───冒険の書278/然の塔ラスペランツァ───
【ケース710:ニーヴィレイ=アレイシアス=ドリアード/ジョンブルマンドリン】 ヒロミツと別れシードと別れ……一人、巨大な森へと降り立つ。 ガイアフォレスティア。 のちの魍魎の巣窟世界となる場所で、 自分は初めての顔合わせではない精霊と対面していた。 ドリアード『…………精霊……ですね。それも、私と同じ然の』 ナギー  『未来の方の然の精霊じゃ。ニーヴィレイ=アレイシアス=ドリアード。       二代目のドリアードを請け負っておる』 ドリアード『……そうですか。過去と未来が合わさったのは知っていましたが、       まさか存在までもが入り混じるとは…………』 いつかと変わらない瞳。 どこか眠たそうな顔の長い白髪の女性は、ゆったりとした言葉でわしに話し掛ける。 ドリアード『今日は、どういったご用でここに?       見たところ、然の精霊でありながら、       然の精霊たる責務をまっとうしている者には見えませんが』 ナギー  『自然の力を解放しに来たのじゃ。機械なぞに負けてられん。       わしとおぬしとで力を合わせれば、簡単に自然など増殖するのじゃ』 ドリアード『…………いいえ、それは無理でしょう。       魔王ナーヴェルブラングとジュノーンが居る限り、       この世界の自然は思うほど容易くは成長しては───』 ナギー  『だまらっしゃいなのじゃ!やってもみないことを断言するでないわ!       だめかどうかなど、足掻いて足掻いて足掻きぬいた者が口にすることじゃ!       それを、眠たい顔でダメダメ無理無理不可能不可能と!       御託はいいからさっさとするのじゃーーーーっ!!』 ドリアード『……まあ……なんて乱暴な口調。二代目が───』 ナギー  『二代目がこれでは未来が心配か?ふん、そんなことはないのじゃ。       なにせわしには───ヒロミツがおるからの!』 ドリアード『ヒロミツ……?……ふふ、そう。その人があなたをこんな風に。       ならばその存在に感謝しなければなりませんね』 ナギー  『…………む?』 感謝?どういうことじゃ? 呆れておったのではなかったのか? 二代目がこんな口調では、こんなのでは先が思いやられる、と。 ドリアード『逆ですよ、あなたが思っていることとは。       代々、ドリアードは世の自然のため、       狭い場所に閉じ込められたまま動くことが出来ない。       なぜならそれが当然で、周りもそれが当然だと思っているから。       外に出たいなどと思うこともなく、あなたのように外からやってくる、       自由に動くドリアードなど見たことがない』 ナギー  『……?なにを言っておるのじゃ?       ドリアードとはおぬしが最初の存在じゃろ?』 ドリアード『“ドリアードは”、です。然の精霊はそれ以外にも居たということですよ。       ……まあ、それはどうでもいいことで。今は今の話をするとしましょう』 くすりと笑わず、ゆっくりと顔を笑みの表情に変えて、声も出さずに笑う。 そんな顔を久しぶりに見たからか、なんだかとても妙な気分になった。 ヒロミツには適当にぼかして言っておったが、 やはり自分にとってのドリアードという存在は、大切なものなのだと思い知った。 ドリアード『ニーヴィレイ、あなたは───』 ナギー  『ナギーじゃ。ナギーと呼べ』 ドリアード『……ではナギーと。あなたは自然を回復させるといいましたね。       それが出来る根拠が、あなたの何処にあるのです?』 ナギー  『ククク……愚かよの。       問われてすぐ吐くこのわしと思うてかグオッフォフォ……!!』 ドリアード『……いえあの。話してもらわなければ話が進まないでしょう……』 ナギー  『そんなものせずともよいわ!さあやるのじゃ!───シード!シード!?       そっちの準備は出来ておるであろうな!!』 ───……。
【Side───シードバルカン】 シード『ええいうるさいな!少し待っていろ!』 声  『うるさいとはなんじゃー!こっちの準備は出来ておるわ!     あとはおぬしがさっさとすれば、     わしらは大手を振ってヒロミツのもとへ帰れるのじゃー!     そそそそして大業を為したわしらを、ヒロミツはあの暖かい手で……!』 シード『……《うっとり……》───待っていろ。すぐ終わらせる』 声  『もちろんなのじゃ』 とはいえ、ナーヴェルブラングが封印されている球体は凶々しく、 おいそれと魔族が触れれば自分まで封印されてしまうような、そういった代物だった。 ……そう、つまり僕が触れば、僕まであの中だ。 球体 『……おお……この気配は……貴様、魔族か……』 シード『……未来のな。一応貴様の息子らしい』 球体 『なに……?ふふ、そうかそうか。では俺を助けに───』 シード『勘違いするなよ薄汚い蓑虫野郎。     僕はただ、父上のために貴様を救おうとしているだけだ』 球体 『ふふっ……そう照れるな。俺のために俺を助け……あれ?』 シード『貴様が僕の父?冗談じゃない。     僕の父上はただ一人───中井出博光その人のみだ。     いいな、貴様を助けるのは貴様を助けなければ父上のもとへ帰れないから。     ただそれだけの、たったひとつのシンプルな答えだ』 球体 『あ、あの……もしかして不良さん?反抗期?     ほ、ほら〜、パパだよ〜……?いや顔も見たことねーけど……』 シード『僕に力を貸せ。宝玉を破壊することで、ジュノーンから吸収していった力と、     貴様の中にある魔王の力……それを合わせれば、こんなカラくらい簡単に壊せる』 本当に面倒臭い。 面倒臭いからこんなことはさっさと終わらせて、自然を増やすんだ。 父上の……父上のご期待に沿うために!……他のこと?フン知らん。 球体 『そ、そうか!パパと初めての共同作業したいのか!     それでパパも助かるなら一石二丁だな!よ〜しパパ頑張っちゃうぞ〜!』 シード『御託はいいからさっさとしろ』 球体 『……やっぱり反抗期なのかしら……』 球体に手を添える。 途端、僕を吸い込もうとする引力に襲われる。 だが───惑わされるなシード……!父上の言葉を思い出せ……! 危機にこそクレバー!危機にこそ逆転の道あり! この状況で自分に出来ることはなんだ!? 魔王の子だからこそ!魔族だからこそ出来る自分の───あ。 球体 『だ、大丈夫かいマイサン!ああっ……俺のために息子が頑張っている!     こんな嬉しいことがあるだろうか!     なんか知らない間にパパだけど、パパうれし《がしっ!》え?』 魔王だから……吸い込まれるからこそ出来ること……見つけました!父上! 自分まで封印されようとしているなら、自分の体が球体に沈んでゆくってことだ! だったらその状況を利用して、 中に手を埋めると同時に中に居るナーヴェルブラングを掴んで───一気に引く!! シード『《バヂッ!バヂバヂィッ!!》っ……』 雷撃めいた痛みが体中を走る。 けど……こんな痛みがなんだ! 父上に拒絶されたんじゃないかって思ったあの時の心の痛みに比べたらっ……! こんなもの、大したことなんかじゃっ───なぁあああああい!!!  ゴヴァオッ!ジュボォッ!ゴボォオッ!! ナーヴェルブラング『ぶはっ……!ごはっ!おえっ!           ぺっぺ!うええっ!聖水が口に入った……!』 ───はたして、強引といえば強引な方法で、あっと言う間に魔王を救出。 魔王は中を満たしていたであろう聖水を吐くと、 そのまま頭を振るって聖水まみれの髪を払い、僕を見下ろしてきた。 ナーヴェルブラング『はぁ……───あん?』 シード      『………』 これが……ナーヴェルブラング。 一見して人の姿のようだが、解る。 こいつはいろいろ、人にバレないように隠しているものがある。 それは角だったり翼だったり、いろいろだろう。 ナーヴェルブラング『おーおー!てめぇが俺の息子かぁ!…………《ポッ》』 シード      『……?』 ナーヴェルブラング『い……意外と可愛いじゃねぇか。           息子なんだよな?俺の息子なんだよな?なぁ?』 シード      『一応そうらしい。だが、だからって《がばあっ!》うわあっ!?』 ナーヴェルブラング『うおおおお息子よぉおおおおっ!!───いい!すごくいい!            俺こんな子供が欲しかったんだよ!           でも死にそうにならないと魔王は卵を吐けねぇっつーし!           なななな名前は!?名前はなんつーんだ!?           俺はナーヴェルブラング!……パパだよ?』 シード      『……貴様を父として認めるのは癪だが、シードだ。           魔王の種、という意味でそう名づけられた』 ナーヴェルブラング『〜〜……くっはぁあーーーーっ!!名前まで可愛いじゃねぇか!           イイ!実にイイ!小さいのにどこかキリっとしてて、           パパを威嚇するようなその視線!魔王だ!魔王の子!マイサン!!           パ、パパパパパになにかしてほしいことはないかい……?           ハァハァ……!パパ、シードのためならなんでもしちゃうぞ〜!』 シード      『………』 この時僕が感じたもの。 それは間違いようもない、奇妙な嫌悪感だった。 ……変態、というやつだろうか。 シード      『じゃあ世界に存在する死の気配をここに集中させてほしい。           自然のマナを増幅させるた───』 ナーヴェルブラング『パパに任せなさい!!うおぉおおおおおりゃぁああああああっ!!』  キュゴォオッチュゥウウンッ!!! シード『───!?……こ、これは……!』 呆れる勢いで、世界に存在する負のエネルギーがナーヴェルブラングのもとへと終結する。 それを見て思った。 こいつは確かに、魔王だなんていわれるほどの実力があるのだと。 だが僕だって負けていられない。 僕にだってこれくらい───出来る! シード      『すぅ……はぁあああああああっ!!』 ナーヴェルブラング『おおっ!?』 そう、やり方を知らなかっただけだ。 だからこんなもの、やり方さえ肌で感じれば出来る! ナーヴェルブラング『シード……!パパを、パパを手伝ってくれるのか……!』 シード      『う……るさい……!僕は父上のために……!』 ナーヴェルブラング『《きゅうぅうん……!》あ……ああ……嗚呼ぁああっ!!           子が!我が子が!パパのためって!嗚呼!生きててよかった!!』 シード      『うひぃっ!?ななななにを鼻血を流してるんだ!?』 ナーヴェルブラング『愛故に、さ《ビシィ!》』 爽やかな笑顔で鼻血を流しながら、魔王が親指を立ててきた。 ナーヴェルブラング『強靭!無敵!最強!今の俺に敵はねぇ!!           見るがいい……!愛ッ情ッパワァアアアアーーーーッ!!!!』  ンゴォオゴゴゴゴゴウゥウン!!! シード『〜〜〜……!』 力が流れてゆく。 世界に蔓延る負の力も、僕が集めた負の力も、全部。 そうして集まった力を魔王は“自分の代わりだ”と球体へ押し付け、封印してみせた。 ……それから両膝に手を置いて、ゼーゼーと肩で息をすると─── 僕が見ていることにハッと気づき、 振り向きザマに疲労困憊笑顔でニヤリと無理矢理笑ってみせた。 ……やっぱりヘンなヤツだ。 シード『《ブッ》……アレイシアス、準備が完了した。さっさとしろ』 【Side───End】
───。 ナギー  『うむ!任せるのじゃー!ではよいの!全力で自然に力を送るのじゃー!』 ドリアード『はぁ……もう、仕方のない子。       よっぽど、そのヒロミツという人が好きなのですね……』 ナギー  『もちろんじゃ!なにせヒロミツじゃからの!』 ドリアード『……そう。では可愛い二代目をこんなに虜にする存在のためにも、       私も全力でやってみましょう……。その方はどういった種族なのです?』 ナギー  『凡人じゃ』 ドリアード『人間ということ?……そう。やはり人の中にもそんな心優しい人が───』 ナギー  『なにを言うのじゃ!ヒロミツはやさしいのではなく外道なのじゃ!』 ドリアード『……なんだか物凄く手伝いたくなくなったのですが?』 ナギー  『いいからやるのじゃ!はおぉおおおお……!!』  ンゴゴゴゴゴゴゴ……!! 大樹に手を付き、そこに力を送ってゆく。 そうしてから、今度は送った力を内部で操るようにして、世界中の自然へと訴えかける。 ───するとどうだろう。 機械や空気の汚さの影響か、くすんでいた大樹の色が、瑞々しい緑色へと変わってゆく。 ドリアード『これは……───ナギー、あなたはどこでここまでの力を……』 ナギー  『感心はいいからさっさとするのじゃー!』 ドリアード『……《くすっ》……もう、本当に仕方のない子』 静かに笑みながら、初代はわしの手に自らの手を重ねた。 そして静かに目を閉じて───……ああ、そうじゃ。 頭が熱くなっていて、忘れておったわ。 わしらドリアードは、歌を届けて自然を慈しむ。 いたずらに力だけを流し込むのでは、自然が怯えてしまうのじゃ。 ならば、と。 わしは初代に習い、静かに呼吸をしてから───歌を歌った。 然の精霊のみに伝えられるとされる、自然を慈しむ歌を。  キ───ィイイ……ィイイ……ン…… それは波のように周囲に流れ、大樹に流れ、わしと初代が送る力を草花に与え、 それぞれが持つ生命力に活力を与えてゆく。 ある草はより長く、ある木々はより力強く、ある花はより美しく。 それぞれが懸命に生きようとする力が、 負の力が消えうせたこの世界をやさしく包んでゆく。 そんな感覚を、目を閉じながらでも、歌いながらでも受け取れた。  ───……。 どれほど目を閉じ歌っていただろう。 全力の全力を出し切り、もう歌えぬというところまでくると、わしは静かに目を開け、 隣で困った風情でわしを見下ろす初代を見上げた。 ……困った顔?もしや失敗───!? などという考えは、心配のしすぎだった。 ナギー『……お……おお……!おぉおおお……!!』 ガイアフォレスティアが輝いていた。 赤色にではなく、眩しい青の光を受けて。 そう、つまり─── ナギー『そっ……空が蒼いのじゃーーーーっ!!』 見上げる空に、青が復活した。 そしてこの、恐ろしいまでに澄んだ空気と、自然たちの歓喜の声。 自然の復活は、成功したのだ。 ナギー『……む?待つのじゃ、ならばなぜ……』 初代は、こんな困った顔を? と、そんな意を込めて、自然から初代へと視線を戻した。 すると初代は…… ドリアード『……管理が大変です……』 増えすぎた自然へと目を向けて、やっぱり困った顔をした。 ……な、なるほどの。さすがにこれは……増えすぎたのじゃ。 ドリアード『ナギー、こうなったのもあなたの責任です。       しばらくここで、自然の安定に協力してもらいますよ』 ナギー  『なんじゃと!?い、いやなのじゃ!わしはヒロミツのもとへ帰るのじゃ!       そして頭を撫でてもらうのじゃ抱き締めてもらうのじゃー!!』 ドリアード『ふふっ……だめです』 ナギー  『う、ううっ……ヒロミツーーーーーッ!!』 そんなものは無視して逃げることは出来た。 出来たのじゃが、自然を大切にする思いは当然あって、 それを放棄することは出来なかった。 それを放棄すれば、逆にヒロミツはわしを叱るじゃろう。 ……い、いや、それとも逆に、 然の精霊でありながら自然を無視するとは、と褒めてくれるやも……。 うう、掴み所がないにもほどがあるのじゃ……どちらかにせい、ヒロミツの馬鹿者め……。 【ケース711:弦月彰利/ボルシチ=ハラショー、とても美味しいわぁん】 ……。 ピキュリリィイイン!! マギエル『ハッ!?今、誰かが僕のことを呼んだような……!』 彰利  「気の所為っしょ。それより10分ごとにキモエルになるのやめません?」 マギエル『キモエルじゃないよ!マギエルって決まった筈でしょ!?      もしくはマラジンにしてよ!』 藍田  「マラジンのほうが不名誉だと思うんだけどなぁ……」 マギエル『知りなさい。人の心は移ろいやすいものなのです』 岡田  「壮大に言われてもキモいだけだけどな」 マギエル『ほっといてよもう!!』 さて。 一路ニサンへ歩き続けたアタイらがボワァッサァアアアッ!!! 総員 『キャーーーッ!!?』 ……モンスターキングダムへと辿り着こうとしていた時でした。 何故かキングダムにお邪魔しているらしい閏璃野郎からのtellで、 その場所を知ったアタイたちはそこへと向かっていたのですが…… そう……今まさに辿り着かんとした時、突如として植物が地面からゴヴァーと! こ、これはいったい!? 彰利 「キャアなにこれ!自然が……植物が急成長!?」 藍田 「み、見ろ!荒野に近かった道が、今や普通の草原に!     ……い、いや、普通って言うのも烏滸がましいくらいな緑の道に……!」 岡田 「み、みろ!ハゲだった山々があんなにフサフサ緑に!」 セレス「───!見てください!遠くの空が、一部だけ蒼色に!」 シド 「むう……あそこは───ガイアフォレスティアがある辺りか」 彰利 「そうなん!?つーことは……」 チラリとマギエルを見る。 すると、彼はキモい姿のままで“ナギー……貴様という男は……”と言いつつ、 ふるふると震えながら感動していた。 ……男じゃないのにね。 シド  「突然、負の気配が消え去ったと思えば次は自然の嵐か……これはいったい……」 マギエル『……感じます。自然たちが……マナが喜んでいらっしゃる。      どうやら、フフ……ナギーとドリアード、      シードとナーヴェルブラングがやってくれたらしいぜ……?』 彰利  「そうなん!?俺にも聞かせろテメー!」 マギエル『ダメだ!秘仙丹は秘密の丸薬なんだ!』 彰利  「んなこと聞いちゃいねィェーーーーッ!!!」 ええいもうキモくなっただけで、キモエルになってもてんで中身が変わっちゃいねー! いやそりゃ中身が中井出なんだから当然なんだけどさぁ! シド 「いつまでも遊んでいるんじゃない。あの洞窟だろう?」 彰利 「オウヨ!」 見えてきた洞窟に、一同がハフゥと息を吐く。 逃げない限りは疲れない体だけど、結構離れていたのは事実。 そんな距離を騒ぎながら歩けば、疲れもしませう。 ……考え事をしていても始まりません、アタイらはコクリと頷き合うと、 ゴッカッゴッカと昔のRPG風に洞窟へと侵入していった。 音はもちろん月奏力で。 ───……。 ……。 洞窟の中はモンスターでいっぱいだった。 しかも中は結構広く、 広い分だけたくさん居るモンスターたちにジロジロ見られて居心地が悪いったら…… でも─── マギエル 『やあ』 モンスター『ぎゃあああバケモノォオオオオッ!!!』  ゾガザザザザッ………… マギエル『………』 キモエルが挨拶をした途端、あれだけ居たモンスターたちは逃げてしまった。 彰利  「……きっとこれからイイことがあるさ……」 マギエル『うぐっ……ひっく……うぇええ……』 モンスターに本気で怯えられ、バケモノ扱いされたのがこたえたのか、 キモエルはがっくりと肩を落として顔を覆ってしくしくと泣き出した。 ……とまあそげなこともあって、モンスターが逃げたお陰で一層に広くなった道を歩き、 やがて突き当たりまで来ると───…… 高い位置にある玉座に誰かが座っていることに気づいた。  ゴゴゴゴゴゴゴ……!! 声  「よく来たな…………」 彰利 「だっ……誰だァアア!!」 演出として、ク、クワッ!と玉座を見上げる! するとソイツはくつろがせていた体を立たせ、ゆっくりと降りてきて───! 閏璃  「朕が魔王、閏璃凍弥でおじゃ───」 マギエル『べろべろばあーーーっ!!』 閏璃  「ほぎゃあああああーーーーーっ!!!!」 キモエルにあからさまに驚かされて絶叫!! 盛大にして壮大に現れたかったんだろうが、ところがどっこい…………! そう思惑通りにはいきませんっ…………! なにせこちらにはキモエルが居るのだからな! マギエル『イーーーッヒッヒ!イィーーーッヒッヒッヒ!!』 閏璃  「ほぎゃっ……ほっぎゃああーーーーっ!!!ほぎゃあーーーーーっ!!!      おぎゃああーーーーっ!!ぎゃああああああーーーーーーっ!!!」 あまりの姿に腰を抜かした閏璃は、 キリキリと頭を回転させながら近寄るキモエルを見て叫び続けている! まあ……こげな暗い場所で、ぬらりと現れたキモエル見れば、誰だって叫ぶわねぇ。 ちなみに顔を回転させてるのは鬼面を回しているだけであって、 さすがに頭までは回ってない。……と思うよ?うん、いくら中井出でも……ねぇ? ……つーか満面の笑みで頬赤らめながら、 こっち振り向いて親指立てるのやめなさいキモイから。 セレス「哀れですね……少しでも魔王っぽく現れたかったんでしょうに……」 藍田 「相手が悪かったな……」 言われたい放題です、閏璃くん。 でもやがて、相手がアタイたちのメンバーだと知ると、 渇いた笑いを漏らしながら言葉をつむいでいった。 閏璃  「は……はは……はぁあああ〜〜……勘弁してくれ……。      驚かすつもりがこんな風に驚かされるなんて……」 マギエル『グエフェフェフェ……!      その裏を掻く喜びこそがこのマギエルの楽しみよグオッフォフォ……!!』 閏璃  「あー……どうも、提督さん」 マギエル『あれぇバレてる!?』 閏璃  「いや、今の笑い方で解らないほうがどうかしてる」 マギエル『……ねぇ。喜んでいいのかな、ここ』 藍田  「すげぇ!一発で理解されるなんて!」 岡田  「さっすが天下の提督さんだ!」 マギエル『え……え?そう?そ、そうかな?すごいかなぁ!』 彰利  「オウヨ!伊達にキモエル名乗ってねぇね!!」 マギエル『名乗ってないよ本当に!!マギエルって言ってるでしょ!?      え!?なに!?キミの頭の中で僕ってずっとキモエルだったの!?』 彰利  「そうだ《どーーん!》」 マギエル『うわぁハッキリ頷いちゃったよこの人!!      ゴギリギィイイイイイイもうほんとどうしてくれようかぁああああああっ!!』 ゴカカカカカカと鬼面の顎を震わせて怒るキモエル! おお!キモさが増した!いっそ怖い! マギエル『キッサマ勝負だ表へ出ろい!今すぐ《しゅぽんっ!》───ア』 ……ジャスト3分。 マラジンの誕生である。 彰利  「受けて立ちましょう。……さ、外へ」 マラジン『いっ……嫌だ!嫌だぁああああっ!!      《ズリズリズリズリ……!》離してぇええええええっ!!!』 ジタバタと暴れて、ミギーと叫ぶ彼を表へご招待。 そしてきっちりとタイマンでボコボコにしました。 ───……。 ……。 マラジン『……………』 総員  『………』 そげなことがあって数分後。 アタイらはキングダムに戻り、閏璃くんにコトの顛末を聞いていた……んだけど。 セレス「あの……なんとかなりませんか?あれ……」 岡田 「モアイ像の前で座り込む九頭竜もも子みたいな顔になってるぞ……?」 藍田 「すももももももか。懐かしいなぁ」 キングの玉座前の段差に座り、泣きはらした顔のままたそがれる者一人。 あまりの連敗続きに、散々泣き続けた結果ってやつです。 藍田  「誰かさ、もう10分経ったんだから戦ってやれよ……」 セレス 「冗談じゃありません」 岡田  「すまん俺も辞退する」 彰利  「アタイだってやーよ」 藍田  「うん俺もヤだ」 アルビノ「僕も負けると解ってる戦いはやりたくないです」 総員  『というわけで伯!!』 シド  「戦いの最中に剣を盗まれそうなんでな、断る」 岡田  「や、いくらなんでもそこまでは」 彰利  「おお匠!よく解ったね伯!      中井出ってばそういうヤツじゃよ!珍しい武具にメがねーのよ!」 岡田  「盗むの!?マジで!?」 彰利  「当たり前じゃい。ヤツを誰と心得る。      原中が生きた伝説、中井出博光その人だぞ。      ヤツに常識は通じません。戦いの中でなら全てが合法。そんなヤツ」 藍田  「……すっ……《ゴクリ……》すげぇな……!」 ええ、普通そんなこと出来るヤツなんざいねーんだけどね。 武器奪ったら死力を賭して逃げもするし隠れもする。 無様でも生き延びることに全力を尽くす猛者……それが中井出だ。 藍田 「……よ、よし、興味が沸いた。───提督!俺とバトルしようぜ!」  ギョファァッキィンッ!! マギエル『どこからでもかかってきなさい』 藍田  「間も置かずに戦闘態勢だぁああーーーーーーっ!!!」 マギエル『死ねぇえーーーーーーっ!!!!』 藍田  「っておわぁああ驚いてる場合じゃなかったぁあああっ!!      ───ブロッキング!《ビシュンッ!》」 彰利  「おおっ!」 マギエルの剣攻撃を見事にブロッキング! ニヤリと笑った藍田くんは、 マギエル『トルネードフィッシャーマンズスープレックス!!』 藍田  「ギャーーーーーー《ドゴォオン!!!》ごぴぇえ!!」 ブロッキングしようがない投げ技であっさり大地に沈められた。 愚かねェ〜〜ィエ、中井出相手に一発を防いで満足してるようじゃ、まず勝てやしねー。 だが終わらない! すぐさま起き上がった藍田くんは、ヴィクターとグラーフを解放しバゴチャア! 藍田 『ぷぎゅるば!!』 その変身シーンを思い切り殴られ、顔面を軸にして三回転したのちに大地に崩れ落ちた。 だが終わらない!やはりすぐに飛び起きた藍田くんはバサァッ! 藍田 『ぶわぁっぷ!?《バゴンガァッ!!》ゲヴォルヴァーーーーッ!!』 目に砂をかけられたのちに、やはり思い切り殴られて壁に激突。 起き上がろうとしたところを烈風脚で距離を詰められ、 その勢いのままに顔面を壁目掛けて殴りつけられ、ガクリと項垂れた。 マギエル『若すぎる……遅すぎる……そしてなんと弱い……』 総員  (うわぁ……) 隙穿ちの限りをつくしておいてこれである。 さすがに皆様唖然。 だが終わらない!藍田くんの前に屈んだ彼の前で、藍田くんの具足が炎を纏う!! 次の瞬間、藍田くんは覚えたばかりのファイナルエクスプロージョンを発動させる! 藍田  『詰めが甘いぜ提督!これで───《ひょいっ》───へ?』 マギエル『いつもより多く発熱しております』 しかしキモエルはそんな藍田くんをひょいと持ち上げると、───って! マギエル『───投げます』 総員  『うわあ待て待て待てえぇええええっ!!!』 待て、と言った時には時遅し。 光り輝く藍田くんは僕らに向けて投げられ─── 総員 『いやぁあーーーあぁあああっ!!!』 藍田くんを含めた僕ら全員は絶叫し───モンスターキングダムを破壊したのでした。 ───……。 ……。 ゴココッ……ガコッ……パラパラ…… 藍田 「勝つためならなんでも、って意味……解った気がする……」 彰利 「だろ……?」 砕けた洞窟の前で、ボロボロになりながら寝転がるアタイたち。 ひでぇダメージを負うわ、崩れた瓦礫に潰されるわでひどい目に合った。 そんな中で、全身で喜びを表現しているのは、すっかり3分経ってマラジンな中井出。 藍田 「はぁ……まいったなぁ……あそこまで強いとは」 彰利 「刻震竜戦の時、共闘した記憶くらいあるっしょ?     トドメ刺したのアイツなんだから、それくらいないとヘンだ」 藍田 「あるにはあるんだけど曖昧なんだよな。     どっちかっつーと魔導砲がトドメを刺した〜って感じになってるから」 彰利 「ナルホロ」 一部が蒼い、朱色の空を見上げる。 で、倒れながら空を見上げるっつったらアレなわけですよ。 彰利&藍田『フッ……戦いに明け暮れる毎日に、       空がこんなにも広いことを忘れていたよ……───うおう』 基本ですね、うん。 同じことを言ったアタイと藍田くんは小さく笑い、 自然回復能力によって落ち着きを取り戻した体を起こした。 彰利 「さてと、これからどうすっかね」 藍田 「そりゃあ…………晦でも追うか?」 彰利 「モンスターユニオン跡に行ったんしょ?こっからだと随分かかる」 藍田 「転移はどうなんだ?一度行ったとこなら飛べるんだろ?」 彰利 「オ〜…………ダメだね。世界が変わっちまった所為か、飛べません」 藍田 「うお……ちゃっかりしてるのな、製作者側」 ええまったくで。 ……それよりも、一応全員非難させたけど、モンスターたちの視線がイテーんですけど。 彰利 「どうすんのコレ、お前の所為だよコレ」 藍田 「や……だって一泡吹かせたいじゃん?     今じゃ、なにもファイナルエクスプロージョンで     いくことなかったな〜とは思ってるけど」 それもまったくじゃい。 モンスターたちの数少ない住処をこげにコナゴナにしちまったんじゃあ、 いくらキングのお客様とはいえ視線が痛いです。 よって─── 彰利 「よっしゃあ久しぶりにやりますか!」 藍田 「おおっ!?いったいなにごと!?」 仰向け状態から起こしていただけの体を奮い立たせ、我、大地に立つ。 なにをするのかっていえば、自然様たちの協力を仰いでの建築作業さ! 懐かしいなぁ、楓巫女に家を作ってやって以来だったっけ? では元気出していきましょう。A剤。 彰利 「《メギャァアン!!》───破面、皇竜、解放!     アタイの全力を以って……いざ!月然力!!』 自然の気配が超活発な今なら出来るはず! 燃え上がれアタイのハート! ───……。 ……。 全力を出して解放、活性化させた自然たちは…… まるで水を得た海産軟骨魚シャークさんのように暴れ回り、 ついには巨大な要塞となりました。 それだけならまだよかったんだけど、 みんなにスゲースゲー言われて調子に乗ったアタイはさらに力を解放。 皇竜の力が暴走し、コントロール不可能になって………… こんなことになってしまったがね…………。 総員 『………』 自然の塔……完成……! 自然たちがなりたいようになったとでもいうのか、 それともレヴァルグリードの趣味なのか。 天までは届かんにしても十分高い塔が出来、 しかも自然植物の密集で出来たって割にはきっちりしていて、 ヘタな石造建築物より硬かった。 皆様に話したら、小さく細長い塔を想像するんだろうが、これはちと性質が悪い。 横の面積は光の塔より大きく、縦の面積はそりゃあ光の塔とまではいかないまでも、 それでもやっぱりデケェのだ。 えーと……標高1500メートルくらい? や、詳しい高さなんざ知ったこっちゃねーんだけどさ。 で、問題の中なんじゃけど、やっぱり広く大きく逞しい! まるでどこかの回廊なみにツヤツヤしてて、出来立てのホテルなみにピッチリしとる。 植物を使ったから緑と茶色が目立つし、 ところどころに花や草が生えてるのはまあご愛嬌ってことで。 歩けばカツコツなるほどの硬さだ、しっかり感があるのに自然の香りがフローラル。 ……文句は、あるまい? とか思うより先にモンスターどもは歓喜の声をあげ、塔の内部へと潜りこんでいった。 アタイらもまあ同じようなもんで、その広さや硬さに感嘆の声をあげたもんさ。 でも─── マラジン『………』 マラジンだけが、真っ青に……まあ表情あんまりわからんけど、 雰囲気からして息を飲み、怯えるような顔で塔を見上げていた。 彰利 「……中井出?」 その様子があまりに彼らしくなかったからだろう。 俺が声をかけると、マラジンはビクッと肩を跳ね上げ、俺から距離を取った。 いや……厳密にいえば、塔から、か。 彰利  「おいおいどーしたん?テメェらしくもねぇ」 マラジン『…………』 彰利  「……な……中井出……?」 明らかに様子がおかしい。 ふざけてるとか、そんな次元じゃない。 まるで自分の死に怯えて、この塔に近づかないみたいな─── そうやって自分の中で、このワケの解らない状況を分析していると、 ふと……中井出から話し掛けてきた。 マラジン『……この塔。最上階が広間になってるよな……』 彰利  「ホエ?あ、いや……昇ってみんことには解らんけど」 マラジン『広間は二つに分かれてて、      階段から昇ってきた場所から二つ目の広間に行くには、      ひとつの狭い通路があって───』 彰利  「……?おお、予想の話かね?じゃったら───」 マラジン『……その通路は武具の侵入をこばむ。      通路の先の広間は黒を拒絶する空間になっていて───』 彰利  「………」 違和感。 見てもないのに、予想だけでここまで言えるか? 中井出の言葉にはおかしな明確さが含まれている。 これは…… マラジン『───悪い。俺、もう行くわ。この塔には入れない。      じゃーな、また縁があったらどっかで会おう』 彰利  「へ?や、ちょいと───」 待て、と言うより早く。 マラジンは踵を返し、走っていってしまった。 彰利 「……なんだってんだ……?」 ワケが解らないにもほどがあった。 ……あったんだけど、アレがウソとか予想とか、 そんなチンケなものじゃないことくらい、俺にはもう解っていた。 だから……昇った。 最上階まで、一気に。 途中で笑っていた藍田と岡田を連れ、一番てっぺんまで。 果たして───そこにあったのは二つの広間。 昇ったきた場所と、小さい通路を挟んでの二つ。 ……うそだろ、なんて言葉が自然に出たのに気づき、口をつぐむ。 何も知らない藍田と岡田が広い広い〜と燥いで、 奥の広間に行こうと狭い通路に差し掛かると、 まるでそこに壁があるかのように弾かれる。 藍田 「お……おお!?なんだ!?壁……見えない壁があるぞ!?」 岡田 「なに!?……あ、ほんとだ」 彰利 「………《ガチャッ、ガシャンッ……》」 藍田 「お?ゆ、弦月?」 もし……中井出の言うことが本当なら。 俺は見えない壁の感触を確かめたのちに武具を全て脱ぎ捨て、 ただの黒い服を纏ったままの状態で、通路を歩いた。 するとどうだろう。 確かにそこに存在していた筈の見えない壁の違和感は一切受けずに歩くことができ、 藍田 「へぇっ!?」 岡田 「あれっ!?お、おい弦月!?弦月!?」 ……通路を越え、広間に辿り着くと……軽い嫌悪感。 試しに黒を多少発動してみると、体が裂かれるような激痛を覚え、嘔吐しかけた。 彰利 「〜〜〜……」 俺の中の黒に、自然が恐怖したからだろうか。 ここには強力な、黒を拒絶する力があった。 いや……もしかしたら、この塔全体が、かもしれない。 発動させない限りは痛みもないが……正直痛みなんてどうでもいい。 ただ、ワケが解らなかった。 ワケが解らなかったけど───中井出はこれを知っていた。 多分、自然が教えてくれたとかそんな単純な話じゃない。 中井出は、この塔が出来る以前からこの塔のことを知っていた。 それはつまり───  俺は滅びゆくこの世界で、とある塔の中で死ぬ姿だな。  いや、それが馬鹿らしい話でさぁ、やっぱ今のこの現状と繋がってるわけよ。  俺、独りなんだわ。独りで敵と戦って、独りで勝手に死んでくの。 ……いつか、黒を通して聞いた中井出の言葉がよぎる。 とある塔……と、あいつは言った。 それが─── 彰利 「…………」 ここ、なのか。 なんてこった……。 世界は偶然で回ってるって信じたいのに、 自分の死がこんな形で目の前に現れれば怯えもする。 俺が月然力を働かせなければ……いや、そもそも藍田がキングダムを破壊しなければ、 ナギ助やドリアードが自然を復活させなければ…… 刻震竜を倒すことで世界が融合しなければ、こんな塔はできなかったと─── それはまるで、自分が死ぬためにこの世界を冒険しているように思えた筈だ。 彰利 (……怯えも震えも当然だ……) となれば、アタイがするべきことはひとつっしょ。 気の操り方の練習法は聞いたし、このままヤツを一人にするのは忍びねー! 故にGO! 藍田 「ややっ!?」 岡田 「弦月っ!?」 階段側の広間に戻り、武具を拾って走りながら装着!! 階段を降り、降り、降り───塔を出てから一目散! 中井出が走っていった方向へとダッシュで急ぎ───って 彰利 「アッ!ウルーリ!」 閏璃 「なにぃ貴様!何故ここに!?」 彰利 「フッ……決まっておろう!中井出を一人にしないためさ!」 閏璃 「フフッ……いいや、その役目はこのベナウィだけで十分よ」 彰利 「なにを言う!アタイだけで十分さね!」 藍田 「いやいや順番は守ってもらわんと」 閏璃 「なにぃ貴様!何故ここに!?」 藍田 「俺は面白いコトの味方だ!     ───あ、ちなみに岡田は階段踏み外して脇腹と黄金打って悶絶中」 彰利 「痛ッったぁあーーーーーーーっ!!!」 閏璃 「岡田……女房思いのいいヤツだった……」 彰利 「エ?岡田くん、女房居るの?」 閏璃 「言ってみただけだ」 なにやらスコーンと抜け落ちてるような気もするが、気にしないことにした。 中井出───もはや貴様を一人になぞせぬぞ!僕らがついて───…… 藍田 「…………なぁ」 閏璃 「ソッとしといてやる優しさって、あると思うんだ」 彰利 「じゃあ話し掛けよう!」 閏璃 「もちろんだ!」 藍田 「うわーやさしくねぇ!」 ───……はっきり言ってしまうと、 中井出……マラジンはそう遠くに行っちゃいなかった。 懸命にパタパタミギーと走ってるんだが、いかんせん遅すぎる。 そんな姿を哀れむアタイらに気づいたのか、マラジンはアタイらに向き直り─── マラジン『やあ』 なんかフツーに挨拶してきた。 …………さっきまでの怯えがウソのような普通さだ。 マラジン『お別れはしたのに何故ここに?』 彰利  「なんつーかホラおめぇ……アレだぁ、キミと居るほうが面白いから」 マラジン『藍田くんは?』 藍田  「左に同じ。提督と一緒のほうがなにかと面白い」 閏璃  「朕も同じ気持ちでおじゃる」 彰利  「うるせーぞちんちん!」 閏璃  「なんで俺だけ怒られてんだ!?」 彰利  「意味はない!ノリである!」 閏璃  「ならば神とも戦うまで!」 彰利  「退けぬか!」 閏璃  「退けぬ!!」 彰利  「じゃ、話戻そうか」 閏璃  「そうだな」 世界は平和だった。 彰利  「そんなわけで貴様のもとに我らが来た」 マラジン『き、貴様らという男たちは……!』 彰利  「……複数系にしてくれてサンクスだけど、文法的にヘンじゃねぇかい?それ」 マラジン『言葉的には間違ってないと思うんだけど……』 やっぱどこまでいってもマイペースだった。 や、いいんだけどね?べつに。 彰利  「そィで?貴様これから何処へ向かう途中だったん?」 マラジン『うん、3分だけど力を解放できるわけだし、      ちょっと行って帝国からとある武器を手に入れてこようかと』 彰利  「とある武器?」 マラジン『うん。アイルーが作ってくれた、僕用の武器らしいんだ。      きっと今でも安置されてるに違いねー』 彰利  「なるほど、それはなんというか専用っぽさがあってソソりますな」 マラジン『ゲエヘヘヘ解りますかい』 彰利  「解りますともウェッヘッヘ」 実に怪しく笑い合いました。 やっぱ専用っぽい武器ってこう……ねぇ? 本当に専用じゃなくても、自分のために作られたものって嬉しいもんさね。 こう……ダイの剣しかあるまい!と言われるかのように。 藍田  「提督用の武器?それがなんで帝国に?」 マラジン『なんでもアイルーがまだ以前要塞に囚われている時に、      帝国に脅されて作ったものらしいんだ。      アンヘルのパーツとか、機械技術とかを駆使して作ったとかなんとか』 藍田  「へぇ〜……そんなのがあるのか。そりゃ是非とも奪い返さないとな」 閏璃  「じゃあいよいよ帝国滅亡伝説か?降りてきてまだ三日と経ってないが」 彰利  「時間なんか関係ねーっしょ。      来るときが来れば破壊するなら、ただそれが早まっただけのこと!      つーわけで中井出!今こそ宣言を!」 マラジン『みんなで武器を盗みにいきましょう』 総員  『盗むの!?』 盗っ……え?ぬ……エェッ!? 彰利  「アルェエ!?帝国破壊は!?機械文明破壊は!?」 マラジン『なに言ってるんだよラーメンマン、そんな物騒なこと言うもんじゃないよ』 彰利  「誰がラーメンじゃい!世界征服とか考えてたキミに言われたくありんせん!」 マラジン『なんだと貴様!僕の言葉の自由を奪う気か!』 彰利  「ほんならアタイの物騒発言だって自由じゃなかろうモン!!」 マラジン『じゃあいいや』 彰利  「そうだね」 世界は平和だった。 ってそうじゃねィェーーーーッ!!! 彰利  「ええの!?盗むだけで!ヤツらは亜人族たちを馬車馬のごとく働かせ、      世界のために戦った貴様を封印したようなヤツらYO!?」 マラジン『こう考えるのです。      そうしたのは一部のヤツで、そいつらに怒りを向けていいのは亜人族だけだと。      俺は世界のために戦った覚えなんぞないし、刻震竜素材も剥げたから。      封印のほうだって、それやったやつらは崖に落ちて死んだし……ホラ、ねぇ?』 彰利  「うーわー、なにも考えてなさそうなのに一丁前に考えてやがる」 マラジン『やあ、なんかひどいこと言われてる』 閏璃  「こういう時に感情一直線で動かずに耐えられるってすごいな……。      俺だったらもう、どかーんとやっちゃいそうだ」 マラジン『亜人族に対する仕打ちはそりゃあヒドイと思うよ?うん思う。      魔王の味方だったってだけでそういう仕打ちをされたんだから、      責任も感じるけどさ。それで仕返ししたら、      それこそ亜人族の仇を打ちに来たんだ〜とか勝手なこと言い出しそうでさ』 うわ〜あ物凄く有り得そう。 アタイも人間の黒い部分、随分と見てきたからねぇ……そりゃあるわ。 自分のこと棚に上げるの大好きだからね、人間。 どの種族にも言えることだけど、 我が種族こそが無条件で偉いって思ってるヤツばっかなのよね。 人間も、亜人族も。 特に人間、エルフ、天使たちはその傾向が高いやね。 もっと砕けて生きりゃあいいのに。 彰利  「その話はまあ置いといてさ。      中井出よ、この世で最も偉い種族ってなんだと思う?」 マラジン『その考え虚しくない?』 彰利  「ウア……」 きっぱり言われてしまった……。 マラジン『よいですかラーメン!偉いか偉くないかで考えるからダメなんです!      それをアンタはホントにもォオオオ!!なに!?偉いからなんなの!?      日々楽しさだけを求めるこの博光に、偉いか偉くないかなど関係なし!      相手が偉かろうがそいつを利用して楽しめるのであれば、      無礼なる所業さえもをやってのけよう原ソウル!!』 彰利  「お、おお……!それでこそ中井出だ!そして俺はラーメンじゃねー!」 マラジン『無意識に自主族こそが最高と思ってるからそんな考えが出るのだ彰利一等兵!      ええい不甲斐なや!貴様それでも元・原メイツか!』 彰利  「ノ、ノー!確かめたかっただけでありますSir!      今のはマジで失言でしたアイムソーリー!!」 マラジン『よいのですよ、マラジンはなんでも許しましょう。      貴様のくだらん物言いも、無神経さも、トンガリ頭も』 彰利  「ぎぎぎぎぃいいいい……!!!      いちいちむかつく許し方しおってぇえええ……!!      日々をくだらん物言いでやり過ごしてる無神経な貴様に言われたくねー!」 マラジン『まったくだ!』 彰利  「ゲゲェ認めた!なんか俺怒られ損!?      ええいこのやろブチノメしてくれる!!」 マラジン『お前には出来ないかもしれ《バゴシャア!!》ナゴロギャアーーーッ!!』 そして始まるリアルファイト! 言葉では勝てんと踏んだアタイはすぐにジャイアンチックに暴力を振るい、 ダブルハードな彼を全力で殴った! …………そして戦いは、10を数えぬ間にアタイの勝利で幕を下ろしました。 マラジン『グビグビ……』 彰利  「や……なんつーか……勝ったのに全然嬉しくないのはどうしてだろうなぁ……」 後味の悪さが物凄いです先生。 藍田  「若すぎる……遅すぎる……そしてなんと弱い……」 マラジン『ムキ、キ……まね、すん……』 ぐったりしてるのに山田太郎になれるキミも相当だ。 彰利  「話戻すけど、ほいじゃあ中井出はどの種族が偉いかとかは考えてないのか」 マラジン『どれが、なにが偉いかよりさ、      どの種族とも馬鹿やって楽しめるって、最高じゃないか?』 そして回復が速いキミも最高だ。 マラジン『貴族とか平民とかは元より、      種族の壁なんか越えてさ、一緒に馬鹿やれる世界を僕は望みます。      そこに消えちまった朝倉を含めてもいい』 彰利  「どなた!?」 マラジン『偉いかどうかなんて捨ててさ、一緒に泥だらけになって遊ぶ。      子供の頃ってさ、そういうこと平気で出来たろ?      やろうと思えば出来るのに、      やろうとしないのは……みんな童心を忘れちまったからさ』 藍田  「提督……」 閏璃  「……これを言ってるあんたの姿がチャチャブーじゃなかったら、      それはもう壮絶にキマってたんだけどなぁ……」 マラジン『なに言ってるんだ!この姿で言うからこそ面白いんじゃないか!!』 閏璃  「なっ……なるほど!!」 藍田  「してやられた!」 彰利  「キミらどこまで逞しいのさ……」 でも退屈はしそうじゃないから、楽しいのなら笑っておこう。 今はそれでいい。 ほんとは中井出があの塔に怯えたことについて、 いろいろ訊きたかったんじゃけどね……ま、いつか解るデショ。 どうしてあそこで死ぬことになるのか、どうしてあそこじゃなきゃいけなかったのか。 そういうことも含めて、全部。 Next Menu back