───冒険の書334/終わりへの標───
【ケース824:弦月彰利/蒼い季節の空を見上げて】 “勝敗”が決したところで、 空洞の外───いわゆるホモミアゲ城の外まで飛ばされたアタイたち。 しばらく経ってから敗北をたっぷりと味わって、これからのことにちと絶望していた。 悠介によりゃああの時の魔王のレベルは上がるに上がって53万。 1万4千が僅かの間に53万である。 ……ちなみに、53万以下の数値は9999だったとか。 明らかにカオス状態のアタイたちより上だった。 彰利 「どーするよ、これから」 悠介 「……経過した時間からして、そろそろ夏の終わりが近い筈だ。     魔王だけに時間を割いてるわけにもいかない。     幸いにしてレベルだけは異常なくらいに上がったんだ、     デスゲイズ狩りをやってみたいと思うんだが……どうだ?」 彰利 「デッ……お、大きく出たのぅ……!」 悠介 「ここまでレベルが上がったら当然だと思うが……     他に挑みたいヤツなんて居るか?」 彰利 「グレイドラゴンの素材とか欲スィーね───って悠介!」 悠介 「!ああっ!」 邪悪な波動をキャッチ! 俺個人が邪悪って決め付けてるだけだから、ドス黒いとかそーゆーんじゃねーんだが。  ヴミンッ───! 彰利 「転移音……上だ!」 悠介 「……ルドラ」 見上げた空に、ルドラを確認する。 突然現れたそいつは脇腹を庇うような体勢をしていて、 しかしすぐに治ったのか体勢を整えると、景色が歪むほどの“存在感”を発する。 彰利 「《ビリビリビリ……!!》くっは……!     こんな近い位置で能力解放すんじゃねぇっての……!」 空気が軋み、震動しているかのように俺の肌をビリビリと刺激する。 ふざけていられる余裕もなく、だがその黒の波動に不思議と惹きつけられる。 なにをやりてぇのか……そう思った瞬間に聞こえる奇声。 それは大空の彼方から聞こえ、しばらくして飛んでくるソイツは───デスゲイズ。 藍田 「おぉわっ!?く、空襲警報発令!!デスゲイズだぁあーーーーーっ!!!」 全員 『ざわっ……!』 遠くからでも解る大きさ。 死骸で編まれた骸套は存在せず、 剥き出しの紫色の骨が、ボロキレのようなものを纏い飛んでくる。 ルドラ『正義感ぶった貴様らと、借りのお返しに中井出博光にプレゼントをくれてやる。     さて、貴様らの考えはこうだろう。     魔王にこだわる必要がない。だが、夏もそろそろ終わる。     ならばこの世界で出来ることを消化し、その上でさらに力をつけ、私を、と。     そんな貴様らへのプレゼントだ……精々暴れろ。きっと最高のショーになる』 悠介 「ショー……!?っ、おい!!」 それだけ言うと、ルドラは飛翔するデスゲイズを誘導するように飛んでゆく。 一度だけ俺の目を見て。 それは……まるでついてこい、と言っているような─── 彰利 「……悠介、ついてこいって言ってるみてぇだけど。どうする?」 悠介 「従う義理なんてないが……行くしかないだろ」 みさお「けど、相手の考えも解らないまま進むのは危険なのでは?」 悠介 「解ってる。けど、あいつが仕掛けてきた時点で、     もうそんなことを考えてる余裕なんてないんだ」 ゼット「……そうだな。もうお遊びは終わりだということだ───が、腑に落ちん。     何故ここで戦わなかった?デスゲイズを誘導させる理由はなんだ」 彰利 「きっと便所我慢してたんだよ」 悠介 「……お前って幸せそうでいいなぁ」 彰利 「わあ、なんか人格疑われた」 悠介 「言ってみただけだ、今更疑う仲でもないだろ」 トンッ、とアタイの胸を軽くノックして、悠介が走り出す。もちろんアタイも。 分析でルドラが飛んでいった方向の軌道確認をしているんだろう。 目が深い蒼に変異すると、隣を走るアタイを一度見てコクリと頷く。 彰利 「深紅眼の方が似合っとったのに」 悠介 「仕方ないだろ。創造が完全になったことやラグの力が解放されたのと一緒に、     体が神側に偏ったんだと思う」 彰利 「ほへー。そこんとこどうですか?ルナっち」 ルナ 「一緒に居づらくてヤ」 彰利 「……だとよ」 悠介 「どうして偉そうに言うんだよ」 ……それからしばらくして、軌道、向かっている方角からしての位置が大体掴めたらしく、 悠介が導くままにアタイたちは足をさらに走らせた。 全員のレベルはほぼ同一に近い。 カオスになって魔王と戦ったことで、レベルが高いヤツは上がりづらく、 低いヤツは一気に上がったと……そんなとこだろう。 カオス状態の頃はなにかと修正か補正か知らんがかかってた所為で、 全員分のレベルがプラスされることはなかった。 原中だけでも40人近く居るのに、 そこに他の皆様をプラスした数が53万なわけないしね。 今では全員が1万越えしてるんだ、 やっぱそこにはセーブ効果みたいなのが働いとったんしょ。  ───そんなことを考えながら、しばらく。 かなり走ったのちに見えてきた山を登り、ひたすらに上を目指す。 どうやら敵はこの上に居るらしく、 凶々しい気配が登っている最中でもアタイらを突き刺す。 飛んでいけば楽勝ッスヨォ!なんだが、皆様置いて飛ぶのもはばかれたんで走ってます。 ……ゼットとゼノは飛んでっちゃったけどね? ほんと勝気でせっかちなお方はこれだから……。  そうこうしている間に頂上。 随分と高い位置にあるそこに辿り着くと、まずは鼻をつく異臭。 デスゲイズの体から放たれるものか、それとも……? 岡田 「うげっ……すげぇ臭い……!」 鷹志 「目に染みるほど臭いなこれは……!」 頂上は広かった。 ざっと見渡しても、デカい城を建てても幅があまるくらいだ。 ……なんて思ってると町を発見。 こんだけ広いんだからあっても不思議じゃねー……とか思ってると、 その町の上にデスゲイズ。 一瞬息を飲み、だが上空に意識の全てを持っていくより先に、 街からこぼれ出るように現れたアンデッドどもに目がいった。 デスゲイズの駒か、それともルドラの……ジュノーンの駒なのか。 真っ直ぐに俺達に向かって───こない? それどころか俺達の脇を抜けて、通り過ぎようとする。 けどその中に一体が藍田くんに向かっていき、その体を掴んだ時。 岡田くんが咄嗟にそれを斬った途端、 横を通り過ぎようとしていたアンデッドどもがこちらを見たのち、 叫び声をあげて襲い掛かってくる───! 岡田 「おわあっ!?《ザギッ!》いぢっ───!?」 しかもアンデッドとは思えない速度で行動するヤツが居て、 一気に間合いを詰められた岡田くんは驚愕し、振るわれる攻撃に腕をやられる。 ゾンビのくせにこの速さ───まるでゲームの中みたいだ……ってゲームでしたね。 じゃけんども、1万越えを果たしたアタイたちにとってはもはやザコでしかない。 むしろ皆様は自分がどれだけ力量が上がったかを試すように、 一体一体を翻弄して遊んでいるくらいだ。 これくらいならガキィッ!! 悠介 「ぐあっ!?」 彰利 「悠介!?」 気を少し抜いた途端、悠介の姿が消える。 いや、連れて行かれたのだ。 離れた位置にある岩が音を立てて崩れ、 そこには悠介を岩に激突させているルドラの姿が……! すぐに助けにいこうとするが、わらわらと蠢くアンデッドどもが邪魔をして───! 彰利 「邪魔すんなこのっ!!」 拳を振るい、頭を砕く。 頭蓋が砕ける音が拳に伝わり、少し嫌な気分になるが───それでも悠介を優先させた。
【Side───悠介】 ギリッ……! 悠介 「っ……ぐ……!」 ルドラ『お前はここに居ろ。丁度面白いことになっているんだ、お前が居たら迷惑だ』 悠介 「迷、惑……っ……?」 岩に押し付けられ、しこたまに背中を打ちつけたために呼吸が上手くできない。 だがそれでもルドラは俺の首を掴んだまま、さらに岩に押し付けるようにしてくる。 ルドラ『聞こえるか、あの場の悲鳴が。見えるか、真実の姿が。     なぁ晦悠介、人を殺すのは楽しいか?     人を殺した結果が、“知らなかった”なら許されるか?』 悠介 「……?なに、言って……、───?」 見える?真実の姿……? 悠介 (っ!) ハッとなって、みんなが囲って翻弄しているアンデッドたちを“視”る。 分析を解放し、意識を集中させて。 すると、その姿が───!! 悠介 「こ、ども……!?普通の……───じゃあ、最初に斬ったのは───」 ルドラ『エトノワールのお姫さまさ。藍田が居たから頼ったんだろうが……クク、     とっくに死んでる。最初の一撃で死亡した。岡田が殺したんだ。     なぁ、見てみろ。急に味方を殺した相手へと、涙しながら攻撃を加える子供たち。     それを、上がった実力を試すようにじわじわといたぶる仲間たちを。     ひとつ教えてやろうか。中井出博光……お前らが言う魔王はな、     拾った子供を自分の力で生きていけるよう育てていた。     力強く生きていられるようにと。七草に押し付けるなんて言葉は全てデタラメだ。     孤独で居る寂しさを、あいつは知っているからな。親代わりになって育てた』 悠介 「……、……」 心臓が、ドクンドクンと脈打つ。 呼吸が荒くなって、吐き気さえ─── ルドラ『見えるだろう?その拾われた命を、貴様らが砕いている。     ああ、今彰利がツェルストクラングを殺したな。     攻撃したわけでもないのに……ハハッ、     お前が押さえつけられているから周りが見えなくなっているのか?     だがどうだ、そんなことは言い訳になるか?』 悠介 「は、はっ───はぁ……!はあっ……!」 荒れる、荒れる……! 分析から見る視界の中で、子供たちが涙しながら復讐しようとし、 だが1万のレベルを得たやつらに通用する筈もなく、斬られ、殴られ、魔法で砕かれ……! やがて争いが収まる頃、上がった実力に満足するように笑っている仲間たちを見たら、 俺は───俺は……!! 彰利 『っ───おぉおおおらぁああああっ!!!』 呼吸が荒れ、滲んでゆく景色の中で、彰利がルドラ目掛けて拳を振るう。 しかしそれは容易く受け止められ、合気の要領で投げ飛ばされると、 彰利は頭から地面に叩きつけられる。 彰利 『ぐっ……ちくしょっ……!』 ルドラ『これでいい。借りは返してやった……あいつの大切なものを砕くことでな。     実に陰湿なやり方だが……ああ、お前らから見たら立派な悪な俺だ。     今更どれほど悪を重ねようが、文句はないだろう』 ……ズ、リ……と首が解放されると、俺はその場に尻餅をついて咳き込んだ。 ルドラ『幻惑を解いてやろう。それから存分にデスゲイズと戦うがいい。     “罪のない人殺し”……提督と同じ気分を味わいながらな』 何処か、舌打ちでもしそうな憎々しげな顔をして、ルドラは右手を頭上に上げる。 やがて─── 【Side───End】
───やがて、合わせた指を弾き、パチンッ───という音が鳴ると…… アンデッドどもを始末した筈の仲間たちから悲鳴が沸いた。 彰利 (え……?なに……?) 悲鳴のレベルがおかしい。 敵に遭遇したとか、そんな生易しいものじゃなくて、心からの悲鳴のような─── 彰利 「…………え?」 そして、見てしまう。 震え、みんなが後退ることで出来た空間。 みんなの足と足の隙間から見えた亡骸。 それは……目に涙を浮かべ、背中から血を流し、こと切れていた子供だった。 他にも死体は転がっていて、そのいくつかが知っている顔で…… 彰利 (……じゃ、じゃあ……俺が頭を砕いた相手も───?) 考えるな、と……まず心が警鐘を鳴らす。 だが思考ってのはそんなに簡単なものじゃない。 見たくもないのに、俺が壊したものが転がる場所へと視線は動いてしまい、 それがかつて、 エルメテウスに幽閉していた少女が着ていたものと同じものを着ていることに気づいた時。 ───俺の喉は、悲鳴で溢れた。 ルドラ『ふふふははははははっはっはっはっは!!     力というのは罪深いなぁ!そうは思わないか晦悠介!弦月彰利!     お前らが攻撃しなければ、子供達は皆デスゲイズから逃げるだけだったのに!     多少の面識がなければ     シャルロットも藍田に掴みかかって懇願することもなかったろうに!』 笑い声が脳裏に響く。 けど、それよりもこの、無抵抗な少女の頭を砕いた、 という事実が腕を伝って頭を支配して……! ルドラ『リヴァイア、七草、どうだ?復讐を果たした気分は。     そこに転がっているやつらは魔王中井出博光が大切に育てていた子供たちだ。     そこの首無し死体も岡田が殺した女も、無論魔王の大切な存在だ。     仕返しが出来てよかったなぁ……えぇ?憎かったんだろう?』 リヴァ「は、ぐっ……うぶっ……!」 霞流那「う、げぇ……!」 ルドラ『どうした、もっと喜んだらどうだ?“知らなかった”んだからいいじゃないか。     今まで通り魔王の罪のみを責め、     味わったことのない状況を楽観視して罵倒すればいい。     一方的に罵倒出来るのなら、洗脳にもこんな状況にも対処できるんだろう?』 リヴァ「ち、ちが……わたし、わたしは……!」 ルドラ『誰かの大切なものを、自分の力量を測るためになぶり殺しにした。     殺すつもりじゃなかった、幻惑に惑わされてて解りませんでした、     好きな言い訳に逃げればいい。逃げるための選択ならいくらでもあるぞ?     そうしたいなら好きなだけするがいい。     受け止める覚悟も受け入れる覚悟もない貴様らにはお似合いだ』 霞流那「っ……ぐ……!」 ルドラの笑い声が響く。 頭の中にいつまでもこびりつくような笑い声が。 ───その途端だ。 突然、脳に直接、どういう経緯で魔王が空界の人を殺したのか…… その映像が、魔王の視点で脳に直接映されてゆく。 イドに操られ、やりたくもないのに人を殺し、慟哭し、絶望し─── かつての仲間だった俺達に拒絶され、忘れられ…… それでも明日を目指すと決めた男の過去が。 ルドラ『そら、言い訳をしてみろ。この映像を見て、まだそんなことが出来るならな。     なんでもいいぞ?人数の規模が違う、大切に思っている気持ちが違う、     貴様らならいくらでも思いつくだろう。     きっかけがあったとはいえ、提督から離れた貴様だ。     こんな生き方を好きなだけ笑う権利がある……なぁ?リヴァイア、七草』 リヴァ「う、うっ……うぅう……!!」 霞流那「っ……」 麻衣香「え……?え……?どうして……紀裡が魔王のこと……パパって……!?     解らない……!なにこれ、なにこれ……!!」 混乱が広がる。 魔王なんて全く知らなかった相手の筈なのに、 そいつは今まで俺達の中心に居て、提督と呼ばれていたのだ。 忘れた原因はルドラにあって、でもそれすらあいつは受け入れて、未来を目指すと─── ルドラ『さて。それでは戦ってもらおう。デスゲイズもお待ちかねだ。     人殺しを味わったその心で、提督のように前を向いてみせろ。     それさえ出来ない貴様らがあいつを罵倒することを、俺は許さない』 悠介 「っ……お前が惑わせたんだろう……!それをよくもぬけぬけと……!」 ルドラ『ああ。だから“知らなかった”で済ませればいいだろう、貴様ららしく。     所詮ゲームの中の話だろう。     提督が味わった絶望と今の貴様らの違いは明らかだ。     辛い現実に押し潰されそうになれば、どうせ貴様らはそこに逃げる。     現実で人を殺した提督を罵倒することで、自分は悪くないと信じ込む。     ハッ、もろいものだな、貴様らの心は。     自分の正当化ばかりを癒しにする貴様らが、どうして俺の行動を止められる』 悠介 「───!……そ、れは……」 ルドラ『見ろ、貴様の仲間たちを。     人殺しの事実から逃れるために、デスゲイズに向かっていったぞ。     今頃心の中では“これはゲームこれはゲーム”と整理を続けているんだろうさ。     安心しろ、その願いは叶えられる。     罪からの脱出の代償は、提督に関する記憶の完全消去だ。     心の芯で仮死状態の記憶を殺すこと。それが条件となる。     またすぐに提督を平気で罵倒できるあいつらになるさ。滑稽だろう?     実に……実に弱い、脆い、覚悟が足りない。     貴様らまさか、本当に自分たちに、     未来が約束されてるとでも思っているんじゃないだろうな。     だらだら過ごしていてもなんとかなる、今までそうだったんだから大丈夫。     そんなことを思っているんじゃないだろうな』 彰利 『……!』 悠介 「………」 ルドラ『……ハッ、哀れなもんだな提督も。こんなやつらの未来のために孤独になって』 悠介 「提督……魔王のことか」 ルドラ『ああ、哀れだよ。     結局この世界にあって、一番未来を望んでるヤツが一番不幸になってる。     お前らは楽だな、ただ敵だ魔王だと騒いでいればいいんだから。     相手の苦労も悲しみもなんにも解っちゃいない』 彰利 『……へっ……だったらお前はよっぽど───』 ルドラ『───そうやって、揚げ足を取ることしかできないんだろう?     だから解ってないって言うんだ』 彰利 『っ!!《カァア……!》』 顔が灼熱し、心が痛くなった。 自覚出来ていないが、図星だったんだろう。 ルドラ『……どの時代でも人間は脆いな。     この時代に来て、ますます自分の未来がくだらないものだったと自覚する。     したいことだけして、自分の罪も認めずに他人を罵倒するだけの生物───     かつての仲間でさえこれで、いったい俺はなにを求めて……───』 彰利 『人殺しの感触から急に立ち直ることなんて出来るわけねぇだろうが……!     幻惑に惑わされて、殺した相手は人間で!     それが罪だって一瞬にして受け入れるヤツが居たら、     そっちの方が頭が《バガァン!!》ぶわぁはっ!!?』 悠介 「彰利!」 喋り途中の頬を、思い切り殴られ地面に叩きつけられる。 さらに髪の毛を掴まれると無理矢理宙吊りにされ、 ルドラ『っ……罪に押し潰されるだけでやろうともしなかった貴様らが……!     たった独りでも未来を目指した提督を笑うんじゃねぇ……!!』 彰利 『《ゾクゥッ!!》っ……、』 ルドラ『戦場に覚悟が必要なように!     その瞬間その瞬間になければならないものがあるように!     受け入れなきゃいけない覚悟が必要だってどうして解らねぇ!     そのくせ提督の時だけ一瞬にして殺人鬼として受け入れるのか!?     ハッ!笑わせんじゃねぇ!!そっちのほうがよっぽど頭がイカレてやがる!!』 彰利 『て、めぇ……!』 ルドラ『未来のことなど受け入れた!     俺の未来は俺が招いた地獄だった、ただそれだけだ!     けどな……それでもこの世界は救われねぇんだよ!!     “俺”が居る限り、“力”がある限り終われねぇんだ!!     だから壊さなくちゃならないんだよ!     そのためだったら俺は!どんな未練も断ち切るって誓ったんだ!!』 彰利 『《ドザァッ!》いでっ!』 忌々しげに捨てられ、尻餅をつく。 けど、次に視線を上げたときにはもう、ルドラは居なかった。 彰利 『………』 悠介 「………」 彰利 『……なぁ、悠介…………俺達、憎む相手、間違ってたのかな……』 悠介 「……憎んでなんか、なかった筈だろ?     魔王だから戦わなきゃいけない、なんてことはなかったよ。     あいつの挑発に乗せられて、突っ走って……だけど何処か、     あいつに巻き込まれることが自然体みたいな感じだったから動いてた」 彰利 『……うん』 悠介 「考えてみればおかしな点なんていくらでもあったのにな……。     どうして俺達はそれが当然、って感じに……全てを受け入れてたんだろうな」 わざわざ敵のレベルが上がりやすくなる空間に招くなんてことは、普通はしない。 それによって自分のレベルを上げるにしたって、 相手の方がレベルが高いんじゃあ意味がない。 それなのにそうした理由は?カオス状態になるって予見していた? ……いや、そんなことがある筈が無い。 それってやっぱり、俺達のレベルを上げるため……だったんだろうか。 訊ねるべき相手が魔王じゃあ、訊きたいことも訊けやしない。 なによりヤツは、質問をしても答えないような気がした。 彰利 『………』 町の上の空を見上げる。 そこでは飛翔出来る者は飛び、 それ以外のヤツは様々な手段を用いて近接に持ち込み、デスゲイズと戦っていた。 ……そうだ。 過程はどうであれ、参戦しなければいけない。 でもその前に─── 彰利 『……墓、作るか』 悠介 「───……いや。もう……塵になっちまった」 彰利 『あ…………〜〜〜っ……くそっ……!』 歯がゆい。 死体が転がっていた場所にはもはや血の痕しかなく、 遺されたものといえば数本のナイフと、ペンダントとネックレスくらいだった。 どうしてこんなことに、と歯を噛み締めるが、そんなことをしても消えた命は戻らない。 彰利 『…………行こう。せめてデスゲイズを倒さないと、ここに来た意味がなくなる』 悠介 「……ああ」 魔王は……かつて“俺達の提督”だったあいつは、こんな辛さと戦ったんだろうか。 たった独りで、誰にも理解されず。  『我こそ元・原沢南中学校迷惑部提督!中井出博光である!!   全ての苦しみも悲しみも!楽しさも嬉しさも俺が覚えていよう!   故に貴様らは好きなだけ忘れ、好きなだけ未来を謳歌するがいい!!   俺の目指す未来は俺が楽しいと心から思える世界!!   その未来のために!俺自身の身勝手のために!!   俺は!!貴様らがたった一人でも欠けることを絶対に許さん!!』  『ワケ解らねぇことをごちゃごちゃと!!   迷惑部は俺と悠介で作ったもんだ!てめぇなんて存在は知らねぇ!!   いいぜ───やってやる!そのふざけた幻想ごと!てめぇをぶっ倒す!!』』 ……。 今思えば、あの言葉に間違いなんてものはなかったのかもしれない。 あいつは確かに原中の提督で、俺達の中心に居た。 俺達が忘れてしまっただけで、 あいつだけが覚えていることを必死になって未来に繋げようと─── 彰利 『なんだよ……じゃあ、ようするに……』 あいつが目指した未来ってのは、あいつが心から楽しいと思える世界。 つまり、俺達全員が誰一人欠けず、笑っていられる世界で…… 彰利 『っ……』 心の芯が震えた。 泣いているのだろうか……とても苦しく、悲しい震えだった。 けど、それが解ったから───いや、推測出来たからってどうしたらいい。 手伝いをさせてくれとでも言うのか? あいつの仲間を殺した途端に手の平を返して? ……無理だ、出来るわけがない。 彰利 『…………そ、っか……』 ここで出来ないと思ってしまった時点で─── 俺達は、あいつを“魔王”として、敵としてしか見ることが出来なくなるのか。 どれだけ未来のために頑張っているのだと知っていても、 殺したくないのに殺してしまった気持ちが解っても。 彰利 『……《ゴキンッ……》』 拳を殴り合わせる。 覚悟が足りないっていうのなら、たった今作ろう。 もううじうじ悩むのはヤメだ。 魔王───アンタは敵だ。 けど、俺は受け入れる。 人を殺したのはこれが初めてじゃないし、それ以前にそういった力を持った以上、 多少なりの覚悟は持っていたつもりだ……今さら罪から逃れるつもりはない。 逃げないからこそ敵になる。仇ってことになっちまったからな。 彰利 『っしゃあ!いくぜ悠介!』 悠介 「《コフィィイン……!》───ああ!』 白を発動させた悠介と一緒に、地面を蹴ってデスゲイズのもとへ。 レベルのお陰か、そう負傷しているヤツも居ない状況に混ざって、思う様に行動。 そうした中で、ふと気になって一人ずつに声をかけてみると─── ここに少年少女たちが居て、全て死んでしまったことを知る者は、 俺と悠介を除いてもはや誰一人居なかった───…… ってのがルドラのシナリオだったんだろうけど。 生憎とこの世界に集いし者たちにそんな薄情なヤツは居やしねー。 罪悪感に押し潰されそうになりながらも、みんな受け止めていた。 罪の重さから逃げるために戦いに走ったんじゃない。 デスゲイズをなんとかしなければ、 ここで死んだ少年少女の魂や骸がデスゲイズに食われると思ったからなのだと。 ───きっと忘れちまったほうが楽なことってあるんだと思う。 けど、こればっかりは受け止めないとあんまりだと思ったから、 俺たちは吐き気がするくらいの罪悪感に胸を焦がしながら、やがて戦いに集中していった。 【ケース825:中井出博光/知らないことは罪だろうか】 ザムゥ〜〜…… 中井出「シィイーーーザァアーーーーーーッ!!《シャッキィーーーン!!》」 筋肉痛も治って気分爽快! 皆様の耳たぶの恋人……こんにちは、中井出博光です。 耳たぶは適当に考えただけなので気にしないでほしい。 中井出「やあ、すまないねぇエィネ、マール」 エィネ『いったいなにをしてたのか解りませんけど、あまり無茶はしないでくださいね?』 マール『そうですよ博光さん。大きな音がしたから来てみれば倒れていて、     それも苦しんでいるから慌てて近づいてみれば筋肉痛なんて……』 エィネ『アホですね』 中井出「なんとストレートな……」 しかし筋肉痛にはやはり妖精の鱗粉ですね。 さらっと振りかけてもらったらあっという間にコレモンよ。 ……うそです、治るまでに結構かかりました。 中井出「るふぅ、それじゃあ休憩も取ったことだしそろそろガランディアに戻ろうか。     きっと今頃、ジノやタキはさておいて、     シャルロットがヒステリックヴォイスを奏でてるに違いねー。     “ヒロミツ!このわたくしをいぃいつまで待たせる気ですの!?”って」 エィネ『……それはありえそうですね』 マール『本人の居ないところであまり悪口を言うものではないですよ、博光さん』 中井出「ぬう、ごめんなさい」 悪いことは悪いこととして受け取りましょう。 でも楽しむべき時にはそんなことを考えてなどいられません。 悠黄奈さんの言葉は確かに的を射てる。 周りの皆様は原中ではないし、 俺が身勝手に暴れて悪戯に傷つけるのは心苦しい場面もありましょう。 しかしそれでも楽しむ時には楽しむべきだと思うのです。 その楽しさに皆様も乗っかることが出来るのなら、 それこそ最高の状況だと思ってよかりんす。 そんなわけで僕は依然として、誰が相手でも行動を停止することなどありんせん。多分。 中井出「よぅし凱旋!じゃなくて出発!みんな回収するよ?準備OK?」 エィネ『あ、待ってください。わたしたち、そろそろ……』 中井出「む?おおアレか」 レアズ将軍率いる妖精たちは、年に数度、妖精界で“勇気の儀式”というのをやる。 いわゆるあの勇者の武具(勝手に命名)の力を維持するためのものらしい。 それをやっとかないと、 第二第三のジュノーンアーマーが完成してしまうとも限らんらしいのだ。 ……結局アレって誰が装備できるんだろうね。 意表をついてジークンとか?…………………………ま、まさかねぇ? とまあそんなわけで。 毎度儀式に使う銀水晶をエィネに渡して、 今回初めての儀式参加となるマールには、お守りとして1ギミルコインを。 マール『……?なんですか?これ』 中井出「1ギミルコインだ。放り投げてどこかに落下した際、     表が出ればなんだか幸せな気持ちになれる。こう、簡易版幸せ光線みたいなもの」 マール『幸せに……あ、ありがとうございますっ』 中井出「うむうむ」 エィネ『…………博光さんって、マールには甘いですよね』 中井出「自覚してます……」 やっぱアレでしょうか。 何年もノヴァルシオやジハードパークに幽閉されてたから、 もっといっぱい笑顔を与えてやりたいのでしょうか。 エィネ『むう……まあいいです。     じゃあ行きましょうかマール。きっともうみんな待ってます』 マール『そうですね』 ぱたた〜……とエィネとマールが飛んでゆく。 ……しかしそれを呼び止めると、 中井出「地下空洞東側泉前にて緊急事態発生!総員っ!ただちに現場にこられたし!!     ウェルカァーーーーーーーーーーム!!!」 すぐに霊章転移で要塞と皆様をウェルカム。 HAUNTEDじゃんくしょんはアニメの方が面白かったと思うのだ。 ごくせんとかで有名な仲間由紀恵が声優やったりOP,ED歌ってた珍しいものだが、 ただ単にアニメを見るのが好きって人にとっちゃあどうでもいい話である。 今思えば道理でなんか少し浮いてる声だなぁとは思ったけどね、睦月先輩。 でもEDは大好きだった。滅茶苦茶大好きだった。 中井出「どうぞ」 エィネ『霊章転移は一言断ってからしてくださいってば……』 中井出「ヤ」 エィネ『一言で断らないでくださいっ』 中井出「コホホ、さあ、いったいった。     レアズ将軍が首長竜並みに首を長くして待ってるぞ」 エィネ『うー……』 マール『くすくす……《ぺこり》』 ぶちぶちとなにぞ呟くエィネに続くマールが、 微笑を漏らしながら僕にお辞儀をして要塞へと向かってゆく。 要塞内のゲートを使って飛ぶのでしょう。 儀式の時には死の気配が入り込まないようにゲートは閉ざされるから、 しばらくはゲートの使用は出来んけん、覚えておかねば。 ……なんて思ってると悠黄奈さんからメールが。 シゲシゲと見つめると、ちょっと妖精界の儀式を見に行ってきます、とか。 ……いや……いいんだけどさ。 中井出「それじゃあえーっと……」 ナギー『ぷれぜんとふぉーゆーなのじゃーーーーっ!!《ヴァーーーン!!》』 シード『父上!ぼ、僕の気持ちを受け取ってください!』 中井出「いきなりなにぃいいっ!!?」 要塞の中へ消えてゆくエィネとマールを見送った途端、 景色の果てからスッ飛んできたナギーとシードが、 謎の物体をぐりぐりと顔面に押し付けてくる! 中井出「何事!?これなに!?」 ナギー『うむ!ヒロミツがなにぞ泣きながら逃走したのでの!     古来より落ち込んでいる者にはぷれぜんとをするのがよいというでの!     こうして作ってきたのじゃーーーっ!!』 顔面から離され、突き出された物体を見る。 それは……ネックレス?というかまあ首飾りだな、自然素材の。 シード『僕も作りました!どうぞ受け取ってください!そして元気を出してください!』 一方のシードが差し出してきたのは……やはり首飾り。 ただしこちらのものはかなり禍々しく、 超小動物の髑髏のようなものがゴシャリと密集しているような風情で…… え、ええとなんといいますか……然の波動を出すナギーネックレスに対して、 シードネックレスは災の波動をモシャアアと吐き出してる。すげえ。 でもなんか持ち味を生かしてくれたプレゼントって感じで僕嬉しい! 義娘が……義息子が……こんなにも僕のことを思ってくれているなんて……! ……………… 中井出(でも……) でも。 俺はこの首飾りを知っていた。 以前貰ったものとは少し違うソレは、間違いようもないもの。 かつて見せられた未来の映像の中、ボロボロになった俺が首から下げていたものだった。 中井出(……そっか) あの未来の俺は、ここを通ったのか。 じゃあ、やっぱり俺は─── 中井出(いやいやいや!なにを弱気な!俺、やるよ!?やってみせるよ!?) でもまずは二人を抱き締め、愛のタワッシ。 二人の頭部に顎を当て、ゴリゴリとシェイク! 中井出「タワッシワッシワッシワッシワッシワッシ……!!」  ゴリゴリゴリゴリ……! ナギー『あだだだだだだ!!ややややめるのじゃーーーーーっ!!』 シード『ち、父上!くすぐったいを通り越して痛いです!父上ぇえ!!』 中井出「なんと!この博光の愛が解らぬか!」 ナギー『そ、そんなことないぞよ!?ヒロミツの愛くらい受け止めてみせるのじゃ!』 シード『ふん、すぐに“やめるのじゃ”と音をあげたヤツがよく言う』 ナギー『おぬしとて痛がっておったであろ!!』 シード『僕はやめてほしいなんて言ってないからいいんだ!』 ナギー『ククーーーーーッ!!』 シード『ムウウーーーーッ!!』 いや……この二人ってばどうしてこう……。 仲良しな時は物凄く息ピッタリなのに、こんな時はとことんソリが合わんというか。 中井出「ファイクミー!」 二人 『《ビシィッ!》イェッサァッ!!』 中井出「うむよし!今は喧嘩をしている場合ではない!     それよりもまずはギャーギャー騒いでいそうなシャルたちを回収しに行く!」 ナギー『イェッサー!』 シード『サー!発言許可を!』 中井出「むう!なにごとだシード新兵!」 シード『サンキューサー!この空洞はそのままにしてゆくのですか!?』 中井出「否!もはや全ての者が1万越えをしたのならば、     自然の全てに感謝しつつ回収すべきである!     そんなことに特化した能力を持つのが───彼女である!」 話している最中に、こちらへ向かってくる姿を発見。 サム、と促すと、ドキリと驚いた表情をしていた……ご存知ドリアードさんである。 でも投げられたショックか、ちょっと俯いて僕の顔を見ようとしません。 中井出  「ドリアードーーーーッ!」 ドリアード『………』 中井出  「あれ?ドリアード?ドリアード〜〜?」 僕の顔を見るなり、歩みが止まってしまわれた。 ええとどうしたものでしょうかこれは─── 中井出「ねぇ。彼女なんでイジケてるの?」 ナギー『ヒロミツが投げたからであろうに』 シード『さっきまでの落ち込み様は凄まじいものでしたよ父上。     どうやら父上を叩きそうになってしまったのがよほどにショックだったようで』 中井出「え?投げられたことじゃなくて?」 ナギー『そうなのかの?』 シード『ぶつぶつと呟いていたから間違いはないと思います』 中井出「俺を…………マジすか」 なんという健気な……。 びっくりしたとはいえ、恋人を殴りそうになってしまったことをそうまで気に病むとは。 つーか僕に投げられたことはどうでもいいってこと? ……な、なんというか……尽くす女性ですね、ドリアードさん。 思わず心がトキメいてしまった。 中井出  「ドリアード!大丈夫だ!この博光!貴様を嫌ったりなどしておらぬわ!」 ドリアード『え……』 中井出  「むしろ、そのっ……さ、さらにトキメいた!だからこっちに来なさい!       ……つーか子供達の前でなに言わせるのもう!来て!来てぇえええ!!       やたら恥ずかCから来てぇええええええっ!!!」 ドリアード『わたし……わたし頑張りますから!       急に触れられても驚かないよう頑張りますから!       傍に……わたしをあなたの傍に居させてください!』 中井出  「いいから来てぇええええっ!!!イヤァアアアア恥ずかしいぃいいっ!!!」 ナギー  『なにを言うのじゃ!ヒロミツの傍にずっと居るのはわしじゃー!』 シード  『なにをこの!僕だ!僕こそ父上の傍に!!』 ドリアード『うぅ……』 中井出  「ってそこで退かないで!子供たちに思いの強さで負けないで!       あのねドリアード!一度しか言わないからよく聞いてよ!?」 ナギー  『がってんなのじゃ!』 シード  『いつでもOKです!』 中井出  「キミたちは耳塞いどきなさい!」 ナギー  『断るのじゃ!』 シード  『それは出来ない相談です!』 中井出  「グムムギギーーーーーーーーーッ!!!」 言えと……いうのか……! 子供達の前で……! ───否!見せてくれよう男意気! 男女差別をせぬこの博光!こんな時こそ男を見せる瞬間ぞ! 中井出  「ドリアードォオオッ!!」 ドリアード『は、はいっ!博光さん!』 中井出  「すぅっ……大好きだぁああああっ!!」  だぁーーーっ!!だぁーーー……だー…… 駆け抜ける青春。 僕の叫びが空洞に響き、それを聞いた僕以外の三人が行動を停止する。 ナギー『…………《ポポポポポッ》な、ななななにを言い出すのじゃヒロミツ……!     わわわしとヒロミツはその、契約者同士という関係でじゃな……!』 中井出「あれぇ!?なんか勘違いしてる!?あのナギー!?     確かにキミもドリアードだけど、     僕が言ったのはあちらのドリアードに向けての言葉だからね!?」 ナギー『解っておるのじゃ!おるのじゃが顔の緩みが止まらんのじゃっ!!』 シード『…………僕もドリアードだったら……』 ナギーが顔を赤くして悶え、シードが自分の名前に歯噛みする中。 もう一人のドリアードは未だ固まっており─── だが少しずつカタカタと動くと、次の瞬間グボンッ!と赤面! 赤面を自覚したのか、自分の頬を手で包むようにしてそわそわし始める。 どうしましょう先生、ドリアードが可愛いです。 訊ねてみてもノートン先生からのありがたいお言葉は無し。 ……あれ?もしかしてどっかで深刻な状況が出てたりする? 中井出「……スリャタァーーーッ!!」 ならばと、直感を信じて転移GO! ドリアードの目の前に空間翔転移すると、彼女をお姫様抱っこして再び転移! 目に見える場所にしか転移できないのがこれだが、それでも十分ですよ人の身には。 ドリアード『《ぽー……》』 中井出  「?」 お姫様抱っこしたらてっきり慌てるかと思ったら、それも最初だけ。 ドリアードは顔をうっすらと紅潮させて、僕を見つめながらなんだかポーッとしていた。 ま、まあそれならそれでいいよね。 コクリと頷くと要塞へと乗り込み……って乗ったら意味ないでしょ。 あ、でもいいのか。 ううむ、移動開始のことばっか考えてて、まずするべきことを失念していた。 中井出  「ドリアード、霊章の中にフェルダールの全自然を取り込んでほしいのだが」 ドリアード『全自然……ですか?』 中井出  「うむ。ルドラが動いたってことは、もうこの世界も長くない。       この世界に生きる者たちには悪いが、今は少しでもマナが欲しい。       だから、霊章の中のユグドラシルに仲間を与えてほしい」 ドリアード『…………少し、残酷ですね』 中井出  「うむ……実は結構心苦しい。この世界が終わるからって、       自然に生きろって言った民から自然を略奪するようなもんだ。       でも融合でもさせない限り、生き物を霊章や武具に取り込むのは無理だ。       それにもうノートン先生に生き物を合成させることは禁止されてる」 ドリアード『…………スピリットオブノート。どうにかなりませんか』  ◆無理だ 中井出「おわぁっ!?ちょっ……ノートン先生!?     急にログに打ち込むの禁止!びっくりするじゃない!」  ◆なぞなぞ:サイがうるみました。正解はなに? 中井出  「え?サイがうるんで……うるんだ……サイ?うる……さい……うるさい!?       うおおなんか物凄く回りくどい罵倒された!解る俺も俺だけど!!       ……でもさ、ドリアード。こればっかりはどうにもならん。腹を括ってくれ。       人を全て救おうだなんてこと、やっちゃだめだ……心を鬼にするのだ。       操られた俺が空界人を全殺しにするのをスルーしたように」 ドリアード『《ぐさっ!》……!』 中井出  「あ」 やっぱり何気に気にしていたらしい。 だが大丈夫だ、この苦しみも分け合って生きましょう。 何故なら僕は殺した張本人であり、あなたはスルーした張本人。 それでも愛を誓った僕らに怖いものはたくさんある。うむ、なにが言いたいのか。 中井出「ノートン先生。この世界の消滅は、どんな感じで進むんだ?」  ◆……知っているんだろう? 中井出「うわ……やっぱそのままなんだ……」 ナギー『む?さっきから誰と話しておるのじゃヒロミツ』 中井出「“消して無にする”を名で表す猛者、クリア・ノートと話してます。     魔物の子らしくなくて一番嫌いなキャラだった」 ナギー『……?よく解らんのじゃ……』 うん、そうだよね。 シード 『父上……?この世界が消滅、と聞こえましたが……』 中井出 「……うむ。この世界、フェルダールは近いうちに滅びる。      それは明日かもしれんし今日かもしれん。      ジュノーンにテオダールを奪われたのだ」 ナギー 『な、なんじゃとーーーーっ!!?』 ジョニー『どうやらマジニャ!』 あ、ジョニー。 声がしたので上を見上げてみれば、自然階段をピコピコと下りてくるジョニーを発見。 ジョニー『安置されていたテオダールが見事に無くなっていたニャ!      しかも残留するのは“死”の気配……!ジュノーンでまず間違いないニャ!』 ナギー 『む、むうう……!わしらが楽しんでおるところを突いてくるとは卑劣な!』 中井出 「まったくだ!」 ジョニー『……旦那さんが言うと説得力に欠けるニャ』 中井出 「任せてくれたまえ」 そういうわけだから、と簡単に説明をして、自然の吸収理由なども話してゆく。 そうするとドリアードはようやく頷いてくれて、 この世界にある全ての自然が我が霊章へと移される。 一瞬にして空洞内部はただの空洞へと成り代わり、 グレイジャーゴンやジハードを連れてホモミアゲ城の外へと転移装置で飛んでみれば…… そこには既にホモミアゲ城もなく、ただただまっさらな荒野が続くのみ。 酸素は…………あるな。 今まで異常なくらい自然があったんだ、人がしばらく行動できるくらいはあるか。 中井出「Ja(ヤー)!それではこれより常霧の町ガランディアに向かう!     総員!ただちに霊章に戻られたし!ゴーアウェイ!!」 霊章を輝かせ、要塞ごと皆様を吸引! その場に残されるジハードとグレイジャーゴンとドリアード、 ナギーとシードとローラは、感心したように僕の霊章を眺めてました。 ジハード   『っは〜……何度見てもすげぇもんだ。         なぁ、その……レイショーだっけか?の、中にはシャモンも居るのか?』 グレイドラゴン『《ピクリ》』 中井出    「うむ。なんでもだだっぴろい自然風景が存在するらしく、         霊章融合モノだろうが合成ものだろうが意思だろうが、         僕に取り込まれたもの全てがそこに実体として現れる。……らしい」 ジハード   『よし!俺も飲み込め!』 中井出    「イコール死ぬってことだけどいいの!?」 ジハード   『おめーの中で生きてられんだろ!?いーからやれって!』 中井出    「おおそうか!ならば───」  ◆待て!合成は許可しないと! 中井出    「ブヘヘハハ馬鹿め!禁止されたのは“ペリカン合成”のみよ!!         グレイジャーゴン!貴様はどうする!」 グレイドラゴン『───やれ!我が身をイルムナルラと一心同体に!』 中井出    「OK!!」 言うや否や超巨大化発動! そして霊章より火炎を溢れさせ、 STRマックスでジハードとグレイジャーゴンを火炎霊章で飲み込み吸収!! そうしてから元のサイズに戻り、コクリと頷く! 中井出「───…………うむよし!では召闇!おいでませジハード!!」  キュバゴンバババババォオオンッ!!! ジハード『っ───ぶっはぁああーーーーーーーっ!!      あちっ!あっちぃいいいーーーーーーっ!!死ぬかと思……あ、死んだのか』 実験は成功した。 体に走る霊章から灼闇が溢れると、それが形を作ってジハードの姿に! ジハードはキョロキョロと自分の体や僕を見たりしたのちに、 興奮冷めやまぬ状態を維持したままに歓喜。 ジハード『おっ、おーおーおー!炎だ炎!すげぇ!ブラックファイヤードラゴンだ!      ───やべぇ名前が格好いいじゃねーか!      クリエイトドラゴンとかゴッドドラゴンじゃ格好悪いって思ってたんだよ!      あ、俺ワイバーンだった。……ブラックファイヤーワイバーンか!      ん〜……ドラゴンのほうがやっぱ格好いいよなぁ……』 中井出 「感動してるとこ悪いけど、続きは霊章の中でね?      グレイジャーゴンを出せるかどうか、試さなければ」 ジハード『っとそうか。んじゃーちょっとシャモンに会ってくるわ』  ジュゴンッ! バーナーの火が消えた時のような音を出し、ジハードが霊章に引っ込む。 それからグレイジャーゴンも召喚し、これで一応火闇食いで融合出来ることは立証された。 うむよし。心配していたことは普通に通った。 ナギー『む、むー……それをするといつでもヒロミツと一緒なのかの』 中井出「“灼闇使って出れる”のは一人ずつだけであるがな」 シード『……その。もしフェルダールが崩壊してしまったら、僕らは居場所を失います。     父上が休憩の度に連れて行ってくれる世界でもいいです、     連れて行ってもらえるのなら嬉しいのですが───いえ。     いっそ僕もその霊章の中に!』 中井出「なに!?この博光に義息子である貴様を焼き殺せと申すか!!」 シード『───そのとおりです!!』 中井出「ぬう!」 なんとこの小僧めが……きっぱりと返しおったわ! 中井出「ならばナギー!貴様はどうか!」 ナギー『ふっ……知れたことなのじゃ。     わしは誰がなんと言おうとヒロミツとともにあるのじゃ!     ……じゃがそのー、出来れば合成のほうがいいのじゃー……。     合成側の亜人族たちは、普通に行動しておるであろ?』 中井出「いや?“体”があれば灼闇融合でも普通に出れるぞ?     武具と霊章は既に一身同体。武具宝殿は痒いところまで手が届きます。     伯とかレオンは体がなかったから出せないだけだし。     つまりね?“意思”の実体化には灼闇っていう“体”がないとダメなんだ。     けど体ごと燃やして飲み込んで融合させれば普通に行動できる。     亜人族みたいに普通に出てこれるしレベルも均一化になる。     さっきのジハードとグレイジャーゴンのは、質量がデカいから。     ───ただし、恐らくだがナビネックレスが効果を失う」 ナギー『なんとな!?ではわしらが頑張って溜めたレベルは───』 中井出「無駄になります」 シード『そんな……』 中井出「そのへんの判断は貴様らに委ねる!よく考えておくように!」 二人 『サーイェッサー!!』 僕の言葉にビッシィと敬礼で返す二人。 ……本当は御託並べずに融合させたい気持ちでいっぱいだ。 俺が見た未来では、俺の周りには誰も居なかった。 霊章の中に亜人族が居たかもしれないが、 少なくともナギーとシードの気配を感じることはなかった。 血に塗れた首飾りを見下ろした時に走ったあの寂しさと苦しさが忘れられない。 贈り物を見て苦しくなる……それはきっと、そういうことなんだろうから。 中井出  「……ドリアード、核を伝って僕の中に潜り込めたりする?」 ドリアード『はい、それは』 ローラ  『ああ、ちょっと待ってください、話の腰を折ってすみませんが』 中井出  「え?なに?」 ローランド=イスタスが突然話に割り込んできた。 いったいなに……!?と思わず喉を鳴らすが、 ローラ『わたしはニーヴィレイや魔王の子ほど力を持って居ませんし、     成長する要素ももはやありませんからね。ですから取り込んでしまってください。     フェルダールが壊れるということは、     その世界の属性の象徴たる精霊も死に絶えるということ。     ぶっちゃけますと今死ぬと未練が残るので生きさせてください』 中井出「未練って?」 ローラ『もっとうまティーを飲自然保護ですとも』 とても正直な精霊だった。 中井出「熱いよ?いい?」 ローラ『ええ、構いません。わたしは一度死んで蘇りましょう』 中井出「土壇場だからって死に美学を追及せんでつかぁさい」 でもやれと言うならやりましょう。 僕は平均に並べておいたステータスを再びSTRマックスにすると、 ローランド=イスタスを灼闇で極飲! 吸収すると、ナギーたちに証明するかのように普通の状態で召喚。 ローラ『ぷわぁっはあっ!あつっ!あつぅうっ!!     死んでしま───あ、死んでいるんでした』 一瞬にして焼き尽くして吸収しているとはいえ、やっぱり熱いもんは熱いらしい。 ジハードやグレイジャーゴンと同じような反応を見せるローラは一度、 自分の状態をシゲシゲと観察すると……その力の高さに大層驚いていたようだった。 ローラ『なんだと……!融合とはここまで凄まじいものだったのか……!』 なんかネイルさんと融合したピッコロさんみたいなこと言ってるし。 そんな感動もほどほどに霊章に戻ってもらい、先を急ぐことに。 ドリアードにも核を通して隠れてもらうと、僕はナギーとシードを連れて駆け出した。 ……ってそうだった。 いずれマールのことも考えないとな。 そんなことを暢気に考えながら、俺は……何も知らないままに、ガランディアを目指した。 Next Menu back