───冒険の書271/太陽とベルナルデリ保険教会───
【ケース693:レイル=ベルナード/今日から魔王】 カァーーーン…… レイル「フッ……」 ここは……何処なんだろうな……。 とりあえず、陽の下であることは間違いないんだが……。 レイル「………」 辺りを見渡してもなにもない。 草原があるって言えばあるんだが、建物とかは一切ない。 昨日は結局街を見つけられず、木の実を食らって野宿だった。 地図もなければ頼る当てもなく……思ったんだが、 これって新規プレイヤーにとっては全然まるで謎だらけなんじゃないか? そういう救済措置というか、それっぽいものはないのだろうか。 レイル「はーあ……」 現在の持ち物を確認してみる。 まず皮装備シリーズと、武器にメリケンサックとサーベルグリーヴ。 アイテムはアップルグミが数個とオレンジグミが数個、そして─── レイル「………」 ベヒーモスを殺した時にその場に居たからだろうか。 レアドロップってやつで手に入れた装備があって、名前は“マジックキャンセラー”。 左手専用の、変わった紋章が縫い込まれた手袋装備で、 あらゆる魔法、魔術、法術、式を無効化出来るっていう、とんでもない装備だ。 ……左手専用っていうのが、結構辛いが。 それに、装備してると自分も魔法、魔術、法術、式、 その他マジック系のものは一切使用できなくなる。 完全に近接戦闘大好き人間用の装備だ。 ……まあ、俺も魔法や法術になんて興味ないからいいんだが。 ゼロのクローンだから、俺にも法術とか魔法とかの才能があってもよかったのにな。 全然、からっきしだ。 そういうのはぜ〜んぶレインに流れたらしい。 お陰で俺は近接馬鹿で、カオスの力の濃さも異常だったわけだが。 レイル「……ふぅ」 なんの気なしに、目の近くに手を当てて溜め息。 カオスの力ねぇ……いろいろ無茶して、全部のカオス集めちゃ来たけど、操れるかどうか。 話持ちかけてみれば、エミリオもジルフォードもレインもあっさり頷きやがって。 ……ま、制御出来るかはおいおいだな。 レイル「つーかな、ゼロのクローンのレインよりも、     エミリオとジルフォードのカオスの方がデカかったのはどういう冗談なんだ?」 やっぱガキの頃から一緒に成長してるヤツは違うってことだろうか。 レイル「ま、それはいいか、済んだことだし。     ……とりあえず街かなんかに行きたいんだが……」 ……何処に行けばいいんだろうなぁ。 【ケース694:晦悠介/善と悪と愛と恋と太陽の旅人】 ……朝である。 秘密基地、だなんて大げさなことは言えないが、 それなりに広い地下鍾乳洞から出てくると、朱い陽の光を浴びながら伸びをする。 寝るのが遅かった所為か、どうにも起きるのも遅かった。 普段ならとっくに朝食も済ませた時間だろうが、 今日に至っては、その用意すらもまだだった。 悠介 「…………」 コツン、と。 歩いた拍子につま先に当たった石ころを拾い、意識を集中させる。 いわゆる分析と、変化だ。 完全解放とはいかないが、ラグが手元にあるお陰で分析も多少はお手の物。 掌の上にある石ころに浮かび上がる文字の羅列を書き換え、そこに別の文字を組み込む。 すると、石だったものがナイフに変わり、 さらに意識を集中させてやると、石のナイフが鉄のナイフに変化する。 だが劣化───イメージの構築が足りなかったのか、 それはすぐに錆び付き、朽ち果ててしまった。 悠介 「ん〜……《コリ……》」 精度は上がるどころか下がっている。 イメージは頭の中にある筈なのに、 空界で無茶していた頃に比べると、全てにおいて劣っている自分が悲しい。 まあ……いいんだけどな。 悲しさと向上心は別物、ってな。 神だの精霊だの、そんなのは関係ない状態で、自分の好き勝手に強くなりたい。 護るための力なんざもうどうだっていいんだ。 俺は、今を楽しみ今を未来に繋げるための力が欲しい。 でもなぁ、以前できたイメージが今の自分に出来ないっていうのはショックがデカい。 悠介 「よし」 朝のイメージ終了。 そろそろユニオン跡地に向かうか。 モンスター専用の地図ももらったことだし、少しは周りのことが解るってもんだ。 あ〜っと……───おぉ? 悠介 「……サンドランドノットマッドの名前がない……?」 あの、大提督劇場として名高いサンドランドが……。 もしかして国家反逆とか言われて潰されたのか? ……なんか嫌な感じだ。 こうして、提督のことを知ってるものが次々と破壊されていくのは。 この世界ではまだ“魔王”として覚えられているが、 それもしばらくしたら消えてしまいそうな予感さえする。 悠介 「…………だめだな。もっと楽しいことを考えよう」 暗くなるのは好きじゃない。 とはいえ、嫌な感じになるのは否めない。 いい気分転換があればいいんだが、あいにくと俺はそういうことに長けていない。 いつも周りが騒がしいためか、自分自身で気分転換っていうのが出来ないのだ。 んー……なにかないだろう───か?  ガサッ…… レイル「………」 悠介 「………」 ……。 レイル「あ……あ、ある〜日?」 悠介 「も……森の……中?」 レイル「───出会ったな」 悠介 「……出会った……なぁ」 何処から沸いて出てきたのか。 洞窟を隠すように鬱蒼と生えている森林を掻き分けて登場したのはレイル=ベルナード。 困ったような顔で、ゴリゴリと頭を掻きながらの風情からは、 まるで緊張感というものが見受けられなかった。 レイル「なぁ、ここ何処だ?町を探してるんだが何処にも行き当たらないで困ってるんだ」 悠介 「……町か。国(?)ならあるが」 レイル「お、そこでいいや。何処だ?     地図が無いし、あっても解らないからどうにもならん」 悠介 「ここだ。モンスターユニオン。魔物たちの王国だ」 レイル「OK最高だ。俺は天界人レイル=ベルナード。今後ともよろしく」 レイルが仲間に加わった!───じゃなくて。 悠介 「い、いいのか?そんな、あっさり」 レイル「俺の第一目標はジョブチェンジで魔王になることだからな〜。     だから所属なんてどうでもいいし、魔王なら魔物と一緒のほうが楽しそうだし」 悠介 「………」 俺の周りに現れるやつらって、基本こういうやつらばっかだよな……。 まあ、堅苦しくないだけマシなのかもしれないが。 レイル「で、今の魔物の王って誰なんだ?」 悠介 「一応俺ってことになってる。モンスターキングだ」 レイル「へえ……うん、そっか。似合わないな」 とってもストレートだった。 悠介 「あ、ま、まあ……な」 レイル「けどもし俺が魔王にジョブチェンジしたらどうなるんだ?俺がキング?」 悠介 「そこのところはジャミルに訊いてみなけりゃ解らん。     そもそも、モンスターキングは称号みたいなもんであって、     魔王みたいな職業じゃないんだ。     ジョブチェンジしても、モンスターたちが認めてくれないと話にならないだろ」 レイル「なるほど」 こくこくと頷いて、また頭を掻くレイル。 それから、なにか思いついたのか思い当たったのか、 軽く持ち上げた右手の人差し指をピンッと伸ばし、それをくるくる回しながら話し始める。 レイル「モンスターに支持される覚えも願望もないし、ああ、それでいいんじゃないか?     とりあえず俺は魔的な自分になりたいだけであって、適当な予想で、魔王になれば     カオスも扱いやすくなるんじゃないかって思ってるだけだからな」 悠介 「カオス?カオスってあの───」 彰利の記憶の中で見せたアレか。 天界で彰利が暴れた時に、彰利を止めるために発動させてた筈だ。 悠介 「その、なんだ。ひどい言い方になるかもだけど、     あの頃の彰利に負ける力を今更使っても───」 レイル「ん?……ああ、あの記憶のヤツか。     じゃあこっちもひど……くはならないけど、言おう。あっちの俺と一緒にするな。     今はそもそもカオスの蓄積状態のケタが違う。     マルドゥークから取り出したカオスも、     その息子のジルフォードの身にあったカオスも、     アルの息子のエミリオのカオスも、レインのカオスも、     散らばってたカオスや成長したカオス、全部俺が受け取ってるんだ。     あの頃とはそれこそケタが違う。あー……地界的に言えば……なんだ。     “今の私ならば烈海王にも勝てる”───だったか?」 それ違う。 思うだけで、言ってやらないが。 そしてむしろ負けそうな気がする。 レイル「そんでオーサマ、これからの予定は?」 悠介 「王様って……はぁ。これからモンスターユニオン跡地に行って、     修理できそうなら修理する。     分析と創造と変換があればなんとか出来るかもしれない」 レイル「へえ……俺も行っていいか?あ、その前にメシを食わせてくれ」 悠介 「………………」 うん、一言で言えば自分勝手なヤツだ。 これは、アルベルトの苦労する様がありありと浮かぶ。 溜め息をひとつ、ジャミルを呼び出してこれからのことを話し、歩き出す。 モンスターたちにはあまり目だった行動は取るなと言伝て、 まだ慣れていない世界をのんびりと。 レイル「走ったりしないのか?飛んだりとかは?」 悠介 「走るのもいいんだけどな。飛ぶのはダメだ。死にたくなかったらやめておけ」 レイル「そかそか」 解らないことは聞くタイプか。 情報が少ない世界だ、俺だって訊ける相手が居るなら何度も訊きたいくらいだしな。 ジャミル『王。新たな情報が。      また人間どものモンスターハンティングが始まったらしいです』 悠介  「モンスターハンティング?」 聞き慣れない言葉に、歩みながらも訊き返す。 ハンティング……狩りか? いや、どこかそれとは違った雰囲気を、語調から感じ取れた気がした。 悠介  「……捕獲、か?」 ジャミル『は。恐らくはコロシアムのオーナー、ガメッシュが見世物にするために───』 悠介  「コロシアム……」 レイル 「んー……コロシアムの、ガメッシュ、と……よし」 悠介  「?」 ジャミルを挟んだ隣を歩いていたレイルが、 何処で手に入れたのか、それとも持って来たのか。 懐から取り出したメモ帳に、なにかを書いてゆく。 言葉通りのことだったんだろうが、気になったから訊いてみた。 悠介 「レイル、それは?」 レイル「おお?もう呼び捨てか?まあ気安いほうが好きだからいいけど。     で、これな?これはな、コロがすリストだ」 悠介 「…………」 えっ……と……物凄く疑問に思ったんだが。 どうしてこいつ、地界の漫画とかアニメに無駄に詳しいんだ? まさかコロがすリストとくるとは……クロマティ、好きなんだろうか。 ……これからいろいろ問題が付き纏いそうだな。 そう思ってるくせに、それについてくる面白さを期待せずにはいられない自分は、 確かに昔と比べれば、随分と周囲に興味が持てる自分になったんだなと……笑った。 レイル『……ところでだな。俺、魔王になりたいわけだけど───     それはやっぱりアレか?水洗トイレから流れてこないとなれないのか?』 悠介 「いきなりなんの話だ!?」 魔王になるために水洗トイレ!? 聞いたこともないんだが!?あ、いや、彰利がなにか言ってたような……思い出せん。
【Side───マラジン】 マカァーーーン♪ マラジン『説明しよう!ご婦人用の公衆トイレは秘密がいっぱいなんだ!』 ナギー 『むう!その心は!?』 マラジン『うむ!ジョヴァーと流しながら便器に顔を近づけると───      なんと異世界に飛べるんだ!!』 ナギー 『なっ……なんじゃとーーーーーーっ!!?』 マラジン『し、しかも草原で倒れてると思ったら道端に倒れてて、      僅か前まで横にあった筈の草花が消滅しているんだ!      ……これは。ちょっとした恐怖ですよ?』 ナギー 『そ、それは恐ろしいの……!』 悠黄奈 「あの……なんの話をしているのですか?」 マラジン『今日からマ王』 シャル 「流されたらどうなるのです?」 マラジン『マ王になれます!!』 総員  『なんですってぇえーーーーーっ!!?』 【Side───End】
…………。 なんだろうな。 今、彰利の言葉を思い出すと同時に、ヘンな映像が頭をよぎったような。 レイル 「それで?そこに着くまでどれくらいかかるんだ?」 ジャミル『ここからならば歩いて3日といったところだ』 レイル 「三日!うっへぇ……!あ、じゃあまず腹ごしらえしよう。      どっか街にでも寄って───って、魔族じゃそれも無理か。じゃあ───」 ジャミル『問題はない。わたしのことが気になるなら、人間の娘にでも化けていよう』 レイル 「へ?」 言うや、ジャミルはマントを翻して俺達の視界から自分姿を消す。 ……やがて重力に従い、マントが戻る時。 そこには、人間の姿をした赤い髪の女性が居た。 ジャミルの象徴である巻き角も、頭から綺麗になくなってる。 ジャミル「どうだ?声のブレも調整した。      人間の感性は知らないが、そう悪い姿でもないと思うが」 レイル 「ストライクだ。結婚してくれ」 ジャミル「断る」 レイル 「じゃあ友達から始めよう。俺、レイル=ベルナード。      金髪碧眼、時折深紫眼の、流れるヘヤーがチャームポイントのナイスガイだ」 ジャミル「ジャミル=エルカッセ。元王族だ。そして断る」 レイル 「そうか。じゃあ知り合いからだな。よろしく」 悠介  「あー、そこのステキヘッド、いきなり目の前で告白劇場始めないように。      で……ジャミル、お前って王族だったのか?だったら───」 ジャミル「王。わたしは王族である自分になんの興味もありません。      あなたが王になり、我らを率いてくれるのなら、文句さえありません。      わたしは魔物の王族として未熟すぎる自分に嫌気が差した。      故に、王になる者が現れたのならその支えになろうと思ったまで」 悠介  「……そか」 こういうタイプは頑固と決まっている。 なにを言ったって曲げないだろう、その意思が瞳から流れてくるようだ。 レイル 「ところで、なぁ。アニメでも漫画でも、      金髪キャラってどうしてか女ッたらしが多いよな。どうしてだ?」 悠介  「お前は違うのか?」 レイル 「ばか、俺は純情一途だ。      ジャミルちゃんを見るまでこんな気持ちになったことなんてないくらいだぞ」 ジャミル「ジャミルちゃっ……!?ちゃ、ちゃんはよせ!虫唾が走る!」 レイル 「そうつれないこと言うなよ、知り合いが友達になるためには、      もっと気軽さとかいろいろ身につけてないとためだろ?      俺のことも気軽に───」 悠介  「ベルナルデリ保」 レイル 「それはやめろ」 全部言い終える前に即答だった。 ジャミル「王……なんなのですかこの男は」 悠介  「一応味方だ。      一緒に人間どもを恐怖のどんぞこに落とすことに協力してくれるらしい」 レイル 「お前に一目惚れした男でもある。結婚してくれ」 ジャミル「断る」 レイル 「うわーすげぇ冷たい目。      でもさ、こういうヤツほど落とした時の反動が楽しみと思うのは俺だけか?      こう……なぁ?冷たい瞳のヤツが、相手に対して少しずつだけど心を溶かして、      いつしか名前で呼び合って寄り添う関係とか《ポム》……お?どした?」 悠介  「……お前、幻想見すぎ……」 レイル 「しっ……失礼だなお前!」 ハタから見ると結構イタく感じる。 だがそんな俺からの言葉など何処吹く風。 一応は軽く怒ってみたレイルはしかし、ニマァっと笑うと、立てた指をくるくる回し、 レイル「ああいやいや、そんなの見るヤツの自由だろ?     見る自由があるのに見ないで、なにが幻想だよ。     お前のイメージ能力だって、出来るからやってる。     ほら、俺の幻想となにが違う。あ、言っとくけどな。     自分が使う能力だから他とは違うなんて、何様モードは見せるなよ?」 そう言ってから、カラカラ笑った。 軽く見えて、考えることは考えるヤツなのか。 イマイチつかみ所がないというか…… レイル「というわけで俺はこれからラブアタックをするぞ。     そして来週あたりに銃で撃たれて死ぬんだ。     そして、“信じられないだろ……     こいつ、先週までラブアタックとかしてたんだぜ……”とか言われるんだ」 悠介 「や、だからな?お前何者?」
【Side───マラジン】 マラジン『ラブアタックをすると来週には死んでしまうんだぜ!』 ナギー 『なんじゃと!?……らぶあたっくとはなんじゃ?』 マラジン『あなたが好きじゃー!と、意中の人に突貫アタックすることです。      で、それをすると翌週には銃で撃たれて死ぬの。      少し前に藍田くんが教えてくれた』 悠黄奈 「なんのお話なんですか?」 マラジン『コードギアスってアニメらしいです。      僕が空界で暮らすようになってからしばらくして始まったアニメ。      藍田くんはかなりハマったらしく、ブリタニア皇帝のカールには絶対に、      イガラッパが仕込まれてると信じて疑わなかったとかなんとか』 シャル 「……よく、解りませんわね」 マラジン『主人公の義弟としてロロというキャラが居たそうなんだけどね?      彼の行動がまるっきり、当時流行っていた“ヤンデレ”的行動だったとか。      兄さんに近寄る者全てを殺して差し上げましょう、ってそんな感じで。      ヤンデレっていうのが……ええぇとよく解ってないんだけど、      好きすぎる人のためならなんでもしちゃうような……』 悠黄奈 「愛ですねっ」 マラジン『え……いやうん、愛、らしいんだけど……      自分しか愛してくれなきゃいやだ、って感じらしくて……。      それが行き過ぎて、だったら他の人を殺しちゃえばいいんだ、って』 悠黄奈 「あ……愛、です……よね?」 マラジン『最初聞いた時はなんですかそりゃあって、僕も聞き返したんだけど……。      いや、今の地界はカオスです。ウラシマ効果というか……ねぇ?      久しぶりに訪れた地界は、かつての時代よりも一層カオスでした』 ナギー 『混沌としておるのじゃな?よく解らんが』 マラジン『そうなのです』 浦島さんの気分を本気で味わいました。 特に人の性格とか時代の流れとかファッションセンスとか。 悠黄奈 「そんな時代でなにか気に入れたものはありましたか?」 マラジン『そうだな。強いて言えば人の意思を無視する快感!選ばれし者の特権!      王の中の王の気分!      そして世界は私の下に平伏すのだッハッハァ!!!略して!SOS団!!      ……パソコンユーザーの技術の高さに脱帽しました。      え……なに?今ってパソさえ持ってれば誰でも動画作れるの?』 悠黄奈 「いえ……知りませんけど」 かなり驚いた僕が居たさ。 このDIOが学生やってた頃など、パソコンは持っているだけでストゥェ〜ィタス。 だが使い方もよく解らんものを買ってどうするんだと敬遠していたものだ。 だが戻ってきてみればどうだ! 機械技術は進歩し、一家に一台など当然! インターネットが世界を支配し、もはや情報が全てを握る情報世界と化してしまった! 情報さえあれば人のプライベートなどどうとでも出来るとイワンばかりのシュテンドルフ! いったいあの世界はどうなってしまうんだ!そしてシュテンドルフは関係なかった! 【Side───End】
…………。 どうしてこいつがアニメに詳しいのか。 そんなラブアタック等の疑問もそのまま流れ、俺達はとある人物の前に立っていた。 洞窟から一番近い街に来てみた途端のことだった。 太陽 「………」 悠介 「………」 アフロでマッチョなリアカー野郎がそこに居た。 名を、ボナパルド=太陽。 ボナパルドさんと呼ばれ、親しまれている忍者と魔法使いのハーフだ。 忍者というジョブが10年前に失われ、忍者の里も侍の里になった今。 こいつは果たして、忍者+魔法使いのハーフのままなのか。 はたまた、侍+魔法使いのハーフなのか。 太陽 「なんだてめぇなにガンくれてんだコラオウ?」 いや、なにを疑問に思うかより先に、なにより口が悪かった。 だが丁度いいと言えば丁度いいわけで。 悠介 「悪い、モンスターユニオン跡地に運んでもらいたいんだが」 離れた飲食店で、ガツムシャと肉を食うレイルとジャミルを横目に言う。 あれで、食欲は結構似通っているらしく、食べる勢いはほぼ同等だ。 ……問題なのは、その量なわけだが。 太陽 「なんだてめぇ客か?だったらさっさと───そう言ってくれなくては」 悠介 「うおっ!?」 血管ムキムキで無駄に眉間にシワを寄せていた顔が、 リアカーを握った途端にサワヤカに変わった。 麦わら帽子とか被ったらきっと似合うであろうサワヤカさだ。 ……なのにものすげぇムキムキで、しかも上半身裸。 容姿は10年前と何一つ変わってない。 ……人間なのか?こいつ。 太陽 「モンスターユニオンというのは10年前に落ちたとされる浮遊大陸、     浮遊都市エルメテウスですね?海に降り、     聖地ボ・タとなるまではノヴァルシオと同等の力を誇っていたとされる」 悠介 「そ……そうなのか?」 そんなことは初耳だが。 ていうかこいつはどうしてそんなことを知ってるんだ? 太陽 「フフフ……我が故郷ジャポンは世界の歴史。     僕に知らないことなどあんまりありません。     なにせ世界を旅する人力屋ですからね!ガイド能力くらいなければ、     この飛空艇が空を飛ぶ世界では商売してられませんよ」 悠介 「……いろいろ苦労してるんだな」 太陽 「ええまあ。それで、エルメテウス行きでしたね。     通行証はありますか?ここからだと関所を通ることになるので、     それが無いと余計にお金がかかりますが」 悠介 「通行証か。お前が持ってるのじゃダメなのか?」 太陽 「僕のですか?ええまあ……まだ期限切れにはなっていませんが、     通行証は一人一人が持っていなくてはいけないものなので」 ほら、と通行証を見せてくれるマッスル。 俺はその、差し出された通行証をギンッ!と睨み、鮮明に分析をしてゆく!! そして、なんとはなしに懐に手を突っ込み、その中で創造を開始し、 そこから抜く手に通行証を出現させてみせた。 太陽 「ああなんだ、持っていましたか。危惧でしたね、すいません」 悠介 「……《ニヤァ……!》」 全てのモノを利用せよ。 己が楽しみ、満足するためなら───ゲーム世界での正攻法など知ったことではない。 グフフフフ……提督よ。 俺も段々と、こういった楽しみ方が解ってきたぜ……。 悠介 「で、代金だけど」 太陽 「ええ。ここからあそこまでで丸一日あれば十分です。     途中で休憩も挟みますが、まあそれで。代金は2000オロになりますが」 悠介 「……お前、そんなので生計立てられてるのか?」 太陽 「鍛えてますから」 ……らしい。 普通は三日かかる場所へと一日で行くというのに2000で。 一気に運べる人数が少ないって理由もあるんだろうが、それでも安いだろ。 悠介 「……ふむ」 一応、金はジャミルたちから少しはもらっているんだが……2000か。 レイルとジャミルの食事代を考えたら、これは確実に足りない。 かといって金の複製は出来ないのがこの世界の困ったところだしな……。 仕方ない、なにか売って金にするか。 それともカツアゲでも───いや待て待て待て!さすがにそれはマズイだろ! レイル 「おっちゃん肉!肉もっとくれマンガ肉!」 ジャミル「わたしもだ。まだまだ足りない」 おっさん「…………お客様、お代金の方は───」 レイル 「あいつが払う」 ズビシと指差された先には俺。 途端、おっさんがニッコォオオオ!!と物凄いスマイルを俺に贈ってきた。 ……もう勘弁してくれ。 悠介 「……フェルダール硬貨の両替とか、出来るか?」 太陽 「レートが随分下がりますが、それでいいなら」 悠介 「一枚いくらだ?」 太陽 「一番高いので一億からの取引ですね。取引は大体、裏側でされますが。     裏でも表でも有名なのがデルフェルのコロシアムです。     僕が交換できるレートは、まあ僕の所持金問題で、せいぜい10万。それ以上は」 悠介 「一億から10万か……ピンとキリが明確なのかそうでないのか……」 太陽 「交換できる場所があるからこそこの値段なんですよ。     コレクター貴族が居なければ、こんな値段なんてとてもとても」 悠介 「そっか……」 ……ん?貴族? 悠介 「ちょっと待ってくれ。貴族はみんな殺された、って……」 太陽 「それは帝国貴族です。     貴族はなにも、帝国にいるような馬鹿どもばかりじゃあありませんよ。     帝国が好きになれない、またはソリが合わないなどという理由もあって、     新たな国家を作ろうとする場所は結構あったりするんです。     そういった貴族の大半は今よりも過去を思い、     そのためにフェルダール硬貨を集めていたりするんですよ」 悠介 「あ……なるほど」 今やフェルダール硬貨はかつての名残中の名残。 フェルダールを代表する物質っていってもいい。 機械だらけで空気が汚れて、マナも少なくなって空も朱くなっても。 硬貨だけはかつてのまま、フェルダールのままで残っているのだ。 太陽 「それが結構面白いものでして。かつての名残を手に入れるためならば、     オロ通貨などガラクタに過ぎないとまで豪語する方がいらっしゃって。     そんな人に交換を申し出ると、もう面白いくらいにお金を払ってくれます。     ただ───」 悠介 「ただ?」 なんとなく予想はついたけど、続きが気になって言葉に続いた。 ……返ってきた言葉は、予想の範疇を逸したりはしなかった。 太陽 「考えてみて、受け取ってみれば、その通りなんですよね。     今の時代が嫌いな人にとっては、今の通貨なんて嫌いなものそのもの。     いくら貴族だなんだといっても、そんなものは飾りでしかない。     事実、そういった貴族たちはまるで紙細工でも扱うかのように、     貧しい人たちへの振る舞いを購入しては、与えているんです」 悠介 「………」 太陽 「あっはは、ええ、おかしな話でしょう?     無駄遣いに違いないのに、それを無駄遣いだ、なんて責められないんです。     僕もね、フェルダールが好きだった。いいえ、今でも好きです。     こんな世の中になって、機械技術が広がり、景色が変わっていっても。     思い出すことは、あの緑豊かだった蒼空の下の景色ばかりだ。     そんな過去に思いを飛ばす僕らは、     いつだって頭の中の……そう、架空の蒼空ばかりを振り返っています」 こいつも、フェルダールが好きだったわけか。 俺も、だな。 このレゾンデートルは、あまりにも冷たい。 蒼空の下にあって、済んだ風の中を駆けたあのわくわく感がここにはないのだ。 人の天下だからと文句をつけたいわけじゃない。 力を持てばそいつらが上に立つのは、ある意味当然のことだ。 でも、だからって世界をこんなによどませていいとは思えない。 悠介 「お前はさ、人を恨むか?こんな世界にした人間たちを」 太陽 「それは違いますね。相手が誰だろうが、こんな世界にした存在だから恨みます。     種族がどうとかは関係ありませんね」 悠介 「そか。うん、俺も同じだ」 同属への救済とか、同属だから助けたいとか、そんなことはどうでもいい。 憎いのはこんな世界であって、問題なのは誰がこんな世界にしたのか、なんだから。 世界を悪くするファンタジーのボスを魔王とするのなら、 今この世界に居る魔王は人間ってことになる。 それがたとえ亜人族が相手だったとしても、そうなるんだ。 だったら、俺達がするべきことは───対人間じゃなく……対機械、ってことになる。 人間全部が憎いわけじゃないんだもんな。 そんな意味を込めて頷くと、ふと……食事をしながら俺を見ていたジャミルが、 期待を込めた目で、ゆっくりと噛み締めるように頷いていた。 あのな……ここで頷かれると、心を読まれてるようでシャクなんだが? 悠介 「あ……なぁ。情けない質問になるんだが。     マナがなくなることは、この世界には辛いこと、だよな。     マナは自然から発生するもので、だけど人間は自然を破壊する。     じゃあ人間が滅びればマナは永遠なのかっていったらそうじゃない。     亜人族だって誰だって、自然を糧とするのは解りきったことだ。     ……マナが生き延びるには、どうすればいいと思う?」 太陽 「……?自然とともに生きればいいだけです。当然じゃないですか」 悠介 「けど、それは───」 太陽 「格好にこだわるからごねることになる。     家は雨足が防げればいい。冷たい風は壁があればいい。     なにも豪勢な家である必要もない。伝えたいなら言葉で伝えたらいい。     紙なんてなくても、なにかを伝えることは出来る。     自然が本当に大切なら、マナが大切なら。     自分の体裁を気にするよりも先に出来ることがあるでしょう?」 言って、ボナパルドは俺の胸にトン、と人差し指を立ててきた。 太陽 「大事なのはハートです。覚悟です。あなたは善と悪を区別できますか?     善と悪を平等に比べられますか?     そして、それはあなた自身の身勝手なエゴではありませんか?     真の善悪、真の平等、そんなものはまやかしで、     結局自分のひどい、ひどくないで決めるしかない。     ええ、人を殺したところで亜人族が、     モンスターがマナを崩す確率はないとは言えません。ですが───」 悠介 「……環境がそもそも違う」 太陽 「そう。人間は紙でもなんでも、自然を破壊して取り入れ、機械などで空気を汚す。     亜人族はそういったものから離れ、自然と共存して暮らす。     望まない限りは繁殖しないのが亜人族です。     ……はっきり言いまして、人間よりはマシ、なんです」 まあ……そうだろうな。 空界のやつらもそうだった筈だ。 中には超傲慢なヤツらも居たが、そいつらだって人間を嫌悪はしたものの、 ちょっかいさえ出さなければ襲い掛かりもしなかった。 太陽 「考えてもみてください。人間が住む範囲と亜人族が住む範囲。     どちらが明らかに多いかを。アイルー種、ドワーフ族、妖精に天使にエルフ。     それらは人とは相容れぬが故に、森の奥や地下深くで生活をしている。     つまり、身を護るための、住むための自然がなければ生きてはいけない。     それを破壊しているのはどちらです」 悠介 「お前だ」 太陽 「なんですって!?《がーん!!》」 悠介 「あ、いや……言ってみただけだから」 太陽 「は、はあ……いえまあ、リアカーの突進中に木を破壊したりとかはしてますが。     まあつまりは人間ですね」 悠介 「でもな。それは人間が生きていく上で───」 太陽 「そこです。人間だから、を理由にしないでほしいのです。     そんなことを言える度胸があるのなら、まず自然とともに暮らしていただきたい。     僕の故郷、ジャポンでは自然と同化。まさに自然と一体になって暮らしています。     日々を清水と木の実、果物で生き、寒さも熱さも鍛錬にて慣れています。     そのお礼とし、僕らは自然のために出来ることを探しては、おこなっています。     逆を言えば、亜人種とて自然から人間の生活に溶け込めば自然を破壊しますね。     その逆もまた、です。郷に入りては郷に従え」 悠介 「いや、けどな、そんな生活してたって壊す時はこわ───」 太陽 「でぇえすから!程度問題の話です!     ただ増えて減るだけならば誰にでも出来ます!ええ人間ですから!     愛を唱えて愛を育めば増えます!老いれば減ります!───それだけですか!?     増えて増えて増えまくり、自然も破壊して!それで多少の苗を植えたところで、     子供が成長して自然を破壊するのと苗が生長するのと!どちらが速いとお考えか!     だったらそれだけの分の自然を植えればいいとお考えか!?     ならばその植えるスペースがあとどれくらいこの世界にあるとお考えか!     人が増えれば建物が増える!機械も増える!     空気も汚れて木々が育たない、土の栄養もなくなるこの油臭い世界で!     あぁあああもう耐えられない!僕の!僕らのフェルダールを返してくれぇえっ!」 ……キレた。 言ってることは解るんだが、それでも人間である限りは人間をかばいたくなるのは本能か? 悠介 「ここにはエルフも居るのか?」 太陽 「───ハッ!?……あ、ええ。僕らの里、ジャポンで共に。     堅苦しい人たちですが、自然にやさしい人たちには友好的です」 悠介 「……そか。で、質問なんだが。     この世界に居る全員が自然とともに過ごすなんてこと、やっぱり無理だろ。     意思がどうとかの問題じゃない。食べ物の問題だ。     あれだけの人数が自然とともに生きてみろ、     木の実なんて一週間待たずに死滅する」 太陽 「うーん……あなたはやはり、少し勘違いをしている。     僕はなにも人が嫌いと言っているんじゃない。     自然を大切にしない存在が嫌いなんだ。     それがどうして、すぐに対人間的な思考になるんです。     まずはそこから抜け出してください。恨むべきは、自然を破壊するモノ、です。     いいですか?人は生きるために野菜を育みますね?果物も、もちろん」 悠介 「ん……ああ、そうだな」 太陽 「魚や家畜も育て、食事にしています。     食べられるほうにしてみれば残酷な話ですが、食物連鎖というものです。     今はそれは仕方ないと言っておきましょう。     ……そう、そうすることで生きてはいけるのです。     自然を破壊する理由はありません」 悠介 「……じゃ、なんだ。つまり───生きていればそれでいいから、     機械技術とか妙な研究はいいから、ただ生きて今を楽しめ、と」 太陽 「家畜を育てるのにも自然が必要です。自然を育てるにも土への栄養が必要です。     そこはいい連鎖になっているんじゃないかと思うんですが。     ……あとは自然破壊者が居なければ……グフフフ」 ……こいつって、結構危ないかもしれない。 素直にそう思った瞬間だった。 自然愛も結構だけど、行き過ぎると異常だな。 …………ああ、いや、そうじゃないか。 壊してもなんとも思わなくなってるほうが、 こいつらにしてみればおかしいのかもしれないな。 最初に“平等に考えられるか”って言われた意味が、少しだけ解った。 こいつは平等だとかは無理だって言ったからこそ、さっきまでの言葉が言えた。 でもその実、自分たちは自然とともに暮らしているとも言った。 それがどんな生活かは想像できないでもないが───まあ。 少なくともこの空気を延々と吸わされるよりはマシだ、なんて思えてしまった。 モンスターの暮らしも案外質素だったしなぁ……。 これは、人間がなに言っても説得力に欠けるわ。 モンスターや亜人族が人間を悪く言う理由、こっち側についた今だから解る気がするし。 だがタンマだ。 恨むべきは機械で、人間全てが悪ではない。 善であろうとするならそこんところを見極めるべきであって───俺は善でなくていい。 うん、臨機応変、中立でいこう。
【Side───ユッキー】 悠黄奈 「へぷしょっ!」 マラジン『キャーーーッ!!?』 突然くしゃみが出ました。 丁度、博光さんを持ち上げて、シゲシゲと構造を見ていた時です。 お陰で、少々鼻水が飛んでしまって…… マラジン『グウウ〜〜〜ッ!な、なにをしやがる〜〜〜〜っ!!』 悠黄奈 「ご、ごめんなさい」 ひとまず博光さんを下ろし、なにか拭くもの……うあ、ありません……。 ……仕方ないですね、服を切って─── マラジン『お待ちなさい!』 悠黄奈 「ひゃあっ!?……あ、あの……博光さん?」 マラジン『ふぁ〜〜ったくカスが……お召し物をそんな、      千切ったりするものではありません』 悠黄奈 「……彰利さんの真似ですか?」 マラジン『性格にはハート様に近いものなんだけど。───誰ぞ!誰ぞある!』 ザシャアッ!! ナギー&シード『ここに……!』 悠黄奈    「わっ」 呼びかけた途端、離れて魔法の練習をしていたお二人が一瞬にして飛んできた。 博光さんの前にひざまずくと、これをこれをと布を取り出し、 マラジン『え?あれ?いや、僕自分で拭くから……』 シード 『ダメです父上。僕が綺麗にして差し上げますから』 ナギー 『ム。いいやヒロミツ、わしに任せるがよかろ。      シードなぞよりもピッカピカに磨いてやるのじゃ』 シード 『………』 ナギー 『………』 マラジン『や……だから、ね?体くらい自分で《ガヴァー!》キャーーッ!!?      やっ……やぁーーーっ!おやめになってぇえーーーっ!!』 シード 『離せアレイシアス!父上は僕が拭いて差し上げるんだ!』 ナギー 『ぬかせなのじゃー!ヒロミツはわしが綺麗にするのじゃ!      おぬしこそ下がっておれ!』 マラジン『《ごしごしごしごし!!》いだだだだ!つーか熱い!      摩擦熱で熱っ───アッ!そこはだめ!おやめになって!      あきまへん!あきまへんえ!アレーーーーッ!!堪忍してぇえーーーーっ!!』 博光さんが二人に捕まって、ごしごしと物凄い速さで磨かれてゆく。 それはもう、摩擦熱で周囲の空気が歪むくらいの速さで。 やがてゴファアッ!! マラジン『ギャアーーーーーーーーーッ!!!!』 ナギー 『ひぃっ!?ひ、ヒロミツが燃えたのじゃーーーーっ!!』 シード 『父上っ!?父上ぇえーーーーーっ!!』 マラジン『ザ・ファイヤーメン!《ゴォオオオメラメラ……》うぁあぢゃぢゃぢゃあ!!』 状況を利用して笑いに走ったようだけれど、ダメなようでした。 ナギー 『ひ、ヒロミツ……器用よの……頭だけを燃やすなど……』 マラジン『らむねー!とか言って、窓ガラスブチ破ったらウケるかな《メラメラ……》』 悠黄奈 「お、お顔を燃やしながらきょとんとされましても……」 酸素とか、大丈夫なんでしょうか。 【Side───End】
レイル「ふひぃ〜〜いぃ食った食ったぁ……ごっそさん」 悠介 「お前……あれだけ大食漢なのに、よく木の実で我慢できたな……」 レイル「食える時に食う!俺の座右の銘No.3だ」 悠介 「No.1は?」 レイル「無様でも生き延びる」 悠介 「……2」 レイル「出来るだけ自由に」 悠介 「4は……あるのか?」 レイル「リヴァイアに等しき天罰を」 それは座右の銘なんだろうか。 ……まあ、意味合い的には間違ってはいないんだろうけど。 ジャミル「それで、王。これから───」 悠介  「ああ。……サン、悪いんだけど……いいか?」 言って、取り出したフェルダール硬貨一枚を、手渡す。 太陽 「いいんですか?出すところに出せば一億は───」 悠介 「怒られることかもしれないけどさ。     この世界の通過なんて、どうでもいい。     それがあれば潤い深い暮らしが出来る人だっているだろうけど、     俺は護らないって決めたからな。ど〜でもいい。だから頼む」 太陽 「はい、では───サービスで“根絶やせ機械文明-阿修羅の章-”を───」 悠介 「語らなくていいから」 太陽 「残念です……」 郷愁が過ぎて、心に苛立ちを持つか。 この場合、過去も故郷になるんだろうか。 そんなことを思いながら、俺はジャミルやレイルと一緒にリヤカーに乗り込んだ。 レイル 「さ、手ぇ貸せ」 ジャミル「必要ない。あまり馴れ馴れしくしないでもらおう。      貴様が王の知り合いだからといって、      わたしが貴様と馴れ合う理由は生まれない」 レイル 「理由なら簡単だ」 あ、例のポーズ。 笑みながら人差し指をピンと立てて、 レイル「お前に、惚れたから」 なんて、聞いてるこっちが赤面しそうな…… ていうかする言葉をしゃあしゃあと言ってのけやがった。 対するジャミルの反応は………………ブリザードのような目だった。 ジャミル「……笑わせてくれるな。人の姿を取った途端に惚れたとぬかす輩が。      そんなザマではわたしはおろか、人間の女でさえ落とせないだろう」 レイル 「他はどうでもいいな。俺はお前がいい。      あ、それと言っておくけどな、本当にこんな感情持ったのは初めてだぞ?      女ッたらしなんて呼ばれたこともない。ガキどもの相手ば〜っかだったしな。      あ……でも一度だけ、天界の女に言い寄られたことあったっけ」 悠介  「まあ……その容姿ならな。無いほうがおかしいと思うが」 レイル 「天界は女の絶対数が少ないんだよ、そもそも。      そんな中で俺に言い寄ってきたのは、      天界竜印食堂の娘のエルナくらいだったな。      エクレア=ルノナシア=エーデルハイツ。微・姉御肌で、綺麗で可愛くて、      豪快と見せかけて結構純情で、まあ退屈しない相手だったなぁ。      こう……髪が長くて、三角巾一体型カチューシャが滅茶苦茶似合ってた」 悠介  「へえ……で、そいつは?」 レイル 「死んじまった。あとになって解ったことだけどな、      マルドゥークの秘密を知っちまったらしくてさ。      洗脳されて、散々操られた挙句にボンッ……だ。      たとえさ、日常的には平穏である。なんて思ってもさ。      影ではなにが起こってるのか、なんて気づけないもんなんだよな」 悠介  「………」 死んだ、か。 そうだな……全てを救えたつもりでも、 何処でなにが起こってるのか、なんてことを見渡せるわけでもない。 見渡せたとしても、その全てを自分が救えるわけでもない。 悠介  「美談でもなんでもないだろうが、その女にジャミルが似てるとか───」 レイル 「いや。エクレアはもっと美人だった」 悠介  「本人目の前にしてストレートだなおい!」 レイル 「仕方ないだろ事実なんだから。      でもそんなエクレアよりもお前が好きだから結婚してくれ」 ジャミル「…………《……ばさぁっ》』 悠介  「あ」 リヤカーも動き出し、人里も離れたからか。 ジャミルは鬱陶しそうにしながら人化を解き、魔族の姿へと戻った。 そんな姿を見てレイルが、 レイル「…………惚れ直した。結婚してくれ」 頬を染め、うっとりした顔で口説き直していた。 ……誰かなんとかしてくれ、こいつ。 ジャミル『貴様、初見の頃はどうとも言わなかっただろう。惚れ直したもなにもあるか』 レイル 「ん。正直眼中になかった。どうでもよかった。だから見なかった。      でもほら、人化したモンスターってどんなのなんだろ、って気になるだろ?      で、見てみたら───一目でゾッコンラヴってました。結婚してくれ」 ジャミル『………………』 ジャミルは心底嫌そうな顔をしたのち、溜め息混じりに断ると言った。 レイル 「魔族でも構わん。結婚してくれ」 ジャミル『断る』 レイル 「じゃあ友達から再出発!」 ジャミル『永久に知り合いでいい』 レイル 「世間には知り合い……実はラヴラヴカップル!」 ジャミル『死んでしまえ』 レイル 「死ねとな!?……〜〜〜っ……」 あ、なんかうるうるしてる。 もしかしてショックでがばぁっ!! ジャミル『ぐわっ!?なにをする貴様!』 うるうるしてると思ったら、次の瞬間には熱い抱擁が目の前で巻き起こっていた。 言うまでもなく、レイルが、ジャミルを、だ。 レイル 「勝気なところもいい!くそうなんていい女なんだ!ストライクだ!      手を繋ぐところから始めよう!次は腕を組んで、それからそれから───!      ……どうすんだっけ?既婚者よ」 悠介  「へ?あ、いや……そりゃ……キ、キ、キ……キス、じゃないか?」 レイル 「キスか。へぇ、腕組んだ先がキスなのか。よく解らないな、恋愛って。      まず抱き合ったりとかしないのか?」 悠介  「《ぼしゅんっ!》ぐっは……!そ、そう!それだ!キスなし!いまのなし!」 顔が灼熱するのを感じた。 なに言ってんだ俺は……!落ち着け、落ち着け俺ぇええ!! ジャミル『王。キスとは?』 悠介  「うへぇっ!?な、ななな……いや、そりゃキスって……」 レイル 「バストア地方で取れる魚のことだ」 悠介  「それはイワシだ」 しかもバストアじゃなくても取れる。 あ、いや、そうじゃなくて。 悠介  「い、いいかジャミル。女性がそんな、キ、キ、キス、だなんて軽々しくだな」 レイル 「お前って何処の頑固オヤジだ?……あ、いや、もしかして俺がハズレてるだけ?      地界とかじゃそういうのが当然なのか?んあぁ……悪い、知らんかった。      慎み深くが倭道……だっけか。俺にとって地界ってのは日本の極一部だからさ。      で、慎み深くってのは……やっぱあれか?手を繋ぐところからゆっくりと?」 ジャミル『《びしぃ》フン断る』 レイル 「あれま」 差し伸べた手はあっさりと叩かれた。 既に抱き締めている状態だっていうのに、手を握るもないだろうに。 ジャミル『いつまで抱きついているつもりだ、離れろ』 レイル 「《どんっ》おわっと。じゃあお手を拝借」 ジャミル『《きゅむっびしぃっ!》フン断る』 レイル 「うわーお取り付く島もない」 引き剥がされても懲りない男が、手を繋いだ途端にやっぱり引き剥がされた。 こうなると、確かに取り付く島など無い。 そんなやりとりを耳で聞いてか、サンもくつくつと笑ってるし。 ジャミル『大体、わたしは男などに興味はない。種族の繁栄は望ましいが、      わたしが子を産むなど、考えただけで頭が痛い』 悠介  「へえ……子供は嫌いか?ジャミル」 ジャミル『それは……知りません。魔物の子は魔物の母とのみ会う。      他人と会うことなど稀で、会ったところで、なにがどうというわけでも。      そもそもわたしは己が母になるなどということが想像できない。だから───』 レイル 「結婚してくれ。子供は6人がいい」 ジャミル『……《たはぁ……》人の話を聞いているのか貴様は……』 レイル 「相手を知り、好きになり、愛をしって母を知る!      そうすれば母になる喜びもきっと解るさ!結婚してくれ」 ジャミル『王……この馬鹿者をなんとかしていただきたいのですが……』 悠介  「あー……《がしがし……》おいそこの馬鹿」 レイル 「ま〜たストレートだなおいぃい……」 溜め息混じりに頭を掻きながらストレートに。 いい加減この告白魔人をなんとかしないと……。 悠介  「恋愛は自由だが、相手が困るのは相手の自由を奪ってるだろ。それはダメだ」 レイル 「えぇ?なに言ってんだ、そんなこと言ってたら、      いつまで経っても知り合いどまりじゃないか。      アタックすることで解ることもあるし、解り合えるかもしれない!      それをやめろって……じゃあもしその可能性があったとして、      今アタックをやめることで可能性がゼロになったらお前は責任とれるのか!?」 悠介  「はーいはいはい、自分ばっか正当化しない」 レイル 「おお、いい言葉だなそれ。だが俺の心は止められん。結婚してくれ」 悠介  「断る」 レイル 「お前に言ってるんじゃないって!      あ、えーと……俺のこと、軽い男だって思ってるか?」 ……ところで、リヤカーの上で女を口説き続ける男をどう思うだろう。 顔立ちもよく、金髪碧眼で、マジメな顔すりゃキリっといい男だが─── うん、とりあえずリヤカーの上はないだろ。 ……あれ?リヤカーだっけ、リアカーだっけ。 ジャミル『そもそも興味がない。どうでもいい』 レイル 「じゃあ結婚だ!」 ジャミル『なぜそうなる』 レイル 「どうでもいいんだろ?それって俺に決定を委ねるってことじゃないか」 ジャミル『ああ……王、この男をなんとかしてください、頭痛で吐き気がしそうです』 悠介  「すまんレイル、そこで白骨化してみてくれ」 レイル 「だからストレートすぎるって!どうしてお前らそう白骨化にこだわるんだ!?」 どうしてと言われてもな。 特に理由はないわけだが…… や、それにしても本当に直情というか無駄に真っ直ぐというか。 もう少しやりかたってものがあるだろうに。 ……俺に訊かれてもやりかたなんてものは知らないぞ? 悠介  「急いてはことを仕損じるって言うだろ?何事も───」 レイル 「一瞬の判断が命取りになるって言葉もあるな。ジャミルはNPCなんだろ?      もし死んだらそれまでだ。せめて恋に花咲かせる夢くらい見させろって」 悠介  「……お前」 死ぬだなんて決まったわけじゃないけど─── そういうことをこれからやるんだよな、俺達は。 それを解った上で好きになった、もっと好きになろうとしてるっていうなら───いいか? いやちょっとマテ、確かにジャミルはNPCだが、今は俺の召喚獣なわけで。 死んだとしても力さえあれば契約の印のもと、俺の中で復活が…… というわけで。 悠介 「ええい認めん!娘はやらんぞぉお!!」 レイル「えぇええ!?どっ……!何処のお父さんだお前!」 レイルの心情がどうより、とりあえずは様子見だ。 行きと帰り、二日の旅だけど、少しはこいつのこと、解るかもしれないし。 だからまあ、頑張ってくれ、ジャミル。俺は知らん。 Next Menu back