───冒険の書274/俺が死んでも孫呉の意思は……───
【ケース701:弦月彰利(再)/13ゴースト】 ざわざわ……ざわ…… 藍田 「ホホホ……所詮13かゴーストよ」 彰利 「うるせー!ゴースト言うなゴーストてめぇ!」 藍田 「ゴーストはてめぇだろうがゴースト!」 彰利 「なんだとゴースト!」 藍田 「うるせぇゴースト!」 岡田 「お、落ち着けよゴーストたち……」 彰利 「ちゃっかりゴースト言ってんじゃござーませんよゴースト!」 岡田 「俺もゴースト呼ばわりかよゴースト!!」 試合後。 最終バトルロイヤルまでは準備があるらしく、 藍田くんと岡田くんはこの場でアタイをゴースト呼ばわりしておりました。 いやもう顔を合わせるやゴーストですよこのゴーストめが。 でも言われっぱなしが悔しいからゴースト返ししたら、これが結構面白くて。 藍田 「っかし、弦月が降参とはねぇ……」 岡田 「強かったのか?」 彰利 「若者風に言うと、マァ〜ジ強ぇえ〜〜。ハァ〜ンパねぇ〜〜《バゴォ!》ボベ!」 藍田 「お前がやるとムカツくからやめような?」 彰利 「ふゎぃ……ずんまぜん……」 でもなにも殴らなくても……。 彰利 「しかもねぇ……大変困ったことに、伯の装備ってばエクスカリバーなんよ」 藍田 「へぇ───なんだって!?」 岡田 「エ、エエエエェ〜クスカ〜リビャ〜ンっていったら、あの!?」 彰利 「ヘンな発音になってて、あのがどれなのか解らんけど、一応。     あ、この際フェイトなステイナイトは度外視していいから。     アレはそんな武器じゃあねぇや。えーっと、なんて言えばいいやら。     ともかくスゲーんだわ、それしか言い表せる言葉がないってくらい」 藍田 「うおう……」 岡田 「そ、そんなヤツと戦うのか俺ら……」 彰利 「特殊能力破壊能力があるからお気をつけなさい。     特に藍田くん。ヴィクター化もグラーフ化もオリバ化も破壊するだろうから」 藍田 「うえぇっ!?マジでか!?」 彰利 「マジです」 気でこっちの能力破壊してくるヤツなんざ初めてだ。 ああいうのをいわゆる達人って言うんなら、素直に頷く以外に他がねぇよ。悔しいけど。 彰利 「ほいで?なんか特別ルールがプラスされるとかほざいとったけど」 藍田 「お、おおそれよ。なんでもさ、お国が……ああ、帝国な?     そこが開発した機械をバトルロイヤルに混ぜるとかなんとか。     試運転のためのものになるから、     実験データを採取させるためにも全力で戦えとかなんとか」 岡田 「おかしな話だよな。機械嫌いが揃ってるこの場所で、機械を混ぜるなんて。     噂じゃあ、ガメッシュオーナーが帝国からの目を逸らすために、     それを飲んだって話もあるんだけど」 彰利 「へぇ……」 賭け事ってのはやっぱ、お国からしてみれば怪しいものでしかないのかも。 国が開く大会とは違って、こっちは思いっきり賭け事だもんな。 でもそれはそれとして。 彰利 「帝国が送ってきたってこったよね?そのロボを。     ほいじゃあ……えっと、マラジンの差し金?」 藍田 「そこまでは解らん」 岡田 「俺達も小耳に挟んだだけだし」 彰利 「すげぇ!どうやって挟んだん!?教えれ!!」 岡田 「物理的な意味じゃねぇよ!!」 彰利 「チッ……なんだよ……」 藍田 「クズが……」 岡田 「おぃいい……!!そこまで言われる理由が物凄く知りたいんだがぁああ……!?」 彰利 「ノリだ!」 藍田 「笑いだ!」 岡田 「ならいいや!」 世界は平和だった。 藍田 「しかしどうすんのかね。もしこれでその機械が滅茶苦茶強くて、     誰も勝てなかったら───」 岡田 「二位か三位にはなれるだろ。……伯をなんとかすれば」 藍田 「伯かぁ……能力ブレイクってことは、帯熱破壊もしてくるんだろ?難しいなぁ」 岡田 「物理的なものまでは無理だろ?いつもみたいに蹴りでドカんといっちまえって」 藍田 「やれることをやるだけってのは確かなんだけどな。     頼むよ弦月〜……お前が負けちまったら、     なんかすげぇ強いんだって無意味に緊張しちまうじゃないか」 彰利 「なんだとゴーストてめぇ!人に罪を擦り付けようってかこのゴースト野郎!!」 藍田 「ゴーストはてめぇだろうがこの負けゴースト!敗北ゴースト!!」 彰利 「う、うるせーーーっ!!好きで負けたんじゃないやい!」 藍田 「嫌いで負けたのか敗北ゴースト野郎!!」 彰利 「ワケ解んねーよ!!」 藍田 「まったくだ!!」 ともあれ、アタイはこれから暇になります。 どうしたものかと考えるも、あんまりこれといったことは浮かばない。 負けた教訓を活かして訓練でも〜って気分でもない。 なんていうか、負けた時のイメージを、まず頭の中で膨らませておきたいのだ。 どういう風に負けたのか。相手はどうやって気を扱っていたのか。 そういう、イメージトレーニングだ。 イメージっていうのはどうも誇張されやすいもので、 そのコントロールってのは上手くいかないものだが…… この場合、誇張があればあるだけいい。 大げさであればあるほど、敗北の味を噛み締められるから。 ……それ考えると、どこぞのイメージ命のモミアゲ野郎は大変だろうね。 声  『えー、お待たせいたしました。バトルロイヤルの準備が整いましたので、     選手の方は闘技場の上まで集合してください』 と、ここでアナウンス。 ……モノスゲーコロシアムっぽくないアナウンスだった。 藍田 「なにこれ……社員旅行かなんかのガイドさんのアナウンス……?」 岡田 「あ、俺も同じこと考えてた」 彰利 「でもあの解説の声じゃあなぁ……」 藍田 「ああ、伯に睨まれた時のあいつの顔、ケサックでさぁ!」 岡田 「あ、そうそう!アレはウケたよなぁ!」 ケハハハと喉から息を漏らすように、喋りながら笑う二人はとても楽しそうでした。 くそう、俺も負けてなけりゃあ素直に笑えてたものを。 声  『───速くこい新入りども!こちとらこの運営に魂かけてんだクズが!』 でもそんな笑いもあっさりアディオス。 聞こえてきた言葉に、藍田くんと岡田くんは頬をコリ……と掻いて微妙な笑顔で、 藍田 「……あいつ、地獄耳だったりするのかな」 岡田 「笑った次のタイミングで怒声って。普通早々出来ねぇよなぁ……」 と言っていた。 うん、アタイも同意見です。 【ケース702:閏璃凍弥/聖なる盗賊王。略して聖王】 ジャキィーン! 閏璃 「イエイ」 早速装備してみた。 ………………呪われた。 閏璃 「うぅ〜む、これが呪い。外そうにも外れないのはいったい何故?」 こう、手を広げても掌にひっついて取れないのだ。 これではメシ食うこともままならん。 呪いがこんなに恐ろしいものだったとは……ううむ。 閏璃 「えーーーと……ファイナルストライク!!」  ゴキュゥウウィイイイイン!!  フォガァッキィインッ───!!! …………シュウウウ……ドッカァアアアアアアアアンッ!!! 閏璃 「おおっ!」 固有秘奥義ファイナルストライクを使用すると、魔王の斧がどっかーんと砕けた! ……でも、握るグリップというか柄の部分は無事なままで、 しっかりと手にひっついて離れない。 こ……これが呪いか。 呪い……なんと恐ろしいんだ、呪い……。 しかも斧の欠片がメコモコと宙に浮き、柄に密着するや、修復されてゆくではないか。 で、30秒もしない内に復活。どうしろっていうんだろう。 閏璃 「………」 仕方ない、のかなぁ。 出来ればヤツに頼りたくなどなかったんだが。 まあ逃げてるうちに街も見えてきたことだし、仕方ないから行ってみるか……。 ……。 神父 「帰れ」 いつか殺すと、僕はそう誓いました。 というわけでここは教会。 解呪といえば神父だろう!とやってきたはいいが、 この神父……俺が金を持ってないと知るや、帰れときっぱり言ってきやがった。 そりゃ神父だって人間だし!?(精霊だけど)金も必要になると思うよ!? けど苦しんでる人を前にして帰れはないだろ帰れは! 閏璃 「あ、後払いでなんとか」 神父 「直払いでなければダメだ」 閏璃 「フェルダール硬貨で───」 神父 「帰れ」 閏璃 「物々交換で───」 神父 「デスゲイズの頭蓋をよこせ」 神様、こいつこそを罰してやってください。 こいつ神父の皮を被った精霊だ。───よし、そのまんまだ。 閏璃 「や、やってくれないと教会壊すぞ!」 神父 「フフフ……その前に神父パワーで血祭りにあげてくれる」 閏璃 「神父の言葉として適切なのかそれは」 神父 「力ある神父をナメるな。神父が皆、いつもびくびくおどおどしてると思うなよ」 閏璃 「うわー」 ここまで力強い神父の言葉を初めて聞いた。 でもそうだよなぁ……どうしてか漫画とかだと、 強いって設定があるのはシスターばっかりだ。 俺、そういうのよくないと思うな。 神父が可哀想じゃないか。 ……こいつに対してはカワイソーとは思わんが。 閏璃 「さようなら」 神父 「貴様に神のご加護がないことを」 閏璃 「あらんことをって言ってください」 もういい……こんな神父に頼んだのがそもそもの間違いだった。 解呪の方法を探そう……───そう、たとえば……提督さんの呪いを打ち破った、 月光竜イルムナルラ、通称シャモンの鱗をブブチャアと千切ってそれを煎じて飲むとか! ……殺されるな。 だが結局のところは提督さんの封印を解かなければ月光竜も解放できないか。 うーん……帝国ねぇ。 ………………結局マラジンって誰なんだ? 閏璃 「………」 一度、行ってみるか。 町で地図でもかっぱらって。 ……。 どがしゃああああーーーーん!! 閏璃 「とんずらぁあああーーーーーーっ!!!」 男  「ど、泥棒だぁあーーーーーーーっ!!」 普通に出入り口があるのに、 わざわざ窓を破壊することに泥棒のロマンがあることを、俺はルパン三世から学んだのだ。 盗賊番「泥棒とはふてェ野郎だ!貴様《バサァ!》ぐわぁ!!」 閏璃 「がははははは!!砂かけババァーーーーーッ!!」 そして、どんな手段を取ってでも敵の隙を突くことを、提督さんから学びました。 盗賊番に砂をかけ、その横をAGIマックスで駆け抜ける! しかしその後から、なにやら異様に足の速いおっさんが刀みたいなの持って走ってくる! 連れ 「おやっさァん!!町内でポン刀はァ!!ポン刀はァアアアアアアア!!!」 そのさらに後ろで謎のアフロさんが叫んでるが、そんなこと気にしてる余裕ない! 刀振り回して追い掛け回してくるこのお方、どなた!?刀って、ジャポンの人々!? 閏璃 「えぇとなにかなにかぁ〜〜……くそ!     こんな時のために撒き菱でも持っておくんだった!     こんなことでは提督さんに対抗するなどとてもとても!!」 だったら、だったら〜〜〜……おお! 閏璃 「解放!ヒロミチュード!!」  ダララララ……ジャンッ!!《マグニファイが発動!!武器の能力が解放される!!》 閏璃 「おぉっ!?」 ログに文字が連ねられるとともに、魔王の斧が輝き始める!! 提督さんならステータス二倍とかだが、魔王の斧の潜在能力がなにかなんて俺は知らん!  ピピンッ♪《魔王の斧の潜在能力!強制融合!!》 閏璃 「───おお?……おぉおおおおおおおおおっ!!?」 腰につけておいた銃と、背中に差しっ放しだった、 今まで育てに育てていた剣がガタガタと震えだし、 それが解けて光となると、魔王の斧の前に集まりひとつになる!! しかもそれが一つの塊となると、今度は斧に吸収されようと 閏璃 「おわぁさせるかぁああああっ!!!《がっしぃっ!!》」 魔王の斧に吸収される前に光を掴み取る!! 冗談ではないぞ!斧に吸収されたら、猫と会うまで取り外せなくなるじゃないか! そんなわけで光を掴んでみたんだが、 慌てて手を伸ばしたその拍子にバックパックが開いたらしく。 その中から出るわ出るわの提督式重火器! それらは物凄い勢いで光に飲み込まれてゆき、 気づけば───光は俺の手の中でゴツイ銃……二丁のマグナムになっていた。 おぉお……なんだかよく解らんうちに手の中が重い……。 ジャポン人1「……おぉ!?私のポン刀がっ……!」 ジャポン人2「おやっさぁん!大丈夫ですかい!」 ……あれ? なにやらジャポンの人の刀まで吸収してしまった模様。 えーと……もしかしてヤバイ? じゃらりと鎖で繋がられた二丁拳銃をひとまず片手でなんとか持って、やはり逃げ出す! ああくそう!せめてこの斧、背中とかにぶら下げることができたらなぁ! でもやっぱり新しい武器には興味深々なので調べる発動。  ◆夜光銃ナハトズィーガー───やこうじゅうなはとずぃーがー  鎖で繋がれた一対のマグナム。黒の銃がナーデルカノネ、白の銃がヒッツェカノネ。  正式名称ハイパーゴールドラグジュアリーフルオートマチック真ファイナルヴァーチャル  ロマンシングときめきツヴァイドラゴンマグナム。  それぞれニードル砲と熱砲という意味を持っており、  強制融合によって生まれた世にも珍しい銃。  条件を満たさなければ生まれない武器であり、  この場合は重火器が10以上と+100以上の剣装備の融合がそれに当たった。  連射に長け、破壊力にも長け、困ったことに反動にも長けている。  だがその反動さえなんとか出来れば心強い一品。  銃のモードを切り替えるスイッチがそれぞれ横についており、  スイッチ切り替え後にトリガー引きっぱなしでマシンガン並みの連射マグナムとなり、  切り替えずに引きっぱなしにするとエネルギーチャージが可能。  溜める時間によって弾質が変化。レーザーやビームになったり、波動砲になったりする。  溜めるに溜めたのちに条件を満たすと銃が変化し、巨大なマシンウェポンになる。  ……ちなみに。この武器の威力はSTRではなくDEXで決まる。  高威力を願うならDEXマックスで撃ちましょう。  DEXを上げて撃つため、クリティカルが出やすいのもこの武器の特権。  *潜在能力:トリガーチェンジ、サブウェポン召喚 ……。 おお……これは素晴らしい。 なるほどなるほど?こんなトラブルがあっても武器が完成したりすることは確かに嬉しい。 武器ばかりに愛を注ぐ提督さんの気持ち、今ならよく解る。 ……でも今の俺じゃあ片方しか装備できないんだよな……。 よ、よし、まずは金を稼ごう。 稼いで、呪いを解くんだ。 今や重火器に愛を注ぐ俺に、銃を目の前にして我慢しろとはどんな拷問か! これは侮辱じゃ!朕に対する侮辱でおじゃる!! でも試しに左で───左手専用のカタチになってしまっている銃、 ヒッツェカノネを撃ってみる。  ッ───ドォンッ!!! 閏璃 「うおぉあ!?」 ………………。 あの……一発撃っただけで仰け反ったんですけど。 はっ……反動強いにもほどがあるだろ!! …………コキキ。 閏璃 「トルネードバス!!」  ガドドドドドドドォン!!!! 閏璃 「《ミキミキミキミキ!!!》ぎゃあああああああああああああああああ!!!!」 マシンガン!確かにマシンガン!でも反動ちっとも変わらない! マシンガン並みの速度で一発ずつに物凄い反動が! 手が壊れるかと思った!千切れるとかじゃなくて、 反動の痛さの所為で“壊れる”って日常的じゃない例えが自然と出たよ! だ、だめだ!マシンガンモードは危険だ!チャージタイプに戻しとこ! …………コキキ。っと……ふう。 声  「悲鳴が聞こえたぞ!」 声  「───いたぞ!あそこだ!」 閏璃 「ぐっはぁああああっ!!デカい声出しすぎたぁあああっ!!」 再びダッシュ! さすがに罪無き人を痛めつけるのは忍びない! ああでも撃ちたい!試し撃ちしてみたい!こんな切ない思い……! ───……。 ……。 閏璃 「はぁっ……はあっ……はああ……は〜〜〜……」 疲れるなぁ……疲れる。 誰かから逃げるって、ほんと疲れる。 誰だよこんなシステムにしたの……。 けど、なんとか逃げられがしぃっ! 閏璃 「……あれ?」 突然、両腕に圧迫感。 疲れた頭と酸素が足りない体でその圧迫感を辿ってみると、 オーガ『魔王の臭いがするぜ……ぷんぷんとな!』 オーク『てめぇが噂の魔王だな?ちょっとツラ貸せや!』 …………。 オーガとオークがおがったとしぇ。 閏璃 「い、いえ、自分そんなんじゃないスから」 オーガ『モンスターキング様がおめぇを呼んでんだ。いいから来いや』 オーク『俺達の言葉が解るんだろ?いーから来いって魔王さんよ』 閏璃 「い、いいぇ!言葉が解るのは多分魔王の鎧のお陰だから!     俺の能力とかじゃ絶対ないから!待───待てぇええええっ!!」 明確な敵意を感じなかったからだろう。 俺はオーガとオークを始末するなんてことが出来ず、 結局引きずられるままにどこぞへと連衡された。 【ケース703:マラジン/サヨナラの先に見えるもの、サヨナラの先に失くすもの】 たとえば泣きたいときがある。 何処に向かって泣けばいいんだろうと、質問された。 そんな時、俺は別に何処でもいいじゃないかと思ったのを覚えてる。 でも、本当に泣きたくなった時。自分は確かに……泣く場所を求めていた。  ───とある昼の頃。 その日は、といっても亜人族と笑い合って叫びまくって、意気投合したりしたその後。 高揚もいい感じで治まってきた、そんな時だった。 なんの気なしに、ナギーとシードとともに外の空気でもと猫の里から出たのがそもそも。 きっかけ、なんてものは案外些細な思い付きからくるもので、 その日の俺は明らかに穏やかと楽しさの中に居て、だからこそ気づかなかった。 自分がこうなったなら、相手がどうなるのか、ということを。  本当に偶然だったんだろう。 この世には必然しかないっていうのなら、別にそれでもいい。 ただ与えられた知識だけを是と唱えるのも癪だったけど、 そんなことがどうでもよくなるくらい、どうやら俺はショックだったようだ。 マラジン『………』 猫の里から続く小さな穴を出た先の草原に、そいつらは居た。 俺は、その姿をただ呆然と見つめ、 あとから穴を潜って出てきたナギーとシードに背中を押され、 ようやく自分がこんなところで呆然と突っ立っていることを思い出した。 ナギー『む?どうしたのじゃヒロ───』 シード『………』 ナギーとシードも気づいた。 視線の先。 どうしてこんなところに、とかより先に、どうしてあの二人が、と思ったけど。 考えてみれば当然なのかもしれないと思ってしまった自分が、なにより情けなく感じた。 ナギー『……麻衣香に───』 シード『エデンという場所を守護していた男、でしたね』 視線の先には麻衣香と七草が居て。 ここらで野宿でもしたのか、麻衣香の紙は少しぼさぼさとしていた。 それを恥ずかしがっているのか、時折髪を撫でては七草に苦笑を送っていた。 その姿は─── マラジン『………』 ……心の何処でも期待してなかった、って言ったらウソだったんだろう。 そうじゃなきゃ、こんなに悲しい筈がなかった。 たとえ自分が原因だとしても、絆があれば思い出してくれるなんて、 ムシのいいことを考えてたんだろう。 ……バカだ、俺。 そんなこと、ある筈ないのに。 ずっと一緒にバカやってくって思ってた原中でさえああなって、 だけど妻だけは、なんて……そんなことがあるわけがない。 いや、もう夫婦ですらない俺が、今更なにを願えたんだろう。 ナギー『ヒロミツ……』 麻衣香のあの照れた顔を、今でも間近で思い出せる。 心を許した相手にだけ見せるその顔は、 自分だけが見れる好きな相手の一番の表情だった筈だった。 でも、今それを一番近くで見ているのは俺なんかじゃなく─── 娘を、たった一人のエデンの生存者である紀裡を護ってくれる、守護者だった。 ……そうだ。 俺が居ないって歴史が作り上げられたなら、 そうなった麻衣香が頼る相手なんて七草しか居なかった。 どうして紀裡が生まれるに至ったのか、なんてことは事後のことでしかない。 過程でしかないんだ。そんなもの、麻衣香の中で都合のいい形で治まっているに違いない。 シード『父上……』 ……ふと、無意識に手を伸ばしていた自分に気がついた。 なにを掴みたかったのか。 なにを手放したくなかったのか。 伸ばされた手は、景色として映る麻衣香を掴み、 離れてゆく姿を、掴み取れない現実を、俺の前から消していった。 マラジン『俺……』 ……たとえば泣きたい時がある。 何処に向かって泣けばいいんだろう。 なにを思って泣けばいいんだろう。 いつか、その質問を笑い飛ばした自分が、 同じ質問を自問して……何処にも向けられないまま、子供のように……泣いた。 好きで手放したわけじゃない。 好きで殺したわけじゃない。 いろいろなことが重なって、いろいろなことが起こって、 俺はそれを受け入れたからこうなって、苦しくて、悲しくて─── シード『父上……大丈夫です。僕が居ます。アレイシアスも』 ナギー『そ、そうなのじゃ。わしは……わしはヒロミツの傍におるぞ?』 ナギーとシードが俺の手を取り、涙の出ないこんな姿の俺の涙を拭うように、 静かに抱き締めてくれた。 …………その抱擁が暖かいのに。 俺は、シードがずっと遠くの何かを気にしているのを、 ナギーが……遠くの何かを気にしているのを、確かに感じていた。 それは予感だったんだろうか。 いつか自分が本当に一人になってしまうことへの。 解ってる。 二人が何処を、なにを感じているのか。 この世界は過去と繋がった世界。 当然、現代だけが繁栄されているわけではなく、過去のなにかも繁栄されている。 つまり───ガイアフォレスティアと死人の森。 そこに、二人が望むものがあるのだ。 初代ドリアードと、魔王ナーヴェルブラング。 訊きたいことも話したいことも山ほどあるに違いない。 俺は楽しいことばかりを教えてきて、親らしいことなどてんでしてやれなかったのだから。 本当の家族というものの暖かさを、俺は与えてやれてなかったのかもしれないのだから。 だから……今のうちに覚悟をしよう。 少人数になっても、やがてたった一人になっても。 歯を食いしばってでも、自分に出来るなにかに向けて、立っていられるように。 マラジン『……さようなら。お前の料理、すっげぇ美味しかった。      いつか、夜中に肉じゃが練習してたこと……あったよな。      俺が嫌ってるの知ってて、俺でも食べられるように、って。      あの時……嬉しくってさぁ……』 遠く離れてゆく背中に、小さなありがとうを唱えた。 その隣を歩く男に、小さな護ってやってくれを唱えた。 それ以上になにが必要だろう。 女々しく思い出話をするなんてガラじゃない。 ガラじゃないけど……仕方ないじゃないか、 この口が、震える思いが、勝手に言葉をつむいでゆく。 出来ることなら自分がじーさんになっても、隣で笑っていてほしかった。 出来ることなら、一緒に紀裡の婿になる男を殴ってやってほしかった。 出来ることなら───どちらかの最後をどちらかが見取るまで、一緒にいたかった。 そんな、普通の夫婦にならきっと誰にでも許される幸福が、自分の未来にはなくて…… マラジン『なぁ、ナギー、シード。一度しか言わないからよく聞いてくれ』 ナギー 『ヒロミツ……?』 シード 『父上……?』 マラジン『お前たちに命ずる。父として、契約者としてでなく、一人の男として。      ナギーはガイアフォレスティアへ、シードは死人の森へゆき、      それぞれ初代ドリアードと魔王ナーヴェルブラングと会ってこい』 ナギー 『───!』 シード 『ちっ……あ、う……ち、ちちう、え……』 二人は、俺がそんなことを言い出すなんて思ってもいなかったんだろう。 明らかな動揺を見せ、抱き締めていた俺を、まるで穢れたものに驚くかのように手放した。 ナギー 『な、なにを……言っておるのじゃヒロミツ……。      こ、この世界には初代ドリアードなぞ……お、おらん、のじゃ……』 マラジン『……ナギー。自分さえ騙せないようなウソはつくな』 シード 『父上、僕はっ……』 マラジン『……シード。会ってこい。そいつがお前の本当の父親だ。      その先でお前が思い、手に入れた感情を大事に、どうするかを決めろ』 シード 『父上……』 突き放すように言い放つ。 その言葉にやさしさの欠片もないことに気づいたのか、シードは息を飲んで後退った。 ナギー 『じゃ、じゃが……ヒロミツ……ヒロミツは……』 マラジン『俺は行かない。お前たちが考えて、お前たちが決めるんだ。      俺は……楽しむことしか教えてやれない。親らしいことなんて教えてやれない。      契約者として立派なことさえしてやれない。……つくづく人間だなって思うよ。      人間である自分の弱さが、ひどく寂しく思えるときがある。      今のこの状況も、きっとそんな弱さが招いたことで……      ただ寂しさに浸っていただけなのかもしれない』 ナギー 『じゃったら!わしが、わしが傍に居るのじゃ!ヒロミツを一人になぞ───!』 マラジン『ナギー……頼む。今、この世界には明らかにマナが不足してる。      機械の数が圧倒的に増えて、木々の成長やマナの発生を妨害してるからだ。      今のドリアードだけじゃあ支えきれないものがあるんだと思う。      でも、じゃあそのドリアードが二人になったら、どうだろう』 ナギー 『ヒロミツっ……わ、わしはおぬしと……』 マラジン『……お姫様の面白旅情は終わりだ。      ナギー……いや、ニーヴィレイ=アレイシアス=ドリアード。      己の責務を果たすべく、この世界の“然”を……救ってやってほしい』 ナギー 『───……ヒ、ロ……?』 解らない、といった風情で……怯えながら首を振り、後退る。 ドリアードと呼ばれたことが……いや、俺にそう呼ばれたことがショックなのだろう。 今にも泣きそうな顔で俺に向けて軽く手を伸ばしかけ、だが止まる。 マラジン『……シード。お前はその手助けのために、      ナーヴェルブラングを説得して負のエネルギーを治めてやってほしい』 シード 『父上……ですが、ですが僕はっ……僕が父と認めているのはっ……!』 マラジン『……会いにいってやれ。      まだ話したこともない父親を、そんな風に見限るもんじゃない。      きっと暖かいぞ。自分の父親を、もっと信じてやれ』 シード 『っ……いやだ!いやだいやだいやだ!僕の父は父上ただひとりだ!      そんな今更本当の父だなんて言われたって僕は!!《ぎゅっ……》……!?      なんだこの手は……離せアレイシアス!僕は───!』 ナギー 『もう……やめよシード……。ヒロミツは本気じゃ……』 シード 『え……?』 項垂れ、目尻に涙を溜めたナギーが呟く。 その涙を見たシードが今一度俺の目を見て……そして、拳を握り締めた。 シード『っ……サァッ……イェッサァ……っ!!』 ナギー『〜〜っ……』 それが最後だった。 苦しそうに、今にも泣きそうな声で振り絞った了解の声が、俺の耳に届いた時。 二人は緑色の光に包まれ、消えた。 ナギーの自然への転移だろう……関所か、 それとも直接ガイアフォレスティアに向かったのか。 だが……今は祈ろう。 二人を迎えてくれるやつらが、どうかいい存在であるように。 魔王だからと邪険にする必要なんてない。 高位精霊だからと畏まる必要もない。 どうか、あいつらを迎えてくれるやつであってほしいと……ただ願った。 マラジン『……俺もそろそろ行くか』 荷物らしい荷物もなく、ただ漠然とそう呟いて歩き出した。 何処に行こうか……いいや、何処でもいいか。 今はただ当てもなくうろついて、この沈んだ気持ちをなんとか─── 声  「……どこに行くのですか?」 ……聞こえた声。 背後から自分の背中に届いた声に、静かに振り向いてみた。 そこには二人の女性が居て、呆れた顔で俺を見下ろしていた。 シャル「出発するのでしたら一声かけてほしいものですね」 悠黄奈「ええ、それについては同意見ですよ、博光さん」 悠黄奈さんとシャルだった。 いつからそこに居たのか、ナギーたちが消えた場所を見やりながら近づき、 俺を抱き上げると同時に……抱き上げた張本人、シャルは盛大な溜め息を吐いた。 シャル「不器用ですわね」 悠黄奈「男の子ですから」 シャルの言葉に同意して、くすくす笑う悠黄奈さんが俺の手を取る。 そして、やさしく撫でながら言った。 悠黄奈 「本当に……不器用な方です。      子を手放すことなんて、もうしたくもなかったでしょうに……」 アラジン『………』 シャル 「あら。けれど予想もついているのでしょう?      あの二人、絶対に戻ってきますわよ?」 悠黄奈 「ええ。それは間違いありませんね。けれど不忠義的なことはしないでしょう。      ……っふふっ、きっとこの世界は、      すぐに木々とマナだらけになるんでしょうね」 シャル 「この空気が少しでも綺麗になるのでしたら、望むところですが」 マラジン『……えーとあのー、いったいなんの話を……』 悠黄奈 「ですから、シードくんとナギーちゃんのことですよ」 シャル 「あなたが仰られたのでしょう?自然を、マナを回復させてくれと。      だったら彼と彼女が取る行動はひとつ。途中で投げ出すなんてことをせず、      この機械臭い世界を自然とマナでいっぱいにして、      大手を振ってあなたの袂へ戻ることです」 ……。 わあ。 マラジン『いやあの…………マジすか?』 悠黄奈 「はい。マジですよ?」 シャル 「気づけないなんてあなたらしくもない。感傷に浸りすぎましたか?      消えるナギーとシードの目は、それはもう決意に溢れていましたよ?      必ず戻ってこよう。      ヒロミツに、父上に褒めてもらえるくらい立派な大業を為して、って」 悠黄奈 「……とても、慕われてますね、博光さん」 マラジン『………』 ……そうか……。 僕は……一人ぼっちじゃなかったのきゃ…….  ひょい───ばたっ…… 悠黄奈「博光さん?」 シャル「え?あの、ちょっとっ」 シャルの腕から逃れ、ふぅ、と息を吐いて地面に倒れた。 そして見上げる。 木漏れ日の先にある、きっと広いであろう空を。  ……広いな……。  世界はこんなにも広いのに……僕はなんとちっぽけな男だったんだろう……。 などと瀬戸の花嫁の真似をして、少し気を紛らわせた。 うじうじしててもしょうがないもんな。 楽しむことしか能が無いっていうなら、それでいいのだいけるなり。 マラジン(……うん、頑張ろう) そう心に決めて、起き上がったタァンッ!! マラジン『…………え……?』 悠黄奈 「───え……」 シャル 「ちょっ……」 少しの間……自分の体が地面に倒れるまで、なにが起こったのか解らなかった。 けれど少しの間が過ぎた頃、理解できたのは“俺が撃たれたこと”だった。 そして、急激に襲ってくる眠気。 悠黄奈「これは……博光さん!?しっかりしてください!」 シャル「どうしたというのです!?しっかりなさい!」 声  「離れて!危険です!」 悠黄奈「───!誰ですか!?」 聞こえた声に、悠黄奈さんとシャルが振り向く。 俺もなんとか首を回し、そちらを見るが───そこに居たのは、奇妙な防護服を着た、 銃……ライフルを持った男だった。 シャル 「……あ……!あなた方は……!」 男1  「うん?……あなたは……シャルロット姫?……いや、まさかね。      我々はコロシアム運営のものです。      モンスター捕獲のために世界を回り、      こうして危険な生物から人々を護っています」 男2  「危なかったですね。もう少しで襲われるところでした」 シャル 「おそ、われ……?な、なにを言っているのです、この方は───え?」 マラジン『っ……!』 俺のことを庇おうとするシャルに、男たちからは見えないように首を振るう。 それだけでも辛いくらいに体が動かなくなっている。 くそ……どれだけ強力な麻酔を撃ちやがった……! 男2 「ともかく、気をつけてください?     この森はただでさえ怪しい生物が居ると噂されているんですから。     ああ、なんでしたら私たちが町まで───」 悠黄奈「───。……いえ、結構です」 シャル「悠黄奈さん!?何故───!」 悠黄奈(しっ。今は……) シャル(ですがっ……!) 一瞬見せた嫌らしい目を見逃さなかった俺は、すぐさま首を横に振った。 それを受け取って、悠黄奈さんがすぐに断ってくれたこともあって、 男たちは苦笑すると同時に俺を拾い上げ、歩き始める。 シャル「お、お待ちください!その……生き物、を、どうするおつもりですか!?」 男1 「え……いや、どうするって。コロシアムに使用するんですよ。     お客様を喜ばせるための、グラディエーターと戦わせる敵役として」 シャル「敵……!?そっ───《ガッ!》む!?むぐ!むぐー!」 悠黄奈(いいから……少し、黙って……!) ……そう。ここで騒いで亜人種たちに気づかれたら、 彼らはきっと俺を助けようとする。 こいつらに攻撃してしまうだろう。 そうなれば、噂が噂を呼び、亜人種は凶暴だ、 討伐するべきだ、などと言われて狙われるかもしれないんだ。 だから騒ぐわけにはいかない。 それを案じてくれた悠黄奈さんに感謝と……それと。 その手を握り締めるほどに我慢してくれてるあなたに、別の意味での感謝を。 抵抗の意思など全く見せず、俺は持ち上げられるままになって引きずられてゆく。 そんな俺を、二人は悔しそうに見送るが───俺は咄嗟に思いつき、 簡易ネックレスとマシンアームズをシャルに向けて投げ、受け取らせた。 シャルが戸惑った顔をしているが、俺はただ静かに笑みを浮かべ、頷き返すだけにした。 声に出したら、それこそ巻き込むことになると思ったからだ。 …………まあ、それに……コロシアムなら、男なら一度は憧れるファンタジー代名詞だし! だから、この世界の何処かで会おう! うぬらが強者となれば、いずれ相見えることもあるだろう! その時まで……達者でな!シャル!悠黄奈さん!そして……亜人種のものたちよ! シャル (必ず……必ず救いに行きますわ!ですからその時まで───!) マラジン(うむ!誇りも名誉もなくていい……無様でも生きなさい、シャルロット……!) シャル (っ〜〜───はい!) まさか既にアイコンタクトが通じるとは思わなかったが、 俺達は確かに目で言葉を交わしていた。 そんな喜びを胸に秘めたまま───やがて。  ウォオオオーーーーー…………─── 俺は、歓声轟くコロシアムへと連れてこられていた……─── Next Menu back