───冒険の書326/いつだってMyサタン───
【ケース812:弦月彰利/ナンディ=カシムハ=ジール】 シュゥウウウウウ…………! ナンディさん『イヤ……チョットマッテ……!フタリガカリヅルイヨ……!!』 悠介    『戦いに卑怯もへったくれもあるか。        戦いの美意識なんてのは謳いたいヤツが謳ってればいい。        生きるか死ぬかの瀬戸際に……        そんなことを死の直前まで謳ってられるならな』 彰利    『つーかこいつほんとなんなの?』 二人がかりでぶつかってみたら、意外といけた。 つーかむしろ弱かった。 ほんと、威圧感からすると理解できないくらいの強さで───あ。 彰利 (え?なに?そういうオチ?) こいつは強いよ、とかじゃなくて、パラメーター的な“強さ”? “あいつの強さはどのくらい?”って訊かれたら“弱いよ”って答えられる方の“強さ”? つーかほんとなんなのこいつ。 魔王軍にこんなヤツ居たっけ。 ナンディさん『けどアナタタチまだまだネ。ツヨイかヨワイかでいうとヨワイネ。        こんなのデハマオウたおせないヨ』 彰利    『なんですって!?』 悠介    『……魔王ってのはそこまで強いのか?』 ナンディさん『イマでイウならジュノーンよりヨッポドツヨイくらいヨ。        フシなブン、ジュノーンのホウがツヨイケドネ』 彰利    『え……マジで?』 ナンディさん『マジヨ』 なんとまあ……マジすか。 あの魔王め、そげな次元にまで達しておるのか……。 え?じゃあなに?あいつと一緒にルドラと戦えば勝てるってこと? 悠介 『…………なに考えてるのか大体想像つくけどな。     間違えるなよ、あくまで“ジュノーン”だ。     全精霊や黒を扱うルドラとはまるで違う』 彰利 『あ……そか。そういうこったか』 しかし……まいったね、そげなヤツ相手にして勝てるんかねアタイら。 むしろなんとかして味方にできねーものか。 …………無理だろうね。 彰利 『なー悠介?空界のやつら殺したのって俺だって、自分が自分で言ってたよな?』 悠介 『ああ』 彰利 『キミ、どう?許せる?』 悠介 『…………本音を言うとな、不思議とそこまで殺意とか憎悪とか、沸かなかった。     どうしてだろうな……仕方がなかったんだ、って思いの方が先に走ったんだよ』 彰利 『……キミもか』 殺されてしまった。 けど、それを助けたかった、守りたかったかって訊かれたら……そんなことはなかった。 俺達は彼ら彼女らの守護者じゃないし、確かにいろいろな冒険はしたけど、 それはそこにファンタジーがあったからで、住人が居たからじゃないのだ。 薄情な話かもしれないが、そもそも向けるだけの情があったのか。 それを考えると、俺達が本当に、本気で魔王を憎む理由なんてありはしなかった。 怒るべきは空界人だ。 割り切って言うなら、俺達には関係ない。 一般的な人間性の話をしているんじゃない。 見捨てる以前に、殺されたことさえ知らなかった俺達が、どうやって救えたっていうんだ。 過去に戻って救えってか?そんなことしたらあいつに怒られたみたいに───………… ……あいつ? 彰利 『…………』 解らない。 解らないけど、心の奥になにかが引っかかっていた。 彰利 『……《シュゥン……》……はぁ」 黒を解除して溜め息。 結局堂々巡りだが、俺の中じゃあ答えはもう決まっていた。 引っ掛かりがなんなのか、は……多分解決しない。 だからもうひとつ。 空界殺人事件は、俺の知ったことじゃないってことだ。 仇を討たなきゃいけないくらい親しかったヤツなんて居ない。 子供が殺されたって聞いた時はドクンときたけど、 だからって相手をどうしたいとかは想像しなかった。 それは七草のやるべきことだろう。 彰利 「なぁ悠介、もうやめにしないか?」 悠介 「……ああ。復讐とか、そんなのはやりたいヤツに任せればいい。     確かに王になって世話になったやつらとかいっぱい居た。     会えなくなったのは寂しいことだ。でも───」 そう、でもだ。 それで俺達があいつを殺したくなるかって言ったらそうじゃない。 それを言ったらゼットンだって、かつて国を丸ごと潰した。 今じゃ友好関係にある空界の竜王たちも、領域に入ったってだけで人を殺してきた。 そいつらが許されて、あいつが許されない理由はなんだ? 殺した数か?それとも存在自体の問題か? そりゃあ、勝てない悔しさに慟哭を漏らしたこともあった。 けど、そんなものはもう過ぎ去ったことなのだ。 二年も経てば考え方なんて変わる。 それを変えたままにするなら、今がいい……そんな気がした。 彰利 「俺さ、どうにもあの魔王が寂しさを押し隠してるように見えて仕方なかった。     だって……地界人だぞ?なんの力もない筈の地界人がこの世界で魔王やって。     どんな経緯か空界人を殺しまくってさ。なぁ……あいつ、この世界で人殺したか?     ただ自然を広めただけで、圧力らしい圧力なんてかけてないだろ?     ……なぁ……なんかおかしいと思わないか?あいつ、ただこの世界をさ、     “自然”の状態に持っていこうとしてただけなんじゃないか?」 悠介 「………」 悠介はなにも言わない。ただ難しい顔をして思考を回転させているようだった。 ナンディさん『なにイッテんだヨー!そんなことネェヨ!マオウわるいやつヨ!?』 悠介    「……分析、開始」 ナンディさん『サミング!』 悠介    「《ゾブシャア!》ぐおあぁああああっ!!」 ナンディさん『ナンディさんブンセキしようなんてフテーやろうヨ!!        ワタシもうシンボウたまらんネーーーッ!!』 彰利    「いやあのナンディさん!?アタイら今久しぶりにマジで話し合っててね!?        邪魔しねーでほしいんですけど!?」 ナンディさん『ジャマとはなにヨ!アナタガタ!        ひとのコードブレイカーだいなしにしといてイウことソレヨ!?』 彰利    「ぬぐおっ……!いや、たしかにそうだけどね?」 ナンディさん『たまたまナンディさんがハダにアラジオすりこんでて、        ヒフがアツカッタからノケゾッタだけでスンダヨ!        すりこんでなかったらアナタサツジンハンヨ!!』 彰利    「粗塩!?粗塩で弾丸とか弾けんの!?そっちのほうがすげぇよ!!」 悠介    「〜〜〜っ……つぅう……───あ」 彰利    「ホエ!?な、なに?あ、ってなに?」 悠介が、サミングされた目を涙で滲ませながら…………ナンディさんを見ていた。 あれ?もしかして───分析してみた、とか? 悠介 「離れろ彰利!そいつ魔王だ!」 彰利 「エェッ!!?」 思わずバックステップして距離を取る! すると…………あれ居ねぇ!! 馬鹿な!確かに魔王を見ながらバックステップしたってのに! 声  「俺が1秒時を止めた」 彰利 「《ビクゥッ!》オワッ───!」 後ろから声! 自分でも感心するくらいの速度で振り向いてみると、そこには……いつかの魔王が……! 魔王 「やあ」 …………フツーに挨拶された。 今回はゴルベーザの鎧もなにもつけておらず、村人の服だ。 悠介 「……魔王。お前に訊きたいことがある」 魔王 「うむよかろう。どんな質問でも一つだけ答えてやろう」 彰利 「どんな質問でも!?マジで!?」 魔王 「それが質問か。では───」 彰利 「お約束はヨロシ!───悠介!」 悠介 「ああ。…………」 慎重に、慎重に……! なんか知らねーけど答えてくれるっていうなら願ったり叶ったりだぜ〜〜〜〜っ! 悠介 「…………、俺達が強くなるようにコトを運んでるのはどうしてだ」 魔王 「───」 ……そう、だな。 それが一番気になる。 わざわざジャポンや東に話を通して、俺達の強化に回るその理由。 それは───? 悠介 「茶番はいい、本音を聞かせてくれ」 魔王 「茶番ねぇ……じゃあ本音だ。     俺だけの力じゃあ未来を、この夏の先の景色を見れないからだ」 悠介 「───……」 彰利 「未来、って……じゃあ」 魔王 「はい質問タイム終わり!さあどうする、戦うか、それともこのまま帰るか」 悠介 「待て!未来を見れないって───」 魔王 「質問はひとつまで!そういう約束だった筈だ!」 悠介 「っ……」 悠介が小さく歯噛みする。 気持ちは解るが約束は約束だ。 魔王はちゃんと本音を言った。 だったらこっちが守らないのはフェアじゃない。 ……真面目な時は、特にね。 彰利 「OK、じゃあそれでいい。     けどね、アタイらは……俺と悠介はべつにキミが憎いわけじゃあねぇのよ。     だからいろいろと纏めたいことが───」 魔王 「この世界で人なら殺したぞ。     貴族だ〜とか言って、俺の体を引きちぎって八つ裂きにしたからその仕返しに。     殺していいのは殺される覚悟を持ったヤツだけだ。     そして俺は、いつでもそんな覚悟なんか持ってる。     日々常に、誰に狙われていつ死ぬか解らないファンタジーだ、当然だろ?」 悠介 「───……」 ……あ。 悠介が感心した目で見てる。 悠介 「それは罪じゃなくて正当防衛だろ。     ……いや、引き千切られて生きてるほうも生きてるほうだが」 魔王 「丁度不死身状態だったのさ。……解るか?死ねない体で体引きちぎられて、     その四肢が槍で地面に串刺しにされる痛み。     体はくっつこうとするのに串刺しにされてる所為でくっつかない。     くっつこうとするから四肢は動いて繋がろうとして、     突き刺さった槍の下で蠢く。なんの冗談か神経が繋がってやがって、     その痛みがずっと頭の中に響くんだ」 彰利 「…………そいつらは」 魔王 「だから、殺した。殺しがしたいなら最初から言ってくれ、って言ってね。     人のことどう思おうと勝手だけどな、勝手を押し付けるのはよしてもらおう」 悠介 「いやお前が言うな」 魔王 「あ、やっぱり?」 彰利 「え?なにが?」 悠介に指摘された魔王は、にこりと笑って頭を掻いた。 …………どこまで魔王らしくねーんでしょうねぇこいつは。 魔王 「押し付けはやってます!受け取るかどうかは相手の自由!     だから貴様らに問おう!───俺と、戦う?」 それは確認と警告を合わせたような言葉だった。 ではアタイもその言葉に見合う覚悟を決めねばならねー。 彰利 「戦うぜ〜〜〜〜っ!!なにしろそのためにここまで来たのだからなーーーっ!」 魔王 「キサマは?」 悠介 「……戦う。話し合いはさせてくれないんだろ?」 魔王 「うむ。魔王の本分は勇者を倒すことと相場が決まっている。     世界は征服したから、あとは邪魔者を倒すだけさ。     ククク、今頃先に行ったやつらは皆一様にボコボコさ」 彰利 「ホッ?それはどうかな」 悠介 「ああ。あいつらも俺達も、もう以前までの俺達じゃない。     レベルも上がったし武具も守護竜素材で強化した。     今の俺達なら、アンタにだって負けないぞ」 魔王 「勝つ……負けない……グフェヘヘヘ……!口ではどうとでも言えるものよ。     さっきの僕みたいにね。だが言おう。先に行ったやつらが辿り着いた場所。     そこは超高純度のマナが存在している。     しかしそれは我ら自然の仲間にしか加護をもたらさん。即ち───」  ブン─── 彰利 「?……モシモシ?オイラ彰利」 声  『こちら飯田だ!おい将軍てめぇ!まだか!?やばいことになった!』 彰利 「なに?落ち着くんだジェネティー、状況を冷静に報告しろ」 声  『誰がジェネティーだ誰がっ!普通にしろ!とにかくまずいんだって!     なんの冗談なのか敵側に穂岸が居る!なんかここ物凄いマナが漂ってて、     それを武器にされてもう───お、うぉあぁあああーーーーーーっ!!!』  ブツッ─── 彰利 「お?あら?飯田くん?…………切れちった」 悠介 「……穂岸が……?」 魔王 「そう。彼は僕らの仲間だった。最初からね。この夏を乗り切るために、     貴様ら個々の力の底上げ作戦をともに進めてゆく仲間だったのだ。     つまり───貴様らはまんまと俺の掌で踊らされていたということなんだよ!!」 彰利 「な───なんだってーーーーっ!!?」 魔王 「そしてこの作戦を考えた者こそ真の黒幕───ノストラダムス!!」 彰利 「……!またしても……!     またしても我々の前に立ちふさがるのか……ノストラダムス!」 魔王 「じゃあ死ね」 彰利 「へ?ホワァーーーーーーーッ!!!!」 一瞬でした! ゾンッて、妙な気配とともに後ろに居る魔王! 慌てて離れようとするが、がしりと右腕を掴まれる───!! 悠介 「不意打ちがすぎるぞ!この───!」 だがすかさず悠介がラグを抜き払い、一閃! 魔王 「!彰利バリアー!」 彰利 「《ゾブシャア!!》ギャーーーーッ!!!」 悠介 「うあわぁーーーーっ!!?」 そして盾にされたアタイ。 魔王 「説明しよう!彰利バリアーとは!     彼の生命力が続く限りいくらでも有効な特殊バリアである!     その点でいうならイージスの盾にも匹敵する防御力を誇る!」 彰利 「いぎぃ〜〜〜っ……!こ、んのっ……真面目に戦いんさい!!《ドシュンッ!》』 黒を解放!と同時に左拳で顔面攻撃! しかし確実に当たると思われたそれは対象が消えることでスカり、 突然のことに思わず勢いのままにたたらを踏んでバゴシャア! ……地面に向けて殴り倒された。 悠介 『しぃっ───!』 その動作に割り込む悠介の攻撃! 振るわれたラグの一閃が魔王の胴体を斬り刻み、ブシャアァアッ!!! 悠介 『っ!?ぐっ、うあぁあああーーーーーっ!!?』 どういうわけか切り込んだ悠介の腕から出血! いったいなにが───!?と思った次の瞬間、 腕の血は止まって……いや、そもそも傷などついておらず、血も出ていなかった。 魔王 「安心しろ……幻覚だ」 悠介 『げんっ……!?いや、そんなっ……確かに手応えが……!』 魔王 「手応えさえも感じさせる魔技……これぞ秘奥義“幻影無光拳”……!!」 彰利 『いやもうワケ解らん!つーか真面目に戦う気あンのかてめぇえーーーーーっ!!』 魔王 「失礼な!俺はいつでも真面目だ!真面目に楽しんでいる!」 彰利 『なにキミバトル狂!?』 魔王 「失礼な!バトル狂なんじゃなく、     必死こいて戦ってるヤツをからかって楽しむのが趣味なだけだ!!」 彰利 『うおお性質わりぃいーーーーーーーっ!!!!』 悠介 『しっ……失礼なのはどっちだぁーーーーっ!!!』 魔王 「え?でも魔王ってこんな感じだよねほぼ。圧倒的力で敵をあざ笑って、     なにかの力に目覚めた主人公に一発で負けるの。     でも僕最初から全力で行くから貴様らもう微塵切り決定ね?」 彰利 『静かにひでぇぞこいつ!!』 悠介 『自分の力によほどの自信がなきゃそんな言葉は吐けないよな……!』 ジリ……と距離を測りつつ、立ち位置を変える。 さて……どう仕掛けるか……。 魔王 「え?いや、僕が信じてるのは僕の力じゃなくて武具の力だよ?     だって僕地界人だもん。貴様らのような特異能力なんてとてもとても」 彰利 『シリアスに切り替えた思考をぐだぐだにすんじゃねィェーーーーッ!!     なんなのてめぇ!強いのに弱いってワケ解ら』 魔王 「死ねぇええーーーーーーーっ!!!!」 彰利 『キャーーーーッ!!?』 喋り途中でいきなりゴギャドガァンッ!! 彰利 『いでえぇっへぇっ!?』 ふざけた不意打ちクラッシュだった。 振るわれたゴツい剣をレヴァルグリードで受け止めた───筈なのに、 俺の体は壁にぶち当たっていた。 彰利 『ん、なん……!?う、受け止め……!?』 魔王 「貴様と俺との差を教えてやろう。それは……レベルと武具だ」 彰利 『あ……格の違いとかじゃ……ないんだ……』 魔王 「格で言ったら下層地帯の住民のこの博光、格なぞに興味はない。     プライドを守り続けるよりももっと面白いことなどごまんとあるのだ。     さあ来い。試してやろう」 彰利 『試すとはまた大きく出たなこんにゃろうめ……!いいだろう小僧!     この俺の本気を《バゴシャア!!》ぶべっしぇ!!』 喋ってる間に殴られました。 彰利 『いばががががが……!!コ、コノヤロ……!     変身ヒーローの変身シーンも待てないのかテメーワ……!』 魔王 「馬鹿め。戦いの最中になにを甘いことを」 声  『それは俺も同感───だ!《バゴドガァンッ!!》へぶぅあ!?』 彰利 『ア』 姿を見せる前の、漫画とかだったらシルエットのまま悠介が倒された!! 彰利 『てめぇ背中に目でもあるん!?』 魔王 「我と武具は天地とひとつ。     故に後ろからなにかが来ても、武具が教えてくれるのです」 彰利 『うっわずりぃ!!なにそれどこのチート商品!?』 魔王 「え?チート?なにそれ。…………チーズの仲間?」 彰利 『チート知らねぇのかよ地界人なのに!!』 魔王 「ば、馬鹿なに言ってんのアレだろ?ちーとだろ?し、知ってるようん知ってる」 彰利 『発音の時点で既に無知レベルじゃねーかよ!』 魔王 「え?なななに言ってんの知ってるって。     アレだろ?ほら、筋肉星の王子にアドバイスをくれる」 彰利 『ミートだよそりゃ!!やっぱ解ってねーじゃねーの!     つーかなんでチート談議なんてしてんの俺!』 魔王 「そりゃお前アレだよ。血糸で縫うなら患者さんも痛くないに違いないって」 彰利 『どこまで知らねーんだよテメー!チイト!?なにそれ!』 魔王 「え?お前血糸知らないの?     これ知らないと最先端地界人としてはかなりアレだよ?やばいよ?」 彰利 『捏造情報をこれみよがしに広めようとするのはやめなさい可哀想になるから!』 魔王 「可哀想でも相手をからかえれば俺の勝ちだ馬鹿め」 彰利 『おぉおおおおおおおおおおおほんと無駄に腹の立つヤツだねぇこの魔王!!!     悠介!いつまで倒れてんの!悠介!!ほれ起きんしゃい!』 殴り倒されてぐったりな彼に声をかける───が、 麻痺してたり眠ってたり毒受けてたりの散々な状態異常中で、 アタイの声に反応することはなかった。 魔王 「さああてタイマンだ……覚悟はいいな勇者よ……!」 彰利 『ま、ままま魔王とタイマンってどこの竜冒険野郎ですか俺!     だが退かぬ!媚びぬ!省みぬ!     守護竜素材すべてを注ぎ込んだこの真・レヴァルグリードの名にかけて!     てめぇはここで!アタイが倒す!ぬおおおおおおおっ!!!』 胸の前で拳を殴り合わせて、篭手から闇を発生させる。 彰利 『さあいくぜ魔王……!てめぇの武器と俺の武器……果たして、     言うほど差があるかどうか───刮目しやがれ……!!』 闇を纏い、滑るように疾駆! そう間合いも離れていない魔王の懐へと潜り込み、まずは挨拶代わりのナックルアーチ!  ガボギャアッ!!! 彰利 『《ブギッ……》……へ?あ、ぐぉあぁあああっ!!?     〜〜っ……、が、うぅあ……!』 振るった拳が、無造作に振るわれた拳に合わさり、こちらが圧倒的な実力差で負ける。 拳は砕け、篭手は砕けはしなかったが……拳から腕まで無残にヘシ折れている。 彰利 『な、んで……!てめぇの武器は……     守護竜素材があったから強かっただけじゃ……!?』 魔王 「どこでそんな情報得たのか知らんが、それは外れである。     もはやこの博光の武具は、武具にして魂の宝物殿。     武具宝殿と書き、サウザンドブレイダーと読む魂の宝物庫よ。     武具を自分の好き勝手に扱うのと、武具と意思を通わせるのとでは違う。     学びなさい勇者よ……武具に信頼を寄せるというのは、武具に任せるのではない。     武具に頼る。武具とともに生きることを意味する。     力任せに振るい、武具の特製も考えぬ貴様では……この魔王には勝てはせん」 彰利 『っ……て、てんめっ……!』 魔王 「そうっ……!怒れ……!その怒りこそがこの博光が望んでいるもの…………っ!     怒って、強くなる理由をいくつでも作ってゆけ…………!     貴様では勝てない……!このままでは勝てない……!だから強くなれ……!」 彰利 『強くなれ強くなれって……!修行も限界までした!     武具だって今これ以上上げられねぇ!この上どうしろってんだよ!』 魔王 「レベル上げなさい。そのために───私を倒してみるがいい!!」 彰利 『わざと負けやがれ!』 魔王 「ホホホやだ」 彰利 『ギィイイーーーーーーッ!!!!』 コンニャロぜってーギャフンと言わせたらあぁあーーーーーーっ!!!! ───……。 ……。 シュウウウウプスプス……!! 彰利 「待ふぁっ……待……待ふぇ……!」 悠介 「なはっ……なん、だよこいつ……!強すぎ……だろ……!」 月聖力で悠介の状態異常を治してから、一緒に戦ってみたんだが───ダメだわ。 きっぱり言ってこいつ強すぎ。 しかも本気のホの字も出してねぇのが物凄く悔しい。 魔王 「貴様らがどれほどの苦労を重ね、修行をしてきたかは知らん。     だがな……こっちはこっちでいろいろやっているのさ……。     ジュノーンぶち倒したり倒されたり、ジュノーン撃退したりされたり」 彰利 「全部ジュノーンじゃねぇの!」 魔王 「しょーがねぇだろうがなんか知らないけどつっかかってくるんだから!     ものすげぇしつこいんだよ!?しつこい時は日に何度も!     そうするたびにジハードもつっかかってくるし、     しかも俺と戦うことであいつも成長する始末だし!     なもんだから相手が不死なおかげと“倒した”って結果のお陰で、     勝てなくても経験値もらえちゃってレベル14925いっちゃってるよもう!     ここ二年ほぼ毎日バトル!そりゃレベルも上がるわ!勝てるようになってくるわ!     つーかもうエクスカリバーUのお陰で余裕で勝てるわ!殺せねぇけど!!」 彰利 「いっ───いちま───!?」 悠介 「なななんだそりゃああああああっ!!!     か、勝てるかぁっ!!そんなのに勝てるもんかぁっ!!」 魔王 「バカモン!勝てないから戦わないのは確かに護身としては完成されている!     だが闘者としては失格である!そんなことで未来が目指せるものか!     貴様らは文字通り、死に物狂いでなければいかんのだ!     ここでこの博光にも勝てぬようで、どうしてルドラに勝てようか!」 そうは言うけど一万って───! こ、皇帝竜一撃で倒せるわけだよこの野郎……! 魔王 「しかしあえて言わせてもらおう!余裕で勝てるからなんだ!と!     目的がジュノーンを倒すことじゃないのなら、     そんなものいくら成し遂げたところで意味がない!     そう……この博光の目的は未来を!そして世にある楽しさを手に入れること!     その野望のために貴様らはせいぜい利用させてもらうわグオッフォフォ……!!」 彰利 「……なぁ悠介?こいつモノスゲー黒いんだけど。     もう腹黒とかいうレベルじゃねーよ?」 悠介 「素直に黒いな……けど確かに、このまま、ってわけにはいかないな……」 長く息を吐いて、悠介が構える。 ゆっくりと集中を解放、トランス状態に移行し、───始まりの神々の力を解放してゆく。 俺もそれに習い、トランスと皇竜を解放。 黒いっぱいに力を満たし、白いっぱいに力を満たした悠介と───融合を完了させる! 朧弦 『待たせたな、魔王……!     ここからはもうさっきまでのようには《バゴシャドゴォン!!》ぶげはっ!?』 魔王 「…………なにが変わったのかねキミ……変身シーンは見守ってやったってのに」 融合を終えて、キメ台詞的なものを言っているうちに殴り倒された。 ああ、もういい……もう本当に解った。 こいつ相手に御託は自殺行為だ。 朧弦 『覚悟しやがれこの野郎ォオオオオッ!!!』 魔王 「馬鹿め!覚悟なら既に出来ているわ!」 全力バトルが開始される……! コードブレイカーの部屋だったそこはいつの間にか別の景色になっており、 ようするにここが、 ジェノサイドハートが作っていた仮想空間と似たようなものなのだと理解した。 いや、今はそんなことはどうでもいい。 この蒼い空の下の草原で───貴様をブチノメす! 【ケース813:藍田亮/戦うべきは】 体に走ったのは緊張だった。 広く続く景色の中にあって、たったひとつの存在にその身を硬直させる。 見える景色はアレだ、もののけ姫のホラ、アレだよ、広い泉みたいなアレ。 首をカタカタ鳴らすちっこいのがいっぱい居た泉。 あれ思い出せば全然OKだ。 実際泉もあったし、その泉の底から伸びた木々なんかがマナに包まれて幻想的だ、 なんて思ってたのがついさっきだ。 けど今見ているものは全く異質。 一目で解る……あいつはヤバい。 ナーヴェル『よう。ようこそ地下空洞へ。歓迎するぜ魔闘士。       俺はこの場を任されている魔王、ナーヴェルブラングだ』 藍田   「………」 魔王ナーヴェルブラング。 十二年前の世界で、苦労することもなく倒した、シードの父親。 この二年が経つ前、なにかを探している様子のこいつとは何回か戦った。 結果は惨敗だ。 しかも今は俺しかこの場に居ないとくる…………勝てるか? ナーヴェル『率直に聞くが───なんの用だ?       戦うならさっさと来い、探検に来ただけならとっとと帰れ』 藍田   「……戦う───前に聞かせてほしいことがある。       お前らはいったいなにがやりたくて世界征服なんてやったんだ?」 ナーヴェル『御託もべらべら喋るのも好きじゃねぇ。知りたかったら実力を行使しやがれ』 藍田   「…………そうかよ。じゃあ行かせてもらうぜ遠慮なく!《ゴバァッ!!》』 ランペルージュから熱を解放し、ジェットブーツの能力を最大まで引き上げる。 暗黒闘気も解放して、エナジードレインも解放。 地面を蹴り、ジェットブーツが弾き出す速度を以って一瞬にして接近! 水面の上に立つ魔王までを一気に駆け抜け、 藍田 『“画竜点睛(フランバージュ)”!!』 加減だとか様子見だとかが通用する相手じゃねぇのは解ってる! だから一気に潰す!相手が油断しているうちに───!  ドゴギィッ!! 藍田 『───!んなっ───』 いや……油断なんてとんでもねぇ! こいつ、最初から俺を完全に敵としてみてやがった───! 全力を……!全力の攻撃を、片手一つで受け止めやがった……! ナーヴェル『おーおー熱いねぇ。けどこんなんじゃ俺の皮膚は焼けねぇよ』 藍田   『てめっ……離《ブワドバァッシアアア!!》ぐぼぶっ……!?』 掴まれた足を振り回され、水面に投げつけられる。 俺の体がそのまま水中へと沈む中、 ランペルージュに篭る熱が具足の周りの水を蒸発させ、気泡を水面へと上げてゆく。 この熱で焼けないって、いったいどうなってやがるんだあいつの皮膚は……!  ゴボォンッ……!! 藍田 『ゴバッ……!?』 野郎、追ってきやがった……! 水中はまずい……蹴りなんてまともに打てねぇ……! ここは─── 藍田 『ブァンペブーブ!!《ゴギィンッ!!》』 ランペルージュから思い切り熱を解放! 周りの水を一気に熱し、その時に発生する泡の群で魔王の視界を塞ぐ! それからわざと泉の底まで沈み泳ぎ、底に足を着くと疾風の如くを発動! 一気に強引に、水中から逃れた。 藍田 『ぶはぁっ!はぁ、はぁっ……!!』 勢いで飛び上がり、降り立ったのは近くの陸。 そんな俺の行動を気配で知ってか、 魔王は特に急ぐこともなく水中から上がり、再び水面に立つ。 ナーヴェル『ククククク……』 それから、やはり急ぐ風でもなくゆっくりと水面を歩いてくる。 ……全力が効かない。 効かなかった……が、まだ受け止められただけだ。 もっと急所と呼べる場所にブチ込めば、いける筈……! 藍田 『しぃっ!』 突撃開始───! 今度は疾駆ではなく、正面に跳躍するように一気に……そう、 それこそ突撃でもするように飛んだ。 藍田   『羊肉(ムートン)ショット!!』 ナーヴェル『おっ───《ドボォンッ!!!》』 ヒット───! 魔王は歩いていた水面から弾かれるように吹き飛び、 その先にあった大木にブチ当たり、木をヘシ折って落下する。 すかさずそこ目指して水面を蹴り弾き、跳躍。 ヴィクター能力・浮遊を使ってその上空へと辿り着くと急速落下を開始し、 加減無しの錐揉み蹴りを、魔王の顔面へと突き落とす!!! 藍田 『串焼き(ブロシェット)!!』  キュドォッガァアンッ!!!! 威力のあまりに地面が軋み、水面には大波と呼べるくらいの波が発生する。 クリティカルヒット……!これ以上ないってくらいに手応えがあった……! 藍田 『どう《ガシィッ!》うぃいっ!?』 足を圧迫する感触……!!う、うそだろ!?ウソと言って! 声  『はぁ〜〜あ……なっちゃいねぇ……なっちゃいねぇよお前……』 藍田 『《ブワドッガァンッ!!》ぐあっはぁっ!!』 鞭でも振るうみたいに軽く地面に叩きつけられる。 俺の足を掴んだまま起き上がった魔王は、 熱の所為か赤くなった顔を軽く撫でさすり、溜め息を吐いた。 ナーヴェル『な〜るほど?対竜族には滅茶苦茶強いようだが、       属性効果が通用しねぇ俺みたいなヤツ相手じゃ永遠に後手だなこりゃ』 藍田   『っ……くそ!離せ!離せってのが《ブンブンブンブンッ!》ぎゃあああ!!』 タオルをはたくように、上下へ振るわれる。 片足だけ掴まれた俺は、なんとか足を痛めないように体勢を変え続けるので精一杯…… 蹴りでもブチ込んでやろうとさらに捻った瞬間に手を離され、 俺は馬鹿みたいな格好のままに宙を舞う。 藍田 『こンのっ───』 だがこっちも浮遊が使える身。 体勢を立て直すと空気を蹴るようにして魔王のもとへと舞い戻り、 再び羊肉ショットを突き出す! ナーヴァル『───だからよ。ぬりぃって』 それが当たる寸前。 ナーヴェルがソレに合わせるように拳を振るった瞬間、目を劈くような閃光。 思わず目を閉じかけた瞬間には、俺はもう吹き飛び、 水面を走る石のように数回跳ね飛ぶと、大きな跳ねののちに水へ沈む。 藍田 『げぶぁっ!?ばっはっ……!ぐあ痛ッつぅ!!?』 すぐに陸に上がろうと足に力を入れると……激痛。 だが痛いくせに動かず、ソレが折れているんだと知った時には、 もはや実力の差は解りきっていた。 ナーヴェル『ほら、さっさと上がれ。水に入ったまんまじゃ満足に戦えねぇだろ』 藍田   『………』 そんな俺を追って、ゆっくり歩いてきたのは魔王。 戦え……ってのか、この状態で。 ナーヴェル『ん?どうしたんだよもう終わりか?…………おいおい、修行してきたんだろ?       身につけたのは力じゃなくて諦めの良さか?』 藍田   『……ぐぅぅうっ!!!』 歯を噛み締める。 そんなわけがない……修行の中には確かに自分と相手の力量を測る修行ってのもあった。 けど、そんなものはどうしても勝たなきゃいけないときにはなんの意味もない。 俺はどうしてもこいつに勝たなきゃいけないわけじゃない。 じゃないが、だからって負けっぱなしは好きじゃない。 ナーヴェル『あっちの魔王……ナカイデは腕吹き飛ばされようが足が吹き飛ばされようが、       皇帝竜とタイマンでぶち当たって勝ったっていうけどな。       なんだ、お前ら足一本折れた程度で諦めんのか。つまんねぇ』 藍田   『───!』 その言葉に、心が震えた。 恐ろしさ……じゃないな。 魔王がそんなに強いことが、どうしてか嬉しかった。 藍田 『………』 泳ぐ。 足が折れてるんじゃあ、飛び上がるのはまず無理だ。 泳いで、なんとか陸に上がって─── グミとポーションを取り出すと、それを流し込んで足を回復させる。 ナーヴェル『お?続けるのか?』 藍田   『……すまなかった』 ナーヴェル『あん?……なんで謝る』 藍田   『お前にじゃあねぇよ、魔王にだ。……心構えが足りなかった。       戦いに身を置いて、曲がりなりにも冒険者を名乗って、精霊とも契約した。       武具も強くして、レベルも上がって、       満たされた状況の中で、心の何処かが保身ばっかりを考えていた。       心構えだけじゃない、覚悟の量も全然だ』 ……なにを迷う必要があるだろう。 俺は、この世界をどうしたいわけじゃない。 復讐に燃えているわけでもなく、誰かのためにとか大層な志があるわけでもない。 思い出せよ、藍田亮。 俺は、なんのためにこの世界に降り立った? なにがどうだったから、降り立つ気になったんだ?  ───フハハハハ、そんなもの、考えるまでもないだろう? 心の奥底、外に出てこないなにかが、俺にそう笑いかけてくれた気がした。  これが最後だぞ、藍田二等。……全力で、貴様が望む“なにか”を楽しめ。 それは本当に残りカスみたいな残留したなにかで…… 消えてしまった今では、その正体を掴むことは出来なかった。 でも、誰に言われるよりも、彰利に言われるよりも胸に響いて、 自然と頬が緩んでいる自分に気づいたら───もうダメだった。 藍田 『トランス───《キィン》』 俺は、俺達はなにかを置き去りにした上で、今の状況にある。 解ったのはそれだけ。 なにを置き去りにしたのかも解らないままに、 けれど今は、自分を突き動かすこの熱い魂を胸に、 自分のやりたいことだけを真っ直ぐにやっていこう。 ナーヴェル『……なんだよ、いい顔出来るじゃねぇか。       さっきまでの妙に悟った顔に比べりゃ、俺は今の方が好きだぜ』 藍田   『いやあの……こんなところで告白されても、俺には妻が───』 ナーヴェル『告白じゃねぇよ!!』 うん……うん! これだ───この感じだ! 心に力が溢れる! なんだって出来そうな気さえする! ……するのに、決定的ななにかが足りなかった。 なにか…………突撃する際に、誰かがなにかを言ってくれて、 俺は、俺達はそれに全力で叫び返して─── 藍田 『……なんだろ……もやもやするな……』 でも、今はそんなことを考えている場合じゃない。 きっと、思い出そうとする行為以外の行動を取れば忘れてしまうこの気持ち。 せめて手を伸ばしたかったけど─── どうしてか、もうそれに手が届くことはないのだと、心の中が理解していた。 だからせめて、さよならを。 藍田 『ありがとな、  ───』 口が自然と動いた。 無意識に言ったためにその名前は解らないけど、 涙を流すことなく笑顔で別れを言えるのなら、 俺はきっとそいつのことが、人として物凄く好きだったのだ。 だから笑っていられる。 後悔をせずに、前へと喜びを目指して突き進める───!! 藍田 『ジェットバースト!』 治った足でずっと溜めていたジェットブーツの特製を解放! 途端に、水面に立っている魔王と俺との距離は刹那に消え、 流石に驚いた魔王の顔を俺が確認したと同時にドボォッホォンッ!! ナーヴェル『ぐがぎっ!?がっはぁあっ!!』 突き出した右足蹴りが魔王の腹部に炸裂! 勢いのままに吹き飛ぶ魔王の足を即座に掴み、 一緒に飛ぶと身を捻り、足を掴んだままに顔面に踵落とし!  パギャドッパァンッ!!! 容赦なく水の中に叩き落し、透明の水の中を沈んでゆく姿を眺めながら、 意識をさらに集中させてエナジードレインを最大解放してゆく……! 藍田 『このマナがどう作動してるかなんて知らねぇ……!     けどエナジーってのは敵味方を問わないものだ……!     ありがたく頂くぜ、この満ち満ちたマナ……!』 マナを吸い込む、吸い込む、吸い込む……! それによって、守護竜素材で鍛えたために宿った力が作動し、 具足に宿る熱が帯熱の限界値を一気に超える。 もちろん以前の限界値であるが故に、鍛えた状態の今では溶けたりすることもない。 マグマより尚灼熱に……灼熱の赤よりさらなる緋へと染まりゆけ……! これ即ち紅蓮の業火……! ナーヴェル『《バシャアッ》ぷふぅっ、おーおいいねぇいいねぇ。       さっきより蹴り強くなってるじゃねぇか。       ……っと、それだけじゃねぇみてぇだな』 空間が歪むほどの熱を持った具足を見て、水面に顔を出した魔王がニヤリと笑う。 奥の手に食われるなよ、俺……相手だってまだまだ全然実力を見せてない。 最初から加減なんてしてくれてないが、それが本気とは限らないのだ。 ナーヴェル『よっ……と。《ザパ……》───うっしゃ来ーーーい!!       てめぇの全力、俺が真正面からブッ潰してやる!』 水面をまるで地面のようにして、手をついて足をついて、 倒れた地面から立ち上がるように水から這い出る魔王。 どうやって立ってるのか、なんてのはもうどうでもいいことだ。 今はこいつをブチノメすことだけ考える! なぜなら相手は魔王で───俺は冒険者だからだ! 勇者だとか世界を取り戻すとか、そんなことに俺は興味がなかった! 俺は───俺はこの世界を楽しみたかっただけなんだから!! 失った牙を取り戻せ! うだうだ悩んでる暇があるなら、その悩んだ分以上の楽しさを探せ! そしていつしか感謝する時を迎えるのです……!この世界にありがとうと……! その“ありがとう”に巡り合うために!今は貴様をブチノメす! 藍田   『貴様に恨みはないが、私欲のためになんつーかこう死ね!!』 ナーヴェル『解りやすくていいねぇ!ほれっ!いいからこいっ!       俺はな、うだうだ考えるよりも、       とりあえず全力でぶつかってくるヤツが好きだ!       無鉄砲くらいな方が戦人にゃ向いてるんだよ!だから』 藍田   『死ねえぇえええええええっ!!!!』 ナーヴェル『うおぉっ!?う、うちの魔王みてぇなことしてんじゃおぉおおわぁっ!!?』  ヒュゴヂュガァンッ!!! ナーヴェル『っ……チィってあっつあぁああーーーーーーっ!!?』 藍田   『───!』 蹴り込んだ足が再び片手ひとつで掴まれるが、今度ばかりは魔王の手の方が焼けた。 よし……いける!! ナーヴェル『まあそれとこれとは別だ』 藍田   『《ルヴオッ!!》へ?《ドバァッシアァアッ!!!》ぶぅっはぁあっ!!?』 こ、このやろっ! 火傷しながら人のこと水の底に投げ捨てやがった! どこまで我慢の子なんだ、って 藍田 『ゴボベッ!?』 水底に向けて放たれた弾丸のように沈んでいく俺の瞳が、揺れる水面の先に見た。 火傷してない方の手をこちらに向け、 凶々しい光を凝縮させている姿がってキャーーーッ!!?  ドガァアチュゥウウウンッ!!!! 藍田 『ゴブバッ!ヴァブベボベール……ブベッ!?』 反射的にアルメドレールをやろうとするも、水の中ではやっぱり無理! ───いや! 藍田 『ブボォオオオッ!!!《ゴカァッ───!!》』 一時的に熱を外へ解放! 瞬時に周囲へと投げ出された熱は一瞬にして俺の周りの水を蒸発させ、 一時ではあるが俺の体を自由にする。 その刹那に───! 藍田 『“空軍・(アルメ・ド・レール)パワーシュート”!!』 こんなデケェの跳ね返せるわけがないって!? 男は根性男は度胸!んーなこといちいち考えて、バトルなんか出来ますかいっ!!  ドゴォッ─── 藍田 『《ミシィッ!!》いぎっ───!』 振るう足にかかる重さ……プライスレス! こ、こりゃちょっと無茶したかも……! だが……ああ、だがだ! この無鉄砲さは、俺が…… 俺達が、初心者修錬場に置き去りにしてきたくらいの秘宝とも呼べるほどの大事なもの! 知りやがれ魔王!男は最強を目指すのではない───! 男はみんないつだって、心の中で廃ってゆく童心を満たすために生きているのさ!! 藍田 『オォオオオオオオオオオオッ!!!!』 既に水は俺を飲み込んでいる。 だが、既にだからどうしたというレベルだ─── 水の中に居るからといって、足に力が込められないわけじゃない。 振り切る速度がなかろうが、 この光球が飛ぶ速度に俺の足の力が打ち勝てばいいだけのこと! そして俺の足は……蹴りの熟練度は、 そんじょそこらの光に負けるほどヤワなんかじゃねぇえええええっ!!! 藍田 『うぉおおおおおおらぁあああああああっ!!!』  ウォガァアッチュゥウウウンッ!!!! 無理矢理に足を振り切り、水上の魔王目掛けてお返しする! と同時に俺も、光球に紛れて泉から飛び出し、光球直撃コースの魔王を見下ろし《ガシッ》 ナーヴェル『はーいごくろうさん』 藍田   『うぇえっ!?な、んで───』 気づけば飛び上がった遙か上空で、後ろから頭を掴まれていた。 いつのまにこんな高い位置に……!? 俺の行動を読みきってなきゃこんなことは─── ナーヴェル『悪ぃなぁ、お前がとるだろう行動、       もっと厄介な魔王と戦ってたりすると予測がつくんだわ。       だからお前が俺の裏を掻く、なんてのはまあ、まず無理だ』 藍田   『くおっ───このっ!離せ!はな───《ヴオッ───!》うっ!?』 落下速度が増した……って、お、おい!?まさかこのまま……! ナーヴェル『んーじゃーな。まあまあ楽しかったぜ』 藍田   『ま、待て!待て待て待て待───うあぁああああああっ!!!!』  ドォッガァアアアアアアアアンッ!!!! ───……顔面から流星みたいな馬鹿げた速度で叩きつけられた俺の意識は、 その瞬間にぶっつりと途切れた。 Next Menu back