───冒険の書295/ハンドオブシルバーソル───
【ケース739:中井出博光/味噌汁の具がワカメ】 ドドンッ!! 中井出「エキサイティン」 39番の扉を前にして、奇妙なセリフを囁いてみた。 なんだか久しぶりに漢魂(メンソウルと読む)を読みたい気分です。 中井出「ええと……これか」 扉を開けるには暗証番号が必要らしく、複雑なパネルが壁に設置してあり、 なんていうかうん、面倒くさそうだ。 中井出「姿を現せ(ツァイゲディヒ)!ミク!」 ミク 『あのー、わざわざそれを言わないと気が済まないんですか?』 中井出「勝手に出ちゃダメェエエエ!!格好くらいつけさせてよミっちゃん!!」 ミク 『大丈夫ですよマスター!マスターは格好つけても格好よくないです!』 中井出「あの……フォローでもなんでもないよねそれ……」 ミク 『それより任せてください!     ここの番号はちゃ〜んとわたしの頭にインプットされてますから!』 中井出「いや……違うな」 ミク 『え、え?違うって……』 中井出「きっと暗証番号は定期的に変えているに違いない!     じゃなきゃこんなに強固にしている意味が」  ピピピピピッ、ガシャコーン! ミク 『マスター、開きました』 中井出「騙されるな鉄郎!そいつは機械の体をエサにお前を───!」 ミク 『よく解らないですけどもう機械の体ですよわたし!』 中井出「しまったそうだった!」 しかしこうもあっさり開いてしまうとは……ここの警備体制はどうなってるんだ……? 中井出「じゃあ失礼してと」 ミクが僕の霊章にポキュンと消えるのを確認しながら、扉を開けて中へ。 すると───そこは、なんといいますか……真っ白だった。 広く白い部屋……精神と時の部屋みたいな場所で、広くて白い。 見渡してみると、隅のほうに……ベッドらしいものがあり、 そこに誰か転がっているようだった。 べつに放っておけばいいんだろうけど、 気になってしまった俺は烈風脚をトトトンと発動させ、 さっさと距離を詰めて……寝台の隣に、妙なコンピータがあることに気づく。 どうしてコンピュータって名前がついたんだろ。コンピータじゃいけなかったのかな。 中井出「久しくパソコンを触っていない者としては、どんなものなのかとか気になるよね」 パソコンを持ってた時代はエロゲー三昧であった……こんにちわ、中井出博光です。 パソコン、なにに使ってるの?と麻衣香に訊かれ、 エロゲーするためと即答した僕は今や過去。 18に至ったあの頃の僕は無敵だった。怖いものなどなにもなかった。 まあそれも今はいい思い出さ。 今の僕は孤高の愛に生きる修羅さ。 でもエロゲって結構ストーリーがいいものが多かったりしたんだよね。 こう……ドッキングしたからこそ大事にしたくなるキャラも居たわけだし。 だがアレはいけねぇ。告白して好き合った瞬間にドッキングはいけねぇよ。 もっと段階踏もうぜ段階。そう、ま、まずは……ねぇ?ててて手ぇ握ったり……とか。 ……はい、エロいくせに中身は純情なんだねと麻衣香に大笑いされた博光です。 麻衣香に告白されるに至り、本当に、マジで手ぇ繋ぐところから始めました。 それが大笑いのきっかけになるだなんて誰が想像しましょう。 中井出「えーと……」 と、そんな過去の赤っ恥は置いておくとして。 カチカチカチ〜っと…………うむ!どれがなんの役目を果たすのか解らん!! 中井出(ミク!?ミク!ちょっと教えて!これなにする機械!?) オリジナルさんを起こさないように、小声で霊章の中のミクに語りかける。 するとミニミク(はちゅねミクというらしい)がヒョコリとアホ面を覗かせ、 解説を始めてくれた。 …………ふむふむ。 中井出「え、えーと……まずこれか」 ポチリとボタンを押すと、なにもない空間に大きな画面が出現する。 で、そこにはズラーと文字が並べられるんだが…… フェルダール言語を知らん俺にとってはなにがなんだか。 その点も追加して教えてくれるミクに盛大な感謝を。 ていうか教えたらさっさと引っ込んでしまった。……でもサンクス。 どうやらこれは、オリジナルミクに“必要なもの”を作ってやる装置らしい。 と、そんな軽い納得をしていると、 画面の中心に未完成なポリゴン顔みたいな物体が出現した。 ホログラム『我ハ、オズ。ドワーフノ遺跡ヨリ引カレシマザーシステムデアル』 ……オズらしい。それ以上は解らん。 オズ 『汝、ナニヲ求メル』 中井出「えーと……とりあえずラーメンくれ。喜多方ラーメン坂内の味噌チャーシュー」 試しにラーメンを頼んでみると、ミジュウウ……ン!!という重苦しい音ののちに、 台の上にラーメンが転送される! 中井出「おっ……おおお!ラーメンだ!」 もちろん美味しくいただきました。 味は……望んだ通り、喜多方ラーメン坂内の味噌チャーシューメンの味だった。 俺、あれ好きなんだよね。 ……よし、追加で“やまふじ”の定食を。 ……。 うーん……チャーシューと豚肉炒めで肉がダブってしまった。 なるほど、この場合は味噌チャーシューとライスだけで十分だったのか。 中井出「ハフ、ハフ」 うん美味い。 中井出「ズズズゥ」 このおしんこは正解だった。 漬かり具合も丁度いい。 豚づくしの中ですっごく爽やかな存在だ。 でも敢えて次も肉を頼もう。 焼肉がいいかな。この世界に下りてからというもの、肉分が不足している。 ……。 中井出「ハフ、ハフ……!」 というわけで焼肉である。 ライスと一緒に掻っ込み、咀嚼して飲み込む瞬間、喉を通る感触がたまらない。 く〜っ、これですよ。 まるで俺の体は製鉄所、胃はその溶鉱炉のようだ。 中井出「ううん、まだ入るな。今まで取らなかった分を取り戻そう」 そもそも寝てないから、腹の方で精神回復を図らないと保ってられない。 中井出「上ロースと上カルビと……ライスとウーロン茶だな、うん」 ……むしゃむしゃ、んぐ、コリコリ…… ぐびっ、ハフハフ…… ううむ、暑い。 汗がとめどなく出てきている。 だがまだ入る……まだ終わらんよ。 うおォン、俺はまるで人間火力発電所だ。 中井出「…………ううむ、さすがに食いすぎた。腹が苦しい」 それでも軽く三人前はいった。 ふう、精神も安定したっぽいし今はこれでよしと。 さて………………待て? ……欲しいものが手に入る? 中井出「………………エクスカリビャー!!」 ………………。 ブブー! オズ 『素材ガ不足シテイル』 ……ダメだった。 って、素材さえあれば出来るのですか!? じゃあ必要な素材を教えなさい、と。……どうだ? ……。ブブー! オズ 『コノ素材ハ既ニ存在シテイナイ』 ……ぐはぁ。 いったいなにで出来てるんだあの剣。 い、いや落ち着こう。次だ。 中井出「次は…………───そうだ!銀の手!」 ぎん、の……て、と!どうだー! …………ピコーン! オズ 『ソノ武具ハ帝国地下ニ安置サレテイル。     シカシ損傷ガ激シイタメ、使イ物ニナラナイ』 中井出「なんですって!?」 てっ……帝国にあったのかよ銀の手! ヌヌ〜〜〜ッ、さ、探してもないわけだ〜〜〜〜っ!! 中井出「だったら修復するかコピーで!GO!」 …………。 オズ 『残ル素材デ修復ガ可能ダ。使用者ノ腕ノサイズを入力スルノダ』 中井出「あ」 ……迂闊!岡田くんがこの場にいねー! 中井出「ぬ、ぬー!保留!保留だ!あとで連れてくるからちょっと待っててお願い!」 オズ 『……、……、……保留保存ガ完了シタ《───ミジュンッ》』 保留が完了するや、オズはブラウン管テレビの電源を落としたみたいにミジュンと消えた。 俺はそんな様に溜め息をつきながら、眠りこけている誰かさんを見下ろした。 中井出「…………?」 それは、ミクだった。 ツーテールではない、足まで届くくらいの長髪をストレートで流している少女。 顔立ちはまるっきりミクで、だけどその頬に差す赤み具合や、 呼吸とともに静かに上下する胸、そしてどことなく感じる穏やかな空気─── それは多分、機械には出せないもの。 つまりこいつは─── 中井出「オリジナルミク……ツェルストクラングか」 ……うむ。 なんというか……ミクだな、うん。 清楚なミクって感じだ。ミニスカじゃないし。 白いワンピースを着ている、って言えば聞こえはいいけど、 どっちかっていうと白い囚人服、または白衣のようなものを着せられてる感じだ。 中井出「えぇっと……」 なにかしら話を聞くのもアリですしょう。 だがただ起こすのはつまらん。 だから……まず調理用に調達しておいた“ココひじき”を口に詰め込んで、 で、ブリュンヒルデを体に纏って形を変えて、と……。 ヒゲ女『ヒゲ女……誕生!!』 やっぱりヒゲ女といったらひじきでしょう。 さあ、いこう。 まずはトントン、とミクを突付いて、と。 ミク 「う、ん…………?なに……?」 うすら、とミクが目を開く。 そこですかさず大きな声で、 ヒゲ女『たべちゃうぞ小僧〜〜〜〜』 ミク 「───え?」 ヒゲ女『ぼばーーーーーーっ!!!』 ミク 「………」 …………はずした。 思い切りポカンとした顔で見られて……しかも、 少ししたら体を震わせて笑い始めやがった! ミク 「うっく……く、ふふっ……あはははははははっ!!」 中井出「《バシュンッ!》ミッションコンプリー!!」 とりあえずは楽しかったようなのでOK! 笑いと楽しみこそが僕が求めるエルドラド! ミク 「あはははっ……ね、ねぇ、いつ戻ってきたのっ?     わたしちっとも気づかなかったよ、A-20012」 中井出「うむ、実は今来たばっかりなんだ。そして僕のことはマホジャと呼んでくれ」 ミク 「それは流石に承服できないかなぁ」 中井出「………」 えーと。 ついノリで話を進めてしまったわけですが。 どうやら俺をアルビノと間違えてらっしゃるらしい。 どうしよよしこのまま騙そう! だってその方が面白そうだし! 中井出「ミク、聞いてほしい。今日僕がここに来たのは、大阪が狙われてるからなんだ」 ミク 「大阪!?な、なんなの?それって」 中井出「う、うむ……高校生が風を操ったりする世界で、熱いバトルを繰り広げる町さ」 ミク 「……ごめんなさい、ちょっと解らない」 中井出「なにを言うんだ!解らないことなんていつものことじゃないか!」 ミク 「───うん、それもそうだね」 中井出「あっさり納得された!?」 普段どんな態度で接してたんだ風のアルビノンめ! ともあれ僕は彼女を奥義“怒轢雌殺魔奪蟲(おひめさまだっこ)”で抱え、出口へ向けて走りだした。 ミク 「え、えっ?A-20012?」 中井出「面倒だからヒロミツで結構!名前唱えるのにどれだけかかってるんだよ!     エーノニーゼロゼロイチニー?長ぇって!!」 ミク 「……でもそれは魔王の名前でしょ?     もう、またこんな、髪まで染めて驚かそうとして」 中井出「失礼な!この博光、日本人に生まれたからには     大事な黒髪を脱色したり染めたりなどせぬわ!     黒に生まれ白に死ぬ!それこそ日本男児の生き様よ!」 ミク 「またそんなこと言って。じゃああなたは白髪緋眼で生まれたんだから、     そのままで生きなきゃダメってことでしょ?」 中井出「失礼な!そこだけは譲れん!この博光、黒髪茶眼で産まれてきた!     親より授かりしこの肉体……何者にも染められぬ!     染めていいのは育つ過程での己の意思のみであり、着色など以ての外よ!!」 ミク 「親なんて居ないでしょ?」 中井出「うむ居ないな」 とっくに死んでしまっているし。 そういう意味では間違いではないんだが〜……なんなのこの子! アルビノさんめ!いったいどんなふうに接してきたの!? なんだか物凄くフツーに受け止められてるんですけど!? ……などという葛藤と戦いながら、 出口に辿り着いた───ら、ゴシャーン!と扉が閉ざされた。 中井出「ホワイ!?」 ミク 「懲りないね、A-20012。     わたしを連れてると閉ざされるっていうの、忘れちゃってた?」 中井出「いえ全然。空間翔転移!」  ───マジュミジュンッ!! 中井出「はい脱出完了」 ミク 「……え、えぇえええええっ!!?」 転移であっさり抜け出した。 入る時は、先がどうなってるのかなんてわからないから、 おいそれと転移なんて出来ないが……こうして入ったあとなら、 出口がどうかなんて解ってるんだから簡単なものである。 きっと普通に出るためにはいろいろと謎解きをしなきゃいけなかったんだろうが、 グオッフォフォ……!!そんなものは知ったことではないわ……! ミク 「え!?なに!?今なにやったのA-20012!」 中井出「実は僕、宇宙人だったんだ……」 ミク 「……?ウチュー……?またいつものデマカセ?」 中井出「そうだ」 ミク 「隠しもしないのは堂々としてていいけど……たまには正直に答えてよ……」 中井出「断る」 ミク 「断ったぁっ!にべもなく断ったぁ!!」 中井出「なにぃ!?何故貴様、この博光がニベアボディ愛好家だと知っている!」 ミク 「なにそれ!ニベア!?なに!?」 中井出「もちろんウソだ」 ミク 「平然とウソを言うクセ、直せって言ったでしょー!?」 中井出「ええい知らぬ!そんなことは知りもせぬわ!」 我が両腕に抱きかかえられながら、 ポカポカと殴ってくるツェルストクラングを一方的に無視る! そして、橋が壊れたミサイル発射口のような絶壁を…… 中井出「ミク、ミクや。ちょっと背中に負ぶさってくれんかね」 ミク 「……?いいけど……どうするの?」 中井出「シコルスキー」 ミク 「?」 ともかく一度ミクを降ろすと、背中に負ぶさってもらって準備完了。 僕は、フロートを使えばいいのにわざわざ壁に手を付き、 シコルスキーばりの装甲クライミングを始めた。 ……結果は見事に落下だったが。 ミク 「A-20012……できないことは無理にするものじゃないって何度も……」 中井出「出来ると思ったんだもん!     こういうのは出来るか出来ないかじゃなくて、     いかにノリを大事に出来るかだもん!」 ミク 「またそんな屁理屈だして!いーい!?これは《ヴェキャア!》へぎゅう!!」 中井出「ぐっへっへ……ナメック星人の誇りとやらを見せるヒマもなかったな」 説教が始りそうだったので、 とりあえずって軽いノリで首をゴキャアと捻ってやりました。 女子供だろうが初対面だろうが容赦しない男……博光です。 さてと。静かになったところでフロートフロート。 ……。 そんなこんなで地上である。 中井出「フッ……戦いに明け暮れる日々の中、空がこんなにも青いことを忘れていたよ」 だって赤いもの、忘れもしましょう。 一箇所を除いてみ〜んな赤いのもどうなんだろうね。 声  「ム……ヌシは」 中井出「誰だァアアア!!」 聞こえた声に、凶徒の拳の真似をしつつ振り向くと─── そこに伯とアルビノンと岡田くんが! シド 「魔王ヒロミツか。見たことがある風情だ」 中井出「……あれ?」 ……………………ああ。 そういえば彼は僕がマギエルとかマラジンだった頃にしか会ってないんだっけ。 中井出 「やあ僕ひろ───」 アルビノ「ミク!ああミク!ミ《バゴドガァン!!》ぶぺぇっ!?」 中井出 「今僕が喋ってるでしょ!?なに急に出てきてミク奪おうとしてんの!      恥を知りなさいクズがカスがゴミが!!」 ほんっと会話中に誰かを心配して割り込んでくるやつって、やぁよね! 空気が読めないったらないわ!……いや、この場合、読んでないのは僕なのか? けどまあ、もう叩き殴っちゃったし、地面に伏して痙攣してる彼は無視しよう。 中井出「やあ僕博光」 シド 「爽やかに流したな。……ところで、その娘は───」 中井出「アンドレアス・リーガンだ。研究所で発見した」 シド 「ミクか」 中井出「リーガンだ」 シド 「よく連れ出すことが出来たものだ。苦労しただろう」 中井出「…………」 ごめんよアンドレアス・リーガン。 キミの名前は、伯にとってはどうでもいいものらしいよ。 中井出「とにかくいろいろあるんで、この娘ッ子をどこか面白い場所に安置したい」 シド 「安全な場所と言うべきだろう……」 中井出「面白さが堪能できる場所が安全ではないと何故言える。     安全でしかも楽しいならそこがベストじゃないか。というわけで、どこ?」 シド 「……ふむ。どれ、オカダよ、少々手伝え」 岡田 「断る」 シド 「……ヌシという男は……」 岡田 「というわけで久しぶりだ提督!元気でありましたか、サー!     ……提督だよな?姿全然違うけど」 中井出「うむ元気であったとも!そして我こそ原中が提督!中井出博光である!     ……引退したけどな!」 岡田 「んー……ほんと、どうして忘れちまったんだか。     晦と弦月を見るに、あんたが物凄く偉大な人だってのは解るんだよ。     あいつら、一緒に騒いでるわりには何処か俺達とは一線引いてた気がするから」 中井出「きっと気の所為さ」 岡田 「いや、ここにきて気の所為って誤魔化しはどうなんよ」 中井出「誤魔化してなどおらぬ!この博光はみんなが居てこその提督よ!     僕一人では栄えある原沢南中学校迷惑部を、     あそこまで大きなものになど出来なかった」 岡田 「───…………………………」 中井出「岡田?」 岡田 「いや、ちょっと待て。今なにか繋がりそうだ」 中井出「繋がる?」 ハテ? 岡田 「《ポクポクポクポクポクポク………………メギャア〜〜〜〜ン!!》はああ!!」 中井出「ま、摩利支天さま!!」 岡田 「繋がった繋がった!おっ……おおおお!!原中!原沢南中学校!そう!それだ!     な〜んかモヤがかかったみたいにイライラしてる部分があったんだよ!それだ!     原中迷惑部!入ってた入ってた!で、部長が───………………あれ?」 中井出「俺じゃないよ?」 岡田 「だ、だよな。部長って確か弦月、で…………」 言葉の割には釈然としない顔だった。 さて、どうしてか急に満面の笑みで原中迷惑部のことを思い出した彼。 いったいなにがどうなったというのか……!? 中井出「あ、ところでセレスさんは?」 シド 「む?おおあの女か。     あやつならば最寄の町で買い物をしてからこちらへ繰る予定だ。     じきに到着するだろう」 中井出「そ、そうですか」
【Side───モミー】 ピキュリリリリィイイイン!! 悠介 「ハッ……はああ!!」 彰利 「キャーーーッ!!」 ルナ 「わっ!?な、なに!?」 悠黄奈「悠介さん!?彰利さん!?」 なにか……なにかが走った! というよりは経験のない記憶が急に埋め込まれたって感じの……。 でも心当たりがあったりした。 これって…… 悠介 「……彰利。こんな時になんだが、記憶が生まれた」 彰利 「生まれた、ね。言いえて妙ってヤツよのぅぉ〜〜〜。アタイもだけど。     こりゃ……アタイが部長やってる原中迷惑部の記憶かね」 悠介 「お前もか……。代わりに提督が部長だった頃の記憶が薄まってる」 彰利 「……俺もだ」 過去が追いついてきてる。 以前、提督が言ったようにだ。 どんな経緯があるにせよ、今、ここに原メイツのみんなが居るってことは、 その過去にはきちんとここに集まるべくして起きた物事があった。 そしてそれは、全員参加が認められるほどに仲が良くなければ発生しない現在。 捻じ曲げられたのが現在の物事だというのなら、事象は過去までを懸命に遡って、 “集まる原因”を作らなければならない。 それは、“提督が居なくても仲がいい俺達”を現在まで運ぶための道標だ。 それに選ばれたのはどうやら───彰利と迷惑部……だったようだ。 悠介 (…………) だからこそ、そんな過去がようやく作られたからこそ、 “提督”の存在がじわじわと消えてゆく。 中井出博光なんて存在はあそこには居なくて、原中を作ったのも引っ張ったのも、 面白おかしくしたのも彰利だ、という過去が作られてゆく。 もともと全力でおかしな男だ。 完全に提督の代わりとまではいかなくても、俺達なんかよりもよっぽど提督に近い。 だからこそなのだ。 彰利 「……なんだろうな。吐き気がするよ、俺。     俺って存在が中井出を殺していってる気分だ……」 悠介 「ああ……気にするなってのは無茶だろうけどな。でも、解ってるだろ?」 彰利 「解ってるから気分が悪いんだよ。中井出のこったから絶対に気にしない。     むしろ、俺達があいつのこと忘れちまっても笑ってさえくれると思う。     …………忘れたくねぇよ。あいつは、人間とか月の家系とか竜族とか、     そんなもの一切気にしないで向かってくれるやつだ。     こうして過去が作られていっても、思い出せること、いっぱいある。なのに……」 悠介 「………」 彰利 「なあ悠介。中井出が言ってた、     一人でも独りじゃない、って……どういう意味なんだ?」 悠介 「……俺が言っても仕方ないことだよ。     “俺達”はどうあってもあいつのこと、忘れる。     だからあとは意思に任せるんだ。あいつのことを覚えてる意思に」 彰利 「意思……?───あ」 彰利も解ったのか、少しだけ悔しそうにしながらも頷いた。 彰利 「悔しいな……悔しい……なぁ……。俺がずっと覚えてたいのになあ……」 悠介 「……情けない顔すんなよ、親友。そんなの、俺だって同じだ。     だからさ、せいぜい笑っちまうくらいの思い出いっぱい作って、     あとは意思に任せよう。忘れちまっても、     記憶の残骸だけででも思わず笑っちまうくらい、楽しい思い出を作ってさ」 彰利 「……そだな」 忘れることからは逃れられない。 どれだけ覚えていようとしても、きっと寝てる間や一息の間に次々と忘れるのだろう。 ……やがて全てを忘れた時、俺達は提督を全く知らない誰かとして認識する。 そのことを悲しむこともないのだろう。 だから、その時は意志に任せよう。 俺達から切り離されるであろう、“提督のことを覚えている俺達”って意思に。 提督の武器は“意思を力にする武器”だ。 だからきっと、切り離された俺達を、あの人は受け入れてくれる。 だからこそ、人数としては“一人”だけど、孤独という名の“独り”じゃない。 そんなことが解ったからこそ、俺は提督に頷き返すことが出来たんだから。 【Side───End】
…………。 中井出「つまり貴様にはしっかりと原中迷惑部でヤンチャした記憶が戻ったと」 岡田 「そうそう!どうして忘れてたんだろうなぁ。     な〜んか今まで、どうして俺、     こんな同窓会に来てたのかなぁとか思ってたんだけどさ。繋がってみれば納得だ。     弦月を軸に、散々っぱら無理した俺達だからまた集ったんだ」 中井出「うぉーそうか」 岡田 「……でも、やっぱその中には提督は居なかった」 中井出「そりゃそうだよ、忘れてるんだし」 岡田 「悔しいなぁ……弦月と晦は知ってるんだろ?不公平だ。     あんたと一緒に学生生活送れてたら、一生モノの思い出作れてただろうに」 中井出「その分、彰利や原メイツとともに築いた思い出があるんだろ?     だったら俺はそれで十分だって。……貴様らが確かに燥いだ思い出がある。     俺はそれをお前らとは違う形で覚えてるし、お前らの記憶も俺とは違う。     でもそれは確かに原中での思い出なんだ。     あれだけ楽しかった時間を俺ごと忘れちまうなんて、もったいないもんな」 岡田 「…………提督……アンタって人は……」 中井出「……うん、俺のことは気にしないでくれ。     もしお前が思いだしたことで、原メイツを大事にしたいと思ったら、     たとえ俺と敵対することになっても恨みやしないから。     ……俺はさ、お前らにいっぱい思い出もらった。感謝してもしきれないくらいだ。     ばーさんが死んで両親が死んで、     ただ暗くなるだけだった俺が、こうも笑ってられる。     それは間違い無くお前らのお陰だから」 言って、岡田の胸にトン、と拳を当てた。 そんな俺の顔を見て、岡田が驚いた顔をしたあと……静かに、照れくさそうに笑った。 多分……自然な笑顔が出来てるんだろう。……ひどく、心が暖かかったから。 中井出「じゃ、行くか。メカどもやレイナートが満を持してる」 岡田 「そんなに待望なのか!?」 シド 「そんなわけがないだろう」 中井出「え?そ、そうかな。名指しで呼ぶくらいだから、僕への対策が満載なんじゃ……」 岡田 「ていうか満を持してってどういう意味だっけ。待望……とは違うんだっけか」 シド 「待ち望む、といった意味ではそう変わらんが、     意味合いでは“万全の準備をして”という意味だ」 岡田 「夜明け前より瑠璃色な!満を持してアニメに登場!     ……とか言ったらウソになるわけですね?わかります」 シド 「……?なんだそれは」 岡田 「キャベツです」 即答なのにあんまりな返事だった。 中井出「まあともかく!岡田くん急ぐぞ!     貴様が喉から硫酸ビンを出すほどに欲しがっていた     銀の手が手に入るかもしれん!」 岡田 「出してねぇよ!?なにそれどこのドリアン海王!?     いやそりゃ銀の手は欲しかったけどさ!喉から手だろ!普通は!」 中井出「俺の辞書に───」 岡田 「あーはいはい、普通の文字はないとか言うんだろ?」 中井出「いや、あるけど黒く塗りつぶされてるんだ。     で、横に“空鍋様万歳”と書かれてる」 岡田 「怖ぇえよ!!空鍋様はまずいだろ!辞書にヤンデレ飼ってるのかよアンタ!」 中井出「いやいやまあまあ。とにかく行こう。     ミクオリジナルとアルビノはここに置いていく方向で」 岡田 「〜〜……いや……いいんだけどさ……」 シド 「一つの行動を決めるだけでどれほどかかっている……」 まったくな質問だった。 ───……。 ……。 そんなこんなで シド 「ムッ……橋もなにもないのか。どう降りたもの《ドゲシッ》ムオッ!?     オォオオオオオオオオオオォォォォォォォ……………………──────」 中井出「悪は去った……」 階段の一番下で、先頭を歩いていて困っていた伯を蹴落とした。 階段の先であるミサイル発射口めいた広い穴へと落ちていった彼はしかし、 どうやって着地したのか下の方から罵声を投げまくってきた。うん無視だ。 中井出「じゃ、いこうか」 岡田 「うわっ!めっちゃいい顔!!」 落ちた雷神さまは全く無視して、僕は岡田くんをフェイスロックで固めると、 その状態のままフロートで39番の扉を目指した。 岡田 「うぉだいででだあだだだだぁああああっ!!!!     ててて提督!?このフェイスロックになんの意味があるんだ!?     いてっ!ほんと痛い!痛いでありますサー!」 中井出「ばか、お前あれだぞ?男が女を抱えて走る時ってのはこう、小脇に抱えてだな」 岡田 「小脇でももっと抱えるべき場所とかあるだろ!?どうして顔なんだよ!」 中井出「じゃあ小指を拝借」 岡田 「それもう抱えてるって言わねぇよ!!力士級の指力持ってなきゃ折れるよ!!」 中井出「大丈夫!キミなら出来る!!」 岡田 「それってすげぇアテにならないビリー語ですよね!?」 中井出「じゃあフェイスロック続行で」 岡田 「《メキゴキペキペキ》ギャーーーーーーッ!!!」 僕らは飛んでゆく。 しばらく降りた先にある、39番へと……! 岡田 「速く飛んでぇええええ!!飛んでぇえええええっ!!ゆっくりすぎっ!いでっ!     いでぇええだだだだだぁあああああっ!!」 中井出「ばかっ!死にたいのか!暴れたら落ちるかもしれないんだぞ!」 岡田 「フェイスロックで宙吊りにされてる状態の方をまず考えろよ!!     首と頭蓋がモゲ割れそうだよ!!」 中井出「骨は僕がしっかり拾ってバックパックに封印しとくよ」 岡田 「アンタなにか!?俺に軟体人間として教会で復活しろってのか!?」 中井出「…………《ごくり》」 岡田 「あ……ごめんなさいマジで受け取らないで謝りますから本気にしないでお願い」 中井出「Niceboat!」 岡田 「死体から首だけもいでバックパックに詰め込むとかほんとやめようね!?     復活できなくなるから!」 ……よく解らないけど怖い言葉らしい。 ボートなのになにが怖いんだろ……そこのところは彰利にでも聞いてみるかな。 言ってみれ〜、と言ったのは彰利だし。 ……。 ともあれ39番に辿り着いた僕と岡田くんは、 早速オズを呼び出して銀の手の精製を頼み込む! ……いや、頼み込もうとしたんだが。 オズ    『ミクガエネルギーヲ使イ続ケテイルタメ、        修理ノタメノエネルギーガ不足シタ』 中井出&岡田『ウォオオオオオオオイ!!』 オズ    『エネルギーガ足リナイ。エネルギーパックヲ補給セヨ』 中井出   「何処!?それ何処にあるの!?ねぇ!!」 オズ    『現在交戦中ノミクノ部屋ニ、5ツノパックヲ確認。        内、二ツハミクが使用中。補給ニハ、パックガ三ツ必要、ダ』 岡田    「ミク!?初音!?またかよ!」 中井出   「ええい愚痴をこぼしている場合ではないわ!」 二ついっぺんに使ってるってことは、それだけ無茶バトルをしてるということ! このままでは残りの三つもすぐに使われてしまう! それはいかん!せっかくの修復の機会だ!なんとしてもモノにしてみせる! そう意気込み、俺は岡田くんをその場に置いて、扉を抜けた先にある、 もはや崖ともよべる発射口を飛び降りた。 中井出「え〜が〜おウールト〜ラ〜ゼェットでぇ〜!     今日もアーイヤーイヤーイヤーイヤァアーーーーイッ!!     スパァキィイン……!!」  ドゴォンッ!!! 中井出「ゴビャーーーーッ!!!」 シド 「ペギャーーーーッ!!!」 そして、スパーキィン……!の言葉に酔いしれすぎててフロートを忘れた僕は、 下で待っていた伯を巻き添えにして大地に潰れた。 でもすぐに回復をすると、さっさと扉の先へと向かう。 ……うん、あれで死なないって、僕も伯もほんと、よっぽどな人物だよね……。 Next Menu back