───冒険の書307/VSジェノサイドハート2───
【ケース768:中井出博光/最終兵器4】 ガゴッ……ゴシャアァンッ……ガカッ…… レイナートコピー『ガハッ……ハ、ハハ……!強いな……!感動的なまでの強さだ……!』 中井出     「強いかどうかはいいからこの揺れがなんなのか教えて?」 都市が揺れている。 立っていられない、とまではいかないが、この揺れは相当だ。 俺はそんな空間の中心で、 わざわざ密集して密度を高めて襲い掛かってきてくれたジェノサイドハートをボコり、 胸倉を掴んで顔を突き合わせながら話していた。 敵が一体って解ってるなら、人器を解放するのも怖くない。 だから遠慮なく潰した。 L・C『クハハハハ……!始まったのさ、真のプログラム/ジェノサイドハートが……!     オリジナルはノヴァルシオの核と一体化し、人知を超えた力を手に入れた……!     古代技術によって作られた機械など比べ物にならん圧倒的な力ッ……!     古代兵器どころではないッ……!古代文明そのものだッ……!!』 中井出「古代文明……そのもの……?……なにを言っとるんだこの男は……」 L・C『きっ……訊かれたから答えたのにこの言い草ッ!!』 あいつらは阻止できなかったのか。 ……いや、今更だよな、それは。 ゲームとしてはここまで来て阻止できるほうが稀だろう。 こういうのはそう、意地悪に出来ているものなんだ。 L・C『もう無理だ……如何に貴様が強かろうが、仲間が居ようが、所詮人間よ!     圧倒的な力の前では為す術もなく逃げ惑う人間ッッ!!     ヒャハハハハ!!無様なものだなぁ!やはり私の器は人間などには納まりきらん!     さあ、ジワジワと捻り潰してくれよう!どうせやつらも絶望に陥ると、     何故殺すんだだの懸命に生きているんだだのと、     戯言ばかりを並べ《ミシッ!》……ア……アレ?』 胸倉を掴んでいた手とは反対の手が、 無意識……イヤ、俺の本能そのもので、レイナートコピーの頭を掴んでいた。 L・C『な、なんの真似だ。この手を───』 中井出「…………じゃねぇ」 L・C『なに……?』 中井出「…………、…………んじゃ……ねぇ……!」 L・C『《ぞくり……!》ひ……な、なに───!?』 中井出「望んで人間やめたヤロウが……!!     偉ッそうに人間語ってんじゃねえ!!」 L・C『《バキミキビギシシシィ!!!》ぎぎゃあああああ!!?』 頭の中でなにかが外れたような音がした。 力が篭る。 俺の手はレイナートコピーの顔面を握りつぶそうと動き、 それはレイナートの悲鳴を聞いても、一切弱まることを知らなかった。 L・C『ひ、ひい……!まて───やめて……!まだ、死にたく───!!』 中井出「懸命に生きているんだ、って言ったのは……!     お前の勝手な実験の犠牲になったヤツの言葉か……!?」 L・C『ひはっ……?そ、そうだぞ……ヒヒ?口々に叫ぶんだあいつら……。     どうしてこんなことをだの、わたしたちはあなたの道具じゃないだの……!     生き方を構築してもらわなければ、     日々の生活も出来ないやつらが笑わせると思わないか!?     生まれた瞬間に、既に親が持っている世界の生き方を鵜呑みにする生き物!     滑稽だ!自由に生きるだの懸命に生きるだの、口にするだけでも馬鹿馬鹿しい!     気が向いたから、好きなだけバケモノになりたくない理由を聞いてみればどうだ!     わたしたちはもう十分な生活をしている!?自分の人生を謳歌したい!?     用意された仕事をこなし、国に金を捧げ、     夢を追いかけるとぬかしながらも、結局は既に用意されている場所へと向かう者!     これが人間だろう!自分の人生を懸命にだ!?ふはははは!笑わずにおれん!     なにひとつ世界の在り方に逆らえんやつらが懸命!?十分な生活!?     そんなやつらは利用されるべきだ!私が理想とする私の世界のために!』 …………。 L・C『…………《メキッ……》あれ……?』 中井出「……気が向いたから、好きなだけ理由を聞いてみれば……。     途中までは俺も思い至ったことはあったけどな……じゃあ訊くぞ?     お前の持つ世界への反り方、“一生懸命の定義”ってのは、     親の助けが無くても赤子が大人になれる定義なのか?」 L・C『……ぐっ……』 中井出「親が居たから今まで生きてこれて、親が王だったから王になった。     親が人間だったから人の言葉が喋れて、     親が親らしかったからこそお前はいっぱしの理想を口に出来るように成長した。     どこまでガキなんだ、お前。童心を忘れることは馬鹿馬鹿しいことだけどな。     お前のそれは、気に入らないことがあったからいじけるガキの理想じゃねぇか」 L・C『ガッ……ガキだと!?貴様、誰に向かって!』 中井出「自分の人生を一生懸命。いい言葉だと思う。     なにものにも縛られず、自分の思うように生きれること───それは素晴らしい。     でもな、それは自分のことだけしか考えない、あまりにガキな考えだ。     生まれた時から理想の自分を持ってるヤツなんて居ない。     自分が望む自分になれたとしても、世界はそんな存在を望んでない。     最強の自分になれた先で、お前はなにを望める?自分が最強の王になる瞬間か?     じゃあそれが過ぎたらどうする。強さを盾に世界を支配して。     お前が言う、人の無様な生き方を脱することが出来るのか?」 L・C『な、なにを言う……!そんなものは、当然───』 中井出「だったら思い描いてみろ……!人を支配した先で、お前はどうしてる!     今までにないなにかをしているか!?     それとも玉座に座ってふんぞり返ってるだけか!?     用意された道しか人間は歩けないって言ったな───!     だったら王に用意された道にしか辿り着けないお前の!     どこが人間の並べる理想と違う!!」 L・C『ッ……!!』 手に力が篭る……!篭る……!篭る…………! 中井出「なにが王だ!なにが世界の在り方に逆らえないだ!!     産まれる前から存在してる“世界”の在り方に抗い続けて、     生き続けていられるヤツがどこに居る!!     力を持たなきゃそんなことすら思えないで、     ただ玉座に座るだけで終わってた人生!     力を手に入れて、人を利用して、けど結局人を支配するっていう     玉座の上から逃げることが出来ないお前が───!!お前なんかが───!!     偉そうに人間を語るなぁあああっ!!!」 L・C『《バキンッ……!》ぎがぁああああっ!!?』 中井出「自分の人生を!人としての人生を懸命だと言ってなにが悪い!!     人が、死ぬ瞬間にどれだけの思いを残して死ぬと思ってる!     自分の死を悲しんで!残してしまう人のことを思って!     どれだけ死にたくないって慟哭すると思う!!     人であることを放棄して!人を見下して!     力を背にして踏ん反り返ることが出来たお前なんかに!     いまさら“人間”のなにが解る!!なにが理解できるっていうんだよ!!」 L・C『《ゴキン!バキャァッ!》ひ、ひ───!タス、ケ……!』 レイナートコピーの顔が砕けていく。 亀裂が走り、ところどころが欠け、行き抗おうとする意思が手を動かし、 俺の腕を、腹を、様々な箇所を攻撃するが、そんなことはお構い無しに。 中井出「……もう解っただろ、オウサマ。     それが、“意思を持つ生き物の限界”だ───」 L・C『ア……《ぐしゃあっ……!!》』 砕けた。 俺の手の中で、機械が砕ける。 中井出「支配が向かう方向なんていつも同じなんだよ……。     力を振りかざして、自分の思う世界を作ろうとして……けどその先になにがある?     支配するだけして、踏ん反り返ってるだけで満足なら、     まだ人として王をやってた頃のほうが、純粋に微笑んでいられただろうに……」 砕けたレイナートコピーを、ドンナーで踏み潰して破壊する。 そうしてから上を目指し、走り出す。 ……なぁ、ルドラ。 お前はどうだった……? 人知を超えた力を手に入れて、守護者であることをやめて─── 精霊たちと生きるようになってから、結局お前の生き方の根本は変わったか? そう問いかけてみても、返事なんて返ってくるはずもなかった。 中井出「………………さてと。さっさと終わらせて、旅の続きをしよう」 冒険者は冒険こそ本業。 ことあるごとにボスランクの敵を相手にしてちゃ、疲れてしまう。 俺はもっと冒険したいんだ。 時間も無限じゃない。 時が来れば、俺には“やらなきゃいけないこと”が出来る。 それをやらなければ俺の未来は腐ってしまうっていう、厄介なことだ。 けど、やればほぼの確率で死ぬっていう笑いたくても笑えない未来。 なんてクソッタレな人生だ。 それでも悪を貫くと誓ったあの日がある。 俺に活動するための力が必要だっていうなら、それだけで十分なんだ。 誰に笑われたっていい、笑えるっていうのなら笑ってくれたほうが嬉しいくらいだ。 俺は、俺のためだけに俺の理想へ辿り着く。 その理想の先の結果に誰かがもっと楽しめる世界があるのなら、他になにを望むだろう。 中井出「───おぉ!?」 なんて、思考に意識を取られながらも走っていた時。 急に足場が悪くなった気がして意識を視覚に戻してみれば、 しぼむようにして狭まってゆく地下都市の景色。 ……え?もしかして……縮んでる? なんだか知らんが……えっと、うん。 中井出「ヤヴァアアアアアアーーーーーーーッ!!!!《ドグシャア!》ゲファーリ!!」 考え事なんて全て捨て去り全力疾走開始!! しかし足場がウネウネ蠢く所為であっさり転倒! すぐに走るっていう常識的なことを捨てて、 クサナギをエジェクトして乗ると、各馬一斉にスタート! 螺旋階段を素っ飛ばして、天井の先へと突っ込んだ。 ───……。 ドガァンッ!ゴシャーーーアーーーーッ───ドバシャアン!! ドンガラゴロゴロズダーーーーーッ!!!! 壁に突っ込んでブチ破り、 通路に出たはいいけど降りて走ったほうがいいかなぁとか思いつつそのままGO。 突き当たりの扉をそのままのジェット速度でブチ破ったところでバランスを崩し、 妙な広間に辿り着きつつ地面を転がった───先で、伯と遭遇。 中井出「やあ《ズザァーーーーッ!!!》」 シド 「何事!?」 仰向けで地面を滑りながら軽く手を上げ挨拶したら驚かれた。 中井出「ここが核のある場所……!     そしてあの妙に歪んだ空間が……恐らく大虐殺心空間!《ク……クワッ!》」 シド 「いいから立ち上がれ」 中井出「謝謝」 差し伸べられた手を掴んで、グイと起き上がる。 さて、そうして改めて見てみた空間は随分と広い。 広間って言うと、なんか日本家屋思い出すよね? でも違うの。広い空間だから広間って言ってるんだよ?一応念のため。 中井出「それで伯、ここはいったいどういった場所で?」 シド 「ふむ……核があった場所だ。     今はレイナートと融合したため、ヤツの心臓部分、ということになるのか」 肝心の心臓は仮想空間に飛ばされているがな、と続ける伯。 でもそれもいよいよ変調へと向かい始めたらしい。 伯が言う推測はこうだ。 いくら技術があったとしても、 人間が機械に溶け込み、それを操作するなど不可能なのだと。 今やレイナートは機械群にウィルスとして見做され、本人は自由に操っているつもりで、 逆にゆっくりと溶かされていっている状態なのだろう、と。 じゃあほうっておけば落着するのか、と訊いてみるが、そう簡単な話でもないらしい。 シド 「この場はいよいよレイナートによって支配される。     いや、レイナートと呼ぶよりはレイナートだったもの、と呼ぶべきか。     今頃はマザーコンピューターのオズが、レイナートの意識を溶かしながら、     その強い欲望をも食らいつつ、様々な行動をとっているところだろう」 中井出「話が長い!簡潔にどうぞ!」 シド 「一番てっとり早いのは空間ごとヤツを滅ぼすことだ。     ヌシらがかつて使った魔導砲があれば容易い。     だが仮想空間の中にはまだヌシの仲間がおる。     それもろとも潰すのは本位ではなかろう」 中井出「よしやろう」 シド 「やめんか馬鹿者!!」 中井出「ひぃいごめんなさい!!」 素直に怒られてしまった。 ううむ、冗談の解らん人め…… 本気でびっくりしたから思わずヒィイと言ってしまったじゃないか。 中井出「じゃ、じゃあどうすればいいの?」 シド 「もう怒鳴ったりせんから震えるのはやめんか……。     ああ、ゥォッホン!方法は二通りある。     ……ヌシも仮想空間に入り、核であるオズを破壊するか。     それとも一度ここから出て、オズが実体化するのを待ってから破壊するか。     今、ヤツの体であるこのノヴァルシオが縮んでいっているのは知っているか?」 中井出「は、はい」 シド 「怯えるなと言っているのに……。     その縮小が治まった時、ヤツは一つの生命体になるはずだ。     核がここにあるということは、その外壁はソレを守る体、ということだな」 中井出「なるほど!それを壊せばいいわけだね先生!」 シド 「誰が先生か。それで、どれを選ぶ。     前者ならばワシが空間を裂き、道を切り開くが」 中井出「前々者で」 シド 「魔導砲は却下だバカモン!!」 中井出「う、うそつき!怒鳴ったりしないって言ったくせに!!」 シド 「ヌシはちぃっと黙っていろ!!」 中井出「ククク……いいのかそんなことを言って……!」 シド 「なに……?」 中井出「この博光……黙れと言われたら黙っているぞ!?そしてうろうろと微妙に勘に触る     視界の隅で蠢くぞ!?無言で背後に立ったり声が出ない程度に息を吹きかけたりダ     ンスを踊ったり!!他にもキンギョを吐いたりロウソク消したりコウモリふいたり     ペンキで塗ったりお店のカートで激走!胃酸をあびたりミサイルよけたり波間で揺     れたりビルから落ちたり高速道路で前転!ただでは黙っていない傍迷惑なこの俺に     これでも黙っていろと!?」 シド 「ええい存在自体が騒がしい男め!!存在自体で黙っていろ騒音男め!」 中井出「《グサァッ!》………!!」 シド 「…………あ……いや、うむ……騒音男はいいすぎたな……すまん……」 中井出「あ、存在自体が騒がしいは取り消してくれないんですね、     むしろそっちが痛かったのに」 シド 「否定する意味がないからな。それよりだ」 ムホン、と咳払いをして先を促す伯。 対する俺の返答は─── 【ケース769:藍田亮/最終兵器5】 セキュリティレベルが上がるたびにレイナートは強くなって、 だけどどこかおかしくなっていた。 口数は減り、動きも機械的になり、 まるで“そうプログラムされているからそう動く”ようなものになっていた。 現在のセキュリティレベルは4。 これで最後らしく、既に景色も変わっていた。 いや、これは─── 藍田 『暑い……?バーチャルじゃなくて普通の蒼空の下か!?ここ!』 いつの間に吐き出されていたのか。 俺達は蒼空の下で、レベル4になってから随分と様変わりしたオズと対面していた。 しかし地面は機械仕掛けのままであり、それが広く遠くへと続いていた。 中空にはその機械仕掛けの地盤の範囲だけ、0と1の羅列があり、 変わらず俺達を中心にゆっくりと回転していた。 レールガンもレーザーも今のところはない。 だが、レベル4になってからの最もの恐怖は“0”にあった。 見上げるだけでも厄介な数の0の羅列。 それが映像であったことが判明した瞬間、 謎男(彰利と晦の融合体だろうが)が瀕死の重傷を負った。 原因は言うまでもないが、カーネイジだ。 朧弦 『くぅ、は……!創った盾をあっさり貫通しやがって……!』 咄嗟に盾を創造したお陰でなんとか即死を免れたらしいが、 逸らした先にあった左肩は無残に貫かれ、辛うじて腕が繋がっている状態にあった。 見ているこっちが痛々しく思えるくらいにズタズタだ。 すぐにグミを噛んで治しにかかるが、敵さんだってそう待ってはくれない。 オズ 『スベテの準備ガ終了しタ。これヨり、最終プロぐらムを始動、ス、る……』 その言葉が最後だ。 オズは凶々しい巨大な顔型になっていた姿を再び分解するように自ら裂き、 自分の都合のいい姿にしようとしているのか、 広がっていた羅列を自らの体に凝縮し始めた。 なにかがヤバイと感じた俺や他のみんなは一斉に攻撃を仕掛けるが、 その悉くが、強烈な風のバリアフィールドによって近づくことさえ叶わない。 藍田 『っ……く、っそ……!疾風の……如く!!』 無理をして地面を蹴るが、足が地面を離れた瞬間にはもう遙か後方へ吹き飛ばされていた。 身を翻して着地するが……そうした時には既に、オズの変身は終了していた。 藍田 『人型……?』 岡田 「背中にウィングまでつけて…………い、言っちゃなんだがカッコイイ!」 特撮でありそうなメカ型のヒーローのような姿だった。 軽量で、速度に特化していそうな姿だ。 大きさは人の身長より少し大きい程度で、幅も痩せ型といった感じ……だが、 どうしてだろう……嫌な予感しかしないのは。 ……いや、単純に考えてみよう。 あれだけ大きかったものが小さくなり、人の大きさ大程度へと縮まる、ということ。 それは、単純に力もそれだけ圧縮されるということでは───? 藍田 『うわぁ……戦いたくねぇなぁ……』 朧弦 『言ってる場合か!……くるぞ!』 黒のボディが刃のようなウィングから強烈な風のようなものを吹き出し、 カタパルト射出されたような速度で一気に飛ドボォンッ!! 藍田 『げがぁっ!?』 岡田 「へ……藍田!?」 気づいた時には間近だった。 俺の腹には敵の拳がめり込み、 ヘタすれば貫通さえしていたんじゃないかってくらいの腹部の喪失感が嘔吐を促す。 殴られた箇所が痛覚麻痺してしまうくらいの威力に、 一瞬を置いて空へと吹き飛ばされた俺の体は、 それこそ殴られた箇所を中心に麻痺してしまったかのように動かなくなり、 やがて地面へと叩きつけられた。 意識は……まだある。 あるけど体が痺れていて、満足に動かせない。 腹より上あたりは辛うじて動くのだが、方から先が鉛のように重く感じて…… 腕に目をやった時に、思わず息を飲んだ。 落下した時に下敷きになったのか粉砕骨折していて、 骨の幾つかが皮膚を突き破って露出していた。 藍田 『かっ……は、かはっ……!』 グミを食べたくても麻痺していて動かない。 痛覚が戻る前に、食べなきゃいけないのに……! 閏璃 「飲めオリバ!」 藍田 『げほっ……?《がぼぉっ!》ぐぼっ!?うごもももも!?』 と、少しでものちに迫る絶望に恐怖していると、 閏璃が突っ走ってきて俺の口にポーションの瓶を突っ込む。 栓はもちろん抜かれていて、 飲む準備もなにも出来ていなかった俺の喉をゴボゴボと流れていく。 当然そうなれば咽もするんだが───俺は無理矢理それを抑えて、 最後の一滴まで飲み下してから咳き込んだ。 藍田 『げほっ!ごはっ!がっは……!わ、悪い、助か───』 る、と言おうとした時、もう閏璃はその場に居なかった。 閏璃 「うおぉおおあぁあっ!!?」 聞こえてきたのは硬いなにかの衝突音。 追撃に来ていたオズに殴り飛ばされ、地面と平行に吹き飛んでいた。 痛みらしく苦痛が声に混ざってなかったところをみると、 どうやら銃を盾にしたらしいが─── 岡田 「このっ……!アクセルスマッシュ!!」 さらなる追撃をと飛翔するオズ目掛け、岡田が早撃ちを割り込ませる。 自分のAGIの高さに応じた強さを発揮できる早撃ちだ。 けど相手が悪い。 こいつ……速すぎだ。 閏璃 「おぉっと鉄槌!」  ガォン!!パギィンッ!? オズ 『ヴヴッ!?』 しかしそんなオズの膝関節を銃で撃ち抜き、 一瞬でも行動を鈍らせたのは、体勢を立て直したばかりの閏璃だった。 そう、怯んだ。 信じられないくらい速いってだけで戦いを諦める前に、もっと見るべき場所はある筈だ。 速いからなんだっていうんだ。 気ィ引き締めろよ俺……!やるって言ったらやるんだ! 岡田 「おぉらぁっ!!」  ゴギャァッヒィンッ!! 岡田のアクセルスマッシュがヒットする! 鉄板というよりは氷の結晶を鋭く殴ったような音が高鳴り、オズが吹き飛ぶが─── ああ、見えた。 あれは吹き飛んだんじゃない、自分で飛んでみせたんだ。 音の高鳴りは確かに凄かったが、 地に足を着いているために伝わる反動からくるダメージはほぼ殺された。 だったら攻める!空中も地面も関係ないってくらいに攻めて、破壊してやる! 悠黄奈「みなさん!相手は実体です!今までの文字の羅列ではありません!」 だから、と叫ぶように伝える悠黄奈さんの言葉が、俺達の胸に刻まれる。 そうだ、相手は実体だ。 プログラムではなく機械として存在し、恐らくはどんな攻撃でも通用する相手。 藍田 『羊肉(ムートン)ンン……!!ショットォッ!!』 もう迷いはない。 恐怖はあるが、勝たなきゃいけない相手にいつまでも恐怖していたら、 戦いも終わらないし恐怖も終わらないんだ。 だったらやるしかないだろ……気張れよ、俺!!  ゴガィインッ!!! 藍田 『〜〜〜〜っ……うぉわ硬ッてぇえええーーーーーーっ!!!』 こちらへ飛んできていたオズに蹴りをブチ込むが、 ヘコますことはおろか、蹴り込んだこちらの足にシビレを残す始末。 どういう硬さしてんだこいつ……!───ええい迷うな!突っ走る! 力が足りないなら速さで補強!! 藍田 『疾風のォオオッ……如く如く如く如くゥウウウウッ!!!』 ヘコミはしなかったが、 蹴りの威力で吹き飛んでくれたオズ目掛けて、地面を蹴り弾き続けていく! 一歩の度にエナジードレインを発動させ、 周りのありとあらゆるものから力を吸収してゆく! さらに暗黒闘気も全力で解放! やがて追いつき始め、これ以上はいいというところまでくると、 ステータスをSTRに託してぇえええっ!!! 藍田 『悪魔風(ディアブル)───』 オズ 『ギギィッ!!!《キュイィイイイイイッ!!!》』 藍田 『うぃっ!?』 帯熱スキル全開の羊肉ショットを食らわせてやろうって時に、オズに変調が……! 指の先に光を溜め始め、しかもこの光は……忘れもしない、カーネイジの───!! ど、どうする!?攻撃やめて─── 藍田 『ッ!!』 ざけんな!覚悟とは!決して曲がらぬひとつの覚悟とは! 敵の行動のたったひとつに乱されるほど、軽いものなんかじゃあ───ねぇえええっ!!  キィンッ!!  軽い音とともに放たれる閃光! どこに反射させるでもなく、一直線に俺へと向かってきたそれを、 藍田 『っ……かぁっ!!』  ゴガギィンッ!! ───ブロッキングで、吸収する……!! オズ 『ガ……ギ……!?』 そしてそれを、何が起こったのか理解できていないオズの腹目掛けてぇええええっ!!! 藍田 『お返しだクソ野郎!!羊肉(ムートン)ショットォオオオッ!!!!』 悪魔風脚にて、マグマの如き灼熱を放つ脚を構え、一気に突き出す!!  ゴガドバァンッ!!! 瞬間、視界が爆ぜ、爆発にも似た熱の炸裂を見せると焼煙を撒き散らしながら、 一瞬にして反対側のマシンフィールドの果てまで吹き飛んだ。 俺はその反動で自分が最初に立っていた場所まで吹き飛ぶと、 マシンフィールドの壁に背をぶつけ、崩れ落ちた。 ……まいった、脚が砕けた。 考えなしで全力出しすぎたな……立ち上がれない。 藍田 「は、はぁ……!」 脚をズタズタにしながらグミを噛んで、 どうやら見えない壁があるらしいマシンフィールドの壁に手をついて立ち上がる。 グミで回復してくれるっていうのは本当にありがたいが、 むしろいっそずっと倒れていたいとさえ思える。 ヴィクター化もグラーフ化も消えてしまった今、しばらくは全力中の全力で戦えない。 ストックにはまだひとつずつ残っているが、 これはファイナルエクスプロージョン用に取っておくつもりだ。 ……その機会が出来るだけ早く訪れることを、今はただ願おうか。 うん、悪い。脚は多少治ったけど、意識が朦朧と…………あ、だめだこれ───  …………どしゃっ…… 最後に、自分の視界が傾いて、 なにかが倒れる音だけが、やけに耳に響いたように聞こえた。 【ケース770:閏璃凍弥/最終兵器6】 ガンガガガガガガガギキンキンキンッ!!! 閏璃 「うおおお硬い!なんなんだよこいつ!」 岡田 「閏璃!DEXだ!もっとDEX上げていけ!」 閏璃 「こっちはもういっぱいいっぱいなのだが!?」 一定の間合いを計りつつ、 両手に持つナハトズィーガーでオズ……ジェノサイドハートを撃ちまくる。 もはやサガフロンティアのジェノサイドハートとは似ても似つかない形だが、 困ったことに好き放題にカーネイジを撃ちやがるから始末に負えない。 藍田はいつの間にか気絶してしまったようで、 マシンフィールドの最果てでぐったりと倒れている。 あれはしばらく起きれないと見て、俺達はそのままバトルを続けてる。 俺は岡田と組み、岡田が攻めているところの間隙を縫っての銃撃。 高速剣術と連射を合わせた、攻撃こそ最大の防御という意味での攻防一体技! ……うん、結論的には攻撃しかしてないよな。 閏璃 「司令部!SUVウェポン起動を申請する!     ───元艦載式磁力線砲のSUVウェポン!リニアレールキャノン!!」 残りストックあと僅か! だがもはや余力を残してあーだこーだやってる場合ではなーーーい! 中空に銃を投げ、虚空に現れた巨大な穴からSUVウェポンを召喚! ドズゥッ!とそれを受け止めると、早速ちょこまか動くオズへと───むう速い!! これでは狙いが定まらん! 閏璃 「岡田くん!なんとかしてヤツの動きを止めてくれ!     性能上、これ一発しか撃てないんだ!」 岡田 「って言うからには威力は高いんだろうな!」 閏璃 「ブロリーのスローイングブラスターを地球に放った時程度には」 岡田 「地球の形変わるだろうが!!     おまっ……せっかく自然だらけになったここら一帯焦土と化させるつもりか!?」 閏璃 「大丈夫!……自然って……強いんだぜ!?」 岡田 「お前って自分勝手だなぁああっ!!!」 言いながらも、みんなと協力して動きを止めようとしてくれる岡田くんが格好よかった。 凄いな、早撃ち。 鞘も無ければ刀でもないのに、居合いめいた速度で剣を振るってる。 けど、困ったことに、オズも相当だ。 ていうかさ、レイナートとして喋らなくなったところを見ると、 レイナートのやつ、もう機械の力に飲まれたんじゃなかろうか。 動きが本当に機械的で、人間らしさがまるでない。 機械的だからこそ、次どう動くかが多少は予測出来るわけだが─── こういう時ってゲームで鍛えた適度な反射神経が生かされる時だと思う。 ……ゲーム脳って役に立たないって言うけどな。 岡田 「言っとくけどなぁっ!     俺だって俺だってストックしてあるとっておきの一撃があるんだからなぁっ!?     それを差し置いて自分が先にっていうんだから、絶対キメろよぉっ!?」 閏璃 「………………《だらだらだらだら……!》ま、任せとけっ!」 岡田 「うっひゃーーーーぉ!たぁあああよりねぇええええーーーーーーーーっ!!!!」 と、提督さんチックに頼りなく汗を流すのはヤメにして。 集中だ、集中……レールガン打ち落とすのに集中しすぎて、 今はあまり出来そうにないが……そう、当てる瞬間。 その時だけ、僅か一秒程度でいい…… トリガーを押す瞬間だけ集中できれば、あとは野となれ山となれ。 と、コンセントレーション・ONEの使いどころを悩んでいたその時だ。 朧弦 『月影力+月醒力!影縛り!』 トンガリモミアゲの彼が自分の影を伸ばし、オズの影を捉えると、 重なった部分に黒で創った刃を落として相手の動きを封じる! さらにセレスさんが霧と化し、オズの頭部を覆って視界を悪くし、 ゼノ助さんがマントを飛ばし、霧で覆われた視界を無数の闇の刃でさらに悪くする。 機械ってのは精密だ。 霧の中や闇の中で上手く普段の視界が実現できないように、おそらくは、今も─── セルシウス『フェンリル!』 フェンリル『フゥウウオオオオオオゥウンッ!!!』 次いで悠黄奈さんとフェンリルが氷を行使して、 オズの脚部に集中的に氷魔法を叩き込むと氷結! その隙にミクが回復の歌と強化の歌を奏で、俺達に力を齎す! 岡田 「真由子さん!今!!」 閏璃 「わかったわジエメイさん!!」 コンセントレーション・ONE!!ビットシステム解放!! 岡田が先んじてストックを解除するのを見届け、 俺はただ真っ直ぐにオズ目掛けてトリガーを引く!! 閏璃 「お亡くなりになりやがれぇえええええええっ!!!!」 ギガァッ!───放たれた瞬間、聴覚が感知するのを拒絶するくらいの轟音が高鳴る。 薄い青と鮮明な白の波動が放たれる中、 余波や震動で俺の肩や腕までもが火傷や裂傷などを起こし、 それでも敵を波動に飲み込ませることだけに集中して、痛かろうが無視して構える。 発射の反動で自分さえ後方に吹き飛びそうになるが、それはアルビノが支えてくれた。 オズ 『ギ───!』 波動が向かう軌道に居るオズも、この光が危険だということに気づいたんだろう。 自分を戒める力を強引に剥がしにかかると、霧やマントの刃、氷や影を外そうと暴れ出す。 全力を振り絞っているのか、影を剥がそうとしている腕がブルブルと震えている。 暴れ出すといっても影で縛られているために腕を動かすことさえ難しい状況。 なのにソイツはバギュゥッ!! オズ 『ギイッ───!』 朧弦 『づっ……!?』 トンガリモミー(面倒だからガリモミ)の束縛から力任せに逃れようとする。 まずは右腕。 動かない筈のソレが高くに掲げられ、同時にガリモミの腕に裂傷が奔る。 一度動けばこちらのものとばかりに次々と影縫いを破壊し、 そのたびにガリモミの体のそこら中に裂傷が奔る。 やがて影の全てを破壊した頃には、脚を固めていた氷も砕け、 リニアレールキャノンを目前と控えたその瞬間、視界を遮るのは霧と刃だけとなり。 ってちょっと待った!セレスさん!?速く逃げないと一緒に消滅───  バァッ!! 閏璃 「ぅなっ……!?」 飛んだ……飛んだ! オズの野郎、跳躍でリニアを躱して───しかし! 岡田 「OKセレスさん!     こういう時の視界が悪いヤツの行動なんて、跳躍くらいしかない!」 セレス「任せましたよ───!」 既に跳躍していた岡田が、オズより高い位置で剣を構えていた! ……もしオズが飛ばなかったらセレスさん、スミクズだったよね、うん。 岡田 「メテオドライブチャージ!ダンシングソード解放!     アクセラレイター&インスタントブースターフルスロットル!!     ……能力全解放!俺のHP……全部持ってけ!     エースインザァアッ……!!フォォオオオオオオオオオオル!!!」 見下ろし、振り下ろす力はまさに全力。 腕など折れても構わぬという裂帛の気合いとともに、果たしてそれは振り下ろされ─── 剣に込められたダンシングソードが、アクセラレイターとインスタントブースターで加速。 視認すら出来ない速度でギャガァッギィンッ!!! ───気づけば炸裂音が高鳴り、 オズの体は地面スレスレを奔るリニアの奔流へと落下した。 声  『ガッ……ガガ───ア……ッ』 聞こえる声に、人間めいた悲鳴の色はなかった。 やっぱり、レイナートなんて人格はもう残っていないのかもしれない。 それを確認すると同時にSUVウェポンの効力が途絶えて、 リニアレールが消えて……両手にナハトズィーガーが戻ってきた。  ズキィッ! 閏璃 「いづっ……!つ、ぅう……!!」 集中行使もここが限界。 目が破裂するんじゃないかってくらいの瞬間的な痛みののち、 眩暈に抗うことも出来ずに俺はその場に倒れ伏した。 【ケース771:双月朧弦/最終兵器7】 どれほど後先考えずの全力でブッ叩斬ったのか。 反動で腕を砕き、体をシビレさせた岡田がマシンフィールドの中心に落ちる頃。 マシンフィールドの見えない壁へとレールキャノンで吹き飛ばされたオズは、 機械的な悲鳴を上げると、ズルズルと崩れ落ちた。 あれだけの波動砲めいたものをくらえば普通は、と思うが─── 破壊しつくすまでは油断があっちゃならない。 気を引き締めて、前を見た。 朧弦  『悠黄奈!岡田は!?』 悠黄奈 「ダメです!落ち方が悪かったらしくて、気絶しています!      腕もズタズタで……!」 朧弦  『そうか……回復はミクに任せて今は集中しよう!閏璃!もう一発───』 アルビノ「……ダメだ!こいつも気絶しちまってる!」 朧弦  『……そうか』 閏璃も、のようだった。 ここに来るまでにあれだけの数のレールガンを撃ち落として、 さらにあの速度の敵を狙い撃ちしてたんだ。 よほど“集中”を行使してなきゃ出来ることじゃない。 脳に限界が来たんだろう。 朧弦  『フレイア。時間はたっぷり稼いだぞ。出来そうか?』 フレイア『簡単に言ってくれるわよね、本当。      回路に力を満たすのがどれだけ大変か、解ってて言ってる?』 朧弦  『お前がいつの間にか力を使い果たしてたからこうして時間稼いでたんだろ』 フレイア『文句ならあの量産型ジェノサイドハートってやつに言いなさい。      それに……出来そうか、じゃなくてやらなきゃいけない場面なんでしょ?』 ゼノ  『そうだ。一言で言えば御託はいらん、さっさとやれ』 フレイア『あなたに言われる筋合いはゼロね。じゃ───封天眩き円月の極致!!』 フレイアが鎌を構える。 散々回路を解放したためにルナからフレイアに変わっていた彼女は、 ディファーシックルであったものを、 死神の回路だらけの力を振るうための相応な鎌に変異させ、 姿勢を低くして体を捻るようにして力を込める。 オズ 『ギ……ム……!───ギイッ!』 朧弦 『!』 だが。 ここでオズがゆっくりとだが起き上がると、俺達を睨みつけた上で前へと走り出す! フレイア『チィッ───どうするのよ!』 朧弦  『俺が抑えておく!構わず撃て!』 セレス 『いいえ、ここはわたしたちが』 ゼノ  『忌々しいが今の我ではヤツにダメージらしいダメージを与えられん。      ……この命くれてやる。外すなよフレイア───!』 フレイア『だからっ……あなたに言われるまでもないって言ってるのよ!』  ヴフィィイイーーー…………ィイン…………!! 構えているフレイアの、回路で真っ赤に染まった髪が風もないのに浮き上がる。 肩あたりまで浮き上がったそれはゆらゆらと蠢き、 やがてその揺らめく速度が速まっていく頃。 カルミネルゼファーが灼光の光を放ち、パワーチャージが最高点に至る───!!! フレイア『ふたりとも!どきなさい!』 瞬間、フレイアが叫ぶ。 が、オズを押さえた二人は動こうとはせず、フレイアを見て逆に叫ぶ。 セレス 『いいからやりなさい!』 ゼノ  『情にでも溺れたかイレイザー!!この命をくれてやると言ったぞ!!』 フレイア『っ───』 フレイアは迷わない。 人間たちとは違い、それが好機を逃すものだと知っているからだ。 だからもはや何も言わず、大きくなった鎌を───振り払った。  フォガァフィィンッ……!!! 綺麗な音だった。 払われた鎌から眩い灼光が放たれ、空間を断ち切ってゆく。 風も草も砂埃も空間さえもを断ち切るそれは、やがて二人と一体の人影に襲い掛かり。 耳を劈くような金属と金属のぶつかりあった激音を高鳴らすと─── その場から、二人の人影が消えた。 ルナ 「……、ふ、うくっ……!《ガクッ》」 朧弦 『ルナ!』 全力だったのだろう。 放った瞬間にルナに戻ったフレイアは地面に倒れ込み、 荒い息を吐きつつも、起きる気配を見せなかった。 そして─── オズ 『……ギ、ギギ……!     左腕破損、オヨビ胸部ニ断裂ヲ確認……!修復ヲ、開始……』 今の一撃を腕一本で防ぎきった存在が、まだ視界の先に立っていた。 無茶苦茶だ。 どうしてこんな……! 朧弦   『ちぃっ───詰める!!』 セルシウス『いきます!』 アルビノ 「ああくそっ……!オリジナルはなにやってやがるんだよっ……!」 このままじゃ埒が明かない。 無鉄砲でもいい、もう攻めるしか方法はない───!! 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