───冒険の書261/筋肉と理解と精霊と魔人と───
【ケース674:岡田省吾/自分が楽になるために誰かを忘れた。0点 ●】 声  『それはお前を食うためさーーーーっ!!』  ごどんごどっしゃーーーん! シロン「きゃああっ!!?」 ゴドー「んだぁ!?なにが起きやがった!?」 仕度だのなんだので随分と遅くなったメシを食べていると、 開けた廊下から玄関ドアがスッ飛んできた。 次いでズチャ、ズチャ……という小気味の悪い音。 なにかが近づいてきているようで、そして……俺はこの音を知っていた。 オリバ「グドゥーイブニン、Mr.ドイル」 三人 『ほぎゃあああーーーーーーっ!!!!』 現れたムキムキマッチョメンに俺達三人は声を揃えて絶叫した。 シロン「お、おっ……お、おばけーーーーーーっ!!」 ゴドー「バロッ!おばけじゃねぇ!人間……人間なのか!?     胸が……まるでケツだ……!腕が……頭よりデカイ……!     大体技が通用するのか……!?」 藍田!?藍田だよな……!? あれ!?なんでコロシアムじゃなくてこっちに直接来るんだ!? 彰利 「YO!」 岡田 「あ───弦月!?お前までなんでここに……!」 彰利 「オリバとともにチーム戦やって、金を稼いできた!     コロシアムではちょっとしたYOU冥人!!」 岡田 「……有名人の言い方、ヘンじゃなかったか?今」 彰利 「バッ!ち、ちっげーYO!……と、若者風に喋ってみました。意味はない。     いやぁYO、なんでも専属だかなんだかが必要だ〜とかぬかすからね?     道端でうろちょろしてたこやつをひっ捕まえて、専属にしました」 ナギー『離すのじゃーーーっ!わしはっ……わしはヒロミツを救わねばならぬのじゃー!』 言って、ひょいと襟首を持ち上げられて吊るされたのは、なんとナギーだった。 岡田 「あ、あれ?……なにやってんのキミ、こんなところで……」 彰利 「いやぁYO、それが聞くも涙、語るも涙の感動巨編がそこにあってさ……。     あ、回想入りまーす」 ……。
【Side───回想/鬼面族サイドなので彼らが知る内容とは多少異なります】 ───……。 チャチャブー『ぬうう……あらかた破壊してみたけど……やっぱり通れないか』 ナギー   『むう……のうヒロミツ、やはり無理なのじゃ。        ここから出るには外から結界を破壊せねばの……』 シード   『悔しいですが、ドリアードの言う通りだと思います父上。        ここに閉じ込められてしまっている以上、僕らは……』 チャチャブー『グウ……』 これは困った……よもや外壁を完全に破壊しても結界が消えぬなど……! この博光ともあろうものが、あっさりと野望を打ち砕かれた気分よ……! チャチャブー(……グフフ《ゴキーン♪》) と、油断をさせるために落ち込むフリをしておく。 ここから出る方法?そんなものはとっくに我が脳内で確立されておるわ。 結界があるから出られない?結界が破壊できないから無理? グエフェフェフェ……! 結界を破壊する必要なんて無いのだよナギーにシード、グオッフォフォ……!! だが恐らく敵に気づかれるのはほんの一瞬の間。 故に出られるのは恐らく一人。 その一人に全てを託し、今はこの場で耐えるとしよう。 そして栄えあるその一人に選ぶのは───ナギー!貴様だ! チャチャブー『しかし、疲れんとはいえ精神的に疲れた……。        ナギー、シード、リラックスして休みなさい。無理は体によろしくない』 ナギー   『そうじゃの……』 シード   『はぁ……少し、眠りたい気分です』 この博光がやさしく語りかけると、 二人は本当に体から力を抜き、その場にごろりと寝転がった。 結局破壊できなかった結界からは離れ、 今はクリスタルキモスティンの階下にある休憩場に居る。 今も敷き詰められた緑の葉が子供たちを受け止め、 心地よい弾力とともにこれぞリラックス!とでもいわんくらいのやすらぎを齎す。 そう、そのリラックス度は尋常ではなく、 チャチャブー『死ねぇえーーーーーーーっ!!!』 ナギー   『……む?むあぁあーーーーーーーっ!!!!?《ザゴブシャア!!》』 シード   『はっ!?ド、ドリアード!?───父上!なにを───』 一瞬の隙をつき、この博光はナギーを惨殺! 塵にし、“神父のもとへ”と飛ばした───!! チャチャブー『すかさずtell発射!───俺だ!瀬戸内だ!』 声     『〜〜〜!!〜〜〜〜!!!』 チャチャブー『ええい黙れ!言葉にならん叫びなどするものではないわ!!        いいかナギー!今貴様は神父の前に居るな!?結界の外の神父の前にだ!』 声     『───なるほどの!!』 チャチャブー『うむ!一発で理解するとはさすがだナギー!!        ではこれよりすることは解っておるな!?』 声     『任せるのじゃ!必ず外から結界を破って、ヒロミツを助けるのじゃー!』 シード   『……そうか!僕らは父上の力で、死んだら神父の前に飛ばされる!        けどこの結界の内側には神父なんて居ないから……!』 チャチャブー『うむその通りであるシードよ!        さすがの神父も結界の中にある自然要塞の教会には飛んでこれぬ!        故にこの場で死するということは、        別の場所の神父のもとへと飛ばされるということ!        ウハハハハハ!!見たか精霊ども!これが地界人の逞しさよ!!』  ピピンッ♪《メールが届きました》 チャチャブー『ぬう!?なにごとか!』  ◆ヒロミ通信  汝なぁああああ……!!少しは世界の設定というものを重んじることは出来んのか!!  こんな状況でそんなことをする馬鹿者があるか!!  心配せずともドリアードやシードには、  絶対に危害が加わらぬよう設定してあったというのに……!  既に結界からは塵になってもその場で復活するようにさせてもらった!  もう飛ばせないから無茶をするな!いいな! ……。 開いたメールにはそんなことが書かれていた。 チャチャブー『グエフェフェフェ馬鹿めぇえ!!        設定を重んじるもなにも、俺は設定通りのことをしたまでよ!        死んだら神父のもとへと設定したのは他ならぬ貴様であろうに!        僕……なんでも人の所為にするの、よくないと思うな……』 ……その時、確かにこの世界の外で、 誰かさんが血管ムキムキになって顔を赤くしながら叫ぶ姿が脳裏に浮かんだ。 チャチャブー『設定の穴がどうとかの問題ではない……        裏を掻かれるほうが馬鹿なのよ、グオッフォフォ……!!』 シード   『父上……なにを言っているのかわかりませんが、さすがです……』 チャチャブー『多謝(トーチェ)』 うん、僕は出来る限りのことをすることができた。 あとはナギーが外で力をつけて、 もしくは仲間を集めて帝国を潰してくれるのを待つだけだ。 それまで僕らは…… チャチャブー『───……よし!シードよ!』 シード   『はい父上!』 チャチャブー『今やこの場には父と子、我らのみ!        悔しいが我らではこの帝国を破壊するに至らぬ!        故にだ!そんな我らでも出来ること───        キモストの誘惑で兵士たちを皆キモスト信者にすることのみ!        ただそれのみを深く追求し、果てはオロさえも信者にする!        シードよ……こんな案に、こんな姿の父についてきてくれるか!?』 シード   『もちろんです父上!この身……この意思!全て父上のためだけに!』 チャチャブー『おおシード……!僕の可愛いシード!!』 シード   『父上!!』 バッと広げた両手を見て、シードが目を潤ませて飛び込んでくる! この博光はそれをしっかり受け止めて チャチャブー『ビーフケークハマー!!』  ギョルゴドガァッ!! シード『ひぇぎゅう!!?』 腕と足を器用に固めた状態で、頭から地面にスープレックス!! 決まりどころが悪かったのか、シードはそのまま気絶し、動かなくなった。 チャチャブー『若すぎる……遅すぎる……そしてなんと弱い……』 そんな息子にマホメド・アライ。 鬼面をガタガタと揺らしながら静かに語りかけ、……えーと…… チャチャブー『どうしよう……』 話せる相手が気絶しちゃったから、途端に暇になってしまった……。 少しは後先考えようよ僕……。 …………でも解ったことがある。 ナギーがかなり遠くに飛ばされたお陰で、この鬼面族の行動範囲に枷がなくなった。 つまり、この足でオロのもとへ行き、長かった戦いに終止符を打つことも可能なのだ。 チャチャブー(…………ふぅん!《ゴシャーン!》) 殺ることは決まった!じゃなくて、やることは決まった! 今日中にヤツをコロがし、この世をキモストの天下にしてくれる! そうすればね?ホラ、通貨もオロじゃなくて“キモスト硬貨”になるんだ。 なんだったら名前をモイスチャーに変えて、 “モイスチャー硬貨”って通貨にするのもいい。 どのみちグオッフォフォ……オロよ、今日が貴様の命日よ……! 武具の呪いがどうやって解けるのかは知らんが、 こんな場所へ我が子らを閉じ込めた罰…… 独断と偏見で全て貴様に押し付けた上でコロがしてくれるわ!……主に不意打ちで! だってきっとまた完全武装してるだろうしさぁ!真正面からじゃ勝てる気しないし! だから寝込みでも襲おうかなぁ。 こっちは不死身だから、きっとチャンスは何度でも。 グエフェフェフェ……楽しい夜になりそうだぜオロよぉ……グオッフォフォ……!!  ピピンッ♪《メールが届きました》 チャチャブー『あれ?』 怪しく笑い、ガタガタと鬼面を揺らしていたらメールが到着。 開いてみると、ヒロミ通信だった───ノートン先生からだね。  ◆ヒロミ通信  予定が狂ったから能力を渡す。  本来、そう遠くない未来に封印が解ける予定だったんだがな、  汝が抜け出してしまった所為でその予定が大いに狂った。  渡す能力は汝の能力だ。唯一封印されなかった霊章輪のみを汝に移す。  霊章輪と融合したドラウプニルの指輪や封印されたレオンらの“意思”は、  指輪とともにキモストの中にある。安心するといい、全員無事だ。 ……。  ピピンッ♪《霊章輪が移植された!霊章能力が行使可能になった!》 チャチャブー『ミギ!?《ジュジュゥウウウ!!》ぐぎゃああーーーーーっ!!!』 我が体に灼熱が灯る! 熱ッ!!普通に熱い!物凄く熱い!!───……あ、治まった。 チャチャブー『………』 体のところどころがシマシマになってる。 もちろん霊章の模様の所為なんだけど…… 薄い黒と濃い黒とで、見事なブラックゼブラの誕生だ。 しかもきちんと模様なもんだから、シマウマめいてない……うん、それは喜ばしい。 チャチャブー『えーと……焚!《ガンババババォオオンッ!!!》』 火闇霊章発動!───するときちんと霊章からは灼闇が放たれる! よ……よかった! なんかもう小細工ばっかでどう戦おうかとか考えてたところにこの能力! グヘヘヘヘ……この能力さえあればオロの寝首をかけるぜぇえええ……! ……え?それでもまだ寝首なのかって?あ、当たり前じゃないか! なんでそんな、楽に倒せる方法があるのに困難に立ち向かわなければいけないんだ! たとえ外道と言われようが、俺は面白おかしくヤツを退治します! 開始早々に帝国のボスを倒す……最高じゃないか! だからツブそう。うんツブそう。 俺達の戦いは───始まったばかりだ! チャチャブー『……………………ところでドラウプニルの指輪ってなんだっけ?』 えーと……おお、呪術師どもに指輪に変換されたランドグリーズの名前か! そ、そうかそうか! そういえば指輪にされた時、ろくに調べもせずに霊章融合させたから解らなかった! よかった、相棒たちはきちんとキモストの中に眠っているらしい。 彼らと離れるのはとても寂しいが、なぁに!僕にはまだニーヴェルンゲンが居るさ! 頑張ろう相棒!僕らの手でこの帝国を変えるんだ! ただひたすらに面白おかしく!! そのためにはまずオカタイ王様が邪魔です。 コロがさんまでも、キモストチャームで黙らせるなりせねば。 【Side───End】
……。 彰利 「ということがあったらしいんだ〜〜〜〜っ」 ナギー『うむ。さすがはヒロミツよの。     あのような一瞬で、結界から抜け出る方法を思いつくとはの』 彰利 「いや……彼の場合、フツーに常識破壊っつーか、     別の方向から物事考えるのが得意なだけなんでねぇの?」 ナギー『じゃから。そこがさすがヒロミツじゃと申しておるであろうに』 弦月とナギーが向かい合ってわやわやと話をしている。 そんな中、オリバは部屋の隅で腰を抜かしているシロンとゴドーの前で、 目を奪われるほどの強烈なアンチテーゼ、 これみよがしの逆三角形や、美しきポージングを次々に見せつけまくっていた。 ……パンツ一丁で。 岡田 「…………ヒロミツって、あの魔王のことだよな?」 彰利 「オウヨ。俺と悠介にとって、最強の友達……じゃねぇな。最強の仲間だ。     あ、この場合の最強ってのは強さ的なものじゃあねぇぜ?     一番の仲間って意味の最強ぞ。……先に言っおくぜ岡田この野郎。     もし中井出の敵に回って、あいつをコロがそうだなんて考えをしたのなら───     一緒にまず中井出をコロがしたあと、貴様をコロがす」 ナギー『おお黒いの!ヒロミツもきっと全力でコロがしにくるのじゃ!』 彰利 「うわぁ……勝てる気しねぇ……」 ナギー『……?…………おぬし、変わったの。     以前のおぬしだったなら、俺が負けるわけね〜くらい言っておったじゃろ』 彰利 「心境の変化ナリ。力があって、しかも偉そうなヤツが嫌いになりましたんで。     つまり、そうさのう……力があるくせに、その力が全部武具のおかげで、     しかも中身はただの凡人ってやつが人として大好きです。     偉そうにしても薄っぺらすぎて逆に哀れっつーか笑えるしね。キミもっしょ?」 ナギー『うむ。どれだけ威張っていても空回りばかりで、     ひねくれた思考じゃというのに小さなことで真っ直ぐなのがヒロミツじゃ』 岡田 「……なぁ。それって普通にゲームとか漫画に居る、     やられ役とかの小者的存在じゃないか?」 彰利 「もちろんだ!」 ナギー『それがヒロミツじゃからの!』 岡田 「………」 物凄い理解のされ方をしている魔王も居たもんだ……。 彰利 「中井出はすげぇぜ?なにせ中身がまるで小者だ」 ナギー『わしも初見では随分と無礼を働いてみせられたものじゃがの。     じゃがもはや気にも留めておらぬのじゃー』 彰利 「じゃあアタイが無礼を働いたら?」 ナギー『刺し違えてでも無礼を働き返すのじゃ』 彰利 「あの……死亡覚悟の無礼ってなんですか?」 おお、弦月が会話で押されてる。 ……ていうかこいつら何しに来たんだ? 特にオリバ。 話し合う気で来たんじゃないのか?おーい……。 彰利 「ええとまあそげなわけよ。ほんとのところは     グラディエーターになってからそのままこっちに来ただけじゃい。     こっちの用が済んだらちと付き合いナッサァ〜イという条件付きで」 岡田 「付き合うって、なにに」 彰利 「ウチのみずきをちと助けにね。なんぞかやらかしてピンチだ〜って言ってたから。     いっそのこと、いわゆる死にデジョンでもすりゃいいのにね」 ナギー『なにを言うのじゃ。     いくらヒロミツのおかげで死ねば神父のもとへ飛ばされるからといって、     わざと死ぬのはどうかと思うぞよ?おぬしとて好きで死にたくなどないじゃろ』 ナギーが呆れ顔でそう言うが、弦月は微妙な顔をしたあとに言った。 彰利 「正直僕、今は悠介と中井出とアタイが壮健ならそれでいいや」 その言葉にとっかかりを感じた俺は、素直に質問を投げかける。 晦や……魔王が壮健なら、ってことは───と。 岡田 「ん……ん?篠瀬さんは?」 彰利 「OH?キョホホ……夜華さんとは大絶賛夫婦喧嘩中YO!     何故って自分をほっぽって魔王側についたのが許せなかったらしくて。     無駄に正義感高いから、大量殺人したヤツを許せなかったんしょ。     特に、女子供を殺しまくったってところが。     そんなヤツを自分より信頼したアタイに腹が立ったんですとさ」 岡田 「まあ……本能的には解らないでもないよな」 彰利 「そうかえ?まあアタイはどっちにしても中井出のほう選ぶけどね」 ケカカカカとよく解らん笑い方をして、最後に溜め息を吐いた。 彰利 「敵であるならどんなヤツでもコロがす。それって結構大事よ?     どこぞのゲームキャラでもあるまいし、     強くなってコロがしに来いなんて普通じゃ言えねぇっしょ。     結局コロがすことになるんだとしたら、月日がどうこうの問題じゃない。     コロがすって決めた時点で、     自分にとって相手の生きた歴史なんて関係ないんだから」 岡田 「…………冷静なもんだな、弦月」 彰利 「大量虐殺ならしたことあるし。     大体YO、それを見ても俺とは友達感覚で居るってのに、     なして中井出はダメだったんよ。俺にはそれが不思議で不思議で」 藍田 「魔王は女子供関係なしで、お前は自分に向けられた明らかな殺意に抗って。     ……だからじゃないか?正直俺はもう、そこまで嫌悪感とか沸いてこないけど」 ふと、隣に戻ってきた藍田が言った。 ちらりと見れば、部屋の隅で泡を噴いて倒れているゴドーとシロン。 ……いったいどんなポージング劇場が展開されたのか、考えただけで寒気がする。 人が気絶するポージングってどんなだろう。 彰利 「ンーム……やっぱ人ってのは“理由”に振り回されやすいわけね。     ……あんね、俺がコロがした連中の中にはもちろん、     家族もちのやつも居たわけYO。んで、急に父親とか母親がコロがされました。     さて、のちの子供たちはどうやって生きたでしょう」 岡田 「ん、ん……それは……」 彰利 「だからって全員コロがしちまったほうがいいっていったらそうじゃないけどさ。     俺も中井出も、レオやルドラっていう暴走の原因があって、     俺はもうコロがしたことなんて微塵にも悪いって思っちゃいねーけど、     中井出は違うのですよ?コロがさずに済むならコロがしたくなかった筈だ。     だってさ、まるで無関係の相手を殺すわけですよ?     敵意を向けられてたわけじゃあねぇのよ。     明確な敵意を向けてたわけじゃないのに殺された……うん可哀想だね。     そんじゃあ明確な敵意を向けられてたわけじゃないのに、     そんな相手を殺しちまった中井出の気持ちはどうなる?     ……お前らさ、殺されたやつらのことばっか考えすぎ。     殺人って言葉や理由に振り回されすぎ。     明らかな愉快犯相手だったらそれで十分だけどさ、     抗えない誰かさんの能力の所為で動かされた場合とかのことも考えめされい」 ……言われてから、操られた“自分”を想像してみた。 たとえば、今まで遭遇した敵で一番強いやつに洗脳されたとして。 ……そう、たとえば刻震竜かなんかに。 対面した時の背筋が凍る思いとか、全部ひっくるめて。 そうしたら……体が震えてきた。 自分は操られただけなんだ、って懸命に叫ぶ自分と、 信じてくれずにただただ人殺し人殺しとしか言わない周囲。 かつて仲間だったヤツはみんな俺への信頼も友情も捨てて、ただ冷たい目で─── 岡田&藍田『っ───うぁあああっ!!』 気づけば、想像は深みに達し、俺と藍田はまるで、怯えた子供のような悲鳴をあげていた。 彰利 「ほいお疲れさん。     想像しとったみたいだからちと月視力でそのイメージを増幅させてみたよ」 藍田 「や、やめてくれ……本気で泣くかと思った……!」 岡田 「…………けど……あの魔王は、これを味わったんだよな……現実として」 彰利 「うンむ。さて、その上で訊きましょう。アナタガタは魔王と会ってみたいですか?     真正面から話し合って、解り合えるなら解り合いたいですか?     ピーチパイの味を覚えていますか?種族は関係ねーですか?」 岡田 「ピーチパイは心底どうでもいいけど、会ってみたい。話し合いたいとは思った」 藍田 「……俺も」 彰利 「OK!では貴様らにお見せしよう!     中井出がどんな気持ちで洗脳の波の中に居たのかを!     月視力発動!この二人に彼の痛みを思い知らせてやれ!」 岡田 「え?ちょ、ちょっと待───!」 藍田 「心の準備くらいさせろぉーーーーーっ!!」 彰利 「お馬鹿!中井出はその準備すらさせてもらえなかったんだ!     それをまあよくも口々にあーだこーだ罵った上に殴りまでして!     なんでも許すのはそりゃあ仲間として失格!だがなー!     殺人なんていうことをしちまった時に仲間が信じてやらんでどうする!     はっきり言おう!貴様らは仲間意識は最上級のものだったが、     殺人などの人の深いところまでの配慮が未発達だったのだ!     だからお知りなさい?この痛みこそアンナの痛みだ!」 弦月が俺達に向けて月操力を行使する。 途端、俺達の頭の中には───いや、視覚自体が誰かのものになったような錯覚を覚え、 俺は…………頭の中に流れる映像を、目を閉じようが背けようが見せ付けられ、 涙を流しながら懺悔し、嘔吐した。 返り血で血まみれの体で晦の部屋へ戻り、 待っていたみんなに罵倒され、子供にも罵倒され───……辛くないわけがなかった。 だっていうのにこの魔王は自分への不満があるものへと“かかってこい”と言い、 結局その場に居たほぼ全員にわざと殴られ、それを決別の証として胸に刻んだ。 その景色には魔王を提督と呼ぶ俺と藍田の姿もあって、 ただ静かに……ああ、俺はこの人を忘れることに涙して、敬礼をしたんだな、と…… すとん、と……本当にあっけなく理解して……涙を流した。 彰利 「……んで?どうじゃい」 藍田 「敬礼の意味が解った。でも謝りはしない、ってところかな」 岡田 「ああ。謝っちまったら逆に終わりな気がする。     そんなのを望む人じゃないってのが、なんとなくだけど解った」 話し合いが必要だ。 誤解は一方的だったし、一方的だったからこそ一方的に解けた。 どうしてもっと早くにこの映像を見せてくれなかったんだ、なんて言わない。 もし見せてもらえたなら、俺達は彼のことを忘れずに済んだかもしれないけど、 彼は全部を解った上で“忘れられること”を受け入れた。 仲間をなにより大事に思っているヤツだ、それがどれくらい辛いことかなんてのは、 空界人を皆殺しにしたあと、 晦の部屋へと戻るまでの彼の頭の中を体感した俺達には、十分すぎるくらいに解っていた。 だから、言うべきことなんてなにもない。 話し合いは必要だけど、言いたいことなんて一つだ。 藍田 「一言目はなにがいい?」 岡田 「“知り合いから始めましょう”」 藍田 「ソレダ」 もっと知ってみたい、なんて思っちまったのだ。 しかも女のこととかじゃなくて、男のことを。 恋焦がれる思春期ヤローみたいに心躍らせて。 謝罪の気持ちが全くないっていったらウソだろうな。 けど、女に夢中になるよりも、旅に夢中になるよりも。 ただ一人の男にイカレちまった馬鹿野郎みたいに、 誰かを知ってみたいって思い始めてる俺が居た。 彰利 「だが俺は許さん」 二人 『えぇええーーーーーーっ!!?』 人はそれを頓挫と言う。 藍田 「な、なんでっ!」 彰利 「都合のいい野郎どもよ……散々好き勝手をぬかし、事実を知れば掌を返すか……。     そんな尻軽隊などをこのアタイが迎え入れると思ったか……。     クォックォックォッ……貴様らはそうしてずうっと悶々しておればいいのよ……」 岡田 「い、いやっ、けどさっ!」 彰利 「まあま落ち着きめされい。ほいナギっ子」 ナギー『うむ。では訊くがの、藍田にオカダよ。     おぬしらには、妻たちをないがしろにする覚悟はあるのかの?     ヒロミツにつくということは魔王側に、     言ってしまえばおぬしたちの言う殺人鬼に組するということなのじゃ。     当然、妻たちは黙っておらんじゃろうの。それを説き伏せる自信があるのかの。     おぬしらのことじゃ、既に全員にtellを回したのじゃろ?     じゃがここに居るのは藍田だけ。……それはつまり、     他の皆はヒロミツを知ろうという気にはならなかったということじゃ』 藍田 「グ、ググー」 ナギー『そんなやつらを説得する自信はあるのかの。裏切りきる自信はあるのかの。     それが出来ないのなら、無駄にヒロミツの心を引っ掻き回すだけなのじゃ。     わしはそんなことは許せないし、上っ面だけの信頼なら逆に敵と見做すのじゃ』 岡田 「やっ……それはっ……」 ナギーの目が俺達を射る。 その目は真剣だ……もし本当に上っ面だけの心だと思われたら、本気で敵に回るだろう。 彰利 「ちなみにアタイは夜華さんとは絶交宣言中。信頼のためなら離婚も辞さぬ覚悟よ」 藍田 「そ、そこまでかよ!」 彰利 「原中大原則ひとーつ!原メイツたる者、愛した者は一生涯かけて愛するべし!     だが特例として、互いの信頼関係が底辺へと至った時は、     これを許し、離婚を許可するものとする!     俺はなー!自分の夫だからって理由で殺人を許されてもてんで嬉しくねぇ!!     レオに操られてたんだから仕方なかった!?冗談も休み休みにお言い!     だったらなして中井出を許せなかった!俺はそこに腹を立てました!     だから絶交。百年の愛も冷めるってもんさ。     クォックォックォッ……いっそのこと運命破壊でアタイのこと忘れさせようか」 岡田 「いや……そこまでしなくても……」 彰利 「んーにゃ理解した。俺は夜華さんを愛していたが、その感情は友情には負ける。     夜華さんと悠介、どっちが大事だ?って訊かれたら、迷わず悠介なんだわ。     夜華さんはアタイのことを思ってくれてるよ?     でも同条件の殺人衝動を目の前にして、     夫だから、彰衛門だからって理由で許されても嬉しくない。     アタイが愛した夜華さんは、もっと平等な考えが出来る人だったよ。     きっとアタイへの愛が彼女を歪ませてしまったのYO……罪作りな男、アタイ」 や、でもだからって記憶消去までしなくても……。 そう思ったが、それは俺達にも言えることだった。 魔王につくってことは、あいつらの不信を一身に受け止める覚悟をしろってこと。 なんとなく悪いやつじゃないかもしれないから、 今はついてるだけだ〜、なんて言ってみろ。 きっとその時点で、俺はいろんなものからの信頼を失う。 やるからには徹底的に。 和解が出来なかったからこそここには俺と藍田しか居ないんだし、 こんな状況になったのだ。 藍田 「…………いいだろう。交わすぞ、その契約!」 彰利 「グラッツェ!だがいいのかいホイホイついてきて。     俺はやると言ったら本気でやっちまう男なんだぜ?」 藍田 「正直、まだ半信だ。けど、なんだろな……俺はどうせなら面白い方を取りたい。     それをするために理解しないヤツが障害になるなら、そりゃしょうがない」 彰利 「岡田っちは?」 岡田 「俺もそうだけどさ。いいのかよ藍田、愛しの木村と別れることになるんだぞ?」 藍田 「別に一生別れるわけじゃないだろ?全部が終わったら空界に住むんだし、     ただ他人になるだけで、一緒に居ることは変わらない」 彰利 「OK、その覚悟、今はその場しのぎだろうがのちのち重しとなって降りかかる。     それを乗り越えてこそ、覚悟を受け取ったと言いましょう。     ───デスティニーブレイカー!     アタイと藍田と岡田に妻が居たという事実を破壊しろ!フォローはキミに任す!     ただしアタイたちが中井出のことを忘れたら、関係は戻るものとします!」 弦月が構えた篭手と具足から眩い黒の光が放たれる。 すると、俺の中から“宇佐見由貴”が妻だったという事実が消えてゆく。 藍田からは木村夏子、弦月からは篠瀬夜華との記憶が。 彰利 「ほい終了。で、俺に妻っていたっけ?みずきが息子だってのは覚えてるんだけど」 藍田 「さあ。俺の妻って誰だったっけ」 岡田 「俺の妻も……」 すこーんと消えた。 もはや、なにを当て嵌めても戻ってこない。 違和感は当然あるが、どうしてか心の荷が下りた気分だった。 彰利 「まあいいコテ!これで思う存分、仲間と無茶できるぜよ!     まずは悠介と中井出YO!他のやつなぞどうでもよし!」 藍田 「お、俺は魔王だ!なんかもうそれしか目的が思い浮かばねぇ!」 岡田 「俺はコロシアムと魔王だ!」 ナギー『わしは断然ヒロミツ救出なのじゃ!……ついでにシードも助けてやるのじゃ』 彰利 「中井出と比べて扱いがぞんざいだねぇ。でもOK-YO!     んじゃあまず……みずきンとこ行くべー。     今日はもうどうせコロシアムやってねーし」 岡田 「あれ?そうなのか?」 彰利 「オウヨ。グラディエーター試験が終わったあたりで今日は終いだ〜って、     ガメッシュオーナーがおっしゃった。まあこの雨だしね、しゃあないわ。     屋根のある地下闘技場もあるらしいけど、そっちはまだ準備中なんだとさ」 岡田 「是非ともオリバに突っ込んでいってもらいたい場所だな」 彰利 「なんとなく一日でチャンピオンになりそうだからやめときんさい」 そんな会話をしながら、部屋の隅で震えっぱなしのゴドーとシロンを落ち着かせて、 出涸らし茶を飲ませたあとに改めて。 岡田 「で、豆のところに行くとして、どこからどう行くんだ?」 彰利 「地図の隅っこの孤島におるらしいから、そこまで泳ぐか船に乗るかじゃね」 藍田 「どうして“泳ぐ”が第一候補なんだろうな……」 岡田 「泳ぐ気満々なのか……?」 ナギー『わしは今すぐにでもヒロミツを助けに行くのじゃ!《ポム》……む?なんじゃ?』 彰利 「てめぇじゃ無理だ《ベパァン!》オシム!!」 魔王救出に意気込んでいたナギーの肩に手を置き微笑む彰利……が、 物凄い速さでビンタされてた。 おお、ありゃ痛そうだ。かなりいい音鳴ってたし。 彰利 「ホキャーーッホホキャーーーッ!!ななななにさらすんじゃウラーーーッ!!」 ナギー『やってもみずに無理と言うのは臆病者のすることなのじゃー!     じゃがおぬしがどうしてもと言うのならついてくるのじゃ!』 彰利 「こげなところで三千院節発揮してんじゃねィェーこの臆病モンがぁ!!     えーから行くよ!目指すは孤島!ペット研究所!」 ナギー『《がしぃっ!》ふゃわぅ!?なななにをするのじゃ!     わしの頭に触れていいのはヒロミツだけなのじゃー!!』 彰利 「《がぶりゃあ!!》ゥワッダァーーーオォオオウッ!!!     いでででなにをしやがるこの小童がぁーーーーっ!!」 ナギー『《ゴコォッ!》はぅぎゅっ!?』 頭掴んだり噛み付いたり頭突きしたり、 もはや二人がなにをしたいのかが解らない俺達がここに居た。 まあとりあえずだ。 なんとか落ち着いたゴドーに、今日はちと暇を貰うってことを了承させた。 グラディエーターになった翌日に疾走とかってシャレにならないし。 その孤島に行って戻ってくるだけでどれくらい時間がかかるかはわからないけど、 まあ明日までには…………帰ってこれるよな、うん。 【ケース675:晦悠介/紅茶のジャムはアプリコット桜庭少尉さんといえば大神一郎】 でげでで〜〜〜んっ!《月の欠片を手に入れた!》 悠介 「ふう……」 さて……エクリプスレコーダー(命名:彰利)を手に、月の欠片を探してしばらく。 ポリバケツの中にあったオモチャのオルゴールの中に入っていたそれを取り出し、溜め息。 開いた時に鳴った音楽はポンコツじみてて、ところどころが壊れていることが確認できた。  デゲッテッテッテーン♪《メールが届きました》 悠介 「………」 マテ。 メールが届いたのはまあそれ自体が急なものだからいいが、 何故……何故着信音がマクドナルドのパラッパッパッパ〜♪なんだ。  ◆件名:わたしはイヴ  やあ僕博光。今日はそう、貴様にお願いがあってメールをしました。  これから帝王をコロがすので、  そこでキモストが帝王になる様を見ているがいい!……何処に居るのか知らねーけど!  はい、用件は以上で終わりです。え?願いはなんだったんだって?  ……囚われの僕らですが、先に娘を逃がしました。  何処かで会えたのなら拾ってやってください。  僕に似てヒネクレた子です。名前はナギーといいます。  もし拾えたら、三角絞めされないように気をつけてください。容赦してくれませんから。  あ、それからメールを打ってみたのは、  バックパックはなくても機能だけは搭載されてたからなんとなくです。 ……。 悠介 「…………」 「なんだこりゃあ」の一言をキミに。 あれ?提督って封印されてたんじゃなかったのか? それとも封印されててもメールは飛ばせるとか? ……って、一応続きがあるな。  ちなみに僕は今、キモストの体とは別の生命体として分離、活動しています。  精霊たちの裏を掻き、キミ達を修錬場で見送ったあとにゲートをくぐった結果です。  ざまぁないわ精霊どもめグオッフォフォ……!!  プレイステーション。  風呂上りに耳掃除をすると、湿ってる。 ……。 …………って、 悠介 「だからなんだぁああーーーーーっ!!!」 お前の耳の事情なぞ聞いとらん! なんでプレイステーション!? それはなんだ!?PSか!?P.S.と言いたかったのか!? 確かあれは“ポスト・スクリプタム”の略だっただろ! ぁあああもういちいちヘンテコなメールだなぁもう!! 悠介 「……苦労するな、精霊たちも」 設定の裏を掻かれまくって、きっと今こそ困惑奔走しているところだろう。 普通考えつかないようなことを平気でやる人だ、 まともに管理するとなると滅茶苦茶苦労するに違いない。 悠介 「強く生きろよ、ノート……」 小さく呟いて歩き出す。 長く降り続く雨の下、雨弾きの膜を創造しててくてくと。 二つの街をのんびりと回ってみた感想は、この世界はどうも窮屈だということ。 街の数が随分と増えていて、その街ひとつひとつがデカすぎる。 それはどうにもやっぱり、少年たちが夢想するファンタジーとはかけ離れているわけで。 俺にしてみても、空界に初めて降り立った時ほどの感動は得られやしない。 ヒロラインは基盤自体を俺が作ったから感動がないのも当然なんだが、 この世界は、なんというかこう……しっくりこないのだ。 悠介 「こうして月の欠片が手に入るのは喜ばしいことなんだけどな……」 カチ、と月の欠片を月の器に嵌め込むと、創造の幅とラグの力が少しだけ解放される。 それを確認してから法鍵の書物をめくる。 …………必要なものはまだまだ結構あったりした。 ディルゼイルのブレス能力も大分レベルアップして、 いろんな属性のレーザーも吐けるようになっているんだが…… それでもまだ足りなかったりする。 思うほどブレスアイテムが手に入ってないのが原因だろう。 今のところのブレスレベルは、全部月の欠片のおかげで身についたようなものだしな。 悠介 「さて、と……これからどうする?ディル」 ディル『思いついたように呼ぶのはやめろ、王よ』 それもそうなんだが。 久しぶりにディルゼイルに乗って空を自由に〜とか思ってみても、 空を飛べばたちまちデスゲイズの餌食だろう。 だから飛べやしない……なんとかならないだろうか。 ……どうにもならないんだろうな。 悠介 「よし、続けて月の欠片とブレスアイテム収集に励むか。     月蝕機(エクリプスレコーダー)によると……南東にあるらしい」 ディル『応』 今の目的といったら、月の欠片収集と提督救助くらいだ。 けど提督が既に自由に動ける身にあるっていうなら、 まあさっきのメールからして若干の問題がありそうだが、 こっちはこっちで好き勝手させてもらおう。 今の俺じゃあ、どんな戦いが起こってもなんの力にもなれそうにないからな……。 悠介 (……タイムリミットまであとほんの数日……) 来る日───俺と提督は、生きて未来へと辿り着けていられてるだろうか。 そして俺は、提督のことを覚えていられるのだろうか。 ノートの能力は確かに高い……こうしてルドラの力へのバリアを張ってもらっている内は、 そりゃあ覚えてもいられるのだろうが─── けどそれは、俺達の提督への感情が高いうちだけだろう。 気づかないうちにジワジワとその感情は昂ぶりを抑えられ、 やがて気づいた時には全てを忘れている。 “なにかを忘れる”っていうのは、多分そういうことなんだ。 悠介 「………」 ……正直な話、他のやつはどうでもいいって思えた。 彰利、ルナ、提督のことを覚えていられるなら、俺は多分笑っていられる。 みさおは……ゼットが居るから大丈夫だろう。 支えてくれるヤツが居るなら、俺達が居なくてもやってけるに違いない。 でも、彰利やルナや提督のことを忘れてしまうのは、つまらないって思える。 死んでしまったらその三人と賑やかに過ごすことも出来なくなる。 ここに来るまでいろいろなことがあったけど、彰利とルナは当然としても、 提督っていうただの一般人を仲間として好きになることができた。 そんな時間軸から、自分の死の所為で消えてしまうなんて冗談じゃない。 だから“出来ることはやっておく”だ。後悔しないためにも。 提督も、あんなことが起こったっていうのに自分を曲げていない。 周りの目が明らかに変わってしまった時も、知り合いに明らかな殺意を向けられた時も、 みんなに忘れられた時も、あくまで自分のスタンスを変えようとはしなかった。 悠介 (……当然、なんだよな、それが───) 変わってしまったのは周りなんだ。 だったら提督が無理に自分を変える必要なんて、本当は全然ない。 だけど変わりゆく周囲の中で、自分を保っていられるヤツなんて居やしない。 いつか提督も、周りの反応に負けて、変わってしまうんだろうか。 ディル『……?どうした王』 悠介 「…………いや」 変わらないものなんかないって言うけど。 どうしてだろうな……提督はどれだけ変わっても、ああいう奔放なところや、 仲間を大事に思う気持ちはずっと持っていてくれそうな気がした。 だからだろうな。 提督のことを忘れる自分が想像出来ないし、もしそうなってしまったら、 覚えていないなりにとても悲しいんだろうな、と……小さく考えた。 Next Menu back