───架空/想いとともにある覚悟───
【ケース855:晦悠介/決戦3】 ギギャガガガガガギャガガガガガガガゾガガフォンッ!!! ギャリィンッ!!ドッガァンッ!!! 悠介 『っ───、げがっ……は……!!』 地面に叩きつけられる。 広く続く草原の果てに存在していた岩場と、そこに存在していた長い長い石段。 そんなものが見える景色の上空から一気に地面に叩きつけられ、 背中を打ちつけた俺は肺の中の酸素の全てを吐き出し、呼吸困難になって眩暈を起こす。 悠介 『〜〜〜っ……は、が、はっ……!は、はぁっ……!はぁっ……!!』 ようやく肺の中に酸素が届いた途端に全身に鋭い激痛。 酸素が肺を満たすと咳も込み上げ、 涙を滲ませながら、それでも地面に手をついて立ち上がろうとする。 声  『立て。抗えなくなった貴様を殺しても楽しくもない』 聞こえる声は上空から。 そいつと遭遇しなければこんなダメージなど受けることもなかったが、 そいつこそが……倒さなければいけない相手なのだ。 ルドラ『単身で来るとは想定外だったが……呆れたな。     ここまでの弱さで俺に勝つつもりだったのか』 声の主……ルドラが、倒れた俺の目の前に降り立ち、無様に倒れる俺を鼻で笑うと、 立ち上がろうとついた左手をグヂリと踏み締め、愉快そうに笑い始める。 ルドラ『無様だな……えぇ?晦悠介』 悠介 『っ……ぐ……!』 ルドラ『せっかくノートを出さずに俺自身が戦ったっていうのにこのザマか。     チャンスをモノに出来ない英雄は救いようがない存在だな。     そらどうした?反撃してみろよ。そらぁあ……!!』 メキメキと左手が踏み躙られる。 すぐにその感触は激痛となって痛覚を焼き、指の皮はすぐに剥がれ、血が滲み出す……! 悠介 『くっ!ぐっ……!ぐ、あああ……!!』 ルドラ『俺を殺すことを託されたんだろう?多少の反撃も出来なくてどうするんだ。     目の前に殺すべき相手が居るんだぞ?ほら、ほらぁあ……!!』 ベキ、ミキ、と嫌な音を立てる。 たまらず俺は、俺の手を踏み躙るルドラの足を掴み、その行動を止めようとするが…… 俺なんかの力で止められるほど、足に込められた力は弱くは無かった。 悠介 『三陰光圧痛!!』 ルドラ『《グキィ!!》ぐわぁっ!!?』 だったら弱めてくれようホトトギス。 三陰光圧痛で烈海王でも転倒へと屈してしまう激痛をプレゼントし、 足が浮いた瞬間に左手を引き、ハッとしてさらに踏み潰そうと力が入ったところに渋川流! 相手の力を利用し、掬い上げるようにして転倒させるや起き上がり、 顔面目掛けて地面に突き指すような串刺しストレート!! ルドラ『ふっ!』 だがしかし振り下ろした拳は地面を破壊するだけに終わり、 首を逸らして攻撃を躱したルドラは即座に反撃。 俺の腕を取ると、寝転がったままに強烈な蹴りを鳩尾にプレゼントしてくれ、 跳ね上がった体はしかし腕を掴まれているために飛ばされてはくれず、 引かれるように地面に倒れた俺は、腕を固められたまま大地にうつぶせで寝かされ、 その上から頭蓋なんて簡単に砕けるであろうと確信させる拳の振り下ろし。 咄嗟に体を海老ゾリにして、捉えられた腕を肩の関節を外して放棄。 無理矢理体勢を起き上がらせるようにして丸め、 振り下ろされた拳を足で挟むようにして掴むと、拳の勢いを利用して関節極めを外し、 ぶらりと垂れた腕を庇いながら体勢を立て直して距離を取る。 ルドラ『………』 一方のルドラはくすりと小さく笑うとゆっくりと立ち上がり、俺を睨みつける。 …………はあ。やりたくないんだけどなぁ。 悠介 『んっ……ぎっ!!《ボグッ!!》〜〜〜っ……つ、はぁ……!!』 外れた肩を力任せに嵌め込む。 その激痛たるや、涙も滲んで当然のほど。 当然外れている状態も十分痛いわけだが、これはそれ以上だ。 彰利が近くに居たら、絶対に愚地独歩の真似をされているところだ。 ルドラ『……ふ、ふふっ……くっはっはっはっは……。     恐らく今、俺と貴様は同じことを考えたんだろうよ……。     どれだけ否定しようがやはり根源は同じ。だからこそ殺す必要がある』 悠介 『じゃあ今すぐお前晦悠介って名前に戻して自殺してくれ』 ルドラ『するかっ!!』 悠介 『はぁ……。言っとくけど、俺はもう誰も助ける気なんかないぞ?     お前が“望んでる未来”になんて辿りつくもんか』 ルドラ『俺が望んでる……?あの絶望をか』 悠介 『そういうこったろ?     あんたは俺がその未来に辿り着くのが嫌だから殺すんじゃない。     あんな絶望に辿り着いた“晦悠介”が許せないから、     未来を理由に俺を殺したいだけだ。そう、俺を殺すには“理由”が必要だ。     だからお前は望まなきゃいけない。俺があの未来に辿り着くんだって。     じゃなきゃ自信を以って俺を殺せないからだ』 ルドラ『…………』 悠介 『……堕ちたもんだな、“俺”も。あんたは英雄なんかじゃない。     最果てで自分を壊したただの殺人鬼だ』 ルドラ『………』 俺の言葉を耳にしたルドラは、軽く持ち上げた自分の掌を見下ろした。 そして……まるで嘲笑するかのようにくつくつと笑うと、再び俺に視線を戻した。 ルドラ『殺人鬼か……なるほど、間違いじゃない。     だが英雄ではない、というのは語弊がある。     ……俺は最初から英雄などではなかった。     仮に周りがそうだと認めていたのだとしても、     誰も救わない英雄になんの価値がある。     俺に対する周りからの価値など、救わなくなった時点で、     救いを求めた者を皆殺しにした時点で無くなっていた』 フッ、と自虐するような笑いをこぼし、その目が悲しみに満ちる。 ルドラ『殺人鬼。まったくその通りだ。この場に居る俺が“俺”の最果てならば、     俺は長い年月をかけて殺人鬼になるために生きてきたということだ。     まったく、情けなすぎて笑える』 悠介 『じゃあ俺関係ないだから帰れ』 ルドラ『それは無理だな。もはや飾る必要もない。     この感情が殺人衝動から来るものならば、俺は貴様を殺すべきだ。     どちらにしろ俺は“晦悠介”を生かすつもりはない。     お前の歴史はこの場で終わり、のちに全ての軸の晦悠介を消す。     お前の死と俺の死をきっかけに全ての軸の“晦悠介”の“既存”を破壊する。     それが、英雄ではない俺が俺自身の意思で選んだ俺の終幕だ。     彰利の運命破壊せし漆黒の鎌と俺の黄昏を抱く創造の世界。     その力全てを以って、俺は全歴史の俺を否定する』 悠介 『……、お前は……!』 ルドラ『もういいだろう……俺はこの世界に来て、晦悠介という存在を殺したかった。     それとは別にもう一つ、大事なことがあった筈なのに……もう思い出せない。     必要だった誰かが居た。その存在が思い出せない。     ならばもう、望むことはたったひとつ……貴様と俺の死だ』 言うや、ルドラの黒衣が風に揺れるようにはためき、 鎧のようだったソレが魔導士が着飾る法衣にも似たマントに変わる。 ルドラ『言い遺すことがあるならば聞こう。聞いたところで、俺もやがては命を絶つがな』 悠介 『…………ひとつ、聞かせてくれ』 ルドラ『……?なんだ』 悠介 『赤毛のアンは鼻毛も赤いのか?』 ルドラ『知るかっ!!』 当然だった。 悠介 『そうか……じゃあ死ぬわけにはいかないな』 ルドラ『貴様の未練はその程度なのか!?生に対する執着が赤毛のアンの鼻毛の色!?』 悠介 『なんでもよかったって言ったらウソになる。     けどな、どんなくだらないことだって、     気になることがあるんなら知りたいって思える。     知るためには生きなきゃいけない。だったら、死んじまうのはもったいない』 ルドラ『………』 悠介 『呆れるんなら是非そうしてくれ。     ……けどな、お前はそんなくだらないことの“真実”を、     最果てに辿り着いてもまだ知りえなかった。     ───そんなことを知りたいって思うことが活力になるヤツらが居る。     くだらないって思われたって構わない。     無駄だと断じられたって構わない。     だって───それはきっと、くだらなくても“楽しい”筈だから』 ルドラ『───!……』 口にすると、心の芯が少しだけ温かくなった。 その僅かな……消えかけの蝋燭の火みたいな温かさが、こんなにも温かい。 途端に、目指そうとしてても怖かった未来への気持ちとか、 死ぬかもしれないっていう恐怖とか、様々なものが隠れて…… 代わりに“覚悟”っていう大切なものが心の中を埋めてくれた。 悠介 『………』 それでも、俺とルドラの圧倒的な力の差が埋まるわけじゃない。 どれだけレベルがあっても、経験の差があまりに違いすぎる。 ルドラ『楽しい、か。……俺はもう、それを求める理由さえ解らない。     だから───御託はここまでにしよう。覚悟はいいな、晦悠介』 悠介 『ああ……生きる覚悟、死なない覚悟───     いろんな覚悟と一緒に足掻いてみせるさ!』 開始の合図なんて気の利いたものなんてない。 動き出したらもう止まれず、ひと呼吸ののちにはラグとラグがぶつかり合っていた。 途端、弾け飛ぶ空気と金色の闘気。 ルドラ『ほう……!神魔霊竜人を捨ててもまだ、黄竜剣は撃てるか!』 悠介 『生憎と剣が記憶しててくれてるんでね……!!っ、せいっ!!』 ギリ……と合わさっていた剣を圧し弾き、刹那に連ねること三閃───!  ギギギャリィンッ!! しかしそのどれもが容易く捌かれ、 間隙を縫うように繰り出された蹴りが俺の腹に埋まると、 軽く地面から離れた足が地面を求めて彷徨いギパァンッ!! 悠介 『つぐっ───!』 ルドラ『チッ───手間をかけさせるな!』 着地と同時に襲いかかった刃をラグでいなすと、 たたらを踏みながらも体勢を立て直して応戦する。 ……ルドラは戦いを楽しむ気などないらしい。 さっさと仕留める気満々らしく、力任せに攻撃を仕掛けては、 俺を吹き飛ばしたのちの追撃を幾度も繰り返してくる。 悠介 『〜〜〜〜っ……!く、ぐぅ……はぁっ……!!』 豪雨が如く身を襲う連撃。 光を発動していても捌ききれないソレは、 もはや相手が強すぎるからこそ繰り出せるソレであり、 こちらからは既に攻撃が出来ていないことに、情けなさを抱く暇もなかった。 そう、情けないだなんて思えない。 だってそれは、力の差が歴然としているからであって─── 努力を惜しんだ結果でもなんでもなく、 埋めることが出来なかったものがあったからなのだから。 結果が残せない努力に意味はないって?そんなことないさ─── だって、こうして……防戦でもいい、生きていられてるんだから……!! 悠介 『そうだ───!勝てる戦いだと思ったから立ち向かったんじゃない!     未来に向かいたいから力を付けて、     “自分の最果て”に勝ちたいから立ち向かった!《ガギィン!》ぐぅっ!?』 ルドラ『それが傲慢だと言うのだ!俺に勝つ!?勝ってどうする!』 悠介 『生きてゆく!仲間と一緒に楽しいを探して、ずっとそうやって───』 ルドラ『では仲間が危機になったら!病魔に襲われたら!貴様はどうする!     助けずに居られるか!?     助けられる術を持っていながら、救うことを放棄できるのか!』 悠介 『っ───戸惑うさ!当然だ!助けられるって解ってるのに助けないなんて!     そんなこと、相手が大切なら出来るわけないじゃないか!!     でも!だったらなんで信じてやらない!     助けるのは見ず知らずの人間じゃない!自分が信じた仲間だろうが!!』  ヒュフォゴギィンッ!!! ルドラ『ずっとそうやって信頼を保っていられると思っているのか!?     相手は人間であり、自分とは違う意思を持った存在だ!     いつまでも仲良しのままで居られると、本気で思っているのか!!』 悠介 『未来のことなんて解らない!解らないから進もうって思えるんだ!     仲良しのままで居られないのかもしれないなら!     仲良しのままで居られるように努力すればいい!!     そんな行動も最初っから放棄してるお前が!人の信頼を否定するんじゃねぇ!!』  ギャリィン!ヂガヂガヂガァォンッ!! 叫び合いながら、雷を孕んだ剣を打ち合わせる。 一進一退、弾ける白銀と暗黒の雷が景色を弾けさせ、それが幾重にも高速で瞬き、 俺とルドラの間に景色が歪むほどの熱を生む。 悠介 『前提が間違ってるっていうんだ!お前は仲間を守ってればよかった!     その家族までを守ろうとしたから全てが曲がったんだ!     子供って時点でそいつはお前が信じた仲間じゃない!     そいつらを信じた結果が破滅の未来だったなら!     それは全部お前が犯した罪だろう!』 ルドラ『ほざくな!人の在り方に心を暖めたからこそ“守る者”を目指した“俺”だ!!     俺との邂逅がなかった貴様が至るべき未来───それこそが俺だ!     そこに貴様が至らないと何故断言できる!     守るという思いは守らないという思いよりも貪欲なものだ!     力がないから見て見ぬふりをすることとは次元が違うのだ!     力があるのに守らないことがどれほど重いか!貴様にこそ解るまい!』 悠介 『解るさ!それを教えてくれたヤツが居た!     記憶にも心にも残ってない……でもこの目が刻んでる!     覚悟ってのは命を賭すって決めたなら、     決して迷わず貫き通す“己の誓い”だって教えてくれた!     俺の覚悟は“守らないこと”だ!仲間を全力で守って、それ以外は守らない!     仲間が困っている時に守れなくて、なにが仲間だ!』 そうだ。 自分の身は自分で、なんて言葉がある。 けど、自分だけじゃ出来ないことっていうのは、 この世界にはどうしようもなく溢れている。 だから手と手を取り合って立ち上がろうって思うんだ。 そんな仲間が居たからこそ今の俺が居て、 そんな仲間以外を守ろうとしたから目の前の“俺”が居る。 守るって行為が間違いだったなんてことは言いたくはない。 全てを守れる……それはきっと眩しいくらいの最高の理想だから。 けど、自分の意思だけは間違えちゃいけなかった。 悠介 『“大切だ”と思えた仲間こそを守って!守られて!     ずっとその世界を大切にしていればよかったんだ!     そいつの子供だったから、家族だったから、     知り合いだったからって守る幅を広げるべきじゃあなかった!』 ルドラ『仲間の親族だからこそ!知り合いだからこそ信じた!     その先に破滅が待っているなどと誰が予測する!     信じること、守ることを美しいものだと感じた俺にとって!     感情が無かった俺にとって、それは生きてゆくための活力だった!』 悠介 『それでもそうするべきじゃあなかったんだよ!     仲間が死んだなら生きている仲間を守ればよかった!     みんな死んじまったなら彰利だけを守ってればよかったんだ!』 ルドラ『っ……ほざくなと言っている!!     俺に出会い、こんな状況にならなければ言えなかった言葉になんの説得力がある!     貴様のそれは運よく回避出来ると思い込んでいるが故に出せる言葉だ!』 悠介 『ああそうだ!お前が居なけりゃ思いもしなかった!     結局俺は最後まで守るって言い続けて“お前”になってたんだろうさ!     けどなぁ!それが間違いだったって気づけて、回避出来る可能性を見つけて!     いろいろな人に支えられて教えられて!     その先に居る俺がお前を否定する意味だって確かにここにある!!     俺を殺そうとし続けるお前にだって俺を否定する理由があるようにだ!』 叫び合い、斬り結び合う。 合撃は幾重にも及び、 もはや熱によって歪む景色は俺達の皮膚さえ焼くほどの熱になっている。 やがて双方、ラグを持つ手が焼け始めた刹那に剣戟を高鳴らせ、距離を取る。 熱に歪んでいた空間はやがて溶けるように元に治まり、 その場を中心として向き合う俺達の顔を鮮明にする。 ルドラ『……ならばもはや俺達は───』 悠介 『ああ。俺はお前には絶対にならない。     そしてお前が俺を殺そうとするなら、お前も俺には戻れない』 ルドラ『当然だな。俺とて自分の道を今更否定する気は起きん。     これは“俺が通ってきた道”だ。これから歩もうとする者は殺せても、     自分が通ってきてしまった道は殺せない』 悠介 『……そこまで理解できて……どうして殺し合いしか選べないんだよ……』 ルドラ『“晦悠介”という存在を殺す。それが俺の最後の目標だからだ。     それを最後に俺も消える。そうすることで偽りの英雄は全時間軸から消え失せる』 悠介 『……俺とお前の死を引き金に発動する“虚言創造”……』 ルドラ『そういうことだ。     いくら俺でも全ての時間軸に存在するものを全て破壊することなど出来ん。     だが引き金があればいくらでも干渉することが出来る。     俺と貴様、“晦悠介の死”という“既存”を全時間軸にばら撒く。     全時間軸に“晦悠介が死んだ”という虚言を創造し、     “晦悠介が生きている”という既存を破壊してやればいい。     その引き金が俺達の死ならば、この場ですぐに完成出来る簡単な鍵だろう?』 悠介 『っ……』 虚言創造。 ゲーム内のジェノサイドハート戦の時、逝屠相手に使ってみせた運命破壊と創造の融合。 全世界に干渉する能力は恐らく、ゼクンドゥスなりノートなりオリジンなり、 創造月操力なりを使って無理矢理に使うに違いなかった。 つまり俺がこの場で死ねば、それは実行されてしまう。 いや……俺とルドラが死ねば、か。 他の時間軸の自分のことにまで気なんて回せない。 が、俺だって死にたいだなんて思わない。 だったら……そう、勝つしかないんだ。 ルドラ『故に、死ね』 悠介 『!』 決意を新たにした途端だった。 ふっ……とルドラの姿を一瞬見失うと、トン、と……胸に軽い衝撃。 見下ろすと、心臓部に……赤い、槍が─── 声  『茶番は終わりだ。     貴様の言い分くらいは聞いてやろうと思ったが、都合のいい戯言ばかり……。     ……いや、俺も貴様のことは言えないな』 景色がぼやける。 ゲイボルグによって穿たれた心臓は、貫かれたことに気づいていないかのように脈を打つ。 けれど既に様々な回路が潰されているために血は流れてゆかず、やがてゆっくりと……  ゾボォッ!! 悠介 『ふ、くっ───!?』 心拍が弱まっていくなか、強引に抜かれた槍。 噴き出る血液と、傾く景色。 いつかのように竜の命が俺を生きながらえさせることもなく、 俺は受身さえ取れないままに草原に倒れ伏す。 声  『トドメは刺さん。そこで自分の生命を振り返りながら死ね』 ……聞こえる声が遠ざかる。 気配から、長い長い石段を登っていったんだ、ってことだけが解った。 やがてその気配も感じられなくなる。 悠介 「…………、……」 白の能力も勝手に消え、景色が虚ろになってゆく。 流れゆく血を止めることも出来ず、 創造で血を止めることも出来ず、ただ……命を削ってゆく。 心臓を貫かれた時点で命が絶たれたのか、それとも生きてゆくための活力を削がれたのか。 ……もう、考えられない。 頭が働いてくれなかった。  ……、 そんな時だ。 耳がなにかを拾った気がした。 微かな音、微かな……  ……や…… …………それが女の人の声だと気づいたのは、胸に暖かさを感じてからだった。  ……ず、や─── いや、それとは別に……男の人の声も。 誰…………? ダニエル『ハーーイボーイ!ヒサシブリネー!!』 ───……。 ……。 悠介 「ゴブボァアアアッ!!?」 かつてないほど吐血した。 途端に意識がかなり遠のき、心臓が鼓動を止めてゆき……! あ……ダメ、死ぬ……マジで死ぬ…… ダニエル『ハッハッハ、残念ダガボーイハ死ナンヨ!ボーイニオ客人ダ!』 悠介  「……?」 かはっ、と息が漏れる。 ぼやけた視界に映るふたつの人影が、どうしてか心を温かくした。 声  『和哉……』 声  『和哉……』 和哉…………?かずや…………、まさか─── ダニエル『“木吉カズヤ”ダ』 誰だよ。 ダニエル『ハハハ!マア冗談ダ!時間モ少ナイコトダシテットリ早ク行クトシヨウ!』 ダニエルはそう言うと、倒れ伏した俺の背中……多分、風穴が空いた場所に手を伸ばした。 すると、あれだけあった息苦しさが和らいで、肺に酸素が流れ込んで───吐血する。 それでも死ぬよりはマシだと思える。 血を吐いてでも土を舐めさせられてでも、今は死にたくないと心から思えた。 そして……倒れたままのそんな俺の目の前へと、膝を折って語りかける姿。 それは忘れもしない───俺の両親だった。 和十葉『和哉……』 和眞 『和哉……』 …………会えて嬉しいと思うよりも先に、浮かんできたのは疑心。 どうしてここに、と思えばキリがない。 けれど悪意はまるで感じられず、ただ純粋に俺が心配だから現れたのだと理解出来た。 だからこそ訊く。 ずっと昔に逝屠に殺された筈のあなた方が、どうしてここに、今頃、と。 和十葉『あなたのお友達に力を借りたのよ……。     剣に宿る想いの力……それを分けてもらった……』 友達……? 俺にそんなことが出来る友達なんて…… ───そう思い、照らし合わせをしてみても、当てはまる存在なんてない。 和十葉『……いい友達を持ったわね、和哉……。     それを祝ってあげられないのが残念だけど……まあ、     あそこまで傍若無人だからこそ、あなたも惹かれたのかもしれない……』 和眞 『………』 ……解らない。 解らないけど、その誰かが褒められることが、どうしてか嬉しいと感じている俺が居た。 和眞 『……和哉』 と、そこまで来て今まで得に言葉を発しなかった父さんが、俺を見下ろしながら口を開く。 相変わらずぶっきらぼうって言葉がよく似合うような風情で。 和眞 『……和哉。お前は全部出し切れたのか』 え……? 和眞 『出し切れたから倒れ伏しているのか』 ……いや、俺は…… 和十葉『和眞……アンタねぇ、もうちょっと解りやすく言えないの?     こんな時でもアンタはアンタなのね……』 和眞 『そんな疑問には興味がない』 和十葉『はぁ……───和哉。代わりに訊くけど、あなたは全部出し切れた?     全力を、心の底からの決意を、覚悟を、全部出し切れた?』 ………… 和十葉『出し切れてないなら、一度だけ。     わたしと和眞と……その、こちらのダニエルって男とで、     想いの力を使って傷を塞いであげられる。     どうするかはあなたが決めなさい。立つか、立たないか』 ……。 真面目な顔で、父さんと母さんが俺を見下ろす。 でも、どうしてそこでダニエルが、って思ったけど─── ダニエル『HAHAHA!ワタシノ魂ハ特別製ダ!      数多ノ人間ト接触シテキタタメニ、魂ノ強サト順応力ハ無類!      ダガ間違ウナボーヤ!機会ハ一度ダケ!      次ニ殺サレルヨウナコトガアレバソコマデダ!』 ……マジか……。 ありがたい、けど………… まさかこんな土壇場でダニエルに助けられることになるなんて……。 でも…………でも。 悠介 「……たい…………立ち、たい…………!     こんなところで……死ぬわけにはいかないんだ……!     遣り残したことがたくさんある……!守りたい仲間が、大勢居る……!     そんなやつらの期待に応えられていないまま、死ぬなんてことは出来ない……!」 噛み締めるように言う。 俺がそう言うと予測していたのか、ダニエルは俺の風穴を自分の魂を以って塞いでゆき、 それでも俺を見下ろしながら歯を輝かせ、親指を立ててみせた。 ダニエル『ボーイノ勇気ニ敬意ヲ!サア行クゼ?覚悟ハ出来タカセニョールセニョリータ』 和十葉 『ええ、いつでも』 和眞  『………』 母さんが頷く中、父さんは頷きもせず、さらに俺に近づくと………………俺の頭を撫でた。 信じられない状況を目の前にして、俺も、母さんも言葉を無くす。 そんな父さんの顔を見上げてみれば───……いつか逝屠に殺され、 それでも俺に言葉を残してくれたあの時の顔のままで─── 和眞 『……今までよく頑張ってきた。信念は、お前を曲げないでいてくれたか?』 そう言った。 ……そう、あの時の顔のまま。 相変わらずの無表情で、だけど……家族が大事だ、と思ってくれるていると解る顔で。 彼はいつだって家族を守ってくれていた。 その中でずっと無表情だったのだ。 ならばその顔こそが家族を思う顔だったに違いない。 そう思えたからこそ、俺はあの時、嬉しく思うことができたのだから。 悠介 「…………ああ。信念だけじゃない。     得たものも失くしてきたものも、全てが俺を曲げさせないでくれた」 そして、この目が刻んだひとつの覚悟がある限り、俺は絶対にルドラにはならない。 だから自信を持って頷くことが出来る。 両親に、ダニエルに、“生きたい”と。 ダニエル『アア、ソノ言葉ヲ待ッテイタ。ダガ感謝ナラ提督サンニ言ウベキダボーイ。      ワタシガコウシテ実体化デキルノモ、両親ガコウシテイラレルノモ、      全テ提督サンノオ陰ナノダカラナ』 ……提督? ………………なんだろう。 耳に届いた途端に、目が暖かさを感じた。 目に刻んだ覚悟が暖かみを持ったっていうか…… 喩えようがないけど、暖かな気持ちになれた。 だから、よく解らないなら解らないなりに感謝した。 ありがとう、と。 ダニエル『ソンナワケダ。立チ上ガルボーイニハコノ言葉ヲ送ロウ。      ンッ!ンン!ンんン……よし。いいかボーイ。      前を向き歩いてゆくならこの言葉を胸に刻め。      だらしねぇという“戒めの心”、歪みねぇという“賛美の心”、      仕方ないという“許容の心”。      即ちLive Better……“歪みなく生きろ”。      これを心に刻めばボーイはきっと真っ直ぐ進めるさ』 悠介  「ちょっと待て!なんだその流暢な日本語は!      お前そんな風に喋れたのか!?」 ダニエル『ボーイ……ワタシガイツカラ日本デ、      キミタチト過ゴシテイルト思ッテルンダ。      コレクライブレークファースト前ダヨ』 いや、だからって…………ああもういい、無視しよう。 和眞 『……立って前を向け。     信じる未来に迷いがないなら、前を向いてしっかり掴み取れ』 悠介 「…………ああ」 和十葉『和哉───しっかり、やりなさいね。     わたしたちはあなたを育ててあげることが出来なかったけど、     短い間だったとしても間違ったことは教えたつもりはない。     こうして今を生きている事実を、今まで生きてきた中で学んだことを、全部。     あっちの大馬鹿に叩きこんであげて』 悠介 「ああ」 和十葉『あの子は……甘えられる場所を無くした子供みたいだから。     それを理解した上で、その甘えごとブチノメしてあげなさい』 悠介 「…………思ったんだけどさ。母さんってそのー……」 和十葉『学生時代は鬼の生徒会長様と呼ばれてたわ。あだ名は“皆の姐御”』 悠介 「うわーすげぇ納得」 和十葉『ま、和眞は逆に氷の風紀委員とか言われてたけどね。     その頃の和眞ってば髪の毛ピッチリさせて服装もド真面目で。     それが今ではこんなボサボサ野郎よ。……まあ、わたしがそそのかしたんだけど』 どうよ、と促す母に、俺はどう返事すりゃいいのか。 そうして話す中で、すっかり貫かれた穴が塞がっていることに気づくと、 少しの痛みに顔をしかめながら起き上がった。 ダニエル『フフフ、治療ハ完了ダ。コレデボーイトワタシハ一心同体ダ』 悠介  「嬉しくないぞそれ……」 和十葉 『命拾ったんだから文句言わない。……じゃ、頼んだわよ和哉』 和眞  『自分の信念を貫け』 悠介  「…………ああっ!」 父さんと母さんが俺の中に溶け込んでゆく。 すると、途端に体の奥底に存在していた、 未だ解放されていなかった力が湧き出すような気がして─── 悠介 「…………これ…………!」 これが想いの力だっていうなら、とんでもないものだ。 様々な属性が体の中に渦巻いて、特に然の力が荒れ狂うほどに体を満たし、掻き混ぜる。 ……そこまで来て理解に至る。 ダニエルは触媒になってくれただけで、 傷の治癒も力の解放も、全て想いの力がやってくれたことなのだと。 でも……俺は想いの力ってやつの使い方なんて知らない。 それがどうして、こんなにも俺の体に順応してくれるのか。 そこまで考えて、どうしてか心の深淵で出会ったドナルドの顔が頭に浮かんだ。 悠介 「…………」 よく解らない、けど……なにが合ってるのかも解らないけど。 ここでそのドナルドに感謝するのは、間違いじゃないって思えた。 悠介 「はぁ……───んっ!《キヒャアンッ!!》』 丹田に力を込めて、白を解放。 そして、天まで届かんとするくらいに長い石段を見上げる。 ……この先にルドラが居る。 さっきは危うく死にかけた……けど、今度はそうならないよう集中を─── そう思いながら石段に足をかけると、ふと……背後に強烈な存在感を感じて振り返る。 声  『……生きているとは意外だが、なるほど』 振り向いた先には黒。 もう見慣れたその姿は首飾りを外すと小さく声を発し、長い装飾杖へと変換させてみせる。 黒ノート『……刮目せよ』 空界の精霊王、スピリットオブノート。 今まで姿を見せなかったけど、ここに来てなんて、性格が悪い。 悠介  『ノート……』 黒ノート『すまないがその先には行かせてやれん。      精神のタガが外れようが、あんなのでもマスターだ。      そして、取り込まれて黒化した以上、逆らうことも出来ん』 悠介  『……逆らう気がないんじゃなくてか?』 黒ノート『晦悠介。汝は死にたいと思ったことはあるか?』 悠介  『───ある。けど、絶対にしないって決めた』 黒ノート『そうか。……私たちが置かれている状況はそれに近い。      逆らえば“ただの黒”になる。もはやマスターの意識は闇でしかない。      なにを説いたところで聞く耳も持たぬ、ただの“破壊する者”だ。      私たちは己が命を握られ、こうして命じられるままに動いている』 悠介  『……それはお前らが望んだ未来か?』 黒ノート『黒に飲まれるまではな』 銀色の細い棒、その先にある装飾を揺らしながら、ノートが地面を蹴り疾駆する。 杖というよりは錫杖に近い作りのそれを武器に、 俺が構えるラグを叩き弾き、真っ直ぐに俺の目を見ながら。 黒ノート『マスターは弦月彰利が人間によって殺されてから変わった。      感情というものが砕けていた故だろう、      人格に異常をきたし、全てのものを道具のように見るようになった』 悠介  『───』 本気じゃあなかった。 ノートは“攻撃”を繰り返しながらも話を続ける。 恐らくは、攻撃をしなければ“黒に溶かされるから”。 本気で来るんだとしたら、ノートは突撃などしない。 その場から一歩も動かず、三十矢の地槍でも放っていただろう。 黒ノート『汝に問う。汝にとって、マスターは悪か?』 悠介  『悪でも正義でもない。敵だ』 黒ノート『ほう……随分と即答できるな』 悠介  『悪と正義についてなら散々とゲームの中で学んだ筈なんで───ねっ!』 黒ノート『《ガギィンッ!!》つっ……ふむ、なるほどな───』 それを完全に覚えていないのが残念だと感じる。 けど……両親とダニエル、そして想いの力を受け入れてから少しずつ。 俺の奥底にあるなにかが、確かな熱を持って芽吹き始めている……そんな予感がしていた。 そしてそんな熱が広がれば広がるほど、俺の中で暴れ回る“想いの力”が安定してゆく。 そんな感じさえするのだ。 黒ノート『思えば、汝とは全力で戦ったことがなかったな』 悠介  『そうか?空界のサーフティールで神魔竜解放バトルやったじゃないか』 黒ノート『そんなこともあったな。だが───』 ふっ、と笑ったノートが、錫杖めいた杖を槍に変換する。 ……その途端、ノートから感じられる気配が明らかに変わり、 物凄い殺気となって空気を震わせた。 黒ノート『覚えているな?私の得意武具は元々槍。      ただし手に取ると気性が変わるために杖で通していた。      ……ここでこうして槍を握る意味。その真意を知れ』 悠介  『………………』 なるほど。 本気、ってわけか……。 だったら、と。 俺もラグを握り直して、真・トランスを解放する。 引き出せる潜在能力は50%。 それでも超越されればそれで終わり。 相手は“全ての始まりにして終わりなる者”の名を冠する精霊王、 スピリットオブノートだ。 どれだけ全力で行こうが、相手が俺を超越する限り絶対に届かない。 解ってることはそれだけだし、それだけで十分だった。 ノートに勝てないのであれば、同じく超越が可能なルドラにだって勝てはしない。 だったらやることなんてたったひとつ。 悠介  『お前を超えて、ルドラも越える───!』 黒ノート『汝の本気、見せてみろ───!!』 互いが力強く構え、気迫で牽制し、踏み込む機会を探る。 が、そんな探り合いも10と続かなかった。 2を数えるより早く、二箇所の地面が同時に爆裂するや、その中心点で衝突音。 薙ぎ払い同士が衝突し合い、広い草原の草花を強烈な烈風が乱暴に撫でてゆく。 悠介 (っ……重い……!) 刃牙風に語るなら、その一撃は実に雄弁な一撃だった。 たった一合だけだというのに、 相手の実力が、言葉の意味が、武器を通して理解出来てしまったのだ。 超越なんて必要じゃない。 ルドラと最果てまで辿り着いたんだ、この実力も頷ける。 けど、負けてやるわけにはいかない。 俺にだって目指したい未来がある。 負けられない理由がある。 勝ちたい理由がある。 自分を届かせたい明日があるんだ───! 悠介 『つ───おぉおおおおおっ!!!!』  ヂガィンッ!!! 黒ノート『つっ……!』 雄弁な一撃には雄弁な一撃で。 お返しとばかりに渾身を込めてノートの槍を斬り弾くと、 空いた距離を以って互いに睨み合う。 声  『あいや待たゲェエーーーーーーーッ!!!』 そんな時だ。 ひとつのお馬鹿な声が聞こえてきたのは。 彰利 『俺参上!!《ビシィ!》じゃなくてスッピー!?貴様ァアア……何故ここに!』 彰利だ。 どうやら幻獣たちを片付けてきたらしく、 少し息を乱しながらも岩場の上でポーズを……なんでポーズ取ってるんだ? 彰利  『外の方でメイツたちと戦ってると思っとったのに……!』 黒ノート『外のやつらなどオリジンが居れば十分すぎる。      他の精霊まで向かわせたのはサービスだと言ってもいいくらいだ。      汝らの目的は力の分断だろう?ならばこの状況は願ってもないものだ』 彰利  『馬鹿野郎!願っとるわい!』 悠介  『いや……ちょっと黙れお前……』 彰利  『え?なに?お、俺なにかおかしいこと言った?』 悠介  『お前がおかしいのは今に始まったことじゃないから、な?』 彰利  『やさしく諭されてる筈なのに、とても哀れまれてる気がするのは何故?』 知らん。 今はそれよりも状況を整理するべきだ。 彰利が来て俺が有利になる……ということは、残念ながらノートが相手では在り得ない。 融合合体して朧弦になったところで、それを超越されれば終わりだ。 勝てない状況が余計に勝てなくなるだけ。 だったら───  『あれの力が一瞬でも扱えれば、勝利は確実といっても過言ではない』 可能性は低いかもしれない。 が、神々の世界を創造出来る可能性が低い俺よりも、 レヴァルグリードの解放に近しい彰利を先に行かせた方がいいかもしれない。 ここで二人共倒れになるよりは、それは理想的だと思える。 ……そう頭が弾きだせば、行動は早かった。 近くに来た彰利を引っ張ると石段目掛けて蹴り飛ばし、 俺の行動に気づいたノートが石段に辿り着くより早く、その場に透明の壁を創造する。 彰利 『お、おい悠介!?』 悠介 『先に行け!俺は……こいつをブチノメしてから行くから!』 彰利 『勝てんのか!?お前一人で!』 悠介 『ここで二人残って二人ともやられるよりマシだ!いいから行け!』 彰利 『オウヨ!こういう場面でマゴつく野郎が大ッ嫌い!弦月彰利です!     ───いいかてめぇ!絶対来いよ!     来なかったらルドラに殺されてやるんだからねっ!?《ポッ》』 悠介 『キモく頬染めてないでさっさと行けぇ!!』 それ以上の言葉はなかった。 彰利はすぐに踵を返すと石段を駆け上がってゆき、 ノートは……それを追うために壁を破壊することもなく、俺へと向き直る。 黒ノート『いいのか?死ぬぞ』 悠介  『どうなんだろうな。俺は仲間を信じてるし、彰利も信じてる。      タイミングよく外の方でみんなが黒を潰してくれれば隙が出来るかもしれない。      けど、そうならなかったらこっちの負けは確実。      今更あーだこうだ言ったってなるようにしかならないって解ってるし、      だったらそうなってほしい方向に少しでも近づけるのが、      俺達に出来ることなんだってことを俺達は自覚してる。      ……足掻くぞ、俺達は。口だけでいいならいくらでも言ってやる。      俺達は負けない。諦めない。絶対に未来に辿り着いてやる、ってな……』 黒ノート『………それだけの覚悟が、汝にはあるのだな?』 悠介  『覚悟って言葉の意味を、教えてくれたヤツが居た。      俺はどうやらそいつのことを尊敬してたらしくて、      思い出せもしないのに、      そいつが凄いヤツだったってことをこの目が教えてくれている。      どんな姿かも解らないのに、      湧きあがる心の深淵が想いの力を落ち着かせるごとに、      その輪郭が定まってくる。……想いの力が“奇跡”に触れる度に、      そいつがどんなヤツだったのかが思い出せる気がする。      俺の近くにはこんなヤツが居たんだ、って……。      ひとつの存在にすぎない筈なのに、      そいつが生きてたこの時代を一緒に歩めたことを誇りに思えるくらいに……!』 友情って言葉がある。 それを喩えてあげるなら、この感情は親友以上の存在に向ける感情。 尊敬って言葉がよく似合っていて、だけどそこには確かな友情の気持ちまでもがあった。 そいつと俺の関係がどんなものだったのかはやっぱり思い出せないけど、 思い出せないなりに受け止められる思いも確かにあったのだ。 俺はそいつのことを尊敬していた。 そいつと彰利と居ると、毎日が刺激だらけで楽しかった。 悠介 (つぅ……!) あと少しで姿が思い出せそうなのに、その一歩が届かない。 そうして顔をしかめた途端にノートの一撃が俺の腹部を襲い、 肺が勝手に酸素をぶちまける。 石突でよかった……!刃の部分だったら終わってた……! 黒ノート『目の前のことに専念しろ、晦悠介───!      私は思考の中で余所見をしながら勝てるほど甘くはないぞ───!』 悠介  『ちっ───解ってるよ!そんなことは!!』 同時に惜しいとも感じてしまう。 けどそれもここまでだ。 思い出せないのはもどかしいけど、今は目の前のことに集中するべきだ。 絶対に勝つ。 勝って、絶対に未来に───! 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