───未来への飛翔/黒の夢T───
【ケース845:弦月彰利/決戦1】 ゴバァッ………… 彰利 「……」 ゲートをくぐって出てきた場所は───言われた通り廃屋だった。 けど、そこで巻き起こってたことに少々頭を痛める。 男  「げひゅっ……げひゅっ……」 男数人がマグナム丸出して気絶してた。 どう見ても不良ちゃんな髪型……リーゼントだ!素晴らしい!でもフルティンだった。 そんな彼らとは別のところには、服を乱して泣いているおなご。 まあ、これだけで予想はついた。 彰利 「男ってやつぁこれだから……。で?助けたの誰?」 清水 「悪い……俺……」 彰利 「ほか。んじゃあ行きますよ。戦いの最中はもっと集中せねばならんとね」 清水 「ああ……けどさ、こういうヤツって見捨てておけないもんだぞ?     男としてクズだって思ったら自分を止められなかった」 彰利 「それでも止められる修羅に、この戦いの中だけでもいいからおなりなさい。     ここに不良が居るっつーことは、逃げてねぇやつの方が大半だ。     そいつら全員自分の手でブチ殺せるくらいの鬼になれ」 清水 「っ……キツイなぁ、それ……」 ゼノ 「戦場になると知らされながら逃げず、戦場に身を置いた時点で死ぬか生きるか。     そこで死んだところで、忠告を聞かなかった者が愚かだっただけだ。     たとえ今からでも、と逃げ出そうとしている人間が邪魔になった時、     我は人間ごと敵を滅ぼす覚悟がある」 清水 「うぅ……」 躊躇うことなかれ。 逃げる人間と敵が重なったからといって、躊躇すれば不利になる。 忠告はした。 したけど逃げなかった。 ただそれだけの死因だ。 逃げなかったヤツがどれだけ障害物になって死のうが、 それは俺達が心を痛めることじゃない。 女  「ひっく……あ、あの……ヒック……」 彰利 「とっとと失せろ。これからここで戦争が起こる。     十三夜の娘に言われただろ、聞かなかったのか?」 女  「ひくっ……聞き、ました……っ……それで……避難してる最中に……っ……」 彰利 「あいやぁ……」 混乱に乗じて好き勝手しようと思うとは……セコイ人間の考えそうなこったわ。 だが今回ばっかりは時期が悪かったね。 貴様らここでフルティンのまま死になさい? 彰利 「月影力、ア〜ンド月聖力標的固定、っと」 影で男どもを縛って、フルティンのまま廃屋の壁に磔に。 さらに標的固定で壁に接着して、あとは成り行きに任せることにした。 女  「あ……げ、っそう……りょく……?」 彰利 「月の家系、弦月が一子、弦月彰利よ。ほれ、服貸してやっからさっさと行け」 女  「あ、は……はい……!」 おなごは渡された服を乱暴に着込むと、怯えた体もそのままに走り出す。 月の家系っては“争いごと”に敏感だ。 そんなもののほぼ頂点に立たんとする“弦月”の口から放たれる不吉な言葉は、 家系の者にとっちゃあ死刑宣告のようなもの。 彰利 「しかし……家系の身体能力を押さえ込めるたぁ、あの不良どもも家系かね」 悠介 「だろうな。まあ、いい薬だ。     身体能力をこんなことに使おうだなんて、ほんとクズだな」 春菜 「安心してい〜よ〜キミたち〜。今からとんでもない戦いが巻き起こるから、     せいぜいそこで見守りながらスミクズになりなさ〜い」 男たちはもがくが、口を自分の影で封じられていて喋ることも出来なかった。 ……んじゃ、グッドラック。 運がよけりゃあ生き残れるさ。 彰利 「………………んじゃ、行くぜ。……胸に覚悟を」 全員 『胸に、覚悟を───!』 歩いてゆく。 廃屋の暗がりを。 歩いて歩いて、やがて明りが漏れる扉まで辿り着くと…… 一呼吸おいたのちに、一気に開け放つ───!!  バァンッ───!! 途端、飛び込んできたのは黒いヴァルチャー……翼鳥類モンスターだった! 彰利 「戦闘!開始ぃいいいいいっ!!」 全員 『ウォオオオオオッ!!!!』 それを拳で破壊するのを合図に叫び、一気に駆け出す! 町にはもう黒が解き放たれている……数は少ないが、 少しずつ少しずつ神社方面から飛んできてやがる……! 彰利 「俺と悠介はこのまま突っ切る!!頼んだぜぇてめぇらぁっ!!」 藍田 「あいよ任せとけ将軍!」 岡田 「ここはいいからとっとと行け!」 彰利 「おっしゃあ!───悠介!」 悠介 「ああ!……ルナ、……あとを頼む!」 ルナ 「……ん。大丈夫、ばばーんと勝ってきてね、悠介」 いつものようににこー、と微笑むルナっちを前に、悠介は一度頷くと疾駆する。 俺は───夜華さんと一度目を合わせ、頷き合っただけで十分だった。 別れの言葉を交わすわけでもない。 必ず勝つと心に誓った。 だったら、勝たないわけにはいかない、戻らないわけにはいかないのだから───!! 藍田 『おっしゃああっ!!キバるぜ野郎ども女郎どもぉおおおおおっ!!!』 全員 『うぉおおおおおおおおっ!!!!』 全員が散開する。 グループごとにどこを担当するかを瞬時に決めたのだろう。 俺と悠介はそんな彼ら彼女らを余所に、 地面を蹴り家の屋根を蹴り、最短距離で晦神社を目指した。 転移は───当然の如く効かない。 飛翔するよりも大地を蹴ったほうが加速が付くために、 俺達は飛ぶことなどせずに地面を蹴った。 後方ではもう爆発音。 無音で行動する黒とは違うそのはっきりした音に窓を開け、 辺りを見渡す馬鹿どもが何人も居た。 ようやく気づいても遅い。 慌てて逃げようとしたところを黒に食われ、俺達に助けを求める手も虚しく噛み砕かれる。 そんな様子を、俺達はこれといった感情も湧き出さずに見下ろした。 彰利 「───ま、時間稼ぎをしてくれるならありがたいこった」 悠介 「だな」 お陰で黒の意識が逃げ惑う人間へと傾いた。 散々と騒ぎながら逃げるため、静かに、だが速くに移動する俺達よりも、 遅く活きのいい人間どもを食ったほうが効率がいいと踏んだんだろう。 家から飛び出る者は片っ端から食われ、そんな黒の脇を俺達は駆け抜けた。 ただ……気にかかることは確かにあった。 悠介 「……心配か?」 彰利 「当たり前だろ……逃げててくれりゃあいいけど……」 孤児院のことが気にかかった。 けど、それを確認しに行っては後手に回りすぎる。 俺達がするべきことは、ただルドラを殲滅することのみ。 そのために、みんなは黒と戦ってくれているのだから。 この戦いのそもそもが俺達の戦い。 それなのにあいつらは戦ってくれてる。 死ねばそれまでなのに、戦ってくれてるんだ。 彰利 「シズノおばちゃんなら大丈夫だ。そう勝手に信じる」 悠介 「───ああ」 走る。 さらに加速をつけ、真っ直ぐに晦神社へと。 だが流石に最後まで絡まれずに済む筈もない。 黒の数体、グランコングとグランエイビスが立ちふさがる。 彰利 「戦闘開始(セット)」 だが慌てることはしない。 静かに黒衣の内側よりダークマター(黒刃)を二本抜き取ると、黒目掛けて投擲。 当たる直前に“これで目の前の黒が滅びないのはウソ”という運命破壊をして殲滅。 そのまま塵の脇を走り、先を急ぐ。 ───頭は酷く冷静だ。 目的意識がハッキリしているからか、それとも別のきっかけがあったからか。 いや、余計なことは考えない。 今は神社の先で待ってるであろうあの馬鹿に、拳のひとつでもブチ込んでやらねぇと……! 【ケース846:閏璃凍弥/黒の夢1】 ガガガォンガォンガォンガォオオンッ!! 閏璃 「っつはぁあーーーっ!!やっぱ硬いなぁおい!」 周囲の建物、まあ家だが、よりもよっぽど大きいゴリラ型の黒めがけて、 リヒトズィーガーを思う様撃ちまくる。 ヒロライン内での散々な経験のお陰で、 どれだけ激しく動こうが息切れひとつしない事実には素直に感謝だ。 感謝だが、やっぱり敵がルドラの黒ともなるとボスクラスの強さ。 一体一体がこれなんだから、正直精神的に息切れてくる。 閏璃 「鷹志ィッ!!」 鷹志 「オーラァイッ!!」 注意を逸らしては他のヤツが攻撃をして、そちらに注意が向けばまた俺が。 そんな風にして、俺達昂風街側のやつらは一体一体を確実に殲滅していっていた。 これで三匹目……なんだが、やっぱり正直に申し上げまして逃げたいですはい。 柿崎 「うぉおおうらぁああああああっ!!!!」  ドガァィンッ!!! フォル『稔様に続きます!せぇえいっ!!』 コングの足目掛けて大きなハンマーを振るった柿崎と、 それに続いてバランスを崩したコング目掛けて鋭い爪の剣閃を放つフォルネリアさん。 コングの顔面にそれがクリーンヒットすると、 その下でコングが倒れてくるのを待っていた博樹が魔法を発動させる。 博樹 「レイ・アンティーグ!!」 突き出した杖より光が放たれ、 やがてそれは光の柱となって、その中の光の粒子がコングを襲う。 さすがに光に弱いのか、悲鳴を上げて叫ぶコング…… その上から舞い降りるは我らがチームのパワーファイター!! 来流美「うぅうううらブッ潰れなさいぃいっ!!!」  キュボドンゴチャァアアンッ!!!! 博樹 「ひぇええっ!!?」 あれから結局拳の方が性に合ってるわ〜とか言って拳に変えた来流美さん。 そんな彼女が、空中から降ってきてコングをアスファルトの地面に殴り潰す様は壮観。 だが忘れちゃいけないのがトドメ。 相手が黒である以上、動けなくなったらすぐに光で滅さないと再生するのだ。 閏璃 「由未絵!GO!」 由未絵「う、うん!聖なる光よ以下略!ルナサンクチュアリ!」  ベッシャァアアアッ!!! …………。 倒れてたコングが、光の圧力に潰されて霧散した。 上から来る光の重力と下から浮かび上がる光の浮力に挟まれて、ブチーンって感じ。 来流美「…………いつ見てもこれはスゴイわよね……」 凍弥 「最初はただ“光ってて綺麗だね〜♪”って程度で使ってたのになぁ……」 最初……本当に初期の頃からの由未絵の愛用魔法だったりするわけだが、 光が出せるのがよっぽど気に入ったのか、暇さえ見つければ使ってた。 お陰でルナサクチュアリの熟練度だけとんでもないことになっており、 さらにそれに倍化能力を使う始末。 そりゃあ、な……光属性に弱い敵はたまらんよなぁ……。 使いすぎた所為で詠唱要らず。 でも気分を出さないと高威力が出せないへっぽこぶりで、 最初の詠唱はするんだけどすぐに以下略であんな威力である。 閏璃 「《ジジッ》ほいこちらアルファワン」 声  『こちらアルファツー雪音ちゃんだよわっふー!』 閏璃 「おお!ノリノリだな!そっちはどんな状況であるか!」 声  『おー!…………なんかホギっちゃんが群がるモンスター破壊しまくってる』 閏璃 「あー…………あの魔法の嵐を潜り抜けるのって大変だよな……」 声  『うん……いっそ敵が哀れに思えてくるんだよねー……。     って、それもなんだけどそっち、アイテム余ってないカナ』 閏璃 「アイテム?なんでまた」 声  『こっちホギッちゃんが強すぎる所為か黒の数が尋常じゃないのだよぅー!     このままじゃあTP回復アイテムすっからかんだよー!』 閏璃 「へー。で、ホギーはアイテム使ってるか?」 声  『んや?なんか全然』 閏璃 「それはね?俺達の中からはもはやゲーム性ってもんが無くなってるからなんだ。     だから魔法もマナだけで撃てるし、     TPはそのマナを貯蔵しておける容量ってだけになってるんだ」 声  『え?え?あれ?そなの?』 閏璃 「深夜の勉強会でノートン先生が言ってただろ?」 声  『…………あ、キャッチホンだ!切るよウリウリ!』 閏璃 「ああっ!待ちたまえ!……ウリウリ!?」 ……切れた。 勉強会の時、絶対寝てたか意識散漫してたなアノヤロウ。 散々寝てたっていうのにすごいなぁ、さすが稲岬町の代表的馬鹿。 閏璃 「ふぅ、よっしゃー!この調子で黒の殲滅続けるぞー!」 鷹志 「そりゃいいけどなぁ!前見ろ前!     一匹ずつとか生易しいことさせてくれないみたいだぞ!?」 閏璃 「なにぃってマジだぁ!!」 見れば月詠街の頂点に聳え立つ、 数ある神社の中でも標高とか知りたくなるような高い場所にある神社、 晦神社から黒の大群が溢れ出てくる。 その数……───あ、うん、数えたくもない。 柿崎 「お、おいおい……!無差別に家とか人とか襲ってるぞ……!?」 閏璃 「じゃ、その隙に一体一体確実に殲滅していこう」 由未絵「ふえぇっ!?他の人も巻き込んじゃわないかなっ!」 閏璃 「はっはっは、ダメだぞ由未絵ぇ」 来流美「そうそう。障害物っていうのは破壊するためにあるのよ〜?」 由未絵「えっ……で、でもっ!それって人殺しさんになっちゃう……!」 閏璃 「誰も傷つけず自分の心も傷つけず     生きていけたらいいなって思ってた時期が……俺にもありました。     だが由未絵よ……今はどんなことをしようが未来を目指す時だ!     カルネアデスの板って知ってるか?     未来を目指すための切符ってのは誰にでも配られるわけじゃないんだ……     鬼になれ、奇麗事だけで生きていけるほど、世の中甘くないんだよ」 由未絵「…………や……ヤ……!わたしそんなのヤだよぅ!人を殺してまで───」 由未絵が怯えた顔で後退る。 やっぱり土壇場に来てこうなったか……予想通りって言えば予想通りだ。 そんな由未絵の肩を掴んだ来流美が、真っ直ぐに由未絵の目を見て言う。 来流美「由未絵……甘ったれないの。やさしいだけじゃ未来は目指せない。     そしてここでこの戦いから降りるってことは、     モミアゲくんたちのことはもちろん、わたしたちの記憶まで失くすってこと」 由未絵「来流美ちゃん……」 来流美「あんたそれでいいの?わたしたちの記憶を消されて、     自分は死んだことになってるこの世界に一人だけ残されて。     あんたそれで生きていける?     凍弥なしで、家族も頼れる人もなしで生きていける?     仮に生きれたとして、その未来は楽しいものなの───?」 由未絵「う、うぅう……!わ、わかんない……わかんないよそんなの!」 鷹志 「話なんて後だ!来たぞ!」 説得なんて待ってくれる相手じゃない。 黒の波は俺達目掛けて襲い掛かり、俺達はそれを全力を以って受け止める。 閏璃 「超音波のSUVウェポン!テラーハウリング!」 出現させるのは超音波発生装置。 よくある円盤型のアンテナみたいなものが両肩にガシンッと嵌り、 それを確認してから超音波を全力発射!! 大地から空中から襲い掛かってきていた黒を音波の壁で吹き飛ばし、 勢いを殺してから改めて別のSUVウェポンを召喚! 来流美「っ……選びなさい由未絵!わたしたちと来るか!全部忘れて新しい人生を歩むか!     確かにわたしたちに、     命がけでモミアゲくんたちと一緒に戦う理由はないかもしれない!     ただ平和に生きていられればいいかもって思うかもしれないわよ!     お金だって今まで溜めた貯蓄があるし、住もうと思えばまだ地界に住める!     わたしたち全員が全部放棄して、ただの日常に戻るって方法もあるわよ!     でもね由未絵……!あんたの覚悟ってそんなもの!?     命を失くすのはそりゃ怖いわよ!わたしだって震えが止まらない!     それでも今までの付き合いを全部無かったことにしてまで、     ただ平凡だった日常に戻りたいだなんて、わたしなら思わないわ!」 由未絵「〜〜〜〜っ……で、でも……」 来流美「生きたいって思ったなら生きなきゃウソ。     わたしね、よく解らないけど物凄く後悔してる。     誰かが人殺しをしてしまった時、     その人のことを信じてあげられなかったことが悔しくて仕方ない。     それが何処で起こったことなのかも思い出せないし、     きっともう一生思い出せないんだろうけど───今は多分その時と同じなの。     必要に迫られて、苦しくて悲しくて、けれど生きたいから殺す。     わたしたちはこんなに弱いけどね……弱いからって、     生きたいって思いまで放棄したいだなんて思わないわ!」 最後にバンッ!と由未絵の両肩を叩き、来流美が走る。 ……俺達は選んだ。 あいつらと空界で生きるという道を。 そこに辿り着くためにこの地界での自分たちを死んだことにしたし、 あいつらが居たからこそこの夏はこんなにも楽しかった。 ……そう、楽しいって心から思えたことを捨ててまで、 ただの日常に戻りたいだなんて思わない。 選ぶのは俺達で、選んだからにはそれは自分の責任なんだ。 由未絵……お前がどんな選択をしようが俺達はお前を責めない。 そこで傍観してるのもいい。 全て捨てて、日常に戻っても構わない。 俺達はそれを受け入れてみせよう。 ……寂しいけどな。 閏璃 「ッ……ぬ、ぐぉおおおおおおっ……!!」 レーザーを乱射している。 拡散型と直線型を使い分け、家が壊れようが人がケシズミになろうが、 胸に湧く罪悪感を噛み砕きながら、 “明日を目指すため”という自己満足のために破壊する。 あんたたちにも目指してた未来があったんだろうが、 言われた時点で逃げなかったことを存分に悔やんでくれ。骨は拾えない。 閏璃 「っ……人殺し、おめでとさんっ……!」 鷹志 「きついなこれ……!心が折れそうになる……!」 むず痒く胸の中で蠢く罪悪感を、やはり噛み殺す。 覚悟は散々してきても、どれだけ大丈夫だって思っていても辛いことってある。 あるけど、今はそれを飲み込まなきゃいけない時だ。 罪悪感ならあとでいくらでも受け入れよう。 今がその時じゃないだけだ───吐いてでも涙してでも、今は未来を手に入れる! 後悔も懺悔も、生きてなけりゃ出来ないんだから……! 【ケース847:霧波川凍弥/黒の夢2】 ザガァンゾバァンズシャアッ! 凍弥 「〜〜〜っ……後から後からっ……!」 浩介 「ぬうブラザー!これではキリがないぞ!」 浩之 「うむブラザー!だがこれは必要なことである!     たった一体の打倒が決定打になりうるかもしれんこの状況!     今はともかく黒を殺すことのみ考えるのだ」 佐古田「それにしたって多すぎッス!なんとかならねーッスか!?」 椛  「ともかく削ってゆくしかありません!」 黒の波が幾重にも襲い掛かる。 それらを光の刀で切り刻み、一撃のもとに滅ぼしてゆく。 とはいえその数が尋常ではなく、削った先からどんどんと襲い掛かってくる。 凍弥 「佐古田!」 佐古田「おうッス!」 凍弥 「囮作戦だ!」 佐古田「てめぇそりゃアチキに死ねって言ってるッスか!?」 浩介 「というか同志!こちら側が我ら5人なのはどうなのだ!?」 凍弥 「気心知れてる方が動きやすいとはいえ、     しくじった感は否めないよなぁ!ああ俺もそう思うよ!」 東側担当をしている俺達に襲い掛かる数は、他に比べて少々少ない。 が、それでも黒は黒。 デカいモンスターが来れば梃子摺るし、 かといって小さいモンスターが一斉に来れば立ち回りが辛い。 凍弥 「椛ぃ!月詠街側の人たちは今なにやってるんだ!?」 椛  「中央部で黒の波を破壊してます!わたしたちよりよっぽど大変です!」 凍弥 「くぐっ……!そりゃ援軍なんて呼べないな……!     でも誰か居ないのか!?空界側の人でいいからさっ!」 声  「はっはっはっはぁ!だったらあったしが加勢してしんぜよう!」 凍弥 「!誰だ!」 バッ!……と声が聞こえた方向を、黒を切りながら見上げる。 すると……今まさに黒に破壊された家の上に立っていたらしい影が、 朝日を浴びながら跳躍し、降りてくる……! ベリー「わーはー、あたしあたしー」 …………。 ホトマシーさんだった。 その後ろにはイセリアさんも。 イセリア「傍観者気取ったままで未来に辿り着くのって卑怯な気がして……」 ベリー 「それならまあ楽しんだほうが面白いじゃない?というわけで。      そ〜ら強化ホムンクルスども!思いっきり暴れちゃいなさーい!!      わはーーーっはっはっはっははーーーーっ!!」 そう言うとホトマシーさんは懐から豆のようなものをジャラリと取り出し、 おもむろに黒目掛けてばら撒いた。 するとその豆が空中で肥大化して、全身のっぺらぼうのような人型になり、 飛んだ勢いをそのままに黒たちに襲い掛かる。 浩介 「お、おお!これはいったい!?」 ベリー「ふぉっふぉっふぉ、あたしが開発した人工生命体429号!     種型人類“うえだの種”だよ!」 佐古田「どっかで聞いた名前ッスね!」 ベリー「まあ大した攻撃力とかはないけど、     生命力だけはゴキブリとムカデを足してかけた以上にしぶといから。     安心して一体一体黒を潰していきんさい。じゃ、あたしは次行くから」 椛  「ええっ!?手伝ってくれるのでは───」 ベリー「あっはっはっはっは!面白いこと言うなぁモミモミは!     いいのいいの!あたしたちは元々攻撃面よりサポート面の方が優れてんだから!     そんじゃねーモミモミー!」 椛  「モッ……!や、やめてくださいその呼び方!」 ベリー「その平らさんも少しは旦那に揉んでもらえばおっきくなるかもよ〜」 椛  「わたしのは平均です!周りが大きすぎるだけです!」 言うだけ言うと、ホトマシーさんはさっさと次へと走ってゆく。 イセリアさんもそれに続きながら、黒を見つけると豆を投げつける。 ……まあ、助かった。 形はどうあれ、敵を食い止めてくれるのはありがたい……! 佐古田「あ。ムナミー、ま〜た人類が潰されたッス。あ〜あありゃ即死ッスね」 凍弥 「気にしてられない。せめてそういう世界に下りたことだけを後悔して、     今は目の前の目的だけに集中しよう」 佐古田「おお、お節介のムナミーとは思えん台詞ッス。一皮ムケたッスねムナミー」 凍弥 「やかましい」 佐古田「褒めたッスよ!?」 凍弥 「一皮剥けたって部分がなんか嫌なふうに聞こえたんだよ!」 ……と、軽口を叩いていられるのもそこまで。 豆に押さえられたヤツ以外にも当然黒は居て、次から次へと襲い掛かってくる。 それらを斬り、時には殴り飛ばされながらも戦いを続ける。 佐古田「っ……くっは……!攻撃力が尋常じゃないッスね……!」 椛  「今の攻撃くらい避けてください!集中してないからそうなるんです!」 佐古田「無茶言うんじゃねーッス!ゲームと現実とは感じる恐怖が違うものッスよ!?」 椛  「こっちだって回復させながら戦うのは大変なんですから!     多少無茶でも避けてください!」 佐古田「うぬぬぬぬ……!」 回復はもっぱら椛。 それも月操力でときているから、椛の消費は尋常じゃないだろう。 いくらゲーム世界で鍛えられたとはいえ、月操力を鍛えたわけじゃないのだ。 月操力の行使で消えた力はマナでは回復されない。 好物を食らうか、冥月刀に触れるかしなければ回復することはない。 この月詠街には月操力を回復させるなにかしらの力は働いているものの、 その力も黒たちが暴れることで散り散りになっている。 凍弥 「椛の好物っていったら───」 ……なんだっただろうか。 やっぱ彰衛門の料理か? 凍弥 「《ごぎぃんっ!!》ぐぅぅあっ!?」 考え事の最中、死角から振るわれた攻撃が、偶然刀に当たることで吹き飛ぶだけで済む。 体勢を立て直して敵を見やれば、 いつから居たのかグリズリーをより巨大にしたような黒が、 爪をギシギシと動かしながら唸っていた。 凍弥 「すぅっ───シッ!」 そんなグリズリー目掛け、地面を踏んで疾駆。 無駄な動きは省き、雑念を捨てることで一気に間合いを詰め、 切り結ぶどころかそのまま駆け抜け───一閃のうちに斬滅する。 浩介 「おっ……おお素晴らしいぞ同志よ!」 浩之 「ついでにこちらもやってくれるとっ……ありがたいのだが……!」 浩介 「潰れそうだなブラザー!」 浩之 「任せろブラザー」 凍弥 「どこまで逞しいんだお前はっ!!」 今度は別の方向でギガンテスの足に潰されかけている浩之の元へと駆けると、 跳躍すると同時にその体を下から上へ両断する。 さらに光属性を膨張させると高速で両断した体を切り刻み、完全に塵に帰す。 佐古田「おぉお……さすがッスねムナミー、人を超えた動きッス」 凍弥 「関心してるな!後ろ!」 佐古田「大丈夫ッス」  バゴォンッ!! 佐古田「……と、このようにトラップは万全ッス」 凍弥 「いつの間に爆弾なんて仕掛けたんだよ!ってそうじゃなくて!     爆弾程度で敵が死んでくれるなら、自衛隊にだって勝てる!───屈め!」 佐古田「ホワッ!?」 走ったんじゃあ間に合わない! 俺は佐古田を襲おうとしている巨大な蟹のバケモン目掛け、光の剣閃を一閃。 風を斬る三日月状の光が、佐古田に振り下ろされようとしていた挟みを弾くと、 既に走っていた俺はその間隙を縫い、一閃にて足の数本を切り落とす。 それによりバランスを崩した蟹へと浩介と浩之が斬りかかり、これを滅する。 凍弥 「サンキュ」 浩介 「フッ、なにな」 浩之 「貴様との付き合いも昨日今日の始りではない。     貴様がどう動いた時にどうすればよいのかなど、前世の頃から知っておるわ」 バチィッ!と手を叩き合わせ、さらに襲い掛かる黒へと立ち向かってゆく。 巨大ならば足を斬り、俺達と同じくらいなのであれば正面から立ち向かって出し抜き殲滅。 やることは相手が大小で多少変わる程度で、敵を殲滅させるという一点において、 俺達にはもう迷いの刃は存在していなかった。 凍弥 「飛燕(ひえん)虎伏(とらふせ)翔兎(とう)跳獅(ちょうし)墜鳥(ついちょう)!」 敵は出来る限り小さいものから。 払い上げ斬り、振り潰し斬り、微跳躍斬りから回転斬り、トドメに空中の敵を切り落とし、 光技身刀流刀術で、やはり一撃で仕留めてゆく。 背は浩介と浩之に預け、ただ目の前の敵のみに集中。 佐古田と椛はなんやかんやと騒ぎながらもこれでバランスを取れていて、 力任せな攻撃を椛がフォローし、片っ端から敵を殲滅していっていた。 本当は椛が攻撃に専念できるのが一番なんだが、なかなかそうも言ってられない。 浩介 「いつ以来になるか、こうして背を預け合うなど」 浩之 「喜兵衛に殺される前あたりではないか?」 凍弥 「あまり不吉なこと言わないでくれ。その流れだとお前らは死ぬだろう」 程よい緊張のためか、口調が前世のものと重なる。 浩介も浩之も、あることがきっかけで前世を思い出した。 カンパニーで荷物整理をしていたら、どういう経緯なのか前世と入れ替わったのだという。 一時期浩介と浩之が妙な口調になったことや奇行に走ったことがあったが、 その時がそれだったようだ。……奇行はいつものことかもだが。 浩介 「さて、どう出るか」 浩之 「どう出るもないだろう。全て片付ければいいことだ」 凍弥 「囲まれているというのにか?はは、豪気なものだな」 だが悪い気はしない。 この時代はあの時代とは違う。 不意打ちで死ぬようなことなどきっと起こらないし、俺達もずっとずっと強くなっている。 だからこそ、俺達は囲まれても笑うだけの余裕があった。 凍弥 「いくぞ……しくじるなよ相棒ども」 浩介 「ふはは、言ってくれるわ相棒めが」 浩之 「よもやこの相棒が死ぬとでも?」 凍弥 「死んだら来世でまた会おう。まあ、絶対に生きるけどな」 浩介 「当然である」 浩之 「つくづく然り」 話もそこそこに、一気に散開する。 疾駆と同時に真トランスを発動させて、何処を狙えば効率的なのかを導き出す。 俺の集中は“見切り”に秀でたものらしく、“弱い場所を探す目”を開く。 弱い場所っていうのはなにも敵の弱点ばかりではなく、 敵の攻撃に存在する避けやすい場所、 つまり攻撃の中の弱い場所までもを見切ることが出来る。 ストールンベア『ルギャァアォオッ!!』 凍弥     「───」 大きな熊型の黒の爪を、“弱い場所”へ向かうことで最小限の動作で避ける。 来る攻撃来る攻撃をいなしながら、敵の体の弱い場所へと刃を立て、破壊する。 凍弥 「つ、ぅ……!」 しかし弱い場所を探る“見切り”のトランスは、随分と脳を酷使する。 どっかのゲームの魔眼じゃああるまいしと舌打ちをするが……ああくそ、 それもこれも以前リヴァイアが俺に妙な回路操作を教えたからだ。 あんなのが無ければ、こんな能力の解放は無かった筈だ。 なまじっか“奇跡”が体を構築しているために、 俺にはそういった特異な能力が行使しやすいってギフトがあった。 もちろん最初はなにも出来やしなかった。 それが出来る、と気づいたのだってつい最近……東の村で修錬をしていた最中だ。 長老に呼ばれて、言われるままに回路の解放を実行して、ここに辿り着いた。 とはいえどこぞの魔眼のように、一突きすりゃ殺せるってものでもない。 使いすぎて廃人になることもないし、奇跡が削れるようなことでもない。 いわゆる意識の加速装置のようなもので、 前世の記憶に眠る“見切り”を無理矢理掘り返して行使する、といった力技だ。  ザンザンザンザシュドシュザシュザシュバシャシャシャシャアッ!!!! 黒  『ギャァアアアアアアム!!!』 見切り、走らせる手が早いのならば負ける道理もなく。 見切り、走らせる足が速いのならば手負う道理もない。 光の加護のお陰か、幸いにして速度では早々負けてはいない。 走らせる刃は黒を塵に変え、捌く足は敵の攻撃の外へと俺の体を運んでゆく。 が、出来るのは精々そこまで。 数でかかられては捌ける回数も限られる上、 一撃でも食らえば受けるダメージはこちらが敵に与えるダメージの比ではない。 浩介 「ふっはっはっはっは!!余裕がないなぁブラザー!!」 浩之 「はっはっはっは!助けてほしいくらいだなぁブラザー!」 凍弥 「ははははは!それを言うなら俺もだ同志たち!」 数が増えてきた。 大も小もそれこそ厭わんといった風情で、 神社から零れ出る黒たちが町の中央で分断されるや流れ込むように。 いよいよ追い詰められる状況に唇を噛むベシャア!! 凍弥 「っ……え……!?」 ……噛んだ途端に、景色が平らになった。 いや、噛み砕いて言うならば、俺達……この場に戦いに来ている者以外が、全て潰れた。 家も電柱も木も壁も、人も動物も黒も全て。 その景色の中、眩いばかりの光を見た。 ───全てが潰れ、絶景となった場所に立ち、輝く杖を手にする男…………与一。 まさかこれ重力魔法!?ど、どれだけの威力発揮すればこれだけの規模を潰せるんだよ! 【ケース848:穂岸遥一郎/黒の夢3】 ゴシャッ───キィンッ! 遥一郎「《キィイイ…………ィイイイ……》…………ふぅ……」 真トランスを発動させてのグラビティ。 それで全てをブッ潰し、町並みを見晴らしのいい荒野に変化させる。  障害物がなくなったために敵に囲まれやすい状況にはなったが、 敵にしてみれば家があろうが柱があろうが俺達を攻撃するのに苦労はない。 手を振るえば建物ごと削り取られるのはこちらなんだから。 雪音 「うわ、わわわわ……!ホギッちゃんてば破壊神!」 遥一郎「こういう時にそういうこと言うな!お前のほうが目測誤って壁破壊してただろ!」 雪音 「めいよのはそんとかいうやつだよー!」 遥一郎「名誉を謳うなら負傷で済ませておけ!」 雪音 「あっはっはっはっは、やだなぁホギッちゃん。負傷だったら痛いじゃん」 遥一郎「………」 そうなんだが……ああいや、常識的に考えるからいけないんだな…… 観咲相手に常識説いても理解してくれるわけがなかった。 と、考えるのも束の間。 景色が潰れた途端、黒どもは馬鹿正直に真っ直ぐ突撃するだけの存在ではなくなり、 神社の石段から降りてきて真っ直ぐ─── 中央に配置された月詠街精鋭たちとぶつかる者も居れば、 左右や上に飛び、俺達や別のところを担当しているヤツらへと襲い掛かっていた。 その数は……目を覆いたくなる。 百や二百じゃあ利かないだろう。 雪音 「わお!これはアレだね!真・三國無双で練磨した腕を見せる時だね!     いざいざいざーーーっ!わぁーーーーれこそはえーーとえーーと観咲雪音!     予てよりのウコンの力!おぼえたるかぁーーーーーーっ!!!」 …………ウコン? ……あ、ああ、遺憾……だよな? と、観咲が叫んだ途端に別の方向へと向かっていた黒が足を止め、 こちらをギョロリと睨む。 雪音 「へあ?」 ───直後、俺は観咲の頭をウロボロスでポゴリと殴っていた。 だってな、 黒  『ウバァアシャァアアアアッ!!!!』 雪音 「ふひゃぁああああっ!!?いっぱいきたぁあーーーーーーーっ!!!!」 そう、本当にいっぱい来たから。 もういっそ叫んで逃げ出したい気分だよ、くそう。 遥一郎「おぉおおおお前はぁああああああっ!!     どうしていつもそう無鉄砲に馬鹿なんだぁああっ!!!」 雪音 「え!?これわたしの所為なの!?」 遥一郎「お前じゃなかったら誰だよああもぉおおおおおおっ!!!!」 急いで魔法陣を重複展開させる。 隣では蒼木がくすくすと笑っていて、同じく魔法陣を展開している。 サクラ  「与一、きっと死んでも治らないです」 ノア   「ええそうでしょう。この馬鹿は馬鹿なんですから当然です」 雪音   「ムキー!馬鹿ってゆーなぁ!」 真由美  「まあまあ……───来るよ!」 レイチェル「澄音さん、気をつけて」 澄音   「うん、乗り切ろう」 遥一郎  「いまいち緊張感がないよな……」 ノア   「それは敵の大半をマスターが片付けるからです。       実際わたしたちはそう戦ってませんから、あまり緊張感を持てません」 真由美  「……与一くん、溜め息吐きながら魔法使いまくってるの、気づいてる?」 遥一郎  「え?───おおう!?」 言われてみて気づくことがあった。 経験と無意識ってすごいんだな……特に意識しなくても無詠唱で魔法撃ちまくってたよ。 とはいっても無意識に放てるものなんて、散々繰り返し練習した下級魔法くらい。 くらいだが、それも魔力が高ければ立派な武器になる。 ダメージ自体はそう与えていないようだが、 敵を近寄らせないだけの弾幕にはなってくれていた。 ……のんびり話が出来る筈だ。 遥一郎「我唱えん!我らを宿す黒き大地の上に!     さしずめ、鈍色の剣の如く!太陽の目から遠く!死の岸辺に誘う!」 大仰だが立派な詠唱。 原中の連中、特に弦月が気に入っていて、俺も気に入っているこの詠唱は、 ヒロラインの魔法詠唱の中にも含まれている。 唱えたところで発動可能になるのは下級地属性魔法“グレイブ”だが、 俺は思考の切り替えを実行する際に使う。  キィンッ─── 遥一郎「すぅ……はぁ───」 準備は完了だ。 倍化能力、超高速思考を展開。 深呼吸を一度、景色に群がる黒どもを無詠唱爆裂魔法で視界に納まるや爆発させる。 放ち、散ったマナも再利用するために、消費するマナなんて微々たるものだ。 魔法の詠唱なんて頭の中で秒を数えるより速く構築。 放った先から次から次へと魔法陣を弾けさせ、黒を破壊してゆく。 魔法というよりは発破能力の類に近い。 視界に入った敵の中に爆発魔法の種をマナで精製し、 そこにさらなる爆発魔法を放り込んで爆発させる。 傍から見れば視界の中に入るだけで爆発すると思うだろう。 ……生憎そんなキネシストじゃないんだが。 遥一郎「“解放”(イマンシペイト)!」 虚空に幾つもの光の球体を精製して、息を置かない内に発射。 神社から零れ落ちる黒の数は尋常ではなく、 いくら視界に入り次第破壊したところで一気に百や二百を消せるわけでもない。 遥一郎「柾樹たちはどうしてる!?」 ノア 「中心より外れた場所で、豆村みずきを中心に戦っています。     あの中で強化能力を持っているのが彼だけのようなので、     彼が攻撃と回復の要を担っているようです」 真由美「え?深冬ちゃんは?補助魔法担当だった筈だけど」 ノア 「お待ちください。《キュイイイ…………》……ダメですね。     逃げ遅れた人が死ぬのを目の前で見て、怯えているようです」 ノアが頭のアークを使い、遠くの様子を確認する。 が、どうにも都合のいい状況じゃないらしい。 遥一郎「───仕方ない、なんて言える状況じゃないな。     多少無茶でもキツケしてやらないと足手まといになるだけだ」 ノア 「解ってます。───こちらノア=エメラルド=ルイード。     裕希刹那、聞こえていますね?」 声  『ア、アラホラー!』 ノア 「よろしい。では蒼空院深冬にビンタをかましなさい」 声  『うえぇえっ!!?やっ……だって今……!』 ノア 「戦いの場で人が死ぬことが異常だとでも?     異常なのは腰を抜かして怯える存在です。     そこで怯えられてはあなた方も動けないでしょう。     叩きなさい。いえ、殴りなさい。この際ノーザンライトボムも許可しましょう」 声  『なんでそこでプロレス技!?いや無理っす!俺には女を殴るとかそんなの!』 ノア 「チッ……この偽善者が。戦場で男だ女だと言ってる時点であなたは無能ですね。     もういいです、豆村みずきに取り次ぎなさい、あなたでは話になりません」 妥当だろうが……少し時間がかかりすぎだ。 目の前のことがお留守になってきてるぞ〜?ノア〜? 声  『んなっ……!ちょ、ちょっと待ってくれ!そりゃ言いすぎだろ!     こっちだって命懸けで戦ってるのに、無能とか……!』 ノア 「命を懸けた代償が味方の足手まといのための全滅だったら、     あなたが今取っている防戦一方のソレは有能なんですか。それは結構」 声  『うぐっ……!』 遥一郎「……ノア、簡潔にだ。目の前のことが散漫してるぞ」 ノア 「あ───もっ……!申し訳ありませんマスター!〜〜っ……貴様の所為で……!」 声  『貴様呼ばわりっすか!?』 ノア 「いいからっ!戦場でいちいちぐだぐだ他人の意見に否定論ばかりあてがうんじゃあ     ありません若造風情が!」 怒鳴りながらもアークからは聖弾ガトリングを放ち、 近寄る者は“鬼神包丁【鏑棄魏(カブラステギ)】”で三枚に卸している。 包丁の切れ味の次元じゃないだろ、あれ。 ノア 「さあ!」 声  『う、わ、解りました……───ビーン!誤解するなよっ!     これは緊急事態だから仕方なくなんだからな!?……ごめんっ!深冬ちゃん!』 ……ばしーん、という音がこちらにも聞こえた。 直後に戸惑いの声とか罵声とか、いろいろ。 ノアは満足したように通信を切ると、目の前の敵に集中する。 俺も真トランスの集中と倍化能力により回転が速くなった思考回路を全力で回転させ、 長ったらしい魔法の詠唱を全て頭の中で処理して、 大魔法や古代魔法を散々とブッ放していく。 遥一郎「《ジジッ》───こちら穂岸隊!」 声  『穂岸か!?少し頼まれてくれないか!』 晦……?神社に向かってた筈が、どうして─── 声  『神社の石段の中腹にルドラの世界へのゲートがある!     黒もそこから飛び出てきてる!     そのゲート前に威力の高い魔法を落としてほしい!出来るか!?』 遥一郎「───10秒後に落とす」 声  『話が早くて助かる!』 通信が切れる。 その直後に思考の中で、 回転させ続けている魔法とは別の魔法を回転の流れとはべつの場所に置き、 たっぷり十秒、詠唱を何重にも重ね、一気に落とす! 遥一郎「ディメンショナルマテリアル!」 言を放つと同時に、十秒間の間ずるずると巨大化していっていた一つの魔法陣が弾ける。 直後に遠くに見える神社へと続く石段の中腹に灰色の光が煌き───大爆発。 かなり遠くだというのにこんな場所にまで黒の残骸を吹き飛ばすほどの爆発を見せ、 周囲を荒地にしてみせた。 声  『《ブツッ》殺す気かネ!!』 そして強制接続とともに聞こえる弦月の声。 遥一郎「死んでないならさっさと行け!誰のためにこんなことやってると思ってるんだ!」 声  『え?誰?』 遥一郎「自分のためだ」 声  『キミなんか変わったよね!?じゃあもう切るよ!?』 通信が切れる。 慌しいことだけど、そんな状況なんだから仕方ない。 真由美「うぅう……!さすがに数が多すぎるよ……!」 雪音 「ふぁいと!ふぁいとねジョーヤブーキ!」 真由美「言いながら圧されてる!圧されてるよゆきちゃん!」 雪音 「ジョワジョワ〜〜〜!わたしほどのファイターになれば、     こんなの指圧の域だよーーーーっ!!」 遥一郎「で、座頭ケチの指圧並みに失敗率が低くて、     体力は減るわ腹も減るわで大変なわけか」 雪音 「わっ!ホギッちゃんの口からゲームの話が!バンバンジーの前触れだよ!」 遥一郎「それを言うなら天変地異だ!!」 言いながらもこの場に居る全員が死に物狂いで敵を破壊してゆく。 当然傷も負うが、その傷を片っ端から癒すのも忘れない。 ていうかな!お前はほんと無鉄砲すぎるぞ観咲! レイチェル「まったくっ、次から次へとっ、よくもここまでっ!」 観咲が突っ込んでいっては相打ちまがいに敵を殲滅する中で、 未だ数発しかダメージを受けていないレイチェルの姐さんは、 相変わらず大剣を振り回しては黒を破壊していた。 大剣を振り回すメイドね……どういう世界だろうか。 澄音 「これは、本当にキリがないね……!」 遥一郎「マナが保つ限り全力で破壊するしかないだろ!」 厄介だと睨まれたのだろうか。 黒の奔流はこの月詠街の中心を堺に、明らかにこちらへと流れ込んできている。 それらを、次から次へと展開しては弾けさせる魔法陣で破壊してゆく。 倍化能力を発動させていてよかった。 通常の思考の回転力じゃあ詠唱が間に合わなかった。 遥一郎「さて……」 破壊は続けるが、現状は防戦一方といったところ。 敵の数が圧倒的に多すぎるため、確実にジワジワと間合いが詰められていっている。 大魔法や古代魔法の隙間に精霊魔法も組み込んでいくが、 それでも押されているのはこちらだった。 雪音 「はううっ……!銃とかが欲しかったかもっ……!」 遥一郎「銃って……それは離れて撃てるからか!?」 雪音 「ざっつらいと!」 遥一郎「それなら低級魔法でもいいから覚えてみろ!     お前ほどTPの存在が無意味なプレイヤーなんて居ないぞ!?」 雪音 「し、失敬だよホギッちゃん!わたしだってTPOくらい!」 遥一郎「時と場所を弁えてどうする気だ!」 雪音 「……あれ?TKO?」 遥一郎「誰をノックアウトする気だお前は!」 雪音 「ぴ、PKO?」 遥一郎「国連平和維持活動特別委員会だそれは!」 雪音 「わお……ホギッちゃんてばよくそんな難しい言葉知ってるね」 遥一郎「TPがどうしたらそっちまで飛ぶのかの方が疑問点だこの馬鹿!」 雪音 「まー!また馬鹿っていったー!《バゴォン!》ふぎゃうっ!」 遥一郎「ばかっ!余所見するヤツがあるかっ!」 俺の方へと顔だけ向けた拍子に、オーガ型の黒が観咲の肩を強打する。 ステータスがVITにもきちんと振り分けられていたのか、 思い切り仰け反る程度で済んだようだが─── 雪音 「うぎぃいちちちち……!!ほ、ホギッちゃんがばかって言うからだよー!?」 涙目の観咲はそう言うと、目の前のことに集中しだす。 それはそれでありがたいことだが、 殴られた右肩を庇いながらでは集中しきれないのは当然だ。 そんな観咲に自動回復魔法(リジェネ)をかけてやると、俺も目の前のことに集中する。 観咲が気づかない程度に、 観咲がダメージを負わない程度に彼女の前の敵を少しだけ蹴散らしながら。 澄音 「ふふっ、やさしいね」 ……しかし、友人はあっさり気づいたらしい。 エクスカリバーで目の前より直線状の敵を一掃しながら、小さくくすりと笑っていた。 真由美「与一くんっ!」 遥一郎「な、なんですか真由美さん!」 真由美「今更敬語なんて使ってないで集中集中!     ───右手奥からドラゴンみたいなのが飛んで来てるの!どうしよう!」 遥一郎「ドラゴン!?───あれかっ!」 黒の壁を破壊しながらちらりと見た空の彼方。 そこには大きな黒の竜が居て、確かにこちらへ向けて飛翼を羽撃かせている。 その口には黒の極光が溜められていて、光が溢れた先から大地へと放ち、 各地に点在する味方たちに攻撃を放っていた。 これはまずいと踏んだ俺は、目の前の敵の数を少し真由美さんたちに任せ、 デモンズランスの詠唱に入───……必要なかった。 真由美「……あ、あれ?与一くんっ!?魔法は!?」 遥一郎「藍田が一撃で潰した!こっちは目の前のことだけ考えよう!」 真由美「一撃!?う、うわぁあ……!     ちょっとしか見れなかったけど、結構大きい竜だったのに……!」 真由美さんの驚きの声を余所に、集中を高めて魔法を連発してゆく。 とはいえ……そろそろそれも難しくなってきている。 マナの枯渇は心配いらないんだが、どうにも敵の強度が上がってきているように感じる。 最初こそこの程度で十分といった風情で弱い黒を放っていたんだろうが、 ルドラの方でもそれは無理だという考えに至ったんだろう。 少しずつ黒の力が増し、その度にゆっくりと確実に俺達は追い詰められていた。 【ケース849:藍田亮/黒の夢4】 バパパァンパンパンパァン!! ゴッガッバガァンバガァンバガァン! 藍田 『いやぁーーーーっはっはっはっは!!キリがねぇえーーーーーーっ!!!』 蹴り殺しても次から次へ。 あんまりにもキリのない状態に、いい加減笑えてくる。 藍田 『ふぅっ……!』 最後の一体、とは言えないが、俺へと向かってくる一体を蹴り潰すとようやく一息。 ……原中隊はもうみんなバラバラだ。 彰利っていう司令塔が居ないってだけで、まあ随分と崩れるもんだ。 それでも誰かが死んだなんて報せがこないだけ、まだ心に余裕はあった。 基本的に戦士ばっかりの部隊なんだから、心配するのも仕方ないといえば仕方ない。 藍田 『あぁあ……蹴りのしすぎで脚の筋がいい加減疲れた……』 こんなことなら拳も…………ああいやいや、足があればいいよ俺。 藍田 『………』 黒の荒野と化している景色を見る。 俺の周りの黒も、潰れてはいるがやがては動き出すだろう。 そんな物体に目掛け、ノートン先生に貰った光の砂を落とす。 ……それで終わりだ。 黒は霧散して、潰れた家が眼下に現れる。 黒を殺した上で掛けなければ意味がない砂。 これさえあれば光属性がなくても黒を消せる。 渡された袋は小さな布袋。 いくらでも砂が出るそうだが、元気なヤツに振り掛けたところでなんの意味もない。 いや、まあそんなうんちくめいた確認よりもだ。 藍田 『…………』 なにを、やってるんだろうな、って……ふと冷静になった。 幼稚園……ふつーに生きて、泣いて、笑って、親を困らせた。 小学……いらんことばっかり覚えて、高学年になる頃には無駄に不良気取りをやっていた。 中学……みんなに会うまで、心を許すまでの自分はとても馬鹿でアホだった。 高校……張り合いのないつまらない生活、退屈な学校生活に、ただ中学を懐かしんだ。 ……就職。高校がつまらないなら大学もと決め付けて、大学にはいかなかった。 周りには大学に行ったとかウソぶったりして、いつしか自分らしさってのを見失った。 そして…………そして。 藍田 『………』 灼銅色の手を見下ろす。 人から離れた能力を手に入れ、若さを取り戻して、 そうした先で……なんで命の遣り取りをやっているのか。 これは現実で、そんなリアルの中で俺はどうして自分の命を賭して、誰かのために─── 藍田 『原中……か……』 原中は確かに楽しい時代だった。 でもだからって、その時代の将軍である彰利のために命を賭けられるか?といったら…… 藍田 『なんか違う……んだよな……』 こんな土壇場で考えることじゃない。 いや……そうじゃない……土壇場だから冷静になれた。 不思議なことに巻き込んでくれて感謝してる。 それは中学の頃よりもとても充実した時間だったから。 けれど中学よりもと考えられるのは、それが原中のメンバーと一緒だったからってだけだ。 そこに命を賭ける理由なんて、きっとなかった。 どうして…… 藍田 『どうして、俺は───』 見捨てるとかそんな次元の話じゃない。 だって、死んだら終わりだ。 確かにあいつらと居ると楽しいけど、死んでもいいだなんて思えない。 だったら逃げるべきで、記憶を消されようが生を堪能するべきなんじゃないか。 そう思えて仕方ないのだ。 ……そうしたほうがいいに決まってる。 きっと誰もが本能的にそう思う筈なのに、俺の足は下がろうとはしなかった。 ヒロラインで駆け抜けた日々を覚えてる。 中学で初めて知った、団体での楽しさが胸に焼き付いている。 けど、そんなことよりも“そこにある違和感”が、俺に逃走を許さなかった。 ドラゴン『……?グギィイアァアアア…………!!』 藍田  『………』 考え事をしていると、絶え間なく前進する黒の中から零れる竜を発見する。 というよりも群れの中で俺を見つけ、 餌を発見した肉食動物のような顔……まあそのまんまだけど、 ともかくニヤリとした顔で俺目掛けて突撃してくる。 藍田 『………』 突進……接近、そして───開口と閉口。 鋭い牙を剥き出しにするドラゴンの口は、俺なんて軽々と一飲みできる大きさだ。 それだけの牙が潰れた大地を抉り、岩盤ごと俺を一飲みにしようとする。 ……気だるい。気だるいけど食われるのが嫌だったから足を振り上げた。 藍田 『アンチマナー……キックコース!』  バボギィッ!! ドラゴン『ぐぎぃっ!?ガ、カカ……!』 上顎を蹴り上げられた拍子に顎は砕け、面白い形で硬直するドラゴン。 ……そうだな、正当防衛ってことで。 藍田 『死にたくはないけどさ、記憶を消されるのも嫌だ。     だったら戦って勝ち残るしか方法がないじゃないか』 そう、仕方ない。 だってそれは…………自分の、ためだから。 藍田 『偽善でも本当の善でもない。     俺は俺のために、周りから悪って言われようと自分のために生きよう』 そんな自分のためが周りにも利益を生むんだったら、これほど幸福なことなんてないだろ? ……一瞬、誰かの笑顔が頭にチラついた気がした。 それがヒロラインで出会った魔王だったような気がしたのに、 魔王の顔すら思い出せない自分に苦笑した。 笑う必要なんかなかっただろうに、その思い出せない違和感が、 中学やヒロラインの思い出の中にあった違和感とよく似ていたから。 藍田 『死ぬ理由なんて見つからない。     死にたいだなんて思えないし、───俺達は生きなきゃいけない。     生きなきゃウソなんだ』 誰かに最後にとてもひどいことを言った。 相手の顔も思い出せないのに、ひどいことを言ったことだけは覚えていて。 しかも俺はそいつを追って、見つけたら殴ってやろうとさえ思っていた。 なんて自分勝手なんだろう。 そんな怒りがあったからこそ、俺達は何事もなくこの空の下に立っているというのに。 藍田 『…………すまない』 それが誰に対しての謝罪だったのか。 言葉にした途端に全てがリセットされてしまい、 なにに対して謝ったのかが解らない自分が悲しかった。 それでも───生きなきゃいけないという思いだけは。 心に通ったこの思いだけは、絶対に理解の中心に存在しているから……言い直す。 誰に向ければいいのかも解らない言葉を、謝罪ではなく感謝で、ありがとう、と。 そして地面を蹴る。 自ら黒の波に潜り込み、片っ端から破壊する。  ……そうして戦いに身を置いて。  ふと、さっきまで自分がなにを思ってなにを口にしたのか。  思い出そうとした時にはもう……  きっかけも小さな思いも、全て無くなってしまっていた。 Next Menu back