───未来への飛翔/黒の夢U───
【ケース850:晦悠介/決戦2】 石段の中腹より侵入を果たした世界はつくづく異世界。 ここがかつて、未来の果てでルドラが創造し、魔物たちと住んでいる世界。 肌で感じられる。 入った途端に思考に流れ込んでくる……“歴史の壁”というべきか、 それを理解させるだけの空気が、不思議とそこにはあった。 それがかつては“俺”だったからこそ感じられることなのか、 それともルドラがそれを理解させようとしているから感じ取れるのかは解らない。 彰利 「……あんまいい空気じゃねぇやね」 悠介 「……ああ」 俺と彰利が両方ともに思うこと。 だったら俺と彰利の融合体みたいな感じであるルドラはどうなんだろうかと考えた。 いや、別に答えなんてどうでもいいわけだが。 彰利 「うっへぇ……召喚獣っつーか、狭界で見るような幻獣ばっかじゃねーの」 黒に取り込まれていない、そのままの色を持った幻獣やモンスターが居た。 間違いないだろう……ここはルドラが作った世界だ。 だが、だからこそ自然体。 幻獣たちは俺達を見るや、その牙を剥いてくる───! 彰利 「おわわちょっ……お待ち!話せばワカメ!     じゃなくて味噌汁の具がワカメ!でもなくて!」 悠介 「器用な動揺をしてる場合かバカッ!」 彰利 「キャア馬鹿呼ばわり!?おーお良いでしょうとも!     今更こげな幻獣どもらに負けるアタイじゃねィェー!!」 悠介 「そうか。じゃあ任せた」 彰利 「エエッ!?ここアタイだけで!?……あ、いや待て?     ここで後続して追ってくるようなヤロウどもを殲滅しときゃあ…………よっしゃ!     任せとけ悠介!こっちはアタイが引き付けとく!」 悠介 「頑張ったけどダメだった、なんて聞きたくないからなー!」 彰利 「オウヨー!あたしゃ努力を盾に結果を出せねー野郎にゃなりたかねーからね!」 努力をしたから許されるとか、そういうのが嫌だと言いたいんだろうか。 でもあいつって、努力すると大抵天狗になって結果が残せないたわけだからな……。 悠介 「解ったー!んじゃああっちから猛進してくるベヒーモス族も任せたぞー!」 と、走りながらお願いすると、ヒエー!とヘンな奇声をあげていた。 しかし黒死霧葬拳(ダークマター)をゴギィンと胸の前で打ち鳴らすと、 同じく具足を叩きつけるように大地を踏みしめ、構えてゆく。 そんな姿を最後に、俺は先へ先へと急いだ。 ───……。 ……。 黒の軍勢は当然のことながら存在した。 大地を駆ける中で襲い掛かってくる黒たちを破壊しながら前へ前へ。 何処へ進めばいいかは、この世界に入った途端に感じた“気配”が教えてくれた。 黒  『ギガァォッ!!!』 悠介 「シィッ!」 襲い掛かる黒をラグで斬り捨てる。 斬り捨てられた黒は、光のエンチャント能力により霧散。 空から大地から襲い掛かるそいつらを走りながら霧散させ、 目的とする場所までの最短距離を走る。 溢れる黒は十や二十では済まず、振るった先から剣が黒に引っかかる感じに滅んでゆく。 振るえば必ず当たる、なんていう馬鹿げた状況だ。 それでも斬り滅ぼしながら前へと進み、剣が届かない場所には雷撃を放ち、これを粉砕。 悠介 「失敗だった……!ヒロラインで疾駆スキルでも手に入れておけば……!」 普通に走るだけでも今では相当に速い筈なのに、黒はもっと速いとくる。 だから腕だけに“光”をあてがい、体に負担がかからない程度の速度で黒を斬る。 幻獣たちは皆彰利のほうへと向かったんだろう。 黒だけがここにあり、 元々の狙いである俺にしか興味がないといった風情で俺を襲い続ける。 悠介 「はっ!ふっ!せいっ!はぁっ!つっ!だぁりゃぁっ!!」 乱暴に振るう剣も、振り方こそ乱暴だが敵を確実に仕留める弱点を突いてのもの。 けど埒が空かないし、どれだけ斬り捨ててももうこの世界はゲーム世界じゃない。」 レベルは上がらないし、HPが回復することもないのだ。 だからと右手のラグで黒を斬り、左手に創造した閃光爆弾で黒を破壊する。 閃光玉ではなく爆弾だ。 黒の海に投げると爆発し、多少のダメージを与えてくれる。 そうした隙を穿って疾駆するわけだが、空いた隙間もすぐに埋められる。 悠介 「ああ……もう……!いい加減にしろてめぇらぁっ!!《ゾフィイィン!!》』 全然進めない状況に頭のどっかがキレた。 白を解放すると光と雷を同じく解放させて、 ラグにエンチャントさせるや剣閃を四方八方に放ち、見える景色を堪能する。 ああ、黒だけじゃないって素晴らしいなぁ! 悠介 『伎装砲術(レンジ/アロー)!』 ブレードオープンさせたラグでメガレールを放つ放つ放つ! 光をエンチャントさせた電磁大砲が敵を貫いてゆく様は見ていて爽快! けど敵も直線馬鹿ばかりなわけじゃない。 電磁大砲が届く範囲の外から地を這うように接近し、俺へと攻撃を……! 悠介 『覇気脚!!』  ドゴブチャア!! ……する前に足で踏み潰し、光を流し込んで体内爆破。 武器はなにも剣だけじゃない。 この五体に染み込んだ我が練磨、今こそ見せてくれよう!……進みながら! 悠介 『八極正拳奥義!波動旋風脚!!』 四方八方から襲い掛かるのならばと、足に光をエンチャントさせ、 剣閃を放つ要領で、軽い跳躍とともに身を捻って旋風脚。 結果は───馬鹿なことした! 慣れてない攻撃なんてするもんじゃない! 悠介 『うおおおてんで効いてねぇええええっ!!!』 久しく俺は馬鹿なんでしょーかと神に懺悔しながら疾駆。 黒を斬り滅ぼしながら“光”を放射し、周りの黒を焼き尽くす。 悠介 『はぁっ───!……こんなところで足止め食うわけにはいかないんだよっ……!』 黒が散り、ひらけた景色に黒はない。 とはいえどうせすぐに飛んでくるのだろう。 そう考えた俺はすぐに移動を再開させ、大地を蹴った。 ───この世界は広い。 その最果てに辿り着くべき場所があるのを、俺はもう知っている。 ただただ平坦な大地が広がり、もちろん山も丘も存在するが、 果てにはただ崖が存在するのみ。 世界を一周することなどできず、果てを目指せば果てへと辿り着ける世界がここだ。 黒  『オァアアアオオオッ!!!』 悠介 『つ───早速かよ……!』 俺をからかっているのだろう。 今度は一体一体景色の果てから個々に飛翔してきた黒が、俺へと襲い掛かる。 それらは斬り滅ぼすごとに力を増し、こちらに圧力をかけてきた。 それでも倒せないほどではなく、一撃一撃に力を込めて黒を斬り捨ててゆく。 悠介 『黒を殺せばそれだけルドラの力が弱まるとはいえ……!』 この数を馬鹿正直に殺していたら、時間がいくつあっても足りやしない。 とはいえ力を解放して一気に殲滅、なんてやっていたらこちらの体力が尽きる。 能力は無限じゃない。 確かにこの世界にはマナが存在しているが、 だからといって先ほどのように光で一気に殲滅、なんてことをし続けていれば、 衰弱して負けるのは目に見えている。 結局は剣で倒すのが一番なのだ。 悠介 『───集中……!』 トランスを浅いところまで弱まらせる。 集中しすぎると広い部分にまで気が回らなくなるからだ。 そうしてから黒を一体一体確実に斬り捨て、霧散させてゆく。 目的地はまだまだ先だ。 こんなところで足止めを食うわけにもいかない。 そう芯に喝を入れた俺は、深く足を大地に踏みしめると、前傾姿勢で突撃をかける。 敵を迎え撃つ状態ではなく、防御を捨てた突撃姿勢。 敵を一撃一撃で確実に滅ぼしながら、足は最速で回転させる。 足と腕に“光”をエンチャントさせているような状態だ。 悠介 『はっ!ふっ!はっ!せいせいせいせいぃっ!!』 払い、斬り上げ、斬り下ろし、打突、斬り払い、ぶちかまし、跳躍蹴り、 踵落とし、踏みつけ───向かってくる敵を霧散させる。 体の調子は上々。 負ける気はせず、振るう攻撃の全ては空振りなしで黒を消していた。  ───だが、そんな折。 悠介 『!?っ───くぅ!!』 やり方が汚い、とつい口についてしまう黒を見て、消すのではなく殴り飛ばした。 その動揺を突くように一斉に襲い掛かる黒を、舌打ちと同時に再び“光”で消す。 悠介 『───っ……はぁっ……!』 また無駄な消費を……! 頭の中でそう毒づきながらも、殴り飛ばした黒を一瞥してから駆け出す。 ……倒れている黒。 俺の親友の姿をしていたソレを、視界から消すかのように。 【ケース851:藍田亮/黒の夢5】 ドンドガガパパパパパパァンッ!!! 藍田 『ウォジャジャジャジャジャジャソィイッ!!!』 人型の黒の顔面に足ビンタをかまし、怯んだところへトドメの蹴り。 黒の軍勢を吹き飛ばす弾として飛ばす。 藍田 『ひゅはぁあ〜〜〜〜っ……!!!ほんっとにキリがねぇなぁオイ!』 気づけば孤立の俺参上。 だが恐れることなかれ! 我は将!一騎当千のモノノフであるぞ! あ、でもそれじゃあ彰利と立場が重なるか。忘れよう。 藍田 『は〜、結局戦う理由も明確になってねーけど、これでいいのかねぇ』 や、そりゃ生きたいよ?忘れたくないよ? それを理由にするなら確かに戦う理由はあるけどさ。 だからって命懸けって、どういうことなの……。 などとヘリントン兄貴の真似をしている場合じゃなく。 藍田 『羊肉(ムートン)!!』  ドボガァンッ!! 後ろから襲い掛かる気配を振り向きザマに蹴り飛ばし、やはり黒の軍勢へとぶつけてゆく。 おーお、面白いくらいに吹き飛ぶな。 藍田 『どこからでもかかってきなさい』 ……なんだろうなぁ、張り合いがない。 敵は確かに強いのに、こう……戦うための明確さがあやふやなためか、芯が立たない。 ヘンだなぁ、ヒロラインの時はもっとこう………… ああやめやめ、腐ってどうなるわけでもなし。 藍田 『誰かのためとかなんだとか……どうでもいいのかもしれないなぁ』 ここで戦うのは確かに晦たちのためになるけど、自分の記憶のためでもある。 だが考えてもみよう。 それって自分の記憶を人質に、命懸けで戦えって強制させてるだけじゃないか? 藍田 『おぉらっ!そらそらっ!そぅらさぁっ!!』 俺達が空界で生きることになった時、俺達は死んだことにされた。 今更地界で今まで通りの生活が出来るわけでもなし、 それなのに記憶を消された上に空界で生きることも許されない。 なのに命懸けで戦え、って……はは、つくづくつりあい取れてねぇや。 藍田 『………………つまんねぇ……なぁ……』 心が枯れた。 なんなんだろうな、この空虚。 戦うだけなら子供にだって出来る。 俺はもっとこう……楽しいことをしたいんだが。 ろくに意思もない木偶をいくら破壊したところで、 どこぞの時代のように武名が上がるわけでもない。 命を賭けて戦うほど、この未来の先が輝いているのか、俺の心は弱くなり始めていた。 だからってルドラに降るほどアホゥな思考なんて持ち合わせていないわけで。 藍田 『こう……な。カリスマが足りねぇんだよな、彰利って……』 あいつの傍には日常を感じさせるなにかがある。 晦の傍にはこう、適度な緊張と静けさってのがある。 二人が居ることでかなりバランスが取れた雰囲気にはなるんだ。 けど、そこには“結束力”めいた決定打がないんだ。 なんとなく原中で一緒になって、笑い合って、意気投合して……それだけ。 原メイツとして楽しくやれていたが、 命懸けでなにかをするほど俺達の意気は投合していたのだろうか。 そんな疑問が何度も浮かんできては、俺をもやもやさせた。 藍田 『仲間……だな。仲間って意識が欲しい。カリスマ。仲間意識。そういう芯が』 日常は大事だし、緊張感も大事だ。 でも一歩が足りない。 心の底から“俺とお前らは仲間だ!!”って確信させるくらいの仲間意識が足りない。 それはなんていうか、寂しいことだ。 藍田 『アッキョーーゥ!!アッキョーーゥ!!ホォーーーッ!アキョキョッキョ!!』 なんて思いをめぐらせながらも、戦いは戦いとしてきちんとこなす。 ワールドヒーローズのドラゴンの真似をしながら蹴りを放ち、 黒を潰しては光の砂をかける。 藍田 『………』 すっきりしないんだ。 俺は………………ああそうだ。 俺は正直、晦や弦月のために命を賭けることを良しとしていない。 同じ原中メンバーだが、それだけだ。 強い仲間意識があるわけでも、あいつらのカリスマに惹かれたわけでもない。 遊びの延長でここに立っている気分で、 そのまま命を賭けろなんて乞われても出来る筈もない。 ……それでもなにかがあった筈だった。 俺がここにこうして立っている理由が、 命を賭けて未来を目指そう、目指さなきゃウソだって思えるなにかが。 俺は多分、その答えを求めるために……戦いたいって思ってる。 見つかんなくったってそれでいい、自己満足で結構、俺はそう思ってる。 藍田 『姓は藍田!名は亮!字は檻芭!この乱世を駆ける一人の修羅である!     今から貴様らにィイ……真の“力”というものを見せてやる!!』 拳を握った両腕を振り上げ、頭上から一気に腹部より平行した位置へと振り下ろす!  ゴバァンッ!! その過程で身につけていた執事服は隆起する筋肉によって切り裂かれ、 これみよがしに存在を主張する筋肉が朝の日差しに当てられ光り輝く……! オリバ『本当ニ……本当ニヨク現レテクレタ…………。コレデ邪魔ハ入ラナイ……。     イヤァ……嬉シクテネ……《ミキキモリモリ……!!》』 パンツから櫛を取り出し、薄めの髪を筋肉ゴリモリに隆起させながら梳く。 途端に黒が襲い掛かるが、ザリュウッ!! 黒  『……ゴガッ!?』 攻撃を受けようが、外井雪之丞もうっとりのこの素晴らしい肉体には傷ひとつつかない。 そう、通常状態の倍化能力が足に回ったのなら、 その回った分の能力全てがオリバの場合は全能力に分配される。 防御力然り攻撃力然り。 ハハ、今度のオレはちょっと強いゼ? 【ケース852:簾翁みさお/黒の夢6】 晦神社へと続く石段の前。 黒の奔流が押し寄せるその中心で、月詠街側のわたしたちは勢力の分断を担当している。 他の人たちに比べれば基本能力値が高いおかげで任された場所ですが、 正直ここまで辛いとは思ってもみませんでした。 黒  『ぐばあしゃあああ!!!』 黒  『ぐがぁっ!がぁああっ!!』 黒  『あがぁあああああっ!!!!』 目の前には黒の壁。 あらゆる手段で破壊して抑えて霧散させてと、息つく暇なんてほんの少し。 それでもゼットくんが協力してくれているだけで、随分と状況は軽い方に感じられた。 ……そう、こんな圧され気味な状況でも軽いほう、なのだ。 豆村 『スロォーーーイィイイイングッ!!!ブラストォオオオオオッ!!!』 途中で合流した子供たちは……あまり活躍していない。 確かに細々と倒してはいるが、いまいち緊張感に欠けている。 ゲームの中で強くなったのは確かだけど、そのゲームの中での成長が、 彼らに“死ぬ可能性”という緊張感を僅かであろうが取り上げてしまっているのだ。 死んでも生き返れる世界での冒険は、それは快適だったでしょう。 目の前で人が死ぬことも、村人が死んでしまった程度にしか思えないでしょう。 所詮はその程度。 顔に余裕があるうちは、きっとどれだけの危機が訪れても、 自分が死ぬイメージなんて浮かばないまま寿命を迎えるに違いありません。 運命って言葉が本当に存在するとしたら、ですが。 わたしはそんな寿命を受け入れるのなんて御免ですがね。 みさお『ふぅううっ───』 右手に光を溜める。 調律と中立を司る神魔の力を以って、 月操力とともにゲームの中で手に入れたあらゆる強化能力と攻撃能力を集中。 眩いばかりの光が集中してゆき、そこにお───椛さんがさらに力を込めてゆく。 ……おかあさん、なんて呼ぶのはやめましょうね、女々しいです。 聖  『みさおちゃん!こっちの準備は出来てるよ!』 みさお『うん!』 聖ちゃんが聖域を張り、月の家系と死神側の人たちの能力を向上させる。 下げるばかりが能力じゃない。 ゲームの世界で能力を手に入れたのは、なにもわたしだけじゃないのだから。 トランスを発動させることで様々な応用を効かせられるようになったわたしたちは、 それぞれが出来ることを全力で為すことで、今の状況を切り拓いていた。 みさお『聖ちゃん!今!』 聖  『うん!』 わたしの言葉を合図に、聖ちゃんが“限定聖域”を発動。 意識した存在のみを聖域から弾くという特殊な能力で、 普通なら一人にしか通用しない能力。 けれど相手は“黒”という限定された敵であるために、 一体を限定すれば全ての黒を弾くことが出来る。 なぜなら彼らは黒として、ルドラという一つの存在と繋がっているからだ。 聖  『っ……はぁあああああああっ!!!!』 そしてここからが攻め手。 聖ちゃんは聖域をまるで二枚の板のように立てて巨大な壁を作ると、 それらで背後から前方までを一気に閉じる。 合掌する要領で黒を掻き集め、目の前で潰すように。 それを確認してから右手に溜めた光を───掻き集められた黒へと、空中から放つ! 黒  『ギギャアッ!ギガァアアアアッ!!!』 白と黄色が混ざったような閃光の巨弾が黒の大地へと放たれ、 そんな状況でも焦ることも見上げることもせず、ただ暴れる黒を照らしてゆく。 直後に光の弾はその大きさで黒を押し潰し、弾が半球になる頃に炸裂し、 飲み込めなかった黒までもを巻き込んで大爆発を起こす。 そうして黒が散り散りになって久しぶりに大地が顔を覗かせても、 地面には傷跡の少しも存在しない。 豆村 『う、うぅわすげぇ……!』 刹那 「あれだけの爆発なのに……!」 ボソボソと小さく騒ぐ子供達は無視します。 こうして倒してみせたところで、敵の数は無尽蔵に近いのですから。 みさお『敵が666体程度だったら、     ここまで先を見据えて嘆くこともなかったんでしょうが……はぁ』 脱力しながら地面に降り立つ。 家や電柱が潰れて地面になったそこには、時折人の形をした絨毯が存在している。 まあ、逃げなかったことをせいぜい悔やんでください。 事情があって逃げられなかった人はご愁傷様です。 みさお『とはいえ……』 石段から流れ出る黒の数は衰えを知りません。 倒しても倒しても際限なく現われて、しかも現れるたびに強くなっている。 今の攻撃でだってなんとか倒せたってだけで、 そろそろ戦うのがしんどくなっているのが実情です。 みさお『はぁ……』 トランスを深く解放。 雪崩れ込んでくるように我先にと石段から溢れる黒の景色を前に、 力を溜めてのアルファレイド。 直撃をくらった黒たちは散開して、四方八方へと駆け、飛んでゆく。 アルファレイドで数秒のみこちらへの前進が無くなった場所に、 聖ちゃんが聖域での壁を作り、敵の動きを限定させる。 と、次から次へと押し寄せる黒の塊が、 移動できなくなった黒にぶつかるとそのまま崩れるように融合。 油と油が溶け込むような感じで、どんどんと巨大にな塊に変貌する……! 木葉 『姉さん、逃げていい?全てを任せて』 若葉 『やめさないっ!』 春菜 『うわー……威圧感が尋常じゃないんだけど……』 ルナ 『ごー、妹』 若葉 『妹と呼ばないでいただけますっ!?』 ゼノ 『黙れ女、耳障りだ』 若葉 『フリーター死神は黙っていなさい!』 ゼノ 『ぬぐっ……!ぐぐぐ……!』 ルナ 『やーいやーい、対みなっちスネカジリ夫〜♪略してスネ夫〜〜〜っ♪』 ゼノ 『ゼファァアーーーッ!!!貴様あぁあああああっ!!!!』 粉雪 『はぁ……』 夜華 『騒ぐばかりではなくもっと攻めないか!このままでは押し切られるぞ!』 騒がしいのは毎度のこととはいえ……何故父さまと彰衛門さんの周りにはこう、 やかましい人種の人しか集まらないんでしょうかね。 と、いくら考えてみたところで頭痛のタネにしかならないんですけど。 さて……どう潰したものでしょうか、この巨大な黒は…… ゼット『ジャガァアノォオトッ!!!』  ギョファァイン!!ゾボォッガァンッ!!! ……ああいえ、一撃でした。 ノートさんに合成状態でコピーされた斧、ジャガーノートの一撃が、 大きすぎる体を斬撃とその余波だけで両断します。 スマッシュ……身を捻る反動と速度を以って、全力で振り切った斧の一撃は異常の一言。 本当に呆気もなく斬滅させてしまったものだから、 子供達は口を開けたまま閉じることが出来ないでいた。 ゼット『……失敗だったな。こんなことならもっと、武具を優先させて鍛えるべきだった』 けれどそうした一撃を放ってみせても、ゼットくんはどこか気落ちしているようでした。 その気落ちの理由も明確ではないような風情で小さく舌打ちをすると、 雪崩れ込んでくる黒へと身を投じる。 飲まれることなく、黒を切り刻みながら。 みさお『ゼットくん!無茶は───』 ゼット『待ちでの殲滅では時間がかかる!素早く殺して黒を消費させることが、     俺達がすべきことだろう!余力を残そうとなどする必要があるか!?』 みさお『っ───!』 その通りだ。 今まで守りの戦いをしていたけれど、 逆に敵の強さを無駄に引き出しただけ、という気さえする。 だったらたとえ無謀に近くても、父さまたちが戦いやすくするために───! みさお『いきます───っ!月閃光!!』 神魔月昂刃に光を込めて、巨大剣閃を放つようにして空間ごと黒を削り取る。 景色と一緒に削り取られた黒は力を無くして霧散する……けど、 また次から次へと湧いてくる。 ここまでだと本当に限りがあるのかどうかを疑いたくなる。 でも文句も言っていられない。 出来る限りのことをやって、限界を作らず、この生命続く限りに───! みさお『アルファレイドカタストロファアーーーーッ!!!』 冥月刀混入の神魔月昂刃の月操力汲々能力をフルに活用して、 ゼットくんと同じく黒の波に閃光を放ち続ける。 一撃で倒せないヤツには消えるまで当て続ける感じで、 ガトリングでも装備しながら黒を狙い続けるゲームにも似た感覚。 それでも気を抜けば自分がやられるという緊張感が、集中力を決して切れさせてくれない。 むしろ、それは望むところだったけれど。 豆村 『すげぇ威力……レベルだって近いはずなのに、どうしてここまで……』 同じくアルファレイドを放っていたみずきが落胆を表情に出すけれど、 それを目で叱咤して全力を出せと叫ぶ。 そう、レベルなんて近い。 それでも威力が違うのは、確かに冥月刀による部分もある。 けれど一番の問題はみずきの心の中だ。 わたしたちが居れば大丈夫、自分は死になんかしないと、心に余裕を持ってしまっている。 結論から言えば、そんな気持ちのまま戦い続ければみずきは死ぬだろう。 わたしだってそれをわざわざ助ける気はない。 この場は自分の力のみを信じて突き進まなければいけない場面なんだから。  ガドォンッ!バガァン!! 耳を澄ませば、ありとあらゆるところで鳴り響く爆発と、怒涛の咆哮。 各地でみんながそれぞれの力を全力で発揮して、黒を蹴散らし続けている。 音だけでそれが解るほどにトランスの集中力は高く、 そこまで意識を高めなければ追いつけない状況に、少し歯噛みした。  ───そんな時だ。 ふと、炸裂音に混じり、奇妙な音と叫び声を耳にする。 何事かと思い、攻撃を続ける中で視線をめぐらせてみれば、 遠くに見えるは閃光の中で吹き飛ぶ人垣。 そして、その場の上空に存在する───黒の精霊。 みさお『───ゼットくん!』 ゼット『解っている!』 敵側の精霊が現れた……予想よりもよっぽど早い。 でも早めに出てくれる分には逆にありがたいくらいだ。 余力があるうちに精霊たちを叩ければ、黒の数は激減出来る筈だ。 ……もちろん、倒せるのならば、ですけど。 こちら側の精霊たちもすぐに行動してくれるとは思いますが、 自分に出来ることは極力自分でやっていかないとまずい。 だからわたしとゼットくんは、みんなが辺りの状況に戸惑う中でも黒の排除を続けていた。 【ケース853:穂岸遥一郎/黒の夢7】 敵側の精霊の出現を確認する。 部隊といったら妙な例えになるが、 それぞれ分かれている集団の場に一体ずつ、というわけでもない。 急に現れては精霊魔法を撃ち落とし、俺達の殲滅にかかった。 澄音 「ディスペル!!」 が、精霊たちが一斉に放った魔法の全てを蒼木が無効化させると、 次の瞬間にはこちらの反撃の時。 まずは地面に叩き落すべくホーリーランスを発動。 中空より現れた光の槍が精霊……ノームを貫きながら地面目掛けて叩き落す。 遥一郎「シャインエッジ!」 ───加減なんてしない。 槍が地面に突き刺さる寸前、地面からはシャインエッジを出現させて串刺しにすると、 続けてホーリーセイバーを追加発動。 無数に出現した光の剣が四方八方からノームに突き刺さり、動きを封じる。 遥一郎「よし───!」 続けて大魔法、古代魔法───と続ける筈だったが、 それより速くノームは影に沈み、その場から消える。 遥一郎「っ───」 地の精霊のくせに影に沈むなとツッコミたくもなったが、 そんなことが言える状況でもなかった。 突然地面が揺れたかと思った時にはもう遅い。 グランドダッシャーが地面を破壊し、 立っていられなくなりバランスを崩した途端に地面から突き出される大地の刃。 槍のように伸びたそれを咄嗟に左手で防ズボァッ!! 遥一郎「!───っ……が───!」 掌に異物。 容易く掌を貫いた石の槍はそれでも止まらず、 ミキミキと手の肉を引き裂きながら俺の顔を狙う。 ───迷う時間はなかった。 身を縮み込ませる激痛に背を震わせながら、 槍が中指と人差し指の堺をブギリと千切るや行動。 多少残っていた肉をも引き裂いて、無理矢理体を捻って槍を回避。 そのままだったなら顔面を貫いていたであろう槍に、 やはり身を震わせながらも体勢を立て直し、槍ではなく辺りを見渡して緊張を高める。 手はもう回復してある。 痛みが多少残ってはいるものの、今はそれよりも優先しなければいけないことが出来た。 遥一郎「ショックウェーブ!!」 怪我を回復させた手に魔法陣を展開させ、その拳で地面を殴り、 地面に雷撃と衝撃の両方を走らせることで影に潜り込んだノームを弾き出し、 遥一郎「続けてくらえ───!ホーリー!」 出てきたところに光魔法の全力を放つ! 黒ノーム『ははははー!無駄だぞー!』 一瞬でノームを包む光。 しかしノームは地面から黒の岩盤を突き出させると盾にして、 閃光のような爆発から逃れる……! よほどに圧縮されていたのか、ホーリーは黒の岩盤を崩すだけに終わり、 崩れた岩の先にはニタニタと笑うノームの姿がワゴチャア!! …………潰れた。 遥一郎「……へ?」 目の前でノームが潰れた。 完全に油断していたのか、横から振るわれた拳をまともにくらい、 顔面から地面に叩きつけられると痙攣。 即座に光の砂をかけられ、冗談でもなんでもなく……霧散した。 オリバ『オヤオヤ、自分ノ姿ヲ隠スッテノハ、相手ノコトモ見エナクナルッテノニ……     フフ、随分ノンビリシタモンダゼ、精霊ノ戦イカタッテノハ』 そして、ノームを潰した腕の先にはオリバが居た。 …………ご丁寧にパンツ一丁で。 オリバ『一丁上ガリダ。次ニ行クゼ。     彼ラニ───ワタシ以上ノ自由ハ許サンッッ!!』 顔を微妙に揺らしながらの言葉とともに、バッと後ろを振り向くと歩いてゆく。 一撃……まさか一撃で終わらせるとは想像もしてなかった。 だが、一撃だからこそマズイ。 恐らく敵の精霊全員にノームの死は知れ渡っただろう。 遥一郎「……油断はもう、一切なしだ」 来るとしたらそう。 敵は一切の油断なく俺達を殺しにかかる。 けどそれならば精霊一体を殺せたのは大きい。 イドに続いてノームを殺せたなら、こちら側の精霊にあぶれが出る。 そのあぶれた精霊と一緒に戦えば、苦労するであろう高位精霊戦も多少は楽になる筈だ。 ……その余裕を、俺達にくれれば、だが。 遥一郎「マクスウェル!」 武具とともにコピーされたマクスウェルを召喚。 来る精霊戦に備えるべく、今は用はなくても傍らに待機してもらう。 そうこう考えていると、急に現れた精霊に驚いたらしい観咲が震えながら声をかけてくる。 雪音 「ほ、ほっほほほぎホギッちゃん……?どどどうするの……?」 遥一郎「死なない程度に戦う」 真由美「うわぁ…………与一くんってさ、普段賑やかだったり冷静だったりするけど、     一度火が灯ると鎮火までに時間がかかるタイプだよね……」 遥一郎「能力があるなら、せめて自分に出来ることくらいはしたいじゃないか。     ……もちろん、自分が不利にならない程度にだけど」 真由美「むぅ……そして狡賢い。     お姉さん、与一くんをそんな風に育てた覚えはないんだけど」 遥一郎「歳一緒でしょうが」 こんな状況なのに冗談が言えるなら、これで結構肝が据わってるのかもしれない。 まあ、真由美さんだしなぁ。 そんな考えに苦笑を漏らしながら一歩を踏みしめる。 ……見上げる景色には精霊。 ノームが殺されたことに腹を立てているのか、 チーターの如き速さで大地を駆けるオリバを睨みつけるシルフが居た。 ……さて。 狙いはつけたけど、果たして生きていられるかどうか……。 遥一郎「やれやれ、ほとんど脅迫じゃないか、これ」 この戦いに参加して勝たなければ記憶が消える。 勝てなければ死ぬだけ。 最初から生きることを選択すれば記憶を消されて、 精霊たちに干渉した全ての物事を忘れる。 そうなれば、元々始りの神々たちが作ったとされる“奇跡”に大きく係わっている俺は、 サクラたちとの出会い……つまり高校時代から今までのことのほぼ全てを失う。 記憶も経験も。 そんなことを言われれば、戦うしかない。 そりゃあ無条件で生きられるのなら生きれるほうを誰しもが選ぶだろう。 けどそこに今までの記憶の大半が無いんじゃあ、“俺”が生きているとは言えないんだ。 遥一郎「すぅ……はぁ…………」 思考を回転させる。 導き出すのは勝利の標、招くのは勝利の漢神。 思考を高速で回転させることによって解放できる、真トランス状態のみの能力を今。 遥一郎「ぶっつけ本番にも近いけど───」 贅沢は言ってられない。 項目にいつの間にか出現していた能力を解放する。 息を整えて、目をしっかりと見開いて───! 遥一郎「“答えを出す者(アンサートーカー)”!」 目を変異させ、脳をフル回転させる───! 規格外の回転をする脳が、視覚聴覚、あらゆる感覚を通して手に入る情報を高速で処理、 答えを出すことから───ゴーストキャンパスと呼ばれている!じゃなくて! 冷静になれ穂岸遥一郎! ゲームの中でなんやかんやと付き合いが長かったからって、 原中の猛者連中や観咲の思考に流されるな! 遥一郎「フリジットランス!」 わざと声に出して魔法を発動。 するとシルフはオリバから俺へと視線を移し、 移した途端に頭上に現れた氷の槍に貫かれ、地面に叩き落される。 ホーリーランスと同じく、貫きはするがダメージのない魔法だ。 槍がシルフごと地面に突き刺さるとその場で氷結し、シルフの動きを固定する。 そういった敵の行動を無理矢理停止させる魔法だ。 しかし相手は精霊。 しかも最果てまで辿り着き、その時までをルドラと一緒に居た悪魔的強さを誇る精霊。 俺の魔法くらい、なんてことはないというように砕いてみせると、 風を纏ったままこちらへ突撃を仕掛ける───! 黒シルフ『法術師ごときがわたしに挑むか───!』 遥一郎 「───」 低空飛行で飛翔してくるシルフを見据える。 冷静に、焦ることなく。 “答えが見える”っていうのは、ある意味で未来視よりも性質が悪い。 相手がこう来ると解っているのではなく、 こうすれば勝てる、避けられるなど、相手の行動自体は読めないからだ。 遥一郎「フォトンフレイム!」 まず一。 突撃してくるシルフが纏っている暴風の中心に熱を出現させ、一気に爆発させる。 すると風は霧散し、しかしなにするものぞと突撃してくるシルフ。 ───ニ。 突撃しながら放たれる風魔法を歩法だけでギリギリに躱す。 三。 ならばと接近し、風神戟で刺し殺そうとするシルフの攻撃を風魔法で逸らし、 勢いのままに捌くと体勢を変えて攻撃を躱す。 闘牛の突進を体を反転させてひらりと躱すように。 遥一郎「インブレイスエンド!!」 そして、振り向くシルフに氷の古代魔法をぶつける! 風の弱点は、風をも凍てつかせる氷。 その定石を辿り、魔法陣を弾かせると巨大な氷がシルフを包み、破裂する。 一瞬にして敵を凍らせ、砕くことでダメージを与える魔法だ。 敵が弱ければ氷と一緒に崩れて終わるなんてことはよくあることだが、相手は精霊。 多少の裂傷凍傷はあれど、むしろ面白そうに笑みを浮かべて襲い掛かってくる───! 氷属性は多少しか効いていない……やっぱり風の精霊だとしても、今は黒の精霊か。 だったら─── 遥一郎「右手に光、左手に氷───!」 他のみんなと違い、ストックが出来ない俺に使える能力。 片手ずつに異なる属性の魔法陣を作り、 それを編み合わせて繋げることで“本来存在しない魔法”を作り上げる。 思考高速化があるからこそ、魔法陣がバラケるより先に繋げることが出来る。 そうして固めたものを弾けさせると、光の氷を発生させて再びシルフを氷漬けにする! 黒シルフ『そんな低級魔法が通用すると思うか!』 だが少しの足止めも出来ないままに破壊され、 同時に放たれた風の刃が俺の脇腹を容易く裂き、血を噴き出させる。 遥一郎「っ!く、あっ……!」 途端に激痛。 脇腹を押さえ、思わず蹲る体は本能で動いているのか、 俺の命令をまったく受け付けてくれない。 すぐに回復魔法で回復を図るが、敵がそれを待ってくれるわけもなく─── 雪音  「しゅべーとすとらいーーーく!!」 黒シルフ『?無駄だ』 雪音  「あわっ!?」 屈む俺目掛け、風の剣を振り下ろそうとしていたシルフに観咲が不意打ちをかける。 だがシルフは余裕の表情でこれを避け、そんな体勢のままで俺を殺しにかかる───! “答え”は俺の両手に存在しているが、どこでそれを解放すればいいのかが解らない。 その答えまでもをアンサートーカーで導き出そうとするが、 途端に鋭い頭痛に襲われて、それも出来ない状態に陥る。 そんな、敵に背中を向けて蹲る状態のままで、俺は─── 遥一郎(……ははっ) いや……遥一郎。 お前は今どうしてこの数秒を生きていられた? 普通ならとっくに死んでる筈だったのに、生きているのはどうしてだ? 遥一郎(そんなの───) ───振り向く。 両手に展開していた何重もの魔法陣を編み合わせ、一つの巨大な魔法陣に変換させながら。 見上げた視界には、荒れ狂う風の剣を振り下ろすシルフの姿。 そんな姿に臆することなく、 魔法陣を左手に移して、霊章の力を極限まで引き出して───! 黒シルフ『相打ちでもする気か!ははは!』 シルフは笑う。 それはそうだ……シルフの周りには、 さっき破壊したものよりも強い風のシールドが張られている。 どんな強力な魔法を放ったところでそれは弾かれ、 だからといって肉弾戦に持ち込んだところで同じく弾かれるだけ。 そんなことが当然だからこそ彼女は笑ったのだろう。  けど、その顔が瞬時に訝しげなものに変わる。 確実に勝てない、一秒もすれば串刺しになるであろう俺が、静かに笑ったからだ。 ───途端、シルフを包んでいた風と、手にしていた風の刃が霧散する。 黒シルフ『───!?しまっ───』 そう、ディスペル。 蒼木が妖精に教わったっていう、精霊魔法を破壊する極悪魔法だ。 それがあると知っているからこそ博打をし、 頼る相手が蒼木だからこそ、 こうして無防備にもINTのみに全てを注いだ攻撃が出来るのだ───!! 遥一郎「“理力の咆哮(メルトン)”!!」 再び霊章に全てを託し、表情を驚愕に染めたシルフの胸部よりやや下を殴りつける!! そうした途端に俺の中の魔力の全てが霊章から解き放たれ、シルフの体を凍てつかせる! 黒シルフ『……なんだ、全力でやって、多少凍らせるだけか』 遥一郎 「───」 シルフの胸部のやや下部分、殴りつけた部分が凍っている。 現状なんてそんなもので、“答え”を求めてももう“答え”は見えなかった。 ……シルフが笑う。 左手を膨大な魔力で焦がした俺を見て、おかしそうに。 やがて振るわれた腕が俺の心臓部分にぶつかると───…………全ては、終わった。
【Side───簾翁みさお】 ───。 みさお『っ!?』 ふと感じた違和感。 精霊サラマンダーを前に、 攻防を繰り返していたわたしの感覚がそれを拾ったのはたった今。 これは─── みさお『ゼットくん!───穂岸遥一郎さんの魔力が───!』 ゼット『……?───』 戦闘中のゼットくんに向けて叫び、こちらを見る目を真っ直ぐ見ると─── わたしがなにを伝えたいのか解ったのか、 サラマンダーを強引に押し退けると舌打ちをする。 そしてわたしたちが待機するこの場まで下がると、静かに……一言。 ゼット『……穂岸遥一郎から流れていた魔力が消えた。     貴様ら、死にたくなければ死力を尽くせ』 豆村 『───、え……?』 刹那 「消え……って、じゃあ───!?」 ゼット『………』 それ以上はなにも言わない。 わたしもゼットくんが前に出るのと一緒に地面を蹴って、サラマンダーとぶつかる。 ……振り向かないでも解る。 子供達は、“誰かの死”っていう状況にいよいよ現実味を噛み締めてきている。 ……まあ、ただの思いつきなわけですが。 まー、本当によくもまあ頭が回るもんです。 微弱になりすぎて弱まった自分の魔力量を、逆にキツケ代わりにするなんて。 よっぽど感覚研ぎ澄ませてないと拾えませんよ、こんな暗号。 みさお(魔力を暗号代わりって、本当にどうかしてますけど) わたしや椛さんみたいな中立能力者じゃないと拾えませんよ、今の。 それを見越してのことだったら余計に凄いわけですが─── それにしても……もしかしたらいけるんじゃないかな、と思えた。 ノームに続いてシルフまで倒すなんて…………強いですねぇ、穂岸さん。 【Side───End】
がっしゃぁああああああんっ……!! 黒シルフ『……?え、な……?』 心臓の上、胸を貫くはずだった腕はしかし、 俺の胸に衝突するやガラス細工のように砕けて散った。 それを確認して、盛大に冷や汗と安堵の息を吐いて、光の砂をぶちまけた。 遥一郎 「……あんたはな、強くなりすぎたんだ。      だから些細なことなんてどうでもいいって無視してしまう。      ……精霊としての自分の核が光と氷で氷結させられたことも無視するくらい」 黒シルフ『…………』 シルフの体に光の砂がかかる。 それより先に振るっていたウロボロスが、凍てついたシルフの体を強く突くと、 もはや喋ることも出来なくなっていたシルフが崩れ、砂によって塵と化す。 ……そこまでやると、高速思考とアンサートーカーのツケが回ったのか、 トランスも緊張も一気に霧散して、受身も取れないままにその場に倒れた。 雪音 「わお!ホギッちゃんホギッちゃん!     今のって五体投地だよね!?もっかいやってもっかい!」 真由美「そんなこと言ってる場合じゃないってば!与一くん!?しっかりして与一くん!」 雪音 「はいここでキメ台詞!俺が死んでも孫呉の意思は……!」 いつから俺は孫呉の武将になったんだ……。 雪音 「あれ不服?じゃあ曹魏で……ダメ?劉蜀でどうだー!」 ノア 「死ぬだなどと不吉なことを言わないでください!」 雪音 「じゃあやられても何度も挑む南蛮兵魂で」 ノア 「黙っててください!」 雪音 「う、うー」 二体目まで上々のペースで破壊。 それはいい。 こちらもマナさえあればすぐに回復する。 一分もしないうちに立ち上がれるだろう。 ……さすがに、脳を動かしすぎたツケは大きいが。 とはいえ敵さんも、一気に二体殺されたことから警戒を強めたんだろう。 有象無象に溢れてきた黒は途切れ、今やその大半が精霊たちに吸収され、 気づけば黒の波は全て消えていた。 それは喜ばしいことで、恐らくは皆が一様に安堵の息を吐いているところだろう。 だが─── 遥一郎「はぁ……はは…………帰りてぇ……」 各所から集まり宙に浮く精霊たちを見上げ、素直な言葉を口にする。 死、地、風は消したが、敵はまだまだ残っている。 どれも不意を突いての殲滅だ───今度こそ油断はないだろう。 遥一郎「ん、ぐっ……く……!」 倒れてなんかいられない。 徐々に回復してきた頭痛と魔力に息を吐きながら、杖を足代わりにして立ち上がる。 ……さて。 どこまでいけるか……いや、生きて帰れる保障があるのかどうか。 溜め息を吐きながら見上げた空。 まだ朝の空気が流れる蒼空の下に浮く幾多の精霊たちは、 俺達を見下ろしながらどこか虚ろげに笑う。 そして─── 遥一郎「まあ…………本気、っていうなら……そうくるよな……」 真由美「え……───あっ」 見上げる空には繋がってゆく黒たち。 確認するまでもない、融合だ。 黒としてルドラに取りこまれた精霊なんだ、融合することなんて容易いし、 こちらを本気で潰すのであればそうするのは当然のこと。 ───と、そんな時、耳を掠める違和感を拾うとすぐに繋ぐ。 遥一郎「こちら穂岸隊」 声  『遥一郎さんですか!?みさおです!中央部に集まってください!     個々で戦っては全滅の可能性しかありません!融合には融合です!     みんなにも集まるように───』 遥一郎「……みさちー、ナビの“ALL”をクリックしろ」 声  『み、みさっ!?へあっ!?お、おーる……?あ、これですか……?     え、えぇとこれが……』 声多重『うおぉおびっくりしたぁ!?だ、誰!?』 声  『……もしかして』 遥一郎「ボタンひとつでシャッキリポンと解決だ」 声  『うぅう……お手数おかけします……そ、それでは、こほん。     みなさん、町の中央に集合してください!出来るだけ早く!』 声多重『騙されるな鉄郎!そいつは機械の体をエサにお前を!』 声  『ふざけてる場合じゃないんですってば!!』 声多重『コワカカカカカ……!     我ら原中を中心に呼び寄せてアーサー童子になろうって魂胆だな……?     そうは問屋がおろさぬわ……!……ところで問屋ってなに?ホギーさん』 遥一郎「製造業者と売店を繋ぐ業者みたいなものだ。たとえば天麩羅屋があるとして、海老     とかが必要になるな?でも海老は市場……まあ港とか競市で買わなきゃいけないわ     けだ。けど、そんなところまで足を運んで買うのは大変。そこで必要となるのが業     者の問屋。競市なんかで買った海老を手ごろな値段で、けど損しない程度の値段で     天麩羅屋に売るわけだ。“そうは問屋が卸さない”ってのは、たとえば問屋が市で     買う値段は、一般のスーパーなんかで買う値段よりもよっぽど安いわけだが……仲     介料だの手数料だの手間賃がないからな。それなら自分らもその値段で買えたほう     がいいだろ?スーパーなんかの値段じゃなく。けどそう思い通りにはいきませんよ     っていうのが、そうは問屋が卸さない、って言葉なんだ。このルートは我ら問屋の     ものだ!お前らは大人しく仲介料込みのスーパーの価格で買いなさい!……とまあ     そういうことだな。ちなみに直接買うのとスーパーで買うのとでは、約3割ほども     値段が違うと云われている。卸売りって言葉もあるくらい、問屋の買値ってのはい     いものなんだよ。問屋にも生活がかかってるからな、その値段では卸せないってこ     とから、その値段では問屋は卸せません、って言葉に繋がるわけだ。そうは問屋が     卸さないって言葉はそのまま、“そうはいきません”って意味って理解してくれて     いい。あまり難しく考えると覚えられるものも覚えられないからな」 声  『…………あ、あのー、穂岸の旦那?……その、死んだんじゃ……』 遥一郎「…………おおっ?その声はみずきか。ああ、今の俺は霊魂だ。     気軽にレーコン・ザ・ハヤシライス川田とでも呼んで、命懸けで抗え子供たち」 声  『遥一郎さんって時々素で馬鹿野郎ですよね』 遥一郎「……みさお。それ痛いから勘弁してくれ」 話しながら、もう走っていた。 精霊達はもう一つに纏まりつつある。 それを見上げながら言葉を発し、 やがて大体の人達が集まっている町の中央へと足を落ち着かせる。 みさお『みんな揃いましたか!?』 岡田 「いや!藍田がまだだ!」 オリバ「………」 飯田 「くそっ、なにやってんだあいつ……!この緊急の時に……!」 夏子 「まさか……もう……!」 オリバ「………」 丘野 「そんな馬鹿なことがあるかっ!でござるよ!」 オリバ「イヤ……アノ……」 岡田 「ああオリバ、オリバには関係ないことだから黙っててくれな?」 オリバ「………」 遥一郎「…………オリバと融合したくないならしたくないって、言ったらどうだ……?」 全員 『全力でしたくないです!!』 みんな正直だった。 岡田 「オリバ……俺、藍田と合体したいんだ!」 飯田 「俺……藍田無しでは生きていけない!」 島田 「俺達の藍田を返してくれ!」 永田 「藍田に会いたいんだ!藍田に会わせてくれ!」 下田 「あの凛々しかった藍田を……!」 蒲田 「俺達みんなの藍田を……!」 オリバ「………」 オリバは物凄く嫌そうな顔をしていた。 そうこうしてる間にみさおと椛によって融合は開始され、 片っ端から俺達は強制融合させられる。 基盤に“奇跡”が必要ということで芯に選ばれたのは凍弥。 それからみんなの部具ごとが合成されてゆき、 渋々藍田に戻った彼を吸収する。 そうしているうちにこちら側の精霊が集まると─── オリジン『勝てる見込みは少ないが、やれるところまではやるぞ』 ノート 『出来ればマナと癒しの大樹の保護を続けたかったが───      贅沢を言える状況でもないな……聞け汝ら。      ルドラ側の精霊相手に超越はあまり得策とはいえん』 オリジン『よくて一度。超越が使えるのは一度きり、と考えろ。      一度超越を使えば、超越の上掛けは出来ん。      超越を行使したとして、      その瞬間に敵がルドラから黒を引き出し強化されれば、      負けるのは確実に我らだ』 ノート 『……そう。相手を越える能力だが、      使いどころを間違えれば確実に負ける。      汝らの体の耐久を考えても一度きり。      マスターのように超越凌駕に慣れているわけではない。      ……いいな、使いどころを間違えるな。      いや、むしろ使わないほうがまだ勝機があると思え』 この土壇場でキッツイ助言をくれたのち、俺達と融合。 然を抜いた全ての精霊が俺達とひとつになり─── 俺達は……混沌の存在へと至った。 カオス『オロナミィ〜〜ン・シィーーーーッ!!(訳:よっしゃーーーっ!!)』 合体しておいて妙なポーズを取るのは、まあ……原中の影響が強い所為だと思っておこう。 オロナミンCについては、どこぞの外国語のポタラ合体を参考にしてほしいとのことだ。 【ケース854:カオス/黒の夢8】 空を見上げれば精霊。 オリジンの姿に落ち着いたそいつは、オレと対を為すかのようにオレを見下ろしている。 カオス『こいつがスーパーベジット!《ゴギィンッ!!》』 そんなオリジンの視界の中で死神化を解放し、目を真紅、黒の髪を銀に変える。 ベジットってのはお約束ってやつだ。 全ての部具が融合した今、ジョブも覇王に近いものになっている。 なっているが、結局“稀黄剣”が足りないためにそれも叶わずだ。 ……意識は混同しているようで、様々なものが重なった状態であるために、 自分が誰なのかという認識はあまりない。 強いて言えば多数決にも似た感覚なのか、霧波川凍弥が芯になっているにも係わらず、 晦のことは晦と呼びたくなるし、彰利のことも彰利や将軍と呼びたくなる。 そういった整理をしている中、オリジンはオレを見下ろしたまま小さく笑う。 黒オリジン『神魔霊竜か』 カオス  『ああそうだ。神魔霊竜人の中の黒であるお前に対抗するには、       これしかないって思った』 両手両足にはマジックキャンセラーとランペルージュ等。 手にしたエモノは様々な部具が混ざった刀。 周囲にはビットが飛んでいて、オリジンに向けて銃口を構えたまま停止状態にある。 黒オリジン『そうすれば勝てるとでも?』 カオス  『すくなくとも瞬殺される心配はないと思うぜ?       まあ……それも多少の確率が上がっただけだろうけどな』 黒オリジン『力が重なろうが慢心は無しか……いい状態だ』 カオス  『生憎、あんたみたいな滅茶苦茶な威圧感出してるヤツ相手に強がれるほど、       オレは図太く完成してないんでね……』 感じる威圧感は半端じゃない。 半端じゃない、という言葉が示す通り、完成された威圧感とでも呼ぶべきか。 見上げ、見下ろされ、向かい合っているだけでも冷や汗が出てくるほどだ。 はは……さて。 生きる覚悟と死ぬ気の覚悟、いろんな覚悟を決めて……精々足掻こう。 少しでも晦たちの戦いが楽になるように。 黒オリジン『ではいくぞ。精々足掻け』 カオス  『お前ら精霊の見下し視点ってホントむかつくな!       いっぺんブン殴ってやりたかったんだ───丁度いい!』 オリジンが降下突撃、オレが上昇突撃を開始し、互いの距離がゼロになった時。 月詠街の空に巨大な衝撃波が発声した。 それは輪状の雲のように広がると大気を震わせ、 地面にあった瓦礫をズシンッ……!という音とともに宙に浮かせる。 白銀の刀と暗黒の戟が重なった俺達の視界の中心は歪んで見え、 それだけでもオレとオリジンが互いを殺す気でかかっているのは明白だった。 カオス『ひゅうっ───』 息を吸い、戟を弾く。 敵さんも同じことを考えていたのか戟を振るったが、 オレの方が若干早く、敵の体勢を軽く崩すことに成功する。 ギャリンッ───!刃物を素早く叩き合わせたような音が高鳴る中で、 オリジンは右腕を戟ごと上に弾かれた状態で笑う。 すぐに連ねようとするが、跳ね上げられた右手とは別に、 既に左手がオレ目掛けて突き出されていて、 踏み込んだ瞬間に魔法がくることは明白だった。 こんな距離では左手のマジックキャンセラーで潰すことも叶わない。 それを即座に理解したオレは攻撃を連ねることが出来ず、舌打ちをして地面に降りた。 黒オリジン『なるほど、馬鹿というわけでもないらしい。       戦いをかじった程度の烏合の衆とばかり思っていたが、なかなか───』 同じくオリジンも地に足をつき、くつくつと笑ベパァン!! 黒オリジン『ぱぼぉい!?』 そんな彼にビンタ一閃。 カオス  『見下し視点がむかつくって言ったばっかりだろうがこのタゴサクがぁ!!       いいから来いコラァ!てめぇの性根、オレが好き勝手に改変してやる!』 黒オリジン『ぐっ……いいだろう……!この私の頬を殴ったこと、後悔させてやる!』 殺気も出さない、ただのビンタだからこそ当たっただろうもの。 二度目はないと思い、バックステップで距離を取ってから構える。 黒オリジン『狭界の精霊王に戦いを挑む愚かさを、その身に刻むがいい───刮目せよ!』 対するオリジンは戟を立てるとその石突を地面に叩きつけ、 一瞬にして場の空気をはちきれそうな緊張の世界へと変える。 ノートン先生のように世界創造をしたわけじゃないが、それでも解ることはある。 ノートン先生が創造が可能なように、オリジンも創造めいたものが可能なのだろうと。 黒オリジン『我、根源の精霊。元素にして始りを司る狭間の王。       元素を精霊の名とし、根源を己の名とする存在なり───』 空気がさらに張り詰める。 音の一切が無くなったような錯覚の中、オリジンの声だけがオレの聴覚に響き─── カオス『ネスツ闇の支配者、我こそ最強……見事越えてみせよ……!!』 対するオレも無意味に対抗して口走る。 相手は早くもコメカミ辺りをヒクヒクとさせていた。 カオス  『人は何かを成す為に生を受け、成し終えた時、死んで行く……』 黒オリジン『ガァアアアアアアッ!!!』 面白かったのでそれっぽいことを立て続けに言ってみると、オリジンが襲いかかってきた! カオス  『ははははは!!余裕がねぇなぁ根源よ!       わざわざ格好つけた物言いしてっからからかわれるんだよば〜か!』 黒オリジン『貴様───!』  ブンッ───ヂッ! カオス  『つっ───!?…………我に拳を当てたこと、褒めてやる』 黒オリジン『貴様アァアアアアアアアッ!!!!』 カオス  『ワー、怒った怒ったオーコッター♪小さい小さい精霊小さ〜い♪』 黒オリジン『ギ、ギィイイイイイイイイイッ!!!!』 オリジンの攻撃が頬を掠るや、イグニスの真似をしつつ人を逆上させるダンス。 ……これでいい。 まだまだ、もっと黒を凝縮してもらわないと晦たちが勝てない。 代わりにこっちが死ぬかもしれないが、 どの道こうでもしなければルドラには勝てそうにない。 黒オリジン『いいだろう……!格好に拘る理由などもはや無い!       私は貴様を殺す!それだけを理由に戦ってやろう───!!』 ……そしてあっさりと身の危険を感じるオレが居た。 せめて、生きて帰れますように。 Next Menu back