい」 リヴァ「ほう?じゃあ訊くが、空界で死んだ連中は仲間じゃなかったとでもいうのか」 真っ直ぐに俺を見つめてくる目。 苛立ちながら訊いてくるリヴァイアの顔は…… 今にも掴みかかってきそうなくらい、険悪なものだった。 だから俺もしっかりとどう返すかを考えてから口を開く。 冷静じゃいられなくなってるんだ、 せめてこっちだけでも冷静じゃないと話にもならない。 じゃあ相手にも冷静になってほしいと思うかっていったらそうでもない。 思う存分、熱いままにぶちまけてしまえばいいと思うからだ。 悠介 「無くなったものは還らないだろ……どれだけ望んでも。     こういった現実に至った上で、     俺は彰利や提督と一緒に馬鹿やってくって決めたんだ。     もちろんこれからあるいろいろなことの最中で、     気持ちが変わらないなんて断言できないけどさ。いいんじゃないか?それで」 リヴァ「───お前はっ……死んでしまったやつらのことはどうとも思わないのか!     人格を疑うぞ悠介!あいつはみんなを殺したんだろう!」 悠介 「……どうしようもなかった、って言ったら信じられるか?     その時の提督は洗脳されてたんだ。未来のイドに」 リヴァ「……それは、検察官が言っていたが───待て。     どういう経緯でわたしはその言葉を聞いた?わたしは───《ザザッ》……     偶、然だ……なにかの弾みで検察官がそう言っただけだ……ああそうだとも」 悠介 「……」 いちいちノイズが邪魔だ。 けどこればっかりは俺が文句を言っても仕方が無いことだ。 そりゃあ嫌だ邪魔だとは思うが、 それについて口を開く権利があるのは……きっと提督だけだ。 悠介 「提督を恨みたければ恨めばいい。提督だってそれを受け入れる覚悟を決めてる。     けどな、腹癒せに提督を殺そうっていうなら、俺は迷わずお前を止めるぞ?」 リヴァ「……本気、なのか」 悠介 「本気だし正気だ。現実にあんな原メイツを見たら、     提督との絆がどれだけ俺達を変えてくれたのかがよく解った。     それに……あんなの見たら、もう裏切れない」 リヴァ「あんなの……?なんのことだ」 悠介 「空界のやつらを殺しちまった提督の記憶だ。     ……お前にだけは言っておく。お前らの記憶はルドラの手で書き換えられてる」 リヴァ「なに?どういうことだ」 悠介 「空界の連中は実験事故で死んだんじゃない。     イドに操られた提督に殺されたんだ。     皇国のやつらもチャイルドエデンのやつらも、みんなだ」 リヴァ「───っ……ならばあいつは真にあいつらの仇ということか───……!」 俺の言葉に、すぐさまに指に光を灯らせて式を編もうとするリヴァイア。 けど当然そんなものは即座に消され、その場には呆然としたリヴァイアが残された。 リヴァ「なっ……なんだこれは!何故式が消える!?」 悠介 「ああそれと。精霊たち全員は、提督の味方だからな?     俺と彰利とルナ、ゼットと閏璃と穂岸と凍弥、     レイルと柾樹とナギーとシードもだ」 リヴァ「レイルもか!あの馬鹿者、勝手なことを───!」 悠介 「馬鹿者ってところは認めるけど、     自由意志くらい尊重してやれよ……過保護すぎるおっさんかお前は」 中井出「誰がおっさんだこの野郎!!」 悠介 「うわぁ提督!?き、聞いてたのかよ!」 中井出「いえあのー、おっさんって聞こえたから言ってみただけで」 雄山 「フフフ、そうだ、私こそが微食倶楽部の海原雄山だ」 悠介 「収拾つかなくなるからお前は引っ込めエセ雄山」 雄山 「………」 悲しそうな顔して、彰利に戻ってゆく雄山ははっきり言って不気味だった。 閏璃 「しかし提督さんの武具ってすごいよな。ちょっと見せてもらっていいか?」 ゼット「ランドグリーズといったか。俺の鱗皮をたやすく切りつける能力……侮れん」 中井出「エ?ウ、ウフフ?しょ、しょうがないなぁちょっとだけだよ?」 ゴシャンッ!と、武具を全て鞘と剣に変え、誇らしげに閏璃とゼットに渡す提督。 それを見て、俺もついつい近づき、シゲシゲと見てしまう。 いや……本当に見事だ。 これがヒロラインの守護竜素材大半と、未来の精霊全ての武具を込めた剣か。 ……感じる。 過去から未来まで、あらゆる時間が脈打ってるのを。 すごいな……本当にすごい。 手に持つだけで物凄い存在感を感じられる。 レイル「あ、俺には……なんつったっけ?レイショーリン?それ見せてくれ」 中井出「え……いや、さすがにこれは」 遥一郎「それは見てみたいな。確かなにかの紋章が刻まれてるんだったか?」 凍弥 「紋章!それは是非見てみたいかも」 柾樹 「きっとカッコいいんでしょうね」 中井出「え?そ、そう?そう思う?ワ、ワハハ?しょうがないなぁ!」 目を輝かせながら、剣と鞘をシゲシゲと見ていた俺の視界。 その隅で、左手で後頭部を掻きながら顔を赤くして小さな指輪を穂岸に渡す提督が以下略。 ルナ 「ふきゃー!いまだー!」 中井出「え?え!?あれちょヴァーーーーッ!!!」 丸腰になった途端だった。 上手くノせられてただの村人の服だけになった提督が、 それまで武具を見ていた魔人群に襲われ、ボコボコにされてゆく。 そう……提督が強いのは武具があるからで、 霊章が無い今、霊章転移で武具を呼ぶことが出来ない提督はまさにザコ! ……いや、ボコってなにがしたいのかとか訊かれても、なにもないと答えるが。 なんて思った時だった。 兵士 「なめたらかんでぇ!!」 彰利 「アレェ!?」 橋を渡った先の門番兵がこちらへ駆けつけ、 猫背でこちらを睨みつけながら襲い掛かってきた!! しかもその後もゾロゾロと城の中から兵士の群が───! 閏璃 「お、おおお……なんだありゃぁああーーーーっ!!」 中井出「フ、フフフ……!貴様らはもう終わりだ……クハハハハ……!!     貴様らではやつらには勝てん……!     この博光が強いだと……馬鹿も休まず叫び続けろ……!     この博光は四天王になれたのが不思議なくらいの弱者……!     貴様らなぞ兵士様たちの手にかかればちょちょいのちょいよ……!」 凍弥 「何処の中ボスだよアンタ!!」 そもそもいつから四天王なんて集団が出来てたんだ? ていうか中ボスにしたってここまでボコボコだとありがたみがない。 中井出「隙ありうおりゃぁあっ!!」 レイル「《がばぁっ!》うおわっ!?な、なにしやがるっ!」 中井出「《バゴォ!》ニーチェ!!」 兵士の出現に動揺を見せた俺達の隙を突き、 なんと提督がレイルから───うわぁ霊章輪奪いやがった! と、なると当然ジークフリードも…… 中井出「《ガシャゴシャガキゴキマキィン!!》ウフフフ、おまんら……許さんぜよ!!」 魔人群「キャーーーッ!!?」 予想通りランドグリーズを霊章転移させた提督が、完全武装で襲い掛かってきた! ていうかいち早く逃げ出そうとした彰利がジャバウォックでキャッチされて、 地面に叩きつけられるや、硬く硬く握られた拳の餌食に……!! 中井出「これは中井出博光の分!!これも中井出博光の分!!これが中井出博光の分!!     これこそ中井出博光の分!!これぞまさに中井出博光の分!!」 彰利 「《バゴチャア!》ぐべぼ!《ゴブチャア!》げべぼ!!《メゴチャア!》がぼべ!     《ドグチャア!》ンドゥバ!《ガドゴガァ!》ウベロバ!!」 柾樹 「ひ、ひぇええ……!!」 中井出「…………《じーーーー……》」 柾樹 「ひえっ!?逃げ《がしぃ!》やだぁーーーーーーっ!!!」 中井出「これは中井出博光の分!!これも中井出博光の分!!     これも中井出博光の分!!これも中井出博光の分!!     これも中井出博光の分!!これも中井出博光の分!!」 柾樹 「《ドガグシャベキャゴキャ!!》ギャアアアアアアアアアアアアア!!!!!」 ああ……物凄い殴殺劇場を前に、 立ち止まってた柾樹がジャバウォックで引きずり込まれて次の餌食になった……。 強く死ね、柾樹……。 骨を拾いに行ったら捕まりそうだから拾ってやれんが。 中井出「さぁああああ……次はどいつだぁあ……!!     今こそ……今こそ山田太郎の無念を晴らして………………あれ?     無念なら別に残念ってこともないからいいのか……?     まあいいや、無念を晴らそう鎌倉幕府……!」 悠介 「お、おーい……?なんか言葉がヘンだぞー?提督ー」 中井出「きぃいいいいさまかあぁあああっ!!!」 悠介 「うおあ馬鹿ちがうわぁあああああああっ!!?」 炎が!黒い炎が俺の身体に巻きついてうがぁあああほどけねぇこれどうなってギャアアア! 中井出「これは中井出博光の───」 藍田 「待てこらっ!」 中井出「分!!」 悠介 「《バゴチャア!!》ホギャア!!」 中井出「ぬう!なにやつ!?」 藍田 「なっ……殴ってから振り向くなぁあーーーーっ!!」 中井出「………」 悠介 「げっほ……!い、いややめっ!だからってビンタってわ《ベパァン!》けぼぉ!」 中井出「ぬう!なにやつ!」 藍田 「そういう意味で言ったんじゃねぇよ!」 中井出「………」 悠介 「ややややめろやめろぉおっ!!そういう意味で言ったんじゃないってのはつまり殴     りつけてからとかビンタしてからとか攻撃的な意味じゃなくてうおぉおおおおおお     あぁああーーーーーーーーーっ!!!?」 中井出「トルネードフィッシャーマンズスープレックスゥッ!!ギュララドグシャォオオンッ!!! 悠介 「…………グヘッ!《ゲボォッ!》」 中井出「───《コクリ》よし!なにやつ!」 藍田 「だっ……い、いや……だからぁあ……!!」 しこたまっ……しこたま背中打った……! 呼吸っ……呼吸がっ……! つーかなに純粋な子供みたいな顔で人の顔見て頷いてんだこの提督サマは……! 中井出「え?違うの?───じゃあどうしろってんだコノヤロー!!」 藍田 「待てっつってんだよ!人の話を聞けよ頭悪いやつだな!」 中井出「笑止!貴様、学級委員長になったことがあるか!?」 藍田 「へ?い、いや……ないけどよ」 中井出「俺……あるぜ?三年連続クラス委員だ。     ……頭が高ェンだよヒラ生徒風情が」 藍田 「ぐっああああああムカツく!」 中井出「ンでッ!?この生徒会長を務めたことさえあるこの博光に!     ……なんの用だい?子豚ちゃァん」 藍田 「ぬぐっ……!二度と俺を見下した台詞を吐くなァアッ!!     ───って、な、なんだ?なんで俺、こんなに自然に《ザザッ》───     ……ああそっか、むかついてるから素直に言葉が出るだけか」 中井出「え?いやいや違うって。なに勘違いしてんだこのタコは。     なんで素直に言葉が出るのか?それは貴様が単純だからだよ」 遥一郎「サワヤカにひどいな……」 藍田 「単純結構。今はてめぇをブン殴れればそれでいンだよ」 藍田が指をポキポキ鳴らしながら歩いてくる。 ていうかな、提督。 いつまで俺を押さえ込んでやがるんですかあんたは。 中井出「フッ……殴るか、この俺を……。ならば貴様に一つだけ言っておく」 藍田 「あん?なんだよ」 中井出「指ポキポキ鳴らすと軟骨磨り減るからやめといたほうがいーよ?」 藍田 「───へっ……OK、最高の遺言だ」 中井出「うん、キミの墓に彫ってあげるからね成仏してね?」 藍田 「末代まで祟れるわそんな遺言!!     俺のじゃなくててめぇのだよ!」 中井出「ワハハハハ!!馬鹿め!俺が死んでも墓などたたぬわ馬鹿め!     俺には家族なぞおらぬ!そんな俺の遺言を誰に届ける気だ正気か貴様!」 藍田 「居るだろうが!ナギ助とシー───……え?あ、れ?なん」 中井出「死ねぇええーーーーーーーっ!!!」 藍田 「へ?おわおわぁああーーーーーーっ!!」  ズガォバガァンッ!!  ……シャアアキラキラ……♪ う、うおお……バウンドナックル一発……! 相当の力込めなきゃ一撃死なんて無理だろ……! 中井出「乾坤一擲腕力最強殴ると言ったら即実行、それがこの俺ルミエール……!     あ、もう女じゃなかった。あーぁはいはい、いい加減説明始めますよ?     えーと何処まで話したっけ。いい加減にしないとBGMが泣いてしまう」 悠介 「BGMって。初心者修練場に来るたびに鳴ってるこの音楽か」 中井出「…………《ニコリ》」 悠介 「へ?いや待て!俺はべつに殴られるために     復活したわけじゃワァーーーーーッ!!」 炎が!黒い炎が俺にまとわりついてうおぉやっぱ外れなキャアアアーーーーーーッ!!? 中井出「衝撃のォ……ファーストッ───ブリットォッ!!」 悠介 「フッ───甘いぞ提督!     炎に巻きつかれた程度で腕が不自由になるとでも《バゴォンッ!!》ぷぼあ!」 いや……なぁ俺……喋ってる暇あったら殴ろうぜ……? 悠介 「ぶっはっ───このっ!やられたらやり返す!」 背中の鞘から抜き取ったラグを、速度を殺さぬままに一気に、仕留める気で振るう! ───いける!確実に提督の首を 中井出「空間翔転移!《ビジュウンッ!!》」 悠介 「へえっ!?」 振るった剣が空を裂く。 当然、そこには提督の姿は無く───ガキッ! 悠介 「はごっ!?」 声  「ゴエヘハハハハハッカッカッカッカ……!!     無駄だ……!時空剣技を得たこの博光には、     もはや予測出来る攻撃要素など無意味……!」 背後をとられたっ!?ていうか顔面!顔面掴まれて───! ……ああ、じゃあ腕は普通に動かせるわけだ。 そりゃ。 声  「《サクッ》ギャアアアアアアアアアア!!!!」 ───!よし!手が緩んだ! 悠介 「油断禁物だな提督!頭を掴んだなら、     さっさと気絶させるなり折るなりするべき永田ァアーーーッ!!?」 頭を掴む手を振り解き、向き直ってみれば永田くん! 腹から血を出して痙攣している永田くんの姿がコロキャア!! 悠介 「げひゅうっ!?」 ……その日、世界が回転した。 ───……。 ……。 中井出「というわけで。ようするに上がってこい。ここまでな」 早速復活した俺が見たのは、兵士どもにボコボコにされて死亡したみんなの姿と、 戸愚呂(弟)の真似をして喉をつつく提督の姿だった。 悠介 「提督……殺したら話聞けないだろ……」 中井出「ククク、この兵士たちはもはやこの博光の味方よ。     そして相手が死のうが話すことが大事だったので知りません。     聞いてないほうが悪いんだい」 普通にひどいやつだった。 悠介 「ようするにあれだな?みんなに強くなりがれって発破なんだよな、今の」 中井出「いえべつにそんなわけじゃないけど」 悠介 「へ?じゃあなんであんなこと言ったんだ?」 中井出「嫌味ったらしいこと言えば嫌うだろ?嫌えばもっと絆が疎遠になる。     疎遠になれば思い出すこともありません。ようするに忘れてもらいたいのさ俺は」 悠介 「───ちょっと待て、どうしてだよ提督」 中井出「……晦よ。この博光は夏の終わりとともに死ぬ。     だからなんつーか忘れてしまってた方がお得でっせ?というわけだ。     ちなみに俺は死なない可能性に賭けてるから、死ぬつもりなんててんでないけど。     その時貴様らまでもが俺のことを忘れてたら、俺は一人旅でもしようと思ってる」 悠介 「待て待て待て!話が飛びすぎてるだろ!」 中井出「旅は何処がいいかなぁ。無理言って神界にでも行ってみるのもいいかも。     あ、でも神界って人は入れないんだっけ?     入ったら空気に当てられて死ぬとかなんとか……《ドス》ウォキャア!!」 悠介 「人の話を聞けっ!」 目を輝かせていた提督の脇腹に貫手をお見舞いしてやった。 それは予想以上の効果を発揮したようで、 少し涙目になりながら距離を取り、しかししっかりと俺の目を見る提督。 ………………地味に痛かったんだろうか。 悠介 「……提督、順を追って確認するぞ?……夏の終わりに死ぬっていうのは本当か?」 中井出「うむ。……それは貴様もだったな?」 悠介 「…………ああ。夏の終わり───秋の初頭だな。     長い長い階段の前で、自分が死んでる姿が見えた」 中井出「俺は滅びゆくこの世界で、とある塔の中で死ぬ姿だな。     いや、それが馬鹿らしい話でさぁ、やっぱ今のこの現状と繋がってるわけよ。     俺、独りなんだわ。独りで敵と戦って、独りで勝手に死んでくの」 悠介 「……それ解ってて孤独を選んだのか!?どうしてだよ!」 中井出「ふぅん!知れたこと!その方が───面白いからだ!!」 悠介 「ふぅんじゃないだろ!!お前は解ってるのか!?死ぬかもしれないんだぞ!?」 中井出「ふぅん!土壇場での奇跡の逆転ファイトが出来たらいいね?」 ニコリと笑う提督……だが、やっぱり納得できなかった俺は、 よせばいいのに追求をやめようとしなかった。 悠介 「……提督、もう少し真面目に考えようぜ……?本当に、死ぬかもしれないんだぞ」 提督は人間だ、自分の死について考えないわけがない。 だからこんなことを訊いても無駄だって解っているのに、 自分が納得できないって……ただそれだけの理由で、話をやめようとはしなかった。 じゃあやめるって言われれば納得できるわけでもないのに。 中井出「いやぁ……どれだけやっても自分が死ぬってイメージって出来ないもんだろ。     だから今は気楽でいいじゃないか。     死ぬ時ゃ死ぬよ。自分が死ぬイメージなんて、その時にすればいいし」 悠介 「───……俺は嫌だぞ、あんたが死ぬのは。     彰利と提督はつまらないままだった筈の中学時代に光をくれた。     ……あいつらだってそうだ。忘れちまった所為であんな風になってるけど、     それはそれだけ提督が原メイツに影響を与えてた証拠だろ?」 中井出「解ってないなぁ晦……人一人が誰かに与える影響なんて小さなもんだよ。     今はまだそれが見えてないだけだ……お前も、みんなも。     大丈夫。どんな過去の強制修正があったとしても、“みんながここに居る”。     そういう現在に至るための過去が、今必死になって追いつこうとしてるから。     俺が居なかったとしても原中って中学はあって、     そこにあいつらやお前や彰利がやってきた。必要なものはもう揃ってるんだよ。     だから、安心して今を楽しめ、面白さを噛み締めろ。     貴様の未来を誰もが祝福しているよ…………と、     なんとなく根性の別れっぽく言ってみたんだが、どうだろう。グッと来た?」 悠介 「“今生の別れ”の部分に、いやに暑苦しいなにかを感じたんだが」 中井出「気の所為さ」 いや……絶対に根性って言っただろ、提督。 けど、過去が追いつこうとしてるって、なんのことだ? 悠介 「なぁ提督。過去が追いつこうとしてるってどういう───」 彰利 「ちょぇえええええーーーーーーっ!!!」 悠介 「なにぃ!?」 復活したらしい彰利が遠くから奇声をあげて襲い掛かってきた! ……俺にじゃなくて提督に! 彰利 「理解したッ!とどのつまりてめぇをコロがせれば、     精霊たちにも太刀打ち出来る可能性があるということ!     なにせ貴様の武具は精霊13体の属性が含まれたリーサルウェポン!     ならば《バゴォ!》ボリョフ!」  ドシャア……。 そしてあっさり殴られて撃沈した。 ……あのさ、彰利……俺が言えた義理じゃないけど、喋るよりまず攻撃しようぜ……? 中井出「つくづく、漫画やアニメの世界の人々ってすごいと思うよね」 悠介 「同感だけど、解っててストレートで殴るあんたもどうかと思う」 中井出「はいはいはい、では皆様、     まずは肩慣らしとしてモンスターたちとバトってください。     そんなものはいらねーと断じる方は反対側の……あそこの扉へとどうぞ。     すぐにでもヒロラインにログインできます」 彰利 「俺はそのどちらでもねぇ〜〜〜〜っ!てめぇと戦うぜ〜〜〜〜っ!」 中井出「よろしい!ではデュエル!《ガシャンッ!》」 彰利 「なにぃ!?《ガシャンッ!》ウオッ!?左腕にデュエルディスクが!?」 悠介 「まっ……待て待て待て!落ち着け!話が飛びすぎだろ!     まだみんななにをするかも決めてないのに───!」 レイル「他のヤツなら大体がさっさと……ヒロライン、だっけ?に行ったぞ?」 悠介 「ぬああっ……もうどこからツッコんでいいやらぁっ!!」 振り向いてみれば、確かに誰も居やしなかった。 橋を渡った先にある初心者修練場に向かったのは、今回が初参加の数人のみ。 記憶を失った状態で提督が殺人犯だと言われてもピンと来なかったのか、 リヴァイアを初めとする空界人もさっさと行ってしまった。 いや……単純に今の実力では提督には勝てないと踏んだのかもしれない。 中井出「ふぅん!先手は貴様にくれてやるぞ、骨デュエリストよ!」 彰利 「骨!?せめて凡骨って言おうよ!だがこのアタイを骨と呼ぶならいいだろう!     死神化を発動!能力発動と同時に破面装着!     この瞬間、特殊効果として───……なんの効果も得られない!」 総員 『意味ねぇ!!』 その場に残った魔人群が口を揃えてそう言った。 彰利 「しゃあねぇでしょ!?     能力は全部融合された状態でアタイの中に納まったんだから!」 中井出「俺のターン!ドロー!───ワーオ!     これは素晴らしいカード引いてしまいましたデ〜ス!」 彰利 「アッ!て、てめぇ!先手はアタイに譲るって言ったじゃねーか!」 中井出「O〜H!アナタのバトルフェイズは既に死神化で終了してマ〜ス!     今更ぐたぐだ言ったところでもう遅いのデス遊戯(ゲーム)ボ〜イ!     ワタシはこのカードを攻撃表示で出しマ〜ス!“幻想師”(イリュージョニスト)ノーフェイス!     さらにマジックカード!幻惑の(まなこ)をノーフェイスに託しマ〜ス!!ワーオ!」 閏璃 「なにぃ!?馬鹿な!幻想師ノーフェイスは5つ☆モンスターの筈!     生贄も無しに召喚できる筈が───」 中井出「この口調で理解しなさい凍弥ボ〜イ!これは初期ルールデ〜ス!     だからブルーアイズだろうが即座に出せるのデ〜ス!」 彰利 「なんだとてめぇ!聞いてねぇぞこの野郎!     だ、だったらなんなのこのデュエルディスク!     初期の頃にはこんなんなかったっしょ!?」 中井出「………」 彰利 「………」 中井出「即効魔法発動!!バーサーカーソウル!!」 彰利 「あっ!てめぇ!!」 中井出「手札を全て捨てて効果発動!     こいつはモンスター以外のカードが出るまで何枚でもカードを引き、     墓地に捨てることが出来る!そしてモンスターカードを墓地に捨てる度、     攻撃力1500以下のモンスターは追加攻撃出来る!!     ククク……いいことを教えてやろう、遊戯(ゲーム)ボーイ!     俺の手札はバーサーカーソウルと幻惑の眼以外全てモンスターカード!     しかもその全てが攻撃力1500以下!……この意味が解るかな?」 彰利 「つまりアタイが、     先手で1500以上のモンスター出してりゃあ勝利確定だったと?」 中井出「いや、たとえ出しても墓地に送ることで敵を弱体化、     または道連れにする特殊モンスターカードが各三枚ずつあるから無駄です」 彰利 「いやなデッキですねキミィ!!」 中井出「いくぜ蟲野郎!!ドロ───」 彰利 「サレンダー!」 中井出「ゲェエエーーーーーーーーーッ!!!」 ……攻撃が成立するまえに、彰利がサレンダー。 デッキに手を添えることで敗北宣言が成され、戦いは終わった。 彰利 「ホホホ……いくらその言葉が言いたかったとはいえ、     こげなもんは敗北してしまえばこっちのもんYO!」 中井出「……なにを勘違いしているんだ!     俺のバトルフェイズはまだ終わっていないZE!」 彰利 「……ひょ?な、なに言ってるんだ!俺はもうサレンダーしたじゃないか!」 中井出「知ったことではないわ!!」 彰利 「うおおひでぇええーーーーーっ!!」 中井出「ドロー!モンスターカード!!ノーフェイスの攻撃!幻惑の眼ォ!!」 彰利 「《キュミミミィイイイン!!》ぬわぁああーーーーーーーーっ!!!」 中井出「ドロー!モンスターカード!!ノーフェイスの攻撃!幻惑の眼ォ!!」 彰利 「《キュミミミィイイイン!!》お、おわぁあーーーーーーーっ!!!     お、お待ち!これ目がっ……目が回る!やめっ……やめれぇえーーーーっ!!」 中井出「ふぅん!断る!ドロー!モンスターカード!!」 彰利 「やめれぇええーーーーーーーーっ!!」 中井出「このカードは墓地に捨てることでさらにもう一枚カードを引くことが出来る!     さらにドロー!モンスターカード!!ノーフェイス!幻惑の眼×2!!」 彰利 「キャーーーーッ!!?」 中井出「ドロー!モンスターカード!このカードは墓地に置かれた時、     デッキの中からモンスターを一体特殊召喚する!     出現するモンスターは当然1500以下のモンスター!     さらに特殊召喚モンスターだからドローモンスターとしては数えられず、     そのままバトルフィールドへと召喚!クリボー!攻撃表示!     さあ行くぜ蟲野郎!さらにドロー!モンスターカード!」 彰利 「ヒャッ……ヒャーーーーーッ!!!」 中井出「幻惑の眼+クリボーの攻撃!ダイレクトアタック!!」 彰利 「イヤァアアア!!地味に痛さが増したァアアーーーーーっ!!」 …………。 楽しそうだし…………行くか。 ───……。 ……。 ガコッ……ごこぉんっ…… 橋の先の扉を開き、やってきたのは修練場。 初心者以外は入れないことになっている筈のここに、俺はこれで三回目の入場である。 言うまでもなく複雑な気分だ。 悠介 「内装はやっぱり変わってないんだな……」 物珍しいわけでもないんだが……いや、やっぱり珍しいのだろう。 久しぶりに入った城の中をキョロキョロと見渡しながら、 やがて奥に待つナイトの前へと辿り着く。 ナイト「ようこそ、博光の野望オンラインへ」 悠介 「………」 こいつも体験版時代からず〜っとここに居るんだろうか。 まるでホンモノの人間だ……元は自分が創造したものだとは考えづらいよな、うん。 ナイト「あなたは初心者ではありませんね。ですが初心に帰りたいというのなら、     私はあなたを初心者修練の場へといざないましょう。どうしますか?」 悠介 「ん……ああ、頼む」 ナイト「了承を確認しました。それでは修練場に案内します」 今更初心に戻ってどうするんだって気分でもあるが、 なんだろう……一度戻ってみるのも悪くないと思った。 遥一郎「あ、ちょっと待った。俺も頼む」 悠介 「穂岸?」 いよいよ転移するって時に、聞こえた声に振り向けば穂岸……や、他の魔人群。 ルナ 「ぶー……」 その中で、一人の視線がヤケに痛かったりするのは是非とも気の所為にしたいんだが。 悠介 「……ん?彰利は?」 柾樹 「まだ提督さんとデュエルしてます」 デュエルって……なにやってんだあのたわけは……。 ゼット「晦。あまり俺を失望させるなよ。貴様を打ち下すのはこの俺だ。     その相手である貴様が弱いままでは、あまりにつまらん」 悠介 「いや、いいからそのまま提督かバルバトスにでも喧嘩売りまくっててくれ」 ゼット「断る。強者に興味はあるが、俺が宿敵と認めているのは貴様のみだ、晦。     故に強くなれ。今の貴様ではあまりに味がない」 悠介 「あ、あのなぁ」 随分と勝手を言ってくれる。 言ってくれるが……まあ、なんだ。 そうやって認めてくれるヤツが居るのって、なんだかくすぐったい。 閏璃 「なぁ竜人さんよ」 ゼット「ぬ……なんだ」 閏璃 「野菜の王子様って呼んでいい?もしくはベジプリ《ドボォ!》はごぉあ!!」 綺麗なボディーブロー的な返事だった。 ゼット「くだらんことを言っていないで貴様らも上を目指したらどうだ。     中井出博光の言葉はあながち間違いではないだろう。     貴様らは弱すぎる。所詮貴様らが幅広い強さを得ることなど不可能なのだ、     ならば一点に集中し、それを極めてみせろ」 レイル「一点ね……俺は魔王の力を極めるつもりだからそれでいいけど」 閏璃 「集中特訓か!ならば俺は───銃を極めよう!」 凍弥 「今更すぎるだろおい!     あんたの得意武器ってなんだった!?剣じゃなかったのか!?」 閏璃 「いや、べつに得意ってわけでもない。ただ天空の城で多少鍛えた程度だ。     だからここでじっくりと修練していくつもりだ。最強」 凍弥 「…………あ、ダメだ……やっぱ俺、この人の短絡的思考にはついていけん……」 柾樹 「やりたいって思うことをすることってそんなに悪いことかな」 凍弥 「親父は閏璃凍弥に依存しすぎてるんだから、     あんたがなに言っても説得力に欠ける……」 柾樹 「や……親父とか言われても困るんだけど」 いや……ていうかな、お前ら。 さっきからナイト氏が転送を止めたままプルプルと震えているんだが。 行くならさっさと決めてやれって。 悠介 「で、行くんだよな、修練場」 ルナ 「いく」 即答だった。 ルナだけだけど。 即答したルナは、そこがわたしの定位置だーとでも言うかのように、 俺の首に腕を巻きつけて抱きついてきた。 それを見た魔人群はあーあーまたかよって顔で……何故か俺だけを見て、って! 悠介 「ま、待て!これはべつに俺がそうしろって言ってるわけじゃなくてだなっ!」 凍弥 「若いよなぁ悠介さん。     実年齢考えると、とてもじゃないけど出来ないことだろそれ」 閏璃 「由未絵はそうやって抱きついてきたりなんてしないからなぁ」 凍弥 「ウチの椛なんて、嫉妬が多いくせに抱きつくことなんてほとんどないんだぞ……?     しかも横を彰衛門が通れば彰衛門に走るし……」 レイル「なんだなんだ、色話か?……ちなみに俺にそういった相手は居ない」 柾樹 「俺は……その」 閏璃 「そういえば柾樹。あれから悠季美とはどうなんだ?     鷹志をパパと呼ぶ日は近いか?」 柾樹 「うええっ!?やっ……!パパッて……!」 レイル「それよりも俺は、そこの黒竜王がどんな青春送ってるのかが気になる」 総員 『ああ確かに』 ゼット「ぬ……」 ちょっとした話のズレから、全員の目がゼットに……って。 あのな、お前ら……さっきからナイトが震えながら待ってるんだが……。 閏璃 「そういえば気になるよな。     あの天下の黒竜王がみさおちゃんほっぽって提督さんを選ぶなんて」 ゼット「そうしたいという本能に従ったまでだ。他意はない」 閏璃 「ライバルとしては、相手が色ボケすぎたのはどうなんだ?晦」 悠介 「はっ……ハッキリ言いすぎだっ!伝説の黒竜王を捕まえて色ボケってお前っ!」 閏璃 「なにぃ、じゃあ色ボケじゃなかったとでも言うのか、胸を張りつつ」 総員 『いや、それは無理だ』 ……その日、修練場に辿り着く前に全員コロがされた。 ───……。 ……。 悠介 「あのなぁああっ!!!     少しは怒りを抑えるってことくらい覚えろよなぁっ!?このたわけっ!」 ゼット「黙れ晦悠介!!黙って聞いていれば色ぼけだなんだ!     貴様には俺を退屈させないほどに強くなる義務があるのだ!     御託を並べる暇があるなら強者に至れ!今の貴様では暇潰しにも至らん!」 悠介 「……穂岸には苦戦してたくせに」 ゼット「黙れ!ヤツの詠唱速度はどうなっている!?異常すぎてモノも言えん!」 悠介 「いや……見事だったなアレは」 魔法使いなどあとに残して、早々に近接戦士を滅ぼしてくれる───と、 勇んで突撃してきたゼットだったのだが、 その間に詠唱を組みに組みまくった穂岸は鬼のように強かった。 真っ先にコロがされ、復活した俺が見たものは流星群のごとく放たれまくる魔法の嵐と、 突撃しようにも突撃できなかったゼットの姿。 ……で、まあ。 そのうちの一つが流れ弾としてナイトに直撃しなければ、 案外穂岸が勝てたかもしれないんだが…… 横から“ええことしよかぁ”って襲われて、あえなくリタイア。 魔法の詠唱速度だけなら誰にも負けないだろう……相当に頼りになる。 ……なるんだが、あまりの戦闘での体捌き能力が少なすぎる。 お陰で接近されると弱く、それこそゲームの魔法使いみたいにとても打たれ弱かった。 提督といい穂岸といい、一点を極めようとするのはいいんだが…… 弱い部分があまりに弱すぎるのはなんとかならないん───あ。 悠介 「……そっか」 そうだ。 それを支えるための仲間じゃないか。 接近が苦手なら俺達が援護してやればいい。 武器が無い状態や、背中への攻撃が極端に弱いなら支えてやればいい。 どうにも力に差がつき始めた所為か、一人でも大丈夫だろうって考えが出てくる。 けど、弱い部分を補ってやるために俺達は居るんだから。 じゃあ、そうだな。 今回の修練場では、仲間意識……っていうほどじゃないにしろ、 チームプレイっていうのを意識して練習してみよう。 そこに提督が居ないのは寂しいが、封印を解くまでは俺達だけでも、いけるところまで。 悠介 「よしっ!じゃあ修練場に行こう!」 彰利 「仕切ってんじゃねーよタコ!」 閏璃 「バーカ半ベソフケヅラ!!」 悠介 「戻ってくるなりなんなんだお前はぁあああーーーーーーっ!!」 気づけばいつの間にか彰利が混ざってた。 我が友ながら、つくづく神出鬼没である。 ……ああ、それは昔からだから今更か。 彰利 「みんなひどいじゃんかよぅ、     このアタイを置いてさっさと行っちまうなんて《ポム》……ウィ?」 閏璃 「置いていったりなんかしないさ。大丈夫。眼中になかっただけだから」 彰利 「余計にひどいよねそれ!!     肩に手ェ置いて言う言葉じゃねィェエエーーーーーッ!!」 悠介 「……それで、提督は?」 彰利 「引き続きナビゲーターやるから、修練場へゴー、だとさ。     ちなみに二回目のデュエルで俺は、     ブルーアイズを引いて散々バーストストリーム撃ってきました。     他にブルーアイズが二枚と融合があったけど、     究極竜出した時点で負けそうだったからやめた」 悠介 「そ、そか……よく解らないけど勝ったわけだな?」 彰利 「オウヨ。やつめ、手で顔を覆ってしくしくと泣き始めたわ。     あまりの女々しさに、さすがだという言葉が自然と出ました。     強気に出ると大体弱ェエのよね、彼」 それはお前にも言えることだが。 彰利 「そィで?なにやらなんぞかを決心した〜みたいな顔しとったけど。     なにか、すべきことでも見つかったのかね?」 悠介 「ん?ん……ん。とりあえずチーム力を高めてみないか?この修練場で」 閏璃 「仲間意識ってことか?」 彰利 「グウウ〜〜〜〜ッ!!     て、てめぇ〜〜、今更そんなことをやってなにになると言う〜〜〜っ」 悠介 「ほら、ここに集まったのって結局は提督を信じたやつらってことだろ?     だったらいずれ共闘して、他の軍勢とも戦う日が来ると思う。     そんな時のために、僅かでもいいかあ連携的なものを高めるのもいいかな、と」 彰利 「マキマキーーーッ!!乗ったぜ〜〜〜〜っ!」 閏璃 「ドフィドフィドフィ!俺もだ〜〜〜〜っ!」 彰利 「───ゼット」 閏璃 「俺達に───」 二人 『ついて……これるか!?』 ゼット「…………《ヒクッ……》」  ドンドガバキゴキギャアアアアアアアアアアアア……………… ……。 …………。 ゼット「あまりくだらんことを言うな」 二人 『ふぁぃ……すびばせん……』 ようするにあれだけが言いたかったらしい。 一番団結力が少なそうなゼットを標的にするのはある意味正解だが、 からかうにしても少しは敵の戦闘力を考えろ、お前ら。 悠介 「じゃあ、今のことも含めて少しやってみよう。     飽きたら別のことをすればいいんだ、難しく考えることはないだろ?」 彰利 「じゃあアタイ連携の練習したい!標的ゼットで!」 悠介 「またボコボコにされるだけだからやめとけ」 彰利 「難しく考えずに考えたんだからいーーーじゃんかよーーーーう!!」 閏璃 「強敵に立ち向かう勇気!認めてくれてもいいじゃないか!」 悠介 「お前らのは遊び心と好奇心だけで、勇気とは呼べないんだからやめろ!」 閏璃 「ケチー」 彰利 「ケチー」 悠介 「あのなぁああああ……!!」 遥一郎「……えっと。なんて言ったらいいのか。     晦……お前、ハタから見ると子供にせがまれてる親にしか見えない」 悠介 「親っ!?」 親って……親!?冗談じゃないぞこんなやつらの親なんて! そんなの胃がいくつあっても足りやしない! 彰利 「パパー!新しい武器買ってー!」 閏璃 「パパー!帝国買ってー!」 悠介 「無茶言うな!とくに後者!!」 彰利 「パパー、ちょっとそこで白骨化しなさいよー」 悠介 「死ぬわ!!」 彰利 「ちっ……無能パパめが」 閏璃 「《ペッ》クズが」 悠介 「てぇえええめぇらぁあああ……!!」 早速いやだこいつら……誰かなんとかしてくれ。 ナイト「それではいい加減修練場へと転移させますが、よろしいですか?」 彰利 「よ、よろしいぜ〜〜〜〜〜〜っ!!」 閏璃 「す、すぐにでもやってくれ〜〜〜〜っ!」 レイル「お?お?なんだなんだ?なんでお前らどもりまくってるんだ?」 彰利 「肉語だからです」 閏璃 「キン肉マンの素晴らしさを貴方にも」 悠介 「これ以上ヘンテコなヤツを増やさないでくれ!     ───なぁ穂岸!お前なら解ってくれるよな!?」 遥一郎「俺は俺に被害が及ばないならべつにそれで構わないけど。     ……強く生きてくれ晦、俺は傍観者を気取らせてもらう」《注:人生に疲れた顔》 悠介 「うぉおおおおおおい!?お、お前だけは!お前だけは解ってくれると思ったのに!     いや、お前だからそう出るのか!?なんか俺もそうしそうな気がする!」 彰利 「キミらどこまで苦労人なんよ」 悠介 「とりあえずお前にだけは言われたくない」 遥一郎「前方に同じく」 彰利 「わぁひどい」 ともあれ、発動した転移魔法に一息つきながら飛ぶ。 面倒の半分を穂岸に押し付けること前提で。 ふふふ……そうさ、受け入れてもらえないなら押し付けるだけだ。 それが我らの原ソウル。 原中迷惑部は消滅しても、その心は今も俺達の中に息づいている。 とりあえずあれだ、まずはパーティープレイがどうとか言ってグループ分けをして、 半分を穂岸に押し付けよう。 うん、素晴らしい考えだ。そして俺もクズだった。 Next Menu back