───冒険の書258/ヒロミチュード───
【ケース665:弦月彰利(再)/新天地無用、旧天地必要】 キュミミミミミィイイイ〜〜〜ンッ!! 彰利 「俺様降臨、超降臨……!」 ダイヴと同時に壮大というか偉大というか、 カッコイイというより偉そうに見えるポーズをとってみた。 ……近くにゃ誰も居ませんが。 彰利 「Ja(ヤー)!ほいじゃあ獣人族の強化と洒落込むとするか〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!     ……つーかなんでアタイ、こんな場所に居るんだっけ?」 降りた場所は洞窟。 じゃけんども獣人洞窟じゃない。 おっかしいなぁ……アタイ、 ログアウトする時は山の上でフーアムアイを叫んどった筈なんだけど。 ……まあいいコテ、今はそれよりも獣人族復興! や、復興っつーよりやっぱ強化だね。 獣人族が今どうなっとるかは知らねーが、イーヴィルバーグのことだ、壊滅はしてねー筈。 それより問題なのが元・原中どもなんだが……ふぅむ。 まあ無くなったのは中井出に関する記憶だけで、 ゲームへの情熱とかは無くなってねー筈だから、やる気は満々だろうね。 基本、楽しむことには躊躇のないやつらだし。 ……その気持ちを育むきっかけだったのが、中井出とアタイだったとしても。 “ここに至っている”って事実がそういった気持ちを守ったってことかね。 まあいいや、小難しいことは。 彰利 「さて……………………何処なんだろうな、ここは」 学校で一夜を明かした折原くんのように呟いてみた。 うん、自室じゃないことは確かだ。じゃなくて。 彰利 「……OH!きっとこの洞窟を出たら、そこは壮大な物語の序章となる場所!     きっとこれからめくるめく冒険の旅と、     果てないワンダーランドがアタイを待ってるに違いねー!」 そんなことを叫びながら、無駄にシェーイシェーイと身体を左右に動かしてみました。 距離の遠い反復横跳びみたいに。 うん、意味ないね。 彰利 「よぉぅし確認終わり!ガールハントへしゅっぱぁーーーーつ!!」 意味無い行動には意味ない言動を。 べ、べつに一人だから不安がってるわけじゃないんだからねっ!?《ポッ》 などとツンデレっぽく中井出の真似してる場合でなく。 アタイは歩くことはせず、何気に奥の深い洞窟から走って脱出した。 逃げるわけでもねーのに脱出と喩えたのは、 ここがどんなところかも解らない場所だからさ。  ザザァッ! 彰利 「ワムウ!」 そうして洞窟を出た先に見えた崖の先っちょで、ワムウポーズを取ってみる。 もちろんこれも意味はないですハイ。 彰利 「…………わあ」 薄く赤い空の下、崖の先で見た景色はまた一段と変わっていた。 天地崩壊から10年経ったあとの世界らしいけど、ほとんど原型なんざ留めてない。 ここが何処なのか……それはなんとなく解るものの、 もはや“知ってる場所”と唱えるのには無理があった。 彰利 「………」 眺めた先に見えるのは帝国……だよな。 あそこに中井出とかナギっ子ナギナギとかシードバルカンが捕らえられてる。 ふぅむ……異翔転移で引っ張りだせないかな。 彰利 「月空力───…………ア〜、ダメだこりゃ」 気配を探ってみるも、どうにも遮断されてる。 無理矢理月空力を通してみても、それさえも遮断されてる。 ……ナルホロ、ロストテクノロジーってのはすげぇやね。 だがしかし、こげなもんは案外物理的な要素に弱いと決まっておるのよ。 つまり、中に入って連れ出した方が速い、と。 彰利 「ふむん……」 しかし、中井出の傍で着々とレベルを上げていた筈のナギ子とシードバルカンが、 一方的にやられるっていう機械技術だ。 アタイが乗り込んだところでどうにかなるものでもねー。 それどころか捕まって、抜け出せなくなるやもしれんのだ。 彰利 「……」 ナギ子にメールでも飛ばして、自然への転移で抜け出せないのか〜とか言ってみるか? ……ああいや、無理だな。 こんな世界じゃあ、 それこそ一番自然に溢れてるのがエーテルアロワノンしかないのかもしれん。 彰利 「出来たとして、今のアタイみたいに弾かれるか」 さあ、こりゃあいよいよもって面倒なことに───ごぉおっ─── 彰利 「OH?───オワッ!?」 耳に届いた音に、空を見上げる。 すると、丁度赤い空をゆく巨大な───飛行船。 彰利 「───」 いよいよもって困った。 だって、飛行船が飛んでるってことは…… デスゲイズまでどうにか出来ちまってるってこったろ? 倒せちゃいないまでも、多分……ヤツの嫌がる匂いかなんかで退けてるとか。 ……技術の進歩は凄いたぁ思うが、素直に受け取れない自分が居た。 機械に埋め尽くされた世界……もちろん面影はあるが、 こんな世界を自分はファンタジーと呼びたくはなかった。  ───これはルドラが広げた世界 人に溢れ、人に支配された最果てを宛がっている。 だからレゾンデートルなんて名前がつけられたのだろう。 この世界の存在意義など、存在するのか?と。 過去と現在が融合したのはそのためだ。 地界だけではなく、空界の存在意義さえ求めている。 ここで人の支配を還付なきまでに破壊でもすれば、ルドラは“やはりな”と笑うだろう。 かといってそのままにしておけば、訪れるのは人間の手による探求の末の崩壊。 ……なるほど、ここは最果ての再現で。 ヤツは俺達に未来の果てを体験させようとしている。 それは現代の精霊たちも同じで、どう選ぶかを俺達に委ねている。 彰利 「けど、ひとつ忘れとることがあるぜ?」 この世界はルドラのように、俺達の所為で広がった世界じゃ───ぐあ。 彰利 「え、えと……この場合、中井出の所為ってことに……なるんかなぁ」 サウザンドドラゴンを殺さなければこんなことにはならなかった。 だったら、つまり───……なるほどね。 そこまで考えてのこの世界か。 まあ基本、ルドラの方は好き勝手に守りまくった結末で、 アタイたちのほうは世界を守るって名目……なんざなかったな。 特に中井出は、それがロマンだったから立ち向かっただけだ。 お前は世界を守りたかったのか、と訊いてみたところで、 面白そうだったからだと断言されるのがオチだろう。 ……まいったな。 彰利 「つまり、てめぇ勝手の所為で広がった世界を、     お前らならどうするんだ、ってところか」 俺は……どうするだろう。 こんなのファンタジーじゃねィェー!って、全部壊しちまうかな。 確かにそんな感情が浮かんだりもしたが───うん、見方を変えてみよう。 悠介なら、……好きにすればいい、って言うだろうな。 最近の彼、他人が起こす物事に無関心になってきてるというか、大雑把だし。 あれがかつての守護者さんだとは、誰も夢にも思うまいとか言いたくなるくらいに。 ほいじゃあ中井出だったら───ぶっ壊すね、絶対ぶっ壊す。 ルドラと同じ?違うね、俺は俺が壊したいから壊したんだ!とか絶対言う。 ……そだな、ルドラは守るのに疲れて壊したんだ。 でも、中井出なら守るって意識も持たずに壊すと決めたらぶち壊す。 ───なんだ、それだけのことなんじゃないか。 あとで壊すつもりなら、最初から守らなけりゃよかったんだ。 彰利 「あいつの考え方は要領を得ないけど……     なるほど、一点だけから見るって考えをほぐすのには役立ってるよな」 最初はアタイの方こそ振り回してたもんだけど、 あいつの頭の柔らかさと硬さに、いつしか振り回されるようになった。 よ〜するにアタイなんぞよりよっぽど思考がガキだったんでしょうよ。 まあそげなあやつだからこそ、随分と一緒になって原中を掻き回せてたんだろうけど。 彰利 「…………」 ちくり、と胸が痛んだ。 ここに降りるまで、騒がしくて気づかなかった感情。 一人になって、ふと胸に沸き起こる。 ああ、そっか…… 彰利 「俺……寂しいのか……」 原中のメンバーだったやつらはもう、それほど面白さへの情熱を持ってない。 ヒロラインにだって、ただこのゲームが面白いから、 という理由だけで降り立ったに過ぎない。 ゲームにハマってればそれ以外のことに目がいかない、あの感覚だろう。 彰利 「多分、俺なんぞよりも中井出の方が───」 あいつにとっての仲間ってのは家族みたいなもんだ。 だから無条件で信じてたし、様々なことを任せては笑いもしたし泣きもした。 あいつがどれだけの思いで迷惑部を解散させたのか─── それを考えるとさすがの俺でも辛い。 けど、まあ。 あいつが受け入れたことを俺がいつまでもウジってても仕方ない。 よし、景気づけにいっちょ─── 彰利 「まず、自分の手を胸の前でクロスして、     両肩に触れそで触れない程度の部分に置きます。     そうそう、弥彦王子がそうしたみたいに、こうして、こうして」 こう、まで行かないのは仕様です。 彰利 「次に胸の前でポンと手を叩き合わせます。     この時、腕のクロスは解除してください。普通にポンと叩くだけでいいんです」 あたかもパッフィーさんがポンと叩くかのように。 え?ネタが古い?馬鹿言え。 彰利 「最後に手をピーンと!天まで届けと言わんばかりに伸ばします。     ハイ、この一連の動作をリズムよくやってみましょう。     ラン・ラン・ルー。はいみんなもご一緒に?     ラン!ラン!ルーーーーーッ!!!     はいオッケェどーもありがとー!!」 し〜〜〜〜ん…… 彰利 「寂しいなぁ……」 よし、とりあえず誰かと合流するべか。 ん〜……この場合悠介かね。 ともかく中井出サイドの人間に会ってから、この世界の情報集めよ。 頭回るヤツが居た方が速いだろうから、一緒にホギーも探そう。 って、tellでも飛ばせばどうとでもなるか。 よっしゃ、元気を出してレッツビギンだ〜〜〜〜ッ!! 【ケース666:岡田省吾/要領を得られない時の中で】 ───……。 そうして、再びヒロラインへ。 岡田 「………」 辺りを見渡してみると、そこはゴドーに最初に連れて行ってもらった控え室のような場所。 しっかりと転移装置があることも確認してから、頭を掻いた。 岡田 「ありゃあ……?俺確か、通路の途中で現実に戻されて───あれぇ?」 また世界が広がったんだろうか。 だとしたらまた厄介なことが追加されたんじゃなかろうか……。 などと考えてしまうのは、まあ当然といえば当然。 頭に残るしこりのようなものをほぐす感じで、やっぱり頭を掻いて歩き始めた。 なんにせよ戦いだ。 記憶が確かなら、グラディエーターになるために試験みたいなのをする、……筈だ。 ゴドーが近くに居ないから、流されたんじゃなかろうかと心配になる。 さて……ここで待つか、それとも探しに行くか。 家に戻って出涸らし茶でも飲んでそうな気もするし。 岡田 「……よし、動くか」 ここでこうしてても状況が掴めない。 ログアウトしているうちにいろいろ設定が変更された可能性も考えると、 少しでも情報を集めたほうが───ガチャッ! ゴドー「おう、準備出来てるかボンクラ」 いざ、と動き始めたところでゴドーが降臨。 しおれたタバコを口にくわえ、火もついてないのに吸うフリを見せている。 ……多分だけど、こいつただハードボイルドというか、 シヴい自分に憧れてるだけなんじゃなかろうか。 ゴドー「てめぇの試験の準備が出来たぜ。申請は通ったから、あとはてめぇ次第だ」 岡田 「武器の使用はアリなんだよな?自分の武器」 ゴドー「俺にてめぇの武器を用意するだけの金があるように見えるか?」 ……見えるって言ったら用意してくれるんだろうか。 そんなことを思いながら、苦笑して首を横に振った。 ゴドー「かっ!可愛げのねぇ!ちったぁ希望ぐらい持ってみろってんだ!     ……まあいい、せいぜい観客沸かせろよ、それによっていろいろ変わってくる」 岡田 「それは粘れってことか?それとも早急に片付けろってことか?」 ゴドー「…………ああ、忘れてた。お前の長所はなんだ?力か素早さか防御面かで答えろ」 岡田 「っと……速さ、だと思う。足とかの速さじゃなくて、手数とかそっち側」 ゴドー「ああ、んじゃあ一瞬でキメてみせろ。そしたら俺もちったぁ認めてやる」 岡田 「お、おお。出来ればそうしたいな」 ゴドー「かっ!そこでちったぁ虚勢張ってみろこのヘナチン野郎!     いいか?今日というこの日のてめぇにゃ、俺達の晩飯がかかってんだぞ!?     そんなてめぇがそんな調子でどうすんだ!」 岡田 「そんなもん自分で稼げよ!」 ゴドー「学者の俺があんな辺境に送られて、どうやって稼げってんだ馬鹿かてめぇ!」 岡田 「その馬鹿に今日のメシの当てにしてる馬鹿が言うなこの馬鹿!」 大体学者だかなんだか知らないが、 副業でもいいからなにかするつもりはないのかこいつは。 とてもじゃないが妹を養ってるようには見えないんだが……? ゴドー「チッ……おら行け、もう向こうさんは準備出来てんだ。あんまり待たせんな」 あんたが特になにも言わなかったら相当スムーズだったと思うぞ、俺……。 【ケース667:霧波川柾樹/フビライカーンの悪夢】 ───……。 ポン、と。 気の抜けた音が似合いそうなくらいの、軽い出現。 だだっぴろい草原に一人、自分が突然現れる場面を頭で描いてみて、なんだか苦笑した。 見た目の名残から、多分エコナ平原であるそこで、 俺はあちらこちらを見渡してから空を仰いだ。 ……赤い空がそこにある。 地界のような青は無く、空気からして昼を過ぎた頃合だと解るのに、 青の無い空がそこにはあった。 柾樹 「はあ……」 あまりいい気分じゃあなかった。 思い出したくないものを思い出してしまった。 自分が、ジュノーンになって人を殺し続けたこと。 もちろん忘れてたわけじゃないけど、 意識して思い出さないようにしていたきらいはあった。 それを、今回の中井出さんの事件ではっきりと思い出してしまったのだ。 人を斬る感触を、命を奪う感触を。 思い出しただけで吐き気が沸いてくる。 でも……現実で本当に、友人の知り合いまでを殺してしまった中井出さんは、 きっと、もっと辛かったに違いない。 仮想空間で殺すくらいがなんだ、とか……そんなことを言うわけじゃないけど、 やっぱりそれは比べられるものじゃない。 柾樹 「あ、そうだ」 ナビを起動させて、豆村と刹那に───……いや。 あっちは自分でなんとかしなきゃいけない、って言ってたから…… それにこの世界が随分と変わってしまった今だと、 あの研究所まで行くのは難しいかもしれない。 なにせ、船が出ているかも解らないんだ。 筏を作るって方法もあるけど─── よ、よし、難しく考えてても始まらないよな、いっちょ頑張ろう。  ピピンッ♪《ナビにメールが届きました》 柾樹 「っとわっ……?」 ……つくづく思うけど、 どうしてこのメールはタイミングよく、人の行動の初動と重なるんだろう。 ……見るけどさ。  ◆エレメンタル通信  なんだか気が抜けちゃってる気がする昨今、元気かなぁみんな。  みんなのお姉さん、イセリアだよ。  今日はみんなにお知らせがあってメールを届けます。  …………これの名前ってエレメンタル通信でよかったんだっけ?……まあいいや。  なにやらスピちゃんたっての要請で、この世界に一人の悪魔を放つことになったから。  出現条件はいろいろあるけどヒミツ。  魔王復活とともにそれは陰を潜めることになってるから、まあなんだろ、がんばれ?  それではよいハンターライフを。  あ、それとこのあとにスピちゃんからお報せがあるみたい。  ……何故だかわたしには内緒の内容で、ごく一部の人に。 ……。 メールを読んでみてから小さく溜め息。 柾樹 (あー……やっぱりイセリアさんも忘れてるのか。     ヒロミ通信のことも、中井出さんのことも) 当然といえば当然なんだけど、 メールがヒロミ通信じゃないことに小さく寂しさを感じている自分が居た。 まいったなぁ……俺、こんなに感傷的だったっけ……。  ピピンッ♪《最重要メールが届きました》 ……。 さ、最重要? それって結構危険なメールってこと? ……見るけどさ。  ◆ヒロミ通信-受信者限定バージョン-  魔人群の皆に通達。汝らには中井出博光が封印状態にある間、  中井出博光の要望通り、いろいろと魔人の加護を齎す。  中井出博光の武具能力の中から、なにかしらをランダムで使用可能になる特殊能力、  名を“ヒロミチュード”を汝らに授けよう。  ただし完全にランダムなため、超弱体化する可能性もあるのであまり過信はするな。  属性的な相性もあるため、発動しにくいものとしやすいものもある。  それを頭に入れておくといろいろと都合がいいだろう。  なお、このメールは中井出博光側に着いた者。いわゆる魔人群にのみ配信される。  くれぐれも他者には見られないよう注意されたし。 ……。  ピピンッ♪《特殊スキルを会得!ヒロミチュードが使用可能になった!》 ……こ、これは……。 ランダムって、本当にランダム……? 面白そうだけど物凄く怖そうで……うわ、本当に中井出さんみたいな能力だ。 柾樹 「…………」 よし、柾樹よ。 男は度胸だぞ……試してみるなら今が旬!! 柾樹 「特殊能力発動!ヒロミチュード!」 意味もなく手を広げ、視線と平行に前に突き出して唱える! すると───フワッと身体が浮いた。 柾樹 「あ、あれ?これって───」  ピピンッ♪《フロートが発動!一分間空を飛べるゾ!》 ……いや、ゾじゃなくてさ……。 でもそっか、なるほど……。 ランダムルーレット側の能力じゃなくて、 提督さんの武具の能力全てからランダムで選ばれるんだ……。 これは……なんていうかとても面白い。 しかも何度でも使用出来るみたいだし───ははっ! 柾樹 「面白い!面白いぞこれ!ありがとう中井出さ───いやさ提督さん!」 自分がフワッと浮けたのが嬉しくて、調子に乗ってヒロミチュードを発動させまくった。 と───遠くの方でドゴォーーンという音とともに巨大な火柱が立ったのを見て、 ハッと気づいた時にはもう遅い。  ピピンッ♪《自爆が発動!周囲を巻き込み、ライフ1を残し───》 柾樹 「助けてぇええええええっ!!!!ドォオッゴォオオーーーーーーーン!!!! 見えたナビからのメッセージログも半端なままに、俺は星になった。 ああ……同志が……あの火柱の下に同志が居る……。 ありがとう青春……友情フォーエバー……。 【ケース668:晦悠介/炎エムブレムテイクツー】 ゴコッ……パラパラ…… 悠介 「カカカカカカカカ…………!!!」 一発目にして自爆だった。 さすが提督のランダム能力……そう易々とは嬉しい結果を齎さない。 HP1を残しての爆発能力が俺の身を焦がし、 大地にクレーターを作る様は……なんというかドラゴンボールチックだ。 さながら、爆発波でも放ったかのような……いや、嬉しくないけどな。 悠介 「はぁ………………ふぅ」 さりとて、敵が居ない状態ならばさっさと回復するHP。 すっかり完全回復した俺は、これから取るべき行動を考えていた。 面白い能力を貰った。 現在地は……マップが無いから解らないが、 名残からすると工房都市ナットクラック付近、だと思う。 悠介 「………」 ふと思った。 この世界のやつらも、提督のことを忘れていたりするのだろうか、と。 中井出博光としてでなく、魔王としてしか覚えていないのだろうかと。 だとしたら───ってそうか。 悠介 「提督の大技……灼紅蒼藍剣っていったか……?」 サウザンドドラゴンを斬滅してみせた、とんでもない威力の最終奥義。 あれは万象すべての想いを力に変える奥義。 もしあの奥義をルドラが危険に感じたんだとしたら─── ノートが切り札の一つとして用意したものだったのだとしたら。 様々な人やモノに忘れられてしまった提督では、あの奥義は満足に使えない。 ……未来を切り開くための切り札は何枚でもあった方がいい。 ノートなら考えそうなことだけど、 だったらどうして全員に記憶消滅妨害のシールドを張らなかったのか。 悠介 「…………いや、どうして……じゃないな」 俺達数人で限界だった、って考えるべきだ。 こうして世界が変わった今、そこにルドラの力が関与していない可能性はゼロじゃない。 つまりそれに抵抗することに力を回しているために、 せいぜいで数人分にしか力を回せなかったんだ。 なにせ相手はルドラ。 そんなヤツの能力相手に片手間ついでに抵抗できるほど、 不可能を可能にする力ってのは軽くない。 悠介 「でも……そっか───はは、そっか」 逆を言えば、凡人である提督でも脅威に思われるところまで至った、ということ。 それは言い方を変えれば、どれだけ今の自分が弱くても、 この世界での頑張りは無駄にはならないってことだ。 悠介 「だったら……うん」 頑張るしかないよな。 躍起になって鍛えるんじゃない、楽しみながら強くなろう。 目的は決まっている。 この夏を越え、死ぬまで馬鹿やって生きてゆく。 そのためにこの夏を越えるだけの力を、楽しみながらつけてゆく。 “楽しめる”っていうのは偉大だ。 それだけで、辛いことがあっても前向きになれる。 そんなことを思える俺が今やるべきことは─── 悠介 「…………やっぱり、月の欠片探しだな」 まずはラグを解放しよう。 中途半端なままのラグを強化するのもそれはそれでいいけど、 このままだとなんというかしっくりこない。 ついでに“虹”も作って合成させて……この世界のことを知るのは、その過程で十分だ。 やることいっぱいだな。 ……その方がやる気も出るってもんだが。 よし、いっちょやってやるかぁっ! 【ケース669:ニーヴィレイ=アレイシアス=ドリアード/美と愛の目覚め】 シュゴォオオオオッ!! パパァアアアアアアアッ!!! ナギー『………』 見上げる水晶の中、ヒロミツが輝いていた。 キモストと名づけられた名の通り、気持ち悪い格好なのじゃが……ううむ、困ったのじゃ。 どうやったのかは知らんが、ヒロミツのやつめ、なにかをいじくったに違いないのじゃ。 出来るだけヒロミツを見ないように水晶を見てみたものの、 気を抜くとこぼれる光だけで惹き寄せられる。 ナギー『………』 シード『父上……嗚呼父上……!』 直視してしまったシードは水晶の前に跪いて、 崇めるようにお辞儀のようなものを繰り返していた。 見回りの男もそうじゃの……難儀なものじゃ。 シード 『なんというカリスマ……なんという人を惹き付ける波動……!』 見回り1「美しい……!キモさも相まってなんと美しい……!」 見回り2「神々しいとはまさにこのことだ……!」 ステータス移動とやらをやったのじゃろうの…… ヒロミツの体から尋常ではないほどのカリスマを感じる。 それを直視してしまった三人は幸福を体全体で表現するように、 平伏して崇め続けておる……。 うう……ヒロミツ……これは拷問なのじゃ……。 わしもヒロミツの姿を見たいのに、 こんなもので無理矢理惹き寄せられてはわしの意思が無いものとなるではないか……。 ナギー『…………《くしゃっ……》』 寂しくなって、自分で自分の頭を撫でてみた。 ……もちろん、虚しいだけだった。 ナギー『わしにもっと……力があればの……』 次元封印を解除出来るほどの力があれば、 こんな帝国なぞに言い様に捕らえられたりなどせぬのにのぅ……。 ここは退屈じゃぞヒロミツ……早く目覚めてたもれ……。  ───あなたの願い……叶えましょう? ナギー『───!?誰じゃ!!』 聞こえた声にバッと振り向く! ……はわぁあああああっ!!振り向いてしまったのじゃあああああああああっ!! キモストソウル(天象……降臨!!)  ゴシャーーーーーーンッ!!! 振り向いた先にはキモストがおった。 そのキモストから眩い光が放たれ、惹き寄せられそうになるまさにその寸前、 なんとか視線を逸らした───先に、キモストから放たれた光が集束。 ……一体の奇妙な物体を、その場に出現させた。 謎の物体『…………ピギー!』 ……鳴いたのじゃ。 謎の物体『ゴヘヘハハハ……!愚か愚か……!      見送りだからという理由で、この博光をジョブ案内所まで通すなど……!      ゲートに入ってくださいと言っているようなものよ……───あれ?』 やけに小さいソヤツは、玩具のような体をカタカタと震わせ、 笑ったかと思いきや己の体を見下ろして戸惑っておる。 じゃが……今なんと言った? ヒロミツ……このヒロミツ、と言ったのか!? 謎の物体  『ゲゲェ何事かァアア!!        この博光の体が……チャ、チャチャブーになっておるわ!        ……あ、でもギガノタウロスの斧はしっかり持ってるのね。        バックパックは……ゲェ無い!!どうし───』 ナギー   『ヒロミツー!!』 チャチャブー『《ガバァーーッ!!》ギャーーーッ!!』 人が作るという人形のような造形のソレを抱き締める。 拾い上げるように、しっかりと。 そこから感じられる波長は……間違いなくヒロミツのものだった。 ナギー   『ヒロミツ!ヒロミツなのじゃー!』 チャチャブー『ぬううどうしたというのだナギー!ていうか今の僕こそどうしてるの!?        なんでチャチャブー!?もしかして封印状態だったのに        無理矢理ゲートくぐったのがマズかったの!?        だって仕方なかった!僕だって新しい世界で冒険がしたかったのだ!        グエフェフェフェ、だがゲートに向けて烈風脚した時の        精霊たちの反応といったらなかったぜ?        大慌てで“しまった止めろぉ!”とか叫んでおったわ!        ………………止められた結果がこの体なんだろうけど』 ナギー   『うぅむむ……?よ、よく解らんがヒロミツじゃ!        これヒロミツ!勝手に封印され、わしを一人ぼっちにするとは何事じゃ!』 チャチャブー『それ既に地界で散々言ったでしょ!?        ていうか今の僕重いから下ろしなさい!        ジークとかがキモストな僕に備わってるとはいえ、        今はギガノタウロスの斧持ってるんだから!』 ナギー   『フフフ……そんなもの、わしにかかれば軽いのじゃ……』 チャチャブー『滅茶苦茶重そうですが……』 うむむ、重いのじゃ……じゃが再び囚われの身であろうとも、 ヒロミツが傍に居るのなら退屈だけは絶対にしない……それは確信が持てるのじゃ! シードは……なんというか面白味に欠けるから、どうにもダメじゃしの……。 ナギー『む……う、……』 と、考えたところでヒロミツがわしの手をポンポンと叩く。 それは、暗に下ろせと願っているように感じ、わしは惜しみを感じながらも下ろす。 チャチャブー『よいか、ナギーよ……今のこの博光は、        能力を完全にキモストに置き去りにしてきた偶像。        どうしてチャチャブーなのかはよく解らんけど、        それでも降り立つことが叶いました』 ナギー   『うむ……』 チャチャブー『だから……───帝国、占領しよ?』 ナギー   『面白そうじゃの!是非やるのじゃ!』 自分でも驚くくらいに即答だった。 じゃが、ヒロミツが居るのならばどんな無茶でも怖くないと思える。 ナギー   『じゃがの、ヒロミツ。帝国は奇怪な道具を持っておるのじゃ。        キカイと言ったかの……アレの所為でわしやシードは魔法が使えぬし、        ソレを押し付けられるだけで体が痺れ、動けなくなるのじゃ……』 チャチャブー『ウヌヌ〜〜〜〜ッ、ス、スタンガンのようなものか〜〜〜〜っ!        でも安心おし?敵が来る度あのキモスト───振り向いてはなりません!』 ナギー   『はうっ!』 ヒロミツが指差すものだから、自然とキモストを見つめてしまうところじゃった……! 振り向いてもいないのに、 光が目の端にちらつくだけでも誘惑に負けそうになるというのに……! きっと直視してしまったら大変なことになるのじゃ……! チャチャブー『気をつけるのだナギーよ!今のキモストはCHRフルボルテージ状態!        ひとたび目を向けてしまえば、        ステータスで勝てぬ限りは魅了されてしまう恐ろしき神オムツよ!』 ナギー   『そ、それは言われずとも解っておるのじゃー!        それよりも何故あんな状態にしたのかを聞かせるのじゃヒロミツ!』 チャチャブー『うむ!何故ならば!この方が面白いからだ!!        よいかナギー!あの神々しさの前では、        よほどのことが無い限りは逃れられん!        そこでだ!なんとかしてこの場に敵兵士を呼び込み、        少しずつ兵士を魅惑し味方につけていくのだ!』 ナギー   『お……おおお!なるほどの!さすがヒロミツ!こすずるいのじゃー!』 チャチャブー『せっ……羨望の眼差しでずるいって言われた!でも了!        さあナギー!これから大帝国キモスト教を作るんだ!        ジークたちは10年前に封印されて以降、        弱まってしまっているから助力は望めん!        ていうか今の俺の持ち物ってギガノタウロスの斧しかないんだけどね?        だが空界で得たばかりの全属性の力により、        魅惑の力を限界まで引き上げたのだ!一度キモストを目にし、        十秒以上目を逸らすことが出来なければ完全チャーム!        だからまず兵士たちをここに連れてきて、キモスト教を作ります』 ナギー   『うむ!解ったのじゃー!……ではなかったの、サーイェッサー!!        ……む、む……?ど、どうしたのじゃヒロミツ』 いつものようにサーイェッサーと敬礼をした途端、 ヒロミツはひどく悲しい波長を流してきた。 表情が変わらない人形のような姿のため、 そうすることでしかヒロミツの感情が読み取れない。 しかしこれは確かに悲しい波長…… チャチャブー『ナギーよ……もう、原中はないのだ。        返事は解ったとか了解とかで十分なのであるぅ……』 突然そう言ったヒロミツはがっくりとうなだれ、頭を横に振るった。 わしはそんなヒロミツの姿を見て、 ナギー   『だが断る』 チャチャブー『なんですって!?』 あっさりと断った。 途端にヒロミツがカッと顔を上げ、わしを見上げてくる。 ナギー   『確かにわしは原中が魂、原ソウルを身につけたのじゃ!        じゃがそれは原中による原中のためだけの魂にあらずじゃー!        わしが元気に返事を返す相手はヒロミツ!        おぬしがおったから……命を出す者がヒロミツであったからじゃ!        もはやヒロミツのことを忘れた者のことなぞどうでもいいのじゃ!        ヒロミツもヒロミツじゃ!皆が変わってしまったということは、        おぬしあっての原中だったということなのじゃろう!?        ならば今更なにを遠慮することがあるのじゃ!        ヒロミツじゃ!おぬしが居なければ、        皆もわしもサーイェッサーなどという返事はしなかったのじゃ!』 チャチャブー『ア、アワワ……!』 ナギー   『だのにヒロミツがそんなのでどうするのじゃー!        こんな弱気なヒロミツは嫌なのじゃ!        それが空回りであろうとも、        いつだって無意味に元気なヒロミツがいいのじゃぁーーーーっ!!』 チャチャブー『《ガァアアア〜〜〜〜ン!!》………………』 わしの叫びを聞いたヒロミツが、ショックを受けたようによろよろと後退る。 そして、斧をドゴォンと落として両手両膝をつくと、 チャチャブー『僕の元気って無意味だったんだ……』 ……なにやら別のことで落ち込み始めた。 ナギー   『むあっ!?ち、違うのじゃヒロミツ!        今のは言葉のあやというものでじゃの!』 チャチャブー『でも目が覚めたよナギー!僕が間違っていた!そうだよね、僕は僕だもの!        どうしてこんなことに気づけなかったんだろう……!        誰にも遠慮する必要なんてなかった!        だって、あの敬礼は元が原中なのではなく、        ウォートラントルーパーズからパクッたものだったのだから!』 ナギー   『お……そ、そうじゃ!よく解らんがその通りじゃヒロミツ!        やっと解ってくれたのじゃな!?』 チャチャブー『ああナギー……!僕のナギー!!』 ナギー   『ヒロミツーーーーーッ!!』 カタカタと顔を揺らしながら立ち上がる人形……チャチャブーといったかの。 が、わしを見上げて両手を広げる。 わしはその姿にヒロミツの姿を重ね、理解して立ち上がってくれたのが嬉しくて、 思わず駆け出し、抱きついて チャチャブー『超高速フロントスープレックス!!』  キュヴォアドッガァンッ!! ナギー『ぴぎゃーーーーーーーっ!!!』 小さな体からは考えもつかない剛力で体を持ち上げられ、 頭から地面に叩きつけられていた……! ナギー『くおお……!なにをするのじゃヒロミツ……!     なにもこんな時にまで……!ここは熱く抱き合うところであろ……!』 などと言いながら、目に涙を浮かべて転げまわっていると、 傍に立つ人形がカタカタと顎を揺らしながらひざまずき、 チャチャブー『若すぎる……遅すぎる……そしてなんと弱い……』 と言った……ところで、意識が薄れて、わしは気を失った。 覚えておれよ、とは思ったものの……ああ、やはりわしは喜んでいた。 ヒロミツの傍に居るだけで安心する。 ヒロミツが傍に居るだけで楽しい。 やはり……閉じ込められたままなのは、もう嫌じゃからの……。 Next Menu back