───冒険の書302/人としての弱さ───
【ケース757:中井出博光/自分のために、誰かのために】 ───……。 声  『解せん』 走った先で、声を聞いた。 冷たいくせに、どこか親しみを感じた俺は足を止めて、そいつが立っている場所を見た。 中井出  「やあ」 ジュノーン『………』 立っているのはジュノーンだ。 待っている男の格好ベスト3に輝く“腕を組んで壁に背もたれ”をせず、 堂々と道の真ん中に立っていた。 そんな彼は僕を見ながら兜を脱ぐと、ルドラとして僕と向き合いました。 中井出「なんだよ〜、居るなら居るって言ってくれよ〜。     しばらく見ないと思ったらどこ行ってたんだ?」 ルドラ「……いや……あのな」 やあ、メッタ刺しにした相手に気安く声をかけられて戸惑ってる。 全て計算通りよグオッフォフォ……!! 中井出「で、下賎ってなにが?───僕が下賎!?」 ルドラ「解せんだ。理解しかねる、と言っている。     お前の友情とはそんなものか?自分が我慢すれば相手が喜ぶとでも───」 中井出「あ、僕が孤独になることでみんなが楽しめるなら〜って意味で言ってるなら、     それは大きな間違いだ。オムレツにミルクを入れるくらいに大きな……な」 ルドラ「いや、そんなことを大げさに言われてもな」 中井出「俺は楽しいのがいい。友情とか愛情とかはこの際二の次だ。     みんなが好きだけど、楽しめないならそれはちょっと違う。     馴れ合いとか慰め合いとか、それだけの関係だなんて思ってない。     でも、大事だって思ってる」 ルドラ「そんなものがお前の友情か。あいつのためなら命は惜しくない、     あいつのためなら間違っててもいい、そう言えるほどのものにも至らんそれが」 中井出「へ?───……ぶはぁっはっはっはっは!!クソくらえ!!」 ルドラ「なっ……!?」 ルドラが言った言葉がおかしくて、笑ったあとに言ってやった。 もちろんそれが友情だと言うヤツも居るだろうし、 そういうのが眩しいと思った時期が……俺にもありました。 中井出「誰かのために死ぬのはごめんだ!誰かのために間違うのは嫌だ!     俺は俺のために死んで俺のために間違う!間違うなよ皇竜王!     お前がそう思ってたとしても、俺がそうとは限らんのだ!!」 ルドラ「───……どうやら、そうらしいがな。     では問おう。お前の持つ友情のカタチとはなんだ」 中井出「え?ないよ?」 ルドラ「───……マテ。それはどういう───」 返ってきた返事と、戸惑って問い返す時に眉間に指を当てて、 手で制す仕草があまりにも晦だったから、やっぱりちょっと笑って応えた。 中井出「友情にカタチを求めるなんて、そんなの面倒なだけだろ。     友人なんてのは軽ければ軽いほどいいんだよ。     軽くて、重くなくて、けど、いざって時には相談出来て話し合える。     助けてくれなくても、人間出来ることと出来ないことがあるだろ」 ルドラ「……お前は」 中井出「なぁ……いつからそんなに難しく考えるようになったんだよ。     友達なんてのは、ただなんとなく傍に居て、     楽しいことを共有して馬鹿みたいに笑ってられたら、     わざわざ確認することもなく友達だっただろ?」 ルドラ「…………」 中井出「あ、そうだ。これからレイナートぶっコロがしに行くんだけど、一緒にどう?」 ルドラ「……〜〜〜……お前はどうしてそうなんだよ!     解ってるのか!?俺はお前をメッタ刺しにしたんだぞ!?     なのにどうしてそんなっ……友達と接するみたいに出来るんだよ!!」 中井出「おおっ?」 なんだか急に怒鳴られた! な、何事!? 解ってるのか、って……えーと。 中井出「え……でも僕、貴様らの武具をまんまと頂いたし。     人殺したことに関してだって、途中からは僕の意思だったし。     なぁ、もうやめない?あーだこーだ言うの。つまらないのキライ」 ルドラ「つまらっ……!?そ、そんな理由で!?」 中井出「いいじゃないか、そんな理由でも。     人によって原動力になるものなんて違うもんだろ?     俺は、せっかく生きてるんならつまらないよりも楽しいほうがいい。     本当に、そんな単純な理由で人生生きてるんだ。     目的もなくブラブラと生きるだけなら、せめて楽しいほうがいい」 ルドラは呆然と、不思議なものを見る目で俺を見ている。 だから続けた。構わず、続けた。 ただの俺の意見だ、届くも納得するも相手の自由だから、 もしかしたら言うだけ無駄なのかもしれないけど─── 中井出「朝起きてメシ食って仕事行って仕事して、     メシ食って仕事して休んで仕事して寝て。     給料もらえても生活するだけで精一杯でさ、     なんのために生きてるのかな、って思うこと、あるだろ?     そんな時にさ、ふと……ただのなんでもないことが楽しくて、気づくんだ。     ああ……同じ毎日の繰り返しだけど、     “楽しむこと”だけは同じじゃない、って。ささやかだっていい。     家族との会話でも、友達との会話でも仕事場の仲間との会話でもいい。     もちろんゲームでだってマンガでだってかまわない。     ゴルフやるのだっていいし、居酒屋で笑い合うのもいいだろ?     生きるだけで精一杯で、溜めた金も国に取られていく世界でさ。     一円でも安く買おうっていろんな店回って、     結局一番最初の店が一番安くて。     そんな面倒なことも、誰かと一緒だと笑い話に出来る瞬間もある」 ルドラ「……そんな些細なことでしか楽しめない世界だ。     壊そうと思ってなにが悪い。     いずれそれが世界を食いつぶすことになる。     そんな世界を、俺は見てきた」 中井出「見てきて、救っちまったんだろ?だったらそれはお前が悪い」 ルドラ「………」 俺の言葉に、ルドラは目を伏せる。 ……思い出しているんだろうか。 かつて経験してきた、過去になった未来を。 中井出「人間、楽なことが大好物だからなぁ。     助けちまったらそこで立ち止まるだけだろ。     滅ぶなら滅ぶで、人間自身の手で迎える滅びを受け止めさせるべきだった」 ルドラ「……ああ。それは以前にも聞いたな」 中井出「ん。───そうだな、些細なことでしか楽しめない世界だよ。     ほんとつまらないことばっかりで、なんのために生きてんだろ、って思う。     でもさ、だったら滅ぶのはそう思ったヤツだけで十分なんだよ、ルドラ」 ルドラ「───なに……?」 中井出「本当にそう思ったヤツが、この世界から出て行けばいい。     自分の辛さに世界を巻き込むなんておかしいだろ。     辛いって思ってても、時には笑える人が居る。     悲しいって思ってたって、なにも滅ぶことはないって思える人が居る。     そんな人たちを巻き込んでまで滅ぼすほど、     自分が思う“自分の人生”はつまらないことだらけなのか?     友情のカタチが解らないとか、     自分の世界が間違いだったからこの世界も間違うんだとか、     そんな考えこそがつまらないんだ」 ルドラは表情を変えない。 ただ真っ直ぐに俺を見て……俺の目を見て、 俺の言葉にウソがないかを探っているようだった。 中井出「俺はこうして一人になったけどさ。     今はナギーやシードや亜人族のみんなが居る。     いずれ別れることになって、一人になっても、まだ自分が居る。     そうなったらさ、一人でも楽しめる方法を探すよ。     どっかの誰かをからかうのもいい。     オリジナルな遊びを開発するのでも構わない。     今回やった賭けだって、多分お前の勝ちは揺るがないよ。     晦や彰利は俺を忘れる。みんなももう忘れちまった。     でもさ、もし俺が生きていられる未来があるなら、     また出会えばいい。知り合えばいい。     まあ、解り合えなかったら違う楽しみ探すだけだし」 ルドラ「……だが、その道こそが間違っているかもしれない」 中井出「ん?ん〜〜……ふふふ、ほら、言ったろ?     俺は、俺のためにこそ間違える。     他人のためだとかそんなのはどうでもいいんだ。     友情に全てをかけるのも結構。     でもな、自分がなきゃその友情も育めないし大切に出来ないよ。     もし、そんなふうに生きて、自分と同じくらいに大切なものが出来たら───     その時こそ、そいつが大変な時に、     自分を捨ておいてでも優先できるんじゃないかな、きっと」 そう、かつてのばーさんがそうだったように。 俺は人間だし、自分の内側のことなんて解らない。 今、なにを置いても自分より先に守りたい、と思えるものなんてない。 死ぬ未来を想像してみれば自分のことが可愛いし、死にたくないって本気で思ってる。 ……けどさ。 その時の自分がどうするかなんて、その時が来なけりゃ解らないんだ。 中井出「友情や愛情にカタチなんて求めるなよ。     相手が自分のことを友達だと思ってて、自分も相手を友達だと思ってる。     なんとなくでもそれが解り合えたら、もうそれでいいじゃん。     はい、《ぱんぱんっ》というわけで小難しい説教終わり!     ルドラ〜、狩りに行くべー!」 ルドラ「行くか馬鹿者」 中井出「なんで!?いーじゃん気にすんなよ!     メッタ刺しにしたりされたりの仲じゃんかよぅ!」 ルドラ「どんな仲だそれは。とにかく今更行けるわけが───」 中井出「じゃあ武具貰ったのでメッタ刺しはチャラ!     説教聞かせたので殺人はチャラ!ね!?はい!ね!?」 ルドラ「お前の中の他人の命は説教程度で釣りが来るのか!?」 中井出「じゃあなにィイイ!!いつまでもくよくよメソメソしてろってのォオオ!?     日々を殺しましたごめんなさいって生きろってェエエ!!?     死んだ人々にはごめんなさいだが俺は嫌だぜ!!     だからはい、一緒に行こう」 ルドラ「…………行かないと言っている。解っているのか?     お前が俺の誘いを断った時点で、お前はもう敵なんだぞ」 中井出「そうそう、お前が強情な所為でねぇ……。     な〜んで一緒に遊ぼうの一言が言えないかねこの頭でっかちは」 ルドラ「お前の頭が柔軟すぎるんだ!!」 そうかな。 ううむ、これが当然になってるんだからどうしようもない。 中井出「だってさ、憎んだら憎みっぱなしって……つまらないじゃん?     前にも言った気がするけど。だからはい、一緒に」 ルドラ「いかん。───それより、来客だ」 中井出「誰!?」 言われたあとに、ザリ、という音。 振り返ればそこに、晦と彰利が居た。 悠介 「お前……」 彰利 「……ヤケに親しげに話してンじゃねーの。大魔王ってのはマジか?」 中井出「ち、違う!俺じゃない!!」 ルドラ「なにがだ」 中井出「え?……あ、あれ?なにがだろ」 ルドラ「〜〜〜……」 重苦しい溜め息を吐かれてしまった。 中井出  「えーとつまり貴様らが悪いんだ!僕の言うことを信じないから!」 彰利   「そがぁにあからさまな村人スタイルの魔王をどう信じろっての!」 中井出  「溢れる愛で!!」 彰利   「愛でか!!」 悠介   「落ち着け彰利。───ルドラ、ここになんの用だ」 ルドラ  「……フン《ベパァン!!》ぶはっ!?」 悠介&彰利『ほぎゃあああーーーーーっ!!?』 晦の言葉に、フンと鼻を鳴らしたルドラの頬に、僕のビンタが炸裂した。 中井出「アァンタァアアア!!     せっかく話し掛けてくれてるのになんなのその態度ォオオオ!!     アァンまったくごめんなさぁあいねぇ〜〜〜っ、     いつまで経ってもホォント子供でぇええええ〜〜〜〜っ」 彰利 「いっ……いいえぇ、理髪そうなお子さんじゃないですか〜〜ンァ」 中井出「あらそうですかぁ?じゃあ友達になれ」 彰利 「スッ……ストレートになんてことを!!」 中井出「オ?なんだてめぇもしかしてウソついたってのかうおら。     理髪なんだろうおら。さっさと友達になれうおら」 彰利 「なしてうぉらうぉら言ってんの!?     とにかくテメーは知らんかもだけどそやつとアタイら敵対してんの!解る!?」 中井出「昨日の敵は今日の」 彰利 「敵じゃい!」 中井出「じゃあ友は?」 彰利 「友だとも!」 中井出「じゃあ僕友だね!?」 彰利 「会ったばっかじゃねーの!昨日の友ですらねー!」 中井出「ウソつきぃいいいいいいっ!!!」 彰利 「ええっ!?なして!?」 中井出「キミへの疑惑が確信へと変わった!貴様は敵だ!でも明日は友かもね!     だから一言。……いろいろなことがあったからって、     敵とみなしたらずっと敵ってのはつまらないよ?     キミたちはゼノさんを、ゼットを迎えられたじゃないか」 悠介 「───どうしてそのことを知ってるのか知らないけどな。     それでも譲れないものがある」 中井出「譲れないんじゃない。譲ろうとしないだけさ。     許せないのも許さないだけ。気持ちの切り替えがカチリと出来てこそ、     一流のハンターと……関係ねーじゃねーか!!」 彰利 「なにいきなり逆ギレしとんじゃい!ギャアもうルドラ!?なんなのこいつ!」 彰利が耐えかねてルドラに助け舟を要求する。 うん、もう敵対とかどうでもよくなってるね、この場だけ。 ルドラ「なんなの、か。ふふふはははは……。     こんなものが友情か。つくづく笑わせてくれる……」 中井出「そう、それが大事なのです。些細なことで笑える……最高じゃないですか」 ルドラ「い、いや、そういう意味で言ったのではなくてだな……」 中井出「とまあこのように、ほのぼのと話せる仲です」 悠介 「じゃあ───」 彰利 「敵、ってことでいいんだな?」 中井出「そう。で、土壇場で裏切って味方になったりするの」 彰利 「マジでか!?」 中井出「うむ!そして後ろから貴様の背中をズバーっと!!」 彰利 「それ味方って言わねーよ!!」 中井出「ワハハハハ!!俺は面白いことの味方なのでな!!     誰の味方とも言えん存在よ!!     あ、でも亜人族の味方ではあるから気をつけてね?     じゃあ行こうぜルドラ!バトルが俺を待っている!」 ルドラ「その言葉では俺が行く意味が果てしなく無さそうだが?」 中井出「だってキミが本気だしたら、     あっと言う間にバトル終了でなんて面白そうなんだ……!!」 曲りなりにもRPGを楽しむ者の言葉じゃなかった。 自分で言うのもなんだけど。 中井出「行こう!是非行こう!是非あれ居ねぇ!!」 掴んでいた筈の手が、何故か腕輪型の篭手を握っていました。 ……なんだか知らないけど僕のだ!! 多分逃がさないためにメリキキキと握ってた僕の手から逃げるためだったんだろうけど、 ウヒヒヒヒ馬鹿め、手に入れてしまえばこちらのものよ! ……ただの装飾品だったらどうしようよし売ろう。 まずは鑑定が必要だね、うん。 と、その前に。 中井出「どっ……何処だぁーーーーっ!セバスチャーーーーン!!」 叫びながら、いそいそと腕輪だか篭手だかブレスレットだかをバックパックに入れる。 あれ?腕輪とブレスレットって意味同じだっけ?まあいいや。 声  「付き合ってられん。俺は戻るぞ」 中井出「え?じゃあこれほんとに貰っていいの?     武具とかの価値がなかったら容赦なく売るよ?」 声  「少しは餞別として取っておこうとかそういった気持ちはないのか!!」 中井出「うんない」 声  「こっ……こごごっ……!!」 どこかから聞こえる声に正直に答えたら、その声が震えてらっしゃった。 や、ほんとなんなんだろうねこれ。 声  「……それは、取っておけ。今更かもしれないが───     殺しをさせてしまった罪滅ぼしと許してくれたことへの感謝の気持ちだ。     ……本当に、あんたは変わらないな、提督。     もっと早くいろいろなことに気づけてたら、俺は……     ただあんたに会うためだけに、この時代に遊びに来てたかもしれないのに」 中井出「うむ。もう遅いから帰れ」 声  「オイ。ここは今からでも遅くないとか言うところだろ」 中井出「友達に遠慮なんてしないのが僕の美徳です。誰だろうと遠慮しないけど」 声  「───…………ありがとう。その言葉だけで、俺はきっと救われた」 声が遠ざかる。 いろいろあったけど、過ぎたんならそれでいいって思ったことも、 いろいろな思いも全部一緒に。 ああ、きっと……次に会った時は、本当に敵同士なんだろうな、って…… そんな予感を確かにさせながら。 ……とまあそれはそれとして。 悠介 「………」 彰利 「………」 めっちゃ睨んでます。 まあそうだよね、餞別まで貰う仲じゃあ、確実に敵だって思うよね。 彰利 「……そんで?貴様の正体は?まさかホントに魔王とか言うんかい?」 中井出「いや。正式にはやいてめぇ!!」 悠介 「うおっ!?な、なんだ!?」 中井出「説明しようとしてるんだから分析とかしようとしない!     いいか!僕は“調べる”以外の、     相手の内側を見るような能力が大嫌いだ!!     調べたいなら調べるを使用なさい!!内側を覗くなど!恥を知れ!」 悠介 「う……」 彰利 「じゃあ遠慮なく調べる発動。えー……?     中井出博光の強さは……計り知れない!?ナニモンだテメー!!」 中井出「だから大魔王だってば。あ、でも王族に興味はないから魔人で通ってます。     貴様らの知らんことの様々を知っている、いわば記録者(クロリスト)博光!!     そう、この物語は一人の美少年が記録してゆく物語を記した記録。     その名も───博光クロニクル!!《どーーーーん!!》」 彰利 「悠介どうしよう、こいつ変人だ」 中井出「改めて言わずとも!!…………《ハッ!》     中井出ファンタジー・クリスタルクロニクル!!《どーーーん!!》」 悠介 「いや、名前変えろって言ってるわけじゃないからな?」 中井出「なんだよ!じゃあエロニクルの方が合ってるとか言い出すのか!?     でもなんか墓穴掘りそうだから今のなし!     というわけで僕もう行くね?レイナートが待ってるんだ」 悠介 「レイナート……?───お前!レイナートの仲間か!」 中井出「そうだ《どーーーん!!》」 彰利 「ほんじゃあ行かせるわけにはいかぬ!!」 中井出「あれ?───ゲェエエエーーーーーーーーーーッ!!!!」 ノリで言ったことが後悔に繋がる……よくあります。 だが言っちまったものは仕方なや!かかってこいオラァ!! 彰利 「大魔王……相手にとって不足はねぇな」 悠介 「気ィ引き締めていけよ、彰利……」 中井出「あらら……」 すっかり戦う気満々のようでした。 いや、そりゃあ僕もやるならやらねばな人だからやりますけど。 中井出「ところでさ、さっきキミたちのところに     ゼノンスルェイヴさんが飛んでったけど。どうなったの?」 彰利 「覚えたての技で大地に沈んでもらったわ。     貴様にも見せてやろう……金色の像から授かりし大いなる光速の奇跡!」 中井出「…………」 わあ、しっかりとそこのところは金色の像ってことで落ち着いてるんだね。 彰利 「じゃあ───《ゾ……フィィイン……!》いくぜ───!』 彰利が破面を出現させ、晦が白雷光を発動させる───どうやら本気の本気らしい。 では俺も───誠意を以って応えねばならんな! かつての友を屠る覚悟……………………完了!! 中井出「臆さぬならば《ドゴォッフィィインッ!!》かかってこい!!」 彰利 『───!!』 悠介 『く、うあっ……!?』 言葉を溜めると同時に力の全てを解放。 ストック以外の能力を解放し、さらに十三の精霊武具のスキルも解放する。 本来発動にはマナが必要になるが、 そんなものは霊章の中のエーテルアロワノンから腐るほど溢れ出てる。 それを外気集気法で吸収して、十三の精霊武具を合わせた剣、 エターナルソードのスキルを思う様発動させてゆく。 ホントは僕なんかには似合わないって思ってたから、 いつか晦に渡そうかなと思ってたけど───でもいい。 彼にはもう鳩の世界という素晴らしいものがある。 じゃあ、参ろう。 中井出「覚醒しろ!万象担う灼碧の法鍵(スピリッツオブラインゲート)!!」 悠介 『!?』 ───言葉とともに、体全体に霊章と回路が走る。 それらは俺の体をどこぞの民族のような姿に変えると、 両腕と背中から火闇を噴き出させた。 それはまるで、炎の両腕と炎の翼を持った、まさに魔人がごとき風貌だったに違いない。 彰利 『スピリ……!?ゆ、悠介!?なんであいつが───!』 中井出「あ、解説するとね?スピリッツオブラインゲートはそもそも、     十三体の精霊の力を契約の証を通じて引き出すことを業とする能力。     で、僕の武具の中には十三体の精霊の武具が合成されてあって、     それらを目覚めされるためのマナも霊章にたっぷり存在してる。     問題の、精霊の力をどうやって人間の回路に“力”として流すんだ、     って話だけど、根本からして違います。     回路に流すんじゃなくて霊章に流せば、それは俺の体じゃなくても力になる。     あ、それと僕の能力は世界創造じゃないから、べつに黄昏は広がらないよ?」 悠介 『………確かに感じる。精霊の、しかもとんでもないくらいの力だ。     俺達が知ってる精霊のものじゃない。───ルドラ側のか』 中井出「………」 悠介 『……ち、違うのか?』 中井出「あ、いや、合ってるんだけどさ。     御託並べてるのに襲い掛かってこないキミタチのやさしさに感動してた」 彰利 『感動って───くははっ、どうしよう悠介、こいつ結構オモシロ───』 中井出「死ねぇええええーーーーーっ!!!」 彰利 『───い、ってウォオオオーーーーーーーーッ!!?』 突然の猛攻!下がる彰利! その反応に、僕は左足を大きく上げると素早く地面に叩きつける! すると低く遠くバックステップした彰利の背に、 地面から生えてきた樹がドスンとぶつかる! 彰利 『ホワァイ!?なしてこげなところに樹が───』 中井出「溢れんばかりの然の力で、多少だけど自然が操れるようになりました!」 彰利 『なんですって!?』 中井出「今の僕は、武具から流れ出す精霊の力が火と風と然に蓄積されている状態!     迂闊に触ったら───火傷じゃなくて爆発して大変なことに!」 だってボマー搭載だし! と、ブリーチの親切な敵キャラのように、 出会って間もない相手にベラベラ自分の能力を話して聞かせてる場合じゃなく! 中井出「詰めた!」 彰利 『フッ……まさかムラビトンの姿をしたヤツがここまでやるとは』 中井出「不意打ちして樹ィ生やしただけだよ!?なにが解ったの!?」 言いながらフルスウィング! あからさまな動作と大振りで避けられて当然の斬撃はしかし、 現在の最大限まで引き上げられた人体強化能力で常識の速度を越える!!  ルフォズフィシャボガガガガォオオンッ!!! 彰利 『ホアァアアアーーーーーーーッ!!!?』 それでも避けられるのは相手の経験故ですね。 咄嗟にしゃがんだ彰利のすぐ上で、 生やしたばかりの樹が灼闇を纏ったジークフリードの横薙ぎによって両断され、 発動したボマースキルにより木っ端微塵に吹き飛ぶ。 わあヤバイ、ラインゲートモード、物凄く体が軽い! なんていうかそう……灼闇やジークが活き活きしてる感じだ! 主属性が強化されたお陰でさらに扱いやすくなって、 とても───とてもイイカンジだ! 彰利 『悠介!』 悠介 『ああ!速度なら───!』 と、ここで晦が光になって俺をへと素っ飛んでくる! だが見える!集中領域が発動している今なら─── 悠介 『《ゾザァ!》背後───もらった!!』  ブフォンッ!! 悠介 『───手応えが《ベキョリャア!!》ふぐぅっ!!?』 中井出「残像だ」 音速烈風脚+時魔法ヘイストで速度を上げて、姿を現した晦の背後に回っての首捻り。 小気味のよい音が鳴って、彼はどしゃあと地面に倒れた。 中井出「グヘヘヘヘ能力を発動させたからには貴様らには死んでもらう。     じゃないと筋肉痛が痛いのでなグオッフォフォ……!!」 彰利 『〜〜っ……完全に容姿に騙された……!なんなんだよこの威圧感は……!』 武具の威圧感だろうね。 悲しいけどこれ、事実なのよね。 彰利 『ちぃ───今は貴様の方が強い……!』 中井出「転移で逃げようとしても無駄だぜ!魔王からは逃げられん!」 彰利 『───しまったそうだった!』 ───ウソだけどな!! だって僕人間だし転移防止の能力なんて持ってないし! でも逃げられたら筋肉痛が……おお恐ろしい! 僕は……僕は正直紳士として恥ずべき行為をしようとしている! 自分の筋肉痛のために、僕は貴様を殺すのだ!! 中井出「あ……そだ。ぶつかり合う前に白状しとくな。     使おうと思えば使えて、もったいぶってた十三の精霊武具な?     多分……使えばあっさり機械兵とか倒せてたんだろうけど、     どうして使わなかったのか言っておくな。     これな、使う度に力が解放されて……     そうすると、お前らの中の俺の記憶も消えちまうんだ。     だから使わないようにしてた。     でもまあ、今となっては関係ないからな。そんじゃ───行くな」 彰利 『?……なにを───』 水のキャリバーで掌に水を。 それをこぼさないように構えて、身を振るい───投げつける!!  ビッシァアアアアッ!!! 彰利 『っ───!ィァッ───づあぁあああああああっ!!!!』 彰利の太股に当たったそれは、彼に突然の痛みを走らせた。 その隙にレイジングギガフレアをブッ放し─── 彰利 『うぅおっ!?くあぁあああっ!!!』 だが彰利はそれを、自分の影に逃れることで回避! しかし俺はその隙を逆手に取り、影から出てきた彰利の目の前にズンと立って見せた。 そう、まるで音速拳を構えていた愚地克己に、 空気鉄砲を放って近づいた烈くんのように。 彰利 『!!つあっ───!!』 途端、ギクッと身を震わせた彰利が慌てて光速拳を放つ!! それは確実に俺の胸へと直撃し、強い衝撃が俺の体を突き抜け、 やがて後方にあった建物を衝撃だけで倒壊させてみせる。 彰利 『ど、どう───、……!?』 中井出「愚かな……。攻撃が通用しているか、わざわざ攻撃の手を休めてから見るなど」 だが残念ながらこの博光には効かん。 何故ならレイジングギガフレアのお陰でHPTPともに1だ。 それによって皇帝竜の逆鱗が発動してる。 どれほど破壊力があったって、それが物理攻撃である以上は効きゃあせん。 中井出「精進めされい。これではまだこの大魔王には通用せん。     そして知りなさい。この博光など四天王になれたのが不思議なくらいの弱者。     上にはまだ計り知れない者どもがたくさん居るのだ」 彰利 『これで弱者!?四天王!?まだ三人もおるの!?』 中井出「そしてこの博光は近々魔軍指令になることが決まっている」 彰利 『ハドラーじゃねぇかよそれ《ゾゴフィドッバァンッ!!》───っ……!     げ、はっ……!ずっりぃ……!!《カシャ、ン……》」 ツッコミに夢中になった彼を容赦なく斬殺。 破面も崩れ落ち、まだ死んでないようだけど、この博光、容赦せん。 崩れ落ちる彼を眺めつつ、 倒れたところでその傍らに屈み、ただひとつの言葉を送った。 中井出「若すぎる……遅すぎる……そしてなんと弱い……」 彰利 「おぼえ、てろよ、テメ……」 中井出「ホホホやだ」 最後に二人を神父送りにするべくきっちりとトドメを刺し、立ち上がる。 さて……これでスッキリした。 中井出「これから死んでいく奴のことなんて───     はは、覚えてたって重荷にしかならねぇもんな」 それは相手が決めることかもしれないが、俺が嫌だから辞退した。 だからこれは俺の我が儘だ。 原中は彰利が死なせない。 これからも楽しいことを探して盛り上げていってくれるだろう。 あいつらが俺のことを思い出すなんて、 そんな漫画やアニメみたいなことは起こらない。 起こったとしても、その時にルドラがまだ存在してるならじきに忘れる。 そうなったらそうなったで、それもいいと思える。 あいつらとの思い出は、 あいつらの中からは消えるのかもしれないが……俺の中にはきちんと残るからな。 中井出「………」 ルドラが残した腕輪を眺める。 夢食いの腕輪、という名前だ。 “なにかを吸収する”能力に長けたもので、一度しか使えないものらしかった。 合成も出来ず、ただ一度のみ、“なにか”を吸収出来るらしい。 ルドラはこれと精霊武具の中の力で、みんなから“俺の記憶”を吸収したんだろう。 恐らくは、もう片方の腕にある夢食いの腕輪で。 中井出「……はぁ」 たとえここで、ルドラの腕輪からみんなの記憶を吸収してくれ、 とか言っても状況は改善しない。 計画通りに皆様が強くならなきゃ、未来的には結局黒に襲われて全滅だ。 そのための下地は、出来るだけ多く作らないといけない。 俺のためだとかなんとかはもうたくさんだ。 あいつらがあいつらの意思で、自分のために強くならなきゃ意味がないんだから。 だから今は忘れてもらう。 思い出してくれれば嬉しいには嬉しいが、それは先のことだ。 中井出「…………だから、か……」 今は使えない。 使う必要がない。 使う場面は頭の中に完成してるけど、それは未来を変えられたらの話だ。 中井出「上手くいけばいいなぁ……」 そう願わずにはいられない。 けど─── 中井出「けど、もしこれでなにもかも上手くいったら、     俺ってただの忘れられ損のアホな子だよな……」 いやほんと……どっちを応援したもんかなぁとか考えてしまった俺が居た。 誰か罵ってください……。 中井出「よっしゃ───いくかっ」 大丈夫だ、彰利、晦。 俺達が三人が居れば、どんな壁だって破壊していける。 俺達は仲間だ。 たとえ記憶が無くなっても、俺達の……原中の絆は俺の中で生きている。 だからもし俺が、もう一度現実世界に戻ることが出来たのなら。 全てを終わらせることが出来たのなら。 ……死なずに済んだのなら。 もう一度、この手を握り合おう。 だめだったら───死んだ先で、 彼らの中から弾きだされた“俺を覚えてる猛者どもの意思”と、歌でも歌おうか。 どんな歌がいいかな……僕たちからありがとうでも歌うか。 でも、もし本当に全部上手くいったら…… 中井出「………」 自分の掌を見て、小さく笑った。 そんな日がまた来ればいいな、って思って。 うん、そうだな……岡田に教えてもらったリトルバスターズでも歌おうか。 また手ぇ取り合って、一から始めよう。 拒絶されたら盛大に笑って、サウザーントレントで野生児として生きるのも手か。 中井出「ふう……」 空を……黒い天井を仰いで、息を吐いた。 そうだ、まだまだやりたいことがいっぱいある。 なのにそれを残して死ぬなんて冗談じゃない。  ……生きるために戦おう。 今までのようにただなんとなくじゃない。 楽しむためももちろんだけど、 最後の瞬間になるかもしれないこのラストログインの中で、 出来るだけ後悔がないように足掻いてみよう。 中井出「…………もう、いいよな。もう……」 周りに俺を覚えているやつは居ない。 そう考えたら、涙が出た。 出たら、もう耐えられなかった。 中井出「まだ……やりたいこと、いっぱいあった……。     麻衣香と旅行に行こう、って……話した……。     忘れられても傷ついても、絆があれば大丈夫って言い聞かせた……。     でも───でもよぅ……!     ───死にたくない……死にたく、ねぇよぅ……!」 蹲って、頭抱えて、震えて、鼻水流して…… 情けない、力もないガキみたいにして───ただ、泣いた。 中井出「チャイルドエデンの子供たちが今度クッキー焼いてくれるって笑ってた。     前にもらったパンのお礼に面白い話を聞かせるって言った。     学院のヤツに映像の式のコツを教える約束してた……。     皇国の料理長に地界の料理を教えるって話をした……!     巨人族のみんなと巨大な花の飼育について話し合った……!     もう一度、もう一度みんなで空界の桜を見に行こうって───!!     俺っ……!俺ぇえっ……!!っ……くっ……ひ、ぐっ……! 誰かに責められるまでもない。 地界を離れてからずっと、空界で生きてきた。 地界で生きてきたお前らよりも思い出があった。 きっかけがどうとか、自分が楽になりたかったから殺したとか、 そんなことあるわけがないじゃないか。 最後まで抵抗して、吐いてでも止めようとした。 けど、イドの力がそれを許してくれなかった。 でも俺への憎しみが未来への架け橋になってくれるなら、って……ウソをついた。  一人になりたかった理由はなんだ、って?  ……そんなの、人として泣きたかったからに決まってる。 中井出「うああああ……!!うあああああああああああっ!!!!     がっ……ああああ……!!!ぐあぁああああああっ!!!!」 人を殺して平然としていられる人間を、俺は知らない。 どれほど表面上は平気に装えても、それが仮面じゃないなんて誰が言い切れるだろう。 空界の命の重さ……それだけじゃない。 今までの思い出の分までが血の赤となって、手から、目から落ちてくれない。 中井出「げほっ……!っぐ……がはっ……!あっ、あぁああ……!!」 責任感があったわけじゃない。 原中の提督だからとか、そんな理由で苦しみを我慢できるほど、俺は強くない。 ただ壊したくなかっただけなんだ。 俺が飄々としていれば、周りのみんなもそうしてくれるって思ったから。 重いだけの事実にして、悲しいだけの過去にしたくなかったんだ。 でも…………やっぱりそれは間違いだったのかもしれない。 だから、自分だけが間違ってたことにして、みんなには笑っていてもらいたかった。  俺はもういいから。  俺が居ても、もうお前らを心から楽しませることは出来ないから。  だから───俺はもう、置いていってくれ。 提督なんて中心はもう要らない。 代わりに将軍が立って、あいつらを楽しませてやってくれ。 お山の大将みたいな、周りに持ち上げられて、 やっと立ってられるような提督だったけど───俺はここまでだ。 正直……自分を保っていられない。 平気なフリをして、自分を演じてるみたいな自分に吐き気がする。 だからもう………………すまない。 でも、いいよな……? もう、俺がその輪に居た歴史は残ってない。 写真にもさ、よくある不自然な空間なんてなくて、みんな埋まってるんだ。 だって、そこに中井出博光なんて存在は居なかったんだから。 中井出「………」 涙を流したまま立ち上がった。 まだ最後の仕事が残ってる。 せめてこのファンタジーを最後まで味わって、 大魔王を務めきって、それから、やがて来る日を迎えよう。 中井出「……泣き言も言った。弱音も吐いた。     だったら、あとはもう……することなんて一つだよな」 俺はあと何回、覚悟を決めるんだろう。 決めようとする度、何度逃げ出したくなるんだろう。 逃げ出そうとする度、どれほどの弱音を心の中で吐いて、覚悟に変えるんだろう。 ……でも、どれだけ辛いって思っても、もう逃げることなんてしないんだろう。 生きるためならなんでもしよう、当然逃げることだってする。 でも、覚悟から逃げることだけはしない。  なーじーちゃん。  マンガの悪役ってさ、どうして正義のヒーローよりも迷わないんだー?  …………  じーちゃん?じーちゃんってば。しょーぎばっかみてないで答えてよ。  ん……ああ……。それはなぁ…………。おーい、ばーさーん。  はいはい、ふふ……いいかい?博光……。  悪役が迷わないのはね、することが決まっているからなんだよ?  することが決まってる……?  ああそうさ。なんてったって、悪いことをすればいいんだからね。  そのくせ、正義にはいろんな責任がついて回るんだよ。  守れなきゃウソで、負けちゃってもウソ。  正義っていうのはね、貫くのがとってもとっても難しいんだよ……?  …………へー……。  博光は正義の味方になりたいのかい?  ……んーん、おれは悪がいい。だってさ、悪役がいないと正義が強くなれないもん。  ふっ……?ふ、うっふふふふ……!博光は変わった子だねぇ、うっふふふふ……!  うん、博光がなりたいっていうなら、おばあちゃんは応援するよ?  正義も悪も、なる人によっては全然違うものだからねぇ。  ……でもね、博光。これだけは覚えておきなさい?  悪で居続けることにも覚悟が必要になるんだよ?  それは、自分が悪で居続けることへの覚悟と、悪事を働くことへの覚悟。  ……悪いことをする覚悟?  悪いことをすると、悪いことしちゃった〜って罪悪感がついて回るでしょう?  それを重ねても耐えられる自分と、だけど罪が罪であることを忘れない自分。  それを両立させないとね、いつか人の悲しみも解らない自分になっちゃうからね。  だから、そうならないために、おばあちゃんが魔法を教えてあげるよ?  魔法?  そう、魔法さ。い〜い?自分に自信が持てなくなった時はね。  こうして胸に手を当ててね、目を閉じて……自分の内側に目を向けるんだよ。  ……こう?  そう。そしてね、何度も何度もこれから味わうだろう辛さも罪の意識も抱いて、  想像でだけでも先に背負っておくんだよ。  それが出来たら、口に出してこう言うんだよ? ……。 中井出「───覚悟、完了───」 ずっと昔。 その翌日には死んでしまった人が教えてくれた魔法があった。 辛いことや不安に思うことが迫ると、今でもそうやって覚悟を決める。 想像でしかない頼りない覚悟だけど、それでも俺には勇気になってくれた。  なーばーちゃん。悪役って、いつまでも続けなきゃいけないの?  そうだねぇ……もし博光が大人になって、本当に大切にしたい人に出会ったならね?  その人へ対する悪を最後にして、友達になっちゃいなさい。  全部ぶつけた上で、もしその人が博光に笑いかけてくれるなら、  その人はきっと、博光の大切な友達になってくれるから。 ───。 中井出「…………ばーさん……もう、大人になったよ───」 だから、いいよな? 大切な人に対して悪で居続けるのも、やめていいよな。 友達にはもうなれそうにないけど、大切な人たちだったから─── 中井出「俺、たくさん仲間が出来たよ。     友達って呼んでも恥ずかしくない、最高のやつらだった。     そんなやつらだったから、俺は最後までウソつくことが出来たよ。     だから───…………だから、……」 今なら、あのやさしかった手のぬくもりがどれだけ暖かかったのかが解る。 やさしく頭を撫でてくれたぬくもりが、どれほど嬉しかったのかも。 素直で居ればよかった。 もっと子供らしく、懐いていればよかった。 後悔したって届かない。 頭を撫でてほしいと思ってしまった弱さも、誰にも届かない。  だから……いつもみたいに─── …………。 中井出「……ぐしっ…………はは、ばーさんが居たら……頭、撫でてくれたかなぁ」 鼻を啜って苦笑した。 ほんと、こんな図体しといて……弱いよな、俺。 そう思った時、ふと……頭を暖かいなにかが撫でていったような気がした。 振り向いてみたけど、なにも、誰も居なかった。 ただ、緑の香りを孕んだ風だけが通りすぎて…… ささやかな感謝の言葉をメールで送ってしばらくすると、管理者メールが届いて、 ドリアードが顔を真っ赤にして気絶したことを知った。 ……うん、大丈夫。まだ支えてくれる人が居る。 ばーさん……この人たちが大切な人になってくれるなら、俺……まだ頑張れるのかな。 やってみないと解らないけど、やれるところまでやってみることにするな。 ───それじゃあ、いきましょうか。 生き残れる可能性のほうが極めて少ないという、孤独の賭けごとを完成させるために。 Next Menu back