───冒険の書312/農村の一日───
【ケース780:中井出博光/あの日に消えた気力充実の一日を】 えーはい、お決まりの打ち切りチックな思考を展開させてからしばらく。 ネコット農場に来ていた僕らは、それはもう元気だった。 今更説明も要らんような気もするが、 ネコット農場は猫の里と自然要塞を合わせた採取場所を指して言う。 猫の里が絶壁めいた巨大な山の中心の窪みにあるのはお解りですね? で、そこに自然要塞をよいしょとおろしたのがいわばネコット農場といえる。 湖などの釣り場は猫の里、それ以外はまあ大体自然要塞内にもあるが、 虫とか鉱石とか魚はやっぱり猫の里じゃなければ採れない。 猫が適当に住処にしていた場所ということもあり、 さらにゴヴァーと生えた自然の影響で、採取には困らない。 えーと、なんて言えばいいのか。 自然要塞にあるものは全て猫の里にもある、ということで。 自然要塞は簡易版農場みたいなもんだな、うん。 さて、話は変わるが。 ネコット農場には8匹の管理猫が居る。 年長のルンナを筆頭に、 ネネ、くるり、りゅうのすけ、マーニャ、ごろう、ムサシ、うずらの8匹。 ジャポンで育った猫が大体なために、名前もそっち側らしい。 どっかで聞いたことがあるのは気の所為だ。 輝いてた季節なんて関係ないさ! どうしてもって言うならそこに“低脂肪(ていしぼー)”という名の猫を混ぜてもいい。 ……話が逸れたね、うん。 イッケク『大変ニャーーーッ!      旦那さんが連れてきた老人が熱を出して起きてこないニャーーーッ!!』 総員  『なにぃいいーーーーーーーっ!!?』 閏璃  「何故こんな急に看護イベントが!?……ハッ!      まさかノヴァルシオ攻略戦でフラグが……!?」 悠黄奈 「凍弥さん、現実世界にフラグなんてないんですよ?」 中井出 「これは是非お見舞いにいかねば!      よし!ネコット農場名物“ナマギョ”をお見舞い品として持っていこう!      そして手厚く賑やかにしてやろう!お題は“うざったく”!!」 総員  『イエーーーッ!!提督イエーーーッ!!』 悠黄奈 「いいですけど……あまり騒いだりしたらいけませんよ?」 せっかく降りてきた僕らだったが、再び伯が眠る自然要塞へGO。 ……まあ行こうと思えば根にとびついてよじ登ればいいだけなんだけどね。 ……。 …………。 ドバァーーーン!! ゴーファ『ヤッフー伯ーーーッ!風邪引いたってほんまでっかーーーっ!?』 シド  「むぐぉっ……!な、なんだ、誰かは知らんが……静かにしてほしいんだが……」 ゴーファ『うわっマジ寝てるし!超ウケるんですけど!(笑)      ねぇねぇ熱ある!?何度よ!ねぇーーったら!      あっ、伝染るんです買ってきて記念撮影していい!?』 ドバァーーーン!! 閏璃  「伯さん風邪見舞いイエーーーーッ!!」 ゴーファ『イエーーーーーーッ!!!」 シド  「うるせェエーーーーーーッ!!!」 マジギレされました。 ……。 で、その数分後。 悠黄奈「なにをやってるんですかなにを……!     風邪を引いている人の前でそんなに騒ぐのは、     常識がどうとかの問題以前にやっちゃいけないことですっ」 悠黄奈さんに説教され、 要塞の中の一室(町の名残)の床に正座している僕らが居ました。 総員  『申し訳ありませんでした』 悠黄奈 「解ってくれればいいんです。けど……あの……べつに床に正座しなくても……」 レイル 「いえ……いえ!      この歳になって大人の女の人に叱られる機会なんて滅多にないスから!」 閏璃  「ありがとうございます!」 ゴーファ『延長お願いします!」 シド  「なにしに来たんだヌシら……」 もっともです。 ゴーファ『それで、風邪なんでっか?』 シド  「ウム……不死になってからは風邪も引いたことがなかったんだが……      そのツケか、枷から外れてみればあっという間に風邪だ」 ゴーファ『そないなことはさておいといて、ワイの見舞い、ウザかった?』 シド  「見舞いに来ておいて、さておくなバカモン。      ……あれでうざったらしく思わないヤツが居るなら見てみたいわ」 ゴーファ『ミッションコンプリーーーーッ!!』 総員  『イエーーーーーーッ!!!《パシパシーン!》』 シド  「出てけヌシら……!!」 ハイタッチで騒ぐ僕らに爽やかな退場宣言でした。 ゴーファ『ほな、お大事に。あ、お見舞いの品だけ置いていきますわ』 シド  「む……うむぅ、すまん。頭がガンガンしていて、少々気が立っていた。      怒鳴ったりして悪かった、気を悪くしないでくれ」 ゴーファ『ええですええですって。ほなな〜』 ふうう……と自然ベッドに横になり、目を閉じる伯。 その枕元にドチャリと活きのいいナマギョ(マナズみたいな魚)を置いて立ち去った。 …………。 それから少しして、伯の言葉にならない怒声が聞こえてきました。 僕以外のみんなはキャーと叫んで逃げ始め、 急に逃げ出すみんなにびっくりした僕は逃げるのが遅れて戸惑い……ガシッ。 そうして一人、捕まりました。 シド 「………《む〜〜〜ん》」 物凄い威圧感の前に、正座せざるを得なかったのです。本当です。 ゴーファ『はい……すいません……調子に乗りすぎたっていうか……。      はい……これからはもっと人の気持ちを考えます……。      あっ……親とかは関係ないんで……親はちょっと勘弁してください……。      っていうか、僕はあの、ただ他の二人に誘われただけっていうか……。      僕はやめろって言ったんですホントです……』 シド  「どこまで卑屈なんだヌシは……」 同情と哀れみの視線がむしろ心地よかったです。 ───……。 さて、いろいろあったけど再びネコット農場! ……要塞から飛び降りただけだけどね。 それでも僕らはまるで子供のようにワーと燥ぎ、それぞれ駆け出した。 もちろん既に超弱体化は解けているさ! しばらく使わなかったから解らなかったけど、もう着脱自由になったみたい。 ……ちなみに。ゴーファモードの時にコロがされると、相手の所持金半分奪えます。 死んでなおウザいナマモノ……お金で買えないウザさがある。それがゴーファクオリティ。 中井出「勝負だ閏璃!キミと僕!どちらが多くのマーカラ伊藤を掘れるか!」 閏璃 「OK乗った!それとマカライト鉱石な!?」 中井出「うおおおおおおおおっ!!」 閏璃 「ディエエエーーーーーーッ!!」 中井出「ずおりゃぁああああああっ!!」 閏璃 「ディエエエエーーーーーーッ!!!!」 ガンギンゴンゴンギンガン!! 僕らは彫った! マトックを手に、鉱石採掘場で岸壁を掘り続けた! だが出てくるのは鉄鉱石ばかり……ウウム、こりゃ手強い。 しかも採掘はきちんと“疲れ”が出るらしく、しばらくするともう息があがっていた。 中井出「ぐはっ……ほはー!はほあーっ!」 閏璃 「す、すげぇ……発掘工の人はこんな疲れと戦っているのか……!」 でも貴重な体験です。 そしてなにより、僕らはまだ一個たりともマーカラ伊藤を手に入れていない。 中井出&閏璃(せめて……せめてヤツより一歩を先んじる!) きっと同じことを考えていたんでしょうねぇ…… キッと横の彼を見た時、目が合ったんですよ。 だから僕らは再びマトックを手に、岩壁を掘り進めた。 中井出「うりゃうりゃうりゃうりゃ!!」 閏璃 「へあへあへあへあ!!」 中井出「ナイス虫取り網!」 閏璃 「ノォオオオオオオッ!!」 中井出「………」 閏璃 「………」 中井出「虫取りすっべー!」 閏璃 「おー!!」 アドルフくんの真似で言ってみた言葉であっさりと方向転換。 腕の疲れと痺れを癒すため、ひとまず発掘は休憩することにした。 中井出「勝負だ閏璃!どちらが先にドスヘラクレスを取れるか!」 閏璃 「望むところだ!」 悠黄奈「どうしてドスヘラクレスなんですか?」 中井出「やあ」 悠黄奈「やあ。って挨拶はいいですから」 中井出「カブトムシは少年の夢だからさ!《キラキラ》」 悠黄奈「わあ……少年の目だ……」 中井出「いいか閏璃!どっちが捕まえても大きさ勝負すっかんなー!」 閏璃 「おめーにゃ負けねーかんなー!」 互いが互いをキッと睨み、虫取り網を片手に駆け出す。 目的地はこの少々高めの場所にある岸壁より下方にある虫の茂み。 そこへと二人で飛び降りるや、一気に疾駆! 悠黄奈「…………子供ですねぇ……」 最後にそんな言葉が耳を掠めたけどキニシナーイ! あ、ちなみに悠黄奈さんは薬草摘みをしてたようです。 どうして薬草とかって高所やとりづらい場所にあるんだろうね。 ……ともあれ。───ズドドドドドド!!! 中井出「うおおおおおおおおっ!!」 パサッ!……ガシッ!テコテコンッ♪《セッチャクロアリを手に入れた!》 早速茂みに虫取り網を突っ込ませてキャッチング!……しかし。 中井出「アリ……デカッ!でかい!なにこれ!デカい!!」 そもそも蟻を虫網で捕まえること自体おかしいと常々思ってたんだ。 よもやセッチャクロアリがこんなにでかい存在だったとはッツ!! 閏璃 「そこだっ!せぇいりゃあっ!!」 スボッ!……ガシッ!テコテコンッ♪《王族カナブンを手に入れた!》 閏璃 「お……おおお!!紫色のカナブンだ!でけぇ!!」 中井出「おっ……おおお!スゲェ!かっきぃー!」 なんかもうほんと子供です。 でもこの溢れる衝動……止められぬ!! 中井出「見てろー!お前よりでけぇの捕ってやるかんなー!」 閏璃 「へへん、やってみろよ〜!」 閏璃もよほどに燥いでいるのか、悪ガキみたいに鼻をこすりながら笑って見せていた。 中井出「あっ!カクバッタだ!」 閏璃 「え!?うそ!」 カクバッタ……カクバッタだ! わあ、ほんとに丸っこい!角ばってるわけじゃないのにカクバッタ……なんて素晴らしい! 中井出「うおおおおカクバッタぁああああっ!!」 閏璃 「させるかそのカクバッタは俺んだぁああああっ!!」 レアな虫かどうかなんて関係ないのだ。 ようは虫を取れるかどうか。 子供の頃の虫取りって、そんなもんだった。  ぶんっ!しゅぱっ!すかっ!しゅぱっ! 中井出「こ……こいつ……!」 閏璃 「《ごくり……》……できる!」 しかしカクバッタは意外にすばしっこく、 振るう虫網から飛んでは逃げ跳ねては逃げ、僕らの攻撃を避けてゆく。 だがもう逃げられぬ! この先は池というか湖チックな場所! 貴様ほどの者でもそこまでは───! 中井出「もらったぁああああっ!!」 閏璃 「覚悟ぉおおおおおっ!!」  ピョーイ…… 中井出&閏璃『なっ……馬鹿な!!』 しかし! カクバッタはなにを思ったのか湖へと跳ね飛び、 羽根をパタパタとはためかせて飛んでいくとガボッシャアンッ!! …………。 跳ね上がったカジキマグロに食われ、その生涯を終えた。 中井出「…………釣りすっべー!」 閏璃 「おー!!」 実際にカジキマグロが跳ねてエサを食らうかどうかは、この際どうでもいい。 僕らは浅橋の前に居た猫のごろうにエサと竿を貰うと、 ドパタタタと浅橋の一番奥へと走って、そこで釣りを……しようとして止まった。 中井出「……閏璃閏璃!あれ見ろあれ!」 閏璃 「え?なんだ?───ほぁあっ!?     ガ、ガノトトスじゃないか!なんでこんなところに……!」 湖の中心……とまではいかないが、結構続いている浅橋の先から眺めるに、 確かに存在するガノちゃんを発見。 ごろう『戻ってきてみたらいつの間にか住み着いてたニャ。     多分、地下水脈を通って海から来たに違いないニャ』 中井出「え?猫の里って水脈通して海に繋がってるの?」 ごろう『じゃなきゃこんなところにあんな大きな魚が居るわけないニャ』 ごもっとも。 そういえば以前にもそれっぽいこと聞いた気がする。 クワッと見てみれば、確かに湖の中心部はやけに暗く、 恐らくはそこに巨大な穴でもあるのだろうことを想像させた。 中井出「投網マシーンは!?」 ネネ 『ここにあるニャ』 浅橋の奥でゴニャウとお辞儀をして迎えてくれたのはネネさん。 その傍らには投網マッスィーンが! ネネ 『ようこそニャ、旦那さん。     この投網マシーンはネットがあれば底引き網の要領で魚が取れるニャ。     網で引き上げたもの湖のものはみんな撃った人のものですニャ。     ただし、たとえそれがゴミでも、きっちり受け取ってもらうニャ』 中井出「おお!では早速!」 ネネ 『使うにはネットが必要ですニャ。     ネットを作るにはクモの巣とツタの葉が必要ですニャ』 中井出「なにぃ!ネ、ネットなぞ持っていない!」 閏璃 「よし!探そう提督さん!」 中井出「イエーーーーッ!!」 閏璃 「調合イエーーーーッ!!」 そして竿をごろうに預けて走りだす。 僕はツタの葉、閏璃はクモの巣を求めて。 広い広い農場を走り回り、その度に目移りしたりして時間を食うが、それでも探す。 そんな中で巨木の前で、猫のくるりとともにハンマーをいじくってるナギーを発見! 中井出「あ、ナギー!ツタの葉見なかった!?」 ナギー『ツタ……は、あそこじゃの。なんじゃヒロミツ、なにかしでかすのかの?』 中井出「……そう、だけど……な、なんかヤなんだけど、その言い方……」 まるで悪事を働くみたいな言い方……。 “しでかす”って、なんか“やっちまった感”があるよね。 ともあれ指差された方向をチラリと見る。 ……うん、確かにツタがあるね。随分長い。 中井出「謝謝。で、ナギーはなにをしてるの?」 ナギー『うむ!この虫の木とやらを叩いて虫の採取をしておるのじゃ!     ハンマーを構えると体が光って面白いのじゃー!』 中井出「なんと!?ね、猫よ!僕もやっていいか!?」 くるり『一回につき300£(オロ)いただきますニャ』 中井出「……歴史は戻っても、通貨は変わらずですか。よし、支払おう」  コシャンッ♪《300£支払った!》  ゴシャンッ!《きんねこハンマーを受け取った!》 中井出「問答無用できんねこですか!?これタイミングシビアなのに!」 くるり『慣れれば目ェ瞑ってでもチョロイモンですニャ(実話)』 中井出「いやそうだけどさ(実話)。可愛い名前なのにシビアでニヒルなのねキミ」 ともあれハンマー。 グッと握ってみると、自然と体が捻られてゆき……光る! ステキ!なんてステキ!綺麗で素敵!私みたい! とんだナルスィーだぜあの女!今頃どこでなにやってんだか! 中井出「ふむ……よし!《グゴゴゴゴゴゴ……ドシュゥンッ!》ここだ!」 体から放たれる光が最高に達した時! 僕はさらに力を込め、一気に力を解放! 振るわれたハンマーはどすーんという音を立てて……木に弾かれた。 中井出「ゲエッ……!中心点外した!」 中心が当たれば弾かれることもない筈なんだが……おお、これは難しい。 ハンマーをどすんと置くと、一応木から落ちてくれたらしい虫を拾ってきてくれるくるり。 受け取ってみると……  コシャンッ♪《のりこねバッタを手に入れた!》 …………バッタ? ……な、何故木の上にバッタが……! しかもミスしたとはいえコレだけとは……。 インチキ…………!これはインチキ…………っ! 中井出「もっかい!もっかいやらせて!ね!?     今の間違いだよ!?僕ほんとは出来る子だもん!!」 ナギー『誰に言い訳しておるのじゃヒロミツ……』 誰だろうね。 でも手持ちに300£がなかったので諦めることに。 ……うん、また来よう。 中井出「えーと……そうだクモの巣とツタの葉」 閏璃はどこらへん探してるかな。 ここ結構広いから、一度森側に入るとなかなか目当ての人って見つけられないんだよね。 ツタの葉はナギーが指差したところにきちんとあった。 あとはクモの巣か……あ、でも一応ツタの葉も結構持っていこう。 ……………………よし、と。 中井出「さてはうあ!」 キノコ……キノコだ! キノコを発見した! これは採取しなければ! 今日のメニューはキノコ雑炊チェン。 …………。 ふぅ〜〜、思わず沢山採ってしまった。 っといかんいかん、そろそろ閏璃も戻ってる頃だろうし浅橋に戻ろう。 自分の考えにこくりと頷くと、足取り軽く、たったかと浅橋へ向かった。 中井出「いやぁ……自然っていいなぁ」 ただいまの感想はそんな感じ。 空が赤いために、ずっと夕暮れの森の中に居るみたいな感覚だ。 それでも朝の空気は決して変わらず、 息を吸うたびに肺を満たす艶やかな感触がなんとも心地いい。 中井出「とぉーーーーーう!!」 高い位置からヴァシューと飛び降り、スタッと降りれば浅橋前。 山の窪みの中の里だ、ずっと平坦な場所が続いているわけでもないから、 さっきの鉱石採掘場と同じように地形はデコボコしている。 高いところからのジャンプって、なんかやりたくなるんだよね。 ……と、それはそれとして、既に閏璃は投網マッスィーンの前に居るようで、 それを見たら急がなきゃいけない人のサガが働き、僕は小走りに近寄った。 中井出「やあ」 閏璃 「おお提督さん。……って、なんだそのキノコ」 中井出「森の中でたくさん見つけたから採ってきた。ドキドキノコばっかりだったけど」 閏璃 「へえ〜……食べたらどうなるんだろ」 中井出「生で食べると恋をしてる時の気持ちが味わえるってさ。     茹でて食べると楽しい気持ちになれて、焼いて食べると幸せな気持ちになれて、     漬物にして食べると素直な気持ちになれて、凍らせて食べると切ない気持ちに。     ……フルコースで食べると、もう最高に恋する乙女モードだね」 閏璃 「だなぁ……」 ふぅむ。これは是非とも確かめてみたい。 でも好きでもない人に恋をしている気持ちになるのは嫌なもんだ。 あれ?でも気持ちになるだけで、誰かを好きになる的な毒素はないんだよな、これ。 …………よし。 中井出「いただきまんもすーーーっ!!《バクリ!》」 閏璃 「あ」 中井出「《モチャリモッチャモッチャ……》あ……生でもイケるこれ……」 閏璃 「え?ほんとか?どれ……《バクリ……モッチャモッチャ……》あ……ほんとだ」 美味い!と叫ぶほどではないんだが、なんていうかこう……なぁ? ずっと噛んでいたい食感というか、味も結構あって……言葉にするなら─── 中井出「言葉にするなら」 閏璃 「静かに美味い」 中井出「それだ」 騒ぐほど美味くないが、しみじみ言うなら確かに美味い。 そんな感じだ。 中井出「《もぐもぐ……ごくり》…………ふむ。     んー……べつになにも《きゅんっ……!》はうっ……!」 閏璃 「《ごくり》……?どした?《きゅんっ……!》はうっ!!」 なに……なんなのこの胸のトキメケ……! 僕の胸が……トキメケに襲われている……!! なにに、とかそういうのがなく、ただ漠然とトキメケに襲われている……! 中井出「お……オアアアア……!!恋……これが恋!     なにに恋してるのか解らないから物凄く切ない!!」 閏璃 「やばい!これやばい!胸が……胸が苦しい!切ない!」 え、ええとこれは……言葉にするならこれは……! 中井出&閏璃『ぶつける相手が欲しい!!』 だ。 でも居ないので諦めるしかなかった。 中井出「ウ、ウウ……!これは困った……!どうしたものかこの恋の嵐……!     誰かにぶつけたいのに相手がいない、この寂しさと切なさと心強さと」 閏璃 「“誰か”じゃなくて“なにか”に恋して治めるしかないだろ……。     問題はなにを恋するかだが……」 中井出「………………ところで僕はポニーテールが好きなんだが」 閏璃 「いきなりだな……俺はダメだ。     来流美がポニーな所為で、こう……男勝りのイメージしかない」 中井出「まあ……多くの男勝りキャラがポニーな気がするしな……。     ……ところで僕は黒タイツも好きなんだが」 閏璃 「………」  ガッ! 無言の握手が交わされた。 閏璃 「黒はいいよな、黒は」 中井出「俺は黒ニーソも大好きだ。好きさ加減で言うなら黒ニーソの方が好きだが、     ここは敢えて黒タイツでいこう」 閏璃 「下着が黒とかは正直頂けないが、黒タイツは別ものだろう」 中井出「……そうだ。だったら黒タイツに愛を注ぎ、この恋を安定化させよう」 閏璃 「男二人で黒タイツ話ってのもどうかと思うが、この際已むを得まい……」 こうして僕らは黒タイツについて熱く語り始めた。 最初は困り顔だった閏璃も僕もやがて黒タイツに本気で恋をし始め、 語り合う声にはどんどんと熱がこもってゆき……!! 悠黄奈「あの……こんな場所でなにをタイツタイツと語り合っているんですか……?」 中井出「………」 閏璃 「………」 と、そこへやってくる人影ひとつ。 悠黄奈さんである。 パレオを長くしたような布を腰から流すように巻き付け、 右足は隠れているものの左足は巻き方のためか膝上あたりまでしか隠れていない。 そして……その左足に見えし黒のコントラストは───バサァッ!! 悠黄奈「……ぴえぇっ……!?」 奥義、スカトトめくり。 その先に見えるは、燦然と輝く黒タイツさま……!! 中井出「うおおおおお黒タイツーーーーッ!!」 閏璃 「黒タイツ黒タイツ黒タイツーーーーッ!!!」 悠黄奈「《がばーっ!!》きあああああっ!!?ななななにをっ!!?     ひあわっ!?どこ触って───やめなさい!!」  ゴバッシャァーーーーン!!! 中井出&閏璃『ギャアアアアアアアアアアア!!!!!』 恋に狂って黒タイツ様を襲った僕らは、 悠黄奈さんのアブソリュートでボコボコにされました。 ……。 で、正座である。 浅橋の手前にビシッと正座した僕と閏璃は、 悠黄奈さんに怒られつつ悠黄奈さんの目を見ていなかった。 悠黄奈「いいですかっ!?女性のスカートというのはですね!     ある意味聖域とも呼べる空間で、     そんなバサバサめくっていいものではないんです!     大体なんですか黒タイツ黒タイツって!」 中井出「恋しているんです《キリッ》」 閏璃 「I Love You《キリッ》」 悠黄奈「足元見ながら頬を染めて真顔で言わないでください!!」 いやしかし……これがキノコの力だって解っていても止められないこの想い。 なんと甘美なのでしょう……あなたの全てが愛おしい。 でも今はズボンを穿かれてしまっていて、どうにも黒タイツ様が見えない。 悠黄奈「とにかく!ズボンを穿かせていただきましたからもう無駄ですよ!     そもそも《ずりゃあっ!》ひあっ……!?」 中井出「オッシャァアア黒タイツーーーーーッ!!」 閏璃 「黒タイツ黒タイツ黒タイツ黒タイツ黒タイツ黒タイツ!!!」 悠黄奈「いやぁあああああああああっ!!!?」 欲望に負けてズボンをずり下げた先に黒タイツ様。 そして僕らは次の瞬間、怒りのフェンリルブレスによって氷結したのでした。 ───……。 ボロッ…… 中井出「ごめ……ごめんまふぁい……」 閏璃 「もうひまふぇん……ゆるひてくらはひ……」 氷結されたのち、顔だけ溶かされて往復ビンタ地獄を味わいました。 まるで顔面だけ狙われたミッキーロジャースのように海坊主顔になった僕らは、 溶かされたあともやっぱり浅橋の上で正座させられてガミガミと怒られています。 この頃にはもういい加減にドキドキノコの効果も切れていて、 今更ながらにとんでもねーことしちまった……と赤面と自責地獄ですよ。 産まれてきてごめんなさい。 スカトトめくりどころか女のズボンずり下げるってどれほど変態ド畜生ですか僕……。 悠黄奈「反省してますか?」 中井出「はひ……お詫びにこれどうぞ……」 悠黄奈「キノコ……ですか?」 中井出「はひ……とても味わいあるキノコで……生でイケます……」 悠黄奈「そうなんですか……《はむ……もくもく》…………あ、美味しい……」 中井出「飲み込んだら……ナギーのことを強く思い描いてみてください……」 悠黄奈「《こくん……》ナギちゃんですか?……んー………………《きゅんっ》はう!」 中井出「…………《ニヤリ》」 閏璃 「…………《ニヤリ》」 さて行こう……ガノトトスが僕らを待っている。 ズドドドドドドドガヴァーーーーッ!! 声  「ナギちゃぁああーーーん!!あぁあんナギちゃぁあーーーーーん!!」 声  『ふわぎゃあっ!?ななななんなのじゃ!?これ!急に抱きつくでない!     なにを───ひやわぁあああっ!!?ほほほ頬擦りするでないぃいっ!!     あっ!やっ!どどどどこを触っておる!やめっ……きあーーーーーーっ!!!』 声  「大好き……大好きぃいーーーーーーっ!!らぶりぃいいいぃいいいっ!!     ら、ららら、らっ……らぶりぃっ!!うおおおおらぶりぃいいいいいいっ!!!     ちゅぅうううううううううっ!!!」 声  『ふぎゃーーーーーーーーーーーーっ!!!!     ややややややめるのじゃあああああーーーーーーーーーっ!!!』 歩いてゆく僕らの視界の横で、ハチミツでもなめたくなったのか、 蜂の巣箱を覗いていたナギーに襲い掛かる悠黄奈さんが見えた。 まあ……なんでしょうな。……悪は去った……。 ───……。 ……。 コヒューーーーン!!───ばしゃーーん!! 閏璃 「うおくそっ!外した!」 そんなわけで投網マッスィーン。 しかしなんとかしてガノちゃんを狙うも、遠くに居すぎて届きやしない。 結構警戒心が強いようで、あまりこちらに近づいてきやしねー。 ならばと釣竿を用いるが、当然届くわけもない。 なにせリール式じゃないからね。 ……ってそうだ、ミクにノヴァルシオにアクセスしてもらって、 アンチウィルス的なものを作ってもらわないと。 このままでは武具たちが可哀想だ。 でも今はこの、飛び道具も霊章能力もない僕でいろいろと遊んでみようと思う。 ……というか。 中井出「ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!はあああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」  …………ギピンッ♪《ウィルス転移!ウィルスの方向性が射撃から斬撃に変わった!》 中井出「わあ」 思いついたことをやってみて驚いた。 ようするにあのー、このウィルス野郎は遠距離と長距離とで転移が可能なようだ。 飛び道具を封印すると斬撃が使えて、斬撃を封印すると射撃が、って感じで。 お陰で武具が自動でホズになって、霊章が肩甲骨まで伸びた。 ……霊章は射撃側のスキルなのか。まあ納得だけど。 でもこれはいいな。 アタッカーとシューターとで切り替えできるのはむしろ面白い。 でもエンペラータイム使っても両方発動できなかったところをみると、 エンペラータイムでもウィルスの力は崩せなかったってことか? ……いやいや今は考えるまい。 では早速火闇を伸ばしてガノちゃんを捕まえ…………たら負けだ。 中井出「熱き男の戦いってのは同条件で立ち向かってこそ栄える!     さあ閏璃よ!次は僕の番だ!」 閏璃 「おお!」 調合したネットを備え、投網マッスィーンに填め込んでゆく! えーとこのレバーを上げて、開いた空間にネットを詰め込んで…… あとはレバーを横に回したあとに縦に強く叩き込んでレバーを下ろす……と。  カキッ、コンッ───ヂャコンッ! モンハンの、弓にビンを装填するような風情でネットを装填する。 そうしてカタカタキリキリと照準を合わせてゆき…… 中井出「シュートヒム!」  コヒューーーン……ゾッパァーーーン!! ……風の所為で見当違いの方に飛んでいってしまった。 仕方なくネットを引き上げにかかるが───《ぐっ》……おや? 中井出「ぬっ!くっ!な、なんだ?何故か重い……!」 閏璃 「おお?もしやカクバッタの怨敵、カジキマグロの野郎か?」 中井出「いや、解らんが……ともかく負けん!     地球を釣ってしまったわけじゃないようだから、引っ張ればなんとかなる筈さ!」 閏璃 「おおよし!では俺も手伝おう!」 中井出「多謝!ではいこう!オーエス!オーエス!」 閏璃 「随分また懐かしい掛け声だな!よし!オーエス!オーエス!」 中井出「オーエス!オーエス!《ぐっ!ぐいっ!》」 閏璃 「オーエス!オーエス!《ぎゅっ!ぐきっ!》」 僕らは引いた……投網を。 きっとなにか大物の予感を胸に、とにかく引いて引いて引きまくった。 中井出「オーエス!オーエス!オー…………XP!XP!」 閏璃 「ビースタ!ビースタ!」 中井出「ウィンドウズ!ウィンドウズ!」 閏璃 「マーック!マーック!」 中井出「パラッパッパッパ〜♪」 閏璃 「アイムラビニィッ!!」 中井出「……ラービニット!ラービニット!!」 閏璃 「ラービニッ!ラービ兄ィッ!」 中井出「うーさぎ!うーさみっ!」 閏璃 「うーなぎっ!かーばやきっ!」 中井出「うーなどんっ!どーんぶりっ!」 閏璃 「やき〜ものっ!せと〜ものっ!」 中井出「か〜まどっ!す〜すっ!」 閏璃 「火〜花っ!は〜なびっ!」 中井出「たーーーーまやーーーーっ!!」 閏璃 「たーーーーまやーーーーーっ!!」 中井出「かーーーぎやーーーーっ!!」 閏璃 「かーぎやぁああああああっ!!」 中井出「カイヤ!!」 閏璃 「カイヤ!!」 中井出「カイヤ!カイヤ!」 閏璃 「カイヤ!カイヤ!カイヤァアーーーーーッ!!!」 途中からワケの解らん掛け声になったのを大して気にせず、 とうとう僕らは投網を回収することに成功───…………ザバリ。 精霊 『…………あなたが引き上げたのは泉の精霊ですか……。     それとも急に網を投げられて身動きが取れなくなった哀れな精霊ですか……』 中井出「ただのブスです」 精霊 『貴様は敵だ!!』 いずみのせいれいがおそいかかってきた!! 中井出「ヒィ!?じょ、冗談ですごめんなさい!!ただの勢い任せの冗談で───」 精霊 『黙れ下等生物が!!』 だめだはなしにならない! いずみのせいれいはやるきだ!! 中井出「いいから聞けこの濡れ女!!」 精霊 『濡れ女!?』 浅橋の先っちょに、泉の精霊の驚愕の声が響いた。 中井出「なんで貴様がここに居るんだこのアマァアアア!!     大物が取れたと期待したらなんで精霊引き上げてんだよ!     エルフを狩る者たちかこの世界は!!」 精霊 『静かな場所へ移動してみたらいきなり捕まったのです!     わたしは悪くありません!』 中井出「うん悪くないねー。悪くないからとっとと失せろ」 精霊 『せっ……精霊に向かってなんてことをっ!』 中井出「精霊だからなんだー!僕は差別なんざしないのだ!     だから帰れ!このキノコあげるから!」 精霊 『いりませんそんなの!とにかく!ここは新たなるわたしの泉に決定しました!     汚らわしい人間め───この網を解いて去れ!!《クワッ!》』 中井出「………」 精霊 『《ズリズリズリズリ……》あ……あれ?     あのー……どこに引きずっていくんでしょうかー……。     あの。汚らわしいはちょっと言い過ぎました。出来ればその……無茶は……。     あの!?どうして蜂の巣箱の前まで引きずっていくんですか!?』 中井出「《にこり》」 精霊 『やっ、やっ───やぁああーーーーーーーっ!!!』 その日。 一人の泉の精霊さんの悲鳴が、猫の里にこだました。 ───……。 ……。 ヒュゥォオオオオ…… 悠黄奈「申し訳ありませんでした」 精霊 『配慮が足りませんでした……もうしません……』 何故か僕らの前で土下座する二人の女性が居ました。 浅橋の上に悲しい風が吹いています。 中井出「いやあの……そんな土下座なんて……」 悠黄奈「いえ……いえ!あの溢れる恋心を人に向けるのではなく、     モノに向けた根性は見事です……!わたしにはそれが出来ませんでしたッ……!     なのにわたしは事情も知らずに罵倒を……!」 いや、それは僕がナギーを思い浮かべてみろって言ったからで…… 精霊 『それであの……お詫びの印になにか適当なものを、     金か銀に変えてお贈りしたいんですが』 中井出「泉の精霊のセオリーだねそれ。でも金も銀も要りません」 精霊 『まあっ!なんと欲のない!』 中井出「代わりにさ、この湖を守ってやってください。     僕ら、年中ここに居られるわけじゃないから。     それで、出来れば投網の時は浅橋あたりに腰掛けていてもらえると嬉しい」 精霊 『…………え?居ていいのですか?ここに』 中井出「いいですとも!」 精霊 『……!《ぱああっ……!》あ、ありがとうっ……ありがとうございますっ……!     竜の泉を追い出されてしばらく、     もう何処へ行けばいいのか途方に暮れていました……!     感謝します、ありがとう……!』 中井出「ホエ?」 竜の泉を追い出されたって……何故? そんな疑問が僕の表情に浮かんだのでしょう。 泉の精霊は少し目を伏せてから説明してくださりました。 精霊 『竜の泉の傍には、竜族の墓、と呼ばれる場所があります。     そこにはスカルドラゴンというアンデッドドラゴンが居て、     ここ数年で彼の凶暴性が増してきているのです』 中井出「……なぜ?」 精霊 『自然の欠如と皇国の横暴、次々と脅かされる竜族の住処。     竜族の絶対数が減り、機械技術の前に破れる己を悔い、人間たちを恨み、     その骸や魂が竜族の墓へと送られ、スカルドラゴンの力になる。     つまり……竜族の人間への恨みがここ数年で臨界点を突破したといえます』 中井出「なん……だと……!?」 閏璃 「モクバ!それは本当なのか!」 精霊 『誰がモクバですか!……とにかく、今はそういう状況なのです。     怒り狂ったスカルドラゴンの傍に居られるわけもなく、     わたしはこうして新天地を目指して泉から泉へと移ってきました。     ……見ての通りガノトトスも居ますが、彼女は友好的でしたので』 総員 『雌なの!?』 精霊 『ええ……?一目瞭然じゃないですか』 総員 『………』 いや……どう見てもただのガノトトスですが……。 精霊 『彼女はここに子孫を残しにきたのだと言います。     安心してください、ここに居るものたちに危害を加えることはしないそうです。     ただ、空気が悪くなったのと同時に水の質も落ちたこともあって、     わたしたちや水の生き物が住み辛くなったことは確かです。     だからこうして、安全に子孫を残せる場所を探したのだと思います。     …………どうか、許可願えませんでしょうか』 中井出「私は一向に構わんッッ!!」 閏璃 「おお提督さんナイス男意気!」 悠黄奈「博光さん……!」 精霊 『……!感謝いたします!』 中井出「なんかもうここ亜人族でいっぱいだし、人間以外の闖入者なんて今更でしょう」 閏璃 「人間はダメなのか」 中井出「だって僕魔王呼ばわりされてる魔人だし。     だからきっと、ここに来る人間なんてろくなこと考えてないよ、うん」 閏璃 「……それもそうだなぁ」 世知辛い世の中です。 でも僕らはここで暮らします。 暮らしながら、強さを磨いていこうと思います。 ……て言っても、僕の場合は武具の強さを磨くわけですが。 中井出「《くぎゅう〜……》っとそうだった!メシがまだだ!     朝っぱらから暴れまくってた所為で腹減った!」 閏璃 「けどキノコ以外特に食材集まってないぞ?」 悠黄奈「畑では結構野菜が採れましたけど」 精霊 『ではこちらの魚をどうぞ。何人で食されるのかは解りませんが、大きいのを一尾』 そう言って、泉の精霊が湖から引き上げたのは、わりかし大きな魚。 ……ていうかカクバッタの怨敵、カジキマグロだった。 精霊 『……足りますか?』 中井出「十分です」 謝謝とソレを受け取り、バイアイ、と奇妙な声を出しつつ別れを済ませる。 精霊は笑顔のままに湖への消え、僕らもやがて………… 中井出「いかん!これでは僕らはなにも集めていない!」 閏璃 「キノコは?」 中井出「こんなもん食わせたら食堂が恋地獄になるわ!     面白そうだけど血生臭い恋はご勘弁!」 閏璃 「けどさ。なんだっけ。茹でるとどうなるんだっけ」 中井出「……あ、そっか。茹でれば楽しい気分に……よし作ろう!」 悠黄奈「生では絶対に出さないでくださいね……」 閏璃 「アレはもうごめんだ……」 中井出「うん僕も……」 僕ら三人は顔を赤くしながら要塞のキッチン目指して歩き出しました。 ……カジキマグロを背負いながら。 ───……。 ……。 そしてまた採取。 カジキマグロを猫たちに任せ、僕らは僕らの分の食材を求めて農場を走ってる。 急な斜面を登り、樹の間を潜っては、よい食材はないかと───おやシードだ。 シード『あっ……父上父上!見てください!こんなに山菜が!』 中井出「おお!アミウダケにマガゼンマイにオボロマガグサにドクロブキ!     これだけあれば仲間全員を毒殺することも全部毒じゃねーか!!」 シード『え?うわっ!見せるカゴを間違えました!こっちは調合用です!     父上!こちらです!』 中井出「むう!そうであったか!これは博光早合点!」 途中でばったりと会ったシードが嬉々として見せてきたカゴには山菜がいっぱいだ。 中にはアクがかなり出るものもあったが、 下処理をちゃんとすれば美味しく仕上がりそうだ。 中井出「うむよくやった!ではシードよ!     そろそろ朝食の準備が始まる故、貴様は猫たちの手伝いに回れ!     魔王の子という事実を今は忘れ、     猫たちの指示に従ってむしろ楽しんでくるのだ!」 シード『サーイェッサー!!』 ビシィッ!と敬礼をしてから駆けてゆくシードの顔は、それはもう燥ぐ子供のソレだった。 うむうむ……楽しそうでなにより。 レイル「おーぅい提督さーん!」 中井出「やあ」 レイル「やあ。見てくれ提督さん、     スパイスになりそうな木の実とか、いろいろ見つけてきたぜ」 中井出「……こりゃまた随分と沢山」 レイル「スパイス作りとか結構好きなんだよ。ピザ屋回ってる時に身に着けた知識だ。     市販品にはない自分のオリジナルテイストが作れる……     それが自然から作るありがたさ」 中井出「なかなか市販には勝てないのが腹立たしいけどね」 レイル「解ってくれるかその辛さ!まあいいや、俺戻ってスパイス作ってるから。じゃ」 中井出「おー」 ウハハハハと笑いながら坂道を駆け下りてゆくレイル氏を見送る。 やあ、楽しそうでなにより。 僕も自分に合ったなにかを見つけなければ。 ───……。 そんなこんなで材料を得た僕らは農場から要塞へと戻り、 キッチンへと潜り込みむと料理ドン。 猫たちはもちろん猫用キッチンを使って、 僕らヒューメンはヒューメン用キッチンを使っている。 閏璃 「待ってろよ〜提督さん。     現実世界で約束したとおり、とびっきりのソバ食わしてやるから」 中井出「あ、忘れてなかったのね。てっきり出会い方が変わったって過去があるから、     そっちのことは忘れてると思ってたのに。     よし、ならばこの博光も我が全霊をかけたうどんを食わせよう!」 うどんとそばを粉から作る男ふたり。 新鮮な粉を使い、練って伸ばして切って、30分ほど寝かせてから使用する。 うどんはもっともっと寝かせたほうがいいんだが、生憎と時間がない。 だから細打ちにして軽く発酵させるような感じで置いておく。 切る前に発酵させたほうがいいんだけどね。仕方ないね。 僕はその間に雑炊の用意もする。 うどん用のつゆももうすぐ完成。 ううむ、やはり料理はやり始めると止まらん。 閏璃 「よし!完成です!《じゃじゃーーん!》」 中井出「なに!?よ、よし!僕も完成です!《じゃじゃーーん!》」                                  まるで料理対決のように完成を宣言する。 ……にも係わらず、僕らは気になるところを見つけるやちょちょいと手直しをしたりする。 小者ですね、ごめんなさい。 ───……。 そうして下準備も終わり、うどんも茹でて皆様をてっぺんの大砲台広場まで集めると、 そこにどっかりと座るようにして最後の仕上げにかかる。 いつでも食べられるようにと各種鍋を用意して、好きなものから適当に取って、 上下関係など気にしないで好き勝手に食べましょうって集まりだ。 閏璃 「いっただっきさまー!」 中井出「誰がキサマだコノヤロウ!」 閏璃 「そういう意味で言ったんじゃないって!!」 まず最初に茹でドキドキノコを配って、食べてもらう。 集まった亜人族や僕ら、そして精霊の皆様も揃って箸を進める。 ナーヴェルブラングもむしろどっかりと腰を下ろして、 なにかっていうとシードとベラベラ楽しげに話してる。 シードももういい加減慣れたのか、仕方のない、って顔をしつつも返事を返している。 よいことです。 中井出「《ゾボボボボ……》むぐっ!?ン、ンマイ!」 閏璃 「フフフ、美味いだろう……?即席とはいえ、そう悪くない味だと思うぞ。     ほんとはもっと汁を寝かせたいところだが、生憎と大きなカメもない。     《ゾボボ……》ん。けど結構いい味になってると思う」 中井出「即席でこれだけの味が出来りゃ十分だって!ウマイウマイ……!」 レイル「ピザを焼いてみたんだが、食うか?」 二人 『すげぇ!!』 中井出「ここの設備でピザ焼くか!?」 閏璃 「どれほどピザに情熱注いでるんだアンタ……」 レイル「いや……焼くのには鍛冶工房の火力を借りたんだけどな。案外なんとかなったぞ?     ……失敗作がスミクズと化したのは言うまでもないけど」 中井出「そりゃそうだろ……」 閏璃 「《もく……》……やばい、このピザ美味いぞ」 中井出「なにぃ《もく……》うわ、マジだ」 レイル「苦労したんだ、この焼き具合に治めるの……。     もう一度やれって言われても今日中にはまず無理だ……」 でしょうね……。 とまあそんな風にして、騒ぎながらの食事。 時には歌ったり時には笑ったり、 まず最初に茹でドキドキノコを食べてもらったことが効いたのか、 みんなもう楽しくて仕方ないって顔だ。 プライドの高い天使族ももう今までの堅苦しさをかなぐり捨てるような破顔っぷりで、 シェーラシェーラなんて爆笑しながら僕の背中をバシバシ叩いてくるほどだ。 ……こう、軽く酔ってるような感じなんでしょうか。  そんな賑やかさに釣られて、ようやく暖かくなる霊章。 それはとても身近で暖かい感触の目覚め。 楽しくなれば、すぐ目覚めると思っていた。 だから、ってわけじゃないけど……この宴を開いて正解だったと思えた。 中井出(ホレ、アルビノ。お前も騒げ。     霊章の中で悪いけど、そこにも仲間は居るだろうから) 霊章の中にはユグドラシルの大樹があるって聞いた。 俺には見ることは出来ないけど、多分みんな、その樹の下で笑ってる。 レオンとかサイナートとかレイナートとかセトとか、 人間以外を除けばモンスターばっかりな気もするけど、 まあそれだけ異例のメンバーなら楽しくない筈もない。 身近な気配が暖かくなるのを感じて、俺は顔を緩ませた。  ……さあ、ようやくここまで来た。 あともう少し。 あと僅かのうちに俺がどれだけの障害になって、あいつらの力を引き出せるか。 それがきっと、未来を切り開くための鍵だ。 俺の力は強ければ強いほうがいい。 だからノヴァルシオは破壊せずに持ち帰った。 準備の8割は整ったんだ。 あと少し……うん。頑張っていこう。 それまで泣き出して、挫けてしまわないように……とーさん、かーさん。 じーさん……ばーさん。 俺に……もっと勇気と覚悟をください。 中井出「……はは」 願いを乞える相手が故人しか居ないなんて滑稽かもしれないけど、 俺はもうずっとそうやって生きてきた。 妻や娘に勇気を乞えるヤツでもなかった俺は、 見栄ばっかり張っては失敗ばかりでよくヘコんでいた。 そんな俺だけど、この夏の刻にだけは、せめて最高の成功を治めたい。 たとえその過程で俺が死んでしまうのだとしても、 その死がどこまでも自分のためであったと誇れるように。 中井出「っ……みんなぁっ!忘れてたぁっ!乾杯しよーぜ乾杯ぃいっ!!」 総員 『うっひゃっほーーーーい!!!』 束の間の平和は続いてゆく。 この夏の間だけ、この最後のログインになるであろうヒロラインの世界の中でだけ。 やがて訪れる崩壊の時まで、俺は何処まで“自分の居場所”で笑ってられるのだろう。 そんなことを考えながら───俺は、ここに居るみんなと今日一日を笑いながら過ごした。 Next Menu back