───冒険の書257/初心者修練場バトル(青梗再(チンゲンサイ)───
【ケース663:霧波川凍弥/ヘヴンスポエマー】 ギンガンガンギンキヒャヒャヒャヒャァンッ!! 凍弥 「つっ……ふ、はぁっ───」 アダマンゴーレム相手に、熾天陽輝刀無間裂鬼を振るう。 攻撃の悉くは敵の固さに弾かれるが、だからこそ集中して振るう。 剣で鉄を切る、なんてことは漫画とかでよくやっている。 だったら魔法鉱石の塊で出来たゴーレムはどうだろう。 鉄などよりもよほどに硬く、生半可な刃では傷つけるのもやっと。 そんなヤツ相手に、馬鹿正直に刀で挑んでいる……ああ、確認するまでもなく馬鹿だ。 と考えていると、視界の隅でなにかが動いて───……与一だった。 遥一郎「順調か?」 凍弥 「はっ……っと、おっさ《ドゴォンッ!》んがぁあーーーーーーっ!!?」 遥一郎「いい加減、おっさんって言うのはやめような?」 凍弥 「笑顔で魔法ぶっ放すのもアリじゃないだろっ!」 疲れてる体になんて鞭うつんだこいつは! ……いや、ていうかこれだけの威力の魔法、無詠唱で撃たれても困るんだが。 凍弥 「頭の回転が速いのって利点だよな……」 遥一郎「回って困ることなんてないだろ。お前も魔法使いの方が合ってたんじゃないか?」 凍弥 「うぐっ……それ、時々考えることがある……実は《ドボォ!》ゴヘェ!?」 と、話していると横から脇腹への攻撃! 硬い硬いゴーレムの拳が俺の脇腹へと直撃を果たし、 俺は体を真横に“く”に曲げた状態で森の木へと衝突した。 凍弥 「いっ……が……!げはっ!う、げぇっ……!」 アバラが一本……ってそれはいいって! 痛みはあるけど、ダメージはそれほどでもない。 用心を重ねてステータスは均等だった……それが吉になった。 けど人間ってのは痛みに敏感だ。 多少の痛みでも、相手が相手なだけに痛みを余計に感じてしまう。 ───と思ったら、痛みがあっと言う間に消えて、身体が光に包まれる。 遥一郎「ん。回復は任せとけ」 そうだろうと思い、目を向けると柔らかに微笑む与一。 ……あの、どこまでもやさしい目が疎ましい時代もあったが─── 今は、なんだか頼れる兄に見守られている感じがして、くすぐったい。 なのに元気に立ち上がれるのは……それが嫌な気分じゃなかったからなのだろう。 凍弥 「光精刀氣……明鏡止水!」 無間裂鬼に光を込め、明鏡止水を発動。 本来精刀氣に光属性なんてないが、光の精霊と契約することで閃くことが出来たもの。 光属性の攻撃強化に加え、身体速度を強化、光属性完全吸収能力を得られる。 光属性の攻撃をしてしまえばその時点で効果が切れ、 通常の精刀氣と同様に30秒のチャージ時間を必要とする。 さて───御託はともかく。 精神が研ぎ澄まされた世界……明鏡止水の効果による視界の中、 先ほどよりも動作が遅く感じるゴーレムが俺目掛けて突進してくる。 俺はその視界の中から何処を穿てばいいのかを冷静に分析し、行動に移る。 ……言っておくが、分析といっても悠介さんみたいな高度なものじゃない。 俺のは石職人が石を穿つための急所を知っている、的な能力だ。 凍弥 「───見切れるか!」 ダンッ!と踏み切った足が光の力を得、俺を前へと弾かせる。 走るのではなく、まさに弾かれるように。 突然の動作に反応が遅れたゴーレムは、 元よりの動作の遅さもあってか完全に反応など出来ず、 凍弥 「喰らえっ!!」 連ねること三閃。 ギャリンギャリンガギィンッ!と、斬り下ろし、斬り払い、斬り上げの動作で、 硬く重いゴーレムを宙に浮かす。 と同時に───刀の鞘を左手に構え、光の属性が全身から溢れ出るのを自覚すると同時に! 凍弥 「翔破裂光閃(しょうはれっこうせん)!!」  フィガァアガガガギギギガガフィィンッ!!! 構えた両の武器でゴーレムを穿ちまくる!! 腕の動きは光の如く───!突き出されし武器こそも、刃で斬るのではなく光で穿つ! 刀神倭道人の明鏡止水の能力の一、翔破裂光閃。 光属性の武器か、光属性の宝玉が無ければ出来ない技だが、 今の俺なら条件も相性も抜群だ。 連ねられる連突は光の束となり、玉となり、やがて刀が通る軌道全てを眩く覆い、 それが消え去る頃には───ゴーレムは、跡形もなく消し飛んでいた。 凍弥 「───貴様に見切れる筋も《ズキィーーン!!》いがぁーーーーーっ!!」 消し飛んだけど、腕を早く動かしすぎた所為で肩とか腕がズッキーニ。 ……キノコじゃなくて、ズキンと痛むって意味な? 凍弥 「あおがぃぢぢぢぢだだぁああ…………!!     な、なぁ与一……これって条件付き奥義として、どうなんだ……?」 遥一郎「決め台詞を最後まで言えない時点でお前の負けじゃないか?」 凍弥 「勝ち負け云々じゃなくてさ……」 痛む腕が自然回復によって治る頃、持っていた刀を鞘に収めると、腰に差し込んで一息。 他のやつらはモンスターハンターに習ってか、刀も背中に背負ってるんだが…… 前世の性分だろうか、俺は腰に当てないと落ち着かない。 遥一郎「……それで、お前はこんなところでレベル上げか?」 凍弥 「ん……ああ、まあ。ここには硬い敵が集中してるみたいだから、     刀でならどこまで行けるかなってさ。これで十体目だ」 遥一郎「そっか。頑張ってるんだな」 凍弥 「そりゃあ男だ、強くなりたいって思うのは当然だろ?」 回復はしてるが、なんとなく疲労感を感じて、ぐぅっと伸びをする。 そうしてから新たな敵を探しに歩き出し───ゴファァンッ!! 凍弥 「江?」 なにか、蒼っぽいのか黒っぽいのか解らない影が目の前をよぎった時。 俺の背中に、なにか冷たいものが差し込まれたような寒気と恐怖が走った。 そして、今まさに俺の目の前へと落ち着いた影の正体は───! バルバトス「貴様らァ……こんなところで長々となにをしているゥ……!」 バル様だった。 凍弥   「へっ!?えぇっ!?」 バルバトス「畜生にも劣る下劣な行為ィイ……見過ごすほど腑抜けでないわァ!!」 ま、待て! どうしてこいつがここに!? 下劣!?え!?なにがだ!?  ピピンッ♪《メールが届きました》 凍弥   「こんな時になんだよっ!───…………!?       おっ……同じ場所で経験値稼ぎのために戦ってると、       バルバトスが制裁を落としに来る!?ま、ままま待てぇえーーーーーっ!!       そんな事後承諾みたいなことやられたって知るかぁーーーーーっ!!」 バルバトス「鼠のように逃げ遂せるかァ!この場で死ぬかァ!!       どぅぉおおちらか選べぇえええええええええええい!!!」 凍弥   「どどどどちらかって───与一!って居ない!?」 ハッと振り向けば既に逃走している与一! ───が、物凄い速さでバルバトスにぶちかましをされたのち、 バルバトス「男に後退の二文字はねぇえええい!!」 ジェノサイドブレイバーでケシズミになった。 凍弥 「…………」 まあその、なんだ。 さようなら、俺の鍛錬。 ゆっくりと俺へと向き直る彼を見て、素直にそう思えた夏の日の出来事だった。 ───……。 ……。 神父 「おお旅人よ!死んでしまうとはなさけない!」 凍弥 「いちいち同じこと言うなよ!聞き飽きたよそんなこと!」 彰利 「だったら強くなればいいのさ!死なないようにすればいいのさ!」 凍弥 「うわぁ彰衛門!?……体に光の残留があると、説得力がないんだけど」 彰利 「しゃあねぇでしょ!?ベヘモトの野郎が滅茶苦茶強かったんだから!」 ゼット「ぬかった。まさかあれほどの力を隠しているとは」 彰利 「きさんがさっさと全力で潰しにいかんからでしょ!?」 ゼット「なんだと貴様!貴様こそ無理にでも皇竜の力を引き出していれば───!」 彰利 「なんですって!?上等だぜこの野郎〜〜〜っ!     だったら今ここで限界ブッチギリバトルを開催してやる〜〜〜っ!!」 ゼット「勝てるつもりかこの俺に!いいだろうかかってこい!」 …………死んで蘇るなり、なんなんだろうかこの状況は。 とりあえず……俺、もう行っていいんだろうか。 ……と、溜め息吐きながら入り口の扉へと向き直ると、 そこには……悠介さん、と親父とルナさん。 なにか悶着があったようで、 ルナさんが悠介さんに頭を鷲掴まれて、頭を下げさせられている。 ……でも違和感。 なにやらルナさんの髪が短いような…… 凍弥 「……悠介さん、なにかあったんですか?」 悠介 「ん?ああ凍弥か。それがなぁ」 ルナ 「マサキチがわたしの髪斬った……」 悠介 「戦ってるんだから当たり前だっていうのに、     こいつ怒って柾樹のヤツをアポカリプスで両断しやがったんだ」 ルナ 「だ、だって、だって……ゆ、ゆーすけがわたしのことで褒めてくれたの、     長くて綺麗な黒髪しかなかったんだもん……」 悠介 「……あのなぁ。お前はもうちょっと、判断基準を俺から別のものに移すべきだと」 ルナ 「ヤ」 悠介 「………」 即答だった。 最後まで言わせてもらえず、右手で顔を覆って、溜め息を吐く悠介さんがいたたまれない。 凍弥 「悠介さん……あんたは何処まで人を褒めないつもりなんですか……」 悠介 「い、いやっ、だな……!     そ、そんなこっぱずかしいこと、面と向かって言えるかっ!」 凍弥 「何処の純情ボーイですかあんたは!     髪を褒められたんならもっと他に褒められる部分もあるでしょう!」 悠介 「ほ、褒めるったって……」 ルナ 「…………《ちらり》」 困惑する悠介さんの隣で、戸惑いがちにも頬を赤く染めて、悠介さんを見上げるルナさん。 ……うぅ、不覚にも可愛いとか思ってしまった……落ち着け俺、仮にも年上で、人妻だぞ。 悠介 「…………真正面から切りかかられたのに、     後ろ髪を切られるなんて器用だな、すごいぞ」 ルナ 「うわぁあああーーーーーーん!!ゆーすけのばかーーーーっ!!」 悠介 「《ばちーん!!》ぶはぁあーーーーっ!!?」 問答無用で引っ叩かれてた。 いやあの……悠介さん? 確かに“褒めて”はいるけど、それは女性が求める褒め方じゃないかと…… 彰利 「キャアすげぇ!ダーリンすげぇ!ナイス褒め言葉!」 ゼット「これ以上ないというくらいの褒め言葉だったな。今のはあれが最善だ」 悠介 「だ、だよな……なんで叩かれたんだ?」 遥一郎「待て待て待て!そこを疑問に思うか普通!」 彰利 「え?違うの?」 ゼット「馬鹿なことを……今のが最善でなくてなんだ」 凍弥 「うわーーーーああああ」 本気かこの大人どもは。 ルナさん、泣きながら飛んでっちゃったじゃないか。 彰利 「……エー……おなごへの褒め言葉ってどげなもんなん?」 ゼット「強さだ。強い部分を褒めればなんとかなるに違いない」 悠介 「雅じゃないか?旧時代の女性っぽさがあれば……」 柾樹 「いえ、きっと着ているものを褒める、とかですよ」 閏璃 「いや、違うな。どれほど面白いかに違いない」 レイル「普通に顔を褒めればいいんじゃないのか?」 遥一郎「静かにしている時が一番可愛い、とかでいいんじゃないか?平穏のためにも」 中井出「いや、違うな。大事なのはハートに違いない。ハートを褒めるんだ」 彰利 「いや、違うな。きっと貴方を愛しているという言葉こそが褒め言葉さ」 閏璃 「いや、違うな。ここは何気なく些細な部分を褒めることこそが」 中井出「いや、違うな。ここはストレートに“イッパツヤラセロ”と」 総員 『───それだ!』 凍弥 「違うわっ!!」 いつの間にかぞろぞろと揃っていた人々が、 もう呆れてものも言えないくらいに馬鹿さ加減を披露していた。 ああもうこれだから女心の解らないやつらは……! …………いや、正直俺も解らないけどさ。 閏璃 「え?じゃ、じゃあなんて言えば喜んでくれたんだ?今の場面は」 中井出「“空き缶が綺麗だね”」 彰利 「ああっ!」 凍弥 「どう考えても殺されるだろ!」 中井出「そ、そうか?じゃあ……“今日も空き缶が似合ってる”!」 彰利 「───《ハッ!》……そ、その手があったか!」 凍弥 「空き缶から離れろよ!」 中井出「いや、でもな……あそこまで空き缶が似合う女性もそう居ないと思うんだ、俺。     褒めたくもなるだろ」 彰利 「そうだこのカス」 凍弥 「便乗してヒドイこと言うなよ彰衛門……」 この人達、よくこの性格で結婚とか出来たよな……。 相手が我慢強すぎたんだろうか……はぁ。 凍弥 「なぁ……そんなあんたらがどうやって妻を、恋人を持てたんだよ……」 悠介 「ルナが離してくれなかった」 彰利 「どうして夜華さんがアタイを好きになったのかが未だに解らん」 中井出「なんだか突然告白されました」 ゼット「俺が守ると、セシルが身を委ねると誓い合った」 遥一郎「誰とも付き合わないって決めてる」 閏璃 「幼馴染の関係が発展してこうなった」 レイル「恋人なんて居ないな」 中井出「そういう貴様は?」 凍弥 「過去の頃からずっと好きだった!愛していた!それだけだ!」 総員 『《ガァアン……!》な、なんと漢らしい……!』 閏璃 「でも面白味がないな。3点」 凍弥 「おもっ……!?本気の告白に面白味求めるなぁああっ!」 中井出「はっはっは、まあまあ」 提督さんが俺の肩をポンポン叩きながら笑う。 ……ていうか本当にいつの間に現れたんだこの人は。 中井出「そんな言葉では、心には届いても笑いは取れないぞ?」 凍弥 「ほっっ……本気の告白を求められる場面で笑い取ってどうするんだ!?」 中井出「え……だ、だめなの?」 閏璃 「いや……さすがに俺も、本気の告白の時は正面きって告白したけど」 彰利 「ゲヘヘヘ、知ってるぜ?     こいつ、夜の校舎で由未絵っちの唇奪ってから告白したんだ」 閏璃 「なわっ!?どどどどうして知ってるんだよお前!」 彰利 「ウヒェヒェヒェヒェ!     このアタイにかかれば貴様の過去などちょちょいのちょいよ!     あの時由未絵っちがもし貴様への告白なんぞ微塵にも考えてなかったら、     貴様はただのファーストぶっちゅ泥棒だったに違いねー!」 閏璃 「う、ぐっ……!《しゅかぁああっ……!》」 柾樹 「うわっ!赤くなった!……叔父さんがこんな狼狽えるの、初めて見るかも……」 言葉通り、珍しくも顔が真っ赤な閏璃凍弥。 子供の頃から、会ったこともないのに苦手意識どころか嫌悪感を抱いていたそいつは、 意外にも人間らしい部分が存在していた。 そりゃそうだって話なんだが……人をからかっては笑っている存在だと思ったのに、 こんなにも狼狽えることがあるのかってのを知ると、 自然と……まだ心の中に残っていたしこりが、小さくしぼんでいくのを感じた。 凍弥 (……なんだ、簡単なことだったんだ) 許すとか許さないとか、そんな問題じゃあなかった。 だって、一方的に嫌ってたのは俺で、名づけたのは親父で…… この人には、俺の怒りの矛先が向くこと自体がおかしなことだったんだから。 なんていう勘違い。 俺は俺の都合で、ガキみたいにこの人を嫌っていただけだ。 そんなことを、こんな子供みたいに真っ赤になって狼狽える姿を見て、 考えることが出来るなんて。 ……人間、簡単なことほど見落としやすいって誰かが言ってた気がする。 それはつまり、こういうことだったのかもしれない。 目先の……自分の中の怒りやこだわりばっかりに気を取られて、 簡単な、些細なことだからこそ見落としてしまう。 そんな馬鹿みたいなことが、俺の中にも存在していた。 中井出「よ、よし、じゃあ告白の仕方とか考えてみよう。     実験体はルナ子さん。見事彼女のハートをクラッシュできたらあんたが大将」 彰利 「な、なるほど……腕、じゃねぇね、喉がなるぜ……!」 ゼット「……ふん、くだら───」 中井出「逃げるのかえ?」 ゼット「ぬ……?なんだそれは、どういう意味だ中井出博光」 中井出「グエフェフェフェ、おいおいゼット……     これは告白という名に言葉を置いた勝負だぜ?     つまり今この瞬間から晦との勝負は始まっているんだ……。     それを、土俵にも上がらず敵前逃亡かえ……?     貴様のライバル宣言はその程度のものかえ?」 ゼット「勝負───いいだろうやってやる!覚悟するがいい晦悠介!勝つのはこの俺だ!」 中井出「……グオッフォフォフォ……!《ゴキーン!》」 ひでぇ……なんか物凄い音出して目ェ光らせてるけど、ひでぇ……。 中井出「では勝負方法を説明する!参加は自由制であり、     ルナ子さんに己が思いつく限りの最大の褒め言葉を唱え、     ドキリとさせたものの勝ちとする!     なお、失敗すれば当然の如くアポカリプスの餌食になると思うので、     覚悟を決めるように!」 柾樹 「て、提督さん!質問です!」 中井出「ぬう!何事かマサキチくん!」 柾樹 「あの……さっきも言ってたけど、アポカリプスって───」 中井出「うむ!ルナ子さんが持つ精霊武具、牙鎌月衝刃のことである!     説明しよう!牙鎌月衝刃とは月の精霊の加護を受けることで、     ルナ子さんが手に入れた鎌であり!     その鎌から放たれる月閃は防御力無視で敵を切り刻む恐ろしい刃!     そんなものは俺は怖くないとか思ってるキミ!     一度すっぴんVIT1状態でミノタウロスの痛恨の一撃を受けてみよ!」 悠介 「死ぬな」 彰利 「死ぬね、うん」 中井出「ではお覚悟を!褒め殺しごっこす〜るも〜のこ〜のゆ〜びと〜〜〜まれっ!!」 ザッ!と指を高くに上げる提督さん。 そこへすかさず悠介さんや彰衛門、ゼットなど、その場に居た者が集まるが、 悠介 「こっ……こら提督っ!逃げるな!」 中井出「フハハハハ!!この博光がただで指を触らせると思うてか!!」 彰利 「とまれって言ったのてめぇでしょうが!」 中井出「誰もやすやすと止まらせるなどとは言っておらぬわ!ヌハハハハハ!!」 彰利 「ギ、ギィイイーーーーーーーッ!!!」 ま〜た妙なところで常識破壊をやっている人が一人。 結構常識に囚われてるところもあるんだから、素直に話を進めればいいのに。 自覚があるのかないのか、普通の人の筈なのに一番解らない人だからなぁ……。 レイル「タックルは腰から下ァーーーッ!!」 中井出「《ドカァッ!》うわぁっ!?《ガゴォ!》エビッ!!」 ………………。 レイル氏が隙をついてタックルをかました途端、 本当に驚いたのか、珍しくも普通にうわぁと叫んだ提督さんは、 教会の長椅子に頭をぶつけたのち、ぐったりと動かなくなってしまった。 そして、そんな彼を静かに見下ろす俺達。 閏璃 「………………海老…………」 彰利 「海老…………だったな……」 悠介 「海老……」 その際、何故か気絶する前にエビッと叫んだことが気になってか、 閏璃凍弥と彰衛門と悠介さんは静かにエビエビ呟いていた。 ───……。 ……。 で。 よしときゃいいのにみんな躍起になって、ルナさんを見つけた途端に駆け出した。 一番手───若い衆代表、霧波川柾樹。 柾樹 「る、ルナさん!そ、その……!     空き缶を通した髪がどうしてハタハタ動くのか知らないけど、     なんていうか綺麗ですね!《ザゴォンッ!》ギャーーーーーッ!!!」 ……両断だった。 ……。 二番手、レイル=ベルナード。 レイル「よっ、ねーちゃん。なんだいシケタ顔して、落ち込んでるのか?     女の子に涙は───むしろ似合う!!     特に目尻に涙をたたえた二次元女性は最強だ!!《ザゴォン!》ぐああ………!」 当然の如く両断だった。 なんだかホッジヘッグのソニックさんみたいな声で死んだ。 ……。 レイル「なぁ……お前の言うとおりにやったら殺されたんだが」 中井出「大丈ぶふっ……!だいじょうぶ……!俺達大爆笑だったから……!」 閏璃 「あんたすげぇよ……!俺達にステキな笑撃をありがぶふっ……!」 彰利 「真面目な顔して二次元ねーちゃんは最高ってブフゥ!ぶははははははは!!!」 レイル「…………なぁ。二次元ってなんなんだ?」 遥一郎「知らないほうがいいことって、あると思うぞ」 ……。 三番手、ゼット=ミルハザード。 ゼット「おい女」 ルナ 「……?」 ゼット「俺の子を産め」《ズギャァアーーン!!》 総員 『ゲゲェエーーーーーッ!!!!』 その後彼はその場に居た全員に八つ裂きにされ、死亡した。 ……。 ゼット「貴様ら……!この俺の命が狙いだったとはいい度胸だ……!」 彰利 「アホですかアータ!人妻に俺の子を産めって言うタコがどこにおるの!」 ゼット「なに?最強種の子を宿せるんだぞ、これ以上の褒美があるか?」 閏璃 「ここで一言」 悠介 「死んでしまえ」 ……。 四番手、弦月彰利。 彰利 「YO!ルナっちギャオォアアアアアアアッ!!!」 話し掛けた途端にケシズミだった。 ……。 彰利 「うぐっ……ひっく……うぇええ……!!」 悠介 「ええい泣くなよ鬱陶しい……!」 彰利 「だってだって……!ルナっちってばアタイの時だけ言葉も聞かずに……!」 閏璃 「よし、次は俺だな……見ていろ弦月……貴様の仇は、この俺が」 彰利 「ウ、ウルーリィ……」 閏璃 「……なんかその響き、マックフルーリィみたいでやだな」 ……。 五番手、閏璃凍弥。 ───シュバッ!シュババババッ!! 彰利 「オオッ!速い!」 なにを思ったのか、準備が整うや物凄い速度で草原を駆け、 一気に間合いを詰める閏璃凍弥! そして、気配に驚いて振り向いたルナさんの耳に顔を近づけ、 閏璃 「おおジュッテェ〜〜〜ンムY」 ルナ 「《フゥッ》っ……〜〜〜きゃあぁあわぁああああああああああああっ!!!!!」 甘い吐息を吹きかけた!! 途端、顔を真っ赤にして叫ぶルナさん!! 目をぐるぐるにしながら鎌を出現させ、 やり遂げた男の顔をしている閏璃凍弥へと振り下ろす振り下ろす!! ……当然彼は微塵切りにされ、神父送りにされた。 ……。 閏璃 「力とはこういうものだ」 遥一郎「使いどころを完璧に間違ってるな」 凍弥 「と……次は与一の番だな」 遥一郎「ん……ああ。ちょっと考えがあるから、成功したら拍手喝采を頼む。     こういうイベントは、そう嫌いじゃないからさ」 人畜無害の、まるで蒼木さんのようなやさしい顔をして、与一は歩き出した。 ……。 六番手、穂岸遥一郎。 与一は特に考えも用いた風情もなく、 無防備にルナさんが背中を向けていじけて座っている場所へと向かっていく。 そして、ある程度近づくや─── 遥一郎「……その髪も、その、似合ってる、ぞ」 ───へ? 与一が……そう言った瞬間、俺達の視線は一気に悠介さんへと向けられた。 だって……今の声、どう聞いても悠介さんの声で……───でも、 当の本人はポカンとしている。 い、言い回しまで完璧だ!かなり照れている風情で口にしたもんだから、 パッと聞いた分じゃあ聞き分けつかないくらいに! なもんだからルナさんも弾ける笑顔で向き直り───……表情を凍らせた。 中井出「……一番むごい殺され方すると思う人、挙手」 ……全員だった。  …………ギャアアアアアアアアアア……………… ……。 遥一郎「いや……はは、まいったまいった」 閏璃 「お前……やる時はやるんだな」 遥一郎「振り回されるだけが人生じゃない」 彰利 「よくぞ言いました。で、次は……」 中井出「クククゥ、とうとうこの俺の出番が来たようだな……」 凍弥 「悠介さんだな」 中井出「アレェ!?俺じゃないの!?え……!?偉そうに立ち上がった僕は無視!?     待っ……ちょ、待って!無視しないで!僕だ!僕がやるンだよぉおーーーっ!!」 ……。 七番手、晦悠介。 俺達はといえば、暴れる提督さんを踏ン縛って黙らせるので手一杯。 でもこれで決着がつくであろうことは目に見えていた。 だって、悠介もルナさんのことをちゃんと好きだから受け入れた筈だから。 好きでもないのに受け入れるなんて半端なこと、きっとしない人だと思うから。 悠介 「………」 悠介さんが歩いてゆく。 草原の先にある、小さな丘の上に座るルナさんのもとへ。 そして、彼女の傍へ辿り着くや、 髪の毛に触れ……フワァッ……と、髪の毛の先を創造してみせた。 ルナ 「へわっ……わわわっ……?ゆ、ゆーすけ……?」 悠介 「…………うん。やっぱり、長いほうが似合ってるな。     長い髪、子供っぽいところ、なのに綺麗で可愛いところ……     全部ひっくるめたのがルナだからな」 ルナ 「───」 ……終わった。 ルナさん顔真っ赤だ……でも目線は悠介さんの目を見て揺るがない。 まるで恋に夢見る乙女みたいに瞳を潤ませながら、中腰の悠介さんを見上げている。 彰利 「アア……こりゃオチたね」 閏璃 「ノックアウトだな」 中井出「……あの……僕の出番は……」 ゼット「無いだろうな」 中井出「………」 提督さんが涙を流しながら、地面に()の字をねちっこく描き始めた。 なにがやりたいんだろうかこの人は……。 彰利 「ほんじゃあまあ……優勝は悠介ってことで……解散しますか」 柾樹 「え?合流しないんですか?」 彰利 「悠介にはあそこでラヴっててもらいましょう。     あとは……ンマー、適度に体も暖まったし、そろそろヒロラインに行かん?」 レイル「ちょっと待て!俺まだ全然経験積めてないぞ!?」 彰利 「ヌー……おし!中井出よ!ウサ晴らしにベヘモト退治に付き合え!」 中井出「なんですって!?この野蛮人!」 彰利 「テメーに言われたくねーよコノヤロー!!」 流れるような問答だった。 彰利 「ウサ晴らしに野蛮もクソもあるかいや!立ち上がれコノヤロウ!     どうせまだいろいろ試してねー技もあるんだろ!?えー!?」 中井出「OKフレンド!」 彰利 「フレンドじゃねー!同志だ!     “友達は一人で十分”!その精神を今こそ俺は呼び覚ます!」 中井出「うわっ、懐かしい思考だなそれ。だが了解だ!俺も友達は一人でいいさ!     ゼット……僕ら、友達だよな!」 ゼット「……黙れ。わざわざ口に出して言うことでもないだろう」 中井出「…………しくしくしく」 彰利 「アッ!泣かせたな!」 閏璃 「なんてことを言うんだゼットン!言葉はな!ちゃんと伝えなきゃ届かないんだぞ!     なにも言わなくても解るなんてこと、個人の妄想でしかないんだ!」 中井出「やめてっ!いいの……!わたしが我慢すればいいことだから……!」 彰利 「だ、だけどナカちゃん……!」 閏璃 「これこそ言ってあげなきゃ解らないことよ!?ナカちゃん!」 中井出「きっとミルくんも悩んでるんだと思うの……     今、大会前だし……余計な心配かけたくないから……」 彰利 「ナカちゃん……」 レイル「……おーい、これはいったいどんな青春劇場なんだ〜……?」 中井出「恋する漢女(オトメ)、爆裂乱闘編」 乱闘するんだろうか。 ……誰とだろう。 中井出「うしゃー!」 彰利 「むしゃー!」 中井出「よし!じゃあ行こうか同志!僕らの手でレイル氏を強くするンだッ!」 彰利 「オウヨ!こうなりゃここで、     どれだけスムーズにレベルアップ出来るか試してみっべー!」 閏璃 「それはいいな!俺も銃術の熟練度を上げるぜ〜〜〜〜っ!!」 遥一郎「じゃあ俺は護身用に杖術でも……」 中井出「じゃあ僕、ルナ子さんに告白してくるね?」 総員 『なんでそうなる!?』 中井出「え……だって僕と未来凍弥くんだけ告白してないし……あ、褒め言葉だったね。     うん、褒め殺してないし」 凍弥 「いや……俺は最初っから辞退してたけど」 中井出「なんだと!?じゃあ僕だけ一人じゃないか!」 なにがそんなにショックだったのか、 提督さんはガンッ……と悲しみを表情で表現し、後退った。 中井出「あ、ところで“あとずさる”をあとじさる、って書く人とか言う人、居るじゃん?     あれって意味同じでいいのかなホギーくん」 遥一郎「ん、同じだった筈だ。     ……ていうかな、俺は辞書でも知恵袋でもなんでもないんだが?」 中井出「ゲヒョヒョヘヘ……!訊ねてみただけなのにそんな返答が来るとはゴヘヘヘ……!     どうやら貴様、自分が頭でっかちということを自覚して《ペキャア!》タモノ!」 遥一郎「周りからふいに質問される機会が多ければ、嫌でも自覚するだろうが……!」 中井出「うう……なんか最近、無意味にいろんなヤツに殴られてばっかの気がする……」 彰利 「すげぇ人徳だ……真似したくねぇぜ……」 閏璃 「ああ……さすがだぜ提督さん……」 中井出「嬉しくないよそんな感心!!と、とにかく僕行くからね!?     ……おーーーいルナ子さーーーん!!」 ……あ……行ってしまった。 しかも怯むことなく真っ直ぐに。 えっと……この出来事がきっかけで、また気まずくなるとか……ないよな? ない……な、ない、よなぁ……。 ………………なんでだろう……提督さんならどんな仲のいいやつらでも、 平気で喧嘩状態にしてしまうんじゃないかって心配がフツフツと……。 なんて俺の心配も届く筈もなく、 提督さんは丘を登った先で二人肩を並べている彼と彼女の背後に近寄り、 中井出「これは……褒めたにも係わらず、一方的に斬られた───みんなの分だぁっ!!」 バックパックから取り出したなにかを、ルナさんの頭に被せたのだ!! 果たしてそれは、突然のことに驚いて振り向くルナさんの頭にすっぽりと存在し、 そんな違和感をきょとんとした顔で返し、頭に手を伸ばそうとした彼女に一言。 中井出「将軍家は代々、もっさりブリーフ派だ」 ……その瞬間、修練場全土に響き渡るんじゃないかってくらいの男の悲鳴が、 この場より断末魔として発せられた。 ───……。 ……。 ボタボタ……シュゥウウウウ……!! 中井出「やあ」 遥一郎「お前今すぐ病院行けぇええーーーーーーっ!!!」 一部始終を見守っていた俺達の前に瀕死の彼が戻ってきたのは、 それから3分何秒後かのことだった。 いっそ哀れなくらいにボロボロになり、 なんというかもう生きてるのが不思議なくらいズタズタだった。 中井出「俺……みんなの仇、取れたかな……。     女相手に俺、かなりの屈辱を与えることが出来たかな……」 閏璃 「ああ……十分だぜ提督さん……!」 彰利 「散々斬られる中、     旦那の前でルナっちを殴ってみせたアンタ……最高にイカしてたぜ……?」 柾樹 「……そのあと悠介さんにもボコボコにされてましたけどね……」 チラリと丘を見てみれば、ぐったりと倒れて動かないルナさん。 もっさりブリーフ伝説に対して攻撃で返した時点で提督さんもバトルモードに切り替わり、 それはもう相手を女とも思わないほどのデンプシーロールで見事にノックアウトだった。 被害があまりにもひどすぎて、どっちが勝者だか解ったもんじゃないけど。 レイル「お前……ほんと女子供でも容赦ないんだな……」 中井出「覚悟という文字は覚えて悟ると書くんだぜ!?」 レイル「そうだな。………………それで?」 中井出「……………………………………………………うっ……うっ……」 彰利 「アッ!泣いた!」 閏璃 「なんてことをするんだお前!     提督さんはただ、かっこよさそげなことを言ってみたかっただけなんだぞ!?」 レイル「え……お、俺が悪いのか!?この状況って!」 顔を両手で覆って泣き出す男って結構見苦しいと思うんだけど、 どうしてか提督さんがやるとハマってるというか似合ってるというか。 でもそれって男としてはどうなんだろうとふと思ってみた……ところで、悠介さんが来た。 悠介 「ヘンなこと言ってないでそろそろいいか?」 彰利 「おんや?悠介?……ルナっちは?」 悠介 「ああ、回復したからもう大丈夫だ。提督は……」 中井出「治った!《脱ギャーン!》」 悠介 「脱ぐなっ!!」 全快記念に脱ぐ人を、俺は初めて目の当たりにした。 ……この脱ぐ、という行為にどんな意味が込められているんだろうか。 脱ぐといっても、村人の服を肌蹴るだけなんだけど。 こう……なあ?露出魔がコートを肌蹴るみたいな感じで脱ギャーン!と。 ルナ 「…………むー」 中井出「やあ」 思考に振り回されるうちに合流したルナさんが、 提督さんをジト目……というか半目で睨む。 引き結ばれた唇とその目が、いかにも不機嫌ですと訴えている。 悠介 「とりあえず提督、少しは加減してくれ。     女にデンプシーやったヤツ、初めて見たぞ」 中井出「だって仕方なかった!ああしなければ僕が殺されていた!」 ルナ 「エロっちがヘンなもの被せるからでしょー!?」 中井出「少年はいつだってブリーフだ!少年はブリーフを穿いて大人になってゆく!     少年の心を忘れない将軍家の素晴らしさが何故解らないんだルナ子さん!!」 ルナ 「だったら少年の心を持って、今ここで頭に被ってみせなさいよぅー!」 中井出「フッ……それでこの博光を脅しているつもりか。     この博光ほどの者ともなれば、そんなものを被ることなぞ造作もないことよ」 もごもごと口に唾液を溜め、 そうしてからわざわざニチャアアと口を開けて怪しく笑う提督さん。 ……どうしてこう、やることがいちいち小者っぽいんだろうか。 ルナ 「うくっ……そ、そう、なの……?ゆーすけ……」 悠介 「いや、是非被ってもらえ」 中井出「エ?あ、いやあの……へ、平気だから……ね?     や、やだな、そんな無駄なこと削っていこうよ、ねぇ?」 彰利 「ダメだ被れ」 中井出「どっちの味方なのキミ!!」 彰利 「ザ・面白いことの味方!」 閏璃 「提督さん提督さん!将軍家の力を今こそ見せる時だぜ!」  がしぃっ! 彰利 「そうだZE中井出!今こそ将軍家のメロスを頭部に集中させる時だ!」  がしぃっ! 中井出「あ、あれ?ちょ……あれぇ!?な、なんで二人とも僕の腕を固めるの!?     あれっ……ホギー!?レイル氏!?どうして足をホールドするの!?     ……つ、晦サン?あのー……どうして卒業証書授与式の音楽創造しながら、     もっさりブリーフを構えてるのカナ……」 悠介 「卒業証書、授与」 中井出「やっ───いやぁやめてぇええええええっ!!     俺の負けだッッーーーー!!許してくれぇッッーーーーー!!」 ヘンテコな声を出し、泣いて懇願する提督さんへと近寄る悠介さん。 その手が、やさしく、ゆっくりと、ブリーフとともに提督さんの頭へと乗せられ…… …………彼は泣いた。 ……。 ───ゴファァォウンッ!! 悠介 「とわっと!───彰利!」 彰利 『オーライ!ぃよっと!』 そうして、きたるベヒーモスの縄張りバトル。 ちまちましたのは抜きにして、いきなりブッチギリバトルを繰り広げていた。 歯ごたえは……正直ありすぎて困っているくらいだ。 キングベヒーモスの縄張りらしいけど、 決してキングベヒーモスだけが居るわけじゃない。 ベヒーモスもグランベヒーモスも居て、 だけど悠介さんや彰衛門の記憶の中の映像よりもよほどに強い気がしてならない。 そんなやつらをゼットは押しやり吹き飛ばし、笑っていて。 その一方では、 中井出「うぇええええ……うぇええええん……うぇええ……」 もっさりブリーフを頭に装着したままの提督さんが、 えぐえぐと本気泣きしながら剣を振るっていた。 悠介 「ええい泣くな鬱陶しい!」 中井出「だってさぁあ……だってさぁああああ……!!」 悠介 「泣くほど辛いならさっさとブリーフを取ればいいだろ!?」 中井出「う……ううう……うぇええええ…………!!」 彰利 「アッ!泣いた!」 閏璃 「なんてことを言うんだ晦!提督さんはブリーフが少年の心と言った手前、     取ろうにも取れずに苦労してたんだぞ!?」 悠介 「そっ……そんなの知るかぁああっ!!!いいからこんなの取ってしまえ!」 中井出「《ズボォッ!!》ギャーーーーーーッ!!!」 悠介 「うおわぁっ!?」 中井出「ギャーーーーーーーーーーッ!!!」  ───ドタッ!!! 彰利 「───死んだ!!」 閏璃 「なんてことをするんだ晦!提督さんはブリーフを少年の心だと信じ込むことで、     悲しみから逃げようとしていたんだぞ!     そんなブリーフを取ったりしたら、     少年の心で構築された提督さんが死んでしまうじゃないか!」 悠介 「どぉおおしろっていうんだよ俺に!!!」 ゴシャアと地面に叩きつけられるブリーフ! 襲い掛かるベヒーモス! なんかもうこの場で起きている出来事なのに、 まるで接点がないのってどうなんだろうなぁ! 悠介 「ほら起きろ提督!死んだフリはいいから!……提督!?提督!…………裁き」 中井出「《ヂガァアンガガガ!!》おぎょぎょべぎゃぼぼぎぎゃぁああああああっ!!!     わ、わかっ……ごめっ……!やるっ!やります!真面目にやります助けてぇえ!」 悠介 「よしっ!じゃあさっさとやる《ガキィッ!》おごわっ!?」 中井出「グエフェハハハ馬鹿め……!     迂闊にも雷撃を止め《バリバリバリバリ!!》ギャーーーーッ!!」 雷撃が止まった途端に悠介さんの頭を掴んだ提督さんだったが、 そのままの状態で再び雷撃の餌食に。 悠介さん自体は雷の加護でも展開してるのか、 提督さんに掴まれていても感電する様子もない。 ……なかったんだが。 悠介 「《ぐいぃっ!》うえっ!?ちょ───提督!?」 中井出「くらえ悪意の必殺!ゴールデンキャノンボォーーーーゥル!!」 頭を掴んだまま悠介さんを持ち上げた提督さんは、 悠介さんを振り回すとベヒーモス目掛けて投擲した! そしてそのまま飛んだ悠介さんはコペキャアとベヒーモスに叩き落され、 地面に突き刺さった。 中井出  「ナイスアシスト!ベヒーモス!《ゴキーン♪》」 ベヒーモス『ロガォウ!《ゴキーン♪》』 彰利   「親指立ててんじゃねィェー!てめぇどっちの味方なん!?」 中井出  「面白さの味方だこのヤロー!そっくりそのまま返してくれるわ!       だがこれも弱肉強食……ベヒーモスよ。僕は貴様に立ち向かうよ」 ベヒーモス『ルグオ、ゴルルルル……』 中井出  「ウフフ……ありがとう。最高の褒め言葉だ……」 彰利   「…………?なんて言っとんの?」 中井出  「え?貴様のような村人が俺に勝てるものか、だって」 彰利   「褒め言葉じゃねぇよそれ!!」 中井出  「な、なに言ってるんだよ、褒め言葉だよ?ほら、僕のこと村人、って……」 彰利   「…………キミって要するに、低く見られることに喜び感じるのね……」 中井出  「だって僕の目的は村人最強伝説だもん!       こう……ね?村出身の凡人が武具とレベルだけで最強になるの!       俺はそれを己が身で成し遂げるために!この世界に降り立った!       だから魔法を極めるとか体術を極めるとかはいいんだ!       武具で強くならなきゃ意味が無いんだ!       俺の目的はそれをして楽しむことよ!       世界救済とか、ルドラを止めるとか、この世界じゃ俺には関係ないのだ!」 ゼット  「なに───!?それは本気で言っているのか中井出博光!」 中井出  「うん僕本気!世界を救える力があるから世界を救うなんて、       僕にとってはどうでもいいことさ!だってそう……!       ……ヒロライン最初にやった頃、僕らはどうしてました?       純粋に世界を楽しんでいた筈でしょう?       あの時に駆け抜けた景色の色を、       そしてピーチパイを食べたことを思い出してください」 彰利   「いや、ピーチパイはどうでもいい」 中井出  「ひでぇ!?」 あっさり切り捨てられた提督さんが悲しみの悲鳴をあげた。 ……のはいいんだけどっ……!いい加減手伝ってくれるとありがたいんだけどなぁっ! 中井出「い、いいもんいいもん!だったらステキな力を見せてやる!     これぞ武具とレベルがモノを言うRPGの最終奥義!     “鍛錬なぞ知らん!武具とレベルこそが最強だRPG伝説”だ!!」 凍弥 「……《サワッ───》ふへ?……て、提督さん?」 光が動いた。 や、光属性が……俺の武器に込められていた光が、動いた。 提督さんが逆手に持った剣へ。 それは他の人達のものも同じで、様々な属性、マナが提督さんへと集まってゆく。 彰利 「ぬ、ぬおおああ!?マナが……属性が中井出に集ってゆく……!?」 中井出「ミゲール=アルベイン曰く……!     最終奥義冥空斬翔剣とは己の気をコントロールし、剣に託して振るう奥義!     だがその“剣気”ってヤツは人が自由に扱うにはあまりにも荒れるモノ……!     しかし!人体に宿るモノを人が操ることになんの疑問を抱こう!     今の自分に操るだけの力がないのなら!そこまで上げようホトトギス!     人器!100%解放!───アルベイン流最終奥義!!」  ヒュバァォゴキィンッj!! 凍弥 「───、はっ……」 彰利 「音が……消えた……?」 そう、音が消えた。 荒れ狂っていた気もマナも属性も、何もかもが提督さんの体と剣に、 一瞬にして流れ込んだと思った……まさにその時。 音が……消えた。 だからこそ……感じた。 放たれる攻撃は、確実にベヒーモスを屠るものに成り得るものなのだと。 音が無い世界がこんなに冷たいものだと、初めて知った。 冷や汗が流れ、それが頬を伝う中でも酷く冷たいと……そう感じた刹那!!  ザンガガガガフィィインッ!!! 凍弥 「へえっ───!?」 音が鳴り、風が溢れ、剣がベヒーモスを切り刻んでいた。 あれだけあった距離はたった一歩で縮められ、 踏み込むと同時に振るわれた長剣が一閃にして四閃を閃かせ、 硬い硬いベヒーモスの体毛を、皮膚を、まるで豆腐でも切るかのように刻んでゆく。 中井出「冥空───!!」 突然の痛み───よもや砕かれることもないだろうと思っていた体毛や皮膚、 己が身が斬られる感覚に戸惑いを見せたベヒーモス。 その隙を逃さず、連ねること二、三、四───!! 中井出「───斬翔剣!!」 斬り払いから始まり、戻しの斬り払い、上段からの斬り下ろし、戻しの斬り上げと続き、 痛みに後退したベヒーモスを烈風脚で追い、その身に再びの斬り払いと斬り下ろしを連ね、 その攻撃で前足を切り飛ばされたことにより、 崩れてきた上半身を掬い上げるように振るわれる跳躍連続回転斬りが、 ベヒーモスの巨体を中空へと切り飛ばしてゆく───! 中井出「おぉおおおりゃぁああああーーーーーーっ!!!」  ザンガガガガギファァアォオンッ!!! やがて振り抜かれた剣と、そこから放たれる剣気の塊がベヒーモスを微塵に切り刻み、 塵と化す頃に提督は空中で掻き消え、 突如としてフィキィンッ!という音とともに地面に転移してきた。 遥一郎「………」 ゼット「………」 レイル「………」 見事な……物凄く見事な冥空斬翔剣だった。 恐らく元ネタを知らないであろうヤツらは、あまりの威力に目を見開くばかりだ。 そうそう……最後に空中で転移して、地面に現れてこその冥空斬翔剣だ。 でもあの……滅茶苦茶強すぎだ。 なんだよあの最後の剣気爆発……ベヒーモスが木っ端微塵じゃないか……。 中井出「フフフ《ズキィーーーン!!》あがぁあーーーーーーーーーっ!!!」 だけどカッコよくシメようとした途端に筋肉痛になる彼は、 やっぱりどこまでいっても格好のつかない男なんだなあとしみじみ思った。 さっきまで歓声をあげていた彰衛門も閏璃凍弥も、 なんだかいたたまれない風情で口をつぐんでる。 ……つぐんでたんだけど、ハッとすると全員が武器を取り出し、提督さんをボコり始めた。 中井出「な、なにをする貴様らァーーーーーーッ!!」 あとは言うまでもなく……ボコボコにされ、 やがてシャァアキラキラと塵に還る提督さんを、俺達は……静かに見送った。 ───……。 ……。 中井出「……ねぇ……なんか俺、みんなに狙われまくってる気がするんだけど……」 そんな彼が戻ってきて、唯一攻撃に参加しなかった俺にそう言ってきたのは、 彼が塵になってから1分少々のことだった。 凍弥 「いや、俺に言われても」 ほんと、俺に言われても。 中井出「だってだって!みんなおかしいんだ!     僕が弱体すると、きまって僕に襲い掛かって!」 凍弥 「あの……じゃ、訊くけど。もし大魔王が弱っててそこらへんに倒れてて、     今の自分なら倒せる、経験値がもらえるって時、どうする?」 中井出「手を差し伸べ許すだろう」 凍弥 「何処で大冒険してる勇者だアンタ!ウソだろ!それ絶対にウソだろ!」 中井出「なにを失敬な!大魔王ってことは俺の仲間じゃないか!     何故僕が魔王を殺さなければならないんだ!むしろ僕はその魔王を助け起こし、     ともに正義をブチノメす算段を立てるね!」 凍弥 「で、用済みになったら捨てると」 中井出「ブウェフェフェフェそりゃあアンタグエフェフェフェ決まってるじゃねぇか」 元気にクズだった。 凍弥 「そんなアンタがどうして、弱ってる最中に狙われないっていうんだよ……」 中井出「え?え?…………あ、溢れる人徳?」 疑問系で、しかも言った途端に絶望的な顔で俯き始めた。 ……この人、本当に軍団のリーダー的存在だったんだろうか。 時々じゃなく、かなりの割合で疑問に思う。 中井出「でもね、大魔王と意気投合できたなら、捨てる理由なんてありゃしない。     大抵の世の魔王は“魔王は一人でいいー!”とか叫びつつ、     油断したところをザクー!とくるんだろうけど……     もしくは食事の中に毒を混ぜて殺しにくる?     そんなヤツに僕はアームロックをするのです。     あなたは客の気持ちを全然まるで解っていないと罵った上で。     モノを食べるときはね、誰にも邪魔されず自由で……     なんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで静かで豊かで……」 凍弥 「それの代償がアームロックって。殺されそうになってるのに、暢気だなぁ……」 中井出「どんな時でも笑いを取りたい。そんな男に僕はなる!……中井出博光です」 凍弥 「や、脱がなくていいから……」 ……この人が人を沢山殺したってイメージ、どうしても沸かない。 だけど見せられた映像は本物で、雨が降る空界で彼がした慟哭が、今も鼓膜から離れない。 無理をして明るくしてるのか、なんてことは解らないけど…… なんだかちょっとだけ、 空界の回路を受け入れてしまったことを後悔してる自分に、気づいた。 中井出「で、これからまたベヘモットさんをコロがしに?」 凍弥 「や、提督さんコロがしたお陰で経験値が有り得ないほど手に入ったって、     レイル氏が喜んでたから多分終わり」 中井出「………………エ?」 凍弥 「え?」 表すなら“信じられないものを聞いた”って感じの声に、逆にこっちが疑問の声をあげる。 ハテ。この人は何故こんなに動揺してるんだろうか。 中井出「あの……もう用済み?ここ」 凍弥 「用済み」 中井出「もっとほら、連携の練習〜とか」 凍弥 「用済み」 中井出「………」 凍弥 「………」 中井出「な、なによ!みんなそうして用済みになったら行っちゃうんだ!     人のこと散々ボコっておいて、レベルが上がったら捨てるのね!?     いいわよ行きなさいよ!べべべつに寂しくなんかないんだからね!?」 凍弥 「寂しくないけど気持ち悪い」 中井出「───…………バカーーーーーーッ!!!」 凍弥 「うわっ!?」 提督さんは泣きながら逃げ出した! ───しかしギガノタウロスに回り込まれた! 中井出「……………………ハ、ハロー?《バゴォン!》ウモルチェ!!」 いろんな意味で、既に初心者修練場ではないこの場所に、 嘆きの吐血が舞い散った瞬間だった。 【ケース664:弦月彰利/サムデーインザレイニーデイブルー】 そんなわけで。 中井出が泣きながら吐血し、 戦うでもなくギガノタウロスから斧をもぎりとって逃げ出す景色を前に、 アタイたちは出発の準備を始めていた。 悠介 「これで全部……か。修練場はまだ$が使えるようでなによりだよ」 柾樹 「レゾンデートルじゃあ使えませんでしたからね……」 売店(?)で回復アイテムとかを揃えたアタイたちは、 修練場のバトルフィールドの先にある扉へと歩いております。 そんな中で、斧を奪われたギガノタウロスが、 いじめられっこのように中井出を追いかけている。 中井出    「やーいやーい!悔〜しかった〜らこっこま〜でお〜いで〜!」 ギガノタウロス『ヴモォーーーーッ!!』 必死に追うギガノさん。 しかし悲しいかな、既に相当のレベル差をつけられた中井出に追いつくことも出来ず、 からかわれまくっている。 レイル「アレはほっといていいのか?」 彰利 「いいんだ」 悠介 「提督だしな」 レイル「ヘンな理解のされ方してるのな……」 いっそ哀れなギガノさん。 だけど中井出が前方不注意で木に衝突し、 ニーチェと叫んだ途端にその距離は消え……あとはフルボコル劇場。 ラージャンのデンプシーロールのような殴打の前にニーチェニーチェと叫びまくり、 足を掴まれ地面にビタンビトゥンと叩きつけられ、 ゲファーリゴフォーリと泣き叫んでいた。 悠介 「さすがだ提督……ただじゃからかわないな」 彰利 「大体自滅してっけどね……」 柾樹 「時々、あの人が本当に強いのか疑問に思えてきます……」 悠介 「なに言ってんだ、提督は弱いぞ?」 彰利 「強いのは武具だ。それを忘れるな。     モンハンのハンターだって武具が無ければただのザコだろ?それと同じなんだ」 閏璃 「何処までもゲーム像を目指す男……それが提督さんだ」 三人 『だから武具がなくなると可哀想なくらいに弱くなる』 柾樹 「そ、そうですか……」 悠介 「ノートたちも提督がそう願ってるからそうしたんだろうな。     レベルのステータスに係わらず、武具を手放したらレベル1以下のザコだ」 遥一郎「ああ……可哀想なくらい弱かったな」 凍弥 「弱すぎて泣けてくるくらいに……」 みんなひでぇけど、事実なのよね。 でも武具持つとほんと強いから手に負えん。 今だって、無理矢理持ち上げたギガノタウロスを、 鉄拳2の一八が平八を崖から落とすように、ゆっくりと手放して落下させた。 ……しっかりと斧を奪った状態で。 彰利 「くれ!」 中井出「死ね!」 そしてまた死ねと言われるアタイ。 グウウ、なんともままならん。 ───……。 ……。 そんなこんなで懐かしの職業分け劇場。 バトルフィールドを抜けたそこで、俺たちはあの頃を思い出しておりました。 ……またグレートソードくれないかな。 ここでしかくれねぇんだよね、アレ。 中井出「うう……みんな元気でねぇ……!     僕、あーちゃんに呪いの手紙とか一生懸命出すからねえ……!」 と、物思いにフケる中で、なんだかとっても物騒なことを言いながら、 ハンケチーフで涙を拭う中井出が……おがったとしぇ。 中井出「必ず出すから!なんていうかもう呪い込めて!怨念たっぷり込めるからぁあ!     だから……だから僕のこと忘れないでね!?呪いたっぷりで出すから!」 彰利 「いらんよそんなもん!なにホームで別れる親友みたいな言い回しで     人ンこと呪い殺そうとしてんの!?あーちゃんって誰!?俺!?」 中井出「いや……うらやましくってさ……」 彰利 「……ようするに早く冒険がしたいわけね」 中井出「早く助けてくれないと、呪っちゃうゾY」 彰利 「うーじゃ行くべ〜」 悠介 「だな」 閏璃 「向こうについたらマズなにするかな〜」 中井出「ゴヘェ!?無視!?また無視なの!?な、なんだよもういいよもう!     お前らなんかトーフのカドに頭ぶつけて     トーフを台無しにして女将さんに怒られちまえー!」 閏璃 「それが……彼が口にした、最後の言葉だった……」 中井出「死なないよ!!なんでそうなるの!     ちょ───待って!まだ僕言い切れてない!     文句ぐらい最後まで待ってぇえーーーーっ!!」 中井出の叫びも半端のまま、アタイたちはゲートをくぐった。 さあ……ようこそ、冒険の世界ヒロラインへ。 ほんじゃあいっちょ楽しみますか。 Next Menu back