───冒険の書268/夜と朝、朱色(あけいろ)の下にて───
【ケース686:晦悠介/アセリア暦より、古来にて】 ざわざわざわ─── 悠介   「ビバァッ!!」 モンスター『モンスターユニオン!!』 あー、えっとだな。 欠片探して放浪中、モンスターたちに捕まった……こんばんは、晦悠介です。 ……って、結構恥ずかしいなこれ……。 ───さて。各地からモンスターが揃う中で、やっぱりモンスターキングな俺は、 とある洞窟でモンスターを前にエイオーと叫んでいた。 モンスターキングの称号は、どうやらモンスターたちにしてみれば感じ取りやすいらしく。 一定のモンスター以外はこうして、いつでも俺を狙っているらしい。 ……まあ、それも恐らくはジャミルを召喚できるようになったからだろうけど。 ジャミル『王、これより我らは───』 悠介  「ああ、一切遠慮なしだ。敵は人間たち。      味方は魔王軍と獣人軍。あとは敵だ。      あと、俺はモンスターキングであって魔王ではないから、      そこのところを注意してくれ」 ジャミル『もちろんです、王。ああ、それと。      王の言う通り、特徴的である者には一切攻撃を加えておりません。      解りやすいのがあの頭がツンツンしている男ですね。      三人連れで行動しているようでしたが、手は出していないので』 悠介  「そか。助かる」 結局は人間は敵、ってことになった。 けど、ルドラと同じことをしてるって気分はまったくない。 それは、俺が“誰彼構わず守ること”をやめたからだろう。 その所為か、景色が違って見えるんだから不思議だ。 浮かれてるとか、そんなんじゃない……とは思う。 言えることがあるとしたら、俺は今、きちんと俺の意思と原ソウルとで、 モンスターキングという立場に立っているのだ───!! 見ているがいい悠介(とおたす)くん! 俺は貴様のヘンテコ思考回路にも負けないくらいの原ソウルで、 この戦を勝ち抜いてみせる! オーガ 『王!まずはなにをすればよいのでしょうか!』 悠介  「ああ。まずは獣人族と同盟を結ぶ。却下されたら無視だ。次にいく。      次ってのは魔王軍だ。大魔王中井出博光を味方に引き入れる」 オーガ 『なっ……正気ですかい王!ヤツは最強最古の竜、      サウザンドドラゴンを殺したっていうバケモンですぜ!?』 悠介  「大丈夫だ、一応話はついてる。まずは帝国に封印されてる大魔王を助け出す。      そのついでに浮遊要塞エーテルアロワノンを手に入れて、      移動要塞代わりに使わせてもらおう」 ジャミル『なるほど……足があればそれだけ移動も楽というもの。      空を飛ぶ要塞ともなれば、大勢で移動することも可能ということですね』 今の自然要塞がどんなふうなのか。 それは解らないが……まあ、大丈夫だろ。 なにせ守護竜の宝玉を駆動の源にしてるんだ。 ……っていっても、機械技術の所為で抑えられてるんじゃあどうしようもない。 この時代の機械技術がどれほどのものかは知らないが、 少なくとも竜族を退けるだけの力があるのも事実。 魔物除けってのも相当な威力だって聞く。 ……だったら。 魔物じゃない俺が、内部からソレをブチ壊してやればいい。 バイパー『王、新しい情報が。……なんでも帝国の貴族どもが皆殺しにされたとか』 悠介  「貴族が?……なんだってまた」 オーガ 『王、帝国貴族ってのは全員が全員、      子供ですら機械兵器を持ってるっていう厄介なやつらでさ。      ……もちろんそこいらの人間だって、太刀打ちできる相手じゃねぇです』 悠介  「………」 ジャミル『興味深いな……いったい誰が』 バイパー『それが、妙ちくりんな小さなモンスター一体が、らしいのです。      体から黒い炎を放ち、人のカタチになったと思えば始まる惨殺劇。      ……それを見ていた仲間のバイパーは、終始震えていました』 悠介  「黒い……炎」 思い浮かんだのは彰利と提督。 黒ということで彰利をまず想像したが、貴族を殺す理由が見つからない。 じゃあ……? 悠介  「それで、その小さなモンスターは?」 バイパー『は。それが妙な話で……      エトノワール姫と幽閉されていた筈の魔王の子を連れ、北西へ向かったとか』 悠介  「……」 ますます解らないんだが。 バイパー『それから、帝国内部ではオロが死に、新皇帝としてマラジンとかいうやつが』 悠介  「それは知ってる」 いきなりの通達だったもんな……あれは忘れられん。 ところでマラジンって誰なんだ? …………。あ、そうだ。 tell:シード、と……ナルルル……ブチィッ!! うおっ!?切断しやがった!おいこら───ぬおっ!?受信拒否してきやがった! あ、あのやろっ……!どこまで中井出一筋なんだよ! ええいじゃあ次はドリ……ナギーに! ナルルルル……ブツッ。 声  『この電話番号はただいまおぬしのような、いえろーもんきーに対しては一切使用さ     れておらんのじゃー!クソおかけになった電話番号をもう一度そのミニマム脳味噌     と節穴EYEでクソお確かめの上、クソ改めておかけ直しくださいなのじゃー!』 ブツッ。 …………。切られた。 マテ、思い切り繋がってただろうが。 ええいもう一度だ。 声  『なんなのじゃしつこいの!わしは寝るのじゃ!邪魔するでない!』 悠介 「邪魔なもんかたわけ!訊きたいことがあるからちょっと時間くれ!」 声  『1秒くれてやるのじゃ』 悠介 「話せるかっ!!」 声  『むう……仕方のないやつじゃの。なんなのじゃ。断っておくがわしは、     ヒロミツ関連の話以外はのーさんきゅーとかいうやつなのじゃ』 悠介 「じゃあその提督が今なにやってるのか教えてくれ。     ていうかお前こそ今何処でなにやってる。そこ何処だ?     見つけたら拾ってやってくれ、って提督に頼まれてたんだけど」 声  『《〜〜〜〜》…………!』 ……ア。 なんだかtell越しに幸せオ〜ラが流れてきた。 声  『し、仕方のない、やつよのぅヒロミツは……。     心配なぞせずとも、わわわしは平気だというのに、のう?』 悠介 「声が滅茶苦茶嬉しそうだが」 声  『うるさいのじゃっ』 図星だったらしい。 声  『それで何用ぞこのモミアゲめが!     わしの睡眠時間を削るなぞ、よほどの用なのじゃろうの!』 悠介 「モミアゲ言うな!それと用件は言っただろ!」 声  『ヒロミツは今帝国に居るのじゃ!     なんといったかの、ちゃちゃぶー、とかいう姿になっての!     わしはそれを救うために、おぬしの片割れと仲間集めをしておるのじゃ!』 悠介 「片割れ……悠黄奈がそこに居るのか?」 声  『おお、片割れで解る仲なのじゃな。まあよいのじゃ、うむ、おるぞよ?     フフフ、だが代わってやらんのじゃー!!』 悠介 「いやいいけどな。話したくなったら悠黄奈にtellすればいいだけだし」 声  『おぬし卑怯じゃぞ!!』 悠介 「なんでそうなる!」 声  『……それで用件はそれだけじゃろか。じゃったらもう寝かせるのじゃ。     明日には、明日こそ猫の里に行って、     味方を……はぅひゅひゅひゅ……集める、のじゃ〜……』 悠介 「あ〜……そのことなんだけどな。提督、どうやら」 声  『ヒロミツがどうかしたのかの!?』 悠介 「提督のことになった途端に反応速いなおい!」 あ、いや……待てよ? ここで提督のことを素直に言うのはどうなんだろう。 ……むしろ黙ってたほうが……いや、それにしても、チャチャブーってあれだよな。 小さなモンスターが貴族を殺した、黒い炎、灼闇……ああやっぱ提督だな。 しかし……殺しか。 あの提督が殺しに走るってことは、相手も殺す気で来たってことだろう。 あんな事件のあとに殺しをしたんだ、よっぽど深い殺意だったに違いない。 真意なんて、そこに居なかった俺には解らないが…… モンスターなのに魔物除けを持った相手に勝っちまうか。 つくづく常識外れな人だな。 ……あれ?でも武具は封印されてる筈だよな。 って、霊章輪は武具じゃないからいいのか? 悠介 「……オロを殺したのは提督か?」 声  『さあの。それよりヒロミツがどうしたのじゃ。     ヒロミツがどうやら、の続きはなんじゃ?ほれ、話して聞かせるのじゃ』 悠介 「………」 物凄い食いつきだった。 さて困ったぞ、この状況をどう切り抜けるか。 ああ、もちろん提督が既に帝国を抜け出したってことはヒミツの方向だ。 何故ならその方が面白いからであり、提督からナギーに連絡がいっていない以上、 提督はこの状況でなにか面白いことを考えているに違いない! いや、普通に忘れてるだけの可能性も高いが。 なにせ提督だもんなぁ。 悠介 「あ、キャッチホンだ。切るぞナギー」 声  『ああっ!待ちたまえなのじゃ!』 ブツッ…… 悠介 「……悪は去った」 ふうう、と額を拭って落着。 ジャミル『王?顔色が優れないようですが』 悠介  「い、いや、なんでもない」 などと2000万パワーズをやってる場合でなくて。 えーと……こうなると、オロを殺したのは提督……って考えるべきなんだよな。 で、そうなるとマラジンってのが…… 悠介 「…………《ごくり》」 やるのか、俺は。 思考でいいとはいえ、“tell:マラジン”を思い描くのか。 マラジンだぞマラジン。 通じたら、ログにマラジンの文字が浮かぶんだぞ。 悠介 「………」 自問してみたら、悠介(とおたす)くんが笑っていた。 やれ、とのことらしい。 ……ふ、ふふふ……いいだろう。 これもひとつのやってやれ精神。 男は度胸。なんだって試してみるものさ。 tell:マラジン、と…… 悠介 「………」 ……。 繋がらないな。 ナルルルルともならない。 もしかしてtellシステムがないのか? それならナギーに報せが行ってないのも頷けるが─── それとも新皇帝マラジンは提督じゃなくて、NPCかなんか、とか? ……うーん、解らないな。 ジャミル『王?』 悠介  「ん……いや、なんでもない。みんな、今日は解散にしよう。      いいな?人間から離れて行動するんだぞ。やる時は大勢でだ。      卑怯と言われようが、それが戦だ戦術だ」 オーガ 『オオッ!最近の人間どもは調子に乗ってやがるからな!』 オーク 『面白くなってきたぜ!』 バイパー『王!女子供はどうしますか!』 悠介  「攻撃の意思を見なかったら無視だ。      俺達は今、一人でも削られるわけにはいかない。      で、これからのことだが───俺とジャミルでモンスターユニオン跡地に行く。      一番いいのは、モンスターユニオンを復興することだからな」 オーガ 『おお!あそこがあれば、死んでも蘇れる!』 オーク 『俺達ゃ無敵だぜ!』 殺され続ける方向は考えてもいないらしい。 が、この10年でモンスターの数が激減したのは確からしい。 面白半分に貴族どもが機械を行使し、ハントをしたためだとか、 コロシアムの見世物にするために捕獲された故だとか、いろいろある。 ……うん、これからやることいっぱいだ。 まあ、まずは寝ることが先決だが。 悠介   「じゃあ解散。道中気をつけろよー」 モンスター『ウォオオーーーーーッ!!』 オーク  『オーガ先輩、この後ブロドナシエル寄ってきません?』 オーガ  『おお、いいねぇ〜』 バイパー 『気をつけろよ、あそこ、最近人間がうろつきはじめてるから』 オーク  『マジっすか?あーあ、あそこ穴場だったのに……』 オーガ  『しゃあねえ、じゃあ俺ン家来るか?酒くらい飲ませてやるぜ』 オーク  『オーガ先輩最高!』 バイパー 『俺も行っていいか?』 オーガ  『お前ザルだからなぁ』 バイパー 『けちけちすんなよ』 悠介   「………」 モンスター社会も、ただ立場が変わるだけで…… 人間とそう変わらないんだなぁと理解した瞬間だった。 【ケース687:昏黄悠黄奈/人民の夜明け。……精霊だけどね】 チュンチュン、チ、チチチ…… 悠黄奈「ん、ん……あ……」 ふと、木漏れ日の光で目が覚めた。 気だるい感覚はあまりなく、体を起こしてからぐぅっと伸びをすると、 それだけで目はすっきりと覚めた。 悠黄奈「ん……」 つい……と、隣で眠るナギーさんを見やる。 布団とは呼べない布を頭まで被って、まるで蓑虫のように寝入っている。 わたしはそんな彼女に微笑みを浮かべると、やさしく布をめくり居ない!? 声  『ククク……奥義、変わり身の術……なのじゃ!』 悠黄奈「え───上!?」 バッと空を仰ぐように上を見上げる。 と、さらさらと風にそよぐ木々の、太い枝の上で腕を組みながらニヤリと笑うナギーさん。 悠黄奈「朝からいったいなにをしているんですか……」 ナギー『なにの、一度やってみたかったからやってみただけなのじゃ』 すとんと降りてきたナギーさんは羽衣を羽織っておらず、 黒い着衣だけの姿でふぅと息を吐く。 いわゆる首までの黒タイツのような姿。 けど装飾はそれなりにあって、なんだか格好がいいと思えます。 悠黄奈「羽衣の下はいつも?」 ナギー『む?……うむ、この格好なのじゃ。     ヒロミツはマントを着ていないダオス様のようだと言っておったがの。     ……ダオス様とは何者なのかの』 悠黄奈「ええと、爆発波を放てたりレーザーを放てたり魔法を使えたり体術が強かったり。     とにかくたった一人で滅茶苦茶に強い男性です。人は彼を魔王ダオスと呼びます」 ナギー『おお……それは強そうじゃの。そやつは〜〜……なんじゃ?     なにぞ目的があって魔王をしていたのかの』 悠黄奈「故郷を救うためです。     デリスカーラーンという星を救うために、     “大いなる実り”というマナの結晶が必要だったのです。     けれどそのために降りた星アセリアの住民は、マナを消費する兵器を作り、     マナの結晶を作る大樹を枯らしてしまうところまでいってしまった。     そのためにダオスはその星の民たちと戦うことになったのですよ」 ナギー『ふむ……なるほどの』 話を聞いたナギーさんはうんうんと頷いて、 “見方によればやはり、どちらも悪よの”、と呟いた。 悠黄奈「悪が好きなのですか?」 ナギー『好きというかの、ヒロミツの影響じゃ。     正義を振りかざしても相手にとってのソレは悪じゃろ?     ならば偽善と言われるよりも最初から悪であった方が遠慮なぞせずに済むのじゃ。     じゃから正義か悪かならば悪じゃの。     だからといって貴様は極悪なのかだの、極論ばかりを挙げるものは嫌いじゃがの。     わざわざ程度を決めるその理由が解らんのじゃ。     正義は正義、悪は悪。それでいいではないかのう?』 悠黄奈「それは……まあ」 程度問題ですね。 悪だというなら人殺しも喜んでやるに違いないとか、そんな極論を押し付けるとか。 正義なら必ず悪を許してはいけない、 悪を討伐しなければならない、勝たねばならない、とか。 正義が好ましくないから悪を名乗って、悪が好ましくないから正義を名乗る。 それだけでいいと思うんですけどね、大げさに考えるのではなくて。 ナギー『わしは正義を行って偽善と言われるのは好かんのじゃ。     故に悪じゃ。然の精霊じゃから正義を名乗らねばならん理由なぞないしの』 悠黄奈「わたしは中立で。どちらでも構いません。     偽善だどうだと言われようが、それは相手の勝手な印象ですから。     偽善と言うのも極悪外道だと言うのも他人の主観というものでしょう?     わたしがこれが正しいと苦しんで判断したものを偽善だ極悪だと言われるとして、     だけどそれをわたしは最善の策だと思って実行した。大事なのはそこですから」 ナギー『…………おぬし、図太いのぅ』 悠黄奈「そうかもしれません。周りの人たちなんて、     人のことにばかり突っ込みたがる存在なんですから、仕方ないです。     故人曰く、“人は他人が大業を為そうとする時、止めたがる存在である。”     相手の自信もやる気も度外視して、まずは止めるのが人間って生き物なんです。     応援できるのは極一部で、そのくせ失敗すれば応援した人に難癖つけるのも人間。     余裕がないんですね、つまり」 ナギー『つくづく然りじゃのう』 朝食の準備をしながら話すことでもないこと。 そんなことを語っては、ところどころでくすくすと笑い、やがて食事が出来る。 それらを食べながら、穏やかな風が吹く早朝の森林の中で、長い長い息を吐いた。 空に蒼がないのは残念だけど、森林に吹く風はやはり心地のいいものだと。 悠黄奈「それで、今日はどちらへ?」 ナギー『もう少し北に行ってみるのじゃ。     場所は解らぬが、恐らくあそこ以外に然が集中しておる場所はないじゃろ。     自然の気配を頼りに歩けば、きっと辿り着くのじゃ』 悠黄奈「そうですか」 わたしの言葉にこくこくと頷いて、干し肉をがじがじと食べるナギーさん。 自然の精霊だから肉は食べない、とかもないようです。 ……でもあまり美味しそうには食べていません。 悠黄奈「美味しくないですか?」 ナギー『ヒロミツの料理が食べたいのじゃー……』 返ってきた言葉はわたしの質問の答えではなかったけれど、とても納得できる答えだった。 ナギー『ヒロミツの料理はの、すごいのじゃぞ?甘すぎもせず辛すぎもせず、     まさにわしに食べさせるために開発研究されたような味わいなのじゃ』 悠黄奈「それは───」 ……お爺さんのために作っていたから、ではないでしょうか。 喉まででかかった言葉を飲み込む。 わざわざ言って、がっかりさせるようなことでもないと思ったから。 がっかりする要素なんてないのかもしれませんが、それでも。 ナギー『……?べつにヒロミツの料理が     じじさまのために開発されたことくらい、知っておるぞ?』 悠黄奈「あれま」 少し意外だったので、ヘンな声が出ました。 自分でそれに気づくと木製スプーンを持ったままの片手で口を塞いで、 なんだか妙に恥ずかしい気分に襲われます。 ナギー『ヒロミツは、じじさまのことになるととてもやさしいからの、解るのじゃ。     ああ、この味はじじさまのためにやわらかくやさしくなったのじゃな、と。     ヒロミツは人にやさしくする時、ひどくやさしい顔になるのは知っておるな?』 悠黄奈「ええ。でもそれは……」 ナギー『うむ。じじさまやばばさまのことを思い出してか、     やさしさの奥に悲しみばかりが見えるのじゃ。     人間の子供に嫌われやすい理由はそれじゃな』 悠黄奈「それは、聞いたことがあるようなないようなですね」 言いながら微笑みがこぼれた。 むっつり顔だったナギーさんの表情が、 博光さんの話になった途端に笑顔だらけというか、 まるで恋人を自慢する女の子みたいな顔になるのだから。 ……恋人を持った女の子のことなんて、知りませんけどね。 比喩なんて頭の中で構築されていればそれで十分です。 ナギー『ヒロミツももうそれは自覚しておるがの。     子供は表面ではなく内面を見る存在じゃというからの、     ヒロミツもむしろ子供を遠ざけて…………おらんの』 悠黄奈「自分の状況がどうだろうと、我が道突き進む人ですから」 ナギー『……のう、悠黄奈はわしよりもヒロミツとの付き合いが長いじゃろ?     ヒロミツのことを話して聞かせるのじゃ。わしの知らないことがよいのじゃ』 悠黄奈「知らないこと?えぇと……」 頭を回転させてみる。 いえ、言葉通りの意味じゃなくて、脳内的な意味で。 悠黄奈「…………肉じゃがが嫌いです。恐怖に怯えるくらいに」 ナギー『それは知っておるが……そういえばその原因はなんなのじゃ?』 悠黄奈「え、ええとそれはその」 涼香さん事件がきっかけだったと言っても理解出来ないでしょうし、 どう説明したものでしょう。 悠黄奈「えぇとですね。毎日、夜になると自分の肉で作った肉じゃがを     食べさせに来るおばけに襲われたことがありまして」 ナギー『おお!それは奇怪じゃの!』 だったらどうして嬉しそうなんですか? って……ああ、なんとなく理解しました。 つまり危機に陥った博光さんが、 どんな風にしてそれを乗り越えたかが気になるわけですね。 悠黄奈「ええと、その。ご期待に添えないようで申し訳ないのですが。     その頃の博光さんは本当にただの人間だったので、     なすがまま食べさせられるがままでしたよ?」 ナギー『さすがヒロミツなのじゃ……』 悠黄奈「………」 あの……博光さん? あなたは普段、ナギーさんの前でどんな醜態をさらしているんですか……? ナギー『しかしほんにヒロミツは、なすがままされるがままのザコだったのかの?』 悠黄奈「ザコって……ええまあ、そうですね……」 すいません博光さん、否定できる要素が見つかりません。 悠黄奈「あ、けれど思考映像化能力というものを持っていて、それを使わせれば     右に出る者がほんの少ししか居ないところまでの実力を持っていましたよ」 ナギー『…………?それはまことか?』 悠黄奈「………」 しかも、秀でていたところを逆に疑われる始末。 あの……博光さん?わたしが言うことじゃない気がしますが、 もう少し子供の前では立派な姿を見せるようにしたほうが……。 ナギー『悠黄奈よ、それはきっとマボロシなのじゃ。     夏の幻影なのじゃ。カゲロウとかいうやつなのじゃ。薄馬鹿下郎なのじゃ。     武具を持たぬヒロミツが、そんなこと出来るはずなかろ』 悠黄奈「うぅ」 いっそ泣きたくなりました。 ええ、そうなんでしょうね……今の博光さんを見れば、 なにかしらの能力が使えたなんてこと自体、ウソだったようにしか思えません。 ナギー『あむあむ……ん、んぐ……うむ。     では行くのじゃ。話は進みながらでも出来よ?』 悠黄奈「そうですね」 まぐまぐかぱかぱとスープを口に詰め込み、 ごくりと嚥下すると早速立ち上がるナギーさん。 一生懸命ですね……ここまで行動力のある精霊は、本当に珍しいと思います。 ともあれわたしはさっさと食事を済ませて、後片付けをしてから立ち上がる。 行きましょうか。時間は待ってくれませんし。 【ケース688:マラジン/ウラビアンヌイト3】 チュンチュン、チ、チチチ…… マラジン『グ、グゥウ〜〜〜〜ム』 ふと起きてみると朝だった。 空は朱だが、このどこか涼しげな空気は朝に違いねー。 などと、簡単なことを考えながら、ふと体勢を変えると─── シャル「ん……んう……」 ───向いた先に、王妃様。 えーと……これは、いったい……。 な、なぜ……何故我が隣がシャルに……? 馬鹿な……この博光は、この博光は確かに、シードを隣に配置した筈なのに。 シードを挟むようにして寝た筈が、なにゆえ……! ……………… マラジン『!!』 ハタととある結論に行き着いた時、僕は両手を頭に当てて絶叫しました。 い、いや、絶叫してしまう前に言っておくッ! 俺は今、伝統とも呼べるイベントをほんのちょっぴりだが体験した……。 い、いや……体験したというよりはまったく理解を超えていたのだが…… あ……ありのまま、今起こった事を話すぜ! “朝目が覚めたら、俺の隣には隣の隣に居た筈の女が眠っていた” な……何を言ってるのか解らねーと思うが、俺も何をされたのか解らなかった……。 頭がどうにかなりそうだった……。 催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……! というわけで叫ぼう。 マラジン『朝チュンだぁあーーーーーーっ!!!!』 人生叫んだもん勝ち。 声帯が破裂せん限りに絶叫して、ともかく僕は叫んだのだ。 ……その後、寝起きで機嫌悪そうなシャルにボコボコにされたけど。 ……。 シャル 「なんですか、もう。女性が隣に寝ているというのに、叫ぶ殿方がおりますか」 マラジン『オウ・ヘルイェ〜《ベパァン!!》トマッシュ!!』 ヤンキー的ガン飛ばしをしながら持ち上げた両手を少し折り、 親指で自分を指差しながら言ってみたらビンタされた。 ようするに“ここに居るぜ〜”と言いたかったんだけど。 そんなことをしつつも既に朝食にありつき、美味かもんをもぐもぐと食す。 今日のメニューは野菜のあっさりスープ。 ナギーに教えた、この博光が最も得意とするメニューである。 ……ちなみに、得意であるのと一番美味いかどうかは比例しないのでよろしく。 しかしなんだ、米食いたい。 くそう、我がバックパックがあれば、干し肉くらい取り出せたのに。 でも今食いたいのは米だ。 肉は─── マラジン『……』 ぐ、と吐き気がした。 血の滴る肉を思い出しただけでこれだ。 調理済みの肉なら大丈夫なんだが…… うう、このまま肉食えなくなるんじゃないだろうな、僕。 だが食うね。吐き気がしようが、素材の味は変わらん筈。 だから食うね。 マラジン『あ〜あ……』 人殺しをしたことで、明らかに俺の中でいろいろなものが変わった。 それはとても嫌な変わり方で、変わらなくてもいいものまで変わってしまう感覚があった。 或いは、ゆっくりと、自分じゃ気づかない程度の速度で変わっていってほしかったものが、 急に果てまで変わってしまった感覚というのか。 肉体に実害のない、精神的なウラシマ効果ってやつか? なんにせよ厄介なものである。 シャル 「それで、今日はどちらへ?」 マラジン『ウヌ?……おお、迷った時は北へ。      それが、僕がハーメンルンのバイオリン弾きから習ったことさ』 シード 『そこに猫の里があるのですか?』 マラジン『ど、どうだろ……』 一番自信が無いのが、言いだしっぺの僕という状況もとても珍しいと思います、ええ。 マラジン『しかし驚いた。ああ驚いたとも』 シャル 「なにがです?……ああ、この空のことですか?……わたくしも最初は───」 マラジン『や、シャルのこと。旅に出たのも驚いたけど、      てっきり足が痛いですわー!とか、お風呂に入りたいですわー!とか、      ともかく文句ばっかり言うと思ってたのに』 それが意外にも大人しいというか、僕がふざけない限り手を挙げてこないし、 えぇと、なんていうんだったか。あー……あ、そうそう、従順っていうんだっけ? シャル 「当然です。妻とは夫を立たせる存在ですもの。      わたくし一人が我が儘を言って、どうしてこの旅が成立しましょう。      一緒についてくると決めたのはあなたでもシードでもない、わたくしなのです」 スープに手をつけるのをやめ、 ピンとした姿勢……でもなく、ひどくリラックスした状態で言うシャル。 それは、心を許した相手にしか見せないであろう、“王妃さま”の自然体だった。 だが僕は言う。だからどうしたと。 え?姫さんの自然体が見れて嬉しくねーのかって? 自分にだけこんな簡単に見せてくれて嬉しくねーのかって? グフフ、人が自然で居ることに何故いちいち喜ばねばならん。 僕はいつだって自然さ!だから無理に自分を隠してるヤツのことなど知らぬ! ……言ってみてるだけだけどね? なんというかほら、ナギーが超自然体になってくれた時は、 もう我が子を思う馬鹿親みたいに喜んだものだし。 でもほら、なんというか僕を頼ってくれてる感動のシーンに、 こう……ね?バケツいっぱいの水をグヴァアシャーとぶっかけるたい心内というか。 水を差すなんて言葉は既に目ではないわ。 マラジン『ねえシャルロット』 シャル 「?」 突然愛称じゃなく、名前で呼ばれてきょとんとするシャル。 そんな彼女に僕は言います。 マラジン『我が儘を言いなさい』 シャル 「え……?」 マラジン『夫なんて立たせるものではありません』 シャル 「え、え……?」 マラジン『旅なんて成立しなくてもよいのです。目一杯、我道に走りなさい』 シャル 「……な、なぜです?わたくしは、夫に喜んでもらえるよう───」 マラジン『グフフ、残念だがそのやり方ではこのマラジンは喜ばぬ。      尽くしてくれる女性に憧れたことは、そりゃあ男の子だもの、当然あった。      だが今は違う……違うのだ。このマラジンは自然体が大好きだ。      内に秘めてることを遠慮なくブチマケてくれる相手のほうが、      ヘンに我慢されるよりもよほどに嬉しい……それがこのマラジンよ』 ……シャルはきょとんとした顔をさらに濃くし、 額に人差し指を当ててうんうんと唸り始めた。 おお、きっと気を探知して瞬間移動するに違いない。 なんて思ってるうちにさっさとその仕草は終わって、 シャル「……変わった人」 第一声がそれだった。 マラジン『そう……僕は変わってしまったのだ。人ではなく、マラジンに……』 シャル 「そういう意味ではなくて。      ……その。普通、女性に尽くされたら嬉しいものなのでしょう?男性は」 マラジン『そんなことを思っていた時期が……僕にもありました』 チャチャブーの姿では流石に無理だが、 なんとなく猿っぽい顔になった気分でそう言ってみた。 ……あっさりスルーされたけど。 シャル 「時期があった、ということは」 マラジン『今は、自分の心に正直な相手の方が嬉しいさ。      尽くしてくれるのはそりゃ嬉しいけどさ、      その人が心から尽くしてくれてないと、なんとゆーかそのー、心から喜べん。      尽くしてくれる人はいいな。うん。      でも前提として、自分の心もきちんと言ってくれる相手がいい。      でね?本当に尽くすのが好きでやっているのであれば嬉しいし、      そうでないのならば!尽くすことなどやめておしまい!気持ち悪い!』 シャル 「き、気持ち悪いとまで仰りますか」 マラジン『仰ります。……そうやって自分を曝け出してください。      いろいろ嫌な部分があるのは当然のこと。      しかし散々付き合って好きになって、      あとからその嫌な部分を知って嫌いになるのは好きじゃない。      最初から全部を知ってしまった上で、      それを包み込むように好きになれる……最高だと思いません?      別にてめーを好きになるとは言ってねーけどな!』 シード 『まさに外道!!』 シャル 「なっ……」 機を衒っていたシードが、言い終えたあとにギシャーンと目を光らせた。 そんな彼に親指を立てて返す。 マラジン『夫だとか妻だとか、そういうのはぜ〜んぶ後回しにしてさ。      まずは知り合い、友達、仲間と、そうやって人は絆を作ってゆくのです。      それを、会って少しもしないうちに夫を立てるとか、そんなのはいけません。      本当に、心の底から、“この人なら立ててもいい”と思ったら、そうしてね?』 シャル 「…………い、意外と……紳士なのですね」 マラジン『いえ、平凡一市民です。そんな、僕なぞが紳士だなんて烏滸がましい。      そりゃ確かにジョナサンの真似して飲み物こぼしたことがあるけど』 シャル 「……よく解りませんが、解りました。      けれど、後回しに出来るほどには、      認めてくださっていると考えていいのですね?」 マラジン『え?なにが?』 シャル 「《がくっ……》……わ、わたくしとの間のことです」 ……え?藍田くん? わたくしたちとの藍田って……まさか藍田は彼女と僕との息子だったのか!? ……と冗談はこれくらいにして。 マラジン『人の心なんて揺らぎやすいし、      今どう言ったってあとでどうなるかなんて、今の俺には解らんし。      可能性をばっさり切り捨てるのって、どうもね』 いろいろあって、妻と娘を失った。 だからってすぐに女を作ってそっちに走るのかっていったら、そうじゃない。 原メイツだもの、惚れた女には真っ直ぐで居たいって思う。 ……が、それ以前に僕は一人の人間で、一人の男なのだ。 長いこと女性と一緒に居れば、そいつのことを好きになるかもしれないし、 その先になにかがあるかもしれない。 え?ええ、もちろん今は好きでも嫌いでもないです。 そこから先は可能性問題だし。 今どれだけてめーなんざ嫌いだーって叫んだって、あとでどうなるかなぞ解らないの。 それならさ、最初から否定ばっかしてないで、 そういう可能性もあるかもしれねーって思うほうが面白いじゃない? マラジン『ただし。嫌な時はこのマラジン、容赦なく嫌だと言うし、      殴りたい時は老若男女問わずに殴ります。それだけは覚えておいてね?』 シャル 「望むところですわ。わたくしも、殴りたい時に殴ります」 ……ぐっ、と。 差し出された手と手が合わさり、握られた。 シード(……ステキだ) そんな僕らの横で、シードが目を輝かせていた。 ……僕だけを見ながら。 【ケース689:弦月彰利/ポエミー萩原・メッセージ集】 ザザァ…… 彰利 「ステキはすぐ傍にある……だからゆけ!」 豆村 「わけわかんねーよ!!」 彰利 「まったくだ!!」 陸地に下りて船の持ち主にこってりしぼられ、ともあれ宿で寝てからの朝。 みずきと刹那小僧を前に、アタイと藍田くんと岡田くんはアディオスボンジョリーノ。 別れの瞬間を迎えておりました。 彰利 「刹那坊……元気でなぁ」 藍田 「しっかりやれよ、刹那坊……」 岡田 「苦難に負けるなよ、刹那坊……」 豆村 「ナチュラルに俺のことは無視なのね……」 彰利 「や、だってお前豆だし」 藍田 「それに豆だしなぁ」 岡田 「豆だもんなぁ……」 豆村 「豆滅茶苦茶関係ないっすよね!?」 言ってみてるだけだし。 彰利 「ほんで?忘れもんはない?歯はちゃんと磨いた?男も磨いた?」 豆村 「なんでそんな、急に子を心配する母親みたいになるんだよっ!     は、恥ずかしいからやめろよ!」 彰利 「そうか。俺はそんな貴様の羞恥が見たかっただけだ」 豆村 「ギィイイイーーーーーーッ!!!!」 モキモキと怒りを露にするマイサンを余所に、 完全に準備を整えた藍田くんと岡田くんがコクリと頷く。 彰利 「うじゃ、ここでお別れだな」 藍田 「ああ……またな、弦月」 岡田 「元気でやれよ、弦月」 彰利 「アルェエ!?なしてキミらそっち側に居んの!?」 藍田 「面白そうだからだ!」 岡田 「意外性に走ってみた!」 彰利 「…………」 アー、ナルホドー、ツマリソウユウコトダッタノデスネィ? 影通して、悠介と中井出の話を聞いていた僕にも、ようやく理解の影が舞い降りた。 過去がどれだけ改竄されようが、俺達がここに居る事実は変わらない。 そもそも、原メイツが原メイツたるきっかけには、こいつらの性格も重要だったのだ。 素直に心を曝け出して馬鹿やって、その結果が原メイツとして存在していた。 ほいじゃあ、原中のことを忘れようが、また素直に心を曝け出すようになったら? ……ンム、そういうこったね。  大丈夫。どんな過去の強制修正があったとしても、“みんながここに居る”。  そういう現在に至るための過去が、今必死になって追いつこうとしてるから。  俺が居なかったとしても原中って中学はあって、  そこにあいつらやお前や彰利がやってきた。必要なものはもう揃ってるんだよ。 中井出はそう言った。 つまり土台なんてものは、最初っから俺達の中にあったのだ。 こういう現在に至るための過去が、今必死になって追いつこうとしている。 それは、藍田や岡田たちの心のことを言っておったのでしょう。 素直な気持ちを曝け出して馬鹿をやることがあいつらの純粋な気持ちだったのなら、 今、中井出っていう魔王と一緒に馬鹿やってみようと思ってるこいつらは─── 彰利 「………」 難しく考えすぎてたのかもしれんね。 ……だな。うん。 彰利 「藍田くんに岡田くん。今、楽しいかえ?」 藍田 「お?おお、なんだか知らんが物凄く自然な感じだ。     胸のツカエが少し取れたみたいな」 岡田 「ある日、出せなかった高音域が突然に出せるようになったような……」 彰利 「いや、ソレ解んねーざます」 岡田 「俺もだ」 言ってみたかっただけらしい。 うん……まあ……いいんだけどね……。 刹那 「で、あのー……ほんとに憑いてくるんで?」 藍田 「待てこら、今“ついて”の部分に霊的な意味を混ぜただろお前」 刹那 「ご、ご冗談を」 岡田 「俺たちはちとコロシアムでいろいろやらなきゃいけないから、     貴様らに憑いていくことは出来ぬ」 刹那 「あの……今こそ霊的なものを混ぜませんでした?」 岡田 「混ぜたとも!全力で!」 刹那 「うわぁ隠そうともしねぇよこの人!」 岡田 「最強!《ビシィ!》」 言葉に意味はねーけど、地味にカッコイイポーズとってる。 岡田 「ところでさ、昔っからだったけどバトル漫画、あるだろ?     あれって安易に“最強”を言い過ぎてるきらいがあるよな」 藍田 「俺は今でもオリバが刃牙に負けたことが信じられない……」 彰利 「アタイも……」 岡田 「俺も……」 複雑そうな顔をしながら、だけど離れてゆくみずきと刹那小僧を見送りつつ、 まるで関係ないことを言ってみる。 いやしかし、確かに昔っから最強って言葉を使いまくってるよな。 彰利 「あれって〜……どうなんだ?     ほら、雑誌のほうだとさ、編集かなんかが文字つけることあるデガショ?     ちょっと斜めになってる文字とかさ。“勇気の心が敵を討つ!”とか、     “○○先生の新連載にご期待ください!”とか」 後者は主に打ち切りの時に書かれてるやつだけど。 ご期待させるくらいなら打ち切りにするなと、 僕らはどれだけジャンプ編集部に念を送っただろうか。 彰利 「というわけで藍田くん。お金あげるから“タカヤ”買ってこい“タカヤ”」 藍田 「いかねぇよ!!つーか売ってねぇだろこの世界に!」 彰利 「じゃあ現実世界戻ったら“タカヤ”買ってこい“タカヤ”。     言っとくけどおめー……領収書おめーの名前で書いてもらえよ?」 藍田 「なんでそんな無茶な注文偉そうに言ってんだ!?     行くならてめぇが行けコノヤロー!」 彰利 「………」 藍田 「なんでそこで力なく気まずそうに目ェ逸らすんだよ……」 いや……どうしてだろ。 岡田 「じゃあこうしよう。タカヤは提督に買ってきてもらう」 藍田 「採用」 彰利 「満点だ」 岡田 「金は弦月が出す。全巻分」 彰利 「ワリカンに決まってんだろうがコノヤロー!!」 岡田 「なんだとてめぇ!」 藍田 「このクズが!!」 彰利 「お黙りなさいよ!タカヤはもうなんというか散々読んだからいいの!     つーかタカヤって言われて思い出せるのが“あててんのよ”しかねーよ俺!」 藍田 「実は俺もだ!」 岡田 「ウハハハハなにを隠そうこの岡田もよ!!」 …………。 三人 『同志よ……』 ようやく。 本当にようやく、我ららしく振舞えるような気がした。 たった一日のことだったけど、な〜にやらほんに長く感じたのは、 そんだけ忘れられたのがショックだったからでしょう。 彰利 「うしゃー!ほいじゃあまずメシ食うべー!なにか食いたいもんとかある?」 藍田 「ステーキとワイン」 彰利 「オリバ思考は捨てなさい!」 藍田 「しょうがねぇだろうが!なんか最近味覚が無駄に肥えてきてるんだから!     ジュウジュウと焼ける分厚い肉とワイン……!     想像するだけで……あ、涎が《じゅるり》……ふう」 彰利 「や、ふうじゃねーって」 岡田 「あ、でも肉は食いたいかも。     俺、一度でいいから分厚いステーキ肉を白目になって食ってみたかったんだ」 藍田 「だよな、だよなぁ!白目じゃなきゃなぁ!」 岡田 「やっぱステーキっていったら白目だよなぁ!」 男二人がホキャーオと叫びながら、 手をピシガシグッグと叩き合わせたあとに肩を組んで笑い合う。 ……同意するのがステーキの旨みとかじゃなくて白目なのってどうなんでしょう。 藍田 「不思議だよなぁ……俺、お前のことあんま好きじゃなかった筈なのに」 岡田 「そうそう、なんていうかこうするのが普通だったみたいに、すとんと……なぁ?」 藍田 「これが自然体ってことなんだろ?     嫌いなヤツでも話し合えば案外ウマが合ったりするとか、漫画とかでもあるだろ」 岡田 「そだな」 二人は肩を組んだまま、ゆらりゆらりと左右に揺れつつエルバフの歌を歌い始めた。 藍田 「エ〜ル〜バフバフ〜エルバフバフ〜♪」 岡田 「みんな〜でかいぞ〜巨人だし〜♪」 彰利 「じゃ、行きますか」 藍田 「そうね」 岡田 「ほんとそう」 さてと。 ほいじゃあ何処へ行ったもんかね。 この町にステーキ屋があればいいんじゃけど。 なんか知らねーけどモンスターが襲ってこないし、 襲いかかろうとしても逃げられるからどうにもならんのだけど。 肉ねぇ……何処で食うかな……。 ………………。 彰利 (って、アルェエ!?肉食うことがいつの間にか確定してる!?) 聖、椛……今日もパパは頑張っています。 なんだか今日はひどく平和な一日になりそうです。 Next Menu back