───冒険の書339/子午線(しごせん)(まつ)───
【ケース835:晦悠介(再)/なにもかもが冷たい世界】 雨が降っていた。 それは雑音のように鼓膜に纏わりつきながら─── 俺と、目の前の魔王とを濡らしている。 崩れた天井から降り注ぐ雨には暖かさなどなく、 こうして雨に打たれるだけで、確実に体温は下がってゆく。 悠介 「……、……」 静かに呼吸をする。 寒い中でも体を固めず、呼吸も正常にする。 それは、この世界の東の長老に教えてもらったこと。 無駄なんかじゃなかった。 俺達はこの世界に来て、様々なことを学んだ。 悠介 「疾ッ!!《キィンッ!》』 枝の床を蹴ると同時に白を解放。 白で移動するには少し狭いと感じる空間の中を駆け、 間合いを詰めるや躊躇なくラグを振るう。 声  『させん!』 腹部の赤目掛けて突き出された剣が弾かれる……が、 まだ魔王本人と戦った時ほどの脅威は感じない強さ。 弾かれた剣を伝って腕が痺れることもなく、 むしろこんな程度かと思える力に僅かばかり安堵した。 同時にあまり時間は残されていないと気を引き締め、 ただひたすらに腹部の赤……イドのみを狙う。 声  『なるほど、俺の“腕”を破壊してこの男を解放する作戦か。     だがどうかな……?ここまで侵食が進んでいる状態で、     たかだか腹に取り憑いた部分を破壊した程度で解放できるかどうか───』 悠介 『───』 惑わされるな。 やるって決めたんだ、そこにどんな誤魔化しやまやかしや説得力があろうが、 やるって決めたなら貫き通す!! 悠介 『っ───はああっ!!』 声  『チッ───!』 舌打ちをする声が聞こえる。 既に塊だけの存在だが、そんな器用なことを、とか思ってしまうのは─── 今まで積み重ねてきたヘンテコな日常の所為なんだろう。 緊張感がないとつくづく思いながらも、けれど剣を振るう手は休めない。 雷は───ダメだ。 ここまで水が体に染み付いていたら、撃った途端に俺も、魔王の体も痛めつけられる。 つまり、俺に出来ることは……あくまで近接攻撃での戦い。 創造も出来ないこの世界で、俺に出来ることはそれだけなのだ。 けどゲーム性が失われてゆくこの世界にあって、“熟練度”の枷がゆっくりと解かれる時。 創造の精度はそのままに、俺の体にかつてのイメージが流れ込んでくる。 空界でゼットに立ち向かうため、全てを守るためにと磨いてきた技術。 力自体は以前も確認したようにノートに渡したまま。 それでも積んできた技術は俺の記憶と、体に染み付いた経験とが覚えている。 軟弱になってしまった体も、以前よりよっぽど動く。 ……全部、この世界がくれたものだ。 悠介 『それが無駄だったなんて───絶対に言わせない!!』 誰にともなく叫び、剣を突き出す。 その度に弾かれ、躱されるが、諦めることなく撃を繋いだ。 声  『何故無駄だと悟らないのか。こちらの宿主は随分と頭が固い。     解っているんだろう?     お前の攻撃は狙う場所が限定されているために突きしか出来ない。     迂闊に弧を描けばこの体を切り刻んでしまうからだ。だが───』 悠介 『《ヂッ!》いづっ───』 ジークフリードが俺の頬をかすめていった。 声  『俺は違う。俺は思う存分好き勝手に攻撃が出来る。     べつにこの体が切り刻まれようが朽ちようが、俺には関係ないからだ』 けど、火も巻き起こらなければ風も巻き起こらない。 ……攻めるなら、体を支配しきれていない今しかないっていうのは解ってる。 解ってるが……イドの言うとおりだ。 狙う場所が腹に限定されている所為で、俺に出来ることは突き程度。 それでも。 悠介 『お前に関係がなくても……俺にはあるんだ!』 それでも振るう。振るう、振るう───!! 踏み込み、突き、下がり、躱し、弾き─── 創造での回復が出来ない今、出来る限りダメージを受けるわけにはいかない。 そのためにさらに慎重になり、心に怯えが湧いてくる。 もし斬ってしまったらどうする、助けられなかったら、と……際限なく。  ───違う そうこうしている間にイドが操る黒の人間の速度は上がってゆく。 段々と攻められる回数が増していき、どうしようもなくなってゆく状況に歯噛みをする。  ───そうじゃないだろ 警鐘が鳴っている。 このまま戦えばいずれ死ぬと。 そんなことが解っているのに、あと一歩が踏み出せない。  ───助けたいのと生きたいのは違う 弾くが、それでも振るわれる剣におもわず足を滑らせる。 すぐに手をついて身を捻り、追撃を躱すと、後ろに下がりながら体勢を立て直した。  ───出来ないんだったら“覚悟”なんて言葉を軽々と使うな 黒の追撃は既に疾駆になっていた。 今までののろのろとした動きとは違う。 確実に精度が上がり、こちらへと追撃を仕掛けてくる。  ───思い出せ それを受け止めながらいなし、バランスを崩した黒へとラグを突き出す───! だが黒は無理矢理体を捻ると脇腹で腹の赤を隠し……途端、体が止まる。 ……相手はぎしぃいいと笑みをこぼし、 情けない顔をしているであろう俺の顔面へと剣を振るった。  ───提督は一番初めになんて言った───? それはまるでスローモーションだ。 本能が頭を砕かれるイメージを叩き出したからだろうか……死ぬと解った途端にこれだ。 けど、ヘンなんだ。 心の芯がさっきからなにかを訴えかけている。 その度に心に熱いなにかが湧き出してくるようで───  ───間違うな。これは救うための戦いじゃない。 ゆっくりと動く景色。 剣が頭を砕かんとしている。 けどゆっくりになればなるほど意識は鮮明になり、心の底から聞こえる声も鮮明に───  ───相手が自分の命を狙ってる時点で─── 力が篭る。 目はいつの間にか碧眼となり、トランスが発動し、 ラグの中に眠っていた竜族の力が解き放たれる。  ───それはもう、命を賭けた戦いなんだよ───!! ───!!  ギシャゴバァォオンッ!!! 声  『───っ……!!』 振るった剣が眼前に迫っていた剣を弾いた。 刹那、飛び散る黄竜闘気。 俺の力がノートに移り、 封印された時点でラグの中に眠っていたそれが、今ようやく、完全に目を覚ました。 声  『……、その力……!……ふ、ふふ……だがどうする?     力を引き出したところで貴様は───』 悠介 『───絶対……必ず……覚悟。     ……ああ。軽々しく使っていい言葉じゃないよな……』 声  『なに……?』 覚悟を決めるなんて言いながらその実、てんで覚悟なんて決められてなかった。 そうだ……俺は“救う戦い”をしちゃいけない。 どんなに大切なものがあろうが、生きるって決めたなら自分が生きなきゃウソになる。 悠介 『殺してくれ、って言ったあんたの言葉……     そこにある覚悟を受け止めようとしてなかった』 未来を目指した男が殺してくれと言った。 そこにどれほどの覚悟が必要だ? それを出来ないだの傷つけたくないだの─── そんな俺が覚悟を決めるだなんて、身の程を知れ! 悠介 『だから俺は……あんたを殺す。     殺した上で、あんたの無念も思いも受け取らずにこの世界に埋める。     俺はもうなにも背負わない、守らないって決めた。     あんたがどれだけ俺の芯にとって大切な人だったとしても───』 黒目掛けて床を蹴り、肉迫するや剣を振るう。 突きではなく、弧を描いて。 声  『《ギィンッ!》───!貴様っ……!』 黒───いや、イドはそれを驚いた表情で受け止めると、 ギリ……と圧せられる状況に息を飲んだ。 悠介 『───そこに例外を作ったら、俺は“俺”じゃなくなるんだ……!!』 守りたいものを守るために駆けた時は、もはや過去。 人は変わるもので、 変わらない果てにあるのがルドラという英雄なら───俺は変わらなきゃいけない。 その覚悟をあんたの屍を超えることで得られるのなら、 生まれてくる悔いごと、全てをここに埋めていこう。 ……あなたが目指した、“楽しい”で溢れた未来のために。  ───覚悟………… 悠介 『っ……うぅおおおおおおおおおおおっ!!!!』  ───完了ォ……っ……ぉおおおおおおおおっ!!!! 心の芯と意識がリンクする。 途端に俺の中から一切の躊躇が無くなり、 目の前の男を完全に敵として───イドとして捉えるに至る。 悲しみは全部内側に押し込めて、全てが終わった時にこの場に置いていく!  ギャリィンッ! イド 『ぬぅぐっ……!?』 圧していた剣を押し退ける。 その気迫からか、もはやハッタリは通じないと理解したイドが表情を歪めた。 そうだ……今の内に好きなだけ黒に隠れて表情を歪めてろ! お前がどうしようが、俺はもう余計なことを考えねぇ! 今は……イド!てめぇを破壊することだけ考えてやる!! 悠介 『っ───つぁあああっ!!!』 イド 『ふっ、ははははは!そうか殺すか!!     随分ともろい仲間意識だ!自分が死ぬかもしれないと踏んだら掌を返すか!』 悠介 『ごちゃごちゃうるせぇ!憑依してるのになんにも解ってねぇお前が!!     その人の覚悟を笑うようなことをぬかすんじゃねぇ!!』  ヒュフォガギィンッ!! イド 『ハッ!貴様もか!所詮貴様も提督提督と届かぬ理想に手を伸ばす亡者よ!     どれだけ抗おうが貴様も所詮、宿主と同じく非道になりきれん!』  ギャギィンッ!ギギャァンッ!! 剣と剣が弾け合う。 雨に打たれながら、雷鳴が轟く終わりの世界で。 雨の中でも弾ける火花は変わらず、 それどころか雨の数にも負けない速度で火花の数が増してゆく。 イドが魔王の力を飲み込みつつある。 イド 『素晴らしいぞこの体!人の身でありながら馬鹿げた能力!     人だ人だと見下していたことを謝罪しなければな───!』 速度が飛躍的に増してゆく。 それに合わせることはせず、全力を以って攻撃を連ねる。 既に幾度か撃を叩き込んだが、その先から傷が塞がってゆく。 どんな力を使っているのかと歯噛みするが、それでも既に高速と化した攻防は治まらない。 イド 『ハッハァッ!!』  ドゴバガァンッ!!! 悠介 『づはっ───!!?』 そんな中、振るわれた拳をラグの腹で受け止めた途端接触部が爆発。 広間の壁際まで吹き飛ばされた俺は、体勢を立て直しながら小さく息を飲んだ。 とうとうボマー。 剣にも黒と赤が混ざったような色が浮上してきており、 これで蒼まで灯ったら……と思うと背筋に冷や汗が走った。 イド 『ふふふはは!はぁーーーはっはっはっはっは!!』 そんな俺にはお構い無しに壁際の俺へと地面を蹴り、襲い掛かってくるイド。 そのイドの手の中のジークフリードがキィンと回転され───黄竜剣!? 悠介 『っ───』 同じく地面を蹴る。 光を発動させ、敵の速度に負けない速さで加速し─── 悠介&イド『黄竜剣!!!』  ギガァッシャゴバァォン!!! 剣と剣が激突する───!! 刹那に体を濡らしていた雨も降り注ぐ空中の雨も、空気さえもが剣戟を中心に弾け飛び、 高鳴る轟音が外に落ちた雷鳴の音を超越し、掻き消した。 イド 『いいぞ、ははは!いいぞよく受け止めた!!     もっと楽しませろ!この体で!もっと、もっと───!!』 悠介 『っ……』 狂ってやがる。 魔王の体で涎さえ流し、戦いに喜びを得たソイツにはもう、 精霊としての威厳とか誇りというものが存在していなかった。 ただ戦いを望み、破壊することに喜びを求めるような……そんな腐った目をしていた。  ───雨が再び、思い出したかのように俺達を濡らす。 その一滴目が降りた時、合わせていた剣同士を戻し、刹那に1合、2合───! 体の芯には白を、四肢には光を込め、最高速度を以って攻撃を連ねてゆく。 最初の頃こそ一方的に刻んでいたが、それもやがて弾かれるようになり─── イド 『キヒャハハハハハ!!速い!クヒヒハハハ速いぞぉ!!     これは最高のオモチャだ!どんどん力が湧く!     飲み込めば飲み込むほど力が溢れる!!』 そして、ついに並ぶ。 イドは速度限界を迎えて腕の筋が切れようが無理矢理癒し、光の速度についてきている。 剣と剣が光速でぶつかり、その度に散る火花の数はもはや膜。 かつてゼットとぶつかりあった時の比じゃない。 夥しい量の火花と爆発と風が空中に巻き起こり、時に敵の姿を見えなくする。 その状況に早くも変化を欲したイドはジークフリードを双剣に変え、襲い掛かる───! 咄嗟のことに反応しきれず、胸から腹にかけてを薄く斬られるが─── 致命傷だけは避けることが出来た。 イド 『キハハハハ!ハァーーーッハッハッハ!!!』 悠介 『っ……くっそ!』  ギガガンギヒャンガギガゴギャパギィンッ!!! 双剣での剣舞が俺を襲う。 押しては引いての攻防の均衡は容易く崩れ、あっと言う間に俺は追い込まれていた。 ───その時。 がしゃん、と足にぶつかるなにか。 悠介 『───!』 これに賭ける───! 足にぶつかったソレを上手く装飾靴の踵に引っ掛け、 蹴り上げるようにして背中から宙に舞わす。 イドにはそれがただ俺が体勢を崩したように見えたんだろう。 一気に追い込みを開始し、 さらに追い込まれた俺が空中に飛ばしたそれを後ろ歩きでくぐった時。 俺とイドの中心に、ソレは落ちてきた。 刹那にガギィンッ!と、イドの手で振るわれたジークムントに鞘を破壊され、 俺へと投げ飛ばされるように飛んできたそれを咄嗟に掴む。 悠介 『これは───』 凍弥の精霊武器、無間殺鬼だった。 ありがたい……光属性なら、光速に負荷なく耐えられる───! いや待て!だったら─── 悠介 『考えてなんていられない───っ……うぉおおおおおおっ!!!!』  ギシャゴバガンギガゴギャアンッ!!! イド 『ぬっ!?ぐっ!!おおっ!!』 右手に持つラグで黄竜剣を光速で連発! イドが怯んだ隙に分析を開始───イドにではなく、床に転がる武具の山にだ! ある……絶対にある筈だ! 以前聞いたことが事実なら、あれがあれば───…………あった!! イド 『余所見とは余裕だなぁあ!ふはぁあははははは!!!』 悠介 『っ!?《ザゴォッ!!》ぐあっ───つう!!』 背中に走る熱に顔をしかめた。 いつの間に背後に回りこんだのか、イドは振り向く俺目掛けてさらに攻撃を連ね、高笑う。 欲しいものは見つけた!けどこれじゃあ……!っ……また黄竜剣で! イド 『無駄だ!!』  ギシャゴギィンッ!!! 悠介 『っ……!!』 剣と剣がぶつかり合い、黄竜闘気が二つ分散る。 性格が捻じ曲がっていても、さすがはルドラ付きの精霊。 こっちがどう闘気を込めてどう動くのかで、技を見切ってやがる……! だったら───無様でもいい!一撃くらってもいい!今はこれに賭ける!!  チャンスは一度だけだ───“提督”を信じろ! 心の底がそう叫ぶ。 飲まれ、対面している相手を信じろって言葉の意味が理解出来なかったのは一瞬。 俺は無間殺鬼を強く握り締めると固有スキル“フラッシュ”を放ち、 行動を予測していようが数瞬ばかりは目を瞑る行動の隙を突いて疾駆!! 武具の山に潜るようにして手を突っ込み、 様々な武器によって手を切ろうとも構わずに───ソレを掴み取る!! イド 『なんの真似だ───!』 山からソレを引きずり出すのと、イドが接近しジークムントを振り下ろすのはほぼ同時。 引き抜く動作をそのまま攻撃に移行し、 なんとかそれを弾いて───発動させるのは一つの能力!! 雷でも創造でもない、 かつて彼を信じたからこそ、そして今信じているからこそ使える能力を!!  提督───! 悠介 『魔王───!』 俺に、力を貸してくれ───!! 悠介 『ヒロミチュード発動!!』 掴み取った武器───魔王の斧を手に、ヒロミチュードを発動! その途端、イドが持つジークムントとジークリンデが小さく輝いた気がして─── 次の瞬間、それは起こった。  ヂヂッ……《マグニファイが発動!強制融合!》 悠介 『───よし!!』 もう微弱であるゲームシステムのナビが弱々しく告げる力! それが発動した途端、 この場に落ちていたあらゆる武具が魔王の斧に吸い込まれ、融合する───!! イド 『……!?なんだ、これは───ちぃっ!!』 異様だったのだろう。 斧に吸い込まれる武具たちを、馬鹿みたいに呆然と眺めていたイドは、 ハッとするとすぐに攻撃を仕掛けてくる。 けど、もう遅い……! 全てを吸い込んだ斧から光が消え、 それら全ての武具が魔王の斧へと飲み込まれた……刹那! 悠介 『うぉおおりゃあぁあああっ!!!』  ヒュフォガカァッキィンッ!!! 振るわれた剣を斧で思い切り斬り弾き、真正面からイドを睨んでやる。 左手に斧、右手にラグというアンバランスな姿だが、 バランスなんて気にしていて死線を超えることなんて出来やしない。 イド 『づっ……武具融合だと……!?この期に及んで悪足掻きを……!』 悠介 『足掻くさ……何処までだって足掻いてやる!     死にたくないって思ったんなら、生きようとしてなにが悪い!!』 叫ぶと、武具それぞれの能力を解放する! 途端に髪と目が炎髪灼眼となり、背には黒の九翼。 体の周囲を様々な属性が囲み、吹き荒れる。 悠介 『この夏は無駄じゃなかった!この世界は無駄じゃなかった!     この夏だけでどれだけ得られたものがあったと思う!     この世界を駆け抜けただけで、どれほどのものを得たと思う!     そんな思いたちを自分の都合で簡単に壊そうとするお前らに───!!     俺は!この世界は!絶対に負けやしない!!』 絶対を口にする。 それだけの覚悟を以って、必ず未来まで辿り着く!! 魔王……俺も賭けるぞ、自分の命を───!! 悠介 『おぉおおおおおおおおおっ!!!!』 今、一歩を踏み出す! 覚悟の一歩を───決意の一歩を!! イド 『……フンッ!だからどうした!貴様がどれだけ武具を合わせようが!     この体の能力には到底勝てん!もはや支配すべき場所も残り僅か!     貴様がいくら頑張ったところで、この体は手遅れよ!』  ドガァアアッキィイイインッ!!!! 再び散る火花。 真正面から激突し、ぶつかった先で剣舞と剣舞が火花を咲かせる。 振るう腕は最初から全速。 双剣に応対する剣と斧とが光速で振るわれ、 その度に様々な能力のブーストが走り、イドの攻撃を斬り弾いてゆく。 そうして押され始めたからだろう。 イドは魔王の体で舌打ちをすると双剣を六閃化させ、こちらの攻撃を圧してくる。 急な攻撃に後方へ滑らされた俺に、イドはすぐに追撃を放った。 ───竜魔法、フレアだ。 悠介 『くらうかよ!!マジックキャンセラー!!』 それを、魔王の斧に吸い込まれた武具のひとつ、マジックキャンセラーで破壊する! もう分析は済んでいる───どんな能力が付加されているかも記憶済みだ! イド 『チィ……!』 再びの舌打ち。 撃った技の反動からかバランスを崩したイド目掛け、 風を纏っての突撃で間合いを詰め、反撃を開始する! 相手が様々な属性を得た武具を使うなら、こっちだってそうするまでだ! 斧に重みは感じない……特殊スキル効果のお陰だ。 これなら思う様振るえる!! イド 『図に乗るなよ!急造の武具ごときでこの武具に勝てると思うか!』 対してイドも豪快に武具を振るい、こちらを圧してくる。 一撃一撃の重みは、悔しいが相手の方が上だ。 +の量が尋常じゃない、当然だ。 こちらは総合でも1万ちょいだというのに、相手は+53万。 普通に考えれば今こうして打ち合えているのが不思議なくらいだ。 いや、或いは───武具たちの意思が、魔王が必死に抗っている証拠なのかもしれない。 イド 『もっとだ……もっと力を引き出す……キハハハハ……!!』 ……だが、その内に気づいたことがある。 強すぎる武具を持つと、人はその力に溺れることがままある。 そんな状況と今のイドは、酷似していた。 経緯、過程までを知ることは出来ないが、魔王に破壊されかけて弱ったイドにとって、 強すぎるその武具は新たな快感的娯楽だったのかもしれない。 まるで中毒にでも陥ったかのように、力を引き出し狂っていった。 その度に、当然のように俺は押されてゆき、 腕を、足を、腹を、様々な場所を刻まれてゆく。 悠介 『くっ……百鬼夜行(ピック)!!』 ラグを鞘に納め、雷を込めずに突き出した右手から巨大な螺旋槍が放たれる。 それはイドの眉間目掛けて放たれ、 しかしイドは高速で螺旋を描く槍をジークムントで受け止めると、 強引に逸らした上で突っ込んでくる! 悠介 『旅人(ガリバー)!!』 次!捕獲神器でイドの姿を包み込み、即座に唯我独尊(マッシュ)で噛み潰す!! ……が、 悠介 (居ない!?《ゾッ───》後ろ!!)  ヒュフォギャリゴッバァンッ!!! 悠介 『ぐわぁあっつぅうっ!!!』 背後に現れた死の気配に向けて魔王の斧を振るい、爆裂する剣を弾いた。 閉じ込めたと思ったのに……転移か、それとも時間停止か……! 悠介 『(くろがね)!!』 考えるより攻撃! 突き出した右手に神器大砲を出現させ、間を置かずに放つ。 が、イドは大砲の弾を軽々しく斬り砕いてみせ───た刹那に息を飲む。 悠介 『“閃空 飛翔ニ堕ツル万物(閃技 飛翼にして刃)”!』 イド 『く、お───!?』 放つと同時に、大きな玉に隠れるように疾駆していた俺に気づいたが故だった。 驚愕を隙と捉え、鞘からラグを───抜き放つ動作のままに、魔王の斧とともに振るう!! 悠介 『“疾空 交差セシ白銀ノ閃(疾技 交わりにて無二を砕く)”!!』  ガギャァアンッ!!! イド 『ぐっ……!《ビリビリ……!!》』 まず一撃。 振り下ろす交差で相手の武器ごと腕を痺れさせ、 続くニ撃目───振り上げる交差でさらに武器を弾く─── イド 『なめるな!その奥義は既に見切っている!』 ───と思うだろうが、相手が見切っていることくらい予測済みだ。 俺はイドがすかさず放った蹴りを地面を這うような疾駆で潜ると、 そのまま背後に回ってから攻撃を繋ぐ!! イド 『なっ───』 悠介 『以下略だ!“終空 是即チ歴戦ニテ敗北ヲ知ラズ(終技 我が生涯は刹那にして無限)”!!』 全能力を全力解放! 九頭竜闘気が背中で爆発し、踏み込む足が風によって加速され、 振るう腕が光によってさらに加速され、奔る早撃ち能力が速度の壁を越えさせる!! ローラーダッシュと電光石火(ライカ)と光能力によって地を滑り、 刹那の瞬間にイドへの攻撃を振り払った俺は、 突き抜けた先の空間で滑るように振り向くと、  ギシャヴァギャァンッ!!! イド 『グギィアァアアアアアアッ!!!!?』 一瞬を置いて吹き飛ぶその姿を見て、武器を握る手にさらなる力を込めた。 全てを込めた力をラグと魔王の斧に乗せ、 その二振りの武器にて同時にエースインザフォール。 速度の全てが乗ったこの一撃は文句のつけどころもないほどにクリーンヒットし、 イドを広間の壁へと激突させた。 ファイナルストライクも付加させたために、魔王の斧は砕けたが───今はいい。 どのみちどれほどラグで粘ろうが、決定的なダメージは望めなかったに違いない。 手に残った斧の柄を投げ捨て、ラグを両手持ちにして構える。 閏璃の話では、呪われるために外せなくなると聞いたが、 普通に手から離れ、床に転がった。 ……ゲームとしての機能が消えかかっているからだろう。 復元する力もないのか、それとも戦いが終わってないから復元しないのか。 床に散らばった魔王の斧は雨に打たれたまま、なんの反応も見せなかった。  ゴコッ───ベキャアッ!! 悠介 『───!』 斧を横目に見下ろしている俺の耳に届く炸裂音。 吹き飛んで枝の壁に埋もれていたイドは壁を破壊し、 やはりと言うべきか床に着地するや俺目掛けて走ってくる。 振り荒ぶ雨が球体の空気に穿たれたかのように散り、 それが潰える先で、俺とイドは剣をぶつけ合っていた。 イド 『ギギギ……!マダダ……!コンナモノデハナイ……!!     モット……モットチカラヲ……!!モットォオオオオ!!』 ジークムントでもジークリンデでもない、ジークフリードで圧してくるイドは、 もはや完全に力に飲まれていた。 狂ったようにガギガギと剣を圧しつけ、涎を撒き散らしながら叫んでいる。 そんな狂った状態ならばと足を振るい、イドの足を思い切り払い、体勢を崩される! イド 『リギッ───!?ギギャァアアアアッ!!!!』 途端、喉が潰れたような叫び声をあげ、もう片方の足で地面を蹴り、 自ら跳躍すると逆さの状態で俺を睨み─── 悠介 『《キィンッ!》───黄竜剣!!』 俺はそんなイド目掛け、全力で剣を振るう! だがラグが顔面を砕くより先に、イドもまた狂いながらも黄竜剣を放ち───  ギシャゴギャァンッ!!!! ───再び吹き飛ぶ水滴と空気。 相手が跳躍している分、俺の足にはさっきよりもひどいくらいの負担がかかり、 枝の床は砕け、脚からは血が噴き出し───それでもまだ。 悠介 『っ───待ってたんだ、そいつを───!!』 雨が、水滴が全て飛び散り、発生した衝撃波が降り注ぐ雨を吹き飛ばした刹那。 俺はラグと俺の中に存在する全雷属性を解放し───!! ブレードオープンさせたラグで、 空中にいたからこそ攻撃の際にバランスを崩したイド目掛けてぇええええええっ!!!! 悠介 『ブッ潰れろォオオオッ!!ギガブレイク!!!』 雷の精霊と契約し、高レベルに至ったからこそ放てる雷の奥義を今!!  ヂガシャゴガァッガガォオンッ!!!! イド 『ッ───グギャァアアアアッ!!!!』 咄嗟の防御も構わず、自分の体ごとぶつける思いで振り落とした───!  ドガァッ!!ズガガガドッガァアアアアアッ!!! 空中から叩き落されたイドは雨に濡れた床を滑ると壁に激突し、血を吐いた。 対する俺は、冗談抜きの全力─── トランスで出せる限界の力を以って振るったために腕の筋肉が断裂。 腕を上げることも出来なくなり、勝手に手の中から落ちたラグの傍に、ばしゃりと跪いた。 悠介 『はっ……は、はぁっ……《ビギィッ!》いがぁあっ……!!つ、ぅう……!!』 脳髄に氷柱が突き刺さるような冷たい痛み。 そんな痛さが雨に打たれるたびに脳に響き、涙さえ流しながらも───視線だけはイドへ。  立ってくれるな……! そう思いながらも、きっとそれは叶わないんだろう、と何処かで理解していた。 そしてその理解の通り……イドはムクリと起き上がると再び血を吐き、 ずちゃり、ばしゃり、と歩いてくる。 腕は…………動く筈がない。 イメージも働かず、ただ……このまま殺されるのを待つだけ、なのか───?  …………違う 諦めるな。 まだ出来ることがある。 やれることが残ってる。 それを全部出し尽くすまでは……殺されたって死に切れない! 否!違う!死んで─── 悠介 『死んで───たまるかぁああああああっ!!!』 両腕が動かなくても足は動く! 神器・電光石火(ライカ)を足に召喚した俺は素早くイドから距離を取り、 離れた位置でローラーの回転を止めると思考を回転させる。 イド 『チカラ……チ、カラ……!マダ、マダ……コンナモノデハ……!』 イドが歩いてくる。 虚ろな眼のまま、ばしゃり、ばしゃりと一歩ずつ。 その体が突然肥大化し、筋肉が盛り上がり───灼闇に包まれ、雨を焼き───それでも。 イド 『チカラダ……モット……モットダ───!!』 イドは力を求めることをやめず、次々とスキルを発動させては笑っている。 悠介 『や───やめろ!それ以上やったら魔王の体が……!』 言いかけて、ハッとする。 この期に及んでなにを言っている。 俺は、生きるって決めたんだろ───? たとえ殺すことになっても、 あの体をイドの好きなようにはさせたくないって思ったんだろ? 悠介 『っ……《ブギッ……!メキ、ギキキ……!》』 無理矢理腕を持ち上げようとする。 だが筋肉が肩付近から断裂しているようで、 どれだけ持ち上げようとしても両腕とも動かなかった。 悠介 『……違う』 動かない。 確かに動かない……けど、“無いわけじゃない”んだ。 腕がここにある。 だったら───出来ることはまだある───! 悠介 『電光石火(ライカ)!《ヴフィィイイイイイイインッ!!!!》』 高速で回転するローラーブレードを使い、床を一気に走る! チャンスは5回……いや、一回だ!ミスすれば確実に警戒される! だから一回で決める!一回で───あんたを越えてゆく!! イド 『りぎぃいいいいいっ!!!』 真正面から突撃───当然イドはジークフリードを振るい、 俺を斬滅しにかかる……その攻撃を、利用する! 俺の速度に合わせて振り下ろされるその剣に向け、 電光石火(ライカ)の片方を足から切り離して放つ!  ガギゴバァッガァンッ!!! イド 『グギッ!?ぎいぃあぁあっ!!!!』 突然目の前で爆発した電光石火(ライカ)に驚き、 発生する爆煙をジークフリードで掻き消そうとする。 そんな乱暴な振るわれ方をするジークフリード目掛け、 もう片方の電光石火(ライカ)もシュートし、爆煙をさらに巻き起こす。 ───これでいい。 煙と格闘する姿を確認すると立ち止まり、 床にラグを突き刺しその鍔にだらりと垂れ下がった腕を─── 体を捻ることで無理矢理持ち上げ、乗せる。 そうしてから手を開くことも出来ない情けない手に膝蹴りをかまし、 腕の筋を刺激して無理矢理手を開かせた───その時!! 悠介 『十ツ星神器!!魔王ォオオオーーーーーーッ!!!!』 心の底から思いを絞りだすように叫び、開いた掌から神器・魔王を召喚!! 放たれた魔王は目の前の───魔王博光の形を象ると剣を回転させ……!! イド 『うばぁしゃぁあっ!!───!?』 ようやく爆煙を切り裂いたイドへと、金色に染まる剣を───一閃させる!!  ギシャゴバァアォオオオンッ!!!! イド 『ギギャ』  キュゴドガァアォオンッ!!!! 叫ぶ言葉も短く、黄竜剣をまともにくらったイドは、壁に三度の激突。 金色の竜闘気がダイヤモンドダストのように散る景色の中、壁に埋まり、動かなくなった。 悠介 『っ……、は、あぐっ……!《シ……ゥウウ……ン……》」 それを確認するやトランスから始まる全ての能力が勝手に途切れ、 俺の体はその場に崩れた。 途端に襲い掛かる腕の痛みに顔をしかめ、 魔王使用の後遺症か、満足に動かなくなる体に溜め息を吐いた。 悠介 「……、い、や……」 今なら。 今なら出来ることがあるかもしれない。 頼むから……もう少しだけ動いてくれ……! イドが動かない今なら、あの腹の赤を潰せるかもしれないんだ……! 悠介 「は、は……ぐ、うぅう……!!」 ……動く……まだ、動ける……! けど、立ち上がり、歩くのが精々。 攻撃するほどの力など残っていないし、 少しでもそうやって力を込めた途端、俺の体は傾き再び地面に崩れた。 悠介 「ぁっ……か、はぁっ……!は、あああ……っ……!」 それでもやりたいことがある。 救わないって決めた俺だけど、あの人にだけは死んでほしくないと心から思えた。 それなのに剣は持てない、腕は持ち上がらない、満足に走れもしない。 自分がもっと英雄的だったら、どんな困難の中でも立ち上がれたのだろうか。 どんな絶望的状況でも、勝てたのだろうか。 ふとそんな考えが浮かんだ。 浮かんだのに───心の底が、それを否定した。 英雄になんかならなくていい。 凡人のまま、世界を楽しめれば……他に望むものなんてないのだと。 悠介 「っ………………が、あぁあああああああっ!!!」 そうだ、俺達は凡人だ。 どこでなにをしようとそれを勇者と呼ぶかは周りが決めることで─── 自分は英雄だから立ち上がるのではなく、自分が立ち上がりたいから…… 今動かなきゃきっとずっと後悔するって知ってるから───! 悠介 (動け!動け……動け動け動けぇええええええっ!!!) 筋肉が切れた腕に命令を下す! 使えないと言われた創造も、そんな言葉を受け取ったままにするんじゃなく、 使えない状態さえも超越して発動させようとする! 後悔なんてのは死んでからで十分だ!生きてるうちに……! 死ぬ間際に死ぬ気でやれば出来ることがあったとしたら─── それをやらずに死ぬことのなにが本望だ!!  ばしゃっ、ばしゃ─── 悠介 「───!」 震える体がようやく起き上がろうとしたその時。 俺の目の前の床に、二つの足。 …………息を飲みながら視線を上げれば、 そこには……ジークフリードを構えたイドが……! 悠介 「っ…………」 ここまで、なのか……。 俺は、魔王を救うことも自分を救うことも出来ずに…… イド 『ギ、ヒヒヒイ……!!オワリダ……!コレデ───!!』 ジークフリードが振り上げられる。 俺は───なにも出来ないこんな状況だからだろうか。 親に叩かれることに怯える子供のように目を瞑り、俯いて───  …………そんな時、声が聞こえた気がした。 え、と口から声が漏れて、眼を開けると…… ひどくゆっくりと、雨の一滴が地面に溜まった水溜りに落ちるのを見た。 悠介 (え……) 死に際の集中力、ってやつか───と思わず脱力。 けど、今度ははっきりと、俺の耳に届く声があった。 声  「たとえば。     調子に乗った野郎が一番気を緩める時があるとしたら、それはどんな時でしょう。     ───解るよな?……晦一等兵」 ───! バッと顔を上げた───つもりが、俺の頭も視線もゆっくりと動くだけ。 けど、ゆっくりと動く視界に徐々に映その様、その表情は……! 悠介 (……、魔、王……?) 今までの死の気配や狂気に満ちた顔なんてどこにもない。 体に満ちた死の気配を、体に広がっていた赤の筋を内側から支配し、 腹の赤へと無理矢理固めさせた魔王がそこに居た。 声  「……動けるか?動けるなら……俺の腹を突け。     これは最後のチャンスだ。     イドが俺の中に入った時点で、みんなには意識の底に眠ってもらった。     そうしてイドが体の表面ばかりを埋めた時、     内側から意識を乗っ取ってやった。……まあ、いつもの手だ。     弱りきった死の気配くらい、     シードとナーヴェルブラングと然の精霊3人が居て飲み込めないわけがない」 悠介 (………) 声  「ホウケるなよ……相手が弱ってるとはいえ、     俺達がどれだけ苦労して自我を離さずにここまで来れたと思ってるんだ……。     もう、マナの貯蓄もない……大樹たちも侵食されて枯れちまってる……。     その全てを注ぎ込んだ先に、今の状況がある……     今しかないんだ……頼む、俺を───」 悠介 (…………っ……) 意思が首を横に振る。 心の底は……当たり前だ、戸惑うに決まってる。 越えてゆくって決めたけど、それは相手が敵だった場合の話だ。 せっかくこうして自我を取り戻してくれたのに。 貯蓄がないって……それじゃあ赤を殺しても、回復できないってことじゃないか───! それを、俺が───!? 声  「っ……早く……しろ……!このままじゃみんなの意思がイドに食われる……!!     敵は俺の中に居る……!居るんだよ……!     それを、破壊でき、ないで……!なにが勇者だ───!」 悠介 (……、……) 出来ることはある。 腕が持ち上がらないからといって、なにも出来ないわけじゃない。 腕に快刀乱麻(ランマ)を出現させて、体ごと振るって斬滅すればいい。 けど───けど……!! 声  「《ドクンッ!》……っ……───今回きりだ、こんなもの───!     いいか晦一等兵……!戦場の中で必要に迫られた時に!     迷うだけでなにも出来ないヤツには覚悟を口走る資格なんてねぇ!!     その目に刻め!記憶で忘れてもいい!目に刻んで覚えてろ!     覚悟ってのはな───!命を賭すって決めたなら、     決して迷わず貫き通す“己の誓い”だぁあああああっ!!!」 悠介 (───!) 振り上げられていた剣が動く。 俺の頭に振り下ろされる筈だった剣が双剣に変換され、 長剣よりも短くなったそれを逆手に持ち変えた魔王が───! 悠介 『やめ───!!』 やめろ、と手を伸ばそうとしても動いてくれない。 どうする気なのか、なんてのは、魔王の目を見た途端に解っていた。 だってその目は、かつての幼少の頃、 暴走しかけた彰利が俺ではなく自分の腹を穿った時と同じものだったから。 それでも必死に伸ばすことで届くのなら届かせたかった。 止めたかった。 なのに───この手は守りたいものばかりを守れないままに─── 魔王が今、躊躇することなく一気に。 長く大きな双剣を、自分の腹に存在するイドの核へと突き刺した。  ザゴォッ!!ゴバァバババボォッガァン!!! 中ほどまでなんて生易しいものじゃない。 柄の装飾が腹にぶち当たるまでの刃渡り全てを、貫通しようが構わず突き刺した。 魔王 「っ……あぐあぁあああああああああっ!!!!」 途端にスローモーションが消え、巻き起こる爆発と暴風がイドの核を微塵に砕き…… この場から、イドの気配の全てが…………消え失せた。 悲鳴を上げる暇もない。 人を操るなんていう、どこまでもくだらない敵にはお似合いの、 あっけなくもくだらない死に方だった。 魔王 「っ……、い、が……はぁっ……!……残りカスなんかに……!     俺達が……この世界を生きた証を……食われて、たまるか……よ……!」 弱りきり、腹に風穴を空けて、 口から血をぶちまけた魔王は虚ろな眼のまま、ばしゃあと倒れ伏した。 悠介 「…………」 ようやく戦いは終わり、あとは出るだけだというのに───俺の体は動かない。 そんな中でも雨は容赦なく降り注ぎ、 流れる血が固まることを許さず、さらにはどんどんと体温を削っていっていた。 イドを倒した今なら、とイメージを解放するが、やはりなにも起こらない。 死なせたくない……そう思ったら、満足に動かない体でもせめて、 バックパックにあるアイテムを使って─── 悠介 「……《かぐっ……》………………え?」 アイテムで回復を謀ろうとしたがそのアイテムがなんの反応も見せない。 ナビネックレスもやがて色を無くし───ざ、と不安が頭によぎった時だ。 ルドラ『………』 広間の先の狭い通路の前にルドラが出現した。 迫り来る絶望に、心が折れ始める。 イド相手だってこのザマなのに、俺はっ……! 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