───冒険の書294/ベルがつく意思───
【ケース737:中井出博光(再)/いつも何かを勝手に探してる僕のこの手】 煌く稲妻と愛の戦士をRXと呼んだ日、少年だった僕らは静かに、 自分では気づかないくらいの速度で大人になっていた。 なんだかちょっとしっとりとした気分で始めたい……こんにちは、中井出博光です。 謀らずも図らずも計らずも測らずも量らずも諮らずも、一人じゃなくなった僕博光は、 こうして再びゼノカットラスさんとともに地下へと降りていってます。 あれだけ騒いだのにメカどもが来なかったのは、管が壊れていたからだと確信。 現にコッチリと固まった液体が、メカどもを完全に停止させ、壊していたからだ。 詰まったまま停止しているのは二体のゴツメカゴーレム。 それらをしっかりと、思い出したマグニファイスキル・アーマーキラーで破壊して、 バックパックに詰め込んだのは…… きっとこの先の宝は全て取られているに違いないという確信からでした。 せめて素材くらいは剥ぎたいもの。 そう……そうなのだ。 エンペラータイムを使うとつい忘れがちなのが鬼人化以外のマグニファイ能力。 エンペラータイムを使った時点で全ての能力が一度リセットされて個別化されるために、 マグニファイ=鬼人化みたいに考えてた昨今、他のマグニファイスキルを忘れがちである。 えーとつまり、エンペラータイムはマグニファイの中のスキルで、 一度ジークフリードにマグニファイをかけなければ発動できません。 でも、発動させるとそれまで発動されていた……たとえば鬼人化や黄竜剣などのスキルが、 一度全部リセットされるのです。 だからその状態で再び鬼人化などを発動させなければいけないのです。 能力が全て個別化されるから、マグニファイ能力である鬼人化もアーマーキラーも、 一纏めじゃなくなってるからもう一度発動させなきゃいけないってわけで…… そうなると鬼人化ばかりを優先させて、黄竜剣とかのスキルを忘れがちになる。 マグニファイを発動させたんだからもちろん他の能力も、って気になってるから。 でも今回はただ単にマグニファイを使っただけなので、アーマーキラーも普通に発動! あれだけ硬かったメカ沢くんを、ゴギィン!と切り伏せてやったわウヘヘハハハハハ!! ああそれと。 あれだけ散々と様々な生命体や自然要塞を武具に合成させた僕は、 その後にジークフリードを調べてみて……たまげました。 なんと武具自体に“闇蝕(イーター)”の能力が付加されていたのです。 合成させたいと願い、火闇で飲み込めば武具に合成させるという特殊能力でした。 つまり、詳しく言えば武具能力ではなく火闇能力レベル8。 ちなみに7はカリユガンホース。臨馬と書く能力らしく、火闇馬を召喚して乗れるらしい。 そんなわけで現在の霊章輪・火闇の能力は───  ◆霊章輪・火闇───れいしょうりん・かえん  真龍王の力とベルセルクの力を封じ込めた能力。  狂いし者の意思は消えたが能力は残った、古の指輪の力。  生き物の肉を食らうことにより力の肉付けをしてゆく指輪であり、  宿主が“肉”を食するたびに経験を得、強化されてゆく。  現在のレベル:8(能力とレベルとは正比例)  0:スティグマ   (章痕/代償。使用するたび筋肉痛)  1:シューター   (伸縮/伸ばし、戻す。敵を掴む時など)  2:レイド     (圧縮/凝縮、強固化。炎で敵を殴る時など)  3:バースト    (爆破/火闇爆破。爆破させるかは任意で)  4:リジェネ    (治癒/火闇を発動させている限り、自動で傷が癒える)  5:フォボス    (焦炎/火力の上昇。爆破の能力も向上)  6:デアボリス   (魔人/仲魔の加護を得ている時のみ発動。魔人となり、戦える)  7:カリユガンホース(臨馬/灼闇の馬と輝く剣を召喚。乗って振るって戦える)  8:イーター    (闇蝕/武具、生き物などを食らい、主の武具に融合させる) ……となっている。 どうやらアイルー……長老猫を合成させたことにより、 彼の中の竜の力が+に働いたらしく───レベルが上がってくれたと。 そういうことらしい。 だから手始めにペリーコロさんに(にえ)になってもらったんですが。 それは上手く成功し、めでたくペリーコロさんも僕の霊章の中へと住居を移したのでした。 めでたしめでたし。 ……でも惜しかったなぁ。 あと1レベル上がれば、レベル9の“フォァラドゥンク/召闇”が使えたのに。 そうすれば時止めたりなんだりがいろいろ出来たのに! いやぁ……でもいいなぁこのイーターの能力。 新しい武器を見つけたらその場で合成できるんだ!ステキでしょ!? でももちろん素材のまま飲み込んだって意味がないわけで。 中井出「……えーと」 しかしこうしてゴーレムの外装を手に入れても、 武具でないものを霊章に飲み込める筈もなく…… もし出来たら霊章の中で武器に仕立てあげてもらえるのになぁと悲しんだ。 うう、やっぱりそう簡単には痒いところに手が届く、なんてことにはなりませんな。 歯がゆいものです。 ここで召喚して仕立て上げてもらうにしても、鍛冶道具一式は自然要塞の中。 やってもらうには自然要塞ごと出さなければいけないわけだ。 むしろそうしてもいいんだけど、この地下の外装はちと滅茶苦茶硬そうだ。 出したら要塞の方が圧力に負けそうで怖い。 なので、やめといたほうがいいという結論に落ち着きます。  そんなわけで。 中井出「暴れん坊、将軍」  デゲデーーーン!!デッ・テッ・テッ・テェエーーーーン!! 早速カリユガンホースを発動!! 灼闇のお馬さんに跨った僕は、 とりあえずナポレオンポーズをキメながら暴れん坊将軍と口ずさんでみた。 ゼノ 「ぬ、おっ……!?」 その姿に、先を歩いていたゼノ枡さんが驚愕する! ……いや、そりゃ近くを歩いてた人間が、 振り向いたらいつの間にか灼闇の馬に乗ってたらびっくりするよね。 しかもこの馬かなりデカいし。 ところで、いつ襲われても対処できるようにと、 しっかりと握っていたジークフリードが光り輝いているのは何事? えーと…………まあいいや! 中井出「さあゼノ道さん!いこう!」 ゼノ 「なにっ!?待て貴様!我は《グイドヂュウウ!!》ぐあああああっ!!!」 中井出「あ」 ゼノ友さんの手を取り、僕の後ろに乗ってもらった───ら、彼がゴオオと燃えていた。 彼はすかさず降りるが……わあ、僕のこと滅茶苦茶睨んでる。 中井出「あ、アナタという男は……。僕のことを味方と思っていなかったのか……!」 ゼノ 「当然だ……!我は死神……!人間など味方だと思うものか、クズめが───!」 中井出「お、おおお……」 な、なんという孤高の意思……! すっかり水穂ちゃんとの夫婦生活に骨抜きになっていたと思っていたが……! か、彼の意思は───生きていた! 中井出「暴れん坊、将軍」  デゲデーーーン!!デッ・テッ・テッ・テェエーーーーン!! でもそれとこれとは別なので、敵と言うからには襲い掛かりました。 ゼノ 「ぬわぁああああーーーーーっ!!?」 ゴヴォオオン!と振るう光る巨大長剣を、彼はバックステップで躱した。 だがそれを追うように振るわれた灼闇号の蹄が、彼の眼前に───! ゼノ 「ぬう!《ギパァッ!!───ゾンッ!》」 中井出「ウヌ!?」 避けたですって!?あのタイミングで! だ、だが見た!やはり彼は普段閉じている眼を開いた時、能力値がかなり上昇する! これは……ちょっとした恐怖ですよ?  ───ズザァッ! ゼノ 『───ッチィ……!躊躇なく襲ってくるとは、中々面白い男だ……!』 中井出「あれだけ殺気放たれて敵だって言われりゃ、     人間誰だって防衛に走りますよ失礼な!」 ゼノ 『ほう……気づいていたか、我が殺気に。ユルそうな面構えだ、     気づかれず首を切り離してから魂を食らってやろうと思ったが───』 中井出「……キミさ。もしかしてこの世界で魂食った?」 ゼノ 『食わされた、と言え。本意ではない』 わーおやっぱり……。 おかしいと思ったんだ、いくらゲーム世界だとはいえ、急にこんなに強くなるなんて。 中井出「いったいどなたの魂?こんな、殺気をばらまくなんて……」 ゼノ 『ふっ……く、くっくっく……。くははははははは……!!     忘れたとは言わせんぞ……!』 中井出「うん言わない。だって知らないもん」 ゼノ 『ぬはっ!?───き、貴様が殺した人間どもだ!!     空界で、そしてこの帝国城下で貴様が殺した!!』 中井出「え?そうなの?」 ゼノ 『っ……!つい先日のことだ……!我が前にジュノーンが現れた……!     殺気を放つでもなく、敵意を見せるでもなく、静かにだ……!     だが存在に威圧を覚えた我は武器を手に戦った───!     ……結果など、唱えるべくもない……!我は絶望を味わった……!』 中井出「あー……あ、あのー……そこで回想入っちゃうんですか……」 ゼノ 『ともに居たシュバルドラインとて例外ではない……。     我よりも強き者がどれほど挑んでも傷一つつけられず、     手で払われただけで岩盤にめり込み、気絶した……!     そして……ヤツはなにを言ったと思う……!』 中井出「や ら な い か」 瞬間、僕はシャレの通じないゼノ良さんにボコボコにされた。 ───……。 そして今、彼を前に正座してる僕が居る。 灼闇号もしっかりと。……すげぇ、馬って正座できるんだね。 ゼノ 『ヤツは我に牙を取り戻せと言った。     そして我に、怨念渦巻く幾重もの魂が固められた球体を渡してきたのだ。     当然我は己で強くなる、と……その受け入れを断った。     だが次の瞬間、ヤツは我の両腕を斬り飛ばし、     片手一本で我の喉を掴み、持ち上げ……     牙を失った死神になど、ハンターになど、価値はないと断言した。     そして───我が口に魂を圧し入れ……!!』 中井出「うンまぁい!!《テーレッテテー!バゴォン!!》チェルノ!!」 ねるねるねるねの真似をしたら思い切りナックルされた。 ゼノ 『そう……全て貴様の所為だ……!以降、我が目が力を求めてやまぬ……!     抑えつけようとしたところで、死神としての血が騒ぐ……!     貴様が鎌を強化する、などと余計なことをしてくれたために余計にだ!!     人は駒に過ぎぬと……道具に過ぎぬと!!』 中井出「あーなるほど。だからいずれヤバイことになると思って、     水穂ちゃんと一緒じゃないわけだ」 ゼノ 『ここまで弦月彰利への敵対心を以って抑えてきた……!     だが……!だ、が……!もはや限界よ───!!     我が牙が!鎌が!死神の血が!もはや人のような廃れた生き方を拒んでいる!!』 中井出「あ、もしもし水穂ちゃん?     あのねー、今ゼノ也さんがあなたと離婚したいって───」 ゼノ 『ぬおおおおおおおおっ!!!!』 中井出「キャーーーーッ!!?《チュインッ》───ヒィ!掠った!今掠ったよ!?」 ゼノ町さんが鎌爪を振るって襲い掛かってきた!! な、なんという問答無用加減!きっと彼はもう今までの彼じゃあ……ねぇぜ!! ゼノ 『きっ……きき貴様……!つくづく緊張感のない……!』 中井出「いつでもどこでもマイペース!……博光です。《脱ぎっ》     とゆーわけでこの怪人黒マントヤロー!     どうして偉そうな口調のくせにこういう場面だとあっさり飲まれるんだよ!     僕キミらのそういうところが大ッ嫌いだ!     だからほら!そのちょっぴりの気恥ずかしさをバネに戻ってらっしゃい!     今ならおかーさんも水穂ちゃんに謝ってあげるから!」 ゼノ 『誰がお母さんだ!!き、貴様ふざけるのも大概に《ドクン……!》ぐっ!?』 中井出「……わあ」 これは、本当にヤバイらしい。 ゼノ兎さんの体が、血管が、ドッコンドッコンと躍動してる。 中井出「戻ってくるんだー!きっと水穂ちゃんも───悲しむどころか爆笑してる!     してなかったら俺が笑わせるから安心しろ!」 ゼノ 『なにに安心をしろと───……ぐ、ううう……!!     黙……レ……!人間、など……!人間などを、妻、などと……!!     我は……!我、ハ……!……グ……ミ、ナホ……!!』 中井出「グミなホー!?なにそれ美味しいの!?チャイナ・ホーの仲間!?     パンタローネの忠実な部下なの!?ねぇ!!」 ゼノ 『ガッ───がぁあああああああっ!!!!』 中井出「うおっ!?」 喉───!喉目掛けて、爪の中のひと鎌がゴギィンッ!! 中井出「ぬがっち……!!」 咄嗟に盾にしたジークフリードで弾き、 後ろに下がりながら、突然のことに乱れた息を整える。 ゼノ 『死神……我は死神だ……!     人を無闇に殺す曲がった魂を屠り……渇きあらば食らう存在……!     幾人を殺した貴様の罪と魂……さぞかし美味であり、我が力になるだろう……!』 中井出「あ……あぁれぇええ……」 どうやら食う気満々モードらしい。 乗り越えられなかったか……残念です。 ならばこういう時の伝統、ブチノメして正気に戻す、で行きましょう! それじゃあ、早速試してみたかったことを、と。 えーとまず勇者の意思を浮上させつつ───……霊章輪・災を発動!! さあいきますよ……これに真龍王の力を混ぜるとアラ不思議!!  ガンババババババォオオオンッ!!!! ベルセルク『ルゴォオオッドグゥウラァアアアッ!!!』 ───ベルセルクの再臨です。 あ、あらあら、本当に成功してしまいましたよ…………どうしよう……。 元々勇者+真龍王の力+デスゲイズの呪い=ベルセルクだったわけだから、 きっとこれで出来るだろーとか思ってただけなんだけど……まさか成功するなんて。 ええと、とりあえず───やすらかに、ゼノさん。 ただで死ねると思わず、ゆっくり頭冷やしてください。
【Side───アルビノ】 ───トクンッ…… アルビノ「……?あれ……?」 シド  「ぬ……?どうした、少年」 アルビノ「あ、いえ……。どうした、んでしょう。急に両腕が……痛んだ気がして」 シド  「ふむ……?まあいい、じきにエトノワール帝国だ。      レイナートを止めねばならん。人類以外を敵に回すなど、自殺行為だ」 セレス 「そうでしょうか。あのデスゲイズを除けるアイテムを作る技術です。      彼の言葉もそう、虚言ばかりではないのでは───」 シド  『あんなもの、一時しのぎにすぎんよ……。      デスゲイズはつまらなさのあまりに向き合わんだけだ。      それに……空はなにもデスゲイズだけのものではない』 セレス 「……?」 それはどういう……?という瞳で、セレスは伯を見つめた。 けれど伯はどこか遠い場所を見るような目で、首を振った。 シド 「……いずれ解る」 そしてそれだけ言うと、歩を早めた。 ただひたすらに、エトノワール帝国を目指して。 【Side───End】
ゾガゾガゾガゾガガバァッフィゴバァッフィズバシャアッ!!! ゼノ 『ガアァアアアアアッ!!!!』 ……圧倒的だった。 解放された狂人はゼノ氏をぶった斬り、 斬られながらも距離を取ろうとした彼を腕を伸ばして無理矢理掴むと、 引き寄せると同時に再び斬り、 グラついた体に双剣化させたジークで微塵切りにでもする勢いで撃を連ね、 動きが鈍くなるや長剣化し、幾度も幾度も火闇で燃え盛る巨大長剣で斬り込んでいった。 ───なのに、どの攻撃も急所を外している。 倒れた彼を文字通り蹴り起こし、浮いた体を掴むと灼闇の渦で爆破させながら燃やし、 燃え尽きそうになると壁へと投げて激突させ、死神の治癒力を以って自然回復させる。 ……殺す気がないのは明白だ。 狂人ってだけあって、狂ってる。 けどゼノ氏もゼノ氏だ。 どれだけボロボロになっても泣き言は言わず、本能のままに鎌爪を振るってくる。 振るった先からギガブレイクで砕かれ、同時に感電とともに吹き飛ばされ、再び壁に激突。 それでも起き上がる彼を、今度は業炎の剣が襲う。 機械の壁さえ溶かし、爆破させるそれに飲まれてなお、ズタズタになってなお起き上がる。 ……いや、生かされている。 こいつは、彼の心が折れるまでこの戦い方をきっとやめないだろう。 止めようと思えば止められる。 そうしないのは───うーん……戻ってほしいからなのかなぁ。 べつにゼノンスルェイヴさんがそのままでも俺は困ったりはしない。 むしろ忘れてたり暴走してるほうがからかってて面白いし。 じゃあどうして治ってほしいと思うのか。 それは…… 中井出(あ、なるほど) 戻ってほしい、でピーンとこない理由が解った。 ゼノさんのやろうとしてることは、 結局自分の怒りや憎しみじゃなく、他人からの憎しみとかだからだ。 彼自身が僕を恨んで攻撃するならそれでもいいけど、 他人の怒りを代弁するみたいなこの状況が許せんのだつまり。 中井出  (ベルセルク) ベルセルク『ルグ……?』 中井出  (やぁっておしまい) ベルセルク『ゴガァアォオオオオオオオオッ!!!!』 シンクロ率───100%!! その途端、火闇は広がりを見せつけ、 背中まで回ったソレは翼が生えたかのように燃え上がる。 そんな中、シンクロ率100%ならばとソッとベルセルクの体を内側から動かし─── 奇妙なる鶴のポーズをとってみた。 いわゆる手を高くあげて指を揃えて曲げて、片足をあげるあのポーズではなく、 奇妙とついているのが納得できる、いわゆる珍遊記の中村泰造ポーズである。 こうね?鶴のポーズの手で、手首の甲同士を合わせて、足も蟹股で踵同士を合わせる感じ。 そう!灼闇が輝く火の粉を放つ中で本人はこんなポーズ!……ブフゥ!最高!! ……ああっ!シンクロ率が一気に2%に!?う、うそ!うそです!俟って98%! ベルセルク『ゴゥルルルルルル……!!』 ゼノ   「っ……ぎ、がはっ……!」 ゼノさんの目からは、既にあれほど荒々しかった赤さが無くなっていた。 今は苦しそうに、抉られた脇腹を抱えて血を吐くのみだ。 だがベルセルクはそんなゼノさんの瞳の中に、色は違えど絶えぬ敵対心を見るや、 燃え盛る灼闇の翼を巨大な龍の形に変え───! 【ケース738:晦悠介/ベンヤクレーバ】 ガコッ、コォンッ……! 悠介 「……はぁ」 彰利 「な〜〜んもなかったのぅ……」 これで107室目。 研究所には様々な部屋があり、戦うのが面倒になるほどのバイオモンスターが居た。 それらを倒したことで、そりゃあレベルも熟練度も上がりはしたが─── それが目当てで回っていた筈の宝は一切なく、 どこもかしこも機械やバイオモンスター製造のみに特化した部屋だった。 一室だけ、どうやっても空かない扉があったりした。 もちろん破壊工作も行ってみたんだが、どれだけ強く攻撃を加えても扉は壊れず、 どうやら暗証番号がなければ意地でも開かない場所のようだった。 当然そんなものを知らない俺達は、 結局入ることが出来ないままに107番目まで訪れたわけだ。 ───ちなみに、開かずの扉は39番目だった。 悠介 (……39……ミク、か) 中は恐らくそういったものがある場所。 ミクが製造されているのかは解らないが、 少なくとも厳重に閉ざされているのは間違い無い。 彰利   「YO悠介?もう下に着いちまったけど。ど〜するよ」 悠介   「行くしかないだろ。それとも提督が来るのを待つか?」 悠黄奈  「確かにメカの製造は機械を破壊したから停止しましたけど……       すぐに来てくれるでしょうか、博光さんは」 ルナ   「むしろわたしたちに任せて、自分は面白いこと探求してそう……」 悠介&彰利『うーわーすげぇ説得力』 提督ならやりそうだ。 だってこの戦い、提督にはなんの利益もないわけだし。 ……いや、ボス戦を楽しむのもゲーム界のワクワク要素の一つだと、以前言っていた。 だから来るかもだが───ううむ。 ルナ 「………《ピコッ》」 彰利 「ややっ!?ルナっちの空き缶テールが躍動した!?」 ルナ 「空き缶じゃないわよぅ!!……ね、ゆーすけ。     上のほう……ずっと上のところで、物凄い音が鳴ってる」 彰利 「あ〜〜〜〜〜ん?…………あらホント。こりゃあ…………ひきっ!?」 悠介 「…………なぁ。逃げていいか?」 彰利 「や、ややややー……逃げられると思う……?あいつからだよ……?」 悠黄奈「……?あの……?」 気配で解った。ビリビリ来たね。 上に───ベルセルクが居る。 消えたんじゃなかったのか……?それとも提督がまた無茶やらかして蘇らせたとか…… なんにせよ、退路は絶たれた。 逃げようものなら真っ先に殺されるに違いない。 バルバトスじゃないだけマシなんだが、それでもこの殺気だ。 ……とても勝てる気がしない。 というか、感じる気配が異常なくらいに上昇してる。 提督のやつ、また滅茶苦茶なことやったんじゃないか……? 彰利 「……つーかヤツ、誰と戦っとるんデショ」 悠介 「そりゃあ…………え?」 気配を探ってみる。 ……と、微弱に感じる気配は……俺達がよく知る相手のもので。 彰利 「ゼッ……ゼノォッ!?あのタコなにやっとるんよ!     あ、ここでのタコはゼノに向けて言ったものね?」 悠黄奈「あの、でも……本当にゼノさんなんですか?     感じられる気配が以前とは比べ物になりません……」 彰利 「ヌムーーーー………………ああ。こりゃあ餓鬼食いだァね。     人間の魂食って、強制的にパワーアップしとる。     ホレ、ゼノって過去だとめっさ弱かったっしょ?     けど魂を食うことで力を高めて、ハンターの一位になった。     ……しかもこりゃ、相当数の魂食ってるね。     目ェ開けた時の異常な威圧感はこれが原因かね」 ルナ 「…………」 悠介 「落ち着けよ、ルナ。いや、この場合はフレイアか?」 ルナ 「ん……だいじょぶ。あまりよくないのは確かだけど」 一瞬だが、ルナの体に死神の回路が浮き上がった。 フレイアが殺戮衝動でも出したんだろう……ルナはそれを押さえると、 少し荒くなった息を整えていった。 フレイアの想い人、望月恭介を殺したのはゼノだ。 今でこそ仲間みたいな状況になり、平和の中で暮らしていたゼノ。 ───だったからこそ、ヘタに手出ししなかったフレイアだ。 それが再び人の魂を食らったとなれば、あいつの我慢も一気に限界を突破しそうにもなる。 捕まえ、八つ裂きにし、それこそズタボロになるまで切り刻まなければ、 一時の怒りでさえ納まらないに違いない。 ───それぐらいは当然のようにするだろう。……そう、思っていたが。  ギゴシャドンガガガガォオオオンッ!!!! 総員 『くうっ!?』 突然の炸裂音。 何事かと、音の発生源である上方を見上げてみると─── 薄暗いながらも、そこに……緋と黒の点滅を持つ、巨大な炎の竜が……! と、姿を確認出来たのはほんの一瞬。 次の瞬間には、ここまで降りてきた橋や、 異常なほど硬い硬質の壁さえ全て破壊するほどの力で放たれた竜の一撃が、 本当に目前までの橋を破壊し、消え去る。 そして───その騒音の中でさえ聞こえるほどの、ばしゃり、という嫌な音。 嫌な予感がしているのに、見なきゃいけない気がして…… 喉を鳴らしながら振り向き、見下ろすと─── 悠介 「っ───!」 ルナ 「きっ……!」 そこには、見るも無残な…… それこそ咄嗟に顔を背けてしまうくらいにズタズタになった…… 恐らく、ゼノと呼ばなきゃいけないものが血まみれで転がっていた。 いや、転がっていた、なんてのは正しくない。 ……潰れ、広がっていた。 この光景に、さすがのルナも目に涙を浮かべ、逸らし、目を閉じた。  直後に、どがぁんっ!という音。 橋を歪ませるほどの位置から落ちてきたそいつは、 体から立ち上る灼闇を翼のようにはためかせるとニィ……と笑い、 死神が故の生命力なのか───まだ息があったゼノへと疾駆しガギィンッ! ベルセルク『グ───?』 彰利   「へ?……ア、アーーーーッ!!やっちまったぁああーーーーーーっ!!!」 だがその猛攻を、彰利が止めた。 途端に叫んでいたが、それでも引かず、 篭手と篭手を合わせるような格好で、メギメギと圧し合っている。 彰利 「わ、悪いがね……!彼はアタイのライヴァルなのだよ……!こんなところで、     貴様にあっさりと絶望を与えられては流石のヤツも砕けちまう……!」 ルナ 「───」 悠介 「……?ルナ?」 ふとした違和感。 ルナは潰れたゼノを見て、なにか小さくぶつぶつと呟いていた。 聞き取れなかったが、その目が深紅に染まり─── ルナ 「ホモっち!今すぐそいつから離れて!」 彰利 「なんですと!?な、なにをおっしゃるのかね!?」 ルナ 「そいつがやろうとしてること、間違いじゃないの!     いいから───《ガキィンッ!》どけって言ってるのよまだるっこしい!!」 彰利 「《ドパァンッ!!》あわば!!」 自ら封冠を外したルナがフレイアにバトンを渡し、 フレイアが彰利の脇腹を蹴りつけて壁へと激突させる。 解放されたベルセルクはすぐにゼノへ向けて疾駆するが、それより速くゼノの体が再生し、 起き上がると同時に鎌爪を振るい、ベルセルクの猛攻を受け止める───! ……いや。  ゴガビヂャアッ!! 受け止めることなんて出来なかった。 鎌ごと、斜めに体を両断されたゼノは、 バシャリと壁にぶつかり、やがて瞳から色をなくしてゆく。 彰利 「………」 その様に、起き上がっていた彰利がゴクリと喉を鳴らし、 どういうことなのかとルナ───フレイアを見る。 フレイア「悪食が過ぎて暴走してるのよ。解ってるでしょ?ここは魂のみで降り立つ世界。      そんな中で魂を食べるなんてこと、いくら死神でも自殺行為もいいとこよ」 彰利  「わけがわかんねー!もっと詳しく言え!」 悠介  「お前それでも元死神王か!?俺でも薄々解るぞ!?」 彰利  「スイマスェン、ホントは解ってましたァ。      《……キリッ》……ようするにあのー、クリスマスにソリに乗って、      子供たちになんかするオッサンか」 悠介  「違う」 悠黄奈 「ゼノさんの威圧感から察するに、食べた魂は一人や二人のものではありません。      でも同じ魂という形でこの世界に下りているゼノさんは、      存在として、という意味では人との違いなんてありません。      同じ“魂”という存在なのですから」 彰利  「つまり……なんらかの事態があって魂を食いすぎたゼノは、      その人間の怨念や憎悪といった意識の波に飲まれ、      自我を失いつつあったということなんだよ!」 悠介  「なっ……なんだってーーーーーっ!!」 と驚いてみたが、どうやら予想通りだったらしい。 悠黄奈が言ったとおり、この世界に居る俺達は精神体……魂って存在に近しい。 そんな俺達が誰かの魂を食うってことは、 自分って存在に他の魂を捻りこませるようなものだ。 それが幾重にも重なれば、いかに死神といえども自我を保つのは難しい。 たとえショックで自我を取り戻せても、 安定しない限りはこうやって暴走するのかもしれない。 彰利  「ほんならえーと。……どないすんねや?」 フレイア「始末すればいいのよ。塵にして、魂の安定を上から見てる管理者に任せるの」 彰利  「あ、なるほど。だからキミ、咄嗟に庇ったアタイを蹴り飛ばしたのね?」 フレイア「いや、あれは単に鬱陶しかったから」 彰利  「あらひどい!」 悠介  「……ていうか」 悠黄奈 「ですね」 彰利  「ウィ?」 フレイア「……?ああ」 ちらりと見ると、そこにベルセルク。 口からコパァアアと、とても熱そうな蒸気みたいなのを吐き出してる。 一見は提督なのに、そこから感じる威圧感は……近寄りがたいものがある。 そんな彼はぐっちゃりと潰れたゼノを見ギガァッチュドッガァアンッ!!! 総員 『ホアアアーーーーーッ!!!?』 ……剣からレーザーを放ち、塵になるまで焼き尽くした。 うおお……容赦ないな、本当に……。 中井出「ぷっはぁあ!!───ふう、浄化完了……!」 そして彼は雰囲気を提督のものに戻すと、俺達に向き直って“やあ”と手を挙げた。 ……ああ、提督だ。 彰利 「よっしゃあ中井出!過程はいろいろ素っ飛ばして39番の扉へ行け!     そこが開かずの扉になってるから!」 中井出「任せとけ!こう見えても俺は!開錠の達人!!」 悠介 「過程すっ飛ばしすぎだ!て、提督ぅう、いったなにがどうなってるんだよ……。     ベルセルクはあの時、消えたんじゃなかったのか……?」 中井出「説明しよう!あの時確かに消えたベルセルクだったが、     勇者の意思を浮上させることが成功!そこにデスゲイズの呪いの力である災属性、     そして真龍王の力である火闇を混ぜることにより、     ベルセルクモードを自由に引き出すことに成功したのだ!     ……あ、もちろん自由に自分の人格と入れ替えできます。彼はもう僕の仲間さ」 悠黄奈「うわ……あ……」 彰利 「ウォイヤァ……」 悠介 「提督よぉ……」 狂人を仲間にしちまったよ……どうなってんだこの人の頭の中の常識は。 中井出「というわけで彰利一等兵!」 彰利 「イェッサァッ!!」 中井出「39番とは大体どのあたりであるか!適当に指を差してみせよ!」 彰利 「サーイェッサー!!あのあたりであります!」 提督の言葉に、彰利がズビシィと指を差す。 彰利の間違いでも俺の間違いでもなければ、 そこは確かに39番……開かずの扉があった場所だ。 中井出「ぬうそうか!では我はこれよりあの場所へ向かうものとする!     貴様らヒヨッ子はこのまま先へと進み、レイナートを滅ぼせ!」 彰利 「なんだとサーてめぇ!!そっちのほうが遙かに楽じゃねぇかサーてめぇ!!」 中井出「ええい黙れヒヨッ子が!ていうかサーてめぇ言わないでお願い!     どうせレイナート倒すのが目的なんだからいいじゃねーかコノヤロー!!」 彰利 「だったらてめぇがレイナートんとこ行けサーてめぇ!!」 悠黄奈「あの。それでは開け方が解らないので意味がないのでは……」 彰利 「だってしゃーねーじゃない!ブレイカーで開かなかったんよ!?あそこ!     そげな場所をどうやって攻略しろっつーのよ!」 中井出「僕にはミクが居るのでなんとかなる!きっと多分!」 彰利 「だったらミクよこしてキミはレイナートと一騎打ちしてくりゃれ!」 中井出「だめだ!秘仙丹は秘密の丸薬なんだ!」 彰利 「わけわかんねーよ!!」 中井出「まったくだ!!」 悠介 「それはいいから。……じゃあ提督、39番の部屋、頼む。     俺達はこのまま進んでみるから」 彰利 「なんですって!?」 俺の言葉に、彰利がぐりんっとこちらに振り返って驚愕。 突っ込みたくないのは解るが、このままじゃ話にならん。 そういった意思を彰利の目を見て込めると、 ……なぜかソッと目を閉じて唇を突き出す彰利───ってうぉわぁああああっ!!! 彰利 「《バゴルシャア!!》ぶゲーーーイ!!」 悠介 「なーーにトチ狂ってやがるかこのたわけぇっ!!」 彰利 「ノ、ノー!ちょっとしたオチャメさん!オチャ〜〜メ納豆!!あ、うそ!冗談!」 悠介 「お前ちょっとこっち来い!」 彰利 「うぁだいだだだだ!キャアやめて耳引っ張らないで!痛い!もっと優しく!」 悠介 「ドやかましい!!」 彰利 「グ、グゥムッ」 ともかくこの場は提督に任せ、俺は彰利の耳を引っ張って、 コアの下へと続く階段を下りていった。 すぐに悠黄奈やフレイアも続き、先にある扉を開け、中に入る。 さて……この先はどうなってるんだかな。 ───そんなことを思っていた俺達を前に待っていたのは、 意外にも……提督のところに来たミクとは違う、 なんというかパワーに溢れてそうなミクだった。 Next Menu back