───冒険の書333/悲しみを乗り越えて───
【ケース822:中井出博光/対価】 ずだだだだだだだがっしぃいいいっ!!! ナギー『ふぎゃーーーーっ!!?』 シード『ち、父上!?』 戦いを終え、自然要塞に戻るなり……俺はナギーとシードを抱きしめた。 抱き締め、抱き締め、抱き締め……強く抱き締め、それでも湧き上がる悲しみを、 きちんと飲み込むための対価として二人に愛情を注ぐ。 覚悟には対価が必要だ。 他のやつらはどうかは知らないが、俺の場合は特に。 だから抱き締め、振り回し、頬擦りをして頭を撫でてこれでもかってくらい愛で、 それでも満たされないからさらにさらにと可愛がり───……どしゃあ。 中井出「───ハッ!」 と気づいた時には、二人ともトロケてぐにゃぐにゃになっていた。 いかん可愛がりすぎた! だが……ああだが足りぬ! この辛さを、誰かを愛でることで受け入れたいのに相手が─── 中井出「あ」 悠黄奈「あ」 ……ターゲット、ロックオン。 中井出「悠黄奈さぁあーーーーーーーん!!《ドギャッ!!》」 悠黄奈「へぅわ《ガバッシィ!!》きゃわぁーーーーーーーっ!!!?」 ナギーとシードの絶叫を聞いたからだろうか、 ひょっこりと現れた悠黄奈さんへと烈風で一気に近づき、 抱き締めるや愛でる!撫でる!慈しむ!! すると、よっぽど男に免疫がなかったのか悠黄奈さんは目を回してしまい、 腰を砕いた感じにへたり込んでしまう。 さすがにそんな人を愛で続けることも出来ず、さらにターゲットを───ハッ! 中井出「サモン・ミク!」 ミク 『《ポムッ》は、はい!ご用ですかマスター!     もしや敵でも《がばーー!》きゃわーーーーーーっ!!?』 召喚したミクをなにも言わず抱擁! その状態のままこれまで以上に濃厚に愛で、撫で、慈しむ! すると最初は硬直していたミクが突然ボピィーーーーッ!!! 中井出「キャーーーーッ!!?」 蒸気のようなものを体中から噴き出すと、ゴシャーンと撃沈。 顔を真っ赤にしたまま目を潤ませ、カタカタと震えたまま動かなくなってしまった。 だが!ああだが足りぬ!まだ足りぬのだ! 寂しい……俺はあいつらになにかを残せただろうか。 辛い……独りでも頑張るって決めたけど、実際そうなってみればこんなにも……! 悲しい……胸が苦しいのだ……。 全てを受け入れるということは、こんなにも辛くて悲しくて寂しい……! 中井出「う、ううう、う……うー!!」 こんなにも自分が寂しがり屋だとは思わなかった。 覚悟を決めていたひとつのことが崩れた途端、こんなにも辛くなるなんて。 自分で勝手に相手の記憶を奪ったならまだいい。 けど、こんな突然に、簡単に忘れられるなんて……なんて辛い……! マール『あの。なにか絶叫のようなものが《がばぁーーっ!!》ひゃあっ!     あ、え……ひ、博光……さん?』 中井出「まっ……マァルゥウウウウウウッ!!!」 以下同文。 絶叫を聞きつけやってきたマールを胸に抱くと、小さなその体を愛でる撫でる慈しむ! マールは予想通りというべきか顔を真っ赤にして狼狽したが───一呼吸置くと、 俺の顔を見上げて、あ……と声を漏らした。 マール『…………悲しいことが、あったんですね───』 そして理解してくれる。 俺の腕をやさしく解き、俺の目線まで飛ぶと…… 小さな体で俺の顔を抱き、小さな手で俺の頭を撫でてくれる。 マール『……やさしい人……ならばせめて、心から悲しんでください……。     わたしがその悲しみを受け止めましょう。     こんな小さなわたしですが、誰かの悲しみを受け取り、     分かち合うことくらい出来ると思います……』 中井出「マール…………《じわ……》マール……うう……マール……!」 マール『男の子だからって、我慢なんてしちゃだめなんですよ?     ……泣いてください。悲しんでください。     悲しみを前に、感情を前に……生き物はきっと平等です。     あなたが悲しむことを誰が責められましょうか。     懺悔の言葉なんて必要じゃない……ただ、悲しめることが必要なのです』 中井出「…………」 俺の目を真っ直ぐ見て、彼女はそう言う。 マール『わたしは人が言う神を信じてはいませんが、     信じることで救われる人が居るのなら、それは悪くないことだと思います。     同時に、悲しむことでそれを受け入れられることも、悪くなどないと。     だって、悲しみを知っているからこそ、あなたはやさしいのでしょうから』 中井出「…………マール……」 なんか、じんと来た。 俺は目の前で微笑む小さな修道妖精を優しく両手で包むと、再び胸に抱く。 胸に抱いて、抱いて───……抱い……… ドリアード『〜〜〜…………《ぷーー……!》』 ア。 なんか顔を赤くしながら頬膨らませてる涙目の女性を発見した。 いやほんと……綺麗なのに可愛いなぁ。 なんてこと思ってる場合じゃなくて。 中井出「……ありがとう、シスター。ちょっと救われた」 マール『いいえ、わたしたちも救われているんだと思います。     それに比べたらこのくらい…………あの、いつでも頼ってくださいね。     わたしの小さな体で出来ることなんて少ないでしょうけど、それでも───』 中井出「うん。ありがとう。……はは、そうだよな。     かつての知り合いが全員敵になっても……俺にはみんなが居る」 悲しむ必要はあっても、希望を捨てる気なんてなかった。 だけど独りで寂しいままに突き進むには、人の心はもろすぎる。 そんな弱い心を支えてくれるやつらが居るのなら───俺はまだ、頑張れる。 ぺこりと綺麗なお辞儀をして、 とろけている皆様の介抱に向かうマールに心からの微笑を贈りながら、 そそっ……!と近寄り、僕の服を小さく摘んで僕を見上げてくる目に苦笑する。  ───本当は、おいそれと触れたくなかった。 けど、その“もっとわたしを頼ってください”と訴えかける目を見たら─── 自分でも知らないうちに溜まりすぎていた俺の寂しさは、もう耐えることが出来なかった。  ぎゅっ─── ドリアード『あっ……』 気づけばドリアードを自分の腕で掴み、 多少乱暴だと自覚できる勢いで自分の胸に引き寄せ、抱き締めていた。 腰と頭をやさしく抱き、頭に当てた手を慈しむように動かし、撫でて。 ドリアードはすぐに状況に気づき、小さな悲鳴を上げかけるけど─── 俺が小さく嗚咽を漏らしていることに気づくと、 悲鳴も押し殺して、恥ずかしさを心に受け取り─── 震えながら、俺の背に手を回して俺を受け止めてくれた。 中井出  「……いつもさ、そうだった」 ドリアード『…………はい』 中井出  「大切だって気づくのが遅いくせに、       大切だと思うと……全部、俺の前から消えていく。       ……うんと小さい頃にさ、親父と───父さんと雪ダルマを作ったんだ。       俺、結構負けず嫌いでさ。       父さんが作る雪ダルマに負けたくなくて、一生懸命雪を転がした」 ドリアード『はい……』 ドリアードが俺の背中をやさしくさする。 その感触が心地よくて、また少し涙が溢れた。 中井出  「こんな俺の父親だからさ、父さんもムキになって───       それで、母さんが苦笑しながら       いい加減にしておきなさいって言うのも聞かずに雪ダルマを作った。       最初は庭で、庭から道路で。そうやって大きく転がして、       でも出来たのは大小の玉がふたつ。       俺も父さんも一つの玉を作るのに夢中で、二つ目なんて出来なかった。       ……どっからどう見ても俺の玉の方が小さいのにさ、       俺の方がデカイ!って言い張って……       負けず嫌いの親子ふたりで母さんを困らせてたよ」 ドリアード『…………』 中井出  「でもいい加減にしない俺達にゲンコツくれた母さんが、       だったらその二つで雪ダルマ作りなさい、それで仲直りね、って言ったんだ」 ドリアード『……やさしい……方だったのですね』 中井出  「はは……うん。でも今度はどっちを上にするかでモメてさ。       ほら、小さい方が普通、頭になるだろ?」 ドリアード『ええ、ふふっ……』 中井出  「だからさ、父さんが言ったんだ。そこまで言うなら博光のが胴体だ、って。       父さんは知ってたんだよ。俺が丸めた玉は固められてないから、       父さんが作った玉を乗せれば簡単に壊れることを」 それでも俺は挑戦した。 どんなことでもよかった。 きっと彼に勝ちたかったんだと思う。 中井出  「もちろん俺の雪玉はぺしゃんこになってさ。父さんもう大爆笑。       腹抱えて雪の地面をごろごろ転がりまわってた」 ドリアード『……?それが……大切なもの?』 中井出  「……ん。その夜だけどさ、喉が渇いて起きるとね、父さんが居なかったんだ。       母さんは隣で寝てたけど、父さんは居なかった。       どうしたのかなって探したけどさ、家に居なくて……靴がなくなってた。       不思議に思って、家の中から窓越しに外を見てみると、       塀の向こうで汗を拭う父さんが居た。       暗くて寒いっていうのに、月明かりに反射するくらい汗だくになってさ。       なにやってるのかなって静かに出ていくとさ───父さん、       潰れた雪を掻き集めて雪ダルマ作ってた。       すっごくにこにこしながらさ───       これで博光のヤツ、許してくれるかな、とか言ってるんだ」 ドリアード『まあ……』 中井出  「……すごく……すっごく嬉しかった。       嬉しくて、笑われまくって不貞腐れてたことなんて忘れて、       父さんの背中に抱きついてた。そしたらびっくりした父さんごと、       直ったばっかりの雪ダルマに突っ込んでさ。       ……雪まみれになって、二人で笑った」 ドリアード『……素晴らしいお父様ですね』 中井出  「……うん。その後、手も足も震えるくらいガチガチになりながら、       二人して雪ダルマを作ったんだ。……もう、俺のが頭でいいから、って。       そしたら父さん、いいや父さんが頭を作る!       博光には負けん!とか言いだして───       二人とも意地になって、頭と頭だけの雪ダルマを完成させた」 ドリアード『……ふふっ……!うふふふ……っ!』 中井出  「気づいたら二人とも汗だくになりながら、       起きてきた母さんに大目玉くらってた。       それからふたりしてお風呂入ってご飯食べて───       俺は学校で、父さんは仕事場で寝ちゃって、そこでも大目玉。       家に戻るなり怒られ自慢して、家族で笑ってた」 ドリアードの肩越しに、自分の手を見つめる。 あの頃に雪ダルマを作ったこの手。 その手が人を殺めた事実に、ふと父さんに謝りたくなった。 中井出  「それから……ばーさんが死んで、父さん母さんが死んで───       それでもじいさんが居たから今までを生きてこれた。       そんなじーさんも死んで……そんな時に気づいた。       俺はいっつも、本当に大切だって思うたびに失ってるんだって」 ドリアード『博光さん……』 中井出  「でも……でもさ。喧嘩しても雪ダルマなんかで仲直りできたみたいに、       忘れられても話くらいは出来るみたいに───       失ってもまた作ればいいって、あの時父さんに教わった。       だからさ、いつか作りたいって思うよ。俺を受け入れてくれる友達。       ……なぁ。恋人さんは、傍に居てくれるのかな」 ドリアード『……、───……はい。喜んで《きゅっ》あっ』 中井出  「…………うん。ありがと」 言葉を言い終えるより早く、もう一度強く抱き締めていた。 ドリアードはなにも文句を言わずに俺の腕の中で微笑んでくれて、 そんな彼女を壊してしまわないよう、俺は手を離して……もう一度ありがとうを告げた。 まだやらなきゃいけないことは残ってる。 泣き言を口にしたなら、次は頑張らないとウソだから、と。 そうしてから歩き出すと───ふと、背中に声をかけられた。 声  『あの……っ!…………雪ダルマは……どうなったんですか……?』 それは純粋な質問だった。 俺を前向きにしてくれたものへの興味が先立った故のことだったのかもしれない。 そんな質問に、俺はかつての光景を思い出して…………小さく、笑った。 中井出「───壊されたよ。通行の邪魔だ、って」 二人で作った雪ダルマは、あっさりと壊されていた。 当然だ、道路の真ん中に作ったのだ……崩されても文句は言えない。 ……大切だと思った途端に壊される。 それは、きっとあの頃から続いている呪いめいた思い出だった。 【ケース823:中井出博光(再)/エーベンバッハの橋を越えて】 ───ザシャア。 中井出「私のレベルは……いやさ戦闘力は53万です」 ナギー『なんじゃと!?』 心が疲れきったなら、ご飯を食べて温まろう作戦。 自然要塞内ではなく、空洞の広い場所にテーブルなどを用意して食事を始めた僕たち。 その食卓にて、僕はフリーザ様になった。 いやでもね、マジでそうなんだから仕方ない。 カオスのレベルも53万だったし、力が均衡してくりゃそうなりもしませう。 相手側のレベルを全て合わせて53万なら、一人頭1万ちょいくらい……だと思う。 恐ろしい僕……!気づけばなんたるレベルに……! つーかさ、レベルが約50倍近くになるって……いや嬉しいけどさ。 この世界のレベルって上限ねーのかな。とかふと思ってしまう俺参上。 悠黄奈「無茶しすぎですよ、一人で全員と戦うなんて」 中井出「予想GUYのレベルアップもあったし、無事だったんだから了としましょう」 この場合、了は違うけどね。 中華一番の“了”と書いて“よし”と読むは結構好きなんだけどね、 あれはただ終了したって意味だと思うし。 悠黄奈「けどあの。そこまでレベルがあると、もうデスゲイズ相手でも苦戦しないのでは」 中井出「う、うむ……鬼人化発動した時のステータスがちょっとヤバイんです。     でもね、こうして……《ガショショショションッ!》     武具をランドグリーズ化して手放してみるとね、ステータスが一気に初期値に!」 悠黄奈「中井出博光は相手にするのが可哀想なくらい弱そうだ……う、うわぁああ……!」 中井出「初心者の気持ちが解ります」 この博光ではジノにすら勝てまい……つーかいくらなんでも弱くなりすぎです。 フリーザ様レベルなのにHPとか32ですよ? STRもMAXにしたところで6。切ないね。 武具あり状態ならMAXで265万はあるのに。 ……すげぇなぁ……53万レベル。 きっとマジでデスゲイズと戦っても苦労しないんだろうね。 でも油断は禁物です。 たとえレベルが高かろうが、災属性と順応回路のお陰で呪いに抗体が出来てようが………… ………………えーと、いやいや落ち着け!勝気は損気さ! じゃあえーと…… 中井出 「ジョニー!ジョニーはおるか!」 ジョニー『《ズシャア!》アンタなかなかァア……エクセントリックだニャ!』 パンパンッと手を叩くと、滑るようにして現れるジョニー。 ギルティギアのジョニー装備が気に入ったのか、 自前で作ってしまったほどで、今実際にそれを着ていたりする。 中井出 「霊章を通して僕と一体のキミたちに、レベルを振り分けようと思うんだけど」 ジョニー『や、それは無理ニャ。だってボクら一体だから、ボクも53万ニャ』 中井出 「ぬおっ!そうだった!」 振り分けて1万あたりに戻れたらな〜とか思ってたのに。 まあいいや、上がったレベルに罪はない。 でも普通に考えて、このレベルで出来るお楽しみクエストなんてないよねもう……。 ───じゃなくて! 中井出「う、ううむ、ではみんなでしりとりでもしましょう。食休みとして」 総員 『ハワァーーーーッ!!』 何気にノリのいい皆様である。 中井出 「じゃあ定番。しりとりのり。───ナギー」 ナギー 『おお、渡したいバトンは自分で指名するのじゃな?      り、り……リストバンドなのじゃ。───ヒロミツ』 中井出 「え?俺?……ド……ド・ズーカ。ジョニー」 ジョニー『カツオブシニャ!!───旦那さん』 中井出 「え?また俺?し、し〜……尺取虫!───シード!」 シード 『し……シマウマです。父上』 中井出 「いやあの……いいけどさ……ま、ね?ま……マサイ族!ミク!」 ミク  『はい!《ビシィ!》クワ!クワです!───マスター!』 中井出 「───《すっ……》」 ナギー 『おおっ!?ヒロミツが突然キリっとし始めたのじゃ!』 中井出 「……私のおじいさんがくれた初めてのキャンディー。      それはヴェルタースオリジナルで、私は4歳でした。      その味は甘くてクリーミーで、      こんな素晴らしいキャンディーをもらえる私は、      きっと特別な存在なのだと感じました。      今では私がおじいさん。孫にあげるのはもちろんヴェルタースオリジナル。      なぜなら彼もまた、特別な存在だからです。……はいナギー」 ナギー 『まっ……まま待つのじゃ!今の言葉全てが返答なのかの!?』 中井出 「なに言ってんだ当たり前じゃないか。ヴェルタースじいさんナメんなよ?」 ナギー 『ゔ、ゔぇるたーす……う、うむう……す、すじゃったの……、      す、スタンガン───はうっ!』 終了した。 よもやああもヴェルタース爺さんに翻弄されるとは……つーかスタンガン知ってるのか。 まあいいや、食事に専念しよう。 中井出 「すまんなジョニー、呼んでおいてこれだけなんだ」 ジョニー『構わないニャ』 ───みんなの記憶の中から俺が完全に消えた。 ということは、夏の終わりはもう間近。 早ければ今日か明日にでも、ということになる。 それはノートン先生に訊くとしても、さて……これからどうするか。 中井出「やっぱ…………だよな」 デスゲイズをブチコロがして無の宝玉を破壊。 その後、ジュノーンを討伐して……それをこの世界での最後のクエストとしよう。 よし、そうと決まればメシの続きさ。 腹が減っては精神が保てん。戦は出来るけど、どうしてもね。 中井出  「ところでドリアードって草食なの?」 ドリアード『……いえ。わたしたち精霊はマナを糧に生きています。       マナが無くなっても数百年と生きることは出来ますが……       蓄積がないと難しいことですね』 中井出  「なるほど。でも櫻子さんが作ったお菓子は───」 ドリアード『え、ええまあその……はい……ご、ごめんなさい……』 中井出  「いや、謝る必要はないけど」 モシャモシャと食を進める。 ていうかドリアードが箸で取って、あーんて形に……。 ああ、民の視線がイテーイテー。 こういうのやりたいな〜とか思ってた時期が……俺にもありました。 ありましたけど、いざやってみると恥ずかC。 でも美味しいですごめんなさい。 心がほかほかです。ほっかほか亭です。 この博光、どんぶりものをがっつがつと食うのが好きだというのに……! だ、だがなんなんだこの胸がいっぱいになる温かさは……! これが……これが雛鳥が親鳥から食を頂く心……!? ナギー『ヒロミツ!わしも食べさせてあげるのじゃー!』 シード『いえ父上!僕のを!』 ミク 『食事の管理も従者の務めです!はいマスター!』 マール『博光さん、あまぁい蜂蜜はいかがですか?』 ナギー『むー!邪魔するでないのじゃ!ヒロミツはわしのを食べるのじゃ!』 シード『誰が決めたんだそんなこと!僕のを食べてくれるに決まっている!』 ミク 『いえいえ。ここはやっぱりわたしのをですね』 マール『薄めたさっぱり味の蜂蜜ジュースもありますよ?』 中井出「………」 皆様、おなごにモテたいと思ったことはありますか? 正直僕はない。 モテるよりも楽しいことを知っていたから、そっちにばかり興味があった。 慕われたいって思うよりも、一緒に楽しみたいと常々。 だからこう、自分が取り合いをされているみたいな状況になると……対処に困ります。 だからこうするわけです。 中井出  「ドリアード、はいあーん」 ドリアード『…………はい?……はうぅ!?い、いえあの、ひひひ博光、さん?わたしは』 中井出  「あーん」 ドリアード『…………《かぁあ……》あ、あーん……《ぱくり……もくもく》』 中井出  「───《ギラリ!》」 ナギー  『む?な、なんじゃ?』 中井出  「はいナギー、あーん」 ナギー  『むぬっ!?ち、違うのじゃヒロミツ!わしは、わしがヒロミツに───』 中井出  「あーん」 ナギー  『…………《ぱくり》』 逆転の発想。 食べさせようとしているのなら、逆に食べさせて状況を逆転させるのだ! これならば誰のものを食べた、という責められる要素を消せる!多分! 中井出「シードよ!」 シード『はい!』  ブンッ!バクゥッ!! シード『《もぐもぐもぐ……!》』 中井出「よぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜しよしよしよしよしよしよしよしよしよしよし!!」 シードと向かい合い、お肉を投げるとそれをシードが口でキャッチ! 咀嚼を始める彼を掻き抱くと、頭をこれでもかってくらい撫でてやる。 その際、護廷十三隊十二番隊隊長及び技術開発局二代目局長涅マユリ様風に剥き歯になる。 ナギー『お、おおお……!ず、ずるいのじゃ!わしも撫でるのじゃー!』 中井出「ダメだ!秘仙丹は秘密の丸薬なんだ!」 ナギー『そ、そんなこと訊いておらぬ〜〜!わしも撫でるのじゃ〜〜〜っ!』 中井出「よろしい!では投げつける料理を口のみでキャッチ出来たらそうしよう!」 ナギー『どんとこいなのじゃ!』 中井出「じゃあこのミノタウロスの肉で」 ナギー『口で受け止められる限界を超えておるであろ!!』 中井出「バカモンナギー!ダメだダメだと思うからダメなのだ!     口でキャッチ……それは口に入れるという意味ではない!     ようはこの肉のどこであろうが噛み付いて、落とさなければいいのだ!」 ナギー『《ハッ……》な、なるほどの!それは盲点だったのじゃ!ではくるがよいのじゃ!     ただしシードよりも大きな分、わしの頭はたっぷりと愛情込めて撫でるのじゃ!』 中井出「よろしい!ではこの肉を口で受け止めた者にはそうすると約束しよう!」 総員 『───《ピクリ》』 中井出「……あれ?」 なんか集まってたみんなの目がギラリと光ったような……。 シード 『それはつまり、僕にも機会があるということ……』 ミク  『当然わたしにも!ですよねですよねっ、マスター!』 マール 『なでなでですかー……はい、一度思いっきりされてみたいですっ』 ジハード『撫でられる感触ってのは知らねーからな……一度やってもらうぜ』 ナギー 『なななにを言うのじゃ!これはわしのためにヒロミツが!』 中井出 「よろしい!では早速始めよう!」 ナギー 『ヒロミツ!?う、うあーーんヒロミツー!!』 たぱーと涙を流しながら腰にしがみついてくるナギー! そんなナギーに対して発動する52の関節技ドグシャア!! ナギー『うぴぃっ!!』 中井出「52の関節技のひとつ……キャプチュード!ってゲェエエーーーーーッ!!!」 アワワやっちまった……! だ、だって仕方なかった!ナギーが急に襲い掛かってくるから!!───ガキッ。 中井出「おや?」 ナギー『フフフ……とったのじゃ……!三角絞めーーーっ!!』 中井出「《ギョギュキィッ!!》おごわごぉおーーーーーーーーっ!!!」 なんとナギーったら! まさかこの体勢から三角絞めだなんて……! だ、だがこの博光、この程度では負けん〜〜〜〜〜っ!! 中井出「なにをーーーーっ!こんなものーーーっ!!」 無理矢理体を起こし、窒息するより先に立ち上がり、 キン肉マンがマンターロを地面に叩き落したように、 腕に絡みつくナギーを地面に叩き落と───ガキィッ! 中井出「なにっ!?」 ───そうとすると、もう片方の腕に圧迫感! 何事!?と振り向くと、 シード『俺も混ぜろ〜〜〜〜っ!!』 中井出「シ、シード!貴様!《メキッ!》グワラア……!」 なんとシードの姿が! 抗おうとしたが僕の腕と首に絡みつく二人によって、僕の体は完全に固められた! ナギー&シード『雷三角絞めーーーーーーっ!!』  グワァキィ!ガク…… 悠黄奈「落ちたーーーーっ!ロビンがーーーーっ!!」 ───……。 ……。 で…… 中井出「あのー、なんで僕、撫で撫でマシーンになってるんでしょうか」 ナギー『ヒロミツが気絶している間に、ミノタウロスの肉は皆で頂いたでの。     ならば勝負は皆の勝ちなのじゃ』 中井出「グムー……」 大木の幹に座る僕の足の間にナギーが居て、その頭を撫でている。 お一人さま1分コース。 さすがにジハードに乗っかられた時は死ぬかと思った。 一番手が彼だったために、もういったいなにが起こったのかわからなかったよ。 気絶してる時に乗っからないでください。 中井出「はい一分!」 ナギー『延長なのじゃ《ゴキィッ!》うぴぃっ!』 中井出「転!蓮!華!(手動)」 ルール無用の大悪党め! そんな子に育てたこの博光自らの力で!この世から消してくれるわ!(意識的に) そんなわけで次、ドリアード。 ドチャリ……と、ぐったりと動かなくなったナギーの亡骸を脇に置くと、 さ、とドリアードを迎え入れる。 ドリアードはやっぱり顔を真っ赤にしてたけど、それでもしずしずと俺の傍に近寄ると、 周りの視線にさらに顔を赤くしつつも僕の足の間に座る。 けど……むう。 中井出  「ドリアードさん?あっしは今撫で撫でマッスィーンにございます。       もっと背中を預けてくれなくちゃあ撫で撫で出来やせんぜ」 ドリアード『でっ……ですがっ……でも……っ』 ナギー  『キャンセル待ちなのじゃ!《ガバーーン!!》』 中井出  「クララが立った!?」 恥ずかしがるドリアードを余所に、 ならば代わりわしが撫でられるのじゃーとばかりにリビングデッドナギー!! 死んでねーけど! ナギー  『ルフェヘヘヘさあ退くがよかろドリアードォオオ……!!       わしが、わしが撫でてもらうのじゃぁああ……!!』 ドリアード『だっ……だめですいけません!撫でてもらうのはわたしです!』 中井出  「あの。ナギーの口調に関してのツッコミは……あ、はあ、無し……っすか」 癒しの関所で出会って以来の付き合いだが、ほんととんでもない方向に成長したよなぁ。 っと、そうこうしている間に時間も過ぎようとしている。 だから俺はぽふんっとドリアードを引き寄せて、抱き締めるようにして頭を撫でた。 ドリアード『ひやぁあああああああっ!!!?』 すると、すこぶる驚いたのか……絶叫。 咄嗟の行動だったのか払いのけようと彼女の手が僕の顔面を襲い───!! ドリアード『《ヒュバァッ!!》───え?』 その瞬間、彼女は宙を舞っていた。 振った手を僕に掴まれ、そこを主軸とするように…… シード『渋川流!この局面で!!』  ドグシャアッ!! ドリアード『ふぴゅっ!!』 …………ええはい、まあそのー…………やっちまいました。 受身を取ることも出来ずに顔面から地面に叩きつけられたドリアードは、 少しの痙攣のうちに動かなくなった。 ナギー『ワタシの負けだ、ゴーキーシブカワ』 シード『見事なイッポンだったろう?』 悠黄奈「ってなにをやってるんですかなにをっ!!」 中井出「フフフ……この博光、己を襲う者はたとえ恋人だろうと容赦せん。     グラップラー刃牙を熟読したこの博光は、     突然攻撃されると52の関節技をしかけるが如く渋川流すら発動させるのだ」 悠黄奈「相手を選ばないにもほどがありますよ!?ぜっ……然の精霊に合気なんて……!」 中井出「世界初っ!いただきましたぁーーーっ!!!」 総員 『ウォオオオオーーーーーーーッ!!!!』 叫んだ途端に英雄……じゃないね、さすが魔王!とか言われて、何故か胴上げされる僕。 ああ、いいなぁこの感触……。 猛者どもと一緒に居たときは、意味もなくやられたもんだよな……。 でもそうすると大抵─── 悠黄奈「み、みなさんっ!?」 総員 『え?なに?』 中井出「《ドグシャア!》おぶえ!!」 ……落ちるんだよね……。 しかもやっぱり脇腹だよ……うぉお息苦しい……。 中井出「ごぉおおおお……!お、おのれ悠黄奈さん……!     そんなにもこの博光を落としたかったとは、この博光……盲点だったわ……!」 悠黄奈「え、やっ、ち、違いますよっ!?べつに落としたかったとかじゃなくて!」 中井出「そうか。で、なに?」 悠黄奈「……強引に話変えますね。まあいいです。いいですか博光さん。     然の精霊を投げ飛ばすだなんて前代未聞ですよ?」 中井出「や、なにせ世界で初の男ですから」 悠黄奈「その言い方だと世界で初めて誕生した男性みたいですよ?」 中井出「あ、言われてみれば。……で、前代未聞が……なんだっけ」 悠黄奈「ですからっ!精霊を合気で投げ飛ばすなんてなにを考えているんです!     世界の自然の象徴たるドリアードを、あ、あろうことか投げ飛ばすなんて……!」 中井出「バカモン!」 悠黄奈「《ビクゥッ!!》ひゃあっ!?…………ひ、博光……さん?」 突然叫んだ僕に、おそる……と声をかける悠黄奈さん。 だがこの博光、容赦せん! 中井出「貴様は友人に恋人に技をかける時にわざわざ許可を得るのか!?」 悠黄奈「得ますよ普通!!」 正論だった。 悠黄奈「……博光さん、先に言っておきますけど、ここはもう原中ではないんですよ?     突然やられたことに傷つく人が居ます。悲しむ人が居ます。     みんながみんな、原中のみなさんのように強いだなんて思わないでください」 中井出「───《チク……》」 ……あ…………今……ちょっとチクってきた。 どうしよ……痛いな……今の言葉…… 悠黄奈「女性にも等しく……それはべつに悪いことじゃないかもしれません。     けれど、実力はあっても心がか弱い女性だって居るんです。     それをあろうことか投げるなんて……」 中井出「……………………覚えてるって約束したんだ」 悠黄奈「え───?」 中井出「俺は忘れない。俺は……俺一人になっても提督だ。     誰もがそう呼ばなくなっても、誰もが俺を忘れても……俺は提督なんだ。     でも…………そっか……そう、なんだよな───     俺がそうだとしても、周りは原中じゃない……」 自分がやられたら嫌なことってなんだろう。 大して親しくもないヤツに攻撃されて、 冗談だ〜って笑われたら……許すことが出来るだろうか。 急に妙なことを口走られて、 死ねとかクズがとか言われて、冗談として受け流せるだろうか。 ……無理だ、そんなことできる筈がない。 そして─── 中井出「……俺はもう、───《じわ……》っ!」 悠黄奈「ひろ───!?」 涙が滲んだ。 それを見られたくなくて走り出す。 ……そう。 どれだけ自分が覚えてようが意味が無い。 伝えるべき人にも自分が提督であったことの記憶がないのなら、 いったい誰がこんな話を信じるのか。 俺が提督だった歴史なんて存在しない。 言ったところで与太話として流される。 流されてしまうのだ、笑い飛ばされてしまうのだ───あの輝かしかった日常が! 受け止められるのか俺に!受け止めきれるのか俺に! こんな、立ってられないくらいの悲しさを! どうしてこんなことにっ……! 俺は、俺はただずっと、あいつらと、みんなと、馬鹿やって笑い合って───! ただ“楽しい”の中に居たかっただけなのに!!  ザァッ───! ……気づけば、自然要塞エーテルアロワノンの中心、 テオダールが安置されている空間にまで走ってきていた。 どうしてここに来たのか……ここじゃなきゃいけない理由でもあったのか。 心の底に訊いてみても、答えなんて返ってくるわけもない。 でもなんとなく理解した。 俺は…………“ゲームに逃げたのだ”と。 この輝きがフェルダールの核……つまりゲーム自身。 ならばこの場に逃げた俺は───…… 中井出「は……はは…………は……」 ……情けなくなった気がして、顔を両手で覆ってへたり込んだ。 支柱である大樹に背を預けるようにして、前髪を握り締めながら。 なに……やってんだろうな、俺……。 中井出「ゲームに逃げる……?馬鹿いえ……」 ゲームは逃げ道じゃない。 俺は楽しさを求めてこの世界に降り立った。 ……けど。 そもそもヘタに強くならなければ、俺が空界人を殺すことなんて─── 中井出「ははっ……なぁにを今更」 俺に言えることがあるとすれば、それはこれだ。  この世界に下りてきてよかった。 胸張って言えるよ……たとえ独りになっても、 俺は俺の“楽しい”のためにやるべきことをやる。 どなたかも歌ってたでしょう。 卑怯と呼ばれても死ぬと解っていても、辿り着けなくても幻でも、 たとえ別れでも絶望でも───やらなきゃいけないことってきっとある。 向かいたい場所があるのなら、動かなきゃ全部がウソになってしまう。 まあそんな歌とは関係なしに、俺がやりたいって思うからやるんですけどね? 中井出「はぁ……人間ってよえー……」 悲しみに滅茶苦茶弱いです。 ウサギさんですよー……ウサー! 中井出「さて…………と。───いつまでそこに居る気だ。出て来い」 声  『っ……』 息を飲む声。 ……やべぇ、マジで居た。 なんかこういう状況って漫画とかだと誰かが影で見てる〜ってのが多いから、 ただ適当に言ってみただけなのに。 だ、誰?もしやドリアード?い、いや、彼女は僕が気絶させてしまいましたし〜……  ズチャリ…… ジュノーン『気づいていたか……』 中井出  「…………」 ……予想の斜め上を吾郎さんが五字切りジャンプで飛んでった。 中井出  「なにやってんのお前……(マジ声で)」 ジュノーン『ぬ、ぬ……?い、いや。気づいていたのではないのか』 中井出  「いや……言ってみただけだったんだけど……」 ジュノーン『……つくづく緊張感のない……』 あ、盛大に溜め息吐いてる。 中井出  「で、また勝負?」 ジュノーン『いいや、違うな───』 ニヤリと……仮面の下で笑ったような雰囲気を感じると、  ───バヂィッ!! あろうことかジュノーンはテオダールを掴み取り、手の中のそれを見ると鼻で笑った。 中井出  「なっ───」 ジュノーン『これをいただきに来ただけだ』 中井出  「い、いかん!それは!」 ジュノーン『フェルダールの核、テオダール……だろう?       知っているさ、この世界がこんな球ひとつで保たれていることも、       この核が壊れればこの世界全てが崩壊することも』 中井出  「うむ。で、何故それを?」 ジュノーン『決まっているだろう?お遊びの時間はもう終わりだということだ。       予測はついていただろうが、俺がお前たちに与えた期間は夏の間だけだ。       そして今日、それが終わる。終わった刹那にこの宝玉を砕くだけだ』 中井出  「───」 ジュノーン『やってみるか?やったとしても、お前が球を砕く結果に変わるだけだが』 中井出  「じゃあ死ね」  フォギャァッフィィンッ!!! ジュノーン『《ぢゅいんっ!!》ウホオッ!!?』 中井出  「ちっ……外したか」 ジークフリードで一閃。 しかしヘルムの角部分を削っただけで、躱されてしまった。 ジュノーン『きっ、きき貴様解っているのか……!?これが砕かれれば……!』 中井出  「え?だってどうせ貴様が壊すんでしょ?今俺が壊してなんの支障があんのさ。       やぁ〜〜、壊してみたかったんだよね〜それ。       ほら、壊したら世界崩壊!って、核のスイッチみたいじゃない!       リセットロード無しの博打みたいな感覚っていうんですかね。       なんかこうホラ!ロマンがあるわけですよ!───だから死ね」 ジュノーン『───生憎だが貴様と戦っている暇はない。       これから晦悠介を始末しに行く。……邪魔は許さない』 中井出  「あらそう。でも邪魔してるのは貴様だからそれを言う資格はないし、       俺がどう行動しようかなんてのは、お前に許可を得ることじゃないよ。       もちろん俺だって貴様をとやかく言うつもりはない。       だが、俺はたった一人でも欠けることを許さんと誓った」 ジュノーン『……偽善だな』 中井出  「黙れ骨」 ジュノーン『骨!?』 中井出  「俺のは悪だ。少しだろうが偽モノだろうが善をつけるな悪に失礼だろうぉら。       善をつけて呼ぶなら正義を名乗るヤツに言え。悪に対して実に失礼だ」 ジュノーン『…………ふん。いつもよりキレがないな。       全てに忘れられて、思いの他動揺しているか』 中井出  「おおそれよ。やっぱショックはデカいね。       自分でこうさ、きっかけを提示して忘れられるならいいよ?       けど急に腕を撃たれて〜ってのはさすがにキツかったわぁ……」 対価にするものが無ければ自分が立てんことくらいとっくに知っている。 けど、仲間を突然失う辛さに見合う覚悟も対価も、あの時はなかったのだ。 中井出  「だが間違うな。この中井出博光には野望がある。       それはもはや貴様なぞには止められん!と思うだけならタダである!」 ジュノーン『……好きにしろ《ゾパァン!》ヌオオッ!?』 振るった一閃で装飾の角が飛んだ。 中井出  「あれ?なんで避けるの?好きにしろって言ったのに」 ジュノーン『思考的な意味だ!間を置かず首を刎ねようとする奴があるかっ!!』 中井出  「いーじゃんもう。       つーかそこまで感情手に入れといて、ま〜だあーだこーだ言う気?」 ジュノーン『感情?こんなもの、貴様に合わせてやっているだけだ』 中井出  「デレ期ですか」 ジュノーン『ふざけるのも大概にしろっ!!』 怒られてしまった。 つーかデレ期を知っているんですね、ルドラさん。 中井出  「そ〜んなツンツンするなよぅ、仲良く行こう仲良く。       世界破壊なんて忘れてさ〜」 ジュノーン『断る。何度も言った筈だ、俺の願いは晦悠介と自分自身の消滅だと』 中井出  「キミだけに負かりません?」 ジュノーン『まっ……負けてたまるかぁっ!!』 頑固ですこの人。 まあそりゃ自分独りで勝手に死んでください言われて死ぬヤツなんて居ないだろうけど。 ジュノーン『とにかく。これを頂戴した以上はもうこんな場所に用はない。       これが壊れればこの世界も終わる。       戦い以外の際に傷が癒えることもなくなり、       戦闘中に重症を負えばそのまま《バゴォンッ!!》ぷるぉおおっ!!?』 背中を向け、歩き出そうとしたその顔面に我が拳が炸裂。 ジュノーンは要塞の木々をぶち抜き、地下空洞のジャングル風景へと落下していった。 俺はそれを追って、要塞から地面へ。 ジュノーン『ぐふっ!ごはっ……!な、なんだこの拳の威力は……!       以前とは比べ物になら───《ザァアア……!》───ハッ!?       な、なんだこれは!桜吹雪!?』 中井出  「姑息……実に姑息!貴様のやり方は晦一人を殺る作戦ではなく、       他の皆までもを危険にさらす手法……!下劣にして外道!!       男ならば!漢ならば!侠ならば!狙った獲物のみを只管に追い求めるものぞ!       その道から外れし貴様は───もはや畜生にも劣る!!」  ゴキャアッフィィイイインッ!!! ジュノーン『ぐぉおあああ!!?ば、馬鹿な……!この威圧感は……!       貴様、この短期間でいったいなにを……!!』 我が肉体が人器により隆起する……! 我が胸に宿るは怒り!悲しき怒りだ!! 静かに歩く我に呼応し、自然が、属性が唸り、風を巻き起こしておるわ!!  ホリュリュリュピキィーーーン♪《奥義開花!人器・天龍呼吸法を会得した!!》 知るがいい不死王よ……!悲しみを受け止めた者の強さを!覚悟を! 悲しみから逃げ出した貴様には理解出来ぬ極致を!! 中井出「よく聞け不死王……(まこと)
()きると書いて───仁生(じんせい)!!」 踏み込む。 一歩一歩、我が肉体より放たれる然属性を含んだ粉塵…… まるで桜吹雪が舞う景色を、強き意思を以って。 中井出「この()()くすと書いて───尽世(じんせい)!!」 ジュノーンはそんな桜吹雪と突風に抗うように立つが、もはやその姿も間近。 中井出「(ひと)()きると書いて!人生(じんせい)と読むきん!!」 ザッ─── そして、ついに手が届く位置に。 吹き荒ぶ風と桜吹雪を前に、ジュノーンは舌打ちをするように吐き捨てる。 ジュノーン『それが───どうした!』 我が顔面へと振るわれる左拳。 それをバシィンッ!! ジュノーン『……!なっ……!』 片手ひとつで、受け止めてみせた。 中井出  「極道とは道を極めると書く。       道を外れた貴様に……ただひとつを成し遂げることなど出来ん」 ジュノーン『だからどうしたと言っている……!       出来ぬ、ではない……!やらねばならんのだぁああああっ!!!』 中井出  「ぬう!!」 気合いとともに放たれるは本命の右! だが退かぬ!媚びぬ!省みぬ! 塵と消えるがいい!不死の王よ! 中井出「成敗!!」  ドボガゴバシャァン!!! ジュノーン『ぐばぁああっ!!!?』 ジュノーンの拳が我が顔面を捉えるより速く、我が拳がジュノーンの胸部を直撃。 厚い鎧を容易く砕いた拳がジュノーンの胸部に減り込みへこませると徹しが走り、 鎧の全てを破壊する。 威力のあまりに吹き飛び、先にあった泉の水面を跳ね転がったのちに沈んだジュノーン。 そんな彼を追って、俺は静かに歩いた。  バシャアッ!! ルドラ『ぐくっ……貴様ぁあ……!!』 泉から勢いよく飛び出したその姿はルドラ。 鎧が壊れたことで、その姿を俺の前にありありと見せつけていた。 中井出「失せろ英雄。その姿でこの世界に存在することを我々は許さん。     不死王でない貴様はただのバグでしかない」 ルドラ『バグ……ふふ、バグか……。クックック……。     それは貴様も同じだろう、中井出博光』 中井出「なに?」 ルドラ『誰もが知らない存在。誘ったわけでもないのに存在する誰とも知らぬプレイヤー。     魔王という意味でしか存在を知られていない貴様は、     この世界にとってではなくやつらにとってのバグでしかない』 中井出「ぬうう……!」 ルドラ『これが最後だ。俺とともに来い、中井出博光。     “私”としてでなく、“俺”として頼む。一緒に───』 中井出「くどいわ!!」 ルドラ『《ビリビリ……!!》ぐうっ!?』 裂帛の気合いとともに問答を断ち切る。 そして泉の水面を歩くと、水面の少し上を浮くルドラの前に立つ。 水面を歩く方法?そんなものは人器・波紋があれば楽勝である。 光と月属性を合わせることで生成できる太陽のエネルギー波紋! それを霊章に流し込み、ただ歩くのみ! 中井出「求めるばかりで歩み寄ろうともせぬ貴様が仲間を作ろうなど笑止千万!!     そんな貴様のままではたとえこれからどれだけの時を生きようが、     真の理解者を得ることなど出来ぬわ!」 ルドラ『く、ぐっ……黙れ……黙れ黙れ黙れぇええっ!!!』 再び振るわれる拳! 今度はルドラとしてだ───気を抜けば殺され 中井出「おぉおおおおおおおぉおおおおおおっ!!!!     おぁああたぁああっ!!!!」  ドガァッ!パァンッ!!! ルドラ『ぐぶえっ!?』 ───そんなことは知らぬ!! 殴る価値しかない者を殴ることにいちいち考える必要なぞあらず!! 中井出「あたぁ!!あたぁ!!あたぁっ!あたぁあっ!!     うぁたぁ!うぉたぁ!!あたぁあっ!!あたぁあっ!!」  ドボゴガガガバパパパパパ!!!! ルドラ『げはぐはうぶぐはがっ!ぐっ!げぅっ!ぐふあっ!!』 殴る殴る殴る殴る!! 両の腕を音速で動かし、反撃できないように腕や足が動いたら即座にそこを殴打!! しかし吹き飛ばないように調節もしながら殴り続け、散々と殴ったのちにトドメの一発!! 中井出「おぉおぅあたぁあっ!!!」  ヴォリュドボガァンッ!!!  ───ッ……ヒィイイィィ……ィ───ン……ドッガァアッ!!! ルドラの顔面を思い切り殴りつけ、敢えて陸地の地面目掛けて吹き飛ばした。 ルドラは人身事故でも起こしたかのように地面に激突すると弾かれ、 数回跳ねたのちにどさりと倒れる。 ルドラ『《ジュウウウ……!!》ぐぅっ!?なんだこれは!!体が焼ける!?』 中井出「太陽のエネルギー、波紋だ。     黒で構築された貴様の体には随分と効果が高いだろう」 ルドラ『中井出……博光ゥウウウ……!!』 歯をギリギリと噛み締め、俺を睨みながら立ち上がる姿を目指し、歩く。 だがルドラは舌打ちをするとバックステップをして距離を取り、 あろうことかテオダールを持ったまま転移術を開始する!! 中井出「ぬうう!貴様ァアア!!」 ルドラ『この借りは高くつくぞ中井出博光……!』  ボリュゴフィィンッ!!! ルドラ『ぬおわぁあっ!!?』 時空剣技拳バージョンで空拳を放ってみたが、躱された。 空間を削り取りながら飛んでいった即席ヴァニラアイス(ジョジョ)が、 木々を削り取って見えなくなったあたりで、ルドラが冷や汗を垂らしながら俺を睨んだ。 ルドラ『貴様《ガォオンッ!!》ぐああっ!!?』 途端に転移空間ごと脇腹を削り取られ、血を吐き出す。 見事な黒い血だ。 削り取ったのは言うまでもなく───元素の灼闇スタンド、ザ・ハンドである。 だがそこまでだ。 ルドラは口惜しそうな顔をすると転移を完成させ、消え去ってしまう。 中井出「ぬう!逃したか……!《ほしゅんっ……》……ふう」 人器・天龍呼吸法を解く。 呼吸法により体術のみを極限まで強化する能力だが…… 欠点として、使用すると体がケンシロウみたいになる。 口調もなんだか勝手に変わってくるし。 中井出「まいったなぁ……」 それは別としても、テオダールが奪われてしまった。 このままではマズイ……猛者どもめ、無茶をしなければいいが……。 中井出「……デスゲイズ、なんとかしないとな」 恐らくヤツラが次に狙うのはデスゲイズだ。 全員が1万に達した今、力試しに走る可能性は90%超。 ならばその最中。 主に晦が負傷した時、ルドラがテオダールを破壊する可能性は100%。 それはなんとしても止めなければならんことだ。 中井出「ああくそ、どうしてこう次から次へと……!     俺もっと心躍るテンダー!じゃなくて冒険をしたかったのに……!」 ……うむ、だが筋肉痛も起こらん。 もはや我が人器も完成に近づいて《ズキィッ!!》あ……前言撤回。 あ、あ……ま、待って待って!まだ痛いのヤ!ヤァーーーーーッ!!! ギャアアアアアアアアアアア………………!!!! Next Menu back