───冒険の書267/夢と希望があった場所───
【ケース685:弦月彰利(再)/ALONE】 船を降り、砂浜を歩き……森の奥へ。 そう遠いものではなかった船旅を終えた俺達が辿り着いたそこは、朽ちた場所だった。 なにもかもがボロボロで、だけど建物としてはそこに存在している。 夜の暗さに包まれた孤島はひどく寂しげで、 時折に聞こえるなにかのうめき声だけが、波の音に混じって空気に流れてゆく。 彰利 「………」 岡田 「こりゃあ……」 すっかりぼろぼろで、横倒しになっていたそれを見やる。 ペット研究所と書かれたそれにはコケや雑草のツルがからまり、虫が這っていた。 藍田 「……なんだろな。嫌な予感しかしないわ」 彰利 「俺も」 アタイも、なんて言葉は出なかった。 恐らく中は壊滅的な状態だ。 にも係わらず、柾樹の野郎はみずきや刹那小僧が大変なことになっていると言った。 それはつまり…… 岡田 「……生命科学研究所」 藍田 「……だな」 彰利 「ん……」 心の中にひどい寂しさが溢れる。 ここにはもう、生きている“人”なんて居ないだろう。 ペットってのは恐らくモンスターのことだろうが、 その研究をしてた上に……時折聞こえるうめき声。 彰利 「……行くか。せめて、手厚く葬ってやろう」 藍田 「いいのか……?お前、ちょっと苦しそうな顔してるぞ?」 彰利 「いいよ。ヘンな言い方になるけど、     こういう(まが)ったモノを消してやるのは家系の務めなんだ。     もし人間の心が残ってるなら、残ってるうちに逝かせてやりたい」 岡田 「……そか」 もはや扉としての機能すら果たしていない入り口をくぐり、中へ。 と、その途端に異臭。 藍田 「うっ……!?な、んだこりゃ───」 入った途端に感じた異臭は、 すぐ傍で朽ちていた人のような獣のようなものから放たれていた。 もはや息もなく、向けた松明が灯した床には、 “たすけて、かあさん”とだけ血文字で書いてあった。 その血文字も既にカペカペで、俺達が歩いただけの、ほんの小さな風で欠けてしまった。 岡田 「………」 藍田 「行くか」 頷くしかない。 静かに暗闇へと進み、松明を掲げながら…… うめき声が聞こえる度に、ひどく悲しい気分になった。 岡田 「あ……おい、二人とも」 彰利 「岡田……?」 藍田 「どした?」 と、途中まで歩いたところで、岡田が足を止める。 促されたそこには……電気のスイッチらしきものがあり、……だが。 彰利 「…………」 藍田 「覚悟、いいよな」 岡田 「……ああ」 入り口にあんなものがあった。 それはつまり、他のいろんなところにもああいうものがあるってことで─── もしかしたら松明だけの視界のほうがいいかもしれない。 しれないが、入ったからには全部を見るべきだと、俺達はスイッチを押した。  ───ヴ、ヴ……ミ、ン…… 岡田 「うっ……!」 藍田 「うげっ……」 数回の瞬きの最中に地獄があった。 やがて明るくなったそこは、至るところが赤く、 臓物がぶちまかれ、ガラスには血まみれの手でかきむしったあとが乾き残っていて…… 悲しみで気づかなかったのか、建物の中は虫でいっぱいだった。 腐敗臭と呼べるものは既になく、ここらのやつが死んでからは、 少なくとも入り口のやつが死ぬよりずっと時間が経っていることが解った。 岡田 「……なにがあればこんなになるんだよ、なぁ……」 藍田 「俺に訊かれても解るかよ……」 彰利 「………」 どこに進めばいいのかも解らない。 みずきや刹那だって、既に町へと逃れたかもしれない。 だからまず、俺はすぐ横の部屋に入って、ここでなにが起こったのかを調べるべく、 机の引き出しや研究ボードを片っ端から漁り、確認した。 だがそれらしいことはなにもなく……───いや。 崩れた魔導器の下敷きになっていた、古びた研究レポートを見つけた。 岡田 「弦月……?」 藍田 「それって」 彰利 「研究レポート……みたいだな」   ○の日。  旅人たちが研究資金をくれるようになってから、研究は劇的に完成への精度を高めた。  ペットを人の手で完成させる……  いわばモンスターを作り上げるこの研究もいよいよ大詰めだ。  彼らには感謝の言葉もない。   ○の日。  カオレドがゴブリンの細胞分裂を成功させた。  今まで出来なかったことが成功した瞬間、僕らは喜びに声を上げて燥いだ。  あとはこのゴブリンが人に懐き、ペットとなってくれるかだ。  きっと大丈夫、やりとげてみせる。   ×の日。  フラスコから出たゴブリンは大人しく、感情も豊かで、だけど人に従順だった。  成功だ。これで彼らに恩返しが出来る。  少し様子を見ていたが、これといって問題点は見つからない。  空気に触れた途端や陽気に当たった途端に死ぬ、などということもなかった。   ×の日。  新たに受け取った研究資金で特大フラスコを製作。  より大きなモンスターもペットに出来るよう、研究を進めていった。  今度の研究は少し危険が伴う。  異なる種族のモンスターを溶かし、融合させるのだ。  そのための巨大フラスコ。細胞レベルまで溶かし、異なる細胞を強制的に融合させる。  怪盗ペリカンというモンスターの細胞を調べて思いついた方法だ。  大丈夫、きっと上手くいく。   □の日。  実験は成功した。  ゴブリンとガーゴイルを融合させ、翼の生えたゴブリンを製造することに成功した。  しかも従順であり、ペットとしては申し分ない能力を秘めている。  とても嬉しい。この成果を王国に報せれば、きっと大変な成果となる。  かあさん、待ってて。いつまでも親不孝だった僕だけど、もう少しで───   ▽の日  今日も実験だ。とんとん拍子に成功していく中、みんなの顔には笑顔が広がっていた。  そうだ、今までみたいに失敗ばかりに嘆く日はもうない。  僕らはこの実験を誇っていいん───、〜……、  なんだろう、今日はやけに地震が多い。  遠くでなにかが爆発する音や、耳障りな───  ……、〜;、なにが起こったのか解らない。  とてつもない地震、というのは解った。けど、体が、体がトケ……トケ、テ……  フラスコが割れて、融合エキガ、ナガレだシ……   ……、……  キョウが、ナンのヒだカ、おもいだせナい……  カラだガぐちゃぐちゃシテテ、デモ、タイモウが……  アレ……ボクのカラダ、ドウナッテ……   ……、カラダがカユイ  ムシがうるさい   ナンデ こんナ  ナニかタベタイ  デモここにイルの、ミンナなかま……ミンなぐちゃぐちゃ……でもナカマ……  カアサン、タスケテ……イタイよ……カアサン……  ……ココニいちゃイケない……  カエロウ……かえってカアサンにあやまルんだ……  ごめん、カアサン……ボク、ぼく……ぼクは……        ……もう、ニンゲンじゃ、な───  ……トビラがアカナい……  ジシンのショウげきで、ユがんでしまっている……  かえれない……カアサン、カア、サン…… ……。 藍田 「〜〜……っ……ひでぇ……」 岡田 「じゃあ、やっぱりここで死んでるやつら、全部……」 ……元は人間だったヤツってことだ。 そして、入り口のすぐそこで死んでたヤツこそ、これを書いたヤツ。 とてつもない地震ってのは、 サウザンドドラゴンが死んだことで起こった“時狂い”が原因だ。 彰利 「…………おいよ。ここに居るやつら全員、討滅すっぞ」 藍田 「言われるまでもねぇやな」 岡田 「相手の都合は?」 彰利 「お構いなし!!」 藍田 「力の限りゴーゴゴー!!」 岡田 「……いっか。俺も同じ気持ちだし。やると決めた時には───」 彰利 「オウヨ!もはや行動は終わっておるのよ!」 相手はバケモノになってでも生にしがみつきたいかもしれん。 人としての理性があるうちに、なんてのは討滅する方のエゴだ。 だが、俺達はもはや迷うまい。 エゴだろうがどうだろうが、自分のやることに信念を持って突き進もう。 それが間違っていたとしても、後悔しても、前に進める覚悟を持とう。 武器を、力を振るうってのはそういうことなのだから。 彰利 「人生は?」 藍田 「ゲームだ!」 彰利 「進む道は?」 岡田 「自分で決める!!」 彰利 「後悔は?」 藍田 「しようがしまいが生きていく!!」 岡田 「それが男だ任侠だ!!」 彰利 「───っしゃあ!!そんじゃあ行くぜ!     あ、みずき見つけたら間違えてコロがしても構わんから」 岡田 「任せとけ!!」 藍田 「がってんだ!」 僕も合わせてクズでした。 ───……。 ……。 ざり、ざり…… 暗がりを歩いてゆく。 明りが無い場所はやはり暗く、 離れた位置から差す光を頼り歩くも、やはり足をとられたりはままにあった。 そんな中でヒトを見つけると、覚悟を決めていようが心が揺れる。 ヒト 「どうしてこんなことになったんだろう……俺は、間違っていたのか……?」 そいつは俺達を確認すると、悲しげな声を腹の底から搾り出すように呟き─── 途端、ヒトの形を破壊するようにバケモノへと変化する。 悲鳴をあげながら、涙を流しながら、 目の前のものを襲わずにはいられない獣の習性を胸に、襲い掛かってきた。 そんな、ヒトであったそいつを─── 藍田 「ああ、間違ってたさ。あの世で何度も慟哭しろ。     未知の研究ってのはな、程度を見極めなけりゃあ毒にしかならないんだよ」 ギャリンッ!と地面に具足を擦り付け、摩擦で発火させた藍田が迎え撃つ。 行動はひとつ。 発火させた足で地面を捻るように蹴り、発生した多少の回転の力を殺さず、 同じく燃え盛る右足で向かってきた物体へと 藍田 「羊肉(ムートン)ショット!!」  キュヴォアバッガォンッ!! ───……最大の威力だったのだろう。 バケモノは死んだことにすら気づけぬまま、 塵も残さず一瞬にして砕け散り、燃やされ、消滅した。 ……それを確認した藍田は、具足から燃え盛る炎を蹴り払って、小さく息を吐いた。 その時、小さく“やっぱ……痛ぇよな……”と呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。 ……だな。 我を貫くってのはどうしようもなく我がままで、痛い。 そうして気づいたのだろう。 藍田は突然壁を殴りつけて、───よほど強く殴ったのだろう、 滲み出た血を見て、もう片方の手でその手を握り締めて、すまないと口にした。 岡田 「ああ……そう、なんだよな……」 我を貫くこと、殺しても前を向くこと、後悔をしても歩き続けること。 それがどんなに苦しくて、支えてくれる人が居なければどれほど悲しいか。 それを今、我を貫こうとすることで知る。 藍田 「……俺、決めた。魔王に……いや。提督に会ったら、まず殴ってもらう。     そしてもう二度と裏切らねぇ……───絶対にだ」 岡田 「俺もだ……“バケモノになった人間”を殺すのがこんなに喉に詰まるのに、     なんの罪もない、普通の人を殺し続けたあいつだ……     しかもゲームじゃなくて現実世界で……。     どれだけ苦しかったんだろうな……誰にも理解されないってのは……。     映像を見ただけじゃ足りねぇよ……俺達なんにも解ってなかった……」 藍田 「───」 岡田 「───」 ……一頻り悔やんで、目を上げた二人。 その目には、もう迷いはなかった。 けど。 彰利 「絶対にってのは、中井出には言わんでおいた方がええよ」 それだけは言っておこうと思った。 その途端に怪訝な顔されて、当然の質問を返されたけど。 藍田 「それ、どういう意味だ?」 彰利 「全てが終わった時、俺達が中井出を覚えてられる可能性が無いからだよ。     勝っても負けてもどうなっても。一度忘れちまったものは取り戻せないさね。     これはルドラの力だ。     あいつがそれぞれの“やること”に加減をするとは思えない」 岡田 「でもよ、俺達一度忘れてるんだろ?だったら───」 彰利 「だったら、また全員が忘れるように力を発揮させるだろうね。     あいつ、ヒネクレてやがるから」 中井出の記憶の中で見たあいつは、俺が知ってる悠介とはまるで違った。 あれじゃあ本当に癇癪起こした子供だ。 ……そんで、子供ってのは容赦なんてしない生き物だ。 ほぼ確実。 スッピーの力が緩んだ瞬間、俺達が中井出への興味を薄れさせた瞬間、 またはこのヒロラインが終わった瞬間。 俺達はあいつを忘れ、 またはあいつとの記憶の全てをゲームの中へと置き去りにしてしまうんだろう。 ゲームの中で死ぬと、中井出は言った。 そうなれば、中井出を覚えていられる要素など何処にもなくなるのだ。 本人が、消えてしまうのだから。 そして俺達は、悠介の部屋に残された中井出の体だけを見て、 誰だこいつ、知ってるか?なんてことを、口々に呟くのだ。 そいつがどれだけ俺達に楽しさを教えてくれたのかも忘れて、残酷に。 だから絶対に忘れない、なんて言葉はあいつの傷口を抉るだけだ。 どうしようもないこと、抵抗できないことなんてのは、 それこそどうしようもなく存在するのだから。 ……あいつが、洗脳に抵抗できなかったのと同じように。 彰利 「ま、いいさね。今ここでこの話したって進まん。滅ぼしましょう」 藍田 「……だな。とにかく一発殴ってもらう。それは確実だ」 岡田 「いや、いっそ殴り合いの喧嘩をしよう。本音は拳が語ってくれるさ」 彰利 「おおいいね!そしたら間違い無くアタイたちの勝利YO!!」 藍田 「そうなのか?……ああ、そういや素手だと弱いっていってたっけ」 いまいち緊張感が欠けてしまったこの場を、出来るだけ明るく務めて歩いてゆく。 気乗りがしない状況なのは、どれだけの戯言を口にしたって変わらない。 出てくる敵を微塵にしては、奇妙な罪悪感に襲われ、いっそ謝りたくなってしまう。 迷わないって決めたからって、謝りたくないわけがないのだ。 謝ってしまえば自分の中の自分が、自分を許してくれるから。 誰も許してくれない中でなら、せめて自分にだけでも許されたいと思ってしまう。 ……やっぱ、バケモノになりたくてなったわけじゃないヤツを、 一方的に殺すのはツライのだ。 ヒト 「たすけて……たすけてぇええ……」 岡田 「断る!」 ヒト 「《ザゴォッフィィイン!!》ア───アァアア……」 いちいち、と言ったら言い方が悪いのも当然。 苦しそうに悲しそうに死んでゆく相手を眺めては、 塵さえ残らないように完全にトドメを刺す。 気分のいいことではないが、やると決めた以上はやっていこう。 冥福は祈ってやれないけど、このゲームにもあの世ってのがあるなら…… せめて、あの世では元の姿でいられるように、その醜い姿を木っ端微塵に。 ヒト 「人間のままでは決して辿り着けない力の境地……お前も味わってみろ!」 藍田 「“(ブゥロ)───焼き(シェット)ォッ”!!!」 ヒト 「《ヂュガグチャォン!!ギガァアアッ!!」 また、人外の姿を誇らしげにしている……既にモンスターの部分に人格を食われたやつは、 それこそ一切の手加減も無しに潰し、塵にした。 ここのヤツらが死んでも塵にならないのは、 そこらに散らばってる臓物や、入り口で息絶えていた研究員を見れば解る。 だから自分たちの手で、可能な限り潰した。 岡田 「とっ!はっ……!お、おいっ!こいつっ───!」 藍田 「増殖しやがる!なんだこりゃあ!」 中には当然強いヤツも居て、そういうヤツに限って“殺してくれ”と願ってくる。 もはや自分では体をコントロールできないのに、意識だけが残っているのだ。 ……正直、そういうヤツを殺すのはこたえた。 藍田も岡田も次第に口数が少なくなっていき、 体じゃなく心が疲れていっているのが目に見てとれるほどだった。 彰利 「次のフロア行くけど……大丈夫か?」 藍田 「……わり……弦月……。つらい……つらいよ、これ……」 岡田 「みんな泣くんだよ……あの頃に戻りたいとか、     こんな体になりたくなかったとか……」 彰利 「したらここで待っとる?下はアタイだけで行ってきてもええけど」 藍田 「……いや、行く。ここで逃げたら卑怯な気がする」 岡田 「だな……勝手な討滅始めといて、自分が気持ち悪くなったからやめるなんて、     そんなのあんまりに勝手だもん……な」 彰利 「……そか」 小さく頷いて、階段を下りて下のフロアへ。 そこは、過去にモンスターの放し飼いでもしてたのか、 木が飢えてあったり草が生えていたりと、 建物の中なのに外に居るような錯覚を覚えさせる場所だった。 モンスターは……うじゃうじゃ居る。 ヒトであったりモンスターであったりと、 それらが降りてきた俺達を見て唸り声をあげるのだ。 外に居ても聞こえていたうめき声の正体は、恐らくこいつらだ。 通気口かなにかを通して聞こえてきていたんだろう。 彰利 「……お覚悟、よろしいか」 藍田 「《すぅ……はぁ……》───いつでもこい!」 岡田 「私たちは───一歩も引きません!」 彰利 「じゃああと全部任せたぜ岡田くん!」 藍田 「よろしくな!」 岡田 「うぉおおおい!?」 時折に冗談でも混ぜなければやっていられなかった。 そう……ひとつ間違ってたことがある。 俺も確かに人を殺した。 たくさんたくさん、晦神社の境内に集まっていた大人どもをたくさん。 けど、それは“俺が憎んでいたヤツ”であって、殺したくなかった相手じゃあなかった。 だからつらい。こんなにもつらい。 こんなものを現実で背負うには、人一人の背中は小さすぎる。 ゲームだからまだいい。 でもあいつは─── 彰利 「……くっそ───!オォアァアッ!!」 撃を振るう。 殴り、引き裂き、燃やし、消滅させ、群がるヒトやモンスターを片っ端から潰していく。 心がざわざわと焼け付くのを感じる。 いっそ泣きたいくらいの罪悪感。 たすけてと言ってくるヤツを殺すのはこんなにもつらい。 今俺達に殺されそうだから、助けて、って言ってるんじゃない。 こいつらは俺達にこそ助けてと言ってきているのだ。 そんなやつを殺さなきゃいけない。 たすけて、っていうのは殺してくれと同じ意味ではないのに。 この姿から解放してくれと言っているのに、殺さなきゃいけない。 デスティニーブレイカーと月切力を行使すれば或いは、とも思った。 なのにそれを試してみようともしなかったのは、 きっと……力に慢心するのはやめようと思ったから。 力があれば救える命がある。だからって目の前のものをなんでも助けるのは違う。 そう、思ったから。 でも、じゃあ。 もしみずきや刹那小僧がそんな状態になってたら、俺はいったいどうしているのだろう。 ……そんなことを考えて、自分の身勝手さに吐き気がした。 彰利 「はっ───ぐ……!」 だからぶつけた。 謂れの無い苛立ちを、ヒトやモンスターに。 結局“なにかを救う”っていうのはいいことばかりじゃなくて、 理屈を語り始めたら終着なんてものはなくて。 答えの出せない問答に理性を焼きながら、 謝りそうになる自分を無理矢理押し込めて……殺した。 せめてこの焼け付くような悲しみに慣れてしまえばいいのに、と思いながら。 ───……。 ……。 全てが滅んだ人口森林の奥には部屋がいくつかあって、 そこにはヒトやモンスターが無残な姿で檻の中で倒れていた。 変わってゆく自分が怖くて、電流の流れる檻の中に自らを閉じ込めたんだろう。 ヒトの手は既にスミクズと化し、隣のモンスターは飢えゆえか死亡していた。 どうしてモンスターは、このヒトを食わなかったのか。 どうしてヒトは理性を失ってまでモンスターを襲わなかったのか。 その答えは、無傷なまま力尽きているモンスターの傍らにあった。 生前のものなのだろう……笑顔でこの小さなモンスターを可愛がる、 どこかこのヒトの面影が残る人間が写った写真があった。 ペットと主人の関係だったのだ。 理性を失っても、空腹と戦ってでも、二人は争わなかった。 どれだけの精神力が必要だったのかなんて解らない。 手がスミクズになるほどの電流を受けてなお、近くのペットを襲わなかった彼は、 それほどこのモンスターを可愛がっていたのだろう。 岡田 「…………おい、あそこ」 藍田 「ああ……」 その部屋の奥には、フラスコをゆらゆらと揺らす白衣の女。 岡田と藍田の声に振り向いたソイツは、人としての姿を……いや、人、なのか? 女  「……いらっしゃいませ。ようこそペット研究所へ」 濁った声もなく、普通の声が届く。 静かに笑み、フラスコを近くの机に置くと、にこにこしながら近寄ってくる。 間違いなく人だ。 人なのに、俺達は攻撃態勢を緩めなかった。 女  「どんなペットをご希望ですか?モンスターからキメラまで揃い踏みですよ。     ……ええ、もちろん竜族も。     この10年、理性を失うばかりだった人たちとは違います。     体が変化するたびに培養ペットを殺す薬を投与し続けて、私は残りました。     お陰で見てください。モンスターのような醜さはないまま、     彼らの寿命と力だけが私に残りました。その力でやってやったんです。     竜族の子供を潰し、細胞を抜き取って……」 女は嬉々として語る。 体はモンスター混ざりではないのに、……ああ、そうか…… こいつの理性はとっくに、恐らく溶解液に飲まれた頃から─── 女  「所長?所長……私を褒めてくださいよいつもみたいに!     カオレドは優秀だって!私は所長のためならどんな苦しいことだって!     だから!だからだからダカらだかラ───!!アァアアアアアアッ!!!」 そして変化する。 目の前で、人間だったソイツがモンスターに。 人のままで居られた、なんてのは錯覚だ。 人のカタチを保った状態にまでコントロールできるってだけ。 感情が昂ぶっただけでコントロールできなくなる、完全でもなんでもない存在だ。 岡田 「カオレド、っていったよな、こいつ」 藍田 「ああ。確か、レポートに書いてあった名前だ」 ゴブリンから始まり、竜までの様々な姿を吸収したような異形。 気色の悪い、どんなモンスターともとれない悲鳴を上げるソイツは、 白目になった目から涙を流しながら襲いかかってくる。 彰利 「……塵も残さず消しましょうね」 藍田 「恨みはねーけど、迷ってもいいから成仏してくれ」 岡田 「勝手な言い分だけどな……《ギャヒィンッ!!》」 岡田が抜く。 既に剣には幾重もの光が込められており、それを腰にあてがうように構え、ただ振るう。 岡田 「ダンシングソード解放!ソニックバスター!」 アタイ目掛けて振るわれた拳。 あと一秒でも経っていれば、アタイを吹き飛ばしていたであろうそれが、 抜刀……というよりは振り抜く剣速によって生まれた衝撃波によって、微塵と砕ける。 カオレド『アギ……!?』 カオレドの右胸から肩、腕にかけては全てが消滅していた。 声に出されなければ気づけないほどの速さだ……すげぇな、ブレードスナッパー。 三本あった腕が、一本の腕と一緒に余波だけで消滅した。 が、岡田はその事実に逆に驚いていた。 岡田 「うえぇっ!?一発で仕留めるつもりで撃ったってのに───!     気をつけろ!こいつ意外に───!」 藍田 「《ゴバァン!》任せとけ!一発でダメなら連撃だ!』 次いで、藍田がヴィクター化して疾駆する。 地面を滑るように駆け、 藍田 『“すね肉(ジャレ)”!!』  ヒュドゴォンッ!! カオレド『ギアッ!?』 まずは水面蹴りにて足払い。 藍田 『“反行儀(アンチマナー)キックコース”!!』  ドッボォンッ!! 数瞬浮いた体に真上へと突き上げる蹴り上げ。 同時に跳躍し、足を掴むと身を翻してカオレドの上に乗り、 天井に届くまでに連撃を加え続けてゆく───! 藍田 『首肉(コリエ)肩肉(エポール)腿肉(ジゴー)頬肉(ジュー)腹肉(フランシェ)腰肉(ロンジュ)三点切分(デクパージュ)!!』 喩えるなら、流れるような舞。 高い天井までを、舞いながら昇るよう、蹴り上げて駆け上がりを繰り返し、 その度に炸裂する音が広い部屋でさえ強烈に響く、 そして、敵の固い鱗を蹴り続けることで摩擦が発生。 藍田の具足は燃え上がり、両足のそれが完全に濃い蛍火をたたえ、燃え盛った時。 藍田 『“悪魔風脚”(ディアブルジャンブ)───“画竜点睛(フランバージュ)ショォットォオオオッ”!!』 体をぎゅりんっ!と回転させた藍田が、 オーバーヘッドキックの要領で蛍火色に燃え盛る具足を─── 天井に飛ばされるだけの数秒のうちにボコボコとところどころがヘコんだカオレドへと、 一気に叩きつける!!  ルヴォァドッパァアアンッ!!!  ギュリャドゴォオオオオオオオンッ!!!! 岡田 「うおぉおおおおっ!!?」 彰利 「ムッハァーーーーッ!!」 熱と空気が螺旋を作り、藍田が居る場所から床までの距離に綺麗な螺旋風を作る。 落下までに一秒もかからず落ちたカオレドは、恐らく死んでいるか瀕死だろう。 確認するなら近づくのが一番だが、どうやら藍田はてんで油断をしてなかったらしい。 フランバージュショットをすることで少しだけ上に飛んだ間は、 丁度そこにあった天井に脚を添えると 藍田 『疾風の───如く!!《バガァンッ!!》』 懐かしのジョブアビリティで天井を蹴り弾くと、 自らを横回転させて地面へと降りていった。 ……もう確認するまでもねぇ、あれが来る。 カオレド『ア、ガ……ギ……』 藍田  『“(ブロ)───』 出来た気流を上手く巻き込み、高速回転する藍田。 その下では、やはり生きていたらしいカオレドがのそり、と起き上がり 藍田 『───焼き(シェット)ォオオオオッ”!!!』  キュヴォドガァォオンッ!!! ……それで終わった。 蛍火色……いわゆる薄緑の炎が燃え盛る具足はカオレドの顔面から脚までを完全に貫き、 その炎を以って焼き尽くした。 ……空飛ぶ刻震竜でさえ落とす蹴りだもんな、 融合モンスターくらいが耐えられるわけがない。 岡田 「うへー……」 彰利 「うわー……」 敵に回したくないね、うん。 ただの蹴りなのにこの威力はどうかしちょる。 でもレヴァルグリード装備してた頃の方が、攻撃力とか高かったんだろうね。 だって九頭竜闘気の効果ってば……この強さ、ハンパねぇ!ってくらいだし。 藍田 『《バシュ……》……ふう」 そして、普通の状態に戻った藍田が戻ってくる。 なんとなく気になって見下ろしてみたクレーターには……塵ひとつ残っとりゃせんかった。 ……目が覚める破壊力だった。 お陰で、暗くなってた心も多少は蘇った。 彰利 「……次、行くか。あとはあっちの狭い通路の先だけだ」 岡田 「おー……」 藍田 「そこに豆ボーイが居るのか?」 彰利 「ドモボーイみたいでステキだね、その名前」 藍田 「俺も今そう思ってた」 嫌な気分を払拭したかっただけかもしれない。 けど俺達は無理矢理にでも談笑しながら、奥の部屋を目指した。 ブチ破られていた扉を潜り、階段を下りて───そして。 すぐそこで、倒れているみずきと刹那小僧を発見する。  ゴキィッ!ジュウウウ!! 豆村 「いでうわちゃあああああーーーーーーーっ!!!」 彰利 「あ」 岡田 「あ」 藍田 「お?」 じゃけんども上の方ばっか見てた藍田は気づかなかったらしく、 余熱の残る具足でコキュリとみずきの手を踏みつけたのです。 当然、みずき絶叫。 飛び起きて、はひょーはひょーと左手に息を吹きかけている。 豆村 「あ、あれ?親父?……に、えぇと」 藍田 「藍田だ」 岡田 「岡田だ」 彰利 「弦月だ」 豆村 「豆村だ《バゴォ!》ヘボル!」 彰利 「敬語使えコノヤロー!!」 豆村 「ノリで言っただけだろーが!なんで殴るんだよくそっ……刹那!おい刹那!」 刹那 「う、ん……うあ……?」 殴られた頬を押さえながら、ハッとして刹那小僧を起こすマイサン。 ……ママンは誰なんだっけ。 彰利 「みずき。みーずき」 豆村 「なんだよ親父、今いろいろ立て込んでて───」 彰利 「貴様の母親って誰だ」 豆村 「知らねー」 即答でした。 …………あれ?あ、まあ……いい、のか? なんか気になってた筈なのに、その興味が薄れて消えた。 ……いっか。どうでも。 多分デスティニーブレイカーの効力なんだろうけど、それはそれだ。 みずきも相手……まあ母親だな。 に、父親は誰だと訊かれたら知らんと答えるんだろう。 この状況はそういう感じに働いてるに違いねー。 彰利 「んで、こげんところで睡眠愚なんぞしてなにやってんだテメーワ」 豆村 「…………寝たくて寝てたんじゃねーよ。責任取ろうとしてただけだ」 彰利 「責任?」 ハテ。 ……もしや大地震を起こしたのは刻震竜ではなくみずき!? 豆村 「この研究所に研究資金投資したの、俺と刹那と柾樹なんだ。     柾樹は途中でやめたけど、俺と刹那は続けた。……その結果がこれなんだ」 彰利 「ほほう……」 ナルホロ、責任ね。 だがしかしだ。 彰利 「自惚れんな小童風情が。ガキが一端に責任がどうとかほざいてんじゃねぇや」 豆村 「なっ───なんだよそれ!俺だっていろいろ考えて───!     今だって眠らせられなきゃここのボスを倒せてたんだ!それが───」 彰利 「ふむ?ボスを倒しゃあバケモンになった研究員助けられんの?」 豆村 「それは……」 彰利 「この世界のこと、あんまりゲームとして見るのはやめろ。いい人生経験になる。     何かを殺すことも、殺さなきゃいけないことも、     地界じゃ絶対に出来ないことの大半を学んでいけ。     ……ひとつ訊くけどな。     お前、上のフロアに居たバケモノども、どうして殺さなかった」 豆村 「え……だって、元は人間だったんだぞ?殺せるわけ……ねぇじゃんかよ……」 彰利 「それは、自分がそいつらに殺されそうになってもか?」 豆村 「う、ぐ……」 言葉に詰まる。 その時点で、もうなにを言ってもウソが混じることを、みずきは理解していた。 だからなにも言わず、目を逸らした。 彰利 「上のやつらは俺と藍田と岡田で殺してきた。     あとは、この先の……お前が言うところのボスだけだ」 豆村 「───!?殺……し、たのか……?     だ、だって、あいつらは……俺達の所為でバケモノになって……!     家族だって居たんだ!帰りを待ってる人とか!会いたい人とか!それを───!」 彰利 「どのツラ下げて会えっていうんだ?どのツラ下げて帰れっていうんだ?     ……みずき。てめぇ勝手な考えで理想をぶつけまくって、     それが本当にその状況で救いになるとでも思ってるのか?     10年だ。10年あって、ここに居た奴らは帰ることが出来たか?     誰かに会いに行くことが出来たか?」 豆村 「っ……だ、だけど……親父、だけどよぅ……!」 納得が出来ないんだろう。 もはや、どう返していいかも解らず、喉を詰まらせるように言葉を発するみずき。 その目は道に迷った子供みたいに、不安に飲み込まれていた。 彰利 「……心に刻んでおけ。これが何かを殺すってことだ。我を通すってことだ。     理不尽でもなんでも、相手の都合を自分の中で勝手に思い描いて、     殺すのは可哀想だからだなんて言ってられる世界じゃないんだ。     だから……強くなれ。身も心も。     その代わり、地界では思いっきり甘い、馬鹿な自分になればいい」 豆村 「………」 彰利 「んで、親が元気で現役やってるうちはまだ甘えとけ。     責任がどうとかなんて難しく考えんなバーロ。     ……ほら、ここは俺達が片付けっから。研究所の外で待ってろ」 豆村 「…………」 彰利 「……ん?…………ああ、はは」 俯くみずきの足元に、水滴が落ちた。 ……解ってる、悔しいんだ。 自分の所為で、自分が係わったことなのに、自分の力で解決してやれないことが。 やっぱこいつ、俺の子だわ……。 無鉄砲なのにやたら責任問題に弱くて、力不足に悩んで泣いて。 けどま、ゼノに立ち向かっていった無限地獄に比べりゃぬるいぬるい。 彰利 「ほら、行け」 豆村 「……ごめん。ごめんな、親父……」 その言葉にポンポンと頭を叩いてやると、 みずきは俺に顔を見せずに刹那小僧とともに走っていった。 で、一緒に青春の夕陽に向かって走り出そうとしている藍田と岡田をガシリと捕まえると、 ズリズリと引きずって歩き出す。 藍田 「ああっ!夕陽が!青春が遠ざかってゆく!」 岡田 「せんっせぇーーーーっ!!みんっなぁーーーーーーっ!!」 彰利 「やかましゃあとよ!!キミらが逃げ出してどげんすんの!」 藍田 「や、だってよぅ。美しい親子愛を見たら、俺達も走らなきゃいけない気がして」 彰利 「馬鹿じゃなかと!?そンで逃げたらどこもこもなかろうモン!?     アタ自分がなんしょっとか解っとーと!?はらくしゃあ!!」 岡田 「青春を謳歌しようとしていたんだ!他意はない!」 藍田 「キモは?」 岡田 「…………あるかも」 彰利 「じゃ、行こうか」 藍田 「そうね」 岡田 「ほんとそう」 馬鹿話の中で、小さく覚悟を。 この先に待ってるボスってのがなんなのか、俺達にゃあ解らんが─── それでもみずきに追い詰められるようでは下の下。 だが油断はせぬわ。 彰利 「ええかい?敵見つけたら全力ブッ放すから、キミらの力ちと借りるよ?」 藍田 「力って……どうやって」 彰利 「月影力で影繋げて、黒と影と闇で強制的に力を吸い出します。     あ、ただしキミらの同意なしじゃあ吸い取りづらいからそこんとこよろしく」 岡田 「……オーケイ。言い方悪いけど、早く終わらせたいからな」 藍田 「そういう時は“早く終わらせてやりたからな……”って切なげに言えば、     実に偽善者チックで最強だぜ?     なんとなくバケモノ化した研究員のために頑張ってるように聞こえる」 岡田 「正直に生きよう。俺は早く終わらせたい。終わらせてやりたいんじゃなくて」 藍田 「ナイス自分のため。他人のためだ〜とか言うよりよっぽど真っ直ぐでいいわ」 彰利 「キミら逞しいねぇ。まあ、アタイも同意見だけど」 悠介もそこらへんを自覚したんでしょうね。 他人のためだとかなんとか。 確かにヤツの場合はマジで他人のためにやっとったけど、それにも限界はあるってもんだ。 藍田 「まあ、偽善でもなんでも、真っ直ぐなヤツはそう嫌いじゃないけどな」 岡田 「そうそう、でも多少ヒネクレててさ、冗談を冗談として受け取れるヤツがいい」 彰利 「オウヨ。そんで」  ガッシャァアアーーーン!! 彰利 「ヒアーーーーッ!!?《バゴォ!》ブボルメ!」 藍田 「うるせぇーーーっ!!びっくりするだろ《メゴシャア!》ギサルメ!」 彰利 「アタイ悪くないよ!?なにかがガッシャンいったのが悪いんだ!」 岡田 「殴り合ってないで!なんか居る!なんかでっけぇの!」 いつの間に辿り着いていたのか。 俺達は研究所の最奥の広間に居て、 その空洞の中心……割れた巨大フラスコの下に巨大生物が居るのを確認した。 巨大生物っつーか……竜だ。 岡田 「低速思考───開始!状況整理をしよう!恐らくこの場所に研究員が集まっていた     時に地震が起こり、フラスコが割れたのはまず間違いない!ここで全ての研究員が     人からバケ混じりになり、苦しみながらも各所へ移動!理性があるうちにレポート     にいろいろ書いたりだの同士討ちをして内蔵ブチマケたりだのをして、しかしそん     な中で一体だけ出ようにもここから出られなかった者が居た!否!恐らくこの場で     幾度も融合させられた存在!プレゼンテッドバイ:カオレド!こいつは恐らく、カ     オレドのヤツが丹精込めて作り上げた融合モンスターに違いねぇ!」 藍田 「あいよご苦労さん!」 彰利 「んじゃいくぜ!《グッ───ギカァンッ!!》」 左手で右頬を包むように触れ、強く撫でるようにして手を振り払う。 途端、そこには破面が出現し、俺の中で一気に気が引き締まる。 能力的にはそりゃ変わらないけど…… これすると波動系の能力の色が変わるから好きなんだよね。 こう……真っ黒から深紅になるっていうか。思いっきり黒い紅になる感じ。 次いで自分の影を藍田と岡田の影に伸ばし、力を引き出してゆく。 藍田 「《バシュゥンッ!》よっしゃフルパワーだぜ〜〜〜っ!!』 岡田 「よし来い!!」 それに気づくや藍田がヴィクター化して、 力が吸収される方向へと思い切り力を解放してゆく。 岡田も剣を抜き取ると力の解放を始め、それらの力が影を通してアタイの中へと……! 彰利 『悪ぃな……説明してる時間はねぇんだ───《ゾゾゾゾゾゾフィィインッ!!》』 黒飛翼を展開する。 レヴァルグリードの八枚と、九頭竜闘気の九枚×5を。 それらが黒い稲妻を発するようにバヂバヂ、ヴヴヴ、ン……と震えると、 俺の体が黒い光に包まれる。 彰利 『建物ごと、夢を抱いたまま死になさい?』 一点集中。 突き出すのは両手ではなく、片手だけ。 だがそこにこそ“出口”を絞り、 掌の先に集めた深紅の闇光に集めた力と53翼の黒を注ぎ込み─── 彰利 『闇虚の閃光(デュンケル・ヘイト・セロ)”!!』 巨大大砲として放つオメガレイドを眼前の竜……恐らく地竜、の大きさに合わせ、放つ!!  ギガァアガガガガチュゥウウウウンッ!!!!  ドンガガガガガガォオオオオオオンッ!!!! 彰利 『あ』 それこそ一瞬。 深紅の闇光は避ける暇もないほどの速度で地竜を飲み込み、討滅。 ……は、よかったんだが。 グリムジョーのような掌からの超波動奥義は、アタイには流石に不慣れだったわけで。 アルファイレイド程度なら平気で何発もいけるけど、ほら、こげな出力のやつっていえば、 ビッグバンかめはめ波で両手で放ってたし……ね?解るでしょ? ……思いっきりアタイのコントロールの外へと外れたオメガレイドは、 絞った出力の範疇までを破壊し、ブッ壊れた蛇口のように範囲を広げた。 懐中電灯が筒の大きさの先だけを照らさないのと似たようなもんだ。 一気に広がった闇光はフラスコを破壊し、壁を破壊し、建物を破壊し……! ア、アワ……ア、アウアーーーーーーーッ!! 藍田 「おわぁばかこっち向けんな!つーかいつまで吸い続ける気だ!     こっちもうヴィクター化が自然に解けてグアアアア……!!」 岡田 「ア……お、おう、ムル?おうムル!?キミはもしやおうムル!?」 彰利 『ゲゲェしまった忘れてた!!帰ってきなさい岡田くん!岡田くん!?     おうムルは存在しないんだ!そいつはおうムルじゃない!王允(おういん)なんだ!     呂布と共謀して董卓を殺害してもその部下に逆襲されて死ぬ男なんだ!     おうムルが居るとするなら中井出の脳内だから帰ってきなさい!』 言いながら影の連結を解除! じゃけんども荒ぶる皇竜の力が落ち着くことを許しちゃくれねー! ちくしょういつになったら操れるようになるんだよこれ! ほんとレヴァルグリードってのは信じらんねぇバケモンだ! ……それとぶつかってたっていうアハツィオンも普通にバケモンだよね。 なんて暢気に考えてる場合じゃなくてギャイヤァアーーーーーッ!! ───……。 ……。 ややあって。 俺達は、完全に朽ちて、カケラだけとなった研究所の前に立っていた。 もはや見る影もない……俺がやったんだけど。 豆村 「………」 刹那 「………」 先にその場に立っていた二人は沈黙状態だ。 いろいろな葛藤が渦巻いているんだろうけど、今はそっとしといてやろう。 彰利 「……うし、任務完了、と。そんじゃあ戻るか岡田くん。     確か貴様、コロスィアムバトルがあるんしょ?寝て起きたら早速だぜ〜〜〜っ」 藍田 「や、俺達もだから。……ハッ!?しまった専属オーナーであるナギーが居ない!」 彰利 「アルェ?……ギャアしまったそうだった!」 藍田 「ゲェーーッ!ゲェーーーッ!     コ、コロシアムで試合を受けるには専属オーナーの許可と手続きが必要……!     だがそのオーナーが居ない今となってはもうどうすることもできーーーん!!」 岡田 「え?それ知っててほっといたんじゃないのか?」 彰利 「なんと!?テメェエエエエエ!!それに気づいてたんならさっさと言えぇえ!!」 藍田 「どォオオオすんのコレェ!お前の所為だよコレェエエエ!!     エントリーできなくなっちゃってさァアア!     もうこれじゃ終わりだコレェ!全部お前の所為だからなコレェエエエ!!」 岡田 「俺に言われたって知るかこのクズが!」 彰利 「なんだとてめぇ!貴様それでもグラディエーターかこの野郎!」 藍田 「もうお前でいいから専属オーナーになれ!」 岡田 「俺選手だっての!!」 別れの言葉も謝罪の言葉もない。 恐らくは、10年前には夢や不安でいっぱいだった建物が朽ちた場所の前で、 俺達は普段通りに騒ぎ合っていた。 みずきと刹那小僧は、そんな俺達をひどくうらやましそうに見てたけど…… 次第に互いの胸をトン、トン、と叩き合ってから……悔しそうに泣き出した。 それでも謝ることはしなかったのは、 それがせめてもの背負うべき責任だ、って……そう思ったからだろう。 ……強くおなり、小僧たち。 俺達とてまだまだ学ぶことが多すぎるくらいだ。 貴様らがここで得た経験は、きっと無駄にはならんだろう。 もちろん、俺達が経験したことも。 ……しばらく騒いだあと、俺達はちょっぱってきた船に再び乗ると、孤島をあとにした。 振り返って手を振る相手も居ない、今となってはなにもない…… 夢と希望だけがあった筈だった、その場所を。 Next Menu back