───冒険の書255/初心者修練場バトル(顎苑再)───
【ケース661:晦悠介(再)/嘉村直人くんが戦いを極めてカムラナートに大変身】 そんなわけでバトルフィールドである。 広がる草原、蒼い空。 これぞ見果てぬファンタジー……なのにどうしてヒロラインは赤いんだろうな。 ていうか本気でここは何処にあるんだ? フェルダール……じゃなかった、レゾンデートルには存在してないのか? 中井出「やあ」 悠介 「帰れ」 あーあー、いきなり出てきたから思わず帰れとか言っちゃったら、 提督のヤツ城壁の隅っこで“の”の字書きはじめちゃったよ……。 悠介 「提督、先に入ったやつらはどうしてる?」 中井出「死にました」 悠介 「まあ……一回は死ぬよな、ここ……」 初心者修練の場の筈なのに敵が強すぎなんだよな、ここ。 とくに巨大ゴキブリとか。 中井出「えぇと……じゃあその、気を取り直して……。     ようこそ、初心者修練場、バトルフィールドへ《ニコリ》」 彰利 「何処で練習する?」 悠介 「橋渡った先でいいんじゃないか?」 閏璃 「ヤバくなったら敵を崖に落とせるし」 中井出「聞いてぇえええええっ!!笑顔無視して歩いていかないんでぇえええっ!!!」 彰利 「《がばしぃっ!》キャーーッ!!?」 提督の攻撃!提督は彰利にタックルをかました! 長い長いつり橋に差し掛かったあたりで、彰利の腰から下へと見事なタックルが炸裂! 彰利 「な、なにしやがるこのブタ野郎!」 中井出「説明してるでしょ!?今僕が説明してるでしょォオオ!?     なのになんで行っちゃうの!なんで!?     400文字以内で説明なさい!無視してやるから!」 彰利 「パーフェクトに意味ねぇよそれ!」 悠介 「な、なぁ提督よ……」 中井出「い、いけーーーっ!!こいつは俺が抑えておくから!     だから今のうちにこの橋を渡るんだぁーーーーっ!!」 悠介 「へぇっ!?」 彰利 「アルェ!?アタイいつから悪者に!?」 中井出「フフフ……思えば貴様とは出会った頃からぶつかっていた気がする……     奇妙な友情すら感じないよ……」 彰利 「いや感じるとこっしょそこ!感じてよ!感じろてめぇ!!     つーか待ちなさいキミ!なんでジリジリアタイのこと押してんの!?」 提督が、抵抗する彰利をジリジリと強引に吊り橋の端へと追いやっていく。 ……い、いや、まさかなぁ? 中井出「はぁ、はぁ……これは、真似するなよ……」 彰利 「なんで苦しそうなの!?つーかそれモリスンさん!?     いやちょっ……やめ《ガヴァーーッ!》キャーーーーーッ!!!?」 総員 『オワァアーーーーーッ!!?』 うわぁ飛び降りやがった! ご丁寧に彰利に抱きついたまま! 彰利 「なっ……なに考えてやがるてめぇええーーーーーっ!!」 中井出「今日は死んでもいい……そう言ったね、スエドウくん」 彰利 「言ってねィェエエーーーーーーーーー………………───」 ……あ、見えなくなった。 悠介 「……なにやりたかったんだろうな……」 閏璃 「楽しみたかったんじゃないか?ほら、提督さんゲームの中じゃあ封印状態だろ?」 凍弥 「こんな時じゃなくちゃしばらく遊べないわけだし、退屈なんじゃないかな」 ルナ 「かまってほしかったんじゃない?」 悠介 「そ、そか……」 みんなの目は酷くやさしいものだった。 ……彰利、すまん。 誰もお前の心配してないらしい。 ……。 橋を渡った先に広がる景色に、思わずホゥと溜め息が出た。 やっぱりファンタジーっていうのはこうじゃないといけない。 適度に広がる緑と、空に広がる蒼。 そして、そこを徘徊するモンスターたち。 悠介 「よ、よし。それじゃあグループ分けを───」 遥一郎「凍弥!柾樹!───GOだ!」 凍弥 「え?とわっ!?」 柾樹 「ちょ、ちょっと待───うわわぁっ!」 思わずゴクリと息を飲み、緊張のためにどもってしまった瞬間! 穂岸が凍弥と柾樹を引っ張って駆け出した! 悠介 「あぁっ!?ま、待て!」 まずい!まずいぞ!あの二人を取られたら、残りは問題児ばかりじゃないか! こうなりゃ創造を行使してでも穂岸を止め─── 遥一郎「ディープミストッ!!《パキィンッ!》」 悠介 「《モシャアッ!》ぷわっ!?な、なんだぁっ!?」 突如、目の前が濃い霧まみれに! 霧発生魔法か!くそ! 悠介 「けど向かってた先は覚え《ぐにゃあああ……》う、おっ……!?     く、あぁっ……くそっ……平衡感覚惑わす効果まで付加させやがった……!」 まいったな、くそ……あいつ本当にただの元・地界人か……? 魔法の飲み込みが早いったらない……! このままじゃ逃げられる……ていうか俺が狙ってた二人があっさり掻っ攫われた……。 これってやっぱり同じことを考えてたって思うべきなのか……? だが見くびるな! この晦悠介、空界で得たほとんどの能力を失ったが、 身体に宿した様々な思いの片鱗までは失っていない! “白雷光”(びゃくらいこう)発動! 我が身は黒と対を成す白と光と雷の具現!……的な月の家系! 弦月と対極せし朧月の末裔なり! やつが黒なら俺は白───死神の力よ、今再び俺に力を与えよ! 悠介 「“千里眼”(イーグル・アイ)!!」 かつて、空界で無茶をしていた時に、グリフォンの力を目に宿したアレを再び。 敵の行動の一手先のみをなんとか見れる程度の能力で、日余の“時眼視・冥”はもちろん、 彰利の未来視にも勝てない半端な能力。 だが知れ!この能力は本来、遠見をするための能力! こんな霧の目くらましなど、この目にかかればただの靄にすぎない! …………あ、だめだ。 力全部ノートに渡してあるから、発動する筈もなかった。 ッチィ!だったら月の家系の身体能力的な眼力を駆使して───…………見つけた! 悠介 「雷神槍剣(ヴィジャヤ)!ブレードオープン!超電磁波動砲(メガレールカノン)!!」 ラグと合成させたヴィジャヤをオープン! メガレールを発動させ、バヂバヂと小気味のいい音を放っているそれを今こそ発射! ───した途端。 中井出「えーはい、それじゃあ案内をギャアアオアァアッ!!!」 影が提督のものだったことが判明……と同時に提督が雷光に飲まれて吹き飛んでいった。 …………やべぇ。 いつ戻ってきたのか知らないが、まさか提督だったとは……。 とにかく!今すぐ逃げ 兵士 「なめたらかんでぇ!!」 悠介 「ぎゃああああああああっ!!」 ダメでした。 ───……。 ……。 神父 「おお旅人よ!死んでしまうとはなさけない!」 悠介 「なぁ!おかしくないか!?なぁ!!ただの兵士が強すぎだろ!     メガレールカノン打っても怯みもしないぞ!?なのにこっち一撃で殺されたし!     もういいだろ!ここの兵士一人で帝国潰せるよ絶対!だから一人貸してくれ!」 神父 「構わんが仲間になった途端にHPが百の位まで下がり、     ステータスが平凡になるぞ」 悠介 「ぬぐっ……!どこのRPGキャラクターだよそれはぁあああ…………!」 追求してみたが、これ以上話すことなどないと言った風情で無視された。 ……ほんと、こいつこそ俺達の中のラスボスなんじゃなかろうか。 いつか全員がかりでフルボコりたい相手ランキング堂々の一位だぞ、絶対。 ……と思ったところで提督が飛んできた。 中井出「貴様らぁ!子々孫々、七代過ぎても呪ってやるからなぁあああああっ!!     …………あれ?晦?」 悠介 「どういう死に方すればそんな言葉使えるんだ?」 壮絶な裏切りにでも逢ったんだろうか。 中井出「聞いてくれ晦!柾樹坊主の野郎が!俺がせっかく握らせてやったアナゴグミを!     こんなっ……こんな敵らしい敵も居ないところで使いやがって……!!」 悠介 「よっしゃあ何処だ柾樹の野郎ブチノメす!!」 中井出(《ゴシャーン!》……チョロイ) 悠介 「……マテ。今目ェ光らせてなかったか?」 中井出「馬鹿かてめぇはこの馬鹿、人の目が光るわけねーだろうが馬鹿この馬鹿」 悠介 「ここぞとばかりにバカバカ言うな王様馬鹿!     少しは遠慮ってものを覚えてくれよ頼むから!」 中井出「え?やだ」 悠介 「冷静に断んなぁあああああっ!!!ていうかナビのくせに死ぬのかあんたは!     そりゃいったいどんなナビだ!?」 中井出「いやぁ実はさ、森を歩きつつ柾樹坊主をストーキングしてたらさ、     あの野郎がキングベヒーモスの縄張りに入っちゃってね?」 悠介 「初心者!ここ初心者修練場!!     どうしてよりにもよってキングベヒーモスが居るんだよ!」 中井出「知らんけど、びっくりした柾樹坊主がアナゴグミ使いやがってさ。     で、止めに入った僕ごとデストロイヤー。     貴様に不意打ちされたことで弱っていた僕は、     抵抗する間もなくケシズミさ……いや、強ぇねあいつ」 悠介 「………」 もう何処からツッコンでいいか解らなくなってしまった。 中井出「そんなもんに巻き込まれたもんだから、     ベヘモスと柾樹チに子々孫々七代まで呪ってやると。     あんなレアアイテム、他に無いってのに…………っと、来た来た」 悠介 「んあ?……あ、ああ、柾樹か」 遅ればせながら、シャランラァといつ聞いても気の抜ける音とともに、 死亡したらしい柾樹が神父の前に舞い降り─── 悠介 「カァアーーーッ!!」 柾樹 「《バゴォ!!》つぶつぶーーーーーっ!!」 閉じていた目を開いた途端に、彼奴のジョーを的確に殴り抜く!! そうしてやることにより、顎が砕けたらしい柾樹が教会の石床をゴロゴロと転がる。 ……おお、まるで彰利だ。 悠介 「お前はぁああ……!     大事なアナゴグミをキングベヒーモスに使う馬鹿がいるかっ!     あれは帝国を潰すためのリーサルウェポンで───……って、これ……」 ヒクヒクと痙攣しながらも、俺の言葉に抵抗するように小さなグミを差し出す柾樹。 それは───アナゴグミだった。 柾樹 「はらふふぁふぁ……らふふれふぁれふひ……」 中井出「顎が砕けてるようだ……喋れないらしい」 悠介 「いや、一目瞭然だから。待ってろ、今治して───」 中井出「待て!俺にいい考えがある!───コロがした方が早くね?」 悠介 「物騒なこと言うな!ていうか提督、若者風の口調似合わないにもほどがある!」 中井出「し、失敬だな!キルジョークで場を和ませようとした僕の気持ちが解らんのか!     でもうん、若者風の言葉使いって確かに苦手です。     画太郎風の口調は大好きなんだけど」 まあ……それは彰利と一緒によくやってるしな。 うるせー、とか、知らねー、とか。 それと肉語だな……あれは実に緊張感とかがない。気が抜けるというか、気合が入らない。 中井出「よーし、ちょっと顎見せてみろ〜……?     ん、ん〜……ん、……無駄に顔が整っててムカツキます。     柾樹、殴っていいかい?その赤で教会が真っ赤に染まるように」 悠介 「こらこらっ、それこそ死ぬだろっ」 中井出「重ォいジョーク♪ほいじゃあ───」 中井出がピトッと柾樹の顎に触れる。 砕けてるんだから、当然その痛みに柾樹の体が跳ねるが、それでも触れる。 すると───みるみる内に柾樹の顎から紫にくすんだ色が消えうせ、 ブラブラと揺れていた顎がしゃくりと治るではないか! 柾樹 「え……えぇっ!?これって……」 中井出「キモスト教の力です」 柾樹 「今すぐ砕き直してください」 中井出「そんなに嫌なの!?」 予想外な言葉に提督こそが驚いていた。 当然といえば当然だ。 中井出「解ったよぅいいよぅ、どーせ貴様らは僕らの手など借りたくねーってわけだな?     いいよもう、僕らは僕らで楽しんでやるんだから」 悠介 「お前にはなにか?背後霊でも居るのか?」 中井出「ぬ?……おおソレチガウ。僕らっていうのはジークのことさ。     面白いんだぜぇジークは!冥土の土産に貴様らにいい物を見せてやる!」 彰利 「メイドさんって言えてめぇ!!」 中井出「そのメイドじゃねぇよ!!     なんなのキミたちいつもいつも話の腰折ってェエエエ!!」 柾樹 「とりあえず提督さんにだけは言われたくないです」 中井出「そ、そうですか」 寂しそうな顔だった。 そして突如現れた彰利はツッコミもされないままに放置され、少し寂しげだった。 ……ともあれ気を取り直したのかヤケクソなのか。 提督はニコリと笑ったのちに、行動を開始した。 中井出「俺のターン!ドロー!───守護竜イルムナルラを守備表示で召喚!     さらにマジックカード!ガードオファを発動!     装備を全て解除し、ランドグリーズへと変換する!     さらにマジックカード発動!強制憑依!     このカードの効果により、俺と武具の意思とでイルムナルラに武具を装着させる!     当然カタチは俺の意思を受け取ったブリュンヒルデがコーディネイトする!     見よ……!強靭!無敵!最強!     今!究極の守護竜の誕生を宣言する!出でよ!“月光眼の究極竜”(ムーンアイズ・アルティメット・ドラゴン)!」  ゴシャーン! 総員 『………』 カードもないのにカードバトルっぽい口調でやーのやーの叫んでいた提督の前に、 見るも美しい造形、容姿をした竜が現れた。 大げさな言い回しだったが、月光竜にランドグリーズを鎧化で装備させただけなんだが…… それだけなのに、声も出せずに魅了される。 ああ、なんだ、つまりだ…… 彰利 「うわやべぇ……かっきぃ……」 そう、思わずカッコイイをかっきぃと言ってしまうくらいに、格好いい。 それも、やっぱりちっこい竜なもんだから、 ミニチュアの究極竜って感じで愛着も沸くってもので……。  だが、今はそれよりも、だ。 総員 『………』 中井出「ふぅん!あまりの格好よさに言葉もでないようだな!     ………………あ、あの……あれ?なんでそんな、(ねめ)つけるように……」 目の前……月光眼の究極竜。 斜め横……すっぴんの提督。 ……すっぴん。つまり、な〜んも装備してない。 霊章も当然イルムナルラにくっついてるわけで─── 中井出「あ、あれ?なんでみんなして武器取り出すの?     ちょっ……悪い冗談よそうよ!あのちょやめヴァーーーーッ!!!」 提督をコロがせる瞬間なんてそうそう回ってくるものかと、 この機を逃さず提督を無言でボコボコにしたのち、 タラララッスッタンタ〜ン♪とレベルアップしたと同時に激怒した究極竜により、 手も足も出せないままに瞬殺された。 …………。 ……で。 彰利 「どういう強さしとんのこの竜!何者!?」 中井出「月光竜です。名をシャモン。イルムナルラが真名らしいけど気にするな。     月の守護竜にして僕のパートナーその2」 その1は……間違いなくジークフリードだろうな。 柾樹 「守護竜って……道理で強いわけですね……」 彰利 「くれ!」 中井出「死ね!!」 彰利 「また死ねって言われた!」 柾樹 「そういえば悠介さんも竜、連れてましたよね。えっと……」 悠介 「ディルか?」 柾樹 「あ、そうです、ディルゼイル」 彰利 「竜がなんだい!アタイだって竜くらい出せるぜ!?     オッ……ウガァアォガァアアアッ……!!《バキメキゴキ……!》」 穏やかな会話の最中、彰利の体がバコンベキンと変形ってうわぁこの馬鹿!! 悠介 「待て待て待てぇっ!今のお前じゃまだレヴァルグリードは出せないからやめろ!」 彰利 「大丈夫だよ!僕出来る子だもん!!」 悠介 「子って歳かよお前は!」 彰利 「………………お互い、歳を取ったものだな……」 悠介 「老いたな、トキ……」 彰利 「フケたな、ケンシロウ……」 悠介 「……痩せたな、トキ」 彰利 「フケたな、ケンシロウ」 悠介 「………………太ったな、トキ」 彰利 「フケたな、ケンシロウ」 悠介 「…………《ひきっ》」 彰利 「…………《ニヤリ》」 どうあってもフケたなとしか言わないつもりらしい。 悠介 「……よし、レヴァルグリードでもなんでも発動させちまえっ」 彰利 「キャア!?なにそのスマイル!輝かしいのに死亡フラグしか立ってなさそう!     この親友にもっとやさしい言葉とかないの!?     今アタイとっても苦しい状況にあるんだけど!」 悠介 「死ね」 彰利 「口調だけやさしいだけじゃねぇのってギャアアアアアアアアア!!     いだっ!いだだっ!集中が!集中力がぁあああっ!!」 中井出「だ、大丈夫か彰利!───……べろべろばぁーーーーっ!!《バゴォ!》ベボ!」 彰利 「あのね!?そげなもんで今更集中乱れたりしませんからね!?     なんなのそのお化け屋敷で人体模型がやりそうな下等な驚かせ方!」 中井出「え……や……あの……だからって殴ることないと思うんだ、僕……」 流れるように殴られたのがショックだったのか、 提督は左頬を抑えながら眼をパチクリさせてる。 で…… シャモン『ピキィイイーーーーッ!!』 彰利  「ゲェッ!しまったこいつが居ること忘れてギャオアーーーーーーッ!!!」  チュガァアアォオオオオンッ!!! ……月光眼の究極竜に滅びの威光を放たれて見事に消滅していた。 なにがやりたかったのかはまあ解るが、無駄骨だったな。 雛鳥みたいな鳴き声のくせに、強すぎだ、この竜。 柾樹 「う、うわ……あの彰利さんが一撃で……」 中井出「ワハハハハ!!     シャモンが身に纏っているのは俺の掛け替えのないパートナーたちだからな!     他に誇れるものなぞなんにもない俺だが、パートナーだけは誇るよ!?誇るもん!     こんなに素晴らしい武具たちと意思を通わすことが出来る……なんて最強!」 うわー……最近の提督じゃあかなり幸せそうな顔してる。 ……ほんと、昨日まであんなに楽しげだったのにな。 どうして─── 中井出「御託は無しだぜ晦!さっきのは何かの間違いさ!」 悠介 「───ん、そうだな。そんなことしてる暇があったら楽しむ……だよな?」 中井出「OH・YEAR!俺達の夏はまだ始まったばかりだ!     というわけで、どうして使った筈のアナゴグミがここに?」 柾樹 「物凄い角度で話の元にターンしますね……。     えっと、バル、バトス……でしたっけ?が召喚されて、     技を使い終わったらグミに戻ってました」 中井出「………」 悠介 「………」 じゃあなにか。 このグミ自体がバルバトスなわけか? 悠介 「ちょっと貸してもらっていいか?」 柾樹 「あ、はい」 柾樹からアナゴグミを受け取り、意識を細める。 力をノートに渡し、それが戻ってこないものだからといって、 能力がまるでないわけでもない。 ラグがこの手にあるのなら、分析能力は健在なのだ。 そう、倉庫泥棒の髪の毛を分析してみせたように。 というわけで分析開始!  ◆アナゴグミ───若本規夫グミ(ベリーメロン味)  一口食べればキャッチマイハート!  アナタの心を鷲掴みにする、お口にとろけるベリーメロン味。  食べるとあなたの内側でバルバトスが覚醒し、  あなたの体を乗っ取りますので食べないでください。  アイテムとして使う分には侵食はありませんが、一日一回が限度です。  バルバトスを召喚して、己も巻き込むワールドデストロイヤーを放ってくれます。  あらゆる防御、あらゆる魔法障壁、あらゆる世界創造も破壊するので気をつけましょう。  発動させたら、有効範囲内に居るもの全てが消し飛びます。  *神冥書房刊:『単身最強人間伝説』より …………。 分析してこれかよ。 普通の説明だと、使用するとバルバトスが出て、 世界を駆逐してくれます、みたいなことしか書いてないのに。 悠介 「あー……つまり。一日一回だけのジェノサイドワールド能力なわけだな」 中井出「一日一回……というと、今日はもう無理なわけか」 悠介 「らしいぞ?食っても効果出るらしいけど、バルバトスになるからやめとけ」 中井出「───そ、そうか。じゃあこういうのはどうだろう。     戦場で倒れゆく兵士が居たとする。     そいつにパイングミだー!とウソぶっこいて食わせる。     そしたらそいつは奇跡の生還を果たし、大手を振って家族のもとへ───!」 悠介 「家族が卒倒するわ!!」 中井出「え〜……?」 柾樹 「どうしてそこで残念そうな声が出せるんですか……。     ほら、提督さんも悠介さんも、そろそろ教会から出ましょうよ。     外の方でみんな待ってますから」 中井出「だが断る」 悠介 「じゃ、行ってくるな?ナビ頑張れよ〜」 中井出「………あれ?」 ノってくれるだろうと信じたのであろう口調の提督を置いて、 俺と柾樹は教会を出て行った。 ……のち、中井出と、蘇ったらしい彰利との妙な奇声が響き渡り、教会が崩壊したが…… その後により強大な轟音とともに爆発音が鳴り響き、 二人が神父にコロがされたことをなんとなく悟った夏の日であった。 悠介 「ところで柾樹、穂岸と凍弥はどうした?」 柾樹 「穂岸さんは魔法の練習と称してリバイバルスライムと戦ってました。     叔父さんのことはちょっと解りません」 悠介 「ん?あ、ああ、違う違う、凍弥って言ったのは霧波川凍弥の方だ。     閏璃の方じゃない」 柾樹 「あ、そっか。ちょっとややこしいですよね。     えと、あの人なら穂岸さんのサポートに回ってましたよ?     魔法使いとの連携のあり方を研究してみよう、とかなんとか。     俺はちょっと力不足だったんで、一人で経験積もうと思ったんですが」 悠介 「キングベヒーモスの縄張りに足を踏み込んでしまったと」 柾樹 「面目ないです……」 この場合、お前の面目がどうとかよりも、 キングベヒーモスの縄張りがあること自体に問題があるんだが。 まあ、そこのところは上級者用に作った退屈しのぎなのかもしれない。 倒してみるのもいいけど、その場合は相当の覚悟が必要だ。 俺のレベルでは……勝てるかどうか。 どうなんだろうな、今の自分は。 あの頃に追いつけてるのか、それともまだまだなのか。 反発反動力が無くなった今、瞬間的に弾き出せる力は随分と減った。 今更神魔や竜人の力や魔力諸力に興味はないけど、 男として強敵と戦っても勝てるくらいの力は欲しい。 守るとか抜きにして、やっぱり常に強くありたいって思うだろ、男なら。 柾樹 「えと、それで悠介さん。悠介さんはこれからなにをするんですか?」 悠介 「魔人群で連携を、なんてことを考えたのがそもそもの間違いだ。     このメンバーを連携って言葉で縛り付けられるわけもなかった。     だからだな。あー…………柾樹……耳、塞いどけ」 柾樹 「え?あの」 悠介 「い、いいからっ、早く」 柾樹 「は、はい……《ギュッ》……これで、いいですか?」 悠介 「塞ぐだけじゃだめだな……もっとこう、押し付けながらぐりぐりと動かして、     音が聞こえないようにしてくれ」 柾樹 「ハイ……《ゴファゴファゴファゴファ》」 きょとんとした顔の柾樹が、押さえつけた自分の耳をさらにぐりぐりと動かす。 そうすることによって摩擦音が聴覚を押さえつけ、 外界の音が少しだけ聞こえなくなるという寸法。 この隙に俺はコホンと軽い咳払いをして、 悠介 「あ、あー…………その。……ル、ルナ、愛してる」 と、小さく呟いどかぁっ!! 悠介 「はぶぉあっ!!」 ルナ 「ゆーーーすけーーーーーっ!!!」 ───た、途端だった。 首に物凄い衝撃が走ったかと思いきや、 そこにはいつ来たのかも解らない、ルナの姿があった。 悠介 「あ、あのな、ルナッ……現れる時はもう少しやさしくだなっ……」 ルナ 「んふふふふ〜〜……♪ゆ〜すけ〜……♪」 悠介 「………」 聞いちゃいない。 遠くに居ても愛の囁きだけは聞き届けるくせに、 どうして間近の普通の声が聞こえないんだお前は。 ぎゅうぎゅうと抱きつかれる中でそんなことを思いつつ、 未だに熱心に耳をガフォガフォ動かしている柾樹の肩を、 もういいという意味を込めてトントンと突つく。 柾樹 「もういいんでうわぁルナさんっ!?」 熱心のあまりに眼まで塞いでたこいつは、案外純粋なのかもしれん。 まあ……そうだよな。 この時までを生きてきたとはいえ、大半の時代をルドラに侵食されながら生きてたんだ。 多少の知識があるとはいえ、まだ精神的には子供だろう。 悠介 「よし柾樹!組み手だ!」 柾樹 「えぇっ!?どうしてそんないきなりっ……」 悠介 「先人はおっしゃった。下痢はいつだって唐突だ」 柾樹 「先人以前の問題ですよそれは!」 悠介 「冗談だ。いきなりだとか後にするとかそういうのは無しにしよう。     状況は待ってはくれないものだろ?楽しげにしてても急に襲撃があるように、     泣いていても戦わなきゃいけない時があるように、     俺達が居る世界……物語ってのはいつだって唐突だ。     だから“いきなり”なんてことはないんだって覚えとけ。     やりたい、と思ったらな、柾樹。行動はもう始まってるんだ。     そしてやると決めたなら───行動は既に終わっている」 柾樹 「プロシュート兄ぃですか」 悠介 「誰が語ろうがどうだろうが、いい言葉は死なない。     なにかの真似でも心に響けば力になるだろ。     名言は人から人へと広がっていくべきだ。     ……とぐだぐだ言うのは無しだって提督に言われてたんだったな。     よし、いっちょやるか!確かお前、まだルドラの記憶持ってるんだったよな」 柾樹 「え……まあ、はい。記憶に経験が追いついてなさすぎて、全然ダメですが」 申し訳なさそうに言い、頬をコリッと掻く柾樹。 ふむ……引き出せないか。 悠介 「じゃあそれを引き出せるようにしよう。一気に無理矢理引き出すのもアリだが、     そうすると多分お前が廃人になるだろうからそれは却下だ」 柾樹 「そんなに危ないことなんですか!?」 悠介 「ルドラの力は規格外にも程があるからな。     いきなり全部なんて引き出したら体が追いつかない。     ……いいか?まずはイメージだ。人体ってのは不思議なもんで、     脳からくる鮮明なイメージには無理にでも追いつこうと努力する。     つまり、イメージは武器だ。俺の創造然り、イメージトレーニング然り。     自分は自分だからそんな記憶必要ないとか言ったところで、     お前の中にはルドラの記憶が存在してる。     これをこうやればこうなるんじゃないか、なんて考えは、     もうとっくにルドラが滅茶苦茶な域にまで鍛え上げてるんだ。     だったらその記憶を使わない手はないだろ」 基盤はこの世界自体。 だったらその中の駒である俺達は、用意された道を散々利用するだけ利用して、 いいと思ったらいつでも基盤から外れればいい。 ……常識破りってのはそういうこったよな、提督。 柾樹 「えと……つまり、“攻防はイメージとして完成してる”ですか?」 悠介 「そう。あとは実践するヤツがどれだけ動けるかだ。     幸いこの世界はゲーム世界で、鍛えれば鍛えるほど体はついてくる。     現実世界の筋肉トレーニングみたいに無駄がないんだ。     忘れるな、鍛えれば鍛えるだけ経験が積めるっていうのは、     この世界の最大の利点だ。これを利用しない手はない」 柾樹 「でも……ですけど」 悠介 「みずきと刹那が困ってて、それを助けたいって思うなら、     頼る前にまず自分でなんとか出来るようになってみろ。     友達を助けるのは友達でいいだろ」 柾樹 「───……は、はいっ!俺、やります!」 悠介 「よしっ!じゃあまずルナと真正面から打ち合ってみろ」 柾樹 「死んじゃいますよ!」 いきなり失礼なやつだった。 ルナ 「マサキチ、それどーいう意味?」 柾樹 「やっ……だってルナさん、俺なんかよりよっぽどレベルが上じゃあ……」 悠介 「この際、レベルのことは忘れろ。いいか、全力で向かってみろ。     で、相手がどう動いたかで、ルドラの記憶からくる指令全てを受け取って、     即座にそれを体に生かす。……出来るな?」 柾樹 「っ……やろう、と思ったら……既に行動は始まっている、ですよね」 悠介 「ああ。よし、いけっ!」 柾樹 「はいっ!!」 柾樹が長剣を取り出し、構える。 俺はそれを見ながら“あれが柾樹の武器か”と静かに考えて、柾樹の出方を想像する。 柾樹自身は息を整え、どうやら思考から戦闘方法を引き出しているようで、 まだ出ようとはしない。 だがそれもほんの数秒。 カッと眼を見開くと、姿勢を低くしたと思った直後に全力疾駆! 少し離れた位置に立っていたルナ目掛け、地を這うようにドグオシャアッッ! ……コケた。 柾樹 「いてっ!いててっ!ぶはっ!べはっ!口の中に砂がっ……!」 ……予想通り、イメージに体がついてこなかったらしい。 顔面から地面をゾザーと滑った柾樹は、砂を吐きながらしょんぼりし始めた。 ……のだが、すぐに起き上がると元の位置に戻り、再び姿勢を低くしてダッシュ! 今度はさっきより速い───そうか。 ステータス移動でAGIに全てをドグオシャシャアアアッ!!! 柾樹 「いぎゃぁああああーーーーーっ!!!」 ダメだった。 速度が上がった分、より一層地面を滑ることになり、 防御も受身も疎かだった柾樹は顔面逆立ち状態で一時停止したのち、 ばたりと倒れて動かなくなった。 いやその……なんだ。再度挑戦しようとした姿勢は素晴らしいと思うぞぅ、うん。 ルナ 「ねー悠介ー、どうするのこれ」 コレ扱いである。 痙攣している柾樹を指差しながら、べつに面白いものを見つけたって顔でもないルナは、 むしろ退屈そうに柾樹を見下ろしている。 さてどうしたもんかな……どうせシステムのお陰ですぐに回復するとは思うが。 悠介 「……柾樹ー?大丈夫かー?」 柾樹 「ぶはぁっ!《がばあっ!》」 悠介 「おわっと!?」 心配になって話し掛けた途端、 柾樹は大地に手をついて土まみれだった顔を起き上がらせる。 それから土をばたばたと払うと、キッと俺を見上げて言う。 柾樹 「なんていうかハイだめです!イメージが高すぎて使い物になりません!」 えらく元気なダメ宣言だったという。 ……じゃなくて。 悠介 「まあ、予想は出来てた。ていうか最初から出来たら苦労しない。     つまりな、それをある程度でもいいから扱えるようにするのが目的だ。     多少ずつでいいから、吸収していけばいい。     ただし、あいつの理想とした生き方だけは受け取るな。     技を盗もうがお前はお前だ。生き方だけは自分で決めないと、後悔するぞ」 柾樹 「……あの、さっきと言ってることが違うような……」 悠介 「技は自分のものじゃなくてもいい。けど生き方は重ねるなってことだ。いいな?」 柾樹 「………………そう、ですね。というか俺にはこの生き方は出来ません。     みんなを守るなんてこと、俺はしたくないですし。     俺は……好きな人と仲間とずっと一緒に居られればいいって思うだけですから」 悠介 「───そうだな」 望みなんてものは、それくらいが丁度いいのかもしれない。 望みすぎるから全部手放すことになるんだ。 自分の手で、自分の望みの所為で。 悠介 「よし、じゃあ基本から固めていくか。今は一人でも強者が欲しい」 柾樹 「強者って……なれますかね、俺なんかが」 悠介 「たわけ、そう考える時点でもう駄目なんだよ。     そういう時はイメージの中でだけでも最強の自分を思い描け。     イメージが固まったら、そこまで出来るように頑張るだけだ。     今まで出来なかったことがこの世界で出来た時、お前はどんな気分だった?     もっと上に、って欲張りになっただろ。その感情を忘れるな」 柾樹 「強さには強欲に、ですか?」 悠介 「いや。理想に強欲に、だ」 辿り着きたい理想があるなら、 辿り着ける可能性がある場所で思い切り想像を膨らませよう。 そこが本当に可能性のある場所なら、 辿り着けないまでも理想に近づくことくらいは出来る筈なのだから。 悠介 「というわけでいくぞ柾樹!まずは移動!歩法や駆法を身につけるぞ!」 柾樹 「───そう、ですね、ここで悩んでだって始まりませんよね!     理想は大きく!───やります!俺やりますよっ!」 がばぁっ!と立ち上がった柾樹は声高らかにそう言うと、 両腕を高く広げ、何故かトーテムポールロマンスを叫んだ。 ……うん、言葉の意味は解らんが、なにやらすごい迫力だ。 と、冷静に判断していると、 ルナ 「わたしは?」 離れた場所に立ちっぱなしだったルナが、少し頬を膨らませながら俺を睨んでいた。 ……どうやらほったらかしで柾樹と話していたのが気に入らないらしい。 どうしてあいつはこう拗ねやすいのか。 悠介 「お前は俺と瞑想。お前はちょっと落ち着きがなさすぎだ。     もうちょっと感情を抑えられるようにしような?     ……今後の俺のために《がぶりゃあ!》いおっつぁああーーーーっ!!     いあぁあばばばばかっ!噛み付くヤツがあるかぁーーーーっ!!」 ルナ 「ゆーすけがわたしのことほったらかしにするからいけないんでしょー!?」 悠介 「お前はなにかっ!?     少し構わなかっただけで一瞬で間合いを詰めて噛み付くのか!?     四六時中構うなんてこと、できるわけないだろうがっ!!」 ルナ 「わたしは出来るわよぅーーーっ!!」 悠介 「どれだけ暇人なんだお前は《ゴリリ》ギャアーーーーーッ!!」 ルナ 「悠介にしか興味がないだけだわよぅ!ゆーすけのばかーーーっ!!」 悠介 「馬鹿でもいいから離せぇえええっ!!首がッ!頚動脈が千切れる!!」 柾樹 「……大変ですね」 悠介 「おーおそう見えるか是非とも代わってくれ!」 柾樹 「うええっ!?勘弁してくださいよ!悠季美だけで十分ですよっ!」 ……男二人がここに、男の情けなさを垣間見た瞬間だった。 もっと強くなりたいな……なぁ柾樹……。 男女関係、夫婦関係において……。 Next Menu back