───冒険の書262/谷川の名水───
【ケース676:鬼面族チャチャブー/その頃のそいつ】 チャチャブー『トイレを探してピンチィ泣いたたたァ♪        ベ〜ンチに〜ガッチリムッチリしぃたァイイ男ォゥ♪        食べたいならオススメノンケだよっ♪        ウホッYハメてる笑顔でやらないか。アッーーー!!』 誰よりも速く走り抜けたい食いしんぼなお年頃……こんにちは、チャチャブーです。 擬態をしながら着々と謁見の間へと向かっている最中の僕は、 時折歌を口ずさんでは辺りを見渡しています。 見つかったら見つかったでキモストの袂まで誘導するだけなんで、 ある意味で見つかることも目的のひとつだったりします。 だから元気に歌って遊んでいるわけです。 真性ホモだのレズだのは嫌いだが、ネタとして楽しむのはアリだと思うんだ、うん。 元気に歌ってたこともあって、キモスト信者も相当数。 今じゃどうしてか自然要塞エーテルアロワノンはキモスト信者で溢れかえり、 時折“創聖のアクエリオン”が信者総員で大熱唱される。 どうして歌詞を知っているのかは、もはや僕には想像もつきません。 チャチャブー『ゴエフェフェフェ……!!右よし左よし……!        番兵さんももはや大多数がキモスト信者よ……!』 こうなってしまえばあまり気をつける必要もないんだが、 やはり石橋は叩いたあとに慎重に渡らなければ。 ……え?割らないのかって?そんなの、造った人に失礼じゃないか! 橋を作るのがどれだけ大変だと思っていやがる! いやまぁ想像の中の石橋なんぞいくら叩き割っても平気だし、 必要になれば好きなだけ破壊するのは原ソウルクオリティなんですが。 ウフフ、大丈夫。 原中迷惑部は滅んだが、俺の中には未だ原ソウルは息づいている。 僕を忘れることでみんなの心からは原ソウルがなくなってしまったのが事実なら、 いつか晦や彰利の心からも原ソウルがなくなるかもしれない。 だがそれでも、この博光が覚えている限り……原ソウルは不滅です。 まあ原ソウルは俺が居たから完成したものでもなく、 いわば俺と彰利が突っ走りすぎて、周りがそれに感化されて完成に至った変人思考だ。 彰利ならきっと、僕のことを忘れても…………ダメかもしれない。 俺と彰利の変人思考の合成思考が原ソウルなら、どっちでも欠けたらダメなのだ。 ……あれ?ってことはどのみち、いつか時が来たなら俺がラスト原ソウラー? チャチャブー『や、やばいぞ……なんか名前がカッコイイ《ドキドキ……》』 や、名前で喜んでる場合じゃなくて。 うーん……やっぱりいつかみんなに忘れられる時が来るんだよなぁ。 ノートン先生の力だって絶対じゃない。 なにかの拍子で力が弱まった時、いくら俺側についてくれたヤツでも─── 俺への感心が少ない順からポツポツと忘れていくのだろう。 ……そうなってもいいとは、思ってはいるんだけど。 俺に感心が無いヤツに覚えてもらってても、楽しめるとは思えないし。 むしろ忘れたヤツにちょっかい出すのって面白そうだと思いませんか? ヤツは僕を知らないのに僕はヤツを知っている! 「知らねぇよこんなヤツ」とか言った拍子に、 相手の恥ずかスィー過去を暴露するのよ!ステキじゃない! ……ただでは折れない男───こんにちは、博光です。 チャチャブー『忘れられるのは悲しい……だけど悲しいだけじゃダメなんだ!        悲しい中にも笑いあり!親しき仲にも礼儀アリというのなら、        そんな格言があってもいいと思うんです!』 もう忘れられるショックは味わったし、他人を見るような目で見られる目にも慣れた。 もちろん、恨みや殺意の視線にも。 その上でやつらで遊ぶことが出来たなら、僕は満足です。 チャチャブー『というわけで寝室です』 オロ    「誰だっ!?───き、きさま!」 チャチャブー『うおおしまった!ご丁寧に到着場所を喋っちまった!』 ゴージャス・ヴェッドで寝ていたオロキングが起床! 同時にスペアなのかどうなのか解らん機械鎧へと手を伸ばし チャチャブー『レンタベイビー!!《ギュルガシャーーン!!》』 オロ    「なっ───なんだとぉ!?」 ───その手が鎧に届く前に、火闇技“シューター”で火闇を伸ばしてキャッチ! 引き寄せることで、僕は機械鎧をゲットした! チャチャブー『グオッフォフォ……!!愚か者めが……!        凡人たる者、いついかなる時でも武具とともにあらねば……!        それを怠ってしまったのが貴様の敗因死ねぇえーーーっ!!』 オロ    「ま、待てぇええええーーーーーーっ!!!!」 最後まで言わずに行動! だってこういうボスってこっちが何もしないと、 すぐにスイッチかなんか押して逃走経路作りそうだし! だから火闇にギガノタウロスの斧を持たせてレッツダイレクトアタック! オロ 「くっ!」 だがオロが腕についている妙な機械をいじくると、部屋の隅から妙な小さな塊─── いわゆるビットみたいなものが四つ出てきて、空中に浮きつつ俺を囲む! チャチャブー『ウ、ウヌウ、これは……』 オロ    「フンッ……性懲りも無く現れ《ドゴォオン!!》ヒィイイイッ!!?」 あ、くそ。避けられた。 オロ    「ままま待てぇええっ!!貴様状況がわかっているのか!!?        囲んでいる!囲んでいるんだぞ!私の指示で貴様はどうとでも───!」 チャチャブー『なに言ってるんだよラーメンマン、        御託並べてる余裕があるなら攻撃した方がいいに決まってるじゃないか』 オロ    「だから待てと言っている!交渉をしようと《ドゴオォンッ!》ひぃっ!!」 振り下ろす斧が再び避けられた……ええいちょこまかと! チャチャブー『いいだろう!聞いてやる!なんの交渉だね!』 オロ    「フ、フンッ……聞く気になったか……。        貴様とともに居る魔王の子の研究を《ジョリィッ!》ヒギャーーーッ!?」 チャチャブー『チッ、惜しい……』 急に偉そうな態度になったオロの頭目掛けて斧を振るったんだが、 髪の毛を軽く切る程度で躱されてしまった。 くっ……一丁前に殺気には敏感らしいゼ……! オロ    「こここここここ交渉にノるんじゃなかったのか貴様ぁあああっ!!」 チャチャブー『失礼なことを申すなこの馬鹿!聞いてやると言っただけだ!        攻撃をしないなんて一言も言っておらぬ!日本語は難しいんだぞ!』 オロ    「ききききき貴様ァアアアアアッ!!!《ピピッ、ピッ》」 オロのターン! オロは腕の機械をいじくった! 途端に俺目掛けて発射砲を向けるビット! その先からは鋭いレーザー光線が───!ヌウこれはいかん! オロ 「ふはははは!もうおしまいだ貴様は《ギュルガシィ!》うおあっ!?     な、なんだこれは!炎が巻きつ《ドゴォオオン!!》ぎょええええええっ!!!」 危なかった……!(俺が) 咄嗟に引き寄せたオロバリアーを張ってよかった……!強いぜ僕らの機械王……! なんかもう一発でボロボロだけど。 オロ 「ワガ、ガガガ……ガガ……」 痙攣してらっしゃる。 えーと……とりあえず……うん、よし、がっしゃん、と。  デゲデデーン!《ビットシステムをかっぱらった!!》 ゴッド……この人タダでいろんなもの用意してくれるよ? どうしよう、結構いい人かも。 このまま泳がせて、奪えるだけ機械を奪うという方法もグオフォフォフォ……!! でもそう考えたら絶対にコロがされるのが刑事ドラマのセオリーなわけで。 金目当てで脅迫するヤツって、どうして脅迫し終わると後ろ向くんだろうね。 それで大体のヤツが首絞められるか石で殴られるかするし。 故にこの博光、目を逸らさん! エモノを見る漢の目でギラギラと敵を睨つけておるわ! オロ    「か、返せ……それは……」 チャチャブー『やだ』 オロ    (健に似てる……!……健って誰だ?) チャチャブー『ところで王よ。嫁さん元気?』 オロ    「よ、め……?…………ふふっ……あいつのことか……。        知らんな……俺はただ権力欲しさにあいつを利用し、        王位を手に入れたにすぎん……。        でなければ、誰が好き好んであんな我が儘女と……!」 チャチャブー『おお、ではお子さんは?』 オロ    「ハッ!子供だと!?この帝国はこの私一代限りだ!子など要らん!        この素晴らしき帝国の頂点に立つのはどの時代においても私のみでいい!」 おお断言した!ある意味男らしい!! チャチャブー『王様王様!その野望はどんなことがあっても揺るがないの!?ねぇ!』 オロ    「ふはは!もちろんだ!そして───こうして話しているうちに、        私の体も自由が利くように《ジョリンッ!!》───な……った?」 王様の長めの髪の毛をバッサリと削いだ。 次に喉に灼熱地獄突きをして声帯を痛めつけ、 極めつけに嵐のようなデンプシーロォオオオルだぁああああっ!!! ……といっても火闇ナックル(弱)ですが。 チャチャブー『ホォオオオオオ!ナックルナックルナックルナックルごくろーさんハイ!』 オロ    「《ドパタタタタタ!!》おごぼげばげぼごぶべべばべばぶぼ!!」 俺の体から溢れ出る二つの灼闇が、左右から交互にオロの顔面を殴りまくる! そして、高熱ナックルによってオタフクのように腫れ上がった顔面を完成させると、 さらに髪の毛を削ったのちに廊下へとズゲシと蹴り出す! そこへタイミングを見計らったかのように現れる見回り兵士! 兵士 「ややっ!?な、なんと怪しいやつ!しかもここは皇帝の寝室ではないか!」 オロ 「な、なにを言っている!?私がオロだ!私が───ゲグッ!?」 兵士 「そんな顔で王を語るとはどこまで態度が太いのか!     ええいもはやこの兵士、辛抱たまらん!出ろーーーーっ!!」  バキャーーーーン!! オロ 「ズイホォオオオオーーーーーーッ!!!!」 ───……。 ……。 レゾンデートル暦……えーと、10年、でいいのかな。 初代皇帝オロ、見回りの兵士に廊下の窓をぶち破る勢いで投げ捨てられ、 帝国城頂上より落下し、殉職。 子を持たなかった彼の跡継ぎなど当然おらず、 帝国の実権は実質、妻である王妃に委ねられることとなる。  *そのことについて、ノートン先生にいい加減にしろと怒られまくったのは余談。   ボス的存在が居なくなってしまったではないかとも怒られた。 しかし機械のことなどからっきしで、 機械のこと全ては夫に任せていた彼女には王権は荷が重く、 だが兵から求められる言葉に苦悩した彼女は─── 王妃 「もう結構です!では、では───!封印状態にある魔王を!皇帝とします!」 …………。 兵士達『なんだってぇーーーっ!!?』 驚愕は当然だった。 だがまあ仕方ないといえば仕方ないのかもしれない。 10年経って、小娘から女性になったばかりの彼女には、 王妃という立場は敷居が高すぎたのだろう。 喋れもしない相手を皇帝にすることで、自分にのしかかる責任から逃れようとしたのだ。 ……でも、ここで少し面倒なことになってしまいまして。 大臣 「王妃さま!それはつまり、王権を魔王に与えるということ!     魔王を───夫として迎えるおつもりですか!」 なんてことになってしまいまして。 で、やっぱり封印状態だからわたしは一向に構わんってなもんで、王妃さまも 王妃 「ええ構いません!10年前、わたしは彼に助けていただいた恩があります!     わたしには───あの方が、     世が唱えるような魔王には思えないと前々から思っていたのです!」 大臣 「しょ、正気ですか姫様!相手は魔王!魔王ですぞ!」 王妃 「くどいですよヒルト!王家の正当な血を引くわたしに意見する気ですか!」 大臣 「……姫さま。そういうことは、せめて足の震えを無くしてから仰ってください」 王妃 「仕方が無いでしょう!?緊張しているのですからっ!」 魔王には思えないってのは多分、相当無理して言ったでしょう。 でもそうじゃないと話が通らないと思ったから、 いつか吹雪の中で助けた時のことを思い出して、 +印象的なことを持ち出して叫んだのでしょう。 え?何故に出来事を細かに実況できるのかって? ……壷に擬態して、全てを聞いているからです。 チャチャブー『《ゴゾォオ……》ミギー……』 ウフフ、誰も気づいてない誰も気づいてない……! この調子でコトの顛末を知り、全てを理解した上で自然要塞を囲う結界を破壊してくれる。 片っ端から機械を壊すって方法もあるんだけど、 どうせならピンポイントで結界システムを破壊したいじゃない?  ……なぁんて、その時はお気楽に考えてたんだけど。 ……。 大臣 「あー……では、大変不本意ではありますが、     これより婚姻の儀式をぐわぁあーーーーーっ!!」 その日、早速執り行われた婚姻の儀式にて、その場に訪れた帝国の皆様に加え、 親戚の方々や各地のお偉いさんがキモストの輝きに魅入り、キモスト教徒に……。 シード『ち、ちちち父上っ……!これはいったい……!』 もはや自然要塞を囲う部屋には様々な人垣が溢れ、 ぎゅうぎゅう詰め状態でキモストの前に平伏していた。 いや、あの……ね?シード……いったい、って……僕こそが訊きたいよ……。 でもそれとこれとは関係ないので、 式場となった結界空洞に揃えられた料理をガツガツ食いまくる。 お、この肉うめー……デェデゲデデェーン♪《霊章輪・火闇がレベルアップ!》 チャチャブー『うぉあぁ!?』 いきなりのレベルアップにびっくり仰天! え!?なに!?なんで…………って。 ……手に持っている肉に調べるを発動させてみたら、何気にモンスターの肉でした。 しかも結構レベルの高いモンスターのらしい。 でもいきなりレベルアップは勘弁してほしかった……あー……素直にびっくりした……。 王妃 「何事です!いったいなんの騒ぎ───ひぃっ!?」 そんな中、お色直し……じゃないな。 新婦控え室で時間が来るのを待っていた姫さんが、この異常事態に駆けつけたのが現在。 帝国は既に、ここ以外はもぬけの殻状態。 いつまで経っても自分が呼ばれないことに疑問を感じたんだろうねぇ…… しずしずと歩いてきていた彼女だったが、 平伏し崇める兵士たちの姿を見るや、駆け寄ってきたよ。 幸いにも姫さんが立ち止まったそこはキモストチャームの範囲外のようで、 他の兵士みたいに騒ぎの渦中を知るためとか言って、 中心に駆け寄らなければ洗脳されることもないだろう。 チャチャブー『やあ』 王妃    「ひぇいっ!?な、なななにものです!?───モンスター!?」 チャチャブー『失礼な!我こそは鬼面族が一人、チャチャブーなるぞ!        モンスターでは断じてない!獣人か亜人族だよきっと!』 王妃    「こ、この騒ぎの原因はあなたなの!?」 チャチャブー『ああいや落ち着きめされい。まずは自己紹介を。        私、この騒ぎのまさに渦中に存在する魔王、博光の魂より分裂した存在。        名をチャチャブー。以後、お見知り置きを』 王妃    「っ───!?」 話を聞くや、ひきっ……と顔が引きつるお姫様。 ウヌウ、なにやらとても、面白そうだ。 王妃    「で、ではあな、あなた、たたは……!」 チャチャブー『うむ!お久しぶりであるな姫さん!        遠き者は耳に聞け!近き者は目にも見よ!        我こそが原沢南中学校迷惑部が提督!中井出博光であるーーーーっ!!』 叫びつつ、ミギー!と両手を挙げて背伸びの運動! 姫さんは真っ青な顔をしつつも俺から目を逸らさず、 信者の人垣から戻ってきたシードが現れた際に、ようやく息を吐いて目を逸らした。 王妃 「あ、あなたは……」 シード『うん?なんだお前。───ああ、王妃か』 一言で王妃なんかに興味などない、ということが解る一言を出会い頭に。 うぅん……この十年、彼も図太く生きているようです。 シード『お前、父上を夫にするとかぬかしたらしいな』 王妃 「うっ……あ、あれは……」 シード『その場しのぎのウソだったならそれでいい。     本気だというのなら全力で阻止するだけだ。     ……こ、これ以上父上との時間を他人に邪魔されてたまるもんか《ボソリ》』 王妃 「………」 小声で言ったつもりなんだろうが、聞こえました。 多分姫さんも。 おお、僕の可愛いシード……そこまでこの博光のことを慕ってくれるのは貴様だけさ……。 元の体に戻ったら目一杯可愛がってあげよう。 彼、頭撫でられるの好きみたいだから。 王妃 「……魔王のことを本気で慕っているのですね」 シード『当然だ。なにせ父上は素晴らしい方だからな。己を隠さないのがいい。     己を己のままでひけらかし、自分に正直に生きる姿……最高だ』 王妃 「何故です?仮にも魔王と呼ばれた存在を、     かつて大陸ひとつを沈めた存在を、どうしてそこまで慕うことができるのです」 シード『そんなの、お前ら人間が勝手に誤解して勝手に呼んだだけだろう。     真実の一つも知ろうとしないで、     誰かがそう呼んだから魔王だなんて言っているお前らには、     一生かかったって父上の素晴らしさなど理解できやしない』 王妃 「………」 その言葉に、姫さんはシードを見つめる。 対するシードは……敵意の方が高いな。 姫さんは困惑の混じった顔だけど。 王妃 「……あなたは魔王ナーヴェルブラングの息子だと聞いています。     正当な魔王の血筋であるあなたが、     あなたが言うところの勘違いで仕立て上げられた魔王を慕う理由は……?」 シード『ふふっ……なんだそんなことか!簡単だ!父上が父上だからだ!』 当然だろー!とでも叫ぶように、 キリっとしたつもりなんだろうけど顔が綻んでいるシードが、 右手を前に突き出しながらそう仰りました。 あの……シード?自分では当然でも他人には理解できないこと、結構あるんだから…… そんなこと自信満々に言ったって、多分届いてないと思うよ……? 王妃 「…………なるほど」 解るの!? なんかウンウン頷いちゃってるよ!? 王妃 「わたしも父が好きです。母を愛しています。     二人とも素晴らしい方で、わたしも二人なら無条件で尊敬出来る……。     あなたにとっての魔王博光も、そういった存在なのでしょうね……」 シード『そうだ』 わあ、納得しちゃった。 王妃 「ですがあなたの父、魔王はわたしを取引の条件に使おうとしたことがあります。     人質にして、父からお金を毟り取ろうと考えたり、     吹雪の中でわたしを助けてくれた時もお金が目当てだったのです。     そんな彼がだからこそ、大陸を沈めた魔王だと言われても頷くしか───」 シード『ふふん、甘いな……そんな器の小さなことしか出来ない父上が、     どうして大陸沈没などという大それたことが出来る!』 王妃 「《ガァア〜〜〜ン!!!》……い、言われてみれば───!」 アレェ!?あれちょ……えぇ!? 納得しちゃうの!?納得しちゃうの!?ねぇ!! ていうかシード!?器が小さいってそんなハッキリ……! た、確かに王様脅迫したりとかドサクサ紛れでモノかっぱらったりとか、 やることがいちいち小者っぽいけど……! シード『大陸沈没はかつて、モンスターユニオンの王、晦悠介が起こした出来事だ。     それを勝手にお前らが勘違いして、魔王だ魔王だって吹聴し始めたんだ。     僕はな、お前ら人間のそういう思い込みの激しいところが嫌いなんだ』 王妃 「ですが魔王博光も人であると聞きます。そんな彼のどこが───」 シード『はっはっはっは!父上は確かに人間だ!     だけど思い込みが激しくても、思い込みの方向転換が上手い人だ!     ひとつのことに縛られないくせに、     些細なことで縛られる……そんな器の小さなところが大好きなんだ!』 王妃 「い、いえあの……その父上さんがさっきから泣いているようですが……」 シード『父上!?どうかされたのですか!?』 あの……どのツラ下げてそんなこと……。 俺……ものすげぇ信頼のされ方してたんだなぁ……。 思わず鬼面を両手で覆ってしくしく泣いてしまったよ……。 それでもそんな僕を慕ってくれる彼やナギーを、僕は大切にしたいと思います。 王妃    「……魔王博光。ひとつだけ確認させてください。        あなたが魔王と呼ばれることになった西の大陸の沈没事件───        あれはあなたの仕業では、ないのですね?」 チャチャブー『グフフ、その通りよ。        あの頃はこの博光も、生意気にも勇者っぽくなってみてーとか思っていた。        ほんの極稀に思う程度の正義だったけどね。今じゃすっかり我道一直線!        でも……信じなくてもいい。ただ知っておいてほしかったんです。        ……オラ違うよォオーーーッ!!オラそんなヤツ知らねェよぉーーーっ!!        あの頃はまだ魔王ですらなかったぬらべっちゃ!!        わがるが!?ある日突然命を狙われたオラの恐怖!!        なしてオラが……人々に追われなぐっちゃならねんだ!!        名のある賞金稼ぎに殺されがげにゃならねェぬら!?        オラが一体何をすた!!オラの人生を返せェーーーーッ!!』 王妃    「…………っ……わたしたちは……        あなたにそこまでを叫ばせるほどの仕打ちを、この十年間ずっと……!?」 俺の嘆きを聞いて、姫さんは口を押さえて一歩後退った。 チャチャブー『ああいえ、魔王人生もこれはこれで面白いから別にどうでもいいです』 王妃    「えぇ!?」 そんな悲しみの瞬間をハートブレイク。 悲しみの真実を知った相手の心の葛藤をあっさり潰す男……こんにちは、博光です。 チャチャブー『押し付けられてもその中から楽しさを探す。それが僕らの原ソウル。        嫌々やるよりは、むしろそうした方が面白いし。        というわけで僕は元気にやっています。呼称も魔王のままで十分さ!        あ、でも王様に興味はないので魔人と呼んでください。魔人博光』 王妃    「………」 ミギー!と背伸びの運動をしてみせたけど、反応はとても薄かった。 というか誤解したまま十年も要塞ごと監禁してたことに、相当責任を感じているようだ。 どうしよう、辛気臭いの嫌いです。 ……おおそうだ! チャチャブー『ゴエフェフェフェ……!嬢よ……なに、責任を感じることはない……!        貴様が一つの情報を齎せばこの一件、チャラにしてくれようぞ……!』 王妃    「え……で、ですが」 チャチャブー『人間ってのは許される誘惑に弱いものです。素直に誘惑に飲まれなさい。        そして僕が望む情報は───        この空間を覆う結界を展開している装置の在り処!        それさえ知ることが出来れば我が子を!シードを自由にしてやれるのだ!』 シード   『ち、父上ぇ……!なんてもったいない……!』 チャチャブー『おおシード……僕の可愛いシード!』 感無量。 じぃいいいん……と頬を紅潮させながら喜ぶシードが、 今再び両手を広げた僕に抱きつき、 チャチャブー『ビッグプロブレムスープレ───』 シード   『トルネードフィッシャーマンズスープレックスゥ!!』 チャチャブー『《グキィ!》なにぃ!?ぎゃああああーーーーーーーっ!!!』  ドゴォオオオオオンッ!!! チャチャブー『ふ、不老不死……トロフィー球根……』 さらに再びプロレス技で沈めようと、ガキィと掴んだまではよかったんだが。 あっさりと返され、地面に叩きつけられてしまった。 チャチャブー『つ、強くなったな……我が子、シードよ……』 シード   『いついかなる時でも油断をするな……父上の教え、確かに。        で、ですがその……甘える時くらいは加減をしてくれると……』 でもやっぱり甘えたい盛りらしい。 少し残念そうな顔をしながらも、褒められたことが嬉しいのか、口は緩んだままだった。 王妃 「……仲がいいのですね」 シード『なにせ僕と父上だからな!ドリアードにだって負けていないさ!』 あの、シード?それはなんというか、負けてるヤツの言葉な気がするぞ? 王妃 「魔王……ではなく、魔人博光。わたしたちはあなたを誤解していました。     けれどきっと、その思いは晴れることなどないのだと思います。     ……こうして話したわたしでさえ、やはり警戒したままなのですから」 シード『なんだと!?まだ懲りずに父上を疑うっていうのか!……あっ……父上……』 怒鳴るシードを制して、一歩前へ。……出た途端、立ちくらみがしてドシャアと倒れた。 グウウ〜〜、どうやらさっきの トルネードフィッシャーマンズスープレックスが効いているようだ〜〜〜っ。 ていうかほんといちいち格好つかないね、僕……。 チャチャブー『姫さん』 王妃    「……はい。どんな罵倒も受ける覚悟は───」 チャチャブー『そんなことはなんというかもうどうでもいいから結界装置どこ?』 王妃    「あうっ!?ひどっ……!」 一蹴。 グホホ、貴様らの罪悪感なぞ知ったことではないわ。 チャチャブー『罪の意識をひけらかされても話は進まないから教えるのです。        ね?ほら、悪いと思うならゲロっちまって楽になんなさい』 王妃    「……あなたはきっと、いつもそうして周りを気遣っているのでしょうね。        口は悪いけれど、わたしがそれを教えれば、わたしの心の荷も少しは減る。        それがわかっているか《ベパァン!》はうぎゅっ!!」 チャチャブー『御託はいいから教えろって言ってるのが解らねぇのかぁーーーーっ!!        ええいもうなんで貴様らはそう御託が好きなのか!        いいから教えろコノヤロー!』 王妃    「え、え……えぇえ……?」 自分がどうしてビンタされたかも解らず、 ドレス姿の姫さんはおなご座りみたいな格好で地面に倒れて僕を見ます。 チャチャブー『この博光、女子供だろうと容赦せん!そして言おう!        俺が望んでるのは結界装置の在り処と解除!御託、イラナイ!解ル!?        貴様の心の荷物など知ったこっちゃねーーーーーっ!!』 王妃    「う、うわぁこの人本気ですーーーーっ!!!」 チャチャブー『罪の意識から勝手に人を美化するの、ヨクナイ!誤解も結構!疑惑も結構!        だがその所為でコトがスムーズいかないの、ヨクナイ!故に立て!教えろ!        結界装置は何処!?言わないとくすぐるぞ!───シードが!』 シード   『そうだそうだ!……えぇ!?ぼ、ぼぼ僕が、ですか!?父上!?』 戸惑うシードに呆れる姫さま。 うん、やっぱりこんな空気が僕は大好きです。 王妃 「…………はぁ……は、あはっ……あははははっ……」 そんな空気に当てられたのか、姫さんは小さく笑い始め、やがて大きく笑いだした。 それもしばらくしたら治まり……目尻に涙さえたたえていた彼女はふっと微笑むと、 王妃 「はい、解りました。誤解が解けてよかった……あなたの人となりが解りました」 そう言って、髪留めに触れてなにかをいじくる。 と、空間を覆っていた結界が消えて───なにぃ!? チャチャブー『こ、これはいったい……!よもや貴様の髪留めこそが結界装置!?』 王妃    「───魔人博光、ありがとうございました。        いつぞや、吹雪の中で助けていただいたお礼を、        わたしはまだ《ベパァン!!》ファブレ!!」 チャチャブー『質問をしているのは私だァアーーーッ!!        質問を礼で返すなァアーーーーーッ!!』 王妃    「な、な、なあああ……!!」 シード   『礼をも受け取らずに我道を突き進む……さすがです、父上』 王妃    「このっ!いい加減にしてください!さっきからバシバシと女性の頬を!」 チャチャブー『バカモン!女性だから叩いてはいけないなどという言葉など!        この博光の“たのしいこくごじてん”には掲載されておらぬわ!』 シード   『父上!それを言うなら“辞書”です!』 チャチャブー『童心を忘れぬ者に“辞書”は高価すぎるんだ!        だからいいんだよ国語辞典で!し、知ってるよ!?知ってるもん!        辞書だってことくらい知ってるもん!!《ボゴォ!》ニーチェ!』 シードに向かってミギー!と背伸びの運動をしていたら、 姫様がハイヒールでトーキックしてきやがった! しかも見事につま先が顔面にメキメキと! 王妃    「もう結構!でしたらわたしも姫などではなく、        一人の女性としてあなたに挑みます!」 チャチャブー『お前には出来ないかもしれない』 姫としての凜とした姿勢を捨てた彼女を前に、 懐かしきダブルハードの真似をしながら構える。 といっても所詮はチャチャブー。 ミギー!と背伸びの運動をするくらいしか構えらしい構えのない生物。 対する姫さまは立てかけてあった槍を手に取ると、 刃を後ろにして棍を構える姿勢で息を吐く。 ……その姿勢!まさにド素人! 帝国は彼女に護身術のひとつでも覚えさせなかったんだろうか。 ………………まあ、あの親父さんだから仕方ないのかも。 なんてことを思っていたんだが、 この後僕はリーチの長さにモノを言わされ、ボコボコにされることとなる。 近づこうものなら殴り飛ばされ、飛びかかろうものならホームラン。 基本的に軽すぎる体が災いし、長いエモノを持つ相手には滅法弱いということを痛感。 だから僕は火闇を使って彼女の足を払うと、倒れた彼女にすかさずマウントポジション! といっても大きさの問題から、胸骨のちょっと上に乗るような感じだけど。 そんな状態から顔面を左右からベパァンベパァンと殴りまくると、 姫さんも武器を捨てて俺に掴みかかってきました。 王妃    「このっ!このっ!このぉおお!!」 チャチャブー『《ギュギギギィイ!!》ギョエーーーッ!!!』 頬を引っ張ろうとしたんだろうが、鬼面は硬く、引っ張れたもんじゃない。 瞬間、彷徨った手は我が喉元に下り、姫さんは首絞めをしてきたのだ! だ、だが私も伊達や酔狂でこれまでを渡り歩いてきたわけじゃねぇ〜〜〜〜っ! でもグゲッ! く、首絞めって地味にキツイ! 首が絞まって……アオアーーーッ! チャチャブー『グアッ!ゴゲッ!アベシャリッ……ゲリッ……!』 こ、このままでは絞め落とされてしまう! 死ぬことはないってのは解ってるけど、 だとしたら逆に首シメってかなりの拷問なのでは!? このままじゃ危ない! チャチャブー(……ハッ!そ、そうだ!) ならばレベルアップしたての火闇技を使ってみよう! え、えーと……レベル6の技は……デアボリス?  ◆新規会得スキル  6:デアボリス(魔人/仲魔の加護を得ている時のみ発動。灼闇魔人となり、戦える) とのこと。 加護として受け取った仲魔を象り、戦えるんだそうで……つまり?  ゴンババババォオオンッ!!! 王妃 「ひぇえっ!?」 解らないなら試してみようホトトギス! デアボリスを発動した僕は、途端に灼闇の渦に飲み込まれ、 びっくりした姫さんは当然逃げるように後退。 そのうちに我が体はチャチャブーの姿ではなく、魔人カルキの姿に……! カルキ『…………お?お、おー……おーおーおー!!』 軽い!魔人状態になったら───体が軽いぞぉおおおっ!! 思わずビュンビュンブバブバと体を動かしてみると、その技のキレや良し!! スピードも力も高いらしく、バオバオと腕や足を振るう度にいい音が!! うわぁすげぇ!これかなり能力向上させられてるぞ!? 人器解放状態とまではいかないけど、それでも! だってホラ! カルキ『暫烈拳(ざんれつけん)
!!《ボバババババババ!!》』 素で暫烈拳できるもの! 元が鬼面族な所為でステータス移動が出来ないけど、通常状態でも十分すぎるよこれ! なにより嬉しいのが頭身が元に戻ってることだ。 鬼面族サイズでカルキになるのもそれはそれで面白そうだったけど! しかも意識すると腕が刃になる! ……おお!しかも振るうと剣閃が放てるぞ! 炎の体も相まって、まるでガイア幻想紀の最終変身状態、シャドウのようだ! 個人的にはガイア幻想紀はフリーダンが好きです。 ちなみにカルキは普通、魔神カルキって言うらしいよ?関係ないけどね。 何故なら僕がガーディアンに選んだのは、 魔人カルキであって魔神カルキではないのだから! カルキ『フォゲヘハハハハ……!さあ嬢、覚悟はよろし───』 王妃 「降参します。前面的にわたしが悪かったことを認めます」 カルキ『アレェ!?』 いやあの……そこで謝られちゃうと……この燃え盛る博光はどうしたらいいか……。 そりゃあまあこの状態でなにかしでかそうものなら、確実に姫さん死ぬでしょうが……。 ……結論から言いまして、最初からなにも出来やしなかった。 まあいいや、こうして新たな技も追加されたことだし。 どこかワクワクさんな心のままに火闇を消すと、 僕の体は再び鬼面族になズキィーーーン!! チャチャブー『ギャアーーーーーーッ!!』 ……った途端、物凄い筋肉痛に襲われ、気絶した。 ああ、そうなんですねやっぱり……。 鬼面族になっても筋肉痛はあるんですね……。 なんとなくそうなんじゃないかって……予想はついてたよ……。 Next Menu back