───冒険の書265/マラジン(再)───
【ケース682:昏黄悠黄奈/ナーギーズエンジェル-密林編-(サイド扱い)】 ナギー『っくちっ!ひっくちっ!ひくちっ!!……む、むぅうう?』 悠黄奈「風邪ですか?」 ナギー『知らんのじゃ。だれぞ噂をしておるのであろ?』 走る。 ただ走り、ナギーさんのあとを追う。 ただ、何処に向かっているかまでは解らないわけで…… 悠黄奈「あ、のっ……!帝国に向かっているんですかっ……?今っ……」 ナギー『違うのじゃ!思えばわしらだけでは帝国を落とすことは叶わぬのじゃ!     じゃから助力を求めるのじゃ!猫の里におるであろう亜人族たちにの!』 悠黄奈「な、なるほど、そうでしたか……」 関所、というものに嫌な思い出でもあるのか、 途中で金を払えと言って来た男性をヤクザキック一撃で沈めたナギーさんは、 今も結構な速さで大地を駆けます。 どうやら博光さんが絡むと、争いが嫌いという意識はなくなるようです。 優先順位というものがあるんでしょうね、 邪魔するヤツは構わずねじ伏せてくれると豪語するかのような勢いです。 悠黄奈(博光さんのため、ですか……。本人は今、なにをしていらっしゃるんでしょう) 小さく、そんなことを考えながらナギーさんを追う。 がむしゃらに走っているようで、どうやら進むべき道は確信しているようです。 こちらに猫の里があるのかは、わたしには解りませんが─── 自然の力を探知できる然の精霊なら、猫の里がある場所もきっと探知できるのでしょう。 ……ただ、そこが10年前と違い、草木が生えていれば、ですが。 一度、守護竜によって破壊されている筈ですからね……。 以前通りに緑が生い茂っているかは、正直不安なところです。 ともあれ、こんなに行動力のある精霊なんて初めてです。 現実世界でも、この世界でも。 踏ん反り返るだけが精霊じゃない、ということなのでしょうね。 ……わたしも今は精霊ですけどね。 【ケース683:マラジン/ウラビアンヌイト2】 ……ややあって、城を抜け出した僕らは、帝国城下町へとやってきていました。 マラジン『オラどけコラどけマラジン様のお通りだコノヤロー!』 ……ええ、僕の心は既にヤケッパチ。 いや、むしろつけられた愛称で、 たとえ不名誉でも楽しんでやろうとヤケクソになっています。 そんな時です。 子供 「《どんっ!》うあっ!どこ見て歩いてる!気をつけろ!」 恐れ多くもこのマラジンの行く先を遮り、ぶつかってくる子供が居たのです。 マラジン『マラジン!!』 だから僕は挨拶をしました。 マラジン語で。 子供  「な、なんだよ……僕を誰だと思っている!貴族だぞ!偉いんだぞ!」 マラジン『そうか!俺はマラジンだ!』 しかしすげぇなこの子供……鬼面族を目の前にしても、モンスターだーとか騒がない。 子供  「お前、モンスターか?モンスターごときが人間さまに楯突くのか?      ふふん、お前らなんか機械の力さえあればどうとでも出来るんだよ」 マラジン『あーあなるほど……』 ようするに機械様の後ろ盾があるから、そんな風に構えてられるってことか。 嫌な世の中だなぁ……子供がこんなですよ。 マラジン『フフフ、生憎だがこのマラジン様は貴様などに構っている暇はないのだ。      失せろ小僧、貴様が居ては我が道が通れぬわ』 子供  「ふんっ、そうやって粋がっていられるのも今のうちだね。      おい、これがなんだか解るか?」 言って、子供がしゃらんっと妙な機械を取り出した。 それはまるで、現代におけるスタンガンのようで…… マラジン『マジカルスティックならぬ、マラジカルスティックと命名しよう!!』 子供  「スタンブレッドだ!なんだそのヘンな名前!」 マラジン『マラジンのヒミツ道具の一つだ。加えたいから今すぐよこせ』 子供  「やるわけないだろっ!これはな〜……こうするんだっ!」 にやっと子供が笑った───途端! ヤツめ、我が脇腹にマラジカルスティックを押し付け、スイッチを押しおった!! マラジン『《バヂヂィッ!!》ミギィイイーーーーーーウ!!!』 弾けるスパーーーク!!星が!星が見えるスター!! 子供 「あははははは!!踊れ踊れモンスター!     ここはお前らなんかが通っていい場所じゃないんだよ!     人間さまの領土からさっさと出て行けっ!」 突然のショックに為す術なく転倒するが、 それでもなお子供は俺の体にマラジカルスティックを押し付け、スイッチを押し続ける。 子供が故の残酷さ、というやつだ。 この歳で、モンスターをオモチャとしてしか見ていないのだろう。 あとからついてきていた、黒フード着用のシャルとシードがすぐに止めようとするが、 俺はそれを目で止めた。 マラジン『キ……サ、マ……は…………貴様は……』 子供  「……?な、なんだよこのっ!シビレろ!痺れろ!!」 マラジン『《バヂヂヂヂィッ!!》ぐぎゃあああーーーーっ!!』 シビレは次第に痛みへと変わり、熱へと変わり、激痛となって襲い掛かる。 だが生憎このワシは……不死身なのよ。 当然痛いが、シビレてるが、動かすという意識を体全体に流し込み、強引に立ち上がる。 このマラジンの叫びを聞きつけてか、城下住民たちがぞろぞろと集まってくるが、 その視線の中心でミギーを叫んで立ち上がった。 住民1「……?おい、モンスターだ」 住民2「なんだモンスターか……大方迷い込んだんだろうよ」 住民3「馬鹿だねぇ……人間さまの領土に入り込むなんて」 住民4「あんなの、あの子供……ロニの機械があれば十分だろ」 みんながせせら笑う。 俺を見て、見下し、殺せ殺せ、始末して捨てろ、といった目で。 いや、目だけじゃない。 口でも言っていて、姫がそこに居るとも知らずに殺せ殺せと口々に。 ……シャルは、解らないって顔で住民たちを見渡していた。 そうだ。 知り合いって存在が魔物になって、初めて解ることがある。 人の醜さ、自分の醜さ……いろいろだ。 知り合いだから、夫だから、そんなヤツが殺せ殺せと言われて気づける醜態がある。 ……これが、機械に頼って慢心した人間の姿だよ、シャル。 あんたらは力に溺れすぎた。 だからこれは───目覚めの一発よ!! マラジン『オォラァッ!!』  ゴバゴガシャアンッ!! 子供 「……え?」 火闇で、機械を粉砕した。 何が起きたかも解らずきょとんとしている表情が印象的でした……まる。 子供 「あ、わ《バゴシャズガァンッ!》ひぎゃあうっ!!」 そんな子供を自らの手で殴り飛ばし、民家の壁へと叩きつけた。 はい仕返し完了。 マラジン『(タマ)は預けとくぜ……今日のマラジンは紳士的だ。運が良かったな』 そして歩き出す。 シンと静まり返った城下の中を、静かに。 これ以上ここに居ても気分を害するだけだ……マラジンはクールに去るぜ。 …………うっ、うっ……名前の所為で全然クールに聞こえないよぅ……。 住民1「っ……子供がやられたぞぉおおっ!!」 住民2「ッの野郎!人間様に楯突こうってのかぁ!!」 住民3「殺しちまえ!こんなヤ《ゴフォォンッ!!》───ツ、……あ、うあ……」 叫び、我先にと走ってきた住民3の眼前に、ギガノタウロスの斧を突き出す。 途端に騒ぎ始めた住民は再び静寂を結び、その中で俺は静かに口を開いた。 マラジン『……僕、やられたから返しただけだよ?      モンスターってだけで急に仕掛けてきたのはあの子供のほうさ。      攻撃されたから返したってのに、殺せはないんじゃないかなぁ』 住民3 「な、に言ってやがる……!勝手に街の中入って来て、      子供をボロボロにしといて、モンスター風情がデカい口叩くんじゃねぇよ!」 マラジン『そんな!それじゃあここは、      許可がなければ鳥も飛んじゃいけないっていうんですか!』 住民3 「モンスターよりは!マシなんだよ!鳥は!」 マラジン『わー』 ドラマCD版クレス=アルベインの真似をしたら、しっかりと返されてしまった。 相手のセリフは“ハーフエルフよりは!マシなんだよ!鳥は!”だったけど。 マラジン『だが勘違いしてもらっては困る。      あの子供がやってきたのは明らかに致死レベルの攻撃。      こっちは不死身だから殺さずにおいてやったが、      不死身じゃなかったらヤツは今頃ザクロとトボソよ』 なんかもう自分でも訳が解らんことを言ってみると、 明らかに怒った風情で住民3が一歩引いた。 住民3 「へっ……ほれ見ろ。最初仕掛けてきたのは、もなにも……      結局そうやって本性表すんじゃねぇか……さすがモンスターさまだぜ」 マラジン『すげぇだろ。じゃあ僕もう行くね?』 住民3 「待てよこら……てめぇに帝国に住む貴族様たちの力ってのを見せてやる。      知ってるか?帝国城下に住むやつらは全員貴族。      機械を持つことが許された、高貴な存在だ」 マラジン『雨止んでよかったなー……そういやこの10年後の世界には天気予報って』 住民3 「聞け!!何処に行こうとしている!」 マラジン『え〜……?だって御託長いんだもん……。結局なにが言いたいのお前』 住民3 「ここに居る全員で、てめぇを公開処刑してやる、って言ってるんだ」 ジャラァッ!と、その場に居た全員が、奇妙な機械兵器を取り出す。 剣のようなものから銃のようなものまで、ごっちゃりと……うひゃ〜、殺す気満々ですか? 治安悪そうだなぁ城下なのに。 マラジン『よせ。もうオラにその技は通用しねぇよ』 住民3 「ひっへっへっへっへ……最近刺激がなくて困ってたんだ……。      コレを使える日がこんなにポッと現れるなんてなぁあ……」 うわあ聞いちゃいないよこの人。 武器を撫でながらイッチャった目ぇしてる。 他のヤツもそうらしい……子供なんて、兵器を使う理由にしか使ってない。 貴族なんてこんなもんなのか? だったら心底呆れるね。 マラジン『───』 シード 『───《コクリ》』 シードに目配せし、シャルを連れて建物の屋上まで飛んでもらう。 これだけ集まられてちゃあ、区別するのが難しそうだし。 マラジン『それで、えーと……き、貴様らこのマラジンをどうする気だ〜〜〜っ!』 住民3 「どうする?決まってるだろ。      街中で暴れてるモンスターを、高貴なる俺達貴族が討伐した。      素晴らしいシナリオだと思わないか?勲章ものだ」 マラジン『つまらん。面白くない。最低のシナリオだ、描き直せ口臭いんだよタコ』 住民3 「なんだとぉっ!?」 困ったなぁ……争う気なんてないのに。 出て行くって言ってるんだから、おあいこってことで逃がしてくれないだろうか。 うーーーーん…………………………逃げんべ。 マラジン『ミギー!《バフンッ!》』 住民3 「ぶはっ!?な、なんだこの白い煙───う、ぐ……」 住民2 「エベルバ!?貴様なにを───う、あぁあ……!?なんだ、急に眠く……」 鬼面族謹製、眠り爆弾で近くのやつらを眠らせる! そしてすかさずレッツ逃走! 走れ走れ力の限り───って遅ッ!!足遅ッ!! くそうならば───シューター!火闇で遠くのモノを掴んで、体ごと飛ぶ! マラジン『あばよ〜〜っ!とっつぁ〜〜〜ん!!』 遠くの建物の隣の街灯へと火闇を飛ばし、絡ませ、縮めると同時に一気に飛ぶ! さらばだクソ貴族どもよ……この博光が肉体に戻った暁には、 皇帝命令で貴様ら貴族を第一に潰してくれガォオオンッ!! マラジン『っ……《ごぷっ……》げはぁっ……、……!?』 飛んだ途端だった。 俺を追うように飛んできた弾丸が、俺の胸を貫いた。 痛みに集中力が切れると同時に火闇も消え、空中に放り出された俺は─── 飛んだ勢いのままに地面に叩きつけられ、転がった。 マラジン『げはっ!があっ……い、いてぇっ……!!』 しかし尋常じゃないのはその痛み。 見下ろしてみれば、貫通した弾丸には太い糸と鉤爪がついていて、 鉤爪は俺の胸に抉り込み、糸は放たれた銃からずっと伸びていた。 ようするに……敵を逃がさないための狩猟銃だった。 しかも銃から電流が流れ、ただでさえ貫かれて痛い胸に、物凄い激痛が走る。 住民6「ふざけた真似しやがって……おらぁっ!」 住民5「おらどうだっ!おらぁっ!!」 倒れ、思うように動けない俺へと追撃が落ちる。 ソレは鋭い刃だったり足だったり槍だったり。 動けない俺へと、何度も何度も何度も。 それらは確実に俺を殺す気で放たれているもので、 一人一人は最初は恐る恐るだったくせに、 集団で攻撃を加えるうちにそれはエスカレートし…… 住民7「くっひひひひ……おらぁっ!」 ザギッ!ブギャア!! マラジン『がっ……ぎぎゃぁあああああっ!!!』 やがては───腕を剣で切り裂き、千切り、 血が噴き出る肩を踏みにじり、返り血を浴びても笑う、イカレた貴族たちを誕生させた。 左手が済めば右手、左腕が済めば右腕。 右腕が済めば左足、右足、左脚、右脚、腰、胸……首……! そんな残酷なことを、こいつらは笑いながらやっていた。 けど死ねない。 不死身だから、輪切りにされようがズタズタになろうが死なない。 ただ気が狂うような痛みが脳に突き刺さり、声が出なくなるほどの悲鳴を上げ、 それを聞いてもまだ……そいつらは愉快そうに笑っていた。 くっつこうとする体を見ると、部位それぞれを剣や槍で地面に突き刺し、 震える体を見てはぎゃはははと。  わからない どうしてこんなことになったんだろうか。 ただ歩いてて、ぶつかって、子供に攻撃されたから仕返しして、 用が終わったから逃げようとしたら打ち落とされて、それで───ソレデ……  ああなんだ つまり ただ殺したいだけなんだ こいつら なんだ……だったらそう言ってくれ。 殺意を感じられなかったから解らなかったよ。 なるほど、遊びがエスカレートするとそうなるんだな。 よく解ったよ。  ガンババババババォオオンッ!!! 声  「うげぇおぎゃぁあああああっ!!!」 住民8「は……?な、なんだ!?なにが起こった!」 一人の貴族が闇の炎に飲まれ、炭と化す。 それを確認するのも面倒くさくて、灼闇を操って部位それぞれに突き刺さる刃を抜き去り、 体を火闇で繋げてゆく。 住民9「なん《ゴバァン!》───……」 住民8「へ……?ひ、ひぃいいいいっ!!」 二人目は頭から脚までかけて、殴り潰した。 三から十は伸ばした火闇で包み込み、爆発させて消し飛ばせ─── 悲鳴をあげた十一から最後までを、魔人と化して潰してゆく。 命乞いなど、吐かせる余裕を与えない。 聞いたら許しちまいそうだったから、迅速に、全力で破壊した。 破壊し尽くした。 あとに残るものなど……さっきまで確かに賑やかだった筈の、無人の城下町だけだ。 マラジン『《キュバァンッ!》…………』 全てを片付けると、カルキ化を解いてチャチャブーの姿へと戻る。 そこへと降りてきたシードと、それに連れられたシャルへと一言。 マラジン『やあ』 いつも通りの笑顔で、腕を大きく上げて背伸びの運動。 ミギー、と自然に言ってしまうのはもはやクセでしょうか。 シード 『お疲れさまです、父上』 マラジン『謝謝』 シャル 「………」 シードは普通に返してくれたけど、やっぱりというか予想通りというか。 シャルは押し黙って俯いたままだった。 そんな彼女を見つつ、シードに機械武器を一通り拾ってきて?と頼み─── 向いたままの彼女に一言を。 マラジン『軽蔑する?僕のこと』 シャル 「───しません。しませんが、正直……複雑です。      貴族たちは確かにあなたを殺す気で……いえ、殺す気などなかった。      それよりも最低で、遊び殺す気でした。命を弄んでいた……。      わたしには……それがショックで……。      でも、でもです。あの方たちにも家族が居ることを、      攻撃に移る前に考えられなかったのですか?」 マラジン『考えた上でやりました』 シャル 「───………………そう、ですか。それなら、救われます。      もしそれすらも考えずに殺したのなら、それこそわたしは軽蔑していました」 それだけ言うと、シャルはこのマラジンを胸に抱きかかえ、 城下町の外へ向かい歩き出した。 いやしかし……ほんとマラジンってだけでシマらない状況だ。 シャル 「貴族が機械をあんな風に扱いたいと思ってたなんて……悲しいことです」 マラジン『目的もなく力を手に入れれば、大体の人間はああなるでしょ。      まあさすがに生きたまま解剖されるとは思わなかったけど』 今でこそ治ってるけど、あの状態が続いてたら本気で狂ってた。 再生しようとしている体を地面に突き刺すって…… 街に住む貴族の考えることって解りませんな。 そんなやつらだったからこそ、躊躇せず滅ぼせたんだけど。 ……ああ、ちなみに最初に殴った子供は生きています。 俺は、俺を散々と痛めつけたヤツ以外は殺してません。 同意があろうがなかろうが、アレはそういう戦いだった。 我が命を弄ぶ輩には地獄巡りの片道切符を進呈します。 逆にどれだけ悪く言おうが攻撃してこないなら、こちらも口で返すのみさ。 シード 『……《うずうず》』 マラジン『ぬ?』 ふと、戻ってきたシードがシャルの隣を歩きながら、 チラチラとこのマラジンを見ていることに気づいた。 はて、いったい…… シード『お、おい女。父上は重いだろう?今すぐ僕に父上を渡せ、僕が持つ』 シャル「お断りです」 シード『なっ!?』 即答だった。 棍棒状態にしておけば、戦闘中に武器として持たない限りは重くないギガノ斧。 それを持っているとはいえ、基本このチャチャブーは結構重い筈。 でもシャルはニコリと笑ってやんわりと断った。 マラジン『僕が怖くないの?僕、たくさん殺したよ?』 シャル 「一国の王妃です。争いで死ぬ者など何人も見てきました。      そして、今の戦いで死んだ貴族たちは、      攻撃されて当然の状況の中で息を引き取りました。      ……大丈夫、わたくしはあなたを恐れません。      あなたは殺しを楽しむ人達とは違う。      本当はすぐに殺せた筈なのに、      あなたは相手から殺意を感じるまでは手を出そうとしなかった」 マラジン『いえあの……シビれてて動けなかっただけなんですけど……』 シャル 「結果がそうであったとしても、      まずは逃げようとしたあなたをわたくしは嬉しく思います。      いたずらに傷つけるための力じゃない……楽しむための力だと。      その言葉に偽りがなかったことが、わたくしは嬉しいのです」 マラジン『………』 シード 『……父上?もしや照れてますか?』 マラジン『べ、べつにあんたの言葉で照れてるんじゃないんだからねっ《ポッ》』 シャル 「……その顔で頬を染められると不気味ですわね」 マラジン『そんないきなり冷静に言われても……』 やっぱりツンデレ怒りっていろいろな場面で気味悪がられてるなぁ……。 だが……グオッフォフォ……!! 感じるぞよ感じるぞよシャルよ……!貴様、震えておるな……!? まああれだけ惨たらしく人が粉砕される様を見れば、嫌でも震えるだろうけど。 中井出ボデーじゃなくてよかったかな……あっちの方だと、 人殺しの所為で“呪眼”が相当に染まってたかもしれない。 呪われてるからって、景色が赤くなっていくのってとっても嫌なんだけどなぁ。 ……よし、解呪の武器でも探してみよう。 で、眼をザクッと突き刺すヒィイイ!!!ダメ!怖い!無理! マラジン(まあ、なんだ) どのみち殺してしまったのは確かだ。 眼が染まるのがその咎なら、受け入れて侵蝕するのみよグオッフォフォ……!! さて、後ろを振り返るのもそこそこに、旅立とう……新たなる旅路へと。 ちゃんと機械兵器もシードに回収してもらったし、 機械王の鎧もビットシステムも回収済みよ。 これを猫のもとへと持っていって、機械兵器を作ってもらうのだ! え?ええ、僕の頭の中はほぼ武具のことでいっぱいです。 古代技術や科学開発局がなんぼのもんじゃい!逆にねじ伏せてくれるわ!ワハハハハハ!! そんなわけで僕らは、一路猫の里を目指し、歩き始めたのだった───! マラジン『ところでシャル。キミ、体力に自信は?』 シャル 「全然まったくありません」 マラジン『わ゙ーーーーお゙!!』 あまりの正直者っぷりに、島袋光年漫画風に驚いてしまった。 シード『貴様、ただの足手まといになるために来たのか……?』 シャル「いいえ?夫の素行を知るためです。どれだけ卑劣で醜悪で情けなかろうと、     芯がしっかりしている人がわたくしの好みです。     その点でいえばマラジンはそう悪いほうではありません」 いやあの、そんなやわらか笑顔でマラジンって……。 なんかもう僕、自分が悲しくて泣いてしまいそう……。 マラジン『それであのー……猫の里がどっちにあるかは───』 シャル 「亜人族が姿を消して以来、      地図の中でどうしても確認できないある場所があります。      恐らくそこが、翼人たちが結界を張っているとされる猫の里かと思うのです」 シード 『地図はあるのか?』 シャル 「ええここに。ぬかりはありませんよ。      というわけで、地図が欲しいならわたくしもきちんと連れていくことです」 マラジン『おおすげぇ!ちょ……この時代の地図!?見せて見せて!』 シャル 「……地図が珍しいのですか?ええ、構いませんけど」 取り出された地図を、両手を目一杯広げて見やる。 おぉお……デケェ……!これが……これが今のフェルダールの……! シャル 「どうです?これが───」 マラジン『とんずらぁあーーーっ!!《ドシュウッ!!》』 シャル 「───……え?」 地図を確認し次第、シャルの腕から飛び降り逃走! 予測していたらしいシードとともに、 まだ見ぬワンダーランドへと駆け出しゴキィッ!! マラジン『ゴゲェッ!!?』 ……た途端、僕の首がキュッと絞まった。 ───ハッ!こ、これは……テグス!? シャル 「……うふふふふ……だめですよ、旦那さま。      妻を置いて一人逃げるなんて、そんなことは許しません。      わたくし、気に入ったものは独占したいタイプの人間ですの」 マラジン『だからってテグスで絞めます!?鬼面族じゃなかったら死んでますよ!?』 シャル 「でしたら置いていかないでください…………本当に、驚いたのですから」 マラジン『ヌムッ……』 ニコヤカな笑みから一変、ひどく寂しそうな顔で見つめられてしまった。 うう、僕こういう高貴な人が見せる弱さに弱いのに……。 い、いやいや惑わされるなマラジン誰がマラジンだてめぇ!! って自分にツッコんでる場合じゃなくて! いいよもうマラジンで!この名で遊ぶと決めたじゃないか!でもやっぱり悲しい! とにかく!麻衣香と別れたばっかだってのに妻作って、 しかもそんな人にトキメいてたらお前……ヤバイぜ!? そりゃ愛に時間は関係ないとか言うけどさ! マラジン『………』 シャル 「?」 笑みながら、けれど申し訳無さそうに僕の首を絞めるテグスを緩め、 再び僕を胸に抱くと、屈めていた体を起こして歩き始めるシャル。 その体は、やっぱり震えている。 マラジン『……便所は我慢しないほうが《ポガッ!》ギャウ!!』 シャル 「いぃいいいいいきなりなにを仰るのですか!!」 マラジン『あれぇ!?だってなんか震えているから、      ミレニアムビッグを我慢しているのかと……!』 シャル 「ミレッ……!?そんなに生きていませんし我慢もしていません!      そもそも震えていたのはそんなものの所為ではなく、      独りにされると思ったから───あっ」 言葉の途中で、熱が冷めたかのように押し黙るシャル。 10年経ってようやく年頃の娘っぽいそやつは、 自分と同じ方向を向いている僕をさらにキュッと胸に抱き、顔を赤くしていた。 ……なに?もしかしてこいつ、寂しがり屋? シャル 「……オロは……わたくしのことなど道具としか見ていませんでした。      父様もオロが来てからはわたくしのことなど見ずに、      古代技術や研究のほうに釘付け……帝国には、わたくしの居場所などなかった。      婚儀の日にはキスの一つもせず、      好きでもない男に抱かれる恐怖もあっさりと流れ、      わたくしは正真証明、名だけのエトノワール姫として、婿を取ったのです」 マラジン『え?回想入るの?』 シャル 「入りませんっ!……けど、あなたには知っておいてほしいのです。      正直……わたくしを姫とも思わず、      真っ直ぐにぶつかってくれたのはあなただけでした。      吹雪の日に助けてくれた時も、      魔王と呼んで恐怖していたわたくしを連れまわした時も、      わたくしは心の何処かで楽しんでいた」 マラジン『………………じゃーんけーんぽん』 シード 『あっちむいて───ホイ』 シャル 「わたくしは、居場所が欲しかった。名だけの“飾り姫”ではなく、      シャルロットとしての居場所が。      だから、遠慮なく砕けることの出来るあなたの傍に居たいと、今はそう思える。      不誠実でもいい。自己満足のために、      あなたを利用していると言われても仕方がない。それでもわたくしは───」 マラジン『じゃーんけーんほい。あっちむいて……………………』 シード 『………………《ごくり》』 シャル 「…………あの。聞いてくださってますか?」 シード 『なんだ!今大事な』 マラジン『ホイ!』 シード 『え───あぁっ!《ズビシィッ!》はぎゅっ!』 長くなりそうだったからあっちむいてホイをやり始めたら、これがなかなか面白い。 が、なにぞ文句を飛ばそうとシャルに向き直った方向に指を向かせてあっさり勝利。 勝負は意外な展開で幕を下ろしたのだった……。 もちろん敗者にはデコピン。 マラジン『ふぅ勝った……!で、なんだっけ。      僕を利用して世界のヒーローになりたい、だっけ』 シャル 「その場合はヒロインですし、そもそもそんなことは言っていません!」 マラジン『そ、そうですか。ちなみに僕はツンデレ姫が大好きだ』 シャル 「?……つん、でれとは?」 マラジン『ああごめんうそ。心を許したらこう〜〜〜……ねぇ?      べったりしてくる人ってかわゆくていいと思いません?』 実際にそんな人が居るわけないとは思うけど。 だからね、甘えてきたときのナギーやシードがかわゆくてかわゆくて。 ……ついプロレス技をかけちゃうんDA☆ 僕に甘えてくれたヤツなんて、ナギーとシードくらいだからね……。 紀裡には結局、本当の意味で甘えてもらえなかった気さえする。 シャル 「わ、たくしは……わたくしを甘えさせてくれる人も、きっと好みです」 マラジン『ぬう』 何故だかちょっとムキになって、頬を小さく膨らませながらそんなことを言う。 なにに対抗しているのでしょうかこの人は。 マラジン『そうかじゃあいこう』 でも僕にはかんけーねー! だからゆこう!猫たちが!亜人族が僕らを待っている!! シャル 「ちょっ……待ってくださいそれだけですか!?      つつつ妻があなた好みになろうとしているのにそれだけ!?」 マラジン『シャルちゃんランドセルよ……無理に自分を変えなくていいです。      僕は多分、ありのままの相手しか好きになれないと思うから。      だからね、そうやって思ったことはなんでもぶつけてください。      夫だから妻だからとか、      男だから女だからって理由で分けられるのって好きじゃないんだ。      利用すること大いに結構!      しかし自分を無理に偽ってまで好かれようとする様は潔くなし!      自分を大切になさい。高飛車でも寂しがり屋でもいい。      あなたはあなたらしく振舞い、その上で己が人生を謳歌するのです。      誰になにを言われようがあなたに関係ありますか。      その言葉があなたにとって受け入れたい事実ならば受け入れ、      ただの相手から気持ちの押し付けならば振り払えばいい』 シード 『殺したくない相手の暗殺を頼まれた時、貴様は即座に頷けるのか?違うだろう。      嫌な意思は受け取らなくていい……父上はそういうことを言っているんだ』 シャル 「………」  ……キュム。 シード『ふわぁっ!!?なななななにをするっ!!』 なにを思ったのか、シャルは僕を肩に置くと、シードをキュムと抱き締めた。 そしてやさしくその頭を撫でると、ありがとう、と囁く。 シード『や、やめろぉおっ!!ぼぼぼ僕を抱き締めていいのは父上だけだぁああっ!!』 言いながらも、顔を真っ赤にしてもがくだけで、突き飛ばしたりはしないシード。 ……結構ヨロコんでる? いや違うか、他人に対する気遣いが出来るようになったと考えるべきだな。 うう……シード……わたしのかわいいアァアディイイ……!じゃなくてシード……! この10年で貴様はこんなにも立派に成長したのですね……! ……ナギーとのぶつかり合いは相変わらずみたいだけど。 でもとーさん、ちょっぴり寂しいよ。 シャル 「シードくんは本当に父思いなのですね」 シード 『くん!?やめろ虫唾が走る!シードでいい!呼び捨てろ気色悪い!』 シャル 「そうですか?……ではシードと。      ええ、この響きはあなたの印象によく合ってますね」 シード 『……《かぁあ……》……そ、そうか?そう思うか?そうだろうそうだろう!      なにせ父上がつけてくれた名だからな!ね!父上!』 マラジン『え?う、うん……?』 僕関連のことを褒められたのが嬉しかったのか、挙動不審っぽくなってニッコニコしてる。 わぁ、こんなシード見るの久しぶりだ。 しかも誰かに言われたことでこんなになるのって初めてじゃないか? シード 『今僕は気分がいいぞ!おいお前!      少しだけ父上を持ち運ぶことを許可してやる!』 シャル 「……通常は許可が必要なのですか?」 マラジン『いえ全然……』 前略、武具の中の家族様。 人間関係的に波乱に満ちた旅になるだろうと予測していた旅路は、 案外円滑に進むそうで……なんとなくあとが怖いです。 それでも進みます。だって早く体に戻りたいし。 そんなわけで今日も僕は人生を楽しんでいます。  敬具/マラジン                追思考:……やっぱりマラジンは勘弁してもらいたいです Next Menu back