───冒険の書335/VS躯骸王───
【ケース826:弦月彰利/空を往く者1】 結論から言えば、この世界にはそうそう“救い”なんてものはない。 世界ってのは現実もフェルダールもごっちゃにしての世界。 俺達はそんな世界でもがいて足掻いて笑われて、それでも何処かに届きたくて手を伸ばす。 取りこぼしたものはなんだろう。 ふとそう思って下を見下ろすと、地に足がくっついたまま動けないでいた自分に気づく。 それを繰り返しているうちにいつの間にか大人になって、 やがて死んでゆくのが人間だった。 ならばせめて届きますようにと精一杯手を伸ばして、 たったひとつでも掬い取ることが出来た時。 俺達は、掬い取れたもののあまりのちっぽけさに絶望する。 長くあり短くもある人生の中で、 掌の中に残るような小さなものしか掬い取れないのだと知る。 己の生涯をかけても手に入れられない者まで居る始末の人生っていう檻。 果たして、そんなくそったれな人生の中で、俺達は何を学びどんな明日を描くのか。 殴ることさえ恐れていた女性の頭を破壊したこの手で、どんな未来を築けるのか。 それを今、自分は問われているのかもしれない─── 藍田 『“粗砕”(コンカッセ)!!』  ギュルドガァンッ!! デスゲイズ『クケケククク……!!』 藍田の回転踵落としがデスゲイズの顔面骨の亀裂部分に直撃する。 だがデスゲイズはどこか可笑しそうに笑うだけで、 確かに衝撃に体を持っていかれそうになるが、 それすらも楽しむように旋回し、体勢を立て直したばかりの藍田の体に歯を立てんとする。 その横っ面をシュバちゃんが殴りつけ、 すかさず田辺が腕だけ妖力解放させ、強く握り締めた拳で反対側から殴りつける。 その間に何度か俺が攻撃できるチャンスはあったが、俺は攻撃できないでいた。  できない理由があったのだ。 最初から骸套を身につけずに現れたデスゲイズ…… その周りに、無かった筈の骸が今はある。 そしてそれらは、ついさっき俺達が殺してしまった少年少女たちの姿で─── 負い目を感じず攻撃しろというのは当然無茶な話で、 だからこそ藍田の攻撃も体重が乗らずに低威力だった。 そんな俺達をあざ笑っているのだろう。 デスゲイズはこちらが攻撃しようとする度に、攻撃にあわせるように骸を移動させる。 殺してしまった相手をもう一度殺すなんて度胸もなく、 俺達は攻撃を無理矢理ずらして攻撃する他なかった。 そんなことをすれば威力は半減どころか、 撫でる程度にしかならなくなってしまうと解っていても。 彰利 『……《キリ……》』 そう、解っている。 攻撃しなくちゃいけないって解ってる。 けど出来ないから歯噛みする。  何も考えずに破壊する───?    笑えない。  じゃあ月聖力で浄化させるか?    勝手に殺しといて安らかに眠ってくださいってか。冗談じゃねぇ。 俺の中の俺、違う時間軸にて南無に成り下がった弦月彰利が笑う。 同時にレオまで笑い、口々に情けないと吐き捨てる。  じゃあどうする。月癒力で生き返らせるってか?    それは───どんな理由があってももうやらないって決めた。      ハ……ではなにを迷う必要がある宿主。  殺しちまえばいいじゃねぇか、どうせ死んでる。    だから、それは───!  殺した相手を殺したくない?それこそ身勝手じゃねぇか。      貴様は既に殺した。今更偽善ぶって何様のつもりだ。    違う!それは───!  知りませんでした、か?最高の逃げ文句だよなぁそれ。      受け止めると決めたなら全てを受け止めろ、半端者め。 声が内側から響く。 どれも、俺の弱さを笑うものだ。 じゃあどうしろっていうんだ。 一度死んだんだから殺されてもいーだろとか言って殺せってか?  アホか。んーなもんはたった一つ、芯に刻んでおきゃあいいんだよ。      お前らで言う“魔王”の言葉だ。“戦っているということを忘れるな”。 魔王の……?戦っている……? 戦って───……  お前なに?攻撃しないで自分が死ぬのをただ待つつもりか?それなら失せろよ。      武器を手に、敵と向かい合っている事実を忘れるな。戦場はなにをする場所だ? 戦場の在り方……?それは─── …………それは。  戦場に来て“戦う”ことすら出来ないで、お前なにしに来たんだよ。      前を見ろ。拳を握れ。“ソレ”は向かい合った時点で“キサマの敵”だ    ───!  《きぃんっ……》 頭のどこかでスイッチが切り替わるこの感触を知っている。 “俺”が沈み、底の“オレ”が浮上する感覚。 レオでも南無でもない、意識的に冷徹な状態のオレという存在。 トランスを黒の底、深淵ごと解放すると時折になる現象だった。 大体の確率で記憶が飛ぶ。 その間俺は自分がなにをしているのかも覚えてない。 “東”での鍛錬中、覚えているのは精々で長に光速拳を打たされたあの瞬間くらいだ。 そして今回も沈む。 オレの意識が浮上するとともに、俺が底へと沈んでゆく。 なにかしらの前兆なのか、それともトランスによって覚醒した、 俺の根の人格なのかは解らないが───せめて無茶だけはしないでくれ、と願った。 【ケース827:アンノウン/空を往く者2】 ───キィンッ─── ───自己の状態分析を完了。 状態、異常なし。 自己の名は弦月彰利。 しかしオレには不釣合いな名前のため、一時的に偽名を名乗る。 自己偽名、“シン”と刻銘。 敵を前に行動しなかった理由がひどく不理解。 これより敵の殲滅を開始する。 シン 「接続(アクセス)、我が(シン)───」 能力解放。 月操力に寄る強化……100%。 黒による皇竜王の力の解放───95%。 残る5%が引き出せないため、継続して別の能力を解放。 アンリミテッドブラックオーダーならびに、あらゆる鎌の能力に反応無し。 それらのために確保されていた回路の幅を全て黒に宛がう。 ダークスライサー昇華の能力をマントルから確認、消去。 鎌能力の全てはデスティニーブレイカーへと無駄なく蓄積。 シン 「───唱えろ。我が名は“運命破壊”(ディレイダー)。     理より生まれ出ずる絶対運命でさえ破壊する“既存破壊”の意思」 両手に月壊力の蓄積を確認。 対象、デスゲイズ。 周囲に群がり蠢く骸套は全て破壊する。 慈悲は無し。 “敵”である存在にはいかなる理由があろうとも、 敵として向かい合った時点での覚悟と命を要求する。 シン 「“祭始”(ファイエル)」  キュボドガァパパパパァンッ!!! デスゲイズ『クゲェアアッ!!!』 光速拳の拳よりアルファレイドを射出。 ダメージ微弱。 ただし骸三体の殲滅を確認。 ……デスゲイズより戸惑いを感知。実に不理解。 違和感増加。 判断する。アレはデスゲイズではない。 シン 「フルバースト。《ゴキィン!!》黒に全てを託し、九頭竜を召喚。     さらに九頭竜闘気を解放し、竜属性の全てを九頭竜へ───』 ……デスゲイズの敵意を確認。 呪い発動───月聖力と月壊力とで破壊。 呪いは呪い自体よりも“かかってしまった状況”こそを恐れるべきであり、 人に取り憑く“呪い”として機能していない限り、比較的楽に破壊が可能。 続いて上空より隕石落下を確認───メテオと判断。 待機していた綾瀬麻衣香のメテオにて相殺を確認。 ───予測情報エラー、力負けをして、数個のメテオの落下を視認。 回避行動を許可しない。 このまま“ためる”を継続。 悠介 『ハトを光に変える力!───“鏡面盾(イージス)”!!』 晦悠介による創造、変換、超越、凌駕が虚空に展開。 八点に創造されたハトが光の壁となり、メテオの全てを弾き飛ばす。 ……確認。 あれは“光の武具”ではなく、ラグナロクを変換して展開する霊装。 光の武具としての効力は当然無いが、 想像と創造、あてがったイメージが現在の晦悠介の実力にあやかり、 強化されているものと判断する。 彼は変わらず光の武具は使えない。 創造したモノを変換し、超越凌駕を組み込み、そこに名前をつけているだけだ。 そもそも光の武具自体もただの創造物ではあったが、 アレはルドラ…… 死神時代のスピリットオブノートの力を無意識に受けていたが故に使えたもの。 契約で繋がってはいるものの、ラインゲートが使えない今では行使は無理だと判断する。 シン 『ためる、最終段階に到達。このまま攻撃に移行する』 意識を九頭竜の八頭に集中。 囲まれ、攻撃を連ねられ、思うように動けない今を逃して次はそうそう来ない。確定。 シン 『詠唱不要。“闇虚の閃光”(デュンケルヘイト・セロ)』 刹那、響く轟音。 黒という色を見ても眩しいと感じるほどの闇の閃光が、 黒より伸びし八頭の口から幾つも幾つも放たれてゆく。 加減の一切は無し。 長い長い柱を、強風で横へと降り荒ぶ雨のように飛ばし、 デスゲイズの体を撃ちつけてゆく。 シン 『デスゲイズの骸套の全抹消を確認。継続してデスゲイズを破壊する』 デスゲイズが吐き気のする咆哮を上げながら、黒の柱雨の中を突撃してくる。 不理解。避けるなり横にずれるなりするだけの知能が既に無いと判断。 故に殊更に不理解。 ならば何故戦いを楽しむようなそぶりを見せたのか。 ───ルドラによってなにかしらの細工がされたと見る。 標的を追ってきたというのに、 話がつくまで町の上空で待機していた理由の関連付けが終了。 田辺 『うぉおあぁあああっ!!?ちょっと待て将軍てめぇ!まだ俺達が───』 雑音をキャッチ……戦いの中では邪魔なのでノイズと判断。 殲滅のみを最優先。引き続き闇虚の閃光を放ち続ける。  ドンガガガガガガォンッ!!!  ガガォンガォンガォオオンッ!!! 空気を斬り裂く黒が走るたび浴びるたび、デスゲイズの悲鳴は大きく高鳴る。 だが流石というべきか当然というべきか。 闇属性では期待通りのダメージを与えることは出来ず、僅かずつ、やがてしっかりと、 デスゲイズは前進してきていた。 体が速度に乗る頃には闇に耐性もつけたようで、閃光を浴びても怯みはするが、 変わらずに突撃を仕掛けてくる。 そう判断すると閃光を放つこともやめ、ただ機会を待った。 召喚させた八頭は四肢に二つずつエンチャント。 ストック5つ分の九頭竜闘気を解放させ、それらも四肢と我が芯にエンチャント。 そう、待つ機会とは打撃。 闇、影、そして黒。 その全てを以って関節の常識を“化かし”、周囲の時間を月空力で“騙し”、 普通ならば破裂して当然の四肢を武具装甲で“偽り”、 速度だけでは通らぬ、届かぬ衝撃を徹しと武具威力と十七頭で“完成”させる。 デスゲイズ『ルギャァアイギガァアォオオッ!!!!』 迫る巨体を前に呼吸の乱れはひとつもなし。 状態はオールグリーン。 そして今ッ───眼前ッッ!! シン 『シィッ!』 拳を振るう。 右拳───牽制などではなく最初から全力。 鞭が撓るより、音が走るより、早く、速く、疾く───!! 身の捻りより螺旋を加え、偽りの関節全てを高速で加速。 さらに関節の駆動限界を運命破壊でブチ壊し、 人体ではもはや在り得ぬ速度を足の回転の時点で完成。 腰より上にそれを流し、竜巻が巻き起こるように背骨を駆け上がる螺旋イメージが、 肩、腕、肘、手首、やがては掌から指へと至る頃には─── 音速など、置き去りにしていた。  キュドォッ!! 途中から閃光を放つことをやめた理由は、ただ通用しなくなったからだけではない。 闇が効かないのであれば、そこに月聖力なり月醒力なり混ぜればよかった。 だがそうしなかったのは、より相手に速度を出させるため。 ダガージョー……呪われた骨でしかないその存在の物理的武器にして、 研磨され手入れされているわけでもないというのに、 そこいらに伝わる刀剣などよりもよほどに鋭い牙を剥いて、 最高の速度を以って襲い掛かる。 ───そう。 攻撃が止んだと見て勢いをつけたデスゲイズは、その果てで光速と衝突することになる。 デスゲイズ『ギギャァアォオオオオッ!!!!』 振るわれた竜の腕が鞭のように撓り、デスゲイズの頭骨の亀裂を直撃する。 斜めに走るソレは、その亀裂の通りに綺麗に手刀を落とされ、さらに亀裂を広げる。 通常、イメージでしかない筈の関節増加を黒で完成させ、 まさに鞭と言える柔らかさを見せた故に出来る芸当。 高速で光速にぶつかれば、デスゲイズとて無事では済まない。 シン 『衝撃、黒にて霧散』 光速体術を敵のみに与え、己のダメージは完全に殺す。 光速の次元ともなれば自分の体とて無事では済まないところを、 恵まれた能力にて霧散させる。  ゴガァンッ!! 現在における自分の分析を続けながらも次弾を放つ。 御託よりも攻撃を。 確実なるダメージを与えてゆく。 “光速”のイメージはもはや全身に。 光へ至るが故に自身を襲う壁などは全て黒で霧散させ、 唯一黒になり霧散しない武具と竜とで連撃を繰り返す。 シン 『アァアアアアアアアッ!!!!』  ドガァンドガァンドガァンッ!!!  ガドドドドドドドヒュゴガァッ!!! 殴る、打つ、突く───! 拳に存在する3万以上の熟練度を光速に乗せ、思う様に解き放ってゆく───! デスゲイズ『ルゲェォオアァアアッ!!!《ガカァッ!!》』 が、攻撃の間隙の中、デスゲイズが目のない窪みを鈍く輝かせると、 体が一瞬のみ、自分の命令から外れる。 麻痺凝視と判断───腹部に巨大な爪が接近……ガードでは間に合わない。 ならばゾギィンッ!! シン 『光速を用いて回し受けを発動。……対象の爪の破壊を確認』 ───ワッ、と……閃光が放たれた時より固唾を呑んでいた周囲の者たちが吼える。 その間にも手は動き、円を描いた両手を構えたのちに再び連続光速拳。 空気が炸裂する音が鼓膜を突き続け、聴覚がおかしくなろうが続ける。 気をつけるべきは左爪のみ。 右は肩から先が存在せず、同時に再生もしていない様子。 なにがあった故の姿なのかは理解できないが、 再生できないほどのなにかで破壊されたことは確実と見る。 ならばその“再生できないほどのなにか”で致命傷を与えれば、対象は消滅すると判断。  ジッ─── シン 『───!』 エラー発生、集中力に乱れを確認。 深みのトランスを保つのはせいぜいでここまで限界ゾギィンッ!! シン 『か……』 対象の再生した爪が内臓を切断。 背骨は分離していない……この程度なら復元が可能……───エラー発生。 切断面に呪いが付着。 このままでは回復不可能………… 【ケース828:晦悠介/空を往く者3】 彰利が血を吐きながら落下してゆく。 だがそこに目を移したのはほんの数瞬。 花鳥風月(セイクー)を背に空を飛びながら、ただ敵にのみ意識を集中させる。 悠介 (……擬似の光の武具でも、以前の威力くらいは出せるようになったか) 確認するべきことは済んだ。 ノートやルドラの加護無しでもそこまで引き出せるようになったのは、 純粋に喜んでいいところだろう。 が、敵の強度は純粋に悲しがるべきだろう。 かつてゼット相手でさえ圧倒的に凌ぐ力を発揮出来なかった光の武具だ。 イメージをどれだけ乗せようが、引き出す限界というものはやはりある。 そもそも光の武具っていうのは、 ルドラが使って見せた“三十矢の地槍”のイメージパターンを真似て出来たものだ。 基本自体が内側に居たルドラの力を引き出し利用したものって時点で、 今の俺に出来ることは真似事のさらに真似事のみ。 空界崩壊の間際にノートと別れ、結合した空界でルドラがノートに代わり、 やがて日常に帰る最中に契約を解き、その加護も失った。 今では繋がりごとノートに力を預け、ラインゲートも開けない状態。 ただしイメージパターンだけはラグが記憶していたものを引き出しているために、 完成したソレは真似事の真似事の域にしか達しない。 しかしそれが、急激に上がったレベルと古の神々の力、 解放されたラグと創造の理力によって過去の威力へと至る。 そう、俺は依然として光の武具など使えない。 俺が使っているのはあくまで創造。イメージを具現化し、放つだけの能力だ。 悠介 『トランス。神側の家系回路、解放───』 町の上空に吹く風が、前髪を揺らす。 その前髪が、ざあ、と金色に染まる。 黒髪が好きな自分にとって、この変色は好ましくなかった。 なかった、じゃないな。もちろん今でも好ましくない。 悠介 『エンチャント』 右手に持つラグを球体に変換し、合成のイメージ付加。 左手に持つ竜玉にはイメージが通りやすくなるよう工夫を添え、二つを一つに合成。 ディルゼイルにはもう許可を得ている。 こうすることでラグを生きた武具へと変換し、 剣かレールガンにしか変換できないという理を内側からブッ壊す。 解りやすく言えばラグにディルゼイルの意思を宿し、 ラグ自体に既に宿っている意思と融合させる。 あとはそこに俺の意思を通し、なってもらいたい形になってもらうだけだ。 形状変換のバックアップはディルゼイルとラグ自体がやってくれる。 “変換”を使い、文字の羅列をいじくれば簡単に変換出来るが、 わざわざ羅列をいじくっていては、もう戦いについていけないのだ。 だからこそ、即座に変えるためにディルゼイルとラグが居る。 悠介 『シュート!』 ラグをデスゲイズ目掛けて投げつけ、意思を流すと即座に変化。 彰利を追撃しようとしたその体に、雨のように降り注ぐ無数の剣と槍。 それを身に受けることで標的を見つけたデスゲイズは、 俺を確認するまでもなく振り向くより先に突撃を開始───! 悠介 『ショット!』 そんな存在に向け、掌に展開した創世八幡宮から弓を引き出し、 光の矢を創造すると同時にブッ放つ!!  キュボドッガァアンッ!!! 射るのではなく吹き飛ばすイメージ。 イメージ通り矢は突き刺さらず、 デスゲイズの肩骨に衝突するや、デスゲイズの体を後方へ弾き飛ばす。 そこへ、待機していたみんなが一斉攻撃を仕掛ける光景はある意味絶景だった。 春菜 『うぅわ……今のなに!?ねぇ!光の武具!?名前なんて言うのー!?』 悠介 『───いちいち名前付けるのなんて面倒臭ぇ!     俺がそうだって解ってりゃそれでいいんだよ!』 春菜 『わ……キレてる』 悠介 『キレてないっ!!』 光の武具はもう過去の産物だ。 新しいものに執着する気もないが、だからといって名前に拘るつもりもない。 名前を唱えたところで威力が変化するものでもないのなら、 自分がその武具をそれだと理解していればそれでいい。 無理に明るく振る舞おうとする先輩を今は押し退けるように言い放ち、前を見る。 悪い、先輩。気持ちは解るけど集中を途切れさせるわけにはいかないんだ。 悠介 『すぅ……はぁあ……!』 デスゲイズの動きはそう速くない。 映画とかで見る、CGの幽霊みたいなふよふよした動きだ。 確かにそこいらの竜族よりかは速いかもしれないが、ディルゼイルには負ける。 デスゲイズ『ゴガァアアギャァアアアッ!!!』 全員   『ひくぅっ!?───うぉおうわあぁああああああっ!!?』 分析のさなかに、空中に響く咆哮。 胆力も虚しくその場に居た全員が動きを止めてしまい、 直後に降り荒ぶメテオにその大半が大ダメージを受けてゆく。 だが、もう誰もが理解したことだろう。 レベルが1万を越え、倍化能力を得た今、こいつはもうさほど強敵ではないということを。 攻撃力も能力も厄介だが、その厄介さも気をつけていればくらうことはない。 速度がそこまで高いわけではない分、単発攻撃な上に避けられないものでもない。 耐久力は随分とあるが、それもしつこく攻撃を加えていれば倒せるのだと確信が持てた。 悠介 『イメージ解放……!』 俺の武器は創造だ。 熟練度も全て創造に振られていて、 それ以外で攻撃したところでダメージは望めない。 だから“創造物”で攻撃する必要がある。 ラグを変換したり、八幡宮から武具を創造して攻撃しているのはそのためだ。 変換、超越、凌駕も“創造”の部類に入っているようで、 そのダメージは高いと見ていいものだ。 悠介 『戦闘開始(セット)!』 花鳥風月をはためかせ、一気に突撃を開始する。 メテオの雨を潜り抜け、 デスゲイズの下方へ潜り込むと、まずは挨拶代わりのいっぱぁああつ!! 悠介 『リィイイイジェクトォオオオッ!!!』 急速上昇と同時に拳を突き出し、その拳に排撃のイメージを創造、エンチャント!! 拳が骨にぶつかるやキュガォオンッ!!! デスゲイズ『グェルギャァアアッ!!!』 大爆発を巻き起こし、突然の衝撃にデスゲイズが体を折る。 そうすることで俺を確認し、目の無い黒い空洞を鈍く輝かせようとする───より速く! 悠介 『遅ぇっ!!』 再び光の矢を創造、射出!! 存在しない眼球の奥、頭蓋の空洞へとそれを放つと、内部で爆発させる! だがそれをされてもまだデスゲイズは怯まず、俺の体を噛み千切ろうと牙を剥く! 悠介 『だったらこれだ!“鉄”(くろがね)!!』 ならばと神器を解放! 右手に出現した雷神を連想させる変わった風情の大砲から、 雷が付加された玉が射出され、眼前に迫った牙の一つへと直撃、電磁爆発を巻き起こす。 さすがにこれにはデスゲイズも一瞬怯み、 その隙に俺は花鳥風月をはためかせるとデスゲイズの背中─── ようするにデスゲイズの真上へと飛翔した。 悠介 『イメージ付加!“快刀乱麻”(ランマ)!!』 次! 大砲から巨大な鉈のような刃へと神器を切り替え、頚骨目掛けて振り下ろす!! 直後に金属を切りつけるような音が鳴り、 骨を削るが───削った程度で、切り落とすには至らない。 イメージを付加させることで“創造物”として攻撃を放ってもこれだ…… さすがの耐久力に頭が下がる。 デスゲイズ『ギギェルギィガァア……!!』 ならば次。 デスゲイズが上空の俺を見上げた瞬間、次の神器浪花を解放。 巨大鞭のそれを振るい、デスゲイズの頚骨に絡ませる! デスゲイズ『ギ───?』 そんでもってぇええええ!!! 悠介 『STRマックス!!ううぉおおおおおおおおおっ!!!!』 浮遊体であるそいつを、渾身の力を持って無理矢理にブン回す!! そのさなかに浪花に電撃を通し、攻撃を仕掛けるのも忘れない! そして回転速度がいよいよ勢いに乗ってくると、 大きく振りかぶって───切り立った小さな岩石の山へと叩きつける!!  ゴワアッシャアアッ!!! 勢いよく落とされたデスゲイズは硬い岩山をその体で容易く砕き、 砕かれた岩の瓦礫に沈む。 直後に浪花を消した俺は次の神器に備え、集中を研ぎ澄ませる。 それが済むと、瓦礫を吹き飛ばし出てこようとしているデスゲイズを、 地面より突き出る盾拳の神器───威風堂々(フード)にて無理矢理瓦礫から空中へ吹き飛ばし、 飛び出たデスゲイズ目掛けて雷神槍を付加させた百鬼夜行(ピック)で攻撃。 光速回転する突き出る槍で吹き飛ばした先に、対象を噛み砕く神器唯我独尊(マッシュ)を展開! 虚空に出現した巨大な歯がその体を噛み潰さんとデスゲイズに噛み付き、 その動きを封じたところで───さらにその上から旅人(ガリバー)を発動させ、 出現した雷の檻でデスゲイズの動きを完全に止める! 悠介 『覚悟しやがれ躯骸王……!十ツ星神器!“魔王ォオオーーーーーッ”()!!!!』 月盤の完成とともに浮上した最後の神器───魔王。 想いを力に変えると言われている最終神器であり、 その想いの根底や想いの強さによってカタチも威力も変わるとされている。 まだ一度も使ったことのないこれを今……突き出す右拳より解放する!!  キィンッ─── 果たして、突き出した拳がバッと開かれると、そこから閃光が放たれる。 やがて出現した力の根底。 俺が心から想う、力の象徴、強さの象徴、想いの象徴が閃光より形作られ、 デスゲイズが咆哮を続ける雷の檻へと真っ直ぐに突撃を開始─── キィン、と回転させた剣は眩き光に包まれていて……いや、けど待て。 あれは───スフィンッ─── ……綺麗に、抜けた。 耳を撫でるような綺麗な音と同時に、 “魔王”によって召喚された想いの象徴は旅人を斬り抜け、 その存在が地面に着地するとギシャゴバァォオンッ!!! ───強烈な轟音とともに、雷の檻と浪花が爆砕する───!! 悠介 『黄竜剣───!?しかもなんて威力……!』 出した俺こそが驚愕した。 力の象徴をも背負ってたためか、 雷で象られていたその姿は……見間違いようもない、魔王のものだった。 中井出博光……この世界で魔王に至った地界人。 敵である筈の相手がどうして俺の想いの象徴として象られたのか。 その理由がきっと、俺の芯には存在しているのだろう。 ルドラに見せられた映像が本物なのだとしたら、それも有り得るのだろうと受け入れた。 デスゲイズ『ガ……、ギ、イ……!!!』 檻も鞭も消えた地面。 そこで蠢くデスゲイズには、両肩より先が存在していなかった。 しかも再生しない……いや、出来ないのだろう。 十ツ星神器、魔王……初めて使ったが、俺はその威力に目を疑いたくなる気分だった。 彰利がいくら光速で穿とうとしても破壊できなかった体を、たった一撃だ。 振り下ろした斬撃ひとつで再生不能にして吹き飛ばしちまいやがった。 俺の光の武具なんか足下にも及ばない。 それほどの威力の差を以って消え去った偶像を、突き出した手が作り出した。 目を疑いたくもなるだろ……? 悠介 『っ……』 けど、気は抜けない。 まだ終わってないのなら、構えを───と構えた途端、力が抜けるのを感じた。 トランスが解けた……?違う。 これは……───最終神器を使った代償……!? 体に力が入らない。 どれだけ力を込めても、“込めたつもり”になるだけで、 脳から神経に信号が流れていかない。 ハハ……そりゃそうだ、あれだけの威力、頑張ったってそうそう出せるものじゃない。 そんなものを突然出せば、体が参るのも頷ける。 でもな……!こんな場面で力抜けて落っこちるなんて、馬鹿な真似めしゃあ! 悠介 『はぶぅ!?』 藍田 『悪ぃ!足場になってもらうぞ!』 悠介 『藍《キュドォッ!!》ぶばぁっ!!』 藍田が俺の顔面を足場にし、疾風の如くで爆ぜる。 瓦礫上でようやく浮遊を開始したデスゲイズ目掛け、 今度は一切容赦なしの蹴りを───思う様に! 藍田 『我が倍化能力は予想通り“蹴り”!!     しかも全能力解放状態&STRマックス状態の蹴りスキルを二倍にしてもらった!     故に我が蹴りのステータスはかつての倍どころの騒ぎではない!!』 悠介 『んなっ……卑怯だぞお前!』 藍田 『発想の違いというヤツだよモミーくん!     “不可能を可能にする力”の前借りだろ!?贅沢しなくてどうするよ!!』 フェードアウトしてゆく声に、段々と力が篭ってゆく。 やがてその姿がデスゲイズに───いや。 その姿目掛けて上昇突撃を開始したデスゲイズに合わせるよう、藍田が身を捻った。 藍田 『どんな食材も捌いてみせます。     至高の技が織り成す究極の味わいをご堪能くださいよ、っと……』 回転する。 螺旋の弾丸が如く、風を穿って。 藍田 『羊肉(ムートン)……!』 降りる突撃と昇る突撃。 それら二つの影がまさに激突せんとする───その時! 藍田 『───ショット』 舌打ちをするように囁く声ののち、 突き出ドゴヂガドッガァアアンン!!! 悠介 『っ……』 全員 『おっ……おぉおおおおおおおっ!!!』 ……突き出された灼熱の蹴りがデスゲイズの額を捉え、 上昇してきていた筈の巨体が再び地面へと突き刺さる。 悠介 『……蹴り、だよな……あれ……』 いやすまん、目を疑うべきはこっちかもしれないって本気で思ってしまった。 ……それよりも。 地面に叩きつけたということは、次には当然あれがあるわけで。 藍田 『串焼き(ブゥロシェットォ)ォオオオッ!!!』 人間削岩機、着陸。 回転した錐揉み蹴りはデスゲイズの頭蓋に直撃し、 ボロボロの布切れから伸びる背骨がぶわぁと宙に舞い、 やがて地面に叩きつけられるように落下する。 おかしな話だ。 人が苦労しながら少しずつ攻撃してるっていうのに、 ただの蹴りに威力が負けてしまうなんて前代未聞だった。 けど、違う。 俺も彰利も奥の手は残してあって、けどそれを使うのは今じゃないだけ。 彰利の場合、正確には使いたくても使えない状態だ。 俺の方は───力を引き出すところまでは平気だが、体が耐えられるかが怪しい。 ようは神々の力の根底を分析、創造、超越、凌駕をすればいい話なのだが…… デスゲイズ『ギ、ゲ……!』 藍田   『お客様?食事中は極力物音を立てませんよう…………       “反行儀(アンチマナー)キックコォーーーース”!!!』  カゴォッ!! 思い切り骨を蹴り上げる音、っていうのはこういう音なのかもしれない。 今まで聞いたことのない音が空気に震動し、一帯に響き渡る。 蹴られたデスゲイズの体は真上へ吹き飛び、待機していた空中部隊が連撃を連ねてゆく。 そんな景色を花火みたいだと苦笑して眺めると、地面に降りてトランスを解除。 大きく息を吐いたところで、目の前に藍田が歩いてきた。 藍田 『突っ走るのは勝手だけど、もうちょい仲間頼ろうや、晦』 そう言って、グッ、と親指を立てた拳を突き出してくる。 いや……突っ走ってるつもりはなかったんだが……。 あぁ、でもだめだ、力が抜ける。 フッと急に立っていられなくなった俺は、その場に尻餅をつく。 そんな俺を小さく、だけど深い悲しみを帯びた溜め息を吐いて見下ろす藍田。 そんな彼が、やはり小さく、だけどはっきりとこぼした。 藍田 『……なんか……さ。記憶勝手にいじられまくってるみたいで……辛いよな』 それは責めているような言葉だけどその実、 誰を責めるでもない、覚えていられなかった自分を悲しむ言葉だった。 “忘れたこと”さえ覚えていられない現状に歯噛みしてしまうのは当然のことだ 藍田 『今なら解るよ。俺、確かに魔王の隣で笑ってた。     居ないものだと思ってた記憶の中にも、多分そいつが居た場面があった筈なんだ。     多分、亜人種たちと旅をしていた時はほぼ全てって言っていい』 悠介 『思い出したいか?』 藍田 『……解んね。思い出したとして、     大事にしてた子供たちや女の人を殺したこと、どうやって詫びりゃあいいんだよ。     責任逃れしたいんじゃない、どうしたらいいかがまるで解らないんだ。     多分空界のやつらの中には、     お前だって殺したじゃないか、とか言うヤツは出てくる。     けどさ、それってやっぱなんか違うんだ。殺されたから殺していい、なんて……     そんなことが許されたら、人なんていくら居たって足りやしない。     そりゃあ、殺されそうになったなら抵抗しなきゃウソだ。     大切な人が殺されたら、相手を殺したいほど憎むこともあると思う。     だからって…………───くそっ、解んねぇ……!』 悠介 『……考えるんじゃない、感じるな』 藍田 『いやそれ余計に解んねぇよ』 悠介 『なっちまったものは仕方ない。けど、仕方ないから受け止めるんじゃなくてさ、     もっと覚悟と一緒に受け止める気でないと、心が参るぞ。     俺と彰利は……その、殺したことがないわけじゃない。     だから言えることが少なからずある。どんなに辛くても、心だけは折るな』 藍田 『…………難しいな、それ』 悠介 『難しくてもやらないとな。こればっかりは』 藍田 『………』 藍田は返事をせずに飛び立った。 直後に、八つ当たりをするような炸裂音。 俺は、やっぱり花火と化している空中バトルを眺めつつ、 立ち上がれない自分を小さな苦笑で笑い飛ばした───……そんな時。  ザリ…… 悠介 『……?───!』 魔法と物理攻撃とが炸裂し、 小さな音なんて聞き取りにくい空間の中で、確かに聞こえた音があった。 デスゲイズの所為かルドラの所為か、 戦いを始める前から消え去っていた常霧の山頂に訪れたそいつは、 転がっているナイフや首飾りとデスゲイズとを見比べ、 さらに霧が存在しないことを確認すると……歯をギリッ……と噛み締めた。 悠介 『……魔王……』 そう、魔王博光がそこに居た。 両脇にはナギーとシードが居て、炸裂する魔法や攻防を見上げ、愕然としていた。 魔王 「霧が無い…………そっか……ミストドラゴンが殺されたか───」 小さく動く口からは、辛うじてその言葉が聞こえた。 魔王は落ちている数本のナイフと首飾りを拾うと、 穂岸が左腕につけているものと似たような霊章から黒の炎を出し、それらを炎で飲み込む。 それが済むと───俺を、いや……俺達を睨みつけてきた。 ……その視線は尋常じゃない。 どうやったのかは知らない……いや、器詠の理力だろう。 遺されたナイフから、所有者の意思を読み取ってみせたのだ。 ならば、睨まれる理由なんてすぐに見つかった。 ……そんな魔王がゆっくりと、腹部の傷が癒えずに倒れている彰利に近寄る。 直感でヤバいと感じ、止めようとするが……俺の体は思うように動いてはくれなかった。 そうこうもがいている間に魔王は仰向けに倒れる彰利の傍に立ち、 掌に出現させた紅蓮蒼碧の巨大長剣を振り上げ───! 悠介 『やめ───』  ゴキィイインッ!!  ……パラパラ…… 悠介 『……、〜〜〜…………え?』 聞こえてきたのは肉を裂く音でも骨を砕く音でもない。 よく、解らなかったが……みるみる内に切断面が癒えてゆく彰利の腹を見て、 理由は解らなかったが解呪をしてくれたのだと理解する。 信じられない。 思わず魔王の顔を見る───……いや、見てしまった。 泣きたいのを無理矢理我慢している子供のような、辛そうな顔を。 それでも上空を仰ぐ瞬間にはそんな表情は消えて、いつの間にそこにあったのか。 魔王は握っていた剣を背中に背負った巨大な鞘に差し込むと、 しばらくなにもせずに動かず…… 魔王 「………ッ!」 動いた、と思った刹那、引き抜いた巨大長剣の柄が延び、 あたかも薙刀か槍のような風情になる。 それを構え直すと───足を捻り身を捻り、 あたかも彰利が光速を使用する時のような動作をし、中空のデスゲイズ目掛けて───! 悠介 『っ……みんなぁあああっ!!避けろぉおおおおおっ!!!』 叫んだ途端、デスゲイズ討伐に躍起になっていたみんなは一気に散会。 直後に、回転もせず一直線に飛んだ剣がキュン、という音を立て、 デスゲイズの頭部を容易く貫通。 貫通面を爆発させ、あっさりと破壊してみせた。 全員 『……!?……!!……、……!!』 それを見て息を飲むなというのは無理な話だ。 急に避けろと言われ、言われるままに避けてみれば戦っていた相手が一撃で死ぬ。 頭蓋を砕かれ、力を無くしたデスゲイズが傍らに轟音を立てて落下するのを、 俺は何処か夢でも見ているような気分で眺めていた。 Next Menu back