───冒険の書264/マラジン───
【ケース680:アルビノ/空の青を望んだ者】  ───ずきん、ずきんと頭が痛む。  眠ろうとする時や起きた時はいつもそうだった。 ……。 アルビノ「……、う、くっ……」 痛みで目が覚めることなどない。 ただ、目覚めた時はいつでも吐き気がするほどの孤独感を感じる。 前まで、隣に誰かが居てくれた筈なのに、と。 アルビノ「………」 いつの間に眠っていたのか。 戦いが終わるとひどい脱力感に襲われて、そのまま力尽きることもままあった。 けど今回のようなことは初めてだ。 アルビノ「選手控え室か……ん、うぅ……」 少しずつ治まってゆく痛みに、しかめた顔を落ち着かせてゆく。 呼吸を整えて、立ち上がり、……立て鏡を見やる。 アルビノ「……」 そこには白い髪をした赤目の男が居た。 アルビノ、と呼ばれる所以となった風情。 よく解らない言葉をゴドーさんに並べられらけれど、正直よく解っていない。 自分がどうしてこんな髪なのか、目なのかも。 アルビノ「僕は……誰だ……?」 鏡を見るたびに鏡の中の自分に問いかける。 もちろん、返事など返ってこない。 ショートカットの男は悲しそうな顔をするだけで、僕に微笑んでくれなどしなかった。 ───……。 フィィイ……ビジュンッ! 転移装置を踏んでゴドーさんの家に戻ってくると、 その転移音を聞いてかシロンが走ってくる。 そして言ってくれる。 満面の笑みで、おかえりなさいと。 彼女の笑顔を見ていると、なにかを思い出しそうになる。 そう、たとえば───目覚めた時に思い出す、隣に居たであろう誰かを。 アルビノ「…………」 シロン 「どうしたの?アルビノ。やっぱり頭痛い?」 アルビノ「あ、いや……はい、大丈夫です」 笑顔を作って返す。 頭が痛むのは確かだけれど、それはいつものことだから弱音なんて吐いていられない。 ゴドー 「よぅ、帰ったか。今日もお疲れさん」 アルビノ「ゴドーさん」 ゴドー 「……よせって言ってんのに、ゴドーでいいって言ってんだろが。      もしくは様づけで呼べ様づけで」 アルビノ「お世話になっている身ですから」 ゴドー 「だったらシロンのこともさんづけしろ。もしくは様づけだ。      もちろん俺は格好いいお兄様だ。そう呼べ。だが妹はてめぇにゃやらん」 アルビノ「はい、僕もいりません」 シロン 「本人の目の前でなんてこと言うのっ!もうっ!」 シロンは本当に感情が豊かな娘だ。 僕にはないものをいろいろと持っている。 ……とはいっても、流れ着いた頃と比べれば、僕も随分と表情が豊かになったと思う。 自分が何者で、どうしてこんな篭手をつけているのかは知らないけど─── でも、時々に体が教えてくれる。 僕は、戦うために生まれたのだ、と。 ゴドー 「おおそうだ、てめぇ妹は欲しくないとぬかしやがったな?      だったらどんな女が好みなんだ?あん?      ちょ〜ど今、面白ぇもんが放送されてるぜ」 アルビノ「……面白いもの、ですか?」 ゴドーさんがクイッと奥の部屋を親指で促す。 僕は黙ってそれに着いていくと、そこにはいつも通りの映像機械と、─── アルビノ「………」 ゴドー 「歌を歌うアンドロイド……ボーカロイドっつったか?……だとよ。      帝国がアンヘルシステムを使って製造した、限りなく人間に近い機械。      なんつったか、初音……ミク?ああそうそう、そんな名前だ。      で……ってなんだよ、顔真っ赤だぞお前」 アルビノ「えっ───や、そんな筈はっ……」 指摘されてから、自分の顔が灼熱していることに気づいた。 なんだろう……僕は彼女と面識があったんだろうか。 ゴドー 「なんでえなんでえ!人間の女に興味ねぇと思ったら、ああいうのが好みか!」 アルビノ「待ってください、僕はそんな……」 ゴドー 「あん?一目惚れって感じじゃねぇってことか?      じゃあなんだ?───……」 アルビノ「あの……?」 ゴドー 「まあいい。てめぇはちとミクでも眺めてアヘアヘしてろ。      ……シロン、ちょっと来い」 シロン 「え?《がしぃっ!》あんもう!お兄ちゃんっ!?」 シロンがゴドーさんに連れられて、もっと奥の部屋へと消える。 それも気になったけれど、どうしてか僕はこの映像の中の少女から目が離せなかった。
【Side───ゴドー】 シロン「ど、どうしたのお兄ちゃんっ、ねぇっ」 ゴドー「ちぃと気になることがあってな。     ……あいつが帝国側の人間だってことは、まず間違いないと思う。解るな?」 シロン「本題に入るのが速すぎだよ……もうちょっと詳しく言わないと」 ゴドー「かっ、うるせ。どんな時でもハッキリキッパリしてるのが好きなんだよ俺は。     いいか、あいつ……“研究所”の関係者かもしれねぇ」 シロン「研究所、って……まさか」 ゴドー「ああ。アンヘル研究所だ」 アンヘル研究所。 天使量産開発局とも呼ばれている、モンスター殺し専門の場所だ。 様々な実験を重ね、モンスターどもを蹴散らす技術を作り出した、帝国の本懐。 その技術開発局には、自らを強化して、 モンスターを蹴散らす力を自らにさえもたらす技術があったって聞くが─── あいつが開発局の局員なら、記憶がトんでるのも馬鹿強ぇのも、機械が使えるのも頷ける。 人体強化ってのは尋常じゃ無いダメージを自らに与える。 それは、時に自分を保っていられなくなるくらいの辛さを出すとさえ言われている。 痛みが強いほどに力も増し、機械とのシンクロ率も上がるって話だ。 だとするなら、あいつが眠る時や起きた時に感じる痛みってのも、その後遺症で─── ゴドー「かっ……つくづく面倒なのを拾っちまったぜ……」 シロン「え……お兄ちゃん、まさか───」 ゴドー「んにゃ、別に追い出そうってんじゃねぇ。これでも結構助けられてっからな。     問題があるとしたら、あいつの記憶が戻ってからだ。     帝国の、しかもあっち側の人間だとすると、“戦うため”に強化した、     もしくは強化された可能性が高いことになる。     そういうヤツはな、日々何かを破壊しないと落ち着けねぇんだよ」 シロン「……じゃあ」 ゴドー「ああ。今はコロシアムで発散できてるからいいが、それが無くなればどうなるか」 シロン「そんな……」 ゴドー「あの初音ミクってのは、アンヘルシステムの応用で作られたもんだ。     それを見てあの反応……多少なりとも面識があったんだろうよ。     製作者なのかどうなのかまでは流石に解らねぇが、少なくとも研究所関係者だ。     ……おめぇも長いこと俺の助手やってたんだから解るだろ、     あの開発局の異常さってのを」 シロン「………」 目の前の妹は苦虫でも噛み締めたような顔で俯く。 しゃあねぇだろう……アルビノになついていたこいつだ。 ゴドー(……ちっ) 昔、実験体にされかけたことを思えば、 こんな辺境に飛ばされたのだってむしろ幸運だって思えるくらいだ。 ……もう学者なぞ要らない、必要なのは科学力だ、なんて言われた。 それに貢献するために、妹を実験体として提供しろとも。 それが嫌で、こんな辺境に送られることになるようなことをした。 今はそれでよかったと思ってる。 人を怖がってたこいつも、今じゃ大分打ち解けるようになった。 ……ってのに、ここに来てまた帝国関係者だ。 アルビノのやつのことは信じてやりてぇが、帝国は信じらんねぇ……そんな顔してる。 俺もそうだけどよ。 やれやれ……まいったな、どうも。 ゴドー「……ん?」 待てよ? プロジェクトには実験体が必要だったって聞いた。 俺は提供してないし、あれからどうなったのかなんて、 辺境に送られた俺には理解できない。 できないが、“初音ミク”は完成している。 つまりそれは、誰かが実験体になったってことで─── ゴドー「……バカヤロが」 未知のために平気で人を使いやがって……。 だから科学ってのは嫌いなんだ。 大人しく文献の紐を解いてりゃいいのに、無茶なことばかりやって─── ゴドー「科学か……」 願わくば、そんなものでもこいつが笑えるような世の中にしてほしいもんだ。 かつて、こいつからその笑顔を奪っちまったソレでもそんなことが出来るなら。 【Side───End】
……。 ミク=ツェルストクラング。 頭に浮かんだのはそんな言葉……いや、名前だった。 それが誰の名前だったのかなんて思い出せない。 ただ、その名前がとても大切だった気がする。 アルビノ「………」 映像は既に切り替わり、別の映像を映している。 それに気づいたのは、ゴドーさんとシロンが出て行って相当経ってからだった。 アルビノ「…………」 考えてみても思い出せないものは思い出せない。 ここまで出掛かっている、なんてこともなく、まるっきり思い出せもしないのだ。 ただ、ツェルストクラングの名前だけは頭の中にこびりついていて、 もう忘れることは出来そうになかった。 【ケース681:鬼面族チャチャブー/ウラビアンヌイト1】 チャチャブー『時は満ちた!今こそ我々は立ち上がる時である!        オォオゥルハァアイルブリタァアーーーニアァーーーッ!!』 …………。 ええ、言ってみたかっただけです。 王妃 「それで。あなたはこれからどうなさるおつもりですか?     兵士たちがあんな状態な今、帝国が帝国として機能するのか怪しいものですけど」 シード『やつらはもう、駒としては使えないでしょう。     その、今の父上ではなく、肉体側の父上を崇めているようですし』 うん、それなんだよね。 きっと僕がなにを言っても聞いてくれないと思うんだ。 そこでこの博光は考える!…………どうしよう。 チャチャブー『姫さん。帝国に居る人間って兵士ばっかりなの?』 王妃    「……技術開発局、くらいでしょうか。        ノヴァルシオで古の技術を発見して以来、        魔法が廃れた代わりに機械技術が進歩しました。        けれどもそれは、マナを消費して行使される魔導兵器。        魔法兵団はそんな技術に嫌気が差して帝国を去りましたが、        今でも科学班はノヴァルシオやこの帝国の地下で研究を続けています」 チャチャブー『へ〜……』 機械技術ねぇ……勘弁したれや。 別に機械だけっていうならこの博光、無視も出来たがマナを削るというのはいただけぬ。 マナがないと自然要塞がどんどん枯れていくし、精霊たちも苦しむでしょう。 チャチャブー『王妃権限で技術局解散!とか出来ないの?』 王妃    「したところで、今や科学の力に溺れた人間。        わたしを殺めてでも探求を続けるでしょう」 チャチャブー『我道一直線ッスネ……』 シード   『人間などそんなものです。        それがたとえ世界を滅亡に導くものだと説いたところで、        それすら科学でどうにかなるとでもぬかし、滅ぶでしょう』 チャチャブー『うんまあ俺もそう思う』 欲深い人間だしね。 欲深いと知ってても人間をやめないのは、人間である自分が好きだからさ! チャチャブー『あ、そうだ。科学とは関係ないけど、えーと……なんだったっけ。        “時”はどうなってるの?        一応、一通りのことはバハムートに聞いて知ってるんだけど』 王妃    「時?」 チャチャブー『う、うむ……この城の地下には命の静寂(フェルダール)の“時”が安置されている。        名を王の静寂(テオ・ダール)。刻震竜とともにこの世の時を司っていた宝玉よ。        サウザンドドラゴンが死んでもこの世界が滅びぬのは、        刻の宝玉が存在しているからだと聞く』 王妃    「それは……帝国でも王族にしか伝えられない伝承なのに……」 チャチャブー『や、だからバハムートから聞いてるんだって。それでどうなの?        この世界が壊れてないってことは、まだ無事なんだろうけど」』 もし“壊れてましたー”とか言われたらおしまいだし。 王妃    「それは……わたしにも解りません。        子供の頃に見せていただいたきり、刻の間は封印状態にあるのです」 シード   『封印状態?それは結界魔法かなにかでか』 チャチャブー『はたまた僕のようにクリスタルキモスティン?』 王妃    「いえ、古の技術が発見されるまでは魔法で、        発見されてからはさらに科学の力でより強固に封印をしてあります」 チャチャブー『………』 シード   『胡散臭いですね、父上』 僕が言いたかったことをシードが言ってくれた。 うん胡散臭い。 チャチャブー『手に入れたばかりの力をよくもまあそこまで過信できましたな』 王妃    「そればかりは父様が決めることでしたから、わたしは……。        嬉しかったのでしょう、過去の遺産を手にし、行使することが」 チャチャブー『あのー……そういう力って、        王様とかが使うと絶対に後悔するからやめといた方がいいよ?』 王妃    「……?何故ですか?現にここに至る数年、困ることなど───」 チャチャブー『それが油断という名のバケモノです。そういう力を王が使ってたりすると、        大体が力に飲まれて暴走起こすから。現に機械王オロだってそうだったし。        機械に固執するあまり、機械が無ければただのザコ。        虚勢も張れぬままに兵士に殺されおったわグオッフォフォ……!!        …………ハイ、まるで未来の自分を見ているようで泣きたくなりました』 機械が武具に変わっただけで、僕も武具が無ければ雑魚な身。 でも、体ひとつで上を目指す者が居るように、僕は武具のみで上を目指したい。 人の考えはそれぞれさ、コレと決めようがどうしようが、 その場その場で考えていたことなんてのは変わるもんさ。 なにせ、こういう安全な状況で考えられる甘ったれた思考なんてものは、 土壇場や窮地に陥った時の考えにはあっさり覆されるもんなんだから。 チャチャブー『そんなわけだから、その科学班が居るところをブッ潰したいんだけど。        このままマナを削られちゃあ、僕らの自然要塞が復活できないやもしれぬ』 王妃    「潰す……?どうやってです?        あそこには警備として機械兵がたくさん居るのに」 チャチャブー『全て潰してくれるわ!───シードが』 シード   『また僕ですか!?        あ、いや……これは父上が僕にくださった成長を願う瞬間に違いない!        父上!僕やります!やり遂げてみせます!』 チャチャブー『うむ!その調子だシードよ!        ただしヤバくなったら退避することを忘れるな!        命あってのモノダネ!殺す覚悟と殺される覚悟を胸に、        だが自ら死にに行く真似だけはせぬように!』 シード   『……あの、父上?違いがよく解らないのですが』 チャチャブー『あれ?……え、えーと……つまりね?        殺す覚悟を決めるなら、逆に殺されても仕方ないって思うこと。        これが殺す覚悟と殺される覚悟ね?戦いとはそういうものです。        で、自ら死にに行くようなものは“殺してみろ”と言ってるようなもの。        玉砕覚悟も時にはヨロシ。でも確実に死ぬって解ってても突っ走るのはさ、        ほら、なんというか自殺するようなものでしょう?自殺はダメです。        それをするくらいなら、無様でも逃げて生き延びなさい』 王妃    「……?違いがわかりませんが」 チャチャブー『ウヌ……よいですか?        殺す殺されるの覚悟と、死ぬ覚悟で向かうのは近いようで大いに遠い。        “武器を取って戦場に行くんだ……そりゃ死ぬこともあるだろうよ、         命の遣り取りやってるんだからよ”という考えで戦場に立つのと、        最初っから死ぬ覚悟で向かっていくのは違うのです。        殺されることはそりゃあある、殺されても仕方ないと思うのと、        我はこの戦で死に殉ずる!故に貴様らを道連れにする!        って考えることとの違いだって。えーと……』 どう説明したもんか。 頭に浮かべてみれば簡単なのに、説明となると難しい。 チャチャブー『つまりね?殺される覚悟を抱くのと、死ぬ覚悟を抱くことの違いだよ。        殺される覚悟っていうのは、        殺されるかもしれない、って……死ぬとは限らないわけで。        でも死ぬ覚悟はもう死んでるだろ?心構えからして負けてるの。解る?        殺される覚悟を決めるってのは、        その場で死んでも構わないって思うことじゃあ断じてない。        たとえ殺されても、向き合った場面が戦場だったのだから仕方なしと、        死を受け入れられる覚悟を持つことです。        戦場だってのに殺されたことを恨むのは筋違いさ。        ……もっとも、屈辱的に殺されたならべつだけど』 命の遣り取りしてるんだ。 それなのに殺されて恨みを持って呪うなんてヤツにゃあ、戦場に立つ資格がない。 いや、違うな……覚悟が足りん。 ……もっとも、俺は戦場を語るよりも覚悟の量を皆様に自覚していただきたいけど。 戦場で後ろから撃たれた、後ろから…………と騒ぎ立てる馬鹿が何処に居る。 居たとしても笑われ、馬鹿にされるだけだ。 そう、命の遣り取りをしてるんだ。 殺される覚悟を持ってたって、死にたいわけじゃない。 死にたくなければどうすればいい? 敵を殺すか無力化させるしかないだろう。 戦場に立って武器を取り、攻撃の意思を見せた時点で命は平等だ。 老若男女なんて関係ない……そういう世界に、僕らは降り立ったのだから。 王妃    「……あなたはいろいろと重いものを背負っているのですね」 チャチャブー『え?あ、うん、ギガノタウロスの斧持ってるし……』 王妃    「いえあの、そういう物理的な意味ではなくて……。        あなたは……人を殺したことがあるのですね?それも、大勢」 チャチャブー『…………事実です、受け入れた過去さ。だからって僕挫けないよ!?        僕の夢はこの世界で武具とレベルだけで世界を変えるほどの力を得ること!        その過程でさんざんっぱら楽しむことこそが本当の狙いよ!」 え?そのあと?そのあとはあてもなく旅をします。 みんな僕のこと忘れるだろうから、独りで静かに豊かに旅をするんだ。 王妃    「あなたはそれでいいのですか?        悔い改め、戦いから身を引くこともまた勇気なのでは───」 チャチャブー『ホホホやだ』 王妃    「え───なぜ」 チャチャブー『悔い改めることなどなにもない。        僕とキミ達とでは、そもそも考え方がまるで違う。        だから貴様らの説得では俺は考え方を変えないし、変えるつもりもなし!        というわけだからハイ終わり!暗い話終わり!        それより科学班をなんとかしないと!』 王妃    「あの……ですからそれは、機械兵が───」 チャチャブー『大丈夫大丈夫!機械兵無視して科学班人質に取るから!        それでも攻撃してきたその時には、俺の必殺技……科学班バリアが唸る!』 シード   『なるほど!科学班が必殺されるわけですね!?』 チャチャブー『うんそう!』 王妃    「嬉しげに物騒なことを仰らないでください!」 怒られてしまった……。 チャチャブー『えぇ〜……?だって僕のこと魔王だって思ってるなら、        そんなの今更じゃん……。僕そういうのよくないと思うな。        魔王だ〜ってんで歩いてたら攻撃仕掛けてきたり封印したり、        大人しくしてても攻撃したり、刻震竜の進撃から結果的にこの国守っても、        結局は弱ったところを封印とかたまらないよもう……。        僕はやられたらやり返す男だ。だから僕は魔王然としてこの国滅ぼすよ?        いいか、勘違いするなよ娘。        俺が魔王になったんじゃない……お前らが魔王に仕立て上げたんだぜ?』 王妃    「それは……だって……」 チャチャブー『つくづく勘違いから人を魔王だなんだと罵りやがって!        いやまあそれは無理矢理面白い方向に捻じ曲げてるからいいんだけど。        だが封印はいただけん!封印解除の方法を知っているなら今すぐアクセス!        じゃなくて今すぐ教えるンだッッ!!』 王妃    「…………知りません」 チャチャブー『ゲッ……』 苦しそうに、懺悔するように、だけどあっさりと知らない宣言をされてしまいました。 まいったなぁ……いや、弱ったなぁ……。 こういうのって普通、呪術師を殺せば治る〜ってのがセオリーなのに。 あいつらが地割れに落ちて死んでも、封印は解けなかったしなぁ……。 チャチャブー『アァンタアアアアアア!!        これアンタのところの兵士がやったことでしょォオオ!?        なのに解らないってどういうことなのコレェ!        どーすんのコレェ!全部お前の所為だかんなコレェエエ!!』 王妃    「なっ……封印のことにわたくしは無関係でしょう!        突然なにを仰るのですか!」 チャチャブー『だったら帝国が誇る科学の力とやらで封印解けばいいでしょォオ!?        なにィイ!?そんなことも出来ない、        ご自慢の時計───じゃなくてご自慢の科学力なのォオ!?』 王妃    「科学のことは科学班に仰ってくださいません!?        わたくしには科学のことなど関係ございません!!」 シード   『上に立つ者が大きな力のあり方を知らないでどうする!        貴様それでも人の上に立つ者か!!』 チャチャブー『生まれてきてごめんなさい……』 シード   『え!?いえあのっ!ち、父上に言ったわけではなく───!!』 いいんだ……だって僕、人の上に立てるような立派さなんて持ってないし……。 でも原中の提督として無理矢理立たされたリーダー的存在…… その中で過ごした青春は、僕にとっての数少ない誇りです。 ……みんな提督提督言いながら、二言目が大体クズがだったけど。 尊敬されたかったんじゃない。 ただ、一緒に馬鹿やってたかったんだ……ずっとずっとみんなで。 そんで、誰かが一人ずつゆっくり死ぬ中で、最高の別れを一人ずつに言ってやりたかった。 ただそれだけだったのにな。 チャチャブー『じゃ、抜け出そうか』 王妃    「あれぇ!?あ、あの!?研究のことは───」 チャチャブー『え?だって機械兵が居て危険なんでしょ?僕痛いのヤだもん』 王妃    「ですがさっきまでマナがどうとか仰ってたでしょう!?」 チャチャブー『気が変わったから僕帰る!!《どーーん!!》』 王妃&シード『えぇえーーーーーっ!!?』 シード   『ち、父上!それではあんまりにも……!        自然要塞は、父上の体はどうするのです!?        今となっては、この世界でマナを精製できる可能性があるのは、        あの自然要塞だけで……!あれがこのまま帝国の管理下に在り続ければ、        いずれ科学班とやらが自然要塞を破壊、分解などを───!        そうなれば世界は!妖精や亜人族……それに、ドリアードも……!』 チャチャブー『………』 あ、なんか今僕嬉しい。 あのシードが……おお、あのシードがナギーの心配を……! チャチャブー『成長したな、シード……。        喧嘩ばかりしていたナギーを思いやることが出来るようになったか……。        その通りだ、シードよ……憎しみや苛立ちばかりではなにも解決せぬ……。        そういうものさえ利用し、楽しみに繋ぐことこそ原ソウル……。        貴様に足りなかったもの、それは感情のコントロール。        そして、どんな時でも面白さを追及するその心ぞ……』 シード   『父上……《ハッ!》ま、まさか父上、それを僕に教えるために───』 チャチャブー『エ?………………う、うん?ソ、ソウダヨ?その通りさーーーっ!!』 王妃    「ああっ!絶対ウソですこの人!今思い切り首傾げて───」 シード   『父上ぇええーーーーっ!!』 王妃    「えぇえええ!?騙されてるーーーーーっ!!!」 身を屈め、抱きついてきたシードを抱き返す! おおシード……!この博光の可愛いシードよ……! よくぞ成長してくれた……! 今や娘にも忘れられ、 憎まれるだけとなったこの博光……貴様の成長がなんだかとっても嬉しいぞ!! チャチャブー(だから今回は技はなしさ!        思い切り!思い切り愛でてやる!ああもう可愛いなぁこんちくしょう!!) 自然要塞を囲っていた結界の枠より外……まあもう結界は消えてるけど、 その先の廊下で熱い親子の抱擁を交わした。 手の届く限りに頭を撫で、やさしくやさしく。 それが済むと姫さんに向き直り、ミギー!と両手を挙げて背伸びの運動。 ……シードはなんか感無量〜って感じで、ポケ〜っと幸せヅラで虚空を見つめてるから。 チャチャブー『というわけで僕らは旅に出ます。貴様はどうする?』 王妃    「……不本意ですけど。あなたは一応わたしの夫ということですから」 ……アレ?なんだかとっても意外なお返事。 エ?夫って……アレ? チャチャブー『正気かてめぇ!そんな勝手な言い分を飲み込むというのか!』 王妃    「てめぇではありません。        シャルロット=R=エトノワールという名前があります」 チャチャブー『よろしくシャルティエ!!』 シャルロット「シャルロットです!!」 チャチャブー『ごぇええええ〜〜〜〜〜……?……あ、じゃあシャルって呼んでいい?』 シャルロット「え……《ぱぁあっ……》わ、わたくしを愛称で呼んでくださるのですかっ」 今度はとても嬉しそうな顔をされました。 ごぇええ〜〜〜?って言ったときは物凄く嫌な顔してたのに。 ……もしかして愛称で呼ばれたこととかなかったのか? まあ、姫さんだし、そういう相手が居なかったんだろうなぁ。 チャチャブー『あ、嫌ならゴツイ声で“オンデュヴァ〜”と言ってくれ。        サムライスピリッツのシャルロットのように。        そしたらシャルロットッッ!と大声で呼ぶようにするから』 シャル   『わけが解らないのでお断りいたします。        そ、それから。わたくしのことを愛称で呼ぶのならば、        わたくしも愛称で返すのが妻としての勤めというもの、です。        ……その、あなたの名前は中井出博光……で、よろしかったですね?』 チャチャブー『俺はクゥ!人間に貰った名前だ!!』 シャル   「それが本名ですか。そうですか。ふ、ふふっ……ではクゥと───」 チャチャブー『かかったなダボが!!        俺の名はクゥなどではな《ベパァン!!》ミギャーーリ!!』 物凄い速さでビンタをかまされました。 クゥという名前を聞いた時の嬉しそうな顔が般若に変わりました。 シャル……怖いコッ……! チャチャブー『ワガガガガ……!馬鹿な……この俺が、避けれなかった、だと……!?』 シャル   「馬鹿なことを言っていないで!名乗りなさい!」 チャチャブー『いえあの、はい……すんませんした……』 カタカタと震え、鬼面の頬を押さえつつ口からダラダラと血を流して謝った。 うう、このおねえちゃん怖いよ……。 避けられなかったのはまあ、 反応が遅れたとか自分の体じゃなかったからとかいろいろあるけど、 そんなことはどうでもいい。 叩かれるだけのおふざけを何度もやってる身としては、 こうやって無遠慮に接してもらったほうが面白いってもんさ。 チャチャブー『我が名はリキュール=トマホーク。世界一の剣豪だ』 シャル   「ウソですね?」 チャチャブー『我が名は……メイデンギャラクティカダイナマイトパワフルエキサイトスク        リューキックなにそれチャチャブーだ』 シャル   「……ウソですわね」 チャチャブー『俺はハーン!よろしく頼むぜ!!』 シャル   「………」 チャチャブー『無視!?なんでハーンだけ!?じゃ、じゃあ……マラジンでどうだ!』 シャル   「はあ……もうそれでいいです」 マラジン  『あれぇえええーーーーーっ!!?』 あれ……え、あれぇ!? マラッ……えぇっ!? マラジン『いやちょっ……どうしてここで諦めちゃうの!?ちがっ……違うよ!?      僕マラジンじゃないよ!?ほんとだよ!?      中井出博光っていうの!よろしく!ね!?お願いだから!      僕あんな、股間押さえながら      “はぁあ〜〜っ!マラがジンジンするーーーっ!!”      とか叫んでたヤツと同列になりたくない!      つーか何気なく言った南国アイスネタにノってこないでお願いだから!      さっきみたいに流してよ!ねぇ!!』 シャル 「もういいです……中井出博光……愛称マラジン。これで決定です」 マラジン「やめてぇえええええええっ!!      全然愛称じゃないよ!どうすれば中井出博光がマラジンになるの!?      愛称って普通略称とか風貌とかから来るものでしょ!?      え───!?マラジンなの!?僕マラジンっぽいの!?      何処が!?ねぇ!何処がなの!?ねぇ!ねぇったら!!」 シャル 「お黙りなさいマラジン!!」 マラジン「誰がマラジンだてめぇ!!      やめてほんとやめて!素でマラジンって怒鳴るのやめて!」 シャル 「わたくしはもう決めました!あなたはマラジンです!わたくしの夫です!      わたくしはあなたのことを好きでもなんでもありませんが、      それならばこれから知り、好きになるなりすればいいだけのこと!      生憎とオロは全然好きにもなれず、むしろ嫌いでしたが!      ……ただしお忘れなく。あなたは既にエトノワール皇帝。      その栄誉は子に譲るか己が死ぬかしない限り、消えることなどありません」 マラジン「よしシード!貴様をマラジン二世として就任する!」 シード 『きっぱりご遠慮します!』 マラジン「アレェシード!?僕のシード!?」 あっさり断られたぁああっ!! 嗚呼……こんな時、こんな時ナギーが居てくれたら、きっと即答で─── ……嫌なのじゃ、って言うんだろうね……。 Next Menu back