───早朝より/朝の時へ───
【ケース844:晦悠介/決戦の朝へ】 トランス能力の解放をより深くまで。 深夜に行われ、早朝まで続いたそれは、一部の人物を除いて俺達の中に宿っていた。 その一部っていうのが─── 彰利 「ジョアジョアジョア……」 閏璃 「ヌアヌアヌア……」 微妙にヘンテコな唸り声を上げてトランスに励む、彰利と閏璃だった。 訊けば二人で神降に遊びに行っていたらしく、 く、悔いはねぇぜぇ〜〜〜〜〜っ!と言いながらウンウン唸っている。 ノート『そうだ。その状態を保ったまま……』 閏璃 「一気に放つ!」 ノート『放つなたわけ!!』 彰利 『ジョワジョワ見てられないぜ……つーわけでスッピースッピー見て見て!     これがトランスの境地!?     なんかハッピー気分で自分の体見下ろしてるんだけど!』 全員 『魂出てるゥウウウウウウ!!!!』 ノート『〜〜〜〜っ……汝らぁああああああっ!!!』 そしてノート直々にボコボコである。 けど……なんだろうな。 二人とも凄くいい顔してる。 それはツッかえていたものが取れたような、とてもスッキリした表情だった。 閏璃 「フフフ、み、見切ったぜ〜〜〜〜〜〜〜っ!!」 彰利 「お、俺もだ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」 ノート『……ならばさっさとやってみせろ。私は汝らを殴りたくてうずうずしているんだ』 彰利 「殴る気満々ッスね!」 閏璃 「失敗すること前提なんですか僕ら!」 彰利 「が……ダメッ……!我らは既にコツを掴んだ!」 閏璃 「あの状態を保てばいいのなら、     これほど簡単なことはねぇ〜〜〜〜っ!!いくぜテリー!」 彰利 「オー!」 二人 『クロス!チェンジャー!!《マキィーーーン!!》』 …………。 彰利 『…………ドウヨ』 閏璃 『超トランス……完了』 そう言ってやってみせたのは、まさしく真トランス。 トランスよりもさらに深く意識を集中、 沈めた上にさらにそれを安定させたまま継続させるものだ。 地界以外の回路を持っている状態じゃないと開けないもので、 地界の回路にもそれとよくにたものがある、とノートは言っていた。 地界人は魔術も式も使えない代わりに、 “順応”の回路を使ったその能力がどの世界の能力よりもよっぽど強いんだとか。 見てみたい気もするが……残念ながらたとえ回路を持っていたとしても、 相当に特殊な例じゃなければ発動できないそうだ。 その名を、人器。 ただひたすらに地界人としての生を貫かんとする者で、 だっていうのに自分の回路と意識的にアクセスできるようじゃなければダメ、と。 地界人って時点で回路と意識的にコンタクトを取るなんてこと、出来るわけがない。 未来で凍弥がリヴァイアの教えの下に頑張ってはみてたが、 それは全部“奇跡”があったからだ。 普通に考えて、“人器”は使えるようなものじゃない。 けどもし使えるなら、 それはトランスの能力なんて軽く超える恐ろしいもの、ということだそうだ。 トランスでその3分の1、真トランスでもようやく半分程度。 ……地界の回路って極めれば強かったんだなぁ……としみじみ思う今日この頃だ。 使えないなら意味がないわけだが。 ノート『では閏璃凍弥。ここに鏡を創造した。これに一発撃ってみろ』 閏璃 『フン断る』 ノート『なにっ!?何故だ!』 閏璃 『え?いや断ったらどうなるのかな〜ってギャーーーーーーウ!!!』 ボコボコだった。 ノート『さ。やってみような?』 閏璃 『暴力には屈しません』 そしてまたボコボコだった。 閏璃 『俺!いい子になるよ!撃たないけど!』 結論的にはいい笑顔だったという。ボコボコだったけど。 閏璃 『ほがが……ほがががが……!!』 ノート『やれ。御託はいい』 閏璃 『ふぁい……』 で、ようやく撃たれる弾丸は───途中で進行方向を変え、ノートのもとへ! ノート『ぬうっ!?』 しかしその弾丸が途中で気化すると、サワヤカで生ぬるい風がノートの顔を撫でていった。 閏璃 『さわやかな風です……ご堪能ください』 ……ボコボコだった。 ……。 …………。 シュウウウ………… 閏璃 「ちくしょ〜〜〜……」 顔面をボッコボコにした閏璃が涙を流しながら悔しがっていた。 まあ、自業自得だ。 ノート『次だ。弦月彰利』 彰利 「え?なに?」 と、ノートが閏璃から視線を外して振り向くと、 そこにはドナルドダンスで片足と両手を上げている彰利が。  デンッ♪テテンッ♪テンッ♪ 彰利 「……こっちの方がいいかな《バゴシャア!》ルブッシュ!!」 ノート『さっさとしろ』 彰利 「おぶぉっ……な、なにも殴らんでも……!」 静かにキレると怖い……それがスピリットクオリティ。 品質は関係ないけどな。 彰利 「トランスフォーーーーーーーム!!《シャッキィーーーーーーン!!!》     ブレイバー・ブレイバー!!』 声高らかに叫ぶとともに構えると、 彰利が身につけている篭手と具足が伸び、軽い鎧装飾のようなかたちになる。 黄金だったらちょっとした聖闘士星矢だった。 彰利 『そィで?アタイはなにすりゃいいの?』 ノート『…………無茶な注文だということは解っているが……───』 彰利 『あ、あー…………レヴァルグリードか』 ノート『そういうことだ。     あれの力が一瞬でも扱えれば、勝利は確実といっても過言ではない。     だがそれ故に、汝ではまだまだ受け皿が足りない』 彰利 『うへぇっ!?ま、まだまだ……!?』 藍田 「はいはい質問シツモンーーーーン♪」 彰利 『わざわざ幽々白書の真似せんでいいって』 藍田 「なにを言う、あっちはピンポンだ」 ノート『それで、なんだ藍田亮』 藍田 「押忍。えーと、深夜の授業で、     ノートン先生が古の神々の中の一人だ〜ってのはよ〜く解りました。     空界創世に係わっていて、今の神界とは別の神界に居たってのも。ええ。     でもさ、じゃあそのノートン先生より強力である、     レヴァルグリードやアハツィオンってなんなの?」 ワッ、と場が騒然とした。 恐らく心の中で疑問に思っていたことなのだろう。 そして必要以上に騒ごうとするのはこれから始まる戦いへの恐怖から。 ……それが解っているから、ノートも静かにしろとは言わなかった。 ノート『レヴァルグリードは魔側の神々が、アハツィオンは善側の神々が創ったものだ。     それぞれ古の神々の力を十二分に受け取っている。     神々というのもこれで退屈でな……どちらの創造物がより強力か、     それを競うのに夢中で、やがてはとんでもない力を持つ二体が完成した』 彰利 『きっぱりアホですねあんたら』 ノート『そうか?少なくとも千年を生きた汝には、     多少なりとも理解できるものだとは思うが』 彰利 『───…………撤回するわ。気持ち解る。刺激と変化、欲しくなるよね』 ノート『ああ、それでいい。考えもせずに頭から否定するのはつまらん。     ……さて、質問はそれだけだな?レヴァルグリードとアハツィオンの強さ。     ようするに退屈だった故の神々の産物のようなものだ。     だが、それ故に妥協がない。真実バケモノめいた力を持っている。     それを引き出すことが出来れば、我々に負けはない』 彰利 『ほへっ……マ、マジで?言い切っちゃうの?』 ノート『私は元が神々の創造物が故に不可能だがな。     古の神々には超越や凌駕といった“追い越すもの”が通用しない。     それは神々の力で創造されたレヴァルグリードもだ。     一瞬でいい、それを引き出せればルドラが相手だろうが勝てるだろう』 超越、凌駕が通用しない存在か…… それって…… 悠介 「なぁノート。それってつまり───」 ノート『ああ。神々には“強さ”の概念がなかった。     強くもなければ弱くもない。争うことをしなかったからだろう。     己は争わず、創造物に争わせたのだ。     面白いものでな、生まれてこのかた争ったことのない存在は、     自分がどれほど強いのか弱いのかも“決められていなかった”。     生まれたからには上に立つ者が居たのかも知れぬし、     気づけばそこに居たような、真実創造神のような存在だったのかもしれん』 悠介 「……争わず、力試しもしたことがない存在には、“戦うため”の力がなかった。     だから超越しようが凌駕しようが“戦えない”……?」 ノート『そうだ。だが“抗えない”わけじゃない。     邪魔があるなら消せばいい。闘争心を殺せばいい。     つまりだな、マスター。神々というのは“相手に出来ない存在”なのだ。     戦う戦わないの問題ではない。相手にすらなれん。     相手は敵の攻撃を悟った時点で対象を“消せ”ばいいのだからな』 彰利 『わあ、きったねぇ〜』 ノート『そういうものだ、仕方あるまい』 ふう、と仕方なさげに溜め息を吐くノートを前に、 彰利はホキャーといろいろな質問を投げかける。 隙を突くのはだめなのか、運命破壊もダメですか、などなど。 が、その全てがあっさり却下された。 彰利 『ギレラレ〜〜〜ッ!あ、でもアタイらが戦うのはルドラであって神々じゃあねぇ。     むしろ悠介ン中にはその能力の片鱗が埋め込まれてるンよね?』 ノート『残りカスだ。引き伸ばしたところで大した力は望めない。     なにしろ“相手に出来ない存在”の力だ。直接的な力の加算になどなりはしない』 彰利 『え?…………ア、アルェ?それって……』 ノート『ああ。あっても意味のない、加算されても力にならん残りカスだ』 悠介 「………」 藍田 「うぇえ!?じゃ、じゃあそれって……物凄く意味ないんじゃないか!?」 ノート『ああ。普通の存在には意味がない。     だが、それを操る者がイメージを武器とする創造者となれば話は変わる。     そもそも“相手に出来ない存在”というのは視覚や思考、     様々なもので相手の在り方を、法則を捻じ曲げて結果を残す。     創造の法則を捻じ曲げ、過程を素っ飛ばして物体を作り上げる創造のようにな』 過程を素っ飛ばして結果だけ……って、じゃあ。 ノート『こちらもたった一時でいい。“世界を変える創造”へと辿り着いてもらう。     作り出す創造はハトから始り世界に至った。     変換する力は今、ハトから世界への変換を可能にしている。     そして今望むべき“創造”は世界を変える創造。     相手の創造世界と自分の創造世界を自分の都合のいい世界に変える創造だ』 悠介 「……相手の世界を……変える……?」 ノート『融合、カオスになることでそれも可能と踏んだが、それは少々違った。     弦月彰利のデスティニーブレイカーは真実、     法則を破壊することに長けてはいるが……それでは足りんのだ。     運命でもない創造原理でもない……もっと単純な破壊が必要だった』 彰利 『単純な───』 悠介 「破壊……」 ごくり、と喉を鳴らす。 創造原理の破壊でもない、目の前の運命、既存の破壊でもない現象。 それは……いったい───? ノート『ひどく簡単で、だが、だからこそ難しい。今必要な“常識の破壊”がそれだ』 常識……? ノート『汝たち生命は日々、自分の脳にストップをかけている。     それは思考に然り、体に然り。     ストップをかけることで、尋常ではない力の片鱗が自分の体を、頭を、     破壊してしまわないよう安定させるための安全装置。     それをトランスにより現在50%まで引き出せるに至った───が。     50では足りん。融合したところで引き出せる%が増えるわけでもない。     50%の力を引き出しながら運命を破壊し超越を施したところで60にも満たん』 彰利 『ホワイ!?そうなん!?密かにそれ狙ってたのに!』 ノート『故に必要だった。力を引き出すこと、底上げをすること───     創造の力を増幅することと運命を破壊すること。     だがたった一つが揃わなかった。それが───“人器”』 悠介 「………」 ノート『そもそももはや地界人の回路だけを持った者など居ない状態。     だというのにそのままで対策を立てなかったのは私の落ち度だろう───     すまなかった、これだけの長い時間、     なにを安心していたのかトランス以外に対策を考えんとは……』 …………ノートが対策を考えなかった。 本当にそうだろうか。 必要なものが明確化しているっていうのに、 それをしないで放置するなんてノートらしくない。 そこには俺達が気づけていないなにかがあって、 ただ忘れてしまっているだけなんじゃないだろうか。 彰利 『クォックォックォッ……!頭が高ェエエぞ精霊王ォオオ……!!     ン?ほれ、ン?もっとほれ、ン?謝れ?ン?ホレ』 ノート『こ、ここぞとばかりにこのたわけは……!』 疑問を抱く中でも話は続く。 ノート自身、違和感は感じているのだろうが……こんな状況だ。 理解に至れないことは後回しでいいと踏んだんだろう。 悠介 「それで……その足りない分はなにで補えばいい?」 ノート『補うことは出来ない。     全員が融合した状態で創造と既存破壊を100%引き出すことが出来る───     それが理想的な状態だったからだ。果てへと至ったルドラにも不可能なことだ。     その状態は真実“神”の領域だ。創造も破壊も意のまま。     古の神々の力を思う様に操ることも出来ただろう。     ……創造と既存破壊。対となる能力を融合させ、それを100%引き出す。     考えてみるといい。己の世界を創造し、敵が抗い能力を発動させれば破壊。     己の能力は100%引き出され、     たとえ相手が実力的に自分より上だろうが、そんな“既存”さえ破壊する者を』 全員 『………』 ごくりと……全員が息を飲んだ。 確かにとんでもない。 聞くだけでも敵が居ないことがよく解る。 いや……敵が居ないんじゃない、“相手にされない”んだ。 悠介 「俺と彰利が融合したとして、引き出せるのは真トランスで50%。     それでもダメか?」 ノート『残り50%という数字を甘く見るな。汝らがたとえ創造と超越と凌駕と既存破壊、     全てを50%解放させたところで、ルドラには勝てない。     100%でなければ意味が無いのだ。     そこにまで至らなければ、ルドラの“超越”を破壊することが出来ないからだ』 彰利 『…………あ、…………あー…………』 ……そうだ。 俺達がどれだけ融合してどれだけ強くなろうが、ルドラには超越凌駕がある。 それは敵のノートやオリジンにも言えることで、 こちらのノートとオリジンが相手側と戦い合うにしても、 結局はルドラは俺と彰利が相手をしなくちゃならない。 けど俺の超越凌駕はルドラに勝てるほど精度がない。 つまり…………どう足掻いても…… ノート『腐るな。方法が全くないわけではない』 悠介 「え───!?」 彰利 『まっ……ま、まっま───マジで!?つーかアタイトランス切っていい!?』 ノート『継続しろ』 彰利 『ええっ!?そんなっ!』 悠介 「それで……その方法っていうのは?」 ノート『さっきも述べた通りだ。     一時でいい、レヴァルグリードと世界を変える力を扱えるようになれ。     “そこ”に届けば、汝らが勝つ要素は確かに存在する』 彰利 『ウ、ウワー……ホ、ホカニハナイノカナー……』 ノート『仲間を信じろ。黒を引きずり出せるだけ引きずり出し、力を枯渇させればいい。     そうすれば理力もやがて底へと至る。     超越もされることがなくなり、あとは実力勝負だろう』 枯渇…………あれほどの存在を枯渇って、いったいどれだけ戦えば………… い、いや……腐るな。 俺達だって散々修行した。 本来戦える状態じゃあなかったやつらもよっぽど強くなった。 可能性がゼロだった筈が、ここまでこれたのだ。 ここまで───……………… 悠介 「…………?」 ここまで来れた……のは、誰のお陰……だったっけ……? ……と考えた時に、なにかがトんだ気がして…………なにを考えていたのかを忘れた。 悠介 「なぁ……彰利……?俺達、どうやってここまでレベル上げたんだっけ……」 彰利 『オウ?そりゃおめぇ…………デスゲイズとかじゃね?』 悠介 「……───……そっか。そう……だよな」 ……考えるのはやめよう。 なにか、とても大事なことだった気がするのに…… それに手を伸ばそうとすると頭の中でも心の中でも何かが抜け落ちそうになる。 彰利 『どしたん悠介。もしや第三の眼が開きかけてる?     ───い、いかん!夜華さん包帯だ!包帯を持ってきて悠介の左腕に巻くんだ!』 夜華 「なに!?包帯!?───怪我でもされたのか悠介殿!!」 悠介 「へぇっ!?い、いや怪我なんて───」 夜華 「これを!私の常備用の包帯です!」 悠介 「いやだから《ぐるぐるぐるぐる!!》人の話を聞けぇええええええっ!!!」 ……言ってる魔に右腕の肘から下が包帯でぐるぐる巻きになった。 おい……どうしろっていうんだよこれで……。 岡田 「邪気眼だ……」 清水 「邪気眼使いだ……」 藍田 「ククク……まさか……貴様が邪気眼使いだったとはな……!」 彰利 『だがこの俺は騙されんぞ……“眼”を持っているのは貴様だけではない……!』 閏璃 「“眼”を使えるのが貴様だけと思うな……     俺の“眼”は貴様の“眼”の数倍の力を持っている……!」 彰利 『なっ!?そんなまさか……!貴様がまさか、あの……!?』 藍田 「クッ……まさかこんな近くに存在していたとは……!」 閏璃 「ククク……そう……まさしく俺が“凍てつきの邪気眼”だ……!」 彰利 『《ビクンッ!》ぐぅっ!?く、くうっ……!今頃腕がうずき始めやがった……!     こ、こんな力を今まで隠していたとはな……!』 悠介 「…………おーい……人の腕に包帯巻いといてなにやってんだよお前らー……」 言いつつ包帯を取ってゆく。 ……本当になんの意味があるんだこれは。 彰利 『なにって……アレだよお前、邪気眼に決まってるじゃねーか』 悠介 「だから邪気眼ってなんだって訊いてるんだよ!」 彰利 『ぬ、ぬう邪気眼……』 鷹志 「し、知っているのか雷電……!」 彰利 『う、うむ……邪気眼とは……!』  ◆邪気眼───じゃきがん  選ばれし者が持つとされる第三の眼。  持ってる人は大体腕に包帯を巻いてて、なんか急に腕を押さえて苦しみ出す。  そういや小学ン時そんなヤツ居たなァとか思い出しながらも、  ツッコむと面倒なので相手にするヤツが居なくなった懐かしいあの頃。  知ったかぶりと、無理矢理なこじつけが大好物。  誰も触ってないのになにかの弾みで落ちたペンケースなどを見て、  ヤツの攻撃が始まったか───!などと言って包帯越しに腕を掴み、  なんか教室から出て行って授業が始まりそうになるまで戻ってこなくなる。  発見者Tの発言によると、ふつーに便所でビッグをしてたらしい。  音からして下痢っぽかったらしく、ヤツの攻撃とは恐らく腹痛と思われる。  なるほど、苦しいもんなぁ腹痛。でもそれがペンケースの落下とどう関係したのか。  僕らはそれを理解できないまま卒業を繰り返して大人になりました。  今ではきっと彼も、当時の自分を振り返って苦しんでいるのだと思う。  *神冥書房刊;『実録・邪気眼の持ち主』より ……。 悠介 「誰だよTって……」 彰利 『大宇宙の意思です』 悠介 「あー……ようするにその邪気眼ってのは……」 彰利 『フッ……邪気眼を持たぬものには解らないだろうさ……』 悠介 「いや、だからそれって」 藍田 「フッ……それ以上踏み込むんじゃない……戻れなく……なるぜ?」 悠介 「踏み込むもなにも、急に妙なことを言い出したのは───」 閏璃 「やめろ!…………見られている。監視されている。     それ以上は…………口にしないほうがいい」 悠介 「や、だから見てるのはお前達で───」 彰利 『冷静になって考えろ……お前は今の生活を捨てる勇気があるのか?     俺達とともにこの混沌としたワールドで……クク、     生き抜く覚悟がお前に《バゴッシュ!》あぽろぉおおっ!!?』 悠介 「いーかげんにしろこの野郎!!」 彰利 『な、殴ったねあんた!お、おぉお親にも───ぐぅうっ!?     くっ……こ、こんな時にまで……!静まれ……静まれぇえええ……!!!     ぐ……!やつが近くまで来て《ヂガァアガガガガ!!》ギャーーーーッ!!!』 しつこいから裁きを流してやった。 なんか腕を掴んで震えていた彰利は、 素晴らしきダンスを踊ったのちに煙を出しながら昏倒。 悠介  「………………《ニコリ》」 閏璃  「っ……貴様……まさかとは思っていたが、“邪気眼殺し”(カノッサブレイカー)……!」 悠介  「なんか腹立つから殴っていいか?」 藍田  「ククク……やめておけ。邪気眼を持たぬお前では俺達には勝てん」 悠介  「…………オリジン」 オリジン『───やれやれ…………カラップス!!』  ヂガァアアンガガガガガァッ!!! 全員 『うぇげげげぎゃあああああっ!!!!』 オリジンが槍めいた杖……尖法杖を振りかざすと、部屋を満たす金色の電撃。 他のやつらも漏らさず攻撃し、一息つげば死屍累々のような状況に。 あ……いや……オリジン……?他のヤツまで巻き込むことなかったんだが……。 悠介 「はぁ……本当に、どれだけ神経図太けりゃ、     決戦の朝にこんな会話が出来《ズパァン!!》いってぇっ!!!?」 なに!?足……ふくらはぎに痛みが───! と、視線を移すと濡れたタオルを構えて愕然とした顔で立っている彰利。 ……マテ、お前さっき昏倒してただろうが。 彰利 『ば、馬鹿な……!俺の“水神宿りし白色の手折”(ヘヴンズ・ゲート)が効かない……だと……!?』 悠介 「いや、だから痛かったって……つーかなんなんだその大仰なネーミングは」 ただ濡れタオルでふくらはぎ叩くのが技なのか? 彰利 『くっ……!ならば奥義“深淵引き出す仔牛の出汁”(フォン・ド・ウォー)で貴様を殺す!』 悠介 「いや……フォン・ド・ヴォーじゃないのか……?」 彰利 『この奥義を使えば肉料理に深いコクと風味が出て───貴様は死ぬ!!』 悠介 「なんでだよ!全力でなんでじゃあっ!!」 彰利 『フッ……邪気眼を持たない貴様にはわからんことだ』 悠介 「《ぶちぶちぶちぶち》ぎぃいいいいいい…………!!!」 ……ああ、いろいろ解らんことだらけだが、 邪気眼ってのがとてもむかつくものだってのはよ〜〜〜く解った。 悠介 「……話、続けるか」 彰利 『うあっ……!これ無視されんのが一番イタいんですけど……』 悠介 「よかったな、邪気眼使い。俺には理解出来ないからいいだろ?」 彰利 『《ぐさぁっ!》はうっ!…………あ、あのー、アタイも話に……』 悠介 「だめだ。邪気眼を持つ貴様にはわからんことだ」 彰利 『《ぐさぐさっ!》あ、あの……謝ります……謝りますから……』 悠介 「理解力が足りなくてすまないなぁ邪気眼使い。     あんたの邪魔をしたくないから腕押さえながらとっとと失せろ」 彰利 『……《じわり……》うっ……うわぁああーーーーーーん!!!!』 彰利がはちゃばたーーん!とドアを押し開け、しかしきちんとドアを閉めてでていった。 妙なところで律儀な男である。 ───……。 ガチャリ。 彰利 『アイアムライデン』 と思ったらあっさり戻ってきた。 彰利 『つーわけで話の続きをしよう』 悠介 「もう邪気眼はいいのか?」 彰利 『フッ……邪気眼を持たないお前には関係のないことだ』 悠介 「お前も持ってないだろうが!!!」 彰利 『《ぐさぁあっ!!》……!…………!!』 悠介 「あ……いやその…………す、すまん!なんかすまん!     そこまで傷つくなんて思わなかったから!」 言った途端に物凄く切ない顔で眼に涙溜めながら後退られてしまった……。 ああもう面倒なやつだなぁああ……!! 悠介 「ほれ、邪気眼は忘れてちゃんと話し合うぞ。     俺達は───……命と覚悟を賭けて戦わなくちゃいけないんだから」 彰利 『いや、結構邪気眼って面白いのよ?     周りがみんな邪気眼使いだともう盛り上がること盛り上がること』 悠介 「ようするに原中みたいなもんだろ?小さなことでも大げさに驚いて、     小さな出来事も大事にしてみんなで楽しむ」 彰利 『オウヨ。一人でやって恥ずかしいことでもみんなでやりゃあ楽しい遊びさ。     子供がヒーローごっこやるのと一緒ぞね。     この歳になって……とか考えるからいかんのです。     それを乗り越えた先に……俺達の楽園(カノッサ)がある』 悠介 「で、さっきの話の続きだが───」 彰利 『………いや…………いいんだけどね…………?』 たそがれる彰利や、カラップスで痺れてるみんなを余所に、話を続けてゆく。 必要な情報は、“じゃあどうすれば神々の力が使えるのか”だ。 ノート『ふむ……マスターの場合、やはり世界を変える力が必要となる。     世界創造はそもそも、想像や創造を容易にするためのものだ。     自分の底を今立っているこの場まで引き上げることで、     瞬時に想像と創造を可能にする。それがマスターの黄昏だ』 悠介 「ああ」 ノート『だが使えるようになってもらうものは50%で引き出せるところまで引き出せる、     “神々の世界”だ。そもそもラグナロクの語源は神々の黄昏。     汝の場合は過去の約束の地として創造しているが、     それを今度は神々の地として創造してもらう』 悠介 「神々の……ってちょっと待て。そんなのが出来るんならとっくにやってるぞ?」 今まで世界創造だけで手一杯だった。 ヒロラインで力を手に入れて、倍化も手に入れた今なら確かに出来るかもしれないが…… ノート『ああ。だから私のイメージを送ろう。必要なのは集中力だ。     超越、凌駕などを使おうとは思うな。     超越も凌駕も出来ないものを越そうと思えば、     思考が追いつかなくなりショートする』 悠介 「うっ……わ、解った」 そんなわけで集中を開始。 目を閉じて、真トランスを解放する。 そうすることで自分がしようとしていたことのみに集中できて、 自分の外側のことが一切遮断される。 もちろんこの集中を“外側”に向ければ外だけに集中出来る。 中と外半々で集中することも出来るために、 よっぽど優れているが……50%ではそれもなかなか上手くいかない。 中と外とで25%配分になった集中力は、時に逆に集中を散漫させてしまうこともある。 声  『……いいか?ではいくぞ』 内側に集中している俺へと、契約の楔を通して語りかけてくるのはノート。 そんな言葉のあとにゆっくりとイメージが流れ込んできて………… …………流れ…………  テレッテッテッテー♪───ピッ♪ ドナルド「もしもし、ドナルドです」 ───マテ。 何故見えてきた景色の中にドナルドが居る。 ドナルド「ホッハッハッハッハ!」 ……笑ってる。 あ、あー……ノート?これを俺にどうしろと…… ドナルド「ククク、まあまあ落ち着けい。      今から貴様に、ノートン先生の深淵を使ってのレクチャーをしてやる。      あれ?言葉の使い方間違ってる?まあいいや、どんとこい。      失礼、私ノートン先生の中の深淵に存在する記憶の片鱗、ドナルドです。      こんな格好で失礼、よっぽど彼は僕とドナ様を関連付けしたいようだ」 ド、ドナルド……?なんだってドナルドが……。 ドナルド「ノゥ、今は考えるな。それよりも深淵のレクチャーを開始しよう。      まず世界を創造してみてくれ。こう、右の手の平の上にだ」 …………こうか? ドナルド「よろしい。では次に左手に変換のイメージを展開」 ……こうか? ドナルド「うむ。では次にノートン先生の光の武具、槍シリーズを全て頭の中で想像して」 全てか!?全てってのは…… ドナルド「いいからやれこの野郎」 いきなりドスの効いた声で喋るなよ!どんなドナルドだよお前! ドナルナ「ドナルドはお喋りがだぁ〜〜〜い好きなんだっ!      さっさとしないと貴様の過去をあることないこと捏造して喋るぞ」 わ、解った悪かったすぐにやるから待てぇえええ!! 槍のイメージ、だよな?うん……─── ドナルド「いっぺんにイメージすると、      バラバラなイメージの中で一つだけまったく同じイメージパーツがある筈だ。      そのイメージパーツをどんどんと自分の中で増幅させてゆくのだ。      あ、同じイメージっていっても“槍だから”って意味のイメージじゃない。      もっと深い場所にある、“神々の力”のものだ。      そもそもノートン先生がルドラとして光の武具を使い始めたのは、      空界から神界へ流れたのちに、その先で貴様の中の死神の力を吸収してから。      創造するものがかつてのマスターである貴様の黄昏になってからである。      つまり、その時点でイメージするものの大半には、      神界で出会った神々に関するイメージが微量だろうが含まれている筈なのだ」 ……うるさいちょっと黙れ、集中出来ない。 ドナルド「ご、ごめんなさい」 いや……素直に謝られてもな……。 ………… 同じ…………イメージ、か……………… ドナルド「………………《そわそわ》」 イメージ……イメージ…………! 深く…………もっと深く…………! ドナルド「《デンッ!テトンッテンッ!》──……《テンッ!》こっちのほうがいいかな。      《テンッ!》これもいいな……《テンッ!》これか?《テンッ!》これかぁ?」 うるさいって言ってるだろうが!! ドナルド「ド、ドナルドは今ダンスに夢中で」 黙れ!! ドナルド「………」 …………………………黙った。 よし、続きだ。 ドナルド「………………」 …………。 ドナルド「…………………………」 …………なぁ、頼むから草原にのの字書いて落ち込まないでくれないか? ドナルド「………」 あ、あー……解ったよ……! じゃあ一つだけ質問だ、それでいいか? ドナルド「もちろんさぁ」 じゃあ質問だ。 ランランルーってなんなんだ? ドナルド「ドナルドはね?嬉しくとついやっちゃうんだっ♪」 いやだからそうじゃなくて。 ランランルーってなんなんだよ。 ドナルド「え?いやだから、嬉しくなると───」 数々の猛者が騙されただろうが俺は騙されん。 ランランルーってなんなんだ。 ドナルド「嬉しくなるとついやっちゃう───」 だから!やっちゃうのは解った!嬉しくなるとやるんだろ!? じゃあランランルーって言葉と動作にどんな意味があるんだ! ドナルド「嬉しさを体で表現しているんだっ♪」 言葉の意味は? ドナルド「…………………」 ………………。 ドナルド「…………帰れよお前」 いきなりだなオイ!! 考えるの諦めるの早すぎだろ! ドナルド「うっさいうっさい!なんだよもう!      ドナルドがせっかくいろいろ教えてやってんのに!      もういい!てめぇが集中しようがどうしようが踊りまくってやるからな!」 なっ───ちょ、やめろ! ドナルド「ゴ〜〜〜〜ッ!アクティーーーーブ!!」 やめろぉおおおおおっ!!!
【Side───ランポス】 ビクンッ!ビクンッ! 彰利 『…………ねぇスッピー?なにやら悠介が痙攣し始めたんだけど』 立ったまま目を閉じて、 自分の内側に入っていった悠介が……立ったまま痙攣を起こしていた。 いったい内側でなにが起きているのか。 ノート『ふむ……不思議なことに一度イメージを送ったら、内側で蓋をされてな。     想定外というか……マスターが心の蓋を閉ざしたのか、     或いは私のイメージから流れ込んだなにかが…………』 ……よく解らんけど第三の力が動いているらしい。 彰利 『つーかあのスッピー?いい加減トランス状態疲れてきたんだけど』 ノート『継続しろ』 彰利 『エエッ!?まだなの!?』 け、決戦前に倒れやしないかなぁアタイ……! 【Side───End】
テンットンッテンットンッ♪パラッパッパッパー♪ テンットンッテンットンッ♪パラッパッパッパー♪ ドナルド「ガーナの子供がなりたいものは〜♪      ニャホー!ニャホー!タマクロ〜〜〜ッ♪      ガーナの子供はみんな知ってる〜♪      ニャホー!ニャホー!タマクロ〜〜〜ッ♪      見〜た〜目は〜〜こ〜わ〜いが〜♪優し〜い〜ハ〜ァト〜♪      み〜ん〜なの〜♪た〜よ〜れる〜♪ヒーロォ〜だ〜〜♪      ニャホニャホタマクロ〜〜〜ッ♪      ニャホニャホタマクロ〜〜〜ッ♪      ニャホニャホタマクロ〜〜〜ッ♪      ニャホニャホタマクロ〜〜〜ッ♪』 悠介  『うおおうるせぇえええーーーーーーーっ!!!』  ヴァゴルチュァアアアアアアッ!!!! ドナルド「ラビニィエェエエエエエエィ!!?」 宣言通り踊り続けたドナルドを、気づけば自分の体で殴っていた。 ……って、え───? ドナルド「フッ……これで準備は整った」 悠介  『って無傷かよ』 ドナルド「深淵にあって自分の姿を出現させることが出来た……それは褒めてやる。      だがこれくらいで集中を途切れさせるようでは、どうして実戦で使えましょう」 悠介  『う……』 怒りのあまりに心の深層で実体化した自分に戸惑いつつ、 ドナルドに説教されている自分にいっそ泣きたくなった。 ドナルド「いいかい坊や。深淵で自分の姿を実体化させるというのはとても大切なことさ。      イメージでしか想像できない部分に“自分”を実体化……      これは痒いところに手が届く状況なのさ」 悠介  『痒いところに……?』 ドナルド「そう。たとえばここに黄昏の固定イメージがあるね。これに触れてごらん?」 悠介  『………』 そっと、促されるままに草原に漂う球体に触れた。 すると緑色の草原が一瞬にして黄昏に変わる。 悠介  『う、お……!?』 ドナルド「つまり、こういうことさ。いいかい?      キミはこれから常に自分の深淵……つまりここに、      もう一人の自分を設置しておかなければならない。      想像して具現化、では遅すぎるんだ。      出すと決めたらもう出てる状態じゃあなければ間に合わない」 悠介  『………』 ドナルド「そこで、このドナルドの出番さ。      キミが望む能力を瞬時に出せるようにしてあげよう」 悠介  『……どうやって?』 ドナルド「キミという存在がここで、より鮮明になればいい。      キミが引き出せる50%……その中の“イメージ”の部分をこちらに託すのさ」 悠介  『イメージを?けどそんなことしたら、      実際の自分が思考の回転をすることができなくなるだろ』 ドナルド「もちろんさぁ。けど今はそれでいい。      これはイメージと思考を分けるっていうとんでもない実験さ。      いいかい?キミたち創造者で言うイメージと思考は違う。      想像と創造をこっちに任せて、キミは普段通りに戦えばいい。      ただしイメージは沸かさないこと。全部こっちに任せるんだ」 む……難しいことをさらっと言ってくれるな……! つまり、なんだ……? 創造やらは自分でしようとはしないで、深淵が弾き出すものに任せろってことか? ドナルド「キミが考えたことは瞬時にここに居るキミに届けられる。      ここにはイメージ、創造したものが瞬時に現れる。      普段キミが具現化するのに時間がかかるのは、思考からイメージをここ送って、      ここから外にイメージを飛ばして具現化、      なんていう回りくどさが混ざっているからさ。      だったらそれらを一纏めにしてしまえばいい。これで創造の速度は大丈夫。      次に変化の創造だけどね。これは難しいようでいて結構簡単なんだ」 悠介  『へあっ!?か、……簡単!?』 ドナルド「いいかい?まず相手の世界の核を見つける。      う〜〜〜ん……大体は相手の中にあるんだろうけどね、      相手の中にある核に触れるのは物理的に無理だから、うん諦めよう」 悠介  『速いなおい!簡単なんじゃなかったのか!?』 ドナルド「もぉちろんさぁ。けどそれは触れればという意味さ。      ノートン先生はこれを成功させてほしいところだけど、      きっぱり言うと今のキミでは無理さ。      もっとこう、相手の内側に届かせることが出来る何かが触媒にならないとね。      たとえばルドラを相手にするなら、ルドラが思わず受け入れてしまうような……      そんな隠れた鍵が必要なのさ。      それが成功したなら、内側から彼の世界を変化できる」 悠介  『……じゃあ、変化っていうのは触れて変化させるもので……?      物理的に触れられないなら、もっと能力的ななにかで触れろ、って……ことか』 ドナルド「もぉちろんさぁ。あ、けどドナルドはダメだよ?      彼はきっともうドナルドに関心なんて持ってないだろうからね。      もっと別の物理的じゃないものならきっと届くさ」 ……物理的じゃないもの…………って言われてもな。 ドナルド「だからそれは後回しにするか、忘れてしまっても平気さ。      ただ覚えておくのもいいかもしれないね」 悠介  『ああ……解った、一応覚えておく』 ドナルド「それじゃあ時間もないことだし、実践に移ってみようか。      右手に世界、左手に変化、頭に神々。さあ、それを融合させてみるんだ」 悠介  『融合……月癒力の融合でも大丈夫か?』 ドナルド「違う違う、イメージはイメージでしかくっつかないよ。      まあとりあえずくっつけてみて」 悠介  『お、おお……』 それぞれのイメージを合わせ───って。 悠介  『何処で合わせるんだ?』 ドナルド「頭の中がいいんじゃないかとドナルドは思うよ」 悠介  『頭……か、よし───』 頭の中にイメージを埋めてゆく。 右手に世界、左手に変換、そして頭の中には神々。 未だに神々って部分が曖昧だが、 そのイメージは槍のイメージを全て纏めることで無理矢理通してみることにした。 俺に光の武具の精製は無理だが、イメージだけなら確かに存在している。 悠介  『…………よし。……どうだ?』 ドナルド「ダメだな」 悠介  『急に真顔でなんだよいきなり!!』 ドナルド「お前、それは……ダメだ。なんていうかうん……ダメだ」 悠介  『物凄く適当なダメさ加減だな……なにがダメなのか言ってくれ』 ドナルド「イメージの核が貴様の頭の中にあったとして、      そこに変換を埋め込んだというのに世界がまったく変わってない。      いいか小僧、これは“上書きする創造”ではなく“変化させる創造”だ。      塗り潰すんじゃあねぇ……そこんとこよく理解しろ、ドナルディックに」 悠介  『ドナルド関係ないだろ!』 ドナルド「え?あるよ?お前それ偏見って言うんだよ?あるって関係。      今からこのドナルドが貴様に魔法をかけてあげるから、      うだうだ文句言うよりさっさと実践に移ってねお願いだから」 悠介  『いやっ……』 な、なんで俺が悪いみたいな話になってるんだ……? とか思ってるうちにドナルドは胸の前で両手を合わせると、 はおおお……!と謎の力を溜めてゆく。 ドナルド「ククク……思った通りだ……!さすがはノートン先生の中の我が意思……!      なんかもうこのドナルドは彼の中では常識破壊の魔人のようだぜ……!      ……って言っても、足掻けるのは一手だけか。あ、俺この能力使ったら、      ノートン先生や他の精霊たちの記憶から完全消滅するんでよろしく。      え〜っとノートン先生の記憶での最後の俺は……わあ死んでる。      やっぱ運命ってやつにゃあ勝てなかったかぁ…………よし。      いろいろ解ったし、そんじゃあ俺消えるね?      この場に居る彰利を除いた、全精霊全仲間たちの記憶という名のコストを払い!      今!貴様にミニマム奇跡を見せてやろう!      ドナルドォオ〜〜〜〜〜〜〜ッ……マジック♪」  テンテロリンッ♪ ドナルド「マァ〜ックフ〜ライッポッテットッ♪      いくよフライキッズゥ!さんっ!はいっ!オゥルアァッ!!!」 悠介  『《バゴォンッ!!》いっだぁあああああああーーーーーーーっ!!!!?』 なにを思ったのか歌のあとに俺の頭を両拳で挟むようにして殴るドナルド! 当然俺の頭にはとんでもない激痛が走り─── ドナルド「フフフ……覚えておきなさい。      たとえその身が滅びようとも、人の中の像は死なない。      人に忘れられた時に人は死ぬ。それがワンピース流の人が死ぬ時の法則だが、      俺にしてみりゃ自分が死ねばそりゃ死ぬので死にたくなかったですハイ。      しかしな、晦一等兵……それでも人の“意思”は死なぬ。      たとえ体が滅びを迎えようとも必ず何処かに、誰かの中にそいつは生きている。      まぁ今僕貴様に能力使った所為で消えるんだけどね?」 悠介  『《ズキズキズキズキ》消え……?』 ドナルド「そう……これで俺を覚えているのは貴様と彰利だけってことになる。      それでも心の奥底程度だ。      いずれ忘れちまうし、思い出すことなんてないだろう。      でももしルドラを倒せて、いつか記憶が戻ったなら───墓参りをしてほしい。      何度もやれって言うんじゃない、ただ……思い出した時だけでいい。      俺の家族を見舞ってやってほしい。……俺の墓はいいや、作らないでくれ」 訳が解らない。 けど、解らないなら解らない俺なりに、なにか出来ることがある筈だ、と─── どうしてかこの時の俺は、そんなことを思っていた。 ドナルド「表面じゃあ俺のことはもう完全に忘れてる。      でも、心の奥底にはこ〜んなちっこい豆みたいな小ささで俺の記憶が残ってる。      それが鍵で、多分ルドラを倒すことが出来たら発芽するかもしれない。      大豆みたいに。もやしみたいにウゾウゾと。      ルドラも自分の記憶操作したみたいだから、      今度からは本当に遠慮なしで来るだろう。      だがな、晦……これだけは覚えておけ」 …………? ドナルド「美味しいオムレツを作るなら、卵は三つじゃなく二つだ。      よくミルクを混ぜるヤツも居るが、アレは大きな間違いだ」 オイ。 ドナルド「うむ、やはりここ一番ではふざけるに限る。      ……というわけで、ここまでだ。俺の意思たちを頼む。      まあ人間一人ごときの意思だ、大したもんじゃないし、      無断で皆様の中の俺の記憶を使ったから怒られるかもだけど。      まあ忘れられてるからへっちゃらさーーーーーっ!!…………」 おい?……って、あれ……? 体がいつの間にか意思体に戻ってる……? ドナルド「それじゃあ……あとのことはべつに頼まん。死人にクチナシだからな。      …………フフ……楽しかったなぁ晦……本当に楽しい人生だった」 そう言うと、ドナルドの体が霧散する。 少しずつ、なんてものじゃなく、ざあ、と…… 自分を形成するものが無くなってしまったかのように、一気に。 悠介 「───っ!」 そして俺は目を開けた。 見える景色は自分の部屋の様子で、痺れから立ち直ったらしいみんなと、 ノートや彰利の視線が自分に集中していることに気づく。 でも…………自分の奥底でなにがあったのかは、もう思い出せなくなっていた。 ノート『マスター?』 悠介 「───…………っ、あ……あ、ああ……ノート……」 ノート『どうした、ホウケたりして。立ちながら悪夢でも見たか?』 悠介 「悪夢…………なんだろな、意思の底でなにかがあった気がしたんだけど…………」 彰利 「思い出せないン?もしや健忘症?」 悠介 「あ、いや、そういうんじゃないんだ。なにがあったのか、は思い出せない。     けど学ぶべきことは学んだし、何故かドナルドが居たのも覚えてるんだが」 全員 『なんでドナルド!?』 悠介 「い、いや……それは俺が訊きたいくらいなんだが……」 ……居たよな、ドナルド。 そいつにいろいろ教えてもらった……うん、教えてもらった。 けど、話した筈のことの全てが思い出せないでいた。 確かに雑談めいたことをした筈なのに、能力に必要なこと以外の全てが消え失せている。 悠介 「…………ノート。なにかしらの喪失感、感じないか?」 ノート『っ……いや……そんなものは……』 悠介 「………」 明らかな動揺があった。 けど喪失感の正体が解らないから、ノートは喋らない……んだと思う。 悠介 「………」 誰にも見えないように、創造を展開してみた。 するとイメージするまでもなく必要なものが手元に創造される。 さらにそれは俺が思ったとおりの形に変換され………… 悠介 「…………」 ふと、どうしてか理由のない無力感に襲われて、泣きそうになる。 滲んだ涙を乱暴に拭うと大きく深呼吸をして……うん、なんか完全にトんだ。 なんで泣きそうになったんだっけ俺。 自分は誰かにずっと見守られてる〜って感じの安堵感と、 それに対する無力感があったような…… 悠介 「……よし、朝も間近だ。最後に準備をして、それから───」 全員 『───決戦へ』 誰が言うでもなく、全員が円陣を組んだ。組むとはいってもこの人数。 俺の部屋では円で事足りるわけもなく、 ぎっしりと並ぶようにして肩を組み合い、気合いを入れてゆく。 ……結局“降りる”と言うヤツは───一人も居なかった。 彰利 『貴様らの勇気、この彰利感服よ。勇気と無謀が合わさったようなもんだろうけど。     だがいいのか?この戦い……貴様らには関係のないこと。     敵の狙いは悠介一人であり、その戦い自体をゲームにしちまうような相手だ。     月詠街が舞台のラストバトル……そんなゲームだ。     悠介とそれほど面識も係わり合いもないヤツが参加するには、     正直命を賭ける理由としては足りないと思うが』 佐古田「勝手に突っ込んでムナミーが滅びるのはアチキとしてもつまんねーッス」 凍弥 「ほっ、滅びとか言うな!」 彰利 『なるほど……それ即ち自分のため。大いに結構!     その“自分のため”という意思が消えぬならば、きっとこの戦い乗り切れる!     よいか貴様ら!この戦い、常に自分の状況利益を思い戦え!     見知らぬ男がモンステウ(笑)に襲われそうになっているが、     目の前の敵はあと一撃で死ぬ!     しかし男を助けたら自分はダメージ!相手は死なない!     助けなければ男はダァ〜イ(死にますよ?)!そんな時はどうするか!ハイ!』 全員 『全力で見捨てる!!』 彰利の言葉に全員が声を張り上げる。 自信を持って言うヤツと、自信なさそうに言うヤツと、様々だ。 彰利 『オウケイ!気の弱いおなごたちや澄音っちには辛いことかもしれんが───』 澄音 「大丈夫。僕はキミが思うほど自分の未来を小さく思ってないよ。     ……今は未来に辿り着く時だ。他人の心配なんて、きっとしちゃいけない」 彰利 『おっしゃグラッツェ!心は痛むだろうが乗り越えてくれ!     由未絵モンもそれでEね!?』 由未絵「ふえっ!?あ、わっ、は、はいっ!がが頑張るよっ!」 彰利 『ええい年上がそげな気弱で如何する!もっともっと心に気合いを!』 春菜 「由未絵ちゃんファイッとぉ!!」 来流美「おちついて!!」 鷹志 「自分を信じて!!」 柿崎 「一歩ずつ一歩ずつ!」 御手洗「いい感じだよ!」 閏璃 「クオリティ高いよ!!」 豆村 「もっと右だよ由未絵さん!」 柾樹 「あ、左だ!」 刹那 「もうちょい右!!」 紗弥香「いや上かも!?」 悠季美「下というウワサもあるよ由未絵さん!」 浩介 「まわりの意見に惑わされないで!」 浩之 「失敗(ミス)を恐れないで!」 彰利 『夢は叶うよ由未絵さん!』 藍田 「ドキドキしてきたよ!」 岡田 「オレドキドキしてきた!」 清水 「由未絵さんもドキドキしてきた!?」 由未絵「ふえっ!?ふ、ふぇえっ!?」 “なんだこの円陣……”思わずそんな言葉が思い浮かぶほどへんな円陣だった。 彰利 『さて、由未絵さんもドキドキしてきたところで!皆様覚悟はよろしいか!?』 全員 『応ッ!!』 彰利 『冗談抜きで死ぬかもだよ!?遺書書いた!?』 全員 『今更誰に宛てるの!?』 彰利 『……それもそうだった!あ、でも櫻子さんと久義さんとか!』 全員 『……なんか絶対死ねないって気になってきた!』 彰利 『OKそれでいい!リオナっちとリアナっちもOK!?』 リアナ「はい、構いません」 リオナ「空界では散々と世話になった。借りを返せないのは至高魔導術師の名折れだ」 彰利 『ようがす!ではてめぇらぁ!!気合い入れていくぞぉっ!!』 全員 『うぉおおおおおおおっ!!!!』 彰利の言葉を合図に全員が叫ぶ。 気合いは十分。……十分なんだが、 やけにあの正体不明の男のことが気になっていた。 …………だめだな、集中しろよ、俺。 ノート『では行け。ここにゲートを作ってある。     行き先は町外れの廃屋だ。不良どもの溜まり場として有名だが、     判断が正しければとっくに逃げているだろう。逃げていなければほうっておけ』 全員 『オイサー!!』 ノートが作ったゲートをくぐり、みんなが月詠街へと転移してゆく。 そんな中、俺と彰利は残り─── ノート『うん?どうしたマスター、弦月彰利』 彰利 『や、ちょいと訊きたいことがあって。つーかトランス解いていい?』 ノート『ああ。ここまで続けられれば大丈夫だろう。疲労を回復してやる』 彰利 『《シャランラァ》……おぉっ!体がまるで塵のように軽いわァン!!」 そう言ってハワーと両腕を上げる彰利は、既にトランス解除状態。 そんな彰利を余所に、俺は口を開く。 悠介 「気になってたんだが……ヒロライン本体は回収しないのか?」 言いながら視線を移した先には、 部屋の中央に浮かぶ“博光の野望オンライン”用の基盤。 この中には多少なりとも力が残ってるんじゃないか、と思ったから訊いてみた。 ノート『ああ、これはこのままでいい。     コピーしたネックレスでそのまま通信が出来るようにするためだ』 彰利 「あ、ナルホロ」 ノート『……では、お互い頑張るとしよう。     緊張感のない日々だったが、私は汝らに出会えてよかったと思っている』 彰利 「オッ……ははっ、オウヨ!」 それはノートの素直な言葉だったんだろう。 ひどく簡単に俺達の心の芯にまで届いたソレは、俺と彰利の表情を自然と笑みに変えた。 ……じゃあ、行こう。 この戦いで明日を掴むか今日すら失くすか。 その答えを手に入れるために、俺達は─── 悠介 「───」 彰利 「……?ンム」 ふと、ゲートをくぐる時に頭の中に思い浮かんだ男の姿。 ベッドに運ばれるまで壁にもたれかかり、 ゆすっても動かない呼吸だけの男を、頭が勝手に思い出した。 彰利も同じだったのか、俺達は顔を見合わせると、決意を新たに頷き合った。 今日すら失くすか、なんて言葉は必要じゃない。 ───明日を掴むためじゃない、一秒先さえこぼさないために突き進もう。 彰利 「ククク……この決意こそが俺達の希望(カノッサ)となる……」 悠介 「あのさ。カノッサってなんなんだよ」 彰利 「フッ……邪気眼を持たないお前にはわからんだろうさ」 悠介 「………」 彰利 「いや、だってさ!こういう時っていろいろ思うことあるじゃん!?     明日を手に入れるためとかなんとか!     そういうのって非日常すぎてて、普通に言葉にしようものなら     こう腕に包帯でも巻いてなけりゃあやってらんねぇYO!」 悠介 「たわけ、妄想じゃなく実際にこういうことが起こってるのに、     明日を手にしたいって思ってなにが悪いんだ。     それを妄想だなんだって思いたいヤツらには思わせればいいだろ。     ……実際に命を賭けて戦うのは俺達だ。言うだけのヤツには言わせとけ」 彰利 「まっ!……いいねその考え……いいねぇ!OKOK!     ほんじゃあ行くかぁ!運命なんぞ打っ壊す!     どんな苦難も苦労も苦悶もキミと僕とで半分コ!     行くぜ悠介!俺達の世界とあいつらの世界……勝つのは俺達だ!!」 悠介 「ああっ!!」 もはや迷いなど一片もない! やれることをやり切って、足りない分は補い合って、 絶対、必ず、覚悟を以って未来を手に───!! 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