───冒険の書285/鳩の世界───
【ケース720:晦悠介(再)/我が愛と友情のララバイ】 中井出「今すぐ〜パ〜ジャ〜マ〜を〜脱ぎ捨てて〜〜〜♪」 ギュルルルビシィッ!ギュルルルビシィッ!ギュルルルビシィッ!ギュルルルビシィッ! 彰利 「アノコに〜会〜い〜に〜〜出かけようか〜〜〜♪」 ウネウネウネウネウネビシィッ!! …………。 昼である。 本日も晴天、 彰利 「ところにより、はるちん!」 ……まあ、いい天気である。 亜人族たちとの話を終えた提督が、どうしてか踊りながら戻ってきたのがついさっき。 空を飛んでいくとデスゲイズに襲われませんか?という話を理由に、 俺達はエーテルアロワノンに乗り込み、移動していた。 彰利 「ノー!大盛りたこ焼きそばだ!間違えるな!」 ……人の心を読むな。 悠介 「ところで、その踊りはなんなんだ?」 中井出「花より男子だ。アニメの」 彰利 「OPにて無意味に踊る、ステキなアニメでした。……内容、知らないけど」 中井出「ワハハハハ!俺もだーーーっ!」 ……本日晴天。 こいつらが無駄に元気なのも、空が赤いのと同じくらいに相変わらず、と。 悠介 「しかし困ったな。出来ればエルメテウスで迎えに行ってやりたかったんだが」 中井出「デスゲイズかぁ……なんとかしないとなぁ」 彰利 「オッ、それならアタイにE考えがあるぜ?     ここだけは機械文明に感謝、ってヤツじゃけんどもね……飛空艇、あるっしょ?     あれにゃあどうやらデスゲイズ除けの装置が組み込まれてるようなのYO」 閏璃 「あ、それ知ってる。柾樹が密航してみたらしくて、     しっかりとデスゲイズが近寄ってこなかったとかなんとか」 レイル「ほ〜……そりゃ便利だな。ありゃ確かにもう会いたくないヤツだし」 藍田 「じゃあ〜……あれか?飛空艇ブチ壊してその装置を奪うのか?」 彰利 「オウヨ!それが一番に違いねー!     ちっこいやつでもいいから一個手に入りさえすれば、     僕らの量産型リックドムが複製してくれるから」 悠介 「誰がリックドムだ」 閏璃 「そうだぞ、アッガイだ」 悠介 「アッガイでもない」 彰利 「ここは手堅くド・ズーカ」 悠介 「少し黙っててくれ……」 早速頭が痛いぞ神よ……。 そろそろチェーンソー持参で話し合う頃だと思うんだが……。 悠介 「小さい魔物除け、かなんかか……心当たりあるヤツ、居るか?」 閏璃 「いや……俺はそこらへんはとんとだな」 藍田 「俺もちょっと……」 彰利 「アタイも」 レイル「俺は余計に知らん」 中井出「……フフフ……ならばそろそろこの博光の番だな……!!《ゴゴゴゴゴ……!》」 閏璃 「おおっ!提督さん!?」 提督が……提督が立った! さっきから立ったままだったが。 彰利 「中井出てめぇ!なにか知っとんの!?」 中井出「え?知らないよ?言ってみただけ」 その後提督は、怒り心頭の俺達にボコボコにされた。 ───……。 ……。 彰利  「ほがちちち……!コ、コンニャロ……思いっきり暴れおってからに……!」 中井出 「そう何度も何度もコロがされてたら命がいくらあっても足りないよもう!!」 シェーラ『うるさいぞ静かにしろ!』 散々っぱら暴れたのちに、とりあえず殴り殴られした俺達は落ち着きを得ていた。 もちろんそこまで暴れれば亜人族も怒るというもので、 俺達はしっかりと怒声を浴びていた。 ジャミル『貴様我が王に向かってなんだその言い草は』 シェーラ『うん……?なんだ、魔軍貴族のジャミルか。      こんなところで会うとはまた、奇妙な巡り合わせもあるものよな……』 ジャミル『そういう貴様は堕天使貴族のシェーラじゃないか。      ハン、とっくに干からびて干し肉にでもなっているかと思ったぞ駄天使』 シェーラ『駄っ……!?お、おぬしわらわに向かってなんという……!』 ジャミル『そもそも堕天使で駄天使な貴様が王に無礼な口を開いたのが原因だ』 シェーラ『ほ、ほう……!?ならば矛先を向けるべきはわらわではなくこやつよ!      こやつがこの要塞の主なのだからな!』 中井出 「《ズイ!》博光です《脱ギャーーン!!》」 ジャミル『ひぃっ!?』 あれから土下座までして名前を直してもらったトラウマからだろうか。 ジャミルは心底、提督のことが苦手になっているようだった。 顔見ただけで思い切り敗北者の顔してるし。 中井出 「文句!文句がおありかジャミちぃ!ならば吐き出すんだ!今すぐ!      双方の本音ぶちまけが無ければ真の理解なぞアラズ!      ぶちまけまくった末に、やがて怒るのも馬鹿らしくなったその時!      僕らは真の同盟軍になれるのだ!ならばこそ文句を言え!さあさあさあ!!」 ジャミル『ありませんありませんすいませんごめんなさいわたしが悪いんです許してぇ!』 中井出 「あ、あれ?ジャミちぃ?」 閏璃  「おお……!脱ぐだけで魔貴族を泣かせたぞ!」 藍田  「すげぇや!さっすが天下の中井出さんだ!」 彰利  「俺達に出来ないことを軽くやってのけるっ!」 レイル 「そこにシビレる憧れるゥ!!」 中井出 「ま、待ってよ!違うよこれ!脱いだ所為とかじゃなくて!      あぁっ!待ってよぅ!待ってジャミちぃ行かないで!誤解を解いてから行って!      これじゃあ僕、魔貴族さえ露出で泣かす男として一生十字架を背負うことに!」 彰利  「ホホッ……これはおかしなことを。そげな十字架、今更じゃねぇの」 中井出 「今更なんじゃないよ!取り戻せるよ!手遅れじゃないよ!      何ィイイ!?そのもう背負えきれないほどの十字架持ってるだろって顔ォオ!!      まだ背負えるよ!余裕綽綽だよ!背負ってやるよ!      腰骨が変形してヘルニアになっても背負ってやるよォオオオ!!」 ……暴走を始めた提督は、彰利にからかわれるがままに叫んだ。 そしてなんやかんやと騒ぎを始め、 気がつけば叫びまくるのは彰利になっているんだから不思議だ。 あ、ちなみに。 サンは別口でお呼びがかかったとかで、エルメテウスの下で別れた。 ……マテ。 悠介 「………」 彰利 「噴ッ!覇ッ!噴ッ!覇ッ!フンハァフンハァッ!!《ビシビシバシビシィ!》」 藍田 『よっほっとっはっ!』 閏璃 「コンセントレーション・ONE!」 ……ほんのちょっと目を離した隙に、いつの間にか修行モードの面々。 何事?と思うより先に、なんとなく提督を探してしまうのは、 大体の物事の原因が提督にあるかだ〜とか無意識に思っているが故だろう。 レイル「……ふんふん……」 中井出「でね?こうなるのよぉ〜〜〜ぅ……解るでしょォ?」 レイル「理屈だけならなんとか。よし!カオスコントロール!《ギヒィン!》』 で、当の提督はレイルになにかを話して聞かせ、レイルはカオスコントロールを発動。 足元から凶々しい黒紫の霧のようなものが吹き上がっていくが、 不思議とレイルの顔は普通のままだった。 レイル『おっ……おっおっおぉっ!?いい感じだぞ提督さん!』 中井出「気を抜くでないわ!その調子で高めて、侵食してしまうのだ!」 レイル『ラーサー!』 ……よく解らないが、コントロールが上手くいっている……らしい。 気になったのは事実だったから、 失敗続きがどうしてこんなことになっているのかを、提督に訊いてみることにした。 すると─── 中井出「いやさ、いっつも解放すると内側から飲み込まれちゃうっていうからね?     だったらいっそ解放の瞬間に自分こそが内側に潜って、     外側に出たカオスを内側から食らい返してあげなさいと助言を」 悠介 「うわあ……」 物凄く提督らしい考えだった。 しかもそれで成功してるんだから笑えない。 中井出「ゴフェヘハハハハッカッカッカッカッカ……!!     かく言うこの博光も、     ベルセルクに飲まれた時にはこうしてヤツを苦しめたものよ……!     押さえ込めないというのなら、余力を残すべくわざと飲まれ、     内側から食らってやればいいのよグオッフォフォ……!!」 知らないところでベルセルクが苦労していた事実を知れた瞬間だった。 提督に内側から侵食されるなんて、考えるだけで寒気がする。 悠介 「考え方ひとつでいろいろ変わる、か。     確かに見方を変えるだけでも変わるのが景色や物体だもんな。     一方からの見方だけじゃ、見えないものもある」 中井出「うむ。いろいろな見方が出来るのに、     ひとつの見方しか出来ないのはもったいない。いろいろな見方が出来れば、     たった一つのことだっていろいろな楽しみ方があるのだ。     人はそれをこう唱える。“一粒で二度美味しい”……!!」 ……なにか違う気もしたが、ツッコムのはやめといた。 悠介 「ふむ……じゃあ提督、俺の創造になにか違う見方ってあるか?」 中井出「ハトが出ます」 悠介 「?あ、ああ。ハトが出ます」 言われるままにハトを創造。 中井出「ハトを槍に変える力」 悠介 「……ハトを槍に変える力!」 次いで、変化の指輪の能力でハトを槍に変換。 中井出「雷撃のイメージ乗っけて、空に投げる」 悠介 「───よし!せいっ───やぁっ!」 ドシュンッ───槍が空へと飛んでいった。 中井出「ハイここで口笛」 悠介 「へっ!?あ、あー……《ピィーーーッ!》……うおおっ!?」 何事か、飛んでいったはずの槍がこちらに向けて戻ってくる! 俺は慌ててそれを手で受け止め、刺さる前になんとかした。 悠介 「て、提督?これって……」 中井出「限界は作るな、の一例にて候。     考えてみりゃさ、お前って“命”を消費無しで創造できるんだよな。     で、変換しても、その槍がハトである事実は変わらない。     槍の中にハトの意思はあるし、     お前が創造したものだからある程度はお前の思い通りになる。     難しく考えなくていいんだって。こうなるといいな、を爆発させて創造せよ。     それが貴様の武器にも防具にも娯楽にもなる」 悠介 「………」 思わず開口。 開いた口が閉じれなかった。 中井出「命ひとつが作れるのに、     武器一つでゼーゼー言うようでは、まだまだ心に枷がある証拠。     もっと楽しくずる賢く生きてみよう。それが漢だ任侠だ」 悠介 「……はは……はぁ……」 こんなにあっさりと、自分が考え付かなかったことをされるとさすがに驚く。 ……そっか、俺、命を創造できるんだよな。 当たり前すぎてて忘れてた。 ていうか命を武具に変えて、投げて呼び戻す、なんて方法も思いつきもしなかった。 悠介 「はぁ……」 一方からの見方だけじゃつまらない、か。 創造の理力で楽しむとか遊ぶとか、そういうことは深く意識したことがなかった。 けど、持っている能力を、ただ戦いなんかだけのために使うのは、 確かにもったいないと思えた。 中井出「あ、そうだ晦。確かお前、他人のイメージも創造できたよな?」 悠介 「あ、ああ。今は出来るかちょっと不安だけど」 中井出「やってみてくれ。面白いのを見せてやる」 悠介 「……よし」 面白いの、と言われては、俺の中の悠介(とおたす)くんが黙ってくれない。 俺は提督の額に手を当てて、それを読み取るようなイメージを働かせながら─── 悠介 「……創造」 唱えて、ハジケさせた。 すると、提督の額に当てた右手とは逆の左手に、なにかが現れる感触。 見てみれば、それは……………………なんだこれ。 中井出「お……おお、おお、これこれ。紹介しよう……ハトミサイルデラックスだ」 悠介 「…………」 中井出「まずこう手に取って、クチバシの部分のキャップを取ります。で……投げます」 ひょーい、と提督がハトモドキを遠くの景色へと投げる。 走る要塞の効果もあってか、それはドップラー現象のごとくあっさりと果てへと消え、 …………のちに、大爆発。 遠くの景色の広がる地面をえぐる赤い半球が、目に眩しかった。 悠介 「あ、あがが……」 中井出「とまあこんな感じで。貴様はハトを武器にしなさい。     いいかい?無理にカッコよいものを作ろうとするな。ハトでいけ。     極力消費を減らして、しかも高威力。これぞエコアイデア」 悠介 「理屈は解るが……」 確かに、あれだけの爆発なのに創造にかかる消費は少なかった。 それはハトだから、って理由で……い、いいのか?いいってことにしよう。 相手が提督じゃあ、こまごまと考えてても疲れるだけだ。むしろ楽しもう。 中井出「じゃあステップアップ!えーと、世界創造は出来るか?」 悠介 「ああ。手の平にちっこいのを創る程度だが」 中井出「よし。じゃあ黄昏じゃなくてハトワールドを作ってみよう待たれよ」 悠介 「《がしぃっ!》うわああああ勘弁してくれぇえええええっ!!     出来たとしてもそんな場所で戦いたくねぇえええええっ!!」 中井出「なにを言う!ハトは日本の象徴だと言う言葉を忘れたか!     つまり黄昏なんぞよりもよっぽど!貴様向けの世界なんだ!!」 悠介 「!……に、日本の……象徴……」 中井出「そんなことも理解できぬようでは、貴様の傍らの土偶が泣くぞ!」 悠介 「《ハッ》土偶……!」 中井出「……な?」 悠介 「あ、ああ!提督……俺、やるよ!」 中井出(《ゴシャアァアン……!!》チョロイ……!) なにやら提督の目が光ってた気がするが、それよりなにより創造だ! ……あ、あれ?ハトって平和の象徴じゃなかっただろうか。 まあいいや、創造だ。 ……。 で……なんの冗談なのか。 展開された世界は手の平では納まりきらず、 とうとう樹木テラスを覆うくらいの広さに達した。 ハト 『クポッポポー……クポッ……』 鳩  『クポッ』 そこかしこに、というよりは景色を埋めるほどの鳩、鳩、鳩……!! そう、まさしくここは鳩世界……! 普通、ここまで規模がデカくなれば疲れもするんだが…… 消費がとっても少ないのは、本当になんの冗談なのか。 悠介 「て、提督……これ……」 中井出「創世八幡宮(そうせいはちまんぐう)……ピジョンズゴッドワールド!     これぞ貴様の裡に秘められた最強の創造世界ぞ……!」 悠介 「いっ……いやだぁああ!こんな最強いやだぁあああっ!!」 中井出「バカモン!」 悠介 「《バゴォ!》ぐほはっ!」 中井出「まだ格好に拘ってんのか大概にしろコノヤロー!!     いいか!鳩だぞ!?鳩なんだぞ!?この意味が解ってて言ってるのか!?」 悠介 「い、意味っていったって……」 中井出「ぬう……この世界の凄さがまるで解っていないのだな貴様は……。     いいからまず手を突き出せ」 悠介 「……?」 言われるままに手を突き出す。 中井出「で、鳩を手に寄せるようにイメージ」 悠介 「え……うおっ!?」 さらに言われる通りにイメージすると、鳩が俺の手に止まった。 しかも、鳩の速度じゃないだろうって速度で飛んできて。 中井出「次に変換。好きな武器に変えちまえ」 悠介 「───!あっ……」 合点がいった。 いや……やばいぞこの世界。 確かにこれは、格好はアレだがとんでもない世界だ。 ここでは、俺だけが無限に居る鳩を“命ある武具”に変えることが出来る……! 効果はさっき、提督が教えてくれた通りだ。 投げても口笛ひとつで戻ってくる武器もあれば、 合図で一斉に襲い掛かる武器も創れるということ……! 悠介 「は、ははっ……わはっ……あはははははははは!!ぶはっ!ぷわははははは!!」 そんな単純なことがおかしくて、俺は笑った。 そうだ……“当然に出来ること”にこそ力は眠る。 当然の見方は当然であるが故に、一方からしか見なくなってしまう。 けどもし、その見方を変えることが出来れば、 こんなにも滅茶苦茶な世界を創ることも可能だったのだ。 俺にとって、鳩を創造するのは当然のことで、 それを世界にするだなんてことは思いつきもしなかった。 爆弾に変える、なんてことは実行したことがあったが……これは驚いた。 悠介 「───よし!」 イメージする。 すると俺の傍に無数の鳩が飛んできて、 イメージを受け取った先から鋭い(やじり)に換わってゆく。 それを提督に向けて───一斉掃射!! 中井出「リングシールド展開!」  ゴンギギギギギギギガガァンッ!! が、それもあっさりと全て弾かれる。 虚空に現れた半透明のシールドが、弾いてみせたのだ。 しかしバラバラと落ちる鏃も、 俺がイメージを加算するだけですぐに動いて、迂回したのちに提督の背中を狙う! ……と、そこまでは確認したんだが。  ドッ───バガァンッ!! 悠介 「うお《バゴルチャア!》ぽわぁっ!?」 地面を蹴り砕き、鳩の群れを吹き飛ばして、 一瞬にして眼前に来た提督に殴り飛ばされ、世界は消えた。 ……。 うーむ…… 悠介 「なるほど。消費が軽い分、意思を強く持ってないとすぐに解ける、と」 自然回復で痛みの引いた頬を軽くさすってから一息。 視線の先では、樹木の天井からぶら下がった枝を鉄棒代わりに、 逆上がりをしようとする提督の姿。 ……でも出来ないのが笑えた。 悠介 「提督、逆上がり出来ないのか?」 中井出「生まれてこの方、成功した試しがない」 本当にどういう生命体なんだろうかこの人は。 あれだけ動けるのに逆上がりが出来ないって……。 そりゃ、あの動き自体が武具のお陰だっていうのは解っているが。 枝にぶら下がって、ばたばた足を揺らす様は、 懸命に逆上がりを覚えようとする子供みたいで微笑ましかった。 中井出「《ドシャア!》ゲブゥ!!」 そして、足の反動に手を取られて、器用に脇腹から落ちる様はまさに提督だった。 脇腹押さえながらゴロゴロのた打ち回ってるし。 どうやらヤバイところを打ったらしい。 中井出「まあいいや、逆上がりが出来なくても生きていけるさ」 そして諦めたらしい。 そんな彼に、俺は相談があって声をかけていた。 中井出「え?なに?」 悠介 「実戦訓練だよ。ちょっと体動かしたいから付き合ってくれないか?」 中井出「よしこーい!こちらの武器はなにがいい?双剣?長剣?槍?ボウガン?大砲?     篭手と具足?斧?重火器?大抵は揃ってるけど」 悠介 「剣で……いや、双剣で頼む」 中井出「よし。では───サイナート様!     あとは任せたぁああーーーーっ!!!《ごしゃーーーん!!》」 悠介 「……へ?」 提督が霊章から双剣を出しながら叫ぶと、明らかに提督の雰囲気が変わった。 容姿は変わらず提督なんだが、 どうにも……まるでかなりの達人にでもなったかのような雰囲気だ。 中井出「さあ、始めよう。準備はよいな?」 悠介 「え、あ、ああ……よし」 なにか釈然としないものがあったが、なにせバルバトスにも変身できる人だ。 今更何重人格だろうが気にしてられない。 何故って、目の前の提督から放たれる剣気は間違い無く達人レベルだったから。 ───……。 ……。 疲れないってのはありがたいことだと思う。 思うが、止め時が見つけられないのは結構困りものだとも思うのだ。  ギャリィンッ!! 悠介 「つわっ……!!」  ザコォンッ! 手から弾かれたラグが、樹の床に突き刺さる。 ラグを追った目を正面に戻せば、喉元に突きつけられているジークムント。 いや、まいった……こうまで手も足も出ないとは…… 中井出「どうした。もう終わりか?」 悠介 「あ、ああ……悪い、ちょっと休憩させてくれ」 中井出「ふむ……よし。ではそこのお主、付き合いなさい」 彰利 「ゲェバレてた!!」 悠介 「彰利!?居たのか!?」 彰利 「オ、オウヨ!ギャリンギョリンうるせーから様子見に来てとったんじゃけど……」 頭をコリコリ掻きながら、テラス前の段差からよじ登ってくる彰利。 彰利 「ならばアタイは拳で勝負!かかってこいオラァ!」 中井出「拳か。体術はレオンの方が得意だな。代われ───……やれやれ」 彰利 「お?ジョジョの真似?」 中井出「拳で勝負、だったな。蹴りは無しでいいのか?」 彰利 「オウヨとっとと来ォ!!ギッタンギッタンにしてやるだッゼィ!!」 中井出「よし。では───邪炎逆巻き灰燼と化さん……邪竜拳装(ファフニール)」 ガヅゥンッ!と殴り合わされたナックルとナックルが、轟音とともに発破する。 音が止んでみれば、提督の篭手には灼闇の炎が灯っていて、 近くに居るだけでもう熱かった。 彰利 「お、おおお……うしゃー!ギッタギタにしてやっぜぇーーーい!!」 中井出「手合わせ願う。出来れば全力で来て欲しい。私も全力でかかろう」 彰利 「オォーラァイ!!」 第二試合、彰利VS中井出、はじめーい…… ……。 彰利 『ぐへっほ!ぶっへ!ごへっ!ほがー!ほがー!!』 中井出「ふぅ……うむ。いい汗を掻いた。ここらで潮時だな、休憩だ」 彰利 『なっ……なはっ……なんなのこいつっ……!     攻撃当たらねぇしこっちは当たるしで終始振り回されっぱなしって……!』 中井出「はっはっは、まあこんなこともある。     気が向いたら槍の方の挑みを注文してもらいたいな。私の本業はそちらだ」 彰利 『得意なのが槍なの!?ゲ、ゲェエエエエ……!!』 閏璃 「フフフ……では次は俺が!斧でかかってこいー!」 中井出「斧か。斧は───」 彰利 「大丈夫なん?」 閏璃 「や、斧なら動きも遅いし斬撃距離も短いかな〜って」 悠介 「……多分、後悔するぞ……」 第三試合、閏璃VS中井出、はじめ〜〜〜い…… ……。 中井出「ブルゥウオォオオオオッ!!ルォオオガァアアアアアアッ!!!!」 閏璃 「ひぎゃあああああああああっ!!うぎゃぁああああああっ!!!!!」 彼は雄々しかった。 豪快に斧を振るい、銃で撃たれても怯まぬその姿勢……まるでミノタウロス! いや、この突貫力はギガノタウロス級……! 最初は散々離れながら撃っていた閏璃だったが、 あっという間に距離を詰められボコボコだ。 閏璃 「ギ、ギバァーーーーップ!ギバァーーーップ!!」 中井出「…………《シャァアン……》───はふぅ」 閏璃のギブアップ宣言を聞き、ギガノタウロスの気配が消える。 現れたのは提督の気配で、それに気づくや閏璃が奇襲をかける!!  ガガォンッ!! 鳴り響く銃声。 連続して───っていた。 悠介 「……あれ?」 マテ。今─── 閏璃 「あ、あれ?あれ……撃った?俺、撃った……よな?《がしぃっ!》ほわっ!?」 中井出「時間を二秒ほど飛ばした。その間に起こる筈だった事象などはすべて消し飛ぶ」 閏璃 「んなぁあああーーーーーっ!!?《ムギュリ》はぷっ!?」 中井出「これがぁああああああっ!!!いぃいっしゃぁああーーーーーーーっ!!!」 閏璃 「おっ……おうわぁあーーーーーっ!!!?」 閏璃が提督に顔面を掴まれ、その場で回転させられてゆく! 風車を回すかのように、顔面を軸にギュルギュルと! 中井出「合掌捻りィイーーーーーッ!!!」 閏璃 「ギャーーーーーッ!!!」 そうして、ついた遠心力をオトモに投げられた閏璃は、弾丸の如く要塞の大樹に激突した。 中井出「えー、というわけで。僕は武具に眠る意思を自由に浮上させることが出来ます。     双剣シュバルツレイヴのサイナートとか、稀紫槍カルドグラスのレオンとか、     ギガノタウロスの斧のギガノタウロスとか、いろいろ」 悠介 「あ、ああ……道理で……」 彰利 「投げっぱなしのあとにいきなり解説に入られると不思議な感覚ですな」 まったくだ。 中井出「塔に着くまで暇だし、実戦訓練がしたいなら手伝いましょう!     ゲフェフェフェフェもちろん対価は頂くがなグオッフォフォ……!!」 藍田 「セコッ!」 彰利 「セコいな!うん!」 レイル「せこい!」 中井出「うるさいよもう!」 所詮提督だった。 やっぱりこう、どれだけ強くなっても馬鹿を言い合える人でありたいもんだ。 強くなりすぎた人が悟ったふうになってしまうのは……ああ、なるほど、確かに寂しい。 提督の場合、悟ってもどこかでボロが出そうだ、とか思えるのが流石だが。 彰利 「ほいじゃあバトルの続きしようぜ〜〜〜っ!」 レイル「ボウガンで頼む!あ、いつの間に来たんだって質問は受けつけないぞ。     これだけ騒がれれば誰だって気づく」 中井出「まったくだ!ところで彰利?     魔物たちの迎えはキミが転移したほうが速かったと思うんだ」 彰利 「ア」 藍田 「あ」 悠介 「………」 彰利 「やっ……いやっ……の、能力に頼る、ヨクナイ!だから───ノ、ノー!     ナグルヨクナイ!ノーナグル!ノー!!ノギャアアーーーーーーーッ!!!!」 その後、必死に森写歩郎くんの真似をしていた彰利は、俺達の手でボコボコにされた。 【ケース721:晦悠介(再々)/幻の銀蝿の名前がステキだった】 陽も完全に昇り、塔とやらが見えてきてしばらく。 ラスペランツァと名づけられた塔に魔物たちを迎えに行った俺達は、 迎えたら迎えたで、今度こそ彰利の転移で一気にエルメテウスまで転移した。 ……いや、しようと思ったんだが、 考えてみれば浮遊物体であるうちはデスゲイズに襲われる可能性があることを考慮し、 彰利の異翔転移でエルメテウスを然の塔の隣に転移してもらうことにした。 大変なんじゃないか?と訊いてみたが、 彰利 「ドラクエだってルーラとかすると、一緒に乗り物が飛んできたりするっしょ?     それと一緒一緒」 特に大変だと言うこともなく、あっさりとそう言った。 ともなれば目下の目的は、 エルメテウスとエーテルアロワノンに取り付けるデスゲイズ除けの回収である。 どうするか───って、やっぱり飛空艇を襲うしかないか? 彰利 「デスゲイズ除けねぇ……どうしたもんか」 中井出「そりゃ飛空艇を狙うしかあるまいよ」 彰利 「罪無き人たちを襲うなんて恥をお知り!で、どうすんの?」 中井出「うん。まず飛空艇が飛ぶのを待って、飛んだら僕らも飛んで飛空艇を襲います」 彰利 「わあ、スルーなんだ。ほいで?」 中井出「デスゲイズ除けを奪って逃げます」 彰利 「……それ別に飛空艇が飛ぶ前でもいいんでない?」 中井出「うーむ、機械文明の恩恵で安心しきって、     モンスターどもを見下してやがる馬鹿者どもにはいい特効薬だと思うんだけど」 彰利 「その気持ちはアタイも同じだけどね」 ふむ。 確かに文明の上にあぐらをかいて、 自分が強いわけでもないの踏ん反り返るヤツは見ていて腹が立つかもしれない。 提督みたいに自覚があって、武具無しじゃとことん弱いとかならまだいいんだが。 武具の上にあぐらをかいてるわけじゃなく、武具のみを強くしようと躍起になってる人だ。 利用するだけ利用して、必要じゃなくなったら捨てるやつらとはワケが違う。 まあ、なにより見てて面白い。 中井出「じゃあ飛空艇を襲うのは確定でいいのかな」 閏璃 「指名手配になる以外に方法とかないのか?」 中井出「ふぅむ……」 彰利 「あ、そうだ。帝国とかにならそういうのありそげでは?     案外オーサマとか姫様とかが持ってそうじゃねーの」 中井出「え?俺?」 彰利 「…………そうだった。キミ皇帝だったね」 藍田 「となると姫さんか」 レイル「確かに、姫さんともなれば強力な魔物除けとか持ってそうだな」 悠介 「待て。あんまり強力すぎると魔物たちが乗れないだろ」 中井出「そんなもん彰利のブレイカーで一発よ」 彰利 「余裕余裕」 悠介 「………」 神様……この二人が揃うと常識が通用しなさすぎて呆れてくるんだが……。 藍田 「つーかさ、岡田が居ないんだが」 閏璃 「今カポリトカステに居るって。そこで穂岸と遭遇したそうだ」 彰利 「おお。……つーかいつの間にtellしてたん?」 閏璃 「居なかったから気になったんだ。というわけでせっかくだし訊いてみよう。     もしもしー?そっちの町に飛空艇ってあるー?」 声  『あるけど、どうしたんだ?』 閏璃 「飛空艇のデスゲイズ除けが欲しいから、襲って奪おうかと」 声  『いきなり物騒だなおい!想像の範疇を軽く超越してるぞ!?』 彰利 「相手誰?ホギー?」 閏璃 「うす。頭回るから岡田くんよりはいいかなと」 藍田 「岡田よ……」 けど、そうだな。 こういうことは頭の回るヤツに話したほうがいいっていうのはある。 岡田には悪いが。 声  『はあ……それで?デスゲイズ除け?それなら帝国の姫さんが持ってるぞ』 閏璃 「なにぃ、それは本当か」 声  『ああ。実際ここまで来るのだって、姫さんが隣に居たから平気で来れたんだ。     ……その姫さんも、俺がちょっと魔法都市に夢中になってる間に居なくなったが』 閏璃 「みんな、聞いてくれ。穂岸が魔法都市で迷子になったらしい」 総員 『うわあ……』 声  『違うっ!迷子とかそういうんじゃないっ!』 閏璃 「こんなに必死になって……」 中井出「可哀想に……ん、もう大丈夫だから……な?」 声  『やさしく声をかけるなぁあああっ!!ああもういい!切るぞ!』  ブツッ─── 総員 『……悪は去った』 ……いや、なんとはなしに言いたくなるんだよ、tell切ると。 中井出「じゃあ姫さん……シャルロットを探そう!」 彰利 「シャルロットっていうん?」 中井出「うん。なんか僕の嫁になるとか言ってる人」 藍田 「…………あ、そうか。帝国の皇帝が提督なわけだし、そうなるよな」 悠介 「けど、提督にはその───」 中井出「あ、麻衣香のことならもういいです。きっぱりしっかり絶縁されました。     彼女ね、カルナくんと結ばれてることになってるみたいだから」 悠介 「……それ、本当か?」 彰利 「うわあ……なに、キミその現場───」 中井出「しっかり見ました。長年連れ添ったみたいに森の中歩いてたよ」 総員 『………』 なんともいえない空気が場を支配した。 藍田はそこのところを知らないから、どうして?って顔をしてるが。 中井出「そこんところはもういい。幸せそうだったしね。     俺が居ない歴史では、あいつはそうなるって軸が存在してたんだろ。     好きになったヤツを幸せにするのが男の務めだ。     だったら、カタチはどうあれあいつが幸せなら俺はそれでいいのよ」 彰利 「うおっ……」 悠介 「て、提督……!アンタって人は……!」 中井出「お前らはどうか解らないけど、家族は暖かいものだって思ってる。     俺は紀裡にはよく接してやれなかったけど、     心から笑ってくれてるなら文句なんてないよ。     だからこの話はこれで終わりだ。麻衣香はカルナと連れ添ってて、俺は独り。     これは事実だし俺はそれを受け入れた。許すことなどなにもない……ってやつさ」 彰利 「……んむ。ほいじゃあ綾瀬のことをぐだぐだ言うのはよしこさん。     中井出は今フリーで、必殺技の名前と彼女募集中、と」 中井出「そんな矢吹真吾チックな言葉はいいから」 藍田 「それ知ってるほうが逆に凄いけどな。ドラマCDだっけか」 中井出「そうそう」 悠介 「あーはいはい、無駄話はいいから」 妙なところで枝分かれしそうな話を戻して、ふりだし……より一歩進んだ話に戻る。 こいつら本当に平気で話題変えするから、話を進めたいこっちとしては困ったもんだ。 ほんと、切実に。 中井出「じゃあシャルを捕らえよう。きっとあの髪飾りに秘密があるに違いねー」 彰利 「よく解らんがそれを悠介が複製すればいいわけじゃね?」 中井出「オウヘルイェー!」 彰利 「イェー!」 よく解らん奇声とともに、オウイェーイと手を叩き合わせる彰利と提督。 それで、なんともあっさりと目的は決まったらしい。 中井出「アイルーが作ってくれた武器も気になるけど、     今はそれより浮遊大陸と浮遊要塞の再興よ。制限されるのはもううんざり!     だからシャルを捕まえます」 彰利 「せやね。で、何処に居るか知っとるの?」 中井出「えーと……tell:穂岸遥一郎、と…………やあ」 声  『切っていいか?』 中井出「ではこっちから切ろう」 ブツッ…… 中井出「悪は去った……」 彰利 「や、そこで切ってどーすんの」 中井出「一度やってみたいじゃない、切っていいか?って言ってきたヤツを先んじる行為。     でね?ああいう根が真面目なヤツが相手だと、───っと、もしもし?」 声  『本当に切るなぁっ!内容が気になるだろ!?』 中井出「……な?」 彰利 「わあ」 悠介 「手の平の上で踊らされてるな……しかも物凄い勢いで」 中井出「というわけで俺だ!瀬戸内だ!」 声  『……中井出だろ、何の用だ』 中井出「シャルが何処行ったか教えれ〜。あ、姫さんのことね?」 声  『どこって……知らないぞ?って、そうだな。     気になるなら昏黄に訊いてみるといい。一緒に居る筈だ』 中井出「悠黄奈さんか。OK貴様は用済みだ。消えてくれたまえ」 声  『待てぇっ!これから消される諜報員みたいな言われ方《ブツッ》』 中井出「……悪は去った」 レイル「どう聞いてもお前が悪の親玉チックだったが」 中井出「悪にとっての悪は正義だから悪は去ったで間違いないんだよ?」 レイル「…………おお、確かに」 解決した。 さて、そうなると─── 中井出「あ、もしもし悠黄奈さん?うん僕博光。今そこにシャル居る?     ……え?あ、ああうん、声で解る?そう、僕元に戻ったの。     あっはっは、それがさあ、そうそう、そうなのよブッシャシャシャシャシャ」 彰利 「談笑してねぇでさっさと進めんさい」 中井出「おあっと失礼。いやね、シャルの髪飾りに用があるんだけど」 彰利 「うおお!?そこで姫さんじゃなくて“髪飾りに用”と言うとは!」 中井出「え?あ、うん。シャルじゃなくて髪飾りに」 彰利 「しかも改めて言ってる!ひでぇ!!」 中井出「え?あ、あれ?シャル?やあ」 声  『やあじゃあありません!     わたくしにではなくわたくしの髪飾りに用とはどういう意味ですか!』 中井出「言葉通りの意味だ!《どーーーん!!》」 悠介 「胸張ってひでぇな……」 声  『あ、あああああなたはぁあ……!!     わたくしより髪飾りが!こんなものが大事だと!』 中井出「……あれ?なんで怒ってるの?この人……。     ぼ、僕間違ったこと言ってないよね?今必要なの、髪飾りだし」 総員 『提督……アンタすげぇよ……』 中井出「なんか感心されてる!?なんで!?     あ、や、でもなんか悪い気はしないよね、うん、やはは」 声  『聞いているのですか!?』 中井出「うん僕博光。なんの話だっけ」 声  『〜〜〜〜〜っ!!』 ……その後しばらく、姫さんの罵倒が続いた。 Next Menu back