───冒険の書11/恋もよう、晴れのち豪雨───
【ケース92:豆村みずき/ソウルオブサマンオサ】 ざわざわ…… 男  「なぁ知ってるか?最近獣人が勢力を伸ばしてきたって」 男2 「ああ、俺も聞いたぞ?     特にゴルベーザとかゴルダークとか名乗る獣人がやたらと性質悪いとか……」 豆村 「………」 男たちの会話を耳にする。 確かに最近、獣人が勢力を伸ばしてきたことはリージョン情報でも明らかだ。 特に西側のオルクヴィレッジ周辺は、既に獣人に落ちたも同然らしかった。 豆村 「なんだってんだろな。NPCでも急に戦闘盛りになる時ってあるんかな」 刹那 「そりゃお前、製作してるのが精霊だってんならいろいろ事情は変わってくるだろ。     しかも世界の精霊だとか言われてたんだろ?     人の性格とかモンスターの性格を象るのもお茶の子さいさいなんじゃないか?」 豆村 「……俺、お茶の子さいさいって言葉を使うヤツ、久しぶりに見た気がする」 刹那 「やーかましい。一度使ってみたかったんだよ」 さてさて、ところでここはとある世界の外れにあるという村……村じゃないな、集落だ。 なにせ山の頂上に小さな小屋を作って住んでるような少数民族だ。 や、民族っつーよりは冒険者……でもないな。 なんて喩えりゃいいんだ? いう……そう、遊牧民……多分これが一番合ってるとは思う。 そんなわけで、 今の俺たちはそんな彼らと一緒になってコテージで休ませてもらってる状態だ。 他の女性軍は……今現在、ザコモンスターで物理攻撃スキルを上げている。 そんなわけで、てっとり早くHPを回復させるためにコテージを借りてるわけだ。 そうこうしている内にHPも完全回復し、俺と刹那は頷き合うと立ち上がった。 今現在───俺と刹那はブラックスミス……いわゆる鍛冶業に身を置いている。 手っ取り早く強くなるにはやはり武器は欠かせないと思ったからで─── 今は親方に出された課題の“シミター”を作るために山篭り中。 この近くで質のいい鉄鉱石が掘れるから、敵と戦いつつ鍛冶レベルも増やしていっている。 とはいえ───さすがは見習い。 未だにまともな武具は作れておらず、精々で聖剣ナマクラーが作れた程度だ。  ◆聖剣ナマクラー───せいけんなまくらー  攻撃力、耐久性ともに絶望的だが、何故か聖属性のついた剣……それがナマクラー。  マグニファイでの潜在能力は四連続斬りで、  木系統の敵に大ダメージを与えられる“必殺柱斬り”が発動可能になる。  が、一度使うと某RPGのファイナルストライクが如く武器が砕け散る。  とにもかくにも木系統の敵が相手の場合のみ有利に戦える。  *eb!刊:『大丈夫。ヒロ通の攻略本だよ。』より と、そんなわけで───これはこれで面白く、俺と刹那はよく使用している。 豆村 「ん〜じゃ!軽〜く行こうかぁ!」 刹那 「オーライ!」 ふたりしてマトック(ピッケルとも言う)を持って駆け出す。 鉱石が掘れる場所はそう遠くない。 女性軍もそこでスキル上げをしているから、 危なくなったら手助けすることもできるから一石二鳥。 豆村 「武〜器〜のた〜めな〜ら!!」 刹那 「えんやこーらしゃっしゃい!!」 ガギィンゴギィンガギィンゴギィンッ!!! で、発掘場所に辿り着くや否や、鉱石を掘りまくる。 豆村 「くっふっふっふっふ……!!出るわ出るわ……!ナマクラーの素が……!!」 刹那 「や、上達することをまず考えようや」 鉱石堀りは発掘スキルと腕力が上がるからステキだ。 案外これだけでも強くなれる気がして、一度始めるとやめられん。 ただ……マトックを買う金が結構難しいんだよな。 こちとらナマクラーしか作れない見習い鍛冶職人。 人様に売れるような代物はまだ作れないのだ。 だから金は自分で集めるしかないわけで───ボギィッ!! 豆村 「あ゙」 刹那 「あっ───あぁああああっ!!お、お前っ!!」 こうしてマトックが折れてしまうと、もう目も当てられない。 刹那 「き、貴様!今俺たちは貧乏のどん底に居るというのに!     な、なんてことを!なななんてことを!!」 豆村 「マ゙……マ、マママママ……マ゙ーーーーーーッ!!!!」 岩を穿つ衝撃に耐えられなくなったマトック…… 手に持つ木の部分が思いっきり砕け、機能を果たさなくなってしまった。 だが!鋭い刃の方は少しも砕けてはいない! これを捨てるのは歴史的な罪である!! だから俺は木工スキルを発動させ、細工を始めた!!  トンテンカントンテンカンオガガガガガッ!! マキィンッ♪───マトック(耐久:弱)が出来た!! 刹那 「おっ……おおぉ……」 豆村 「フッ……手先の器用さでは誰にも負けん……と思いたい」 砕けた木をなんとか加工し、再びマトックとして再構築した。 耐久値が弱だが。 まあいい、とにかく鉄鉱石を掘らないことには始まらんのだ。 刹那 「しかし……なかなか上達しないもんだな」 豆村 「だなー。発掘スキルも上がりが悪いし。     鉄鉱石掘るだけでも結構上がってたのは最初だけだったな」 ともあれ掘る。 で、掘ったら─── 悠季美「紅蓮炭、手に入りましたよ」 豆村 「おお、ナイスタイミング」 郭鷺が持ってきた紅蓮炭を使用して鉄鉱石を溶かしてゆく。 紅蓮炭ってのがこれまたこの鉱山に居るモンスターを砕いたもので、 鉄鉱石の加工に必要なものだ。 自分で手に入れられそうになかったら猫工房に行けばいいんだが、 自分でやった方が加工スキルとか発掘スキルも上がるからそっちの方がいい。  ◆猫工房───ねここうぼう  鉱山や町、時折村で工房を開いている旅の工房猫。  鍛冶、発掘、加工のプロである。しっかりと鉱石などや紅蓮炭なども売っている。  が、マトックさえあれば買うまでもなく発掘できるので、  買うのは時間が無い時や金がある時で十分だろう。  ただし武器加工や防具加工の場合は失敗などが無いので、確実を狙うならそれがいい。  猫の見た目は、まんまアイルーらしい。  *eb!刊:『大丈夫。ヒロ通の攻略本だよ。』より 俺は紅蓮炭と鉄鉱石を手に、すぐ近くの加工場まで歩いた。 どうやら鉱石が掘れる場所には大体が加工場が設置されているらしく、 レベルの低い加工ならここで出来たりもする。 俺と刹那は毎度ここで鉄鉱石を加工してるわけだが、 出来る武器が未だにボロボロの剣とか聖剣ナマクラーくらいだったりする。 ……才能でも開花してくれないもんだろうか。  ◆才能開花システム───さいのうかいかしすてむ  博光の野望オンラインでは、  才能の無い人でも一点集中で努力すれば才能が開花することがあります。  才能があると無いとでは成功率が随分と違いますが、  もちろん開花はとても苦労するものです。  むしろ開花することなく、努力で技法を上げた者の方が好まれるケースもあり、  才能があればなんだっていいというわけではないらしい。  *eb!刊:『大丈夫。ヒロ通の攻略本だよ。』より  ……ちなみに、ヒロ通とはシステムに付属されているナビのことで、  正式名称を“ヒロミ通信”という。ヒロミの通信ではなく、博光の通信という意味。 この仮加工場ではちゃんと加工に必要なものも揃っているから、 自分で用意する必要も無く出来たりする。 ……自分で買うと高いんだよな。しかもここのと違って壊れるし。 でも鉱山は大体が村や町から離れた場所にあるから、わざわざ来るのも面倒だ。 だから正直俺たちは得していると言えるだろう。 なんたって、遊牧民のキャンプで寝泊りさせてもらってるから。 薬草とかは買い取ったりとかもしてくれるし。 豆村 「よっ!」 それはそれとして、紅蓮炭を加工炉に投げ込んで炉の温度を最大にする。 普段は誰が手入れするわけでもないから冷たくなっている炉。 が、紅蓮炭を入れることで、ひと加工の間だけ熱を持つのだ。 加工にはこれが外せない。 わざわざマグマンをコロがさなければ手に入らんのも面倒だが。  ◆マグマン  小さな溶岩石モンスター。  溶岩石といっても固まる前のものが意思を持ったモンスターで、  その面積も大きいものではないので、  弱点属性である水や氷などであっという間に絶命する。  風属性でも高いダメージを与えられるが、固まってしまうためにとても硬くなる。  だが相手も動けなくなるため、水槽の中にでも入れておけば絶命する。  水や氷などを持っていれば、ある意味で最弱モンスターでもある。  *eb!刊:『大丈夫。ヒロ通の攻略本だよ。』より  さらに言えば“eb!”はerementalbrain(エレメンタルブレイン)
の略であり、  精霊たちが頭脳を結集して作ったシステムナビ、という意味……だと思う。 ボコボコボコボコ……ドロ、ドロリ…… 溶鉱炉に入れた鉄鉱石が溶け出してくると、それを掻き集めつつ固形化させる。 もとが固形物なために、案外少し待っていればすぐに固まった。 だがそれが完全に固まる前に並べ、打っていかなければならない。 豆村 「よっ」 カンッ!! ───鎚を打ち付けていく音が耳に心地いい。 不思議なもので、熱くて正直見てるだけじゃあすぐに飽きるこの作業─── だが自分でやると、どんな武器になるだろうかとかそんなことを考えてるだけで面白い。 その全てが自分の腕にかかっているんだから、これこそ鍛冶って感じもする。  ガンッ!カンゴキィンッ!! とはいえ、カタチが整うまでは思い切り叩かなければ整わないのも確か。 これが結構腕に響く。 刹那 「はぁ〜……なんつーか鉱石を掘るっていいなぁ。     鉱山……おお、アイラブ鉱山。ある意味で山の男だ。登るわけじゃあねぇけどさ」 豆村 「鉱山夫っていいよなぁ。なんつーかこう……男の仕事って感じがヒシヒシと」  ガィンッ!ゴキィンッ!! 喋りつつもハンマーを落とすのはやめない。 これは集中力を欠かすことは出来ない作業だ。 刹那   「素晴らしい〜、汗を〜かこうぉ〜〜〜っ♪」 豆村   「汗をかくって素晴らしいぃ〜〜〜〜っ♪」 豆村&刹那『ギャァッツビィ〜〜〜ッ!ギャァッツビィ〜〜〜ッ!!』 楽しくなると案外ハイになるのは男というものだろう。 とまあそれは置いといて、大分カタチを整えることが出来た鉄をさらに整え、 熱し、冷やし───それを幾度となく繰り返してゆく。 鍛冶の知識なんぞ無いから全部適当だ。 だからゴシャアン…… 豆村 「ギャーーーーッ!!!」 砕けることもしばしば。 こうなると、やはり目も当てられない。 刹那 「……なぁ。やっぱギルドに入るだけじゃあどうにもならないんじゃねぇか?     作り方も解らないんじゃあ、そりゃナマクラーしか出来ねぇって」 豆村 「否!!型にハマった作り方なぞコンチクショウ!!     独自の作り方をしてこそオリジナル武器!!」 刹那 「…………だから。ナマクラーしか作れないんじゃどうにもならんだろうがタコ」 豆村 「む───な、ナマクラーを馬鹿にするな!     ナマクラーは木人には究極ダメージを引き出せるんだぞ!!」 刹那 「へー。じゃあナマクラー武器職人になるのかお前は」 豆村 「ヴ」 ギクリと止まった。 既にバラバラになった鉄がさらにゴシャリと砕け、悲しみを誘った。 豆村 「お、おお!ナマクラー職人になってやろうじゃねぇか!!     俺が本気になるとすげぇんだぞこの野郎!!」 刹那 「そーかそーか。じゃあ俺はあそこに居るアイルーに打ち方教えてもらうわ」 豆村 「なんだと!貴様俺を裏切るのか!自分だけズルイぞ!!」 刹那 「罵倒したいのか責めたいのか羨ましがりたいのかどっちだよ」 豆村 「う、うっせぇ!いいよもう!俺もうナマクラー作るもん!!     最強の───究極のナマクラー作ってやるかんな!?」 刹那 「がんばれー」 豆村 「ぐっ……!!」 絶対既存の腕なんぞに負けねぇ……!! 俺はそう思い、燻るハートに地獄の業火をつけたのだった。 【ケース93:裕希刹那/猫】 アイルー『ゴニャニャニャッ?ゴニャッ』 話し掛けた途端に身を正し、ペコリとお辞儀をするアイルー。 そしてすぐに顔を上げると、 しばらくして『ゴニャア……』と言いつつ片手と同時に顔を上げた。 そののちに顔をコシコシと洗い始めた。 ……やっぱ猫だ。 アイルー『お客様は神様ニャ〜〜ッ。今日はどんな用なのかニャ?      今日は鉄鉱石と紅蓮炭と研磨結晶が安いニャ』 刹那  「えーと、すんません。      今日はべつに買い物とか鍛冶依頼に来たわけじゃなくてね」 アイルー『ニャニャニャ……冷やかしはお断りだニャ』 刹那  「じゃなくて。弟子入りしたいんだって。鍛冶と加工の方法をまるで知らんから」 アイルー『弟子入りニャ?それは助かるニャー。      ニンゲンたちならたくさん素材を持てるからありがたいニャ。      けど僕たちこれから別のところに旅立つニャ。      仲間と一緒に居るなら、別れることになるけど……いいニャ?』 刹那  「だめだ」 アイルー『ニャニャニャ……それは残念だニャ。じゃあ弟子入りの話は無しだニャ』 刹那  「そうじゃない!俺は貴様が旅立つことを“だめだ”と言ったのだ!!」 アイルー『ニャニャニャッ!?そんなの勝手ニャ!僕たちは自由に生きる猫たちニャ!』 刹那  「ええいだめだだめだ!貴様はここに残って俺に鍛冶を教えるのだ!!」 アイルー『冗談じゃないニャ!僕はこれから大事な取り引きが』 刹那  「猫にマタタビ」 アイルー『なにしてるニャ!さっさと鍛冶の準備をするニャ!!』 一瞬にして弟子入りが完了したのだった。 ───……。 ……。 アイルー『僕の加工技術は伝説の竜人鍛冶職人仕込みニャ〜。      他の誰でもなく僕に弟子入りしたお客様の目は光ってるニャ』 刹那  「……いや、別に俺はマービンになった覚えはないんだが」 アイルー『……べつにそういう意味で言ったんじゃないんだけどニャ』 しかし目が光るって言われたら思い返されるのはマービンだった。 ともあれ打ち方レッスンが始まった。 アイルー『まず鉄鉱石を溶かすニャ。      普通は砂鉄を溶かすけど、紅蓮炭での加工なら鉱石でも溶けるから安心ニャ』 刹那  「ふむふむ」 猫が溶鉱炉に紅蓮炭を放り投げ、溶鉱炉を熱してから鉄鉱石を放り込む。 普通ならば随分と待たなければ溶け出さない玉鋼も、随分と速く流れてきた。 アイルー『次に鉄鉱石のいい部分を磨き出した鉄鋼石を砕いて溶かすニャ。      そうして混ぜ合わせたものを掻き集めて、打っていくニャ』 刹那  「ふむふむ」 アイルー『最初は低温で熱して軽く打っていくニャ。      いきなり高温で熱して強く叩くと砕けるから気をつけるニャ』 刹那  「ぬう」 カンコンカンコンカンッ……軽快な音が鳴る。 リズムよく打たれるそれは少しずつ、 本当に少しずつ───だけど確実にカタチを変えていった。 俺やビーンがやるような無理矢理的なものではなく、ほんの少しずつ伸びていく。 時間がかかるが、確実なのだ。 アイルー『カタチが整ってきたら高温で熱して強く叩くニャ。      鋼が馴染むまでは慣らしてあげないとあっという間に砕けるニャ』 刹那  「ふむ。理にかなってるな」 アイルー『一番重要なのは基本っていうニャ。      打ち伸ばしたら水に入れて、弱い部分は削るニャ』 言って、アイルーが鋼を水に入れると一気に周りの部分が砕けた。 もしやミス?と思ったが───どうやらこれでいいらしい。 アイルー『こうして出来たものを砕いて───』 刹那  「砕くのか!?」 なんつーか驚きの瞬間だった。 砕けないように今まで頑張ってきたものを、まさか砕いてよかったとは─── ───……。 ……。 ややあって─── アイルー『出来たニャ!』 剣は完成したのだった。 アイルー『ロングソードが出来たニャ。      ロングソードは基本中の基本だから、しっかりと作り方を覚えておくニャ。      これを軸に打ち方や素材を変えていけば、      もっと頑丈で切れ味のいい武器が出来るニャ』 刹那  「……そっか、なるほど」 勉強になった。 が、その前に。 刹那  「テコ台と鉄鋼石はどうやって作るんだ?」 アイルー『鉄鋼石は鉄鉱石の余分な部分を丹念に削りとったものだニャ。      鍛冶スキルの他に“彫金スキル”が必要になってくるから、      そっちのほうも頑張って鍛錬するニャ』 刹那  「そっか。じゃあテコ台は?」 アイルー『テコ台はちょっともったいないけど鉄鋼石を溶かしたもので作るニャ。      これが弱いと完成したもの自体の耐久も随分少ないんだニャ。      上級の武器とかになると、      このテコ台の材料も相当希少鉱石とかになったりするんだニャ』 そうなのか……やっぱスキルは上げといて損は無いってことか。 アイルー『僕の弟子になったからにはビシバシ教えていくニャ。      この鉱山だったら素人、見習い、徒弟……くらいまではギリギリ行けそうニャ』 刹那  「まあ……ナマクラー製作で見習いまで行けたのが奇跡なんだよな、俺ら」 師範もよく昇格させてくれたもんだ。 だが師範よ、さらば。 俺はアイルーに付いていくことにした。 アイルー『それじゃあ早速スパルタだニャ!!今教えた工程を身体に覚えさせるニャ!!      それが自然に出来るほどに至るんだニャ!』 刹那  「望むところだコンチクショー!!」 俺は早速行動を開始した!! なってやろう───伝説の武器職人に!! 【ケース94:豆村みずき/ソウルオブサマンオサ(再)】 カンコンコンコンコン……ジャキィンッ!!!  《聖剣ナマクラーが出来上がった!!》 豆村 「美しい……」 どっキレ〜イだ〜♪ニュウ♪……じゃなくて。 相変わらず出来上がるのはナマクラーだが、なんだか段々とコツを掴めて来た。 もちろんナマクラー製作のコツだが。 豆村 「大丈夫……大丈夫だ!ははっ!!よっしゃあ!!」 俺は新たなる可能性に挑戦する道を見つけた!! ナマクラーでも上位を目指せる!これは絶対に絶対だ!! どうあってもマグニファイの効果はどれも破壊系になっちまいそうだけど、 それはそれでファイナルストライクみたいで面白いし。 豆村 「ふう」 とはいえ、ひとつ作るのには大変な体力を使う。 そこんところはリアルに作ってあるらしく、 鍛冶という作業は達成感と引き換えに、それはもう物凄い疲労感を与えたもうた。 豆村 「………」 手にしたナマクラーはモンスターハンター2で、 ジャンボ村の村長が岩に突き立てて『ハァーーーッ!!』と言った時の剣に似ていた。 つーかまあ、俺がそうなるように鍛えたからなんだが。 属性は“聖”。 特殊スキルとして、木に対して絶大な効果が得られる。 マグニファイで引き出せる潜在能力は必殺柱斬り───四回攻撃だ。 木に対してのみ安全安心の効果を得られるが、木以外のものにやれば確実に砕ける。 木人とか球根系……つまり植物系のモンスターのみに有効な武器ってことだ。 豆村 「さてと。剣も出来たことだし、次は木工スキルでも上げるかね」 これも上げとかないとマトックの加工とかが上手くいかないからな……。 壊れたらきちんと自分で治せるようにしておかなければ。 人生いつでもサバイバル。 おお、ゴッドよ俺にパゥワ〜を与えたまへ。 というわけでナマクラーを手に、 鉱山の外にある大木が密集している場所へと向かったのだった。 フフフ、刹那め……! ナマクラーさえあればマサカリなど無くてもいいという事実を思い知るがいい……!! ───……。 ……。 豆村 「ショラッ!!」 シュパァンッ!!───ドシャアン!! 軽くナマクラーを奔らせた。それだけで、大木はあっさりと斬れてしまった。 豆村 「ナマクラー最強!!」 そう、木に対してここまで最強な武器など他に有り得ん! だというのに刹那のヤツめ、他の武器になどうつつをぬかしおって! ……まあ、スライムにすら対したダメージも与えられん代物だが。 だが植物系モンスターにだったらどの武器にも負けん自信がある!! しかし悲しいかな、ここらには木のモンスターが居ないんだよな。 居たら楽々経験値稼ぎが出来るっつーのに。 豆村 「まあ、いいさ」 強くなるってのは、ある意味男の夢───いや、魂に刻まれた習性みたいなもんだ。 もちろん俺だって“最強”には憧れる。 それは、いくら親父や悠介さんが強くったって変わらない。 でもそれは“今すぐなりたい”って思うほどのものでもない。 所詮は───そう。 一介の男が漠然とイメージする“最強”なのだ。 もし俺が強かったら、こう向かってきた相手をああやっつける、なんて思考の末。 結局は強くもなかった自分にいつかは泣く日が来るんだろう。 そして……俺にはもうその日ってのが訪れている。 諦めたわけでも絶望したわけでもなく……ただ遠い道のりに泣きたくなったのだ。 豆村 「………」 深冬を守りたいって思ってた。 了承を得たわけでもなく、俺が一方的に。 好きだったのは確かで、守りたいと思ったのも確か。 けどそこに実力も思いも届かず、何度も何度も周りの人達に迷惑をかけた。 自己満足のみで振りかざす力ほど周りに迷惑なものはない。 自分が引き起こした事態も自分で処理できない状況を作るやつは、 それこそ厄病神って言えるんだと思う。 そしてそれはまさしく自分のことだったわけで─── 豆村 「……最強か……」 もし辿り着けたとして、俺は深冬だけを守れていたら満足だったんだろうか。 世界に溢れる嘆きも悲しみも、 親が見てきた地獄やその親友と悲しみに満ちた人生も知らずに生きてきた俺は─── 目の前の好きな人だけを守れていれば……本当に満足だったんだろうか。 ……悠介さんの気持ちは俺には解った。 “守りたいものを守る”っていうのは確かに理想論だ。 でもそれは、世界中の人を守るってものよりはよっぽど現実的で─── きっと、頑張れば何回かは叶えることの出来る夢だった。 現に悠介さんは沢山の存在を救って、空界ってところの人々に親しまれたりしていた。 ぶっきらぼうで努力家で、自分に向けられた感情に弱くて、でもとても強い人。 でもそんな悠介さんが前を向いて歩けるようになったのは親父が居たからで─── その親父だって、悠介さんが居たからこそ何度死んでも頑張ることが出来たのだ。 たとえば───そう、たとえば…… 俺がもしそんな状況に追い込まれたら、 果たして俺は……他人のために何度も地獄を味わえるのだろうか。 死ぬために生き、守るために死ぬことを繰り返す。 そんな地獄を、歩いていられたんだろうか。 たったひとつの見返り……親友の未来と引き換えに、頑張ることが─── 豆村 「………」 自分はきっと子供だった。 それは、大人になっても変わらない。 どれだけ成長したって辿り着けない友情を追いながら、 いつか年老いても俺は大人になんてなれないんだろう。 誰かのために生きて誰かのために死ぬのが大人になること、なんて言わない。 でも……その人生を最初から否定しようとしてた俺には…… 意地になって、親父って存在を否定してた俺には…… 自分が大人だなんて思う資格すらきっと無いんだろう。 豆村 「……友情か」 小さい頃に『友情ってなんだろう』って考えた。 それはきっと今も同じ。 ずっとずっと解らないままに、俺は今までを歩んできた。 何が理解に至らないというわけでもない。 俺はただ……親しくなればそれが友情なのか、 それともそいつのために生きてそいつと同じ時間を過ごすことを友情って言うのか。 ずっとずっと、解らないままだったんだ。 そう……今も、そしてきっとこれからも。 友情を知らないままに親友を謳って、自己満足のままに笑って生きる。 そしていつか思い出す。 どこからどこまでが知り合いで、どこからどこまでを友情と呼べばいいのか。 そんなことを考えていた時があったな、と。 そして同時に悲しむんだろう。 それまでのそいつとの時間を思い出して、 それが本当に友情であったかも断ずることが出来なかった自分を。 豆村 「なぁ、親父……。俺……ちゃんとあいつらの友達、やってられてるのかな……」 泣きたくなるくらいに訳が解らなくなる時ってある。 自分が友達だと思ってるならそれでいいなんて、そんな都合のいい答えは通用しないから。 それでも俺は見てみたい。 あいつの───柾樹の未来の最果てってやつを。 それをいつか見ることが出来るなら、俺はあいつの友達で居られるんだろうか。 友達じゃなかったら、そんな時になってまで一緒に居ることなんて無いのだろう。 豆村 「…………」 そう思うと……感情が死んじまう前のあいつに会えた刹那が、俺には少し羨ましかった。 豆村 「世も末だねぇ。男に嫉妬かよ」 馬鹿馬鹿しくて苦笑が漏れた。 生憎だが俺はホモではない。 でも事実、俺は刹那や郭鷺や紗弥香さんが羨ましいとは思ってる。 ようするに……自分が一番あいつのことを知ってるつもりで居たのだ。 その挙句が、自分が一番知らないなんて情けない事実。 正直泣ける。 あの時の疎外感はそりゃあ相当なものだった。 そして、それはもう埋めることの出来ない差だ。 豆村 「でも俺は……親父や悠介さんみたいにはなれない」 どれだけあいつのことを親友だとか思っていても、 結局ここぞって時には自分を優先させちまうんだろう。 それは人間なら誰だって同じで、本能としてやっちまうことだって聞いた。 それが出来る親父と悠介さんが異常なだけで、俺は正常だ。 だから……そう、しょうがない。 俺はそれに罪悪感なんて覚えないだろうし、柾樹だって…… 豆村 「………」 ……違うんだろうな。 柾樹も自分より他人を……いや、友人を優先させちまう大馬鹿野郎だ。 きっとどんな事態だろうが俺を優先させるに決まってる。 俺がそうなるように手を回したとしても、あいつは笑ってそれを受け入れるんだ。 あいつはそういうヤツで……そのお節介に何度も甘えたことがある。 以前はそれが当然みたいに受け入れてた。 でも今は─── 豆村 「……情けねぇ。あいつのお節介を都合よく利用してただけじゃねぇか」 そりゃ、なんでもかんでも自己犠牲の果てに解決しようとする あいつのやり方にも問題はある。 あるけど、それを受け入れて傍観する人にも問題はあるんだ。 ……もうそんなことは無くさなきゃいけない。 あいつの自己犠牲を見るのはもううんざりだ。 あいつが不死戦死を押さえて傷ついた姿を見た時、確かに俺はそう思ったんだ。 だから……あいつの感情が死んじまってるってんなら、意地でも蘇らせる。 それが俺の、これからの目標だ。 そうして感情が戻ったら……今度こそ、ちゃんと友達になろう。 胸張って、自分はあいつの友達だって……ちゃんと言えるように。 豆村 「……、───よし!決めた!!俺は深冬が好きだ!!     他のヤツには深冬は渡せない!もちろんこれからアタックだって積極的にする!     でも最終的に決めるのは深冬で、俺を選んでくれなかったらスッパリ諦める!!     果てがピエロだって構うもんか!!泣いたって構わねぇ!!     俺は俺の出来ることを精一杯やって───後悔だってなんだってした上で、     いつか絶対に、俺が思い描いた友情ってのを築いてみせる!!」 ガシャッ─── 豆村 「へ?」 背後でも物音がした。 ハッとして振り向いてみれば───道端に落ちた紅蓮炭と…… 豆村 「み……深冬……?」 深冬 「あ……の……わ、わたし……」 ……その手前で、信じられないことを聞いたように震える深冬が居た。 まさか、聞かれた───? いや、まさかもなにもない。 この様子を見れば明らかなことじゃないか。 うだうだ考えるな、豆村みずき───!! 深冬 「わたし、そんな───」 豆村 「深冬。……聞かれちまったらしょうがない。覚悟決める。     俺はずっと深冬のことが……すぅ、はぁ……───好きだった」 深冬 「───!」 豆村 「お前を周りから守ってたのだって、月詠街から昂風街に連れ出したのだって、     全部お前に俺の傍に居てほしかったからだ。     ずっと好きで、だからこそ守ってきた」 深冬 「みずき……さん……でも、わたし……」 豆村 「……お前が柾樹に惹かれてることは知ってる。     ああ、そうだ。知ってるから俺はあいつのことを親友って呼ぶことにしたんだ」 深冬 「え……?」 豆村 「あいつは筋金入りのお節介で、自己犠牲馬鹿で……。     だからあいつが俺の親友である限り、あいつは俺の期待なんか裏切らない。     いつだって俺が望むような行動をとって、     もしお前があいつに告白したってフってくれるって信じてた」 ……そう。 理解してみればなんて容易い答えだろう。 俺は深層意識の中で全部解ってたのかもしれない。 あの日、深冬は泣いたのだ。 深冬自身のために自分を犠牲にする柾樹のために。 自分のためになにかをしてくれた人に感情を揺るがさないほど、深冬は冷たい女じゃない。 まして、ボロボロになりながらも微笑みかけてくれた人に感情を動かさない女でもない。 だから───そう、だからだ。 俺はあの時……柾樹に対して、友情ではなく危険信号を受け取っていたんだろう。 だからあいつの友情を利用した。 利用して…… 深冬 「み……ずき……さん……?」 ……今になって、その友情に涙した。 豆村 「ずるいヤツだったんだよ、俺。     あいつのなにもかもを利用して、心の中で笑ってた。     親友だなんて言って、その言葉の全てであいつの小さな感情を利用してたんだ。     友情を知らない?当然じゃないか。     俺とあいつの間に最初から友情なんて無かった」 友情を感じ取れたのなんて、最近のことだったんだ。 それは深冬が『おにいちゃん』と呼ぶ存在について、悠介さんに責められた時。 その時に初めて『信頼』を知り、今になってようやく『友情』を知った。 なにもかもが遅すぎて───何もかもが情けなかった。 友達にならないかと言った時、 俺の中には『こいつとなら退屈しない』って考えがあっただけで、 友情なんてものはそもそも無かったのだ。  けど───あいつからの友情は、きっと、ずっとあったのだ。 だからこそ涙が止まらなかった。 それを受け入れてたフリをしてたことに対しても、 その友情をずっと利用していたことに対しても。 ───先に立つ後悔など無い。 でも、きちんと受け止めてやることや、信じてやることくらいは出来た筈だったのに。 豆村 「自分勝手だって解ってる。けど───返事が欲しい」 深冬 「みずきさん……でも、わたし……」 豆村 「頼む───頼むから!!フられるならフられちまった方が安心出来るんだよ!!     覚悟なら出来てる!ズバッと言ってくれ!!」 深冬 「〜〜っ……」 深冬がビクンと肩を揺らす。 それは明らかに怯えの入ったもので─── 俺は、今まで自分が守ってきた人を怯えさせているのだと痛感した。 そしてやっぱり自分のことのために誰かを怯えさせたりしている事実に、 ふと涙の量が増えた。 深冬 「〜……ごめ……ごめん、なさい……。     わたし……わたしやっぱり、柾樹さんのことが───」 豆村 「───」 ……終わった。 今度こそ、完全に。 でも良かった、きちんと深冬の口から聞けて。 それなら……この流してる涙も無駄にならない。 でも……ああくそ。 痛い……痛いよ、くそ……。 くそ、くそぅ……涙、止まらねぇ……。 深冬 「ごめ、なさい……!」 深冬が謝ってくれている。 でも言葉を返すことも、謝る必要なんてないって言ってやることも出来ない。 嗚咽が全てを邪魔する。 苦しくて苦しくて、でもそんなことよりも胸が痛くて仕方が無かった。 耐えろ、耐えろ……。 これを全部飲みこんで、明日を見るための糧にしろ……。 豆村 「〜〜っ……」 血が出るほどに拳を握り絞めて、嗚咽を噛み殺した。 そして無理矢理に笑顔を作ると、深冬に向き直って言った。 豆村 「そっ……か……。     だったら……あいつの、感情が元に戻るまで、待ってから……っ」 告白しろ、って言おうとした。 けれど喉がへばりついたように発声を拒否し、なにも喋れなかった。 ……もう限界だ。 俺はもう、こんな痛みの中で笑顔なんて作っていられない───……  ダッ─── 深冬 「あっ───みずきさんっ!!」 聞こえない、聞こえない───!! なにも、なにも聞こえない……!! もうやめてくれ、もうたくさんだ───!! ちゃんと諦めるから……!時間がかかるけど、ちゃんと諦めるから……! だからもう、俺のことはほうっておいてくれ……!! ───……。 ……。 ……涙で滲んだ景色を走った。 走って走って、走り続けて───ふと気づけば鉱山の中に立っていた。 刹那 「んあ───ようビーン……ってどうしたんだよその顔。     なにお前、泣いてんのか?」 豆村 「っ───」 あんまりに平凡な声。 今の俺の気持ちなんて何も知らない声が耳に障った。 刹那はなにも悪くはない。 けど俺は感情の高ぶりを押さえられないままに刹那の襟首を両手で掴んだ。 刹那 「っと───!?ちょ、なにしやが───……ビー……豆村?」 ……そう。 もう限界だったんだ。 嗚咽はもう押さえられないところまでせり上がり、耐えていた涙をさらに流させた。 そして……押さえた分や、きっとこれから泣くであろう 苦しみや悲しみの分まで泣こうとするかのように───爆発した。 豆村 「っ……うわぁああああああああああああっ!!!!!     あっ……く、う……!あ、あぁああああっ……!!うあぁああああっ……!!!」 刹那 「………」 叫びを上げるように喉が震え、吐き出された嗚咽は涙とともに流れてゆく。 刹那はきっと訳が解らなかっただろうに…… 文句のひとつも言わずに襟首を掴まれたままに、黙って俺の叫びを受け止めてくれていた。 自分の恋は終わったなんて、告白もせずにカッコつけてた自分。 そして、その思いを覚悟とともに告げ、けれど報われることもなかった自分。 それでも“誰かに慰められたい”なんて思わなかった。 ただ、胸を貸してくれる友達が居れば……今の自分はきっと満足だったんだと思う。 ……だから泣いた。 後悔も辛さも残さないようにするくらいに思いっきり。 刹那 「フラレたか」  グサァッ!! 豆村 「……っ……な、んで……こういう時に……そういうこと言うかねお前……」 刹那 「胸貸してやってんだからそのくらいのサービスはあってもいいと思ったんだが」 豆村 「………」 泣きっ面に蜂……ってわけじゃないけど、 なんか一瞬にして泣ける雰囲気は吹き飛んでしまった。 刹那 「ま、泣くのもいいけどさ。肝心なのはお前が立ち直れるかどうかだろ?     つーか俺が盛大にフラレた時は胸も貸さなかったくせに。調子いいんだよお前」 豆村 「…………」 刹那 「けどまあ、これでお前も仲間だな。     俺もお前も柾樹に想い人を取られるようなカタチになったわけだけど───     どうする?まだあいつに対して友情は抱けそうか?……って違うか。     今さらだけど訊くことにする。……あいつに対して友情を持てそうか?」 豆村 「───!……刹那、お前……」 刹那 「な〜に意外そうな顔してんだよ。     あのね、お前が柾樹のお節介を利用してるのなんて、     ハタから見りゃあバレバレなんだよ。     それは多分柾樹だって知ってたことだ」 豆村 「……そんなわけねぇだろ。もし知ってたら、今までのことなんて───」 刹那 「あいつは“馬鹿”がつくほどのお節介だからさ。     どんな理屈があろうが自分が友って認めたヤツは裏切らねぇよ。     そんなアイツじゃなかったら、お前なんて一日で絶交されてる。     お前のアイツを見る目、どう見たって友情にはほど遠かったし」 豆村 「………」 言葉通りバレバレだったわけか。 そりゃそうだ、俺はあいつのお節介をいつだって利用してた。 俺が嫌がることはまずしないだろうと踏んで、 あいつがどう答えるかも心の中で解ったままに、 『深冬のことをどう想ってる』なんて訊いた。 刹那 「あ、言っとくけど俺はお前に嫌気なんて差してなかったからな?     むしろどんな無理難題押し付けられても、     ヘラヘラと了承するアイツにこそ腹立ててた。     ……あいつがいつかは断ってくれるんじゃないかって待ってたんだけどな。     ありゃダメだ、心の底からイカレてる」 豆村 「刹那、それ言いすぎ」 刹那 「言いすぎなもんか。いい加減、あいつには目ェ醒ましてもらわねぇと困る。     この際だから言うけど、俺が友情を感じてるのは今の柾樹じゃない。     ガキの時の、なにに対しても無遠慮で奔放だったアイツだ。     今みたいにハタから見れば友人の奴隷みたいに見えるアイツなんかじゃない。     アレじゃ人形だ。俺達のためになら自分の死を厭わないなんてどうかしてる。     あの死人の森で身を呈してまで俺達を守ったあの時、     本気で殴ってやりたくなった。     ……そりゃ、今のあいつに全く友情を感じて無いわけじゃないさ。     どう変わろうと柾樹は柾樹だ。けどあのお節介だけは許せないんだ。だから……」 豆村 「刹───、───!?」 刹那は突然俺を押しのけると、よろついた俺に向かって拳を振るった。  ガツゥンッ!! 豆村 「っ……」 それは俺の頬を打ち抜くと、追撃をすることもなく納められた。 刹那 「だから……それを利用してたお前も、正直虫が好かなかった」 豆村 「………」 殴られて当然だ。 昔ッからあいつの友達やってた刹那になら、どれだけ殴られても済むことなんかじゃない。 でも─── 刹那 「でも、これでチャラだ」 豆村 「へ───?」 刹那は笑いながら、俺に手を差し伸べた。 べつに俺が倒れてるとか、起き上がらせようとしてのものじゃない。 これは……握手をしようとして差し伸べられたもので─── 豆村 「刹那……でも俺は……」 刹那 「気にすんなよ。俺がチャラだって言ってんだから。     それに一番の悪はなんでもかんでも了承するどこぞのハイパーボケだろ?     拳一発でもおつりが来るんだよ、普通は」 豆村 「………」 刹那 「なんだなんだぁ?いつものビーンらしくねぇぞぉ?     こういう時は素直に手ェ取って笑えばいいんだよ。     そしたら、俺達はようやく友達になれるんだから」 豆村 「……ようするに今までは俺のこと友達って思ってなかったっつーことか」 刹那 「友達利用したりしてるヤツのことどうやって友達って思えっつーのお前。     それって人を顎先で使うような、どこぞのおエライさんと変わらねぇじゃん。     だぁれが好き好んでそんなクズ野郎と友達になるってんだよ」 豆村 「いや、クズって……」 何気にヒドイぞこいつ。 刹那 「でも今のお前は違うだろ。ちゃんと誰かのために泣けるし、後悔もしてる。     失恋もしたしそれを受け止められた。     以前のお前なら柾樹を逆恨みすることだって出来たろうに。     ……だからさ、いいんだよ、もう。     生憎と、どれだけお前が罵倒されたいとか思ってもさ、     苦しんでるヤツをさらに糾弾してヘコませるほど非道人じゃないんだよ俺は」 豆村 「刹那……お前……」 刹那 「まぁでもアレだな。お前って親友になったりするとまた調子に乗りそうだから。     しばらくは知り合い程度ってことで」 豆村 「なぁっ!?て、てめぇ普通こういう時にそういうこと言うか!?」 刹那 「なに言ってんだ、現に“親友”って間柄を利用して柾樹をいいように使ってたろ」 豆村 「ぐっ……それについては言い訳のしようもねぇけど……!!     でも俺はもうそんなことしねぇ!!神にだって誓える!!」 刹那 「死神が神に誓うなんて言って誰が信じるんだボケ」 豆村 「………」 まったくだった。 まして、死神の長に誓うってことになれば親父に誓うってことになる。 それはなんつーか避けたい。 刹那 「ま、べつにいいじゃん。俺、今までお前のこと友達だなんて思ってなかったし」 豆村 「……お前さ。今こそ言ってることが俺をヘコませることだって気づいてるか?」 刹那 「さぁなー。どうでもいいじゃんそんなこと。     べつにお前のことそこまで怒ってるわけじゃねぇし。     でもいつまでもそんな辛気臭い顔されたらゲームが楽しめねぇだろ?     だからちったぁ笑えって言ってるんだよ」 ……え?言われたっけ俺。 刹那 「じゃ、問題も解決したことだし鍛冶続けっか。     あ、それとさ。お前このまま深冬ちゃんと冒険続けられそうか?」 豆村 「……正直辛すぎる。どんな顔して会えばいいのか解らねぇよ」 刹那 「そっかそっかぁ。お前って案外ナイーヴだったのな。     なっちゃんって呼んでいいか?」 豆村 「ナイーヴ言うな。それからなっちゃんとも」 でも……正直刹那は凄いんだと思う。 俺はフラレただけでこんなにも苦しくて、 出来れば二度と顔をあわせたくないくらいに辛い。 でも刹那はどうだ? フラレたってのに頑張ってアタック続けて、邪険にされても向かってる。 そもそもの違いで……俺は顔を合わせるのですら抵抗があるってのに、 刹那はずっと顔を合わせて、しかも笑っていられてるんだ。 俺には……そんなの出来そうにない。 刹那 「……な、ビーン。知ってっか?辛かったら逃げ出すのも勇気なんだぞ」 豆村 「へ……?な、なんだそりゃ男らしくねぇ」 刹那 「だからだよ。みんなが情けないとか男らしくないとか言おうが、     その罵倒さえ受け入れて逃げ出すことにどれだけ勇気がいると思う?     “人の期待を裏切る”ってのはそれだけでいろんなものが壊れることだ。     それが解ってても逃げられるってのは勇気だ。     ……もちろん、得られるものなんて極端に無くなっちまうんだけどな」 豆村 「……俺は……」 刹那 「お前が逃げ出したいってんなら付き合うぞ?     深冬ちゃんには郭鷺や紗弥香さんと一緒に冒険してもらってさ。     俺とお前はアイルーと一緒に当ても無き冒険の旅へ」 豆村 「………」 俺は…… 豆村 「……お前ってさ。なんだかんだ言ってお節介なのな」 大きく深呼吸をしたのちにそう言った。 すると刹那はキョトンとした顔をしたのちに『知らん』って言って、おどけてみせる。 ……それで覚悟は決まった。 俺は多分柾樹の親友にはなれやしない。 親友って言葉に憧れてたくせに、それを利用してたんだ。 今さら俺にそれを名乗る資格なんて無い。 だから─── 豆村 「……ん。行くか、アイルーと一緒に」 刹那 「ん、よし。そんじゃあ紗弥香さんにtellを送ってと……。     あー、もしもし紗弥香さん?     ごめんなー、俺とビーン、これからふたりだけで冒険に出ることにしたから」 声  『〜〜〜っ!?〜〜〜〜!!!!』 刹那 「あっはっはっはっは!!貴様らの未来なぞ知ったことか!!」 声  『〜〜!!───、〜〜〜っ!!!』 刹那 「まあそんなわけなんで!強く生きるのですよ、坊や……」 声  『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!』 刹那 「あ、キャッチホンだ。切るぞ紗弥香さん」 声  『〜〜!?〜〜〜っ!!!』 プチッ。 刹那 「よっしゃ!んじゃあ行くかぁ!     あ、紗弥香さんのこったからすぐにここまで来ると思う。     見つかる前にとっとと逃げるぞ」 豆村 「な、なんつーか……ははっ、あははははははっ!!!     お前思い切ったことするなぁ!!あはははははははっ!!!!」 刹那 「アホか、これくらい出来る度胸が無けりゃお前らと付き合ってられっかよ」 豆村 「……そして時々物凄くイタイこと言ってくるな」 刹那 「ん〜なことたいいからとっとと準備しろ。     あ、ポーションとかアップルグミは置いていこう。     それくらいの補助はしとくべきだ」 豆村 「だな。や、なんつーか告白してフラレたから逃げるなんて、     ……なんて毒毒しいほどに辛くて情けねぇんだ俺……」 刹那 「腐るなっての。気持ちの整理がついて落ち着いたら合流すりゃいいんだよ。     なんでもひとりで抱え込むもんじゃねぇぜ?」 豆村 「あ、ああ……はぁ、そうだな」 ゆっくりと深呼吸をする。 そうしてる間に刹那は駆け出し、奥の方に居たアイルーに事情を説明すると、 アイルーを抱え上げて大激走。 もう、女の子だけを山頂に置いていくってことへの罪悪感なんぞ皆無って感じだ。 俺はその旨を説いてみた。すると─── 刹那 「?……なに言ってんのお前。     現実世界ならいざしからず、このヒロラインで個人差なんて微々たるものだろ」 まったくもってその通りの返答が帰ってきた。 ようするに生き延びたいならジョブシステムを上手く活用すりゃいいのだ。 そのためか、刹那は戦士用のロングソードを何本かその場に置き、 横に“置き土産。これで乱世を生き延びてくれ”という手紙を残した。 刹那 「パーフェクトゥ!!」 そして振り向き様に握りこぶしから親指を立てて極上スマイル。 ……こいつ、何気に暴走野郎だ。 刹那 「よっしゃ!じゃあ行くか!めくるめく鍛冶の世界へ!!」 豆村 「ははっ……よっしゃあ!!」 ここから始めよう。 今度こそ自身を持って前を向いていられるように。 ここが新しいスタートラインだ───!! ───……。 アイルー『……どうでもいいけどいつまで僕のこと抱えながら騒ぐ気ニャ……?』 刹那  「あ、すまん。あんまり軽いんで持ってること忘れてた」 アイルー『師匠として見る気、ゼロなのニャ……』 まあ、猫だしなぁ……。 Next Menu back