───冒険の書277/マギエル=ティリングハースト───
【ケース707:弦月彰利(再々)/ほんとはサミュエル】 えーと……まず左手に気を集める。 これはもう何度もやってるから慣れてます。 藍田 「オ・ナ・ニー!!」 で、次はその集まった気を右手に移す。 藍田 「ちょォゥ、先にイ〜クゥ〜なぁってェィ!んでオナニー!!     女装どう?ポコチ〜ン美女ォーーーウ!!」 その際、気の量が増えも減りもしないことが前提。 彰利 「グ、グウウ……!」 藍田 「魔人!インチキさぁマスクマァン♪     延髄蹴り♪変な眼♪暴力炊飯♪半レ〜ズ〜な人エロスさぁさっさとゥ硬ク〜リ♪     プロレスだッキャットファィトゥ♪手の平得意♪ニーナ!!」 彰利 「うるせーーーーっ!!!     人が頑張ってる横で高らかにオ○ニー歌ってんじゃねぇよ!!     つーかハッキリ叫びすぎです!少しは慎めサンダージョワジョワ!!」 藍田 「いや、どうせ歌うなら規制するのも愚かしいと思って。     ほら、アニメとかでもサービスシーンとかあるじゃん?     ああいうのってアニメ楽しんでる時邪魔だろ?     そんなんで時間裂くくらいなら、いっそボカさないで丸見えにしろと言いたい。     だからハイ、オナニー」 彰利 「だからってハッキリ言いすぎじゃあああっ!!     ええいもう!気が霧散しちまったじゃねーの!工程やり直しだよまったく……!     えーと……左手に気を集めて、右手に移して……」 藍田 「オナニー!!     ミッキーさァんのよ〜うな〜プレイ!アッー!オナニー!!     素晴らぁ〜しぃファンタジー!!《バゴォ!!》シャブリ!!」 彰利 「うるせぇえええええっ!!!!     ええ加減にせんとおいちゃんマジで怒るよ!?」 藍田 「お、おぉお……マジギレ寸前……!?わ、解ったよ、もう歌わないから……」 彰利 「ほんに頼みますよ!?まったく冗談じゃなかとよ!     集中力が要る状況で高らかにオ○ニーなぞ!     ……でも確かにどうせやるのに規制ってワケ解らんね。     かけるくらいなら無駄なサービスシーンより本編見せろってねぇ?」 藍田 「そうそう、それだよそれ。というわけでハイご一緒に!」 彰利 「やりませんよ!いいから黙っててよもう!」 藍田 「ちぇ〜……」 えーと続き続き……気を右から左へ…… それがゆっくりでも出来たら、次は少し速めにやってみる。 左から右、右から左……その感触を体の気脈で覚え、自在に操れるようにする、と…… マラジン  『伯!伯!僕は!?ねぇ僕は!?僕に気脈ってある!?ねぇ!!        修行に興味なんてねーけど、気は使ってみたいの僕!』 オルランドゥ「ふむ………………1だな。並み以下の底辺にもほどがある」 マラジン  『《ガーン!》ひでぇ!!』 オルランドゥ「それからワシのことはシドで構わん。        伯、伯と言われても、どうにもしっくりこん」 マラジン  『解ったよ伯!』 オルランドゥ「い、いや……あのな」 さて、他の皆様は今頃どうお過ごしでしょうかね。 アタイらは今、伯とセレっちをお供に、旅をしております。 藍田  「けどさ、良かったのか?伯って別の目的とかあったんじゃ───」 シド  「ペンダントが取り戻せればそれでよかったのだ。      なに、急な用事があるわけでもなし、      ヌシらに付き合うのも面白そうだと踏んだまでのことよ。      ……しかし致命的なまでに気脈がない。魂レベルからしてほぼゼロだ。      ここまで才の無い存在も珍しいな……逆の意味で興味が深いぞ」 マラジン『うわーすげぇいいかた』 コロシアムをあとにしたアタイらは、 伯に気のコントロールの教えを仰ぎつつ、旅をしておりますの。 いやぁ、気のコントロールって難しいです。 これが結構大変で、学生時代は平気でできたものが、今やてんで、ってやつです。 これでも気のコントロールには自信があったのに……。 マラジン『1でもなにか出来たりしないの!?ねぇ!』 シド  「ふぅむ……さすがに魂の強さの問題だからな。      気の強さは、それは鍛錬でなんとかなるものだが、1、というのはな……」 マラジン『う、うう……』 彰利  「そういやキミ、東に行った時も気脈のことでダメ出しされたとか……」 マラジン『《ぐさぁっ!》はおぐ!!』 ……何気に気にしてたらしい。 胸押さえて、物凄く悲しそうな顔してる。 鬼面なのに悲しそうだって解るのも、それだけ悲しみのオーラが放たれてるからでしょう。 シド  「どれ、ではワシが外から気をコントロールしてみよう」 彰利  「ホヘ?そげなこと出来るん?」 シド  「容易ではないが、まずワシの気を体内に送り込み、      それを動かし、誘発させるのがやり方だ」 彰利  「オッ……なるほど、考えますな」 シド  「ではゆくぞ?ちと痛いかもしれんが───」 マラジン『いぃつでもこいっ!!《トンッボッガァンッ!!》』 彰利  「キャーーーーッ!!?」 藍田  「うぉわなんだぁ!?」 シド  「ムオオオ!!?」 ばっ……ばば爆発っ……!マラジンが爆発した! 気を送るためにトンと触れられただけで! マラジン『《シュウウウ……》グビグビ……』 彰利  「……伯……てめぇってやつは……」 藍田  「まさか提督を殺したかったなんて……」 彰利  「わくわくしてるヤツを爆破でドン……《ゴクリ……》お、鬼だぜ……」 シド  「ま、待て。べつにワシが爆発させたわけではないぞ?      こやつの魂の“気脈”が、1以上広がらなかった……それだけのことだ」 彰利  「……ム?それってどういう意味?」 アルビノ「彼の気の限界値が1だということです」 彰利  「おやアルビノン」 岡田  「はふぅっ……いやぁ〜あやっぱ実戦練習はいいなぁ。……で、なんの騒ぎ?」 爆発が気になったのか、離れた位置で剣修行をしてた岡田くんとアルビノが戻ってくる。 おまけに、テントからひょこりと顔を出すのは、お昼の料理担当のセレっち。 彰利 「マラジンの気の限界が1だって騒ぎ。そこに気を送ったから爆発したんだと。     ホレ、“からてか”がためるばっかやって爆発するのと同じアレ。     あれ?かくとうかだったっけ?……ん、んああ〜まあいいや」 シド 「ムウ……子供とて、生まれたばかりの赤子とて、50はあるというのに……」 藍田 「その“気”の数値はなんのアテになるもんなんだ?」 シド 「いわゆる“才覚”だな。生まれた体に備わっている潜在的なものだ。     大概の者は、己の才能に気づかずに死んでゆく者ばかりだ。     つくづくもったいないとは思うが───1、という存在は万物通して初めてだ」 総員 『………』 つくづく凡人……いや、凡人以下なのか? セレス「それで、その方の1の才能とは?」 シド 「……“器”だ。武器を知り、防具を知り、道具を知る力。     ある意味で最も役に立たん才能だな……なにせ、武具と会話出来る力、     意思を通じさせる力もないのでは、真実宝の持ち腐れだ。     だがそれが出来るなら、これほど成長が愉快な才はないだろうな」 彰利 「ほへー……それって結局どういう能力なん?」 シド 「武具の力を引き出す、といえば解るか?     武具に意思を通すことで、武具に戦の仕方、立ち回り方を教えてもらえる。     つまりこの能力があれば、     どう戦うか、どう避けるかなど、剣が、防具が教えてくれる」 彰利 「あ……あー……」 たまに中井出が妙に滅茶苦茶玄人じみた動きする時あったけど、その所為かね。 シド  「だが他に才能が無いのは真実致命的だ。      しかし、なんだ。聞けば己より武具にこそ全てを注ぐ者らしいな。      それは正しいかもしれん。きっぱり言うが、この男は鍛えても伸びん。      魂レベルで才能が無いのだ、      人としての最低限の動きは機能するが、そこまでよ。      それ以上……たとえばどこぞの剣の達人のように立ち回ることなど不可能。      剣を手に魔物に立ち向かったところで、赤子同然にやられるだけだろう。      だがこの才を極限まで高めることが出来れば、…………それなりにはなれる」 彰利  「うーひゃー、極限まで高めてもその程度なんだ……」 シド  「仕方ないだろう、それは身につける武具による。      その武具が例えばとても素晴らしいもので、      しかも意思を通じさせることが出来たのなら、      そこいらの竜にも負けん力を得られるだろう」 ……なるほど、確かにそこいらどころか、刻震竜まで倒しちゃったわけだし……。 彰利  「………………あのー。じゃあさ、そこのソイツが実は、      10年前にサウザンドドラゴンをコロがした魔王だって言ったら、信じる?」 シド  「ぬあぁああにゃあああああっ!!?」 アルビノ「えぇええええええっ!!?」 キャア!?物凄い反応!! って、そりゃそうか……伝説の魔王が今じゃこんな姿なんだから、そりゃ驚きもしませう。 シド 「ほ、本当なのかそれは!」 彰利 「マジです。アタイもその時一緒に戦ったけど、     こいつがトドメ刺してくんなきゃあの戦い、負けてたのはオイラたちだったし」 シド 「なんと……こんな物体が……む?ならばまさか、こやつは───」 彰利 「ウィ。武具の扱いだけには無茶苦茶長けてるくせに、他の才能一切ゼロの人間。     それがアタイらの提督、中井出博光よ。     気脈もちっさいし魔術回路もないしでロクなことなし。     式能力の思考映像化能力だけは上手かったけど、     今考えるとあれって、     魔導映写機の力をたまたま読み取れたから出来たことだと思うし」 魔導映写機ってのはアレだ、かつて中井出がエロ思考を映像化させようと、 空界でいろいろと発注してたやつ。 そんなことがあったからこそ、あの式だけを編むことが出来たんだろう。 だって他の式ってば初級のやつでさえてんでダメだったし。 彰利  「武具がなければ本当に何もできねぇやつだったんだねキミ……」 マラジン『あの……少しだけそっとしといてください……』 まあ……努力するだけ無駄、といわれたのと同意だしね。 ハッハッハ、TAIIKU=SUWARIを始めた彼の背中が随分小せぇや。 藍田  「提督さ〜ん、ちとブロッキングの練習したいから、石投げてくれないか〜?」 マラジン『僕頑張るよ!僕を必要としてくれてるキミのために!!』 藍田  「うわっ……物凄ぇ反応だ……」 マラジン『あ、それと僕、マラジンであって提督じゃないからよろしくね?』 藍田  「はっはっは断る」 マラジン『そうか!』 藍田  「そうだ!」 早くも意気投合。 藍田くんとマラジンはバチーンと手を叩き合わせ、距離を取って構えた。 マラジン『ならば!さん付けは結構!提督と呼ぶがいい!この博光、容赦せん!』 藍田  「提督、提督───提督!……これだ!すげぇしっくり来る!      な、なぁ!号令みたいなの、ないか!?思わず敬礼しちまうくらいのさ!」 マラジン『うんない』 藍田  「ないのかよ!!こっ……ここで勢いヘシ折るなよぉおっ!!      俺今滅茶苦茶高揚して」 マラジン『死ねぇえええええええええっ!!!!』 藍田  「へあっ!?おわ《ドボォッ!!》ゲブゥ!!」 あっさりと中井出ワールドに飲み込まれた藍田くんが、 不意打ちの石の投擲に反応できずに腹を押さえる。 鳩尾あたりに勢いよくドボォとキマったな……ありゃ痛い。 藍田  「んがががが……!て、てめっ……!」 マラジン『僕……キミの役に立つよ!こんなことでしか役に立てない僕だけど、      今この時だけ全力で役に立つよ!!』 藍田  「んなっ……!ま、待て!まだ腹の痛みが───」 マラジン『オラオラオラオラァアーーーーーッ!!!』 藍田  「《ガドドガゴスベキガスゴス!!》いででだあだだだいででぎゃあああっ!!」 マラジンが石を投げる投げる! マラジンだけでなくカルキも一緒に投げてるから、 よほど集中してなけりゃブロッキングなどとてもとても。 マラジン『このっ!このやろっ!これはクリリンの分!!これは滝島慧の分!!      これは伊東鴨太郎の分!これは柿崎速雄の分!!      そしてこれはっ……貴公子アルフレドの分だぁあーーーーーっ!!!』 藍田  「《ゴスゴスドスボス!!》お、俺がそいつらに何をしたぁあーーーーっ!!!」 マラジン『ワハハハハ!僕はキミじゃないからそんなこと知らないやぁーーーーっ!!』 藍田  「てっ……てめぇえええーーーーーーーっ!!!      ───集中!はぁあああ……うぉおおおおおりゃぁあああああっ!!!」  ビシュィンッ!!ビシュィンッ!!ビシュィンッ!!ビシュィンッ!! マラジン『な、なにぃ〜〜〜っ!!?ブ、ブロッキングしやがっただと〜〜〜っ!!!』 藍田  「ふっ……ふぅっ……!な、投げ方がリズム的になってるぜ……!」 マラジン『おお!忠告ありがとう!では死ね!!』 藍田  「もう少しやさしい言い方とかないのかよくっそぉおおおっ!!」 それでも律儀にブロッキング。 VITを上げてブロッキングすりゃあ安心してできるだろうにそうしないのは、 敵からの攻撃力が下がってしまうからやらないんだそうだ。 つまりVIT1状態でブロッキングすれば、ビンタも立派な凶器になるってことだ。 敵からの攻撃を力に変えて蓄積するのがブロッキングだからね。 拳一発が10ダメージとして、防御力を9としたら1しか蓄積されない。 じゃけんども防御力を1にすれば9蓄積される……そういうことさ。 マラジン『───しまった!石が尽きてしまった!』 藍田  「はっ……はぁあ……じゃあ、もう終わりに───」 マラジン『カルキGO!!彼の修行を全力で手伝ってあげて!?』 カルキ 『───!』 藍田  「うわっ!?もういいって!休憩休憩!あんたどれだけ俺を仕留めたいんだ!?      〜〜〜ぬぉおおおおおっ!!!」  ガンゴンビシュンビシュンガキゴキビシュンボゴビシュンビシュン!! 藍田 「いででうぁだあだあだいででだだぁ!!!待て待て待てぇええっ!!」 叫びつつも、拳の弾幕を少しずつではあるがブロッキングする藍田くん。 面白そうなのでアタイも混ざり、超実戦流訓練を開始したのです。 ───……。 結果はボッコボコでした。 彰利 「いてぇえよぉおおおお……いてぇええええよぉおお……!!」 石って痛いよね……こんなの投げられちゃ、ヘタすりゃ死ぬよ……。 マラジン『《プスプスプス……》グビ……グ……ビ……』 痛がってるアタイの隣には、黒コゲになっているマラジン。 アンチマナーから始まる天昇コンボののち、フランバージュで地面に叩き落とされ、 そこにブロシェットのトドメののちにファイナルエクスプロージョンくらってこのザマだ。 生きてるところはさすが不死身だけど、弱いにもほどがある。 ───……ここにはアタイとマラジンだけで、他のみんなはお食事中。 アタイはマラジンの横に座り、いろいろと考えてみている。 そんな姿になっても本当に変わらないのか。 視点が変わってから、みんなの中から記憶が消えても、自分として居られているのか。 ……よっぽど親しかったやつらに忘れられるってのが、どれほど苦しいものなのか。 そんなことを、興味本位で知りたがりながら。 忘れられる経験ならあるにはある。 いや、厳密に言えば、相手が覚えていない経験。 何度も歴史を繰り返すたび、俺が覚えていて彼らが知らない記憶があった。 それは俺の経験であって、死の記憶。 歴史を繰り返すことで知ることの出来た誰かの秘密は、 次の世界で自分が知っていていいことばかりじゃなく。 口にすることで、バケモノ扱いされたり嫌われたり……何度してきただろう。 何度も繰り返さなきゃ解らないことがあって、 気づいたときにはもう、いろいろなものを手放していた。 自分にはもう……悠介だけが居ればいいのだと。悠介しか居ないのだと。 だけどある日、小僧に出会って、楓巫女に会って……自分は変わることが出来た。 なにが間違えでなにが正しいのかなんて問題じゃあなかった。 ただ自分が自分らしく、誰かを大切に思えた時。 俺は、確かに誰かのために泣くことが出来たのだから。 悠介のために生きて、いつしか悲しいって感情も忘れ、 ふざけながら涙を流すことはあったけれど、どこかに穴が空いていた自分。 そんな自分が、死にゆく楓巫女や小僧……隆正のために泣くことが出来たあの瞬間。 俺は───…… 彰利 (…………) 小さく頭を振る。 昔の自分を取り戻そうとしてるからだろうか、どうにもそういうことばかりが頭によぎる。 経験ばかりを呼び起こすことが出来るなら苦労はしない、か。 べつに昔のことを思い出したくないわけじゃなあない。 出来れば楽しかったことだけ覚えていたいってのは、 歴史を繰り返した者にしか解らない苦しみだ。 人の汚さとか、世界のあり方とか、幾度も幾度も子供の目で眺めてきた。 子供だから解らないだろうと、大人たちが口々にこぼした世の汚さも全て。 ……忘れたいことなんて山ほどあった。 けど、どれかを忘れるってことは、どこかに綻びを生じさせるってことだ。 そこになにがあったのか、本当はなにがあるべきだったのかも忘れ、 大切なヤツの記憶を失うことがどれほど怖いのか。 彰利 (…………俺は……) 不思議な感覚だ。 忘れたいことなんて、それこそ山ほどあった。 忘れさせてくれと願うことだってあったくらいなのに…… こいつの……中井出と悠介のことだけは、なにがあっても忘れたくないと思ってる。 ヘンな話になるけど、男が男の人間性に惚れるってのは、こういうことなんだろうか。 あ、いや、ホモじゃないよ? あの頃のアタイも、ただ純粋に悠介の人間性に惚れてただけだから。 ……で、多分今回も。 これほど自分をさらけだしても嫌わない相手を、俺は知らない。 嫌なことを言えば嫌なことを言い返すし、罵倒すれば様々な態度で返してくれる。 それはヘンな言い方で言うと、掴み所の無いものと延々と戯れるような感覚で、 ようするにその、うん、飽きが来ないってステキだね。 マラジン『グ……ビ……』 彰利  「………」 いろいろあってこの現状がある。 手に入れたものを手放したくないって言うのなら、 失くしたものだって諦めなきゃいけない。 それが生きるってことと覚悟を決めるってことなら、 やっぱりこいつは強いのかもしれない。 ……そこまで考えて、頭を振りながら口を開いた。 出来るだけ、普通に話すように、自然に。 彰利  「しっかしアレじゃね、やっぱ中井出は中井出じゃないとつまらん」 マラジン『え?なに?《シャキーン♪》』 彰利  「復活早いねキミ!……あ、あーっと……つまりね?      貴様は中井出のまま弱くないと、なんつーかしっくりこない」 マラジン『うむ。実はこのマラジンも違和感がなによりも先に来る状況。      だがまあ鬼面族として降臨したならその状態を存分に楽しまねば!!      女になろうがモンスターになろうが、楽しむという第一目的は変わらぬ!!』 彰利  「ど〜してキミってそう無駄なところで逞しいんかねぇ……」 マラジン『どんなものにも誇りを持たず、どんなものにも全力で適当に!      だがしかし!自分の生きた道にだけは誇りを持って歩きましょう!      他人がこうだから俺もこうしなければいけないなんて、そんなことは知らぬ!      他人はこうだが俺はそうしたい!その意思を以って、今日もゆくゆく侠道!!      他人に合わせて仲良くなるのではない!全部さらけだした上で仲良くなりたい!      “俺、これ嫌いだから俺の前ではこれの話するな”とか、      “俺、これ嫌いだからこれに関係するもの買うな”とか!      そんなこと言うやつとぶつかって、本当に友達になれると思うか!?      俺は全てをさらけ出した上で仲良くしたいのだ!      そんな、人の意思に規制をかける野郎などとは、友になどなりたくないわ!      だから僕とカルキは今、全力で互いを出し合っているのさ!      …………そ、そうだよね?カルキ』 カルキ 『………』 マラジン『カルキ……』 なにか通じるものがあったのか、華々しい世界で見詰め合う二人。 その姿に珍しくも苦笑をもらしつつ、藍田くんから借りた“徹し奥義書”を見る。 以前にも見せてもらったけど、熟読しておきたいからね。 やっぱ俺は体術だ。これっきゃねぇ。 月の家系ってのは代々、体術、刀術、長刀術からなる武術を伝えてきていた。 力に頼らなくても生きていけるように、ってことだったらしい。 力を使えば誰かにバケモノ呼ばわりされるから、 出来る限り普通で居ようっていう意思からのものだったそうな。 現代じゃあもう教えてるところなんて微かなもんだが、 凍弥小僧が鮠鷹の時に教えてた光技身刀流も、 今じゃ月の家系御用達の刀術門になっているらしい。 アタイは刀術にゃあ興味ねぇからどうでもいいんだけどね。 悲しいのは体術を教えるところがとっくの昔に潰えちまったってこと。 長刀は……まあ、多少予想はつくだろうけど、ヨウカンの母親ンところがそうだ。 教える人物が家系である必要はなく、代々の技術を教えることさえ出来ればそれでいい。 でも体術がねぇ……あんまり賑わいを見せてくれなかったらしく、潰れたのだ。 ……や、一つあるっちゃあるんだけど、 キリュっちの実家の道場だからあんまり行きたくないっつーか。 そんなことを晦神社の倉の古書で知ったのがきっかけっつーか。 文献の紐を解いて、家系用に開発されていった体術を、 さらに自分の扱いやすいようにして身につけていったのが轟天弦月流。 ロメロスペシャルとかポセイドンウェーブとか、ああいったものはまあオフザケの域です。 でもね、いろんな時代、いろんな時間軸でやんちゃをするあまり、 アタイの轟天弦月流はマボロシのまま、ついには完成を見せずに終わった。 ちょっとしたマホメド=アライ状態です。 彰利 「……ま、しゃ〜ないよな……。     鎌に頼りすぎて、自分を武器にすることを随分と長い間、忘れてたんだから」 おまけを言えば月操力。 努力の度に新しい印を覚えられるのが嬉しくて、それに頼りっきりになっていた。 気を扱えるようになったのも家系の印を増やしてからだから、 しゃあないって言えばしゃあないんだけどね。 彰利 「ふむふむ……徹しとは、外部ではなく内部を破壊することと見つけたり……よし」 奥義書を読み終えると、それを藍田に投げつけてから構える。 ……ああいえ、岩の前まで歩いてから構えた。 力よりも意識。イメージ。 打鞭と音速拳、そんでもって徹しを合わせるイメージを─── 我が体は水銀。……否、形を持たぬ黒の具象。 家系の肉体に戻ったところで、我が体が黒に包まれていることに偽りなし。 ならば沸かせろ。 腕どころの話ではない───足の指から全てに至るまで、 我が肉体は関節にて構築されし黒色の魔物───!! 彰利 (………) イメージ……イメージ、イメージ……! 彰利 (───シッ)  フォ───リュンッ───……!  …………ッバォンッ!! 彰利 「ギャーーーーーッ!!!」 破裂した! 振るった拳が速度に負けて破裂した!!! いてぇ!これめっちゃいてぇ!! あ……で、でもすげぇ!音も無く岩が砂になった! サラッサラすぎて、ドザァとも鳴らなかった!すげぇ! 彰利 「………!」 うわっ……うわわっ……やべぇ面白ぇ!! なんか蘇ってきた! 出来るはず無いって思いながらも、信じて貫いてきた体術……! それが、少しずつ自分の中で形になっていってた時のあの喜び!高揚!武者震い!! なにもかもが懐かしさとして、俺の体の底からジワァって! 彰利 「ずあっ!《ジュボリュッ!!》」 でもとりあえずは破裂した腕の再生。 ピッコロさんのような掛け声とともに腕を回復させたアタイは、 今度は関節のバケモノのイメージとは逆─── ひとつの塊としてのイメージを連ねてゆく。 今のが真・音速拳ならば、これは真・羅刹掌。 新たな岩の前に立ち、強く呼吸をして体の中に“核”となる“芯”を作ってゆく。 そしてそれが出来ると、自分の体重の全てを拳ひとつに委ねるようにし─── 振るうと同時にあとは勢いに身を委ね、 インパクトの瞬間に全ての関節を固定化するイメージを爆発させる!!  ゴドォンッ!! …………。 彰利 「オ……」 むう、失敗だ。 岩はフツ〜に壊れた。 力任せに殴り壊したみたいに。 これじゃあ全力で殴ったのよりタチが悪い。 なにが足りない……? 彰利 「───ああ」 体重だ。 俺にゃあ重みが足りん。 これじゃあダメなのだ───としたら? 彰利 「───OH!」 ピンと来ました!では早速やってみましょう! 【ケース708:マラジン/体術が賑やかさを増す中で】 メラメラパチパチ…… マラジン『ミギー』  フォファアンッ!! マラジン『《ブワァッ!》キャーーッ!!?』 頭の上を肉焼きセットで賑やかにさせつつ、両手を挙げて背伸びの運動! ……をしていたら、妙な音とともにスッ飛んでくる空気。 突風よりも性質の悪い、体が飛ばされそうになる強風が僕を襲った。 振り向いてみれば、彰利……と、地面からほんのちょっと顔を出した、抉れている巨大岩。 彰利 『ホッ……!ホッフ……!や、やべ……やべぇってオイオイオイ……!     ギャアやべぇ!顔の緩みが止まらねぇ!すげぇ!すげぇよ剛体術!     体重足りないからって竜の左手でやったらウハハハハ!こォれだよォ〜!!』 視線の先で“俺ダム”っぽく狂ってる彼をどう喩えましょう。 彰利 『あ!中井出中井出!見てこれ見て!すげぇ!すげぇっしょ!?     ほら!ね!?はい!ね!?』 興奮しすぎてて何をおっしゃりたいのかさっぱりです。 とりあえず僕はそんな彼に、肉焼きセットファイヤーをゴヴァーンと放ち、 彼を燃やすことで落ち着いてもらった。 マラジン『落ち着いた?』 彰利  『《シュウウウウ……》ハイ……あの……なんかすんません……      自分、調子こいてました……』 マラジン『まったくだ!《どーん!!》』 彰利  『オイオイてめぇマラジンこの野郎!      そこは普通そこまで卑屈にならんでもとか言うところだろーがー!』 マラジン『普通なんてつまらないからいいじゃない』 彰利  『まったくだ!』 頬に破面をつけた彼が笑う。 で、話を再開させたわけですが─── マラジン『真・羅刹掌?』 彰利  『そう!そうなんよ!体を一つの塊として振るうの!      俺の体重が58キロとして、58キロ分のダメージがそのままズドンと敵に!』 マラジン『どれだけ軽いんだよお前!58キロ!?その筋肉で!?』 彰利  『俺の筋肉は家系のものに少し色がついただけだしね。      筋肉なら悠介のほうが圧倒的だ。ヤツのはダイヤモンドマッスルだから、      無駄に肥大した筋肉じゃない分、軽くて強くて持久力がある』 マラジン『まあ……そりゃ解るけど。で、その羅刹掌ってのでなにやったの?』 彰利  『や、体重があまりないからさ、アタイ。      これじゃあ普通に殴ったほうがまだ強い。      だからね?竜の左手を出して、その重みで羅刹掌やってみたんよ。      そしたらほら!塵さえ残らず岩が抉れた!粉砕玉砕大喝采!!』 マラジン『へぇええ……拳でそれが出来るってすごいな……。      ちなみに音速拳は?竜の左手でやってみたか?』 彰利  『ア……まだだった。よし!ではイメージぞ!さらにイメージを増やして、      竜の左手からアンギアの先まで全て関節として……!』 彰利が構える。 それがまたヘンな構えで、全てを関節にするイメージらしいけど……マア無様! だがそれがいい!無様だろうが強いなら使うべきさ! 戦いをなにか格好つけるためのものと思ってる人!それは違う! 生存競争……!これは己が生きるための力であって、格好つけるためのものにあらず! だから無様でも生き延びて、翌日の朝に安堵の息を吐けるのです。 彰利 『……よし、覚悟完了。     竜の左手を我が左手から出して、さらにそこへも関節のイメージを加えて……     ためてためて、こらえてこらえて……───一気に放つ!!』  ヒュゴファァッキィィインッ!!!  ───ォオオ……ォ……ォゥウン……───!! 彰利  『………』 マラジン『………』 ……間。 彰利  『キャッ───キャアアアアーーーーーーーッ!!!』 マラジン『キャアアアアアーーーーーーッ!!!』 彰利  『キャーーーッ!!?キャーーーーッ!!!』 マラジン『キャーーーッ!キャーーーーッ!?』 彰利  『キャアアアアーーーーーッ!!!!』 絶叫! うおおおすげぇ!今っ……すげぇ!!すごい!すごいよ人体!! 彰利  『空間抉った!今空間穿てた!すげぇ!!』 マラジン『穴空いたよな!?なんか紫色の穴が出来た!!      衝撃波みたいなのがパァン!て出て!』 彰利  『うっ……うおおおおおおおっ!!ばんざーーーーい!!      人体ばんざーーーい!!体術すげぇえーーーーーっ!!』 マラジン『ばんざーーーい!!ばんざーーーい!!人間ばんざーーーい!!』 僕らは燥ぎ合いました。 一部人じゃないもの(竜の左手とか)も混ざってたけど、 そんなことはどうでもいいのです。 なんの能力にも頼らず、人の身で、イメージでそんなことが出来たのが嬉しかったのだ。 多分、彰利も月操力とか黒の力を以ってこんなことしたって、ここまで喜ばない。 今までともに生きてきた、己の五体でやることが出来たから嬉しいのだ。 ……己の五体っていっても、竜の左手も混ざってるけどね。 彰利  『中井出中井出っ!人体ってスゲェエーーね!!アタイ見直した!      やっぱ体術ってスゲーや!感動だ!ばんざーーーい!!』 マラジン『もちろんだとも!人の体を持って生まれることの喜び!たまりません!!      この体で為すからこその素晴らしさ!嗚呼っ……!      人間ばんざーーーい!!体術ばんざーーーい!!      魔法が使えなくったって僕らは戦えるんだぁーーーーっ!!』 今までの歴史の中で先人たちが編み出した技法……それを以って土台を作り、 さらなる高みを目指す面白さ……たまりません! でもなんか僕の場合、求めても身に着かないそうなんですが、 知り合いがこんな風に出来るのを見ると純粋に嬉しい!僕嬉しい! だから僕らは叫び続けた!喜びの波が冷めるまで、ただひたすらに───!! ……。 ややあって───食事を終えた皆様がテントから出てくる頃。 彰利  『姫様ばんざぁ〜〜い……ばんざぁ〜〜〜いぃ……』 マラジン『ばんざぁ〜〜いぃ……姫様ばんざぁ〜〜〜いぃい……』 セレス 「あの……なんの騒ぎですか?」 万歳言いすぎていろいろ方向がズレた僕らは、 もうなにを喜んでいたのかも忘れ、姫様を称えていました。 ミニ四駆やカードゲームで人を殺そうなどという考えがあることに驚くばかり。 でも僕らは楽しみます。だってせっかく生きてるんだから、楽しまなきゃ損だし。 【ケース709:弦月彰利/シラヌス】 マラジン『悟空、修行じゃ』 アルビノ「すぅ……はっ!」 アタイとマラジンが食事を終えてしばらく。 テントを片付けたアタイたちは一路、ニサンへ。……じゃなくてモンスターキングダムへ。 アタイらを見るとモンスターがそそくさと離れていくことから、 なにかヘンだと思って悠介に訊ねてみることにしたのさ。 tell?いえいえ、こういう時は直接訊ねてみるに限るべさ。 アルビノ「はっ!ふっ!せい!はぁっ!つっ!たぁあーーーっ!!」 カルキ 『───!』 マラジン『───…………そこ!』 アルビノ「《ベチィッ!!》はぐっ!〜〜っ……」 マラジン『足元がお留守でしたよ?』 歩きながらの訓練といいましょうか。 それをやっているのはアルビノとマラジン。 事実上、コロシアムが休業状態になった今、 恩返しは出来なくなりましたってことになったアルビノンは、 アタイたちと一緒に来る、と言い出しました。 ……なんか今更感あるね、この確認。 そげなわけでカルキと戦ってるアルビノですが、 いやぁ面白いほどに隙を突かれまくってる。 なにせ相手はどんな時でも意地でも隙を穿ってくる常識ブレイカーの中井出だ。 カルキに行動を任せつつ、 本人はDIO様のような妙な立ちポーズのままにゆっくりとアルビノの動作を見て、 隙が出来ればそこを攻撃するように指示。 ついさっき決まったローキックもそれに入ります。 自分はなにもやってねーのにあそこまで偉ぶれるのは中井出だからでしょう。 アルビノ「はぁっ……はぁ……」 マラジン『オ?疲れた?疲れたね?ン?───では私自らが稽古をつけてしんぜよう』 彰利  「おぉっと外道だぁあーーーーっ!!」 藍田  「相手が疲れてると見るや、いきなり偉大そうな感じで立ち上がったーーーっ!」 岡田  「プライドとかそういうのまるっきりないのかアンタぁーーーっ!!」 マラジン『そんなものはねぇーーーっ!さあ……勝負だ。どこからでもかかってきなさい。      先手は貴様に譲ってあげるよ死ねぇええーーーーーっ!!』 総員  『ゲェエエ全然譲ってねぇえーーーーっ!!!!』 なんかもういろいろ外道でした。 当然、カルキとの組み手で疲れきったアルビノがそれに反応できるはずもなく─── ……。 死ュウウウウ………… マラジン『グビグビ……』 ……いや、反応がどうとか以前にマラジンが弱すぎた。 疲れきったアルビノに一方的にボコられた彼は、 妙な液体をグビグビと口からたらしながら、ピクピクと痙攣して地面に転がっている。 彰利 「いや……なぁ中井出よ……弱いにもほどがあるだろお前……」 藍田 「なんか馬鹿にするのも悪く思えるくらいに弱いな……」 岡田 「あの闘技場での強さはどこにいったんだ提督……」 やがてしくしくめそめそ泣き出す彼に、僕らは同情を禁じえなかった。 セレス 「ほ、ほら、泣かないでください。      男の子の強さは、なにも戦いだけに限ったことじゃないでしょう?」 マラジン『そうだよね!?《ゴシャーン♪》』 セレス 「ひゃあっ!?」 彰利  「ゲッ!もう回復した!」 シド  「見上げた回復速度だな……」 マラジン『僕探すよ!僕の強さを!      グエフェフェフェまずはここにおわすカナブンをイジメて鬱憤ばらしじゃ〜い』 岡田  「おお!迷わず弱いヤツ探しを始めた!」 藍田  「すげぇ強さ探しだなオイ!!」 シド  「……いや、あのカナブンは───」 マラジン『え?なに?《サクッ》…………───……《ドシャア》』 あ、倒れた。 シド 「……致死毒持ちのカナブンでな、ヴォーパルビートルといって……」 彰利 「あぁっと負けたぁーーーーっ!!」 藍田 「勝てると踏んだ戦いにあっさり負けたぁあーーーーーっ!!」 岡田 「ダッセェエーーーーッ!!ダッサダサだぁあーーーーーっ!!」 ……もはや、彼が涙を止めることはなかった。 ───……。 ……。 マラジン『うぐっ……ひっく……うぇえ……』 彰利  「もういい加減泣き止みなさいよ鬱陶しい……」 マラジン『人としてカナブンに負けた悲しみが貴様に解るかぁっ!!』 彰利  「解りたくもありませんよそんなん!!」 マラジン『でも気にしないんだ僕。だって強さは大きさじゃないものね。      きっとあのカナブンが強すぎたんだよ。      きっとこの辺境一の実力の持ち主だったに違いねー』 彰利  「……なんつーかそのー、ものすげぇポジティブ思考だね」 こんなヤツだから、日々を飽きずに生きてられるのかもしれんけど。 と、そんな時に戻ってきたのが、木の実を取りにいっていた岡田くん。 岡田  「おーい提督ー!見てくれこれー!」 藍田  「お?……さっきのカナブンじゃん」 岡田  「そうそう。木に止まってたからさ、仇は取って来たぜ!」 藍田  「どうだった?やっぱ強かったのか?」 岡田  「いや、それがデコピン一発で───」 彰利  「あの……キミら少し黙ってあげて……」 マラジン『うぇえええ……うぇええええん……』 鬼面族がいよいよ泣き始めた。 いや〜鬱陶しい。 彰利  「オラしゃきっとせんね。体さえ取り戻せば、まだ結構いろいろ出来るっしょ。      つーかさ、霊章あるんだったら霊章転移出来ねぇの?」 マラジン『うう……それが────────────あ』 彰利  「ウィ?」 マラジン『ア、アワワ……ワワワーワワワ……ワ、ワわワ……忘れてたぁあーーーっ!!』 彰利  「キャア!?な、なんね!急に叫びおってからに!」 マラジン『い、いや、ここにある!武器ここにあるんだわ!武器っつーか武具っつーか!      ぜ〜んぶ封印されちゃって、今はドラウプニルの指輪になって、      指輪融合で霊章の中に潜んでるんだ!』 彰利  「わけわかんねーけどそうなん?だったらとっとと出しなさい!」 マラジン『忘れてたんだからしょうがないでしょもう!!急かすんじゃないのォオオ!!      アンタはもうホンット人の揚げ足ばっかり取ってェエエエエエ!!      えーとえーと……ニーヴェルンゲン!ドラウプニルを出して!』 マラジンが念じる! すると、彼の手元にシュキンッ……と弾かれるように現れる一つの指輪。 そしてそれをアタイに突き出し マラジン『ホラ解いてみなさいよーーーーっ!!《ズヴァーーン!!》』 逆ギレした奥方様のように激昂モリア!! 悠介だったらきっと、ええいもうどっから突っ込んでいいやら!とか思うに違いねー! と、突き出された指輪がヒョイと摘まれる。 視線を辿ってみれば、伯。 シド  「これは……なるほど、封印か」 マラジン『もしかして解けたりする!?ねぇ!するの!?ねぇ!はい!ね!?』 彰利  「落ち着きなさい!」 シド  「いや……ワシには解けんな」 マラジン『テメェの所為だぞコノヤロー!!』 彰利  「なして!?もうワケ解らんよキミ!!」 藍田  「落ち着くんだ提督!伯は“ワシには”と言ったんだ!      きっと解ける人を知っているに違いない!」 マラジン『藍田くん愛してるぅーーーーっ!!!』 藍田  「《ガヴァーーッ!!》うぎゃあああああああああっ!!!!」 岡田  「愛の抱擁です」 シド  「……まあ、愛情は人それぞれだからな」 藍田  「うおおおおなんかヘンなところで要らん誤解を!?      離れろぉ!提督離れてぇえええええっ!!」 何処ぞかにいらっしゃる僕の友…………今日もアタイらは元気です。 いやしかし陽の下をてほてほと歩くのもこれはこれで気持ちいいものです。 暑いけど。 マラジン『それで、封印を解ける人って何処にいらっしゃるの?』 シド  「この感じからして、神聖魔法で封じられているようだ。      神聖魔法は特殊な魔術師にしか使えず、その数も少ないと聞く」 マラジン『神聖なの!?なんか呪いとか聞いた気がするんだけど!?』 シド  「呪いが邪法だけとは限らないということだ。      長く効果のある聖なる魔法も、言い方を変えれば呪いめいているものだろう?      単に言い方が違うだけで、魔物にしてみればそれは呪いだ」 マラジン『あ……なるほど、僕ったら魔王だったからそういう風に言われたと』 シド  「だがなんとかなるだろう。ワシに解くことは出来んが、      神聖な者───然の精霊ドリアードにでも頼めばなんとかなる」 マラジン『ゲッ……』 彰利  「……あの。マラジン?キミ確か、ナギ子をドリアードのとこに行かせた、って」 マラジン『ア、アワワ……』 自分から“行け!”と言ったのにいきなり会いに行くハメになるとは…… どこまで格好のつかん男なんでしょうねぇこいつってば。 シド  「……ふむ。ヌシのその姿は、偽りの姿なのだな」 マラジン『そうだ《どーーーん!》』 彰利  「立ち直り速ぇええねぇ……」 シド  「指輪を見て解った。ヌシの指とはあまりにもサイズが合わない。      それに、どうやら封印を解いてもその姿では満足に扱えんと見た」 マラジン『そんなことないよ?』 彰利  「そうなん?」 マラジン『うん。だって───僕とジークは一心同体!!      たとえどんな姿でも、彼と僕とで立ち上がれるさ!』 彰利  「……と、言っておりますが?」 シド  「棍棒すらまともに振るえないというのにか?」 彰利  「───あ、そういうこと?だったら安心じゃぜ?      こいつとジークフリードの絆ってば尋常じゃないから。      逆を言えば、こいつジークフリード以外の武器じゃあてんで立ち回れないし」 シド  「ジーク……?」 彰利  「こやつの武器の名前」 ジークフリードのことを言われているのが嬉しいのか、 なにやらマラジンがソワソワしだした。 ───よし無視しよう。 彰利 「効果打消しみたいなの出来ないん?     ホラ、アタイにやったみたいに鎮まれぇい!って」 シド 「ふむ……それはヌシの方が得意だろう?」 彰利 「グムッ……」 確かにブレイクすれば、案外いけるかもだけど。 フ〜ム……封印ねぇ……。 ………… 彰利  (……《……チラリ》) マラジン『……!……!《ハウハウ……!!》』 なんかめっちゃ遊びたい盛りの犬みたいな眼でこっち見てるし……。 ……しゃーのない。 彰利 「───デスティニーブレイカー!!この指輪に込められし封印規定を破壊しろ!」 意識を深みに沈めて、そこから鎌の力を一気に解放! 指輪を両手で包んで、篭手から流れる鎌の力を指輪へと流し込む!! …………。 ……。 彰利 「…………。全力は…………尽くしました」 手の隙間から黒の光が見えなくなるのを待って、指輪を渡した。 まあ見ての通りの結果だ……封印は解けなかった。 ───んだが、マラジンは歓喜した。 マラジン『見て!ねぇ見てこれ!ほらここ!ここ!』 彰利  「あ〜〜〜ん?…………オッ……オォオオオオオッ!!?」 マラジンが見せてくれたのは指輪の説明だった。 ずら〜っと連ねられている文字列……その中に、一つだけ興味深いものが。  既存破壊によって封印の枷が多少崩れた指輪。  そのためか、マグニファイ使用時のみ、一時的に封印が解ける。 ───と。 つまり……つまりこれってば─── マラジン『オッケーインスタントヒィイイイイロォオオオオッ!!!      あ、でもヒーローじゃないから魔人的な名前がいい!ごめんよレンタヒーロー!      インスタント……ま、魔人ってなんていうんだ?まあいいや!!      それでは張り切っていきましょう!マァアグニファァアアアアイ!!!!』 指輪を天高く掲げたマラジンが叫ぶ!! すると指輪が物凄い光を…… それこそ眼でも潰す気なんじゃなかろうかってくらいの閃光を発し、 やがてそれが治まる頃───光は天と地に放たれたのか、 地面から天へと昇る柱のような光が最後に残った。 そして……その光柱の中に立っている男が一人───!! ????『天照……降臨』 マグニファイリミット3分のインスタント魔人(マギエル)の誕生である……! ????『ね、ねぇどう!?どうかな!』 彰利  「ギャーーーーーーッ!!!」 ????『うおわっ!?な、なになに!?なんかあったの!?ねぇ藍田く───』 藍田  「ギャーーーーーーッ!!!」 ????『あ、あれ?ちょ……ヘンじゃない?ねぇ岡田く───』 岡田  「ギャーーーーーーッ!!!」 ????『な、なに!?なんなの!?ねぇ!ねぇった───ら?』 伸ばした手に違和感を覚えたのか、中井出?が固まる。 そしてずず〜〜〜っと自分の体を見ていき…………絶叫。 ????『ギャーーーーーーッ!!!』 叫ぶなってのが無理だった。 だって、ねぇ……? 確かに人の姿だよ?頭身も戻ってるしさ、アタイらと同じ視線の高さだよ? でもね?だけどね?───……姿がチャチャブーのままなんだよ……。 ????『どどどどうなってんじゃこりゃぁあーーーーーーっ!!』 彰利  「よよよ寄るなこの八頭身チャチャブーめが!キモいんだよタコ!」 ????『うわひでぇ!もうちょっと言葉選ばない!?』 彰利  「選んでコレだったんだから仕方ねーだろうが!」 ????『ヒ、ヒドイ!なんてヒドイ!!      大丈夫だって!ほら!斧も普通に持てるよ!?役に立つよ僕!      ほ、ほらぁ!ジークフリードだって取り出せるし!ね!?キモくないよ!』 彰利  「キモいっての!ホレ見なさい鏡あげるから!」 言って、朝の美顔セット用の手鏡を渡す。 それを受け取り、ゴクリと喉を鳴らすキモッチャさん。 やがて─── ????『ボクハコノアオイチキュウガダイスキデシタ……』 総員  『早まるなぁあーーーーーーーっ!!!』 鏡を見た途端にジークフリードで自分の喉を切ろうとしたのを見て、 僕らは全力で止めに入りました。 ????『死なせてぇええええええ!!うあぁああああああん死なせてえぇええええ!!』 彰利  「ええい狼狽えるでないわキモブー!      ここは生きて笑いに走るところでしょうが!」 ????『だってさぁあ!!!だってさぁあああああ!!うあぁあああああん!!!』 藍田  「お、落ち着いてくださいSir!!これはきっと試練に違いねー!」 ????『伯、この呪いを藍田くんに移すことって出来る?』 藍田  「すんませんッしたァアーーーーーーッ!!      自分、他人ごとだと思って軽口叩いてましたァアーーーーーッ!!」 ????『え、遠慮すんなよ……すぐあげるから、な?ね?ほら』 藍田  「かかか勘弁してください!ほんとすんません!俺が悪かったっす!!」 彰利  「……ここまで卑屈な藍田くん、初めて見るかも」 ????『うん僕も』 まあそれはそれとして。 彰利   「名前を決めようキモブー」 キモブー 『唐突に勘弁してくださいその呼び方』 藍田   「……キチャモー!!」 彰利   「それだ!!」 キチャモー『それだじゃないよ!!なにその名前!ていうか、ねぇ!       意地でもキモをつけようとしてない!?ねぇ!!』 藍田   「し、してないしてない」 彰利   「なにを言ってるんだこのタコは……」 キチャモー『なんで俺が悪いみたいになってんの!?』 岡田   「ブモッチャってのはどうだろう」 アルビノ 「いえ、ここはキチモチブーで」 彰利   「……キャモブー!!」 総員   『《ハッ……!》それだ!!』 キャモブー『だからそれだじゃないよ!!       なにその捻じ曲がってそうなヘンテコな名前!え……え!?なに!?       なんでみんなそんなやり遂げた顔して汗拭ってるの!?やめてよ!!       僕そんな名前じゃないよ!そんな名前で通すくらいなら中井出博光名乗るよ!       冗談じゃな───え?あ、あれ?なんでみんな武器持って僕睨むの?       え?せっかくつけたのに無駄にする気か?       ここここっちにだって選ぶ権利あるよ!!とにかくキャモブーはヤだよ僕!       もっと真面目に考えようよ!真面目に───真面……え?真面目?       それこそ冗談じゃないよ!真面目にやってキャモブー!?       もっと壮大そうな名前で───って嫌だよ!八頭身チャチャブーはもっと嫌!       わがっ……我が儘とかじゃないでしょこれは!もういいよ!       これ以上ヘンテコな名前つけようっていうんなら、       いくら温厚な僕だって実力を行使してしちゃうんだからねっ!?《ポッ》       ゲエエフェフェフェ、どいつから血祭りに《ポスンッ》…………あれ?       え?あ、あれ?おかしいなっ……あれっ……あれ…………っ!?       あれ……あれぇ!?もう三分!?ちょっ……あ、いや、よそうよみんな!       ぼぼぼ僕話し合いしたいなぁあああああって待ってやめて待ってぇええ!!!       ヴァーーーーーーーーーーッ!!!!!』 赤い陽天眩しき日。 一体の鬼面族が、その場に居た全員にボコボコにされた。 それでも泣きながら勘弁してください勘弁してくださいと謝る彼に、 さすがの僕らも哀れに思えすぎて、キャモブーという名前は却下の運びとなったのです。 名前はマギエル(魔人)になりました。 通常状態はマラジンだけどね。 だからもうマラジンでいいっしょ。ねぇ? 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