───冒険の書282/色の無い世界で───
【ケース???:───/───】 まっしろなせかいにいる。 ひろくて、ただひろくて、いろがないせかい。 あんまりにもさびしいから、いろをぬってみた。 そうしたらせかいがこわれたから、いろをぬることをやめた。 まっ白な世界にいる。 とおくつづく長い長いろうかを歩いて、どこをめざしているのかをかんがえた。 なにをのぞみ、なにをもくてきとして歩くのか。 そんなこともわからないままに、歩き続けた。  ……今回は廊下からか─── 真っ白な世界に居る。 歩くごとに自分が成長するのが解って、なんだかくすぐったい。 だけどそうすることで自分がどうしてそこに向かっているかが解った。 滅びじゃない。 ただ、始まりに向かっていた。  ……、…… ノイズが聞こえる。 色がない筈なのに、ノイズが聞こえると一瞬だけ色がつく。 色がついた場所は崩れる筈なのに、 ノイズが走ることで色がつく場合、景色は壊れなかった。  ……、…… ノイズは楽しげだった。 この廊下の先の方から、もうずっと前から聞こえている。 だから歩いた。 走らなきゃいけない気がしたけど、 走るべき時だと頭が理解しているけど、だからこそ歩いた。 途中から成長しなくなった体に苦笑しながら。  ……、 辿り着いたそこは、ひとつの部室だった。 雑用部、と書かれたプレートが掛けられたそこは、俺達の始りの場所。 全てはここから始まって、ここで終わる。  がら、と引き戸を開ける。 廊下にまで聞こえてきた賑やかさは、 まるで密封状態だった夏場の部屋の熱気のように溢れた。  ……! そこではノイズが歓迎してくれた。 俺に駆け寄って、肩を組むようにして笑いかけてくれる。 そこはノイズが集まる場所で、かつて失くしてしまったものたちが集まっていた。 だから騒ぐ。 あれはああだった、これはああだったと笑いながら。 そこは笑顔に満ちていて、つまらなかったら少し行動するだけでとても楽しい場所だった。 そういう風になるように俺達が作り上げた場所なのだから、楽しくない筈がない。  ……?……、………… ノイズの声は聞こえない。 だけどなにを言っているのかは解るから、俺はその世界でノイズたちと遊び続けた。 遊んで遊んで、やがて、色がない世界で夕刻を迎える。 色がなくても景色の変化はやっぱりあるものだ。 窓から眺められる景色はいつかのあの日を思い出させ、それだけで寂しいと感じた。 夕刻は別れの時だ。 どれだけ我が儘を言っても、 親に養ってもらっている自分たちは、親から離れれば死んでしまう。 どれだけ虚勢を張ったところで、親に生かされてることを実感してしまう。 それはきっと悪いことじゃないんだろうけど、 いつまでも楽しさだけに埋もれていられたら、どれだけ幸せなんだろう。  ……、…… ノイズたちが笑う。 お別れの時間だ。 みんなが部室を飛び出して、廊下の先へと走ってゆく。 やがて部室には誰も居なくなり、俺もゆっくりと廊下へと歩いてゆく。 それで実感するのだ。 自分が帰る場所は、きっとここだったんだ、って。 楽しいことがいくらでもあって、難しいことを考えなくてもよかった少年の時代。 蹴りつけ続ける石に笑みをこぼしながら帰路を歩んだあの頃のように、 いつまでも子供で居られたなら、俺達は、きっと───  ……。……ぜ─── ふと、ノイズが鮮明になる。 聞こえた声に、俯かせていた顔を上げると、 廊下の先でふたつのノイズが手を差し伸べていた。   さ……、……ぜ……     ……ば、─── ノイズが聞こえる。 だけどそれは嫌なノイズではなかった。 思わずそのノイズに手を伸ばしたくなるくらい、ノイズたちは暖かかった。 どうしてって……色がないこの世界で、ノイズたちだけは色を持っていたから。 目で捉える色じゃない。 個々が持つ、個性というべき色。  ─── ふと、昔のことを思い出してみた。 どうすれば友達が出来るかも解らず、友達と知り合いとの境界も、 親友と友達の境界も解らずにいたあの頃を。 解らないことだらけの世界。 だけど、手を繋いで駆け回っていたら、いつの間にか知り合いは友達になっていた。 友達になって、なんでも言い合って、許し合っていたら、友達は親友になっていた。 ここにあるノイズはそんな“みんな”であって、 ここに自分が居るのなら、自分はもう泣く必要もなかった。  ……。 自分は今何処に居るんだろう。 懐かしい景色の中に居るのは確かで、だけど自分はみんなとは違うことを知っていた。 差し伸べられた手をいつかのように握り、駆け出せれば笑っていられるのだろう。 けれどそうしなかったのは、どうしてなんだろう。 そして自分は、何度この景色を歩けば笑顔のままでいられるのか。 ……いや、違う。 この景色を歩いているからこそ笑っていられるのだと。 たった一人になっても、きっと夢を見続けられると。  ……、…… いつか、“ぼくら”が描いた夢を、たった一人になっても見続けていこうと。 その思いを忘れないために、俺はここに居るのだろう。 みんなが連れてきてくれるのだろう。  だから、今は─── まだその時じゃないから。 俺は二つの手を取り、駆け出した。 笑いながら、追ってくる先生を小ばかにしながら。 あと何回、この夢を見られるのかは解らない。 解らないけど、最後の時……俺はきっと─── たった一人でも夢を見れるよう、強くなってるから。 だからそれまでは、甘ったれた俺を許してほしい。  さあ、いこうぜ“  ”───    俺達三人が居れば、きっとどんな困難だって越えていける─── 差し伸べられた手を掴める間だけは、この色のない世界の中で笑っていられるように…… Next Menu back