───冒険の書315/かつてを超える者たち───
【ケース787:晦悠介/東の果てに見るもの】 ややあって、ようやくついた東の集落。 東っていうだけあって、東と西の境の東に位置する場所にあった。 こう、地図の最果てって言うのか?境目だな、うん。 彰利 「ふっへぇえ……なんつーか……原始的」 悠介 「ああ……」 ファンタジーがどうとかではなく、原始的って言葉がよく似合っていた。 家と呼べるものはなく、藁で編んだようなテントがいくつかと、 布で作ったテントがいくつかある程度。 集落の住人は皆、布の服のみの装備で、 寒くないのだろうかと訊きたくなるくらいの軽装だった。 ……と、そんな風にしてあたりを見ていた俺達の前に歩み寄る若者が一人。 若者 「何の用だ」 悠介 「……っと……」 目つきはするどく、キリッとした出で立ちだ。 何の用……用か。 俺は紹介文が書かれた紙を取り出すと、若者に渡す。 若者はそれに目を通すと─── 若者 「いいだろう。こっちだ」 クッ、と顎で先を促し、歩いてゆく。 ……なんだろうな、どうにも友好的じゃない。 彰利 「なんかトゲトゲしとらん?」 悠介 「人里から離れた場所にあるって時点で、     人間があまり好きじゃないのかもしれない」 彰利 「人間なのに?じゃあ自分も嫌いなんかね」 悠介 「ばか、人間が嫌いなヤツってのはな、     そういう返し方をするヤツが一番キライなんだよ」 彰利 「…………やべぇ、解る気がする」 かつて人間を嫌った俺達だ、そりゃ解るさ。 ……ともあれ、俺達は若者の後に続き、歩いてゆく。 各所で住人にチラリチラリと見られる……が、なんだろうな。 凄く穏やかな視線なのに、内側まで貫かれるような鋭さがある。 若者 「ここだ」 悠介 「へ?あ、ああ」 促されて立ち止まった場所は、大き目のテントの前だった。 促されるままにテントに入ると、奥にモゾリと蠢く老体。 ……どうやら長老かなにからしい。 長老?「よう来た……では早速、秘奥義“ナイアガラカモノハシの舞”の伝授を……」 悠介 「全力で要らんのだが!?」 長老?「なんと……欲のないヤツだ。ではもう貴様に奥義の類は教えん。     で、“虹”の錬成が用件じゃったな?」 悠介 「い、いやちょっと待ってくれ……!奥義って……教えてくれるのか?」 長老?「人外用の奥義ならばな。人用の奥義はおぬしらには無理じゃて」 彰利 「なして!?アタイら人間───」 長老?「混ざり者にゃあ不可能じゃよ。それに、もう全てを託した者がおる。     そいつ以外に教える気なぞないからのう」 悠介 「……そいつって?」 長老?「おおホレ、今話題の魔王じゃ」 悠介 「ンナァアーーーーーーーッ!!?」 まおっ……魔王!?また魔王!?人気者だなぁ魔王!! 長老?「10年前にも一度来たんじゃが、一ヶ月前くらいじゃろか。     人器が安定してきたから、“人の業”をより深く教えてくれとな。     ワシが教えられる人の業は全て教えた。面白いくらいスイスイ覚えたぞ。     ……そのあとの筋肉痛に咽び泣く姿もまた面白いくらいじゃったがなぁ。     ま、安心せい。人器を使わない限り、今のあやつにゃ扱えん」 彰利 「アタイにも教えれ!     魔王に出来て、かつて死神王と謳われたアタイに出来ねー筈がねー!」 長老?「出来ん。無理じゃ。諦めい。     見たところおぬしは、神、死神の回路を持った存在のようじゃ。     そのふたつが上手く合わさり、人の魂として降りているにすぎん。     そんな状態では人の業など会得することは出来んよ。     “人”の回路がないのじゃからのう」 彰利 「ぬ、ぐう……!魔王は!?魔王はマジで人の回路だけなん!?     あんだけ強ぇええんだからもっとこう───」 長老?「人の回路のみじゃ。それのみを最大限に生かした生き方をしておるよ。     それに比べておぬしたちは随分と中途半端よのぅ〜〜〜」 彰利 「グ、グウウ……!」 値踏みされるようにじろじろと見られる。 けど、それは必要だからこそそうしているのだと、不思議と俺達は解ってしまった。 長老?  「よし、まずは自己紹介からじゃろう。       ワシはこの集落で最も年寄りの、グラハム=ベールという」 悠介   「……?いやちょっと待て。年寄りなだけか?長老じゃなくて?」 ベール  「年寄りなだけじゃ」 悠介   「…………長老は?」 ベール  「さっきからおぬしらの後ろに居るが?」 悠介&彰利『っ!?』 バッと後ろを振り返る! ……が、なにも居ない。 彰利 「な、なんじゃい驚かすねぃベールさオワッ!?」 で、向き直った先には別人が。 さっきまでのしわくちゃさんじゃなく、キリッとした老人だった。 長老 「では始めよう。私がこの集落の長老キリトという。     お前たちの名は晦悠介と弦月彰利で間違いないな?」 悠介 「え……な、んで……」 長老 「人間、極めることを極めればいろいろと知ることもある。     先ほどはベールが失礼した」 仕掛けを教えてくれる気はないらしい。 ……ああ、それでもいい。 俺が願ってるのはそんなものの知識じゃない。 悠介 「用件は虹の錬成……だけど、その前に教えてほしい。     魔王に人の業っていうのを教えたっていうのは───」 長老 「事実だ。だが安心するといい。     ヤツが覚えたのではなく、人器が覚えたというべきだ。     ヤツには“才能”と呼べるものがまったくなくてな。     だからこそ人器という能力で人の回路を満たした後でなくては使えない。     いろいろと弱点があるわけだ」 ……? それは、教えて貰ってありがたい情報だが─── 悠介 「まってくれ。どうして───」 彰利 「なしてオイラたちにそれ教えてくれるん?     魔王と仲良いとか、そういうんじゃないの?」 長老 「さて、それは教えてやれないな。     それで、どうする。学んでいくのかいかないのか」 訊きたかった疑問を彰利が口にしてくれたが、キリトはなにも話そうとはしなかった。 踏み込んでみようとも思ったが、 きっと話してくれないだろう……そう思わせるなにかを感じた。 彼は先ほどから俺達の“目の奥”を見て話している。 多分……そうやって“相手に解らせる力”っていうのもあるんだろう。 強すぎる力を前に、“自分では勝てない”と思わせる威圧感って武器があるように。 悠介 「学んでいく」 彰利 「学んでいく」 だったら、みんなまとめて学んでいく。 今の俺達では届かない領域なんて腐るほどある。 竜を倒せたから最強になれるとか、そんな次元の世界じゃないのだ。 黒竜王を倒せたから、世界を倒せたから強いと思える時代など過去のこと。 俺は自分が最強だと思いたいから“ミルハザード”と戦ったんじゃない。 譲れないなにかがあったから戦ってきた。 その先を手に入れるためなら、人でなくてもいいと思えたのだから。 長老 「……そうか。ならば、他の連中も連れてこい。     全員まとめて面倒みてやろう。だがひとつ約束をしてもらう」 悠介 「約束?」 思わずごくりと喉が鳴る。 約束……約束? いったいどんものだろうか。 長老 「強くなりたいのなら、言われるがままに受け入れていけ。     これはああじゃない、それは受け入れられない、     などといった下らんプライドは捨て、つべこべ言わずに受け入れろ。     誰かの知恵を受け入れ強くなるということは、そういうことだ。     それが約束できるのなら、頷け」 …………。 迷いはなかった。 だからすぐに頷き、tellを全員に回す。 長老 「言っておこう。お前らの言う魔王は、お前らが思うよりも遙か高みに居る。     中途半端な修練を積み、これなら出来るかもしれないと、     力試しに行くことを私は許可しない。行くなら全てを得てからだ。……いいな?」 彰利 「……キミでも勝てねぇの?」 長老 「馬鹿な。私が実力を発揮したところで、お前らにすら勝てん。     だが教えてやれることなど、それこそ腐るほどある。     総合では負けるが、基本の能力ではお前らなどヒヨコになる以前のカタチだ。     故に教えてやる。時間はかかるだろうが、全身に刻め」 悠介 「……ああ」 長老 「ああそれと。お前らがやってきた底上げの数々は無駄が多い。     それらを一度全て忘れてもらうことにもなるが、構わないな?」 彰利 「ゲッ……い、いんや……つべこべ言わずに従え、デショ?OK」 長老 「それでいい。連絡は終わったか?ならば外に出て待っていろ。     いろいろと準備が必要だ」 それだけ言うと、俺達の返事も待たずに立ち上がり、テントの奥へと歩いてゆくキリト。 俺達はそれを見て、返事をすることもなくテントから出る。 さて……どんなことになるのか想像もつかないが、 現状を甘んじているよりも強くなれると今は信じよう。
【Side───キリト】 ……。 キリト「さて……これでいいのか?」 ジニー『オッケーだニャ。旦那さんのシナリオ通りだニャ。     よく解らないけど、あいつらをとことんまでに強くしてほしい、     っていうのが旦那さんの願いニャ。     真意は知らないけど、それはきっと必要なことだニャ』 キリト「ふむ……」 真意か。 あの魔王と呼ばれる若者がどんな考えの末、ここに辿り着いたのか。 それを私は見てしまっている。 そういう業があるというのも、時には面白くないものを見せるものだ。 キリト「あの魔王は強いな。ひどく仲間思いだ。     それでいて、それが全て自分のためだという自覚をきちんと持っている。     偽善を偽善と受け止め、自分のためになにかを守ることこそ善だと認めている。     それが自分のためならば、誰が偽善と言おうが自分のためだと受け入れられる。     面白い考え方だが……なるほど、周りに嫌われる方法でもある」 ジニー『旦那さんの周りにはボクらがついてるニャ。     みんながみんな旦那さんを嫌おうと、ボクらは裏切らないニャ』 キリト「ああ、そうしてやるといい。     魔王魔王と言われようと、どれだけ強くなろうと、あいつはやはり人間だ。     覚悟という言葉で自分の心を戒めているが、だからこそ覚悟ごと粉砕された時、     あいつはきっと立ち上がれなくなるだろう。     それを支えてやれるのは、あいつを信じている者だけだからな……」 ……だが、とも考える。 強さと弱さを自覚している者は、強さを弱さで、弱さを強さで覆ってしまう。 覚悟ごと、意思を粉砕されるようなことがあっても─── それまで貫いてきた自分の過去で、無理矢理起き上がってしまうのがソレだ。 だから不安ではある。 そうなった時、あいつが見るものは己のための自己犠牲か、己のための自己保身か。 あるいは─── 【Side───End】
…………。 テントどころか集落から出てしばらく。 ポツポツと集まり始める仲間たちを目にする。 獣人や魔物もしっかり連れてきてくれたようで、 一番初めに辿り着いたのは穂岸たちだったりした。 当然、エルメテウスで。 遥一郎「こんなところにあったんだな……。ここで?」 悠介 「ああ」 ここで修錬するのか?という視線に頷く。 ……っと、会わせる前に約束ごとを伝えておいたほうがいいか。 と思ったら、俺より早く彰利が口を開いていた。 彰利 「キミと僕との約束だ!……いいですか?     ここで教えられることの全ては僕らに必要なこと。     長老キリトの言葉は、教えられる全てはぶつくさ言わずに受け入れろ、だ。     たとえそれがポリスィーに反することでも受け入れろ。     それが出来ないヤツは自分の意思を大事にしているんじゃあねぇ……     ただの我がまま野郎だ!……と」 遥一郎「ず……随分とアグレッシヴな長老なんだな……」 悠介 「二割くらいは彰利の捏造だけど、意味的には間違ってないから大丈夫だ」 遥一郎「そうなのか」 エルメテウスから降りてくる魔物たちや獣人たち、 一緒に乗っていたノアたちが揃った頃、集落の若者に並んでついてこいと言われる。 ……確かに、これ以上増える人数の面倒を、揃ってから見ていたら埒があかない。 俺達は言われるままに長老テントを目指し、歩いていった。 【ケース788:弦月彰利/それから】 それから、修錬の日々が続いた。 その間、武具の一切は集落に預けられることになり、 俺達は体ひとつでそれぞれに合った“業”を身につけていくことになる。 魔法使いに体の鍛錬は必要なのかとは綾瀬の言葉だったが、 つべこべ言わずにと言われちゃ従わないわけにはいかない。 来る日も来る日も鍛錬を続け、就寝は全て自然の中で。 雨の日も風の日もそれは変わらず、気づけば極寒の冬。 そんな日でも布の服で居ることは変わらず、だが……吹雪の寒さに体が慣れてくる頃、 確かに俺達の中には変化があった。 筋肉の鍛錬にはオーバーワーク一歩手前で止め、 三日の休息を取りつつ蛋白質を十分に取るのがいい。 だが俺達がやっているコレは、力ではなく理合側。 どう動きどう対処するかの、攻めよりも受けのほうだった。 それも重ねてゆくことで攻めの像まで浮かんでくるのだから、不思議なものだ。 必要なのはイメージ。 脳で動く生き物なのだから、そんなことは当然といえば当然だったんだが、 身につけてみるまでは半信……いや、疑いの方が明らかに大きかった。 それでも日々を鍛錬で過ごすうち、それが当然となり、疑う気持ちなどどうでもよくなる。 身を委ねるとはそういうことなのだろう。 彰利 「…………」 水が溜まった場所に居る。 膝まで沈んだ自分を見ることなく、ただ静かに前を見る。 風もなく、やがて春になる季節の頃、水に足を入れたことで波打つソレが治まるまで、 一切体を動かさずに呼吸のみを安定させてゆく。 1分、5分、10分……それは長く続き、やがて波紋も消える頃、 静かに歩き、バシャリともゴポリとも音を鳴らさず、 広く張られた水の中を端から端まで歩き切る。 ───音を立てない修錬。 無駄な力を入れない修錬を、時々に一人ずつ試される。 そして今日が、俺にとっての無音無力の治めの日になった。 ───……。 ……。 鍛錬ってのは地道だ。 たっぷりと時間をかけて、少しずつゆっくりと体に刻んでゆく。 その点でいえば、この世界に疲れが発生しないのと、 積んだ経験がすぐに生かされることはひどく有り難いものだった。 普通にやっていれば身に着くまでに50年以上はかかるであろうそれを、 俺達はほんの一年程度で体に刻み込んでゆく。 けど、気がかりがないわけじゃあなかった。 あれから魔王は、世界はどうなったのか。 時間が経つにつれ、そんなことをよく思うようになっていた。 スマイルさんのことをいつも心配していたレイチェルさんが、 誰よりも一番修錬に身が入らなかったのも頷ける。 それでも修錬を続け、 やがて自分の体がかつてのものとは明らかに違うことを自覚してくると、 身の振り方もそれこそ明らかに変わっていった。 それを一番に実感しているのは、ルドラの経験を頭に残したままの柾樹だろう。 まだまだ到底追いつけるようなものではないだろうが、 少しでも体が思い描く通りに動くようになれば、経験の進みも速かった。 磨く能力は似通ってはいるが、 ところどころで違うのはやはり種族によって当然のことなのかもしれない。 死神側や神側とか、回路が違うだけでも鍛え方は随分と変わっていた。 音速、光速には無駄が多いと言われた時にはたまげたが、 確かに狙って使うにはあまりに隙が多すぎた。 殴る瞬間にわざわざ構えなければいけないのはマイナスでしかない、ときっぱり言われた。 敵が馬鹿正直に真正面から突っ込んでくるとは限らない。 実用的ではないために、修錬を完全に治めるまでの使用は禁じられた。 ───……。 ……。 それから再び一年。 あれから魔王がなにかを起こした、魔王以外のことでなにかが起こった、という話は…… 実は一件だけあったりした。 魔王とジュノーンがぶつかり、激闘を繰り広げたらしいのだ。 世界の中心でそれは起こったらしく、そこかしこにひどいクレーターがあるんだとか。 俺達は見に行くことを許されなかったが、 この一年の間にそんな戦いが何度もおこなわれたらしい。 結果は魔王の惨敗と聞くが、いつからかジュノーンが押される状況もあったんだとか。 その場に立ち会っていたらしいボナパルド=太陽が言うんだから、多分間違いはない。 この二年の間に魔王にどんな変化があったのかは解らないが、 ジュノーン……ルドラを少しでも追い詰めることが出来たっていうのなら、 それは相当にとんでもないことなんだろう。 果たして……ここでのんびりと修錬を続けて、勝てるんだろうか…… そんなことを考えもしたが、 だからといって他の方法で強くなれるなんて、今更考えられるわけもなかった。 ───……。 ……。 武具の所持が許されたのは、その翌日だった。 体の作りをようやく治めた俺達は、己が得意とする武具を手にし───まず違和感。 俺はそのまま体術だから構わなかったが、 以前の通りに構えてみると、やはり違和感を感じた。 この武具での構えはこうではないと、修錬に耐えた体が言っているようだった。 彰利 「これは……こう。こっちは……こう」 体が導くままに構えてみれば、それはひどく自然体。 脱力が出来ているのに緊張は忘れていないという、曖昧だが意識的に頼れる構えだった。 長老 「よし、いいだろう。……今こそやってみろ、光速拳を」 彰利 「……はい」 思えばこの二年で随分と落ち着きを持てた。 素直に敬語が話せたのなんてどれくらいぶりだろう。 そんなことを頭の片隅で思いながら、構え、身を振るう。 ……ソレはなんの負担も体にかけずに放たれた。 空間を貫くような感触と音。 ふぅ、と息を吐いてみれば、空間が揺らめいた気さえした。 長老 「構えなしでだ。普通に殴る意識で、だがイメージは忘れずにだ」 彰利 「───」 ヒュッ───風を穿つ。 続けて二撃、三撃。 長老 「戻す手、放つ手に違和感を与えるな。     自然を得て、流れに逆らわずに空気を穿つ拳を放て。     ……理はお前の中にある。自分の体を疑うな。     疑うのならば、出来ない自分を疑え。出来て当然、出来なければおかしい。     そう思い、イメージし、拳を放て」 彰利 「……戻す、手に…………放つ手に……違和感…………無しに……」 ヒュッ、ヒュコォッ…… 彰利 「自然を得て……流れに、逆、らわず……に……」 ヒュッ……ひゅっ……! 彰利 「出来ない己を疑い……出来て当然……出来ることを自然であると───」 ヒンッ……シャフィンッ─── 彰利 「理は───我が裡に」 ガカァッフィィンッ!! 彰利 「──────…………、あ」 鋭い音で、まるで目が覚めたように声を漏らした。 あ、れ……?俺今なにやった? 彰利 「…………あれ?」 長老 「……トランスが切れたか。だがいい、成功だ。次、お前だ」 柾樹 「……はい」 彰利 「おや?」 ハッと気づけば、なにやらみんなボ〜っとしてる。 ハテ?これはいったい……ってうおう、長老に黙ってろ眼力を放たれてしまった。 …………おお、しかもアタイったらパブロフ! 黙れって言われたら素直に黙ってるしかないみたいになってるYO!! 長老 「イメージは出来ているな。     では、今教えた一連の動作を、思考が導くままの速度でやってみろ」 柾樹 「はい……《ゴヒャブギィッ!!》───!」 長老 「───!待て!」 柾樹 「…………」 ……今、なにが起きた? 呆れるくらいの速度で腕が動いたと思ったら、柾樹の腕が断裂して…… 長老 「……だめだな。やはり知識が高い位置にありすぎる。     その知識は人でも魔物でも、誰にも扱えるものではないようだ。     お前には銃術かなにか、遠距離のものを覚えてもらう」 柾樹 「……はい」 彰利 「………」 ルドラの知識はそこまでとんでもねぇんか。 そりゃそうか、この世の最果てまで何千何万年と生き、 その中で……あいつのことだ、鍛錬を休んだ日なんて無かった筈だ。 あいつはあいつの我流の極みまで達して、 その上でそこに反発反動力っていう厄介な能力を上乗せしている。 おまけに全精霊の力もラインゲートで自分の力にしてるんだろう。 ……ああいや、スピリッツオブラインゲートは使えない筈だ。 あいつはもう全精霊を黒で飲み込んだ状態だ。 全ての能力、存在がルドラって生き物になっている。 だからあいつの力を分散されることが目的で───…………あれ? この話、誰と確認し合ってたんだっけ…………。 悠介 「はぁ……案外上手くいかないもんだな………………彰利?」 彰利 「ホエッ!?あ、ああいや、うん、なに?」 悠介 「いや、ボウッとしてるからどうかしたのか、って」 彰利 「おお、そうね、うん、なんでもないなんでも、フハハ……」 ……まただ。 思い出そうとしても思い出せないことがあったりする。 それでもやっぱり思い出せないからどうでもいいことなんだろうけど、 やたらと気になるのはどうしてなんだろうねぇ。 長老 「……よし。教えたことを踏まえて、今日からは武具修錬だ。それからお前」 悠介 「え?俺?」 長老 「お前の武器は剣だったために虹を鍛っても合わせられない。     それ故、材料を使った上で武具を鍛え治させてもらった」 悠介 「……え?それって───」 長老 「“虹”はもう完成し、お前たちの武具全てに溶け込ませてある。     それをどう扱えるかはこれからの修錬次第だ」 悠介 「…………虹、の効果って……」 長老 「虹とは精神の架け橋。光、(いろ)、同時に闇と固定を意味する。     この場合、肉体と精神を繋げる意味を持つな。     ああ、ちなみに言うと魔王も“虹”の所持者だ。     太陽石のペンダントと小さな虹色の貝殻を持って来たので、鍛えてやった」 彰利 「うわぁ……」 ねぇ長老……?僕らのこと嫌い……? ……いや、キライならいろいろ教えてくれるわけないよね、きっと平等なだけさ。 悠介 「ペンダントね……なんだろうな、     綾瀬の娘が誰かにそれっぽいのを投げてたような……」 彰利 「あ、それ俺も気になってた」 でもやっぱり思い出せない。 続けて思い出そうとするけど、 キリトに次を促されて……やがて俺達はそれを考えるのをやめた。 【ケース789:中井出博光/ただひたすらに己のために】 ジュノーンの行動を圧してきて二年。 いい加減相手の強さに吐き気がするほど惨敗を続けた俺は、 猫の里で湖に沈みながら休息をとっていた。 体の力を抜く、という意味で、これほどリラックスできる状況はないと思う。 魔王の盾がジュノーンの城にある、 って情報をノヴァルシオから得た時はコレだと思ったものだが、 現実と向き合えばこんなもんだ。 ジュノーンは強すぎた。 全力……そう、それこそ十三の精霊武具やら人器やらを完全解放して向かってもボロ負け。 東で新たに見につけた人の業も、大きすぎる力の前では児戯にすぎず、 侵入してかっぱらおうにも先を読まれてボッコボコ。 俺を殺すようなことはしなかったが、いつでも殺せる力は持っていた。 ……十三の精霊武具は、武器としての力を解放したってだけで、 ラインゲートは開いてないけどさ。だってあれ後が怖いんだもの。 中井出「ゴヴァアアアァア……《ゴポゴポ……》」 溜め息を吐いて、ゆっくりと浮かんでゆく。 水面から顔を出したあたりで空の眩しさに気づき、はぁ、とまた溜め息。 世界を巡っての武具探索ツアーももう手詰まりで、 合成出来るものは合成したものの、それでもジュノーンには届かない。 ウィルスは、満月の夜に頂戴したシャモンの鱗を煎じて飲むことで打ち消せたが、 そんな枷が無くなった状態でも全然ボコボコ状態だ。 合成させまくった先で得た嬉しい能力なんて、鬼人化硬化時間+2分くらいだ。 5分になってもやっぱりボコボコなのは変わらないわけだが、 エンペラータイムの時間が増えたのは素直にありがたい。 ……関係ないが、満月の夜になるとシャモンたら相応のデカさに変身するんですよ。 カッチョイイです、見せてあげたいくらいさ。 ジュノーンとは関係ないけどね。 ……一度、このフェルダールの全てから元気と想いと思いを、 エーテルドライヴと灼紅蒼藍剣とアガートラームとで掻き集め、 余裕ぶったジュノーンにぶつけてみたんだが……これは思いっきり効いたようで、 派手に吹き飛んで血を撒き散らしてしばらく起き上がってこなかった。 俺もその衝撃で動けなかったんだから世話ないね、うん。 その日は初めてジュノーンを撃退にまで追い込んだ素晴らしい日だった。 ……それから激しく警戒されてボッコボコだったのは言うまでもないが。 ともかく、ジュノーンはあいつらが強くなることを良しと思っていないのか、 たびたび邪魔をしようとする。 その度にそれを止めようとする僕の身にもなってほしいんだが……。 レイル「提督さーん、また動き出したってよー」 中井出「また!?ああんもう!日に二度敗れる馬鹿とは俺のことだぁああああっ!!!」 ノートン先生たちには随分と苦労をかけてるが、 そんなものは空界惨殺事件とでチャラだ。 もっともっと時間を引き延ばしてくれ。 せめてあいつらの強さが安定に至るまで。 中井出「じゃあまたジュノーンの城のことよろしくね!?僕全力で止めてくるから!」 レイル「大丈夫なのか?筋肉痛」 中井出「この二年でそんなもん慣れたわ!!」 ありがとうプロテイン。 ありがとうロビンマスク。 あれから筋肉痛のたびに飲んでは吐いた苦痛、一度たりとも忘れてないよ。 けどそれがあったからこそのこの順応……80%までは既に余裕よ! ジノ 「提督、お出かけですか」 中井出「うむ。留守を頼む。日課は必ずこなすこと。     お前らは俺と違って才能あるから、すぐに上達できる筈だ。     タキはもう烈風覚えたっていったな?あんまり無茶するなって言っておくように」 ジノ 「はい。ご武運を」 そうして飛び立つ。 ……そう、あれから二年だ。 あいつらと決別してから二年……本当にあっという間のようで、長い時間だった。 一週間が早いと感じたあの頃があるのなら、それも当然なのかもしれない。 ……あれからもマールの探索は続いている。 散々とフェルダール中の人間たちにマールについてを訊いたが、どれもだめ。 ただひとつ有力な情報があったとするなら、 以前エィネのことでもめた見世物小屋の連中だった。 もちろん見つけて問い詰めたが……ビンゴではあったが、 ある日、謎の仮面の連中に襲われて、マールを奪われたのだという。 仮面……ってことで思い当たったのが、 かつてレイチェルさんが言ってた蒼木澄音くんを攫ったであろう仮面の存在。 多分だけど、繋がってるんじゃないかとは思ってる。  ザァッ─── ジュノーン『……ふふ、よくも頑張るな』 中井出  「こっちは未来を賭けてるんでね!       ていうか日に二度はやめない!?僕の体が保たないよ!」 空に浮きながら待機していたジュノーンを見上げ、大地からそう叫ぶ。 場所は再び世界の中心。 どうやらここが好きらしく、ジュノーンはなにかっていうとここに居た。 ジュノーン『疲れを知らないこの世界でなにを戯言を。       さあ……来るがいい……。そしてこの渇きを癒してくれ……!』 中井出  「水でも飲んでなさい!」 ジュノーン『そっ……そういう意味ではない!!』 そうして始まる本日二度目のバトル。 ここぞという時以外は80%以上は引き上げず、幾度も幾度もぶつかり合う。 段々こいつのクセにも慣れてきた頃だが、そう思っていると裏をかかれるのが現状。 つまり……相手になっていないのだ、俺は。 だから今日は無茶をするつもりでかかる。 日に三度が無いことをせめて願おう。 まずはオールバースト……強化系の能力全てを解放する。 中井出  「オールバースト!《ゴコォッフィィイイン!!》」 ジュノーン『やはりまずはオールバーストか。       能力を完全に解放しなければ相手にもならないのだから、       当然といえば当然───』 中井出  「覚醒しろ!“万象担う灼碧の法鍵”(スピリッツオブラインゲート)!!」 ジュノーン『……!』 続いてラインゲートの解放。 冗談抜きで反動がデカいから、使いたくない能力No.1なんだが─── もうそんな悠長なこと言っていられない。 中井出  「5分だ……その間に、出来ることを全力でやる!」 ジュノーン『……ああ、その目だ。その、自分のために戦う目が好きだ。       他人のために戦って、よかったことなど今更思い出せん。       ……来い。お前の全力、全て受け止めてやろう───』 そう……ひたすらに自分のため。 そういう意思を以って立ち向かわなければ、ルドラを打倒することに意味なんてない。 他人のために戦っていたヤツと戦うのだ……その信念を完全に断ち切るなら、 自分のために戦う者が自分のために立ち向かわなければ意味が無い。 どこまでも自分のために戦うヤツを否定する者よ───ならば問おう! 貴様の中の誰かのためっていうのがホンモノの親切や善から来るものならば! 誰かを思って親切を働き、それを否定された時……貴様は怒らなかったか!? ムカリと来たのならば、 その親切は何処までいっても“自分の親切心を満たすため”でしかないわ! 素直になれ人々よ! 善を謳うならば最初から偽善を唱え、 偽善呼ばわりを嫌うなら悪を名乗れ! 中井出「っしゃあっ!!悪気入魂!いくぜジュノーン!」 全身に通る霊章にラインゲートの力が満たされる。 さあ5分間、せいぜい無茶しましょう! ……と、空中へ向けて飛び上がろうとした瞬間、仰いだ空に黒。 思わず目を見開き、直視したソレは───! ジュノーン『……チッ、邪魔が入った』 デスゲイズ『ギゲェエォギャアアアゥウウウッ!!!』 デスゲイズ。 己以外の空を往く者を良しとしない、アンデッド最強のモンスターだった。 ジュノーン『魔王よ……今日は終いだ。興が殺がれた。       が……このまま戻るのもつまらん。       興醒めさせた責任は取ってもらうぞ、躯骸王』 デスゲイズ『ギュゲルギャァアアアォオオッ!!!!』 ジュノーン『……フン、言葉など解らんか。       魔王、せっかく能力を解放させたのだ、遊んでいけ』 中井出  「え?俺?」 終いにするんじゃなかったの? 終いにするんだったら僕、これほど嬉しいことは無かったのに。 ジュノーン『俺はお前が嫌いではない。お前さえ頷けば、まだ仲間に』 中井出  「断る!《どーーーん!》」 ジュノーン『だろうな。───来るぞ』 ジュノーンの鎧を着けたままやる気なのか、 それともゲーム世界だからルドラで戦うことを良しと思ってないのか。 ルドラはどこか楽しげな雰囲気のまま俺の横に降り立つと、 凶々しい力を解放させていった。 ……あれー……?どうしてこんなことに───来たぁあああああああっ!!!! デスゲイス『ルェゲゲギギャァアァオオオオッ!!!』 中井出  「やっぱり開幕はメテオですか!ですよねぇええっ!!」 降り注ぐメテオにホギャーと叫びつつ、僕はナギーへとtellをGO! 出来ることならここで仕留めたいと思ったのが本音で、 だからこそ伯を世界の中心へと誘うためにナギーにtellをした。 倒せなかったらその時だ……また次にやればいい。 中井出「か、かかかっ……かっ……───すぅ、はぁ───!     臆さぬならば!かかってこい!!」 さあ、覚悟完了だ! 全力で抗って、出来ることならここでブチノメす!! いくぜセト!バハムート!自分自身の弔い合戦だ!! ……とその前に。調べる発動。えー……なになに? デスゲイズ。 体長……測定するのもアホらしい。とにかくデカい。 体重は有るのか無いのか。とにかくデカい。 えー……………… 中井出  「つーかさジュノーン!?お前なら一撃でドカーンと」 ジュノーン『くふふふふははははははは!!!       笑わせる!そうか!スピリットオブノート!この機に乗じて俺を殺したいか!       つくづく精霊というヤツは勝手だな!       ふははふふははははぁっはっはっはっは!!』 中井出  「質問に答えろ不死野郎!こちとら時間が限られとんじゃい!!       つーかなに笑ってるの!?頭でも腐……ってなきゃ、       人様の時間軸で世界滅亡なんて考えないね、この腐れ外道が!!」 ジュノーン『腐れ外道!?……あ、ああ、そのことか。       大変喜ばしいことに無理だ。どうやら管理者の連中が力を送り、       この躯骸王サマを強化したらしいからな。       さらに“俺”は今、不死王アンデッドキングだ。       同じアンデッドであるデスゲイズ相手に、       そうそう有効なダメージは与えられん』 中井出  「………………」 ……ああ、うん……ええ……まあ……うん………………ねぇ? ジュノーン『……?なんだ』 中井出  「僕ね、ずっと叫びたかったことがあるの。いいかな」 ジュノーン『』 中井出  「なぁんでこういう時に仲間になる敵キャラってのはパワーダウンしてんだよ!       なんのための仲間だ協力者だ結局俺ひとりに頑張れってことじゃねぇか!       なんなのさっきの責任を取ってもらうぞとか       遊んでいけとかの格好つけたセリフ!なに!?       キミゲームとかで遊んでるつもりが本気になって交友関係潰すタイプ!?」 ジュノーン『そ、しか言ってないんだが……?』 中井出  「うるせぇええっ!!こんな状況に巻き込まれた俺の身にもなれぇっ!!       大体なぁああにかっこつけて空中で待ったりしてんだよ!       どこのサイヤ人だてめぇっ!!待つなら地上でいいだろ!?       なのにあっさり探知されて、チッ、邪魔が入った───アホだろあんた!       アホな子だろ!!ツッコミどころありすぎてかえって笑えねぇ!!       笑いどころが多いとかじゃねぇ!ツッコミどころ満載なのは面倒なだけだ!       ああもうほんっとアッタマいてぇよこんにゃろう!!       いいかこのカルボーン野郎!この際だから言わせてもらうぞ!?       お前が何をするのもそりゃ勝手だけどな!!       お前の事情をこっち側に持ってくるな!!       自分の世界がボロボロだからってなんで───」 デスゲイズ『ギゲ』 中井出  「うるっせぇんだ黙ってろ骨!!」 デスゲイズ『ギ……』 ジュノーン『ああ、いや……言いたいことは解るが、今はだな……。       い、いいのか?せっかくの5分が……』 ───ピタリ。 中井出  「あとで覚えてろよてめぇ……」 ジュノーン『……いや……解ってるのか……?       一応俺……不死王……なんだけど……』 中井出  「怒りの対象に種族も階級もあるか!大体てめぇは───」 ジュノーン『解った!すまなかった!いいから今は───!』 中井出  「あとで覚えてろよてめぇ……」 ジュノーン(……立場が無いな……久しぶりに頭が痛い……) ともあれ……戦闘開始です。 散々叫んだおかげで頭はいい具合に火照ってます。 さあ始めましょう……出来る限りの抗いバトルを。 ええ、正直俺一人で勝てるだなんて思えないしね、はは……。 Next Menu back