───冒険の書327/悪として悪らしく───
【ケース814:閏璃凍弥/サンダルハーツ】 じゃがじゃんっ! 閏璃 「ひとりぼっちでいる〜と〜、なんだかさみ〜し〜ぃいいい〜〜〜〜ん♪     そんなと〜〜きこう言うの〜、貴様らみつ〜め〜て〜〜〜♪     汚物は焼却だぁああーーーーーーっ!!!」 敵軍勢『キャーーーーーッ!!?』 ジャングルに迷い込んだ哀れな悪魔たちに魂の救済を!! 相手が人間だろうがなんだろうが、敵なら悪魔で十分である。 鷹志 「おっ、おっ……お前なぁ!少しが加減ってものを───!」 閏璃 「はっはっはっはっは聞こえんなぁああああ!!     敵対したからには敵同士!気安く声をかけんでもらおうか!」 鷹志 「このっ……だったらこっちにも考えがあるぞ!───支左見谷!」 来流美「GO由未絵!」 由未絵「《トンッ》ひゃわっ!あ、あぅう、押さないで来流美ちゃ───あ……凍弥くん」 マシンガンランチャーをどっかんどっかんと乱射していると、 視界の中で来流美によって前に出されてくる由未絵の姿。 鷹志 「いくらお前でも支左見谷は傷つけられないだろ」 閏璃 「───浅はかな」 鷹志 「なにぃ!?」 閏璃 「俺はもはや一人の修羅よ。我が尽力、自分のために提督さんに使うと決めた。     相手が愛しき者であろうと邪魔をするのなら排除するのみよ。     ……ほら、俺映画とかでヒロインの所為で戦闘の熱が冷めるの大嫌いだし。     というわけで安らかに眠れ、友人ども」 由未絵「ふぇえぇっ!?と、凍弥くん!?」 来流美「ちょっ……退避退避ぃいっ!あの馬鹿目がマジだわ!」 閏璃 「フフフハハハハハッハッハッハッハ!!マジにもなるわ!     半端な覚悟で提督さんに加担なんか出来るかぁっ!!     貴様らには覚悟が足りん!     全てを敵に回してでも、ひとつの未来を目指すほどの覚悟が!」 マシンガン並みの連射力を誇るランチャーウェポンは実に愉快ッッ!! ジハード素材とグレイドラゴン素材により強化されしこのナハトズィーガー! 衝撃吸収力に長け、もはや俺に震動のひとつも寄越さぬわ! 弾丸は小さいのに爆発力ときたらロケットランチャー並み! 故にマシンガンランチャー!あ、威力はロケットランチャーよりもよっぽど上だぞ? 柿崎 「ままま待て!解った話し合おう!」 閏璃 「お前はなにも解っちゃいない……いつ俺が話し合おうなんて言った!」 柿崎 「ここは素直に頷いとくところだろうがぁああっ!!!」 閏璃 「説得なら無駄であるパーシモン!!何故なら俺は俺の意思で提督さんに付いた!!     この記憶が朽ちるまで、俺は提督とともに覇道を突っ走る!     これは俺の男としての決定だ!誰にも文句は言わせん!」 来流美「っは〜〜……!あの馬鹿……!またヘンな熱が入っちゃってるわね……!」 閏璃 「なにぃ、馬鹿に馬鹿と言われたくないぞこの馬鹿」 来流美「うっさいわね!!」 大体のヤツはもう遠距離弾丸でブチコロがした。 幸いにして泉を挟んだ対面に立つ俺に、そうそう攻撃をしかけられるヤツは居ない。 遠距離の勝利である。 と、不覚にも勝利を確信してしまった時である。 ゾン、と……肩に何かが突き刺さる感触。 見れば、光の矢が俺の肩に突き刺さっていた。 閏璃 「ぬう……《ベキィッ!》こんなことが出来るのはやつしかおらぬ……!」 なんとなく北斗キャラがやりそうな風情で、光の矢を握り潰して辺りを見渡す。 傷はマナが提督さん側の者のみさっさと回復してくれるから大丈夫だ。 閏璃 「姿を見せい!イボンヌさん!」 春菜 『誰それ!!』 まるで見当ハズレな名前をだしてみれば、あっさり自分の居場所を自分の声でバラす相手。 離れた位置の太い木の枝の上で、閃光の弓を構えている姿を発見。やはり更待嬢だったか。 春菜 『ふふ……同じ射手として、それは挨拶代わりの《チュィンッ!》キャーーーッ!?     ちょっ……ちょっとわたしまだ話してるでしょーーーっ!!?』 閏璃 「敵の御託に傾ける耳は《ガガガンガンガンガンッ!!》、     お生憎さま《ガォン!ガガォンガォン!》かつての仲間のために《ガォン!》     使ってしまいまして。《ガガガガガガガォオンッ!!》     ですから当店でも既に御託を並べるお客様に容赦無用なのです」 春菜 『言いながら連射することないでしょ《ゾリュンッ!》ってうひゃあっ!!?     こ、このおっ!“速射”!!』 更待嬢が矢を射ると、一発のそれが幾重の光となって襲い掛かる! それをコンセントレーション・ONEで的確に一つずつ打ち落とし、 さらに撃ち返しまくる! 春菜 『きあーーーーっ!!?ちょっ……なにそれずるい!』 閏璃 「フハハハハ……!貴様らだけがトランスを覚えていると思うな……!     俺も、そして亜人族全員も、既にそんなものは体得している……!     貴様らが通った道など!我々は1年も前に通過している!」 来流美「微妙に格好つかないセリフね」 閏璃 「来流美サン、それ身も蓋もないんですけど」 1年も前にっていうのはウソだし、どうでもいいんだが。 春菜 『だったら───トランス!』 閏璃 「ぬう!───司令部!SUVウェポン起動を申請する!」 ナハトを中空にほうってSUVウェポンを召喚! 超電磁波動砲ソル・カノンを身に着け、さらにビットシステムを作動! その瞬間にもう更待嬢は矢の射出を完了させていて、 豪雨と見紛う量の矢の雨が俺目掛けて───! 閏璃 「甘い!」 両腕に備わった大口径の双子キャノンを胸の前で合わせる! 両腕を突き出すような体勢のままにスキルを発動させると、 ソル・カノンが一つの巨大口径キャノンへと変異! これぞ重火器を一つに変異させるスキル、ガン・ストーカー! 嫌な名前だが、武器威力は二倍である! さらにこの能力は自然の加護により、大気中のマナを吸収、力に変換することができる! 閏璃 「お亡くなりになりやがれぇええーーーーーーーーーっ!!!」 あとはお約束。 某漫画の父蔵のように斜め上に向けて放たれた波動砲が、 光の豪雨を飲み尽くしながら更待嬢へと襲い掛かる! 春菜 『はぇええっ!?ちょ、ちょっ《ガォオオオーーー───ン…………キラキラ》』 電磁エネルギー奔流に飲まれた更待嬢が、言葉も残さず塵と化す……悪は滅んだ。 と同時にSUVウェポンも消え失せ、それと同時にナハトが俺の手に落ちてくる。 閏璃 「さあ次は貴様らの番だ」 来流美「ちょちょちょちょぉおおっと待ちなさいなんなのよそれは!」 閏璃 「武器だが?」 来流美「そういうことを訊いてるんじゃなくて!!なんなのよその馬鹿げた威力!!     アンタの武器、近接ものじゃなかった!?」 閏璃 「なにを言っとるんだこの男は……」 来流美「あたしゃ女だって何度言わせるのアンタはぁあっ!!     ……はぁっ……!はぁっ……!」 閏璃 「あまり怒るとシワが増えるぞ」 来流美「ぐぎりぎいぃいいいいいっ!!!誰の所為だと思ってんのぉおおっ!!!」 閏璃 「お手手のシワとシワを合わせて、二重シワ♪南ァアア無ゥウウウ……!!!」 来流美「《ブチリ》……殺すわ」 来流美がキレた。 ところで幸せにしたいなら“し”と“し”を合わせないと意味がないと思うんだよな……。 死と死を合わせればいいんだろうか。 それとも志と志を合わせるんだろうか。 いや待て、刺と死を合わせれば───なるほど、極楽浄土行きだな。 来流美「凍弥ぁああっ!アンタは《ガォンッ!》はうっ!───《ドタッ》」 鷹志 「うぉおっ!?」 由未絵「ひゃううっ!?く、来流美ちゃ……!?」 泉さえ無視してずかずか歩いてこようとした来流美の、その眉間に風穴を空けた。 罪悪感は一切ナシだ。 なぜならこれは戦いで、情で動いてられる頃合などはもう遠い過去だからだ。 鷹志 「…………本気、らしいな《チュインッ!》フォオオッ!?     ちょ、待て!シリアスムードにいきなり弾丸ブチ込むやつがあるか!!」 閏璃 「黙れ敵め!いつまで馴れ合いのバトルごっこをしているつもりだ!     俺は既に覚悟を以ってこの場に立っている!貴様らがやらなくても俺はやる!     それは妻が相手だろうが娘が相手だろうが親友が相手だろうが変わらないんだよ!     覚悟ってのはそういうもんだ!戦いってのはそういうものなんだよ!」 鷹志 「っ……お前は───」 閏璃 「死ねぇえーーーーーーーーっ!!!」 鷹志 「ってちょっと待てギャアアアアアアアアッ!!!」 容赦など知らん。 俺はどんな抵抗も言葉もこの弾丸で跳ね除け、敵という敵を殲滅し続けた。 やがて辺りが静寂に静まる頃、この場に立っているのは俺だけだった。  ぺぺらぺっぺぺ〜♪ 閏璃 「おっ、レベルアップですぜ旦那。アンタも成長したもんだ」 ほふぅ、と息を吐いて改めて景色を見る。 ジャングルの中にあって、この泉の景色はまた格別だ。 なにより水が完全透明っていうのが素晴らしい。 水辺の生き物でも放ちたい気分だ。  ドゴーーー……ン…… 閏璃 「……お。向こうも決着ついたかな」 聞こえた音に振り向いてみれば、レイル担当の方角。 魔法使いたちが寄りそうなルートを考えて、先回りした筈だから多分間違い無い。 魔法殺しを持ってるあいつだ、きっと勝ったに違いない。 まあでも、ナーヴェルブラングやジハードにぶつかるよりよっぽどマシだろうけど。 一番運がないのは提督さんに当たったやつだな。ありゃ勝てんわ。 この世界でジュノーンを圧倒できるのなんて、彼ぐらいなもんだ。 エクスカリバーUってほんととんでもなかった。 閏璃 「しっかし……徹底的にブチノメしてくれ、って頼まれたものの……」 これでよかったのか? 相手の問答を無用で遮断するつもりで乱射した結果、もう塵も残ってないんだが。 これが火種となってレベルアップに励んでくれれば言うことなし。らしい。 閏璃 「でもなぁ……彼ら彼女らの経験値稼ぎの相手って、要するに俺達なわけだろ?     その俺達に負けてるようじゃ、どうやってレベル上げるんだ?」 声  「それなら心配要りませんよ」 閏璃 「うぉおわぁあっ!!?なだっ───誰…………ってクラッキーか……」 悠黄奈「悠黄奈で構いません。     あ、担当放棄したわけじゃないですよ?もう終わりましたので」 閏璃 「………」 目を細めて見てみれば、木々の隙間の奥に微かに見える巨大氷柱。 ……みんな氷漬けか……かわいそうに。 閏璃 「それで心配要らないってのは?」 悠黄奈「はい♪《ニコリ》実はこの地下空洞には細工がしてありまして。     この……はい、この漂うマナが、経験を加速化させる効果を持っているんです」 閏璃 「へ?……これが?」 悠黄奈「手っ取り早く言いますと、     博光さんとレイルさんと、然の精霊と亜人族の陰謀ですね。     あ、この場合の然の精霊には、オフラインのニンフたちも係わっています。     博光さんの武具と、レイルさんが預かってるロマンシングストーン、     魔王の斧や魔王の鎧、邪術儀式用血判状などの呪い的な部分を、     博光さんの災属性やナーヴェルさんやシードさんの死属性でコントロールして、     ここに居る存在全てに一種の“呪い”をかけているんです」 閏璃 「……あ。戦えば経験が手に入る、的なやつか?」 悠黄奈「はい。マナが逃げてしまっては仕方ないので、この地下を選んだんだと思います。     逃げ道を塞いだ上で自然で満たせば、マナはどんどんと育まれます。     自然のマナですから、他の属性とも混ざりやすいために、     属性の宝玉を持っている方ならどんな方でも経験の向上が可能です。     ……もっとも、戦わなければ意味がないので、あとは相手の心意気次第ですけど」 閏璃 「うーわ……考えるなぁ提督さん」 悠黄奈「ゲーム的なことにはとにかく頭が回る方ですから。     さすがに外のニンフたちの協力がなければ実現は不可能でしたけど」 閏璃 「だろうなぁ……」 そうかそうか、この場所にそんな秘密が……。 あ、だから俺のレベルも上がったのか。 提督さんやレイルやナーヴェルブラング、 ジハードとの模擬戦闘でレベルが跳ね上がるように上がってる俺なのに、 あっさり上がったなぁとは思ってたけど。 いやまあ、ジハードとナーヴェルブラングとの戦いは、正直思い出したくもないんだが。 何回死にかけたか解らないからな……。 ……ああちなみに、神父が今や敵軍の精霊となっている今、 俺達が死ぬとエーテルアロワノンの教会に強引に飛ばされる。 神父の代わりを天使族が勤めてくれているのだ。 カールという名の長老めいた天使だ。 残念ながらカールおじさんみたいな泥棒ヒゲはない。 エーテルアロワノンが提督さんの霊章の中にある時は、 提督さんの傍に強制転移させられる。 一度大樹ユグドラシルって見てみたいんだけどな…… 霊章の中に飛ばされる、というのは無理らしい。 閏璃 「穂岸のほうはどうだろう」 悠黄奈「圧勝ですね……加勢するのがばかばかしいほどに圧勝です。     やっぱり霊章を持っている人は能力のケタが違います」 閏璃 「ああ、あれね……。見せてもらった時は驚いた」 提督さんは両手から両肩甲骨までの霊章を持っている。 むしろそれ以上広めることも出来て、全身霊章発火人間になることも可能。 一方の穂岸は左手から左肩甲骨まで。 火闇霊章がないために、提督みたいに霊章翼を出すことは出来ないものの…… ミスティシンボルって名前は伊達ではなく、 詠唱速度がもはや異常でしかないくらいに速い。 まだジハード素材での強化もやってないから、 それをやった時の能力向上が楽しみではある。 “創造”の属性はハンパじゃない。 晦以外じゃ行使こそ出来ないものの、望んだ能力の爆発的向上が可能になる。 俺はもちろんSUVウェポン能力向上を願ったが。 提督さんは言うまでもなく“人器能力向上”だ。 人器能力が上がれば、武具の能力をさらに引き出すことが可能。 そんなことばっかするから、今じゃ僕らの最強地界人にまでなってしまったわけだが。 ……もちろん弱点もあって、武具を持たなければ究極の雑魚で、 それこそ指先ひとつでダウンが狙えるし、背中の弱点要素がまた向上した。 まあもっとも、武具無し状態になることなんてまずないんだろうけど。 けど実証例もちゃんとあって、 とある日、自然温泉に入る際、全てを脱衣所に置いて風呂に入ったことがあって、 ナーヴェルブラングにさっさと入れーって、 背中をパシーンと叩かれた瞬間に塵になった時は流石に大爆笑した。 悠黄奈「ちなみにですね……戦いが嫌いな人も、ここでは好きになれるようにと───     ドキドキノコを粉末状にしたものを空気中に漂わせてあるんです」 閏璃 「ヒィッ!?」 悠黄奈「……あの。人の顔見ながら悲鳴あげて後退りされるとさすがに傷つくんですけど」 閏璃 「い、いいいやだってドキドキノコって……!」 悠黄奈「心配しなくてもわたしたちには効果ありませんよ。     わたしたちはいわゆる、ゲーム的に言うはぐれメタルのようなものです。     確かに敵を倒せば経験値ももらえますが、     どちらかといえば敵を燃え上がらせるのが仕事の悪役キャラクターです。     キノコの効果はそういう悪巧み方向に向けられるので、     わたしたちはこのまま敵のやる気を燃え上がらせていればいいんです。     でもヘンな方向に悪巧みすると大変なことになるので、気をつけてくださいね」 ……それって、悪巧みの方に意識をしっかり持たないと、誰かに恋してしまうということ? あれはもうさすがに勘弁なんだが。 あの時の悠黄奈さんを思い出すだけで、体が怯えに入ってしまう。 条件反射って怖いよな、うん。 閏璃 「じゃあとりあえず、俺達は来る敵来る敵、排除しまくればいいわけだ」 悠黄奈「そうです。で、相手に“これはいけるんじゃないか”って、     やる気を持たせるのも必要なことですから、     来た途端に、というのはオススメしません」 閏璃 「面倒だな〜……もうさ、こんなんでいいんじゃないか?」
【イメージです】 鷹志 「チクショオオオオ!くらえ凍弥!新必殺音速火炎斬!」 閏璃 「さあ来い鷹志イイイ!実はオレは一回刺されただけで死ぬぞオオ!」  ガォンッ!ツキューーーーン! 鷹志 「ギャーーーッ!!」 閏璃 「刺される気なんてないがな〜〜〜〜っ!!」 【f i n
……。 閏璃 「と、こんな感じで、一回刺されると死ぬという設定を相手に植え付けてだな」 悠黄奈「誰が信じるんですかそんなもの」 閏璃 「それもそうだ」 全然だめだった。 閏璃 「じゃあともかく相手を調子付かせつつコロがせばいいんだな?」 悠黄奈「平たく言うとそうですけど、言葉だけ聞くと物凄く外道ですね」 閏璃 「俺達ゃ悪やってるんだ、外道でいいじゃないか。     むしろなんかこう……縛られるものが無くなった感じで結構清々しい気分だぞ?     喩えるならば無人島で自分ひとりになった際、     完全裸になって砂浜を走ってスキップするような気分」 悠黄奈「………」 俯かれてしまった。 閏璃 「いや、開放感を表現したかっただけで、     べつに本当に裸身ダッシャーになる気はないんだぞ?ほんとだぞ?」 悠黄奈「あのですね……表現って言われても、     受け取る側はわたしで、わたしは女なんですよ?     無人島だからって、ひとりだからって裸で走るなんてことはしません」 閏璃 「…………あれ?なんか俺変態?……いや違うぞ!?ほんと表現したかっただけで!     間接的にセクハラとかしたかったわけじゃないんだぞ!?」 悠黄奈「解ってますよ。閏璃さんはそういうことには純情そうですから。     ……黒タイツには妙にご執心だったようですけど?」 閏璃 「あれは一種の黒歴史だが、後悔はしていないと胸を張れる」 好きなものは好きなんだ、仕方ない。 喩えるならばレズ好きがホモを受け入れられんように、 ホモ好きがレズを受け入れられんように、 好みなんてのは分かれて当然、違って当然なのだ。 ……俺はどっちも受け入れられんが。 そんな俺から言わせてもらえばどっちもどっちなわけだが…… そう言うとどっちも怒るんだよなぁ。 “同性愛”って意味では一緒だっていうのに。 まあでも、どっちかがどっちかを理解できない〜って言うのって、 なんというか目糞さんと鼻糞さんの喩えだよな、ほんと。 閏璃 「で、悠黄奈さんはレズなのか《ベパァン!》あわば!」 悠黄奈「いっ、いっ……いきなりなにを言い出すんですかあなたはっ!!!」 閏璃 「……!……!」 悠黄奈「……、い、いえあの……叩かれたことにそんなに動揺しないでくださいよ……。     こう、怒りを通り越して罪悪感がふつふつと湧き出してくるじゃないですか……」 い、いやだって急にビンタって……! 思わず頬を押さえてカタカタと震えてしまったよ。 悠黄奈「とにかくです。わたしは同性愛者ではありません。     確かに恋人も居ない身分ですが、人生はそれだけじゃないんですから。     女、男と見れば恋だの愛だのを連想するのは悪いクセですよ?」 閏璃 「そんなことを思っていた時代が……俺にもありました」 悠黄奈「はぁ……今はお父さんですからね……。月日の流れは速いものです。     ……あの、親になるってどんな気分ですか?」 閏璃 「んー……なんていうかこう、きっぱりと言うとまず自由度が無くなる。     次に仕事づくめになって、次に休みの日は子供の相手or仕込みなどなど。     はっきり言おう。結婚する前ってのは黄金時代だ。     適当に考えて、幼児の頃から約20年。     学生時代を謳歌しろって大人の意見は真実正しい。     けど子供が憎いわけじゃないから、やっぱりこう働くしかないわけだ。     繁盛店の仕事っていったって客相手にするわけだから楽しいことばかりじゃない。     理不尽な文句つけてくるヤツも居るし、だからって殴り飛ばすわけにもいかない。     あとは……そうだな、───ううむ」 悠黄奈「鬱憤、溜まってるんですね」 閏璃 「生きるために仕事しなきゃってのは解るんだけどな……。     その金の大半が自分とは関係ないところに持っていかれるのはちょっとな。     精一杯働いても自分の取り分なんてタカが知れてる。     鈴訊庵を任されて、繁盛させて、     どれだけ頑張っても自分の取り分なんて無いに等しい。     ……店長ってのはさ、給料もらうわけじゃないから、充実感に欠けるよ。     ありがとうございましたー、って何度言っても、     手に入る金は“店のもの”であって“俺のもの”じゃない。     時々さ、思うんだよ。じゃあ俺が働いてる意味ってなんなんだろうな、って」 悠黄奈「…………はい……」 閏璃 「そんな時にな、紗弥香の笑い声とか聞くと、ああ……って思えるんだ。     自分の子供がせめて一人立ちするまでは、頑張るのもいいんじゃないかな、って。     まあその店ももうあいつらに任せたし、今はこうして俺も楽しんでる。     任せっきりになるけど、それはしょうがない。     なにも教えてこなかったわけじゃないし、必要だったら助ければいいさ。     俺は今のこの状況が気に入ってる。だから、なんとしても未来を開きたい。     そのために俺は提督さんの手伝いをする」 悠黄奈「……自分のため、ですか。なるほど」 悠黄奈さんはくすっと笑うと、ええ、わたしもですと言う。 結局は自分のためだ。 誰かのためじゃあ切羽詰った時に必死になれない。 自分のためなら頑張れるし、見切りもつけられる。 そういう生き方が今は必要なわけだ。 閏璃 「ただな〜……紗弥香に婿が出来たなら、一発殴らなきゃ気が済まん。     いやむしろ病院送りにでも……」 悠黄奈「……ああ、これが親ばかというものですか?」 閏璃 「パパは“可愛い娘”のためなら大体が修羅になる。可愛い娘のためなら、な……」 悠黄奈「そこで可愛い娘を強調しないでください」 閏璃 「性格悪くてケバイノーでパパのことをクソ親父とか言う娘になんの未練がある。     そんな娘はとっとと貰われて苗字を変えた時点で縁を切るわ」 悠黄奈「凄い温度差ですね……」 閏璃 「それを考えるとここに集まったやつは一人もチャラリーナが居なくて安心だ。     柾樹を鷹志ンところの悠季美に取られたのはちと残念だが、まあいい。     あいつよりいい男なんてそれこそごまんと居るだろう。     ……ただなぁ、気心知れた相手、ってのは結構貴重でな。     ガキの頃から知ってるって理由では、柾樹は安心だったんだが」 悠黄奈「豆村くんや裕希くんはどうですか?」 閏璃 「却下。あいつら悠季美と深冬のことしか頭にないから。     だからな、柾樹が紗弥香をもらってくれれば一番てっとり───ダメだ」 悠黄奈「え?え?ど、どうしてですか?」 閏璃 「いや、やっぱり正直あいつじゃ頼りない。     娘を任せるならもっとこう、頼り甲斐があるヤツがいいな。     あと面白いヤツ。無口とか仏頂面とかはダメだ。面白いヤツがいい。     ………………惚れ薬でも調合して、提督さんと紗弥香をくっつけてみようか」 悠黄奈「親と子レベルですよ!?」 閏璃 「世間じゃ20離れてても結婚する男女が居るんだ、大丈夫。     まあ、紗弥香の気持ちが一番の前提だが」 しかしふうむ……案外悪くないような気もする。 壁はこの夏自体で、ここを乗り越えられなきゃ全く意味がないということなんだが。 だが乗り越えられたとしたら、提督さんが俺の義息子に……! 閏璃 「…………考えてみればさ、俺、男として存在を認めてるヤツって少ないんだよな。     こう、貴様を男と見込んで頼みがある!とか言いたくなるような相手がさ。     けど今の提督さんならかなり認めてる。むしろ一緒に居て面白いし。     だからこう……なぁ?ほら、手元に置いておきたくなるような気分。……解る?」 悠黄奈「それは解りますね。博光さんと一緒に居ると、そういう気分になります」 安心があるのだ。 俺達は───仲間だ!っていう安心が。 閏璃 「提督さんと紗弥香さえ頷いてくれれば、     もう意地でも由未絵を説得する自信がある。そう思うとウズウズが……な?     こう、あと500円あれば欲しかったものに手が届く!     しかし今月はもう金は下ろさんと決めた!そんな心の葛藤が!」 悠黄奈「それはちょっと解らないです」 閏璃 「なんで!?……あ、いや、人それぞれだもんな」 悠黄奈「そもそも紗弥香ちゃんが頷きませんよそれ。     なんだかんだで柾樹くんのこと気に入ってるみたいですし」 閏璃 「可愛がるのと好きになるのとじゃあ違うものさ。     むしろもう柾樹に紗弥香はやらん。もっとこう、居る筈だ。     俺の心と紗弥香の心にストライクな存在が……!」 悠黄奈「……パパモード、入っちゃいましたねぇ……」 よし、ダメで元々、提督さんと紗弥香に掛け合ってビシャアンッ!! 閏璃 「いだぁっ!?な、なに───…………蔓?」 悠黄奈「つる、ですねぇ……」 気づけばいつの間にか、俺の後ろにあった木から謎の蔓が生えて、ウネウネと動いていた。 ハテ……何故急に自然が謀反を───って、ハッ!? 悠黄奈「……あの、閏璃さん?」 閏璃 「か、感じる……!俺達を包み込む、圧倒的な自然の圧力を……!」 これは……これは外のドリアードさまの圧力……! そ、そうだしまった! 掛け合うもなにも、提督さんは既にドリアードと恋仲の関係! 今までてんで一緒に居ないからすっかり忘れていた! でで、ではこれは……! ドリアードのヤキモチが体現させた現象だとでも……いうのだろうか。 悠黄奈「あの……ド、ドリアード?そこまでモヤモヤするくらいなら、     いっそこっち側に来てみてはどうですか?     そもそもあなたが博光さんの傍に居ないから、     こうして恋仲であることさえ忘れるような事態になるんですよ?」 声  『……で、でも、でも……っ……は、恥ずかしいのです……!』 閏璃 「恥ずかしいってツラかよーーーっ!!《ビシャシャシャシャシャシャ!!》     ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」 恥ずかしい、って言葉につい反応して珍遊記のザーマスの真似をしてみた。 途端、四方八方から蔓の鞭が飛んできて、俺を打ちつけまくった。 悠黄奈「考えてもみるんです、ドリアード。     博光さんが生きていられる時間は、もう僅かです。     それは、確かに未来を完全に切り開くことが出来るのなら話は別でしょう。     けど、必ずしもそうであるだなんて限らないのですよ?」 声  『………』 閏璃 「だんまりか」 レイル「そっとしとけって、きっと便秘なんだ」 閏璃 「おおレイル、もう終わったのか」 レイル「おお。で、なんの話《ビシャシャシャシャア!!》ギャアアアアアアアア!!」 勝手に便秘扱いされたのがショックだったんだろう。 放たれた鞭攻撃がレイルを襲い、まるで棍で殴られまくったドイルさんのように、 ミギャアアアなポーズで苦しむレイルの図が展開された。 悠黄奈「ドリアード。こちらに来ないで一方的に叩くのは卑怯ですよ」 声  『……、……』 レイル「いででで……!ああ、なんか物凄く戸惑ってるな」 閏璃 「きっとシャイなのよ」 悠黄奈「はぁ……ドリアード、あなたがそのつもりなら、アルセイドを呼ぶまでですよ?     アルセイドなら素直に、まあ口が足らない子ですけど、     素直に博光さんに甘えるでしょうから」 声  『だっ、だめですっ!博光さんの傍にはわたしがっ……───!?     は、はぅっ!あうぅ……!』 レイル「おいおい自分の言葉で戸惑いドキュンだぜ」 閏璃 「なんというかトキメケの夏ですなぁ、いやぁ暑い暑い」 レイル「……カップルの前で暑い暑いとか言うヤツって結構鬱陶しいよな」 閏璃 「うん……同感だけど言っておかなきゃいけない気がしてな……」 悠黄奈「……ドリアード、そこまで気持ちが固まってるなら来てしまいなさい。     というかもうジェラシー爆発で蔓で叩かれるこちらの身にもなりなさい」 声  『…………だ、だって……だって…………』 レイル「伊達政宗《ドーン!ピシャアン!!》うぁだーーーっ!!?」 閏璃 「レ、レイルーーーッ!!」 だってだって言ってたから伊達政宗と続けた彼は、やはり蔓で背中を叩かれていた。 閏璃 「伊達政宗じゃあだめなのか……!?じゃあだってだってのおばあさんでどうだ!」 声  『………』 閏璃 「……あ……知りませんか……なんかこう、     見てると“ぽたぽた焼き”の煎餅思い出す絵なんだけど」 声  『………』 閏璃 「し……知りませんか……」 悠黄奈「そんな話はいいですから。ドリアード、いい加減に観念したらどうです?」 閏璃 「い、いや“そんな話”って……いいけどさ……」 レイル「今ならおじさんも許してやらんでもない……どうだ?カツ丼食うか?」 声  『いりません……』 レイル「そこだけ即答かよ!」 閏璃 「まあまあ、きっと天丼の方が好きなんだよ」 声  『いりません……』 レイル「やっぱりカツ丼か」 声  『いりません……!』 閏璃 「じゃあ天丼!」 声  『い、いりませんっ!』 レイル「いい加減解れよ閏璃……やっぱりカツ丼なんだって」 声  『ち、違います!わたしは───』 閏璃 「じゃあ提督さん」 声  『要りますっ!…………あっ……』 …………。 声  『あ、あ……あ……!!』 悠黄奈「ドリアードぉ……あなたって人は……」 レイル「おっしゃーーーっ!いい声いただきましたぁあーーーーーっ!!!」 閏璃 「惜しい!是非とも原中謹製テープレコーダーが欲しいところだった!     今の言葉を提督さんに届けてやりたか───はうあ!」 レイル「え?どした───あ」 周りを見渡せば、なにやら真っ赤になりながらウネネネネと高速で動く植物の群! え……え!?まさかこれ…… 声  『わふっ……わふれ……忘れてくださいっ!忘れ───忘れなさぁああああい!!     やあああああ忘れてぇえええええええっ!!!』 三人 『キャーーーーーッ!!?』 ……その後俺達は、ドリアードが落ち着くまで(正気に戻るまでとも言う)、 植物からの集中攻撃を受けるハメとなった。 ───……。 ……。 シュゥウウウウウ………… ドリアード『ひくっ……うっく……うぅう……』 で……現実世界でノートン先生にゲンコツをくらって、 しこたま怒られたのちに無理矢理ここへ飛ばされたの然の精霊が……この人である。 頭に出来た漫画的コブから煙というか湯気が出てる。 物凄い、目の覚めるような美人なのに鼻を赤くして泣いてらっしゃいますが。 それでも子供みたいに座り込んで泣かないあたり、 しっかりしてらっしゃるのからっしゃらないのか。 ドリアードはシャンと立った状態で股関節あたりの前で手を揃え、 涙目の目だけを軽く閉じた状態で悠黄奈さんから説教をくらっていた。 しかしこう、なんだ。 膝関節まで流れるように伸びる綺麗な緑色の髪に、 頭に添えられた環状の枝葉の冠……月桂冠っていうんだっけ?……と、 汚れのひとつもついていないサラサラツヤツヤの法衣。 その上からでも解る整ったボデー……言うまでもない綺麗な顔立ち。 …………それらを持つ存在が提督さんを好きになるって、なんかウソだ。 そう思えて仕方ない。 悠黄奈  「あなたがハッキリしないから、わたしまで怒られたじゃないですか」 ドリアード『ごめんなさい……』 閏璃   「…………《じーー……》」 レイル  「…………《じーー……》」 ドリアード『……?あの……?どうか……?』 閏璃   「……いや。幻想ってすげーんだなーって」 レイル  「精霊か……うーん精霊か」 人間にはない幻想的なフォルムである。 言っちゃなんだが、本当に人間にはない見事な造形美。 法衣越しにも理解できる……アレは男を虜にする容姿とボデーだ。 俺は由未絵が居るから過剰反応はしないが。 …………レイルも大丈夫みたいだ。 きっとジャミルを思っての忍耐だろう。 閏璃 「いきなり下世話な質問なんだが悠黄奈さん」 悠黄奈「はいなんですか閏璃さん」 閏璃 「なんつーかもう、彼女の容姿とボデーがあれば、     男なんてみんなイチコロだと思うんだが」 レイル「俺もそう思う」 悠黄奈「ええまあ……女性のわたしから見ても、     整っていつつも立派なものをお持ちですからね。でも博光さんは違うでしょう?」 閏璃 「………」 レイル「………」 顔を見合わせて、あ〜〜……と溜め息。 そう、提督さんはどんな相手だろうが、 “自分が好きじゃなきゃ意味がない”と断言できる人なのだ。 いつも散々とふざけているが、こと意識的なものにはとても純粋……中井出博光です。 そんな人だ、彼は。 ドリアード『あの……わたし、どこかおかしいのでしょうか……。       で、でしたらわたし、そんな格好で博光さんの前には…………』 閏璃   「ああもういちいち可愛いなこのやろう!       大丈夫だから!あんた十分に綺麗だし可愛いし整ってるから!       おまけにもう提督さんとは恋仲なんだろ!?なにを恐れることがある!」 ドリアード『………で、ですがその……恋仲といっても、ま、まだ手も繋いだことも……』 レイル  「………」 閏璃   「………」 レイル  「なぁ……」 閏璃   「ああ……こりゃあ本当に提督さんと付き合うべく誕生なされたご令嬢だ……」 悠黄奈  「博光さんも、手を繋ぐことを意識しただけで真っ赤になる人ですからね……」 恋仲の段階とは、という抗議をナギーにねだられた時の彼を思い出す。 “まず最初はててててて手を繋ぐところか始めるべきでしてねねねねね”、とか言ってた。 ああ、こりゃお似合いだわ。 レイル  「お似合いだ……ああお似合いだ。       だがお似合いだからこそ、これだけは言っておこう」 閏璃   「ああ……とても大事なことだ」 悠黄奈  「そうですね……これをやってしまうと大変なことになりますから」 ドリアード『え……?あの、それは……?』 三人   『絶対に、彼に向かって“体”で迫らないこと』 ドリアード『からっ……!《グボンッ!》か、かかからっ……!?から、だ……!?』 体で迫る、という言葉で、もう感心するくらい真っ赤になるドリアードさん。 ああ、ピュアさんだわ。 閏璃   「なんかもうこの反応だけで絶対しない気がしてきたけどそれでも注意。       提督さんは基本的に男女差別をしない。       故にってわけでもないが、女が自分の体を武器に男に迫ることを極度に嫌う。       色気で男を落とす女が大嫌いなんだ、本気で」 レイル  「冗談抜きで絶縁状叩きつけられると思うから気をつけて」 悠黄奈  「でも、それさえしなければ物凄く大切にしてくれると思いますから。       外側の人には厳しい人ですけど、内側に入った人にはとてもやさしいです。       もっと自分に自信を持って、真っ直ぐゴーですよ、ドリアード」 ドリアード『……ご、ごー……ですか……』 閏璃   「ちなみに俺は応援なぞせん」 レイル  「うむ俺もだ」 悠黄奈  「ええわたしも。だから一人で頑張りなさい、ドリアード」 ドリアード『うう……』 うーむ……顔を赤くして俯く姿も絵になる。 閏璃 「うーむ精霊か……」 レイル「うーむ精霊だ……」 思わずレイルとともに頷いてしまう。 綺麗で可愛いなんて反則だよなぁ。 けど提督さんみたいな凡人が精霊と結ばれるってのもなかなかに常識外れで面白い。 どんな子供が産まれるのか、今から楽しみだ。 閏璃   「で、その提督さんは今どこに?」 レイル  「俺は見てないぞ?」 悠黄奈  「わたしもです。……ドリアード?」 ドリアード『…………《そわそわ……》』 悠黄奈  「だから……!       べつにどこもおかしくないからいちいち身だしなみを気にしない!」 ドリアード『で、ですけどっ!!       想いを伝え合ってから、初めての顔合わせになるわけですし……!       そう思うと、どこかおかしかったらわたしは……!』 悠黄奈  「おかしくないと言っているんですっ!しゃんとしなさい!」 ドリアード『はい……』 と返事はするものの、やはりどこか俯き気味のドリ姉さん。 見れば見るほどお美しいのに、そんなしゅんとなった姿を見ると可愛いと思える不思議。 そんな彼女が、小さくコホンと咳払いをすると、語りだす。 ドリアード『……博光さんは今、仮想空間で悠介さまと彰利さんと戦っています』 悠黄奈  「仮想空間……バーチャルシフト中ですか。       それはカシムハ=ジール空間のことですよね?」 レイル  「カシ……?」 閏璃   「提督さんが作ったカジノ空間だ。コードブレイカーが出来る」 レイル  「へー……」 ちなみにカシム=ハジルという人物が幻想水滸伝で居たが、関係はない。 閏璃   「よし、見物しに行こう」 レイル  「ていうかさ、晦のことは“さま”呼ばわりなんだな。恋人は“さん”なのに」 ドリアード『!!』 悠黄奈  「あっ!レイルさん!」 レイル  「え?なに?《ドス!》プロンプト!!……な、なにしやがる……!」 閏璃   「脇腹貫手だが、とりあえずこれ以上       ドリ姉さんを動揺させるのはよろしくない……!       ただでさえ顔合わせに緊張してるのに、       さらにショック受けるようなことを言ってどうするのだ……!」 レイル  「気になったんだから仕方ないだろ……!───って、ドリさん?」 ドリアード『死にます───       博光さん以外の男性をさま呼ばわりなんて……もう顔向けできません』 三人   『ハワワちょっと待ったぁああーーーーーーっ!!!』 自然を操って木の枝から蔓をたらし、 器用に環を作って首吊りを謀ろうとしたドリ姉さんを全力で止める! いきなり首吊りなんてどれほどお似合いカップルなんだよこの精霊さんは! ───はうあ!こ、この法衣の滑らかな手触りと、その下にある感触……! って違う違う違う気をしっかり持て俺! 俺には俺には由未絵が由未絵が由未絵がぁああああっ!!! ───頭がおかしくなりそうだったので、 悠黄奈さんに任せてすかさず手を離して蹲った。 やっちまった感がしくしくとうずき出す……と落ち込んでいると、 隣でレイルも頭を抱えていた。 レイル「……すごい破壊力だったな……」 閏璃 「ああ……手触りとか匂いとか、物凄かった……」 一種のテンプテーション効果でもあるんじゃなかろうか。 落ち着いた今では大丈夫だが、 もはや提督さん以外の男が彼女に近寄るのは危険だと断言できる。 悠黄奈  「ドリアード……!まったく、あなたはまったくもう……!」 ドリアード『博光さん以外の男性に触れられてしまいました…………』 悠黄奈  「腕を掴まれたくらいで死にそうな顔しない!!しゃきっとしなさい!もう!」 閏璃   「ほんともうしょうがないんだから……ごはんは?大盛り?中盛り?」 レイル  「いきなりなにごとだ」 閏璃   「いや……なにかの真似に走ることで、このやっちまった感を払拭しようかと」 レイル  「気持ちは解るけどな……」 ドリ姉さんはやばい。 男を惑わします。本人にその気がなくても。 ほら、なんていうんだ? 自然をむやみに傷つけてはいけません、て教わっただろ?子供の頃に。 大人になってからは芸術品を傷つけてはいけないって言葉を知る。 そうなるとさ、禁忌を犯したい気分ってのはどうしても出てくるわけで、 ドリ姉さんは存在自体がそんな感じなのだ。 彼女に触れることはその禁忌に近い感覚で、だけどこう……って、そんな感じ。 な、なにを言っているのか解らねーかも知れねーが俺も解らねー。 これは一刻も早く提督さんと手と手を取り合ってもらわねば……俺達がヤバイ! 閏璃   「よし行こうやれ行こう!提督さんが待つカシムハ=ジールへ!」 レイル  「だな!俺達のためにも!」 ドリアード『そ、そんな……わたし、まだ心の準備が……』 悠黄奈  「いい言葉を教えてあげます。       “心の準備はするものじゃない。自然と構えるものさ”ですよ」 ドリアード『自然と…………どなたの言葉ですか?』 悠黄奈  「わたしです」 ドリアード『………』 あ、またしゅんとした。 けど歩みを止めないところを見ると、行く覚悟は決めたらしい。 閏璃 「どっちに行けばいいんだろうか」 悠黄奈「ミクさんが居れば手っ取り早いんですけど……」 閏璃 「あ、じゃあちょっと待った。ビットカモン!」 もったいないがスキルでビットを召喚。 そこから衛星を通してミクへとピピピ電波を発信。 ………………数秒後、 ミク 『マスターが裸踊りをしていると聞いたんですけど本当ですか!?』 彼女は物凄い速さで素っ飛んできた。 悠黄奈「閏璃さん……なんて言葉で呼び寄せてるんですか……」 閏璃 「速いほうがいいかなと……あ」 ドリアードが顔を真っ赤にして俯いてしまった。 裸踊りはマズかったか……ううむ。 閏璃 「やあミク。ちょっとマスターのために頼まれてくれないか?裸踊りはウソだから」 ミク 『ウソだったんですか!?』 閏璃 「…………いや……言った俺が言うのもなんだけど、     なんでそんなに楽しみにしてたのさ」 ミク 『いえ……マスターなら冗談抜きでやりそうだったので』 見たかったのか……そりゃ悪いことをした。 でも今はそれどころじゃないことをミクに話して聞かせると、 ミク 『カシムハ=ジールに行きたかったんですか。     それじゃあカシムハ=ジールに案内しますけど───』 素直に案内役を買って出てくれた。 いい娘なんだがなぁ、時々どころかしょっちゅうぬけてるのがキズだ。 ミク 『……ほんとに裸踊りはないんですか?』 悠黄奈「ありません」 ミク 『オモシロそうだったのに……残念です』 面白そうなのは認めるが、見てみたいかって言われたら見たくないな、うん。 そんなこんなでミクの案内のもと、 俺達はカシムハ=ジールへのゲート(バーチャルシフトの波)に乗り、 提督さんが居るであろう仮想空間へと突撃をかけたのだった。 ……そわそわと落ち着きのない、ドリ姉さんを連れて。 ───……。 ややあって辿り着いた場所は、コードブレイカーがあったナンディルームではなく、 空いっぱいに広がる青の下の草原だった。 一瞬、城の外に出てしまったのかという錯覚を覚えるが、 考えてみれば外の空は赤のままの筈だ。 だったらここはまだ仮想空間なのか───と納得。  ドゴォオオンッ!!! ……した瞬間に炸裂音。 音が発せられた場所を目で追ってみると、以前見た融合体……晦と弦月と、 そいつと戦う提督さんの姿があった。……朧弦、とかいったっけか。 朧弦  『光速釘パンチ!!』 中井出 「ラッシュの速さ比べか───“世界”(ザ・ワールド)!!《ドシュンッ!》」 ワールド『フンッ!フンッ!!』 真正面から朧弦が突っ込んでゆき、それを提督さんが受け止める感じの戦いだ。 どういう状況があったのか、朧弦がラッシュをかけるが─── ワールド『無ゥウウ駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァアッ!!!!』  ドバドバゴガガガガガガガガガンガンッ!!!! 朧弦 『っ……!速ぇえっ……!!』 提督さんが召喚した灼闇の魔人がそれらを全て殴り止め、 提督さんは奇妙なポーズを取りながら風に打たれていた。 ていうかあれスタンドだよね?ザ・ワールドだよね?DIO様だよね? 朧弦 『だったら伎装剣術(レンジ/ブレイク)!!』 拳ではダメだと悟ったのか剣に熟練を移す朧弦。 あの戦闘方法は一度融合した時に仕組みを覚えた。 熟練移動はかなりいい戦闘方法だが─── 朧弦 『詰める!とぁあっ!!』 俺達が思わず息を飲んで離れて見ている中で、 朧弦はワールドを引っ込めた提督さんに向けて剣舞を見舞う! しかしそれも全て弾かれ、思わず息を飲んだところを足払い。 尻餅ついた途端に提督さんの灼闇の手が伸び、 中井出「調ォオオオ子こいてんじゃねぇぞコラァアアアアッ!!!」 片手で朧弦の足を掴んで持ち上げると、地面に───叩きつける叩きつける叩きつける!! ていうかどうしていきなりこんなバトルになってるんだ!? 俺、ただドリ姉さんを会わせに来ただけだったのに! 閏璃   「な、なぁドリ姉さん?……ドリ───うおっ!?」 ドリアード『…………《ぽー…………》』 レイル  「戦ってる提督さんに見惚れきってやがる……」 閏璃   「すげぇ……すげぇのに可愛い……」 悠黄奈  「はいはいそれはもういいですから。       ───でも……やっぱり博光さんは強いですね……」 閏璃   「レベルよりもエクスカリバーUの効果に寄るところがかなりあるだろうけど、       それにしたって……だよな」 朧弦の強さは弦月と晦の強さもレベルも合わせた合計のものになる。 ってのに、それを軽く捌いてみせている彼は本当に何者? ああいや、考えないようにしよう。 今はただドリ姉さんと同じく、彼らの戦いに集中してみよう。 むしろ朧弦が勝ったら拍手の一つでもあげたいくらいの気分だ。 さあ、どう決着がつくか……! 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