───冒険の書260/笑いながら喧嘩をする。10点 ○───
【ケース672:藍田亮/またここから、知り合いとして】 ふとした時に、つまらないと感じることってあるよな。 今の俺はまさにそんな感じだった。 前回ログインしていた時は楽しくて仕方が無かったのに、 今回ヒロラインにきてみればどうだ。 なににも手をつけたいと思えないくらいにつまらない。 前回までの俺は、なにをそんなに楽しみにしてたんだろう。 思い返せば、そう楽しいこともなかった気がする。 楽しかったのは最初の頃だけで、ある程度強くなってくると、 なんていうか張り合いが……もちろんあったが、あまり活躍できなかった風に思うのだ。 ……そういや刻震竜にはどうやって勝ったんだっけ。 ………………。 ああそうだ、魔王と共闘して勝ったんだっけ。 あいつ、強かったよな。 藍田 『………』 釈然としないままに走る。 目指してるのはデルフェル。 岡田からメールをもらったあたりで辿り着いた町で拾った地図を頼りに、 ヴィクター化して全速力で走っている。 どうして?と訊かれれば……魔王を知るためであり、敬礼と涙の理由を知るため。 いろいろ引っかかることが多すぎるんだよな。 他のやつにtellかけてみたら、そんなヤツのことどうでもいいとか言い出すし。 冷めてるよな、ほんと……確かに綾瀬にとっちゃあ娘の友達の仇とかになるんだろうけど、 それは別に俺達が怒るべきことじゃない。 綾瀬が怒り、綾瀬が報復するべきことだ。 他人の俺らが謂れの無い怒りをぶつけてどうするよ。 そうするにしても、相手の人となりを見てからでも十分だ。 藍田 『……それ考えると、俺の最初の態度って……』 どうしてあんな態度取ったんだろう。 どうしてかあいつの顔を見てたら、悔しくて悲しくて、殴りたくなって仕方が無かった。 だけどそれなりに時間が経ったからだろうか、心は大分落ち着いていて、 今じゃ自分がどうしてあんな態度をとったのかが馬鹿らしく思える始末。 だから……そう、だからだ。 あの魔王と真正面からぶつかってみようと思う。 解り合えないならそれもよし、解り合えるなら、魔王群に入るのも…………ああ、なんだ。 藍田 『……なんだ。まだ面白そうだって思えること───』 ある、じゃないか。 そう呟いて、俺はこの世界に下りてから初めて笑顔になった。 ───……。 ……。 そんなわけでデルフェル……の前の関所めいた場所。 そこで、門番をしている兵士と話をするためにヴィクター化を解き、対面。 さすがにここでばけもの〜とか叫ばれても困るしな。 兵士 「ここから先はガメッシュ様の領地だ。通るためには通行証が無ければ通せん」 俺の旅はあっさりと終幕を迎えた───ってそんなわけいくかっ! 面白そうって思えたんだ! この気持ちが懐かしいって思える俺が、それを捨ててなるものか! よっしゃあ答えは決まった! 藍田 「その通行証ってどうやれば作れるんだ?」 兵士 「……高いぞ?よほどの金持ちじゃない限りは発行すら出来ない。     なにせ、コロシアムに来る連中はほぼ全員が金持ちか、     元々この先の土地に住んでいる者か、だからな」 藍田 「金さえ払えばお前が?」 兵士 「ああ、発行しよう。金額は十万オロだ」 藍田 「…………《ソッ》」 兵士 「《キュッ》……ん?なんだ賄賂でそそのかそうという気か?     そういうことをしようとしたやつなら今まで何度も見たがなにぃ!?」 笑いが取れるかなと、1$を握らせてみた。 正直今の通貨がなんなのかハッキリ解ってないから、 これで怒りのあまりに攻撃してきたら……セートーボーエーってやつで。 兵士 「しっ……失礼しました!どどどどうぞこれが通行証であります!」 藍田 「……あれ?」 なんだかあっさり貰えてしまった……もしかしてからかってただけなんだろうか。 ……まあいいか、貰えたんなら通るとしよう。 兵士 「まったく人が悪い……で、ですが本当に頂いてよろしいのですか?」 藍田 「ああ。安いもんだ」 兵士 「やすっ───!?……ホ、ホンモノだ……ホンモノの金持ちだ……!」 藍田 「?」 よく解らん……けど通してくれたからよしとしよう。 さてと、急ぐか。 コロシアムってのを、この目で見てみたいし。 巨人族のヤツとどう違うんだろうな。 ……………………ああそうそう、あの時は丘野とやんちゃしたんだっけか。 よく勝てたよな……って、そういや商品どうなったんだっけか。 藍田 「《ポタッ》んお……お?雨!?やべっ……すぅっ───烈風脚!」 特殊な呼吸法で息を吸い、地面を蹴って前へ出る。 ───いや、出た筈だったんだが、スカッた。 烈風脚が発動しなかったのだ。 藍田 「あ、あれ……?《ピピンッ♪》んお?メールが……」  ◆エレメンタル通信  烈風疾風奥義は“人”の技であるため、地界人以外は使用不可になりました。  空界の回路を持つ“空界人”のあなたは、もはや使用することは叶いません。 ……。 藍田 「うわ……マジか……?」 アレ結構好きだったのに……あ、いや……前にも通達されたか? どうにも記憶が曖昧だ。 けど、それは気にしないことにした。 どうも今日は思い出せないことや曖昧なことが多すぎる。 それを何度も体験してるからだろう……さして重要じゃないに違いないと踏んで、 さっさと思考を切り替えた。 急ぐか。 【ケース673:弦月彰利/ランポス】 彰利 「サームラーイ!」 店主 「《ギュキキィ!!》がああああ!!」 掛け声に意味はありません。 やあ僕彰利。今日はここ、温泉町ルエンリから愛を届けましょう。 秘湯めぐりの旅ってやつですね。 店主 「痛っイイ!お…折れるぅ〜〜〜」 彰利 「あなたは客の気持ちを全然まるで解っていない!     モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず自由で……     なんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで静かで豊かで……」 店主 「《メキメキメキ》がああああああああ!!」 そんな秘湯めぐりの旅で、一番最初に入った風呂屋。 そこでメシをごっそになったんですがね? いやぁ厨房の方から嫌な声が聞こえてくるわけですヨ。 死ねだのうるせぇだの黙れだの。 どうやら親子で営業している場所のようですが、息子さんの口が相当に悪いらしくて。 その息子が今じゃ跡を継いで店主なわけで、いやぁもうほんと店主らしからぬ態度で。 客の皆さんも、味は好きみたいなんだけど……ねぇ? あんな言葉を轟々口々と言われてたんじゃあ、美味しくても楽しめない。 だからアタイが厨房に乗り込んで、井之頭式アームロックをしたわけです。 ……いえあのー、べつに今の時代の通貨がないから、 腹癒せにアームロックしに来たんじゃないよ? おばさま「あ……やめて。それ以上、いけない」 彰利  「………」 店主  「《メキメキメキ》痛っイイィイイイ!!お、折れおれおぐああああっ!!!」 彰利  「人の食べてる前で!あんなに怒鳴ることないでしょう!      今日はものすごくお腹が減っている筈なのに、食べることすらできなかった!」 店主  「仕方ねぇだろうが!このババアがムカツ───がぁあああああ!!」 彰利  「あなたは人の在り方というのをまるで解っていない!      仕事をする時はね、自分を捨てて仕事にこそ没頭するべきなんだ。      独りで静かで豊かで……そこに自分を割り込ませるから罵倒が生まれる!      あなたはそういうところを!サービス業というものを解っていない!」 店主  「あんたがどう食おうが残そうがこっちには余計なお世話だ!とっとと帰れよ!」 彰利  「………」 手をパッと離す。 そろそろ頃合です……なんの、って……もちろん逃走の。 だって結局オロ硬貨なんて持ってないし。 そんなこんなで店をあとにしたわけですが、 彰利 「《バサァッ!》ギャアーーーーーッ!!」 店主 「二度と来るな!!」 その背後から塩をぶっかけられました。 だからアタイはすかさず彼の腕を取り、 店主 「《ギュギィッ!》がああああ!!」 井之頭式アームロックで激痛を差し上げたのでした。 今日もいい天気です。……メシにはありつけないけどね。 ───……。 ……。 さて。 しつこくアームロックをするアタイに、旦那さんがいろいろくれたのが数分前。 今のアタイは、おにぎりと一緒に貰った地図を頼りに、 いわゆるフィールドを歩いているところです。 彰利 「《あぐ……もぐ、もぐ……》うん、うん……ほほう、具は出汁煮ワカメか。     こっちは……《もぐ、くしゅ……》玉葱を軽く焼いて、味付けがしてある。     そうそう、こういうのでいいんだよ」 いくつかを包んでくれたことを感謝しつつ、一口サイズのおにぎりを口に放ってゆく。 おかずとしてカツもいくつか入っていて、一緒にそれを放りながら咀嚼する。 彰利 「《カリ、もぐ……》ウンうまい。こういうの好きだなシンプルで。     ソースの味って男のコだよな。……うむむ、だが困ったぞ。汁物がない」 米とおかずだけしかないために、どうにも喉に潤いが無くなってくる。 彰利 「《コリ、ポリ……》お、こっちは濃い味のおしんこが具になってる」 このおしんこは正解だった。 漬かり具合も丁度良い。 米づくしの中ですっごく爽やかな存在だ。 おしんこという存在が、口の中に唾液を生んでくれる。 うん、これならいけそうだ。 彰利 「《ほくっ……》おっ、こっちは焼肉。     いいね、肉汁が欲しいって思ってたところに。うーんありがたい。     ああだめだ、あせるなあせるな。丁寧に丁寧に大切に、よく噛んで味わおう」 端から食べていくたび、食欲がいや増していく。 汁物が欲しかった筈なのに、いつの間にか次のメシへ次のメシへと手が止まらない。 食べるたびに体が温かく、やがて熱くなり、汗が吹き出てくる。 うおォン、俺はまるで人間火力発電所だ。 彰利 「《あぐ、もぐ……》おにぎりって魔法みたいだよな。     《もぐもぐ……》割ってみないと中が解らないんだから。     お……ササミのマヨネーズ和え。うんうん、解ってるじゃないの」 久しぶりの満足いく食事。 迷惑かけたけど、あの店に入ってよかったな。 彰利 「《カリッ……》うん?なにか硬いものが……骨?こっちの具は煮魚だったか。     でも小骨はとってある……これは骨をあぶったものを煮魚の支えに使ったんだな。     うん、吸い出すみたいにすると、風味が出ていい感じだ。     骨の空洞に煮魚の出汁の、少し煮詰まったみたいな味が閉じ込められてる。     うう、これは困ったぞ。やみつきになりそうだ」 行儀が悪いとか言われそうだけど、こういうのもああいう店ならではだよな。 ううん、無邪気に食べてた子供時代を思い出すぞ。 彰利 「思えば子供の頃からキャベツが嫌いだったなあ。     キリュっちに無理矢理食べさせられて気絶したのを思い出した《カリ、コリ》」 最後のおにぎりを口に放り込むと、大事に大事に咀嚼してから飲み込む。 最後はやさしい漬かり具合いのおしんこだった。 あっさりとしていて、シメには丁度いい。 後味がご飯と一緒に胃の中に流れていく感じで。 うん、オロ硬貨を手に入れたら是非また行こう。 彰利 「うーん、さすがに食いすぎたぞ。げえっぷ……うう、苦しい」 こんな気分は久しぶりだった。 少しでも文句があると雄山になる俺だが、 腹がいっぱいになるまで夢中になって食べるのは懐かしい感触だ。 米が喉を通ってゆく感触がたまらなく心地よかった。 彰利 「外食は気持ちがいいけど、歯磨きが出来ないのが難点なんだよな」 口の中がうずうずする。 仕方ないな、黒でハブラシを象って、月然力・水で洗浄して……と。 月清力も使っておこうか。 うん、うん、汚れがみるみる落ちていくのが解るぞ。 ……って、もう井之頭さん的行動はいいか。 うしゃー!ほいじゃあ腹も膨れたことだし……よし、 みずきのところにでも行ってみますかね。 なにやら柾樹の野郎が大変なことになってるとか言ってたし。 彰利 「そうと決まればレッツビギンだぜ〜〜〜っ!     …………転移は〜……出来んね。ほいじゃあ旅人らしく走っていこう」 確か孤島にあるモンスター研究所だっけ?ペット研究所だっけ? ともかくそこにおるんよね? ならばその近くの町にでもいけば、きっと船継ぎ場があるに違いねー。 彰利 「そうと決まれば───舞空術ーーーーっ!!」 旅人らしくといったが、すまん、ありゃウソ───ゴォオッ! 彰利 「ア」 飛んでいる僕の下にある地面。 そこには僕の影などなく、ただただ巨大な影が─── デスゲイズ『ルゲェエオギャァアアオオッ!!!』 彰利   「ヒアッ……キャアーーーーーーーーッ!!!?」 ゲェと思った時には、開幕メテオで死んでおりました。 ───……。 ……。 神父 「おお旅人よ!死んでしまうとは情けない!!」 彰利 「……ねぇ。この世界で初めて会う知り合いの言葉がそれって、どうなん……?」 神父 「ここ10年音沙汰なしだと思えばいきなり塵として再会した私の身にもなれ」 一息でなんてひどい……。 彰利 「あ、そだ。他のやつらはどう?まだ会っとらん?」 神父 「貴様が一番最初だ」 彰利 「………」 俺、もしかしてザコですか? いや、相手が悪かったんだって。だってデスゲイズですよ? 仕方ないさ、仕方ない……し、仕方……───よ、弱くないよね? 彰利 「つーかさ、初心者修練場でも会ったっしょ?10年音沙汰無しってのは……」 神父 「ああ、ここでのことだ。そして貴様が一番最初だった」 彰利 「………」 ゴッド、やっぱりアタイのラスボスはこいつなのですね? いつかこいつをブチノメしたい。 是非に。 彰利 「まあいいコテ、とにかくアタイは孤島を目指すぜ。     おい神父この野郎、空飛ぶ以外で孤島に行く方法、なにかない?」 神父 「男らしく泳ぐがいい」 彰利 「あのー……キミわざとアタイに困難押し付けようとしてない?」 神父 「人は困難を乗り越えてこそ成長する。     その試練を与えるのも神職者の務めだと思わんか?」 彰利 「侵食者ならアタイも頷いてたね、うん」 神父 「………」 彰利 「………」 神父 「貴様の道中に天罰が降らんことを」 彰利 「ギャア聖職者てめぇ!人の不幸願うたぁどういう了見!?貴様それでも聖職者?」 神父 「生まれて間もない頃の夢が破壊僧だった。ただそれだけのことだ」 彰利 「わあ」 すげぇ神父も居たもんだった。 呆れてモノも言えまくるけど敢えて言わないアタイは最強。 ……さて、神父の相手もほどほどにしてさっさと行きますかね。 彰利 「あぁ〜ん……?」 外国人男性が言葉を捜す時のような声を出しながら、地図を広げる。 彰利 「《ガサガサ、ゴサ……》グ、グウウ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」 ギャアもう!なんかもうギャアよギャア! ナビマップじゃねぇから地図広げるのが面倒くせィェーーーッ!! もっとこう……ねぇ!?パパッと表示───ゲェエーーーーーーーッ!! こ、これはいけねぇ〜〜〜っ!! ハイテク技術だからといって、身も心も楽な方に流されるところだったぜ〜〜〜〜っ!! ファンタジー!そうファンタジー!アタイたちはその言葉に甘えすぎてるだっぜィ! ナビがあるからだとか面倒くせぇとか、そげなのことは冒険者にとっては禁句ぞ! 普通はナビがあること自体が贅沢なんじゃい!そこんとこ、ヨロシク! 彰利 「地図最強!愛してる!だから見よう!凝視しよう!アイラヴ地図!」 ざっと見る。 孤島は……南西。 ずっとずっと南西にありましたとさ。 ではこの旅を終わらせ、みずきたちを助けることが目下の旅目的! 今!アタイの伝説が始まろうとしている! 彰利 「これから仲間を集めてステキな冒険の旅に出かけるのYO!!     ……でも仲間って、誰が居るんかね」 ダーリンでも探してみようか。 いや、それとも───ドドドドドドドド……!! 彰利 「あ〜〜〜ん?」 果てないフィールドの、赤い空の下でなにかの音を耳にする。 滝の音でもなんでもないそれは、 まるでオーガストリートを駆けるスピードワゴンさんのようでもあり…… 彰利 「……?ピエロアイーーーン!!《グミミミ……!!》」 よく見えんから家系の視力を頼りに強引に見る! するとどうザマショ、なにやら顔に笑みを浮かべて走る藍田くんが居るではないか。 アニメ・ジャングルの王者ターちゃんの何回目かのEDのジェーンのように、 砂煙をあげながら走っている。 MISTY HEARTBREAK、結構好きだったんだよねアタイ。 彰利 「おーーーい藍田この野郎ーーーーっ!!」 既にチャラリーナな彼だろうが、それでも原メイツのよしみ。 声をかけてみると、藍田くんはアタイを見て進行方向を変えた。 藍田 「よう弦月、お前こっち側に居たのか」 彰利 「オウヨ!……こっち側?」 藍田 「いきなり勢いだけで返事するなよ……まあいいけど。     ええとな、ここに来る途中、関所みたいなのがあってさ。     そこで通行証買ってわざわざこっちに来た経緯があるんだ」 彰利 「な、なに〜〜〜っ、証拠あんのかこの野郎〜〜〜っ!」 藍田 「いやどうしてそこでそんなねちっこく疑われなきゃならねぇんだよ!」 それは貴様がチャラさんだから……って偏見はいかんね。 藍田にとってみりゃあなにが起こったのか解らんうちに、 原中のことを忘れてしもうたんだから。 彰利 「ほいで貴様はこげなところでなにしとるん?温泉町なら方向が違うぜよ?」 藍田 「あ、いや、違うんだ。ちょっと自分探しの旅っつーか自分を変える旅っつーか。     ほら、魔王居ただろ?空界人皆殺し伝説の」 彰利 「オウヨ、中井出じゃね?」 藍田 「あいつのことを、岡田と一緒に知ろう、ってことになったんだ。     ……弦月、しょ〜じきに答えてくれ。俺とあいつ、面識あったか?」 ……ワッツ?何故にそげなことを今更? もしやこやつ、記憶が戻りつつ……あるわけねぇか。 なにせ相手がルドラだ、そげなこと、万に一もあるわけねぇやな。 ほいじゃあ……? 彰利 「悪いが答えられんな。貴様はその権利を失ってしまったのだから」 疑問は残るけど意地悪をします。 だってアタイ、悔しいんですもの。 絆ってのは強いモンだと思っていた。 誰かの横槍、不穏な力なんぞには負けるもんじゃねーと。 それが、こんな簡単に消えてしまうなんて、悔しくて仕方ない。 彰利 「てめーもどうせ中井出のことを殺人鬼とかそっちの目で見てるんだろ!     えーーーっ!?あたしにゃちゃーーーんと解るよ!!」 人を沢山殺した時の背筋の凍り様、 直後に知り合いだった人の罵倒される悲しみ、俺は全部知っている。 だから、中井出のことを思うと本当に悔しい。 その所為だろう、胸の中に燻っていた文句が一気に溢れて、 気づけば言わなくてもいいことまで口に出していた。 藍田 「……弦月が、晦以外のことでそんなに怒るなんてな。     ───そっか。やっぱり忘れてるのは俺達のほう、なんだな」 彰利 「ワッツ!?」 みょ、妙ぞ……こはいかなることか。 なしてそげな結論に行き着くというのか。 藍田 「ただ、殺人鬼だってのは事実として受け止めなきゃいけないとこだ。     勘違いしないでくれ弦月。     受け止めるべきことを受け止めないでギャーギャー騒ぐだけなのは、     相手を知ろうともしないヤツのすることだ。     ……俺は、そんな自分になりたくないから走ってる」 彰利 「ひょ?」 藍田 「だから、その……な。魔王のこと、知ってみようって思ったんだよ。     ……考えてみれば、地界人で大量殺人なんて、普通じゃ自殺モンだ。     精神が追いついてこれやしない。     俺だったら自分が信じられなくて、どうなっちまうかも想像つかない」 ウヌ……そりゃそうでしょうとも。 アタイは憎くて殺したクチだけど(まあレオの差し金だけど)、中井出のは本当に事故だ。 ルドラどものいやらしい精神汚染がなけりゃあ、そんなことにはならなかった筈だ。 で、多分だけど……中井出は“みんなに忘れられること”すら受け入れている。 俺達も、スッピーの力が薄まったり、 中井出への感心が薄まれば、その時点で中井出のことを忘れるだろう。 多分それは精霊どもも同じだ。 全員に忘れられて、楽しむべきことを失った中井出……地界人みたいな、 寂しければ死んじまうような心の弱さをもったやつがそんなことになったら、 果たしてその先に待つのはなんだ? つまらなくても、自分を迎えてくれるやつらのところに行くんじゃないか? 彰利 (……ちっ) やり方が汚ぇ。 無意識に舌打ちするほど苛立ち、 ただ楽しみたかっただけの中井出がこんな目に遭っちまったことが、 たまらなく悔しかった。 だっておかしいだろこんなの。 どうして中井出じゃなきゃいけなかったんだ。 精霊たちが人間を嫌ってたんなら、精霊たち自身がやるべきだったんじゃないか? ……中井出も中井出だ、どうして文句言わずに受け入れやがったんだ。 最初は操られてたにしても、途中からは自分の意思だったから? そんなの、その“最初”がなければ起こらなかった感情だ。 だったら悪いのは全部───! 彰利 「……はぁ」 熱くなり始めた頭を落ち着かせる。 こんなんじゃだめだ、と。 中井出には中井出なりの考えがあった……で、いいんだよな。 俺が怒ったってなにが変わるわけでもない。 藍田 「弦月?」 彰利 「……わり、なんでもねーワ。ああくそ、すっきりしねぇ……」 口調が荒くなるのを止められない。 思えば楽しむだけだったはずのゲームが、どうしてこんなことになってしまったのか。 彰利 「……そィで?貴様は中井出のなにを知りたいのかね?」 かぶりを振って考えを抹消する。 つまらないことなんて消えろ、と。 怒る時があるとしたら、中井出が怒った時で十分だ。 それまで、せいぜい蓄積させるとしよう。 はぁ……なんか俺、上に立つ者すべてが嫌いになりそうだ。 力持ってりゃそんなに偉ぇかよ、くそっ……。 藍田 「あ、ああ、それなんだけどな。この際、俺と魔王に面識があったかどうか、     なんてのはまっさらにしたいって思うんだ。     思い出せ、なんて言われたって思い出せないもんは思い出せない。     だったらさ、ほら。今からでも知り合って、意気投合できるんなら、     それはどれだけ……その、なんだ。面白いんだろうな、って」 彰利 (あ……) 藍田 「お互い、友達をつくる〜なんて歳でもないけどさ、はは……。     でも、そういうのに歳なんて関係ないんだよな。     肝心なのは、誰が誰をどう思って、どれだけそいつを好きになれるかで……。     はは、岡田以外にtellで相談してみたんだけどさ、みんな口々に言うのな。     “お前正気か?”って。……その時さ、なんか、うん……     俺って……この世界でなにをそんなに楽しんでたのかな、って。     楽しんでた筈なのに、楽しすぎたくらいだった筈なのに……つまらないんだ」 困ったような苦笑いをして、藍田は言った。 それは紛れも無く、迷惑部に入ったばかりの戸惑いばっかりだった藍田の姿で…… あの時も、中井出とぶつかりにぶつかりまくって、意見をぶつけ合いまくって、 そんで……中井出が最後にこう言ったんだ 彰利 「…………なぁ、藍田。面白いこと、好きか?」 そしたら藍田は、 終いにゃ殴り合いにまで発展した所為でぼっこぼこだった顔を緩ませて…… 藍田 「当たり前だ。つまらないことを望んでる人間となんて出会いたくないぞ俺」 って言って、その後に盛大に笑ったんだっけ。 ……変わってない。 藍田は、あの頃の……迷惑部に入る前に戻ってるだけなんだ。 あの頃、まだクラスメイツたちともあまり打ち解けてなかった頃。 中井出って支柱に寄り添って絆を深めた俺達。 その支柱が無かった所為で、みんなの心は今はバラバラだ。 だけど……今、ここに辿り着いた現在がある。 どんな理由であれ、迷惑部のフルメンバーがここに居る。 だったら……そうだ、中井出が居なかったにせよ、集うだけの理由が確かにあったんだ。 もう原中迷惑部は戻らないけど……もしまたここから始められるのなら、 それは、なんて眩しいことなんだろう。 藍田 「……お、おい弦月?」 彰利 「ああ、くそっ……ちっくしょ……っ」 不覚にも涙が出た。 やっぱり絆ってのは強い。 分裂して、いがみ合いばっかりしてた家系の馬鹿どもと違って、 芯が強い人間はなんて暖かいんだろう。 俺……中井出たちに会えて、本当によかった。 未来を諦めないで、本当によかった。  ……そこまで考えたら。  いつか中井出のことを忘れてしまうかもしれない自分に、静かにゾッとした。 藍田 「……顔色がすぐれないようだが」 彰利 「い、いや……なんでもない」 静かに2000万パワーズをやりながら冷や汗をぬぐう。 ……ああそうよねィェ、中井出が居なくなったからって、 藍田がキン肉マンとか見なかったって過去が出来上がるわけじゃないものね。 やあ、なにやら勘違いしてた部分も多々。 彰利 「……うん、話戻そっか。     ほぃで、貴様は岡田くんのところに向かっておると?」 藍田 「ああ。俺、どういうわけか今の自分が好きになれなくてさ。     いろいろ考えてみたんだ。前回のログインまでは楽しかった。     それは覚えてる。楽しくて仕方が無くて、     今回だってもちろん楽しみにしたままログインした。     ……でもな、なにか足りない。足りなすぎるんだ。     それはなんだ?って考えたり岡田とメールとかしてたら、     うん、確かに強烈な頭痛に襲われて、     それから……どうしてか涙しながら敬礼してた。     記憶の中で誰かが笑いながらさ、なにかをしてくれた気がしたんだけど……」 彰利 「………」 号令、だな。間違い無い。 この様子だと藍田は全部忘れてる……その忘れちまう瞬間に、 最後に一度だけ中井出のことを思い出せた、ってことなんだろう。 ……ルドラの力を一時だけとはいえ、撥ね退けることが出来たんだ。 元地界人がだ───それは、とても辛く大変なことだったに違いない。 藍田 「でも、それはそれでいいんだ。     俺の記憶の中に誰かが居て、そいつを忘れることは涙が出るほど悲しかった。     ……うん、そんな事実があるなら、俺は本当にそいつのことが好きだったんだ。     けど忘れちまったことをずるずる引きずるのも、そいつに悪い気がしてさ。     だから俺は立ち上がった!新たなる俺……ネオ藍田になるために!」 彰利 「略してネオリバか!!」 藍田 「違ェエよ!?オリバから離れろてめぇ!!     もし離れないんだったらお前を殺してお前を殺す!」 彰利 「アルェエ!?それってアタイが死ぬだけだよね!?     馬鹿な考えは改めなさい!10秒数える!そのうちによ〜く考えるんだぜ!?     はい10!死ねやぁーーーーーっ!!」 藍田 「うおお本当に“10”数えるだけにしやがった!     上等だこのヤロー!ウェアァアーーーーーーッ!!!」 そしてなんだか知らんうちに始まる大乱闘スマッシュアザーズ!! 最初はジャブから始まり、次第に九頭竜闘気やヴィクター化を使いまくると、 フィールドの一角を破壊しだすことと相成りました。 ……じゃけんども、そんなハチャメチャバトルだったにも係わらず。 藍田くんの顔は、どこか楽しげでしたとさ。 Next Menu back