───冒険の書05/分かたれた人々、冒険の始まり───
【ケース74:裕希刹那/遠い場所で】 ───キィンッ!! 刹那 「とっ───わっ!?」 空中に放り出されるように飛ばされた俺は、突然目の前に現れた草原に落下した。 咄嗟に腕で頭を庇ったが、痛みが走るのはどうしようもない。 刹那 「痛ッ……!ってそうだ!柾樹!?おい柾樹!!」 すぐに思い出したことに、痛みも忘れて辺りを見渡す。 だが───そこに居るのはビーンと紗弥香さんと深冬ちゃん、それから郭鷺だけだった。 刹那 「なっ……なんだよこれ……。他のみんなは……?」 豆村 「もしかしてあれって、プレイヤーをバラバラにさせるイベントだったのか……?」 刹那 「………」 だとすると柾樹はどうなる? あいつは光で飛ばされなかった。 ただひとりあの場に残されて、今まさに不死戦士にトドメを刺されてるかもしれない。 そう思うと…… 刹那 「くっそ……!ほんとあいつのお節介焼きは頭にくる!     どうしてもっと自分を大切にしないんだよっ!!」 思わず草原に拳を叩きつけて叫んだ。 あいつはいつもそうだ。 誰かのために誰かのためにって、そればっかり。 赤の他人のことなんてどうでもいいくせに、 それが友達のことになると人が変わったみたいに守ろうとする。 俺だって最初は他人をなんとも思わない『軽さ』が気に入って、付き合うようになった。 それがどうだ。 軽かった筈のそいつは嫌になるくらい重いヤツで、 それなのにそいつの生き方が嫌になるくらい気になっちまって……。 豆村 「……けど、あのままだったら俺達まであの森の中だったろ。     柾樹の言う通りだよ。またどっかで会えばいいんだ。     このゲームやってりゃいつかおっきな町とかで会えるだろ」 刹那 「………」 それは……そうだ。 けど俺は、あいつのお節介がいつだって怖い。 いつか誰かのために簡単に命捨てちまうんじゃないかって思って。 そしてそれが、もし親友仲である俺や豆村のためだったら、 俺はもうあいつを許せないだろう。 ───家が近所ってこともあって、あいつのことはガキの頃から知っていた。 当時のあいつは元気で、馬鹿で、凍弥さんみたいなヒネたガキだった。 平気で人をからかうし、 ふざけたこと言って来流美さんに怒られるなんてしょっちゅうだった。 けど───いつかの夏。 あいつは急に人が変わったみたいに大人しくなって、 元気が無いとは言わないけど、騒がなくなった。 『人が変わる』って言葉が使えるんだとしたら、柾樹は確実に変わった。 そして……そのきっかけである郭鷺はそのことをずっと気にしてる。 『自分があんな人のことを好きにならなければ』って、いつかそう言っていた。 刹那 「………」 豆村 「昔ッから、なんだよな。柾樹のあのお節介って」 悠季美「……ええ、そうです」 紗弥香「なにをするにも友人優先。知り合いより友人、友人より親友ってコだったよ。     まあそれは……あの事故があってからなんだけど」 悠季美「───……」 刹那 「……紗弥香さんっ……!ちょっと……!」 紗弥香「え?あ、ご、ごめんね悠季美ちゃんっ……!     べつに悠季美ちゃんを責めたわけじゃ……!」 悠季美「あ、いえ……いいんです。     わたしが……あんな人のことを好きにならなければ柾樹さんは……」 刹那 「………」 柾樹はガキの頃から馬鹿だった。 けどそれは、人を思いやることの出来る馬鹿って意味。 だからこそ郭鷺が泣いて帰ってきた時に激昂して、啓介に喧嘩を挑んだ。 勝てるか勝てないかなんてどうでもよかったんだと思う。 ただ一発、郭鷺の涙の分だけ殴ってやりたかったんだろう。 けど───それが今の冷たい柾樹を作っちまった。 なにが悪いわけでもなく……ただ、いい人ヅラして昂風街に訪れた相模啓介。 あいつが……柾樹や郭鷺のバランスを崩しちまった。 だから、もしいつかアイツに会ったなら、俺は恐らくキレるだろう。 今までどんなことだろうが我慢してきた。 両親の喧嘩にも離婚にも耐えた。 でも、こんなことになったきっかけであるあいつだけは許せない。 だから─── 刹那 「…………、───はぁ」 いや、熱くなるな。 今はゲームをしてるんだ、辛いことは忘れよう。 それに……動かないと柾樹と合流することは出来ない。 刹那 「……よし、行こうか」 豆村 「そだな。……って、ところで柾樹って何処の教会に飛ばされるんだろうな」 刹那 「あ……そういや」 解らないことだらけだった。 けどまあ───今は進もう。 探せば町くらいはあるだろうし。 刹那 「それじゃ、柾樹を探しながらのヒロライン、再開!」 豆村 「……つーかさ、刹那ってヤケに柾樹のこと気にかけてるよな。     前々から気になってたんだが……もしかしてモーホー?」 刹那 「馬鹿違うっ!俺はあいつがヘンなお節介しないように見張ってたいだけだ!     ……それに───あいつは親友だ。     どんな風に変わっちまおうが、昔のあいつを知ってるなら裏切れない」 豆村 「へぇ……昔の柾樹ってどんなヤツだったんだ?」 刹那 「ん……凍弥さんを子供にしたような感じだな」 豆村の言葉に、少し思い返しながらその印象を言ってみる。 が─── 豆村 「……それってダメなんじゃないか?」 豆村はとっても正直なヤツだった。 刹那 「ばか、お前凍弥さんのこと解ってない。     あの人はそりゃあ人をからかったり馬鹿なことばっかりしたりの変人だが、     それでもやる時ゃやるし、なにより周りの人を大事にする人だ」 豆村 「……柿って、あれで大事にされてるのか?」 刹那 「柿だってあれで楽しんでるみたいだぞ?なんだかんだで笑ってたし」 豆村 「ふむ。……ところで感想言っていいか?」 刹那 「感想?いいけど……なんのだよ」 豆村 「とりあえず娘の前で変人とか言うのはどうかと思うぞ」 刹那 「へ?あ───」 後ろを振り向く───と、ニコニコ笑顔で偽水晶の杖を構える紗弥香さんが。 刹那 「あっ!いやっ!今のは違っ……」 紗弥香「問答無用!!柾樹くんのこと心配してくれるのは嬉しいけど、     だからってお父さんを変人呼ばわりするのは許せないんだからね!!」 刹那 「お、おわぁあああーーーーーーーっ!!!!」 そして始まる偽杖ランページ。 俺は顔面を杖で往復ビンタ二回されたのち、 チョッピングライト(杖で)でトドメを刺された。 ……けどさ、凍弥さんを変人って言わないならなんて喩えりゃいいんだ……? あの人は立派に変人だと思うんだが…… ああだめだ……ランページ一回じゃ終わらないみたいだ……。 へへっ……友情フォーエバー……。 などと思いつつ、 紗弥香さんがみんなに止められるまで俺はランページをくらい続けたのであった……。 【ケース75:閏璃凍弥/今日から“ヌ”王】 ───……。 凍弥 「えー……というわけでお馴染みのメンバーになったわけだが」 来流美「お馴染み言わない」 鷹志 「とはいえ、ほんとお馴染みだからしょうがないだろ」 柿崎 「ほんとお馴染みだよなぁ……」 由未絵「わたしは凍弥くんと一緒ならそれだけでいいよ?」 御手洗「あはは、支左見谷さんは本当に一途だね」 真由美「でもわたしまでこっちだったのはちょっと驚きかな。     てっきり穂岸くんやゆきちゃんと同じところに飛ばされると思ってたのに」 凍弥 「や、恐らく晦や精霊の皆様も解ってるんだろう。     この中に、妻が居なけりゃ活力を無くす男が居ることを」 柿崎 「……ああ」 鷹志 「そこで俺を見るなよパーシモン。     それから霧波川と支左見谷……って、なんで真由美まで俺を見るんだよ」 真由美「えへへ、だってそれだけ思われてるってことだから嬉しいもん」 鷹志 「あ、いや……ごほっ!ごほんっ!」 柿崎 「はいはいごちそうさん」 来流美「新婚さんいらっしゃ〜い♪」 凍弥 「ほんと鷹志と郭鷺って、いつまで経っても新婚気分全開だよな」 鷹志 「ぅぐ……わ、悪かったなっ……冷めるよかマシだろがっ……」 そりゃそうだが。 それにしても……何処だろうかここは。 凍弥 「しかしよく解らんところに飛ばされたな。     一応マップはあるけど、エーテルアロワノンが遙か彼方だ」 鷹志 「随分と飛ばしてくれたんだなぁ、あの魔法使い」 凍弥 「とりあえず来流美。     俺は自分を犠牲にしてまで誰かを守る息子を持つ幼馴染が居て誇らしいぞ」 来流美「……ほんとにそう思ってんの?」 凍弥 「そうツンケンするなって言いたいんだよ。     確かにゲームとはいえ、柾樹がとった行動は自己犠牲が強すぎる。     しかもそれが『魔法使い』を守ったんじゃなくて、     『魔法使いの呪文』を守ったんじゃあ話が違ってくる。     けど結果的にあいつは誰かを救った。……後悔するばっかじゃなくてさ、     たまにはそういう部分を評価してやるのも、親の務めなんじゃないのか?」 来流美「凍弥……」 鷹志 「おお……凍弥が尤もなことを……」 柿崎 「奇跡だ……こりゃ明日は津波か洪水だな……」 凍弥 「あのなぁ……人をなんだと思って……」 真由美「ストレートで変人かな。ソフトでヘンな人」 凍弥 「や、それあんまりどころか全然変わらんからさ、郭鷺」 来流美「ほんと、なんでこんな『変』が意思を持ってるようなヤツを好きになるんだか。     由未絵の感性がホント解らないわ」 由未絵「む───いくら来流美ちゃんでも、凍弥くんのこと悪く言うと怒るよ?」 来流美「……これだもの。口を開けば『おふざけ万歳』のこの男の何処に惹かれたんだか」 凍弥 「うむ、それはきっと主にこの羽ばたく上腕二等筋あたりだな。     俺の上腕二等筋からは由未絵を惑わすボナパルドエキスが霧状で噴出されてだな」 来流美「あーはいはい、普通に変な言葉で返さないの。     あんたその当然のように相手をからかう態度で、     何回紗弥香ちゃん騙したと思ってんの」 凍弥 「ちっさい頃から数えると……50は下らんな」 思えば懐かしいあの日々。 よくもまあグレずに育ってくれたもんだ。 あ、いや、『親がこんなんだから自分がしっかりしなきゃ』って、そんな感じか? なるほど、反面教師万歳。 凍弥 「それはそれとして、とりあえずどっかに行くか。     このままここで話しててもしょうがないし」 来流美「そうね。まあゲームの中だし、柾樹も大丈夫でしょ」 鷹志 「しっかしあいつも思い切ったことするよな。     まるでテイルズオブファンタジアのチェスターだ」 柿崎 「ああ、そういえば状況が似てるな」 凍弥 「あれで弓が得意だったらかなりナイスだったんだが」 などと言いつつ、俺達は当てもなく歩き始めた。 や、とりあえずは近くの町に行こうって目的はあるわけだが。 【ケース76:穂岸遥一郎/今日から“ヌ”の付くミキタカゾ・ンシ】 ───……。 遥一郎「さて……」 ぐるり……ぐるぅり…… 遥一郎「ここは何処なんだろうな」 辺りを見渡しても草原草原草原草原、時折に山。 見渡す限りの草原に、少々呆然とした。 それよりも見晴らしがいいってことに素直に感動はしたものの…… ノア 「マスター、お怪我はありませんか?」 サクラ「与一、ここ何処です?」 雪音 「うあー!空気が美味しいよー!」 澄音 「いい景色だね、レイラ」 レイラ「ええ、澄音さん」 ここに居るメンバーに意図的なものを感じるのは俺だけなんだろうか。 とはいえ、まず考えるのは柾樹のこと。 置いてくるカタチになってしまったが、大丈夫だろうか。 遥一郎「……ん。ゲームだし、きっとなんとかなってるな」 そもそも死んだら神父のところに飛ばされるのはこのゲームの常識だ。 そこでありがたくもない説法を受け、『もう死ぬまい』と思いつつ旅に出る。 柾樹があそこでやられたとしたなら、恐らく晦が何処かの神父の下に柾樹を飛ばすだろう。 ……そう考えれば気は楽になる。 遥一郎「よし、状況確認をしよう」 雪音 「めんどいからヤー」 遥一郎「【システム】→【パーティー設定】→【メンバー除名】→【観咲雪音】……」 雪音 「うわぁあん冗談だよぅ!!わたしだけ仲間外れなんてヤだーーーっ!!!」 遥一郎「うわばかっ!泣きつくな抱きつくなスリスリするなっ!!」 ジャココココンッ!! ノア 「どさくさに紛れてなにしてやがるんでしょうか……!?」 遥一郎「待て待て待てぇえっ!!ノア!     この状態でアークバルカン撃たれたら俺にまで当たるだろう!?     ていうかなんで魔器が使えるんだ!?ゲーム空間なのにそんなのアリか!?」 ピピンッ♪ サクラ「与一、『アリだ』ってメールが届いたです」 遥一郎「即答かよ!!は、離れろ観咲!やられるのはお前だけで十分だ!」 雪音 「いやーー!!死ぬ時は一緒って誓い合ったでしょー!?」 遥一郎「うわああ馬鹿!こういう時にそういう冗談はよせぇええええええっ!!!!」 ノア 「……マスター。頭をお冷やしください」 ガラタタタタタタタ!!!! 遥一郎&雪音『キャアアアアーーーーーッ!!!!』 神……というか天界人はとっても無情だった。 アークのバルカン砲から放たれた弾は容赦なく俺と観咲を痛めつけ、 さらに催眠効果までも引き出して俺達を行動不能にした。 救いがあるとしたら、アークの弾が豆だったってことくらいだろう。 ただし当たると眠くなるようで、 俺と観咲は抗うことも出来ないままにさっさと眠ってしまったのだった。 【ケース77:弦月彰利/そして彼らは毘沙門天(WAWエディション)】 マキィンッ!! 彰利 「ハートに届け♪プラクティッス♪」 ゼット「つまらん御託はどうでもいい」 彰利 「グ、グゥムッ……!!」 どうも、みんなから愛されて千と三十八年、弦月彰利です。 今日はここ、ロンドルハイム高原から物語をお送りします。 このロンドルハイム高原は エーテルアロワノンから見て地球の裏側に位置する場所のようで、とても高い高原です。 “高原”という名前にぴったりの場所といえましょう。 そしてもちろん高所といったらこれでしょう。  ───ゴォオオオオ……!!! 彰利 「フ〜〜〜ア〜〜〜ムア〜〜〜〜〜〜イ!!!!」 おお、思わずより高いところに昇って叫んでしまうこの高所、まさに国宝級である。 大地は揺るがさんが心を揺さぶる思いはあるぜ?トニー。 彰利 「というわけで点呼ー!いーち!」 ゼット「………」 みさお「………」 彰利 「……喋ってよ……」 完全無視だった。 泣いていいかね、俺。 とまあ雰囲気で察してくれ神様。 ハッキリ言ってこりゃ人選ミスだぞ? まさかゼットくんとみさおさんと同じ場所に落ちるなんて。 俺、なんでかこのふたりから嫌われてんのよね。 みさおはまあ解るとして、ゼットくんは何故?って……考えるまでもないか。 なんだかんだで彼はかつてのラスボスだったわけだし。 そう簡単には人と馴れ合ったりはせんだろう。 彰利 「でもなぁ、いくらなんでも三人パーティってバランス悪くないかい?」 ゼット「………」 みさお「………」 彰利 「……喋ってよぅ……。ねぇ〜〜ぃ、喋ってよォオオ〜〜〜ゥ!!!     シカトォゥ!?シカトデスカァッ!?     だったらワタシはあなた方がそうやってシカトする様を     しかと見守ることにします!」 ゼット「………」 みさお「………」 彰利 「オッホッホッホッホ!イッツァジョーク!!     ジョーク!!ジョッ───ここはジョークアベニューでェす!!」 ゼット「………」 みさお「………」 彰利 「……喋ってよぅ」 気分は誤って知り合いのカップル仲と一緒に出かけちまったロンリーハートです。 居辛いッたらない。 彰利 「いいよもう!貴様らはずっとそうやって、     『ふたりの世界/ザ・ワールド』を展開してりゃあいいさ!!     俺はひとりで旅に出る!貴様らの力なぞ借りん!!」 みさお「………」 ゼット「………」 彰利 「喋ろうよこんな時くらい!」 もうええわい!てっぺんきた! やっぱこんなの人選ミスさ!悪いのは神だ!! 俺はソロプレイで頂上目指してやるさ!なんだいまったく! 彰利 (フッ、だがソロプレイの方が経験値が上なのは事実……) だったら俺が一番先にこの世界でゴッドになりましょう。 全ての謎を解き明かすのは───この僕だ!! 彰利 「というわけでアディオスくそ野郎!     いくら無視するっつったってキミらのは態度が悪すぎた!     よって僕も貴様ら嫌いになります!地獄に落ちろボンジョリーノ!!     ───……しまった冥界の王って俺だ!!落とす役目なのって俺じゃん!!」 とても恥ずかしかったです。 でももう構わん……俺は最強への道を目指そう。 そう決断した俺は脇目も振らずに駆け出しました。 ええ、しっかりパーティー設定で自分はソロとなった状態でです。 【ケース78:ゼット=ミルハザード/サマソ】 冥界の王が去ってゆく。 あの存在が奇天烈なのはいつものことだが、今回は随分と激情していたと思う。 みさお「あーあ、行っちゃった」 俺の隣では呆れたようにセシル───みさおが息を吐いている。 普段なら何かしら言っていたであろう存在は、 恐らく俺が最初に言葉を発するまで何も言わないつもりだったのだろう。 どちらにせよ俺は喋る気にはならなかったが。 みさお「あのねゼットくん。ゼットくんはもう少し積極的に言葉を発するべきだと思うな」 ゼット「関係無い。察することも出来ずにギャーギャー喚いて去るのなら、     そうさせてやればいい」 みさお「ゼットくん、そのままじゃ友達……じゃなくて理解者を無くすよ?」 ゼット「構わん。元より孤独なる時を三千と生きてきた。     それが今さら十増えようが百増えようがどうということも無い」 みさお「はぁ……」 みさおは大袈裟に溜め息をついて俺の顔を見上げた。 俺は目を逸らさずに意思の固さを表現するが、みさおは諦めたように笑みをこぼすと─── みさお「じゃあしょうがないよね。わたしが唯一の理解者で居てあげるよ」 仕方無さそうに振る舞い、しかし嬉しそうにそう言った。 ……まったく、何をしたいのかいまいち解らない。 竜として過ごした時間が長かったからか、 俺はこういう時にどう反応すればいいのかを忘れてしまっていた。 だがこうして、かつての想い人とともに居るという事実は…… 俺の『人』としての心を、ゆっくりと解放してゆくようだった。 ゼット「いいのか?弦月彰利には完全に誤解されただろう」 みさお「知りませんあんな人」 弦月彰利の名前を出した途端にムッと表情を変える。 まったく、子供っぽいところはいつまで経っても、転生すらしても直らないらしい。 ゼット「まあいい。俺には関係の無いことだった」 みさお「……どうしてそんなにぶっきらぼうになっちゃったかなぁ。     ほらゼットくん、笑って笑って」 ゼット「こ、こらっ、やめろ」 両の頬をに〜うと伸ばされ、すぐにそれを振りほどいた。 そのくせ、自分でやっておきながら何故か真っ赤になっているみさお。 こういうところはセシルの時とまるで変わらない。 ゼット「………」 調子が狂う。 狂うが……嬉しくないわけじゃない自分が、何故だか無性に恥ずかしかった。 【ケース79:弦月彰利/毘沙門天(再)】 彰利 「なんねまったく!おいごがあれほど喋っとんのにシカトか!?     はーーん!まったく人間なっちょらんばーーい!!」 俺の怒りは爆発寸前です。 愛のボルテージが破裂寸前のようにスピルバンの守護の下、 俺は怒りの炎を燃やしておった。 心が黒く染まってゆく……おお、今なら俺は暗黒シーフになれそうな予感!! 彰利 「さ、寂しくなんかないんだかんな!?     僕ァこう見えても孤独になんて慣れてるさ!     ……そりゃあ、誰も僕の相手をしてくれない中で、     悠介だけが僕の味方してくれてたから完全な孤独じゃなかったけどさ……」 …………。 彰利 「ううっ、寂しくなんかないやい!!」 などと思いつつ、近くの町───ではなく、少し離れた村を目指していた時だった。  ───ドゴシャァ!! 声  「うぶぇっ!?」 ……と、何処かで聞いたような声質の悲鳴(?)を聞いたんじゃあ……。 彰利 「何奴!?」 俺はもちろんババッ!と振り返りました。 あ、その声が聞こえたのが俺の背後だったのですよ。 え?何故説明的な口調なのかって?……寂しいからじゃないよ? べつに、説明することで あたかも複数人で行動してる感覚に陥ろうとしてるわけでもないよ? 悠介 「い、いぢぢぢ……!!こ、こらノート!もうちょっとやさしくだなっ……!!」 彰利 「悠介ぇえええええっ!!!!」 がばしぃーーーっ!!! 悠介 「どぉわっ!!?あ、あきとっ───ちょ、コラ!!抱きつくな!!」 彰利 「知らず知らずのうちに頬を伝う涙……!     解ってはいても止めることの出来ない鼻水……!!     ッ───寂しかったよォーーーーーーッ!!!!」 悠介 「寂しいって歳かたわけぇえええーーーーーーーっ!!!!!」 ドカバキベキゴキガンガンガン!!!! 彰利 「ギャアーーーーーーーーーッ!!!!!!」 ……その日。 久しぶりにオイラに抱きつかれたことでかつての感覚を取り戻したのか、 俺は随分と久しぶりなノリの中でマイ親友にボコボコにされたのだった。 ───……。 ……。 彰利 「ほへー……で、あとは精霊たちでどうとでも出来るから、     汝も鍛錬をしろってヒロラインに放り込まれた、と?」 悠介 「なーに聞いてたんだお前は。     確かにそうかもしれないけど、俺が言ったのはそうじゃない」 彰利 「おー解っとる、解っとるよー」 ふう、やっぱいいよねーこの雰囲気。 親友と一緒ってステキさ。 思わず頬が緩んでしまうわい。 彰利 「スッピーの野郎がヒロラインにログインしてる皆様のパーソナルデータを見てたら     いきなりキミに『汝も入れ』って言ってきたんだよね?」 悠介 「ああ。ノート自身は     『精神体での修行は精霊体である汝の身体に良い影響を出す』とか言ってたけど、     実際はどうなんだか」 彰利 「あれでスッピーも策士っつーか腹黒いところがあるしねぇ」 悠介 「精神体での修行がそのまま精霊の身体に影響があるのは俺でも解る。     精霊ってのはある意味で精神体の具現みたいなものだから、     修行すればそりゃ影響も出るだろ」 彰利 「ほへー……あ。     そこまで解ってんならなんだって一緒に初心者修練所に来なかったん?」 悠介 「逆もまた然りってことだよ」 彰利 「逆?逆って───」 ……ああ、そっか。 精神体の修行って名目で悠介がこのヒロラインに入るとして、 今言ったことが事実なら確かに逆もまた然り。 精神体が精霊の状態に影響を及ぼすってんなら、 精霊である悠介の“強さ”はダイレクトに精神体に影響を見せるだろう。 つまり───強すぎてゲームにならんってことか。 彰利 「でもちょっと待った!     悠介ってばヒロライン作ったばっかの時まだ精霊じゃ───あ゙」 悠介 「まあ……そういうこと。完全な精霊ではなかったけど、神魔霊竜人。     つまり精霊の要素は既にあったってことだよ。     しかも精霊の力に便乗して他の力まで引き出せるような状態だった。     ……そんなジョーカーみたいな存在が居たらゲームにならないだろ」 がっかりしたような顔でモシャアと息を吐く悠介。 うーむ、何気に悲しかったらしい。 自分で作っておいてそこんところで融通が効かないのってなんつーか悠介らしい。 完璧超人に見えて、抜けてるところが多すぎるんだよねぇホント。 ンマー、俺ほどじゃないがね? 彰利 「……自分で言うことじゃないよね」 悠介 「?なにがだ?」 彰利 「い、いや、なんでもない」 ともあれ、これで───ってちょっと待った! 彰利 「それは学問に対する侮辱以外の何物でもないぞクラースくん!」 悠介 「いきなり意味不明を叫ぶのもお前の人物特性だからもう慣れてるが……なんだ?」 彰利 「いやいや、確かに意味不明でしかもこれから言うこととはなんの関係もなかった。     えっとさ、結局キミってばどうなん?」 悠介 「その言葉の何処に主語があるのか訊いてもいいか?」 彰利 「おっとこりゃ失礼。ホレ、キミってば結局精霊じゃん?     だからさ、今現在は某RPGみたいに“強くてニューゲーム”状態なんかなって」 悠介 「ああ、そういうことか。───大丈夫だ、それはないから」 彰利 「そうなん?」 そりゃちと意外。 悠介が燻ってたくらいだから、どうしようもないことだったのかねって思ってたのに。 ……とまあここまでくると、あとはそういうことが出来る存在は限られてくるわけだ。 彰利 「スッピーか」 悠介 「ああまあ、解るよな」 自分が言うより先に理解してくれたのが嬉しかったのか、 悠介は苦笑を漏らしながら頷いた。 そらね、スッピーなら出来そうだって思うし。 悠介 「俺の力の大半はノートに預かってもらってる状態にあるんだ。     だから俺もこうして普通にヒロラインに入れる。     正直な話、神魔霊竜人だった頃も、実は今も、     精霊の力や他の力を制御してログインするくらいは出来たんだ。     けどそれって実力を隠して手を抜いて冒険するってことだろ?     そんなのゲームじゃないしつまらないって思ったからさ」 彰利 「ム。そりゃ確かに」 悠介 「けどこれで思いっきり楽しめる」 彰利 「ム?───はは」 俺がウムウムと納得してると、本当に子供のような顔で笑う親友。 その顔は本当にわくわくしている子供のようで、 思わず釣られるように俺も笑ってしまった。 なんだかんだ言って、悠介の感情も少しずつ成長してきてる。 それは、まるで自分のことのように嬉しい事実だった。 ま、しゃあないか。 ガキん頃からずっと一緒に馬鹿やってきた相手だ。 自分のことみたいに気になるのは本当にしょうがない。 悠介 「よし、それじゃあ早速出発するかっ。彰利、お前何処に向かってたんだ?」 彰利 「オウ?お、おおそういやそうだった。     エートデスネィェ〜、     アタイはこのボルデミラ村に行こうと歩を進めておったんだがや」 悠介 「ボルデミラ?……っと、ここか?」 言ってみると、悠介は器用な手さばきでナビを出してマップを表示する。 ボルデミラ村───マルナの町からちょいと離れた場所にある小さな村である。 マルナ村ってのがさっきアタイが無視しようと決めた町で、 恐らくゼットとみさおが向かうであろう町。 悠介 「マルナの町には行かないのか?」 彰利 「そっち行くとゼットやみさおまで来そうなんで。     アタイもうあのふたり嫌いなのYO。     アタイのこと嫌な雰囲気とともに無視したんでねィェ〜」 悠介 「無視には慣れてるお前が嫌がるってことは、相当に嫌な気分だったってことか。     まあ一応お前の視覚情報からこの世界のことは見てたんだが……     見るだけじゃその時の感情は解らないからな」 彰利 「フッ……そういうことだ」 悠介 「無視されて威張るな、たわけ」 彰利 「すんませんとっても虚しかったんス」 でもアタイ、今嬉しい! パーティーと別れた先で、こげに親しみのある友に遭遇できたんだもの! 俺、今とっても輝いてる!! 悠介 「じゃ、とりあえず行くか?」 彰利 「ぬう、輝けないのがとても悲しい」 悠介 「……?ああ。また『俺、今とっても輝いてる』とか言って輝こうとしてたのか」 彰利 「ゲッ……な、何故解った!!エスパー!?」 悠介 「ははっ、何年親友やってると思ってるんだよ。そのくらい解るさ」 彰利 「グ、グウウ……」 完全に見切られていた自分がとても恥ずかしい。 だが嫌な気はしないのがとても不思議さトニー。 彰利 「ところでダーリン?」 悠介 「ダーリン言うな」 彰利 「まあまあいいじゃねぇかよぅ。なんか懐かしい気分なんだって。     そんなわけで俺は決めたぜ!?他でもない悠介との旅路!!     俺はかつての自分を取り戻す!!」 悠介 「取り戻すな!!」 彰利 「即答!?何故!?何故なのグレート!!」 悠介 「誰がグレートだ!!     ───とにかく!ダーリン言うのもアタイ言うのも勘弁してくれ!     懐かしむなとは言わないが、あの頃の自分思い出すと……───」 あ。 なんかクロマティ高校の前田くんみたいに頭抱え出した。 ああ、こりゃあ悠介が苦労してる時のクセみたいなもんだ。 確かにね、当時は周りのことに加えて俺からも苦労かけられてたしね。 彰利 「だが俺は嫌だぜ!」 悠介 「嫌がるなよ!」 彰利 「高松くん!キミがどう嫌がろうが僕はもう決めたのだ!     僕はかつての自分を取り戻す!     その上で変態オカマホモコンと言われようが本望だ!     何故ならば!ゲームとは“楽しむもの”!     ゲームの中でくらい違う自分を演出するのもオツというもの!だからだぁっ!!」 悠介 「……オツって言葉もなんつーか懐かしいな」 彰利 「そしてキミのそういう砕けた口調も懐かしい」 悠介 「……はあ。まあいいか。確かにゲームの中でまで真面目にやるのも馬鹿馬鹿しい。     お前の言うとおりかもしれない」 彰利 「すげぇでしょ!?褒めて褒めて!!」 悠介 「………」 彰利 「あのー、悠介サン?そこで早速頭抱えてると本気で前田くんになるよ?     先も思いやられるし」 悠介 「いや……なんかもういい……」 それは。久しぶりに見るあの頃の悠介のようでした。 Next Menu back