───冒険の書07/常識の通じる非常識世界の法則───
【ケース83:穂岸遥一郎/イタリアンジェラートの幻影】 雪音 「はもはもはもはも……」 遥一郎「とりあえず王国入りして目的を固めたはいいが……」 さて、現在の俺たちが今居るところはランダーク王国。 関所を経由して辿り着いたそこで、俺たちはその国の住人として迎えられた。 目的はまあ……他国を退けて自国をナンバーワンにすることだとか、 強くなって魔王を倒すことだとか、つまりはそういうことらしい。 遥一郎「とはいえ……」 ついさっき連絡があって知ったことだが、閏璃たちはセントール王国に入ったらしい。 つまり既に閏璃たちは敵国者。 次会った時はお互い敵同士だぜ?とか愉快な口調で言ってたが、 戦争イベントが発生しない限りはべつにパーティ組もうが関係無いらしい。 ……なんかヘンじゃないか?それって。まあいいが。 遥一郎「さて。調理ギルドに入ったはいいが」 雪音 「ぐー!もうとってもでりしゃす!でりーしゃす!ホギッちゃんもっと作ってー!」 遥一郎「精神力補充が済んだんなら欲張るな。精神から肥えたいのかお前は」 雪音 「あ、だいじょぶだよホギッちゃん。わたしいくら食べても太らない体質だから」 遥一郎「知ってるか?それって内臓のほうに異常がある人に現れる体質なんだぞ」 雪音 「えぇっ!?そうなの!?     ……でも女の子にとっては病気なんかよりも太るほうが怖いかも」 遥一郎「さらに精神の中でもその体質とやらが通用すると本気で思ってるのか?」 雪音 「あぅ……ご、ごちそうさま」 モノ欲しそうな顔で料理を遠ざける観咲が居た。 なんて解りやすいヤツなんだこいつは。 遥一郎「そうそう、何事も八分目だ。さてと、腹も膨れたことだし───」 雪音 「モンスターハンターは狩り!!」 遥一郎「お前はどうしてそうアグレッシヴなんだ……。     もうちょっとその殺敵思考を捨てやがれ……」 雪音 「うあー、ホギッちゃんに『やがれ』言葉って似合わないー」 遥一郎「蒼木、こいつの頭にも解るように説明してやってくれ、頼む」 澄音 「日本人ならお茶漬けやろがー」 遥一郎「そうじゃなくてだな……」 レイラ「けれど、穂岸さんは随分と料理がお上手なのですね」 遥一郎「うん?ああ、まあ……     これでもひとりでなんでも出来るようにって自分を鍛えたからな」 もっとも、精霊になってからの日常はひねくれた子供の世話だの料理だの、 かなりの面倒も担うことになったわけだが。 ああ、ひねくれた子供ってのは凍弥のことだ。閏璃じゃない方の。 遥一郎「……料理か」 そういえば、ひとり暮らしを始めようって時に頑張ってた俺の隣に、 いっつもちょろちょろと動いてた妹が居たっけ。 俺は小さく苦笑しながら、俺が作った料理を食べているノアを見た。 遥一郎「………」 今でも思い出すのは春の日の幻。 懐かしい日々と、遠くなってしまった時代の全てが思い出に深い。 無くなってしまったものなんて最初から無く、 ただ手の届かなくなってしまったものばかりが俺の胸を締め付ける。 それでもまだ笑っていられたのは───時の巡りあわせってやつのお蔭なんだと俺は思う。 遥一郎「美味いか?サクラ、ノア」 サクラ「デザートはプリンがいいです」 ノア 「誰もそんなことは訊いていませんよサクラ。     ……はい、とても美味しいですマスター」 遥一郎「……そっか」 ノアが食べているものはヒナが好きだったもの。 サクラが食べているのはフレアが好きだったもの。 根本的な好みが変わっていないことになんだか頬が緩むのを感じた。 遥一郎「……ふう」 調理ギルドの窓から外の景色を眺めた。 人々が忙しなく闊歩する景色と、どこからか聞こえる威勢のいい声。 木材を運んでいる人は木工ギルドの人だろうか。 剣を調達しているのはブレイバーギルドの人だろうか。 自分の人生がある日から普通じゃなくなったことくらい自覚していた俺だったけど、 こんなにも不可思議な事態が起こるこの世界を、俺はそう嫌いじゃあなかった。 遥一郎「まあ……いいか。いいよな」 そう思えるようになったのは…… やっぱり、俺に未来を託してくれたあいつらのお蔭なんだと思う。 遥一郎「観咲の言うとおり、メシ食い終わったらフィールドに出るか」 雪音 「ワーォ!ホギッちゃんってば話が解るー!     このこの!なんだかんだでホギッちゃんだってあぐれっしぶじゃーん!!」 遥一郎「……観咲。冗談は顔だけにしてくれ」 雪音 「じょ、冗談みたいな顔なんてしてないもん!!     ガッデムゥ!!ホギッちゃんってば意地悪だよぅ!!」 遥一郎「ほら観咲、デザートのカイザープティングだぞ」 雪音 「わぁ、ホギッちゃんってばやさしー!」 遥一郎「……337キロカロリーの」(ボソリ) 雪音 「うあぁああんホギッちゃんの意地悪ーーっ!!」 ああ、ちなみに発言したカロリーは俺の経験上からの数値だ。 材料は地界に似たものを集めて作ったから実際は解らないが、近いものだと踏んでいる。 弦月ほどとは言わないが、料理には自信がある。 雪音 「あ、そうだ!デザート食べてもすぐにフィールドでモンスターハンターなんだから     カロリー消費もバッチリだよー!」 と、俺の思考を吹き飛ばす元気な声とともに 俺が手に持っていたデザートのプリンを引っ手繰ると、一口食べてご満悦状態に。 まあ……いいけどな。 ……ちなみに。 この十と数分後に観咲はモンスターとの闘いの最中に脇腹を痛めることになる。 メシ食ってすぐ暴れると脇腹痛くなるよな。つまりアレだ。 カロリーを消費させようと無駄に動き回ったために脇腹を痛め、 その隙にボコボコにノされて神父送り。ありがたい言葉を受け、 殺意を抱きつつ俺たちと合流することになろうとは、誰も夢にも思うまい。 ───……。 ……。 遥一郎「……で。しっかりと耳に焼き付けてきたか?」 雪音 「三回ほどコロがされてきた……」 どこまでも蛮勇なやつだった。 ということで現在王国付近のフィールド。 遥一郎「そこで脇腹激痛のためにボッコボコにされた観咲を俺たちは待ってたわけだ」 雪音 「なんで解説してるのよぅホギッちゃん!!」 遥一郎「そんな気分だったんだ」 ともあれ、三回も神父に攻撃を加えるその勇気は賞賛に値しすぎる。 ……あれから解ったことだが、初心者修練場以外の場所の村人には、 ぶつかったりしようが誤って叩いてしまおうが注意されるか怒られるかくらいで、 襲われることなんかまず無い。 が、神父だけは違った。 どこの神父……というか何処に行っても神父の姿だけは完全に同じだから 『他の神父』とか言いようが無いんだが、神父だけは違った。 少しでも攻撃を加えようものなら、相も変わらず『なめたらかんでぇ!』と襲ってくる。 ……思うんだが、何処に居る神父も同一人物なんじゃなかろうか。 遥一郎「レベルはまだ8レベルか。ザコ相手なら立ち回れるようになってきたけど」 雪音 「んむー、難しいところだねー。     もっとさ、ほら、強い武器とかあればいいんじゃないかな」 遥一郎「貴様なんぞに金を全部預けてなければ、     コロがされた隙に半分持っていかれることもなかったんだけどな」 雪音 「うう……めんぼくないよー……って、ああっ!!」 遥一郎「どうした?」 突如、持ち物の中をガサゴソと漁る観咲。 で、その様子を見てさっきの言葉を思い出した俺は─── 雪音 「うわぁあん!!やっぱりお金がもっと減ってるよぅ!!」 遥一郎「この馬鹿あぁあああーーーーーーっ!!!!!」 『神父に三回コロがされた』という観咲へ当然の罵倒を飛ばした。 雪音 「だ、だってだって!普通神父さんがお金を奪うなんて思いもしないよ!?」 遥一郎「だとしても馬鹿!お前馬鹿!!あの神父だぞ!?     肩が掠っただけでいちゃもんつけてくるゴロツキどもよりも性質が悪いってのは     解りきってることだろうが!!」 澄音 「うーん、それって神父って言えるのかな」 遥一郎「至極もっともな意見だけどな、蒼木。     それでもあいつは神父って役どころなんだよ」 納得いかないことなど腐るほどある。 だがそれへの意見など精霊たちや晦が許しちゃくれないのだ。 そういや他のやつらはどうしてるんだろうな。 閏璃のほうからは連絡があったから解るけど、他のヤツはどうにも。 遥一郎「悪い観咲。その立派な触覚で電波受信して他のやつらの安否を」 雪音 「気遣えないよっ!!」 言い終わる前に怒られてしまった。 こいつはこいつでこの触覚めいた髪のことに触れられるのが嫌らしい。 やあ、まるで晦のモミアゲみたいだ。 雪音 「ところでホギッちゃん?」 遥一郎「ん?どうした?」 雪音 「えっとさ、どうして……ノアちゃんだけ12レベルなんだろね?」 遥一郎「………」 そんなことは聞くまでもない。 このゲームは確かにパーティ戦では経験値は振り分けられるが、 トドメを刺したヤツとかバトルにもっとも貢献したヤツにはボーナスが入る。 その全てを、ノアが占めている……と、ただそれだけのことだ。 というか女中強すぎ。 戦う和風メイドさんがあんなに強くていいのか? ノア 「“Debut de la bataille(戦闘、開始します)”」 と、ノアがモンスターを見つけるなり目つきを鋭くして構えを取る。 それに気づいたモンスターが唸りを上げて突進してくるが─── ノア 「“Sachez mon nom et craignez-le. Je suis Noir,Emeraude,luied(我が名を知り、そして恐れなさい。我が名はノア=エメラルド=ルイード)”」 嗚呼、ようこそ地獄絵図。 襲い掛かってきたザコモンスターはノアに触れることも出来ないままにボコボコにされた。 泣こうが喚こうが手加減無し。 俺の敵となる全てを殺しかねない勢いで繰り出された連撃は悪夢の如く、 モンスターの生命をあっさりと塵にしたのだった。 ……なぁ、晦よ。 これだけ強い女中さんが常に傍に居るってなると、俺の安住は何処に行くんだろうな……。 ある意味でモンスターより性質が悪いんだが……。 これ、守られてるとかじゃなくて監視されてるってことに近いんじゃなかろうか。 ノア 「“Fin de la bataille(戦闘、終了します)”」 で、戦闘が終わるとスカートの端と端を小さく持って優雅にお辞儀をするノア。 ……晦よぅ、俺、こんな女中さん嫌だよぅ。 お前はなにか?俺に死ねっていうのか? こんな調子で観咲とかがふざけて抱きついてきたりしようものなら……
【イメージ映像です】 雪音 「ホギッちゃんホギッちゃ〜〜ん!なんだか急に死国(ベアハッグ)
やりたくなっちゃった〜!」 遥一郎「わぁ馬鹿っ!やめろっ!!」 ノア 「───随分仲がよろしいのですね」 遥一郎「ヒィ!!微笑みながら構え取るなぁああーーーーーーっ!!!!」 その後。 俺は俺付きの女中ジョブの少女に神父送りにされたのだった。
遥一郎「お前の所為で死んだんだぞ!帰れ!!」 雪音 「ひえっ!?な、なにかな!?なにかなぁ唐突に!!     わたしなんにもやってないよ!?ないよね!?」 遥一郎「へ?……ああすまん、     あんまりに有り得そうだったんで思考と現実がごっちゃになった」 雪音 「……?なにそれ」 遥一郎「とりあえず観咲。俺に死国(ベアハッグ)
なんぞしないでくれよ?」 雪音 「いきなりなに言い出すかなぁ。しないようそんなこと」 そうしてくれると助かる。 された時には盛大に誤解なされた女中様が俺たちをもれなく神父送りにすることだろう。 ……何故俺は、妹の生まれ変わりにこうまで恐怖しなけりゃならんのだろうか。 微妙すぎて泣けてくる。 遥一郎「ほんとなぁ。サクラなんてフレアの生まれ変わりなのに     能天気でポッヘリーナだっていうのになぁ」 サクラ「なにです?」 ポムポムとサクラの頭を撫でながらの溜め息。 ああ、ちなみにポッヘリーナってのはポケポケしたボケ者の俗称みたいなもんだ。 ポヘッとした女性……うむ、これが一番しっくりくる。 この場合、リーナが女性でリーニョが男性ととるべきだろう。 ……コックリーニョの件も合わせて。 雪音 「うーん……ホギッちゃんってたまに物凄く遠い目するよね。なんで?」 遥一郎「三つの世界を生きた俺と蒼木にしか解らん世界だ。諦めろ」 雪音 「なにそれ解んない」 澄音 「雪音。それはその通りだから仕方ないよ。     こればっかりは三つの世界を生きなきゃ解らない。     そういう意味では……うん。レイラがそれを覚えていないのはとても悲しいけど」 レイラ「……ごめんなさい、澄音さん」 雪音 「謝るのはいい加減に三つの世界だとかいうことを話してもらってからだよぅ」 ぶー、と抗議の唸りをあげる触覚娘。 確かにソレは当然の抗議なんだが─── 遥一郎「大事な金を神父に渡しちまうような馬鹿には教えてやんねー!くそして寝ろ!!」 雪音 「まさに外道!!じゃなくて!ホギッちゃん下品だよぅ!!     あとそういう口調、ホギッちゃんに似合わないー!!」 遥一郎「ええいうっさいうっさい!!     毎度毎度貴様に振り回されてる俺の身にもなれ触覚娘が!     大体お前は毎度毎度なんだって俺を巻き込むんだ!!」 雪音 「旅は道連れ世は情けー!!」 遥一郎「貴様にかける情は無い」 雪音 「うわっ!ホギッちゃんが愛の残虐殺戮マシーンに!!」 遥一郎「し、失礼だぞお前!ケンシロウに謝れ!!」 雪音 「あんな出た途端にミミズを欲する殺戮まっすぃーんに送る謝罪なんてないよー!」 遥一郎「ミミズじゃなくて『み、水』って言ったんだ!     お前の脳内はそこまでベタなのかこの馬鹿!!」 雪音 「うぐぐぅう!馬鹿って言うなぁーー!!」 バチバチと火花を散らさんほどに睨み合って叫び合う。 さんざんと顔を近づけた状態で怒鳴り合うこれ───もう何回やったか覚えてない。 レイラ   「あぁ……また始まりましたね……」 サクラ   「これが始まると長いです……」 澄音    「仲がいい証拠だよ」 遥一郎&雪音『誰がこんなヤツと!!』 澄音    「毎回こう言ってるけど、毎回言葉が重なるんだよね」 遥一郎&雪音『重なってないっ!!───重ねるなー!!』 蒼木に向かって叫び、次はお互い向き合って叫ぶ。 もうなんていうか、確かに妙なところで波長が合ってしまうのだこいつとは。 そこは───うん、俺も認めてる。 認めてはいるが、表面上でそれを認めるわけにはいかんのだ。 何故なら─── ノア 「……相変わらず。仲がよろしいのですねぇ……」 こんな些細なことで盛大に誤解して嫉妬する存在が居るからだ。 なんかもう肩越しからオーラとか出して、それが空中で『滅』って文字に見えたりしてる。 もしかしてあれか?一瞬で獄殺しちゃうあれか?あれを使う鬼なのか? でもガニマタはやめてくれよ?格好悪いから。 あれをやるのはどこぞのハゲの野菜星人だけでいいと思うんだ俺は。 ───まあ。 それは置いておくとして。 遥一郎「ち、違うっ!断じて違うっ!誤解だっ!濡れ衣だっ!!」 雪音 「ホギッちゃん!死ぬ時は一緒って」 遥一郎「誓い合ってないからひとりで死ね!!」 雪音 「うあぁあんホギッちゃん冷たいよぅ!!」 ノア 「問答無用ですマスター!」 久しぶりに怒鳴ったノアさん。 その頭にあるアークさんが光り輝き、ボクらを見事に包んでくれた。 ああ……まあそうだよな、ハハ……。 こいつと馬鹿やってると絶対にこうしてノアに怒られるんだよな……。 だったらむしろノアも少し距離を置けばいいのに、なんだってもう……。 などと思いつつ、俺と観咲の意識は再び吹き飛ばされたのであった。 【ケース84:中井出博光/ヒロミチュード4.5(マグニチュード単位もどき)】 ガギンゴギンガギンゴギィンッ!!! 中井出「だぁああっ!!かってぇえええええええっ!!!!」 現在未だに砂漠地帯。 クーラードリンクを飲んだ我らには既に暑さなど通用していなかったが、 突如として現れた蟹モンスターに苦戦を強いられていた。 丘野 「こやつ、序盤で戦うような相手ではないでござるよ!!」 藍田 「砂漠でキマイラブレインじゃないだけマシだろうが!!」 それはそうなのだが、 剣で攻撃しようが忍刀で攻撃しようが硬すぎて、文字通り歯が立たない。 いや、歯というよりは刃だ。 殊戸瀬「───ん」 と、そんな時。 殊戸瀬が目をキラリと光らせて、 果敢にも蟹モンスター(名前はダイミョウガザミ)に歩み寄っていった!! ……ちなみにザザミじゃないぞ? 丘野 「睦月!?いかんでござる!戻るでござるよ!!」 殊戸瀬「てい」 ザゴシュッ!! 蟹  『クギャアアアアーーーーーーーーッ!!!!』 バキャァン!!ゴシャシャシャッ!! 丘野 「……おろ?」 会心の一撃! 殊戸瀬の杖での攻撃で、なんと蟹の右挟みが破壊された!! 中井出「え───えぇえーーーーーーっ!!?なんで!?」 藍田 「ぬうあれは……罵亜診眼(ばあみやん)」 中井出「し、知っているのか雷電」 藍田 「う、うむ……聞いたことがある」  ◆罵亜診眼───ばあみやん  蟹を食す者の熟練の眼で、崩しやすい、または折りやすい部位を見極める奥義。  職人たちはそれが、たとえ生きた蟹であろうとも容易く折り、砕くという。  この奥義は金持ち、または贅沢をした者、  または蟹専門店などといった職人にしか使いこなせない奥義であり、  その『目』を見ることの出来る者もまた、  ダイヤモンドを精巧に削るほどの技量が必要だと言われている。  ちなみにレストラン『バーミヤン』の名前はこの奥義から来ており、  蟹鍋は相撲取りにとってちゃんこ鍋の次に親しみのある鍋として知られ、  さらには相撲の『どすこい』という掛け声は、  相撲を発祥させた『ドスコイカーン』の名前から来ている。(デマ)  *神冥書房刊:『ちなみに【眼】の読み方は【三只眼】から来ている』より 丘野 「な、なるほど!その手があったでござるな!!」 中井出「でも俺、蟹なんて滅多に食わんぞ?」 藍田 「俺も。ラーメンの方が好きだし。蟹なんかじゃ腹膨れねぇだろ。そのくせ高いし」 丘野 「睦月は『お嬢様』と見られるのが嫌で、様々なことに手を添えていたでござるよ。     男に混じって漁に出かけたり、かと思えばビーズの編み物に手を出したりと」 藍田 「どういうお嬢だよ」 まったくだった。 だがお嬢だからということで差別などしないのも原中魂。 ───などと思っていた時。  ぺぺらぺっぺぺ〜♪ 中井出「フオッ!?」 藍田 「お……おおっ!?」 突然のレベルアップ。 見れば、既にダイミョウガザミは殊戸瀬二等兵にバラバラにされていた。 ……なるほど。 この世界って、案外常識とか守られてるのな。 人の知識ってすげぇや、モンスターでも解体可能かよ。 しかも強い相手だったのも確かなことで、レベルが一気に10にアップ。 最大レベルは無く無制限らしいが、それでもこの一気に5レベルアップは凄まじい。 中井出「す、素晴らしいぞ殊戸瀬二等兵!これは是非ともステータス割り振りをせねば!」 藍田 「あ、っと!そうだったそうだった!!」 夏子 「……わたしたち回復する暇もなかったね」 麻衣香「同じ魔法使いでどうしてここまで……」 それは育った環境の違いってものだ麻衣香よ。 言っても始まらん。 などと思いつつも、それぞれがステータス割り振りを終了させた。 そして通常の三倍は強くなっただろう自らを奮い立たせ、さらに先へと進んでゆく。 藍田 「なぁ提督ー。この砂漠って何処まで続いてるんだー?」 中井出「まだまだ道は長いな」 麻衣香「うん。今やっと、村とオアシスの中間あたりかな」 藍田 「うわっ!マジかっ!?無駄に広いなこのフィールド……」 中井出「まあそう言うなって。またあの蟹が出てくれば、簡単に経験値が入るだろ」 藍田 「おお、そりゃ確かに」 丘野 「しかし攻撃の熟練は上がらんでござるよ?技も覚えんでござるし」 夏子 「うん、それが問題。敵が強ければ強いほど閃きやすいっていうのは     ロマンシングサガ方式みたいだけど」 丘野 「……っと、ところで睦月?なにやってるでござるか?」 殊戸瀬「……剥ぎ取ってる」 中井出「へ?」 見れば、殊戸瀬はバラバラになっても塵と化さない蟹からいろいろと剥ぎ取っていた。 それは確かに剥ぎ取れば、『ピピンッ♪』という音とともに 『砂蟹の甲殻を手に入れた!』というメッセージを出している。 ……つまりだ。 塵にならんなんらかの方法で敵を倒せば、こうして剥ぎ取れるってことなのか? おお、モンスターハンターは狩り。 中井出「よし剥ぎ取ろう」 総員 『サーイェッサー!!』 そうして、蟹は次から次へと剥ぎ取られていった。 さすがに一定時間が過ぎると塵になってしまうようだが、 手に入れたアイテムは消えたりしなかった。 中井出「これもあの少年の……セインの力なのか」 麻衣香「絶対に違うわよ」 中井出「すまん素で間違えた。俺が言いたかったのはミューズドリーム効果ってやつで」 夏子 「ロマンシングサガ3ね」 丘野 「銀の小手は消えない!ってやつでござるな」 中井出「そういや今でもやってんのかなぁ、天勇伝説セイン」 藍田 「さすがにやってないだろ」 丘野 「そうでござるな」 ぶつぶつと喋りながら歩く。 女子群は女子群で話している分、こっちの会話は届いてないだろう。 なんだかんだでいつの世も、男数人と女数人との話がかみ合うことは滅多に無いのだ。 ……まあ、原中においてはそんなことはないのだが。 原中大原則として、自分の中にあるオモシロ情報は分かち合おうというのがある。 だから、その原則が出来た時点で我らは中学の時に楽しい会話をしまくった。 男じゃなきゃ解らんであろう楽しみも、女じゃなけりゃ解らんだろう楽しみも、全部。 そうした状況の果てに我ら原中がある。 今ではゲームの話だろうが女子も簡単についてこれるし、 ファッションなどのおなご系の話だろうが男もついていける。 ならば何故今はこんな状態なのか? それはもちろん、そういう時もあらぁなってことだ。 中井出「思い出すなぁ、あの頃。中学時代に己の全てを曝け出したあの頃を……」 藍田 「そういや『自分の中の楽しみを曝け出そう』って会があったよな。     いやぁ、あれが無ければ我らは中井出を提督として完全に認めなかっただろうよ」 丘野 「アレのインパクトは強すぎたでござるからなぁ」 ちなみにお楽しみ暴露会の時、俺が暴露したのは自分のエロコレクションである。 女子群に怯むこともなくしっかりと披露した。 もちろん女子群からは不潔だの最低だのと罵倒されたが、 それとは逆に男子からは勇者として称えられたりもした。 けどまあ中学時代なんてまだまだヤンチャ盛りで、理性より興味が先んじる時代。 結局は女子群もいつしか俺のコレクションを批評するようになり、 ……まあいろいろあって現在に至る。 そんな彼ら彼女らにとって、俺がエロから離れたのは驚愕の事実だったらしい。 藍田 「ちなみに博光クオリティーはどうなった?」 中井出「コレクションなら差し押さえられたぞ?     じいさんの家ともども、俺のものじゃなくなっちまった」 藍田 「っと……悪い」 中井出「気にすんなって。じいさんのことは正直今でも残念だけど───     俺、今こうやってまたみんなと一緒に馬鹿やってられる状況がなにより嬉しい。     じいさんの葬式、ちゃんとやってやりたかったけど……しょうがないよな」 藍田 「中井出……」 中井出「はい、暗い話はここまでっと。それよりアメイダ村に急ごうぜ。     クーラードリンクっつったっていつまで効果が続くか解らないんだし」 丘野 「……ん。そうでござるな」 とりあえず歩こう。 歩いて───まだ見ぬ楽しみの世界をいっぱいに楽しもう。 いつか、この世界で頑張ったことが何かの助けになるのなら─── あの時みたいに、なにも出来ないで─── ばあさんやじいさんと離れ離れになった時の悔しさを、 もう二度と噛み締めなくてもいいようになれるのなら─── 中井出(ああ───なんだってどんと来いだ!) どぉおおーーーーーんっ!!!! 中井出「どんと───」 ……来た。 藍田 「ほっ───」 総員 『ほぎゃああああああーーーーーーーっ!!!!』 少し先の砂漠の上に、バカデカイ物体が落下してきた。 隕石か、と思ったがどうやら違うようで、モゾモゾと動き出す。 丘野 「サ、サーチライトオォオオーーーン!!!」 丘野二等の『調べる』が発動!! 丘野 「て、テイオウガザミ……そ、その強さは計り知れないだそうでござる!!」 総員 『な、なんだってーーーーーーっ!!!!!』 いわゆるひとつの───FF11で言うノートリアスモンスター!? こいつぁ危険だぜ……!!なんて思っていた時だった。 殊戸瀬「てい」 ザゴッ───ゴシャアン!! 蟹  『ギャアアーーーーーッ!!!!』 総員 『あ……』 テイオウガザミ……あっさりと罵亜診眼で解体。 終には殊戸瀬に剥ぎ取りを実行され、 呆然としながらも俺達も剥ぎ取りに参加し、あっさりと塵に帰した。 そんな時に思うことは─── 中井出「職人技ってすげぇな……」 丘野 「そうね……」 藍田 「ほんとそう……」 そんなことばかりであった。 ───……。 ……。 ───それからの我らはある意味で積極的だった。 中井出「ぬおぉおおおおおっ!!100%中の100%ォオオオーーーーーーッ!!!」 ゴゥザゴフィィインッ!!!! ガザミ『ギヂィッ!!』 ゴシャァンッ…… アメイダ村に着くまでの道、ただただ現れた蟹モンスターをコロがしまくったのだ。 この蟹ども、攻撃力は高いが素早さは無い。 横歩き以外は滅法遅いので、 攻撃を躱した瞬間にSTRに全てを注ぎ込んで攻撃すれば案外倒すことは簡単だった。 さらにこちらにはテイオウガザミが落としたレアアイテム、『双剣ガザミ』がある。 これがまた蟹どもに絶大な威力を発揮するもんだから楽に砕けた。 やはりひとつの種族を潰すなら同種族の武器が一番ってことだろう。 もしくは天敵系の武具とかか。 とりあえず俺は双剣ガザミを片手ずつに持ち、次々とガザミどもを砕いていった。 レベルも既に15だ。 ダイミョウとかテイオウとかを破壊してる殊戸瀬は経験値ボーナスで既に20。 何気に一番レベルがある。 その次が藍田というかオリバだ。 いやー、変身後の能力で一番いいのって絶対オリバだろどう見ても。 なんつーか強い。強すぎ。 執事なのにモンク以上の攻撃力だ。 主人の近くでは異常なまでの強さである。マジで。 藍田 「シャァアアラァアアアアアーーーーーーーッ!!!!!」 ゴパキャアッ!!! ガザミ『ジェシャアーーーーッ!!!!』 オリバのミニッツスパイクがヒット! ガザミの硬い甲羅を見事破壊した!! さらにはSTRをMAXにした状態で ガザミの手足(……足だけか?)を引きちぎると、 貴重品の『ガザミのミソ』を回収してゆく。 よく解らんが、乱殺している中で剥ぎ取った時に アイテム説明に『貴重品』と書いてあった故に剥ぎ取りまくっているものだ。 もちろん他の部位もしっかりとバックパックに詰めているが。 そう……もはやガザミは我らの敵ではなくなっていたのだ。 あ、もちろんダイミョウガザミや テイオウガザミとは普通に戦おうなんて思わないが。 あいつらは殊戸瀬無しでは勝てん。 とはいえ……この中では既にダイミョウとサシで勝負出来るヤツも居たりするんだが。 中井出「そういや……他の連中たちはレベルどれくらい上がったかね」 群れを成していたガザミどもを一通り屠ったところで、汗を拭いながら言った。 藍田 「ふぅっ……さぁなぁ。上手くやってるんじゃないか?」 それに応えたのは、同じくガザミを蹴り殺して息を吐いた藍田二等兵だった。 麻衣香「まあ、さすがにこんなに簡単にレベル上げは出来てないだろうけど」 そう……殊戸瀬が居なかったら俺たちはとっくに神父送りだったことだろう。 それを考えれば、俺たちは随分と楽にレベルアップが出来てる。 しかもこうして武器まで手に入れてるし。 まあ……他のやつらは武器とか必要無さそうだったから俺が貰っただけなんだが。 丘野 「たったひと掬いの砂……それも、わたしが手に取ればもはやそれは兵器!!」 丘野二等は環境利用闘法(主に投擲)で相手にダメージを与え、 ダイミョウ『ジシャアアーーーーーーッ!!!』 藍田   「主人の前では極力音を立てませんように。       “反行儀(アンチマナ−)───キックコォオーーーース”!!!!!」  ドォッパァアアアアアアンッ!!!!! ダイミョウ『ギヂィイイッ!!!!』 藍田二等はほぼ足技のみでダイミョウガザミを吹き飛ばす。 振り上げる足に思い切り蹴飛ばされた蟹は空中に飛び、 藍田はそれを追いかけるように跳躍。 それからは、空中では上手く身動きの取れないガザミをボコボコだ。 藍田 「首肉(コリエ)肩肉(エポール)肩ロース(バース・コート)背肉(コートレット)鞍下肉(セル)腿肉(ジゴー)上部腿肉(カジ)脛肉(ジャレ)!」 言葉を紡ぐと同時に次々と加えられる蹴り技。 蹴り上げと、その反動を利用しての滞空時間はまるで達人技だ。 だがそれも次第に重力に負けてきて、やがて落下するかしないかの瞬間。 藍田 「───“串焼き(ブロシェット)ォッ”!!!!」  バギャァッシャァアアアアアンッ!!!! ダイミョウ『ギッ!!』 回転の効いた螺旋蹴りがダイミョウガザミを地面に串刺しにし、 ダイミョウガザミはあっさりと昇天。 とまあ今ので解ったように……現段階、 ダイミョウクラスと闘えるのは殊戸瀬とオリバのみだ。 まあ、なんていうんだ?基本STRがありすぎるのだ、オリバのヤツは。 まったく羨ましい限りだ。 その上防御力にもボーナスが回ってるもんだから、その全てをSTRに回すとほぼ敵無し。  ぺぺらぺっぺぺ〜♪ その上、敵をコロがしまくってるもんだからボーナスも凄い。 これ、ある意味凄まじいことなんじゃなかろうか。 主人の木村夏子の活躍が影を潜めまくってるっつーか……いやむしろ麻衣香もだが。 なぁ晦よ。 これ、案外ジョブによってパワーバランス乱れまくりな。 でもその代わり、もし戦闘開始中に木村夏子が神父送りになったりしたら、 オリバは全ジョブ中最も最弱なヤツになるんだよな。 うーむ、そこんところも中々難しい。 というかなんでオリバのやつ足技しか使わないんだ? 中井出「藍田ー、なんで足技しか使わないんだー?」 藍田 「知ってるか?某借金執事ってな、執事になる前は拳も使ってたが、     執事になってからはほぼ足技だけしか使ってないんだぞ」 中井出「………」 疑問はあまり解決しなかった。 まあいいけど。 つまり足技の意識から派生して『サンジ』になったわけか。 なるほど、確かに服装もパリッとスーツ姿だ。 まあスーツとはいえ、動きやすいように上手く加工してあるようだが。 中井出「ようし!この調子でどんどん行こう!!オリバが居ればとりあえず怖くない!!」 藍田 「提督てめぇ!ちょっとは自分で闘おうとか思えよ!!」 中井出「安心しろ!我らは全力で木村夏子二等兵を守る!     そうすれば貴様は弱体することなど無いのだ!!     思う様に戦い、そして真のバトラーとなれ!!」 殊戸瀬「ちなみにクラスチェンジは30レベルかららしいわよ」 中井出「……なんかあまり遠くって感じしないな」 藍田 「クラスチェンジがあるだけマシだろ」 それもそうかもしれなかった。 そういえばクラスチェンジなんて言葉、ファイヤーエムブレム以来か? ペガサスナイトがドラゴンナイトになった時はどういう原理だって思ったもんだ。 つーかドラゴンはどこから調達したんだろうな。 希少生物をポンポンと乗り回せるなら、 グングニル持ってスレイプニルを駆ればよかったのに。 これであなたもオーディンに。 藍田 「けど、もう結構歩いたよな。まだかな」 丘野 「先ほどは村を見つけたと思ったら蜃気楼だったでござるしなぁ」 麻衣香「んー……マップによるともうちょっと北らしいんだけど」 中井出「そか。ならば」  ───ボファアアンッ!! 蟹×4『ギヂャアアーーーーッ!!!!』  ───蟹どもが突然襲ってきた!! 夏子 「って!いきなりーーーっ!!?」 丘野 「地中で我らが来るのを待っていたでござるか!?おのれ姑息な!!」 中井出「ゆけオリバ!!」 藍田 「普通にオリバって言うなよ!!     ったく……“パーティーテーブル───キックコース”!!!」  ドゴゴガガァンッ!!! 藍田が一気に横跳躍し、接近すると同時に両腕で逆立ちした状態になり、 そこから開脚した両脚を回転させてガザミどもを吹き飛ばす!! それでも怯まず強引に突っ込もうとしたガザミどもに、 今度は反動付きの逆回転キックコース。 ガザミ『ギ、ギィーーーッ!!!?』  ベゴキャゴシャアッ!! ……哀れ。 果敢に突っ込んだガザミどもはあっさりと昇天。 さらに藍田は地中からこちらを覗くように飛び出ていた細い二本の触覚を見つけると、 そこへ向かって手を付かずに縦回転をしながらその場へ近づき───  ドォッゴォオオオオンッ!!!! ダイミョウ『ヂシャァアアアアアッ!!!!』 藍田   「“三級挽き肉(トロワジムアッシ)”!!」 敵の接近に、 砂漠から身体を一気に掘り起こしたダイミョウガザミの顔面へと身を投じさせ、  フフォンドガガガガァンッ!!!! ダイミョウ『ギィイッ!!?』 攻撃態勢の整っていなかったソイツへと連続蹴りを食らわせた。 だがそれで終わることもなく、蹴った反動で後方へと下がった身体をそのまま逆さにし、 地面に両腕を着き、思い切り弾くことで一気に勢いを作った。 その反動はSTRが高ければ高いほど凄まじいものだった。 藍田の身体は一気に跳ね、逆さの状態のままダイミョウガザミの顔面へと飛んだ。 そして、その勢いのままに─── 藍田 「“木犀型斬(ブクティエール)シュートォッ”!!!」  バガァッシャァアアアアアアンッ!!!!! ダイミョウ『ギャァアアアアアアッ!!!!』 放たれた鋭い蹴りは、 反動を殺すこともなくダイミョウガザミの顔面を打ち抜き貫通した。 当然ダイミョウガザミは絶命し、ガシャリと力を無くして崩れ落ちた。 藍田 「……ふぅっ……」 藍田は溜め息ひとつ吐くとダイミョウガザミを見下ろし─── 藍田 「ゲームって……いいなっ!!」 それはもう楽しそうな笑顔でそう言ったのだった。 ……そう、ゲームでもなければこんなことは出来やしないのだ。 そしてそんな世界に引き込んでくれた晦と弦月に、俺たちは盛大に感謝していた。 晦っていえば─── そういえばさっき連絡メールで晦がヒロラインに参加したってのが届いたな。 今なにやってんのかな。 旅の途中で会えたら、礼のひとつは言いたいもんだ。 そんなことを思いながら、 やがて見えてきたアメイダ村の姿に安堵をしつつ、俺たちは駆け出したのだった。 Next Menu back